特許第6733337号(P6733337)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6733337
(24)【登録日】2020年7月13日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】スラストころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/54 20060101AFI20200716BHJP
   F16C 19/30 20060101ALI20200716BHJP
   F16C 33/56 20060101ALI20200716BHJP
【FI】
   F16C33/54 A
   F16C19/30
   F16C33/56
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-119849(P2016-119849)
(22)【出願日】2016年6月16日
(65)【公開番号】特開2017-223305(P2017-223305A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2019年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】中島 義仁
【審査官】 古▲瀬▼ 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−243556(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102013222008(DE,A1)
【文献】 特開2008−190598(JP,A)
【文献】 実開昭51−085143(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/00−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のころと、前記複数のころを転動可能に保持する環状の保持器と、を備え、
前記保持器は、
前記複数のころを保持する複数の第1保持穴の外側に形成された第1外側円環部と、前記第1保持穴の内側に形成された第1内側円環部と、前記第1外側円環部と前記第1内側円環部とを径方向に連結し、前記保持器の軸方向における一方向への前記ころの移動を規制する複数の第1柱部と、を有する第1保持器と、
前記複数のころを保持する複数の第2保持穴の外側に形成された第2外側円環部と、前記第2保持穴の内側に形成された第2内側円環部と、前記第2外側円環部と前記第2内側円環部とを径方向に連結し、前記保持器の軸方向における他方向への前記ころの移動を規制する複数の第2柱部と、を有する第2保持器と、を有し、
前記第2保持器は、前記第1保持穴の周縁に係止され複数の係止爪を有し、
前記複数の係止爪は、
前記第2外側円環部に形成され、前記複数の第1保持穴の周縁の前記第1外側円環部にそれぞれ係止された複数の外周側係止爪と、
前記第2内側円環部に形成され、前記複数の第1保持穴の周縁の前記第1内側円環部にそれぞれ係止された複数の内周側係止爪と、を含み、
前記外周側係止爪は、前記第2外側円環部から軸方向一方側に突出して前記第1保持穴に挿通された外側軸部と、前記外側軸部の先端から径方向外方に突出して前記第2外側円環部との間に前記第1外側円環部を軸方向に挟む外側爪部と、を有し、
前記内周側係止爪は、前記第2内側円環部から軸方向一方側に突出して前記第1保持穴に挿通された内側軸部と、前記内側軸部の先端から径方向内方に突出して前記第2内側円環部との間に前記第1内側円環部を軸方向に挟む内側爪部と、を有する、
スラストころ軸受。
【請求項2】
前記第1保持器が金属からなり、
前記第2保持器が樹脂からなり、
前記第1保持器と前記第2保持器とは、前記外周側係止爪が内周側に弾性変形して前記第1保持穴に挿入されると共に、前記内周側係止爪が外周側に弾性変形して前記第1保持穴に挿入されることにより一体化されており、
前記外周側係止爪と前記内周側係止爪との間に配置された前記ころにより、前記外周側係止爪の内周側への動き、及び前記内周側係止爪の外周側への動きが、それぞれ規制されている、
請求項に記載のスラストころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラストころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対向配置された2つのレースの間に複数のころを転動可能に介在させたスラストころ軸受が知られている。スラストころ軸受は、例えば、車両のトランスミッションにおいて非回転部材と回転部材との間に介挿され、回転軸方向のスラスト力を受けながら回転部材の回転を円滑にするために用いられている。
