(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記表面処理層は、リン含有化合物、バナジウム含有化合物、銅含有化合物、アルミニウム含有化合物、ケイ素含有化合物、又は、クロム含有化合物の少なくとも何れかを、片面当たりの含有量として、以下に示す範囲で更に含有する、請求項1に記載の熱間プレス用Zn系めっき鋼板。
リン含有化合物:P換算で、0.00g/m2以上0.01g/m2以下
バナジウム含有化合物:V換算で、0.00g/m2以上0.01g/m2以下
銅含有化合物:Cu換算で、0.00g/m2以上0.02g/m2以下
アルミニウム含有化合物:Al換算で、0.000g/m2以上0.005g/m2以下
ケイ素含有化合物:Si換算で、0.000g/m2以上0.005g/m2以下
クロム含有化合物:Cr換算で、0.00g/m2以上0.01g/m2以下
前記表面処理層は、更に、平均粒径が2nm以上100nm以下である酸化チタン、酸化ニッケル及び酸化スズ(IV)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の酸化物を、片面当たり0.2g/m2以上2g/m2以下の範囲で含有する、請求項1〜4の何れか1項に記載の熱間プレス用Zn系めっき鋼板。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
<1.Zn系めっき鋼板>
本発明の実施形態に係るZn系めっき鋼板は、素地鋼板の上にZn系めっき層を備え、更に、かかるZn系めっき層上の少なくとも片面に、以下で詳述する表面処理層を備える。この表面処理層は、平均粒径が1μm以上10μm以下であるジルコニウム又はランタンを含有する非酸化物セラミクス粒子を、0.1g/m
2以上2g/m
2以下の範囲で含有する。ここで、表面処理層は、上記の平均粒径を有するジルコニウム又はランタンを含有する非酸化物セラミクス粒子の化合物を、1種又は2種以上含有することが可能である。かかる構成を有するZn系めっき鋼板は、先だって説明した熱間プレス法に好適に用いることが可能である。以下では、かかるZn系めっき鋼板の構成について、詳細に説明する。
【0025】
(1)素地鋼板
本実施形態に係るZn系めっき鋼板に用いられる素地鋼板については、特に限定されるものではなく、公知の特性や化学組成を有する各種の鋼板を使用することが可能である。鋼板の化学組成は、特に限定されるものではないが、焼き入れによって高強度を得られる化学組成であることが好ましい。例えば、引張強度が980MPa以上の熱処理鋼材を得ようとする場合には、素地鋼板が、質量%で、C:0.05〜0.4%、Si:0.5%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.01%以下、B:0〜0.005%、Ti:0〜0.1%、Cr:0〜0.5%、Nb:0〜0.1%、Ni:0〜1.0%、及び、Mo:0〜0.5%を含有し、残部は、Fe及び不純物からなる化学組成を有する焼入用鋼からなることが例示される。
【0026】
焼入れ時に強度が980MPa未満となる比較的低強度の熱処理鋼材を得ようとする場合には、素地鋼板の化学組成は、上述の範囲でなくともよい。
【0027】
上述の焼入れ時の焼き入れ性の観点、並びに、加熱後の酸化亜鉛層中に含まれるMn酸化物及びCr酸化物を形成する観点から、Mn含有量及びCr含有量は、Mn+Cr:0.5〜3.0%であることが好ましい。更に、Mn含有量及びCr含有量は、Mn+Cr:0.7〜2.5%であることがより好ましい。
【0028】
鋼板の化学組成としてMn及びCrを含有していると、熱間プレス後に表層に形成される酸化亜鉛層の一部が、Mn及びCrを含有する複合酸化物となる。これらMn及びCrを含有する複合酸化物が形成されることで、リン酸塩系の化成処理後の塗装密着性が更に向上する。詳細は不明であるが、これら複合酸化物が形成されることで、酸化亜鉛と比較し、形成されるリン酸塩系の化成処理皮膜の耐アルカリ性が向上し、良好な塗装密着性を発現するものと考えられる。
【0029】
鋼板の化学組成としてMn及びCrを含有する場合、その含有量は、前述のように、Mn+Crとして、質量%で、0.5%以上3.0%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは、質量%で、0.7%以上2.5%以下の範囲である。Mn+Crの含有量が、0.5%未満である場合には、熱間プレス後に表層に形成される酸化亜鉛とMn及びCrを含有する複合酸化物とが不十分となり、より良好な塗装密着性を発現することが困難となることがある。一方、Mn+Crの含有量が、3.0%を超える場合には、塗装密着性に関しては問題ないが、コストが高くなり、また、スポット溶接部の靭性の低下が著しくなることや、めっきのぬれ性の劣化が著しくなる場合がある。
【0030】
(2)Zn系めっき層
本実施形態に係るZn系めっき層としては、特に限定されるものではなく、一般に知られているZn系めっきを使用することが可能である。具体的には、本実施形態に係るZn系めっき層として、溶融Znめっき、合金化溶融Znめっき、溶融Zn−55%Al−1.6%Siめっき、溶融Zn−11%Alめっき、溶融Zn−11%Al−3%Mgめっき、溶融Zn−6%Al−3%Mgめっき、溶融Zn−11%Al−3%Mg−0.2%Siめっき、電気Znめっき、電気Zn−Niめっき、電気Zn−Coめっき等を挙げることができる。また、上記成分のめっきを蒸着等の方法で被覆することも有効であり、めっきの方法が特に限定されるものではない。
【0031】
本実施形態における具体的なめっき操作としては、溶融Zn系めっき層を形成する場合には、溶融した状態にあるZn又はZn合金が保持されているめっき浴に鋼板を浸漬させ、かかるめっき浴から鋼板を引き上げる操作を実施する。鋼板へのめっき付着量の制御は、鋼板の引き上げ速度や、めっき浴の上方に設けられたワイピングノズルより噴出するワイピングガスの流量や、流速調整などにより行う。また、電気めっきによりZn系めっき層を形成する場合には、Znイオン及びその他のNiイオン、CoイオンなどZn系めっき層に含有させたい元素のイオンを含有する電解液中にて、鋼板を負極として対極との間で電解処理を実施する。また、鋼板へのめっき付着量の制御は、電解液組成や電流密度、電解時間により行う。合金化処理は、上記のようなめっき処理後に、ガス炉や誘導加熱炉やこれらを併用した加熱炉などで追加的にめっき後の鋼板を加熱することで行う。かかるめっき操作については、コイルの連続めっき法、あるいは、切板単体のめっき法のいずれによってめっきを行ってもよい。
【0032】
かかるZn系めっき層の厚み(すなわち、Zn系めっき層の付着量)は、片面当たり20g/m
2〜100g/m
2の範囲であることが好ましい。Zn系めっき層の厚みが、片面当たり20g/m
