【文献】
五十嵐 昭男 他1名,”欠陥をもつころがり軸受の振動・音響に関する研究(第1報、1個のきずがある玉軸受の振動)”,日本機械学会論文集(C編),1981年,第47巻422号,1327−1336頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記グラデーション画像からはく離長さの推移を傾きとして取得し、前記傾きから所定時間後のはく離長さを推定する、請求項4又は5に記載の転がり軸受の異常診断方法。
前記グラデーション画像からはく離長さの推移を傾きとして取得し、前記傾きから所定時間後のはく離長さを推定する、請求項13又は14に記載の転がり軸受の異常診断装置。
前記グラデーション画像からはく離長さの推移を傾きとして取得し、前記傾きから所定時間後のはく離長さを推定する、請求項19〜22のいずれか1項に記載の転がり軸受の異常診断方法。
前記グラデーション画像からはく離長さの推移を傾きとして取得し、前記傾きから所定時間後のはく離長さを推定する、請求項24〜27のいずれか1項に記載の転がり軸受の異常診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(第1実施形態)
以下、
図1〜
図3を参照して、第1実施形態に係る転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置について説明する。
図1に示すように、本実施形態の異常診断装置1は、機械設備10に組み込まれた転がり軸受11の異常を診断するものであり、転がり軸受11から発生する振動(信号)を検出する振動センサ12と、振動センサ12で検出した信号を、データ伝送手段13を介して受信し、信号処理を行って転がり軸受11の軌道輪(即ち、内輪111又は外輪112)のはく離の有無、及びはく離サイズの推定をリアルタイムで行う演算処理部21、及び機械設備10を駆動制御する制御部22を有する制御装置20と、モニタや警報機等からなる出力装置30と、を備えている。
【0015】
なお、本実施形態の異常診断装置1が適用される機械設備10としては、例えば、風車や鉱山設備等が挙げられる。
【0016】
転がり軸受11は、機械設備10の回転軸に外嵌される内輪111と、ハウジング114等に内嵌される外輪112と、内輪111及び外輪112との間で転動可能に配置された複数の転動体113と、転動体113を転動自在に保持する不図示の保持器と、を有する。
【0017】
振動センサ12は、転がり軸受11の固定輪である外輪112が取り付けられたハウジング114の負荷圏に固定されている。
図2は上部が負荷圏となる一態様である。振動センサ12の固定方法には、ボルト固定、接着、ボルト固定と接着の併用、及び樹脂材による埋め込み等がある。
【0018】
また、振動センサ12としては、圧電式加速度センサ、動電式速度センサ、変位センサを用いることができる。転がり軸受の運転状態により、加速度、速度、変位等を検出することで、等価的に振動を検出して電気信号に変換することができるものを適宜使用することができる。例えば、転がり軸受が高速回転時は加速度、低速回転時は変位を検出してもよい。なお、後述するように、本実施形態では、速度で表される振動速度波形を用いてはく離の解析を行う。このため、加速度信号を検出する場合には、出力信号を積分処理により、変位信号を検出する場合には、出力信号を微分処理によりそれぞれ変換して、振動速度波形を求める。
【0019】
また、制御装置20は、マイクロコンピュータ(ICチップ、CPU、MPU、DSP等)により構成されており、また、図示しない内部メモリを備えている。このため、後述する各処理をこのマイクロコンピュータのプログラムにより実行することができるので、装置を簡素化、小型化かつ安価に構成することができる。
制御装置20は、演算処理部21で判定された転がり軸受11の診断結果を、内部メモリに記憶すると共に、機械設備10の動作を制御部22へ出力し、診断結果に応じた機械設備10を駆動する制御信号を機械設備10の動作にフィードバック(回転数を落とすなど)する。さらに、制御装置20は、有線又はネットワークを考慮した無線を利用したデータ伝送手段31により出力装置30に送る。
【0020】
出力装置30は、転がり軸受11の診断結果をモニタ等にリアルタイムで表示する。また、異常が検出された場合に、ライトやブザー等の警報機を用いてオペレータに異常であることの注意を促すようにしてもよい。
また、信号のデータ伝送手段13は、振動センサ12からの信号を的確に送受信可能であればよいので、有線でも良いし、ネットワークを考慮した無線を利用してもよい。
【0021】
ここで、転がり軸受11の負荷圏において、転動体113が健全部(正常ではく離がない領域)を通過する際には、転動体113は内輪111及び外輪112と接触し、所定の転動体荷重を負担している。一方、はく離が生じていると、一般に、はく離の深さは、転動体113と軌道輪のヘルツ接触の弾性接近量よりも大きいため、転動体113が軌道輪のはく離領域を通過する際には、内輪111と外輪112のどちらか一方のみに接触し、転動体113がはく離内部を通過する状態では、転動体荷重は健全部での転動体荷重よりも減少する。
