(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
部分含浸プリプレグは、第1の層の両側に第2の層が設けられており、第2の層が、熱硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維からなるA層と、熱可塑性樹脂の粒子または繊維を含むB層とを有し、B層は部分含浸プリプレグ表面にある、請求項6に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維を含む繊維強化基材から、真空ポンプとオーブンとを用いて強化プラスチックを製造する方法は、一方、樹脂含浸を促進する差圧が1気圧以下であることから、オートクレーブ成形やプレス成形に比べ含浸時間が長くかかり成形サイクルが長くなる他、ボイドが残りやすく、不良品率が高いという問題がある。またオートクレーブ成形では高圧気体から、プレス成形では熱伝導の良い金属から熱伝達が行われることで、繊維強化プラスチックを所望の温度にすばやく加温できるのに対し、大気圧下の空気から熱伝達が行われるため加温時間が長くかかり、特に大型部材の成形サイクルが長くなり生産性が落ちる、という問題がある。
【0007】
そこで本発明の課題は、かかる背景技術に鑑み、大気圧成形が可能で、成形サイクルが短く、高品質な繊維強化プラスチックを歩止まりよく生産できる繊維強化プラスチックの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
(1)熱硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維を含む繊維強化基材を片面型とバグフィルムとの間に配置して、片面型およびバグフィルムによる密閉空間を形成し、
密閉空間を真空ポンプにより吸引して、大気圧との差圧により繊維強化基材を加圧し、
繊維強化基材が加圧された状態で、接触加熱源により雰囲気温度と異なる温度条件で繊維強化基材を局所的に加熱し、そして繊維強化基材を硬化させて繊維強化プラスチックに成形する、繊維強化プラスチックの製造方法。
【0009】
上記手段の好ましい態様として以下の手段も採用する。
(2)接触加熱源により与える温度条件を連続的に変化させる、記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
(3)バグフィルムを介して繊維強化基材の少なくとも一部が大気圧常温雰囲気に接しており、大気圧常温雰囲気を冷却源とする、1または2に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
(4)繊維強化基材の片面型に面していない表面の一部に、もしくはバグフィルムの一部に、前記接触加熱源を接触させることで加熱を行う工程、または、繊維強化基材の片面型に面していない表面の一部に、もしくはバグフィルムの一部に、接触冷却源を接触させることで冷却を行う工程、を有する前記いずれかの繊維強化プラスチックの製造方法。
(5)前記繊維強化基材が、厚肉部と薄肉部とを有し、
成形時の温度条件が、最初は、厚肉部の昇温速度の方が薄肉部の昇温速度より速く、その後、厚肉部の昇温速度の方が薄肉部の昇温速度より遅くする、前記いずれかの繊維強化プラスチックの製造方法。
(6)熱硬化性樹脂の硬化反応パラメータを考慮した熱伝導解析により、成形中に繊維強化基材内の最高温度が所定の温度を上回ることない制約条件のもと、接触加熱源の温度条件を決定する、前記いずれかの繊維強化プラスチックの製造方法。
(7)繊維強化基材が端部に強化繊維不連続部を有しているものであって、複数の繊維強化基材を強化繊維不連続部が接するように積層した状態で、繊維強化基材の端部を加熱する、前記いずれかの繊維強化プラスチックの製造方法。
(8)成形中の繊維強化基材のひずみを、熱硬化性樹脂の硬化反応パラメータを考慮した熱伝導解析により予測される温度と硬化度の分布を元に算出された、樹脂の熱および硬化による収縮、粘弾性特性を考慮して力の釣り合いを解くことで予測し、得られる繊維強化プラスチックの反りが解消される方向に温度条件を設計する、前記いずれかの繊維強化プラスチックの製造方法。
(9)肉厚変化のある繊維強化基材において、最厚部の厚み方向略中央部の温度Ta[℃]を計測し、最薄部の温度Tb[℃]がTa−5℃<Tb<Ta+5℃となるよう、接触加熱源の温度条件を決定する、前記いずれかの繊維強化プラスチックの製造方法。
(10)熱硬化性樹脂組成物の粘度が10Pa・s以下で90分以上保持可能な温度を保持し、繊維強化基材内への熱硬化性樹脂組成物の含浸度を計測し、含浸が完了した段階で昇温を行う、前記いずれかの繊維強化プラスチックの製造方法。
(11)熱硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維を含む繊維強化基材が、少なくとも強化繊維からなる第1の層と、熱硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維を含む第2の層とを有し、繊維強化基材における熱硬化性樹脂組成物の含浸度が10〜90体積%である部分含浸プリプレグであって、加熱前に部分含浸プリプレグを積層する、前記いずれかの繊維強化プラスチックの製造方法。
(12)部分含浸プリプレグは、第1の層の両側に第2の層が設けられており、第2の層が、熱硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維からなるA層と、熱可塑性樹脂の粒子または繊維を含むB層とを有し、B層は部分含浸プリプレグ表面にある、前記繊維強化プラスチックの製造方法。
(13)部分含浸プリプレグを積層した積層体の厚みが、硬化後の繊維強化プラスチックの厚みより5〜50%厚い、前記いずれかの繊維強化プラスチックの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造設備の初期投資が少なく、成形可能な部材サイズの制限が少ないことに加え、高品質な繊維強化プラスチック製品を高生産性、かつ歩止まりよく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、製造設備の初期投資を抑えながら、大型の部材を製造でき、かつ、製造サイクルを短縮しながら、ボイドや反りの少ない高品質な繊維強化プラスチック製品を安定して製造するため、鋭意検討した。熱硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維を含む繊維強化基材を片面型とバグフィルムとの間に配置して密閉空間を形成し、密閉空間を真空ポンプにより吸引して、大気圧との差圧により繊維強化基材を加圧し、局所的に接触させた接触加熱源により雰囲気温度と異なる温度条件で加熱して、繊維強化基材を硬化させて繊維強化プラスチックに成形することで、かかる課題を解決することを究明したのである。
