特許第6733861号(P6733861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6733861
(24)【登録日】2020年7月13日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】成分分析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/00 20060101AFI20200728BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20200728BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   G01N35/00 D
   G01N35/08 A
   G01N1/00 101B
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-996(P2016-996)
(22)【出願日】2016年1月6日
(65)【公開番号】特開2017-122617(P2017-122617A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】317007266
【氏名又は名称】エア・ウォーター・バイオデザイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】綱澤 啓
(72)【発明者】
【氏名】足立 雄介
【審査官】 素川 慎司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−092486(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/203693(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0291505(US,A1)
【文献】 特開2009−098039(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3201444(JP,U)
【文献】 特開昭58−030669(JP,A)
【文献】 特開2009−150733(JP,A)
【文献】 特開2005−331253(JP,A)
【文献】 特開2004−191127(JP,A)
【文献】 特開2006−145533(JP,A)
【文献】 特開2006−349559(JP,A)
【文献】 特開2008−002850(JP,A)
【文献】 特表2011−527753(JP,A)
【文献】 特開2007−024522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00 − 37/00
G01N 1/00 − 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査液の成分を分析する成分分析システムであって、
流路に液体を注入するための液体注入口と、上記液体注入口に上記流路を通して連通する測定室とが形成された成分分析用容器と、
上記成分分析用容器を載置し、上記成分分析用容器を上記成分分析用容器に設定されている回転軸を中心として回転させるテーブルとを備えており、
上記成分分析用容器は、上記流路の少なくとも液体注入口側の端部に、上記流路が複数の分流路を形成するように空間を隔てる隔壁を備えており、
上記測定室は、上記回転軸を中心として、上記液体注入口よりも外周側に形成されており
上記測定室の内部の面には、上記測定室の内部に向かって形成された突起が設けられており、
上記流路の断面積は、上記流路の上流側から下流側に向かって、漸次的に広くなっている
ことを特徴とする成分分析システム。
【請求項2】
上記流路は、少なくとも液体注入口側の端部に、上記液体注入口から上記測定室に向かって下がる傾斜面を有することを特徴とする請求項1に記載の成分分析システム。
【請求項3】
上記隔壁は、上記流路の上記液体注入口側の端部から上記測定室側の端部までの途中において途切れており、
上記複数の分流路が、上記流路の上記液体注入口側の端部から上記測定室側の端部までの途中において1つに合流していることを特徴とする請求項1または2に記載の成分分析システム。
【請求項4】
上記流路は、上記流路の上記液体注入口側の端部から上記測定室側の端部までの途中において、上記流路の下流側の断面積が、上記流路の上流側の断面積よりも広くなっている部分を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の成分分析システム。
【請求項5】
上記流路の底面が、親水性を有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の成分分析システム。
【請求項6】
上記流路の底面が疎水性を有し、上記流路に接続された上記測定室の内壁面が親水性を有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の成分分析システム。
【請求項7】
上記成分分析用容器の液体注入口に対して、所定の高さから液体を落下させることにより上記液体を注入する液体注入装置を備えることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の成分分析システム。
【請求項8】
上記液体注入装置は、上記複数の分流路のうちの1つの分流路に、上記液体を注入することを特徴とする請求項に記載の成分分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料分析において、一つの検査液中に含まれる複数の成分の分析に好適な成分分析用容器および成分分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、農業の分野において、農作物の育成状態の管理のため、農作物の生育環境における土壌成分の分析が広く行われている。
【0003】
一般的に、土壌分析装置は、それぞれの土壌抽出液をその都度複数の試験管に目盛り付のスポイトで計量しながら注入し、その後、土壌成分毎に決められた試薬および希釈液を試験管に注入し発色させる。そして、発色状態を、比色表、比濁表、または、吸光光度法等を用いて数値換算することで測定が行われている。
【0004】
しかしながら、上述の測定方法は、それぞれの土壌抽出液に試薬を混合する必要があるため、繰り返し作業が多くなる。また、測定したい土壌成分に応じた試薬を準備する必要もあり、煩雑性が高い。