【0022】
詳述すると、
図2(a)に例示する様に、転動体113が内輪111のはく離領域に入る前は、外輪112を介してハウジング114が転動体荷重を負担しているが、内輪111のはく離領域に進入した際は、転動体荷重は減少する。この転動体荷重の変化は、径方向外側に向かう方向を正方向とすると、振動速度の負の最大値(底部)として捉えられる。なお、
図2中、符号λは、はく離長さ(単位:[m]、[mm]等)を示し、符号vは、転動体の公転速度(単位:[m/s]等)を示す。
【0023】
また、
図2(b)に例示する様に、該転動体113が内輪111のはく離領域から脱出する際は、外輪112を介してハウジング114が負担する転動体荷重が増加して回復し、その転動体荷重の変化は、振動速度の正の最大値(頂部)として捉えられる。
即ち、転動体113が内輪111のはく離領域に進入するか脱出する際には、転動体荷重の変化の向きが異なるため、転動体荷重の減少は振動速度の負の最大値(底部)として表れ、転動体荷重の増加は、振動速度の正の最大値(頂部)として表れる。
また、実際には、回転輪である内輪111の1回転周期内においては、負荷圏で転動体113が内輪のはく離領域を通過する数回の衝突が振動として表れるが、本実施形態では、負荷圏にある転動体113が内輪のはく離領域を通過するときに発生する、負又は正の最大値の振動速度が診断のために取得される。
【0024】
なお、はく離は微視的に、内輪の回転方向、軸方向、深さ方向いずれにも伝播するため発生しているかどうかの判断は、振動速度の負又は正の最大値の絶対値を閾値と比較することで行われ、絶対値が閾値より大きい場合に、はく離が発生していると判断する。
【0025】
そして、はく離が発生している場合には、演算処理部21は、
図3に示すように出力される振動速度波形から、負の振動速度の最大値(底部)が示す時刻を転動体113が軌道輪のはく離領域に進入する進入時刻とし、進入時刻から所定時間内における、正の振動速度の最大値(頂部)が示す時刻を転動体113が軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻として取得する。
ここで、上記所定時間は、軸受損傷の振動周期(転動体が内輪のはく離領域を通過する時間間隔)よりも僅かに長い周期としている。例えば、所定時間は、転動体が内輪のはく離領域を通過する間隔の2倍以下で設定される。
なお、振動センサ12の出力は、どの方向を正方向とするか選択が可能なため、内輪のはく離領域に進入する際に、正の最大値(頂部)として表わされ、はく離領域から脱出する際に、負の最大値(底部)として表わされる場合がある。この場合には、正の振動速度の最大値(頂部)が示す時刻を進入時刻とし、負の振動速度の最大値(底部)が示す時刻を脱出時刻とする。
【0026】
また、振動センサ12の出力によっては、
図4(a)及び(b)に示すように、進入時刻及び脱出時刻を示す振動速度の最大値(頂部)と最小値(底部)が、いずれも正側の値となる場合や、あるいは、いずれも負側の値となる場合がある。
この場合には、出力信号から得られる振動速度波形のうち、内輪の回転周期内における、所定の上限値より大きい振動速度の最大値と所定の下限値より小さい振動速度の最小値のいずれか一方を示す時刻を進入時刻として取得し、進入時刻から所定時間内における、振動速度の最大値と最小値のいずれか他方を示す時刻を脱出時刻として取得してもよい。
【0027】
次に、演算処理部21は、進入時刻と脱出時刻との時間差である、はく離通過時間に基づいて、はく離サイズを推定する。
具体的に、内輪回転、外輪固定の本実施形態において、内輪はく離の場合には、はく離サイズは、次式(1)で与えられる。
【0029】
また、外輪はく離の場合には、はく離サイズは、次式(2)で与えられる。
【0031】
なお、本実施形態と異なり、内輪固定、外輪回転の転がり軸受において、内輪はく離の場合のはく離サイズは、次式(3)で与えられ、外輪はく離の場合のはく離サイズは、次式(4)で与えられる。また、この場合、振動センサ12は、静止側の軸に取り付けられてもよい。
【0034】
以下は、式(1)〜(4)における各記号の意味を表す。
τ:はく離通過時間
d
m:転動体のPCD
D
a:転動体の直径
f
ri:内輪回転周波数
f
re:外輪回転周波数
f
c:転動体の公転周波数
f
i=f
ri−f
c
f
e=f
re−f
c
【0035】
ここで、内輪はく離か、外輪はく離かの判定は、内輪111の回転周期内の各転動体113のはく離領域進入時点間の間隔を見て判断するようにしてもよいし、転がり軸受より検出した実測データをエンベロープ分析等の解析処理を行って実測周波数成分を生成し、計算により求めた内輪と外輪のそれぞれの理論周波数成分と一致するか否かで損傷箇所を判定する方法を用いて、判断するようにしてもよい。
