(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るノズルの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るノズルを示す、(a)は点眼用容器全体の断面図、(b)は(a)に示すノズルの先端部分の拡大断面図である。
【0012】
[点眼用容器]
同図に示すように、本実施形態に係るノズルは、目薬の点眼用容器1の注出口となるノズル10を構成している。
具体的には、点眼用容器1は、内部に目薬となる液体を収容・貯留可能な容器本体2と、この容器本体2の上面(滴下使用時の底面)のほぼ中心から突出した、液体の注出手段となるノズル10を備えている。容器本体2とノズル10とは連通しており、容器本体2に貯留された目薬がノズル10の先端部の開口から、容器外部に注出・滴下されるようになっている。
【0013】
[ノズル]
ノズル10は、
図1に示すように、容器本体2とは別体に形成されており、容器本体2に形成されたノズル取付用の突出部分に挿入・嵌合されて容器本体2と一体となって、点眼用容器1を構成する。
具体的には、ノズル10は、例えば円筒形状や角筒形状に形成され、容器本体2の液体の貯留空間と連通するようになっている。そして、その筒状のノズル10の先端部の開口を介して、容器本体2の内部から液体が注出・滴下される。
そして、本実施形態に係るノズル10は、先端部表面が、ノズル中心側に位置する第一の表面11aと、第一の表面11aの外周側に連続する第二の表面12aとを備えており、第一の表面11aと第二の表面12aとが、表面自由エネルギーの異なる表面からなる、具体的には、第二の表面12aが第一の表面11aよりも高い撥液性を有する構成となっている。
【0014】
より具体的には、
図1に示す例では、ノズル10は、別体に形成された第一の滴下部11と第二の滴下部12とが組み合わされることによって構成されている。
図1(b)に示すように、まず、第二の滴下部12がノズル10の本体を構成しており、この第二の滴下部12の先端部の中心には、第一の滴下部11が挿入・嵌合される開口(貫通孔)が備えられている。そして、この第二の滴下部12の先端部表面が、第二の表面12aとなっている。
第一の滴下部11は、第二の滴下部12の第二の表面12の中心の貫通孔に挿入・嵌合される中空筒状部材からなり、この第一の滴下部11が、容器本体2に貯留された液体が通過・滴下できるノズル開口を構成している。そして、この第一の滴下部11の先端部表面が、第一の表面11aとなっている。
【0015】
このように、本実施形態では、第二の滴下部12と第一の滴下部11とが一体となってノズル10を構成している。
そして、これら第一の滴下部11と第二の滴下部12の各先端部の表面が、第一の表面11aと第二の表面12aを構成しており、第二の表面12aが第一の表面11aよりも高い撥液性を有することで、第一の表面11aと第二の表面12aとが異なる表面自由エネルギーを有する構成となっている。
第一の表面11aと第二の表面12aの表面自由エネルギーを異ならせる(撥液性の付与)については、
図2〜8を参照しつつ後述する。
【0016】
また、ノズル10を含む容器本体2には、後述するキャップ20が着脱可能に装着されるようになっている(
図10,11参照)。このようなキャップ20が備えられることによって、ノズル10が覆われ、容器本体2の内部が密閉されるとともに、ノズル10の先端部が保護されるようになっている。
具体的には、ノズル10が装着される容器本体2の突出部表面には、キャップ20の内面との間で互いに螺合する螺子構造が備えられ、容器本体2に対してキャップ20が螺合により着脱可能に装着され、キャップ20が装着された状態で容器本体2が密封されるようになっている。
また、本実施形態では、
図1に示すように、ノズル10の先端部を構成する第二の滴下部12の側面部12bが、先端部に向かって傾斜するテーパ形状に形成されており、この第二の滴下部12の側面部12bと、第一の滴下部11の先端(第一の表面11a)が、キャップ20の内面のライナー21に当接・押圧されて、容器本体2が密閉されるようになっている。
キャップ20の詳細については、
図10,11を参照して後述する。
【0017】
ここで、容器本体2及びノズル10(第一/第二の滴下部11,12)は、後述するキャップ20を含めて、所定のプラスチック材料により形成される。
容器本体2・ノズル10を形成するプラスチック材料としては、特に制限されず、公知の点眼用容器やプラスチックボトル等と同様、各種の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル樹脂で形成することができる。
特に、ノズル10については、後述するように、先端部の第二の表面12aに凹凸面からなる粗面100を形成することから(
図6〜9参照)、凹凸面100の形態安定性、強度等の観点から、非フッ素系樹脂であるポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂を採用することが好ましい。
【0018】
このようなプラスチック樹脂材料を用いて、射出成形等の公知の技術を用いて、容器本体2及びノズル10を形成することができる。
なお、容器本体2とノズル10とは別体(別部品)として形成されることから、容器本体2を非プラスチック材料、例えばガラスや金属によって形成することもできる。また、容器本体2とノズル10とを、ブローフィルシール成形法などの一体成形により一体的に構成することも可能である。
本実施形態のノズル10の成形方法については、
図13,14を参照しつつ後述する。
【0019】
そして、本実施形態に係るノズル10は、先端部表面を、ノズル中心側に位置する第一の表面11aと、第一の表面11aの外周側に連続する第二の表面12aとの2種類(2段階)の表面構成としており、第一の表面11aと第二の表面12aとが異なる表面自由エネルギーを有する、すなわち、第二の表面12aが第一の表面11aよりも高い撥液性を有するように構成してある。
ここで、撥液性としては、例えば対象となる液体(水など)を水平な搭載面に載せたときに、搭載面と液体表面の接線とのなす角度である「接触角」をθ
Eとした場合に、θ
E≧90°であれば、その搭載面は対象となる液体について撥液性が「高い」(低エネルギー表面)ということになり、θ
E<90°であれば、撥液性が「低い」(高エネルギー表面)ということになる。
【0020】
本実施形態では、このような撥液性の基準を用いて、ノズル10の先端部表面を構成する二つの表面、第一の表面11aと第二の表面12aについて、第一の表面11aを高エネルギー表面、第二の表面12aを低エネルギー表面として、第二の表面12aの撥液性が第一の表面11aよりも高くなるように、ノズル10を構成するようにしてある。
例えば、第一の表面11aは、対象となる液体に対してθ
E<90°となるように構成するとともに、第二の表面12aは、θ
E≧90°となるように構成することができる。
【0021】
より具体的には、本実施形態では、第一の表面11aについては、例えばバルクのプラスチック樹脂の(撥液性の低い)表面そのままによって構成するとともに、第二の表面12aについては、ノズル10の先端部の表面を表面処理、例えば所定の方法によりフッ素化処理や粗面化処理することにより(撥液性の高い)表面に構成することができる。
通常、何も表面処理されていないプラスチック樹脂の表面は、目薬など界面活性剤や油脂が含有した液体に対しては、上述した「接触角」はθ
E<90°となり、撥液性は「低い」(濡れ性の高い高エネルギー)表面となる。一方、樹脂の表面にフッ素化や粗面化などの表面処理を施すことにより、「接触角」がθ
E≧90°となる撥液性の「高い」(濡れ性の低い低エネルギー)表面に改質することができる。
これによって、ノズル10の先端部表面を構成する二つの表面のうち、第一の表面11aの撥液性を「低く」(表面自由エネルギーを高く)、第二の表面12aの撥液性を「高く」(表面自由エネルギーを低く)することができる。
【0022】
ここで、撥液性を「高く」(表面自由エネルギーを低く)する第二の表面12aについては、例えば非フッ素系樹脂よりなるプラスチック成形体で形成されるノズル10の先端部表面について、プラスチック成形体を構成する非フッ素系樹脂の分子鎖中に、フッ素原子が組み込まれるようにすることでフッ素化することができる。さらに、そのようにフッ素化されるノズル10の第二の表面12aは、必要に応じて表面を粗面化することができる。
このようにして、ノズル10の先端部の第二の表面12aをフッ素化・粗面化することにより、ノズル10の中心側の第一の表面11aよりも撥液性を高めることにより、容器本体2から液体(目薬)が注出される際に、液滴が第一の表面11aのみで形成されるように誘導することができ、注出された液体が第二の表面12a側まで広範囲に濡れ広がることを防止することができるようになる。
