特許第6733685号(P6733685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6733685
(24)【登録日】2020年7月13日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】対流熱伝達促進方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 21/00 20060101AFI20200728BHJP
   F28F 13/16 20060101ALI20200728BHJP
   H01L 23/473 20060101ALI20200728BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20200728BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   F28D21/00 B
   F28F13/16
   H01L23/46 Z
   H05K7/20 M
   C09K5/14 E
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-15441(P2018-15441)
(22)【出願日】2018年1月31日
(65)【公開番号】特開2019-132542(P2019-132542A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2019年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】藏薗 功一
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】廣田 靖樹
【審査官】 河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0039721(US,A1)
【文献】 特表平07−508335(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0195074(US,A1)
【文献】 特開2013−253156(JP,A)
【文献】 米国特許第05437421(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 21/00
F28F 13/02
C09K 5/14
F28F 13/16
H01L 23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース液体と、前記ベース液体中に分散されるとともに該ベース液体との間に電位差を有する荷電粒子を含んで構成される熱輸送流体を管状の熱伝達部において輸送するとともに、
前記熱輸送流体の流路方向とは異なる方向の電磁場による外力を前記荷電粒子に作用させ、前記荷電粒子を前記熱伝達部の管壁方向へ移動させる、対流熱伝達促進方法であって、
前記電磁場による外力は、前記流路方向に沿って流れる電流により生ずる前記流路方向とは垂直な方向の磁場によるローレンツ力であるとともに、
前記熱伝達部の前記流路方向の長さをL(m)とし、
前記熱伝達部における前記熱輸送流体の流速を流速v(m/s)とし、
前記磁場の磁束密度をB(T)とし、
前記熱輸送流体の密度をρ(kg/m)、流体密度をρ(kg/m)、摩擦係数をf(無次元)、粘度をη(Pa・s)、動粘度をν(m/s)、比熱をC(J/(kg・K))及び熱伝導率をλ(W/(m・K))とし、
前記荷電粒子の表面電荷密度をσ(C/m)及び粒子径をd(m)としたとき、
σvB=ρ(3uν/d+0.45u1.687・(ν/d0.313
を満たす前記荷電粒子の前記管壁方向への移動速度u(m/s)に対し、
t=L/v
で与えられる、前記熱輸送流体が前記熱伝達部を通過する時間t(s)、
δ=(70ν/(fv/8)0.5
で与えられる速度境界層厚さδ(m)、及び、
δ=δ/(Cη/λ)1/3
で与えられる温度境界層厚さδ(m)について、
ut≧δ
である、対流熱伝達促進方法。
【請求項2】
前記荷電粒子の移動速度u、前記熱輸送流体が前記熱伝達部を通過する時間t、前記速度境界層厚さδについて、
ut≧δ
である、請求項記載の対流熱伝達促進方法。
【請求項3】
前記荷電粒子の粒子径は50nm以上1μm以下であるとともに、