2未満である場合には、熱間プレス後の有効Zn量が確保できず耐食性が不十分となるため、好ましくない。また、Zn系めっき層の厚みが、片面当たり100g/m
2超過である場合には、Zn系めっき層の加工性及び密着性が低下するため、好ましくない。より好ましいZn系めっき層の厚みは、片面当たり30g/m
2〜90g/m
2の範囲である。
【0033】
(3)表面処理層
上記のようなZn系めっき層の上には、更に、ジルコニウム又はランタンを含有する非酸化物セラミクス粒子から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有する表面処理層が形成されている。
【0034】
ここで、「非酸化物セラミクス」とは、元素として酸素を含まない化合物からなるセラミクスを意味する。また、かかる「非酸化物セラミクス」は、25℃の電気抵抗率(体積抵抗率、比抵抗)が、0.1×10
−6Ωcm〜185×10
−6Ωcmの範囲内にあることが好ましい。
【0035】
このような非酸化物セラミクスとしては、例えば、ホウ化物セラミクス、窒化物セラミクス、ケイ化物セラミクス等を挙げることができる。ホウ化物セラミクス、窒化物セラミクス、及び、ケイ化物セラミクスとは、それぞれ、ホウ素(B)、窒素(N)、ケイ素(Si)を主要な非金属構成元素とする非酸化物セラミクス粒子のことである。
【0036】
また、本実施形態に係る表面処理層において、上記のような非酸化物セラミクスの粒子は、ジルコニウム又はランタンを含有している。これらジルコニウム又はランタンを含有する非酸化物セラミクス粒子は、いずれも25℃の電気抵抗率が、0.1×10
−6Ωcm〜185×10
−6Ωcmの範囲にある。
【0037】
なお、これらジルコニウム又はランタンを含有する(以下、単に、「ジルコニウム等を含有する」と略記する場合がある。)非酸化物セラミクス粒子は、表面処理層中では、粒子の状態で存在する。
【0038】
具体的には、上記のような粒状のジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子の平均粒径(一次平均粒径)は、1μm以上10μm以下である。塗装後密着性の面からは、ジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子の粒径はより小さいほうが有利であるが、平均粒径が1μm未満のものは入手し難くコスト面で不利であるとともに、溶接性に劣る。また、ジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子の平均粒径が10μm超過である場合には、ジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子とめっき鋼板との接触面積が小さくなり、熱間プレス時の加熱の際にジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子が鋼板に及ぼす影響が小さくなるため、好ましくない。ジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子の平均粒径は、好ましくは、2μm以上8μm以下である。
【0039】
また、本実施形態に係るZn系めっき鋼板では、上記のような平均粒径を有しつつ、表面処理層の厚みよりも大きな粒径を有したジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子が、より多く存在することが好ましい。このような非酸化物セラミクス粒子がより多く表面処理層中に存在することで、非酸化物セラミクス粒子の一部が表面処理層から露出することとなり、溶接性をより向上させることが可能となる。
【0040】
なお、上記のようなジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子の平均粒径(一次平均粒径)は、公知の方法により測定可能である。例えば、塗装後断面埋め込みサンプルを作製し、光学顕微鏡又は電子顕微鏡等を利用して得られたサンプルを複数の視野で断面観察し、各視野について皮膜中のジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子の平均粒径を数点測定する。その後、得られた全ての視野での測定結果を平均したものを、平均粒径とすることが可能である。なお、観察視野数は、特に限定されるものではないが、例えば5〜20視野程度とすればよい。
【0041】
本実施形態に係るZn系めっき鋼板が備える表面処理層は、上記のような一次平均粒径を有するジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子を、片面当たり0.2g/m
2以上2g/m
2以下の範囲で含有する。ここで、表面処理層中に複数種の非酸化物セラミクス粒子が含有されている場合、上記の含有量は、複数種の非酸化物セラミクス粒子の合計含有量を意味する。表面処理層中に存在するジルコニウム等の非酸化物セラミクス粒子の一部は、熱間プレスの際の加熱時にその表面又は一部が酸化されて、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化ランタン等といった酸化物が生成される。表面処理層中のジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子の含有量(以下、単に「非酸化物セラミクス粒子の含有量」ともいう。)が片面当たり0.2g/m
2以上2g/m
2以下の範囲である場合、熱間プレス前に存在し、かつ、熱間プレス時に形成されるAl酸化物を、加熱時に生成された上記のジルコニウム酸化物、ランタン酸化物等の酸化物群が無害化する。これにより、熱間プレス時の酸化亜鉛の形成が促進されて、熱間プレス後のリン酸塩処理性が高まり、塗膜密着性が向上する。
【0042】
ジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子の表面又は一部が酸化されることで生成されたジルコニア等の酸化物による、加熱時のAl酸化物の無害化について、その無害化機構の詳細は不明である。しかしながら、鋼板表面に形成されたAl酸化物をジルコニア等の酸化物が溶解させることで、Alの次に酸化されやすいZnが熱間プレス時に酸化されるようになり、その結果、化成性に優れる酸化亜鉛(ZnO)の生成を促進するものと考えられる。
【0043】
また、熱間プレスの際の加熱時に酸化されずに残存したジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子は、粒子自体が優れた導電性を有するため、鋼板表面の接触抵抗を低下させる。その結果、本実施形態に係るZn系めっき鋼板は、優れた溶接性を発現することが可能となる。
【0044】
表面処理層における非酸化物セラミクス粒子の含有量が片面当たり0.1g/m