【0036】
これにより、制御部22は、得られたはく離サイズに基づいて、機械設備10を停止させてもよいし、回転数を落とすように制御してもよい。
また、そのまま運転しても転がり軸受11の交換までに重大損傷を起こさない程度のはく離サイズと判断すれば、上記の制御は行わず、制御部22は、機械設備10の運転をそのまま継続してもよい。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る異常診断方法及び異常診断装置1によれば、転がり軸受11の回転中に振動センサ12によって検出された出力信号から、転動体113が軌道輪である内輪111又は外輪112のはく離領域に進入する進入時刻と、該転動体113が該軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻を取得する時刻取得工程と、進入時刻と脱出時刻との時間差である、はく離通過時間に基づいて、はく離サイズを推定する推定工程と、を有するので、軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に評価することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、
図5〜
図7を参照して、第2実施形態に係る転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置について説明する。なお、第1実施形態と同様の部分については、同一又は相当符号を付して、説明を省略又は簡略化する。
【0039】
本実施形態では、振動センサ12を用いて得られた出力信号から、内輪111のはく離領域への進入時刻を取得した後、進入時刻を原点として、振動速度波形に基づくグラデーション画像(
図7参照)を表示させて、脱出時刻を取得するようにした点において、第1実施形態と異なる。
【0040】
具体的には、
図5に示すように、得られた振動速度波形データから、内輪111の1回転周期(例えば、40ms)ごとにデータを(I)、(II)、(III)・・・(n)所望の数を切り取る。例えば、
図5の(I)、(II)、(III)は、内輪111の3回転分の振動速度波形データが取得されることを示している。
【0041】
そして、切り取った各データから、
図6(a)に示す様に、負の最大値(底部)の振動速度を進入時刻としてそれぞれ取得する。さらに、切り取った各データから、進入時刻から1.1×[1/軸受損傷周波数]の周期の振動速度波形データ、即ち、軸受損傷周期(隣り合う転動体が内輪のはく離領域に到達する時間間隔)よりも僅かに長い周期の振動速度波形データをそれぞれ取得する。なお、軸受損傷周波数は、この場合、
図8に示す回転速度に起因する各部位の損傷に対応する発生間隔周波数のうち、内輪111の周波数を用いる。
【0042】
また、
図6(b)に示すように、進入時刻を原点とした座標データに、振動速度波形データを置き換える。
【0043】
そして、進入時刻を原点として、内輪111の回転周期内における正の振動速度を白、負の振動速度を黒として、グラデーションで描画し、このグラデーション描画を、グラフの縦軸に積層するようにして、内輪111の回転周期ごとに繰り返し、
図7に示すような、グラデーション画像を形成する。また、このグラデーション画像を出力装置30によって出力する。
なお、グラデーションの描画の配色は、白黒に限定されず、正と負の振動速度の大きさが視認できるものであればよい。更に、グラデーションを明瞭にするために、10kHz以下を処理するローパスフィルタを用いてノイズを除去してもよい。
【0044】
また、得られたグラデーション画像を元に、制御装置20が画像処理を行って、最も白い位置を脱出時刻として取得する。
【0045】
画像処理は、自動処理で行うことが好ましい。自動処理の1つとして機械学習を用いる方法が挙げられる。学習の際に用いる教師データとして、はく離サイズが分かっている軸受を用いて上記手法のグラデーション画像Aを作成する。はく離サイズとグラデーション画像Aを紐付けて学習させることで、学習モデルを得る。学習モデルに新たなグラデーション画像データを適用し、はく離サイズを推定する。
なお、機械学習用ソフトは一般的なものを用いれば構わないが、例えば、TensorFlow(登録商標)やscikit−learnなどが挙げられる。ただし、機械学習用ソフトは、これらに限定されるものでない。
【0046】
以後、第1実施形態と同様に、得られた進入時刻と脱出時刻との時間差である、内輪のはく離通過時間に基づいて、はく離サイズを推定する。
【0047】
したがって、本実施形態においても、軌道輪が転動体からの繰返し荷重を受けた場合に軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に評価することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。さらに、グラデーション画像によってオペレータが、軌道輪に生じたはく離の進展を視覚的に認識し、機械設備の異常を正しく判断することができる。
