特許第6733906号(P6733906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6733906
(24)【登録日】2020年7月13日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】入浴介護装置
(51)【国際特許分類】
   A61H 33/00 20060101AFI20200728BHJP
【FI】
   A61H33/00 310M
【請求項の数】8
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2016-161332(P2016-161332)
(22)【出願日】2016年8月19日
(65)【公開番号】特開2017-38932(P2017-38932A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2019年4月18日
(31)【優先権主張番号】特願2015-162457(P2015-162457)
(32)【優先日】2015年8月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501362906
【氏名又は名称】積水ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100195305
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 恵
(72)【発明者】
【氏名】杉 茂人
【審査官】 木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−079060(JP,A)
【文献】 特開2007−319653(JP,A)
【文献】 特開2005−278751(JP,A)
【文献】 特開2015−058054(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3180580(JP,U)
【文献】 特開2015−029679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 33/00−33/14
A61G 7/00− 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の浴槽での入浴を補助するための入浴介護装置であって、
前記浴槽に取り付けられる装置本体と、
前記装置本体に設けられた昇降機構と、
前記昇降機構により、前記装置本体に対して上下動し、浴槽内に配置可能な椅子と、
前記利用者が足を載置するための足載置部と、
前記足載置部を前記椅子に対して支持する支持アームと、
を備え、
前記椅子は、背凭れ部と、当該背凭れ部の下端部に連結された座部とを備え、
前記椅子において、少なくとも前記座部を含む部分は、前記座部の下方もしくは後方からの力を受けると、前記装置本体に対して傾斜可能に構成されており、
前記支持アームは、前記足載置部を前記座部に近接させる入浴姿勢位置と、前記足載置部を前記入浴姿勢位置よりも前記座部から離れた椅座位姿勢位置とに、選択的に配置可能に構成され、
前記足載置部が前記入浴姿勢位置と前記椅座位姿勢位置の間を移動するように、前記支持アームを駆動させる駆動機構をさらに備え、
前記駆動機構は、前記支持アームに連結される線状材を備え、
前記線状材を引っ張ることで、前記足載置部を前記椅座位姿勢位置から前記入浴姿勢位置に変位させるように構成されている、入浴介護装置。
【請求項2】
前記背凭れ部は、上部背凭れ部と、前記上部背凭れ部の下方に回動可能に連結された下部背凭れ部と、を備え、
前記下部背凭れ部は、前記上部背凭れ部に対し、前記座部とともに、前記装置本体に対して傾斜可能に構成されている、請求項1に記載の入浴介護装置。
【請求項3】
前記椅子が前記浴槽の底面と接触している状態から、当該椅子が前記昇降機構により下降されると、前記浴槽の底面から受ける力により、少なくとも前記座部を含む部分が、前記浴槽の底面に沿って滑り、前記装置本体から離れるように傾斜する、請求項1または2に記載の入浴介護装置。
【請求項4】
前記椅子は、前記座部の下面側に前記浴槽の底面と接触可能なローラをさらに有している、請求項3に記載の入浴介護装置。
【請求項5】
前記下部背凭れ部及び前記座部は、前記上部背凭れ部に重なるように回動可能である、請求項2に記載の入浴介護装置。
【請求項6】
前記足載置部が前記入浴姿勢位置にある状態から、前記線状材をさらに引っ張ることで、少なくとも前記座部を含む部分が、前記装置本体に対して傾斜可能に構成されている、請求項1から5のいずれかに記載の入浴介護装置。
【請求項7】
前記椅子は、前記座部の幅方向の両側に配置されたアームレストをさらに備え、
前記線状材は、前記アームレストに沿って配置されている、請求項1から6のいずれかに記載の入浴介護装置。
【請求項8】
前記装置本体を支持するレールユニットをさらに有し、
前記レールユニットは、
前記浴槽の框に支持される固定レール部と、
前記装置本体を前記椅子とともに支持し、前記固定レール部に沿ってスライドすることで、前記椅子が前記浴槽内を臨む入浴位置と、前記浴槽外の移乗位置とを選択可能なスライド支持部を有し、
前記スライド支持部は、
前記固定レール部にスライド自在なスライド支持部本体と、
前記スライド支持部本体を、前記浴槽に隣接する洗い場床面上に支持する支持脚部と、
前記支持脚部の下端に取り付けられ、前記スライド支持部本体のスライドに伴い、前記洗い場床面上を転動する車輪と、
を備えている、請求項1からのいずれかに記載の入浴介護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、歩行困難な老人や身体障害者を椅子に着座させた状態で入浴させることができる入浴介護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被介護者の入浴を補助するための種々の入浴介護装置が提案されている。以下、一例として、特許文献1に開示されている入浴介護装置について、図27及び図28を参照しつつ説明する。図27は、従来の入浴介護装置の斜視図、図28は、図27の装置の使用状態を概略的に説明する図である。この中で、図28(a)は第1レール部と第2レール部を連結し、昇降椅子ユニットを第2レール部側に移動させる前の状態、図28(b)は昇降椅子ユニットを第2レール部側に移動させた状態、図28(c)は、椅子を浴槽内に下降させた状態をそれぞれ表している。
【0003】
図27及び図28に示すように、この入浴介護装置は、被介護者を着座した状態で移動させるための昇降椅子ユニット200と、この昇降椅子ユニット200を浴槽800の内外に移動させるためのレール部100と、このレール部100の一部を支持する台車300と、を備えている。昇降椅子ユニット200は、被介護者が着座する椅子600と、この椅子600をレール部100に対して移動可能に支持しつつ、昇降させる昇降装置700とを有する。レール部100は、台車300の支持部310に取り付けられた第1レール部400と、浴槽800に取り付けられた第2レール部500とを有している。そして、第1レール部400は、第2レール部500に対して脱着可能に連結されるように構成され、両レール部400、500が連結されたときには、一直線上に延びるように連結され、両レール部400、500上を昇降装置700が移動可能となっている。
【0004】
この入浴介護装置は次のように利用される。まず、図28の(a)に示すように、台車300を浴槽800の近傍に配置し、台車300の第1レール部400を、浴槽800の第2レール部500に連結する。このとき、昇降装置700を第1レール部400上に配置する。すなわち、台車300側に昇降椅子ユニット200を配置した上で、昇降装置700によって、椅子600の高さを、被介護者が座りやすい高さに調整する。そして、被介護者が椅子600に着座すると、昇降装置700によって椅子600の高さが浴槽800側に移動可能な高さに調整する。続いて、図28の(b)に示すように、昇降装置700を第2レール部500側にスライドする。これにより、椅子600は浴槽800の縁を乗り越え、浴槽800内を臨むように配置される。次に、図28の(c)に示すように、昇降装置700によって椅子600を下降させる。これにより、椅子600に着座している被介護者を浴槽800内の湯に入浴させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−58054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記入浴介護装置を用いた場合、椅子600が、浴槽700の底面まで到達すると、椅子600に着座した被介護者の臀部の位置は、浴槽の底から昇降椅子ユニット200の座部の厚み分だけ高くなる。したがって、椅子600に着座した被介護者は、例えば、乳首の位置まで浸かることができず、浴槽800の湯に十分に浸かることができないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みて、被介護者などの利用者が十分な深さまで入浴できる入浴介護装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る入浴介護装置は、利用者の浴槽での入浴を補助するための入浴介護装置であって、前記浴槽に取り付けられる装置本体と、前記装置本体に設けられた昇降機構と、前記昇降機構により、前記装置本体に対して上下動し、浴槽内に配置可能な椅子と、を備え、前記椅子は、背凭れ部と、当該背凭れ部の下端部に連結された座部とを備え、前記椅子において、少なくとも前記座部を含む部分は、前記座部の下方もしくは後方からの力を受けると、前記装置本体に対して傾斜可能に構成されている。
【0009】
上記入浴介護装置において、前記背凭れ部は、上部背凭れ部と、前記上部背凭れ部の下方に回動可能に連結された下部背凭れ部と、を備え、前記下部背凭れ部は、前記上部背凭れ部に対し、前記座部とともに、前記装置本体に対して傾斜可能に構成されているものとすることができる。
【0010】
上記各入浴介護装置において、前記椅子が前記浴槽の底面と接触している状態から、当該椅子が前記昇降機構により下降されると、前記浴槽の底面から受ける力により、少なくとも前記座部を含む部分が、前記浴槽の底面に沿って滑り、前記装置本体から離れるように傾斜するように構成できる。
【0011】
上記入浴介護装置において、前記椅子は、前記座部の下面側に前記浴槽の底面と接触可能なローラをさらに有することができる。
【0012】
上記入浴介護装置において、前記下部背凭れ部及び前記座部は、前記上部背凭れ部に重なるように回動可能とすることができる。
【0013】
上記各入浴介護装置は、前記利用者が足を載置するための足載置部と、前記足載置部を前記椅子に対して支持する支持アームと、をさらに備えることができる。
【0014】
上記各入浴介護装置において、前記支持アームは、前記足載置部を前記座部に近接させる入浴姿勢位置と、前記足載置部を前記入浴姿勢位置よりも前記座部から離れた椅座位姿勢位置とに、選択的に配置可能に構成することができる。
【0015】
上記各入浴介護装置において、前記足載置部が入浴姿勢位置と椅座位姿勢位置の間を移動するように、前記支持アームを駆動させる駆動機構をさらに備えることができる。
【0016】
