特許第6733170号(P6733170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6733170
(24)【登録日】2020年7月13日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】リニアモータシステム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/06 20160101AFI20200716BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20200716BHJP
【FI】
   H02P25/06
   H02P5/46 H
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-247085(P2015-247085)
(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公開番号】特開2017-42029(P2017-42029A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年10月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-163522(P2015-163522)
(32)【優先日】2015年8月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100105946
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 富彦
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】長澤 敦雄
【審査官】 田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/056843(WO,A1)
【文献】 特開2011−120454(JP,A)
【文献】 特開2000−253689(JP,A)
【文献】 特開2011−078196(JP,A)
【文献】 特開2007−202300(JP,A)
【文献】 特開昭49−119309(JP,A)
【文献】 特開2004−086716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動子の移動経路に沿って連続的または離散的に配列される複数の電機子と、
前記移動経路における前記可動子の位置情報を検出する検出部と、
前記移動経路の複数の単位区間のそれぞれと1対1の対応で設けられ、前記単位区間に配置される前記電機子を制御する区間制御部と、
前記検出部が検出した前記位置情報に基づいて、前記移動経路に設けられる複数の前記区間制御部に対して前記可動子に関する同一の走行指令を一括して供給し、前記複数の区間制御部を包括的に制御する包括制御部と、を備え、
前記区間制御部は、前記走行指令に基づいて、対応する前記単位区間において駆動すべき前記可動子があるか否かを判定し、その判定結果に基づいて前記複数の電機子を制御し、
前記区間制御部は、対応する前記単位区間に前記可動子が存在しない場合に、対応する前記単位区間に次回の前記走行指令に対応する前記可動子が向かっているか否かを判定する、リニアモータシステム。
【請求項2】
前記区間制御部は、対応する前記単位区間に前記可動子が存在する場合に、前記複数の電機子に供給される電力を前記走行指令に応じて制御する、請求項に記載のリニアモータシステム。
【請求項3】
前記区間制御部は、前回の前記走行指令に基づいて、対応する前記単位区間に次回の前記走行指令に対応する前記可動子が向かっているか否かを判定する、請求項または請求項に記載のリニアモータシステム。
【請求項4】
前記区間制御部は、対応する前記単位区間に、次回の前記走行指令に対応する前記可動子が向かっていると判定した場合に、前記複数の電機子に供給される電力を予め蓄積させる、請求項から請求項のいずれか一項に記載のリニアモータシステム。
【請求項5】
前記区間制御部は、対応する前記単位区間に、次回の前記走行指令に対応する前記可動子が向かっていないと判定した場合に、前記走行指令を無視する、請求項から請求項のいずれか一項に記載のリニアモータシステム。
【請求項6】
可動子の移動経路に沿って連続的または離散的に配列される複数の電機子と、
前記移動経路における前記可動子の位置情報を検出する検出部と、
前記移動経路の複数の単位区間のそれぞれと1対1の対応で設けられ、前記単位区間に配置される前記電機子を制御する区間制御部と、
前記検出部が検出した前記位置情報に基づいて、前記移動経路に設けられる複数の前記区間制御部に対して前記可動子に関する同一の走行指令を一括して供給し、前記複数の区間制御部を包括的に制御する包括制御部と、を備え、
前記区間制御部は、前記走行指令に基づいて、対応する前記単位区間において駆動すべき前記可動子があるか否かを判定し、その判定結果に基づいて前記複数の電機子を制御し、
前記複数の区間制御部は、それぞれ、前記検出部が検出した前記位置情報を取得し、取得した前記位置情報の少なくとも一部を前記包括制御部に供給し、
前記包括制御部は、前記複数の区間制御部のそれぞれから取得した前記位置情報を、前記複数の区間制御部のそれぞれに供給する、リニアモータシステム。
【請求項7】
前記包括制御部は、前記複数の区間制御部のそれぞれから取得した前記位置情報を、次の前記走行指令とともに前記複数の区間制御部のそれぞれに供給する、請求項に記載のリニアモータシステム。
【請求項8】
可動子の移動経路に沿って連続的または離散的に配列される複数の電機子と、
前記移動経路における前記可動子の位置情報を検出する検出部と、
前記移動経路の複数の単位区間のそれぞれと1対1の対応で設けられ、前記単位区間に配置される前記電機子を制御する区間制御部と、
前記検出部が検出した前記位置情報に基づいて、前記移動経路に設けられる複数の前記区間制御部に対して前記可動子に関する同一の走行指令を一括して供給し、前記複数の区間制御部を包括的に制御する包括制御部と、を備え、
前記区間制御部は、前記走行指令に基づいて、対応する前記単位区間において駆動すべき前記可動子があるか否かを判定し、その判定結果に基づいて前記複数の電機子を制御し、
前記包括制御部は、
前記移動経路において順に並ぶ2以上の前記単位区間の前記区間制御部に対応して設けられるエリア制御部と、
前記エリア制御部に対応する前記区間制御部に対して、前記エリア制御部を介して前記走行指令を含む共通の指令を供給するシステム制御部と、を備え、
前記エリア制御部に対応する前記区間制御部は、それぞれ、前記検出部が検出した前記位置情報を取得し、取得した前記位置情報の少なくとも一部を、前記エリア制御部を介して前記システム制御部に供給し、
前記システム制御部は、前記エリア制御部に対応する前記区間制御部のそれぞれから取得した前記位置情報を、前記エリア制御部を介して、前記エリア制御部に対応する前記区間制御部のそれぞれに供給する、リニアモータシステム。
