【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の対流熱伝達促進方法は、ベース液体と、前記ベース液体中に分散されるとともに該ベース液体との間に電位差を有する荷電粒子を含んで構成される熱輸送流体を管状の熱伝達部において輸送するとともに、前記熱輸送流体の流路方向とは異なる方向の電磁場による外力を前記荷電粒子に作用させ、前記荷電粒子を前記熱伝達部の管壁方向へ移動させる。
【0009】
請求項1に記載の対流熱伝達促進方法は、熱輸送流体を管状の熱伝達部において輸送することで、熱輸送流体が有する熱を熱伝達部で他の流体等へ受け渡すものである。
【0010】
熱輸送流体は、荷電粒子がベース液体中に分散されたものである。ベース液体は、熱媒体として機能する液体であり、たとえば、水又はエチレングリコール水溶液が挙げられる。荷電粒子は、ベース液体との間に電位差を有する微小粒子であり、黒鉛などの炭素系粒子、シリカ若しくはアルミナなどの金属酸化物系粒子、セラミック系粒子、又は銅などの金属系粒子が挙げられる。
【0011】
熱伝達部を流れる荷電粒子は、熱伝達部において電磁場による外力の作用を受ける。この外力は、熱輸送媒体の流路方向とは異なる方向の力であり、その作用によって、荷電粒子は管壁方向へ移動する。
【0012】
このとき、荷電粒子は微小粒子であるため、管壁方向への移動による圧力損失はほとんど問題にならない。
【0013】
ここで、この電磁場による外力としては、電場によるクーロン力であってもよいが、請求項2に記載の対流熱伝達促進方法においては、前記電磁場による外力は、前記流路方向に沿って流れる電流により生ずる前記流路方向とは垂直な方向の磁場によるローレンツ力である。
【0014】
なお、ここでいう管壁方向への移動とは、荷電粒子が最も近い管壁の方向へ移動すること(換言すると、直近の管壁に接近すること)と、荷電粒子が最も遠い管壁の方向へ移動すること(換言すると、直近の管壁から離反すること)との両方を含む。この荷電粒子の管壁への移動方向は、流路方向と電磁場の方向とによって決定される。
【0015】
熱輸送流体に分散される荷電粒子に作用するこのローレンツ力は、流路方向とは垂直な方向の磁場によるものであるため、流路方向とは垂直な方向、すなわち、管壁に向かう方向に作用する。そして、このローレンツ力が、流体から受ける流体抗力を上回れば、荷電粒子は管壁方向へ移動することができる。
【0016】
請求項3に記載の対流熱伝達促進方法においては、前記熱伝達部の前記流路方向の長さをL(m)とし、前記熱伝達部における前記熱輸送流体の流速を流速v(m/s)とし、前記磁場の磁束密度をB(T)とし、前記熱輸送流体の密度をρ(kg/m
3)、流体密度をρ
F(kg/m
3)、摩擦係数をf(無次元)、粘度をη(Pa・s)、動粘度をν(m
2/s)、比熱をC
p(J/(kg・K))及び熱伝導率をλ(W/(m・K))とし、前記荷電粒子の表面電荷密度をσ(C/m
2)及び粒子径をd
p(m)としたとき、
σvB=ρ
F(3uν/d
p+0.45u
1.687・(ν/d
p)
0.313)・・・式(1)
を満たす前記荷電粒子の前記管壁方向への移動速度u(m/s)に対し、
t=L/v・・・式(2)
で与えられる、前記熱輸送流体が前記熱伝達部を通過する時間t(s)、
δ=(70ν/(fv/8)
0.5)・・・式(3)
で与えられる速度境界層厚さδ(m)、及び、
δ
T=δ(λ/(C
pη))
1/3・・・式(4)
で与えられる温度境界層厚さδ
T(m)について、
ut≧δ
T・・・式(5)
である。
【0017】
ここで、流路方向とは垂直な方向の磁場を通る荷電粒子に作用する力をF(N)とすると、このFは、下記式(6)で与えられる。
【0018】
F=qvB−C
Dρ
F(πd
p2/4)(u
2/2)・・・式(6)
【0019】
ここで上記式(6)の右辺の第1項は電磁場による外力、すなわちこの場合はローレンツ力であり、第2項は流体抗力である。
【0020】
そして、F>0であるとき、荷電粒子のローレンツ力は流体抗力に打ち勝って管壁方向へ移動することができる。
【0021】
ここで、F=0、すなわち、ローレンツ力と流体抗力とが釣り合っている状態、つまり、下記式(7)を満たす荷電粒子の移動速度u(m/s)が、荷電粒子が管壁方向へ移動することができるかどうかの閾値となる。
【0022】
qvB=C
Dρ
F(πd
p2/4)(u
2/2)・・・式(7)
【0023】
ここで、上記式(6)及び式(7)における「C
D」は抗力係数であり、下記式(8)にて与えられる。
【0024】
C
D=(24/Re
d)・(1+0.15Re
d0.687)・・・式(8)
【0025】
ここで、上記式(8)における「Re
d」は粒子Reynolds数であり、前記荷電粒子についての移動速度u、粒子径d
p及び動粘度νから下記式(9)で表される。
【0026】
Re
d=ud
p/ν・・・式(9)
【0027】
また、上記式(6)及び式(7)における「q」は電荷量(C)を表し、前記荷電粒子についての表面電荷密度σと、該荷電粒子の表面積(4π(d