【0013】
本発明によれば、片面型であっても成形可能であり、成形品サイズの制約が少なく、またオートクレーブやプレス成型機のような高価な設備投資は必要としない。オーブンによって全体加熱を行ってもよいが、少なくとも一部は熱伝達効率の高い接触加熱源により加熱を行うことで成形し、かつ局所的に温度条件を変化させる。それにより形状、肉厚、材料に最適な加熱条件を与えることで、成形サイクルを短縮しながら、繊維強化基材全体への均質な加熱により残留応力を減らして製品の反りを低下させることができる。特に場所によって肉厚が異なる繊維強化プラスチックの場合、オーブンを用いて同一の雰囲気温度で加熱すると、肉厚部において、昇温初期には温度追従性が悪く、温まりにくいのに対し、後期には熱硬化性樹脂の硬化反応が開始するため肉厚部は蓄熱し、高温となりやすく、樹脂が劣化して繊維強化プラスチックとしての力学特性が低下する場合がある。そのため従来の成形法では昇温速度を遅くする必要があり、結局成形サイクルが長くなる傾向にあった。さらに肉厚部の熱および硬化による収縮が大きくなることで、製品に不均質な熱残留応力による反りが発生しやすい。
【0014】
一方で、本発明では局所的に加熱を制御するため、例えば肉厚部をすばやく加熱し、熱硬化性樹脂の硬化反応が始まったところで、徐冷を行う、もしくは加熱をやめることができる。その結果、全体の熱分布を平均化することができ、成形時間も短くすることができる。したがって、本発明は厚みが部位によって異なる部材の成形に特に適している。本発明では、局所的な接触加熱のみで加熱を行ってもよい。また一部を接触加熱によって硬化を進めて後ほどオーブンで全体の硬化を完了してもよい。また局所的な接触加熱と全体を加熱するオーブンとを併用してもよい。中でも好ましいのは、接触加熱源のみで加熱を行うことである。そうすると空間を大きく占めるオーブンが不要となり、大型部材を成形しやすくなるとともに、オーブンの初期投資も不要となる。また複数の接触加熱源を用い、それぞれ異なる温度条件を与えてもよい。なお、本発明において、「接触加熱源」とは、繊維強化基材に直接触れた加熱源であってもいいし、繊維強化基材と接触している片面型やバグフィルム、副資材に触れた加熱源でもいい。後者の場合、繊維強化基材に間接に触れる加熱源になる。
【0015】
本発明の好ましい実施態様として、接触加熱源により与える温度条件を連続的に変化させるのがよい。オーブンやオートクレーブは気体を介して熱伝達を行っているため、入力温度と実際に加熱される繊維強化基材にはタイムラグがあり、加熱条件をステップ状にするなど大まかな制御しか行えないが、接触加熱であれば接触部の温度をほぼ設定温度どおりとすることができるので、1℃単位の温度制御も可能である。また、成形サイクルの短縮、もしくは熱残留応力分布の最適化のために連続的な温度条件を場所によって設定するのもよい。
【0016】
さらに、本発明の好ましい実施態様として、バグフィルムを介して繊維強化基材の少なくとも一部が大気圧常温雰囲気に接するのがよい。その結果、大気圧常温雰囲気を冷却源とすることができる。熱硬化性樹脂は硬化反応によって発熱するため、その熱が蓄積すると、基材内の温度が接触加熱源の温度を超え、基材内の温度の制御が困難になる。一般的にオーブンやオートクレーブで気体を介して熱伝達を行なっているが、繊維強化基材との温度差が小さいため、放熱に時間を要する一方、本発明のように基材の一部が大気圧常温雰囲気に接していると、温度差が大きいため放熱されやすく、蓄熱が抑制されるため、温度および硬化を制御しやすくなる。
【0017】
さらに、本発明の好ましい実施態様として、繊維強化基材の片面型に面していない表面の一部に、もしくはバグフィルムの一部に、前記接触加熱源を接触させることで加熱を行う工程、または、繊維強化基材の片面型に面していない表面の一部に、もしくはバグフィルムの一部に、接触冷却源を接触させることで冷却を行う工程、を有するのがよい。繊維強化基材の厚さにばらつきがある場合、繊維強化基材の厚さ方向の熱伝導率が低いため、片面型側からの加熱だけでは温度および硬化度の分布にばらつきが生じる。そのため、バグフィルム側からも加熱することで場所による温度差を減らせ、温度および硬化の制御が容易になる。また、冷却源を用いて積極的に冷却することで、大気圧常温雰囲気までの距離が長く、放熱が不十分な部分の温度超過を抑制することができる。
【0018】
さらに、本発明の好ましい実施態様として、繊維強化基材が、厚肉部と薄肉部とを有し、成形時の温度条件が、最初は、厚肉部の昇温速度の方が薄肉部の昇温速度より速く、その後、厚肉部の昇温速度の方が薄肉部の昇温速度より遅くするのがよい。厚肉部の厚み方向中央部は熱しにくく冷めにくいため、加熱開始直後は厚肉部を速い昇温速度で加熱するのがよい。厚肉部が十分加熱され、硬化発熱による温度上昇が始まれば、その影響を差し引いて昇温速度を下げるのがよい。対して、薄肉部は熱しやすく冷めやすいため、厚肉部に比べて接触加熱源の温度が厚さ方向に素早く反映されるので、加熱開始直後は厚肉部の厚み方向中央部の温度変化に合わせて厚肉部より遅い昇温速度で加熱するのがよい。厚肉部の厚み方向中央部で硬化発熱による温度上昇が始まったら、それに合わせて厚肉部より速い昇温速度にするのがよい。こうすることで、厚肉部と薄肉部の厚み方向中央部の温度を揃え、硬化の進み方を均質化することができる。
【0019】
さらに、本発明の好ましい実施態様として、熱硬化性樹脂の硬化反応パラメータを考慮した熱伝導解析により、成形中に繊維強化基材内の最高温度が所定の温度を上回ることない制約条件のもと、接触加熱源の温度条件を決定するのがよい。具体的な手順は
図1に示すとおりである。以下の5工程からなる。なお、本発明において、熱硬化性樹脂の硬化反応パラメータは、a)硬化発熱量およびb)温度と硬化度との関数として表現した硬化速度からなるものであって、熱硬化性樹脂の硬化則とも言う。
(1)基材の形状、熱伝導率、比熱、密度、樹脂の密度または質量比、Vf(繊維の体積含有率)、熱硬化性樹脂の硬化反応パラメータ、初期硬化度、気温、熱伝達係数、温度上限値および接触加熱または冷却源の位置を入力する工程、
(2)接触加熱または冷却源の温度条件を入力する工程、
(3)温度と硬化度から硬化反応パラメータを用いて硬化速度および瞬間の発熱量を計算する工程、
(4)硬化速度、瞬間の発熱量から熱伝導方程式を解き基材内の温度と硬化度を計算する工程、および