【0003】
スラストころ軸受では、複数のころは、2つのレースの間に配置された保持器に転動可能に保持されている。スラストころ軸受に用いられる保持器として、2枚の板材を組み合わせたもの(以下、二枚保持器という)が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
二枚保持器は、一方の板材である外側保持器と、他方の板材である内側保持器とを組み合わせて構成されている。外側保持器と内側保持器とは、外側保持器内に内側保持器を収容した状態で、外側保持器の外周に加締め加工を施すことで、一体化されている。
【0005】
外側保持器と内側保持器には、複数のころを保持する複数の保持穴がそれぞれ形成されている。保持穴の幅はころの直径よりも小さく形成されており、ころを保持穴の周縁の外側保持器又は内側保持器に係止させることで、ころの保持器からの脱落が抑制されている。
【0006】
保持穴の幅はころの直径よりも小さいため、保持器を組み立てる際には、内側保持器の保持穴にころを配置した状態で、内側保持器を外側保持器内に収容し、外側保持器と内側保持器とを加締めにより一体化する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−075752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、保持器ところとは、異なる材料からなり、異なる熱処理、異なる仕上げ加工が施される。したがって、保持器ところとを一体化した状態で熱処理を行うことはできない。
【0009】
そのため、従来のスラストころ軸受では、予め熱処理や表面加工等を施した外側保持器と内側保持器とを加締める必要がある。熱処理後の外側保持器及び内側保持器は、表面硬度が高くなるため、加締めの際に材料強度を上回る引張り応力が発生すると、加締め部分に割れや微小クラックが生じてしまう。
【0010】
そこで、本発明は、保持器に割れや微小クラックが発生してしまうことを抑制可能なスラストころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するため、複数のころと、前記複数のころを転動可能に保持する環状の保持器と、を備え、前記保持器は、前記複数のころを保持する複数の第1保持穴の外側に形成された第1外側円環部と、前記第1保持穴の内側に形成された第1内側円環部と、前記第1外側円環部と前記第1内側円環部とを径方向に連結し、前記保持器の軸方向における一方向への前記ころの移動を規制する複数の第1柱部と、を有する第1保持器と、前記複数のころを保持する複数の第2保持穴の外側に形成された第2外側円環部と、前記第2保持穴の内側に形成された第2内側円環部と、前記第2外側円環部と前記第2内側円環部とを径方向に連結し、前記保持器の軸方向における他方向への前記ころの移動を規制する複数の第2柱部と、を有する第2保持器と、を有し、前記第2保持器は、前記第1保持穴の周縁に係止され複数の係止爪を有し、前記複数の係止爪は、前記第2外側円環部に形成され、前記複数の第1保持穴の周縁の前記第1外側円環部にそれぞれ係止された複数の外周側係止爪と、前記第2内側円環部に形成され、前記複数の第1保持穴の周縁の前記第1内側円環部にそれぞれ係止された複数の内周側係止爪と、を含み、前記外周側係止爪は、前記第2外側円環部から軸方向一方側に突出して前記第1保持穴に挿通された外側軸部と、前記外側軸部の先端から径方向外方に突出して前記第2外側円環部との間に前記第1外側円環部を軸方向に挟む外側爪部と、を有し、前記内周側係止爪は、前記第2内側円環部から軸方向一方側に突出して前記第1保持穴に挿通された内側軸部と、前記内側軸部の先端から径方向内方に突出して前記第2内側円環部との間に前記第1内側円環部を軸方向に挟む内側爪部と、を有する、スラストころ軸受を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保持器に割れや微小クラックが発生してしまうことを抑制可能なスラストころ軸受、及びスラストころ軸受用保持器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態に係るスラストころ軸受を示す斜視図である。
図2図1のスラストころ軸受の破断面図である。
