特許第6733810号(P6733810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6733810
(24)【登録日】2020年7月13日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】銀鏡膜形成液及びその還元液の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/44 20060101AFI20200728BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20200728BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20200728BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   C23C18/44
   C23C28/00 A
   B32B15/01 Z
   B32B15/04 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-508551(P2019-508551)
(86)(22)【出願日】2017年11月22日
(86)【国際出願番号】JP2017042093
(87)【国際公開番号】WO2018179579
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2019年2月22日
(31)【優先権主張番号】特願2017-70276(P2017-70276)
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】北元 美貴
(72)【発明者】
【氏名】大川 新太朗
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏明
【審査官】 大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/175278(WO,A1)
【文献】 特開2016−187939(JP,A)
【文献】 特開2006−274400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00−20/08
B32B 15/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア性硝酸銀を含む銀鏡液と、アルデヒドとシロキサンとを含む還元液との混合前の組み合わせからなる銀鏡膜形成液。
【請求項2】
銀鏡液は、水と硝酸銀と水酸化アンモニウムの混合物である銀主液と、水と苛性ソーダと水酸化アンモニウムの混合物である銀副液との混合前の組み合わせからな請求項1記載の銀鏡膜形成液。
【請求項3】
シロキサンは、オルトケイ酸テトラエチル由来である請求項1又は2記載の銀鏡膜形成液。
【請求項4】
アンモニア性硝酸銀を含む銀鏡液と混合させるための、アルデヒドとシロキサンとを含む還元液を作製する方法であって、
還元液は、アルデヒドを0.085〜0.258モル/L含む還元液5mLに対して、オルトケイ酸テトラエチル濃度1モル/Lのオルトケイ酸テトラエチル溶液を1.5mL〜7.5mLの割合で配合して作製することを特徴とする銀鏡膜形成用還元液の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀鏡膜形成液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属光沢が無い又は乏しい基材の表面に金属光沢性を付与する代表的な手段として、金属めっき膜の形成と、銀鏡膜の形成とがある。一般的に、金属めっき膜は、耐変色性が高い利点があるが、三次元形状基材の表面に均一厚さで形成することが難しい欠点がある。一方、銀鏡膜は、三次元形状基材の表面にも均一厚さで形成できる利点があるが、耐変色性が低い欠点がある。
【0003】