前記荷電粒子の前記熱輸送流体中の濃度は3体積%以上10体積%以下である、請求項1又は2に記載の対流熱伝達促進方法。
【請求項4】
前記荷電粒子と前記ベース液体との電位差は20mV以上100mV以下である、請求項1からまでのいずれかに記載の対流熱伝達促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輸送媒体の流れの中において、当該熱輸送媒体に分散される微粒子の移動方向を制御することで、対流熱伝達を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器を用いた熱輸送流体による熱輸送システムには、熱伝導性を高める目的で熱輸送流体に固体微粒子を添加した、いわゆる固液混相流熱輸送システムというものがある。このような固液混相流熱輸送システムを、液体用の熱交換器、たとえば、フィン型など伝熱面積が大きく流路が狭いものに適用すると、添加された固体微粒子による圧力損失が大きく、また、閉塞の可能性もあるため、使用が困難となる。よって、流路断面積が大きい熱交換器が必要となるが、これは伝熱面積とは背反するものである。
【0003】
一方、下記特許文献1では、微粒子を添加した熱輸送媒体の流れの中で微粒子の方向を制御する技術が提示されている。すなわち、熱輸送媒体は、主媒体、電熱促進のための流れ方向に配向されやすい第1添加物(たとえば、カーボンナノチューブ)、及び電気磁気的に捕捉可能な第2添加物を含んでいる。そして、流れの途中で発生される電気磁気的な場によって第2添加物が捕捉されると、第2添加物の周りに乱流が発生し、この乱流によって第1添加物の長手方向をランダムな方向へ指向させることで、流れ方向と直交する方向に関する熱輸送媒体の熱伝導率を高めることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−253156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した固液混相流熱輸送システムは、液体用に伝熱面積を大きくした熱交換器内での圧力損失が大きくなるため、実際には使用は困難である。またの圧力損失を解消しようとすれば、流路断面積を大きくせざるを得ないが、そうすると流量に対する伝熱面積は低下することとなる。
【0006】
前記特許文献1記載の技術では、電気磁気的な場において粒子がランダム配向されることで、熱伝導率は増大するものの、その部位における圧力損失も増大することとなる。
【0007】
本発明は、熱輸送流体のベース液体中に微小な固体粒子を分散させた熱輸送システムにおいて、圧力損失を大幅に増大させることなく、熱交換性能を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の対流熱伝達促進方法は、ベース液体と、前記ベース液体中に分散されるとともに該ベース液体との間に電位差を有する荷電粒子を含んで構成される熱輸送流体を管状の熱伝達部において輸送するとともに、前記熱輸送流体の流路方向とは異なる方向の電磁場による外力を前記荷電粒子に作用させ、前記荷電粒子を前記熱伝達部の管壁方向へ移動させる。
【0009】
請求項1に記載の対流熱伝達促進方法は、熱輸送流体を管状の熱伝達部において輸送することで、熱輸送流体が有する熱を熱伝達部で他の流体等へ受け渡すものである。
【0010】
熱輸送流体は、荷電粒子がベース液体中に分散されたものである。ベース液体は、熱媒体として機能する液体であり、たとえば、水又はエチレングリコール水溶液が挙げられる。荷電粒子は、ベース液体との間に電位差を有する微小粒子であり、黒鉛などの炭素系粒子、シリカ若しくはアルミナなどの金属酸化物系粒子、セラミック系粒子、又は銅などの金属系粒子が挙げられる。
【0011】
熱伝達部を流れる荷電粒子は、熱伝達部において電磁場による外力の作用を受ける。この外力は、熱輸送媒体の流路方向とは異なる方向の力であり、その作用によって、荷電粒子は管壁方向へ移動する。
【0012】
このとき、荷電粒子は微小粒子であるため、管壁方向への移動による圧力損失はほとんど問題にならない。
【0013】
ここで、この電磁場による外力としては、電場によるクーロン力であってもよいが、請求項2に記載の対流熱伝達促進方法においては、前記電磁場による外力は、前記流路方向に沿って流れる電流により生ずる前記流路方向とは垂直な方向の磁場によるローレンツ力である。