従って、ノズル10の開口の内径及び第一の表面11aの表面積や形状を調整・設定することで、ノズル10から注出される液体の滴下量を任意かつ少量に設定することが可能となる。
【0023】
図2は、撥液加工の有無によるノズルの液滴の状態を模式的に示す説明図であり、(a)は撥液加工のないノズルの場合、(b)は撥液加工のあるノズルの場合である。
まず、
図2(a)に示すように、ノズルの先端部の表面に撥液加工を施していない場合、例えばバルクのプラスチック樹脂の表面そのままの場合には、表面の撥液性が「低い」ために、ノズルから注出された液滴はノズル先端の表面に付着して広がり、ほぼ半球体状に広がってしまう。そして、ノズル先端に広がった液体は、相当量にならないとノズル表面から離脱せず、その結果、所望したよりも大量の液滴が滴下され、かつ、ノズルの内径を無視できるほど拡がった場合は、ノズルの内径によっては液滴量を制御することが困難となる。
【0024】
これに対して、
図2(b)に示すように、ノズルの先端部の表面に撥液加工を施した場合、例えばプラスチック樹脂の表面をフッ素化処理や粗面化処理した場合には、表面の撥液性が「高い」ために、ノズルから注出される液滴はノズル先端に濡れ拡がることなく、ほぼ球体状となる。そして、液滴とノズル先端の密着力より液滴の重量が上回ったタイミングで、液滴はノズル表面から離脱して転落・滴下されるようになる。液滴は濡れ拡がっていないので密着力は小さく、滴下する液滴は少量となる、また、ノズルの内径を所定の寸法に設定することで、所望の滴下量の液滴を注出・滴下させることができる。
【0025】
ただ、ノズル表面をフッ素化や粗面化により撥液性を高くした場合でも、注出される液滴の滴下量にばらつきが生じる場合がある。
図3は、先端部表面を撥液加工したノズルにおける滴下量のばらつきを模式的に示す説明図である。
まず、先端部表面を撥液加工したノズルから滴下される液滴は、正常な場合には
図3(a)に示すように、ノズル先端の開口の中心で球体状となり、液滴が一定重量に至った時点でノズル先端から離脱して落下・滴下されるようになる。
【0026】
ところが、撥液加工したノズル表面の撥液性に偏りがある場合には、ノズルから注出される液滴は、より撥液性の低い側に移動し、例えば
図3(b)に示すように、ノズル開口の中心から偏った状態となってしまう。このような状態では、正常な場合と比較して液滴が大きくなるため、滴下される滴下量も、本来の正常な場合よりも大きなものとなってしまう。
また、液体をノズルから注出させる際に、液体中に気泡が発生・混入する、所謂エアの噛み込みが発生する場合がある。このようなエアの噛み込みがあると、ノズルから注出される液滴は、例えば
図3(c)に示すように、液量の異なる複数の液滴に分離されてしまい、これら複数の液滴が個別に又は一体となって滴下されることで、本来の正常な場合とは異なる滴下量となってしまうことがある。
【0027】
これに対して、ノズルの先端部に撥液加工を施す場合に、さらに、
図3(d)に示すように、ノズル先端の開口の外周に、先端面よりも突出する突出部分(
図3(d)に示す周状突起部(バリ)13)が存在すると、上記のような滴下量のばらつきを防止することが可能となる。
すなわち、ノズルの開口外周に突出部分があることで、ノズルから注出された液滴はノズル先端には接触せずに、突出部分の先端部のみと接触した状態で球体状になる。このため、液滴はノズル先端の開口中心に形成・誘導されることになり、液滴がノズル先端面の偏った位置に注出されることが防止され、また、注出される液滴内に気泡等が存在することによって液滴が複数に分離して注出されることも防止できるようになる。このため、
図3(b),(c)に示したような液滴の偏りやばらつきがなく、より確実かつ安定して、所望の滴下量の液滴を注出・滴下させることが可能となる。
【0028】
本実施形態では、このような原理に基づいて、まず、容器本体20から液体を注出させるノズル10の先端部に所定の撥液加工・撥液構造を付与することにより、ノズル10の先端部表面の撥液性を高めるようにしてある。
その上で、ノズル表面の撥液性の偏りやエアの噛み込み等による滴下量のばらつきを排除する観点から、積極的に撥液性の偏りを作り出して、液滴が必ずノズル10の中心に形成されるように誘導するために、撥液加工されたノズル表面よりも撥液性の低い表面をノズル中心に設けるようにしたものである。
【0029】
すなわち、本実施形態に係るノズル10は、先端部表面が、ノズル中心側に位置する第一の表面11aと、第一の表面11aの外周側に連続する第二の表面12aとを備えており、第二の表面12aが第一の表面11aよりも高い撥液性を有するようにしてある。
より具体的には、本実施形態では、上述したように、ノズル10を第一の滴下部11と第二の滴下部12の二つの部材により構成して、第一の滴下部11の表面を第一の表面11a、第二の滴下部12の表面を第二の表面12aとし、第二の表面12aのみを、所定の撥水加工を施すことにより、第一の表面11aよりも高い撥液性を有するにしてある。
【0030】
このようにノズル10の撥液性を高める第二の表面12aと、液滴をノズル10の中心に誘導する第一の表面11aを備えることで、ノズル10の開口の内径や第一の表面11aの表面積や形状に応じて所望の滴下量(例えば10μl以下)の液体を、滴下量がばらつきを生じることなく、安定的に注出・滴下させることができるようにしてある。
また、そのように第一/第二の表面11a,12aを備えるノズル10は、後述するキャップ20によって保護されるようになっており、ノズル10の第二の表面12aの液滴加工・液滴造の破損・劣化等が生じないようになっている。
【0031】
[ノズル表面の構成]
以下、上記のような第一の表面11aと第二の表面12aからなる二段階の表面構造を備えるノズル10の具体的な表面構成について
図4,5を参照しつつ説明する。
図4及び
図5は、本発明に係るノズル先端部の第一/第二の表面の実施形態を模式的に示す説明図である。
本実施形態では、まず基本的な構成として、
図4(a)に示すように、筒状の第一の滴下部11と、その外周に配置される第二の滴下部12とを備える場合に、第一の滴下部11の先端(第一の表面11a)を、第二の滴下部12の先端(第二の表面12a)から突出させて構成することができる。
【0032】
このようにすると、ノズル10の開口外周に第一の滴下部11(第一の表面11a)が突出して存在し、かつ、第二の表面12aの方が第一の表面11aよりも撥水性が高いことから、ノズル10から注出された液滴は第二の滴下部12(第二の表面12a)には接触せずに、突出する第一の滴下部11の表面(第一の表面11a)のみに接触した状態となるように形成・誘導される。
これによって、第二の表面12aに撥液性のばらつきがあってもその影響を受けず、また、エアの噛み込みが生じた場合にも液滴が第二の表面12a側に分離・分散することもなく、液滴は必ずノズル10の開口中心に形成されるように誘導され、液滴の偏りやばらつきが生じることなく、確実かつ安定した注出・滴下を行わせることができる。
【0033】
また、以上のような基本構成に対して、例えば
図4(b)に示すように、第一の滴下部11(第一の表面11a)を構成する筒状部をより肉厚とすることができる。
このようにすると、撥液性の低い(濡れ性の高い)第一の表面11aの面積をより大きく(広く)することができ、より確実に、液滴をノズル中心に誘導することができるとともに、
図4(a)の場合と比較して、大きな液滴を形成することができる。
【0034】
また、この場合に、例えば
図4(c)に示すように、第一の滴下部11の、第二の滴下部12から突出している側面に、第二の表面12aと同様に、所定の撥液加工を施すこともできる。
このようにすると、液滴が突出している第一の滴下部11の側面からも撥液されることにより、
図4(b)の場合と比較して、さらに確実に液滴を第二の表面12aから撥液・離間させて、ノズル中心に誘導して形成することができる。
【0035】
また、第一の滴下部11は、
図4(d)に示すように、第二の滴下部12の先端(第二の表面12a)から突出させないように、第一の表面11aと第二の表面12aとがほぼ「面一」となるように構成することもできる。
この場合にも、第二の表面12aの高い撥液性(低エネルギー表面)と、第一の表面11aの高い濡れ性(高エネルギー表面)によって、液滴を第二の滴下部12(第二の表面12a)側に行かせずに、第一の滴下部11の表面部(第一の表面11a)のみに接触した状態に形成・誘導することができる。
また、この場合には、第一の滴下部11が突出していない分、液滴の球体が大きく広がることが抑制され、
