(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6733049
(24)【登録日】2020年7月10日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】難燃性マグネシウム合金層を含む異材継手材
(51)【国際特許分類】
B23K 20/00 20060101AFI20200716BHJP
B23K 20/08 20060101ALI20200716BHJP
【FI】
B23K20/00 310F
B23K20/08 B
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-512473(P2019-512473)
(86)(22)【出願日】2018年4月4日
(86)【国際出願番号】JP2018014474
(87)【国際公開番号】WO2018190228
(87)【国際公開日】20181018
【審査請求日】2019年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2017-80875(P2017-80875)
(32)【優先日】2017年4月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】花野 嘉紀
(72)【発明者】
【氏名】大塚 誠彦
【審査官】
竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5315043(JP,B2)
【文献】
国際公開第2009/107928(WO,A1)
【文献】
特開2007−111830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00,20/08
B32B 15/01,15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種金属材料が2層以上接合された異材継手材であって、該2層以上の金属材料のうち、少なくとも一層は難燃性マグネシウム合金からなり、他方の層はアルミニウム合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鋼からなる群から選ばれる金属又は合金からなり、かつ、該2層以上の金属材料は、それぞれが重なり合う接合面において、互いに全面接合されており、かつ、該接合面の接合界面のせん断強度が、該異材継手材を構成する金属材料のうち、最もせん断強度の小さい金属材料のせん断強度の70%以上であることを特徴とする前記異材継手材。
【請求項2】
前記接合面は、前記2層以上の金属材料が、接着層を介さず、固相接合により互いに直接接合したものであり、前記接合部の接合界面における、塑性流動及び/又は熱に因り生じた遷移層の厚みが300μm以下である、請求項1に記載の異材継手材。
【請求項3】
前記異材継手材の接合部の総厚が3mm以上である、請求項1又は2に記載の異材継手材。
【請求項4】
前記異材継手材が、輸送機器構体の形状に適した形状に切断、切削又は曲げ加工可能なものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の異材継手材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の異材継手材を備えた輸送機器構体。
【請求項6】
火薬、ガス、レーザー又は電気・電磁気を利用することによって難燃性マグネシウムとアルミニウム合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鋼からなる群から選ばれる金属又は合金とを高速度で衝突させることで接合を行う工程を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の異材継手材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属材料が2層以上接合された異材継手材であって、少なくとも一層が難燃性を有するマグネシウム合金からなる異材継手材に関する。
【背景技術】
【0002】
輸送機器、例えば、航空機、鉄道車両、自動車などでは、軽量化による燃費向上化を図るために、軽量化材料の需要が高まっている。とりわけ、軽量化材料をそれぞれの特徴に応じて適材適所で使用するマルチマテリアル化が求められている。
【0003】
軽量化材料の中でも、マグネシウムは、その軽量さから輸送機器の構体として使用することが期待されている。特に、難燃性マグネシウム合金は、例えば、カルシウムの添加によりマグネシウム合金の耐熱性を改善した合金であり、鉄道車両の構体などへの適用が期待されている。
【0004】
