【実施例】
【0024】
実施例1
被処理流体の調製
被処理流体として、エタノール/水を重量比85/15で混合し、この混合液に、ギ酸、酪酸、3−メチル−1−ブタノール、ジメチルスルフィド、硝酸の各化合物を不純物として、不純物濃度が500ppmになるように混入させた。これらの不純物が含まれた被処理流体に加え、比較対象として不純物が含まれていない被処理流体も準備した。
【0025】
前処理装置の準備
図3に前処理装置を模式的に示す。
図3において、前処理装置4は、内部にゼオライト粒子を充填した粒子充填層5を有する容器15からなり、容器15の下方に被処理流体10が流入する供給口16を有し、容器15の上部に前処理流体10が流出する排出口17を有する。容器10の内部の供給口14より高い位置に、仕切り板18が配置され、仕切り板18の上側にゼオライト粒子からなる粒子充填層5が形成される。仕切り板18には、被処理流体10のみを通過するようにした複数の小孔が開けられている。仕切り板18の下側は、被処理流体10が偏流の状態で粒子充填層5に入るのを防ぐためバッファ相19が形成されている。粒子充填層5の高さ(仕切り板18の上表面から粒子充填層5の上面までの高さ)と、被処理流体10の供給流量を変えることにより、被処理流体10の滞留時間を増減することができる。粒子充填層5の高さは、ゼオライト粒子(NaA型ゼオライトを含む造粒体、東ソー社製品名A−4、平均粒子径6mm)の充填量により調節することができる。実施例では、粒子充填層5の高さと被処理流体10の供給流量を表1のように組み合わせることにより、滞留時間を設定した。
【0026】
【表1】
【0027】
不純物が入っていない被処理流体(エタノール/水の重量比85/15、以下「ブランク」と記すことがある。)と、上述のとおり、不純物としてギ酸、酪酸、3−メチル−1−ブタノール、ジメチルスルフィド、硝酸から選ばれる一つを500ppm混入された、各不純物入り被処理流体を準備した。それを表1に示した供給流量と粒子充填層高さの条件下で、滞留時間を異ならせて前処理した。すなわち、被処理流体を前処理装置の下部の供給口から流入させ、前処理装置上部の排出口から排出された前処理流体を採取した。このとき採取する前処理流体は、前処理装置から排出されてすぐの溶液のみを採取した。採取した液はNaイオンの存在とその濃度を確認するためにICP(Inductively Coupled Plasma;誘導結合プラズマ)分析法によって評価された。
【0028】
ブランクおよび各不純物を含む被処理流体について、前処理していない被処理流体(滞留時間が0秒)と滞留時間を異ならせて前処理液装置を通過させた前処理液(滞留時間が5〜371秒)のNaイオン濃度の測定結果を表2に示す。ブランクを前処理したときのNaイオン濃度が最も低く、次いで3−メチル−1−ブタノール、DMSを含む非処理流体を前処理したときのNaイオン濃度が低かった。一方、Naイオン濃度が高かったのは、ギ酸、硝酸、酪酸の酸性物質を不純物として含むときであった。
【0029】
ブランクの前処理でNaイオンが1ppm程度で溶解平衡に達したことから、この値が、NaA型ゼオライト粒子からなる充填物が崩壊せずに安定した状態で、水濃度15重量%の被処理流体におけるNaイオンを放出できる溶解平衡値であると推察できる。一方、3−メチル−1−ブタノール、DMSの炭化水素化合物やギ酸、硝酸、酪酸の酸性物質が被処理流体中に存在しているとき、その溶解平衡が崩れたと推察できる。すなはち、以下の2つの考察ができ、1つめは、充填物の材料であるNaA型ゼオライトは炭化水素化合物や酸性物質によってゼオライト骨格が崩壊してしまい、ブランクの前処理では放出されなかったゼオライト骨格内部に含まれるNaイオンが放出し溶解平衡に達したと推察される。2つめは炭化水素化合物や酸性物質によって水溶液中の電荷の偏りが起き、それに対して平衡になるように、ブランクの前処理では溶出されなかったNaA型ゼオライト中のNaイオンがより溶出されて平衡に達したと推察される。
