特許第6733093号(P6733093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社三井E&Sマシナリーの特許一覧

特許6733093ゼオライト膜に供する被処理流体の処理方法
<>
  • 特許6733093-ゼオライト膜に供する被処理流体の処理方法 図000006
  • 特許6733093-ゼオライト膜に供する被処理流体の処理方法 図000007
  • 特許6733093-ゼオライト膜に供する被処理流体の処理方法 図000008
  • 特許6733093-ゼオライト膜に供する被処理流体の処理方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6733093
(24)【登録日】2020年7月13日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】ゼオライト膜に供する被処理流体の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20200716BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20200716BHJP
   B01D 61/16 20060101ALI20200716BHJP
【FI】
   B01D71/02
   B01D53/22
   B01D61/16
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-89007(P2019-89007)
(22)【出願日】2019年5月9日
【審査請求日】2019年7月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518126144
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】前川 和也
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−515448(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/035849(WO,A1)
【文献】 特開2012−035163(JP,A)
【文献】 特開平09−192650(JP,A)
【文献】 特開2007−055970(JP,A)
【文献】 特開2018−202413(JP,A)
【文献】 特開2016−203078(JP,A)
【文献】 前川和也,前処理設備を付加した新たな膜脱水分離プロセスの提案,三井造船技報,2017年 7月31日,第219号,第1〜5頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
B01D 53/22
B01J 4/00− 4/04
B01D 15/00−15/42
C01B 33/20−39/54
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体混合物または気体混合物からなり、ゼオライト膜を崩壊させる化合物を含む被処理流体を処理する方法であって、前記ゼオライト膜と同種のゼオライトからなる粒子を、前記ゼオライト膜を有する膜モジュール内の前記ゼオライト膜の上流側の粒子充填層に充填し、前記被処理流体を前記粒子に接触させて、前記粒子を構成するゼオライトを崩壊させ、崩壊により発生した成分を前記被処理流体に含有させることを特徴とするゼオライト膜に供する被処理流体の処理方法。
【請求項2】
前記ゼオライト膜を崩壊させる化合物が、有機酸および/または無機酸であり、前記被処理流体がこれらを2000ppm以下含有することを特徴する請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記ゼオライト膜を崩壊させる化合物が、3−メチル−1−ブタノールおよび/またはアセタールであり、前記被処理流体がこれらを2000ppm以下含有することを特徴する請求項1に記載の処理方法。
【請求項4】
前記ゼオライト膜を崩壊させる化合物が、ジメチルスルフィドおよび/またはジメチルスルホキシドであり、前記被処理流体がこれらを2000ppm以下含有することを特徴する請求項1に記載の処理方法。