マグネシウムは、溶接などによる異種金属材料との接合では、物性の違いや脆い金属間化合物の発生により十分な強度を持たせて接合を行うことが難しい材料である。そのため、難燃性マグネシウムは、溶融を伴わない摩擦撹拌接合などの固相接合による接合が研究され、実用化されている。
【0005】
しかしながら、マグネシウムと異種金属材料との接合の場合、物性差による最適な接合条件の違いから、接合部に欠陥が発生し、十分な強度を達成できない、摩擦撹拌装置の工具回転方向と工具移動方向によって生じる接合部組織の差異が生じる、接合可能な板厚に制限があるなど多くの問題がある。
【0006】
特に、難燃性マグネシウム合金は、強度が高い一方で、伸びの値が低くなっており、一般的なマグネシウム合金よりも材料に割れが発生しやすく、強度を保ちながら加工を行うためには、より適切な条件で行う必要があり、異種金属材料との接合難易度はさらに高くなる。
【0007】
以下の特許文献1には、難燃性マグネシウム合金の同種及び異種金属との摩擦撹拌接合法について記載されている。特許文献1には、マグネシウム薄板を接合部に挿入し、摩擦撹拌接合を行うことで強度低下や熱変形を抑制できることが記載されているが、接合部のせん断強度、及び異種金属材料が接する面同士が全面接合している形状の継手形状に関する記載は一切ない。
【0008】
以下の特許文献2には、アルミニウム合金、チタン合金又はステンレス鋼とマグネシウムを重ね合わせた接合材について記載されている。特許文献2には、第2実施形態として異種金属を固相接合によって接合した接合材が開示されているが、接合界面付近における遷移層と接合強度についての記載は一切ない。
【0009】
以下の特許文献3には、マグネシウム合金クラッド材の製造方法が開示されている。特許文献3には、圧延によるマグネシウムクラッドの製造方法が開示されているが、難燃性を有したマグネシウムに関する記載はなく、クラッドの接合強度に関する記載もない。
【0010】
以下の特許文献4には、金属板材を高速で衝突させることによりマグネシウム合金を異種金属と接合させる方法が記載されている。特許文献4には、爆発圧着法などによりマグネシウムクラッドの製造を行っているが、難燃性を有するマグネシウム合金についての実施例はなく、接合強度についても記載されていない。
【0011】
以下の特許文献5には、異種金属の接合材とその製造方法、並びに交通輸送手段の構体について記載されている。特許文献5には、接着層を介した接合と、加圧後加温する固相接合によって異種金属同士を直接接合する方法が開示されており、この場合には、加温による材料の変質が考えられる。また、特許文献5には、接合強度についての記載はない。
【0012】
以下の特許文献6には、マグネシウム合金材と鉄系材の摩擦撹拌接合について記載されている。特許文献6には、マグネシウムと低炭素鋼との間に、アルミを含有したマグネシウム合金やアルミ薄板、アルミ粉末、銀薄を挿入して摩擦撹拌接合を行うことで、純マグネシウムの母材引張強度と同等の引張強度が発現できると記載されている。しかしながら、純マグネシウムとは、伸びや強度において物性が大きく異なる難燃性マグネシウム合金についての実施例はなく、接合体の継手としての用途についての記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第4336744号公報
【特許文献2】特許第4256152号公報
【特許文献3】特許第5315043号公報
【特許文献4】特開2007−15018号公報
【特許文献5】特許第4885204号公報
【特許文献6】特開2016−182628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記した従来技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、異材との接合が難しい難燃性マグネシウム合金を輸送機器の構体として使用可能な強度を有する異材継手材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、難燃性を有するマグネシウム合金と面と面で直接接合された異材継手材の製作に成功し、輸送機器に適用可能な十分な強度を有することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0016】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1
]異種金属材料が2層以上接合された異材継手材であって、該2層以上の金属材料のうち、少なくとも一層は難燃性マグネシウム合金からなり、他方の層はアルミニウム合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鋼からなる群から選ばれる金属又は合金からなり、かつ、該2層以上の金属材料は、それぞれが重なり合う接合面において、互いに全面接合されて
