(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シート状の基材に形成した格子状の隔壁によって区画されたセルに放射線を受けて発光する蛍光体が充填された画素構造を有するシンチレータパネルであって、パネル外周部の非表示領域の少なくとも一部に表裏とも前記格子状の隔壁が露出した部分を有し、該露出部が光透過性を有するシンチレータパネル。
請求項1〜3のいずれかに記載のシンチレータパネルを製造する方法であって、基材A上に低融点ガラスと感光性有機成分とを含有する感光性ペーストを塗布し、感光性ペースト塗布膜を形成する工程と、当該感光性ペースト塗布膜を所定のパターンに露光する露光工程と、露光後の感光性ペースト塗布膜の現像液に可溶な部分を溶解除去する現像工程と、現像後の感光性ペースト塗布膜パターンを500℃〜700℃の焼成温度に加熱して有機成分を除去すると共に低融点ガラスを軟化および焼結させて隔壁とする焼成工程と、当該隔壁間に蛍光体を充填してシンチレータ層とする工程と、基材Aから前記シンチレータ層を剥離する工程と、前記シンチレータ層を、少なくとも一部に開口部または切欠部を有する基材Bに貼り合わせる工程を含むシンチレータパネルの製造方法。
請求項1〜3のいずれかに記載のシンチレータパネルと、当該シンチレータパネルにおける前記格子状の隔壁と画素ピッチが対応するように光電変換素子が配列した受光基板とが貼り合わされてなる放射線検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を用いて本発明のシンチレータパネルを用いた放射線検出装置の好ましい構成について説明するが、本発明はこれらに限定されない。本発明における放射線としてはX線、γ線などの電磁放射線とα線、β線、中性子線などの粒子放射線を用いることができるが、なかでもX線が好ましく用いられる。
【0012】
図1は、本発明のシンチレータパネルを含む放射線検出装置の構成を模式的に表した斜視図である。放射線検出装置1は、シンチレータパネル2と受光基板3からなる。シンチレータパネル2は、蛍光体からなるシンチレータ層を含み、X線等の入射された放射線のエネルギーを吸収して、波長が300〜800nmの範囲の電磁波、すなわち、可視光線を中心に、紫外光から赤外光にわたる範囲の電磁波(光)を放射する。シンチレータパネル2の上面には基材5が配置され、基材5は一部に基材開口部4を有している。基材開口部4は非表示領域の一部に配置され、格子状の隔壁が露出している。非表示領域とはシンチレータパネル2の周囲に設けられた発光に寄与しない領域である。
【0013】
図2は基材開口部4周辺を模式的に表した正面図である。基材開口部4は格子状の貫通隔壁6’上に設けられており、貫通隔壁6’は光透過性を有する。ここで光透過性とは隔壁が貫通構造となっていることにより、カメラなどで撮像した際に隔壁の向こう側の物体を透かし見ることができる特性をいう。この光透過性を有することから、下面に配置された光電変換素子7を貫通隔壁6’を通して視認することができる。貫通隔壁6’は光電変換素子7周囲の配線パターン8と重なるように貼り合わされており、隔壁の画素と光電変換素子7は1対1対応している。基材開口部4に露出した貫通隔壁6’はシンチレータパネル2と受光基板3を貼り合わせるためのアライメントマークとして用いることができる。貫通隔壁6’には蛍光体層がないため発光には寄与しない非表示領域となる。よってシンチレータパネル2の最外周に必要最低限のエリアで形成することが有効表示領域を広くとることができ好ましい。また、基材開口部4をシンチレータパネル2の非表示領域の中からパネルのコーナー部に配置するとパネルのX方向とY方向を狭いエリアで同時に確認できて好ましい。
【0014】
図3は基材開口部4を含めて切断した際の断面図である(
図1A−A’)。シンチレータパネル2は、平板状の基材5と隔壁6を含むシンチレータ層を粘着層9を介して貼り合わせた構成となっている。有効表示領域では隔壁6により区画された空間でセル構造を形成し、セル内に蛍光体12が充填されている。隔壁6の表面には反射膜11が形成されており、隔壁6と粘着層9の間には隔壁補強層10が設けられている。一方、非表示領域には蛍光体12が充填されておらず、隔壁補強層10が存在しない貫通隔壁6’により構成されている。この非表示領域内に基材開口部4が設けられている。
【0015】
シンチレータパネル2と受光基板3は非表示領域の接着層16によって接着されている。接着層16は隔壁6と受光基板3との間に隙間を生じさせ、隣接セルへの光漏れによる画像鮮鋭度の低下を引き起こす可能性があるため非表示領域に設けることが好ましい。
【0016】
受光基板3は、基板14上に光電変換素子7と配線パターン8が2次元状に形成された光電変換部と出力層13、電源部15から成る。放射線により発光した光が光電変換素子7に到達すると、出力層13を通じて電気信号が出力される。
【0017】
本発明のシンチレータパネルは各セルを隔壁が仕切っているので、光電変換素子7の画素ピッチと、シンチレータパネル2の隔壁画素ピッチを対応させて貼り合わせることができる。この際に基材開口部4から貫通隔壁6’を通して光電変換素子7が視認できるため簡易かつ高精度にアライメントして貼り合わせることが可能となる。
【0018】
図4はシンチレータパネル2のセルピッチを光電変換素子7の画素ピッチの2倍にした放射線検出装置の断面図である。このように隔壁画素ピッチを光電変換素子7の画素ピッチの整数倍とすることでも光電変換素子7の画素ピッチと、シンチレータパネル2の隔壁画素ピッチを対応させて貼り合わせることができ画像鮮鋭度大きく下げることなく発光量を確保することができる。倍数を大きくすることで発光量は増加するが、隣接セルへの光漏れを防止する隔壁の効果が小さくなるため画像鮮鋭度は低下する。よって実効的には1倍、2倍、または、3倍とすることが好ましく、2倍とすることがより好ましい。
【0019】
以下に本発明のシンチレータパネル2の製造方法の一例を記載する。