【請求項5】
前記被処理流体が液体混合物であり、前記粒子と接触する時間が60〜600秒であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【請求項6】
前記被処理流体が気体混合物であり、前記粒子と接触する時間が1〜60秒であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜を長寿命化するようにした被処理流体の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水等の不純物を含むバイオエタノールから水を分離し高純度のエタノールを精製する方法や、被汚染液体からPCBなどの有害物質を分離除去する方法として、耐熱性及び耐薬品に優れたゼオライト膜を使用した膜分離方法が積極的に採用されている。これら膜分離法の商業プラントでは、ゼオライト膜を円筒状に形成し、これを多数本配置した膜モジュールが膜分離装置の構成単位となっており、複数の膜モジュールを直列に連結させることにより、選択透過性能(透過物濃度)を極めて高く維持しながら処理能力(透過流束)を大きくすることが行われる。このような複数の膜モジュールでは、例えばバイオエタノールなどの被処理体が、有機酸や無機酸などのゼオライト膜を崩壊させる成分を含有すると、膜分離操作を阻害し、ゼオライト膜が崩壊してしまうことが懸念される。一つの膜モジュール内に配置された円筒状ゼオライト膜の本数は約38〜4000本であり、高価なゼオライト膜を比較的短期間に多数交換することは、多額の費用と多大な労力がかかり膜分離の処理コストが増大することが懸念される。このため膜モジュールによる分離処理を行う前に、蒸留等によりゼオライト膜を崩壊させる成分を被処理体から分離除去する操作が必要になる。しかしながら、蒸留等の単位操作はエネルギーの消費量が多く、しかもゼオライト膜を崩壊させる成分を必ずしも十分に取り除くことができないという問題があった。
【0003】
特許文献1は、被処理体をゼオライト膜に接触させる前に、その被処理体と膜分離装置から独立した前処理装置内に充填したゼオライト粒子とを接触させることにより、ゼオライト膜を長寿命化することを提案する。しかし、膜分離効率を更に高くし、かつゼオライト膜を更に長寿命化するため、上述した前処理をより省力化し、効率的に行う処理方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−35163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ゼオライト膜を崩壊させる化合物を含む被処理流体を、ゼオライト膜を崩壊させないように効率的に処理する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のゼオライト膜に供する被処理流体の処理方法は、液体混合物または気体混合物からなり、ゼオライト膜を崩壊させる化合物を含む被処理流体を処理する方法であって、前記ゼオライト膜と同種のゼオライトからなる粒子を、前記ゼオライト膜を有する膜モジュール内の前記ゼオライト膜の上流側の粒子充填層に充填し、前記被処理流体を前記粒子に接触させて、前記粒子を構成するゼオライトを崩壊させ、崩壊により発生した成分を前記被処理流体に含有させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のゼオライト膜に供する被処理流体の処理方法は、膜モジュール内のゼオライト膜の上流側の粒子充填層にゼオライト膜と同種のゼオライトからなる粒子を充填し、この粒子にゼオライト膜を崩壊させる化合物を含む被処理流体を接触させ、粒子を構成するゼオライトを崩壊させ、崩壊により発生した成分を被処理流体に含有させるようにしたので、ゼオライト膜を崩壊させないように効率的に処理することができる。
【0008】
前記ゼオライト膜を崩壊させる化合物として、有機酸、無機酸、3−メチル−1−ブタノール、アセタール、ジメチルスルフィド、ジメチルスルホキシドからなる群から選ばれる少なくとも1つが挙げられ、その含有量が2000ppm以下であるとよい。
【0009】