図4(a)の場合と比較して、液量の少ない、より微小な液滴とすることができる。
【0036】
また、
図4(a)及び(b)では、第一の滴下部11の表面部(第一の表面11a)は、いずれも、ノズル中心線を含む断面における断面形状が矩形形状になっているが、これを例えば、
図4(e)に示すように、第一の滴下部11の先端をテーパ形状に先細り形状にすることによって、第一の表面11aを滴下方向に縮小するテーパ形状にすることができる。
このようにすると、第一の滴下部11の先端面で構成される第一の表面11aの面積を、
図4(a)及び(b)の場合と比較して小さくすることができ、第一の表面11aと液滴の密着力を減少させることで、形成される液滴をより小さな球体、より少ない液量で形成することができる。
【0037】
また、第一の滴下部11の先端面で構成される第一の表面11aの面積は、
図4(a)〜(e)に示す場合よりも、さらに大きく形成することもできる。
例えば、
図4(f)に示すように、第一の滴下部11の先端をラッパ状に広がるように形成して、第一の表面11aを滴下方向に拡大するテーパ形状にすることで、第一の表面11aをより大きく・広くすることもできる。
このようにすると、第一の滴下部11の先端面で構成される第一の表面11aの面積を、
図4(a)〜(e)の場合と比較してより大きくすることができ、第一の表面11aと液滴の密着力を増大させることで、より多い液量・より大きな球体の液滴を保持できるようになり、液量の多い、より大粒の液滴を形成することができる。
【0038】
また、以上のような第一/第二の表面11a,12aは、第一/第二の滴下部11,12という別体の2つのパーツによって構成される以外にも、例えば
図4(g)に示すように、第二の滴下部12の先端部に第二の表面12aとともに、ノズル中に突出する第一の表面11aを形成することもできる。
このような第二の滴下部12の先端開口から一体的に突出する第一の表面11aは、例えばドリル等によって第二の滴下部12に開口(貫通孔)を穿設する場合に自然に形成される「バリ」によって構成することができ、また、射出成形によって形成することもできる。
【0039】
なお、この場合には、第二の滴下部12の先端部に第一の表面11aを突出形成した後に、第一の表面11aを被覆等して保護した状態で、第二の滴下部12の先端部に後述するフッ素化・粗面化処理を施して、第二の表面12aを形成することができる。
このようにすることで、第一の表面11aを第二の滴下部12の先端部に突出形成する場合だけに限らず、
図4(d)に示した場合と同様に、第一の表面11aが第二の表面12aから突出しない形態についても、第二の滴下部12に第一/第二の表面12aを一体的に形成することで構成するこが可能となる。
このように、第一/第二の表面11a,12aを同一のパーツで一体的に構成できることにより、部品点数の減少や製造工程の簡略化等を図ることができる。
【0040】
さらに、第一の滴下部11と第二の滴下部12を別体のパーツで構成する場合に、第一の滴下部11は、
図4(a)〜(g)に示したような管状体・筒状体で構成される場合の他、例えば
図4(h)に示すように、繊維部材や不織布等の毛細管現象によって液体を滴下可能な手段を第一の滴下部11として構成することも可能である。
このように、本実施形態に係るノズル10を構成する第一の滴下部11は、容器本体2内の液体をノズル先端から所定量だけ滴下できる限り、特に筒状体や管状体に限定されるものではない。
【0041】
また、第一の滴下部11は、
図5(a)に示すように、第二の滴下部12の先端(第二の表面12a)から突出させないようにし、さらに、第一の表面11aが、第二の表面12aの内側にテーパ状に凹んだ「面取り」形状となるように構成することもできる。これは、例えば端部内面がテーパ状に面取り加工された第一の滴下部11を、第二の表面12aを形成した第二の滴下部12に挿入することで形成することができる。
このようにしても、ノズル10から注出された液滴は、第二の滴下部12(第二の表面12a)には接触せずに、テーパ状に凹んだ第一の滴下部11の表面(第一の表面11a)のみに接触した状態となり、液滴をノズル10の開口中心に誘導して確実かつ安定した注出・滴下を行わせることができる。
【0042】
さらに、このように第一の表面11aを、第二の表面12aの内側にテーパ状に凹む面取り形状にする場合には、
図5(b)に示すように、面取り形状の第一の表面11aを、第二の滴下部12の先端部に第二の表面12aと一体的に形成することができる。
このようにすると、第二の滴下部12のみで、第一/第二の表面11a,12aを構成でき、部品点数の減少や製造工程の簡略化等を図ることができる。特に、第一の滴下部11の挿入工程や、第一/第二の表面11a,12aの位置合わせ作業も不要となり、予め第二の表面12aを形成した第二の滴下部12に対して、開口の端部内面をテーパ状に面取り加工するだけで第一の表面11aを形成できるので、作業工程を大幅に簡略化・容易化することができる。
【0043】
[撥液構造の動作原理]
次に、以上のような本実施形態に係るノズル10の先端部の第二の表面12aに備えられるフッ素化・粗面化による撥液構造と、その動作原理について、
図6〜7を参照しつつ説明する。
なお、以下に示すように、ノズル10の第二の表面12aは、フッ素化され、かつ、その表面が粗面化されることが、撥液性を向上させることから好ましい。
但し、ノズル10の第二の表面12aは、少なくともフッ素化されていれば、非フッ素系樹脂からなるノズル10に撥液性能を付与することができる。また、後述するように、先端部表面をフッ素化するためのプラズマ処理(
図15参照)は、非常にアタック性の強いもので、プラズマ処理によってノズル10の先端部の表面には微細な凹凸が形成されて粗面化される。
従って、本実施形態に係るノズル10の第二の表面12aは、少なくともフッ素化されていればよく、必要に応じて、さらに第二の表面12aを粗面化するものであれば良い。
【0044】
ここで、液体に対する撥液性を向上させるには、一般に、プラスチックとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの含フッ素樹脂を用いることが考えられる。しかしながら、PTFEの水に対する接触角は高々115°程度であり、アルコール、油など表面張力の小さい物質が含有された液体に対しては、撥液性を示すことはない。また、含フッ素樹脂は非常に高価であり、しかも成形が困難であるため、その用途等が非常に限定されてしまうという問題がある。
このため、ポリオレフィンやポリエステルなどのフッ素を含んでいない非フッ素系樹脂を用いて形成されているプラスチック成形体について、撥液性を向上させることが課題となる。
【0045】
また、液体の撥液性を高めるための手段としては、ノズル等の表面に撥液性の被膜を設けるという手段や、凹凸を形成するという手段が考えられる。
例えば、表面に母材とは別の撥液性の薄膜(例えばフッ素やケイ素などを含む化合物もしくは樹脂を含有する膜)を設けることにより、撥液性の向上を図ることができる。しかしながら、このような方法では、母材との密着性が不十分になり易く、繰り返し滴下を行った場合、撥液性の薄膜等が剥離・脱落してしまい、撥液性が失われるだけでなく、内溶液にコンタミするリスク等がある。
【0046】
これに対して、ノズル等の表面に凹凸を設けるという手段は、表面形状により物理的に撥液性を付与するというものであり、上記のような薄膜等による問題は発生しない。
すなわち、ノズル等の表面に形成された凹凸面上を液が流れるときには、凹部にエアポケットが形成され、凹凸面と液体との接触状態が固液接触及び気液接触からなる混合接触状態となり、しかも、気体(空気)は最も疎水性の高い物質である。このため、凹凸の粗密を適宜設定することにより、著しく高い撥液性を発現させることができる。
但し、凹凸面状に液体が繰り返し流れた場合に、次第に凹部に液が溜まっていき、エアポケットの機能が徐々に失われていき、撥液性が次第に低下していくことに考慮する必要がある。
【0047】
そこで、本実施形態では、まず、ノズル10の先端部の第二の表面12a(第二の滴下部12)を構成するプラスチック成形体の非フッ素系樹脂の分子鎖中に、フッ素原子が組み込まれるようにする。
また、そのようにフッ素化されたノズル10の先端部の第二の表面12aを、さらに凹凸部が形成されるように粗面化するようにしてある。
その上で、粗面化されたノズル表面の中心に、第二の表面12aよりも撥液性の低い第一の表面11aを配設するようにし、具体的には、撥水加工された第二の滴下部12の中心開口に、撥水加工等のされていない管状・筒状の第一の滴下部11を挿入・嵌合させるようにしてある。
【0048】