【0030】
【表2】
【0031】
実施例2
実際にイソプロパノールを精製回収することを想定し、イソプロパノール/水混合液を被処理流体としてゼオライト膜で脱水するとき、ゼオライト膜の性能低下への前処理の有無の影響を実証した。
【0032】
イソプロパノールの精製回収プラントから得られた被処理流体は、イソプロパノール/水の重量比が90/10(重量%)であり、不純物としてシュウ酸を500ppm含有していた。前処理は、実施例1と同じ前処理装置を使用し、滞留時間337秒となる条件で行った。この前処理を行った前処理流体と、前処理を行わない被処理流体とをゼオライト膜で脱水処理を行い、ゼオライト膜の性能低下の程度を比較した。
【0033】
脱水処理は、有効膜面積が14.5cm
2のNaA型ゼオライト膜を用い、浸透気化法(PV法)で行った。バッチ式による脱水方式で運転温度が110℃、透過側が6Torrの真空圧力による液体窒素トラップとした。仕込み液量は300mlとし、運転温度が110℃に到達した後、脱水を開始し所定の時間ごとに、透過側の所定時間当たりの透過量(透過流束)と透過側の水濃度を測定した。それぞれの液に対してゼオライト膜を用意し、繰り返し試験を行っている間、夫々の膜を交換せずに連続して使用した。
【0034】
脱水処理の試験結果を表3に示す。300mlの被処理流体に前処理を行わず脱水処理を4回繰り返し、1200mlの脱水試験を行った結果、透過液水濃度は大きく変化しなかったものの、透過流束は徐々に低下し4回目の試験においては初回の試験時よりも半分程度まで低下した。一方、被処理流体に前処理を行ってから脱水処理した場合、透過液水濃度は、被処理流体をそのまま脱水処理したときよりも高い水濃度を推移し、透過流束も5回繰り返し、1500mlの脱水処理試験を実施しても変化しなかった。このことから、本発明の被処理流体の処理方法を行わないとき、被処理流体中に含まれるシュウ酸によって脱水処理するゼオライト膜に悪影響を与え膜性能(透過流束)が低下したと考えられる。
【0035】
【表3】
【0036】
実施例3
この実施例により、被処理流体中に含まれる高濃度の水がゼオライト膜を崩壊させる化合物であること、しかし本発明の被処理流体の処理方法のより、ゼオライト膜の性能低下を抑制可能であることを実証する。
【0037】
被処理流体として、イソプロパノール/水が10/90重量%の混合液1と、35/65重量%の混合液2の2種類を調製した。これら被処理流体の脱水処理を、
図4に装置概要を示す流通式の浸透気化法(PV法)で行った。脱水処理の運転温度は110℃、透過側は6Torrの液体窒素トラップとした。所定量のNaA型ゼオライト粒子を含む前処理装置4へ、被処理流体10をポンプ6により加熱器7を介して供給流量2.4g/分で流入させ、前処理装置4を通過した前処理流体13がそのままNaA型ゼオライト膜(有効膜面積が14.5cm
2)からなる膜モジュール1内へ流入する。NaA型ゼオライト膜を透過しなかった濃縮流体12は、冷却器8により冷却され濃縮タンク(図示せず)に入る。
【0038】
前処理装置として、0g,0.5gまたは1.0gのNaA型ゼオライト粒子を充填した3種類の前処理装置を準備し、上述した流通式のPV運転方式で脱水処理を行った。透過側の水濃度が99.5重量%以下になるまでの連続運転時間を測定し、破過時間としてゼオライト膜の性能指標にした。破過時間が長いほど、ゼオライト膜の性能低下を抑制することができる。