おり、かつ、該接合面の接合界面のせん断強度が、該異材継手材を構成する金属材料のうち、最もせん断強度の小さい金属材料のせん断強度の70%以上であることを特徴とする前記異材継手材。
[2]前記接合面は、前記2層以上の金属材料が、接着層を介さず、固相接合により互いに直接接合したものであり、前記接合部の接合界面における、塑性流動及び/又は熱に因り生じた遷移層の厚みが300μm以下である、前記[1]に記載の異材継手材。
[
3]前記異材継手材の接合部の層厚が3mm以上である、前記[1]
又は[2]に記載の異材継手材。
[
4]
前記異材継手材が
、輸送機器構体の形状に適した形状に切断、切削又は曲げ加工可能なものである、前記[1]〜[
3]のいずれかに記載の異材継手材。
[
5]前記[1]〜[
4]のいずれかに記載の異材継手材を備えた輸送機器構体。
[
6]火薬、ガス、レーザー又は電気・電磁気を利用することによって難燃性マグネシウムとアルミニウム合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鋼からなる群から選ばれる金属又は合金とを高速度で衝突させることで接合を行う工程と含む、前記[1]〜[
4]の
いずれかに記載の異材継手材の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、難燃性マグネシウム合金層を含み、輸送機器構体にも使用可能な新規の異材継手材を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態の異材継手材の一例を示す概略図である。図中、tは、接合部の総厚を示す。
【
図3】本実施形態の異材継手材の形態例(a)〜(g)を示す。
【
図4】実施例1の異材継手材の接合界面画像である。
【
図5】実施例2の異材継手材の接合界面画像である。
【
図6】実施例3の異材継手材の接合界面画像である。
【
図7】実施例4の異材継手材の接合界面画像である。
【
図8】実施例5の異材継手材の切断加工後の接合界面の浸透探傷試験の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
1の実施形態は、輸送機器構体用の、異種金属材料が2層以上接合された異材継手材であって、該2層以上の金属材料のうち、少なくとも一層は難燃性マグネシウム合金からなり、他方の層はアルミニウム合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鋼からなる群から選ばれる金属又は合金からなり、かつ、該2層以上の異種金属材料は、それぞれが重なり合う接合面において全面接合されていることを特徴とする前記異材継手材である。
【0020】
本明細書中、「難燃性(を有する)マグネシウム合金」とは、発火温度を高める目的で合金化されたマグネシウム合金をいう。一般的な汎用マグネシウム合金(具体例としてAZ31、AZ61、AZ91)の発火温度はおおよそ500〜600℃程度であるが、それより高い発火温度を有するものであれば、難燃性マグネシウム合金と呼んでも差支えない。「難燃性(を有する)マグネシウム合金」は、好ましくは、汎用マグネシウム合金よりも100K以上高い発火温度(600℃以上)を有するものであり、より好ましくは150K以上(650℃以上)、更に好ましくは200K以上(700℃以上)である。難燃性マグネシウム合金は、融点よりも発火温度が高いことが好ましい。もし発火温度が未知の合金について発火温度を測定する必要があれば、示差熱分析(DTA)によって確認できる。
難燃性マグネシウム合金の多くは、Ca添加によって難燃性が向上している。Ca添加量が増えると難燃性が向上するが、反対に金属の展延性が低下する傾向にある。このため、Ca含有量は0.2〜3.0重量%が好ましく、より好ましくは0.3〜2.0重量%、更に好ましくは0.4〜1.5重量%である。Ca含有量は、蛍光X線分析によって確認できる。
難燃性マグネシウムとしては、例えば、Mg-Al合金にCaを添加したAZX系の合金を挙げることができ、具体的には、AZX611、AZX911が挙げられる。これらは汎用マグネシウム合金よりも200〜300K高い発火温度を有し、本実施形態において特に好適に用いることができる。その他の難燃性マグネシウム合金としては、希土類金属等のレアメタルを添加したものや、長周期積層構造を有したマグネシウム合金が挙げられる。
「難燃性マグネシウム合金」は、難燃性を有していることから輸送機器にも適用可能であるとともに、その軽量化に大いに寄与する金属材料であり、また、マグネシウムの特性の一つである振動吸収性により輸送機器構体の制振性も期待できる。
【0021】