近年、自動車のラジエータグリル等の外装樹脂部品には、意匠性を高めるため、深い凹部を備えた三次元形状のものが増えてきている。このような三次元形状の樹脂部品において金属めっき膜が適合しないものには、銀鏡膜の採用を検討することになるが、銀鏡膜の耐変色性を向上させる必要がある。
【0004】
銀鏡膜は無数の微細な銀粒子が密に存在してなるものであり、その形成方法は銀鏡液と還元液とからなる銀鏡膜形成液を両液の混合直後に塗布し、銀鏡反応(還元)により銀粒子を析出させるというものである(特許文献1)。外部から銀色の鏡のように見えるのが普通の銀鏡膜であるが、外部からプラズモン発色を伴う鏡のように見える銀鏡膜もある。プラズモン発色は、ナノサイズの銀粒子が誘電体との界面で特定波長の可視光とプラズモン共鳴し、その特定波長の可視光のみを吸収する結果、白色光からその特定波長の可視光のみが除かれて発色する現象である。なお、従来の銀鏡膜におけるプラズモン発色手法は、浸漬による硫化処理のみである。
【0005】
銀鏡膜の耐変色性が低い理由は、銀鏡膜を形成している銀粒子がマイグレーション(基材又はその上のアンダーコート層の上を移動する現象)して、銀粒子どうしが凝集し、粒子径が変わることにより銀色自体が変色するからであり、さらに上記プラズモン発色を伴うものはプラズモン発色が退色してしまうからである。
【0006】
スパッタリングにおいては、銀に金やビスマス等の異種元素を添加して合金化し、銀の析出を阻害することで銀粒子を微粒子化する方法が知られている。そこで、本発明者らは、銀鏡塗装においてこの方法を適用することができないか検討を行ったが、この方法だけでは銀粒子のマイグレーションを抑制することはできず、耐変色性は若干向上するだけであった。
【0007】
なお、特許文献2には、銀鏡膜形成液にナノシリカを配合して、銀粒子の粒子サイズを調整する方法が開示されている。しかし、この方法の課題は、低い温度で、均一な、反射率の高い銀鏡膜層を形成することにあり、耐変色性の向上ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4140368号公報
【特許文献2】特開2014−139291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、銀鏡膜の耐変色性を向上させることにある。本発明のさらなる目的は、硫化処理をしなくても銀鏡膜の形成と同時に銀鏡膜がプラズモン発色を伴うようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)銀鏡膜
膜面方向に並んだ複数の銀粒子と、銀粒子の相互間に存在している複数の相互間シリコン粒子と、銀粒子の表面を少なくとも部分的に覆うように該表面に存在している複数の表面シリコン粒子とを含んでなる銀鏡膜。
【0011】
相互間シリコン粒子及び表面シリコン粒子は、例えば(Six2yn{x≧1、y≧1、n≧1}の状態で存在している。
【0012】
<作用>
(a)銀粒子の相互間に存在している複数の相互間シリコン粒子により、銀鏡膜形成後の銀粒子のマイグレーション及びそれによる凝集が防止され、耐変色性が向上する。
(b)銀粒子の表面を少なくとも部分的に覆うように該表面に存在している複数の表面シリコン粒子によっても、銀鏡膜形成後の銀粒子のマイグレーション及びそれによる凝集が抑制され、耐変色性が向上する。
(c)また、当該表面シリコン粒子の量を制御することにより、銀粒子が表面シリコン粒子との界面で特定波長の可視光とプラズモン共鳴してプラズモン発色するようになる。
【0013】
(2)加飾品
基材と、基材の上に形成された上記(1)の銀鏡膜と、銀鏡膜の上に形成されたトップコート層とを備えた加飾品。
【0014】
基材と銀鏡膜との間にアンダーコート層を備えてもよい。
【0015】
基材とトップコート層との間に別の層を備えてもよい。
【0016】
基材の材料としては、特に限定されないが、樹脂、ガラス、セラミックス、木材等を例示できる。
【0017】
加飾品の用途としては、特に限定されないが、自動車のラジエータグリル、エンブレム、ホイールキャップ等の外装品や、レジスタ、スカッフプレート等の内装品、スマートホンのケース等の家電品等を例示できる。
【0018】
(3)銀鏡膜形成液
