【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記容器又は前記可動部材に対して振動エネルギーを付与することによって前記容器と前記可動部材との相対的位置を時間的に変化させて前記少なくとも1つの動作を生じさせる、請求項6又は7に記載の方法。
前記容器に対して外力を加えて容器を変形させることによって前記容器と前記可動部材との相対的位置を時間的に変化させて前記少なくとも1つの動作を生じさせる、請求項6又は7に記載の方法。
前記容器に対して外力を加えて前記可動部材を直接的又は間接的に変位させることによって前記容器と前記可動部材との相対的位置を時間的に変化させて前記少なくとも1つの動作を生じさせる、請求項6又は7に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明者らの検討に基づく知見>
より短い期間(例えば1分以内)で蓄熱材の結晶化を完了させることができれば、蓄熱材の用途はさらに広がる。例えば、アイドリングストップを自動的に行う機能を有する自動車において、アイドリングストップ時の車室の冷房のために蓄熱材を利用することが考えられる。この場合、アイドリングストップ時には、エンジンによってコンプレッサーを駆動することにより得られる冷熱の代わりに、蓄熱材に蓄えられた冷熱が利用される。つまり、自動車の走行中にコンプレッサーを利用して蓄熱材を結晶化させて冷熱を蓄えつつ、アイドリングストップ時に蓄冷材を融解させて冷熱を放出するというサイクルを繰り返す方法が考えられる。都市部における自動車の交通事情を考慮すると、交通信号機同士の間隔が短く自動車が走行する期間が短くなる場合がある。このため、蓄熱材の結晶化をより短期間に完了でき、蓄熱材の全体で短期間に冷熱を潜熱として蓄えることができることが望ましい。しかし、特許文献1及び2に記載の技術では、蓄熱材全体が結晶化するまでには長い期間を要し、例えば、交通信号機同士の間を自動車が走行する期間が短い場合に、蓄熱材の全体の結晶化を完了することが難しい。本発明者らは、このような観点から、より短い期間で蓄熱材の結晶化を完了させる方法について検討を重ねた結果、蓄熱材が含まれる容器の内部空間を複数の空間に仕切り、複数の空間のそれぞれの内部において同時多発的に結晶核を発生させることができれば、蓄熱材全体としての結晶化を短期間に完了できるのではないかと考えた。本発明はかかる知見に基づき案出されたものである。
なお、上記の知見は本発明者らの検討に基づくものであり、上記の知見は先行技術ではない。
【0012】
本開示の第1態様は、
内部空間が複数の空間に仕切られている容器、
前記複数の空間のそれぞれの内部に位置する前記蓄熱材、及び
前記複数の空間のそれぞれにおいて前記蓄熱材に接触して配置され、前記容器との相対的位置を時間的に変化させることができる少なくとも1つの可動部材、
を備える、蓄熱装置を提供する。
【0013】
第1態様によれば、容器の内部空間は複数の空間に仕切られており、複数の空間のそれぞれに対応して蓄熱材及び可動部材が存在する。そして、可動部材は、容器との相対的位置を時間的に変化させることができるため、可動部材は蓄熱材の過冷却状態の解放の契機としての役割を果たす。そのため、第1態様によれば、複数の空間のそれぞれの内部において同時多発的に結晶核を発生させ、蓄熱材の過冷却を解除することができる。また、可動部材は、容器との相対的位置を時間的に変化させることができるため、複数の空間のそれぞれに対応して可動部材の動作を継続させることができる。そのため、複数の空間のそれぞれの内部において、蓄熱材が対流し、生成された結晶核が蓄熱材の中を移動する。その結果、複数の空間のそれぞれの内部に含まれる蓄熱材の全体に行渡るように、結晶核を短期間で拡散させることができる。このように、第1態様によれば、複数の空間のそれぞれの内部において、同時多発的に結晶核を発生させ、さらに拡散させることができるため、蓄熱装置の容器に含まれる蓄熱材全ての結晶化を短期間で完了させることができる。
【0014】