上記各入浴介護装置において、前記駆動手段は、前記支持アームに連結される線状材を備えることができ、前記線状材を引っ張ることで、前記足載置部を前記椅座位姿勢位置から前記入浴姿勢位置に変位させるように構成することができる。
【0017】
上記各入浴介護装置においては、前記足載置部が前記入浴姿勢位置にある状態から、前記線状材をさらに引っ張ることで、少なくとも前記座部を含む部分が、前記装置本体に対して傾斜可能に構成することができる。
【0018】
上記各入浴介護装置において、前記椅子は、前記座部の幅方向の両側に配置されたアームレストをさらに備えることができ、前記線状材は、前記アームレストに沿って配置することができる。
【0019】
上記各入浴介護装置において、前記装置本体を支持するレールユニットをさらに有し、前記レールユニットは、前記浴槽の框に支持される固定レール部と、前記装置本体を前記椅子とともに支持し、前記固定レール部に沿ってスライドすることで、前記椅子が前記浴槽内を臨む入浴位置と、前記浴槽外の移乗位置とを選択可能なスライド支持部を有し、前記スライド支持部は、前記固定レール部にスライド自在なスライド支持部本体と、前記スライド支持部本体を、前記浴槽に隣接する洗い場床面上に支持する支持脚部と、前記支持脚部の下端に取り付けられ、前記スライド支持部本体のスライドに伴い、前記洗い場床面上を転動する車輪と、を備えることができる。
【0020】
上記目的を達成するために、本発明にかかる入浴介護装置(以下、「本発明の入浴介護装置」と記す)は、椅子昇降装置によって椅子を浴槽内に下降させて、人を椅子に着座させた状態で入浴させるようにした入浴介護装置であって、前記椅子は、背凭れ部が、上部背凭れ部と、枢支軸を介して前記上部背凭れ部に枢支され、前記枢支軸を中心に座部の前後方向に回動する下部背凭れ部を有し、前記上部背凭れ部が、前記椅子昇降装置の昇降軸に沿って昇降するように椅子昇降装置に支持されていることを特徴としている。
【0021】
本発明の入浴介護装置は、下部背凭れ部を、動力により枢支軸を中心に回動させる下部背凭れ部回動手段を備えていることが好ましい。すなわち、介護者が、手で座部を持ち上げたり、下部背凭れ部を回動方向に押圧するなどの作業を行う必要がなく、介護作業を軽減することができるとともに、一人作業を可能にする。上記動力としては、特に限定されないが、電動モータ、油圧装置等が挙げられる。
【0022】
また、上記椅子は、座部を下部背凭れ部に一体化し、下部背凭れ部の回動に伴い座部も上記枢支軸を中心に回動する構造とすることが好ましい。
すなわち、枢支軸を中心に下部背凭れ部を座部前方に向って回動すると同時に座部も下部背凭れ部に対して同じ角度を持った状態で回動し、座部前端側が回動に伴って上方に持ち上げられる。したがって、座部に着座した人は、腰の部分が安定した姿勢を保ちながら、足先側が上方にスムーズに持ち上げられる。
【0023】
また、本発明の入浴介護装置は、椅子昇降装置によって椅子を浴槽内に下降させて、人を椅子に着座させた状態で入浴させるようにした入浴介護装置であって、前記椅子は、背凭れ部と座部を有する椅子本体と、フットサポートを備え、このフットサポートは、前記椅子本体に着座した人が足を載せる足載置部と、この足載置部を支持する足載置部支持アームを備え、この足載置部支持アームは、前記足載置部が椅子本体の座部前端に近接し、着座した人を大腿が折り畳まれた姿勢に保持する入浴姿勢位置と、前記足載置部が入浴姿勢位置よりも前記座部に対して下方に位置する椅座位(いざい)姿勢位置を選択可能に形成されていることを特徴としている。
【0024】
なお、本発明において、上記椅座位姿勢位置とは、背凭れ部全体が、椅子昇降装置の昇降方向にほぼ平行に配置され、座部の座面がほぼ水平状態になった状態で椅子本体に人が移乗したのち、座部から脚をほぼ垂直に近い状態で垂らして足が足載置部に受けられるような姿勢を意味する。上記大腿が折り畳まれた姿勢とは、椅座位の状態に比べ、大腿と胸部とが近接する姿勢を意味し、負担を軽減する意味で、できるだけ椅座位の大腿と胸部との位置に近いことが好ましい。また、上記大腿が折り畳まれた姿勢にする方法としては、背骨のみを胸部が大腿に近づくように曲げる方法、大腿骨を、その関節を中心に胸部方向に持ち上げる方法、あるいは、背骨を曲げるとともに、大腿骨を、その関節を中心に胸部方向に持ち上げる方法のいずれでも構わない。
【0025】
上記のように、足載置部を選択的に入浴姿勢位置あるいは椅座位姿勢位置にする機構としては、特に限定されないが、例えば、足載置部支持アームの足載置部とは逆側の端部を座部の後端側、あるいは、背凭れ部の下端側に枢支し、足載置部支持アームを回動させる機構、足載置部支持アームの載置部とは逆側の端部を背凭れ部に沿うように設けるとともに、この背凭れ部に沿った部分を上下方向にスライド可能に背凭れ部に支持し、スライドによって足載置部を座部に対して離接させる機構や、これら2つの機構を組み合わせた機構などが挙げられる。
【0026】
本発明の入浴介護装置は、足載置部が入浴姿勢位置と椅座位姿勢位置の間を移動するように、足載置部支持アームを駆動させる足載置部支持アーム駆動機構を備えることが好ましい。すなわち、着座した人の足を膝が折り畳まれた状態にして浴槽の框を越えさせるようにする場合、介護者が脚を支えたりフットサポートを移動させたりする手間が省け、介護作業を簡素化することができる。
【0027】
また、上記足載置部支持アーム駆動機構としては、特に限定されないが、例えば、フットサポートに一端部が接続された索条体あるいは帯状体と、この索条体あるいは帯状体を巻き上げるあるいは引き上げる機構を有するものが挙げられる。なお、足載置部は、支持部との角度不変に設けられていてもよいし、角度変更可能に設けられていてもよい。
【0028】
本発明の入浴介護装置において、椅子は、座部の幅方向の両側にアームレストを有することが好ましい。
【0029】
上記アームレストは、特に限定されないが、アームレスト使用位置と、座部の幅方向から人が座部に乗り移る際に障害にならない退避位置を選択可能に設けられていることが好ましい。すなわち、アームレストを退避位置にしておけば、椅子が浴槽外にあるとき、座部に、車椅子等を横付けするなどすることによって、車椅子で運ばれてきた人が側方から座部に容易に乗り移ることができる。したがって、乗り移りを安全に行えるとともに、介護者による介護作業を容易にすることができる。
【0030】
そして、上記のような索条体あるいが帯状体を用いた足載置部支持アーム駆動機構を備えた入浴介護装置においては、例えば、このアームレストが、座部に着座した人を側方から支持するアームレスト本体を有し、このアームレスト本体は、一端側から他端側に向って内部に足載置部支持アーム駆動機構の索条体あるいは帯状体がスライド可能に挿通されている構成とすることが好ましい。すなわち、索条体あるいは帯状体がアームレスト本体内に挿通されるため、椅子に着座した人の体が索条体あるいは帯状体に接触することなく索条体あるいは帯状体をスムーズかつ安全に作動させることができる。
【0031】
なお、上記索条体としては、特に限定されないが、例えば、ワイヤロープ、樹脂製ロープ、チェーン等が挙げられる。帯状体としては、特に限定されないが、例えば、樹脂あるいは繊維強化樹脂製テープ、ゴムベルト、皮製ベルト、金属ベルト等が挙げられる。
【0032】
本発明の入浴介護装置は、上記足載置部支持アーム駆動手段が、下部背凭れ部回動手段を兼ねていても構わない。すなわち、動力装置が1つで済むため、装置を小型化できるとともに、低コスト化することができる。
【0033】
本発明の入浴介護装置は、下部背凭れ部が、座部とともに、上部背凭れ部にほぼ重ね合わされるまで跳ね上げ可能に枢支されていることが好ましい。すなわち、下部背凭れ部を座部とともに、上部背凭れ部にほぼ重ね合わせるまで跳ね上げるようにすれば、座部の浴槽側への突出長さを短くすることができるので、入浴介護を必要としない人が入浴する際には、座部が邪魔にならない。
【0034】
本発明の入浴介護装置は、椅子を昇降可能に支持する椅子昇降装置と、椅子昇降装置支持部を有し、前記椅子昇降装置支持部は、浴槽の框に支持される固定レール部と、前記椅子昇降装置を椅子とともに支持して、前記固定レール部に沿ってスライドし、前記椅子が浴槽内を臨む入浴位置と、浴槽外の移乗位置とを選択可能なスライド支持部を有し、前記スライド支持部は、前記固定レール部にスライド自在なスライド支持部本体と、このスライド支持部本体を支持し、スライド支持部本体のスライドに伴い、下端に設けられた車輪が、前記浴槽に隣接する洗い場床面上を転動する支持脚部を備えている構成としても良い。すなわち、椅子及び椅子昇降装置の荷重が、浴槽の框及び洗い場床面で受けられるので、入浴介護装置の装着時に、浴室の改造などが不要で施工コストが低減できる。
【0035】
本発明の入浴介護装置は、下部背凭れ部が、座部とともに、上部背凭れ部にほぼ重ねあわされるまで跳ね上げ可能に枢支されていることが好ましい。
【0036】
本発明の入浴介護装置は、上記のように、椅子昇降装置によって椅子を浴槽内に下降させて、人を椅子に着座させた状態で入浴させるようにした入浴介護装置であって、前記椅子は、背凭れ部が、上部背凭れ部と、枢支軸を介して前記上部背凭れ部に枢支され、前記枢支軸を中心に座部の前後方向に回動する下部背凭れ部を有し、前記上部背凭れ部が、前記椅子昇降装置の昇降軸に沿って昇降するように椅子昇降装置に支持されているので、既存の長手方向の寸法が短い小さな浴槽に入浴させる場合に用いたとしても、椅子に着座した人に窮屈な姿勢を取らせることなく、椅子に着座した状態で人を十分な深さまで入浴させることができる。
【0037】
すなわち、上記のように、背凭れ部が上部背凭れ部と下部背凭れ部に分かれていて、下部背凭れ部が、上部背凭れ部の下端に枢支軸を介して回動可能に枢支され、上部背凭れ部の姿勢は一定で、下部背凭れ部のみが枢支軸を中心に回動するようになっている。したがって、下部背凭れ部を座部の前方方向に回動させることによって、座部に着座した人の臀部が前方へ移動するとともに、持ち上がった状態にすることができるため、浴槽外から浴槽内に椅子を移動させる場合に大きく吊り上げる、あるいは、持ち上げる必要がない。しかも、下部背凭れ部のみが座部前方側に回動するだけであるので、椅子全体の座部前後方向の寸法があまり大きくならないので、長手寸法が短い浴槽にも人を着座させた状態で入槽させることができるとともに、着座した人が少し寝た状態となっているので、十分な深さまで入浴させることができる。
【0038】
また、本発明の入浴介護装置は、上記のように、椅子昇降装置によって椅子を浴槽内に下降させて、人を椅子に着座させた状態で入浴させるようにした入浴介護装置であって、前記椅子は、背凭れ部と座部を有する椅子本体と、フットサポートを備え、このフットサポートは、前記椅子本体に着座した人が足を載せる足載置部と、この足載置部を支持する足載置部支持アームを備え、この足載置部支持アームは、前記足載置部が椅子本体の座部前端に近接し、着座した人を膝が折り畳まれた姿勢に保持する入浴姿勢位置と、前記足載置部が入浴姿勢位置よりも前記座部に対して下方に位置する椅座位姿勢位置を選択可能に形成されているので、足載置部が入浴姿勢位置にあるとき、着座した人の足が足載置部によって持ち上げられて体が少し寝たような姿勢に保持できる。したがって、椅子に着座した状態で人を十分な深さまで入浴させることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、被介護者が十分な深さまで入浴することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】浴室に配置された本発明の第1実施形態に係る入浴介護装置の斜視図である。