図5に示すように、平板上の基材A(17)の表面にスクリーン印刷法などを用いてガラス粉末含有ペーストBを一面に塗布、乾燥し塗布膜B(18)を得る。塗布膜B上にガラス粉末含有ペーストCをスクリーン印刷法などを用いて一面に塗布、乾燥し塗布膜Cを得る。塗布膜Cは塗布膜Bを完全に覆い隠すように形成することが好ましい。これらを焼成し、有機成分を除去する。ガラス粉末含有ペーストBは焼成温度以上の融点を持つ無機粉末を主成分とし、ガラス粉末含有ペーストCは焼成温度以下の融点を持つ低融点ガラス粉末を主成分とすることで、焼成により塗布膜Bは非焼結層、これを覆う塗布膜Cは焼結層とすることができる。塗布膜Bを非焼結層とすることで後工程にて実施する層剥離のための剥離補助層とすることができる。焼結層である塗布膜Cは強固であるため格子状の隔壁を安定形成するための隔壁補強層(10)とすることができる。塗布膜C上にスクリーン印刷法などを用いてガラス粉末含有ペーストDを塗布、乾燥し塗布膜D(19)を得る。塗布膜Dは隔壁パターン形成範囲の周囲に枠状にパターン形成することが好ましい。塗布膜CおよびD上にスリットダイコーターなどを用いてガラス粉末含有ペーストEをシート状に塗布、乾燥し塗布膜E(20)を得る。塗布膜DおよびEをフォトリソ法などでパターン加工して格子状の隔壁パターンを得る。これを焼成し、有機成分を除去することで隔壁(6)を得る。ガラス粉末含有ペーストDは焼成温度以上の融点を持つガラス粉末を主成分とし、ガラス粉末含有ペーストEは焼成温度以下の融点を持つ低融点ガラス粉末を主成分とすることで塗布膜Dは非焼結隔壁(21)、塗布膜Eは焼結隔壁とすることができる。形成した隔壁の表面を覆うように反射膜F(
図5には図示しない)を形成し、さらに隔壁で区画されたセル内部に蛍光体G(12)を充填する。この際、塗布膜Dで形成した非焼結隔壁部には蛍光体Gを充填しない。次に基材Aの塗布膜Bを含む隔壁パターンの外周部をカットすることで剥離補助層である塗布膜Bを起点として基材Aと塗布膜Cで形成した隔壁補助層より上のシンチレータ層を剥離することができる。また、塗布膜Dで形成した非焼結隔壁部を起点として隔壁補助層を剥離除去することで隔壁の周囲を隔壁補助層が存在しない貫通構造とすることができる。これをフィルムなど放射線吸収の小さい材料から成る基材B(5)に粘着層(9)を用いて貼り合わせることでシンチレータ2を製造することができる。
【0020】
基材Aとしては、アルミナ、窒化アルミ等のセラミックス板、
セラミックス粉末とガラスの粉末とを混合して焼結したガラスセラミックス板、
アルミニウムシート、鉄シート、銅シート等の金属シート、
好ましくは石英、ホウ珪酸ガラス、化学的強化ガラス等のガラスからなるガラス板等を用いることができる。
【0021】
基材は高耐熱性であることが好ましい。ここで高耐熱性の基材とは、焼成工程において焼失せず、かつ焼成工程の前後で、室温における体積変化率が20%以下である基材をいう。高耐熱性の基材を用いることにより、焼成工程におけるピッチの変動等の影響を最小限にとどめることができる。基材の線膨張係数をαs(K
−1)、隔壁材料の成分であるガラスの線膨張係数をαg(K
−1)とした場合、焼成工程における基材の反りを抑制するため、αsとαgの差の絶対値|αs−αg|は、200×10
−7(K
−1)以下であることが好ましく、50×10
−7(K
−1)以下であることがより好ましい。
【0022】
ガラス粉末含有ペーストBは非焼結ペーストであり、焼成工程において焼結しない無機粉末(以下、「非焼結無機粉末」ということがある。)を、無機成分中の主成分として含有するペーストである。非焼結無機粉末を無機成分中の主成分とするとは、非焼結ペーストが含有する無機成分の50〜100体積%が、非焼結無機粉末であることをいう。非焼結ペーストが、非焼結無機粉末を無機成分中の主成分として含有することにより、剥離補助層として焼成工程におけるこれより上の層と基材との融着を抑制でき、焼成後の層剥離および非焼結層の剥離が容易となる。非焼結ペーストが含有する無機成分に占める非焼結無機粉末の割合は、70〜100体積%が好ましく、90〜100体積%がより好ましい。
【0023】
非焼結無機粉末としては、例えば、軟化温度が焼成温度よりも高い、ガラス粉末又はセラミック粉末が挙げられるが、焼成工程における基板との融着を防ぐため、軟化温度が焼成温度よりも50℃以上高いことが好ましい。より具体的には、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、酸化コバルト、酸化ニッケル等のセラミックス粒子
又は高軟化点ガラス粉末が好ましい。
【0024】
非焼結無機粉末の体積平均粒子径(以下、「D50」ということがある。)は、0.01〜20μmであることが好ましく、0.05〜3.0μmであることがより好ましい。D50が0.01μm未満であると、焼成工程後に基材から層剥離することが困難になりやすい。一方で、D50が20μmを超えると、過度に剥離しやすくなり、焼成中にパターンが部分的に剥がれてしまうことがある。
【0025】
ガラス粉末含有ペーストBは、非焼結無機粉末を、全無機成分に対し50体積%以上含有することが必要であるが、剥離補助層の特性を損なわない範囲で、焼成温度で焼結するガラス粉末を含んでも構わない。そのようなガラス粉末を適量含有することで、焼成におけるパターン端部のめくれや反りを抑制できることがある。
【0026】
ガラス粉末含有ペーストBは、焼成工程後に残存する非焼結無機粉末を含む無機成分と、焼成工程時に熱分解される有機成分とで構成される。非焼結ペーストが含有する有機成分は、20〜80質量%であることが好ましい。有機成分が20質量%未満であると、ペースト中の無機成分の分散性が低下し、焼成工程で欠陥が生じやすくなる。一方で、有機成分が80質量%を超えると、焼成工程における収縮が大きくなり、ひび割れ等の欠陥が生じやすくなる。
【0027】
ガラス粉末含有ペーストBに含まれる有機成分としては、バインダー樹脂、硬化性モノマー、重合開始剤、分散剤又は有機溶媒が好ましい。
【0028】
ガラス粉末含有ペーストBを塗布する方法としては、例えば、スクリーン印刷法、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、ブレードコーター等が挙げられる。これらの方法により塗布した後、乾燥することにより、塗布膜Bが得られる。
【0029】
塗布膜Bの厚さは、0.1〜100μmであることが好ましく、0.2〜50μmであることがより好ましく、1〜10μmであることがさらにより好ましい。塗布膜Bの厚さが0.2μm未満であると、焼成工程後に立体構造物を基材から剥離しにくくなりやすい。一方で、厚さが50μmを超えると、過度に剥離しやすくなり、焼成工程中にパターンが部分的に剥がれてしまうことがある。
【0030】
ガラス粉末含有ペーストCは有機成分と、ガラス粉末を含む無機成分で構成される。ガラス粉末含有ペーストCに占めるガラス粉末の含有量は、10〜95質量%であることが好ましい。
【0031】
ガラス粉末含有ペーストCが含有するガラス粉末は、焼成温度で軟化するガラスが好ましく、軟化温度が700℃以下である、低融点ガラスがより好ましい。これにより焼成後に焼結層となり、隔壁の強度維持の役割を果たす隔壁補強層とすることができる。また、低融点ガラスを用いることにより、焼成温度を低くでき、基材の選択の幅が広くなる。