(5)制約条件に違反していないか判定する工程。
【0020】
(5)で制約条件に違反した場合、(2)に戻り、接触加熱または冷却源の温度条件を変更して計算をやり直し、(5)で制約条件に違反していなければ時間を進めて(3)〜(5)を設定した温度条件が終了するまで繰り返す。この手順によって、樹脂が熱劣化し繊維強化プラスチックの力学特性が低下する恐れのある温度に到達しないように接触加熱または冷却源の温度条件を設計するのがよい。温度条件の中では、特に昇温速度が重要である。例えば肉厚部は低温では昇温速度を最大としながら、反応が開始し反応熱が発生し始める、もしくは反応熱による昇温速度が所定の大きさを超えた段階で接触加熱の昇温速度を落とす、もしくは降温することで、結果として肉厚部中心部で設定された最高温度を超えないように制御を行うことが挙げられる。
【0021】
さらに、本発明の好ましい実施態様として、繊維強化基材が、強化繊維が連続していない部分、すなわち強化繊維不連続部を有しているものであって、複数の繊維強化基材を強化繊維不連続部が接するように積層した状態で繊維強化基材の端部を加熱するのがよい。繊維強化基材はシート状であり、所望の形状に切断して積層し、型に配置する際、切断によって繊維強化基材の端部が形成される。強化繊維の配向する方向と平行な方向以外に切断した場合には、端部に強化繊維不連続部が形成される。一般的に繊維強化基材の繊維方向の熱伝導率は、厚み方向の熱伝導率に比べて少なくとも数倍高い。わずかな面積であっても強化繊維基材の端部、中でも強化繊維不連続部から熱を与えることで、繊維方向に熱伝導させることができ、繊維強化基材表面の大面積を加熱するのと同等以上の効果が得られることがある。また、冷却する場合も同様の効果が得られる。
【0022】
また、本発明での加熱では、繊維強化基材が形成する面内の中央方向における温度が、周辺部に比べて高いのがよい。繊維強化基材中の気体を脱気するにあたり、中央部から端部にむけて気体を移動させるのがよく、中央部の温度が周辺部対比高いことで、中央部の樹脂が低粘度化し、含浸が進むことで気体が周辺部に移動する。含浸の完了を見計らって昇温して行き、少しずつ気体を排出可能な端部へ移動させることで、中央部にボイドを残すことなく成形できる。
【0023】
さらに、本発明の好ましい実施態様として、成形中の繊維強化基材のひずみを、熱硬化性樹脂の硬化反応パラメータを考慮した熱伝導解析により予測される温度と硬化度の分布を元に算出された、樹脂の熱および硬化による収縮と粘弾性特性を考慮して力の釣り合いを解くことで予測し、得られる成形品(繊維強化プラスチック)の反りが解消される方向に温度条件を設計するのがよい。具体的な手順は
図2に示すとおりである。以下の工程がある。
(1)基材の形状、熱伝導率、比熱、密度、樹脂の密度または質量比、Vf、熱硬化性樹脂の硬化反応パラメータ、初期硬化度、樹脂の変形特性(温度と硬化度の関数とした熱および硬化による収縮、粘弾性特性)、気温、熱伝達係数、温度上限値および接触加熱または冷却源の位置を入力する工程、
(2)接触加熱または冷却源の温度条件を入力する工程、
(3)温度と硬化度から硬化反応パラメータを用いて硬化速度および瞬間の発熱量を計算する工程、
(4)硬化速度、瞬間の発熱量から熱伝導方程式を解き、基材内の温度と硬化度とを計算する工程、
(5)制約条件に違反していないか判定する工程、
(6)温度と硬化度から予測される樹脂特性を計算し、有限要素法などを用いて力の釣り合いを解くことで基材の反り量を計算する工程。
【0024】
(5)で制約条件に違反した場合、(2)に戻り、接触加熱または冷却源の温度条件を変更して計算を最初からやり直し、(5)で制約条件に違反していなければ時間を進めて(3)〜(6)を設定した温度条件が終了するまで繰り返す。その結果、得られた基材の最終的な反りが目標値を超えている場合は、温度条件を変更して計算を最初からやり直す。この手順によって、樹脂が熱劣化し繊維強化プラスチックの力学特性が低下する恐れのある温度に到達せず、かつ反りが目標値以下となるよう接触加熱または冷却源の温度条件を設計してもよい。
【0025】
繊維強化プラスチック製の部材の反りを低減することは、それらを組立てる次の工程において重要である。金属では寸法精度がずれていて、組立時に部材を多少強引に接合して塑性ひずみが生じても力学特性に大きく影響しない。一方、繊維強化プラスチックの場合はわずかな部材同士の寸法精度のずれであっても、強引な接合は樹脂や繊維間のわれを引き起こし、部材としての強度を大きく損なう可能性がある。そのため、部材間の寸法ずれを個別に検証しシムを挿入してギャップを埋める、という作業が組立工程のコスト増加要因となっている。繊維強化プラスチックの反りは各部位に蓄積する残留応力の分布によって決定され、残留応力は、樹脂の反応機構により決定される樹脂の熱および硬化による収縮の度合い、および熱残留応力を緩和する樹脂の粘弾性特性に大きく影響を受ける。これら樹脂特性は熱履歴および樹脂の硬化度の関数である。繊維強化基材の各部位における成形中の時々刻々の温度を反映させて硬化度を求め、温度と硬化度の関数である熱および硬化による収縮率および弾性率、粘弾性係数を決定する。その後、繊維強化基材内部で発生する残留応力が釣り合うように応力・ひずみ分布を計算することで、成形後室温における繊維強化プラスチックの反りが予測される。部材中の部位によって硬化の進み方を変更する、樹脂の硬化発熱を考慮して全体の温度を均一化するなどにより、反りを低下させることができ、それを実現するための温度条件を計算により設計するのがよい。
【0026】
繊維強化基材を加熱もしくは冷却しながらの成形中に、繊維強化基材の状態量を測定し、測定した状態量を元に、成形温度条件を算出するのもよい。例えば、成形品の反りを予測するために、事前に揃えた熱硬化性樹脂の硬化反応パラメータや熱伝導率、熱および硬化による収縮、粘弾性特性のデータベースを元にシミュレーションにより内部に蓄積する成形中の残留応力を予測してもよい。また、成形中に直接光ファイバセンサ等を用いて内部のひずみを計測し、計測値を元に反りを抑制するための温度条件を計算してもよい。モニタリングに適した状態量としては、温度、硬化度、ひずみ、樹脂の含浸度などがある。大気圧下の成形であることから、成形中にも外部から計測が容易であり、温度については熱電対や非接触温度計、硬化度については高周波電流による誘電率測定、樹脂の含浸度については超音波測定や厚み測定、などにより計測が可能となる。また内部に光ファイバセンサ等を埋め込むことで温度、硬化度、ひずみ、樹脂の含浸箇所を計測してもよい。
【0027】