2未満である場合には、熱間プレス時に十分なジルコニアが存在しておらず、めっき表面のAl酸化物の無害化効果が小さくなり、熱間プレス後の塗装密着性を十分に確保することができない。加えて、ジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子の量も十分でないために鋼板表面の接触抵抗を低下させることができず、優れた溶接性を発現することができない。一方、表面処理層における非酸化物セラミクス粒子の含有量が片面当たり2g/m
2超過である場合には、本実施形態に係るZn系めっき鋼板のコストが上昇するとともに、表面処理層の凝集力が弱くなって、熱間プレス後に表面処理層上に形成される塗膜が剥離しやすくなると考えられる。
【0045】
かかる表面処理層における非酸化物セラミクス粒子の含有量は、好ましくは、片面当たり0.2g/m
2以上1.5g/m
2以下である。
【0046】
なお、上記のような範囲の非酸化物セラミクス粒子の含有量で本実施形態に係る表面処理層を形成すると、かかる表面処理層の厚みは、0.5μm〜2μm程度となる。その結果、本実施形態に係る非酸化物セラミクス粒子の少なくとも一部は、表面処理層に埋没せずに表面に露出した状態となる。
【0047】
ジルコニウムを含有する非酸化物セラミクス粒子としては、例えば、ZrB
2(25℃での電気抵抗率60×10
−6Ωcm)、ZrC(同70×10
−6Ωcm)、ZrN(同14×10
−6Ωcm)、ZrSi(同49×10
−6Ωcm)、ZrSi
2(同76×10
−6Ωcm)の粒子からなる群から選択される粒子の少なくとも1種が挙げられる。
【0048】
ランタンを含有する非酸化物セラミクス粒子としては、例えば、LaB
6(25℃での電気抵抗率1.5×10
−5Ωcm)の粒子が挙げられる。
【0049】
また、本実施形態に係る表面処理層において、上記非酸化物セラミクス粒子として、ジルコニウムを含有する非酸化物セラミクス粒子を用いることが更に好ましい。
【0050】
上記のような表面処理層は、上記のようなジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子をそのままZn系めっき鋼板上に塗布することで、形成可能である。しかしながら、処理液の安定性や表面処理層の密着性を改善させるために、ジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子を、樹脂や架橋剤と混合した処理液とした上で、かかる処理液をZn系めっき鋼板上に塗布し、その後、乾燥及び焼付することで、上記のような表面処理層を形成することが好ましい。
【0051】
かかる樹脂としては、水溶性又は水分散性の樹脂を用いることが好ましい。樹脂の種類としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、フェノール樹脂、又は、これら樹脂の変性体等を挙げることができる。ジルコニウム等の粉末を用いる場合については、上述した水系樹脂に加え、各種溶剤を溶媒とする溶剤系樹脂を用いてもよい。
【0052】
また、かかる架橋剤としては、炭酸ジルコニウム化合物、有機チタン化合物、オキサゾリンポリマー、水溶性エポキシ化合物、水溶性メラミン樹脂、水分散ブロックイソシアネート、水系アジリジン化合物等が挙げられる。
【0053】
また、本実施形態に係る表面処理層中に更に含有させることが好ましい他の成分としては、酸化チタン、酸化ニッケル及び酸化スズ(IV)から選ばれる1種又は2種以上の酸化物が挙げられる。
【0054】
表面処理層中に上記の酸化チタン、酸化ニッケル及び酸化スズ(IV)から選ばれる1種又は2種以上の酸化物を含有していると、熱間プレス後にこれら酸化物が鋼板表面に存在することで、電着塗装時の電着塗膜の凝集析出に何らかの影響を与え、酸化物と電着塗膜とが強固に密着する。その結果、化成処理(リン酸塩処理やFF化成処理)が十分でない場合であっても、強固な密着性を発現することが可能となる。かかる効果をより効率的に得るためには、上記の酸化チタン、酸化ニッケル及び酸化スズ(IV)から選ばれる1種又は2種以上の酸化物の平均粒径は、2nm以上100nm以下であることが好ましい。酸化チタン、酸化ニッケル及び酸化スズ(IV)から選ばれる1種又は2種以上の酸化物の平均粒径が2nm以上100nm以下であることで、熱間プレス後にこれら酸化物が鋼板表面により均一に存在するようになり、より強固な電着塗膜との密着性を実現することが可能となる。
【0055】
加えて、これら酸化チタン、酸化ニッケル及び酸化スズ(IV)から選ばれる1種又は2種以上の酸化物の中で、酸化チタンについては、上記の特徴に加え、熱間プレス時に、過度のZnの酸化や蒸発を抑制することが可能となり、熱間プレス後の塗膜密着性に加え、熱間プレス後の耐食性を高めることが可能となる。酸化チタンは、通常、金属酸化物の状態で安定に存在しているが、熱間プレスでの加熱時に形成される酸化亜鉛と反応し、酸化亜鉛との複合酸化物を形成することで、過度のZnの酸化や蒸発を抑制すると推察される。かかる効果をより効率的に得るには、上記の酸化チタンの平均粒径は、2nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0056】
なお、上記の酸化チタン、酸化ニッケル及び酸化スズ(IV)から選ばれる1種又は2種以上の酸化物の平均粒径は、より好ましくは、5nm以上50nm以下である。
【0057】
ここで、上記の酸化チタン、酸化ニッケル及び酸化スズ(IV)の平均粒径は、非酸化物セラミクス粒子の平均粒径と同様にして測定することが可能である。
【0058】
表面処理層が酸化チタン、酸化ニッケル及び酸化スズ(IV)の少なくとも何れかの酸化物を含有する場合、その含有量は、片面当たり0.2g/m
2以上2g/m
2以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、片面当たり0.4g/m
2以上1.5g/m
2以下の範囲内である。酸化チタン、酸化ニッケル及び酸化スズ(IV)の少なくとも何れかの含有量が片面当たり0.2g/m
2未満である場合には、熱間プレス後にこれら酸化物が十分に存在していないため、電着塗膜との更に良好な密着性を発現することが困難となることがある。
【0059】
一方、酸化チタン、酸化ニッケル及び酸化スズ(IV)の少なくとも何れかの含有量が片面当たり2g/m
2超過である場合には、本実施形態に係るZn系めっき鋼板のコストが上昇するとともに、表面処理層の凝集力が弱くなって、熱間プレス後に表面処理層上に形成される塗膜が、剥離しやすくなると考えられる。
【0060】
加えて、酸化チタンについては、含有量が片面当たり0.2g/m
2未満である場合には、上記に加え、十分な酸化亜鉛との複合酸化物を形成することができず、Znの酸化や蒸発を効率的に抑制することが困難となることがある。
【0061】
本実施形態に係る表面処理層は、上記のような酸化物に加えて、以下で詳述するP含有化合物、V含有化合物、Cu含有化合物、Al含有化合物、Si含有化合物、又は、Cr含有化合物の少なくとも何れかを、所定の含有量の範囲内で含有してもよい。