前記被処理流体が液体混合物であるとき、前記粒子と接触する時間が60〜600秒であるとよく、また前記被処理流体が気体混合物であるとき、前記粒子と接触する時間が1〜60秒であるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の処理方法の実施形態の一例を示す模式的説明図である。
図2】本発明の処理方法で使用する前処理装置の一例を示す模式的説明図である。
図3】本発明の実施例1,2で使用した前処理装置の模式的説明図である。
図4】本発明の実施例3で使用した脱水システムの模式的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
水等の不純物を含むバイオエタノールから水を分離する脱水プロセスでは、蒸留およびゼオライト膜による脱水を組合わせることにより、脱水効率を高くするのと同時に脱水に要するエネルギーを削減することができる。蒸留工程から膜分離工程へ受け渡すときのバイオエタノールのエタノール濃度、すなわち不純物濃度を高く調節することが、消費エネルギーを削減するには有利である。しかし、不純物には、ゼオライト膜を崩壊する成分、例えば有機酸、無機酸、3−メチル−1−ブタノール、アセタール、ジメチルスルフィド、ジメチルスルホキシド等が含まれ、不純物濃度を高くすると、ゼオライト膜では分離することができず、またゼオライト膜を比較的短時間で崩壊させる虞がある。本発明の処理方法は、ゼオライト膜を用いた膜分離処理に供する被処理流体を効率的に処理し、ゼオライト膜を崩壊させないようにする方法である。
【0012】
被処理流体は、液体混合物または気体混合物からなり、ゼオライト膜を崩壊させる化合物を含む。被処理流体として、例えばバイオエタノールなどのバイオマス産業で生成または副生成される溶液、工業有機廃液、化学産業プロセスにおける水を含む溶液、エステル化反応などの水が副生成物となる化学反応溶液、海水、塩湖水、などを例示することができ、更に液体混合物または気体混合物の具体例として水と、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類または酢酸、プロピオン酸、酪酸などのカルボン酸類との混合物、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、四塩化炭素、トリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素、または前記カルボン酸類などの有機溶液と、前記アルコール類との混合物、前記アルコール類またはカルボン酸類と、ベンゼン、シクロヘキサンなどの芳香族類との混合物などを例示することができる。特に、水−エタノール、水−プロパノール、水−酢酸、水−メタクリル酸メチルなどの脱水分離を代表例として挙げることができる。
【0013】
ゼオライト膜を崩壊させる化合物として、有機酸、無機酸、3−メチル−1−ブタノール、アセタール、ジメチルスルフィド、ジメチルスルホキシドを例示することができる。これらの不純物の含有量は、被処理流体中2000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは10〜1000ppmであるとよい。不純物の含有量を2000ppm以下にすることにより、本発明の処理方法を適用した膜分離操作において、ゼオライト膜の寿命を更に長くすることができる。
【0014】
また、被処理流体中の水濃度が高いとき、水がゼオライト膜を崩壊させる化合物になることある。被処理流体中の水濃度が例えば50重量%以上、好ましくは70重量%以上のとき、ゼオライト膜を崩壊させる作用を及ぼすが、本発明の処理方法を適用した膜分離操作により、ゼオライト膜の寿命を長くすることができる。
【0015】
膜分離方法において、液体混合物は、分離膜の片側(供給側)に接触させて、反対側(透過側)を減圧することにより、特定の液体(透過物質)を気化させ分離するパーベーパレーション法(浸透気化法)により、膜分離処理することができる。また気体混合物または液体混合物は、加熱した蒸気状態で供給し分離膜に接触させて、透過側を減圧して特定の蒸気を分離するベーパーパーミエイション法により、膜分離処理することができる。
【0016】