【0048】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置について説明する。なお、第1又は第2実施形態と同様の部分については、同一又は相当符号を付して、説明を省略又は簡略化する。
【0049】
上記実施形態では、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて診断していたが、本実施形態では、転がり軸受の荷重を検出する荷重センサを用いて、直接転動体荷重を検出する。
【0050】
荷重センサとしては、圧電式力センサ40であってもよく、この場合、
図9(a)に示すように、圧電式力センサ40は、ハウジング114に設けられた切り欠き114aに設置され、ハウジング114と外輪112との間で転動体荷重の変化を計測するようにしてもよい。
或いは、荷重センサは、
図9(b)に示すような圧電式フィルム40aや、
図9(c)に示すような光ファイバ40bであってもよい。いずれの場合も、ハウジング114と外輪112との間に、圧電式フィルム40aや光ファイバ40bが挟み込まれることで、転動体荷重の変化が計測される。
【0051】
したがって、荷重センサから荷重を表す波形が得られるので、時刻取得工程は、荷重を表す波形のうち、回転輪の回転周期内における、荷重が閾値より減少した際の時刻を進入時刻とし、該進入時刻から所定時間内における、荷重が前記閾値より上昇した際の時刻を脱出時刻とする。
【0052】
また、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、得られた進入時刻と脱出時刻との時間差である、はく離通過時間に基づいて、はく離サイズを推定する。
【0053】
したがって、本実施形態のように、荷重センサを用いた場合にも、軌道輪が転動体からの繰返し荷重を受けた場合に軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に評価することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0054】
なお、本発明は、荷重センサを用いて転動体荷重を検出する場合にも、第2実施形態と同様に、荷重を表す波形から、進入時刻を取得し、該進入時刻を原点とする、回転輪の回転周期内における荷重をグラデーションで描画し、回転輪の回転周期ごとに該グラデーション描画を繰り返し行うことでグラデーション画像を形成してもよい。また、グラデーション画像から脱出時刻を取得するようにしてもよい。
【0055】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置について説明する。なお、第1〜第3実施形態と同様の部分については、同一又は相当符号を付して、説明を省略又は簡略化する。
【0056】
第2実施形態では、進入時刻を原点として、内輪111の回転周期内における振動波形をグラデーションで描画し、このグラデーション描画を、内輪111の回転周期ごとに繰り返し行って、グラフの縦軸に積層するようにしてグラデーション画像を形成していたが、本実施形態では、これをさらに長時間に亙って取得している。
なお、本実施形態では、進入時刻を原点として、内輪111の回転周期内における振動波形を縦軸に沿って描画したグラデーション描画を、内輪111の回転周期ごとに繰り返し行って、横軸に積層してグラデーション画像を形成している。また、
図10は、上記グラデーション画像のうちから、操作時間が65時間〜90時間で、1ピッチ(=隣接する転動体が接触する内輪の外周面間の距離)の縦軸の範囲で抜粋したものである。
【0057】
これにより、
図10に示すグラデーション画像から、操作時間が進むにつれて、はく離長さが長くなることを傾きとして視覚的に把握することができ、はく離の進展度合いがさらに判別しやすくなる。また、
図10では、領域AとBの傾きを比較することで、はく離長さが1ピッチを超えると、はく離の進展速度が急激に増加していることがわかる。
【0058】
また、本実施形態では、
図10の領域Aで得られた傾きから、所定時間後(所定の操作時間)のはく離長さを推定することができる。また、この結果を利用して、はく離進展速度が急激に増加する、はく離長さが1ピッチ分に至るまでの所定時間(所定の操作時間)も推定することができる。
なお、本実施形態による、グラデーション画像を用いたはく離長さの推定は、第3実施形態で説明した、荷重を表す波形から得られたグラデーション画像にも適用できる。
【0059】
なお、本発明の異常診断方法及び異常診断装置は、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形、改良等が可能である。例えば、転がり軸受は、軸受形式に限定されず、玉軸受を含む、全ての形式の転がり軸受に適用することができる。