図3図1のスラストころ軸受の周方向に垂直な断面を示す断面図である。
図4】内側保持器の斜視図である。
図5】(a),(b)は、保持器の組立手順を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1乃至図5を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0016】
(スラストころ軸受1の全体構成)
図1は本実施の形態に係るスラストころ軸受1を示す斜視図であり、図2はその破断面図、図3は周方向に垂直な断面を示す断面図である。
【0017】
図1〜3に示すように、スラストころ軸受1は、複数の円柱状のころ2と、複数のころ2を転動可能に保持する環状の保持器(スラストころ軸受用保持器)3と、を備えている。また、図示していないが、スラストころ軸受1は、保持器3を挟み込むように対向して配置され、複数のころ2が転動する軌道面を有する2つのレースを有している。
【0018】
スラストころ軸受1は、例えば車両のトランスミッションに用いられ、軸状の回転部材と、トランスミッションハウジング等の非回転部材との間に介挿され、保持器3に保持された複数のころ2の転動により、軸方向のスラスト力を受けながら回転部材の回転を円滑にするものである。
【0019】
(保持器3の説明)
保持器3は、外側保持器4と内側保持器5とを組み合わせてなる。なお、外側保持器4は、本発明の第1保持器の一態様であり、内側保持器5は、本発明の第2保持器の一態様である。
【0020】
外側保持器4は、複数のころ2を保持する複数の第1保持穴44の外側に形成された第1外側円環部42と、第1保持穴44の内側に形成された第1内側円環部41と、第1外側円環部42と第1内側円環部41とを径方向に連結し、保持器3の軸方向における一方向(図3における上方向)へのころ2の移動を規制する複数の第1柱部43と、を一体に有している。
【0021】
第1内側円環部41と第1外側円環部42とは同心状に形成されて対をなし、第1柱部43と共に第1保持穴44を形成する。第1保持穴44は、外側保持器4の径方向に沿って長辺が延び、外側保持器4を厚さ方向(軸方向)に貫通する長方形状の貫通孔である。外側保持器4には、放射状に配置された複数のころ2を転動可能に保持するように、複数のころ2と同数(本実施の形態では30個)の複数の第1保持穴44が放射状に形成されている。第1保持穴44の短辺方向の幅は、ころ2の直径よりも小さい。
【0022】
本実施の形態では、第1内側円環部41は、軸方向に垂直な板状かつ環状の垂直部41aと、垂直部41aの内周側の端部から軸方向に延出された短円筒状の筒部41bと、を一体に有する。垂直部41aと筒部41bとの接続部分は丸みを帯びた形状に形成されている。
【0023】
また、第1外側円環部42は、軸方向に垂直な板状かつ環状の垂直部42aと、垂直部42aの外周側の端部から軸方向に延出された短円筒状の筒部42bと、を一体に有する。垂直部42aと筒部42bとの接続部分は丸みを帯びた形状に形成されている。
【0024】
第1内側円環部41と第1外側円環部42の垂直部41a,42aは、軸方向における同じ位置に同軸状に配置されている。また、第1内側円環部41と第1外側円環部42の筒部41b,42bは、垂直部41a,42aから軸方向の同じ方向に延出され、垂直部41a,42aからの延出長が等しく形成されており、同軸状に配置されている。第1柱部43は、軸方向に対して垂直に形成されており、第1内側円環部41と第1外側円環部42の垂直部41a,42a同士を連結している。
【0025】
図4は、内側保持器5の破断面図である。図1〜4に示すように、内側保持器5は、複数のころ2を保持する複数の第2保持穴54の外側に形成された第2外側円環部52と、第2保持穴54の内側に形成された第2内側円環部51と、第1外側円環部52と第1内側円環部51とを径方向に連結し、保持器3の軸方向における他方向(図3における下方向)へのころ2の移動を規制する複数の第2柱部53と、を一体に有している。
【0026】
第2内側円環部51と第2外側円環部52とは同心状に形成されて対をなし、第2柱部53と共に第2保持穴54を形成する。第2保持穴54は、内側保持器5の径方向に沿って長辺が延び、内側保持器5を厚さ方向(軸方向)に貫通する長方形状の貫通孔である。内側保持器5には、放射状に配置された複数のころ2を転動可能に保持するように、複数のころ2と同数(本実施の形態では30個)の複数の第2保持穴54が放射状に形成されている。第2保持穴54の短辺方向の幅は、ころ2の直径よりも小さい。
【0027】