【請求項9】
前記エリア制御部に対応する前記区間制御部は、互いにデイジーチェーン方式で接続される、請求項に記載のリニアモータシステム。
【請求項10】
前記包括制御部は、前記走行指令として、前記電機子へ供給される電流の値を示す電流指令を生成し、
前記区間制御部は、対応する前記単位区間において駆動すべき前記可動子があるか否かの判定結果に基づいて、前記電流指令に定められた値の電流を前記電機子へ供給するか否かを制御する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載のリニアモータシステム。
【請求項11】
前記包括制御部は、前記検出部が検出した前記位置情報に基づいて、前記電流指令を前記複数の区間制御部へ第1周期で供給し、
前記区間制御部は、前記検出部が検出した前記位置情報に基づいて、前記電機子へ電流を供給するか否かを前記第1周期よりも短い第2周期で判定する、請求項10に記載のリニアモータシステム。
【請求項12】
前記包括制御部は、
前記可動子の目標位置を示す位置指令、及び前記検出部から供給される前記位置情報に基づいて、前記可動子の目標速度を示す速度指令を前記第1周期で生成する位置制御器と、
前記速度指令、及び前記検出部から供給される前記位置情報から生成される前記可動子の速度情報に基づいて、前記電流指令を前記第1周期で生成する速度制御器と、を備える、請求項11に記載のリニアモータシステム。
【請求項13】
前記区間制御部は、
前記電機子へ供給される電流の値を前記電流指令に定められた値に設定する電流制御器と、
前記電機子へ供給される電流の経路の導通状態と遮断状態とを切り替えるスイッチング素子と、を備え、
前記スイッチング素子は、前記検出部から供給される前記位置情報に基づいて、前記第2周期で前記導通状態と前記遮断状態との切替が制御される、請求項11または請求項12に記載のリニアモータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアモータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモータシステムは、物流装置の搬送台車や工作機械のローダとなる搬送装置等において、その走行駆動等に広く用いられている。リニアモータシステムとして、固定側(例、地上側)に一次コイルを配置し、可動子側に永久磁石等を配置した地上一次リニアモータシステムが提案されている(例えば、下記の特許文献1および特許文献2参照)。リニアモータシステムは、例えば、複数のモータのそれぞれをモータ制御手段が制御し、複数のモータ制御手段を統括制御手段が制御する。モータ間には、磁石列である可動子の位置を検出する磁気センサが配置されている。統括制御手段は、磁気センサによる検出結果に基づいて、可動子の位置に応じたモータ制御手段を特定し、特定したモータ制御手段に対して制御指令(走行指令)を供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/056842号
【特許文献2】国際公開第2010/024234号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リニアモータシステムにおいて、制御が複雑になると、可動子を安定して走行させることが難しいことがある。例えば、1つの統括制御手段に割り当てるモータ制御手段の数には制限があり、システムが大規模化してモータの数が増大する場合がある。この場合、例えば、複数の統括制御手段に対して上位コントローラ(リニアコントローラ)を設け、上位コントローラにより、複数の統括制御手段を統括して制御する。可動子が1つの総括制御手段の担当する区間と次の区間とにまたがる場合、1つの総括制御手段と、次の区間の総括制御手段とで、情報の伝送経路の違いによる信号の遅延が生じる懸念がある。このような信号の遅延が生じると、位置による制御バラツキ、遅れ、負荷の増減に繋がり、可動子のスムーズな移動が阻害される。本発明は、上述の事情に鑑みなされたものであり、例えばシステムが大規模化する場合であっても、可動子をスムーズに移動させることができるリニアモータシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様に係るリニアモータシステムは、可動子の移動経路に沿って連続的または離散的に配列される複数の電機子と、移動経路における可動子の位置情報を検出する検出部と、移動経路の複数の単位区間のそれぞれと1対1の対応で設けられ、単位区間に配置される電機子を制御する区間制御部と、検出部が検出した位置情報に基づいて、移動経路に設けられる複数の区間制御部に対して可動子に関する同一走行指令を一括して供給し、複数の区間制御部を包括的に制御する包括制御部と、を備え、区間制御部は、走行指令に基づいて、対応する単位区間において駆動すべき可動子があるか否かを判定し、その判定結果に基づいて複数の電機子を制御する。
【0006】
また、区間制御部は、対応する単位区間に可動子が存在する場合に、複数の電機子に供給される電力を走行指令に応じて制御してもよい。
また、区間制御部は、対応する単位区間に可動子が存在しない場合に、対応する単位区間に次回の走行指令に対応する可動子が向かっているか否かを判定してもよい。
また、区間制御部は、前回の走行指令に基づいて、対応する単位区間に次回の走行指令に対応する可動子が向かっているか否かを判定してもよい。
また、区間制御部は、対応する単位区間に、次回の走行指令に対応する可動子が向かっていると判定した場合に、複数の電機子に供給される電力を予め蓄積させてもよい。
また、区間制御部は、対応する単位区間に、次回の走行指令に対応する可動子が向かっていないと判定した場合に、走行指令を無視してもよい。
また、複数の区間制御部は、それぞれ、検出部が検出した位置情報を取得し、取得した位置情報の少なくとも一部を包括制御部に供給し、包括制御部は、複数の区間制御部のそれぞれから取得した位置情報を、複数の区間制御部のそれぞれに供給してもよい。
また、包括制御部は、複数の区間制御部のそれぞれから取得した位置情報を、次の走行指令とともに複数の区間制御部のそれぞれに供給してもよい。
また、包括制御部は、移動経路において順に並ぶ2以上の単位区間の区間制御部に対応して設けられるエリア制御部と、エリア制御部に対応する区間制御部に対して、エリア制御部を介して走行指令を含む共通の指令を供給するシステム制御部と、を備えてもよい。
また、エリア制御部に対応する区間制御部は、それぞれ、検出部が検出した位置情報を取得し、取得した位置情報の少なくとも一部を、エリア制御部を介してシステム制御部に供給し、システム制御部は、エリア制御部に対応する区間制御部のそれぞれから取得した位置情報を、エリア制御部を介して、エリア制御部に対応する区間制御部のそれぞれに供給してもよい。
また、エリア制御部に対応する区間制御部は、互いにデイジーチェーン方式で接続されてもよい。