【0032】
ガラス粉末含有ペーストCは、ガラス粉末以外に無機成分として、隔壁補強層の特性を損なわない範囲で、高軟化点ガラス粉末、
又は酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム等の白色セラミックス粉末を適宜含有させることができる。
【0033】
ガラス粉末含有ペーストCが含有する、焼成温度において焼結する無機粉末の体積平均粒子径(D50)は、0.05〜50μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましい。D50が0.05μm未満であると、隔壁補強層のRaが小さくなり、隔壁のパターン形成時に剥れやすくなる。一方で、D50が50μmを超えると、隔壁補強層中に空隙を含みやすく、強度向上効果が小さくなりやすい。
【0034】
ガラス粉末含有ペーストCが含有する有機成分は、バインダー樹脂、硬化性モノマー、重合開始剤、分散剤、有機溶媒が好ましく例示される。
【0035】
ガラス粉末含有ペーストCを塗布する方法としては、例えば、スクリーン印刷法、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、ブレードコーター等が挙げられる。これらの方法により塗布した後、乾燥することにより、塗布膜Cが得られる。
【0036】
塗布膜Cは塗布膜Bより形成面積を広くし、完全に塗布膜Bを覆い隠すよう形成することが好ましい。これにより焼成工程を経た際、基材と塗布膜Cが接する部分が融着し、塗布膜Cの剥がれを防止することができる。塗布膜Cの厚みは、1〜500μmであることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましい。厚みが1μm未満であると、強度向上効果が小さくなることがある。一方で、厚みが500μmを超えると、使用する原材料費が高くなり、コストアップとなりやすい。また、放射線が塗布膜Cで形成された隔壁補強層で吸収されてしまい、発光輝度が低下しやすくなる。
【0037】
塗布膜BおよびCを形成後、焼成することでそれぞれ剥離補助層と隔壁補強層となる。焼成工程は塗布膜が含有する有機成分を分解除去し、ガラス粉末を軟化及び焼結させる工程である。焼成条件はガラス粉末含有ペーストの組成や基材の種類により異なるが、例えば、空気、窒素、水素のいずれかの雰囲気の焼成炉で焼成することが好ましい。焼成炉としては、例えば、バッチ式の焼成炉又はローラー搬送式の連続型焼成炉が挙げられる。焼成温度(焼成プロファイルにおける最高温度)は、500〜1000℃が好ましく、500〜800℃がより好ましく、500〜700℃がさらに好ましい。焼成温度が500℃未満であると、有機成分の分解除去が不十分となることがある。一方で、焼成温度が1000℃を超えると、高耐熱性の基材として用いることが可能な基材がセラミック板等に限定される。焼成の時間は、10〜60分間が好ましい。
【0038】
ガラス粉末含有ペーストDおよびEは塗布工程で塗膜形成された後、パターン加工されることで隔壁パターンを形成できる。パターン加工方法は感光性ペースト法、すなわちフォトリソグラフィ、サンドブラスト法、インプリント法、機械加工法等が挙げられるが、大面積に高歩留まりで焼成前パターンを製造できるため、感光性ペースト法が好ましい。
【0039】
ガラス粉末含有ペーストDにより形成された隔壁は隔壁と隔壁補強層を分離し、貫通隔壁を形成するための非焼結隔壁となる。このためガラス粉末含有ペーストDはガラス粉末含有ペーストBと同様焼成工程を経ても焼結しない非焼結無機粉末を主成分とする非焼結ペーストであることが好ましい。一方、ガラス粉末含有ペーストEにより形成された隔壁は隔壁補強層と接着され、シンチレータを区画するためのセル構造を構成する隔壁となる。このためガラス粉末含有ペーストEのガラス粉末は、ガラス粉末含有ペーストCと同様焼成温度で軟化するガラスを主成分とすることが好ましく、軟化温度が700℃以下である低融点ガラスがより好ましい。
【0040】
低融点ガラスを得るためには、ガラスを低融点化するために有効な材料である、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛およびアルカリ金属酸化物から選ばれた金属酸化物を用いることができる。中でも、アルカリ金属酸化物を用いて、ガラスの軟化温度を調整することが望ましい。なお、一般にはアルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムを指すが、本発明において用いられるアルカリ金属酸化物とは、酸化リチウム、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムから選ばれた金属酸化物を指す。本発明において、低融点ガラス中のアルカリ金属酸化物の含有量X(M
2O)は、2〜20質量%の範囲内とすることが好ましい。アルカリ金属酸化物の含有量が2質量%未満では、軟化温度が高くなることによって、焼成工程を高温で行うことが必要となることがある。そのため、基板としてガラス基板を用いた場合に、焼成工程において基板が変形することにより、得られるシンチレータパネルにゆがみが生じたり、隔壁に欠陥が生じたりしやすいので適さないことがある。また、アルカリ金属酸化物の含有量が20質量%よりも多い場合は、焼成工程においてガラスの粘度が低下しすぎることがある。そのため、得られる隔壁の形状にゆがみが生じやすいことがある。
【0041】
フォトリソグラフィによるパターン形成工程は、例えば、塗布膜を所定の開口部を有するフォトマスクを介して露光する露光工程と、露光後の塗布膜における、現像液に可溶な部分を溶解除去する現像工程と、から構成することができる。
【0042】
露光工程は、露光により塗布膜の必要な部分を光硬化させて、又は、塗布膜の不要な部分を光分解させて、塗布膜の任意の部分を、現像液に可溶とする工程である。現像工程は、露光後の塗布膜における、現像液に可溶な部分を現像液で溶解除去して、必要な部分のみが残存した焼成前パターンが得られる。
【0043】
露光工程においてはフォトマスクを用いずに、レーザー光等で任意のパターンを直接描画しても構わない。露光装置としては、例えば、プロキシミティ露光機又はレーザー露光機が挙げられる。露光工程で照射する活性光線としては、例えば、近赤外線、可視光線又は紫外線が挙げられるが、紫外線が好ましい。またその光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ハロゲンランプ、殺菌灯等が挙げられるが、超高圧水銀灯が好ましい。露光条件は塗布厚みにより異なるが、通常、1〜100mW/cm