【0005】
土壌分析を頻繁に行うことにより、圃場ごとの細かい分析や、作付けごとの分析を行うことで、前作の影響を考慮した施肥設計を行うことができる。また、成育期間の長い作物についてはより短いスパンで定期的に分析を行うことで、追肥のタイミングや量を最適化することができる。したがって、このような土壌分析を行うことにより、収穫量の増加や品質の安定化が望める。
【0006】
しかしながら、上述した煩雑性の高さから分析の頻度を高めることは困難である。
【0007】
このような繰り返し作業を含む測定方法、同一の検査液から複数の成分に対しアプローチを行う測定方法は、土壌分析に限らずいくつか存在する。近年では、このような煩雑さを解決するための、簡易な方法で検査液と試薬等とを混合し、成分を分析する手法が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、液体試料を試験するための多数の容器を備えた反応支持体(成分分析用容器)が開示されている。図9の(a)は特許文献1に記載の反応支持体100を構成する上方円盤100aを示す平面図であり、(b)は反応支持体100を構成する下方円盤100bを示す平面図である。図10は、反応支持体100の一部を示す断面図である。
【0009】
特許文献1に記載の反応支持体100は、図9の(a)に示す上方円盤100aと、図9の(b)に示す下方円盤100bとが接着によって重ねられた構成である。上方円盤100aには、複数の液体注入口103が、同心円状に形成されている。各液体注入口103は、流路105aに連通している。下方円盤100bには、上方円盤100aに形成された各液体注入口103に対応する複数の容器104が、同心円状に形成されている。各容器104は、流路105bに連通している。
【0010】
図10に示すように、上方円盤100aと下方円盤100bとを重ねた状態では、容器104が、下方円盤100bの流路105bおよび上方円盤100aの流路105aを介して、液体注入口103に連通している。これにより、液体注入口103から注入された液体試料および検査用の試薬が、流路105a・105bを介して、容器104に導入される。
【0011】
このように、特許文献1に記載の反応支持体100は、複数の容器104を備えているため、複数種の液体試料を同じ試薬で同時に処理したり、また逆に一種類の液体試料に複数の試薬で同時に処理したりすることができ、従来かかっていた時間や手間を大幅に減らすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2012−185000号公報(2012年9月27日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に開示されている反応支持体100では、液体注入時に液体注入口103から液体試料が溢れやすいという問題が生じる。
【0014】
具体的には、反応支持体100では、液体注入口103から注入された液体試料が、反応支持体100の内部に形成された容器104に導入される。容器104に液体試料を導入するためには、容器104内の空気を外部に排出しなければならない。
【0015】
しかし、液体注入口103から離れた位置から液体試料を落下させて注入された直後は、注入された液体が液体注入口103(流路105aの断面)を塞いでしまう。このため、容器104に液体試料が流入する際に、容器104から追い出される空気が外部に排出される経路が遮断され、その空気が外部に排出されなくなる。その結果、液体注入口103から容器104にスムーズに液体試料が流入せずに、液体注入口103から液体試料が溢れてしまう。
【0016】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体注入口から液体が溢れるのを抑制しつつ、液体注入口から測定室内にスムーズに液体を流入させることができる成分分析用容器および成分分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る成分分析用容器は、流路に液体を注入するための液体注入口と、上記液体注入口に上記流路を通して連通する測定室とが形成された成分分析用容器であって、上記流路の少なくとも液体注入口側の端部に、上記流路が複数の分流路を形成するように空間を隔てる隔壁を備えることを特徴とする。
【0018】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る成分分析システムは、上記成分分析用容器と、上記成分分析用容器の液体注入口に対して、所定の高さから液体を落下させることにより上記液体を注入する液体注入装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、液体注入口から液体が溢れるのを抑制しつつ、液体注入口から測定室内にスムーズに液体を流入させることができる成分分析用容器および成分分析システムを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態1に係る成分分析用容器の概略構成を模式的に示す図であり、(a)は成分分析用容器を上方からみた正面図であり、(b)は(a)のA−A’矢視断面図である。
図2図1の成分分析用容器の斜視図である。
図3図1の成分分析用容器を用いた成分分析システムの構成を示す斜視図である。
図4図3の成分分析システムの液体注入装置が液体を注入する状態を示す斜視図である。
図5図1の成分分析用容器を分解した斜視図であり、(a)は成分分析用容器の上部部材の構成を示す斜視図であり、(b)は成分分析用容器の下部部材の構成を示す斜視図である。
図6】(a)および(b)は、図1の成分分析用容器における分析セルの構成を示す分解斜視図である。
図7】本発明の実施形態2に係る成分分析用容器における分析セルの構成を示す断面図である。
図8】本発明の実施形態3に係る成分分析用容器における分析セルの構成を示す断面図である。
図9】(a)は特許文献1に記載の反応支持体を構成する上方円盤を示す平面図であり、(b)は反応支持体を構成する下方円盤を示す平面図である。
図10】上記反応支持体の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の成分分析用容器および成分分析システムについて図面を参照して説明する。
【0022】
〔実施形態1〕
(成分分析用容器1)
図1は、本発明の実施形態1に係る成分分析用容器1の概略を模式的に示す図であり、(a)は成分分析用容器1を上方からみた正面図であり、(b)は(a)のA−A’矢視断面図である。すなわち、図1の(b)は、成分分析用容器1に形成された分析セル2を半径方向に切断した断面図である。図2は、図1の成分分析用容器の斜視図である。