本明細書中、「異材継手材」とは、異種金属を接合する際に用いられる接合部材である。異材継手材は2種類以上の異種金属が接合されたクラッド材であることが好ましい。難燃性マグネシウム合金層を含む異材継手材は、接合部の軽量化と接合を容易にする目的で使用される。金属を接合する方法としては、特に限定するものではないが、接合強度の点から摩擦圧接法、圧延圧接法、摩擦撹拌接合法、拡散接合法、爆発圧着法などの固相接合が望ましい。
【0022】
本明細書中、「爆発圧着法」とは、
図2で示すような装置を用い、爆薬(1)の高い圧力を利用して支持物(4)により一定間隔で隔てられた金属同士(合せ材(3)と母材(5))を接合する方法であり、特に異種金属同士を強固に接合することができる技術である。この技術の大きな特徴は、金属素材に熱をほとんど負荷させることなく、接合が可能なため、通常の方法では接合できない金属同士の組合せでも強固に接合が達成できることである。さらに、強固に接合されるメカニズムとして、爆発圧着によって接合された金属の接合界面は特有の波状界面を呈することが知られており、強固な接合は直線の接合界面より接合面積が大きいことに起因するとも言われている。
【0023】
爆薬(1)とは、雷管(2)の作用により爆轟波を発生する火薬類である。金属板を強固に接合させるためには、爆速が1,000m/秒以上の爆薬を用いることが好ましく、より最適な接合力とするために、音速の1/3〜1/2となる1,500〜3,000m/秒の爆薬を用いることが好ましい。
【0024】
爆薬としては、具体的には硝酸アンモニウムや硝酸エステル類のPETN(ペンタエリスリトールテトラナイトレート)やニトログリセリン、ニトロ化合物のTNT(トリニトロトルエン)、シクロトリメチレントリニトラミン、シクロテトラメチレンテトラニトラミンなどが挙げられる。これらを単独で又は他爆薬成分あるいは他爆薬以外の成分を混合したものを用いてもよい。
【0025】
他方、爆発圧着法による接合ではなく、例えば、難燃性マグネシウムと異種金属との摩擦撹拌接合においては、線状での接合や重ね合わせた板材同士の一部分接合が提案されているが、接合範囲は工具の大きさに依存しており、面での全面接合は困難であること、材料ごとに適切な接合条件があり、異種金属の接合においては、欠陥なく強固な接合の達成は困難であること、板厚の差が大きい材料の接合は困難であること、などの問題がある。
【0026】
また、従来の爆発圧着法を用いて、難燃性マグネシウム合金と他の異種金属を接合し、異材継手材を作製する場合、マグネシウムの結晶構造に起因する常温での伸びの低さと、難燃性を付するための添加元素の影響によりさらに伸びの値が低下していることから、接合時の衝撃により割れが発生してしまい健全な接合体を得ることができない。さらに、一部分において接合が可能であっても、300μm以上の遷移層が形成され、脆い金属間化合物の発生や、強い塑性流動により、割れや剥離が発生し、接合強度においても、異材継手材を構成している金属材料のうち、最も弱い材料のせん断強度の70%のせん断強度を実現できない。
【0027】
本発明者らが今般見出した、爆発圧着法によれば、難燃性マグネシウム合金に割れが生じないように、接合時に難燃性マグネシウム合金の変形を材料の伸び値よりも抑えて接合する。難燃性マグネシウム合金の変形を抑える方法としては、変形抑制装置を用いる、材料を加温して接合を行う、下敷きに緩衝材を用いて接合時のエネルギーを低減するなどの方法が挙げられる。
変形抑制装置を用いる方法としては、接合する材料を高強度の枠材で囲い、変形を抑制する方法が有効である。枠材に用いる素材としては、爆発圧着時の衝撃に耐えられるものであれば特に限定されないが、例えば、純チタン、チタン合金、純鉄、炭素鋼、SUS、純Ni、Ni基合金、純銅、銅合金、純Zr、Zr合金、Ta、Mo、Nb、Wである。純鉄、炭素鋼、SUSが最も入手しやすく、枠材として強度も高いため、好ましい。
枠材の厚みは1mm以上であることが好ましい。厚みは大きいほど強度に優れ、難燃性マグネシウム合金の変形の抑制には効果的であるが、現実的には20mm以下である。
枠材を接合する材料に取り付ける方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる、枠材と接合する材料との間に隙間が空かないように注意を要する。最も好ましいのは、両者の寸法を完全に一致させ、枠材の中に接合する材料をはめ込むことである。寸法を完全に一致させることが困難な場合は、金属用の接着剤、粘着テープ等を使って枠材を固定することができるが、接合部の強度が不足する場合は、溶接しても良い。接合した枠材は爆発圧着後に切断し、除去できる。