アンモニア性硝酸銀を含む銀鏡液と、アルデヒドとシロキサンとを含む還元液との混合前の組み合わせからなる銀鏡膜形成液。
【0019】
銀鏡液は、例えば、水と硝酸銀と水酸化アンモニウムの混合物である銀主液と、水と苛性ソーダと水酸化アンモニウムの混合物である銀副液との混合前の組み合わせからなる態様を例示できる。
【0020】
還元液は、例えば、水と糖類と塩酸の混合物と、シロキサンとの混合前の組み合わせである態様を例示できる。
【0021】
シロキサンは、アルコキシ基を有するシラン化合物を加水分解させて生成したものである。アルコキシ基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基と、メトキシ基、エトキシ基などを例示できる。アルコキシ基を有するシラン化合物としては、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0022】
<作用>
(ア)銀粒子からなる銀鏡膜の形成時に、シロキサンからなる相互間シリコン粒子が銀粒子の相互間に入り込んで存在するようになることによって、銀粒子のマイグレーション及びそれによる凝集が防止される。
(イ)同形成時に、シロキサンからなる表面シリコン粒子が銀粒子の表面を少なくとも部分的に覆うように該表面に存在するようになることによっても、銀粒子のマイグレーション及びそれによる凝集が抑制される。
【0023】
(4)銀鏡膜形成液用の還元液の作製方法
アンモニア性硝酸銀を含む銀鏡液と混合させるための、アルデヒドとシロキサンとを含む還元液を作製する方法であって、
還元液は、アルデヒドを0.085〜0.258モル/L含む還元液5mLに対して、オルトケイ酸テトラエチル濃度1モル/Lのオルトケイ酸テトラエチル溶液を1.5mL〜7.5mLの割合で配合して作製する。
TEOSの場合、アルデヒドを0.085〜0.258モル/L含む還元液5mLに対して、TEOS濃度1モル/LのTEOS溶液1.5mL〜7.5mLの割合で配合されていると、形成される銀鏡膜がプラズモン発色を伴うようになる。
【0024】
<作用>
上記の割合でTEOS溶液を配合すると、形成される銀鏡膜がプラズモン発色を伴うようになる。
TEOSは、ゾルゲル法によりゾル化した状態で還元液に混合されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、銀鏡膜の耐変色性を向上させることができる。さらに、硫化処理をしなくても銀鏡膜の形成と同時に銀鏡膜がプラズモン発色を伴うようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】試料1の(a)は1000倍、(b)は50000倍、(c)は200000倍のSEM写真である。
図2】試料2の(a)は1000倍、(b)は50000倍、(c)は200000倍のSEM写真である。
図3】試料4の(a)は1000倍、(b)は50000倍、(c)は200000倍のSEM写真である。
図4】試料1,2,4のXPSによる(a)はAg分析結果を示すグラフ、(b)Si分析結果を示すグラフである。
図5】試料1〜4の耐熱性試験結果(色差の経時変化)を示すグラフである。
図6】実施例の加飾品の構造を模式的に示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図6に示すように、加飾品は、基材1と、基材1の上に接して形成されたアンダーコート層2と、アンダーコート層2の上に接して形成された銀鏡膜3と、銀鏡膜3の上に接して形成されたトップコート層4とからなる。銀鏡膜3は、膜面方向に並んだ複数の銀粒子5と、銀粒子5の相互間に存在している複数の相互間シリコン粒子6と、銀粒子5の表面を少なくとも部分的に覆うように該表面に存在している複数の表面シリコン粒子とを含んでなる。相互間シリコン粒子及び表面シリコン粒子は、例えば(Six2yn{x≧1、y≧1、n≧1}の状態で存在している。
【0028】