第1態様は、特許文献1及び2に記載の技術に比して、以下の点で優れている。特許文献1に記載の技術では、第1蓄冷材貯蔵部の蓄冷材の温度が水和物生成温度より低い温度となっている状態で電圧印加手段によって蓄冷材に電圧を印加され、第1蓄冷材貯蔵部で結晶核が発生する。結晶核は、第1蓄冷材貯蔵部に連通している第2蓄冷材貯蔵部に供給される。このため、特許文献1に記載の過冷却防止装置は、大掛かりで複雑な構成を有するうえに、蓄冷材の全体が結晶化するまでには長い期間を要する。また、特許文献1に記載の技術では、蓄冷材の過冷却度が高いほど結晶核が生じやすいことに着目して、第1蓄冷材貯蔵部の蓄冷材の温度が水和物生成温度より低い温度となっている状態で電圧を印加している。しかし、蓄冷材の過冷却度を大きくしすぎるとより多くのエネルギーが消費されてしまう。ここで、蓄冷材の過冷却度とは、蓄冷材の融点から過冷却状態の蓄冷材の温度を差し引いた差を意味すると考えられる。
【0015】
特許文献2に記載の技術では、TBAB水溶液を蓄熱材として用いた場合に過冷却解除が1時間以内に確認されているものの、蓄熱材の全体が結晶化するまでにはさらに長い期間を要する。
【0016】
このように、特許文献1及び2に記載の技術では、蓄熱材全体が結晶化するまでには長い期間を要し、例えば、交通信号機同士の間を自動車が走行する期間が短い場合に、蓄熱材の全体の結晶化を完了することが難しい。これに対して、第1態様によれば、複数の空間のそれぞれの内部において、結晶核の生成と拡散を行うため、蓄熱装置の容器に含まれる蓄熱材全ての結晶化を短期間で完了させることができる。そのため、第1態様によれば、交通信号機同士の間を自動車が走行する期間が短い場合であっても、蓄熱材の全体の結晶化を完了させることができる。
【0017】
本開示の第2態様は、第1態様に加えて、前記容器は、特定方向に並んだ互いに反対方向を向く一対の内周面を有し、前記一対の内周面同士の距離をDと定義し、かつ、前記特定方向における前記可動部材の寸法をLと定義したとき、D/Lが1.02〜2.70である、蓄熱装置を提供する。第2態様によれば、上記の動作が生じる位置から容器の内周面までの特定方向における距離が短く、上記の動作によって発生する蓄熱材の過冷却の解除により生じる熱が速やかに容器の外部に放出される。これにより、より確実に、蓄熱材の結晶化を短期間で完了させることができる。
【0018】
本開示の第3態様は、第1態様又は第2態様に加えて、液相の前記蓄熱材が通過可能な構造を有し、前記容器の前記内部空間を前記複数の空間に仕切る仕切り部材を前記構造物としてさらに備えた、蓄熱装置を提供する。第3態様によれば、仕切り部材を液相の蓄熱材が通過可能であるので、蓄熱材が仕切り部材を通過して対流しやすい。このため、生成された結晶核が蓄熱材の中を移動しやすいので、より確実に、蓄熱材の結晶化を短期間で完了させることができる。
【0019】
本開示の第4態様は、第3態様に加えて、前記仕切り部材は、前記可動部材を兼ねる、蓄熱装置を提供する。第4態様によれば、容器の内部空間を複数の空間に仕切ることができるうえに容器に収容できる蓄熱材の容積が大きい。
【0020】
本開示の第5態様は、第1態様〜第4態様のいずれか1つの態様に加えて、前記複数の空間のそれぞれは、100cm
3以下の容積を有する、蓄熱装置を提供する。第5態様によれば、複数の空間のそれぞれは、100cm
3以下の容積を有するので、上記の動作により複数の空間のそれぞれの全体において蓄熱材が対流しやすい。その結果、より確実に、複数の空間のそれぞれの内部に含まれる蓄熱材の全体に行渡るように、結晶核を短期間で拡散させることができる。
【0021】
本開示の第6態様は、
蓄熱装置が備える蓄熱材の結晶化を完了させる方法であって、
前記蓄熱装置は、
内部空間が複数の空間に仕切られている容器、
前記複数の空間のそれぞれの内部に位置する前記蓄熱材、及び
前記複数の空間のそれぞれにおいて前記蓄熱材に接触して配置され、前記容器との相対的位置を時間的に変化させることができる少なくとも1つの可動部材、
を備え、
(i)前記可動部材同士の、接触及び離間の繰り返し又は摺動、
(ii)前記容器の内周面と前記可動部材との、接触及び離間の繰り返し又は摺動、及び
(iii)前記容器の内部に配置されている構造物の表面と前記可動部材との、接触及び離間の繰り返し又は摺動、