本発明の処理方法は、液体混合物または気体混合物からなる被処理流体をゼオライト膜と同種のゼオライトからなる粒子に接触させることにより、粒子を構成するゼオライトを崩壊させ、崩壊により発生した成分を被処理流体に含有させる。この処理を施すことにより被処理流体がゼオライト膜に接触してもゼオライト膜を崩壊させないようにすることができる。
【0017】
図1および図2は、本発明の処理方法の実施形態の一例を示す模式的説明図である。図1において、3つの膜モジュール1が、上流側から下流側へ直列に連結されている。最も上流側の膜モジュール1に被処理流体10が供給され、分離膜2と接触し、分離膜2を透過した透過流体11は、透過流体捕集手段や製品タンク(いずれも図示せず)に移送される。また分離膜2を透過しなかった濃縮流体12は、下流側の膜モジュール1に供給され、分離膜2と接触させ、透過流体11および濃縮流体12に分離する処理が行われ、前記と同様に移送および更に下流の膜モジュール1に供給される。
【0018】
この実施形態において、最も上流側の膜モジュール1内の分離膜2の上流側に、ゼオライト膜2と同種のゼオライトからなる粒子を充填した層3を配置する。図1ではゼオライト膜2が斜線で略記されているが、ゼオライト膜2が円筒状であって、円筒状ゼオライト膜の外側に被処理流体10が供給され、透過流体11が円筒状ゼオライト膜の内側へ透過するとき、円筒状ゼオライト膜の外側にゼオライト粒子を充填し粒子充填層3を形成するものとする。被処理流体10をこの粒子充填層3を通し、ゼオライト粒子と接触させることにより、粒子を構成するゼオライトを崩壊させ、崩壊により発生した成分を被処理流体10に含有させる。粒子充填層3を通した被処理流体10は、ゼオライトが崩壊した成分を含有するため、ゼオライト膜2と接触したとき、ゼオライトを崩壊させることなく、所望の膜分離処理が実施される。またゼオライト膜2の寿命を長くすることができる。
【0019】
図2は、膜モジュール1の上流側に設置される前処理装置4の模式的説明図であり、前処理装置4の内部に、ゼオライト膜2と同種のゼオライトからなる粒子を充填した層5が配置される。被処理流体10をこの粒子充填層5を通し、ゼオライト粒子と接触させることにより、粒子を構成するゼオライトを崩壊させ、崩壊により発生した成分を被処理流体10に含有させ、前処理流体13として排出される。粒子充填層5を通した前処理流体13は、ゼオライトが崩壊した成分を含有するため、ゼオライト膜2と接触したとき、ゼオライトを崩壊させることなく、所望の膜分離処理が実施される。またゼオライト膜2の寿命を長くすることができる。
【0020】
本発明の処理方法では、上述した通り、被処理流体がゼオライト粒子を崩壊させ、崩壊した成分をそのまま含有することにより、ゼオライト膜に接触する被処理流体は、そのゼオライト膜を構成する成分と同じ組成比の成分を含有する。これにより、被処理流体がゼオライト膜と接触しても、膜を構成するゼオライトを損傷、破壊、崩壊しようとする作用を可及的に小さくすることができる。従来、ゼオライト膜が含有するカチオン、例えばNa,K,Ca2+,Ba2+,Mn2+などと同じカチオンを、被処理流体へのイオン交換またはカチオン供給源の添加により増量し、膜を構成するゼオライトがイオン交換し脱アルミニウムするのを抑制することが提案されている。これに対し、本発明の処理方法は、被処理流体がゼオライト粒子を崩壊させることにより、ゼオライトを構成する、ケイ素、アルミニウム、およびカチオンを同じ組成比で、しかも多量に、被処理流体が含有するようにしたので、その後に接触するゼオライト膜の損傷、破壊、崩壊を大幅に抑制することができる。
【0021】
被処理流体が液体混合物であるとき、液体混合物およびゼオライト粒子の接触時間は、好ましくは60〜600秒、より好ましくは60〜300秒であるとよい。接触時間をこのような範囲内にすることにより、被処理流体の処理効率を低下させずに、ゼオライト膜を崩壊させないようにすることができる。液体混合物およびゼオライト粒子の接触時間は、粒子を充填させる層の断面積、またはその層高さ、またはその粒子の直径のいずれかまたはすべて、または充填層内において被処理流体の流れる向きに対して略直交するように設けた邪魔板(バッフル)の数や充填層内の実質的な流路の長さにより調節することができる。