【0062】
P含有化合物は、リンを構成元素として含有する化合物である。かかるP含有化合物としては、例えば、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸、ホスフィン酸、亜ホスフィン酸、ホスフィンオキシド、ホスフィン等の化合物や、これらの化合物をアニオンとするイオン化合物等を挙げることができる。これらP含有化合物は、いずれも試薬又は製品として市販されており、容易に入手することができる。これらP含有化合物は、処理液中に溶解した状態、又は、処理液中に粉末として分散した状態で存在しており、表面処理層中では、固体として分散した状態で存在する。
【0063】
V含有化合物は、バナジウムを構成元素として含有する化合物である。かかるV含有化合物としては、例えば、五酸化バナジウムを含むバナジウム酸化物、メタバナジン酸アンモニウムを含むメタバナジン酸系化合物、バナジン酸ナトリウムを含むバナジウム化合物、及び、その他のVを含有する化合物等を挙げることができる。これらV含有化合物は、いずれも試薬又は製品として市販されており、容易に入手することができる。これらV含有化合物は、処理液中に溶解した状態、又は、処理液中に粉末として分散した状態で存在しており、表面処理層中では、固体として分散した状態で存在する。
【0064】
本実施形態に係る表面処理層は、上記のようなP含有化合物及びV含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を、P及びV換算で、それぞれ片面当たり0.00g/m
2以上0.01g/m
2以下の範囲で含有していることが好ましい。
【0065】
上記のようなP含有化合物及びV含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物は、熱間プレス時に酸化されて酸化物となり、Zn系めっき層と表面処理層との界面に偏在して、P又はVの少なくとも何れかを含有する凝集力の弱い酸化物層を形成する。P含有化合物及びV含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物の含有量が、P及びV換算で、それぞれ片面当たり0.00g/m
2以上0.01g/m
2以下の範囲であることにより、熱間プレス時に形成される上記のような凝集力の弱い酸化物層の厚みが薄くなり、熱間プレス後のZn系めっき層と表面処理層との密着性が更に向上する。
【0066】
表面処理層中におけるP含有化合物及びV含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物の含有量が片面当たり0.01g/m
2超過である場合、熱間プレス時に形成される凝集力の弱い酸化物層の厚みが厚くなり、Zn系めっき層と表面処理層との密着性が低下し、結果として、電着塗装後の密着性も低下することとなる。熱間プレス後のZn系めっき層と表面処理層との密着性の観点から、表面処理層中のP含有化合物及びV含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物の含有量は、P及びV換算で、それぞれ片面当たり0.000g/m
2以上0.003g/m
2以下であることがより好ましい。
【0067】
Cu含有化合物は、銅を構成元素として含有する化合物である。かかるCu含有化合物としては、例えば、金属Cu、酸化銅、各種の有機銅化合物、各種の無機銅化合物、各種の銅錯体等を挙げることができる。これらCu含有化合物は、いずれも試薬又は製品として市販されており、容易に入手することができる。これらCu含有化合物は、処理液中に溶解した状態、又は、処理液中に粉末として分散した状態で存在しており、表面処理層中では、固体として分散した状態で存在する。
【0068】
本実施形態に係る表面処理層は、上記のようなCu含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を、Cu換算で、片面当たり0.00g/m
2以上0.02g/m
2以下の範囲で含有していることが好ましい。
【0069】
上記のようなCu含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物は、熱間プレス時に酸化されて酸化物となり、Zn系めっき層と表面処理層との界面に偏在して、Cuを含有する凝集力の弱い酸化物層を形成する。Cu含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物の含有量が、Cu換算で、片面当たり0.00g/m
2以上0.02g/m
2以下の範囲であることにより、熱間プレス時に形成される上記のような凝集力の弱い酸化物層の厚みが薄くなり、熱間プレス後のZn系めっき層と表面処理層との密着性が更に向上する。
【0070】
表面処理層中におけるCu含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の含有量が片面当たり0.02g/m
2超過である場合、熱間プレス時に形成される凝集力の弱い酸化物層の厚みが厚くなり、Zn系めっき層と表面処理層との界面の密着性が低下し、結果として、電着塗装後の密着性も低下することとなる。加えて、Cuは、素地鋼板の主成分であるFeよりも貴な元素であるため、耐食性についても低下傾向となる。熱間プレス後のZn系めっき層と表面処理層との密着性の観点から、表面処理層中のCu含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物の含有量は、Cu換算で、片面当たり0.000g/m
2以上0.005g/m
2以下であることがより好ましい。
【0071】
Al含有化合物は、アルミニウムを構成元素として含有する化合物である。かかるAl含有化合物としては、例えば、金属Al、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムイオンをカチオンとするイオン化合物等を挙げることができる。これらAl含有化合物は、いずれも試薬又は製品として市販されており、容易に入手することができる。これらAl含有化合物は、処理液中に溶解した状態、又は、処理液中に粉末として分散した状態で存在しており、表面処理層中では、固体として分散した状態で存在する。
【0072】
Si含有化合物は、ケイ素を構成元素として含有する化合物である。かかるSi含有化合物としては、例えば、Si単体、シリカ(酸化ケイ素)、有機シラン、バインダー樹脂としても用いられるシリコーン樹脂、及び、その他Siを含有する化合物を挙げることができる。これらSi含有化合物は、いずれも試薬又は製品として市販されており、容易に入手することができる。これらSi含有化合物は、処理液中に溶解した状態、又は、処理液中に粉末として分散した状態で存在しており、表面処理層中では、固体として分散した状態で存在する。