【0014】
なお、ここでいう管壁方向への移動とは、荷電粒子が最も近い管壁の方向へ移動すること(換言すると、直近の管壁に接近すること)と、荷電粒子が最も遠い管壁の方向へ移動すること(換言すると、直近の管壁から離反すること)との両方を含む。この荷電粒子の管壁への移動方向は、流路方向と電磁場の方向とによって決定される。
【0015】
熱輸送流体に分散される荷電粒子に作用するこのローレンツ力は、流路方向とは垂直な方向の磁場によるものであるため、流路方向とは垂直な方向、すなわち、管壁に向かう方向に作用する。そして、このローレンツ力が、流体から受ける流体抗力を上回れば、荷電粒子は管壁方向へ移動することができる。
【0016】
請求項3に記載の対流熱伝達促進方法においては、前記熱伝達部の前記流路方向の長さをL(m)とし、前記熱伝達部における前記熱輸送流体の流速を流速v(m/s)とし、前記磁場の磁束密度をB(T)とし、前記熱輸送流体の密度をρ(kg/m)、流体密度をρ(kg/m)、摩擦係数をf(無次元)、粘度をη(Pa・s)、動粘度をν(m/s)、比熱をC(J/(kg・K))及び熱伝導率をλ(W/(m・K))とし、前記荷電粒子の表面電荷密度をσ(C/m)及び粒子径をd(m)としたとき、
σvB=ρ(3uν/d+0.45u1.687・(ν/d0.313)・・・式(1)
を満たす前記荷電粒子の前記管壁方向への移動速度u(m/s)に対し、
t=L/v・・・式(2)
で与えられる、前記熱輸送流体が前記熱伝達部を通過する時間t(s)、
δ=(70ν/(fv/8)0.5)・・・式(3)
で与えられる速度境界層厚さδ(m)、及び、
δ=δ(λ/(Cη))1/3・・・式(4)
で与えられる温度境界層厚さδ(m)について、
ut≧δ・・・式(5)
である。
【0017】
ここで、流路方向とは垂直な方向の磁場を通る荷電粒子に作用する力をF(N)とすると、このFは、下記式(6)で与えられる。
【0018】
F=qvB−Cρ(πd/4)(u/2)・・・式(6)
【0019】
ここで上記式(6)の右辺の第1項は電磁場による外力、すなわちこの場合はローレンツ力であり、第2項は流体抗力である。
【0020】
そして、F>0であるとき、荷電粒子のローレンツ力は流体抗力に打ち勝って管壁方向へ移動することができる。
【0021】
ここで、F=0、すなわち、ローレンツ力と流体抗力とが釣り合っている状態、つまり、下記式(7)を満たす荷電粒子の移動速度u(m/s)が、荷電粒子が管壁方向へ移動することができるかどうかの閾値となる。
【0022】
qvB=Cρ(πd/4)(u/2)・・・式(7)
【0023】
ここで、上記式(6)及び式(7)における「C」は抗力係数であり、下記式(8)にて与えられる。
【0024】
=(24/Re)・(1+0.15Re0.687)・・・式(8)
【0025】
ここで、上記式(8)における「Re」は粒子Reynolds数であり、前記荷電粒子についての移動速度u、粒子径d及び動粘度νから下記式(9)で表される。
【0026】
Re=ud/ν・・・式(9)
【0027】
また、上記式(6)及び式(7)における「q」は電荷量(C)を表し、前記荷電粒子についての表面電荷密度σと、該荷電粒子の表面積(4π(d/2))との積から、下記式(10)にて表される。
【0028】
q=πσd・・・式(10)
【0029】
上記式(7)に、上記(8)〜(10)を代入し、左右両辺を「πd」で除した上で右辺を整理したものが、前記式(1)である。
【0030】
この式(1)は、移動速度uについての関数と見ることができる。しかし、これをuについて代数的に解くことは不可能であるため、他のパラメータを代入した上で、左右両辺が所定の有効数字の桁数で等しくなるようなuの値を、数値解析的に求めることになる。
【0031】
一方、熱輸送流体の速度境界層厚さδについては、管壁との摩擦速度をU(m/s)としたとき、前記動粘度νを参照して、下記式(11)が成立することが知られている。
【0032】
Uδ/ν≧70・・・式(11)
【0033】
ここで、摩擦速度Uは、熱輸送流体のせん断応力をτ(Pa)としたとき、前記液体密度ρを参照して、下記式(12)で与えられる。
【0034】
U=(τ/ρ1/2・・・式(12)
【0035】
また、せん断応力τは、熱輸送流体の管壁との摩擦係数をf(無次元)としたとき、前記液体密度ρ及び流速vを参照して、下記式(13)で与えられる。
【0036】