【0023】
図1の(a)および図2に示すように、成分分析用容器1は、6つの分析セル2から構成されており、全体として略円盤状の構造となっている。各分析セル2は、仮想的な回転軸7を中心とする扇型に形成されている。各分析セル2は、図中波線で示すように区画化されており、互いに連通していない。なお、本実施形態では、6つの分析セル2が形成されているが、分析セル2の数は限定されるものではない。
【0024】
各分析セル2には、液体注入口3と測定窓6aと隔壁9とが形成されている。成分分析用容器1では、液体注入口3が内周側に、測定窓6aが外周側に形成されている。全ての液体注入口3は、回転軸7を中心とする第1の円周上(同一円周上)に形成されている。同様に、全ての測定窓6aは、成分分析用容器1の外縁に沿って、回転軸7を中心とする第2の円周上に形成されている。
【0025】
成分分析用容器1の外周部、より詳細には隣接する分析セル2の境界部には、切欠1aが形成されている。切欠1aは、後述する成分分析システムに成分分析用容器1をセットする際の位置決め部として機能する。分析セル2の詳細は後述する。
【0026】
なお、成分分析用容器1(分析セル2)を構成する材料は特に限定されるものではない。成分分析用容器1を安価な構成とするためには、全体が透明性の高い合成樹脂から作製されていることがより好ましい。本実施形態においては、成分分析用容器1は、耐薬品性も兼ね備えたポリカーボネートで作製されている。
【0027】
以下の説明では、便宜上、液体注入口3が形成される側を上方(上面または天面)、その逆側(成分分析用容器1の裏側)を下方(下面または底面)とする。成分分析用容器1に対して重力は上方から下方に向かって作用するものとする。
【0028】
図1の(b)に示すように、成分分析用容器1の測定窓6aが形成された部分の断面はハット形状となっており、ハット形状の頭部からフランジ部に亘って空間が形成されている。これにより、分析セル2が容器形状となっている。具体的には、分析セル2内の空間は、上記頭部に対応する分析セル2の上面に形成された液体注入口3、上記フランジ部に形成された測定室4、および、液体注入口3と測定室4とを接続する流路5から形成されている。また、隔壁9は、流路5の液体注入口3側の端部に形成されており、流路5が後述する複数(本実施形態では2本)の分流路を形成するように、流路5内の空間を隔てている。これにより、1つの液体注入口3が、隔壁9によって2口に分かれている。
【0029】
このように、成分分析用容器1では、回転軸7の周りに複数の液体注入口3が形成され、各液体注入口3の外周側に流路5を通して連通する測定室4が形成されている。
【0030】
なお、成分分析用容器1の断面の形状はハット形状に限定されるものではなく、例えば、円柱形状等、他の形状であってもよい。
【0031】
液体注入口3は、分析セル2の内部に、分析対象となる検査液(液体)を導入するための開口である。各測定室4内には、検査液に含まれる複数の成分のうちの所定の成分と反応する試薬10が封入されている。流路5には、液体注入口3から外周方向の測定室4に向かって下がる傾斜面5aが形成されている。傾斜面5aは、成分分析用容器1の中心側(回転軸7側)の内壁面まで形成されている。すなわち、成分分析用容器1は、測定室4と流路5との間に、測定室4側が低くなった(外周側に下がる)段差21を有する構成となっている。これにより、液体注入口3から導入された検査液が、傾斜面5aに沿って測定室4に導かれる。
【0032】
なお、傾斜面5aは、液体注入口3から測定室4の底面まで形成されている構成であってもよい。すなわち、傾斜面5aの高さは、液体注入口3から、測定室4が形成される分析セル2の外周方向に向かって、次第に低くなっている構成であってもよい。このような構成であっても、液体注入口3から導入された検査液が、傾斜面5aに沿って測定室4に導かれる。
【0033】
各測定室4内の試薬10は、各分析セル2で測定したい検査液の成分に対して反応するものである。試薬10は、検査液の分析しようとする成分に応じて任意に設定すればよく特に限定されるものではない。例えば、土壌分析においてMg成分の濃度を調べたい場合の試薬10として、「キシリジルブルー+Triton X−100+トリエタノールアミン+硫酸ナトリウム+GEDTA+テトラエチレンペンタミン+リン酸水素2ナトリウム+水酸化ナトリウム溶液」の混合溶液などを挙げることができる。検査液の他の成分について分析する場合は、その成分に対応する市販の試薬10、または、開発した試薬10を用いることができる。なお、試薬10は、保存性の観点から、できる限り固体で経時変化が少ないものであることが好ましい。
【0034】
各分析セル2の測定室4の上面には測定窓6aが、下面には測定窓6bが設けられている。測定窓6a・6bは、分析セル2の上面および下面に互いに重なるように設けられている。後述のように、成分分析用容器1は、測定窓6aから測定窓6bへ透過した光に基づいて検査液を分析する。このため、測定窓6a・6bは、光透過性材料から形成されている。例えば、測定窓6a・6bは、シリコーン、ガラス、ポリカーボネート、アクリル等の透明なプラスチック材料から作製されていることが好ましい。なお、成分分析用容器1が光透過性材料(特に透明材料)から形成されている場合、測定窓6a・6bを別途設ける必要はない。成分分析用容器1は、少なくとも測定窓6a・6bが、光透過性材料から形成されていればよい。
【0035】
各分析セル2の測定室4の底面には、複数のリブ8が形成されている。リブ8は、検査液と試薬10との混合・撹拌を促進するために、形成されている。これにより、分析時間を短縮すると共に分析精度を向上することができる。
【0036】
なお、リブ8の形状は特に限定されるものではない。例えば、図1の(b)の構成では、リブ8は、測定室4の底面に形成された半球状の突起である。リブ8は、測定室4の内側面から内部に向かって形成された板状(柱状)の突起であってもよい。また、リブ8は、測定室4の底面のみに限らず、天面、および内側面など、内部の各面に点在して設けられていてもよい。また、リブ8は、吸光度測定時の光路となる測定窓6a・6bの間を避けて形成されていることが好ましい。これにより、リブ8が吸光度測定を阻害しない。したがって、検査液と試薬10との混合・撹拌を促進し分析時間を短縮しつつ、分析精度を向上することができる。
【0037】
(成分分析システム20の構成)