図6に、本実施形態に係るノズル10を構成するプラスチック成形体(第二の滴下部12)において、先端部の表面(第二の表面12a)に形成される粗面の形態を示す。
同図において、先端部の表面は、非フッ素系の樹脂から形成されているが、この表面には、微細な凹凸からなる粗面100が形成されるようになっている(
図6において、粗面100中の凸部の頂部はSで示されている)。
そして、この粗面100を形成する非フッ素系樹脂の分子鎖中には、後加工によりフッ素原子が組み込まれるようになっている。例えば、非フッ素系樹脂の分子鎖を−(CH
2)n−で表すと、この分子鎖の一部にはフッ素原子が組み込まれ、例えば−CHF−或いは−CF
2−などの含フッ素部分が生成されている。このようなフッ素原子を組み込むための後加工は、後述するフッ素プラズマエッチングにより行うことができる(
図15参照)。
【0049】
上記のような粗面100での液の撥液性について、
図7を参照して説明する。
図7(a)に示すように、上記のような粗面100での液滴の接触パターンは、液滴が粗面100上に載ったCassieモードでは、粗面100中の凹部がエアポケットとなっており、液滴は固体と気体(空気)との複合接触の状態となる。このような複合接触では、液滴の接触界面での接触半径Rは小さく、液滴と粗面の密着力は低く、疎液性が最も高い空気に液体が接触するため、高い撥液性が発現する。このようなCassieモードでの粗面100の接触角は、以下の理論式(1)に示す通りである。
cosθ
*=(1−φ
S)cosπ+φ
Scosθ
E
=φ
S−1+φ
Scosθ
E (1)
θ
E:接触角
θ
*:見かけの接触角
φ
S:面積比(単位面積当たりの固−液界面の投影面積)
この理論式(1)から理解されるように、φ
Sが小さいほど、見かけの接触角θ
*は180度に近づき、超撥液性を示すようになる。
【0050】
一方、液滴が粗面100中の凹部に侵入した場合には、液滴は上記のような複合接触ではなく、固体のみとの接触となり、Wenzelモードで示される。このようなWenzelモードでは、液滴の接触界面での接触半径Rは大きく、液滴と粗面の密着力は高い。その凹凸表面の接触角は、以下の理論式(2)に示す通りである。
cosθ
*=rcosθ
E (2)
θ
E:接触角
θ
*:見かけの接触角
r:凹凸度(=実接触面積/液滴の投影面積)
この理論式(2)から理解されるように、rが大きいほど、見かけの接触角θ
*は180度に近づき、超撥液性を示すようになる。
【0051】
ここで、撥液性については、上記の通り、WenzelモードとCassieモードのいずれの状態においても撥液性が向上することが知られているが、粗面100と液滴との密着力を低減させ、少量の液滴を滴下させるには、Wenzelモードではなく、Cassieモードを安定的に維持すること、すなわち、凹部のエアポケットを安定に維持することが必要であると考えられる。
すなわち、Wenzelモードでは、液相と固相の界面が大きく、その結果、界面に働く物理的な吸着力も大きくなるため、接触角は大きく撥液はしているが、液滴が容易に滴下・転落することはない。
これに対して、Cassieモードでは、界面が小さいため、液滴が滴下する際乗り越えなければならない密着力が低く、容易に滴下・転落し、何度でも繰り返し滴下すると考えられる。
【0052】
そこで、本実施形態においては、上記のCassieモードでの液滴の接触を有効に維持するために、ノズル10の先端部の粗面100を形成している非フッ素系樹脂の分子鎖中にフッ素原子を組み込むことにより、化学的に撥液性を付与するようにしている。
すなわち、粗面100中の凹部に液体が侵入してしまうと、液滴の接触パターンはWenzelモードとなってしまい、この結果、Cassieモードによる超撥液性は損なわれてしまうが、本実施形態では、粗面100を形成する非フッ素系樹脂の分子鎖中にフッ素原子を組み込むことにより、粗面100に対して化学的に撥液性を付与することができ、これによって凹部内への液体の侵入が有効に抑制され、Cassieモードによる超撥液性が安定に維持されることとなる。
【0053】
特に、本実施形態では、粗面100の少なくとも一部分、例えば、凸部の頂部や凹部の底部において、この面を形成する非フッ素系樹脂の分子鎖中に、化学的撥液性を発現させるためのフッ素原子が組み込まれるようになっている。このため、この粗面100に液が繰り返し接触した場合にも、このフッ素原子が取り除かれることはなく、化学的撥液性が安定して維持され、結果として、Cassieモードによる超撥液性が低下することなく、初期段階と同様に高いレベルに維持されるようになる。
さらに、フッ素原子を含む膜を形成するのではなく、表面の非フッ素系樹脂の分子鎖中にフッ素原子を組み込んでいるため、フッ素膜の剥離や脱落などの問題も一切生じない。
【0054】
ここで、上記のような粗面100の凹凸の程度は、Cassieモードによる撥液性が十分に発揮されるように、粗面100中の単位面積当たりの凸部頂部Sの面積で表される面積比φsが0.05以上、好ましくは0.08以上の範囲にあることが好ましい。
さらに、成形性や機械的強度の観点から、面積比Φは0.8以下、特に0.5以下の範囲にあることが好ましい。
また、粗面100における深さdは、5〜200μm、特に10〜50μmの範囲にあることが好適である。
【0055】
また、粗面100としては、
図8のような凹凸構造をとることもできる。
すなわち、表面張力がγであり、初期の接触角がθである液滴は、以下の式(3)に示すように、凹凸先端角αと凹凸の1/2ピッチR
0で表されるラプラス圧(Δp)によって支えられて、エアポケットを形成する。つまり、凹凸先端角αが小さくなり、1/2ピッチR
0が小さくなり、凹凸構造が剣山状になると、ラプラス圧が大きくなるので、液滴は凹凸に侵入し難くなり、撥液性が発揮される。
従って、
図8より、凹凸構造の振幅を表す算術平均粗さRaが大きく、1/2ピッチR
0に対応する平均長さRSmが小さい方が、ラプラス圧が大きく撥液性が発揮されるので、Ra/RSmが50×10
−3以上であることが好ましい。特に、200×10
−3以上であることが好ましい。
Δp=−γcos(θ−α)/(R
0+hcosα) (3)
【0056】
また、本実施形態において、上記のような微細な凹凸からなる粗面100の形成は、一般に、金属製のスタンパを用いての転写法により容易に形成することができる。例えば、レジスト法等により上述した微細な凹凸に対応する粗面部を有するスタンパを適宜の温度に加熱し、これをプラスチック成形体の表面の所定部分に押し当てて粗面部を転写することにより、上記のような粗面100をプラスチック成形体からなるノズル10の先端部の表面に形成することができる。従って、スタンパの凹凸面は、凹凸が逆転した状態でノズル10の先端部の表面に形成されることとなる。
また、このようなスタンパによる粗面化処理により、同時に、ノズル10の先端部の外縁に後述する肉溜まり部15を同時に形成することができる(
図16〜19参照)。
なお、本実施形態において、ノズル10の先端部に形成される粗面は、
図6や
図8に示した粗面100の凹凸形状に限定されないが、エアポケットを安定に形成するという観点からは、
図6に示したような凸部及び凹部が矩形状に形成されていることが好ましい。例えば、凹部がV字形状のような形態となっていると、液滴が凹部内に入り込みやすくなるからである。
【0057】
また、ノズル10の表面を形成する非フッ素系樹脂の分子鎖中への組み込みは、フッ素プラズマを用いたエッチングにより行うことができる。
ここで、フッ素プラズマエッチングは、公知の方法を用いて行うことができる(後述する
図15参照)。例えば、CF
4ガスやSiF
4ガスなどを使用し、粗面100を形成するプラスチック成形体の表面を、一対の電極間に配置し、高周波電界を印加することにより、フッ素原子のプラズマ(原子状フッ素)を生成させ、これを粗面100を形成する部分に衝突させることによって、フッ素原子は表面(粗面100)を形成している非フッ素樹脂の分子鎖中に組み込まれる。すなわち、表面の樹脂が気化乃至分解し、同時に、フッ素原子が組み込まれることとなる。
従って、フッ素原子が組み込まれている領域には、エッチングにより、超微細な凹凸が形成されることとなる。この超微細な凹凸での算術平均粗さRaは、一般に、100nm以下であり、Ra/RSm≧5×10
−3である。
【0058】
また、印加する高周波電圧やエッチング時間等の条件は、粗面100の粗度(面積比φs)に応じて適宜の範囲に設定することができる。
例えば、滴下耐久試験において、液滴(目薬)を100回繰り返し滴下しノズル先端を汚染させた後に滴下量を測定した場合において、滴下量≦10μLの性能が示されるようなものとすればよく、このような条件を、予めのラボ試験等によって設定しておけばよい。