τ=(1/8)fρv・・・式(13)
【0037】
そして、前記式(11)の両辺が等しい場合に、上記式(12)及び式(13)を代入して速度境界層厚さδについて解いたものが、前記式(3)である。
【0038】
さらに、温度境界層厚さδと速度境界層厚さδとの比率は、プラントル数(Pr)の(−1/3)乗であることが知られている。
【0039】
すなわち、温度境界層厚さδと速度境界層厚さδとの間には、下記式(14)の関係が成立する。
【0040】
δ=δ・Pr−1/3・・・式(14)
【0041】
ここで、プラントル数(Pr)は、前記粘度η、比熱C及び熱伝導率λを参照して、下記式(15)で与えられる。
【0042】
Pr=Cη/λ・・・式(15)
【0043】
この式(15)を式(14)に代入して整理すると、前記式(4)が導かれる。
【0044】
ここで、流体が通常の液体である場合には、Pr>1であるから、温度境界層厚さδは速度境界層厚さδより小さい値となる。
【0045】
よって、荷電粒子が、前記式(1)で得られる移動速度uをもって、前記熱伝達部を通過する時間t(前記式(2)参照)の間に管壁方向へ移動する距離(ut)がδ以上であれば、荷電粒子は、管壁から距離δまでの範囲を占める温度境界層を移動しきることができる、というのが前記式(5)の意義である。
【0046】
すなわち、ローレンツ力によって荷電粒子が流体抗力に打ち勝って管壁方向へ移動することで温度境界層の部分を乱し、その厚さを小さくすることで、熱伝達率が向上する。
【0047】
請求項4記載の対流熱伝達促進方法においては、前記荷電粒子の移動速度u、前記熱輸送流体が前記熱伝達部を通過する時間t、前記速度境界層厚さδについて、下記式(16)の関係が満たされる。
【0048】
ut≧δ・・・式(16)
【0049】
すなわち、前述のとおり、流体が液体である場合には、通常、速度境界層厚さδは温度境界層厚さδより大きい値となる。
【0050】
したがって、荷電粒子が、前記式(1)で得られる移動速度uをもって、前記熱伝達部を通過する時間t(前記式(2)参照)の間に管壁方向へ移動する距離(ut)がδ以上であれば、荷電粒子は、管壁から距離δまでの範囲を占める速度境界層までも移動しきることができる、というのが上記式(16)の意義である。
【0051】
すなわち、ローレンツ力によって荷電粒子が流体抗力に打ち勝って管壁方向へ移動することで速度境界層の部分までも乱し、その厚さを小さくすることで、熱伝達率がさらに向上する。
【0052】
請求項5記載の対流熱伝達促進方法においては、前記荷電粒子の粒子径は50nm以上1μm以下であるとともに、前記荷電粒子の前記熱輸送流体中の濃度は3体積%以上10体積%以下である。
【0053】
すなわち、荷電粒子の粒子径が50nm未満になると、同じ条件下において、前記移動可能距離(ut)が、速度境界層厚さδや温度境界層厚さδを下回る可能性が高くなる。一方、荷電粒子の粒子径が1μmを上回ると、荷電粒子による装置の損傷の可能性が高くなるとともに、粒子径の増大により圧力損失もまた増大することになる。
【0054】
よって、荷電粒子の粒子径は、50nm以上1μm以下であることが望ましい。
【0055】
請求項6記載の対流熱伝達促進方法においては、前記荷電粒子と前記ベース液体との電位差は20mV以上100mV以下である。
【0056】
すなわち、荷電粒子とベース液体との電位差が20mV未満であると、流体抗力に打ち勝つだけのローレンツ力を得ることが実際には困難である。一方、通常の熱交換器での使用を考慮した場合、荷電粒子とベース液体との電位差として実現可能なのはせいぜい100mVである。
【0057】
よって、荷電粒子とベース液体との電位差は、20mV以上100mV以下であることが望ましい。
【発明の効果】
【0058】
以上説明したように、本発明の対流熱伝達促進方法によれば、熱輸送流体のベース液体中に微小な固体粒子を分散させた熱輸送システムにおいて、圧力損失を大幅に増大させることなく、熱交換性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】本発明の実施の形態に係る実験装置の概略図である。
図2】荷電粒子の粒子径と移動距離との関係をグラフで示す。
図3】電流の方向による熱伝達率への影響をグラフで示す。
図4】電流の方向による熱輸送流体中の荷電粒子の挙動を模式的に示す。