次に、図3および図4を用いて、成分分析用容器1を用いた成分分析システム20の構成について説明する。図3は、図1の成分分析用容器1を用いた成分分析システム20の構成を示す斜視図である。図4は、図3の成分分析システム20の液体注入装置24が液体を注入する状態を示す斜視図である。
【0038】
成分分析システム20は、回転軸7を中心に成分分析用容器1を回転させることで、測定室4内の検査液(液体試料)と試薬10とを撹拌および混合するものである。さらに、成分分析システム20は、検査液の光学特性を測定し、検査液中の成分を分析する機能も有する。
【0039】
図3に示すように、成分分析システム20は、成分分析用容器1と、テーブル22と、駆動機構23と、光学測定機構27とを備えている。さらに、図4に示すように、成分分析システム20は、液体注入装置24も備えている。
【0040】
テーブル22は、成分分析用容器1を載置するためのものである。テーブル22は、成分分析用容器1よりもやや大きい円盤状の構造である。テーブル22は、駆動機構23の頭頂部に配置されることで支持されている。テーブル22の成分分析用容器1が載置される面の外縁には、図示しない突起が立設されている。この突起は、成分分析用容器1の外周部に形成された切欠1aに対応するように設けられている。これにより、成分分析用容器1の切欠1aを、テーブル22の突起に係合させることによって、成分分析用容器1をテーブル22の適切な位置にセットすることができる。
【0041】
駆動機構23は、成分分析システム20の制御部(不図示)からの指示により、テーブル22を回転駆動する。一例として、駆動機構23は、パルス制御可能なステッピングモーターから構成することができる。
【0042】
液体注入装置24は、成分分析用容器1に検査液を注入する。具体的には、図4に示すように、液体注入装置24は、成分分析用容器1の液体注入口3に対して、所定の高さから検査液を落下させることにより、分析セル2の液体注入口3から測定室4に検査液を注入する。上述のように、成分分析用容器1には、流路5の液体注入口3側の端部には隔壁9が形成されている。このため、隔壁9によって、液体注入口3も2つに分かれている。液体注入装置24は、2つに分かれた液体注入口3の一方に検査液を注入する。これにより、検査液が注入された液体注入口3に接続された分流路5b(後述する図5参照)を介して、測定室4に検査液が流入する。
【0043】
液体注入装置24は、各分析セル2の液体注入口3に順次個別に検査液を注入してもよいし、全ての分析セル2の液体注入口3に同時に検査液を注入してもよい。なお、この検査液の各液体注入口3への注入は、作業者が手動で行ってもよい。
【0044】
光学測定機構27は、成分分析用容器1の測定室4内で撹拌された検査液の光学特性を測定し、検査液中の成分を分析するものである。一例として、光学測定機構27は、吸光光度法により検査液の成分を測定する。光学測定機構27は、発光部25と、受光部26とを備えている。
【0045】
発光部25は、回転駆動されるテーブル22にセットされた成分分析用容器1の各分析セル2のうち何れかに光を照射するものである。発光部25は、回転駆動されるテーブル22にセットされた成分分析用容器1の各分析セル2のうち何れかの上方に位置するように配置されている。そして、発光部25は、下方に配置された分析セル2の天面側の測定窓6aに光を照射する。
【0046】
受光部26は、発光部25から天面側の測定窓6aに照射され、測定室4および底面側の測定窓6bを透過した光を受光し、当該受光した光のスペクトルをデータとして、図示しない制御部などに出力するものである。当該制御部は、受光部26から取得したスペクトルデータを基に、測定室4内の検査液の成分の測定結果を得る。受光部26は、発光部25の下方に配されている。
【0047】
このように、成分分析システム20は、テーブル22に成分分析用容器1がセットされると、テーブル22および成分分析用容器1の一部が、受光部26と、発光部25との間に配置されることになる。さらに、成分分析システム20は、回転軸7を中心に成分分析用容器1を回転させることで、測定室4に封入された試薬10と、液体注入装置24によって液体注入口3から測定室4に注入された検査液とを撹拌する。
【0048】
(成分分析用容器1を用いた検査液の分析)
次に、図1図4に基づいて、成分分析用容器1を用いた分析方法について説明する。
【0049】
成分分析用容器1は、成分分析システム20にセットした状態で分析を行う。まず、分析対象となる検査液を各液体注入口3から注入する。上述のように、各分析セル2の流路5は、内周側から外周側へ向かって高さが低くなるような傾斜面5aを有している。これにより、液体注入口3から注入された検査液は、傾斜面5aに沿って測定室4内に導入される。このため、注入された検査液が、液体注入口3の直下付近に溜まることなく、スムーズに測定室4に導入される。
【0050】
次に、検査液を測定室4に導入した成分分析用容器1を回転軸7の周りに回転運動させる。例えば、検査液の導入後、上記分析装置の図示しない回転機構により、成分分析用容器1を回転軸7の回りに回転駆動させる。これにより、成分分析用容器1に遠心力が加わり、測定室4に導入された検査液と、測定室4に予め収容された試薬10とが混合・撹拌される。成分分析用容器1は、検査液と試薬10とが十分反応するまで回転させる。
【0051】
検査液と試薬10との攪拌の態様は、成分分析用容器1が回転軸7の周りの一方向に一定速度で回転して攪拌する態様でもよいし、加速、減速を伴って回転して攪拌する態様でもよい。また、一方向と逆方向とに交互に回転して攪拌する態様でもよい。
【0052】
なお、傾斜面5aは、測定室4から液体注入口3に向かって上り勾配を有している。このため、成分分析用容器1の回転時に遠心力が加わっても、注入された検査液が測定室4から液体注入口3へ逆流するのを防ぎ、注入された検査液が成分分析用容器1の外部へ飛散することを防ぐことができる。
【0053】
次に、反応させた検査液と試薬10との混合液の光学測定により、成分分析を実施する。例えば、駆動機構23により回転軸7の周りに回転する成分分析用容器1の測定室4を透過した光の吸光度を測定する。具体的には、成分分析システム20の発光部25から射出された光を、測定窓6a、測定室4、測定窓6bの順に透過させ、透過した光を成分分析システム20の受光部26に入射させる。そして、受光部26が受光した光の強度(透過光量)に基づいて混合液の吸光度(透過率)を測定する。これにより、吸光度の測定結果に基づいて、検査液の成分分析が可能となる。
【0054】