のうちの少なくとも1つの動作を継続させることによって、前記蓄熱材の過冷却を解除して所定の期間内に前記蓄熱材の結晶化を完了させる、
方法を提供する。
【0022】
第6態様によれば、容器の内部空間は複数の空間に仕切られており、複数の空間のそれぞれに対応して蓄熱材及び可動部材が存在する。そして、可動部材は、容器との相対的位置を時間的に変化させることができるため、可動部材は蓄熱材の過冷却状態の解放の契機としての役割を果たす。そのため、第6態様によれば、複数の空間のそれぞれの内部において同時多発的に結晶核を発生させ、蓄熱材の過冷却を解除することができる。また、第6態様によれば、複数の空間のそれぞれに対応して可動部材の前記動作が継続する。そのため、複数の空間のそれぞれの内部において、蓄熱材が対流し、生成された結晶核が蓄熱材の中を移動する。その結果、複数の空間のそれぞれの内部に含まれる蓄熱材の全体に行渡るように、結晶核を短期間で拡散させることができる。このように、第6態様によれば、複数の空間のそれぞれの内部において、同時多発的に結晶核を発生させ、さらに拡散させることができるため、蓄熱装置の容器に含まれる蓄熱材全ての結晶化を短期間で完了させることができる。
【0023】
本開示の第7態様は、第6態様に加えて、前記容器は、特定方向に並んだ互いに反対方向を向く一対の内周面を有し、前記一対の内周面同士の距離をDと定義し、かつ、前記特定方向における前記可動部材の寸法をLと定義したとき、D/Lが1.02〜2.70である、方法を提供する。第7態様によれば、上記の動作が生じる位置から容器の内周面までの特定方向における距離が短い。このため、上記の動作によって発生する蓄熱材の過冷却の解除により生じる熱が速やかに容器の外部に放出される。これにより、より確実に、蓄熱材の結晶化を短期間で完了させることができる。
【0024】
本開示の第8態様は、第6態様又は第7態様に加えて、前記容器又は前記可動部材に対して振動エネルギーを付与することによって前記容器と前記可動部材との相対的位置を時間的に変化させて前記少なくとも1つの動作を生じさせる、方法を提供する。第8態様によれば、容器又は可動部材に振動エネルギーを付与することにより、蓄熱材の結晶化を短期間で完了させることができる。
【0025】
本開示の第9態様は、第6態様又は第7態様に加えて、前記可動部材は磁性体を含み、前記可動部材の周囲に磁場を形成することによって前記容器と前記可動部材との相対的位置を時間的に変化させて前記少なくとも1つの動作を生じさせる、方法を提供する。第9態様によれば、磁性体を含む可動部材の周囲に磁場を形成することにより上記の動作が生じる。これにより、蓄熱材の結晶化を短期間で完了させることができる。
【0026】
本開示の第10態様は、第6態様又は第7態様に加えて、前記容器に対して外力を加えて容器を変形させることによって前記容器と前記可動部材との相対的位置を時間的に変化させて前記少なくとも1つの動作を生じさせる、方法を提供する。第10態様によれば、容器に対して外力を加えて容器を変形させることによって上記の動作が生じ、蓄熱材の結晶化を短期間で完了させることができる。
【0027】
本開示の第11態様は、第6態様又は第7態様に加えて、前記容器に対して外力を加えて前記可動部材を直接的又は間接的に変位させることによって前記容器と前記可動部材との相対的位置を時間的に変化させて前記少なくとも1つの動作を生じさせる、方法を提供する。第11態様によれば、前記容器に対して外力を加えて前記可動部材を直接的又は間接的に変位させることによって上記の動作が生じる。これにより、蓄熱材の結晶化を短期間で完了させることができる。
【0028】
本開示の第12態様は、第6態様〜第11態様のいずれか1つの態様に加えて、前記複数の空間のそれぞれは、100cm
3以下の容積を有する、蓄熱方法を提供する。第12態様によれば、複数の空間のそれぞれは、100cm
3以下の容積を有するので、上記の動作により複数の空間のそれぞれの全体において蓄熱材が対流しやすい。その結果、より確実に、複数の空間のそれぞれの内部に含まれる蓄熱材の全体に行渡るように、結晶核を短期間で拡散させることができる。