銀鏡膜形成液は、アンモニア性硝酸銀を含む銀鏡液と、アルデヒドとシロキサンとを含む還元液との混合前の組み合わせからなる。銀鏡液は、水と硝酸銀と水酸化アンモニウムの混合物である銀主液と、水と苛性ソーダと水酸化アンモニウムの混合物である銀副液との混合前の組み合わせからなる。還元液は、水と糖類と塩酸の混合物と、シロキサンとの混合前の組み合わせである。シロキサンはTEOSであり、アルデヒドを0.085〜0.258モル/L含む還元液5mLに対して、TEOS濃度1モル/LのTEOS溶液1.5mL〜7.5mLの割合で配合される。また、TEOSは、ゾルゲル法によりゾル化した状態で還元液に混合される
【実施例】
【0029】
以下に述べる方法により、基材と、アンダーコート層と、銀鏡膜と、トップコート層とからなる加飾品の試料1〜4を作製した。次の表1に示すように、試料1〜4の違いは、(4)銀鏡膜の作製における銀鏡膜形成液へのTEOS溶液の添加量の違いと、銀鏡膜の乾燥条件の違いのみであり、TEOS溶液を添加しない試料1は比較例、TEOS溶液を添加した試料2〜4は実施例である。
【0030】
【表1】
【0031】
(1)基材
基材には、ABS樹脂からなる100mm×100mm×厚さ3.0mmの板状基材を使用した。
【0032】
(2)アンダーコート層
ABS樹脂からなる基材に、アンダーコート液を塗布して、アンダーコート層を形成した。
アンダーコート液の材料として、次の主剤、硬化剤、希釈剤及びレベリング剤を使用した。
・主剤:表面化工研究所社の製品名「MFSアンダーコート主剤」製品番号「MFS−51」(アクリル樹脂40%、トルエン21.5%、キシレン(混合)16.5%、酢酸イソブチル22%の混合物)である。
・硬化剤:表面化工研究所社の製品名「MFSアンダーコート硬化剤21」製品番号「MFS−52AK21」(イソシアネートプレポリマー60%、酢酸エチル40%の混合物)である。
・希釈剤:表面化工研究所社の製品名「MFSアンダーコート希釈剤」製品番号「MFS−53」(トルエン3.0%、キシレン23.4%、エチルベンゼン12.6%、酢酸ブチル25〜30%、酢酸エチル5〜10%、メチルイソブチルケトン1〜5%、ジアセトンアルコール10〜15%、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート14.0%の混合物)である。
・レベリング剤:表面化工研究所社の製品名「MFSアンダーコートレベリング剤」製品番号「MFS−58」(ポリシロキサンとワキ防止剤2%、1,3,5−トリメチルベンゼン12%、1,2,4−トリメチルベンゼン28%、1,2,3−トリメチルベンゼン5%、エチルベンゼン24%、キシレン4%、ジイソブチルケトン15%、ブチルグリコレート3%の混合物)である。
【0033】
これらの主剤:硬化剤:希釈剤:レベリング剤を100:20:60〜100:3〜5の質量比で混合し、スプレーガンにより基材の表面にスプレー塗布した。
塗布後、恒温槽にて65℃×30分保持して、硬化させるとともに乾燥させ、膜厚15〜25μmのアンダーコート層を形成した。
【0034】
(3)表面調整
イオン交換水で水洗した後、銀析出促進及び付着性向上を目的として、表面調整液を吹き付けて、基材ないしアンダーコート層の表面調整をした。
表面調整液の材料として、次の表面調整剤A,Bを使用した。
・表面調整剤A:表面化工研究所社の製品名「MFS表面調整剤A」製品番号「MFS−40A」(第一塩化錫〜10%、塩酸〜5%の水溶液)を、イオン交換水で15倍希釈した(例;表面調整剤A10mL、イオン交換水140mL)。
・表面調整剤B:表面化工研究所社の製品名「MFS表面調整剤B」製品番号「MFS−40B」(ナトリウム塩〜1%の水溶液)を、イオン交換水で15倍希釈した(例;表面調整剤B10mL、イオン交換水140mL)
【0035】
これらの表面調整剤A:表面調整剤Bを1:1の質量比で混合して表面調整液を作製し、スプレーガンによりアンダーコート層の表面に吹き付けた。
表面調整液で濡れている状態で、イオン交換水で水洗し、表面調整液の余剰分を洗い流した。
【0036】
(4)銀鏡膜
基材(アンダーコート)に、銀鏡膜形成液を塗布(銀鏡塗装)して、銀鏡膜を形成した。
銀鏡膜形成液の材料として、次の銀主液、銀副液、還元液及びTEOS溶液を使用した。