このように、成分分析用容器1は、流路5には、液体注入口3から測定室4に向かって下り勾配の傾斜面5aが形成されている。傾斜面5aは、液体注入口3から測定室4への検査液の導入を助けるとともに、検査液と試薬10との撹拌時の検査液の逆流・飛散を防ぐ構造となっている。したがって、分析の機械化・自動化に適する成分分析用容器1を提供することができる。
【0055】
さらに、成分分析用容器1は、複数の分析セル2から構成されているため、1つの成分分析用容器1内で同時に複数の分析が可能となる。したがって、分析時間を短縮することができる。
【0056】
また、成分分析用容器1では、全ての測定窓6aおよび全ての測定窓6bは、それぞれ、回転軸7を中心とする同一円周上に設けられている。これにより、成分分析用容器1を回転移動させることで6つの分析セル2の測定を一つの光学測定系でまかなうことができる。
【0057】
(成分分析用容器1(分析セル2)の特徴的構成)
上述のように、成分分析用容器1では、液体注入口3から注入された検査液(液体)が、流路5を介して、成分分析用容器1の内部に形成された測定室4に供給される。
【0058】
一般的に、検査液を流路5に流入させた場合、検査液は、その表面張力および粘性によって、流路5の底面および側面に沿って安定して流れようとする性質がある。このような安定状態においては、流路5への検査液の流入量が過大でない限り、流路5の断面は、検査液が流れる層と、空気層とに分かれる。一方、測定室4は、成分分析用容器1の内部に形成された空間であり、流路5を介して液体注入口3に連通しているため、液体注入前には、測定室4内には空気が存在する。このため、液体注入口3から検査液を注入すると、流路5を介して測定室4に液体が流入することによって、測定室4内の空気が追い出される。測定室4から追い出される空気は、流路5に形成された空気層を通じて、液体注入口3から外部に排出される。その結果、測定室4にスムーズに検査液が流入する。
【0059】
しかし、図4のように、液体注入装置24は、液体注入口3からある程度離れた位置から、滝のように勢いよく検査液を落下させて注入するようになっている。このため、液体注入口3から検査液が注入された直後は、注入された検査液が流路5の断面を塞いでしまい、流路5の断面は、液体が流れる層と空気層とに分かれた安定状態にはならない。その結果、測定室4に検査液が流入する際に、測定室4から追い出される空気が、外部に排出されなくなる。したがって、液体注入口3から測定室4にスムーズに検査液が流入せずに、液体注入口3から検査液が溢れてしまうという問題が生じる。特に、成分分析用容器1を土壌分析に用いる場合、土壌分析時に粉末の試薬を溶解させるため、液体注入口3から注入される検査液の量は、非常に多い。このため、この問題が生じやすい。
【0060】
そこで、本実施形態の成分分析用容器1は、流路5の液体注入口側の端部に、隔壁9を備えている(図1図2参照)。図5は、図1の成分分析用容器1を分解した斜視図であり、(a)は成分分析用容器1の上部部材1Aの構成を示す斜視図であり、(b)は成分分析用容器1の下部部材1Bの構成を示す斜視図である。図6の(a)および(b)は、図1の成分分析用容器1における分析セル2の構成を示す分解斜視図である。
【0061】
図5の(a)(b)および図6の(a)(b)に示すように、成分分析用容器1(分析セル2)は、上下に分割された上部部材1Aと、下部部材1Bとから構成されている。
【0062】
図5の(a)(b)および図6の(a)に示すように、上部部材1Aには、液体注入口3および測定窓6aが形成されている。下部部材1Bには、測定室4、流路5、傾斜面5a、測定窓6b(図5の(b)には示さず)、および隔壁9が形成されている。
【0063】
なお、図6の(b)に示すように、上部部材1Aには、液体注入口3、流路5、傾斜面5a、測定窓6a、および隔壁9が形成されており、下部部材1Bには、測定室4、測定窓6bが形成された構成であってもよい。
【0064】
図5の(b)に示すように、隔壁9は、流路5の液体注入口3側の端部に形成されており、流路5が2本の分流路5b・5bを形成するように、流路5の空間を隔てている。隔壁9によって形成される分流路5bは、2本に限定されるものではなく、3本以上の分流路5bが形成されてもよい。
【0065】
これにより、2本の分流路5b・5bの一方に液体が注入されると、その分流路5bを介して測定室4に検査液が流入する。一方、測定室4への検査液の流入に伴い、測定室4から追い出される空気は、他方の分流路5bを介して外部に排出される。したがって、液体注入口3から測定室4内にスムーズに液体を流入させることができる。
【0066】
さらに、検査液が、検査液を注入するための一方の分流路5bを塞いだとしても、他方の分流路5bから測定室4内の空気を外部に追い出すことができる。したがって、液体注入口3から検査液が溢れるのを低減することができる。
【0067】
このように、本実施形態の成分分析用容器1によれば、液体注入口3から検査液が溢れるのを抑制しつつ、液体注入口3から測定室4内にスムーズに液体を流入させることができる。
【0068】
なお、本実施形態の成分分析用容器1では、測定室4に連通する流路5は1本であり、隔壁9によって1本の流路5が2本の分流路5b・5bに分かれている。しかし、測定室4に検査液を供給するための流路と、測定室4内の空気を追い出すための流路とを、互いに独立して形成することも考えられる。しかし、この場合、測定室4から外部に連通する2本の流路を設ける必要があるため、成分分析用容器1の構造が複雑になる。その結果、製造コストが増大すると共に、設計上の制約も受けるという問題が生じる。
【0069】
これに対し、本実施形態の成分分析用容器1は、液体注入口3および測定室4に連通する1本の流路5に隔壁9が設けられた簡素な構成である。このため、独立した2本の流路を設ける場合に生じる問題(製造コストの増大、設計上の制約)を、軽減することができる。
【0070】
また、図1および図5の(b)に示すように、隔壁9は、少なくとも流路5の液体注入口3側の端部に形成されていればよい。本実施形態では、隔壁9は、流路5の液体注入口3側の端部から測定室4側の端部までの途中において途切れている。このため、2本の分流路5b・5bが、流路5の液体注入口3側の端部から測定室4側の端部までの途中において1つに合流している。
【0071】
このような構成では、隔壁9が流路5の途中で途切れているため、隔壁9の無い部分では、隔壁9が流路5の断面積を減少させることがない。例えば、流路5の幅が等しい場合、隔壁9が存在しない部分の流路5の断面積は、隔壁9が存在する部分の流路5の断面積よりも大きくなる。したがって、隔壁9の存在による流路抵抗の増大を最低限に抑制しつつ、検査液を測定室4により一層スムーズに流入させることができる。