2の出力の超高圧水銀灯を用いて、0.01〜30分間露光をする。
【0044】
現像工程における現像の方法としては、例えば、浸漬法、スプレー法、ブラシ法等が挙げられる。現像液としては、露光後の塗布膜における不要な部分を溶解することが可能な溶媒を適宜選択すればよいが、水を主成分とする水溶液が好ましい。例えば、ガラス粉末含有ペーストDおよびEがカルボキシル基を有するポリマーを含有する場合には、現像液としてアルカリ水溶液を選択することができる。アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム等の無機アルカリ水溶液、
又はテトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等の有機アルカリ水溶液が挙げられるが、焼成工程における除去が容易であることから、有機アルカリ水溶液が好ましい。アルカリ水溶液の濃度は、0.05〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。アルカリ濃度が過度に低いと、露光後の塗布膜における不要な部分が十分に除去されないことがある。一方で、アルカリ濃度が過度に高いと、焼成前パターンの剥離又は腐食のおそれがある。現像温度は、工程管理を容易にするため、20〜50℃が好ましい。
【0045】
パターン形成工程における塗布膜の加工をフォトリソグラフィにより行うには、塗布工程で塗布するガラス粉末含有ペーストDおよびEが、感光性であることが必要である。すなわち、ガラス粉末含有ペーストDおよびEが、感光性有機成分を含有することが好ましい。感光性のガラス粉末含有ペーストDおよびEに占める有機成分の割合は、30〜80質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることがより好ましい。有機成分が30質量%未満であると、ペースト中の無機成分の分散性が低下し、焼成工程で欠陥が生じやすくなるばかりでなく、ペースト粘度が高くなって塗布性が低下し、さらにペーストの安定性も低下する。一方で、有機成分が80質量%を超えると、焼成工程におけるパターンの収縮率が大きくなって、欠陥が生じやすくなる。
【0046】
感光性のガラス粉末含有ペーストEが含有するガラス粉末は、焼成工程において有機成分をほぼ完全に除去し、最終的に得られる隔壁の強度を確保するため、軟化温度が480℃以上であることが好ましい。軟化温度が480℃未満であると、焼成工程において有機成分が十分に除去される前にガラス粉末が軟化してしまい、焼結後のガラス中に焼け残った炭素成分(以下、「炭素残分」ということがある。)が残存し、隔壁の着色を誘発してしまうことから、シンチレータパネルの輝度を低下させる等の懸念がある。
【0047】
感光性のガラス粉末含有ペーストDおよびEにおいては、露光時の光散乱を抑制し、高精度のパターンを形成するため、ガラス粉末の屈折率n1と、有機成分の屈折率n2とが、
−0.1 < n1−n2 < 0.1
の関係を満たすことが好ましく、
−0.01 ≦ n1−n2 ≦ 0.01
の関係を満たすことがより好ましく、
−0.005 ≦ n1−n2 ≦ 0.005
の関係を満たすことがさらに好ましい。なお、ガラス粉末の屈折率は、ガラス粉末が含有する金属酸化物の組成によって、適宜調整することができる。
【0048】
ガラス粉末の屈折率は、ベッケ線検出法により測定することができる。また、有機成分の屈折率は、有機成分からなる塗膜をエリプソメトリーにより測定することで求めることができる。より具体的には、ガラス粉末又は有機成分の、25℃での波長436nm(g線)における屈折率(ng)を、それぞれn1又はn2とすることができる。
【0049】
感光性のガラス粉末含有ペーストDおよびEが含有する感光性有機成分としては、例えば、感光性モノマー、感光性オリゴマー、感光性ポリマーが挙げられる。ここで感光性モノマー、感光性オリゴマー、感光性ポリマーとは、活性光線の照射により、光架橋又は光重合等の反応を起こして化学構造が変化するモノマー、オリゴマー、ポリマーをいう。
【0050】
感光性モノマーとしては、活性の炭素−炭素不飽和二重結合を有する化合物が好ましい。そのような化合物としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基を有する化合物が挙げられるが、光架橋の密度を高め、高精度のパターンを形成するため、多官能アクリレート化合物又は多官能メタクリレート化合物が好ましい。
【0051】
感光性オリゴマー又は感光性ポリマーとしては、活性の炭素−炭素不飽和二重結合を有し、かつカルボキシル基を有するオリゴマー又はポリマーが好ましい。そのようなオリゴマー又はポリマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル酢酸、若しくはこれらの酸無水物等のカルボキシル基含有モノマー、および、
メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル又は2−ヒドロキシアクリレートを共重合することにより得られる。
【0052】
活性の炭素−炭素不飽和二重結合をオリゴマー又はポリマーに導入する方法としては、例えば、オリゴマー又はポリマーが有するメルカプト基、アミノ基、水酸基又はカルボキシル基に対して、
アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド、アリルクロライド、
グリシジル基若しくはイソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物
又はマレイン酸等のカルボン酸を反応させる方法が挙げられる。
【0053】
ウレタン結合を有する感光性モノマー又は感光性オリゴマーを用いることにより、焼成工程の初期における応力を緩和することが可能な、焼成工程においてパターン欠損をしにくいガラス粉末含有ペーストDおよびEを得ることができる。
【0054】