本実施の形態では、第2内側円環部51と第2外側円環部52とは、同軸の短円筒状に形成されており、その軸方向の一端部同士を連結するように第2柱部53が設けられている。
【0028】
内側保持器5は、外側保持器4内に収容されている。本実施の形態では、内側保持器5の全体が外側保持器4に収容されているが、内側保持器5の一部が外側保持器4から突出していてもよい。内側保持器5は、第2内側円環部51と第2外側円環部52の先端部(第2柱部53を設けた側と反対側の端部)から、外側保持器4内に挿入され収容される。
【0029】
内側保持器5を外側保持器4内に収容可能とするため、内側保持器5の第2内側円環部51の内径は、外側保持器4における第1内側円環部41の筒部41bの外径よりも若干大きくされる。また、内側保持器5の第2外側円環部52の外径は、外側保持器4における第1外側円環部42の筒部41bの内径よりも若干小さくされる。
【0030】
(係止爪6の説明)
本実施の形態に係るスラストころ軸受1では、内側保持器5は、第1保持穴44の周縁に係止される複数の係止爪6を有しており、複数の係止爪6の係止により、外側保持器4と内側保持器5とが固定されている。これら複数の係止爪6は、第2内側円環部51に形成された内周側係止爪61と、第2外側円環部52に形成された外周側係止爪62とを含んでいる。
【0031】
本実施の形態では、第2内側円環部51の先端部に、第1保持穴44の周縁の第1内側円環部41(垂直部41a)に係止される内周側係止爪61が形成されており、かつ、第2外側円環部52の先端部に、第1保持穴44の周縁の第1外側円環部42(垂直部42a)に係止される外周側係止爪62が形成されている。内周側係止爪61は、長方形状の第1保持穴44の内周側の短辺に係止され、外周側係止爪62は第1保持穴44の外周側の短辺に係止される。
【0032】
内周側係止爪61は、第2内側円環部51の先端部から軸方向に突出する軸部61aと、軸部61aの先端部から径方向内方に突出する爪部61bと、を一体に有する。内周側係止爪61は、第2内側円環部51と一体に形成されている。軸部61aは、軸方向から見て円弧状に形成されており、その外周側の面が、第2内側円環部51の外周面と連続している。
【0033】
外周側係止爪62は、第2外側円環部52の先端部から軸方向に突出する軸部62aと、軸部62aの先端部から径方向外方に突出する爪部62bと、を一体に有する。外周側係止爪62は、第2外側円環部52と一体に形成されている。軸部62aは、軸方向から見て円弧状に形成されており、その内周側の面が、第2外側円環部52の内周面と連続している。
【0034】
内周側係止爪61と外周側係止爪62は対となっており、対をなす内周側係止爪61と外周側係止爪62とが径方向に対向している。また、対をなす内周側係止爪61と外周側係止爪62とが、対応する第1保持穴44に共に係止されている。
【0035】
本実施の形態では、第1保持穴44と同数の係止爪61,62を形成し、全ての第1保持穴44に係止爪61,62を係止させているが、これに限定されるものではなく、係止爪61,62の数を第1保持穴44の数よりも少なくしてもよい。ただし、係止爪61,62を1つ、あるいは2つとした場合には、外側保持器4と内側保持器5とを強固に固定できず両者が分離してしまったり、外側保持器4と内側保持器5間でがたつきが生じたりする場合も考えられるため、係止爪61,62の数は3つ以上とし、周方向に等間隔に係止爪61,62を配置することが望ましい。
【0036】
また、本実施の形態では、係止爪6として内周側係止爪61と外周側係止爪62とを形成したが、内周側係止爪61と外周側係止爪62のどちらか一方を省略してもよい。つまり、保持器3は、内周側係止爪61と外周側係止爪62のどちらか一方のみを有していてもよい。
【0037】
内周側係止爪61と外周側係止爪62との間には、ころ2が配置されている。これにより、内周側係止爪61の外周側への動き、及び外周側係止爪62の内周側への動きがころ2により規制され、係止爪61,62による係止が解除され外側保持器4と内側保持器5とが分離されてしまうことを抑制可能になる。つまり、スラストころ軸受1では、ころ6は、転動体としての役割と、係止爪6の係合が解除されることを抑制し、外側保持器4と内側保持器5とを一体に維持する役割とを兼ねている。
【0038】
係止爪61,62ところ2との間の隙間は、係止爪61,62が弾性変形しても係止が解除されないように、爪部61b,62bの長さ(軸部61a,62aからの突出長)を考慮して適宜設定するとよい。より具体的には、両係止爪61,62間で係止爪61,62ところ2との間に形成される隙間の幅を、内周側係止爪61の第1内側円環部41(垂直部41a)とのかかり代、及び、外周側係止爪62の第1外側円環部42(垂直部42a)とのかかり代よりも小さくするとよい。