【0073】
本実施形態に係る表面処理層は、上記のようなAl含有化合物及びSi含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を、Al及びSi換算で、それぞれ片面当たり0.000g/m
2以上0.005g/m
2以下の範囲で含有していることが好ましい。
【0074】
上記のようなAl含有化合物及びSi含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物は、熱間プレス時に酸化されて酸化物となり、表面処理層の表面に濃化する。Al含有化合物及びSi含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物の含有量が、Al及びSi換算で、それぞれ片面当たり0.000g/m
2以上0.005g/m
2以下の範囲であることにより、熱間プレス時に表面処理層の表面に形成されるAl又はSiを含有する酸化物の存在比率が小さくなり、熱間プレス後の表面処理層と電着塗膜との密着性が更に向上する。
【0075】
表面処理層中におけるAl含有化合物及びSi含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の含有量が片面当たり0.005g/m
2超過である場合、熱間プレス時に形成されるAl又はSiを含有する酸化物の存在比率が大きくなる。これらのAl又はSiを含有する酸化物は、化成処理皮膜の形成を阻害するとともに、熱間プレス後の表面処理層と電着塗膜との密着性も低下させるため、熱間プレス時に形成されるAl又はSiを含有する酸化物の存在比率が大きくなることで、表面処理層と電着塗膜との密着性が低下することとなる。熱間プレス後の表面処理層と電着塗膜との密着性(すなわち、塗装後密着性)の観点から、表面処理層中のAl含有化合物及びSi含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物の含有量は、Al及びSi換算で、それぞれ片面当たり0.000g/m
2以上0.002g/m
2以下であることがより好ましい。
【0076】
Cr含有化合物は、クロムを構成元素として含有する化合物である。かかるCr含有化合物としては、例えば、金属Cr、各種価数を有するクロム化合物、及び、各種価数を有するクロムイオンをカチオンとするイオン化合物等を挙げることができる。これらCr含有化合物は、処理液中に溶解した状態、又は、処理液中に粉末として分散した状態で存在しており、表面処理層中では、固体として分散した状態で存在する。
【0077】
Cr含有化合物は、価数に応じて性能及び性質が異なり、6価クロム化合物については、有害な化合物が多く存在する。環境保護に対する配慮が強く求められる近時の傾向に鑑み、本実施形態に係る表面処理層は、上記のようなCr含有化合物を極力含有しないことが好ましく、クロムフリーであることがより好ましい。
【0078】
上記のような観点から、本実施形態に係る表面処理層は、上記のようなCr含有化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を、Cr換算で、片面当たり0.00g/m
2以上0.01g/m
2以下の範囲で含有していることが好ましく、Cr含有化合物を含有していないことがより好ましい。
【0079】
また、ジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有することに基づく本発明の効果を阻害しない限り、表面処理層は、カーボンブラック、チタニア等の顔料や、塗装鋼板で使用されている各種の防錆顔料等を含有してもよい。この場合においても、表面処理層は、ジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子を、片面当たり0.1g/m
2以上2g/m
2以下の範囲で含有する。
【0080】
これら顔料を添加することで、直接的に熱間プレス後の塗膜密着性、耐食性が改善することはないが、カーボンブラック、チタニア等の顔料については、炉での熱間プレス加熱時に鋼板表面の放射率を上げることで、加熱時間の短時間かが可能である。防錆顔料については、熱間プレス加熱前に、鋼板が腐食するのを抑制することが可能である。
【0081】
なお、かかる表面処理層の形成方法としては、先だって言及したように、例えばジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有する処理液を亜鉛めっき鋼板表面に塗布して、乾燥及び焼付すればよい。
【0082】
塗布方法は、特定の方法に限定されるものではなく、素地鋼板を処理液に浸漬するか、又は、素地鋼板の表面に処理液をスプレーしてから、所定付着量となるようにロールやガス吹き付けにより付着量を制御する方法や、ロールコータやバーコータで塗布する方法が例示される。
【0083】
また、乾燥、焼付方法も、分散媒(主として水等)を揮発させることが可能な方法であればよく、特定の方法に限定されるものではない。ここで、過度に高温で加熱すると表面処理層の均一性が低下することが懸念され、逆に、過度に低温で加熱すると生産性の低下が懸念される。従って、優れた特性を有する表面処理層を安定的かつ効率的に製造するためには、塗布後の表面処理層を、80℃〜150℃程度の温度で5秒〜20秒程度加熱することが好ましい。
【0084】
また、表面処理層の形成は、めっき鋼板の製造ラインにおいてインラインで行われることが経済的であり好ましいが、別ラインで形成してもよいし、あるいは、成形のためのブランキングをしてから形成してもよい。
【0085】
ここで、表面処理層におけるジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子や酸化チタン、酸化ニッケル、酸化スズ(IV)の含有量は、公知の方法により測定可能であり、例えば、事前に各種化合物を断面エネルギー分散型X線(Energy Dispersive X−ray:EDX)分析等で確認したうえで、皮膜を溶解して、ICP(Inductively Coupled Plasma、誘導結合プラズマ)発光分光分析法などを用いることで測定が可能である。また、表面処理層中における上記P含有化合物、V含有化合物、Cu含有化合物、Al含有化合物、Si含有化合物、及び、Cr含有化合物の含有量についても、同様の方法により測定が可能である。
【0086】
<2.熱間プレス工程について>
先だって説明したようなZn系めっき鋼板に熱間プレス法を適用する場合、Zn系めっき鋼板は、所定の温度まで加熱された後、プレス成形が行われる。本実施形態に係る溶融Zn系めっき鋼板の場合、熱間プレス成形を行うことから、通常、700〜1000℃に加熱するが、急速冷却後にマルテンサイト単相としたり、マルテンサイトを体積率で90%以上としたりする場合には、加熱温度の下限温度は、Ac