【0022】
被処理流体が気体混合物であるとき、気体混合物およびゼオライト粒子の接触時間は、好ましくは1〜60秒、より好ましくは1〜5秒であるとよい。接触時間をこのような範囲内にすることにより、被処理流体の処理効率を低下させずに、ゼオライト膜を崩壊させないようにすることができる。固体混合物およびゼオライト粒子の接触時間は、粒子を充填させる層の断面積、またはその層高さ、またはその粒子の直径のいずれかまたはすべて、または充填層内において被処理流体の流れる向きに対して略直交するように設けた邪魔板(バッフル)の数や充填層内の実質的な流路の長さにより調節することができる。
【0023】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例により限定するものではない。
【実施例】
【0024】
実施例1
被処理流体の調製
被処理流体として、エタノール/水を重量比85/15で混合し、この混合液に、ギ酸、酪酸、3−メチル−1−ブタノール、ジメチルスルフィド、硝酸の各化合物を不純物として、不純物濃度が500ppmになるように混入させた。これらの不純物が含まれた被処理流体に加え、比較対象として不純物が含まれていない被処理流体も準備した。
【0025】
前処理装置の準備
図3に前処理装置を模式的に示す。図3において、前処理装置4は、内部にゼオライト粒子を充填した粒子充填層5を有する容器15からなり、容器15の下方に被処理流体10が流入する供給口16を有し、容器15の上部に前処理流体10が流出する排出口17を有する。容器10の内部の供給口14より高い位置に、仕切り板18が配置され、仕切り板18の上側にゼオライト粒子からなる粒子充填層5が形成される。仕切り板18には、被処理流体10のみを通過するようにした複数の小孔が開けられている。仕切り板18の下側は、被処理流体10が偏流の状態で粒子充填層5に入るのを防ぐためバッファ相19が形成されている。粒子充填層5の高さ(仕切り板18の上表面から粒子充填層5の上面までの高さ)と、被処理流体10の供給流量を変えることにより、被処理流体10の滞留時間を増減することができる。粒子充填層5の高さは、ゼオライト粒子(NaA型ゼオライトを含む造粒体、東ソー社製品名A−4、平均粒子径6mm)の充填量により調節することができる。実施例では、粒子充填層5の高さと被処理流体10の供給流量を表1のように組み合わせることにより、滞留時間を設定した。
【0026】
【表1】
【0027】
不純物が入っていない被処理流体(エタノール/水の重量比85/15、以下「ブランク」と記すことがある。)と、上述のとおり、不純物としてギ酸、酪酸、3−メチル−1−ブタノール、ジメチルスルフィド、硝酸から選ばれる一つを500ppm混入された、各不純物入り被処理流体を準備した。それを表1に示した供給流量と粒子充填層高さの条件下で、滞留時間を異ならせて前処理した。すなわち、被処理流体を前処理装置の下部の供給口から流入させ、前処理装置上部の排出口から排出された前処理流体を採取した。このとき採取する前処理流体は、前処理装置から排出されてすぐの溶液のみを採取した。採取した液はNaイオンの存在とその濃度を確認するためにICP(Inductively Coupled Plasma;誘導結合プラズマ)分析法によって評価された。
【0028】
ブランクおよび各不純物を含む被処理流体について、前処理していない被処理流体(滞留時間が0秒)と滞留時間を異ならせて前処理液装置を通過させた前処理液(滞留時間が5〜371秒)のNaイオン濃度の測定結果を表2に示す。ブランクを前処理したときのNaイオン濃度が最も低く、次いで3−メチル−1−ブタノール、DMSを含む非処理流体を前処理したときのNaイオン濃度が低かった。一方、Naイオン濃度が高かったのは、ギ酸、硝酸、酪酸の酸性物質を不純物として含むときであった。
【0029】