材料を加温する場合は、材料を200℃程度まで加温することで、材料の伸び値が改善され、接合時に割れが発生しにくくなる。全面を均一な温度に保つことが重要であり、広い面積に均一に熱を供給できる熱源を用いることが好ましい。電気熱コイルなどの温度調節が可能な熱源の上に、厚い金属板を設置し、更にその上に接合する材料を設置した状態で加熱するのが最も簡便で好ましい。昇温する速度は特に限定されないが、安全上の理由から、毎分1℃〜50℃程度が良い。素材が高温になっているため、爆発圧着する際は、熱によって火薬が分解、引火しないよう、200℃でも安定した火薬を選ぶ必要がある。
下敷きに緩衝材を用いる場合は、緩衝材として、低密度素材、高弾性率素材、高空隙率材料、脆性材料などを使用できる。低密度素材の例としては、具体的には発泡スチロール、発砲ウレタン、発砲ポリエチレンなどである。高弾性率素材としては、例えば高質ゴム、金属バネである。高空隙率素材としては、例えば、段ボール、ハニカムセラミック、ラシヒリングなどの工業用品である。脆性材料としては、例えば、セラミック、コンクリート、木材、プラスチック、ガラスなどである。
上述した緩衝剤を下敷きとして母材の下に設置し、板の衝突速度を適切に設定することで、接合時の衝撃を緩和し、難燃性マグネシウム合金の割れを防止することができる。
本明細書中、「下敷き」とは、爆発圧着法によって金属の接合を行う際に、通常、材料の変形抑制や傷の発生防止を目的として使用される
図2中(6)に示す材料である。
【0028】
かかる難燃性マグネシウム合金の新規爆発圧着法によれば、各材料の構成板厚比率に拘らず、総厚3mm以上の異材継手材の製造が可能であり、これは、輸送機器の構体においても、使用される部位に適した、軽量化と強度を十分に満たす継手材の設計に貢献する。さらに、異材継手材の接合部の総厚が3mm以上であることで、異材継手材を構成している金属材料と同種金属同士の溶接において、溶接熱による接合強度の低下を防ぐことができる。
【0029】
本実施形態において、難燃性マグネシウム合金層と他の金属層との間は、直接接合されていることが好ましい。本明細書中、「直接接合」とは、接着層、金属間化合物層などの中間層を介さずに、難燃性マグネシウム合金層と他の金属層が接合されていることを意味する。難燃性マグネシウム合金層と他の金属層が直接接合されていることにより、本実施形態の異材継手材は高い継手強度を発揮する。
ここで言う「金属間化合物」とは、接合界面において、異種金属同士が互いに固溶し合うことで生成する合金の一種である。例えば、接合する母材が難燃性マグネシウム合金とアルミニウム合金である場合、その接合界面には、主にマグネシウムとアルミニウムの金属間化合物が生成する。金属間化合物は、接合界面において局所的に点在している程度であれば、異材継手の強度には特に影響はない。しかしながら、金属間化合物が「層」として連続的に広く分布している場合には、継手強度を低下させる要因となり得る。金属間化合物層の有無は、接合界面のEDSによる元素分析により判別することができる。尚、後述する「遷移層」は塑性流動や熱の影響で母材が変形した部分であるから、金属間化合物層とは本質を異にするものであり、金属間化合物層の有無は、遷移層の有無とは個別に判断される。
【0030】
本明細書中、「それぞれが重なり合う接合面において、互いに全面接合」とは、異材継手材を構成する爆発圧着前の2つの板材の、断面積が大きい面に相当する面を接合面とし、該板材の接合面が重なり合い接している部分において、全面接合していることを示す。異材継手材の形態としては、
図3に示す(a)〜(g)の各種形態が挙げられる。尚、
図3は、本発明の継手材の実施形態の一例であり、三層以上の継手材も本発明の実施形態に含まれる。
【0031】
本明細書中、接合部の「総厚」とは、
図1中、「t」で示すように、異材継手材を構成する2種の材料が接合している面に対して垂直方向の厚さを指す。
【0032】
本明細書中、「全面接合」とは、該異材継手材において、以下に説明する、超音波探傷試験により非接合部と判定される部分がなく、かつ、該異材継手材の側面部における浸透探傷試験において、接合界面部の指示模様が規定内である状態を指す。
【0033】
本明細書中、「遷移層」とは、接合界面における、塑性流動及び/又は熱により生じた接合する材料間の変形層である。例えば、
図4〜7に示すように、接合前の金属母材組織から、塑性流動、熱等の影響により波状に周期的に変形した部分である。
本明細書中、「遷移層の厚み」とは、継手材外周面上の接合界面の任意の10点について波高の高さを計測し、その平均値である。波高の高さとは、
図9に示すように、波の頂点から谷までの高さの差である。以下の実施例においては、波高の高さは電子顕微鏡を用いて測定した。
尚、
図4〜7には2本線が図示されているが、この2本線は遷移層の大まかな位置を図示したものである。誤解の無いように付記するが、この2本線の間隔が遷移層の厚みを示しているわけではない。
【0034】