また、軌道輪に生じたはく離のサイズや、転動体のサイズに応じて、軌道輪のはく離領域に進入した時刻と、振動速度の負の最大値が示す時刻とに時間差が生じる場合には、例えば、負の最大値を示す直前の閾値を越える時刻を、軌道輪のはく離領域に進入した時刻としてもよい。
【0060】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 回転機械に使用される転がり軸受の異常診断方法であって、
前記転がり軸受の回転中にセンサによって検出された出力信号から、転動体が軌道輪のはく離領域に進入する進入時刻と、該転動体が前記軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻を取得する時刻取得工程と、
前記進入時刻と前記脱出時刻との時間差である、はく離通過時間に基づいて、はく離サイズを推定する推定工程と、
を有する、転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に評価することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0061】
(2) 前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記時刻取得工程は、前記出力信号から得られる振動速度波形のうち、回転輪の回転周期内における、その絶対値が閾値より大きい、負と正のいずれか一方の振動速度の最大値を示す時刻を前記進入時刻とし、前記進入時刻から所定時間内における、前記負と正のいずれか他方の振動速度の最大値を示す時刻を前記脱出時刻とする、(1)に記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができる。
【0062】
(3) 前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記時刻取得工程は、前記出力信号から得られる振動速度波形のうち、回転輪の回転周期内における、所定の上限値より大きい振動速度の最大値と所定の下限値より小さい振動速度の最小値のいずれか一方を示す時刻を前記進入時刻とし、前記進入時刻から所定時間内における、前記振動速度の最大値と最小値のいずれか他方を示す時刻を前記脱出時刻とする、(1)に記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができる。
【0063】
(4) 前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記時刻取得工程は、前記出力信号から得られる振動速度波形のうち、回転輪の回転周期内における、その絶対値が閾値より大きい、負と正のいずれか一方の振動速度の最大値を示す時刻を前記進入時刻とし、
該進入時刻を原点とする、前記回転輪の回転周期内における振動速度をグラデーションで描画することを、前記回転輪の回転周期ごとに繰り返し行うことで形成されたグラデーション画像から前記脱出時刻を取得する、(1)に記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができると共に、オペレータが軌道輪に生じたはく離の進展を視覚的に認識し、機械設備の異常を正しく判断することができる。
【0064】
(5) 前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記時刻取得工程は、前記出力信号から得られる振動速度波形のうち、回転輪の回転周期内における、所定の上限値より大きい振動速度の最大値と所定の下限値より小さい振動速度の最小値のいずれか一方を示す時刻を前記進入時刻とし、
該進入時刻を原点とする、前記回転輪の回転周期内における振動速度をグラデーションで描画することを、前記回転輪の回転周期ごとに繰り返し行うことで形成されたグラデーション画像から前記脱出時刻を取得する、(1)に記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができると共に、オペレータが軌道輪に生じたはく離の進展を視覚的に認識し、機械設備の異常を正しく判断することができる。
【0065】
(6) 前記グラデーション画像からはく離長さの推移を傾きとして取得し、前記傾きから所定時間後のはく離長さを推定する、(4)又は(5)に記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、所定時間後のはく離長さを推定することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0066】
(7) 前記センサは、前記転がり軸受の荷重を検出する荷重センサであり、