感光性のガラス粉末含有ペーストDおよびEは、必要に応じて、光重合開始剤を含有しても構わない。ここで光重合開始剤とは、活性光線の照射により、ラジカルを発生する化合物をいう。光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジル、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンゾスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンザルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、1−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(O−メトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(O−エトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニルプロパントリオン−2−(O−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−3−エトキシプロパントリオン−2−(O−ベンゾイル)オキシム、ミヒラーケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、N−フェニルチオアクリドン、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホルフィン、過酸化ベンゾイン、エオシン、メチレンブルー等の光還元性の色素と
アスコルビン酸若しくはトリエタノールアミン等との還元剤の組合せが挙げられる。
【0055】
感光性のガラス粉末含有ペーストDおよびEが、感光性ポリマーとしてカルボキシル基を有するポリマーを含有することにより、現像時のアルカリ水溶液への溶解性が向上する。カルボキシル基を有するポリマーの酸価は、50〜150mgKOH/gが好ましい。酸価が150mgKOH/g以下であると、現像マージンが広くなる。一方で、酸価が50mgKOH/g以上であると、アルカリ水溶液への溶解性が低下せず、高精細のパターンを得ることができる。
【0056】
感光性のガラス粉末含有ペーストDおよびEは、各種成分を所定の組成となるように調合した後、3本ローラー又は混練機で均質に混合分散して得ることができる。
【0057】
感光性のガラス粉末含有ペーストDおよびEの粘度は、無機粉末、増粘剤、有機溶媒、重合禁止剤、可塑剤又は沈降防止剤等の添加割合によって適宜調整することができるが、その範囲は2〜200Pa・sが好ましい。例えば、感光性のガラス粉末含有ペーストDおよびEをスピンコート法で基材に塗布する場合には、2〜5Pa・sの粘度が好ましく、ブレードコーター法又はダイコーター法で基材に塗布する場合には、10〜50Pa・sの粘度が好ましい。感光性のガラス粉末含有ペーストDおよびEを1回のスクリーン印刷法で塗布して膜厚10〜20μmの塗布膜を得る場合には、50〜200Pa・sの粘度が好ましい。
【0058】
フォトリソグラフィにより得られた焼成前隔壁パターンを焼成して、ガラス粉末含有ペーストDおよびEが含有する有機成分を分解除去し、ガラス粉末を軟化及び焼結させて、焼成後隔壁パターンを得る。焼成条件はガラス粉末含有ペーストDおよびEの組成や基材の種類により異なるが、例えば、空気、窒素又は水素雰囲気の焼成炉で焼成することができる。焼成炉としては、例えば、バッチ式の焼成炉又はベルト式の連続型焼成炉が挙げられる。焼成温度(焼成プロファイルにおける最高温度)は、500〜1000℃が好ましく、500〜800℃がより好ましく、500〜700℃がさらに好ましい。焼成温度が500℃未満であると、有機成分の分解除去が不十分となることがある。一方で、焼成温度が1000℃を超えると、高耐熱性の基材として用いることが可能な基材がセラミック板等に限定される。焼成の時間は、10〜60分間が好ましい。
【0059】
ガラス粉末含有ペーストDおよびEを塗布する方法としては、例えば、スクリーン印刷法、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター又はブレードコーターが挙げられる。ガラス粉末含有ペーストDによる貫通隔壁を形成する位置として隔壁形成範囲の周囲に枠状で形成することが好ましく、スクリーン印刷法の場合はパターン印刷、ダイコーターの場合は一面で塗布後、露光、現像することにより必要な形状を得ることができる。形成する塗布膜Dは焼成後、非焼結隔壁となり、その厚みは0.1〜100μmであることが好ましく、1〜30μmであることがより好ましい。非焼結隔壁の厚さが1μm未満であると、焼成工程後に立体構造物を基材から剥離しにくくなりやすい。一方で、厚さが30μmを超えると、過度に剥離しやすくなり、焼成工程中にパターンが部分的に剥がれてしまうことがある。
【0060】
ガラス粉末含有ペーストEは塗布膜CおよびD上に一様に塗布後、パターン加工し、焼成することで隔壁とするが、その厚みは50〜3000μmであることが好ましく、100〜500μmであることがより好ましい。厚みが3000μmを超えると加工時のパターン形成が困難になる場合がある。50μm未満であると隔壁で形成したセルに充填する蛍光体量が減少し、シンチレータパネルの発光輝度が低下し、鮮明な画像が得られない場合がある。
【0061】
隣接する隔壁の間隔は、30〜1000μmが好ましい。30μm未満であると、隔壁を形成する際の加工性が低くなる場合がある。一方で、1000μmを超えると、得られるシンチレータパネルの画像の鮮鋭度が低くなる場合がある。
【0062】
隔壁の幅としては、5〜150μmが好ましく、10〜150μmがより好ましい。隔壁幅が5μm未満であると、焼成時に格子状のパターンの欠陥が生じやすくなる場合がある。一方で、150μmを超えると、隔壁により区画された空間に充填可能な蛍光体の量が少なくなるため、得られるシンチレータパネルの発光輝度が低下する場合がある。
【0063】
隔壁幅に対する隔壁の厚みのアスペクト比(厚み/幅)は、1.0〜50.0であることが好ましい。このアスペクト比が大きい隔壁ほど、隔壁により区画された1画素あたりの空間が広く、より多くの蛍光体を充填することができる。
【0064】
隔壁の厚み及び幅は、基板に対して垂直な隔壁断面を露出させ、走査型電子顕微鏡(S2400;日立製作所製)で断面を観察し、測定することができる。
【0065】
反射膜Fは隔壁からの光漏れを防止するために、隔壁の表面を覆うように形成されていることが好ましい。反射膜Fの材質としては、例えば、放射線を透過し、かつ蛍光体が発光した300〜800nmの電磁波である光を反射する物質が挙げられるが、劣化の度合いが低いことから、Ag、Au、Al、Ni、Ti等の金属、
又はTiO
2、ZrO
2、Al
2O
3若しくはZnO等の金属酸化物が好ましい。
【0066】