ブランクの前処理でNaイオンが1ppm程度で溶解平衡に達したことから、この値が、NaA型ゼオライト粒子からなる充填物が崩壊せずに安定した状態で、水濃度15重量%の被処理流体におけるNaイオンを放出できる溶解平衡値であると推察できる。一方、3−メチル−1−ブタノール、DMSの炭化水素化合物やギ酸、硝酸、酪酸の酸性物質が被処理流体中に存在しているとき、その溶解平衡が崩れたと推察できる。すなはち、以下の2つの考察ができ、1つめは、充填物の材料であるNaA型ゼオライトは炭化水素化合物や酸性物質によってゼオライト骨格が崩壊してしまい、ブランクの前処理では放出されなかったゼオライト骨格内部に含まれるNaイオンが放出し溶解平衡に達したと推察される。2つめは炭化水素化合物や酸性物質によって水溶液中の電荷の偏りが起き、それに対して平衡になるように、ブランクの前処理では溶出されなかったNaA型ゼオライト中のNaイオンがより溶出されて平衡に達したと推察される。
【0030】
【表2】
【0031】
実施例2
実際にイソプロパノールを精製回収することを想定し、イソプロパノール/水混合液を被処理流体としてゼオライト膜で脱水するとき、ゼオライト膜の性能低下への前処理の有無の影響を実証した。
【0032】
イソプロパノールの精製回収プラントから得られた被処理流体は、イソプロパノール/水の重量比が90/10(重量%)であり、不純物としてシュウ酸を500ppm含有していた。前処理は、実施例1と同じ前処理装置を使用し、滞留時間337秒となる条件で行った。この前処理を行った前処理流体と、前処理を行わない被処理流体とをゼオライト膜で脱水処理を行い、ゼオライト膜の性能低下の程度を比較した。
【0033】
脱水処理は、有効膜面積が14.5cmのNaA型ゼオライト膜を用い、浸透気化法(PV法)で行った。バッチ式による脱水方式で運転温度が110℃、透過側が6Torrの真空圧力による液体窒素トラップとした。仕込み液量は300mlとし、運転温度が110℃に到達した後、脱水を開始し所定の時間ごとに、透過側の所定時間当たりの透過量(透過流束)と透過側の水濃度を測定した。それぞれの液に対してゼオライト膜を用意し、繰り返し試験を行っている間、夫々の膜を交換せずに連続して使用した。
【0034】
脱水処理の試験結果を表3に示す。300mlの被処理流体に前処理を行わず脱水処理を4回繰り返し、1200mlの脱水試験を行った結果、透過液水濃度は大きく変化しなかったものの、透過流束は徐々に低下し4回目の試験においては初回の試験時よりも半分程度まで低下した。一方、被処理流体に前処理を行ってから脱水処理した場合、透過液水濃度は、被処理流体をそのまま脱水処理したときよりも高い水濃度を推移し、透過流束も5回繰り返し、1500mlの脱水処理試験を実施しても変化しなかった。このことから、本発明の被処理流体の処理方法を行わないとき、被処理流体中に含まれるシュウ酸によって脱水処理するゼオライト膜に悪影響を与え膜性能(透過流束)が低下したと考えられる。
【0035】
【表3】
【0036】
実施例3
この実施例により、被処理流体中に含まれる高濃度の水がゼオライト膜を崩壊させる化合物であること、しかし本発明の被処理流体の処理方法のより、ゼオライト膜の性能低下を抑制可能であることを実証する。
【0037】
被処理流体として、イソプロパノール/水が10/90重量%の混合液1と、35/65重量%の混合液2の2種類を調製した。これら被処理流体の脱水処理を、図4に装置概要を示す流通式の浸透気化法(PV法)で行った。脱水処理の運転温度は110℃、透過側は6Torrの液体窒素トラップとした。所定量のNaA型ゼオライト粒子を含む前処理装置4へ、被処理流体10をポンプ6により加熱器7を介して供給流量2.4g/分で流入させ、前処理装置4を通過した前処理流体13がそのままNaA型ゼオライト膜(有効膜面積が14.5cm)からなる膜モジュール1内へ流入する。NaA型ゼオライト膜を透過しなかった濃縮流体12は、冷却器8により冷却され濃縮タンク(図示せず)に入る。
【0038】
前処理装置として、0g,0.5gまたは1.0gのNaA型ゼオライト粒子を充填した3種類の前処理装置を準備し、上述した流通式のPV運転方式で脱水処理を行った。透過側の水濃度が99.5重量%以下になるまでの連続運転時間を測定し、破過時間としてゼオライト膜の性能指標にした。破過時間が長いほど、ゼオライト膜の性能低下を抑制することができる。
【0039】
NaA型ゼオライト粒子の充填量が0gの前処理装置を通過させたとき、イソプロパノール/水が10/90重量%の混合液1の脱水処理の破過時間は約3.3時間、透過液流束は約15kg/mhであった。またイソプロパノール/水が35/65重量%の混合液2の破過時間は約17時間、透過液流束は約12.6kg/mhであった。このように被処理流体中の水の濃度が高いほど、破過時間が短くゼオライト膜の性能低下が起きやすいことが分る。