さらに、本発明の好ましい実施態様として、肉厚変化のある繊維強化基材において、最厚部の厚み方向略中央部の温度Ta[℃]を計測し、最薄部の温度Tb[℃]がTa−5℃<Tb<Ta+5℃となるよう、接触加熱源の温度条件を決定するのがよい。熱硬化性樹脂の反応熱のため、肉厚中央部が最も温度が高くなる可能性が高く、略中央部の温度をモニタリングし、その温度と同程度の温度となるよう最薄部の温度条件を決定する。これにより、成形品全域にわたって同様の温度履歴となり、したがって力学特性として均質な繊維強化プラスチックを成形することができる。その結果、製品間のばらつきの少ない品質の安定したものづくりが可能となる。なお本発明において厚み方向略中央部とは厚みを1としたときに厚み中央から±0.1の厚み範囲を指す。
【0028】
さらに好ましくは成形中の繊維強化基材の状態量のシミュレーション等による予測値とモニタリングによる測定値とのずれを解消する方向に成形温度条件を変化させるのがよい。熱伝導解析や反り予測のための力の釣合等を解いて、成形中の状態を予測する一方、実際に成形品の外側もしくは内部に埋め込まれたセンサにより取得した測定値を比較して、そのずれを解消するように成形温度条件を変化させることで、予測どおりの成形条件で製品を作製することができる。
【0029】
さらに、本発明の好ましい実施態様として、熱硬化性樹脂組成物の粘度が10Pa・s以下で90分以上保持可能な温度を保持し、繊維強化基材内への熱硬化性樹脂組成物の含浸度を計測し、含浸が完了した段階で昇温を行うのがよい。繊維強化基材によっては、成形中に樹脂を完全に含浸させボイドをなくすため、樹脂を低粘度な状態で保持する時間が設けられる。特に大気圧成形においては含浸のための加圧が小さく、長時間樹脂が低粘度状態を保つ必要があり、粘度が10Pa・s以下で90分以上保持可能な温度で保温することが好ましい。不均質性の高い繊維強化基材においては、毎回含浸時間が異なり、全て同一の成形条件でボイドのない成形を実現しようとすると、安全率を見た含浸時間が必要となり、結果として成形時間は長めの設定となる。一方、実際に含浸度を測定すれば、含浸が完了した段階で昇温し、ゲル化、さらに硬化を進めることができ、成形時間を短縮することができる。またボイドがないことを成形後に知るのではなく、成形中に保証することができる。繊維強化基材内への熱硬化性樹脂組成物の含浸度の測定方法としては、厚み変化や誘電率変化の計測、光ファイバセンサによる樹脂到達の確認などがある。なお本発明において粘度は動的粘弾性測定装置により、パラレルプレートを用い、歪み100%、周波数0.5Hz、プレート間隔1mmにて、2℃/分の速度で50℃から170℃まで単純昇温しながら測定したものである。
【0030】
本発明において、熱硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維を含む繊維強化基材が、少なくとも強化繊維からなる第1の層と、熱硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維を含む第2の層とを有し、繊維強化基材における熱硬化性樹脂組成物の含浸度が10〜90体積%である部分含浸プリプレグを使用するのが好ましい。そして加熱前にこの部分含浸プリプレグを積層しておくのがよい。従来オートクレーブなどを用いる高圧での成形においては問題になりにくいが、大気圧での成形においては、積層の際に閉じ込められた空気やプリプレグからの揮発成分が、成形中にプリプレグ外に放出されにくく、ボイド発生の要因となる。そこで、繊維強化基材へ部分的に熱硬化性樹脂組成物を含浸させることで、プリプレグ内部の強化繊維の未含浸部が空気の流路となり、空気やプリプレグからの揮発成分が排出されやすくなる。一方で、含浸度が低すぎると、強化繊維と熱硬化性樹脂組成物の間で剥離が生じ、プリプレグの粘着性が強くなりすぎてプリプレグ積層時の作業性に劣ってしまう、成形中の含浸時間を多めに取る必要がある、などの問題が生じることから、含浸度には適切な範囲があり、10〜90体積%がよい。好ましくは20〜70体積%であり、さらに好ましくは20〜50体積%である。ここで、プリプレグ中における熱硬化性樹脂組成物の含浸度は、樹脂フローが発生しない低温でプリプレグを徐々に硬化させ、硬化後の断面を顕微鏡で観察し、強化繊維間の空間の総断面積に対する、強化繊維間に含浸した熱硬化性樹脂組成物の断面積の割合を求めることにより算出できる。
【0031】
好ましい実施態様として、部分含浸プリプレグは、第1の層の両側に第2の層が設けられており、第2の層が、熱硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維からなるA層と、熱可塑性樹脂の粒子または繊維を含むB層とを有し、B層は部分含浸プリプレグ表面にあるのがよい。これにより、プリプレグを積層して成形された繊維強化プラスチックにおいて、B層は各層の強化繊維層同士の間に層間樹脂層を形成する。その結果、外から繊維強化プラスチックに対して衝撃荷重が加わった際、クラックが柔軟な層間樹脂層に誘導され、誘導された先に熱可塑性樹脂が存在することにより靭性が高いためクラックの進行が止まり、剥離が抑制されることで、面外衝撃後の残存圧縮強度を高くすることができ、航空機構造などの設計において有利となる。
【0032】
さらに好ましくは、部分含浸プリプレグを積層した積層体の厚みが、硬化後の繊維強化プラスチックの厚みより5〜50%厚いのがよい。プリプレグの積層体の厚みと硬化後の繊維強化プラスチックの厚みの差は内部空隙であり、空気やプリプレグからの揮発成分の脱気しやすさの指標である。ある程度内部空隙が大きくないと脱気しにくくボイドが残りやすい一方、内部空隙が大きすぎると成形中に樹脂含浸が完了しない、三次元形状に賦形されたプリプレグ積層体が成形時に内部空隙がつぶれて厚みが減少するのに伴い形状追従できずシワが発生しやすいため、好ましい厚み変化は硬化後の繊維強化プラスチックの厚み比で5〜50%であり、さらに好ましくは15〜30%である。本発明において、部分含浸プリプレグの積層体の厚みは、成形直前の厚みを指し、型にセットされ真空引きされた状態で積層体の厚みを計測したものとする。
【0033】
本発明に用いる強化繊維は、ガラス繊維、ケブラー繊維、炭素繊維、グラファイト繊維またはボロン繊維等であってもよい。この内、比強度および比弾性率の観点からは、炭素繊維が好ましい。強化繊維の形状や配向としては、一方向に引き揃えた長繊維、二方向織物、多軸織物、不織布材料、マット、編物、組紐等が挙げられる。用途や使用領域によってこれらを自由に選択できる。