粗面100の粗度によっても異なるが、一般に、単位面積当たりのフッ素原子とカーボンとの元素比(F/C)が40%以上、特に50〜300%の範囲にあるとき、表面強度を損なわずに、上記のような安定した超撥液性を確保することができる。元素比は、X線光電子分光装置を用い、表面の元素組成を分析することにより算出することができる。
【0059】
また、本実施形態において、ノズル10の先端部に形成する粗面100としては、上述した
図6や
図8に示されている形態に限定されず、例えば
図9に示すような、フラクタル的な階層構造により粗面100を形成することもできる。
具体的には、
図9に示すように、相対的に大きな凸部160aと凹部160bとから形成されている一次凹凸160の上に、微細な二次凹凸を形成することができる。このようにすると、二次凹凸上に液滴170が載った状態となるため、液滴170と二次凹凸との間にもエアポケット(二次エアポケット)が形成される。そして、液滴170と二次凹凸との間の二次エアポケットが、一次凹凸160の凹部160b内への液滴170の侵入を阻止し、一次凹凸160と液滴170との間に形成されるエアポケットの消失を一層効果的に防止することができるようになる。これによって、Cassieモードでの状態がより安定に保持されることとなり、撥液性をより安定に維持することができる。
【0060】
なお、上記のような階層構造を有する粗面100において、一次凹凸160の表面部分にある二次凹凸は、この二次凹凸上の液滴が一次凹凸160の凹部160b内への侵入を阻止するような二次エアポケットが形成される大きさの表面粗さを有していればよく、例えば、算術平均粗さと平均長さの比、Ra/RSmが50×10
−3以上であることが好ましく、特に、200×10
−3以上であることが好ましい。
また、一次凹凸160としては、
図6に示した形態の粗面100と同様の面積比Φや凹凸の深さdを有していればよく、これにより、Cassieモードによる撥液性が十分に発揮される。
【0061】
また、二次凹凸は、一次凹凸160の凹部160b内への液滴170の侵入をより効果的に防止するという点では、一次凹凸160の表面全体に形成されていることが最適であるが、少なくとも一次凹凸160の凸部160aの上端に形成されていてもよい。
なお、上記のような階層構造を有する粗面100は、一次凹凸を形成用スタンパの凹凸面に、例えばブラスト処理,エッチング処理等によって微細な二次凹凸面を形成しておき、かかるスタンパを用いての転写により形成することができる。
【0062】
また、本実施形態においては、上記のように二次凹凸が形成されている一次凹凸160上の少なくとも一部分、特に一次凹凸160の凸部160aの頂部となる部分や凹部160bの底部となる部分には、フッ素プラズマエッチングにより、表面を形成している非フッ素系樹脂の分子鎖中にフッ素原子が組み込まれることとなるが、かかる領域には、フッ素原子が組み込まれる際のエッチングにより、二次凹凸がさらに微細化された三次凹凸が形成されることとなる。かかる三次凹凸の算術平均粗さRaは、一般に、先に述べたエッチングにより形成される超微細な凹凸と同様、100nm以下であり、Ra/RSm≧5×10
−3である。
【0063】
また、本実施形態に係るノズル10は、非フッ素系樹脂を用いて形成されるが、このような非フッ素系樹脂、すなわち、フッ素を含有していない樹脂としては、上述した凹凸からなる粗面100を形成でき、かつ、フッ素プラズマエッチングによりフッ素原子の分子鎖中への組み込みが可能である限り、任意の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などを挙げることができ、ノズル10の成形条件等に応じて、適宜の樹脂を選択すればよく、多層構造とすることも可能である。
一般に、液体容器の分野では、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンもしくはプロピレンと他のオレフィンとの共重合体などに代表されるオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルが表面形成用の樹脂として代表的である。
【0064】
そして、以上のような本実施形態に係るノズル10は、粗面100が有する長寿命でかつ優れた撥液性を活かして、種々の容器のノズル・注出手段として適用することができるが、特に液の転落性や液切れ性が良好となり、液だれやノズル天面への液残りも抑制されるため、目薬の点眼用容器1のように、各種薬液を収容する容器・包装体のノズルとして効果的に使用することができる。
【0065】
[キャップ]
以上のように撥液加工されるノズル10を含む容器本体2には、着脱可能にキャップ20が装着されるようになっており、キャップ20によって、ノズル10が覆われ、容器本体2の内部が密閉されるとともに、ノズル10の先端部が保護されるようになっている。
図10は、本実施形態に係るノズル10を覆うキャップ20を示す図であり、(a)はキャップを装着した点眼用容器の要部断面図、(b)は(a)に示すキャップのノズル先端部分の拡大断面図である。
また、
図11は、本実施形態に係るキャップ20の他の形態を示す図であり、(a)はキャップを取り外した点眼用容器の要部断面図、(b)はキャップを装着した点眼用容器の要部断面図、(c)は(b)に示すキャップのノズル先端部分の拡大断面図である。
さらに、
図12も、本実施形態に係るキャップ20の他の形態を示す図であり、(a)はキャップを装着した点眼用容器の要部断面図、(b)は(a)に示すキャップのノズル先端部分の拡大断面図である。
【0066】
これらの図に示すように、キャップ20は、ノズル10を含む容器本体2の突出部分を覆うように装着可能な有底筒状体によって構成されており、筒状体の内部底面には、ノズル10の第一の滴下部11の先端面(第一の表面11a)と、第二の滴下部12の側面部に当接する密封用のライナー21が設けられている。このライナー21がノズル10の第一の滴下部11の先端面と第二の滴下部12の側面部12bに当接・圧接されることで、ノズル10及び容器本体2が外部から遮蔽・密閉され、容器本体2内に貯留された液体(目薬)が漏れ出すことが防止される。
また、キャップ20の内部側面には、ノズル10が装着される容器本体2の突出部表面と互いに螺合する螺子構造が備えられる。これによって、キャップ20は、容器本体2に螺合により着脱可能に装着され、キャップ20が装着された状態ではノズル10の第一の滴下部11の先端面と第二の滴下部12の側面部12bにライナー21が密着して、容器内が密封されることになる。
【0067】
ここで、キャップ20は、容器本体2・ノズル10と同様にプラスチック材料により形成される。キャップ20を形成するプラスチック材料としては、特に限定されず、上述した容器本体2・ノズル10と同様に、各種の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル樹脂で形成することができる。
また、キャップ20の内面に設けられるライナー21は、公知の弾性材料、例えばエチレン−プロピレン共重合体エラストマーやスチレン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマーによって形成することができる。
さらに、キャップ20は、プラスチック材料以外にも、例えばガラスや金属製のキャップとすることもできる。また、キャップ20はヒンジ等を介して容器本体2と一体成形されていてもよい。
【0068】
そして、本実施形態に係るキャップ20は、ノズル10の第二の滴下部の先端面(第二の表面12a)には接することなく、ノズル10を含む容器本体2の突出部分を覆うように構成されている。
これによって、上述の通りフッ素化・粗面化が施されるノズル10の第二の表面12aにキャップ20が接触することなく、ノズル10をキャップ20で保護することができ、ノズル10の第二の表面12aの撥液性能・撥液構造が損なわれることがないようになっている。
【0069】
具体的には、本実施形態にノズル10は、
図1に示したように、第二の滴下部12は、先端部の第二の表面12aに連続する側面部12bが、先端部に向かって先細りになるように傾斜するテーパ形状に形成されている。
そして、キャップ20の内面に備えられるライナー21は、
図10,11に示すように、ノズル10の側面部12bのテーパ形状に対応したすり鉢形状に形成されている。このような構成により、キャップ20は、ライナー21がノズル10の側面部12bに当接し、かつ、先端部にはキャップ20のいずれの部分も接触しないようになる。
これによって、キャップ20は、ライナー21がノズル10の側面部12bに当接・押圧されて容器本体2を密閉でき、かつ、ノズル10の先端部の撥液構造自体は、いずれの部分にも接触せずに保護されるようになる。