図2図1の入浴介護装置の椅子の部分の斜視図である。
図3図1の入浴介護装置の平面図である。
図4図1の入浴介護装置の側面図である。
図5図1の入浴介護装置の椅子の足載置ユニットを入浴姿勢位置にする途中の状態を示す椅子の部分の側面図である。
図6図1の入浴介護装置の椅子の足載置ユニットを入浴姿勢位置にした状態を示す椅子の側面図である。
図7図1の入浴介護装置の昇降椅子ユニットの椅子を入浴姿勢にして、浴槽側にスライドした状態を、昇降椅子ユニットの背面側から見た斜視図である。
図8図7の昇降椅子ユニットの断面図である。
図9】椅子を浴槽内に下降させた状態をあらわす一部切欠斜視図である。
図10】椅子を折り畳んだ状態の側面図である。
図11】本発明の第2実施形態に係る入浴介護装置の椅子の斜視図である。
図12図11の椅子の足載置ユニットの背面図である。
図13図11の椅子の足載置ユニットの下部アームを上方にスライドさせる前の状態を側面側から見た図である。
図14図11の椅子の足載置ユニットの下部アームを上方にスライドさせた状態を側面から見た図である。
図15図11の椅子の足載置ユニットを座部に当たるまで回動させた状態を側面側から見た図である。
図16図11の椅子の入浴姿勢を側面側から見た図である。
図17】本発明の第3実施形態に係る入浴介護装置の動作を概略的に説明する平面図であって、同図(a)は椅子を浴槽に面するように上部に配置した状態、同図(b)は椅子を浴槽内に下降させた状態をあらわしている。
図18図17の入浴介護装置の動作を概略的に説明する側面図であって、同図(a)は椅子を浴槽に面するように上部に配置した状態、同図(b)は椅子を浴槽内に下降させた状態をあらわしている。
図19】本発明の第4実施形態に係る入浴介護装置の動作を概略的に説明する平面図であって、同図(a)は椅子を被介護者Mが着座可能な位置に配置した状態、同図(b)は椅子を浴槽に面するように上部に配置した状態、同図(c)は椅子を浴槽内に下降させた状態をあらわしている。
図20図19の入浴介護装置の動作を概略的に説明する側面図であって、同図(a)は椅子を被介護者Mが着座可能な位置に配置した状態、同図(b)は椅子を浴槽に面するように上部に配置した状態、同図(c)は椅子を浴槽内に下降させた状態をあらわしている。
図21】本発明の本実施形態5に係る入浴介護装置の側面図であり、同図(a)は入浴介護装置において椅子が浴槽の底部に接触している場合の側面図であり、同図(b)は、(a)の状態から椅子がケーシングに対してさらに傾斜している場合の側面図である。
図22図21のケーシング付近の断面図である。
図23図21の変形例を示す側面図であり、同図(a)は入浴介護装置において椅子が浴槽の底部に接触している場合の側面図であり、同図(b)は、(a)の状態から椅子がケーシングに対してさらに傾斜している場合の側面図である。
図24】本発明の変形例に係る入浴介護装置であり、同図(a)は変形例に係る入浴介護装置において椅子が浴槽の底部に接触している場合の側面図であり、同図(b)は、(a)の状態から椅子がケーシングに対してさらに傾斜している場合の側面図である。
図25】実施例の入浴状態を説明する図である。
図26】比較例の入浴状態を説明する図である。
図27】従来の入浴介護装置の斜視図である。
図28図27の装置の使用状態を概略的に説明する図であって、同図(a)は第1レール部と第2レール部を連結し、昇降椅子ユニットを第2レール部側に移動させる前の状態、同図(b)は昇降椅子ユニットを第2レール部側に移動させた状態、同図(c)は、椅子を浴槽内に下降させた状態をそれぞれ表している。
【発明を実施するための形態】
【0041】
<1.第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る入浴介護装置について、図1図9を参照しつつ説明する。図1は浴室に配置された第1実施形態に係る入浴介護装置の斜視図である。図2は、図1の入浴介護装置の椅子を示す斜視図である。図3は、図1の入浴介護装置の平面図である。図4は、図1の入浴介護装置の側面図である。図5は、図1の入浴介護装置の椅子の足載置ユニットを入浴姿勢位置にする途中の状態を示す椅子の部分の側面図である。図6は、図1の入浴介護装置の椅子の足載置ユニットを入浴姿勢位置にした状態を示す椅子の側面図である。図7は、図1の入浴介護装置の昇降椅子ユニットの椅子を入浴姿勢にして、浴槽側にスライドした状態を、昇降椅子ユニットの背面側から見た斜視図である。図8は、図7の昇降椅子ユニットの断面図である。図9は、椅子を浴槽内に下降させた状態をあらわす一部切欠斜視図である。以下では、図1のほか、各図に示す方向を基準に説明を行うこととする。但し、この向きによって、本発明が限定されるものではない。
【0042】
図1に示すように、この入浴介護装置Aは、利用者である被介護者Mが洗場から浴槽9へ入ったり、出たり、もしくは浴槽9で入浴するのを補助するためのものであり、椅子を昇降させる昇降椅子ユニット1と、この昇降椅子ユニット1を移動させるレールユニット2と、を備えている。以下、これら昇降椅子ユニット1及びレールユニット2について詳細に説明する。
【0043】
(1)昇降椅子ユニット1
図1に示すように、昇降椅子ユニット1は、被介護者Mが着座する椅子3aと、椅子3aを上下方向に昇降させる昇降装置3bとを備えている。
(1−1)椅子3a
図2に示すように、椅子3aは、背凭れ部4、座部5、フットサポート6a、一対のアームレスト7、及び支持アーム駆動機構8を備えている。
【0044】
(a)背凭れ部4
図1及び図2に示すように、背凭れ部4は、上部背凭れ部41と、その下方に配置される下部背凭れ部42と、上部背凭れ部41及び下部背凭れ部42を回転自在に連結する回転軸43と、を備えており、下部背凭れ部42には後述する座部5が一体的に連結されている。上部背凭れ部41は上下方向に延びる平面状に形成されており、主に被介護者Mの背中の上部を支持する。なお、上部背凭れ部41は、上部から下部に向かうにつれて、後ろから前にかけて傾斜していてもよい。この上部背凭れ部41には、図2及び図4等に示すように、その背面(後面)に椅子支持部材44が取り付けられている。椅子支持部材44は、昇降装置3bと接続され、昇降装置3bにより上下方向に移動する。これに伴い上部背凭れ部41を含む椅子3a全体が上下方向に移動する。これについては後述する。
【0045】
下部背凭れ部42は、上部背凭れ部41の下方に位置し、主に被介護者Mの背中の下部を支持するように平面状に形成されている。なお、下部背凭れ部42は、上部背凭れ部41に対して前方側にやや傾いた平面状に形成されていてもよい。そして、上部背凭れ部41の下端と、下部背凭れ部42の上端とが、水平方向に延びる回転軸43によって接続されている。これにより、下部背凭れ部42は、回転軸43周りに上部背凭れ部41に対して上下方向に回動する。下部背凭れ部42の回動は、ベルト支持バー63が上下することによって生じるが、これについては後述する。
【0046】
なお、下部背凭れ部42の下端(座部5の座面)から上端までの上下方向の長さは、特に限定されないが、仙骨上端から肩甲骨下角までの日本人の平均長さである20〜45cmが好ましい。すなわち、上下方向の長さが短すぎると、座部5に着座した被介護者Mの腰の位置で下部背凭れ部42が上部背凭れ部41に対して上方に回動する。そのため、下部背凭れ部42の上部背凭れ部41に対する上昇角度(屈曲角度)を大きくすると、座部5に着座した被介護者Mの腰に大きな負担がかかる。結果として、被介護者Mの負担を考慮すると、下部背凭れ部42を上部背凭れ部41に対して大きく上昇できない。よって、被介護者Mを寝かせた楽な姿勢で十分な深さまで入浴させることが難しい。その一方で、下部背凭れ部42の上下方向の長さが長すぎると、座部5に着座した被介護者Mの上体の曲がりにくい場所で下部背凭れ部42が上部背凭れ部41に対して上方に回動する。そのため、例えば被介護者Mの首に大きな負担がかかる。さらには、下部背凭れ部42の上下方向の長さが大きいため、下部背凭れ部42が上方に回動すると前方に長く突出し、長手方向の寸法が短い浴槽9には適さない。以上の観点から、下部背凭れ部42の長さを上記のように設定することが好ましい。
【0047】
(b)座部5
上記のように、座部5は下部背凭れ部42の下端側に連続し、下部背凭れ部42と一体的に形成されている。座部5は、平面状に形成され、下部背凭れ部42に対して屈曲するように前後方向に延びており、主に被介護者Mの臀部を支持する。座部5は下部背凭れ部42に連続しているため、下部背凭れ部42とともに回動する。また、上部背凭れ部41と下部背凭れ部42とが分離しつつも、上部背凭れ部41、下部背凭れ部42及び座部5が全体として連続的な面を形成することで、被介護者Mの背中から臀部が安定的に支持される。
【0048】
(c)フットサポート6a
フットサポート6aは、座部5の下方に配置されている。フットサポート6aは、被介護者Mの両足を載置可能な左右一対の平板状の足載置部62と、足載置部62を支持する支持アーム61と、ベルト支持バー63と、を備えている。
【0049】
図5に示すように、支持アーム61は棒状の部材であり、その上端部が下部背凭れ部42に固定されている。具体的には、下部背凭れ部42の背面中央付近に設けられ左右に延びるアーム枢支軸60に、支持アーム61の上端部が回動可能に取り付けられている。そして、この支持アーム61は、下部背凭れ部42の背面から座部の下方を通過し、座部5の前方まで延びている。すなわち、支持アーム61は、座部5が下部背凭れ部42に対して屈曲しているのと対応するように屈曲している。そして、支持アーム61の下端部には、両足載置部62が回転自在に連結されている。具体的には、水平方向に並ぶ矩形状の両足載置部62の間に、支持アーム61の下端部が回転自在に連結されている。
【0050】
支持アーム61の屈曲角度は、下部背凭れ部42と座部5との屈曲角度よりも大きい。これにより、下部背凭れ部42と支持アーム61とが重なり合った図5の側面視では、足支持アーム61は、前方にいくにしたがって、座部5よりも下方に向かうように屈曲している。
【0051】
ベルト支持バー63は、左右方向に延びる棒状の部材である。このベルト支持バー63は、図2図5等に示すように前後方向に延びる支持アーム61の屈曲部分の近傍に連結されている。また、このベルト支持バー63は後述するベルト82からの引っ張りに応じて上下する。そして、支持アーム61は、ベルト支持バー63が上下方向に移動するのに応じて、上述したアーム枢支軸60を回転中心として上下方向に回動する。
【0052】
(d)アームレスト7
アームレスト7は、椅子の左右にそれぞれ設けられるものであり、腕を載置可能に延びるアームレスト本体71と、このアームレスト本体71の基端部に一体的に設けられた本体枢支部72と、を備えている。アームレスト本体71は、被介護者Mが両腕を載置可能な幅及び長さを有している。そして、本体枢支部72は、上述した椅子3の回転軸43の両端部に回動可能に取り付けられている。また、本体枢支部72からアームレスト本体71の先端に亘っては、内部に空洞が形成されており、この空洞にベルト82が挿入される。空洞内でベルト(線状材)82がスムーズにスライドするように、例えばベルト82の本体枢支部72への挿入開始部分及びベルト82のアームレスト本体71からの送出部分(アームレスト本体の先端部)には、ガイドローラ(図示せず)が内部に設けられている。