【0034】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂は特に制限されず、熱硬化性樹脂が熱により架橋反応を起こし、少なくとも部分的な三次元架橋構造を形成するものであればよい。これらの熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂を2種以上ブレンドした樹脂を用いることもできる。また、これらの熱硬化性樹脂は熱により自己硬化する樹脂であってもよいし、硬化剤や硬化促進剤等と併用してもよい。
【0035】
これらの熱硬化性樹脂の内、耐熱性、力学特性および炭素繊維への接着性のバランスに優れていることから、エポキシ樹脂が好ましく用いられる。特に、アミン、フェノールおよび炭素−炭素二重結合を持つ化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましく用いられる。具体的には、アミンを前駆体とする、アミノフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアニリン型エポキシ樹脂およびテトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、テトラグリシジルジアミノジフェニル、トリグリシジル−p−アミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレオソール等が挙げられる。高純度テトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂である平均エポキシド当量(EEW)が100〜115の範囲のテトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂、および高純度アミノフェノール型エポキシ樹脂である平均EEWが90〜104の範囲のアミノフェノール型エポキシ樹脂が、得られる繊維強化複合材料にボイドを発生させる恐れのある揮発性成分を抑制するために好ましく用いられる。テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンは耐熱性に優れており、航空機の構造部材の複合材料用樹脂として好ましく用いられる。
【0036】
また、前駆体としてフェノールを用いるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂も、熱硬化性樹脂として好ましく用いられる。これらのエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレオソールノボラック型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂が挙げられる。高純度ビスフェノールA型エポキシ樹脂である平均EEWが170〜180の範囲のビスフェノールA型エポキシ樹脂、および高純度ビスフェノールF型エポキシ樹脂である平均EEWが150〜65の範囲のビスフェノールF型エポキシ樹脂が、得られる繊維強化複合材料にボイドを発生させる恐れのある揮発性成分を抑制するために好ましく用いられる。
【0037】
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂は、粘度が低いため他のエポキシ樹脂と組み合わせて用いることが好ましい。
【0038】
また、室温(約25℃)で固体のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、室温(約25℃)で液体のビスフェノールA型エポキシ樹脂と比較すると硬化樹脂中の架橋密度が低い構造となるため、硬化樹脂の耐熱性はより低くなるが靭性はより高くなり、そのためグリシジルアミン型エポキシ樹脂、液体のビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂と組み合わせて用いることが好ましい。
【0039】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂は、耐熱性が高い硬化樹脂となる。また、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびフェニルフッ素型エポキシ樹脂も好ましく用いることができる。
【0040】
ウレタン変性エポキシ樹脂およびイソシアネート変性エポキシ樹脂は、破壊靭性と伸度の高い硬化樹脂となるため、好ましく用いることができる。
【0041】
これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし必要に応じて複数種合わせて使用してもよい。2官能、3官能またはそれ以上のエポキシ樹脂を添加すると、出来上がる樹脂はプリプレグとしての取り扱い易さや含浸用の樹脂フィルムとする際の加工のし易さを備えるとともに、繊維強化複合体としての湿潤条件下における耐熱性も提供できるため好ましい。特に、グリシジルアミン型とグリシジルエーテル型エポキシの組合せは、加工性、耐熱性および耐水性を達成することができる。また、少なくとも1種の室温で液体のエポキシ樹脂と少なくとも1種の室温で固体のエポキシ樹脂とを併用することは、プリプレグに好適なタック性とドレープ性の両方を付与するのに有効である。
【0042】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂およびクレオソールノボラック型エポキシ樹脂は、耐熱性、耐水性の高い硬化樹脂となる。これらのフェノールノボラック型エポキシ樹脂およびクレオソールノボラック型エポキシ樹脂を用いることによって、耐熱性、耐水性を高めつつプリプレグのタック性およびドレープ性を調節することができる。
【0043】
エポキシ樹脂の硬化剤は、エポキシ基と反応し得る活性基を有するいずれの化合物であってもよい。アミノ基、酸無水物基またはアジド基を有する化合物が硬化剤として好適である。硬化剤のより具体的な例としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類、各種酸無水物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、脂肪族アミン、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、他のカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリメルカプタン、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体および他のルイス酸錯体等が挙げられる。これらの硬化剤は、単独または組み合わせて用いることができる。
