【実施例】
【0029】
以下に述べる方法により、基材と、アンダーコート層と、銀鏡膜と、トップコート層とからなる加飾品の試料1〜4を作製した。次の表1に示すように、試料1〜4の違いは、(4)銀鏡膜の作製における銀鏡膜形成液へのTEOS溶液の添加量の違いと、銀鏡膜の乾燥条件の違いのみであり、TEOS溶液を添加しない試料1は比較例、TEOS溶液を添加した試料2〜4は実施例である。
【0030】
【表1】
【0031】
(1)基材
基材には、ABS樹脂からなる100mm×100mm×厚さ3.0mmの板状基材を使用した。
【0032】
(2)アンダーコート層
ABS樹脂からなる基材に、アンダーコート液を塗布して、アンダーコート層を形成した。
アンダーコート液の材料として、次の主剤、硬化剤、希釈剤及びレベリング剤を使用した。
・主剤:表面化工研究所社の製品名「MFSアンダーコート主剤」製品番号「MFS−51」(アクリル樹脂40%、トルエン21.5%、キシレン(混合)16.5%、酢酸イソブチル22%の混合物)である。
・硬化剤:表面化工研究所社の製品名「MFSアンダーコート硬化剤21」製品番号「MFS−52AK21」(イソシアネートプレポリマー60%、酢酸エチル40%の混合物)である。
・希釈剤:表面化工研究所社の製品名「MFSアンダーコート希釈剤」製品番号「MFS−53」(トルエン3.0%、キシレン23.4%、エチルベンゼン12.6%、酢酸ブチル25〜30%、酢酸エチル5〜10%、メチルイソブチルケトン1〜5%、ジアセトンアルコール10〜15%、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート14.0%の混合物)である。
・レベリング剤:表面化工研究所社の製品名「MFSアンダーコートレベリング剤」製品番号「MFS−58」(ポリシロキサンとワキ防止剤2%、1,3,5−トリメチルベンゼン12%、1,2,4−トリメチルベンゼン28%、1,2,3−トリメチルベンゼン5%、エチルベンゼン24%、キシレン4%、ジイソブチルケトン15%、ブチルグリコレート3%の混合物)である。
【0033】
これらの主剤:硬化剤:希釈剤:レベリング剤を100:20:60〜100:3〜5の質量比で混合し、スプレーガンにより基材の表面にスプレー塗布した。
塗布後、恒温槽にて65℃×30分保持して、硬化させるとともに乾燥させ、膜厚15〜25μmのアンダーコート層を形成した。
【0034】
(3)表面調整
イオン交換水で水洗した後、銀析出促進及び付着性向上を目的として、表面調整液を吹き付けて、基材ないしアンダーコート層の表面調整をした。
表面調整液の材料として、次の表面調整剤A,Bを使用した。
・表面調整剤A:表面化工研究所社の製品名「MFS表面調整剤A」製品番号「MFS−40A」(第一塩化錫〜10%、塩酸〜5%の水溶液)を、イオン交換水で15倍希釈した(例;表面調整剤A10mL、イオン交換水140mL)。
・表面調整剤B:表面化工研究所社の製品名「MFS表面調整剤B」製品番号「MFS−40B」(ナトリウム塩〜1%の水溶液)を、イオン交換水で15倍希釈した(例;表面調整剤B10mL、イオン交換水140mL)
【0035】
これらの表面調整剤A:表面調整剤Bを1:1の質量比で混合して表面調整液を作製し、スプレーガンによりアンダーコート層の表面に吹き付けた。
表面調整液で濡れている状態で、イオン交換水で水洗し、表面調整液の余剰分を洗い流した。
【0036】
(4)銀鏡膜
基材(アンダーコート)に、銀鏡膜形成液を塗布(銀鏡塗装)して、銀鏡膜を形成した。
銀鏡膜形成液の材料として、次の銀主液、銀副液、還元液及びTEOS溶液を使用した。
・銀主液:表面化工研究所社の製品名「MFS銀主液」、製品番号「MFS−10」(硝酸銀8.4%、水酸化アンモニウム〜5%の水溶液)である。
・銀副液:表面化工研究所社の製品名「MFS銀副液」、製品番号「MFS−20」(苛性ソーダ〜10%、水酸化アンモニウム〜5%の水溶液)である。