【0053】
また、このアームレスト7は、本体枢支部72が回転軸43回りに回転することで、未使用時の退避位置と使用位置とを採りうるようになっている。すなわち、図4の二点鎖線に示すように、待避位置では、本体枢支部72が上部、アームレスト本体71が下部に配置されるように、概ね上下方向に延びて配置されている。このとき、アームレスト本体71は下部背凭れ部42に概ね平行になっている。一方、アームレスト7を使用位置にする場合には、図4の実線に示すように、本体枢支部72を回転軸43に対して回転し、アームレスト本体71が本体枢支部72から前方に延びる状態とする。なお、図示していないが、ロックピンなどのロック手段によって、使用位置又は退避位置においてアームレスト7を固定できる。
【0054】
(e)支持アーム駆動機構8
次に、支持アーム機構について説明する。この支持アーム機構8は、上述したベルト支持バー63を上下させるものである。図2に示すように、この支持アーム駆動機構8は、ハンガー部81と、ハンガー部昇降モータ(図示せず)と、左右一対のベルト82とを備えている。ハンガー部81は、上部背凭れ部41の背面に配置され、左右方向に延びる板状の部材であり、上述した左右のアームレスト本体71間の幅に対応して、上部背凭れ部41の左右方向からはみ出ている。そして、ハンガー部81の左右の両端部には、それぞれ、帯状のベルト82が連結されている。これらベルト82は、それぞれ、ハンガー部81の左右の両端部から、左右の本体枢支部72及びアームレスト本体71の内部の空洞に挿入される。そして、アームレスト本体71の先端から引き出されたベルト82は、ベルト支持バー63の両端部にそれぞれ接続される。ベルト82は、特に限定されないが、例えば、ポリエステル繊維等の樹脂あるいは繊維強化樹脂製テープ、ゴムベルト、皮製ベルト、金属ベルト等が挙げられる。
【0055】
図5に示すように、ハンガー部81は、上部背凭れ部41と椅子支持部材44との間に取り付けられており、ハンガー部昇降モータに接続されている。ハンガー部81は、ハンガー部昇降モータの駆動により、椅子支持部材44とともに上部背凭れ部41の背面に沿って上下方向に昇降する。ハンガー部81が上下方向に昇降すると、ベルト82を介してハンガー部81に接続されたベルト支持バー63も上下方向に昇降する。
【0056】
ベルト支持バー63が上昇すると、支持アーム61がアーム枢支軸60を中心に上方に揺動し、図5に示すように、支持アーム61のアーム枢支軸60からベルト支持バー63までの部分が下部背凭れ部42の背面に当接する。これにより、下部背凭れ部42及び座部5に対してベルト支持バー63が位置決めされ、座部5に対する足載置部62の位置が固定される。なお、図5に示すように、支持アーム61が下部背凭れ部42の背面に当接するのではなく、支持アーム61が座部5の背面に当接してもよく、さらには支持アーム61が下部背凭れ部42及び座部5の両方の背面に当接してもよい。
【0057】
ベルト支持バー63が図5の状態からさらに上方に引き上げられると、下部背凭れ部42の背面に当接している支持アーム61は下部背凭れ部42を上方に押し上げる。このとき、下部背凭れ部42は支持アーム61による下方からの力を受け、回転軸43を中心にして座部5とともに回動する。ここで、図4及び図5に示すように上部背凭れ部41の傾斜方向と下部背凭れ部42の傾斜方向とが概ね一致する状態、つまり、上部背凭れ部41の傾斜方向と下部背凭れ部42の傾斜方向との成す角が大きい状態(180度に近い状態)を第1状態とする。一方、上部背凭れ部41の傾斜方向と下部背凭れ部42の傾斜方向との成す角が小さくなった状態、つまり下部背凭れ部42が上部背凭れ部41に対して屈曲した図6の状態を第2状態とする。このように、ベルト支持バー63を上下することにより下部背凭れ部42が回動し、背凭れ部4の状態を少なくとも第1状態と第2状態との間で切り替えることができる。
【0058】
ベルト支持バー63の上下によって座部5及び下部背凭れ部42が回動するとともに、足載置部62は支持アーム61の先端部において回動する。例えば、図4図5、及び図6に示すように、座部5が上方に揺動すると、足載置部62は水平方向から上方に向けて徐々に傾斜する。これにより、背凭れ部4の状態に応じて足載置部62が傾斜するため、被介護者Mはより安定した状態で椅子3aに着座して足載置部62に足を載置可能である。また、例えば、椅子3aを浴槽9の上枠91を越えて移動させる場合、足載置部62を移動させる手間が省け、介護作業を簡素化することができる。
【0059】
(1−2)昇降装置3b
次に、昇降装置について説明する。図1等に示すように、昇降装置3bは、椅子3aを上下方向に昇降させるものであり、板状に形成され上下に延びるケーシング(装置本体)31と、このケーシング31を上下方向に貫通する台形ネジ33と、ケーシング31の前面に配置される一対のガイド軸35とを備えている。ケーシング31は、上部背凭れ部41の背面に対応して上下方向に延びており、内部に各種部材を収容可能な内部空間を有している。ケーシング31内に収容される各種部材としては、上述した台形ネジ33の他、図示していない、椅子昇降用モータ、ハンガー部昇降用モータ、バッテリー、制御機器などが挙げられる。各種モータは、例えばリモートコントローラ及び各種スイッチ等の操作により駆動可能である。
【0060】
台形ネジ33は、図8に示すように、ケーシング31内において上部背凭れ部41の上下方向の長さよりも長く上下方向に延びている。台形ネジ33には椅子昇降用モータ(図示省略)が接続されており、この椅子昇降用モータ(図示省略)を正逆回転させることによって台形ネジ33が正逆回転する。なお、台形ネジ33は、モータ故障時などに、ケーシング31外から手動で正逆回転できるような構造としてもよい。
【0061】
また、ケーシング31の上部背凭れ部41に面する側には、図1及び図9に示すように、上下方向に延びるスリット31aが概ね中央部分に形成されている。このスリット31aはケーシング31の内部空間に通じている。さらに、スリット31aの両側には、2本のガイド軸35が設けられている。このガイド軸35は、上部背凭れ部41の背面の椅子支持部材44に設けられたガイド孔またはガイド溝(図示せず)にスライド可能に嵌り込んでいる。これにより、椅子支持部材44は、ケーシング31に対して上下動可能となっている。また、上部背凭れ部41の背面に設けられた椅子支持部材44にはネジ部(図示省略)が設けられており、このネジ部はスリット31aに挿入されて、台形ネジ33と噛み合っている。これにより、台形ネジ33が回転すると、これに噛み合うネジ部とともに椅子支持部材44がガイド軸35に沿って上下する。こうして、椅子支持部材44を介して上部背凭れ部41が上下する。以上の構成により、椅子3a全体がガイド軸35に沿って左右への傾きが抑制されつつ上下方向に移動する。なお、椅子支持部材44のネジ部と台形ネジ33とが接続されているため、上部背凭れ部41の前後方向の動きは規制されている。なお、上記台形ねじ33、椅子昇降用モータ、ネジ部、ガイド軸35、ガイド溝などが、本発明の昇降機構に相当する。この点は、以下の実施形態においても同じである。
【0062】
(2)レールユニット2
次に、レールユニット2について説明する。図1図3等に示すように、レールユニット2は、浴槽9に固定される固定レール部2aと、この固定レール部2aにスライド可能に支持されるスライド支持部2bとを備えている。以下、各部材について詳細に説明する。
【0063】
(2−1)固定レール部2a
固定レール部2aは、レール部本体21と、このレール部本体の両端部にそれぞれ連結された一対のレール支持アーム25と、を備えている。図1に示すように、レール部本体21は、左右方向に延び、浴槽9の後側の上枠91上に位置するように、昇降椅子ユニット1の背面の浴室壁面Wに取り付けられている。また、図4及び図8に示すように、このレール部本体21は、一組のレールから構成されており、一組のレールが互いに間隔を空けて配置されている。そして、これらレールの間にスライド支持部2bがスライド可能に配置されている。また、レール部本体21の互いに対向する両レールの内壁には、多数のスライドローラ21aが互いに対面するように、左右方向に概ね等ピッチで取り付けられている。スライドローラ21aは、スライド支持部2bの移動に応じてその取り付け位置で回転し、スライド支持部2bの固定レール部2aに対するスライドを容易にする。
【0064】
レール支持アーム25は、板状に形成され、レール部本体21の両端から、このレール部本体21と直交するように、前方に延びるように形成されている。そして、これらレール支持アーム25は、浴槽9の左右の上枠91上に板状面が沿うように配置されており、レール部本体21にかかる荷重を浴槽9の上枠91で支持する。
【0065】
(2−2)スライド支持部2b
スライド支持部2bは、左右方向に延びるスライド支持本体22と、このスライド支持本体22に固定される可動レール部22aと、スライド支持本体22を支持する支持脚部23と、を備えている。スライド支持本体22は、図1図4及び図8に示すように、ケーシング31の下部に取り付けられ、上述したように固定レール部2aの対向するレール間に配置されている。スライド支持本体22の外側面は、レール部本体21の両レールに対向しており、この外側面には、上述した可動レール部22aが設けられている。この可動レール部22aは、レール部本体21のスライドローラ21aとスライド可能に噛み合って、ケーシング31を左右方向に移動可能に支持する。これにより、ケーシング31に固定された昇降椅子ユニット1もまた、スライド支持部2bによって左右方向に移動可能に支持されている。よって、昇降椅子ユニット1は、洗場床面WF側と、浴槽9側との間を左右方向に移動可能である。また、昇降椅子ユニット1は、洗場床面WF側及び浴槽9側それぞれにおいて、ロックピンなどのロック手段により固定されていてもよい。
【0066】
支持脚部23は、スライド支持本体22を支持するものである。したがって、スライド支持本体22に取り付けられている昇降椅子ユニット1も支持する。支持脚部23は、上下方向に延びる垂直部23aと、この垂直部の下端から水平に延びる水平部23bと、を備えている。そして、垂直部23aの上端は、連結部26を介して、例えばスライド支持本体22の左端部に、ネジを用いて固定されている。垂直部23aは、連結部26から下方に向かって、洗場床面WF付近まで延びている。そして、水平部23bは、垂直部23aの下端部から洗場床面WFに沿って前後方向に延びている。また、水平部23bの前後の両端部には、車輪24がそれぞれ取り付けられている。これら車輪24は、可動レール部22aが固定レール部2aに沿って移動する際に、洗場床面WF上で回転しつつ移動するようになっている。
【0067】
なお、連結部26のスライド支持本体22への取り付け位置を変更することで、洗場床面WFの広さに応じて浴槽9の外側面と車輪24との間の水平距離を調整可能である。
【0068】
(3)入浴介護装置Aの使用態様
次に、上述の入浴介護装置Aの使用態様について、図1図9を用いて説明する。
【0069】