【0044】
硬化剤として芳香族ジアミンを用いることにより、耐熱性の良好な硬化樹脂を得ることができる。特に、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化樹脂が得られるため最も好適である。芳香族ジアミンの硬化剤の添加量は、化学量論的に樹脂のエポキシ基に対して当量であることが好ましいが、場合によっては、エポキシ基に対して約0.7〜0.9の当量比とすることにより高弾性率の硬化樹脂を得ることができる。
【0045】
また、イミダゾール、またはジシアンジアミドと尿素化合物(例えば、3−フェノール−1,1−ジメチル尿素、3−(3−クロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、2,4−トルエンビスジメチル尿素、2,6−トルエンビスジメチル尿素)との組合せを硬化剤として用いることにより、比較的低温で硬化しながらも高い耐熱性および耐水性を達成することができる。さらに、これらの硬化剤の内の1つを形成する可能性を有する物質、例えばマイクロカプセル化物質を用いることにより、プリプレグの保存安定性を高めることができ、特に、タック性およびドレープ性が室温放置しても変化しにくくなる。
【0046】
また、これらのエポキシ樹脂と硬化剤、またはそれらを部分的に予備反応させた生成物を組成物に添加することもできる。場合によっては、この方法は粘度調節や保存安定性向上に有効である。
【0047】
マトリックスに用いる熱硬化性樹脂組成物では、熱可塑性樹脂を前記熱硬化性樹脂に混合し、溶解させておくことが好ましい。このような熱可塑性樹脂は、通常は炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合より選択される結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましいが、部分的に架橋構造を有していても構わない。
【0048】
また、熱可塑性樹脂は結晶性を有していてもいなくてもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を熱硬化性樹脂にブレンドし溶解させることが好ましい。
【0049】
これらの熱可塑性樹脂は、市販のポリマーでもよいし、市販のポリマーより分子量の低いいわゆるオリゴマーであってもよい。オリゴマーとしては、熱硬化性樹脂と反応し得る官能基を末端または分子鎖中に有するオリゴマーが好ましい。
【0050】
熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合物をマトリックスとして用いる場合、これらの一方のみを用いた場合よりも結果は良好なものとなる。熱硬化性樹脂の脆さを熱可塑性樹脂の靭性でカバーすることができ、また熱可塑性樹脂の成形の困難さを熱硬化性樹脂でカバーすることができるため、バランスのとれた主剤とすることができる。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との比(質量部)は、前記各特性のバランスの点で100:2〜100:50(熱硬化性樹脂:熱可塑性樹脂)の範囲が好ましく、100:5〜100:35の範囲がより好ましい。
【0051】
本発明の好ましい態様のひとつにおいては、B層には熱可塑性樹脂の粒子または繊維があるため、優れた耐衝撃性を実現できる。本発明で用いる熱可塑性樹脂の粒子または繊維の素材は、熱硬化性樹脂にブレンドし溶解させる熱可塑性樹脂として先に例示した各種熱可塑性樹脂と同様であってもよい。中でも、優れた靭性のため耐衝撃性を大きく向上させることから、ポリアミドが最も好ましい。ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン6/12共重合体や特開平01−104624号公報の実施例1記載(対応する文献として、欧州特許公開第274899号実施例8)の、エポキシ化合物にてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたナイロン(セミIPNナイロン)は、熱硬化性樹脂との接着強度が特に良好である。したがって、落錘衝撃時の繊維強化複合材料の層間剥離強度が高くなり、また耐衝撃性の向上効果が高くなるため、好ましい。
【0052】
熱可塑性樹脂の粒子を用いる場合、熱可塑性樹脂粒子の形状は、球状、非球状、多孔質、針状、ウイスカー状、フレーク状のいずれでもよいが、以下の理由により高い耐衝撃性を示す繊維強化複合材料が得られるため球状が好ましい。熱硬化性樹脂の流れフロー特性が低下しないため、強化繊維への含浸性が優れたものとなる。また、繊維強化複合材料への落錘衝撃時(または局所的な衝撃)によって生じる層間剥離がさらに低減されるため、衝撃後の繊維強化複合材料にさらに力がかかった場合の応力の集中による破壊の起点となる脆弱領域がより小さくなる。
【0053】
熱可塑性樹脂の繊維を用いる場合、熱可塑性樹脂繊維の形状は、短繊維でも長繊維でもよい。短繊維の場合、特開平02−69566号公報(欧州特許出願公開351026号)に示されるように繊維を粒子と同じように用いる方法、またはマットに加工する方法が可能である。長繊維の場合、特許第3065686号公報に示されるように長繊維をプリプレグの表面に平行に配列させる方法、または国際公開94/016003に示されるように繊維をランダムに配列させる方法を用いることができる。また、繊維を加工して、特許第3065686号公報に示されるような織物、または国際公開第94/016003号(欧州特許出願公開第632087号明細書)に示されるような不織布材料もしくは編物等のシート型の基材として用いることもできる。また、短繊維チップ、チョップドストランド、ミルドファイバーおよび短繊維を糸に紡いだ後、平行またはランダムに配列させて織物や編物とする方法も用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下、熱硬化性樹脂の硬化反応パラメータを考慮した熱伝導解析を用いた実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の発明に限定されるものではない。熱伝導解析の手順は以下のとおりである。
【0055】
本発明の効果を実証するために用いたのは式(1)に示す固定物体の2次元熱伝導方程式であり、時間発展の差分法により物質内の温度変化を計算した。
【0056】
【数1】
【0057】
ここで、ρは繊維強化プラスチックの密度(kg/m
3)、C