反射膜Fの形成方法としては、例えば、真空製膜法、メッキ法、ペースト塗布法スプレーによる噴射方法等が挙げられる。
【0067】
反射膜Fの膜厚としては金属膜の場合は0.05〜1μmが好ましく、0.1〜0.5μmがより好ましい。0.05μm未満であると光透過率が大きくなり、金属膜の反射率が低くなる場合がある。1μmを超えると光の吸収が大きくなり、反射率が低下するとともに成膜に長時間を要する場合がある。金属酸化物膜の場合は1〜50μmが好ましく、5〜20μmがより好ましい。1μm未満の場合は光透過率が大きくなり、拡散反射の効果が低くなる場合がある。50μmを超えると隔壁により区画された空間に充填可能な蛍光体の量が少なくなるため、得られるシンチレータパネルの発光輝度が低下する場合がある。
【0068】
蛍光体Gとしては、例えば、放射線から可視光への変換率が高い、CsI、Gd
2O
2S、Lu
2O
2S、Y
2O
2S、LaCl
3、LaBr
3、LaI
3、CeBr
3、CeI
3、LuSiO
5又はBa(Br、F)が挙げられる。
【0069】
発光効率を高めるために、蛍光体に賦活剤を添加しても構わない。賦活剤としては、例えば、ナトリウム(Na)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ナトリウム(Na)、テルビニウム(Tb)、セリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)又はプラセオジム(Pr)が挙げられるが、化学的安定性が高く、かつ発光効率が高いため、Gd
2O
2SにTbを添加した蛍光体が好ましい。
【0070】
蛍光体Gの充填方法としては、例えば、結晶性CsIを真空蒸着する方法、水に分散させた蛍光体スラリーを塗布する方法以外にも、蛍光体粉末、エチルセルロース及びアクリル樹脂等をテルピネオール等の溶媒に混合した蛍光体ペーストを、スクリーン印刷又はディスペンサーで塗布する方法が挙げられる。セル内部への泡混入を防止するため真空環境下での塗布も好ましい。
【0071】
蛍光体Gを塗布する領域としては有効表示領域の全面とし、アライメントに使用する貫通隔壁形成部にはマスキングなどを施し、塗布しない。
【0072】
蛍光体Gの厚みは任意に設定できるが、隔壁による高鮮鋭度化に特化する場合には隔壁の厚みの50〜100%にすることが好ましく、80〜100%がより好ましい。50%未満であるとセル容積に対する蛍光体量が少なく輝度が低下することがある。100%を超えると隣接する光電変換素子への光漏れが発生し、鮮鋭度が低下する場合がある。ただし、鮮鋭度の低下を許容できる場合には100%以上の充填厚みにも設定することができる。
【0073】
上記のように基材A上に積層して形成したシンチレータ層は非焼結の剥離補助層を利用して剥離することができる。基材Aは耐熱をもたせるため、ガラス、セラミック、金属などの平板を用いるが、放射線の吸収が大きい部材を後いた場合、放射線が蛍光体に到達するまでに減衰してしまい、発光輝度が低下する場合がある。本発明では、基材Aを剥離し、放射線吸収の小さい別の基材Bへ置き換えることで発光輝度の向上につながり、特性上大きな利点となる。
【0074】
剥離手法としては剥離補助層を形成したエリアの内側で、かつシンチレータの有効領域として使用したい範囲の外側をカットする。これにより剥離補助層を挟んで基材Aと隔壁補強層より上のシンチレータ層を剥離(分離)することができる。剥離補助層部分にスペーサーなどの薄膜材を差し込むか微量のエアーを吹き込むことで剥離を促進することもできる。
【0075】
同様の手法で剥離したシンチレータ層の周囲に設けた非焼結隔壁部から隔壁補強層を剥離除去することができる。これによりシンチレータ層の周囲を光電変換素子とのアライメントに使用する貫通隔壁とすることができる。
【0076】
これを放射線吸収の小さい材料から成る基材Bに接着性樹脂または粘着テープを用いて貼り合わせることでシンチレータパネルを製造することができる。
【0077】
接着性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂又はエチルセルロース樹脂等の有機樹脂に溶剤が混合された材料を用いることが好ましい。粘着テープとしては、例えば上記の接着性樹脂を塗布したテープを用いることができるが、テープの両面に接着性樹脂が塗布された両面テープを用いることが好ましい。
【0078】
基材Bとしては放射線の透過性を有する、高分子、セラミックス、半導体、金属又はガラス等を材料とするものを用いることができる。そのような基板としては、例えば、ポリエステルフィルム、セルロースアセテートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、炭素繊維強化樹脂シート等の高分子フィルム、
アルミナ、窒化アルミ、ムライト、ステアタイト、チッ化珪素、炭化珪素等のセラミックス基板、
セラミックス粉末とガラスの粉末とを混合して焼結したガラスセラミックス基板、
シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、ガリウム燐、ガリウム窒素等の半導体からなる半導体基板、
アルミニウムシート、鉄シート、銅シート等の金属シート、
石英、ホウ珪酸ガラス、化学的強化ガラス等のガラスからなるガラス板、
金属酸化物の被覆層を有する金属シート、
アモルファスカーボン基板が挙げられるが、なかでも、高分子材料からなる高分子フィルムは、原子番号の小さな炭素原子や水素原子を主とする材料で構成されており、放射線透過率が高いことから、高分子フィルムが好ましい。
【0079】
基材Bの厚さは、基材による放射線吸収を抑制するため、1mm以下であることが好ましい。
【0080】
基板Bの反射率は、90%以上であることが好ましい。反射率が90%以上であると、シンチレータパネルの発光輝度が向上する。反射率が90%以上である基板としては、例えば、液晶ディスプレイにおいて反射板として用いられている白色ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ということがある。)フィルムが好ましく挙げられる。ここで反射率とは、分光測色計(例えば、CM−2600d;コニカミノルタ社製)を用いて測定された波長530nmのSCI反射率をいう。
【0081】
基材Bには貫通隔壁部に相当する部分に開口部または切欠き部が設けられていることが好ましい。また、該開口部または切欠き部は透明な部材により形成されてもよい。これにより格子状の隔壁をシンチレータ表面に露出させることができる。
【0082】