前記時刻取得工程は、前記荷重を表す波形のうち、回転輪の回転周期内における、荷重が閾値より減少した際の時刻を前記進入時刻とし、前記進入時刻から所定時間内における、前記荷重が前記閾値より上昇した際の時刻を前記脱出時刻とする、(1)に記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、荷重センサを用いて、転動体荷重の変化を表す波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができる。
【0067】
(8) 前記センサは、前記転がり軸受の荷重を検出する荷重センサであり、
前記時刻取得工程は、前記荷重を表す波形のうち、回転輪の回転周期内における、荷重が閾値より減少した際の時刻を前記進入時刻とし、
該進入時刻を原点とする、前記回転輪の回転周期内における荷重をグラデーションで描画することを、前記回転輪の回転周期ごとに繰り返し行うことで形成されたグラデーション画像から前記脱出時刻を取得する、(1)に記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、荷重センサを用いて、転動体荷重の変化を表す波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができると共に、オペレータが軌道輪に生じたはく離の進展を視覚的に認識し、機械設備の異常を正しく判断することができる。
【0068】
(9) 前記グラデーション画像からはく離長さの推移を傾きとして取得し、前記傾きから所定時間後のはく離長さを推定する、(8)に記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、所定時間後のはく離長さを推定することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0069】
(10) 回転機械に使用される転がり軸受の異常診断装置であって、
前記転がり軸受の回転中にセンサによって検出された出力信号から、転動体が軌道輪のはく離領域に進入する進入時刻と、該転動体が前記軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻を取得し、且つ、前記進入時刻と前記脱出時刻との時間差である、はく離通過時間に基づいて、はく離サイズを推定する制御装置、
を有する、転がり軸受の異常診断装置。
この構成によれば、軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に評価することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0070】
(11) 前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記制御装置は、前記出力信号から得られる振動速度波形のうち、回転輪の回転周期内における、その絶対値が閾値より大きい、負と正のいずれか一方の振動速度の最大値を示す時刻を前記進入時刻とし、前記進入時刻から所定時間内における、前記負と正のいずれか他方の振動速度の最大値を示す時刻を前記脱出時刻とする、(10)に記載の転がり軸受の異常診断装置。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができる。
【0071】
(12) 前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記制御装置は、前記出力信号から得られる振動速度波形のうち、回転輪の回転周期内における、所定の上限値より大きい振動速度の最大値と所定の下限値より小さい振動速度の最小値のいずれか一方を示す時刻を前記進入時刻とし、前記進入時刻から所定時間内における、前記振動速度の最大値と最小値のいずれか他方を示す時刻を前記脱出時刻とする、(10)に記載の転がり軸受の異常診断装置。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができる。
【0072】
(13) 前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記制御装置は、前記出力信号から得られる振動速度波形のうち、回転輪の回転周期内における、その絶対値が閾値より大きい、負と正のいずれか一方の振動速度の最大値を示す時刻を前記進入時刻とし、
該進入時刻を原点とする、前記回転輪の回転周期内における振動速度をグラデーションで描画することを、前記回転輪の回転周期ごとに繰り返し行うことで形成されたグラデーション画像から前記脱出時刻を取得する、(10)に記載の転がり軸受の異常診断装置。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができると共に、オペレータが軌道輪に生じたはく離の進展を視覚的に認識し、機械設備の異常を正しく判断することができる。
【0073】