【0072】
なお、隔壁9が流路5の途中で途切れている場合、検査液が一方の分流路5bを十分な距離に流れることにより検査液がその分流路5bの壁面に沿って流れる。このため、隔壁9が流路5の途中で途切れていても、検査液が流れる分流路5bは検査液が流れる層と、空気層とに分かれた安定状態となっている。したがって、この状態で分流路5b・5bを合流させても、問題なく検査液を測定室4に流入させることができる。
【0073】
また、隔壁9は、流路5の液体注入口3側の端部から測定室4側の端部までの途中において途切れることなく、流路5の液体注入口3側の端部から測定室4側の端部まで形成されていてもよいし、段差21または測定室4まで形成されていてもよい。
【0074】
また、本実施形態では、隔壁9は、流路5を均等に二分して2本の分流路5b・5bを形成しているため、分流路5b・5bの幅(横幅)は同一になっている。しかし、分流路5b・5bの幅は、不均等であってもよい。例えば、隔壁9は、液体注入用の分流路5bの幅が広く、測定室4の空気の追い出し用の分流路5bの幅が狭くなるように、形成されていることが好ましい。これにより、液体注入用の分流路5bへの検査液の流入量を増加させることができる。したがって、液体注入口3から検査液が溢れるのを確実に防ぎつつ、測定室4に検査液を流入させることができる。
【0075】
また、本実施形態の成分分析用容器1は、流路5の液体注入口3側の端部に、液体注入口3から測定室4に向かって下がる傾斜面5aが形成されている。これにより、流路5に注入された検査液は、重力にしたがって、傾斜面5a(流路5の底面)に沿って流れる。その結果、液体注入口3付近(流路5の上流側)では、傾斜面5aは、流路5の断面が、液体が流れる層と空気層とに分離されやすくなる方向に作用する。一方、測定室4付近(流路5の下流側)では、傾斜面5aは、検査液が測定室4に向けてスムーズに流れやすくなる方向に作用する。
【0076】
ただし、液体注入口3付近については、液体注入装置24によって液体注入口3の上方から落下する検査液が、傾斜面5aに勢いよく衝突する。その結果、衝突した検査液が、流路5の幅方向に拡がり、検査液が流路5の断面を塞ぐ可能性がある。
【0077】
しかし、上述のように、本実施形態の成分分析用容器1は、隔壁9を備えている。このため、検査液が一方の分流路5bの幅方向に拡がったとしても、その拡がりは隔壁9によって遮断される。しかし、検査液の注入に伴い測定室4の空気を追い出すための他方の分流路5bは、検査液が注入されないため、空気を追い出すが確保される。したがって、流路5に傾斜面5aを有する場合であっても、液体注入口3から検査液が溢れるのをより確実に防止しつつ、測定室4に検査液を流入させることができる。
【0078】
また、本実施形態の成分分析用容器1では、傾斜面5aは、測定室4の中心側(回転軸7側)の内壁面まで形成されている。このため、測定室4内の検査液(または試薬10との混合液)が流路5に向かおうとしても、段差21がその障壁となる。これにより、成分分析用容器1の回転開始時の加速時または回転停止時の減速時に、検査液が逆流することを効果的に防ぐことができる。さらに、逆流した検査液が液体注入口3から飛散することも効果的に防ぐこともできる。
【0079】
また、図5の(b)に示すように、本実施形態の成分分析用容器1(分析セル2)では、液体注入口3が中心側、測定室4が外周側になっており、流路5は外周側に向けて横幅が末広がりに幅が広くなる扇形の形状をしている。
【0080】
このような構成では、流路5は、流路5の液体注入口3側の端部から測定室4側の端部までの途中において、流路5の下流側の断面積が、流路5の上流側の断面積よりも広くなっている部分を有することになる。
【0081】
ここで、一般に、単位時間に流路5中を流れる液体(検査液)の体積流量(V)は、流れる液体の断面積(S)と流速(v)との積で表わされる(V=S×v)。上述のように、成分分析用容器1は、流路5に隔壁9が設けられているため、流路5の断面積は、隔壁9がない場合よりも小さくなり、流路5(分流路5b)を流れる液体の断面積(S)も隔壁9がない場合よりも小さくなる。その結果、液体の体積流量(V)が、隔壁9によって制限される。
【0082】
しかし、図5の(b)のような構成では、検査液の流速が相対的に遅くなる流路5の下流側の断面積が、流路5の上流側の断面積よりも広くなった部分が、流路5の途中に存在する。これにより、下流側により多くの検査液を流すことができる。したがって、液体注入口3から注入された検査液が溢れるのを、より確実に防止することができる。
【0083】
また、図5の(b)のような構成では、流路5の断面積は、流路5の上流側から下流側に向かって、漸次的に広くなっている。つまり、流路5(分流路5b)の横幅が、上流側から下流側に向かうにしたがい、広くなっている。言い換えれば、検査液の流速が相対的に遅くなる流路5の下流側ほど、流路5の断面積が広くなっている。これにより、流路5の下流側であっても、多くの検査液を流すことができる。したがって、液体注入口3から注入された検査液が溢れるのを、より確実に防止することができる。
【0084】
また、成分分析用容器1では、測定室4は、液体注入口3よりも外周側に形成されている。これにより、成分分析用容器1の回転運動により測定室4内の検査液に遠心力が作用したとき、検査液を支える役目を担うのは、測定室4の外周側の内壁面になる。したがって、成分分析用容器1の回転時に遠心力が加わっても、注入された検査液が測定室4から液体注入口3へ逆流するのを防ぎ、注入された検査液が成分分析用容器1の外部へ飛散することを防ぐことができる。
【0085】
また、成分分析用容器1では、測定室4の上面に形成された測定窓6aが、測定窓6aが形成されていない上面の領域よりも低い位置に設けられている(図1図2参照)。さらに、測定窓6aが形成された領域における測定室4の高さ(上下方向の長さ)も、測定窓6aが形成されていない領域における測定室4の高さよりも、低く(短く)なっている。これにより、測定室4内の検査液の液面が、測定窓6aよりも上に存在するようになる。したがって、測定窓6aと測定窓6bとの間の測定領域には気泡などの異物が存在せず、常に検査液で満たされる。それゆえ、分析精度を向上することができる。また、検査液と試薬10との混合によって発生した気泡は、測定窓6aが形成されていない上面の領域と、検査液の液面との間の空間に容易にトラップできる。したがって、測定領域をより確実に検査液で満たすことが可能になる。