まず、介護者は、スライド支持部2bを固定レール部2aの左端部から嵌め込み、図1図3及び図4等に示すように、昇降椅子ユニット1を浴槽9の外側(左側)に配置する。次に、上部背凭れ部41の傾斜方向と下部背凭れ部42の傾斜方向とが概ね一致する第1状態に調整する。そして、介護者はリモートコントローラ等を操作して昇降装置3bの椅子昇降用モータを作動させ、座部5を含む昇降椅子ユニット1の高さを、被介護者Mの体長等に応じて着座しやすい高さに調整する。
【0070】
次に、手動又は自動で、回転軸43を中心にアームレスト本体71を回動させて、図1から図2に示す状態となるように、アームレスト本体71を下方に向け退避位置に移動させる。これにより、介護者が被介護者Mを椅子3aに乗せる際にアームレスト本体71が邪魔にならない。介護者は、例えば、車椅子に乗せた被介護者Mを椅子3aに横付けし、被介護者Mを車椅子から椅子3aに移動する。なお、アームレスト本体71を使用位置に位置づけた状態で、被介護者Mを椅子3aの前方から椅子3aに乗せてもよい。
【0071】
こうして、被介護者Mが椅子3aに着座すると、手動又は自動で、回転軸43を中心にアームレスト本体71を回動させて、図1図3図4に示す使用位置に移動させる。
【0072】
続いて、介護者は、上記リモートコントローラ等を操作し、ハンガー部昇降モータを作動させて、椅子3aの姿勢を、図4から図5の姿勢を経て図6の姿勢、つまり入浴姿勢にする。具体的には、まず、図4の状態において、ハンガー部昇降モータを作動させて、ハンガー部81を上昇させ、ハンガー部81に連結されたベルト82を上方に引き上げる。このベルト82の引き上げにともなって、ベルト支持バー63が引き上げられ、支持アーム61がアーム枢支軸60を中心に回動する。この状態から、さらにベルト82が上方に引き上げられると、図5に示すように、支持アーム61の少なくとも一部が下部背凭れ部42の背面に当たり、座部5に対して足載置部62が位置決めされる。なお、足載置部62は、支持アーム61の回動と連動して回動している。図5では、足載置部62の載置面と水平方向とのなす角度は、例えば約10°である。
【0073】
その後、さらに、リモートコントローラ等を操作すると、ベルト支持バー63がさらに持ち上がる。これにより、下部背凭れ部42及び座部5に下方から上向きの成分を含む力が加わり、両者が一体となって、ベルト支持バー63に接続された支持アーム61に支持されながら回転軸43を中心に上方に回動し、図6の状態となる。このときの被介護者Mの状態は、図8の状態であり、被介護者Mの背骨の上部は、固定された上部背凭れ部41に支持される。一方、被介護者Mの背骨の下部、腰及び臀部が、上方かつ前方にスライドした下部背凭れ部42及び座部5に支持され、被介護者Mの体が少し寝たような入浴姿勢となる。このとき、図6に示すように、足載置部62の載置面と水平方向のなす角度は、例えば約40°である。
【0074】
なお、この図8の入浴姿勢で、椅子3aに着座した被介護者Mは、腰骨近傍の背骨と大腿骨とのなす角度があまり小さいと、窮屈に感じる。逆に、前述の角度が大きすぎると、足載置部62と座部5との距離が長くなる。そのため、長手寸法の短い浴槽9の場合、足先が浴槽9の内壁に当たる可能性がある。そこで、腰骨近傍の背骨と大腿骨とのなす角度が75°〜80°となるように、上部背凭れ部41に対して、下部背凭れ部42及び座部5を回動させるのが好ましい。より好ましくは、腰骨近傍の背骨と大腿骨とのなす角度が76°〜78°になるように調整する。
【0075】
次に、リモートコントローラ等をさらに操作して昇降装置3bの椅子昇降用モータを作動させる。これにより、洗場床面WF側において、座部5の下端が、上枠91及びレール支持アーム25よりも少し高い位置となるまで、椅子3aを上昇させる。この状態で、図7及び図8に示すように、昇降椅子ユニット1を洗場床面WFから浴槽9側へ右方向にスライドさせる。このとき、スライド支持本体22は、支持脚部23とともに、この支持脚部23に支持された状態で右側へ移動する。そして、椅子3aが浴槽9の上方に位置すると、昇降椅子ユニット1がスライドしないように、その位置にロックする。
【0076】
続いて、図9に示すように、介護者は、リモートコントローラ等を操作して椅子昇降用モータを作動させて、フットサポート6aの下端がほぼ浴槽9の底に着くまで椅子3aを下降させる。これにより、椅子3aに着座した被介護者Mを浴槽9内の湯に浸ける。
【0077】
入浴が終了すると、介護者は、リモートコントローラ等を操作して椅子昇降用モータを作動させて、図8に示すように、椅子3aを上昇させる。すなわち、椅子3aが上枠91及びレール支持アーム25よりも少し高い位置に上昇させる。次に、ロック手段を解除して、昇降椅子ユニット1を浴槽9の外に出るようにスライドさせ、洗場床面WF側に移動させる。この状態で、昇降椅子ユニット1をロック手段によって、洗場床面WF側の位置にロックする。その後、リモートコントローラ等を操作して、椅子昇降用モータを作動させて、椅子3aを下降させる。次に、アームレスト本体71を下方に押し下げて退避位置に位置づける。そして、介護者が車椅子を椅子3aに横付けし、被介護者Mを車椅子に移動する。
【0078】
この入浴介護装置Aを用いれば、立つことが困難であり、入浴を自力でできないような被介護者Mの入浴を介護できる。
【0079】
なお、この入浴介護装置Aは、介護に用いない場合、図10に示すようにコンパクトに収納できる。図10は、椅子を折り畳んだ状態の側面図である。図10では、回転軸43を中心として下部背凭れ部42及び座部5を上部背凭れ部41に重なるように持ち上げて保持する。このとき、アームレスト7もまた上部背凭れ部41側に近接するように収納する。
【0080】
この実施形態では、ベルト82の一端がベルト支持バー63に連結されているが、例えば、フットサポート6aを昇降させない場合は、ベルト82の一端をベルト支持バー63から取り外し、下部背凭れ部42もしくは座部5に連結すればよい。
【0081】
(4)特徴
(4−1)
入浴介護装置Aは、背凭れ部4が上部背凭れ部41及び下部背凭れ部42を備えており、上部背凭れ部41及び下部背凭れ部42は昇降装置3bによって、背凭れ部4全体として一体にケーシング31に沿って上下方向に移動する。しかし、上部背凭れ部41は、上下方向にのみ移動し、前後方向には回動せず固定されている。一方、下部背凭れ部42は、ケーシング31に沿って上下方向に移動するだけでなく、上部背凭れ部41下端の回転軸43周りに回動する。これにより、上部背凭れ部41から下部背凭れ部42に至る上面が上下方向に延びる第1状態(図4等)から、上部背凭れ部41と下部背凭れ部42とが屈曲した第2状態へと移行する(図6等)。
【0082】
つまり、下部背凭れ部42が上方に向かってやや折れ曲がり、下部背凭れ部の上面が、洗場床面WFの平面方向に沿う方向に近づく。よって、上部背凭れ部41、下部背凭れ部42、及び座部5に着座している被介護者Mの姿勢が、上下方向に沿う方向から少し寝たような入浴姿勢となる。このような入浴姿勢で浴槽9内に被介護者Mを浸けることで、浴槽9の水面が低い場合であっても、被介護者Mの体の全部又は大部分を浴槽9内のお湯に浸けることができる。
【0083】
このとき、回転軸43を中心に下部背凭れ部42を上方に回動すると、一体に形成された座部5も下部背凭れ部42に対して同じ角度を持った状態で回動して上方に持ち上げられる。したがって、座部5に着座した被介護者Mは、腰の部分が安定した姿勢を保ちながら、足先側が上方にスムーズに持ち上げられる。
【0084】
(4−2)
上記実施形態の入浴介護装置Aでは、被介護者Mを入浴姿勢にする場合に、背凭れ部4のうち、下部背凭れ部42及び座部5が、上部背凭れ部41に対して折れ曲がり、座部5の前端部が前方に移動する。このとき、上部背凭れ部41は前方に動かないため、着座している被介護者Mが、前方に行き過ぎることがない。つまり、上部背凭れ部41及び下部背凭れ部42の両方が前方に寝るように突出する場合に比べて、座部5及び足載置部62の位置が前方に大きく突出するのを抑制できる。そのため、長手方向の寸法が短い浴槽9においても、足載置部62に載せた被介護者Mの足先が浴槽9の先端の内壁に当たるのを抑制できる。
【0085】
(4−3)
上記実施形態では、ハンガー部昇降モータの駆動によって、下部背凭れ部42及び座部5を上部背凭れ部41に対して回動させつつ、さらに足載置部62を上下方向に回動させている。よって、下部背凭れ部42及び座部5の回動手段と、足載置部62の回動手段とを別々に設ける必要が無く、コストダウンを図ることができる。
【0086】
(4−4)
ハンガー部昇降モータの駆動によってベルト支持バー63がベルト82により引き上げられ、支持アーム61が下部背凭れ部42の背面に当たる。これにより、下部背凭れ部42及び座部5に対してベルト支持バー63が位置決めされ、座部5に対する足載置部62の位置が固定される。よって、椅子3aに着座した被介護者Mは、安定した状態で少し寝たような入浴姿勢を維持しつつ入浴できる。
【0087】
(4−5)
アームレスト7の位置として、使用位置と退避位置とを選択できる。被介護者Mを椅子3aに載せる場合には、アームレスト本体71を退避位置することができる。これにより、椅子3aの座部5の側方に障害物がなくなり、座部5の側方から被介護者Mを乗せやすくなる。例えば、車椅子などを座部5に横付けした場合に、被介護者Mの車椅子から椅子3aの座部5への移動を容易かつ安全に行え、被介護者M及び介護者の負担を軽減できる。
【0088】
(4−6)
ベルト82は、アームレスト本体71の内部を通って背凭れ部4の背面側に導かれており、ベルト82の露出面積が少ない。よって、多数の部材が露出して煩雑に見える場合に比べて見栄えがよい。また、ベルト82が、椅子3aに着座した被介護者Mに触れて怪我をするのを抑制でき、安全性に優れている。
【0089】
(4−7)
図10に示すように、椅子3aが、下部背凭れ部42、座部5、フットサポート6a、及びアームレスト7を、上部背凭れ部41に近づけるように上側にコンパクトに畳み込むことができる。よって、介護を必要としない人が入浴する場合、椅子3aが入浴の邪魔にならない。したがって、介護の必要な人以外の人も居住する一般家庭での使い勝手にも優れている。
【0090】
(4−8)
上記実施形態の入浴介護装置Aでは、昇降装置3bによって、椅子3aに着座した被介護者Mの上下が可能である。よって、吊り上げリフト等の昇降機構を浴槽9及びその近傍等に設ける必要がない。したがって、天井の高さが低い等の浴室BRの広さが狭い一般家庭及び小さな介護施設等でも、既存の浴室BRを利用して入浴の介護ができる。
【0091】
<2.第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る入浴介護装置Bの構成について図11図13を用いて説明する。図11は、本発明の第2実施形態に係る入浴介護装置の椅子の斜視図である。図12は、図11の椅子の足載置ユニットの背面図である。図13は、図11の椅子の足載置ユニットの下部アームを上方にスライドさせる前の状態を側面側から見た図である。第2実施形態に係る入浴介護装置Bでは、基本的に、椅子3c及び牽引ワイヤ83に関連する構造のみが第1実施形態と相違している。したがって、以下では、主として、第1実施形態と相違する構成について説明し、第1実施形態と同じ構成については同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0092】
(1)入浴介護装置Bの構成