(14) 前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記制御装置は、前記出力信号から得られる振動速度波形のうち、回転輪の回転周期内における、所定の上限値より大きい振動速度の最大値と所定の下限値より小さい振動速度の最小値のいずれか一方を示す時刻を前記進入時刻とし、
該進入時刻を原点とする、前記回転輪の回転周期内における振動速度をグラデーションで描画することを、前記回転輪の回転周期ごとに繰り返し行うことで形成されたグラデーション画像から前記脱出時刻を取得する、(10)に記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができると共に、オペレータが軌道輪に生じたはく離の進展を視覚的に認識し、機械設備の異常を正しく判断することができる。
【0074】
(15) 前記グラデーション画像からはく離長さの推移を傾きとして取得し、前記傾きから所定時間後のはく離長さを推定する、(13)又は(14)に記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、所定時間後のはく離長さを推定することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0075】
(16) 前記センサは、前記転がり軸受の荷重を検出する荷重センサであり、
前記制御装置は、前記荷重を表す波形のうち、回転輪の回転周期内における、荷重が閾値より減少した際の時刻を前記進入時刻とし、前記進入時刻から所定時間内における、前記荷重が前記閾値より上昇した際の時刻を前記脱出時刻とする、(10)に記載の転がり軸受の異常診断装置。
この構成によれば、荷重センサを用いて、転動体荷重の変化を表す波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができる。
【0076】
(17) 前記センサは、前記転がり軸受の荷重を検出する荷重センサであり、
前記制御装置は、前記荷重を表す波形のうち、回転輪の回転周期内における、荷重が閾値より減少した際の時刻を前記進入時刻とし、
該進入時刻を原点とする、前記回転輪の回転周期内における荷重をグラデーションで描画することを、前記回転輪の回転周期ごとに繰り返し行うことで形成されたグラデーション画像から前記脱出時刻を取得する、(10)に記載の転がり軸受の異常診断装置。
この構成によれば、荷重センサを用いて、転動体荷重の変化を表す波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができると共に、オペレータが軌道輪に生じたはく離の進展を視覚的に認識し、機械設備の異常を正しく判断することができる。
【0077】
(18) 前記グラデーション画像からはく離長さの推移を傾きとして取得し、前記傾きから所定時間後のはく離長さを推定する、(17)に記載の転がり軸受の異常診断装置。
この構成によれば、所定時間後のはく離長さを推定することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0078】
(19) 回転機械に使用される転がり軸受の異常診断方法であって、
前記転がり軸受の回転中にセンサによって検出された出力信号から、転動体が軌道輪のはく離領域に進入する進入時刻を取得する進入時刻取得工程と、
該進入時刻を原点とする、回転輪の回転周期内における前記出力信号をグラデーションで描画することを、前記回転輪の回転周期ごとに繰り返し行うことでグラデーション画像を形成する画像形成工程と、
該グラデーション画像を出力する表示工程と、
を有する、転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、オペレータがグラデーション画像から軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に評価することができると共に、軌道輪に生じたはく離の進展を視覚的に認識することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0079】
(20) 前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記進入時刻取得工程は、前記出力信号から得られる振動速度波形のうち、回転輪の回転周期内における、その絶対値が閾値より大きい、負と正のいずれか一方の振動速度の最大値を示す時刻を前記進入時刻とする、(19)に記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形から進入時刻を容易に取得することができる。
【0080】
(21) 前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記進入時刻取得工程は、前記出力信号から得られる振動速度波形のうち、回転輪の回転周期内における、所定の上限値より大きい振動速度の最大値と所定の下限値より小さい振動速度の最小値のいずれか一方を示す時刻を前記進入時刻とする、(19)に記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形から進入時刻を容易に取得することができる。