【0070】
ここで、
図10に示すキャップ20では、容器本体2に装着されてノズル10の第一の滴下部11の先端面(第一の表面11a)にライナー21が当接した状態で、ノズル10の開口(第一の滴下部11)は容器本体2と連通したままの状態で封止・密封される。この状態では、ライナー21によって開口は密閉されており、開口から液体がキャップ20の外部に漏れ出すことはない。
但し、この場合には、開口の内径を小さくすると圧力損失が増大するため、内容液の自重による吐出圧力程度では、開口からキャップ20のライナー21の内側面に液体が滲み出すことは起こり得ないが、何らかの外力により容器1が潰され、内圧が高まった際に、内容液が滲み出すことは起こり得る。
その場合、ノズル10の先端部に滲出した液体が第一/第二の表面11a,12aに付着する可能性があり得るため、その場合、本来の滴下動作を行う際に、付着した液体が影響を及ぼすことが考えられる。
【0071】
そこで、そのようなノズル開口からの液体の滲出を防止するように、キャップ20を構成することができる。
例えば、
図11に示すように、キャップ20内面に配設されるライナー21が、ノズル10の先端部から連続する第二の滴下部12の側面部12bを押圧することにより、ノズル10の開口の先端を閉鎖するように構成することができる。
【0072】
具体的には、
図11に示すキャップ20では、ノズル10の第二の滴下部12の側面部12bに当接するライナー21が、第二の滴下部12の側面部12bの先細りテーパ形状よりもきつい傾斜のすり鉢形状に形成されており、ライナー21に当接した第二の滴下部12の側面部12bが、ノズル中心に向かって押圧されるようになっている。これによって、ノズル10は、プラスチック成形体が有する弾性により、ノズル中に向かって撓んで、開口(第一の滴下部11)が閉鎖・閉塞されるようになる。
これによって、キャップ20が装着された状態では、ノズル10の開口が閉じられた状態となり、開口から容器本体2内の液体が滲み出すことがなくなり、上述したような問題が解消されることになる。なお、キャップ20はヒンジ等を介して容器本体2と離脱しないように係合・連結されていてもよい。
【0073】
また、
図12に示すキャップ20は、上述した
図5(a),(b)に示した第一の表面11aを、第二の表面12aの内側にテーパ状に凹む面取り形状に構成したノズル10に対して、テーパ状の面取り凹部に当接・嵌合するニードルバルブ22を備え、これによって、ノズル10の開口を閉鎖するようにしている。
このような構成によっても、ノズル10の撥液処理された先端部表面に触れることなく、テーパ状の面取り凹部に嵌合するニードルバルブ22によって、容器本体2を確実に密封・閉鎖することができる。
【0074】
[ノズルの製造方法]
次に、上記のように先端部の第二の表面12aがフッ素化・粗面化される本実施形態に係るノズル10の製造方法について、
図13,14を参照しつつ説明する。
図13は、本実施形態に係るノズル10の製造方法を模式的に示す説明図であり、(a)は一般的な射出成形を用いる場合、(b)は射出圧縮成形又はヒート&クール式射出成形を用いる場合を示している。
図14は、
図13(a)に示す製造方法において、第一の滴下部11を用いずに第二の滴下部12の先端部開口に面取り形状の第一の表面11aを形成する場合を示している。
また、
図15は、本実施形態に係るノズル10の先端部に粗面を形成するためのフッ素プラズマエッチング処理の方法を模式的に示している。
【0075】
本実施形態に係るノズル10は、ノズル本体10を構成すると第二の滴下部12と、第二の滴下部12の先端に挿入・嵌合される第一の滴下部11とが別体に構成されているので、両者はそれぞれ別々に製造される。
図13(a)に示すように、ノズル本体を構成する第二の滴下部12は、例えば射出成形を用いて、まず先端部表面がフッ素化・粗面化されていない第二の滴下部12を形成することができる。
この場合
図13(a)の(1)に示すように、射出成形用の金型を用いて、溶融した所定のプラスチック樹脂を充填・固化・脱型・取出することにより、第二の滴下部12を形成することができる。
【0076】
ここで、金型の寸法や形状に応じて、ノズル10を所定の形状・寸法に形成することができ、ノズル10の最終的な開口となる第一の滴下部11が挿入・嵌合可能な内径、具体的には第一の滴下部11の外径とほぼ同じかやや大きな寸法に形成することができる。
また、特に図示していないが、第一の滴下部11についても、第二の滴下部12の製造と同様に、例えば射出成形を用いて所定の形状・寸法で製造される。
第一の滴下部11の開口(内径)は、ノズル10の最終的な開口となるため、金型の寸法・形状に応じて、所望の大きさの内径、例えば0.5mm以下(0.1mm,0.2mm,0.4mm等)に形成することができる。
【0077】
その後、
図13(a)の(2)に示すように、第二の滴下部12の先端部表面に、所定のスタンパを押し当てて所定の凹凸を形成して、撥液性の高い第二の表面12a(低エネルギー表面)を形成することができる。
さらに、
図13(a)の(3)に示すように、この第二の表面12aに対して、フッ素プラズマエッチングを行う。
ここで、
図13(a)の(3)に示すフッ素プラズマエッチングは、例えば
図15に示すように、第二の滴下部12の先端部近傍に一方の電極200を固定し、先端部の表面(第二の表面12a)が間に位置するように他方の電極201を対向させ、この電極間に含フッ素ガスを流しながら、高周波電界を印加することにより行うことができる。
【0078】
以上により、上述した
図6〜9で示したような粗面100を形成することができ、ノズル10の本体となる第二の滴下部12の先端部(第二の表面12a)をフッ素化・粗面化することができる。
その後は、
図13(a)の(4)に示すように、フッ素化・粗面化された第二の滴下部12の先端部中心の貫通孔に、別工程で製造された第一の滴下部11を挿入・嵌合させることができる。
これによりノズル10が完成する。
【0079】
また、
図13(a)に示すような一般的な射出成形ではなく、特殊な射出圧縮成形又はヒート&クール式射出成形を用いることにより、先端部表面に所定の凹凸を備えた第二の滴下部12を一体成形によって形成することができる。
特殊な射出圧縮成形又はヒート&クール式射出成形技術を用いることで、成形品の所望の部分に微細な凹凸加工・粗面加工を成形工程で施すことが可能となり、
図13(b)の(1)に示すように、第二の滴下部12の成形工程と、先端部の表面の粗面化工程(第二の表面12aの形成工程)とを、一つの工程として処理することができ、一工程を省くことが可能となる。すなわち、
図13(b)の(2)に示すように、
図13(a)の(2)で示したスタンパ等を用いた凹凸加工・粗面化工程を省略することができる。
その後は、
図13(b)の(3),(4)に示すように、ノズル10に先端部の表面に対してフッ素プラズマエッチングによりフッ素化・粗面化処理を行うとともに(
図15参照)、別工程で製造された第一の滴下部11を第二の滴下部12に挿入・嵌合させることで、ノズル10が完成する。
【0080】
また、
図14に示すように、第一の滴下部11を用いずに第二の滴下部12の先端部開口に面取り形状の第一の表面11aを形成する場合には、
図14の(1)に示すように、面取り形状の凹部の外径に対応した射出成形用の金型を用いることにより、開口端部にテーパ状の凹部を備えた第二の滴下部12を形成することができる(
図14の(2)参照)。
その後は、
図14の(3),(4)に示すように、スタンパ等を用いた凹凸加工・粗面化工程、フッ素プラズマエッチングによるフッ素化・粗面化処理を行い、ノズル10が完成する。
なお、粗面化・フッ素化の処理に際しては、金型成形されたテーパ状の面取り凹部はマスキングすることで、粗面化・フッ素化されないようする。また、先にノズル10の先端部の粗面化・フッ素化の処理を行って第二の表面12aを形成した後に、第二の表面12aの開口内面を面取り加工することでテーパ形状の第一の表面11aを形成することもできる。この場合には、上述したマスキング処理は不要となる。
【0081】
[肉溜まり部]
以上のように先端部が撥液加工されたノズル10に対しては、さらに、肉溜まり部15を設けることができる。
図16は、本実施形態に係るノズル10の先端部の外縁に肉溜まり部15を設ける場合のノズルの部分断面図であり、(a)は肉溜まり部15の形状がノズル先端部の天面に対してオーバーハングしている場合を、(b)は肉溜まり部15の形状がノズル先端部の天面に対してスラントしている場合を、(c)は肉溜まり部15を設けていないノズルを、それぞれ示している。
【0082】