このように製造したシンチレータパネルは表面に露出させた格子状の隔壁を通して受光基板の光電変換素子パターンを視認できることから、それぞれを近接させて高精度にアライメントして貼り合わせることができ、画素ピッチずれの小さい放射線検出装置を製造することができる。
【0083】
アライメントの手法としてはCCDカメラなどで隔壁と光電変換素子を拡大撮影しながらそれぞれの位置ずれを補正し、隔壁が対向する光電変換素子の配線パターン上に一致するように調整することで実施できる。アライメント後に互いを貼り合わせるために接着性樹脂または粘着テープを使用できる。接着性樹脂または粘着テープとしてはシンチレータ層と基材Bの貼り合わせに用いた材料以外にも紫外線を照射することで硬化する紫外線硬化性樹脂なども使用できる。
【0084】
これらを用いて接着する領域としてはシンチレータパネル外周部の非表示領域であることが好ましい。貼り合わせに使用する部材によってはシンチレータと光電変換素子との間に隙間を生じさせ、発光が隣接画素に漏れこむことによる鮮鋭度の低下を引き起こしたり、光透過性が低下することによる発光効率の低下を引き起こす場合がある。よって、可能な限り非表示領域で接着し、表示領域は直接シンチレータ層と光電変換素子が接する構成にすることが好ましい。表示領域において互いを安定して密着させるためにシンチレータパネルの背面にスポンジシートなどの追従性のあるクッション材を配置し、押し圧しながら組み付けて放射線検出装置化することも好ましい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0086】
(ペーストの原料)
ペーストの作製に用いた原料は次のとおりである。
感光性モノマーM−1 : トリメチロールプロパントリアクリレート
感光性モノマーM−2 : テトラプロピレングリコールジメタクリレート
感光性ポリマー : メタクリル酸/メタクリル酸メチル/スチレン=40/40/30の質量比からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.4当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させたもの(重量平均分子量43000;酸価100)
バインダー樹脂 : 100cPエチルセルロース
光重合開始剤 : 2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1(IC369;BASF社製)
熱重合開始剤 : V−40
重合禁止剤 : 1,6−ヘキサンジオール−ビス[(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
紫外線吸収剤溶液 : スダンIV(東京応化工業株式会社製)のγ−ブチロラクトン0.3質量%溶液
粘度調整剤 : フローノンEC121(共栄社化学社製)
溶媒A : γ−ブチロラクトン
溶媒B : テルピネオール
低軟化点ガラス粉末 : SiO
2 27質量%、B
2O
3 31質量%、ZnO 6質量%、Li
2O 7質量%、MgO 2質量%、CaO 2質量%、BaO 2質量%、Al
2O
3 23質量%、屈折率(ng):1.56、ガラス軟化温度588℃、線膨張係数70×10
−7(K
−1)、平均粒子径2.3μm
高軟化点ガラス粉末 : SiO
2 30質量%、B
2O
3 31質量%、ZnO 6質量%、MgO 2質量%、CaO 2質量%、BaO 2質量%、Al
2O
3 27質量%、屈折率(ng):1.55、軟化温度790℃、熱膨張係数32×10
−7(K
−1)、平均粒子径2.3μm
酸化ケイ素粉末 : アドマテックス社製SO−E1、平均粒子径0.25μm
酸化チタン粉末 : 石原産業社製ST−21、平均粒子径0.02μm
蛍光体粉末 : 日亜化学工業社製3010−54TOR、平均粒径10μm。
【0087】
(ガラス粉末含有ペーストBの製作)
3質量部のバインダー樹脂、1.5質量部の感光性モノマーM−1、0.5質量部の感光性モノマーM−2、0.05質量部の熱重合開始剤を、55質量部の溶媒Bに、温度60℃で加熱溶解した。得られた有機溶液を冷却した後、40質量部の酸化ケイ素粉末を添加し、3本ローラー混練機にて混練し、ガラス粉末含有ペーストBを作製した。
【0088】
(ガラス粉末含有ペーストCの製作)
4質量部のバインダー樹脂を、50質量部の溶媒Bに、温度60℃で加熱溶解した。得られた有機溶液を冷却した後、46質量部の低軟化点ガラス粉末を添加した後、3本ローラー混練機にて混練し、ガラス粉末含有ペーストCを作製した。
【0089】
(ガラス粉末含有ペーストDの製作)
4質量部の感光性モノマーM−1、6質量部の感光性モノマーM−2、24質量部の感光性ポリマー、6質量部の光重合開始剤、0.2質量部の重合禁止剤及び12.8質量部の紫外線吸収剤溶液を、38質量部の溶媒Aに、温度80℃で加熱溶解した。得られた溶液を冷却した後、9質量部の粘度調整剤を添加して、有機溶液1を作製した。60質量部の有機溶液1に、5質量部の低軟化点ガラス粉末及び35質量部の高軟化点ガラス粉末を添加した後、3本ローラー混練機にて混練し、ガラス粉末含有ペーストDを作製した。
【0090】
(ガラス粉末含有ペーストEの製作)
60質量部の有機溶液1に、30質量部の低軟化点ガラス粉末及び10質量部の高軟化点ガラス粉末を添加した後、3本ローラー混練機にて混練し、ガラス粉末含有ペーストEを作製した。
【0091】
(反射膜ペーストF)
3質量部のバインダー樹脂を、37質量部の溶媒Bに、温度60℃で加熱溶解した。得られた有機溶液を冷却した後、60質量部の酸化チタン粉末を添加した後、3本ローラー混練機にて混練し、反射膜ペーストFを作製した。
【0092】
(蛍光体ペーストG)
3質量部のバインダー樹脂を、20質量部の溶媒Bに、温度60℃で加熱溶解した。得られた有機溶液を冷却した後、77質量部の蛍光体粉末を添加した後、攪拌混合機にて攪拌し、蛍光体ペーストGを作製した。
【0093】
(実施例1)
基材Aとして、500mm×500mm×1.8mmのガラス板(PD−200;旭硝子社製、線膨張係数83×10
−7(K
−1))を用いた。基材Aの表面に、ガラス粉末含有ペーストBを乾燥厚さが5μmとなるようにスクリーン印刷で一面塗布して乾燥し、塗布膜Bを形成した。塗布膜Bの表面にガラス粉末含有ペーストCを乾燥厚さが24μmとなるようダイコーターで一面塗布して乾燥し、塗布膜Cを形成した。この際に塗布膜Cの塗布面積を塗布膜Bよりも広く、かつ塗布膜B全体を覆うような配置とした。これを空気中585℃で15分間焼成した。焼成により有機成分が焼失し、塗布膜Bは非焼結の剥離補助層、塗布膜Cは焼結層である隔壁補強層となった。上記のように塗布膜Cを塗布膜Bよりも広く形成することで、焼成後に基材Aと塗布膜Cとが直接接触するエリアは融着し、塗布膜Cが剥離してしまうことは無かった。