・還元液:表面化工研究所社の製品名「MFS還元剤」、製品番号「MFS−30」(多糖類5〜15%、塩酸〜5%の水溶液)である。
・TEOS溶液:TEOS濃度1モル/Lの水溶液である。具体的には、TEOS41.67gをエタノール30mLとイオン交換水16mLに溶かし、さらにイオン交換水154mLを加えて希釈した後、1M塩酸を6mLを加えてよく撹拌し、ゾル状のTEOS溶液を作製した。
【0037】
銀主液をイオン交換水で15倍希釈し(例;銀主
液5mL、水70mL)、銀副液をイオン交換水で15倍希釈し(例;銀副
液5mL、水70mL)、これらの希釈液を混合して、銀鏡液を作製した。
還元液をイオン交換水で30倍希釈(例;還元液5mL、水145mL)し、もってアルデヒドを0.085〜0.258モル/L含むものとなった還元液(希釈液)5mLに対してゾル状のTEOS溶液(濃度1モル/L)を試料2では1.5mL、試料3では4.5mL、試料4では7.5mLの各割合で配合
し、試料1では配合しなかった。
【0038】
これらの銀鏡液と(試料2〜4ではTEOS溶液を含む)還元液とを二頭スプレーガンにより同時にスプレーし、空中で混合させて、アンダーコートの表面に塗布した。アンダーコート上で、次の銀鏡反応式により銀粒子が析出し、銀鏡膜が形成された。
R−CHO+2[Ag(NH
3)
2]
++2OH
-
→ R−COOH+2Ag↓+4NH
3+H
2O
ここで、R−CHOは、還元液(多糖類が塩酸で加水分解して単糖類となっている。)に含まれるアルデヒドである。
[Ag(NH
3)
2]
+は、銀鏡液に含まれるアンモニア性硝酸銀である。
銀鏡膜が形成された後、イオン交換水で水洗した。
【0039】
(5)腐食防止処理
銀鏡膜の未反応物除去及び銀の安定化(変色防止)を目的として、腐食防止液を吹き付けて、銀鏡膜の腐食防止処理を行った。
腐食防止液の材料として、次の腐食防止剤を使用した。
・腐食防止剤:表面化工研究所社の製品名「Ag腐食防止剤#50」、製品番号「MFS−50」(チオ硫酸ナトリウム1〜7%、酢酸<1%、硫酸アルミニウム<1%の混合水溶液)である。
【0040】
この腐食防止剤をイオン交換水で50倍希釈(例;腐食防止剤10mL、水490mL)して腐食防止液を作製し、スプレーガンにより銀鏡膜の表面に吹き付けた。
腐食防止液で濡れている状態で、イオン交換水で水洗し、腐食防止液の余剰分を洗い流した。
恒温槽にて、表1に示す乾燥条件で保持して乾燥させた。
【0041】
(6)トップコート層
腐食防止処理後の銀鏡膜に、トップコート液を塗布して、トップコートを施した。
トップコート液の材料として、次の主剤、硬化剤及び希釈剤を使用した。
・主剤:表面化工研究所社の製品名「MFSトップコートSpecial主剤(Clear)」製品番号「MFS−61−2」(アクリル樹脂33%、キシレン(混合)25.1%、エチルベンゼン25.1%、n−ブチルアルコール10〜15%、イソブチルアルコール5〜10%の混合物)である。
・硬化剤:表面化工研究所社の製品名「MFSトップコートSpecial硬化剤」製品番号「MFS−62−2」(キシレン10.7%、エチルベンゼン10.7%、イソプロピルアルコール25〜30%、n−ブチルアルコール1〜5%の混合物)である。
・希釈剤:表面化工研究所社の製品名「MFSトップコートSpecial希釈剤」製品番号「MFS−63−2」(トルエン30%、キシレン25%、エチルベンゼン25%、メトキシブチルアセテート5〜10%、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10〜15%の混合物)である。
【0042】
これらの主剤:硬化剤:希釈剤を100:20:60〜80の質量比で混合し、スプレーガンにより銀鏡膜の表面にスプレー塗布した。
塗布後、恒温槽にて65℃×30分保持して、硬化させるとともに乾燥させ、膜厚15〜25μmのトップコート層を形成した。