【0029】
本開示の別の第1態様は、
内部空間が複数の空間に仕切られている容器、
前記複数の空間のそれぞれの内部に位置する前記蓄熱材、及び
前記複数の空間のそれぞれおいて前記蓄熱材に接触して配置され、前記容器との相対的位置を時間的に変化させることができる可動部材と、
を備える蓄熱装置を提供する。
【0030】
本開示の別の第1態様によれば、容器の内部空間は複数の空間に仕切られており、複数の空間のそれぞれに対応して蓄熱材及び可動部材が存在する。そして、可動部材は、容器との相対的位置を時間的に変化させることができるため、可動部材は蓄熱材の過冷却状態の解放の契機としての役割を果たす。そのため、別の第1態様によれば、複数の空間のそれぞれの内部において同時多発的に結晶核を発生させ、蓄熱材の過冷却を解除することができる。また、可動部材は、容器との相対的位置を時間的に変化させることができるため、複数の空間のそれぞれに対応して可動部材の前記動作を継続させることができる。そのため、複数の空間のそれぞれの内部において、蓄熱材が対流し、生成された結晶核が蓄熱材の中を移動する。その結果、複数の空間のそれぞれの内部に含まれる蓄熱材の全体に行渡るように、結晶核を短期間で拡散させることができる。このように、別の第1態様によれば、複数の空間のそれぞれの内部において、同時多発的に結晶核を発生させ、さらに拡散させることができるため、蓄熱装置の容器に含まれる蓄熱材全ての結晶化を短期間で完了させることができる。
【0031】
本開示の別の第2態様は、別の第1態様に加えて、前記容器の内部空間は、液相の前記蓄熱材が通過可能な構造を有する仕切り部材により仕切られている。
【0032】
本開示の別の第3態様は、別の第1態様又は別の第2態様に加えて、前記複数の空間は、50以上の空間であってもよい。
【0033】
本開示の別の第4態様は、別の第1態様〜別の第3態様のいずれかに加えて、前記複数の空間のそれぞれは、1cm
3以下の容積を有する。
【0034】
本開示の別の第5態様は、
自動車と、
別の第1態様〜第4態様に記載の蓄熱装置と
を備える装置である。
【0035】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下の説明は本開示の方法及び蓄熱装置を例示的に示すものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、添付の図面において、X方向、Y方向、及びZ方向はそれぞれ同一の方向を示す。
【0036】
本開示の蓄熱材の結晶化を完了させる方法は、例えば、蓄熱装置10a、蓄熱装置10b、蓄熱装置10c、又は蓄熱装置10dによって実現される。添付の図面において、蓄熱装置10a、蓄熱装置10b、蓄熱装置10c、及び蓄熱装置10dにおける同一又は対応する構成には同一の符号を付している。
【0037】
図1A、
図2A、
図3A、及び
図4Aに示す通り、蓄熱装置10a、蓄熱装置10b、蓄熱装置10c、及び蓄熱装置10dのそれぞれは、容器11と、可動部材13とを備えている。容器11は蓄熱材16を収容している。可動部材13は、容器11の内部に収められている。可動部材13は、容器11と可動部材13との相対的位置を時間的に変化させたときに、例えば、容器11に収容された蓄熱材16によって占められた100cm
3の空間のいずれにおいても、以下の動作が可能な位置に配置されている。その動作とは、(i)可動部材13同士の、接触及び離間の繰り返し又は摺動、(ii)容器11の内周面と可動部材13との、接触及び離間の繰り返し又は摺動、及び(iii)容器11の内部に配置されている構造物12の表面と可動部材13との、接触及び離間の繰り返し又は摺動の少なくとも1つである。蓄熱装置10a〜10dは、上記の動作によって発生する蓄熱材16の過冷却の解除により所定の期間内に蓄熱材16の結晶化を完了させる。所定の期間は、特に制限されないが、例えば1分間である。都市部における交通信号機による自動車の停止は自動車が動き出してから1分程度で起こり得る。このため、蓄熱装置10a〜10dを自動車に搭載してアイドリングストップ時の車室の冷房に利用する場合、蓄熱装置10a〜10dにおいて蓄熱材16の結晶化を完了させることができる所定の期間は望ましくは1分間である。