図16(a),(b)に示すように、肉溜まり部15とは、ノズル10の先端部の外周縁から外側に突出する突出部である。このような肉溜まり部15を備えることにより、先端部の外周縁側に回った液体の液切れ性、すなわち、ノズル10の外縁から落下する液滴とノズル10側に残る液体との分離性を向上させることができる。これによって、ノズル10の先端部に連続する側面側に液体がたれ落ちることがなくなり、先端部の高い撥液性能と相俟って、ノズル10の開口から注出された液滴の液だれの発生を抑制乃至防止することができるようになる。
【0083】
以下、肉溜まり部15の液切れ性能のメカニズムについて、
図17,18を参照しつつ説明する。
図17は、ノズル10の先端部の外縁にスラント形状の肉溜まり部15を設けた場合の液切れ性能を説明するためのノズルの要部断面図であり、
図18は、ノズル10の先端部の外縁にオーバーハング形状の肉溜まり部15を設けた場合の液切れ性能を説明するためのノズルの要部断面図である。
【0084】
これらの図に示す肉溜まり部15は、ノズル10の先端部(天面)が、例えば熱プレスされることにより、先端部の表層の樹脂が溶融し、溶融した樹脂の一部が当該先端部の外周縁から径方向外方に押し出されて、そのまま固化することで形成される。
また、肉溜まり部15の形状は、例えば、
図17に示すように、先端が鋭角状に突出した形状(スラント形状)としたり、
図18に示すように、先端が液滴状に突出した形状(オーバーハング形状)としたりすることができる。
このような肉溜まり部15を備えることで、開口から注ぎ出された内容液のノズル10の外縁における液切れ性を良くして、内容液がノズル10の外縁から側面側に液だれするのを有効に抑止することができる。以下、そのメカニズムを説明する。
【0085】
[スラントモード]
まず、
図17に示すように、肉溜まり部15をノズル10の天面(先端部の表面)とほぼ面一に鋭角に突出させる場合(スラントモード)、接触角θ
Eで進行してきた液体が先端部の外縁(エッジ部)に達すると(
図17(a)参照)、液体の進行面(先端部の天面)とエッジ部の外側の面とのなす角をαとしたときに、前進角(エッジ部の臨界接触角)θ
*が、θ
*=θ
E+(π−α)となるまで、液体はエッジ部に留まるようになる(
図17(b)参照)。
これは液体の表面張力と接触角との関係において、ピニング効果として知られている現象であるが、
図17に示すように先端が鋭角(α<90°)に突出するように肉溜まり部15を形成すると(スラントモード)、ピニング効果によって前進角が大きくなり、表面張力によって内容液が肉溜まり部15に留まり易くなる。
【0086】
これにより、ノズル先端部の外縁側に回った液体の液切れ性、すなわち、ノズル10の外縁から落下する液滴とノズル10の天面側に残る液体との分離性を向上させることができ、その結果、ノズル10から注出された液体がノズル側面側に液だれするのを抑止することができる。
なお、
図17に示す例では、肉溜まり部15の上面は、ノズル10の天面(先端部の表面)と面一になっているが、先端が鋭角状に突出した形状となるように肉溜り部15を形成する場合、特に図示しないが、肉溜まり部15の上面がノズル10の天面に対して直線状又は曲線状に傾斜(スラント)するように形成してもよい。
【0087】
[オーバーハングモード]
次に、
図18に示すように、肉溜まり部15の先端を液滴状に突出した形状として、内容液の進行面が円弧状に下向きに湾曲(オーバーハング)するようにした場合には(オーバーハングモード)、肉溜まり部15の最下点を越えて根本側に回り込んだ内容液は、表面張力によって臨界接触角θ
Eで肉溜まり部15に留まる。
このとき、その端点における肉溜まり部15との接線Lとノズル10の天面(先端部)とのなす角をαとしたときに、前進角(エッジ部の臨界接触角)θ
*は、θ
*=θ
E+(2π−α)となり、エッジ部における見かけ上の大きな表面張力に支えられて、内容液がたれ落ちなくなる。
【0088】
そして、内容液がたれ落ちるときには、表面張力で支えられなくなった大きな液滴が分離・落下することになり、液体はノズル10の側面側にたれ流れることなく、ノズル10の外縁から分離されて落下することになる。
従って、このオーバーハングモードの場合にも、先端部の外縁側に回った液体の液切れ性、すなわち、ノズル10の外縁から落下する液滴とノズル10の天面側に残る液体との分離性を向上させることができ、ノズル10から注出された液体がノズル側面側に液だれするのを抑止することができるようになる。
【0089】
このように、本実施形態にあっては、射出成形などによって所定形状に成形されるノズル10に、熱プレス等によって肉溜まり部15を形成することができ、ピニング効果によって説明される液体の表面張力を見かけ上増大させることで、容器から注出された内容液の残液を肉溜まり部15に留まり易くして、液切れ性を向上させることが可能になる。
その結果、ノズル10の先端部の外縁側に回った液体の液切れ性を向上させることができ、フッ素化・粗面化された先端部の高い撥液性能(液滴の転落性)と相俟って、ノズル10から注出された液体がノズル側面側に液だれするのを効果的に防止することができる。
【0090】
[肉溜まり部の製造方法]
次に、以上のようにノズル10の先端部に備えられる肉溜まり部15の製造方法について、
図19を参照して説明する。
図19は、本実施形態に係るノズル10に熱プレスにより肉溜まり部15を形成する場合の製造方法を模式的に示す説明図であり、(a)はノズルの開口(吐出口)が熱プレスにより閉塞されないように開口を予め大きく形成した場合の熱プレス前の状態を、(b)は同じく熱プレス後の状態を、(c)は熱プレスによりノズルの開口が閉塞されてしまった状態を、それぞれ示している。
【0091】
図19(a)に示すように、ノズル10に備えられる肉溜まり部15は、先端部の表面(天面)に熱プレスを行うための熱板Pを押し当てて加熱・加圧することによって、ノズル10の先端部の外周縁から径方向外側に突出する肉溜まり部15を形成することができる。
このように熱プレスで形成される肉溜まり部15の形状や大きさ等は、ノズル10の先端部を熱プレスする熱板Pを押し当てる際の熱板Pの温度、熱板Pを押し当てる押圧力、熱板Pを押し当てる時間などを適宜調整することにより、所望の肉溜まり部15を形成することができる。
【0092】
ここで、肉溜まり部15を形成するための熱プレスは、上述した
図13(a)の(2)に示したノズル10の先端部の表面にスタンパにより所定の凹凸を形成する工程と同時に行うことができる。
具体的には、ノズル10の先端部に凹凸を形成するスタンパ(
図13(a)(2)参照)を、
図19(a)に示す熱板Pにより構成し、熱板P(スタンパ)による熱プレスによって、先端部の天面に凹凸を形成すると同時に、先端部の外縁に肉溜まり部15を形成することができる。
【0093】
また、肉溜まり部15を熱プレスにより形成する場合には、樹脂が溶融・膨出する大きさや形状を予測・推定して、熱プレスにかける前のノズル10について、ノズル長や開口を予め大きく設計して形成しておくことが好ましい。
目薬の点眼用容器などの少量滴下用のノズル10の場合、特に液滴を注出させる開口は微小なサイズとなっており、熱プレスによって開口(吐出口)が細くなったり閉塞されたりすることがあり得る(
図19(c)参照)。
【0094】
そこで、
図19(a)に示すように、ノズル10の開口(吐出口)が熱プレスにより閉塞されないように、開口を予め大きく形成しておくことで、熱プレスして肉溜まり部15を形成しても、開口が所定の大きさ・長さとなるようにすることができる(
図19(b)参照)。
なお、肉溜まり部15は、熱プレスによって形成することができるので、ノズル10を製造するにあたって、既存の成形型を変更することなく、また、型から取り出す際の変形などの不具合を考慮する必要もないので、金型コストを低く抑えることができるというメリットもある。
【0095】
以上説明したように、本実施形態のノズルによれば、ノズル10の先端部表面を、表面自由エネルギーの異なる複数の表面、すなわち、第一の表面11aと第二の表面12aによって構成し、ノズル中心に位置する第一の表面11aを撥液性の低い高エネルギー表面とし、その周囲に位置する第二の表面12aを撥液性の高い低エネルギー表面とすることにより、液滴が必ずノズル10の開口中心に形成されるように誘導しつつ、滴下量の少量化を実現することができるようになる。
【0096】
これによって、繰り返しの使用によっても滴下性能に劣化等が生じることもなく、また、滴下量のばらつきもなく、安定した少量滴下が確実に行えるようになり、目薬の点眼用容器に好適なノズルを実現することができる。
また、撥液性が付与されたノズル10は、先端部天面の撥液性によって液滴の転落性が高められ、また、ノズル天面への液残りの発生も抑制乃至防止できる。