pは繊維強化プラスチックの比熱(J/Kg・K)、kは繊維強化プラスチックの熱伝導率(W/m・K)で繊維強化プラスチックには異方性があるため、面内方向と厚さ方向で値が変わる。また、熱伝導率は温度の依存性は小さいとして定数として扱う。tは時間(秒)、Tは温度(℃)、Qは樹脂の硬化反応に伴う発熱(W/m
3)、x、yは2次元空間における直交座標である。
【0058】
密度、比熱、熱伝導率は、繊維強化プラスチック、片面型それぞれの材料の物性値である。発熱は、樹脂の硬化度をαとすると、式(2)で表すことが出来る。
【0059】
【数2】
【0060】
ここで、ρ
mは樹脂の密度、Vfは繊維の体積含有率であり、樹脂の質量比Rcとの関係は式(3)で表すことが出来る。
【0061】
【数3】
【0062】
Hは樹脂の硬化発熱量(J/kg)であり、樹脂の硬化速度とともに、示差走査熱量測定(DSC)より算出する。
【0063】
樹脂の硬化速度は、DSCの測定結果から温度および硬化度の関数としてモデル化する。樹脂の硬化発熱量はDSCの測定結果のうち発熱にあたる部分の面積から、硬化速度は発熱にあたる部分の高さを硬化発熱量で割ることでそれぞれ求められる。本実施例で用いたのは式(4)および式(5)である。
【0064】
【数4】
【0065】
【数5】
【0066】
式(5)における温度Tは絶対温度(K)、Rは気体定数(8.31J/K・mol)である。A、E、m、nは測定結果をモデルで最もよく再現できる樹脂固有のパラメータである。式(5)はアレニウスの式、Aは頻度因子、Eは活性化エネルギーと呼ばれるものである。
【0067】
空気やプレートヒーターなど、温度の境界条件となるものと接している境界では、式(1)右辺の熱伝導率を使っている部分を、式(6)に示すように熱伝達係数を使った熱の移動に置き換える。
【0068】
【数6】
【0069】
ここで、hは熱伝達係数(W/m
2・K)、T
outは境界条件となる外部温度(空気やプレートヒーターなどの温度)である。
【0070】
本実施例において使用した熱硬化性樹脂組成物は、液状ビスフェノールAエポキシ jER828(三菱化学(株))、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン “セイカキュア”S(和歌山精化工業(株))、ポリエーテルサルフォン “スミカエクセル”(登録商標)5003P(住友化学(株))をそれぞれ100:33:15質量部で混合したものである。DSCにより硬化発熱量Hおよび硬化速度と温度と硬化度の関係を取得した。具体的には昇温測定を2、5、10、15、20℃/分、定温測定を150、170、190℃で実施し、熱流束に関して式(4)、(5)と比較して最小二乗法を用いて、全データとモデルの差が最小となるA、E、m、nを決定したものを表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
また、炭素繊維にRc=35%の割合で熱硬化性樹脂組成物を含浸したプリプレグを擬似等方積層した積層体の成形のシミュレーションを実施例1〜4、比較例1〜3として実施した。なお繊維強化プラスチックおよび片面型の密度、比熱、熱伝導率については、表2に示す、文献(C.T.PanおよびH.Hocheng著、Composites Part A 第32巻(2001),1657−1667頁)値を参照した。
【0073】
【表2】
【0074】
熱伝達係数については、空気と繊維強化基材もしくは片面型との熱伝達係数は一律5W/m
2・Kとし、接触加熱源と繊維強化基材との熱伝達係数は一律500W/m
2・Kとした。
【0075】
以下、各実施例を示すが
図4,
図6および
図8において、「Temperature]と記載されているのは「温度」を意味し、「Degree of Cure」と記載されているのは硬化度を意味する。
【0076】
(実施例1)
図3(b)に示すプライドロップを有するプリプレグ積層体である繊維強化基材を接触加熱により成形した。繊維強化基材1の下面に均一温度接触加熱源3としてプレートヒーターを設置し、繊維強化基材1の上にはバグフィルム6を配置し、真空ポンプによって吸引をおこなった。下面のみ温度制御を行い、上ではバグフィルム6を介して大気圧常温雰囲気に間接的に触れさせ冷却源とした。
【0077】
図4(b)に示すTc1[℃]は下面プレートヒーターの制御温度を示している。また、Tmax、Tminは基材内の最大温度と最小温度、CmaxとCminは基材内の最大硬化度、最小硬化度をそれぞれ表す(以下、同じ)。繊維強化基材に接触した下面プレートヒーターTc1は室温24℃から5.0℃/分で昇温し180℃に達したところで温度を保持した。
【0078】
繊維強化基材の温度の最大値は200℃を超えることなく、熱硬化性樹脂組成物の物性が安定して発現する硬化温度の範囲内で成形することができた。また繊維強化基材のすべての部位で硬化度95%を超えたのは、7760秒後であり、比較例1のオーブン加熱の半分近くまで成形サイクルが短縮された。大気圧常温雰囲気を冷却源とすることでオーバーシュートを小さく抑えることができ、空気よりも熱伝達の良い接触加熱源であるプレートヒーターを用いることで成形サイクルを短縮できた。
【0079】
(実施例2)
図3(c)に示すプライドロップを有するプリプレグ積層体である繊維強化基材を接触加熱により成形した。繊維強化基材1の上にはバグフィルム6を配置し、真空ポンプによって吸引をおこなった。繊維強化基材の上面と下面に均一温度接触加熱源3としてプレートヒーターを2機設置し、上面、下面それぞれ温度制御を行った。
【0080】
図4(c)に示すTc1[℃]は下面プレートヒーター、Tc2[℃]は上面プレートヒーターの制御温度を示している。繊維強化基材に接触した下面プレートヒーターTc1、上面Tc2とも室温24℃から5.0℃/分で昇温し180℃に達したところで温度保持した。オーバーシュートが落ち着いた3500秒時点で下面プレートヒーターTc1のみ5.0℃/分でさらに昇温し195℃に達したところで温度を保持した。
【0081】
繊維強化基材の温度の最大値は200℃を超えることなく、熱硬化性樹脂組成物の物性が安定して発現する硬化温度の範囲内で成形することができた。また繊維強化基材のすべての部位で硬化度95%を超えたのは、6470秒後であり、比較例1のオーブン加熱の半分以下、実施例1より1290秒成形サイクルが短縮された。成形サイクルが短縮される効果は、上面プレートヒーターの導入によって実施例1では最も温まりにくかった最厚部上面が加熱されたことと、下面プレートヒーターTc1の再昇温により、室温の空気と接しているため暖まりにくい最薄部や傾斜部の硬化を促進したことによりもたらされた。
【0082】
(実施例3)