また、包括制御部は、走行指令として、電機子へ供給される電流の値を示す電流指令を生成し、区間制御部は、対応する単位区間において駆動すべき可動子があるか否かの判定結果に基づいて、電流指令に定められた値の電流を電機子へ供給するか否かを制御してもよい。
また、包括制御部は、検出部が検出した位置情報に基づいて、走行指令を複数の区間制御部へ第1周期で供給し、区間制御部は、検出部が検出した位置情報に基づいて、電機子へ電流を供給するか否かを第1周期よりも短い第2周期で判定してもよい。
また、包括制御部は、可動子の目標位置を示す位置指令、及び検出部から供給される位置情報に基づいて、可動子の目標速度を示す速度指令を第1周期で生成する位置制御器と、速度指令、及びで検出部から供給される位置情報から生成される可動子の速度情報に基づいて、電流指令を第1周期生成する速度制御器と、を備えてもよい。
また、区間制御部は、電機子へ供給される電流の値を電流指令に定められた値に設定する電流制御器と、電機子へ供給される電流の経路の導通状態と遮断状態とを切り替えるスイッチング素子と、を備え、スイッチング素子は、検出部から供給される位置情報に基づいて、第2周期で導通状態と遮断状態との切替が制御されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明のリニアモータシステムにおいて、複数の区間制御部に対して並行に可動子に関する同一の走行指令を一括して供給し、区間制御部は、対応する単位区間において駆動すべき可動子があるか否かの判定結果に基づいて複数の電機子を制御する。したがって、包括制御部が走行指令の供給先の区間制御部を選択する必要がなくなり、制御をシンプルにすることができる。よって、例えばシステムが大規模化する場合であっても、制御バラツキ、遅れ、負荷の増減を抑えることができ、可動子をスムーズに走行させることができる。また、区間制御部が駆動すべき可動子があるか否かの判定をするので、例えば、複数の可動子を用いる場合に、可動子ごとに位置や速度を異ならせることが容易になり、可動子の位置や速度を多彩に制御することができる。
【0008】
また、区間制御部は、対応する単位区間に可動子が存在する場合に、複数の電機子に供給される電力を走行指令に応じて制御する。この場合、対応する区間において可動子がスムーズに走行することができる。
また、区間制御部は、対応する単位区間に可動子が存在しない場合に、対応する単位区間に次回の走行指令に対応する可動子が向かっているか否かを判定する。この場合、次回の走行指令に対応する可動子が向かっているか否かに応じて、複数の電機子を制御することができ、可動子がスムーズに走行することができる。
また、区間制御部は、前回の走行指令に基づいて、対応する単位区間に次回の走行指令に対応する可動子が向かっているか否かを判定する。この場合、次回の走行指令が供給されるよりも前に判定を行うことができ、例えば遅延の発生を抑制することができる。
また、区間制御部は、対応する単位区間に、次回の走行指令に対応する可動子が向かっていると判定した場合に、複数の電機子に供給される電力を予め蓄積させる。この場合、対応する単位区間に可動子が入った際に複数の電機子に電力をスムーズに供給させることができ、可動子がスムーズに走行することができる。
また、区間制御部は、対応する単位区間に、次回の走行指令に対応する可動子が向かっていないと判定した場合に、走行指令を無視すればよい。
【0009】
また、複数の区間制御部は、それぞれ、検出部が検出した位置情報を取得し、取得した位置情報の少なくとも一部を包括制御部に供給し、包括制御部は、複数の区間制御部のそれぞれから取得した位置情報を、複数の区間制御部のそれぞれに供給する。この場合、例えば、区間制御部が、検出部からの位置情報を複数の電機子の制御に利用することや、包括制御部が、区間制御部からの位置情報を次回の走行指令に利用することができる。
また、包括制御部は、複数の区間制御部のそれぞれから取得した位置情報を、次の走行指令とともに複数の区間制御部のそれぞれに供給する。この場合、複数の区間制御部は、包括制御部からの共通の位置情報を利用して複数の電機子を制御することができ、可動子をスムーズに走行させることができる。
また、包括制御部は、移動経路において順に並ぶ2以上の単位区間の区間制御部に対応して設けられるエリア制御部と、エリア制御部に対応する区間制御部に対して、エリア制御部を介して走行指令を含む共通の指令を供給するシステム制御部と、を備える。この場合、システム制御部により制御可能な区間制御部の数を増加させ、システムの大規模化に対応することができる。
また、エリア制御部に対応する区間制御部は、それぞれ、検出部が検出した位置情報を取得し、取得した位置情報の少なくとも一部を、エリア制御部を介してシステム制御部に供給し、システム制御部は、エリア制御部に対応する区間制御部のそれぞれから取得した位置情報を、エリア制御部を介して、エリア制御部に対応する区間制御部のそれぞれに供給する。この場合、検出部からの位置情報を複数の電機子の制御に利用することや、包括制御部が、区間制御部からの位置情報を次回の走行指令に利用することができる。
また、各エリア制御部に対応する区間制御部は、エリア制御部からの共通の位置情報を利用して複数の電機子を制御することができ、可動子をスムーズに走行させることができる。
また、エリア制御部に対応する区間制御部は、互いにデイジーチェーン方式で接続される。この場合、区間制御部を増設することが容易になり、システムの大規模化に対応することが容易になる。
また、包括制御部は、走行指令として、電機子へ供給される電流の値を示す電流指令を生成し、区間制御部は、対応する単位区間において駆動すべき可動子があるか否かの判定結果に基づいて、電流指令に定められた値の電流を電機子へ供給するか否かを制御する。この場合、区間制御部は、電機子へ電流を供給するか否かを迅速に制御することができ、可動子の位置に対する電機子の応答の遅れを低減することができるので、可動子をスムーズに走行させることができる。
また、包括制御部は、検出部が検出した位置情報に基づいて、電流指令を複数の区間制御部へ第1周期で供給し、区間制御部は、検出部が検出した位置情報に基づいて、電機子へ電流を供給するか否かを第1周期よりも短い第2周期で判定する。この場合、区間制御部は、走行指令が供給される第1周期よりも短い第2周期で電機子へ電流を供給するか否かを判定するので、可動子をスムーズに走行させることができる。
また、包括制御部は、可動子の目標位置を示す位置指令、及び検出部から供給される位置情報に基づいて、可動子の目標速度を示す速度指令を第1周期で生成する位置制御器と、速度指令、及び検出部から供給される位置情報から生成される可動子の速度情報に基づいて、電流指令を第1周期で生成する速度制御器と、を備える。この場合、位置制御器が位置情報に基づいて速度指令を生成し、速度制御器が速度指令に基づいて電流指令を生成するので、可動子の目標位置に対して的確な電流指令を生成することができ、例えば区間制御部が行う処理を低減することができるので、電機子へ電流を供給するか否かを区間制御部によって迅速に制御することができる。