図5】本発明の実施の形態によるシステムの具体例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、下記説明中で言及される各式において、「XXX/YYY」のように表記されている場合、スラッシュ(/)の前の文字列は分子を、後の文字列は分母を、それぞれ表すものとする。
【0061】
<実験装置>
図1は、本実施の形態の対流熱伝達促進方法を実現するための実験装置の概略図である。
【0062】
図1に示す実験装置を循環する熱輸送流体100のベース液体はエチレングリコール水溶液(50重量%)とし、これに荷電粒子としてシリカ(SiO)粒子を3.5体積%となるように分散させた。
【0063】
シリカ粒子の粒径(dp)は、300nm(=3.00×10−7m)であった。
【0064】
熱輸送流体100の流路10には管径3/8インチ(≒0.953cm)のSUS円管を用いた。
【0065】
熱輸送流体100は、容量10Lの撹拌槽20内で、加熱器25により80℃(≒353K)に加熱されつつ送液ポンプ30によって途中に流量計40を介して、熱伝達部50へ送出された。
【0066】
熱伝達部50の全長(L)は1.0mであった。
【0067】
熱伝達部50の上流端と下流端との間で、電圧器60により電圧7Vを印加し、電流200Aの通電を行った。
【0068】
また、熱伝達部50の上流側及び下流側、並びに熱伝達部50の途中の数箇所に熱電対70を装着し、この間の流路10における温度を測定した。
【0069】
さらに、熱伝達部50の上流側と下流側との間の流路10の圧力差を測定するために差圧計80も装着した。
【0070】
熱伝達部50を通過した熱輸送流体100は、熱交換器90を経て再び撹拌槽20へ環流させた。
【0071】
<速度境界層厚さ>
熱輸送流体のベース液体としての上記エチレングリコール水溶液について、流速2.0m/sで流路を流れる際の速度境界層厚さδを算出するためのパラメータは、下記表1のとおりであった。
【0072】
【表1】
【0073】
なお、上記表1中の摩擦係数f及び動粘度νは実験装置における実測値である。
【0074】
ここで、上記表1を含め、以下の各表中のパラメータの単位が「―」と表記されている場合は、当該パラメータは無次元数であることを表す。
【0075】
上記表1のパラメータを前記式(3)、すなわち、
δ=(70ν/(fv/8)0.5)・・・式(3)
に当て嵌めると、速度境界層厚さδは、
δ=7.38×10−4(m)(=738μm)
と算出された。
【0076】
<温度境界層厚さ>
また、上記エチレングリコール水溶液についての温度境界層厚さδを算出するためにさらに必要なパラメータは、下記表2のとおりであった。
【0077】
【表2】
【0078】
前記速度境界層厚さδ及び上記表2のパラメータを前記式(4)、すなわち、
δ=δ/(Cη/λ)1/3・・・式(4)
に当て嵌めると、温度境界層厚さδは、
δ=3.57×10−4(m)(=357μm)
と算出された。
【0079】
<粒子速度>
粒子速度uは、前記式(1)、すなわち、
σvB=ρ(3uν/d+0.45u1.687・(ν/d0.313)・・・式(1)
を満たす値として、数値解析的に求められる。
【0080】
ここで、上記式の右辺に代入されるパラメータは、下記表3のとおりであった。
【0081】
【表3】
【0082】
<表面電荷密度>
一方、前記式(1)の左辺のパラメータのうち、表面電荷密度σは、下記式(17)にて与えられる。
【0083】
σ=P・(1+P+P1/2・・・式(17)
【0084】
ただし、上記式(17)中のP〜Pは下記式(17−1)〜(17−6)で与えられる。
【0085】
=2εεκkT/e・・・式(17−1)
【0086】
=sinh(eΨ/2kT)・・・式(17−2)
【0087】
=1/κa・・・式(17−3)
【0088】
=2/cosh(eΨ/4kT)・・・式(17−4)
【0089】
=1/(κa)・・・式(17−5)
【0090】
=8ln{cosh(eΨ/4kT)/sinh(eΨ/2kT)・・・式(17−6)
【0091】
上記式(17−1)〜(17−6)中のパラメータは、下記表4のとおりであった。
【0092】
【表4】
【0093】
なお、上記表4中の、デバイ遮蔽長の逆数(κ)については、下記式(17−7)で与えられる。
【0094】
κ=(4πlΣz0.5={4πl(2z)N0.5・・・式(17−7)
【0095】