【0039】
(外側保持器4と内側保持器5の材質)
本実施の形態では、外側保持器4が金属からなり、内側保持器5が樹脂からなる。
【0040】
本実施の形態では、外側保持器4は、鋼板をプレス等によって打ち抜き及び屈曲して形成されている。外側保持器4は保持器3の外表面の大部分を占めるため、外側保持器4を金属製とすることにより、保持器3の機械的強度を維持し、耐久性を向上できる。また、外側保持器4を樹脂製とした場合と比較して、外側保持器4が変形しにくくなるので、係止爪6による係止が解除されにくくなり、外側保持器4と内側保持器5との分離を抑制できる。
【0041】
また、本実施の形態では、内側保持器5は、射出成形により形成されている。金型からの離型時に係止爪6が折れてしまうことを抑制するために、射出成形の際には、内周側と外周側で分離可能な金型を用いることが望ましい。内側保持器5に用いる樹脂としては、例えば、66ナイロン、46ナイロン、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等が挙げられる。また、ころ2の転動による内側保持器5の摩耗を抑制するために、内側保持器5はガラス繊維(ガラスフィラー)を含むことが望ましい。
【0042】
内側保持器5を樹脂製とすることで、係止爪6を有する複雑な形状に成型しやすくなる。また、樹脂は金属と比較して変形し易いため、外側保持器4と内側保持器5とを一体化した後に、第2保持穴54を介してころ2を嵌め込むことが可能になる。その結果、スラストころ軸受け1の組立性を向上できると共に、ころ2により係止爪6の係止の解除を抑制させることも可能になる。
【0043】
(保持器3の組立手順)
まず、鋼板を打ち抜き屈曲する等して外側保持器4を形成すると共に、射出成形等により内側保持器5を形成する。外側保持器4は、熱処理や表面加工等が予め施された状態とする。
【0044】
その後、外側保持器4内に内側保持器5を挿入して、外側保持器4と内側保持器5とを一体化させる。このとき、図5(a)に示すように、内周側係止爪61が外周側へ弾性変形すると共に、外周側係止爪62の内周側へ弾性変形して、両係止爪61,62が第1保持穴44へと挿入される。さらに内側保持器5の挿入を進めると、両係止爪61,62が第1保持穴44の周縁へと係止され、外側保持器4と内側保持器5とが一体化される。
【0045】
その後、図5(b)に示すように、樹脂からなる内側保持器5の第2保持穴54から保持器3内にころ2を押し込む。このとき、第2保持穴54の周縁の第2柱部53が弾性変形し、ころ2が保持器3内へと押し込まれる。すべての保持穴44,54にころ2を押し込むと、図1の状態となり、保持器3の組立が完了する。
【0046】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るスラストころ軸受1では、内側保持器5が、第1保持穴44の周縁に係止される複数の係止爪6を有している。
【0047】
係止爪6により外側保持器4と内側保持器5とを係止することにより、外側保持器4と内側保持器5とを加締める必要がなくなるので、加締めによる保持器3の割れや微小クラックの発生を抑制することが可能になる。
【0048】
また、本実施の形態では、内周側係止爪61と外周側係止爪62との間にころ2が配置されているため、ころ2により係止爪6の係止が解除されてしまうことを抑制可能となり、外側保持器4と内側保持器5とがより分離しにくくなる。
【0049】
さらに、本実施の形態では、外側保持器4が金属からなり、内側保持器5が樹脂からなるため、外側保持器4を変形しにくくして外側保持器4と内側保持器5との分離を抑制でき、かつ、外側保持器4と内側保持器5とを一体化した後にころ2を取り付け可能として、スラストころ軸受け1の組立性を向上できる。
【符号の説明】
【0050】
1…スラストころ軸受、2…ころ、3…保持器(スラストころ軸受用保持器)、4…外側保持器(第1保持器)、41…第1内側円環部、41a…垂直部、41b…筒部、42…第1外側円環部、42a…垂直部、42b…筒部、43…第1柱部、44…第1保持穴、5…内側保持器(第2保持器)、51…第2内側円環部、52…第2外側円環部、53…第2柱部、54…第2保持穴、6…係止爪、61…内周側係止爪、61a…軸部、61b…爪部、62…外周側係止爪、62a…軸部、62b…爪部
図1
図2
図3
図4
図5