3点以上とすることが重要である。本発明の場合、急速冷却後マルテンサイト/フェライトの2相域の場合も包含されるため、加熱温度としては、上記のように700〜1000℃とすることが好ましい。
【0087】
熱間プレス法では、緩加熱による熱間プレスと、急速加熱による熱間プレスという2つの方法がある。用いる加熱方法としては、電気炉、ガス炉や火炎加熱、通電加熱、高周波加熱、誘導加熱等が挙げられ、加熱時の雰囲気も特に制限されるものではないが、本発明の効果を顕著に得る加熱方法としては、急速加熱である通電加熱、誘導加熱等を用いることが好ましい。
【0088】
緩加熱による熱間プレス法では、加熱炉の輻射加熱を利用する。初めに、本実施形態に係るZn系めっき鋼板を熱間プレス用鋼板として用いて、加熱炉(ガス炉、電気炉等)に装入する。加熱炉内で、熱間プレス用鋼板を700〜1000℃に加熱し、条件によっては、この加熱温度で保持(均熱)する。これにより、Zn系めっき層中のZnがFeと結合して、固相(Fe−Zn固溶体相)となる。Zn系めっき層中の溶融ZnをFeと結合させて固相化した後、加熱炉から鋼板を抽出する。なお、均熱によりZn系めっき層中の溶融ZnをFeと結合させて、Fe−Zn固溶体相及びZnFe合金相として固相化した後、加熱炉から鋼板を抽出してもよい。
【0089】
対して、Zn系めっき鋼板を700〜1000℃に加熱し、保持時間無し、又は、保持時間を短時間として、加熱炉から鋼板を抽出してもよい。かかる場合には、鋼板を700〜1000℃に加熱した後、Zn系めっき層中の溶融ZnがFeと結合して固相(Fe−Zn固溶体相又はZnFe合金相)になるまで、プレス成形等により鋼板に応力を付与することなく冷却する。具体的には、少なくとも鋼板の温度が782℃以下になるまで冷却する。冷却後、以下で説明するように、金型を用いて鋼板をプレスしながら冷却を行う。
【0090】
急速加熱による熱間プレスにおいても同様に、本実施形態に係るZn系めっき鋼板を熱間プレス用鋼板として用いて、700〜1000℃まで急速加熱する。急速加熱は、例えば、通電加熱又は誘導加熱により実施される。かかる場合における平均加熱速度は、20℃/秒以上である。急速加熱の場合、Zn系めっき鋼板を700〜1000℃に加熱した後、Zn系めっき層中の溶融ZnがFeと結合して固相(Fe−Zn固溶体相又はZnFe合金相)になるまで、プレス成形等により鋼板に応力を付与することなく冷却する。具体的には、少なくとも鋼板の温度が782℃以下になるまで冷却する。冷却後、以下で説明するように、金型を用いて鋼板をプレスしながら冷却を行う。
【0091】
抽出された鋼板は、金型を用いてプレスされる。鋼板をプレスする際に、金型によって鋼板が冷却される。金型内には、冷却媒体(例えば水など)が循環しており、金型が鋼板を抜熱して冷却する。以上の工程により、通常加熱により熱間プレス鋼材が製造される。
【0092】
本実施形態に係る表面処理層を有するZn系めっき鋼板を用いて製造された熱間プレス鋼材は、優れたリン酸塩処理性及び塗装密着性と溶接性を有する。前者の性能においては特に、本実施形態に係るZn系めっき鋼板は、急速加熱による熱間プレスや、緩加熱による熱間プレスで700〜1000℃に加熱して、保持時間無し、又は、保持時間を短時間とした場合に、後者の性能においては特に、本実施形態に係るZn系めっき鋼板は、炉加熱又は大気雰囲気加熱による熱間プレスで700〜1000℃に加熱して、保持時間を長時間とした場合に、顕著に効果を発揮する。
【0093】
従来のめっき鋼板を用いて、通常加熱による熱間プレスを実施する場合、加熱炉で鋼板が均熱される。この場合、熱間プレス用鋼板のめっき層の表層にAl酸化膜が形成されるが、長時間の均熱によりAl酸化膜がある程度割れて分断されるため、化成処理性への悪影響は小さい。一方、急速加熱による熱間プレスを実施する場合、均熱時間が極めて短い。そのため、最表面に形成されたAl酸化膜は破壊されにくい。そのため、従来のめっき鋼板を用いた場合の急速加熱による熱間プレスでは、通常加熱による熱間プレスと比較して、熱間プレス鋼材のリン酸塩処理性及び塗装密着性が低い。
【0094】
一方、本実施形態に係る熱間プレス用のZn系めっき鋼板は、ジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子から選ばれる1種又は2種以上の化合物を表面処理層中に含有することにより、熱間プレス時にAl酸化を無害化して酸化亜鉛の生成を促進するため、良好なリン酸塩処理性及び塗装密着性を発揮することができる。
【実施例】
【0095】
以下では、実施例を示しながら、本発明の実施形態に係るZn系めっき鋼板の作用効果を更に具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係るZn系めっき鋼板のあくまでも一例であって、本発明に係るZn系めっき鋼板が下記の実施例に限定されるものではない。
【0096】
<素地鋼板>
以下では、まず、以下の表1に示す化学組成を有する溶鋼を製造した。その後、製造したそれぞれの溶鋼を用いて、連続鋳造法によりスラブを製造した。得られたスラブを熱間圧延し、熱延鋼板を製造した。続いて、熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造し、表1に記載の化学組成を有する鋼#1〜#8の鋼板を作製した。表1に示すとおり、各鋼種の鋼板の板厚は、いずれも1.6mmであった。
【0097】
【表1】
【0098】
<Zn系めっき層>
鋼#1〜#8の鋼板に溶融Znめっき処理を行い、その後合金化処理を実施した。合金化処理での最高温度はいずれも530℃であり、約30秒加熱した後、室温まで冷却し、合金化溶融Znめっき鋼板(GA)を製造した。また、鋼#1を用いて溶融Znめっき処理を行い、合金化処理を行わずに、溶融Znめっき鋼板(GI)を製造した。
【0099】
また、鋼#1の鋼板に対して、溶融Zn−55%Al、溶融Zn−6%Al−3%Mg、溶融Zn−11%Al−3%Mg−0.2%Siという3種類のめっき浴を用いて各種溶融Znめっきを行い、溶融Zn系めっき鋼板A1〜A3を製造した。
【0100】
A1:溶融Zn−55%Al
A2:溶融Zn−6%Al−3%Mg
A3:溶融Zn−11%Al−3%Mg−0.2%Si
【0101】
加えて、鋼#1に対して、電気Znめっき、電気Zn−Niめっき、電気Zn−Coめっきの各種Zn系めっきを行った。
【0102】
なお、電気めっきを利用する場合における具体的なめっき操作としては、Znイオンを含有する電解液中にて、鋼板を負極として対極との間で電解処理を実施した。また、鋼板へのめっき付着量の制御は、電解液組成や電流密度、電解時間により行った。
【0103】
A4:電気Znめっき
A5:電気Zn−Niめっき
A6:電気Zn−Coめっき
【0104】
なお、上記8種類のZn系めっき工程において、Zn系めっき層の付着量は、片面当たり60g/m
2に揃えた。
【0105】
<表面処理層>