ここで、上記式(17−7)中のパラメータは、下記表5のとおりであった。
【0096】
【表5】
【0097】
なお、上記式(17−7)中で、Σz=2zとなっているのは、エチレングリコール水溶液における溶質であるエチレングリコールは電荷を有さないため、溶媒である水の水素イオン濃度及び水酸化物イオン濃度についてそれぞれzが計算されたものの和となっているためである。
【0098】
さらに、上記表5中のBjerrum長(l)は、前記表4中のパラメータを参照して、下記式(17−8)で与えられる。
【0099】
=e/4πεεkT・・・式(17−8)
【0100】
また、上記表4中の、無次元ゼータ電位Ψについては、上記表4及び表5中のパラメータを参照して、下記式(17−9)で与えられる。
【0101】
Ψ=zeζ/kT・・・式(17−9)
【0102】
ここで、上記式(17−9)中のパラメータζについては、下記表6のとおりである。
【0103】
【表6】
【0104】
以上の表4〜6に掲げたパラメータを、上記式(17−1)〜(17−9)にそれぞれ代入して、前記P〜Pは下記のとおり算出された。
【0105】
=2.81×10−5
【0106】
=1.19×10
【0107】
=2.92
【0108】
=3.48×10−9
【0109】
=8.51
【0110】
=6.10×10−17
【0111】
そして、上記P〜Pの値を前記式(17)に代入することにより、表面電荷密度σは、
σ=3.24×10(C/m
と算出された。
【0112】
なお、前記式(17)の括弧内における「P」及び「P」の値は、これらと足し合わされる値「1」に比して有効数字の桁数の上では無視できるほど小さい。よって、上記計算においてはこれらを無視して下記式(17−10)にて計算することとしても事実上差し支えない。
【0113】
σ=P・・・式(17−10)
【0114】
<流速>
また、前記式(1)の左辺のパラメータのうち、熱輸送流体の流速vの値は、前記のとおり、2.0(m/s)であった。
【0115】
<磁束密度>
さらに、前記式(1)の左辺のパラメータのうち、磁束密度Bは、下記式(18)にて与えられる。
【0116】
B=μI/2πr・・・式(18)
【0117】
ここで、上記式(18)中のμは透磁率であり、比透磁率μと真空透磁率μとの積で表されるので、上記式(18)は、下記式(19)として表すことができる。
【0118】
B=μμI/2πr・・・式(19)
【0119】
ここで、上記式(19)に代入されるパラメータは、下記表7のとおりであった。
【0120】
【表7】
【0121】
上記表7に掲げたパラメータを上記式(19)に代入して、磁束密度Bは、
B=4.01×10−3(T)
と算出された。
【0122】
<粒子速度の数値解析>
以上、前記式(1)に代入されるパラメータを、下記表8に再掲する。
【0123】
【表8】
【0124】
上記表8のパラメータを、前記式(1)に代入した上で、uに適当な数値を代入して、両辺が所定の有効数字(本実施の形態では3桁とした)となった時点で、そのuの値を粒子速度とした。
【0125】
その結果は、
u=2.58×10−2(m/s)
であった。
【0126】
<荷電粒子の移動距離>
荷電粒子は、熱伝達部50の距離L(1.0m)を速度v(2.0m/s)で通過する時間t(=L/v=0.5s)の間に、粒子速度uをもって管壁へ移動する。
【0127】
よって、上記の場合、荷電粒子の移動距離utは、
ut=2.58×10−2×0.5=1.29×10−2(m)
となる。
【0128】
この距離は、温度境界層厚さδ(3.57×10−4m)はもちろん、速度境界層厚さδ(7.38×10−4m)をも上回るものである。
【0129】
以上より、上記条件の場合、荷電粒子が管壁方向へ移動することで熱輸送流体の境界層部分を荷電粒子が乱すことでその境界層の厚さを小さくすることができ、結果として熱伝達率が向上することとなる。
【0130】
<荷電粒子の粒子径と移動速度及び移動距離との関係>
なお、上記条件において、荷電粒子の粒子径(d)を様々に変えた場合の移動速度及び移動距離(ut)は、下記表9のように算出される。
【0131】
【表9】
【0132】
また、上記表9のデータをグラフ化したのが図2である。図2からは、粒子径(dp)と移動距離(ut)とはほぼ正の相関を示す線形関係にあるといえる。
【0133】