・銀主液:表面化工研究所社の製品名「MFS銀主液」、製品番号「MFS−10」(硝酸銀8.4%、水酸化アンモニウム〜5%の水溶液)である。
・銀副液:表面化工研究所社の製品名「MFS銀副液」、製品番号「MFS−20」(苛性ソーダ〜10%、水酸化アンモニウム〜5%の水溶液)である。
・還元液:表面化工研究所社の製品名「MFS還元剤」、製品番号「MFS−30」(多糖類5〜15%、塩酸〜5%の水溶液)である。
・TEOS溶液:TEOS濃度1モル/Lの水溶液である。具体的には、TEOS41.67gをエタノール30mLとイオン交換水16mLに溶かし、さらにイオン交換水154mLを加えて希釈した後、1M塩酸を6mLを加えてよく撹拌し、ゾル状のTEOS溶液を作製した。
【0037】
銀主液をイオン交換水で15倍希釈し(例;銀主5mL、水70mL)、銀副液をイオン交換水で15倍希釈し(例;銀副5mL、水70mL)、これらの希釈液を混合して、銀鏡液を作製した。
還元液をイオン交換水で30倍希釈(例;還元液5mL、水145mL)し、もってアルデヒドを0.085〜0.258モル/L含むものとなった還元液(希釈液)5mLに対してゾル状のTEOS溶液(濃度1モル/L)を試料2では1.5mL、試料3では4.5mL、試料4では7.5mLの各割合で配合し、試料1では配合しなかった。
【0038】
これらの銀鏡液と(試料2〜4ではTEOS溶液を含む)還元液とを二頭スプレーガンにより同時にスプレーし、空中で混合させて、アンダーコートの表面に塗布した。アンダーコート上で、次の銀鏡反応式により銀粒子が析出し、銀鏡膜が形成された。
R−CHO+2[Ag(NH32++2OH-
→ R−COOH+2Ag↓+4NH3+H2
ここで、R−CHOは、還元液(多糖類が塩酸で加水分解して単糖類となっている。)に含まれるアルデヒドである。
[Ag(NH32+は、銀鏡液に含まれるアンモニア性硝酸銀である。
銀鏡膜が形成された後、イオン交換水で水洗した。
【0039】
(5)腐食防止処理
銀鏡膜の未反応物除去及び銀の安定化(変色防止)を目的として、腐食防止液を吹き付けて、銀鏡膜の腐食防止処理を行った。
腐食防止液の材料として、次の腐食防止剤を使用した。
・腐食防止剤:表面化工研究所社の製品名「Ag腐食防止剤#50」、製品番号「MFS−50」(チオ硫酸ナトリウム1〜7%、酢酸<1%、硫酸アルミニウム<1%の混合水溶液)である。
【0040】
この腐食防止剤をイオン交換水で50倍希釈(例;腐食防止剤10mL、水490mL)して腐食防止液を作製し、スプレーガンにより銀鏡膜の表面に吹き付けた。
腐食防止液で濡れている状態で、イオン交換水で水洗し、腐食防止液の余剰分を洗い流した。
恒温槽にて、表1に示す乾燥条件で保持して乾燥させた。
【0041】
(6)トップコート層
腐食防止処理後の銀鏡膜に、トップコート液を塗布して、トップコートを施した。
トップコート液の材料として、次の主剤、硬化剤及び希釈剤を使用した。
・主剤:表面化工研究所社の製品名「MFSトップコートSpecial主剤(Clear)」製品番号「MFS−61−2」(アクリル樹脂33%、キシレン(混合)25.1%、エチルベンゼン25.1%、n−ブチルアルコール10〜15%、イソブチルアルコール5〜10%の混合物)である。
・硬化剤:表面化工研究所社の製品名「MFSトップコートSpecial硬化剤」製品番号「MFS−62−2」(キシレン10.7%、エチルベンゼン10.7%、イソプロピルアルコール25〜30%、n−ブチルアルコール1〜5%の混合物)である。
・希釈剤:表面化工研究所社の製品名「MFSトップコートSpecial希釈剤」製品番号「MFS−63−2」(トルエン30%、キシレン25%、エチルベンゼン25%、メトキシブチルアセテート5〜10%、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10〜15%の混合物)である。
【0042】
これらの主剤:硬化剤:希釈剤を100:20:60〜80の質量比で混合し、スプレーガンにより銀鏡膜の表面にスプレー塗布した。
塗布後、恒温槽にて65℃×30分保持して、硬化させるとともに乾燥させ、膜厚15〜25μmのトップコート層を形成した。