図5(b)に示すように、厚さ50mm、幅300mmのプリプレグ積層体である繊維強化基材を厚さ10mmのアルミ製の片面型上に配置した。繊維強化基材1の上にはバグフィルム6を配置し、真空ポンプによって吸引をおこなった。オーブン内で加熱するとともに、繊維強化基材1において複数の繊維不連続部が存在している端部に分布温度加熱源4を押し当て加熱した。その結果、端部から熱伝導率の高い面内方向に熱エネルギーが移動した。
【0083】
図6(b)に示すように、反応熱のオーバーシュートによる熱硬化性樹脂組成物への悪影響を避けるため、オーブンは室温24℃から1.5℃/分で昇温し130℃に達したところで温度を保持した(Tair)。加えて、繊維強化基材の端部に設置した分布温度加熱源4については、上端の温度Tc2[℃]から下端の温度Tc1[℃]まで線形に温度が分布しており、上端Tc2については、室温24℃から5.0℃/分で120℃まで昇温後、繊維強化基材1内の最高温度のオーバーシュートがピークとなる17000秒まで保持、その後オーバーシュートの平均降温速度と同等の0.25℃/分で190℃まで昇温し、その後保持した。下端Tc1については、Tc2より常に10℃高くなるように設定した。反応熱によるオーバーシュートは178.1℃に抑えられ、オーブンのみの加熱である比較例2に比べ約10℃オーバーシュートが低減した。また硬化度が95%を超えたのは25125秒と、オーブンのみの加熱に比べ半分程度の成形サイクルとなった。
【0084】
(実施例4)
図7(b)に示すような、最薄部の厚さ2mm、最厚部の厚さ20mm、幅300mmのプリプレグ積層体である繊維強化基材のプライドロップ部の加熱を行った。下には分布温度加熱源4、左右には断熱材5を配置した、その後プリプレグ積層体1を配置した。そして繊維強化基材の上にはバグフィルム6を配置し、真空ポンプで吸引した。そしてバグフィルム6を介して分布温度接触加熱源4を押し当て加熱した。最薄部、最厚部からそれぞれ同じ厚みでプリプレグ積層体が連続していることを想定し、シミュレーションした。
【0085】
図8(b)に分布温度接触加熱源4の制御温度と繊維強化基材中の温度の時間経過を示した。上下面とも分布温度接触加熱源4の右端(最厚部)Tc2は室温24℃から5℃/分で180℃まで昇温し、保持する。残留ひずみが蓄積しはじめる硬化度に達する時間が部材中でまちまちであれば、熱残留応力分布が予測しにくく、繊維強化プラスチック製品となった際の反りの原因となるため、硬化速度をできるだけ均一にするため、上下面の分布温度接触加熱源4の左端(最薄部)Tc1および左右端の間について、以下の制御を行った。
(1)繊維強化基材の最厚部厚み方向中央の温度を成形中に検知し、最薄部の温度Tc1[℃]としてフィードバックする、
(2)上下面の分布温度接触加熱源4の中で、最薄部Tc1から最厚部Tc2まで線形に温度を変化させる。
【0086】
繊維強化基材の温度の最大値は200℃を超えることなく、熱硬化性樹脂組成物の物性が安定して発現する硬化温度の範囲内で成形することができた。また繊維強化基材のすべての部位で硬化度95%を超えたのは、6090秒後であり、比較例3のオーブン加熱の半分以下に成形サイクルが短縮された。また、
図9(b)に、
図7で示した繊維強化基材内のすべての部位で硬化度95%を超えた際の硬化度分布を示している。横軸xが水平方向、縦軸zが鉛直方向を表しており、わかりやすくするために縦軸は10倍に拡大している。
図9(a)および(b)の上部では硬化度(DoC(Degree of Cure))の大きさを1〜11のレベルで表しており、各レベルは図中の等高線にも表示されている。比較例3に比べ均一に硬化が進んでいることがわかる。反応熱により最も温度が上がると予想される最厚部の温度を最薄部の加熱制御温度としてフィードバックすることで、あらゆる時間ステップにおいて温度分布ムラを最小化し、結果的に硬化度分布を平滑化することができた。
【0087】
(比較例1)
図3(a)に示すように、実施例1および2と同様の繊維強化基材を厚さ10mmのアルミ製片面型2上に配置し、上からバグフィルム6を配置し、真空ポンプで吸引した。その後、オーブン加熱により成形した。室温24℃から1.5℃/分で昇温し180℃に達したところで温度保持した。
図4(a)にオーブン加熱制御温度Tairと繊維強化基材中の温度の時間変化を示す。反応熱によるオーバーシュートは熱硬化性樹脂組成物の力学特性に影響を与える200℃を大きく超え238.8℃に達した。また繊維強化基材のすべての部位で硬化度95%を超えたのは13975秒後で、成形サイクルが長くなった。オーブンは空気を媒体として加熱するため、繊維強化基材や片面型への熱の伝わりが悪く、温まりにくい。また、反応熱によるオーバーシュートが発生した際は、空気への放熱が遅く、また空気雰囲気自体が180℃まで加熱されているので、冷却効果が低いため、オーバーシュートが大きくなった。
【0088】
(比較例2)
図5(a)に示すように、実施例3と同様の繊維強化基材を10mmのアルミ製片面型上に配置し、バグフィルム6を配置した。繊維強化基材1の端部をシーラントで封止し断熱材5とした。その後、オーブン加熱により成形した。反応熱のオーバーシュートによる熱硬化性樹脂塑性物への悪影響をさけるため、室温24℃から1.5℃/分で昇温し130℃に達したところで温度保持した。
図6(a)にオーブン加熱制御温度Tairと繊維強化基材中の温度の時間変化を示す。反応熱によるオーバーシュートは187.7℃に抑えられた一方、繊維強化基材のすべての部位で硬化度95%を超えたのは45355秒後で、成形サイクルは非常に長くなった。
【0089】
(比較例3)
図7(a)に示すように、実施例4と同様の繊維強化基材を10mmのアルミ製片面型2上に配置し、さらにバグフィルム6を配置し、真空ポンプで吸引した。その後オーブン加熱により成形した。室温24℃から1.5℃/分で昇温し180℃に達したところで温度保持した。最薄部、最厚部からそれぞれ同じ厚みでプリプレグ積層体がつながっていることを想定し、端部は断熱の境界条件としてシミュレーションした。
図8(a)にオーブン加熱制御温度Tairと繊維強化基材中の温度の時間変化を示す。反応熱によるオーバーシュートは熱硬化性樹脂組成物の力学特性に影響を与える200℃を超え218.5℃に達した。また繊維強化基材のすべての部位で硬化度95%を超えたのは12945秒後で、成形サイクルが長くなった。さらに、
図9(a)に繊維強化基材のすべての部位で硬化度95%を超えた際の硬化度分布を示しているが、最厚部上面付近の硬化が速く、最薄部は硬化が遅いという顕著な傾向が見られ、不均一な熱残留応力が発生していると想定される。