超音波探傷試験は、JIS Z 2344又は同等規格に準じ、底面エコー方式により、接合界面部における反射エコーの有無を判定することにより、非接合部を判定する。具体的には、底面エコーの高さが健全部の1/2以下になるところを、非接合部と判定する。
【0035】
浸透探傷試験は、JIS Z 2343-1-II Cd-2又は同等規格に準じ、検出された赤色指示模様の大きさ、数をノギスなどの計測器を使用し測定する。具体的には、指示模様とは、材料表面に存在する傷が、浸透探傷試験で用いた浸透液により目視で観察される赤色の模様のことである。本件実施例では、検出された指示模様の大きさ、数を、ノギスを使用し測定した。本明細書では、各指示模様のうち、単一の指示模様の長さが1mm以上のもの、連続の指示模様において、指示模様の相互距離が2mm以下のものを欠陥と定義する。
【0036】
本明細書中、「せん断強度」とは、JIS G0601に規定されているせん断試験法に基づいて行い得られた値である。本実施形態においては、接合界面のせん断強度が、異材継手材の構成材料のうち最も「せん断強度」の小さい金属材料のせん断強度の70%以上であることが望ましい。せん断強度の取得が難しい、薄い板材についてのせん断強度は、ミーゼスの降伏条件に従い、材料引張強度を√3で除した値を、材料のせん断強度とする。
【0037】
本明細書中、「切断、切削又は曲げ加工が可能な」とは、本実施形態の異材継手材に加工を施した際に、金属材料の接合部において剥離や割れなどの欠陥が発生せず、前記したせん断強度を保持していることを意味する。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
爆発圧着法によって板状の難燃性マグネシウム合金AZX611とアルミニウム合金A6N01-T5を接合させた異材継手材を得た。下敷きにはセラミック材を使用した。それぞれの板厚はAZX611:10mm、A6N01-T5:4mmであり、光学顕微鏡の観察でも接合界面に割れや剥離が発生していない良好な接合が確認でき、超音波探傷試験の結果、全面接合していた。遷移層の厚みは72μmであり、接合界面のせん断強度は141N/mm
2(83%)であった。
【0040】
[実施例2]
爆発圧着法によって板状の難燃性マグネシウム合金AZX611とアルミニウム合金A6N01-T5を接合させた異材継手材を得た。下敷きにはセラミック材を使用した。それぞれの板厚はAZX611:4mm、A6N01-T5:4mmであり、光学顕微鏡の観察でも接合界面に割れや剥離が発生していない良好な接合が確認でき、超音波探傷試験の結果、全面接合していた。遷移層の厚みは79.3μmであり、接合界面のせん断強度は147N/mm
2(88%)であった。
【0041】
[実施例3]
爆発圧着法によって板状の難燃性マグネシウム合金AZX611とステンレス鋼SUS304を接合させた異材継手材を得た。下敷きには樹脂板を使用した。それぞれの板厚はAZX611:4mm、SUS304:1.5mmであり、光学顕微鏡の観察でも接合界面に割れや剥離が発生していない良好な接合が確認でき、超音波探傷試験の結果、全面接合していた。遷移層の厚みは24μmであり、接合界面のせん断強度は125N/mm
2(75%)であった。
【0042】
[実施例4]
爆発圧着法によって板状の難燃性マグネシウム合金AZX611とステンレス鋼SUS304を接合させた異材継手材を得た。下敷きには発砲スチロールを使用した。それぞれの板厚はAZX611:4mm、SUS304:2mmであり、光学顕微鏡の観察でも接合界面に割れや剥離が発生していない良好な接合が確認で、超音波探傷試験の結果、全面接合していた。遷移層の厚みは27.5μmであり、接合界面のせん断強度は192N/mm
2(115%)であった。
【0043】
[実施例5]
実施例4で得た接合体に対して、任意の形状へ切断加工を行い、接合状態の確認のために切断加工断面において浸透探傷試験を行った。試験の結果、切断後の断面でも剥離や割れ等の欠陥は発生しておらず、健全な状態であった。
【0044】
[比較例1]
前記特許文献4(特開2007−15018号公報)に記載された条件下で、難燃性マグネシウム合金AZX611とアルミニウム合金6061-T651の接合を行った。実施の結果、難燃性マグネシウム合金に変形による割れと傷が多数発生し、割れと傷を起点に剥離が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の難燃性マグネシウム合金層を含む異材継手材は、輸送機器構体の異種金属材料接合部において、信頼性の高い同種金属同士の接合を可能とするため、輸送機器構体の接合部として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0046】
t 接合部の総厚
1 爆薬
2 雷管
3 合せ材
4 支持物
5 母材
6 下敷き
7 波状の接合界面
8 波の頂点
9 波の谷部
10 波高の高さ