また、区間制御部は、電機子へ供給される電流の値を電流指令に定められた値に設定する電流制御器と、電機子へ供給される電流の経路の導通状態と遮断状態とを切り替えるスイッチング素子と、を備え、スイッチング素子は、検出部から供給される位置情報に基づいて、第2周期で導通状態と遮断状態との切替が制御される。この場合、例えば、電流制御器は、位置情報を用いなくても電流の値の設定することができ、スイッチング素子は、電機子へ供給される電流の値の情報を用いなくても電機子への電流の供給の有無を切り替えることができるので、区間制御部による制御を高速で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係るリニアモータシステムを示す概念図である。
図2】リニアモータおよび検出部を示す図である。
図3】検出部、可動子、及び区間制御部を示す図である。
図4】リニアモータシステムにおける指令および位置情報の流れを示す図である。
図5】リニアモータシステムの動作を示す概念図である。
図6】リニアモータシステムの制御方法の一例を示すフローチャートである。
図7図6のステップS3の処理およびステップS4の処理の一例を示すフローチャートである。
図8】電機子の配列の例を示す図である。
図9】第2実施形態に係るリニアモータシステムを示す概念図である。
図10】第3実施形態に係るリニアモータシステムを示すブロック図である。
図11】第3実施形態に係るリニアモータシステムの構成を、1つのエリア制御部が担当する区間について示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係るリニアモータシステム1Aを示す概念図である。リニアモータシステム1Aは、リニアモータ2と、検出部3と、区間制御部4と、包括制御部5とを備える。リニアモータシステム1Aは、概略すると以下のように動作する。リニアモータ2は、可動子6および電機子7を備える。可動子6は、磁界を発生し、電機子7が発生する電界とのローレンツ力により移動経路8に沿って移動する。検出部3は、移動経路8における可動子6の位置情報を検出する。区間制御部4は、移動経路8の複数の単位区間(SE1〜SE4)のそれぞれと1対1の対応で設けられる。包括制御部5は、検出部3が検出した位置情報に基づいて、移動経路8に設けられる複数の区間制御部4に対して並行に可動子6の走行指令を供給し、複数の区間制御部4を包括的に制御する。例えば、可動子6が複数設けられる場合、包括制御部5は、複数の可動子6の走行指令を束にした単一の走行指令を、全ての区間制御部4に対して一括で同時に送信する。区間制御部4は、走行指令に基づいて、対応する単位区間において駆動すべき可動子6があるか否かを判定し、その判定結果に基づいて複数の電機子7を制御する。以下、リニアモータシステム1Aの各部について、より詳しく説明する。
【0012】
図2は、リニアモータ2および検出部3を示す図である。リニアモータ2(図2(C)参照)は、3相(U相、V相、W相)の交流電流又は直流電流で駆動される。図2(A)に示すように、電機子7は、可動子6の移動方向Xと平行に直線的に配置された3つの磁極11を含む。実施形態の説明に用いる各図において、U相、V相、W相の各相に対応する磁極をU、V、Wで表す。3つの磁極11は、それぞれ、コイル12およびコア13を含む。図2(B)に示すように、コア13は、共通の本体部から、くし歯状に突出している。コイル12は、コア13の間に配置される。なお、リニアモータ2は、U相、V相、W相の各相ごとに複数の磁極を設けたものでもよく、電機子7は、相の数の整数倍の磁極を有するものでもよい。
【0013】
図2(C)に示すように、可動子6は、ベース部15と、ベース部15に配列された磁石部16とを備える。磁石部16は、例えば永久磁石であり、N極とS極とが交互に並ぶ構造である。可動子6は、電機子7が発生する磁力に応じて、移動経路8に沿って移動する。移動経路8は、例えば、リニアガイドなどにより規定される。電機子7は、可動子6の移動経路8に沿って連続的または離散的に配列される(後に図8に示す)。検出部3は、移動経路8における可動子6の位置情報を検出する。可動子6の位置情報は、例えば、可動子の位置(例、座標)、速度、加速度の少なくとも1つを含む。検出部3は、例えば磁気式のリニアスケールである。検出部3は、可動子6の移動方向Xに沿って配列される複数のセンサ素子3aを備える。センサ素子3aは、例えば磁気センサであり、可動子6からの磁力を検出する。なお、検出部3は、可動子6の位置情報を光学的あるいは静電気的に検出するものでもよい。センサ素子3aは、移動経路8に沿って連続的に(互いに近接して)配列されてもよいし、移動経路8に沿って離散的に(互いに離間して)配列されてもよい。
【0014】
図3は、検出部3、可動子6、及び区間制御部4を示す図である。区間制御部4は、移動経路8の複数の単位区間(SE1〜SE6)のそれぞれと1対1の対応で(単位区間に個別に)設けられる。単位区間は、移動経路8のうち、1つの区間制御部4に制御される電機子7が配置される区間である。1つの単位区間の範囲は、整数個(例、2個)の電機子7が配置される範囲である。1つの単位区間に配置される電機子7の数は、1つでもよいし、3つ以上でもよい。区間制御部4は、例えばアンプ(サーボアンプ)であり、電機子7に供給される電流を制御する。区間制御部4は、例えば、電機子7に電流(以下、モータ電流という)を供給する強電系(電力系)のモータ駆動回路(図示せず)と、このモータ駆動回路を制御する弱電系(信号系)の制御回路(図示せず)とを備える。強電系のモータ駆動回路は、複数のスイッチング素子を設けたインバータ等からなり、駆動用の直流電源(図示せず)に接続される。弱電系の制御回路は、マイクロコンピュータ、回路素子、不揮発性メモリ等により構成される。マイクロコンピュータは、例えば、不揮発性メモリに記憶されたプログラムを読み出し、このプログラムに従って各種の処理を実行する。
【0015】
可動子6は、ガイド21に案内され、移動経路8に沿って移動する。すなわち、ガイド21は、移動経路8を規定する。移動経路8は、図3において直線状であるが、曲線状であってもよく、直線状の部分と曲線状の部分とを含んでもよい。検出部3は、例えば、複数の単位区間にわたって設けられるが、移動経路8に離散的に設けられてもよい。例えば、可動子6の位置情報は、離散的なデータを補間することにより算出されてもよい。検出部3は、入力端子3p1および出力端子3p2を有する。入力端子3p1には、検出部3が可動子6の位置情報を検出するタイミングを示す同期信号が入力される。出力端子3p2は、検出部3が可動子6の位置情報を検出した検出結果を示す検出信号を出力する。
【0016】