次いで、固形分比率で、表2の組成となる薬液を作成するため、下記化合物及び薬剤を、水を用いてブレンドした。得られた処理液をバーコータで塗布し、最高到達温度100℃で8秒間保持されるような条件でオーブンを用いて乾燥することにより、熱間プレス用めっき鋼板を製造した。処理液の付着量は、処理液中の不揮発分の全付着量が表3に示される数値になるように、液の希釈及びバーコータの番手により調整した。以下の表2において、各成分の固形分濃度は、処理液全体の不揮発分に対する「化合物A」といった各成分の不揮発分の比率(単位:質量%)として記載した。
【0106】
表2中の各成分(記号)は、以下の通りである。
なお、後述するように、ジルコニウム等を含有する非酸化物セラミクス粒子以外の粒状物質としてバナジウムを含有する非酸化物セラミクス粒子も検討したが、この場合はバナジウムを含有する非酸化物セラミクス粒子を「化合物A」とみなした。同様に、酸化チタン、酸化ニッケル及び酸化スズ(IV)を「酸化物B」とした。
【0107】
(i)化合物A:ZrB
2、ZrC、ZrN、ZrSi
2、VB
2、VN
ZrB:ZrB
2粒子(日本新金属(株)、平均粒径1.5〜2.5μm(カタログ値)
ZrC:ZrC粒子(日本新金属(株)、平均粒径1.5〜2.5μm(カタログ値)
ZrN1:ZrN粒子(日本新金属(株)、平均粒径1〜2μm(カタログ値)
ZrN2:ZrN粒子(日本新金属(株)、平均粒径0.7μm(ZrN1を分散機で分散させることで作製)
ZrN3:ZrN粒子(日本新金属(株)、平均粒径0.3μm(ZrN1を分散機で分散させることで作製)
ZrS1:ZrSi
2粒子(日本新金属(株)、平均粒径2〜5μm(カタログ値)
ZrS2:ZrSi
2粒子(日本新金属(株)、平均粒径5〜10μm(カタログ値)
LaB:LaB
6粒子(日本新金属(株)、平均粒径1〜2μm(カタログ値)
VB:VB
2粒子(日本新金属(株)、平均粒径2〜5μm(カタログ値)
VN:VN粒子(日本新金属(株)、平均粒径4〜7μm(カタログ値)
【0108】
(ii)酸化物B:酸化チタン、酸化ニッケル、酸化スズ(IV)
Ti1:酸化チタンゾル(テイカ(株)TKS−203)、平均粒径約6nm
Ti2:酸化チタン(石原産業(株)酸化チタンR−930)、平均粒径250nm(カタログ値)
Ni:酸化ニッケル(イオリテック(株)酸化ニッケル)、平均粒径20nm
Sn:酸化スズ(IV)ゾル(多木化学(株)セラメースC−10)、平均粒径10nm
【0109】
(iii)樹脂
A:ウレタン系樹脂エマルション(第一工業製薬(株)スーパーフレックス(登録商標)150)
B:ウレタン系樹脂エマルション(第一工業製薬(株)スーパーフレックス(登録商標)E−2000)
C:ポリエステル樹脂エマルション(東洋紡(株)バイロナール(登録商標)MD1480)
【0110】
(iv)架橋剤
M:メラミン樹脂(三井サイテック(株)サイメル(登録商標)325)
Z:炭酸ジルコニウムアンモニウム(キシダ化学(株)炭酸ジルコニウムアンモニウム溶液)
S:シランカップリング剤(日美商事(株)サイラエースS510)(Si含有化合物)
【0111】
(v)顔料
PA:縮合リン酸Al(テイカ(株)縮合リン酸アルミK−WHITE ZF150W)(P、Al含有化合物)
PZ:亜リン酸亜鉛(東邦顔料(株)NP−530)(P含有化合物)
Si1:シリカ粒子(富士シリシア化学(株)サイロマスク02)(Si含有化合物)
Si2:コロイダルシリカ(日産化学(株)スノーテックスO)(Si含有化合物)
Al:アルミナゾル(日産化学(株)AS−200)(Al含有化合物)
V:バナジン酸カリウム(一般試薬)(V含有化合物)
Cr:酸化Cr(VI)(一般試薬)(Cr含有化合物)
Cu:酸化銅(II)(一般試薬)(Cu含有化合物)
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
<熱間プレス工程>
表面処理層の形成工程後、各試験番号の鋼板に対して、通電加熱と大気加熱の2種類の加熱方式にて熱間プレス加熱を行い、熱間プレスを実施した。
【0115】
通電加熱方式では、通電方式で熱間プレス加熱を行い、熱間プレスを実施した。この際、加熱速度を85℃/秒及び42.5℃/秒とし、870℃に加熱した。
【0116】
熱間プレス加熱後、鋼板温度が650℃になるまで冷却した。冷却後、水冷ジャケットを備えた平板金型を利用して、鋼板を挟み込んで熱間プレス鋼材(鋼板)を製造した。熱間プレス時冷却速度が遅い部分でも、マルテンサイト変態開始点である360℃程度まで、50℃/秒以上の冷却速度となるように冷却し、焼入れした。
【0117】
大気加熱方式では、マッフル炉を用い、大気雰囲気で910℃とし、鋼板温度が900℃到達後5分間加熱した。
【0118】
熱間プレス加熱後、速やかに水冷ジャケットを備えた平板金型を利用して、鋼板を挟み込んで熱間プレス鋼材(鋼板)を製造した。熱間プレス時冷却速度が遅い部分でも、マルテンサイト変態開始点である360℃程度まで、50℃/秒以上の冷却速度となるように冷却し、焼入れした。以下では、各試験番号の鋼板を上述の通電加熱方式、大気加熱方式で熱間プレスを行い、以下の評価を実施した結果を表3に示す。
【0119】
<評価方法>
[リン酸塩処理性評価試験]
以下の表3に記載の各試験番号の板状の熱間プレス鋼材に対して、日本パーカライジング株式会社製の表面調整処理剤プレパレンX(商品名)を用いて、表面調整を室温で20秒実施した。更に、日本パーカライジング株式会社製のリン酸亜鉛処理液パルボンド3020(商品名)を用いて、リン酸塩処理を実施した。処理液の温度は43℃とし、板状の熱間プレス鋼材を処理液に120秒間浸漬後、水洗・乾燥を行った。
【0120】
リン酸塩処理後の熱間プレス鋼材の表面を、任意の5視野(125μm×90μm)を1000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、反射電子像(BSE像)を得た。反射電子像では、観察領域をグレースケールで画像表示した。反射電子像内において、化成皮膜であるリン酸塩皮膜が形成された部分と、リン酸塩皮膜が形成されていない部分とでは、コントラストが異なる。そこで、リン酸塩皮膜が形成されていない部分の明度(複数階調)の数値範囲X1を、SEM及びEDS(エネルギ分散型X線分光器)により予め決定した。
【0121】
各視野の反射電子像において、画像処理により、数値範囲X1内のコントラストを示す領域の面積A1を求めた。そして、以下の式(1)に基づいて、各視野の透け面積率TR(%)を求めた。
【0122】
TR=(A1/A0)×100 ・・・(1)
【0123】
ここで、上記式(1)において、A0は、視野の全面積(11250μm
2)である。5視野の透け面積率TR(%)の平均を、その試験番号の熱間プレス鋼材の透け面積率(%)と定義した。
【0124】