【0039】
NaA型ゼオライト粒子の充填量が0gの前処理装置を通過させたとき、イソプロパノール/水が10/90重量%の混合液1の脱水処理の破過時間は約3.3時間、透過液流束は約15kg/m
2hであった。またイソプロパノール/水が35/65重量%の混合液2の破過時間は約17時間、透過液流束は約12.6kg/m
2hであった。このように被処理流体中の水の濃度が高いほど、破過時間が短くゼオライト膜の性能低下が起きやすいことが分る。
【0040】
NaA型ゼオライト粒子の充填量が0.5gの前処理装置を通過させたとき、イソプロパノール/水が10/90重量%の混合液1の脱水処理の破過時間は約10時間、透過液流束は約15.3kg/m
2hであった。またイソプロパノール/水が35/65重量%の混合液2の破過時間は約47時間、透過液流束は約11.1kg/m
2hであった。いずれもNaA型ゼオライト粒子に接触させなかったときと比べ、破過時間が約2.7倍も長くなりゼオライト膜の性能低下が抑制された。
【0041】
NaA型ゼオライト粒子の充填量が1.0gの前処理装置を通過させたとき、イソプロパノール/水が10/90重量%の混合液1の脱水処理の破過時間は約9.5時間、透過液流束は約16.2kg/m
2hであった。またイソプロパノール/水が35/65重量%の混合液2の破過時間は約75時間、透過液流束は約13.4kg/m
2hであった。いずれもNaA型ゼオライト粒子に接触させなかったときと比べ、破過時間が約3倍から4.4倍も長くなりゼオライト膜の性能低下が抑制された。
【0042】
実施例4
イソプロパノールの精製回収システムにおいて、イソプロパノール/水からなる被処理流体のNaA型ゼオライト膜からなる膜モジュールの上流側に、NaA型ゼオライト粒子を高さ1mに充填した前処理装置を配置し、約1年間、約8000時間運転した。被処理流体は、イソプロパノール/水の重量比が、およそ90/10重量%で、不純物としてシュウ酸を平均で約500ppm含有していた。この被処理流体を、蒸発器を使用して蒸発させ、蒸気状態で前処理装置に、線速0.8m/秒で供給し前処理を行った。
【0043】
被処理流体を約8000時間前処理した後、前処理装置の充填層の上部からの深さが0cm(最上部),20cm,40cm,60cm,80cmおよび100cm(最下部)の位置にあるNaA型ゼオライト粒子を採取した。採取したゼオライト粒子および未使用のNaA型ゼオライト粒子を70℃で24時間乾燥した後、粉砕し、蛍光X線元素分析装置(島津製作所社製EDX−720)による元素分析を行った。その結果を表4に示す。表中の値は、各成分の重量%を示す。
【0044】
【表4】
【0045】
未使用のNaA型ゼオライト粒子のNa量(Na
2O酸化物換算)は約17重量%であるのに対し、前処理に使用したNaA型ゼオライト粒子のNa量(Na
2O酸化物換算)は約11〜13重量%になり、最大で約35%も減少しゼオライト粒子の崩壊により流出したと考えられる。また、未使用のNaA型ゼオライト粒子のAl
2O
3成分が約37%、SiO
2成分が約45重量%であり、Al
2O
3/SiO
2比が0.84であった。これに対し、前処理に使用したNaA型ゼオライト粒子のAl
2O
3成分が約45〜46重量%、SiO
2成分が約42〜43重量%で、Al
2O
3/SiO
2比が1.07〜1.08であった。このようにAl
2O
3/SiO
2比が変化したことから、被処理流体との接触によりゼオライト粒子の構造が変化したということができる。すなわち、Naイオンがゼオライト骨格から取り除かれたことによりゼオライト骨格内の電荷バランスが崩れ少なくとも一部のゼオライトが崩壊したと考えられる。