p/2)
2)との積から、下記式(10)にて表される。
【0028】
q=πσd
p2・・・式(10)
【0029】
上記式(7)に、上記(8)〜(10)を代入し、左右両辺を「πd
p2」で除した上で右辺を整理したものが、前記式(1)である。
【0030】
この式(1)は、移動速度uについての関数と見ることができる。しかし、これをuについて代数的に解くことは不可能であるため、他のパラメータを代入した上で、左右両辺が所定の有効数字の桁数で等しくなるようなuの値を、数値解析的に求めることになる。
【0031】
一方、熱輸送流体の速度境界層厚さδについては、管壁との摩擦速度をU(m/s)としたとき、前記動粘度νを参照して、下記式(11)が成立することが知られている。
【0032】
Uδ/ν≧70・・・式(11)
【0033】
ここで、摩擦速度Uは、熱輸送流体のせん断応力をτ(Pa)としたとき、前記液体密度ρ
Fを参照して、下記式(12)で与えられる。
【0034】
U=(τ/ρ
F)
1/2・・・式(12)
【0035】
また、せん断応力τは、熱輸送流体の管壁との摩擦係数をf(無次元)としたとき、前記液体密度ρ
F及び流速vを参照して、下記式(13)で与えられる。
【0036】
τ=(1/8)fρ
Fv・・・式(13)
【0037】
そして、前記式(11)の両辺が等しい場合に、上記式(12)及び式(13)を代入して速度境界層厚さδについて解いたものが、前記式(3)である。
【0038】
さらに、温度境界層厚さδ
Tと速度境界層厚さδとの比率は、プラントル数(Pr)の(−1/3)乗であることが知られている。
【0039】
すなわち、温度境界層厚さδ
Tと速度境界層厚さδとの間には、下記式(14)の関係が成立する。
【0040】
δ
T=δ・Pr
−1/3・・・式(14)
【0041】
ここで、プラントル数(Pr)は、前記粘度η、比熱C
p及び熱伝導率λを参照して、下記式(15)で与えられる。
【0042】
Pr=C
pη/λ・・・式(15)
【0043】
この式(15)を式(14)に代入して整理すると、前記式(4)が導かれる。
【0044】
ここで、流体が通常の液体である場合には、Pr>1であるから、温度境界層厚さδ
Tは速度境界層厚さδより小さい値となる。
【0045】
よって、荷電粒子が、前記式(1)で得られる移動速度uをもって、前記熱伝達部を通過する時間t(前記式(2)参照)の間に管壁方向へ移動する距離(ut)がδ
T以上であれば、荷電粒子は、管壁から距離δ
Tまでの範囲を占める温度境界層を移動しきることができる、というのが前記式(5)の意義である。
【0046】
すなわち、ローレンツ力によって荷電粒子が流体抗力に打ち勝って管壁方向へ移動することで温度境界層の部分を乱し、その厚さを小さくすることで、熱伝達率が向上する。
【0047】
請求項4記載の対流熱伝達促進方法においては、前記荷電粒子の移動
速度u、前記熱輸送流体が前記熱伝達部を通過する時間t、前記速度境界層厚さδについて、下記式(16)の関係が満たされる。
【0048】
ut≧δ・・・式(16)
【0049】
すなわち、前述のとおり、流体が液体である場合には、通常、速度境界層厚さδは温度境界層厚さδ
Tより大きい値となる。
【0050】
したがって、荷電粒子が、前記式(1)で得られる移動速度uをもって、前記熱伝達部を通過する時間t(前記式(2)参照)の間に管壁方向へ移動する距離(ut)がδ以上であれば、荷電粒子は、管壁から距離δまでの範囲を占める速度境界層までも移動しきることができる、というのが上記式(16)の意義である。
【0051】
すなわち、ローレンツ力によって荷電粒子が流体抗力に打ち勝って管壁方向へ移動することで速度境界層の部分までも乱し、その厚さを小さくすることで、熱伝達率がさらに向上する。
【0052】
請求項5記載の対流熱伝達促進方法においては、前記荷電粒子の粒子径は50nm以上1μm以下であるとともに、前記荷電粒子の前記熱輸送流体中の濃度は3体積%以上10体積%以下である。
【0053】
すなわち、荷電粒子の粒子径が50nm未満になると、同じ条件下において、前記移動可能距離(ut)が、速度境界層厚さδや温度境界層厚さδ
Tを下回る可能性が高くなる。一方、荷電粒子の粒子径が1μmを上回ると、荷電粒子による装置の損傷の可能性が高くなるとともに、粒子径の増大により圧力損失もまた増大することになる。
【0054】
よって、荷電粒子の粒子径は、50nm以上1μm以下であることが望ましい。
【0055】
請求項6記載の対流熱伝達促進方法においては、前記荷電粒子と前記ベース液体との電位差は20mV以上100mV以下である。
【0056】
すなわち、荷電粒子とベース液体との電位差が20mV未満であると、流体抗力に打ち勝つだけのローレンツ力を得ることが実際には困難である。一方、通常の熱交換器での使用を考慮した場合、荷電粒子とベース液体との電位差として実現可能なのはせいぜい100mVである。
【0057】
よって、荷電粒子とベース液体との電位差は、20mV以上100mV以下であることが望ましい。