【0043】
以上のようにして試料1〜4を作製したが、(5)の腐食防止処理後に(トップコート層形成を行う前に)、次の観察、分析、試験等を行った。
【0044】
<1>SEM表面観察
SEM(走査型電子顕微鏡)により、試料1,2,4の銀鏡膜の表面観察をした。
試料1(
図1)と比較して、試料2(
図2)は銀粒子が大きく、試料4(
図3)は銀粒子が小さかった。
【0045】
<2>XPS分析
XPS(X線光電分光法)により、試料1,2,4の銀鏡膜の表面下に存在する元素(特にAgとSi)を分析した。詳しくは、X線スポットサイズ400μm、エッチングレート0.16nm/秒×30秒にて深さ4.8nmのエッチングをする毎に元素の分析を行い、トータルで約144nm(4.8nm×30回)のエッチングをした。なお、エッチング深さはTa
2O
5換算の値である。
図4(a)及び表1に示すように、Ag量が主に検出されたエッチング深さ、すなわち銀鏡膜の膜厚は、試料1で約80nm、試料2で約60nm、試料4で約20nmと、TEOS溶液の添加量が多いほど、薄くなっている。
図4(b)及び表1に示すように、Si量が検出されたエッチング深さは、試料1で当然に0nm、試料2で最表面の数nmのみ、試料4で約15nmであった。試料4での約15nmは、上記銀鏡膜の膜厚約20nmに近いことから、Siが銀鏡膜に取り込まれていることが分かる。
【0046】
<3>電気抵抗値
試料1〜4の銀鏡膜の電気抵抗値を、1.0×10
4Ω/□以下の場合はJIS−K7194に準拠し4端子4深針法により、1.0×10
4Ω/□以上の場合はJIS−K6911に準拠し2重リングプローブ法により、それぞれ測定した。測定結果を表1に示す。
TEOS溶液の添加量の増加に伴い、銀鏡膜の電気抵抗値が高くなっているのは、TEOS溶液由来の複数の相互間シリコン粒子が隣り合う銀粒子の相互間に存在する量が増えることにより、隣り合う銀粒子どうしが接触しにくくなるためであると考えられる。
【0047】
<4>色
目視により、試料1〜4の銀鏡膜の色を観察した。表1に示すように、TEOS溶液の添加量の増加に伴い、銀鏡膜の色が銀→黄→青と変化していることから、試料2〜4では銀粒子がシリコン粒子(膜)との界面で特定波長の可視光とプラズモン共鳴してプラズモン発色していると考えられる。
また、試料1〜4のLab色度を色差計を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0048】
<5>耐熱性試験
試料1〜4を恒温槽に80℃×120時間保持して、銀鏡膜の耐熱試験を行い、試験前の色度に対する所定時間経過時の色度の色差(ΔE)を調べた。
図5に色差の経時変化を示す。また、表1に83時間経過時の色差を示す。
TEOS溶液の添加量の増加に伴い、銀鏡膜の耐熱性・耐変色性が向上しているのは、TEOS溶液由来の複数の相互間シリコン粒子が隣り合う銀粒子の相互間に存在する量が増えることにより、銀粒子がマイグレーションしにくくなるためであると考えられる。
【0049】
以上の観察、分析、試験等から、実施例(試料2〜4)の加飾品は、
図6に模式的に示すような構造になっていると考えられる。1は基材、2はアンダーコート層、3は銀鏡膜、4はトップコート層である。銀鏡膜3は、膜面方向に並んだ複数の銀粒子(Ag)5と、銀粒子5の相互間に存在している複数の相互間シリコン粒子6と、銀粒子5の表面を少なくとも部分的に覆うように該表面に存在している複数の表面シリコン粒子7とを含んでなる。表面シリコン粒子7が銀粒子5の表面を実質的に全て覆っている場合、表面シリコン粒子はシリコン膜として存在していると考えられる。相互間シリコン粒子6及び表面シリコン粒子7は、(Si
xO
2y)
n{x≧1、y≧1、n≧1}の状態で存在していると考えられる(
図6ではSiと略記した)。
【0050】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。