複数の区間制御部4は、例えばデイジーチェーン方式により、検出部3と通信可能に接続される。図3において、複数の区間制御部4の番号を、デイジーチェーン接続の上流(始端)から下流(終端)に向かって、0、1、2、・・・5と表す。0〜5番の区間制御部4は、例えばRS422などのシリアル通信により順に接続される。0番の区間制御部4は、同期端子4p1、入力端子4p2、及び出力端子4p3を有する。0番の区間制御部4は、マスターであり、同期端子4p1から同期信号を出力する。同期端子4p1は、検出部3の入力端子3p1と接続される。0番の区間制御部4において、入力端子4p2が検出部3の出力端子3p2と接続され、出力端子4p3が1つ下流側(1番)の区間制御部4の入力端子4p2と接続される。1番から下流側の5番までの区間制御部4は、それぞれ、入力端子4p2が1つ上流側の区間制御部4の出力端子4p3と接続され、出力端子4p3が1つ下流側の区間制御部4の入力端子4p2と接続される。5番の区間制御部4の出力端子(図示せず)は、例えば終端抵抗などにより、終端処理される。0番の区間制御部4が同期信号を同期端子4p1から検出部3の入力端子3p1に出力すると、検出部3は、可動子6の位置情報を検出する。検出部3は、検出信号を出力端子3p2から0番の区間制御部4の入力端子4p2に出力する。0番の区間制御部4は、検出信号を出力端子4p3から、1番の区間制御部4の入力端子4p2に出力する。以下同様に、上流側の区間制御部4から下流側の区間制御部4に順に検出信号が供給される。このように、デイジーチェーン接続された1系統の区間制御部4は、可動子6の位置情報の検出結果を共有可能である。
【0017】
図1の説明に戻り、包括制御部5は、エリア制御部5aと、システム制御部5bとを備える、エリア制御部5aは、移動経路8において順に並ぶ2以上の単位区間の区間制御部4に対応して設けられる。例えば、図1において、単位区間SE1、単位区間SE2、単位区間SE3は、移動経路8に沿って順に並んでおり、エリア制御部5aは、単位区間SE1に対応する区間制御部4、単位区間SE2に対応する区間制御部4、及び単位区間SE3に対応する区間制御部4のそれぞれと通信可能に接続される。エリア制御部5aに対応する区間制御部4は、例えば、互いにデイジーチェーン方式で接続され、その最も上流側の区間制御部4は、エリア制御部5aと接続される。デイジーチェーン接続の最も下流側の区間制御部4は、例えば、上流側の区間制御部4を介して、エリア制御部5aと通信可能に接続される。
【0018】
1つのエリア制御部5aに割り当てられる区間制御部4の数は、通信機器の制約の範囲内で任意に設定され、例えば、1以上6以下である。エリア制御部5aの数は、任意であるが、例えば、1つのエリア制御部5aに割り当て可能な区間制御部4の上限値、及び区間制御部4の数に応じて設定される。例えば、区間制御部4の数が、1つのエリア制御部5aに割り当て可能な区間制御部4の上限値を超える場合、エリア制御部5aを増設し、増設したエリア制御部5aに上限値を超えた区間制御部4を接続すればよい。
【0019】
システム制御部5bは、例えばLVDS方式により、エリア制御部5aと通信可能に接続される。システム制御部5bは、エリア制御部5aに対応する複数の区間制御部4に対して、エリア制御部5aを介して走行指令を含む共通の指令(全ての区間制御部4に対する走行指令の束)を供給する。例えば、システム制御部5bは走行指令をエリア制御部5aに送信し、エリア制御部5aは、自装置と接続された複数の区間制御部4に対して、システム制御部5bからの走行指令を送信する。
【0020】
システム制御部5bは、検出部3が検出した位置情報に基づいて走行指令を生成する。例えば、区間制御部4は、検出部3から取得した可動子6の位置情報をエリア制御部5aに送信し、エリア制御部5aは、区間制御部4から取得した可動子6の位置情報を、システム制御部5bに送信する。システム制御部5bは、区間制御部4およびエリア制御部5aを介して取得した位置情報をもとに、全ての区間制御部4に対する次回の走行指令の束を生成し、生成した走行指令の束をエリア制御部5aを介して区間制御部4に供給する。
【0021】
図4は、リニアモータシステム1Aにおける指令および位置情報の流れを示す図である。図5は、リニアモータシステム1Aの動作を示す概念図である。システム制御部5bは、例えば、上位制御装置25(上位コントローラ)と通信可能に接続される。上位制御装置25は、例えば、予め設定された可動子6の移動パターン、移動ルール、あるいは、オペレータの指令に基づいて、可動子6の目標位置を指定する位置指令をシステム制御部5bに供給する。上位制御装置25は、位置指令を、予め定められた第1周期(例、1.0ms)でシステム制御部5bに供給する。なお、上位制御装置25は、リニアモータシステム1Aの一部でもよいし、リニアモータシステム1Aの外部の装置でもよい。
【0022】
システム制御部5bは、複数の区間制御部4(区間制御部群)からエリア制御部5aを介して、可動子6の位置情報を取得する。システム制御部5bは、上位制御装置25からの位置指令、及び可動子6の位置情報に基づいて、可動子6の位置指令および速度指令を含む走行指令を生成する。速度指令は、可動子6の目標速度を定めた指令である。システム制御部5bは、上位制御装置25から位置指令を受けるたびに、走行指令を生成する。システム制御部5bは、エリア制御部5aのうち、少なくとも可動子6が走行中の単位区間に対応するエリア制御部5aに対して、走行指令を第1周期(例、1.0ms)で供給する。また、システム制御部5bは、区間制御部4から供給された前回の位置情報を、走行指令とともにエリア制御部5aに供給する。エリア制御部5aは、システム制御部5bからの走行指令および位置情報を第1周期(例、1.0ms)で供給する。
【0023】
図5に示すように、包括制御部5からの走行指令CSは、複数の区間制御部4に対して並列に(タイムラグを無視すると実質的に並行して)供給される。複数の区間制御部4には、包括制御部5から、同一の走行指令CSおよび位置情報が供給される。複数の区間制御部4は、それぞれ、包括制御部5からの走行指令CSと位置情報とに基づいて、自装置に対応する単位区間(SE1〜SE9の1つ)において駆動すべき可動子6が存在するか否かを判定する。例えば、図5において、可動子6は単位区間SE1〜SE3を走行中であり、単位区間SE1〜SE3に対応する区間制御部4は、自装置に対応する単位区間において駆動すべき電機子7が存在すると判定する。この場合、単位区間SE1〜SE3に対応する区間制御部4は、可動子6の位置が、走行指令の位置指令に定められた目標位置に近づくように、また、可動子6の速度が、走行指令の速度指令に定められた目標速度に近づくように、電機子7にモータ電流PWを供給する。また、図5において、可動子6が走行していない単位区間SE4〜SE9に対応する区間制御部4は、自装置に対応する単位区間において駆動すべき電機子7が存在しないと判定する。この場合、単位区間SE4〜SE9に対応する区間制御部4は、例えば、電機子7に対してモータ電流を供給しない。
【0024】