表3中の「リン酸塩処理性」欄の「J」は、透け面積率が30%以上であったことを意味する。「I」は、透け面積率が25%以上30%未満であったことを意味する。「H」は、透け面積率が20%以上25%未満であったことを意味する。「G」は、透け面積率が15%以上20%未満であったことを意味する。「F」は、透け面積率が13%以上15%未満であったことを意味する。「E」は、透け面積率が11%以上13%未満であったことを意味する。「D」は、透け面積率が10%以上11%未満であったことを意味する。「C」は、透け面積率が8%以上10%未満であったことを意味する。「B」は、透け面積率が6%以上8%未満であったことを意味する。「A」は、透け面積率が6%未満であったことを意味する。透け評価において、「F」、「E」、「D」、「C」、「B」又は「A」である場合、リン酸塩処理性に優れると判断した。
【0125】
[塗装密着性評価試験]
上述のリン酸塩処理を実施した後、各試験番号の板状の熱間プレス鋼材に対して、日本ペイント株式会社製のカチオン型電着塗料を、電圧160Vのスロープ通電で電着塗装し、更に、焼き付け温度170℃で20分間焼き付け塗装した。電着塗装後の塗料の膜厚の平均は、いずれの試験番号も10μmであった。
【0126】
電着塗装後、熱間プレス鋼材を、50℃の温度を有する5%NaCl水溶液に、500時間浸漬した。浸漬後、試験面60mm×120mmの領域(面積A10=60mm×120mm=7200mm
2)全面に、ポリエステル製テープを貼り付けた。その後、テープを引きはがした。テープの引きはがしにより剥離した塗膜の面積A2(mm
2)を求め、式(2)に基づいて塗膜剥離率(%)を求めた。
【0127】
塗膜剥離率=(A2/A10)×100 ・・・(2)
【0128】
表3中の「塗装密着性」欄の「M」は、塗膜剥離率が50.0%以上であったことを意味する。「L」は、塗膜剥離率が35%以上50%未満であったことを意味する。「K」は、塗膜剥離率が20%以上35%未満であったことを意味する。「J」は、塗膜剥離率が10%以上20%未満であったことを意味する。「I」は、塗膜剥離率が8%以上10%未満であったことを意味する。「H」は、塗膜剥離率が6%以上8%未満であったことを意味する。「G」は、塗膜剥離率が5%以上6%未満であったことを意味する。「F」は、塗膜剥離率が4%以上5%未満であったことを意味する。「E」は、塗膜剥離率が3%以上4%未満であったことを意味する。「D」は、塗膜剥離率が2.5%以上3%未満であったことを意味する。「C」は、塗膜剥離率が1.3%以上2.5%未満であったことを意味する。「B」は、塗膜剥離率が0.5%以上1.3%未満であったことを意味する。「A」は、塗膜剥離率が0.5%未満であったことを意味する。塗装密着性評価において、「I」、「H」、「G」、「F」、「E」、「D」、「C」、「B」又は「A」である場合、塗装密着性に優れると判断した。
【0129】
[スポット溶接性評価試験]
上述の板状の熱間プレス鋼材試験片から30×50mmの試料を切り出し、スポット溶接における適正電流範囲を調査した。溶接条件は、加圧300kgf(1kgfは、約9.8Nである。)、直流電源、通電時間15サイクル(60Hz)、クロム銅、DR(先端6φ:40R)電極とし、下限は4(t)
0.5、上限はチリ発生として、適正範囲を調査した。
【0130】
表3中の「スポット溶接性」欄の「E」は、適正電流範囲が、0.5kA未満であったことを意味する。「D」は、適正電流範囲が、0.5kA以上1.0kA未満であったことを意味する。「C」は、適正電流範囲が、1.0kA以上1.5kA未満であったことを意味する。「B」は、適正電流範囲が、1.5kA以上2.0kA未満であったことを意味する。「A」は、適正電流範囲が、2.0kA以上であったことを意味する。スポット溶接性評価において、「C」、「B」、「A」である場合、スポット溶接性に優れると判断した。
【0131】
【表4】
【0132】
【表5】
【0133】
【表6】
【0134】
【表7】
【0135】
また、以下の表4に記載の各試験番号を通電加熱方式で熱間プレスを行った板状の熱間プレス鋼材に対して、上記リン酸亜鉛処理に替えて、Zrイオン及び/又はTiイオンと、フッ素と、を含有し、かつ、100〜1000ppmの遊離フッ素イオンを含有する水溶液(以下、FF化成処理液という。)を用いた処理を実施し、得られた試験片の塗装密着性及び耐食性を検証した。
【0136】
上記FF化成処理液は、遊離フッ素(以下、FFと略記する。)、Al酸化皮膜及びZn酸化皮膜を溶解する。そのため、FFは、Al酸化皮膜及びZn酸化皮膜の一部又は全部を溶解しながら、ホットスタンプ工程にて形成されたZn含有層をエッチングする。その結果、Zr及び/又はTiの酸化物、又は、Zr及び/又はTiの酸化物とフッ化物との混合物、からなる化成処理層(以下、特定化成処理層という。)が形成される。Al酸化皮膜及びZn酸化皮膜をエッチングできるようFF濃度を制御すれば、Al酸化皮膜及びZn酸化皮膜がエッチングされ、特定化成処理層が形成される。
【0137】
かかるFF化成処理液を得るために、H
2ZrF
6(ヘキサフルオロジルコン酸)、H
2TiF
6(ヘキサフルオロチタン酸)を所定の金属濃度となるよう容器に入れ、イオン交換水で希釈した。その後、フッ酸及び水酸化ナトリウム水溶液を容器に入れ、溶液中のフッ素濃度及び遊離フッ素濃度が所定値となるよう調整した。遊離フッ素濃度の測定は、市販の濃度測定器を用いて行った。調整後、容器をイオン交換水で定容し、FF化成処理液とした。
【0138】
FF化成処理は、以下のようにして実施した。まず、事前の処理として、アルカリ脱脂剤(日本ペイント株式会社製EC90)を用い、45℃で2分間、浸漬脱脂を実施した。その後、以下の表5に示したFF化成処理液に40℃で120秒浸漬して、化成処理を実施した。化成処理後、試験片を水洗乾燥した。
【0139】
【表8】
【0140】
【表9】
【0141】
得られた試験材について、特定化成処理層の化成処理性は、蛍光X線分析でZrもしくはTiの付着量を測定し、付着量の測定値が10〜100mg/m
2であったものを「A」とし、付着量の測定値が10mg/m
2未満又は100mg/m
2超過であったものを「B」とし、得られた結果を表5にあわせて示した。なお、ジルコニアを含有する系については、Zr系FF処理を実施する前の付着量を蛍光X線分析で予め測定し、化成処理後のZr付着量から処理前のZr付着量を差し引いたものを、Zr系FF化成処理の付着量とした。また、得られた試験材に対する塗装密着性評価試験の方法及び評価基準については、上記のリン酸塩皮膜の形成された試験材に対して実施した塗装密着性評価試験と同様である。
【0142】
上記表3及び表4から明らかなように、本発明に係るZn系めっき鋼板は、優れた熱間プレス後の塗膜密着性のみならず、優れた化成処理性及びスポット溶接性を有していることがわかる。
【0143】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。