さらに、上記表9によれば、粒子径(d)が50nm以上であれば、その移動距離(ut)は上記条件下では温度境界層厚さδ(357μm)及び速度境界層厚さδ(738μm)のいずれも上回ることになるため、熱伝達率の向上に寄与すると考えられる。
【0134】
<流速の影響>
なお、前記実験装置において、前記表1に掲げる流速vを1.00m/sと半減させた場合、動粘度νについては変化はないが、摩擦係数fの実測値は3.88×10−2に変化した。すなわち、この場合に速度境界厚さδを算出するためのパラメータは、下記表10のとおりであった。
【0135】
【表10】
【0136】
上記表10のパラメータを前記式(3)に当て嵌めると、速度境界層厚さδは、
δ=9.91×10−4(m)(=991μm)
と算出された。
【0137】
なお、前記表2に掲げたパラメータは同一である。そして、前記速度境界層厚さδ及び前記表2のパラメータを前記式(4)に当て嵌めると、温度境界層厚さδは、
δ=4.79×10−4(m)(=479μm)
と算出された。
【0138】
すなわち、流速が2.0m/sから1.0m/sと半減することによって、速度境界厚さδ及び温度境界層厚さδはいずれも約1.34倍に増大した。
【0139】
また、粒子速度uを数値解析するための前記式(1)に代入されるパラメータは、流速vが1.00×10m/sとなった以外は前記表8と同じであったので、これらのパラメータを前記式(1)に代入した上で、前述と同様にして得られたuの値は、
u=1.29×10−2(m/s)
であった。
【0140】
このとき、荷電粒子は、熱伝達部50の距離L(1.0m)を速度v(1.0m/s)で通過する時間t(=L/v=1.0s)の間に、粒子速度uをもって管壁へ移動する。
【0141】
よって、上記の場合、荷電粒子の移動距離utは、
ut=1.29×10−2×1.0=1.29×10−2(m)
となる。
【0142】
この距離は、温度境界層厚さδ(4.79×10−4m)はもちろん、速度境界層厚さδ(9.91×10−4m)をも上回るものである。
【0143】
以上より、上記条件の場合であっても、荷電粒子が管壁方向へ移動することで熱輸送流体の境界層部分を荷電粒子が乱すことでその境界層の厚さを小さくすることができ、結果として熱伝達率が向上することとなる。
【0144】
なお、上記条件において、荷電粒子の粒子径(d)を様々に変えた場合の移動速度及び移動距離(ut)は、下記表11のように算出される。
【0145】
【表11】
【0146】
なお、上記表11によれば、粒子径(d)が50nm以上であれば、その移動距離(ut)は上記条件下では温度境界層厚さδ(479μm)及び速度境界層厚さδ(991μm)のいずれも上回ることになるため、熱伝達率の向上に寄与すると考えられる。
【0147】
<電流の方向>
次に、前記実験装置を用いて、流速と熱伝達率との関係に及ぼす、熱伝達部50への電流の方向の影響について検討した。
【0148】
具体的には、電流の方向を流路方向と同一にした場合(電流順方向)と、電流の方向を流路方向と反対にした場合(電流逆方向)と、通電しなかった場合(通電なし)とのそれぞれについて、下記表12に示すように0.68〜2.97m/sの範囲で流速を変化させた場合について、熱伝達率(W/mK)を測定した。その結果を下記表12に示す。
【0149】
【表12】
【0150】
また、上記表12のデータをグラフ化したものが図3である。なお、図3中のシンボルは、菱形(◆)が電流順方向を、正方形(■)が電流逆方向を、三角(▲)が通電なしをそれぞれ表している。ここから、いずれの場合も、流速と熱伝達率とは、ほぼ正の相関を示す線形関係にあるといえる。
【0151】
また、同じ流速であれば、電流逆方向の場合、電流順方向の場合よりも熱伝達率が高くなっている。これは、以下のように考えられる。
【0152】
本実施の形態では、荷電粒子としてシリカ粒子を使用しており、よって粒子表面は負電荷を帯びている。したがって、図4(A)のように電流の方向が流路の方向と同一の場合(すなわち、「電流順方向」の場合)、ローレンツ力は内向きに働くため、荷電粒子の移動方向は内向きとなる。一方、図4(B)のように電流の方向が流路の方向と反対の場合(すなわち、「電流逆方向」の場合)、ローレンツ力は外向きに働くため、荷電粒子の移動方向は外向きとなる。これらの挙動は、粒子表面が正電荷を帯びている場合とは全く逆となる。
【0153】