【0086】
なお、図5および図6では、成分分析用容器1が2つの部材(上部部材1Aおよび下部部材1B)によって形成されているが、上部部材1Aおよび下部部材1Bが一体となった構成であってもよい。
【0087】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、図7に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。図7は、本発明の実施形態2に係る成分分析用容器1における分析セル2の構成を示す断面図である。図7の断面図は、図1の(a)と同じ部分の断面図を示しているが、隔壁9は省略している。
【0088】
図7に示すように、本実施形態の成分分析用容器1では、流路5の底面(傾斜面5a)が、親水性を有する点が、実施形態1と異なる。具体的には、本実施形態の分析セル2において、少なくとも傾斜面5a(より具体的には検査液が流れる分流路5bの傾斜面)が親水性を有していればよい。図7の分析セル2では、傾斜面5aの全領域に加えて、測定室4の内周側の内壁面、および、流路5と測定室4との境界部の段差21が、親水性を有する親水性領域11となっている。なお、図示しないが、隔壁9も親水性を有していてもよい。
【0089】
流路5の底面等の領域に親水性を付与する方法は特に限定されるものではない。例えば、成分分析用容器1に対する親水化処理によって親水性を付与することができる。具体的には、プラズマ処理やコロナ放電処理によって、表面に酸素官能基を有するような構造を形成することで、親水性を付与することができる。また、ブラスト処理によって粗面粗さを面積に対して変更し、表面形状が異なるようにすることによっても、親水性を付与することができる。さらに、ナノインプリンティング法により、親水性を付与した表面にナノスケールの微細構造を形成することによっても、親水性を付与することができる。
【0090】
このように、本実施形態の成分分析用容器1では、少なくとも検査液が流れる流路5(分流路5b)の底面(傾斜面5a)が親水性を有している。これにより、検査液が測定室4に向けてスムーズに流れる。したがって、液体注入口3から注入された検査液が溢れるのを、より確実に防止することができる。
【0091】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、図8に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。図8は、本発明の実施形態3に係る成分分析用容器1における分析セル2の構成を示す断面図である。図8の断面図は、図7と同じ部分の断面図を示しているが、隔壁9は省略している。
【0092】
実施形態2の成分分析用容器1では、傾斜面5aの全領域が親水性を有していると共に、測定室4の内周側の内壁面、および、流路5と測定室4との境界部の段差21も、親水性を有する構成であった。
【0093】
これに対し、本実施形態の成分分析用容器1は、流路5の底面(傾斜面5a)が疎水性を有する疎水性領域11aと、流路5(傾斜面5a)に接続された測定室4の内壁面および段差21が親水性を有する親水性領域11bとを備えた構成である。すなわち、流路5の底面(傾斜面5a)の親水性が相対的に低く(疎水性が相対的に高く)、測定室4の内壁面および段差21の親水性が相対的に高く(疎水性が相対的に低く)なった構成である。なお、図示しないが、隔壁9も疎水性を有していてもよい。
【0094】
本実施形態において、実施形態2で説明した親水化処理を、親水性を相対的に高めたい領域に行うことによって、その領域に親水性が付与される。また、結果的にそれ以外の領域の親水性は相対的に低くなり、相対的に疎水性が高くなる。
【0095】
具体的には、例えば、図5(b)で示す下部部材1Bにおいて、内周部に形成された分流路5b・5b(傾斜面5a)および隔壁9の領域の疎水性を高めるとする。この場合、分流路5b・5b(傾斜面5a)および隔壁9の領域を、キャップ等で予めマスキングを行った上で、実施形態2で説明した親水化処理としてプラズマ処理を行う。これにより、マスキングされていない領域のみが親水化処理されるため、マスキングされた領域の疎水性を相対的に高めることができる。
【0096】
また、より積極的に疎水性を高めるためには、疎水性を高めたい領域にフッ素コーティングを行うことで、その領域の疎水性を高めることができる。また、疎水性を高めたい領域をフッ素コーティングする代わりに、その領域にコーティング剤を塗布したり、フッ素プラズマ処理をすることによっても、その領域の疎水性を高めることができる。なお、フッ素プラズマ処理を行う際は、上述の説明とは逆に、図5(b)で示す下部部材1Bにおいて、外周部の測定室4を形成する領域に、予めマスキングを行うことにより、分流路5b・5b(傾斜面5a)および隔壁9の領域の疎水性を高めることができる。
【0097】
或いは、分流路5b・5b(傾斜面5a)および隔壁9の領域に、ナノメートルレベルの微細な周期構造を設ける事でも、その領域の疎水性を高めることができる。例えば、分流路5b・5b(傾斜面5a)および隔壁9の領域に、レーザ微細加工を施しても良いし、成分分析用容器1を成形する金型に予め微細加工を施し、成形時にその構造を転写する形式を採用してもよい。
【0098】
このように、本実施形態の成分分析用容器1では、流路5(分流路5b)の底面(傾斜面5a)が疎水性を有し、流路5に接続された測定室4の内壁面および段差21が親水性を有している。すなわち、測定室4の内壁面および段差21の方が、流路5(分流路5b)の底面(傾斜面5a)よりも親水性が高い。したがって、測定室4内の検査液が、流路5に沿って逆流するのを抑制することができる。
【0099】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る成分分析用容器1は、流路5に液体を注入するための液体注入口3と、上記液体注入口3に上記流路5を通して連通する測定室4とが形成された成分分析用容器1であって、上記流路5の少なくとも液体注入口3側の端部に、上記流路5が複数の分流路5b・5bを形成するように空間を隔てる隔壁9を備える。
【0100】
上記の構成によれば、流路の液体注入口側の端部に隔壁が形成されており、隔壁によって流路が複数の分流路に分かれている。これにより、複数の分流路のうちの1つに液体が注入されると、その分流路を介して測定室に液体が流入する。一方、測定室4への液体の流入に伴い、測定室4から追い出される空気は、液体が注入される分流路以外の分流路を介して外部に排出される。したがって、液体注入口から測定室内にスムーズに液体を流入させることができる。