また、1つのエリア制御部5aに割り当てられた区間制御部4(例、図3の0番の区間制御部4)は、走行指令CSを受信したことをトリガーとして、検出部3に同期信号を供給する。また、検出部3は、この同期信号の応答として、可動子6の位置情報の検出結果を示す検出信号を区間制御部4に供給する。区間制御部4は、例えば、走行指令が供給される第1周期(例、1.0ms)よりも短い第2周期(例、0.1ms)で、同期信号を繰り返し検出部3に供給し、可動子6の位置情報を上記の第2周期で取得する。区間制御部4は、第2周期で取得される位置情報に基づいて、可動子6の位置、速度が目標値に近づくように、電機子7を制御する。すなわち、区間制御部4は、エリア制御部5aから供給される位置情報を、自装置に対応する単位区間において駆動すべき可動子6が存在するか否かの判定に用い、検出部3から取得される位置情報を、電機子7に供給される電力値(モータ電流)の決定に用いる。
【0025】
また、区間制御部4は、次回の走行指令CSを受信した際に、この走行指令CSをトリガーとして、可動子6の最新の位置情報をエリア制御部5aに供給する。すなわち、区間制御部4は、第1周期(1.0ms)で位置情報をエリア制御部5aに供給する。エリア制御部5aは、区間制御部4からの位置情報をシステム制御部5bに供給する。システム制御部5bは、エリア制御部5aから供給された最新の位置情報を次回の走行指令の生成に用いる。システム制御部5bは、可動子6の最新の位置情報を上位制御装置25に供給する。上位制御装置25に供給された可動子6の最新の位置情報は、例えば、モニタリングなどに利用可能である。
【0026】
次に、上述のリニアモータシステム1Aの動作に基づき、実施形態に係るリニアモータシステム1Aの制御方法について説明する。図6(A)は、実施形態に係るリニアモータシステム1Aの制御方法の一例を示すフローチャートである。図6(B)は、図6(A)に対応するリニアモータシステム1Aの動作を示すシーケンス図である。ステップS1において、リニアモータシステム1Aは、可動子6の位置情報を取得する。例えば、図6(B)に示すように、区間制御部4は、ステップS11において検出部3から位置情報を取得する。区間制御部4は、ステップS12において位置情報をエリア制御部5aに送信し、エリア制御部5aは、ステップS13において位置情報を受信する。また、エリア制御部5aは、ステップS14において位置情報をシステム制御部5bに送信し、システム制御部5bは、ステップS15において位置情報を受信する。図6(A)のステップS2において、リニアモータシステム1Aは、走行指令および位置情報を供給する。例えば、図6(B)に示すように、システム制御部5bは、ステップS16において走行指令および位置情報をエリア制御部5aに送信し、エリア制御部5aは、ステップS17において走行指令および位置情報を受信する。また、エリア制御部5aは、ステップS18において走行指令および位置情報を区間制御部4に送信し、区間制御部4は、ステップS19において走行指令および位置情報を受信する。図6(A)のステップS3において、リニアモータシステム1Aは、駆動すべき可動子があるか否かを判定する。例えば、図6(B)に示すように、複数の区間制御部4は、それぞれ、システム制御部5bから供給された走行指令および位置情報に基づいて、自装置が制御を担当する単位区間において駆動すべき可動子6があるか否かを判定する。図6(A)のステップS4において、リニアモータシステム1Aは、位置情報および走行指令に基づいて、電機子7を制御する。例えば、図6(B)に示すように、区間制御部4は、自装置が制御を担当する単位区間において駆動すべき可動子6があると判定した場合(ステップS3;Yes)、検出部3から取得される最新の位置情報および走行指令に基づいて、ステップS4において、可動子6の位置および速度が目標値に近づくように、電機子7に供給される電力値(モータ電流)を制御する。また、区間制御部4は、自装置が制御を担当する単位区間において駆動すべき可動子6がないと判定した場合(ステップS3;No)、ステップS4の処理を行わない。
【0027】
図7は、図6のステップS3の処理およびステップS4の処理の一例を示すフローチャートである。ステップS2から続くステップS21において、区間制御部4は、対応する単位区間(自装置が制御を担当する単位区間)に可動子6が存在するか否かを判定する。このステップS21の処理は、図6(A)に示したステップS3の処理の一部である。ステップS21において、区間制御部4は、システム制御部5bから供給された走行指令および位置情報に基づいて、判定を行う。区間制御部4は、自装置が担当する単位区間に可動子6が存在すると判定した場合(ステップS21;Yes)、ステップS22において、電機子7への供給電力(モータ電流)を走行指令に応じて制御する。ステップS22の処理は、図6(A)のステップS4の処理の1つである。
【0028】
区間制御部4は、対応する単位区間に可動子6が存在しないと判定した場合(ステップS21;No)、ステップS23において、自装置に対応する単位区間に、次回の走行指令に対応する可動子6が向かっているか否かを判定する。ステップS23は、図6(A)のステップS3の処理の一部である。区間制御部4は、例えば、エリア制御部5aから供給される走行指令に指定された可動子6の目標位置、及び自装置の位置を用いて、自装置が担当する単位区間の始点と可動子6との距離を算出する。また、区間制御部4は、算出した距離と、エリア制御部5aから供給される走行指令に含まれる可動子6の速度の目標値とを用いて、自装置が担当する単位区間の始点に可動子6が到達するまでの時間を算出する。また、区間制御部4は、算出した時間、及び走行指令が供給される第1周期に基づいて、次回の走行指令が供給されるまでに、自装置が担当する単位区間の始点に可動子6が到達するか否かを判定する。区間制御部4は、対応する単位区間に次回の走行指令に対応する可動子6が向かっていると判定した場合(ステップS23;Yes)、ステップS25において、電機子7への供給電力を準備(確保)する。ステップS25の処理は、図6(A)のステップS4の処理の1つである。例えば、区間制御部4は、次回の走行指令に応じた可動子6の駆動に必要とされる電力、すなわち電機子7に供給される電力の少なくとも一部を、積分器、キャパシタなどに蓄積させる。また、区間制御部4は、対応する単位区間に次回の走行指令に対応する可動子6が向かっていないと判定した場合(ステップS23;No)、ステップS24において、駆動すべき可動子6がないとして電機子7を制御する。例えば、区間制御部4は、走行指令を無視し、電機子7へモータ電流を供給しない。ステップS24の処理は、図6(A)のステップS4の処理の1つである。上述のように、区間制御部4は、駆動すべき可動子6があるか否かの判定(ステップS3の処理)を、ステップS21の処理およびステップS23の処理により行う。なお、ステップS21の処理およびステップS23の処理は、ステップS3の処理の一例であり、ステップS3の処理は、本例に限定されない。例えば、ステップS3の処理において、ステップS23の処理が省略されてもよいし、他の処理が付加されてもよい。
【0029】