【0040】
NaA型ゼオライト粒子の充填量が0.5gの前処理装置を通過させたとき、イソプロパノール/水が10/90重量%の混合液1の脱水処理の破過時間は約10時間、透過液流束は約15.3kg/mhであった。またイソプロパノール/水が35/65重量%の混合液2の破過時間は約47時間、透過液流束は約11.1kg/mhであった。いずれもNaA型ゼオライト粒子に接触させなかったときと比べ、破過時間が約2.7倍も長くなりゼオライト膜の性能低下が抑制された。
【0041】
NaA型ゼオライト粒子の充填量が1.0gの前処理装置を通過させたとき、イソプロパノール/水が10/90重量%の混合液1の脱水処理の破過時間は約9.5時間、透過液流束は約16.2kg/mhであった。またイソプロパノール/水が35/65重量%の混合液2の破過時間は約75時間、透過液流束は約13.4kg/mhであった。いずれもNaA型ゼオライト粒子に接触させなかったときと比べ、破過時間が約3倍から4.4倍も長くなりゼオライト膜の性能低下が抑制された。
【0042】
実施例4
イソプロパノールの精製回収システムにおいて、イソプロパノール/水からなる被処理流体のNaA型ゼオライト膜からなる膜モジュールの上流側に、NaA型ゼオライト粒子を高さ1mに充填した前処理装置を配置し、約1年間、約8000時間運転した。被処理流体は、イソプロパノール/水の重量比が、およそ90/10重量%で、不純物としてシュウ酸を平均で約500ppm含有していた。この被処理流体を、蒸発器を使用して蒸発させ、蒸気状態で前処理装置に、線速0.8m/秒で供給し前処理を行った。
【0043】
被処理流体を約8000時間前処理した後、前処理装置の充填層の上部からの深さが0cm(最上部),20cm,40cm,60cm,80cmおよび100cm(最下部)の位置にあるNaA型ゼオライト粒子を採取した。採取したゼオライト粒子および未使用のNaA型ゼオライト粒子を70℃で24時間乾燥した後、粉砕し、蛍光X線元素分析装置(島津製作所社製EDX−720)による元素分析を行った。その結果を表4に示す。表中の値は、各成分の重量%を示す。
【0044】
【表4】
【0045】
未使用のNaA型ゼオライト粒子のNa量(NaO酸化物換算)は約17重量%であるのに対し、前処理に使用したNaA型ゼオライト粒子のNa量(NaO酸化物換算)は約11〜13重量%になり、最大で約35%も減少しゼオライト粒子の崩壊により流出したと考えられる。また、未使用のNaA型ゼオライト粒子のAl成分が約37%、SiO成分が約45重量%であり、Al/SiO比が0.84であった。これに対し、前処理に使用したNaA型ゼオライト粒子のAl成分が約45〜46重量%、SiO成分が約42〜43重量%で、Al/SiO比が1.07〜1.08であった。このようにAl/SiO比が変化したことから、被処理流体との接触によりゼオライト粒子の構造が変化したということができる。すなわち、Naイオンがゼオライト骨格から取り除かれたことによりゼオライト骨格内の電荷バランスが崩れ少なくとも一部のゼオライトが崩壊したと考えられる。
【符号の説明】
【0046】
1 膜モジュール
2 分離膜
3 粒子充填層
4 前処理装置
5 粒子充填層
10 被処理流体
11 透過流体
12 濃縮流体
13 前処理流体
【要約】
【課題】ゼオライト膜を崩壊させる化合物を含む被処理流体を、ゼオライト膜を崩壊させないように効率的に処理する方法を提供する。
【解決手段】液体混合物または気体混合物からなり、ゼオライト膜2を崩壊させる化合物を含む被処理流体10を、ゼオライト膜2を有する膜モジュール1内のゼオライト膜2の上流側または膜モジュール1の上流側に設置された前処理装置4内に充填された、ゼオライト膜2と同種のゼオライトからなる粒子(3,5)に接触させて、粒子(3,5)を構成するゼオライトを崩壊させ、崩壊により発生した成分を被処理流体10に含有させることを特徴とする。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4