図11図13に示すように、本実施形態に係るフットサポート6bは、上部アーム65と、下部アーム64と、足載置部62とを備えている。図12に示すように、上部アーム65は、左右方向に延びる板状に形成されている。上部アーム65は、下部背凭れ部42の背面において回動可能に取り付けられている。また、上部アーム65の左右の両端部には、上下方向に延びる筒状のスライド孔65aが形成されている。
【0093】
図12及び図13に示すように、下部アーム64は、上部アーム65の下方に設けられている。具体的には、下部アーム64は、下部アーム本体64aと、一対の棒状のスライドバー64bと、一対の牽引ワイヤ支持バー64cとを備えている。図11に示すように、下部アーム本体64aは、左右方向に延びる板状の第1部分64a1と、この第1部分64a1の左右の両端部からそれぞれ上方に延びる一対の第2部分64a2と、第1部分64a1の中央から前方斜め下方に延びる第3部分64a3とを有しており、これら第1〜第3部分64a1〜64a3は一体的に形成されている。上述した一対のスライドバー64bの下端部は、第2部分64a2にそれぞれに固定されている。そして、これら一対のスライドバー64bの上端部は、上述した上部アーム65のスライド孔65aにそれぞれスライド可能に挿入されている。なお、スライドバー64bは、その上端部にスライド孔65aから抜け落ちないようにストッパ(図示せず)が設けられている。この構成によって、上記ストッパと第2部分64a2との距離により、スライドバー64bのスライド距離が定義されている。また、第3部分64a3には、足載置部62が連結されている。
【0094】
一対の牽引ワイヤ支持バー64cは、それぞれ、下部アーム本体64aの第1部分64a1の左右の両端部から突出するように連結されている。また、各牽引ワイヤ支持バー64cの端部には、牽引ワイヤ(線状材)83が、それぞれ接続されている。牽引ワイヤ83は、第1実施形態のベルト82と同様の機能を有しており、ベルト82と同様にアームレスト本体71内に挿入され、電動モータ(図示せず)の駆動力で正逆回転可能な巻取りローラ(図示せず)に接続されている。よって、巻取りローラの駆動によって牽引ワイヤ83が巻取り又は繰り出しされると、牽引ワイヤ83に接続された牽引ワイヤ支持バー64cも上下方向に昇降する。なお、牽引ワイヤ83は、特に限定されないが、例えば、ワイヤロープ、樹脂製ロープ、チェーン等の線状材が挙げられる。また、牽引ワイヤ83は、第1実施形態のベルト82であってもよい。
【0095】
(2)入浴介護装置Bの使用態様
次に、入浴介護装置Bの使用態様について、図11図13に加えて、さらに図14図16を用いて説明する。図14は、図11の椅子の足載置ユニットの下部アームを上方にスライドさせた状態を側面から見た図である。図15は、図11の椅子の足載置ユニットを座部に当たるまで回動させた状態を側面側から見た図である。図16は、図11の椅子の入浴姿勢を側面側から見た図である。
【0096】
被介護者Mを椅子3cに着座させるまでの手順は上記第1実施形態と概ね同様である。つまり、被介護者Mを椅子3cに乗せる場合には、リモートコントローラ等により巻き取りローラを回転させて牽引ワイヤ83を送りだす。このとき、牽引ワイヤ83に接続された一対の牽引ワイヤ支持バー64cが下降し、これに伴って一対の牽引ワイヤ支持バー64cに接続された下部アーム本体64aも下降する。これにより、下部アーム本体64aに連結されているスライドバー64bがストッパに当接するまで下降し、足載置部62が下降する。
【0097】
そして、被介護者Mを図13に示すように椅子3cに着座させて、アームレスト本体71を回動させて使用位置に位置づける。次に、巻き取りローラを回転させて牽引ワイヤ83を徐々に巻き取り、下部アーム本体64aを上方に持ち上げる。このとき、牽引ワイヤ83を巻き取っていくと、図13及び図14に示すように、スライドバー64bが上部アーム65のスライド孔65a内に収容されるように上方にスライドする。そして、下部アーム本体64aが上部アーム65に当接すると、スライドバー64bのスライド孔65aへの挿入が完了する。足載置部62は、スライドバー64bが上昇するのに伴って、スライドバー64bのスライド方向と概ね平行に上昇する。
【0098】
その後、更なる牽引ワイヤ83からの引っ張りに応じて、図15に示すように、下部アーム本体64aが上方に引き上げられる。このとき、下部アーム本体64aが上方に引き上げられるのに応じて、上部アーム65が下部背凭れ部42の背面において回動する。これにより、下部アーム本体64aは下部背凭れ部42及び座部5の少なくともいずれかの背面に当接する。このとき、下部アーム本体64aの上昇に応じて足載置部62も上昇する。
【0099】
さらに、牽引ワイヤ83を巻き取ると、図16に示すように、下部アーム本体64aが上昇し、下部背凭れ部42及び座部5は、下部アーム本体64aによって背面から押し上げられる。これにより、下部背凭れ部42及び座部5は、上部背凭れ部41に対して上方に回動する。その結果、下部背凭れ部42及び座部5が上部背凭れ部41に対して屈曲し、椅子3cに着座している被介護者Mの体が少し寝たような入浴姿勢となる。
【0100】
上記実施形態では、牽引ワイヤ83の一端が牽引ワイヤ支持バー64に連結されているが、例えば、フットサポート6bを昇降させない場合は、牽引ワイヤ83の一端を、牽引ワイヤ支持バー64から取り外し、下部背凭れ部42もしくは座部5に連結すればよい。
【0101】
(3)特徴
上記入浴介護装置Bの椅子3cでは、フットサポート6bが上部アーム65と、下部アーム64、足載置部62とにより構成されている。特に、牽引ワイヤ83が巻き取られると、下部アーム64のスライドバー64bが上部アーム65のスライド孔65aに沿ってスライドする。これに応じて、足載置部62は、スライドバー64bがスライド孔65aの延びる方向と概ね平行に上昇する。これは、スライドバー64bがスライド孔65aに沿って上昇することで、足載置部62が、座部5の前方への移動するのが規制されるからである。これにより、図16の入浴姿勢において、足載置部62を座部5の先端に近い位置に配置できる。その結果、入浴姿勢時の椅子3cの前後方向の長さを十分に小さくでき、長手方向の寸法が短い浴槽9においても椅子3cを利用できる。
【0102】
さらに、図14の着座している状態においても、被介護者Mが椅子3cに安定して着座することができるような、座部5の先端部のほぼ直下に足載置部62を配置できる。つまり、牽引ワイヤ83が繰り出されると、牽引ワイヤ支持バー64cは、スライドバー64bがスライド孔65aに沿ってスライドする方向と概ね平行に下降する。ここで、足載置部62は、牽引ワイヤ支持バー64cが取り付けられた下部アーム本体64aに接続されている。よって、足載置部62は、スライドバー64bがスライド孔65aに沿ってスライドする方向と概ね平行に下降する。そのため、足載置部62を座部5の先端ほぼ直下に配置できる。つまり、足載置部62は、座部5の下部先端よりも前方の離れた位置に配置されず、あるいは、座部5の先端よりも後方の位置に配置されない。これにより、被介護者Mは座部5に近い位置の足載置部62に足を載置でき、安定して着座することができる。
【0103】
このように本実施形態では、スライドバー64bがスライド孔65aに沿ってスライドする機構を有しているため、被介護者Mを入浴位置にした状態でも、椅子3cに着座させた状態でも安定な状態に維持できる。
【0104】
<3.第3実施形態>
次に、第3実施形態に係る入浴介護装置Cの構成について図17及び図18を用いて説明する。図17は、本発明の第3実施形態に係る入浴介護装置Cの動作を概略的に説明する平面図であって、同図(a)は椅子を浴槽に面するように上部に配置した状態、同図(b)は椅子を浴槽内に下降させた状態をあらわしている。図18は、図17の入浴介護装置Cの動作を概略的に説明する側面図であって、同図(a)は椅子を浴槽に面するように上部に配置した状態、同図(b)は椅子を浴槽内に下降させた状態を表している。第1実施形態と同様の構成部分については同様の符号を付しており、以下では、主として第1実施形態の入浴介護装置Aと異なる部分について説明する。
【0105】
(1)入浴介護装置Cの構成
図17及び図18に示すように、本実施形態に係る入浴介護装置Cの椅子3dは、上記第1実施形態の椅子3aと同様の背凭れ部4と、座部5とを備えている。つまり、背凭れ部4は、上部背凭れ部41と、下部背凭れ部42と、回転軸43とを備えている。しかし、第1実施形態と異なり、本実施形態の入浴介護装置Cは、下部背凭れ部42を前方に付勢するバネ(図示省略)と、このバネの付勢を規制するバネロック手段(図示省略)とを備えている。そして、バネの付勢を規制するバネロック手段が解除されると、下部背凭れ部42と座部5とに上向きの力が加わり、下部背凭れ部42は、回転軸43を中心として上部背凭れ部41に対して上方に回動し、これに伴い座部5も上方に回動する。
【0106】
バネロック手段は、図17(a)及び図18(a)に示す被介護者Mが普通に着座する位置と、図17(b)及び図18(b)に示す被介護者Mの体が少し寝たような入浴位置と、をそれぞれ固定する。バネの設置位置としては、下部背凭れ部42を前方に付勢できる限り、特には限定されないが、例えば回転軸43に隣接した位置及び下部背凭れ部42の背面等に設けることができる。また、バネロック手段の位置もバネによる下部背凭れ部42の移動を規制できればよく、バネの近傍及び下部背凭れ部42に隣接した位置に設けることができる。
【0107】
(2)入浴介護装置Cの使用態様
次に、上述の入浴介護装置Cの使用態様について、再び図17及び図18を用いて説明する。まず、椅子3dを図17(a)及び図18(a)に示すように、被介護者Mが着座しやすい位置に配置し、被介護者Mを椅子3dに着座させる。このとき、下部背凭れ部42はバネロック手段によって前方への付勢が規制されている。
【0108】
次に、バネロック手段を解除することでバネの付勢力によって上向きの力が加わり、下部背凭れ部42を座部5とともに前方に移動させる。これにより、図17(b)及び図18(b)に示すように、下部背凭れ部42を回転軸43周りに、上部背凭れ部41に対して上方に回動する。このとき、座部5もまた下部背凭れ部42とともに上方に回動する。そして、バネロック手段でロックすることで、上部背凭れ部41に対する下部背凭れ部42及び座部5の位置を固定し、椅子3dを入浴姿勢にする。続いて、リモートコントローラ等を用いて昇降装置3bを作動させ、図17(b)及び図18(b)に示すように、座部5が浴槽9の概ね底面に接するまで椅子3dを下降させる。
【0109】
入浴が終了すると、昇降装置3bを作動させて、椅子3dを上昇させる。次に、介護者は、バネロック手段を外して、バネの付勢力に抗して座部5を下方に押圧しつつ、下部背凭れ部42を回転軸43周りに下方へ回動させる。こうして、背凭れ部4及び座部5を図17(a)及び図18(a)に示す状態に戻すと、バネロック手段でロックする。その後、介護者は椅子3dに座った被介護者Mをサポートしながら、洗場床面WF側の車椅子などに移動させる。
【0110】
(3)特徴
上記入浴介護装置Cでは、これまでの実施形態と同様に、下部背凭れ部42及び座部5を上部背凭れ部41に対して回動するが、この機構がバネ及びバネロック手段という簡素な構成であり、部品点数を抑えて入浴介護装置Cを低コスト化できる。なお、バネなどの付勢手段に代えて、電動モータなどの動力を用いて下部背凭れ部42を回動させるようにしてもよい。例えば、下部背凭れ部42の背面に電動モータなどの動力手段を設け、動力手段を動作させて下部背凭れ部42及び座部5を移動させてもよい。