【0094】
隔壁補強層の表面にガラス粉末含有ペーストDを乾燥厚さが30μmとなるようにスクリーン印刷で塗布して乾燥し、塗布膜Dを形成した。塗布膜Dは430mm×430mmで幅5mmの枠状パターンで形成した。隔壁補強層および塗布膜Dの表面にガラス粉末含有ペーストEを乾燥厚さが300μmとなるようダイコーターで一面塗布して乾燥し、塗布膜Eを形成した。次に、所望のパターンに対応する開口部を有するフォトマスク(ピッチ127μm、線幅20μm、パターンサイズ430mm×430mmの格子状開口部を有するクロムマスク)を介して、塗布膜DおよびEを、超高圧水銀灯を用いて750mJ/cm
2の露光量で露光した。露光後の塗布膜DおよびEは、0.5質量%のモノエタノールアミン水溶液中で現像し、未露光部分を除去して、格子状の焼成前隔壁パターンを得た。得られた格子状の焼成前隔壁パターンを、空気中585℃で15分間焼成して、格子状の隔壁パターンを得た。塗布膜Dにより形成された隔壁エリアは焼成により焼結しないため非焼結隔壁となった。一方、塗布膜Eにより形成された隔壁エリアは溶融したガラスにより強固な隔壁パターンとすることができた。隔壁は幅25μm、厚さ250μmで形成された。周囲に形成した非焼結隔壁部分には後工程にて蛍光体が充填されないようテープによりマスキングした。
【0095】
隔壁の表面に反射膜ペーストFをウェット厚さ300μmとなるようにダイコーターを用いて一面塗布し、基板ごと真空チャンバーに入れ、300Paで20分間脱泡し、セル内部に反射膜ペーストFを充填した。充填後、余剰な反射膜ペーストFを隔壁の厚さで摺り切って除去し、熱風オーブン150℃で乾燥し、溶媒分を除去することで反射膜Fを得た。隔壁表面の反射膜Fの厚みは10μmであった。反射膜を形成した隔壁上に蛍光体ペーストGをウェット厚さ300μmとなるようにダイコーターを用いて一面塗布し、反射膜と同条件で蛍光体をセル内に充填した。蛍光体はセル内に均一に充填され、厚さ230μmであった。
【0096】
マスキングに使用したテープを外し、ガラスカッターにて隔壁形成エリアの外側で剥離補助層の内側を割断した。基板端面に露出した剥離補助層部に厚み50μmのSUSスペーサーを差し込むことで基材Aと隔壁補強層より上のシンチレータ層を剥離(分離)することができた。同様の手法でシンチレータ層の周囲に形成された非焼結隔壁から隔壁補強層を剥離除去した。これによりシンチレータ層の周囲は蛍光体及び隔壁補強層のない貫通隔壁とすることができた。基材Bとして430mm×430mm×0.18mmの白色PETフィルム(“ルミラー(登録商標)”E6SQ;東レ製;反射率97%)の4隅に5mm幅のスリット開口を設けた基材を準備し、表面に粘着シートを貼り付けた。これをシンチレータ層の隔壁補強層側に貼り合わせることでシンチレータパネルを製造した。
【0097】
得られたシンチレータパネルを、FPD(PaxScan2520;Varian社製)の光電変換素子直上に近接させてセットした。CCDカメラを用いて基材Bの開口部に露出した格子状の隔壁を通して光電変換素子のパターンを視認し、互いを一致させるようアライメントした後に周囲を接着剤にて接着固定することで貼り合わせ、放射線検出装置とした。放射線検出装置に対し、シンチレータパネルの基板側から管電圧60kVのX線を照射して、シンチレータ層からの発光量をFPDで検出し、輝度を評価した。また、画像鮮明性を矩形波チャートの撮影画像に基づき評価した。シンチレータパネルの輝度及び画像鮮明性は、いずれも良好であった。
【0098】
(実施例2)
隔壁パターン加工に使用するフォトマスクのパターンピッチを254μmとし、実施例1の画素ピッチの2倍のものを使用した以外は実施例1と同様の方法でシンチレータパネルを製造した。
【0099】
得られたシンチレータパネルを実施例1と同じFPDの光電変換素子にアライメントして貼り合わせることで光電変換素子の画素ピッチに対し、隔壁の画素ピッチが2倍の放射線検出装置を作成した。実施例1の評価値を100とした場合の輝度の相対値は170、画像鮮明度の評価値は80となり、画像鮮明度の低下に対し、輝度向上効果の大きな結果が得られた。
【0100】
(比較例1)
実施例1に示したシンチレータパネルで周囲に光透過性のある隔壁露出構造をもたないシンチレータパネルを製造し、光電変換素子に貼り合わせて放射線検出装置を作成した。画素同士のアライメントは2視野カメラをパネル間に挿入し、シンチレータパネルと光電変換素子のパターン表面を同時に撮像することで実施した。実施例1の評価値を100とした場合の輝度の相対値は80、画像鮮明度の評価値は80となり、ともに実施例1を下回る結果となった。隔壁の画素と光電変換素子の画素の位置ずれにより、光電変換素子の受光エリアに発光しない隔壁部分が存在することで受光効率が低下し、隣接する光電変換素子に発光光が漏れ込んで本来の画像鮮明度が得られなかったためと考えられる。位置ずれの原因としては2視野カメラの光軸の精度、パネル貼り合わせの駆動軸の精度などが考えられ、いずれも貼り合わせるパネル同士に距離がある状態でアライメントしたことによる弊害と考えられる。
【0101】
(比較例2)
実施例1に示した製法のうち剥離補助層および非焼結隔壁を形成する工程を省略することで基材A上に隔壁構造を持つシンチレータ層を形成できる。この際、フォトマスクのパターンレイアウトを変更することで光電変換素子のアライメントマークに対応する位置に隔壁で同一形状のマークを形成することができる。マークは線幅100ミクロン、縦横幅1000ミクロンの十字形状とした。このフォトマスクを用いてシンチレータパネルを作成した。剥離補助層を設けないため基材Aからシンチレータ層を剥離しない。隔壁で形成したマークと光電変換素子のアライメントマークを整合させるようにCCDカメラを用いてアライメントし、貼り合わせて放射線検出装置を作成した。実施例1の評価値を100とした場合の輝度の相対値は70、画像鮮明度の評価値は80となり、ともに実施例1を下回る結果となった。輝度評価値の低下は基材AによるX線吸収が実施例1で用いたような白PETフィルムよりも大きいことに起因し、画像鮮明度の低下は比較例1同様画素の位置ずれに起因するものと考えられる。この位置ずれは隔壁で形成した十字形状のマークが格子パターンから独立した位置に存在するため、焼成時にひずみを生じやすく、設計寸法位置からずれたことに起因すると考えられる。