【0101】
さらに、測定室内の空気は、液体が注入される分流路以外の分流路から外部に排出されるため、液体注入直後の液体が、液体が注入される分流路を塞いだとしても、液体注入口から液体が溢れるのを抑制することができる。
【0102】
このように、上記の構成によれば、液体注入口から測定室内にスムーズに液体を流入させつつ、液体注入口から液体が漏れるのを抑制することができる。
【0103】
本発明の態様2に係る成分分析用容器1は、上記態様1において、上記流路5は、少なくとも液体注入口3側の端部に、上記液体注入口3から上記測定室4に向かって下がる傾斜面5aを有する構成であってもよい。
【0104】
上記の構成によれば、流路の液体注入口側の端部に、測定室に向かって下がる傾斜面が形成されている。これにより、液体注入口から注入された液体が、傾斜面に沿って測定室に向けてスムーズに流れる。したがって、液体注入口から注入された液体が溢れるのを、より確実に防止することができる。
【0105】
本発明の態様3に係る成分分析用容器1は、上記態様1または2において、上記隔壁9は、上記流路5の上記液体注入口3側の端部から上記測定室4側の端部までの途中において途切れており、上記複数の分流路5b・5bが、上記流路5の上記液体注入口3側の端部から上記測定室4側の端部までの途中において1つに合流している構成であってもよい。
【0106】
上記の構成によれば、隔壁が流路の途中で途切れているため、隔壁の無い部分では、隔壁が流路の断面積を減少させることがない。例えば、流路の幅が等しい場合、隔壁が存在しない部分の流路の断面積は、隔壁が存在する部分の流路の断面積よりも大きくなる。したがって、隔壁の存在による流路抵抗の増大を抑制しつつ、液体を測定室により一層スムーズに流入させることができる。
【0107】
本発明の態様4に係る成分分析用容器1は、上記態様1〜3のいずれかにおいて、上記流路5は、上記流路5の上記液体注入口3側の端部から上記測定室4側の端部までの途中において、上記流路5の下流側の断面積が、上記流路5の上流側の断面積よりも広くなっている部分を有する構成であってもよい。
【0108】
一般に、単位時間に流路中を流れる液体の体積流量(V)は、流れる液体の断面積(S)と流速(v)との積で表わされる(V=S×v)。
【0109】
上記の構成によれば、液体の流速が相対的に遅くなる流路の下流側の断面積が、流路の上流側の断面積よりも広くなった部分が、流路の途中に存在する。これにより、下流側により多くの液体を流すことができる。したがって、液体注入口から注入された液体が溢れるのを、より確実に防止することができる。
【0110】
本発明の態様5に係る成分分析用容器1は、上記態様1〜4のいずれかにおいて、上記流路5の断面積は、上記流路5の上流側から下流側に向かって、漸次的に広くなっている構成であってもよい。
【0111】
上記の構成によれば、液体の流速が相対的に遅くなる流路の下流側ほど、流路の断面積が広くなっている。これにより、流路の下流側であっても、多くの液体を流すことができる。したがって、液体注入口から注入された液体が溢れるのを、より確実に防止することができる。
【0112】
本発明の態様6に係る成分分析用容器は、上記態様1〜5のいずれかにおいて、上記測定室4は、上記液体注入口3よりも外周側に形成されている構成であってもよい。
【0113】
上記の構成によれば、測定室が液体注入口よりも外周側に形成されている。これにより、成分分析用容器の回転運動により測定室内の液体に遠心力が作用したとき、液体を支える役目を担うのは、測定室の外周側の内壁面になる。したがって、成分分析用容器の回転時に遠心力が加わっても、注入された液体が測定室から液体注入口へ逆流するのを防ぎ、注入された液体が成分分析用容器の外部へ飛散することを防ぐことができる。
【0114】
本発明の態様7に係る成分分析用容器1は、上記態様1〜6のいずれかにおいて、上記流路5の底面が、親水性を有する構成であってもよい。
【0115】
上記の構成によれば、液体が流れる流路の底面が親水性を有している。これにより、液体が測定室に向けてスムーズに流れる。したがって、液体注入口から注入された液体が溢れるのを、より確実に防止することができる。
【0116】
本発明の態様8に係る成分分析用容器1は、上記態様1〜7のいずれかにおいて、上記流路5の底面が疎水性を有し、上記流路5に接続された上記測定室4の内壁面が親水性を有する構成であってもよい。
【0117】
上記の構成によれば、流路の底面が疎水性を有し、流路に接続された測定室の内壁面が親水性を有している。すなわち、上記測定室の内壁面の方が、流路の底面よりも親水性が高い。したがって、測定室内の液体が、流路に沿って逆流するのを抑制することができる。
【0118】
なお、流路の底面に加えて、流路の底面に接続された測定室の内壁面も、親水性を有することが好ましい。これにより、液体注入口から測定室の内部に至るまでの領域が親水性を有するようになる。したがって、測定室に液体をよりスムーズに流入させることができる。
【0119】
本発明の態様9に係る成分分析システム20は、上記態様1〜8のいずれかの成分分析用容器1と、上記成分分析用容器1の液体注入口3に対して、所定の高さから液体を落下させることにより上記液体を注入する液体注入装置24とを備える構成である。
【0120】
上記の構成によれば、本発明に係る成分分析用容器と、成分分析用容器の液体注入口に液体を注入する液体注入装置とを備えているため、液体注入口から測定室内にスムーズに液体を流入させることができる成分分析システムを提供することができる。
【0121】
本発明の態様10に係る成分分析システム20は、上記態様9において、上記液体注入装置24は、上記複数の分流路5b・5bのうちの1つの分流路5bに、上記液体を注入する構成であってもよい。
【0122】
上記の構成によれば、液体注入装置が、隔壁によって形成された分流路の1つに液体を注入する。これにより、液体が注入された分流路を介して、測定室に液体が流入する。さらに、測定室への液体の流入に伴い、測定室から追い出される空気は、他の分流路を介して外部に排出される。したがって、液体注入口から液体が溢れるのを低減することができる。
【符号の説明】
【0123】
1 成分分析用容器
2 分析セル
3 液体注入口
4 測定室
5 流路
5a 傾斜面
7 回転軸
10 試薬
20 成分分析システム
21 段差
24 液体注入装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10