【0111】
<4.第4実施形態>
次に、第4実施形態に係る入浴介護装置Dの構成について図19及び図20を用いて説明する。図19は、本発明の第4実施形態に係る入浴介護装置の動作を概略的に説明する平面図であって、同図(a)は椅子を被介護者Mが着座可能な位置に配置した状態、同図(b)は椅子を浴槽に面するように上部に配置した状態、同図(c)は椅子を浴槽内に下降させた状態をあらわしている。図20は、図19の入浴介護装置の動作を概略的に説明する側面図であって、同図(a)は椅子を被介護者Mが着座可能な位置に配置した状態、同図(b)は椅子を浴槽に面するように上部に配置した状態、同図(c)は椅子を浴槽内に下降させた状態をあらわしている。第1実施形態と同様の構成部分については同様の符号を付しており、以下では、主として第1実施形態の入浴介護装置Aと異なる部分について説明する。
【0112】
(1)入浴介護装置Dの構成
図19及び図20に示すように、本実施形態に係る入浴介護装置Dでは、椅子3eが、椅子本体36と、昇降装置取り付け部37と、これらを接続するヒンジ38とを備えている。そして、椅子本体36は、背凭れ部4及び座部5を備えている。背凭れ部4は、上記各実施形態と同様に、上部背凭れ部41と、下部背凭れ部42と、回転軸43とを備えている。上部背凭れ部41は、ヒンジ38を介して昇降装置取り付け部37に取り付けられており、水平方向に回動可能である。すなわち、椅子3eの水平方向の向きを変えることができる。また、ヒンジ38を介した上部背凭れ部41の回動は、回動ロック手段(図示せず)によって固定可能である。
【0113】
昇降装置取り付け部37は、椅子本体36の上部背凭れ部41と、昇降装置3bの台形ネジ33とを接続している。したがって、椅子3eは、昇降装置3bの駆動、つまり台形ネジ33の回動により上下方向に昇降する。本実施形態の入浴介護装置Dは、上述した入浴介護装置Cと同様に、下部背凭れ部42を前方に付勢するバネ(図示省略)と、このバネの付勢を規制するバネロック手段(図示省略)とを備えている。そして、下部背凭れ部42は、バネの付勢を規制するバネロック手段が解除されると上向きの力が加わり、回転軸43を中心として上部背凭れ部41に対して上方に回動し、これに伴い座部5も上方に回動する。上述の入浴介護装置Cと同様に、バネ及びバネロック手段は多様な位置に設置可能である。
【0114】
(2)入浴介護装置Dの使用態様
次に、上述の入浴介護装置Dの使用態様について、再び図19及び図20を用いて説明する。まず、回動ロック手段を解除し、ヒンジ38を介して上部背凭れ部41を昇降装置取り付け部37に対して回動させ、図19(a)及び図20(a)に示すように、椅子3eを浴槽9の外側、つまり洗場床面WF(右側)に向くように椅子本体36を配置する。このとき、上部背凭れ部41及び下部背凭れ部42の概ね同一平面に並ぶ第1状態に位置づけられ、下部背凭れ部42はバネロック手段によって座部5側への付勢が規制されている。この状態で、浴室まで車椅子等で運ばれてきた被介護者Mを介護者が椅子本体36に着座させる。
【0115】
次に、回動ロック手段を解除し、図19(b)及び図20(b)に示すように、前面視において上部背凭れ部41が昇降装置取り付け部37に重なり合うまで椅子本体36を回動させ、椅子3eを浴槽9内に面する位置に配置する。つまり、椅子3eに着座した被介護者が前方を向くようにする。この状態で回動ロック手段により、椅子本体36の回動をロックする。そして、バネロック手段を解除して、図19(c)及び図20(c)に示すように、バネの付勢力によって上向きの力が加わり、下部背凭れ部42を座部5とともに前方に移動させる。これにより、下部背凭れ部42を回転軸43周りに、上部背凭れ部41に対して回動する。座部5もまた下部背凭れ部42とともに回動する。そしてバネロック手段でロックすることで、上部背凭れ部41に対する下部背凭れ部42及び座部5の位置を固定し、椅子3eを入浴姿勢にする。これにより、椅子3eに着座している被介護者Mの体が少し寝たような入浴姿勢となる。そして、昇降装置3bを作動させて、図19(c)及び図20(c)に示すように、座部5がほぼ浴槽9の概ね底面に接するまで椅子3eを下降させる。
【0116】
入浴が終了すると、昇降装置3bを作動させて、椅子本体36を上昇させる。次に、介護者は、バネロック手段を外して、バネの付勢力に抗して座部5を下方に押圧しつつ、図19(b)及び図20(b)に示す状態に戻すと、バネロック手段でロックする。次に、介護者は、回動ロック手段を解除する。そして、介護者は、着座した被介護者Mの脚部を上枠91の上にくるように支えながら、図19(a)及び図20(a)に示すように、椅子3eを洗場床面WF側を向くように回動させる。椅子3eが洗場床面WF側を向くと、介護者は回動ロック手段で椅子3eを固定する。その後、介護者は、椅子3eに座った被介護者Mをサポートしながら、洗場床面WF側の車椅子などに移動させる。
【0117】
(3)特徴
上記入浴介護装置Dでは、下部背凭れ部42及び座部5の移動のための機構がバネ及びロック手段という簡素な構成であり、部品点数を抑えて低コスト化できる。また、椅子3eは洗場床面WF側に面するように回動できるため、車椅子などから被介護者Mを容易に移動させることができる。なお、バネなどの付勢手段に代えて、電動モータなどの動力を用いて上向き成分を含む力を加えて下部背凭れ部42を回動させるようにしてもよいし、椅子本体36の回動も電動モータなどの動力を用いて行うようにしてもよい。
【0118】
<5.第5実施形態>
以下に、本実施形態5に係る入浴介護装置Eの構成について図21を用いて説明する。図21は、本発明の本実施形態5に係る入浴介護装置の側面図であり、同図(a)は入浴介護装置において椅子が浴槽の底部に接触している場合の側面図であり、同図(b)は、(a)の状態から椅子がケーシングに対してさらに傾斜している場合の側面図である。図22はケーシングと椅子の結合状態を示す断面図である。第1実施形態と同様の構成部分については同様の符号を付しており、以下では、主として第1実施形態の入浴介護装置Aと異なる部分について説明する。なお、図21では、フットサポート及びアームレストは省略している。
【0119】
(1)入浴介護装置Eの構成及び使用態様
第5実施形態に係る入浴介護装置Eの椅子3fは、上記各実施形態と同様に、背凭れ部4と座部5とを備えている。背凭れ部4は、上部背凭れ部41と、下部背凭れ部42と、上部背凭れ部41及び下部背凭れ部42を回転可能に連結する回転軸43と、を備えている。また、座部5は、下部背凭れ部42の下部に一体的に設けられている。
【0120】
本実施形態においては、椅子3fの上下動の機構が上記各実施形態と相違しているため、この点について説明する。すなわち、本実施形態では。ケーシング310に対し、板状の移動部材320が上下動可能に設けられ、この移動部材320に対して椅子3fが取り付けられている。この点について、詳細に説明する。
【0121】
まず、図21に示すように、ケーシング310の前面311は傾斜面となっており、下方にいくにしたがって前方に延びるように形成されている。そして、図22に示すように、ケーシング310の前面311の両側には、上下方向に延びる板状のブラケット312が設けられており、各ブラケット312の上下の端部には、それぞれローラ313が回転可能に取り付けられている。具体的には、各ブラケット312の左右の外面には左右方向に延びる軸314が2つずつ設けられ、これら軸314にそれぞれローラ313が回転可能に取り付けられている。
【0122】
一方、移動部材320は、矩形の板状に形成された本体部321と、この本体部321の両側縁に一体的に取り付けられた断面L字型の一対のガイド部322とを備えている。そして、本体部321とガイド部322との間に形成される溝に、上述したローラ313が係合している。これにより、移動部材320は、ローラ313をガイドとして上下動可能となっている。また、図示を省略するが、本体部321においてケーシング310側を向く面には上下方向に延びるラックが取り付けられており、このラックには、同じく図示を省略するが、ケーシング310に設けられたピニオンが噛み合っている。ピニオンは、上述した椅子昇降用モータにより回転駆動するようになっており、ピニオンの回転により移動部材320が椅子3fとともに上下動するようになっている。このとき、ケーシング310の前面311は傾斜面となっているため、移動部材320はこの傾斜面に沿って斜め方向に上下動するようになっている。すなわち、下降する場合には、移動部材320及び椅子3fはやや前方に移動する。
【0123】
そして、本実施形態では、背凭れ部4のうち、上部背凭れ部41の背面が移動部材320の前面に固定されており、下部背凭れ部42の背面は移動部材320の前面に当接している。したがって、下部背凭れ部42は、上部背凭れ部41とともに移動部材320に合わせて傾斜して配置されている。また、下部背凭れ部42は、上部背凭れ部41に対して前方へは回転するが、移動部材320に当接しているため、後方への回転が規制されている。
【0124】
ところで、上記各実施形態では、下部背凭れ部42の回転軸43を中心とする回動は、足用駆動機構8がベルト支持バー63を上下することによって生じる。しかし、本実施形態に係る入浴介護装置Eでは、下部背凭れ部42の回動は、椅子3fと浴槽9の底面9aとの接触によって生じる。つまり、移動部材が下降して座部5が浴槽9の底面9aに押し付けられると、その反力を受けて、下部背凭れ部42は座部5とともに上部背凭れ部41に対して上方に回動する。一方、移動部材320が上昇すると、座部5が浴槽9の底面9aから離れるのに応じて、座部5とともに下部背凭れ部42が上部背凭れ部41に対して下方に回動する。
【0125】
具体的には、次の通りである。まず、図21の(a)に示すように、椅子昇降用モータを駆動し、座部5の背面が浴槽9の底面9aに接触するまで、椅子3fを下降させる。そして、図21の(b)に示すように、椅子3fをさらに下降させる。これにより、座部5が浴槽9の底面9aに押し付けられて反力を受け、図21の(b)に示すように、下部背凭れ部42及び座部5は、移動部材320から離れ、回転軸43を中心に上部背凭れ部41に対して屈曲するように回動する。そして、椅子3fをさらに下降させると、下部背凭れ部42及び座部5がさらに回動するとともに、座部5が浴槽9の底面9aを滑るように前方に移動する。これにより、椅子3fに着座している被介護者Mの体が少し寝たような入浴姿勢となり、被介護者Mの体の全部又は大部分を浴槽9内のお湯に浸けることができる。
【0126】
これとは逆に図21の(b)から図21の(a)の順に椅子3fを上昇させると、下部背凭れ部42及び座部5が上部背凭れ部41に対して下方に回動する。そして、下部背凭れ部42が移動部材に当接するまで回動すると、その後は、上部背凭れ部41と下部背凭れ部42とがほぼ傾斜面に沿った状態のまま浴槽の上枠91を超える位置まで上昇する。
【0127】
なお、図21に示す入浴介護装置Eは多様に変形可能である。例えば、座部が浴槽9の底部で滑りやすくするため、摩擦の少ない材料を配置することができる。あるいは、図23に示すように変形可能である。図23図21の変形例を示す側面図であり、図23(a)は入浴介護装置において椅子が浴槽の底部に接触している場合の側面図であり、図23(b)は、図23(a)の状態から椅子がケーシングに対してさらに傾斜している場合の側面図である。
【0128】