【0043】
以上のようにして試料1〜4を作製したが、(5)の腐食防止処理後に(トップコート層形成を行う前に)、次の観察、分析、試験等を行った。
【0044】
<1>SEM表面観察
SEM(走査型電子顕微鏡)により、試料1,2,4の銀鏡膜の表面観察をした。
試料1(図1)と比較して、試料2(図2)は銀粒子が大きく、試料4(図3)は銀粒子が小さかった。
【0045】
<2>XPS分析
XPS(X線光電分光法)により、試料1,2,4の銀鏡膜の表面下に存在する元素(特にAgとSi)を分析した。詳しくは、X線スポットサイズ400μm、エッチングレート0.16nm/秒×30秒にて深さ4.8nmのエッチングをする毎に元素の分析を行い、トータルで約144nm(4.8nm×30回)のエッチングをした。なお、エッチング深さはTa25換算の値である。
図4(a)及び表1に示すように、Ag量が主に検出されたエッチング深さ、すなわち銀鏡膜の膜厚は、試料1で約80nm、試料2で約60nm、試料4で約20nmと、TEOS溶液の添加量が多いほど、薄くなっている。
図4(b)及び表1に示すように、Si量が検出されたエッチング深さは、試料1で当然に0nm、試料2で最表面の数nmのみ、試料4で約15nmであった。試料4での約15nmは、上記銀鏡膜の膜厚約20nmに近いことから、Siが銀鏡膜に取り込まれていることが分かる。
【0046】
<3>電気抵抗値
試料1〜4の銀鏡膜の電気抵抗値を、1.0×10Ω/□以下の場合はJIS−K7194に準拠し4端子4深針法により、1.0×10Ω/□以上の場合はJIS−K6911に準拠し2重リングプローブ法により、それぞれ測定した。測定結果を表1に示す。
TEOS溶液の添加量の増加に伴い、銀鏡膜の電気抵抗値が高くなっているのは、TEOS溶液由来の複数の相互間シリコン粒子が隣り合う銀粒子の相互間に存在する量が増えることにより、隣り合う銀粒子どうしが接触しにくくなるためであると考えられる。
【0047】
<4>色
目視により、試料1〜4の銀鏡膜の色を観察した。表1に示すように、TEOS溶液の添加量の増加に伴い、銀鏡膜の色が銀→黄→青と変化していることから、試料2〜4では銀粒子がシリコン粒子(膜)との界面で特定波長の可視光とプラズモン共鳴してプラズモン発色していると考えられる。
また、試料1〜4のLab色度を色差計を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0048】
<5>耐熱性試験
試料1〜4を恒温槽に80℃×120時間保持して、銀鏡膜の耐熱試験を行い、試験前の色度に対する所定時間経過時の色度の色差(ΔE)を調べた。図5に色差の経時変化を示す。また、表1に83時間経過時の色差を示す。
TEOS溶液の添加量の増加に伴い、銀鏡膜の耐熱性・耐変色性が向上しているのは、TEOS溶液由来の複数の相互間シリコン粒子が隣り合う銀粒子の相互間に存在する量が増えることにより、銀粒子がマイグレーションしにくくなるためであると考えられる。
【0049】
以上の観察、分析、試験等から、実施例(試料2〜4)の加飾品は、図6に模式的に示すような構造になっていると考えられる。1は基材、2はアンダーコート層、3は銀鏡膜、4はトップコート層である。銀鏡膜3は、膜面方向に並んだ複数の銀粒子(Ag)5と、銀粒子5の相互間に存在している複数の相互間シリコン粒子6と、銀粒子5の表面を少なくとも部分的に覆うように該表面に存在している複数の表面シリコン粒子7とを含んでなる。表面シリコン粒子7が銀粒子5の表面を実質的に全て覆っている場合、表面シリコン粒子はシリコン膜として存在していると考えられる。相互間シリコン粒子6及び表面シリコン粒子7は、(Six2yn{x≧1、y≧1、n≧1}の状態で存在していると考えられる(図6ではSiと略記した)。
【0050】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 基材
2 アンダーコート層
3 銀鏡膜
4 トップコート層
5 銀粒子
6 相互間シリコン粒子
7 表面シリコン粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6