【0081】
(22) 前記センサは、前記転がり軸受の荷重を検出する荷重センサであり、
前記進入時刻取得工程は、前記荷重を表す波形のうち、回転輪の回転周期内における、荷重が閾値より減少した際の時刻を前記進入時刻とする、(19)に記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、荷重センサを用いて、転動体荷重の変化を表す波形から進入時刻を容易に取得することができる。
【0082】
(23) 前記グラデーション画像からはく離長さの推移を傾きとして取得し、前記傾きから所定時間後のはく離長さを推定する、(19)〜(22)のいずれかに記載の転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、所定時間後のはく離長さを推定することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0083】
(24) 回転機械に使用される転がり軸受の異常診断装置であって、
前記転がり軸受の回転中にセンサによって検出された出力信号から、転動体が軌道輪のはく離領域に進入する進入時刻を取得し、該進入時刻を原点とする、回転輪の回転周期内における前記出力信号をグラデーションで描画することを、前記回転輪の回転周期ごとに繰り返し行うことでグラデーション画像を形成する制御装置と、
該グラデーション画像を出力する出力装置と、
を有する、転がり軸受の異常診断装置。
この構成によれば、オペレータがグラデーション画像から軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に評価することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0084】
(25) 前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記制御装置は、前記出力信号から得られる振動速度波形のうち、回転輪の回転周期内における、その絶対値が閾値より大きい、負と正のいずれか一方の振動速度の最大値を示す時刻を前記進入時刻とする、(24)に記載の転がり軸受の異常診断装置。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形から進入時刻を容易に取得することができる。
【0085】
(26) 前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記制御装置は、前記出力信号から得られる振動速度波形のうち、回転輪の回転周期内における、所定の上限値より大きい振動速度の最大値と所定の下限値より小さい振動速度の最小値のいずれか一方を示す時刻を前記進入時刻とする、(24)に記載の転がり軸受の異常診断装置。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形から進入時刻を容易に取得することができる。
【0086】
(27) 前記センサは、前記転がり軸受の荷重を検出する荷重センサであり、
前記制御装置は、前記荷重を表す波形のうち、回転輪の回転周期内における、荷重が閾値より減少した際の時刻を前記進入時刻とする、(24)に記載の転がり軸受の異常診断装置。
この構成によれば、荷重センサを用いて、転動体荷重の変化を表す波形から進入時刻を容易に取得することができる。
【0087】
(28) 前記グラデーション画像からはく離長さの推移を傾きとして取得し、前記傾きから所定時間後のはく離長さを推定する、(24)〜(27)のいずれかに記載の転がり軸受の異常診断装置。
この構成によれば、所定時間後のはく離長さを推定することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0088】
なお、本出願は、2018年8月23日出願の日本特許出願(特願2018−156535)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
回転機械に使用される転がり軸受の異常診断方法は、転がり軸受の回転中にセンサによって検出された出力信号から、転動体が軌道輪のはく離領域に進入する進入時刻と、該転動体が軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻を取得する時刻取得工程と、進入時刻と脱出時刻との時間差である、はく離通過時間に基づいて、はく離サイズを推定する推定工程と、を有する。軌道輪が転動体からの繰返し荷重を受けた場合に軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に評価することができる。