図23に示すように、入浴介護装置Eは、図21の構成に加えて、座部5の先端に設けられ、下方に延びるローラ支持部51と、このローラ支持部51の下端部に回転自在に取り付けられたローラ52とを備えている。
【0129】
図23の(a)に示すように、椅子3fを下降させ、ローラ52が浴槽9の底面9aに接触した後、さらに椅子3fを下降させると、ローラ52が浴槽9の底面9aに押し付けられて反力を受け、図23の(b)に示すように、下部背凭れ部42及び座部5は、回転軸43を中心に上部背凭れ部41に対して上方に回動する。このような構成により、座部5は浴槽9の底面9aを滑りやすくなり、下部背凭れ部42及び座部5を、上部背凭れ部41に対してスムーズに回動させることができる。
【0130】
(2)特徴
上記入浴介護装置Eでは、座部5が浴槽9の底面9aを滑ることで、下部背凭れ部42及び座部5は、回転軸43を中心に上方に回動する。よって、回転軸43という簡素な構成で下部背凭れ部42及び座部5の大部分の上面を、浴槽9の底面9aに平行な水平方向に沿う方向に近づけることができる。また、座部5の下面が浴槽9の底面9aに接触した位置から、さらに椅子3fを下降させることができるため、被介護者Mの体の全部又は大部分を浴槽9内のお湯に十分に浸けることができる。
【0131】
<6.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0132】
<6−1>
上記実施形態では、背凭れ部4は、上部背凭れ部41及び下部背凭れ部42の2つの部材から構成されている。しかし、背凭れ部4は一体的に形成されていてもよい。
【0133】
以下に、本変形例に係る入浴介護装置Fの構成について図24を用いて説明する。図24は、本発明の変形例に係る入浴介護装置であり、同図(a)は変形例に係る入浴介護装置において椅子が浴槽の底部に接触している場合の側面図であり、同図(b)は、(a)の状態から椅子がケーシングに対してさらに傾斜している場合の側面図である。本変形例に係る入浴介護装置Fでは、椅子3gが一体的に形成されており、椅子3g全体が移動部材320に対して傾斜する。第1実施形態と同様の構成部分については同様の符号を付しており、以下では、主に第1実施形態の入浴介護装置Aと異なる部分について説明する。なお、図24では、足載置ユニット及び腕載置ユニットは省略している。
【0134】
図24に示すように、入浴介護装置Fの椅子3gの背凭れ部4は、上部背凭れ部と下部背凭れ部とに分離されておらず、座部5を含めて一体的に形成されている。
【0135】
そして、背凭れ部4の上部の背面に、左右方向に延びる回転軸45が設けられ、背凭れ部4はこの回転軸45を介して移動部材320に固定されている。したがって、この椅子3gは、背凭れ部4の背面が移動部材320に当接した状態から、背凭れ部4を含む椅子3g全体が回転軸45によって上方に回動可能となっている。
【0136】
この構成により、次のように動作する。図24(a)に示すように、椅子3gを浴槽9内で、座部5が浴槽9の底面9aに接触するまで下降させる。この状態から移動部材320をさらに下降させると、座部5は浴槽9の底面9aから押圧され、椅子3g全体が上方に回動する。これにより、移動部材320と椅子3gの背凭れ部4とのなす角は基準の傾斜角度よりも角度θ分だけ大きくなり、椅子3gに着座している被介護者Mの姿勢が、上下方向に沿う方向から少し寝たような入浴姿勢となる。このような入浴姿勢で浴槽9内に被介護者Mを浸けることで、浴槽9の水面が低い場合であっても、被介護者Mの体の全部又は大部分を浴槽9内のお湯に浸けることができる。
【0137】
<6−2>
上記実施形態では、昇降椅子ユニット1がレールユニット2と一体か分離可能かについては言及していない。しかし、昇降椅子ユニット1は、レールユニット2から切り離し可能であってもよい。例えば、固定レール部2aとスライド支持部2bとが切り離し可能であり、昇降椅子ユニット1はスライド支持部2bに固定されている。これにより、スライド支持部2bに支持された昇降椅子ユニット1を固定レール部2aから分離し、例えば被介護者Mが寝ているベッドまで移動可能である。また、昇降椅子ユニット1に設けられている昇降装置3bにより、椅子3aとベッドとを各被介護者Mが移動可能な高さに調整できるので、ベッドには別途の昇降機構が不要である。
【0138】
<6−3>
また、上記実施形態では、昇降装置3bの椅子昇降用モータを正逆回転させて椅子3aを昇降させるようにしているがこれに限定されない。例えば、クラッチの切り替えでピニオンギアを正逆回転させるようにしても構わない。その他、例えば手動又は自動の油圧ジャッキを用いて椅子を昇降させるようにしても構わない。
【0139】
<6−4>
上記実施形態では、アームレスト7を回転軸43を中心にして回動することで、使用位置と退避位置とを選択できるようになっている。しかし、アームレスト本体71を上下方向に平行にスライドさせることで、使用位置と退避位置とを選択可能であってもよい。
【0140】
<6−5>
上記実施形態では、下部背凭れ部42及び座部5が一体に形成され、下部背凭れ部42の上面と座部5の上面とのなす角度が常に一定であるがこれに限定されない。例えば、下部背凭れ部42と座部5との成す角度は、この装置を使用する被介護者Mの障害の程度及び体型などに応じて調整できてもよい。
<6−6>
上記実施形態では、背凭れ部4を上部背凭れ部41及び下部背凭れ部42の2つの部材から構成している。しかし、下部背凭れ部42が複数に分割された部材から構成され、各分割された部材どうしが順次的に各回転軸を介して連結されていてもよい。これにより、各分割された部材ごとにその上面の交差角度を異ならせることができ、下部背凭れ部42の上面を全体として湾曲した形状とできる。
【0141】
<6−7>
上記実施形態では、昇降椅子ユニット1を水平方向にスライドさせて、昇降椅子ユニット1を洗場床面WFから浴槽9側に移動させている。しかし、吊下げ装置で椅子3aを吊下げ、洗場床面WFから浴槽9側に移動させてもよい。さらには、アームで吊り下げた椅子3aを浴槽9の外から浴槽9内に下降してもよい。
【0142】
<6−8>
上記実施形態では、スライド支持部2bは、可動レール部22aが固定レール部2aに沿って移動し、ケーシング31及び椅子3a等含む昇降椅子ユニット1が移動する際に洗場床面WFを回転移動する車輪24を含む。しかし、可動レール部22aが固定レール部2aに沿ってスライドすることで、昇降椅子ユニット1が移動可能であればよく、車輪24は必須ではない。
<6−9>
上記実施形態では、下部背凭れ部42を回動させるためのハンガー部昇降モータと、昇降装置3bを駆動して椅子3aを上下させる椅子昇降用モータとは別々に設けられている。しかし、ハンガー部昇降モータ及び椅子昇降用モータを一体の駆動モータとしてもよい。つまり、駆動モータが複数の機構によって共有される。これにより、各機構それぞれに駆動部を設ける場合に比べて、駆動部のために入浴介護装置に設けるスペースを削減でき、またコストも削減できる。
【0143】
<6−10>
第5実施形態では、浴槽の底面から反力、つまり座部が下方から受ける力によって下部背凭れ部42が上部背凭れ部41に対して回動するように構成されているが、後方から受ける力によって回動するようにしてもよい。例えば、浴槽9内に段などの突部を設け、椅子の下降に伴って、下部背凭れ部42が突部によって後方から押圧されることで、回動するように構成してもよい。
【実施例】
【0144】
以下に、本発明の具体的な実施例及び比較例について図25及び図26を用いて説明する。図25は、実施例の入浴状態を説明する図である。図26は、比較例の入浴状態を説明する図である。
(実施例)
図25は、第1実施形態の入浴介護装置Aを、長手方向寸法が1200mm(実質1197mm)の浴槽9にセットしたときの入浴状態を表している。
まず、本発明の入浴介護装置Aの椅子3aに被介護者Mを着座させる。その後、回転軸43を通る上部背凭れ部41の上面と、回転軸43を通る下部背凭れ部42の上面との角度が約22度になるように、下部背凭れ部42を回転軸43を中心として回動して座部5の前方側に移動させる。次に、椅子3aを浴槽9内に下降させて被介護者Mを浴槽9内に浸ける。このとき、椅子3aに着座した被介護者Mの腰骨近傍の背骨と大腿骨とのなす折畳角は約78度であった。また、浴槽9の底から被介護者Mの乳頭までの高さが約437mmであった。
【0145】
(比較例)
図26の比較例の入浴介護装置Xでは、背凭れ部4xが上部背凭れ部と下部背凭れ部とに分かれていない。背凭れ部4xの上端が、椅子3xの上端の回転軸47によって背凭れ部4xの背面の部材に回動可能に取り付けられている。よって、比較例の図26では、椅子3xの背凭れ部4x及び座部5の全体が、回転軸47を中心として回動して前方に傾く。図26に示すように、この入浴介護装置Xでは、回転軸47を中心として背凭れ部4xが回動前後の角度が約5度となるように椅子3xを、回転軸47を中心に回動させる。この状態で、椅子3xを下降させて被介護者Mを浴槽9内に浸ける。このとき、椅子3xに着座した被介護者Mの腰骨近傍の背骨と大腿骨とのなす折畳角が約66度であった。また、浴槽9の底から被介護者Mの乳頭までの高さが約500mmであった。
【0146】
本発明の入浴介護装置Aを用いた場合、上部背凭れ部41を固定したままで、下部背凭れ部42を上部背凭れ部41に対して回動させる。このようにすることで、上記実施例で示されたように、小さな浴槽9に本発明の入浴介護装置Aを設置しても、椅子に着座した被介護者Mが大きく大腿骨を折り畳むことなく、楽な姿勢で入浴できる。また、被介護者Mの体を浴槽9内に深く浸けることができることもできる。
【0147】
一方、比較例の入浴介護装置Xでは、背凭れ部全体が回動するように構成されている。この場合、比較例で示される通り、被介護者Mは大きく大腿骨を折り畳まなくてはならず、窮屈な姿勢で入浴しなければならない。また、比較例の入浴介護装置Xの場合、背凭れ部4が大きく寝るように回動させれば、体もより寝た姿勢に近づくものの、座部5前方の足が浴槽の壁に当たり、椅子3xを降させることができない。
【符号の説明】
【0148】
1 :昇降椅子ユニット
2 :レールユニット
2a :固定レール部
2b :スライド支持部
3a、3c〜3g:椅子
3b :昇降装置(昇降機構)
3x :椅子
4 :背凭れ部
5 :座部
6a :足載置ユニット
6b :足載置ユニット
7 :腕載置ユニット
8 :足用駆動機構(足用駆動部)
9 :浴槽
21 :レール部本体
21a :スライドローラ
22 :スライド支持本体
22a :可動レール部
31 :ケーシング(装置本体)
33 :台形ネジ
41 :上部背凭れ部
42 :下部背凭れ部
43 :回転軸(回動機構)
44 :椅子支持部材
45 :傾斜軸
46 :回動補助部材
47 :回転軸
48 :背面突出部
51 :ローラ支持部
52 :ローラ
60 :足用回転軸
61 :足用支持部
62 :足載置部
63 :ベルト支持バー
64 :下部アーム(第1アーム)
65 :上部アーム(第2アーム)
81 :ハンガー部
82 :ベルト
83 :牽引ワイヤ
A〜F :入浴介護装置
BR :浴室
M :被介護者
W :浴室壁面
WF :洗場床面
X :入浴介護装置
θ :角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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