また、ノズル10の先端部の外縁に肉溜まり部15を形成することで、注出された液滴の液切れ性を向上させることができ、フッ素化・粗面化による高い撥液性能(液滴の転落性)と相俟って、液だれの発生を抑制乃至防止することができる。
【0097】
すなわち、本実施形態のノズル10は、まず、液体が注出されるノズル先端部に所定の撥液加工・撥液構造を付与することにより、ノズル10の先端部表面の撥液性を高めた表面、すなわち、低エネルギー表面となる第二の表面12aを設けるようにしてある。
その上で、ノズル表面の撥液性の偏りやエアの噛み込み等による滴下量のばらつきを排除する観点から、積極的に撥液性の偏りを作り出して、液滴が必ずノズル10の中心に形成されるように誘導するために、撥液加工された第二の表面12aよりも撥液性の低い表面、すなわち、高エネルギー表面となる第一の表面11aをノズル中心に設けるようにしてある。
【0098】
これによって、ノズル10の開口外周には高エネルギー表面となる第一の表面11aが存在し、かつ、その周囲には第一の表面11aよりも撥水性が高い低エネルギー表面となる第二の表面12aが連続することから、ノズル10から注出される液滴は、第二の表面12aから積極的に撥液され、かつ、第一の表面11aには積極的に吸着されることになり、液滴は第一の表面11aのみに吸着・接触された状態でノズル中心に形成・誘導されることになる。
このため、仮に第二の表面12aに撥液性のばらつきがあっても、また、注出される液滴にエアの噛み込みが存在しても、液滴が第二の表面12a側に偏ったり分散することがなく、液滴は必ずノズル10の開口中心に形成されるように誘導される。
従って、本実施形態のノズル10では、液滴の偏りやばらつきが生じることなく、確実かつ安定した注出・滴下を行わせることができるようになる。
【0099】
また、撥液性の高い低エネルギー表面となる第二の表面12aには、フッ素プラズマ加工や粗面加工を施すことにより、ノズル先端面の撥液性を向上・維持させることができる。
すなわち、ノズル10の第二の表面12aを構成するプラスチック成形体は、ポリオレフィンやポリエステルなどの非フッ素系樹脂から形成されているが、第二の表面12aを構成する部分には、非フッ素系樹脂の分子鎖中にフッ素原子が組み込まれるようにしてある。
また、フッ素化された第二の表面12aには、必要に応じて微細な凹凸からなる粗面が形成されるようになっている。
【0100】
このようにフッ素化・粗面化されたノズル10の第二の表面12aは、容器内から液体が注出されると、フッ素原子による撥液性向上と、微細な凹凸からなる粗面によるエアポケットの存在(気−液接触)により、更なる高い撥液性が確保される。これによって、注出された液滴は、第二の表面12aには付着せず、ノズル中心の第一の表面11aに形成されるように誘導されることになる。
また、ノズル先端部のフッ素化は、フッ素原子が第二の表面12aを構成する非フッ素系樹脂の分子鎖中に組み込まれているため、表面(粗面)から脱落することなく、安定的にノズル先端部の表面(粗面)に存在することになる。このため、繰り返し液体を注出させた場合でも、撥液性が損なわれることがない。
【0101】
すなわち、先端部がフッ素化・粗面化されたノズル10は、優れた撥液性が長期間にわたって維持され、液体が繰り返し接触した場合にも、初期段階と同程度の撥液性が保持されるようになるため、少量の滴下が可能となる。
従って、ノズル10の内径及び第一の表面11aの表面積や形状を所定の大きさに設定することで、ノズル10から注出される液体(目薬)の滴下量を、例えば10μl以下等の任意の量に設定することができ、滴下量の少量化・最適化が可能となり、人間の眼に最適な点眼量・滴下量を実現することができる。
【0102】
また、フッ素化・粗面化されたノズル10の先端部は、キャップ20によって保護されるが、その場合に、キャップ20の内面がノズル10のフッ素化・粗面化面に当接・接触するようなことはなく、キャップ20が第二の表面12aに非接触の状態で、ノズル10がキャップ20によって覆われ、容器内が密閉状態で保護されるようになる。
従って、キャップ20が繰り返し着脱されても、ノズル10の先端部のフッ素化・粗面化性能が損なわれることがなく、容器内の液体(目薬)が無くなる最後まで、ノズル10の少量滴下性を発揮させることができるようになる。
【0103】
以上のように、本実施形態に係るノズル10によれば、点眼用容器1における滴下量の少量化を実現するとともに、液だれやノズル天面の液残りを防止でき、ノズル先端の汚染、ノズルから容器本体内への液戻りによる異物や微生物の混入などもなくなり、繰り返しの使用によっても滴下性能の劣化等の問題が生じることも有効に防止できる。
さらに、キャップ20によってノズル10の先端部を、その機能が損なわれることのないように確実に保護することで、本発明に係るノズル性能を安定的に維持させることができ、点眼用容器1内の目薬を使い切るまで、良好な点眼動作が行えるようになる。
【実施例】
【0104】
以下、本発明に係るノズルの一実施例を表1を参照しつつ説明する。
なお、本発明を以下の実施例により更に説明するが、本発明は下記実施例により何らかの制限を受けるものではない。
(ノズルベース1)
・樹脂:ポリエチレン(日本ポリエチレンLJ8041)
・成形法:射出成形法
・外形形状:直径6mm×長さ5mm
・開口径:0.8mm
(ノズルベース2)
・樹脂:ポリエチレン(日本ポリエチレンLJ8041)
・成形法:射出成形法
・外形形状:直径6mm×長さ5mm
・開口径:1.2mm
(ノズルベース3)
・樹脂:ポリエチレン(日本ポリエチレンLJ8041)
・成形法:射出成形法
・外形形状:直径6mm×長さ5mm
・開口径:0.4mm
(第一の滴下部a)
・樹脂:ポリエチレン(日本ポリエチレンLJ8041)
・成形法:射出成形法
・外形形状:直径0.8mm×内径0.4mm×長さ1mm
・第一の表面の形状:矩形
(第一の滴下部b)
・樹脂:ポリエチレン(日本ポリエチレンLJ8041)
・成形法:射出成形法
・外形形状:直径1.2mm×内径0.4mm×長さ1mm
・第一の表面の形状:矩形
(第一の滴下部c)
・樹脂:ポリエチレン(日本ポリエチレンLJ8041)
・成形法:射出成形法
・外形形状:直径0.8mm×内径0.4mm×長さ1mm
・第一の表面の形状:縮小テーパ(先端角30°)
(第一の滴下部d)
・樹脂:ポリエチレン(日本ポリエチレンLJ8041)
・成形法:射出成形法
・外形形状:直径0.8mm×内径0.4mm×長さ1mm
・第一の表面の形状:拡大テーパ(先端角45°)
(粗面化工程)
・階層的凹凸構造が表面に形成されたNi製スタンパを230℃に加熱し、ノズルベースに対しホットプレス成形した
・一次凹凸構造
・ライン&スペースパターン
・面積比=0.2
・二次凹凸構造
・Ra/Rsm=250×10
−3
(フッ素プラズマ工程)
・表面波プラズマ装置
・電源出力:1.5kW@2.45GHz
・原料ガス:CF
4 200sccm
・真空度:4Pa
・処理時間:20秒
(バリ付設工程)
・ノズルベースの開口に対し、直径0.4mmのドリルで穴開け加工することによりバリを付設した
(突出組立工程)
・ノズルベースの開口に第一の滴下部を挿入した
・組立の際、ノズルベース表面よりも滴下部を0.3mm突出させた
(滴下試験)
・ロートCキューブを充填した目薬容器本体に対して、ノズルを挿入した
・容器本体を押下して、充填液を20滴、滴下して滴下量を測定した
(少量滴下性能評価)
・滴下量平均値を計算し、評価した
・○ − 平均値≦10μL
・× − 平均値>10μL
(滴下量再現性能評価)
・滴下量平均値と標準偏差を計算し、以下の式よりCVを計算し評価した
・CV(%)=(標準偏差)/(平均値)×100
・○ − CV≦3.3%
・△ − 3.3<CV≦5.0%
・× − CV>5.0%
【0105】
【表1】
【0106】
以上、本発明のノズルについて、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明に係るノズルは、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0107】
例えば、上述した実施形態では、本発明のノズルの適用対象として目薬の点眼用容器を例にとって説明したが、本発明の適用対象は、点眼用容器に限定されるものではない。すなわち、流体を、所定量ずつ滴下させることが望まれるノズル・注出口であれば、点眼用容器以外に適用することも可能であり、例えば目薬以外の薬品用の容器、醤油やソースなどの調味料用の容器、洗剤や化粧品などの化学製品用の容器等、各種の容器のノズル、医療や実験器具用のノズル、液体滴下装置のノズルとして用いることが可能である。