図8は、電機子7の配列の例を示す図である。図8(A)において、単位区間SE1の電機子7と単位区間SE2の電機子7とは、近接して配置され、1つのエリア制御部5aが担当する単位区間(単位区間SE、単位区間SE)において連続的に配列される。また、電機子7は、隣のエリア制御部5aが担当する単位区間(単位区間SE3、単位区間SE4)においても同様に、連続的に配列される。また、電機子7は、単位区間SE2と単位区間SE3とで近接して配置される。このように、図8(A)の例において、電機子7は、1つのエリア制御部5aが担当する単位区間(例、単位区間SE2)と次のエリア制御部5aが担当する単位区間(例、単位区間SE3)とで、隙間なく連続的に配置される。
【0030】
図8(B)は、電機子7の一部が離散的に配列される例を示す図である。本例では、電機子7は、各エリア制御部5aが担当する単位区間において、図8(A)と同様に連続的に配列される。本例では、異なるエリア制御部5aが担当する単位区間(単位区間SE2、単位区間SE3)の間に、可動子6がまたぐことが可能なレベルのギャップG1がある。このように、電機子7は、可動子6の移動経路の一部において離散的に配列されてもよい。
【0031】
図8(C)は、電機子7が離散的に配列される他の例を示す図である。本例では、電機子7は、各区間制御部4が担当する単位区間ごとに連続的に配列される。また、電機子7は、1つの単位区間(例、単位区間SE1)の端の電機子7と、その隣の単位区間(例、単位区間SE2)の端の電機子7との間に、可動子6がまたぐことが可能なレベルのギャップG2がある。このように、電機子7は、可動子6の移動経路の少なくとも一部において離散的に配列されてもよい。また、単位区間に複数の電機子7が配列される場合、電機子7は、少なくとも1つの単位区間において離散的に配列されてもよい。また、電機子7の配列は、上述の各例の2つ以上を組み合わせた配列でもよい。
【0032】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。本実施形態において、上述の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略あるいは簡略化する。図9は、第2実施形態に係るリニアモータシステム1Bを示す概念図である。本実施形態において、リニアモータシステム1Bの包括制御部5Bは、複数の第1層のエリア制御部31と、複数の第2層のエリア制御部32と、システム制御部5bとを備える。第1層のエリア制御部31は、第1実施形態と同様であり、複数の区間制御部4と接続される。第2層のエリア制御部32は、複数の第1層のエリア制御部31と接続され、複数の第1層のエリア制御部31を総括的に制御する。また、システム制御部5bは、複数の第2層のエリア制御部32と接続され、複数の第2層のエリア制御部32を総括的に制御する。すなわち、リニアモータシステム1Bは、エリア制御部が階層化されており、区間制御部4は、第1層のエリア制御部31および第2層のエリア制御部32を中継して、システム制御部5bと接続される。このようなリニアモータシステム1Bは、制御対象の電機子7を増設することが容易であり、大規模化に対応することが容易である。
【0033】
[第3実施形態]
第3実施形態について説明する。図10は、本実施形態に係るリニアモータシステム1Cを示すブロック図である。本実施形態において、包括制御部50は、走行指令として、電機子へ供給される電流の値を示す電流指令を生成する。ここでは、複数の可動子(第1可動子51、第2可動子52)が設けられる例を説明するが、可動子の数は1つでもよいし、2つ以上でもよい。
【0034】
包括制御部50のシステム制御部53は、複数の可動子のそれぞれに対する走行指令を管理する。例えば、検出部54は、第1可動子51の位置情報(例、座標)を検出し、検出した第1可動子51の位置情報をシステム制御部53に供給する。システム制御部53は、検出部54から供給された第1可動子51の位置情報に基づいて、第1可動子51を駆動する電機子(例、電機子55−1、電機子55−2)に対応するエリア制御部(例、エリア制御部56)を決定する。また、システム制御部53は、第1可動子51の位置情報、及び第1可動子51の目標位置を示す位置指令に基づいて、第1可動子51を目標位置へ移動させる第1走行指令を生成する。システム制御部53は、生成した第1走行指令をエリア制御部56に供給する。システム制御部53は、第2可動子52に関しても同様に、第2可動子52に対応する第2走行指令を生成し、第2可動子52を担当するエリア制御部57へ第2走行指令を供給する。
【0035】
エリア制御部56が担当する区間には、複数の区間制御部58−1、58−2、・・・、58−i(以下、複数の区間制御部58と総称する)、及び複数の電機子55−1、55−2、・・・、55−i(以下、複数の電機子55と総称する)が設けられる。1、2、・・・iは、区間制御部と電機子との対応関係を示す添え字であり、iは2以上の任意の整数である。添え字が同一の区間制御部と電機子とは、対応関係にある。例えば、区間制御部58−1と電機子55−1が対応関係にあり、区間制御部58−2と電機子55−2が対応関係にある。
【0036】
エリア制御部56は、第1走行指令に基づいて電流指令を生成する。電流指令(電力指令)は、エリア制御部56が担当する複数の区間制御部58に関して、各区間制御部が電機子へ電流(電力)を供給する際の電流(電力)の値を示す指令(情報)である。エリア制御部56は、自装置が担当する複数の区間制御部58に対して同一の電流指令を生成し、生成した電流指令を複数の区間制御部58に一括して供給する。
【0037】
複数の区間制御部58は、それぞれ、対応する単位区間において駆動すべき可動子(例、第1可動子51)があるか否かの判定結果に基づいて、電流指令に定められた値の電流を電機子へ供給するか否かを制御する。例えば、複数の区間制御部58は、それぞれ、検出部54から第1可動子51の位置情報を取得し、この位置情報に基づいて自装置から電機子に電流を供給するか否かを判定する。例えば、区間制御部58−1、58−2は、それぞれ、第1可動子51の位置情報に基づいて自装置が担当する単位区間に駆動すべき第1可動子51が存在すると判定し、対応する電機子55−1、55−2に対して、電流指令に定められた値の電流を供給する。また、区間制御部58−3、・・・、58−iは、それぞれ、第1可動子51の位置情報に基づいて自装置が担当する単位区間に駆動すべき第1可動子51が存在しないと判定し、対応する電機子55−3、・・・、55−iに対して電流を供給しない。
【0038】