そして、流路内では管壁に近づくほど熱輸送流体の温度は低いため、図4(B)のように荷電粒子が外向きに移動することで、管壁の中心にある比較的温度の高い熱輸送流体が管壁に移動することで、壁面熱伝達率がより向上するものと考えられる。
【0154】
すなわち、本実施の形態に係る対流熱伝達促進方法では、荷電粒子が管壁の壁面方向に運動することで、荷電粒子は流路の外側(換言すると、壁面側)に局在化する。
【0155】
これに伴い、壁面衝突噴流が生ずるとともに、境界層(温度境界層又は速度境界層)が撹拌される。
【0156】
よって、管壁の壁面の近傍の熱伝導が向上することで、壁面の熱伝達が向上する。
【0157】
なお、正電荷を帯びた荷電粒子を使用した場合は、電流順方向の方が、電流逆方向よりも熱伝達率がより高まるものと予想される。
【0158】
表10においてさらに注目すべきは、電流順方向で荷電粒子の移動方向が内向きである場合であっても、通電なしの場合に比べれば熱伝達率は向上する、ということである。
【0159】
すなわち、表10において、流速が2.0m/の場合の熱伝達率をそれぞれの場合のグラフに当て嵌めて(図3参照)得られた推測値によれば、電流逆方向の場合(荷電粒子が外向きに移動する場合)は通電なしの場合に対して熱伝達率は1.47倍に達したが、電流順方向の場合(荷電粒子が内向きに移動する場合)でも通電なしの場合に比べて1.19倍の熱伝達率となっている。
【0160】
これは、仮に荷電粒子の移動方向が内向きであっても、その移動によって流路内での何らかの対流が起こることで、結果として管壁の中心にある比較的温度の高い熱輸送流体が管壁に移動することで、外向きの場合よりは程度は低いものの、壁面熱伝達率が向上することによるものと考えられる。
【0161】
以上により、本実施の形態に係る対流熱伝達促進方法では、熱伝達部への通電のオン/オフにより、熱伝達や熱伝導を強化させるタイミングを制御することも可能となっている。
【0162】
<具体例>
本発明の実施の形態は、たとえば、図5の模式図に示すようなシステムとすることができる。
【0163】
このシステムでは、放熱部51と受熱部52とが、送液ポンプ30で連結されている。そして、高温の熱輸送流体110が放熱部51で熱を放出し低温の熱輸送流体120となり、これが受熱部52で熱を受け取り、高温の熱輸送流体110となって再び放熱部51へと循環している。また、受熱部52と放熱部51との間には、荷電粒子の熱輸送流体中の濃度調整のためのスラリータンク200が介在している。
【0164】
上記の放熱部51及び受熱部52には、いずれも熱伝達部50が設けられ、底では先述のとおり通電が行われるため、先述したように荷電粒子の壁面方向への運動による熱伝達が向上する。よって、放熱部51における熱輸送流体100からの放熱においても、また、受熱部における熱輸送流体100への受熱においても、熱伝達が向上する。
【0165】
さらに、先述したように放熱部51及び受熱部52において熱伝達部50への通電のオン/オフや、通電方向の順逆を調整することで、必要に応じて熱伝達率をアクティブ制御することも可能である。
【0166】
以上述べたとおり、本発明に係る対流熱伝達促進方法は、前記熱交換器のような受放熱部を循環する熱輸送システムに関し、特に、水やエチレングリコールなどに代表される熱輸送流体のベース液体中に微小な固体粒子である荷電粒子を単分散させた高熱効率な熱輸送流体を循環させる熱輸送システムにおいて、圧力損失および消費エネルギーを抑制しながら熱交換性能を向上する手法に関するものである。
【0167】
本発明に係る対流熱伝達促進方法では、管状の熱伝達部の周囲に通電することで、ローレンツ力などの電磁場を利用した外力により荷電粒子を運動させ、管状の流路の外側、すなわち管壁側に局在化させる。
【0168】
その結果、熱輸送流体中に占める固体粒子の割合が比較的小さい条件下でも、大きな壁面境界層撹拌効果が期待できる。
【0169】
さらに、比較的熱伝導率の大きい荷電粒子を管壁の壁面付近に局在化させることで、壁面近傍の熱伝導率の向上も期待できる。
【0170】
したがって、流路における圧力損失を大幅に増大させることなく、省消費エネルギーでの熱伝達の向上が期待される。
【0171】
また、熱伝達部への通電のオン/オフを適宜切り替えることで、必要なタイミングで熱伝達を強化することもできる。
【符号の説明】
【0172】
50 熱伝達部
100 熱輸送流体
図1
図2
図3
図4
図5