【0038】
容器11と可動部材13との相対的位置を時間的に変化させることによって、容器11に収容された蓄熱材16によって占められた100cm
3の空間のいずれにおいても、上記の動作を継続させる。上記の動作によって発生する蓄熱材16の過冷却の解除により所定の期間内に蓄熱材16の結晶化を完了させる。すなわち、上記の動作は、容器11に収容されている蓄熱材16が過冷却状態の時に開始される。これにより、容器11に収容された蓄熱材16の結晶化を短期間で完了させることができる。
【0039】
上記の動作は、例えば、蓄熱材16の結晶化を完了させることができる所定の期間の20%以上の期間継続される。
【0040】
容器11に蓄熱材16を収容する態様は、特に制限されないが、典型的には良好な耐食性を有する金属又は樹脂材料でできた容器11に蓄熱材16を封入させることによって容器11に蓄熱材16が収容されている。容器11の形状は、特に制限されないが、例えば直方体又は柱体である。容器11の形状は望ましくは板状である。場合によっては、容器11は可撓性の材料でできていてもよい。この場合、容器11の形状は時間的に変化し得る。なお、容器11の内容積に対する容器の表面積の比が大きいと、熱が容器11を出入りしやすく、蓄冷又は放冷に要する期間が短くなる。容器11は、複数の空間15に区分けされている。容器11は、例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、20以上、又は50以上の空間15に区分けされていてもよい。容器11は、1000000以下の空間15に区分けされていてもよい。複数の空間15は、それぞれ同一の形状としてもよいし、それぞれ異なる形状としてもよい。容器11は、複数の空間15のそれぞれが同一の形状になるように配置されている領域と、複数の空間15のそれぞれが異なる形状になるように配置されている領域の双方を含んでいてもよい。複数の空間15のそれぞれは、例えば100cm
3以下の容積を有する。複数の空間15のそれぞれは、例えば、100cm
3以下、90cm
3以下、80cm
3以下、70cm
3以下、60cm
3以下、50cm
3以下、40cm
3以下、30cm
3以下、20cm
3以下、10cm
3以下、5cm
3以下、4cm
3以下、3cm
3以下、2cm
3以下、又は1cm
3以下の容積を有していてもよい。複数の空間15の容積が小さいほど、容器11に含まれる複数の空間15の数が増大する。そして、それぞれの複数の空間15の内部に位置する可動部材によって、それぞれの複数の空間15の内部において結晶核が生成される。よって、複数の空間15の容積が小さいほど、複数の空間15のそれぞれの内部において同時多発的に結晶核を発生させやすくなり、蓄熱装置の容器に含まれる蓄熱材全ての結晶化を短期間に完了させることが容易となる。
【0041】
容器11の材料は、望ましくは、アルミニウム、銅、及びステンレスなどの良好な熱伝導性を有する金属である。容器11の材料は、フッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、及びポリプロピレン(PP)樹脂等の良好な耐腐食性を有する樹脂であってもよい。また、容器11は、アルミニウム箔と樹脂フィルムとが積層された積層フィルム等の可撓性の材料によって形成されていてもよい。
【0042】
例えば、自動車のアイドリングストップ時の車室の冷房のために蓄熱材16を利用する場合、蓄熱材16への蓄熱及び蓄熱材16からの放熱からなるサイクルが短期間で繰り返される必要がある。しかし、多くの場合、蓄熱材16の熱伝導率は低い。このため、蓄熱材16から放出される熱が速やかに容器11の外部に放出されるように容器11の形状及び寸法が定められていることが望ましい。例えば、蓄熱材16が固体状態であるときに、蓄熱材16の厚みは、望ましくは5mm以下、より望ましくは3mm以下、さらに望ましくは2mm以下である。例えば、蓄熱材16の厚みの望ましい値に見合うように、容器11の特定方向(例えばY軸方向)の寸法が定められている。容器11の内部おいて伝熱促進のためのフィンを配置することによって望ましい厚みを有する複数の薄い蓄熱材16に区分けされてもよい。