第2可動子52についても同様であり、エリア制御部57は、第2可動子52に応じた同一の電流指令を生成し、生成した電流指令を複数の区間制御部59−1、59−2、・・・、59−i(以下、複数の区間制御部59と総称する)に対して一括して供給する。なお、第2可動子52に応じた電流指令は、第1可動子51に応じた電流指令と異なる場合もあるし、同じである場合もある。複数の区間制御部59は、それぞれ、検出部54から第1可動子51の位置情報を取得し、自装置から電機子に電流を供給するか否かを判定する。複数の区間制御部59は、それぞれ、自装置から電機子に電流を供給すると判定した場合に、対応する電機子に対して電流指令に定められた電流を供給し、自装置から電機子に電流を供給しないと判定した場合に、対応する電機子に対して電流を供給しない。例えば、区間制御部59−2、59−3は、それぞれ、電機子60−2、60−3へ電流を供給し、それ以外の区間制御部(例、59−1、59−i)は、電機子(例、60−1、60−i)へ電流を供給しない。
【0039】
図11は、本実施形態に係るリニアモータシステムの構成を、1つのエリア制御部が担当する区間について示すブロック図である。包括制御部50は、例えばモーションコントローラなどであり、上位制御装置61から位置指令を取得する。包括制御部50は、走行指令として、上述のように電機子へ電流が供給される際の電流の値を示す電流指令を生成する。包括制御部50は、検出部54が検出した位置情報に基づいて、電流指令を複数の区間制御部58へ第1周期(例、1.0ms)で供給する。包括制御部50は、位置制御器62、差分器63(微分器)、及び速度制御器64を備える。
【0040】
位置制御器62は、可動子(例、第1可動子51)の目標位置を示す位置指令、及び検出部54から供給される位置情報に基づいて、可動子の目標速度を示す速度指令を生成する。例えば、検出部54は、第2周期(サンプリングタイム)で第1可動子51の位置情報を検出し、位置制御器62は、検出した位置情報を第1周期で受け取る。第2周期は、上記の第1周期(1.0ms)よりも短い周期(例、0.1ms)に設定される。例えば、検出部54が可動子の位置情報を複数回数(例、10回)検出するたびに、位置制御器62は位置情報を1回受け取る。位置制御器62は、位置指令および位置情報に基づいて、速度指令を第1周期(例、1.0ms)で生成する。また、位置制御器62は、生成した速度指令を第1周期で速度制御器64に供給する。
【0041】
また、差分器63は、検出部54から供給される位置情報に基づいて、可動子(例、第1可動子51)の速度情報を生成する。例えば、差分器63は、検出部54から、位置情報を第2周期(例、0.1ms)で受け取り前回の位置情報と今回の位置情報との差分を算出することにより、速度情報を生成する。差分器63は、例えば、第1周期で速度情報を生成し、生成した速度情報を速度制御器64に第1周期(例、1.0ms)で供給する。
【0042】
速度制御器64は、位置制御器62が生成した速度指令、及び第1周期で検出部54から受け取る位置情報から生成される可動子の速度情報に基づいて、電流指令を生成する。例えば、速度制御器64は、第1周期(例、1.0ms)で速度情報を差分器63から取得し、電流指令を第1周期で生成する。速度制御器64は、生成した電流指令を、複数の(全ての)区間制御部58(58−1、58−2、・・・、58−i)に一括して第1周期で供給する。この速度制御器64による電流指令生成の制御周期は、位置制御器62による速度指令生成の制御周期よりも早くても良い。
【0043】
このように、包括制御部50は、検出部54が検出した位置情報に基づいて、電流指令を複数の区間制御部58へ第1周期で供給する。なお、位置制御器62および速度制御器64の少なくとも一方は、検出部54から区間制御部58を介して位置情報が供給されてもよい。また、差分器63は、包括制御部50に設けられていなくてもよく、包括制御部50以外(例、検出部54)に設けられもよい。また、速度情報は、第1可動子51の加速度を検出した結果に基づいて算出されてもよい。
【0044】
区間制御部58は、検出部54が検出した位置情報に基づいて、電機子へ電流を供給するか否かを第1周期(例、1.0ms)よりも短い第2周期(0.1ms)で判定する。区間制御部58は、電流制御器65、及びスイッチング素子66(以下、SW素子66と略記する)。電流制御器65は、電機子へ供給される電流の値を電流指令に定められた値に設定する。例えば、区間制御部58−1の電流制御器65は、電機子55−1と電気的に接続され、自装置から出力される電力の値を用いてフィードバック制御することにより、電機子55−1へ電力が供給される際の電流の値を、電流指令に定められた値へ設定する。
【0045】
SW素子66は、電機子へ供給される電流の経路の導通状態(オン)と遮断状態(オフ)とを切り替える。SW素子66は、電流制御器65と電機子との間に設けられる。例えば、区間制御部58−1のSW素子66は、電流制御器65と電機子55−1との間の回路に設けられる。SW素子66は、第2周期(例、0.1ms)で検出部54から供給される位置情報に基づいて、導通状態と遮断状態との切替が制御される。例えば、検出部54と区間制御部58とは、直接的に通信可能に接続され、区間制御部58は、検出部54から第2周期(例、0.1ms)で位置情報を受け取る。
【0046】
区間制御部58の判定部(図示せず)は、位置情報に基づいてSW素子66のゲート電極に対して所定の電圧を供給する。例えば、上記の判定部は、位置情報が示す値が所定の範囲外である場合に、SW素子66のゲート電極に電圧を印加せず、この場合にSW素子66は遮断状態である。上記の所定の範囲は、例えば、各区間制御部(例、区間制御部58−1)が担当する単位区間の位置に応じて予め定められ、位置情報の値が所定の範囲内であることは、区間制御部(例、区間制御部58−1)が担当する単位区間に駆動すべき可動子が存在することに相当する。上記の判定部は、位置情報の値が所定の範囲内である場合に、SW素子66のゲート電極に対して所定の電圧を供給し、これにより、SW素子66は、遮断状態から導通状態へ切り替わる。区間制御部58−1においてSW素子66が導通状態になると、電流制御器65から電機子55−1に電流が流れ、第1可動子51が駆動される。
【0047】
本実施形態においては、位置制御、速度制御のループは、包括制御部50(モーションコントローラ)で行い、電流指令(電流の指令値)のみを区間制御部58(サーボアンプ)に送信し、区間制御部58は電流制御のみを行う。可動子の状態は、包括制御部50にフィードバックされ、かつ区間制御部58は高速で電流の供給の有無を切り替え可能であるので、シームレスな動作を実現することができる。なお、シームレスな動作の実現のためには、第2周期を必ずしも第1周期よりも短く設定する必要はなく、第1周期と第2周期は同じであってもよい。
【0048】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0049】
1A、1B、1C・・・リニアモータシステム、3、54・・・検出部、4、58、59・・・区間制御部、5、5B、50・・・包括制御部、5a、56、57・・・エリア制御部、5b、53・・・システム制御部、6、51、52・・・可動子、7、55、60・・・電機子、8・・・移動経路、31、32・・・エリア制御部、
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