【0043】
図1B、
図2B、
図3B、及び
図4Bに示す通り、容器11は、特定方向(例えばY軸方向)に並んだ互いに反対方向を向く一対の内周面を有する。一対の内周面同士の距離をDと定義し、かつ、特定方向における可動部材13の寸法をLと定義したとき、例えば、D/Lが1.02〜2.70である。この場合、上記の動作が生じる位置と容器11の内周面との距離が短いので、蓄熱材16の過冷却の解除により発生する熱が速やかに容器11の外部に放出される。
【0044】
例えば、容器11又は可動部材13に対して振動エネルギーを付与することによって容器11と可動部材13との相対的位置を時間的に変化させて上記の動作を生じさせることができる。容器11又は可動部材13を専ら振動させるために配置された振動発生器によって振動エネルギーを発生させてもよいし、蓄熱装置10a〜10dが組み込まれた装置又はシステムが有する振動発生源からの振動エネルギーを利用してもよい。例えば、蓄熱装置10a〜10dが自動車に搭載されている場合、自動車の内燃機関から発生する振動エネルギーを容器11又は可動部材13に対して付与される振動エネルギーとして利用できる。
【0045】
例えば、50Hzの周波数及び所定の振幅を有する振動エネルギーを容器11に対して容器11の特定方向(例えばY軸方向)に加えた場合には、可動部材13の重量と振動加速度との積に相当する慣性力が可動部材13に作用し、可動部材13が容器11の内部を移動し、容器11と可動部材13との相対的位置が時間的に変化する。これにより、蓄熱材16が対流しつつ、上記の動作が発生する。例えば、容器11の内周面に接している蓄熱材16によって占められている特定の空間において1つの可動部材13が配置されていると、可動部材13は容器11の内周面に1秒間に少なくとも50回衝突する。振動の振幅が大きい場合には、可動部材13が容器11の内周面に1秒間に100回程度衝突することもあり得る。これにより、容器11の内周面と可動部材13との接触及び離間の繰り返しが発生する。容器11の内周面に接している蓄熱材16によって占められている特定の空間において複数の可動部材13が配置されている場合には、可動部材13と容器11の内周面との衝突に加えて可動部材13同士の衝突も発生するので、可動部材13同士の接触及び離間の繰り返しも発生する。
【0046】
振動エネルギーの周波数は、特に制限されないが、例えば1Hz〜200Hzである。これにより、蓄熱材16の過冷却が解除されやすい。
【0047】
上記の動作を生じさせるために、振動エネルギーを利用する方法以外の方法も考えられる。例えば、可動部材13は磁性体を含み、可動部材13の周囲に磁場を形成することによって容器11と可動部材13との相対的位置を時間的に変化させて上記の動作を生じさせてもよい。この場合、例えば、公知のマグネチックスターラーを利用でき、可動部材13と容器11の内周面との摺動により上記の動作を生じさせることができる。
【0048】
容器11に対して外力を加えて容器11を変形させることによって容器11と可動部材13との相対的位置を時間的に変化させて上記の動作を生じさせてもよい。例えば、容器11の外周面にローラーを押し当て、ローラーに所定の力を付与しながら容器11の外周面に沿ってローラーを転がすことによって上記の動作を生じさせることができる。この場合、例えば、ローラーを容器11の外周面において往復運動させる。例えば、
図4A及び
図4Bに示す蓄熱装置10dを用いてこのような方法を実現できる。例えば、
図4A及び
図4BにおけるY軸に垂直な容器11の外周面に対してローラーを押し当て、容器11の内周面が可動部材13と接触する程度の力をローラーに付与しながらローラーをZ軸又はX軸方向に往復運動させる。すなわち、Y軸方向の外力によって容器11が変形し、容器11と可動部材13との相対的位置が時間的に変化する。
【0049】
容器11に対して外力を加えて可動部材13を直接的又は間接的に変位させることによって容器11と可動部材13との相対的位置を時間的に変化させて上記の動作を生じさせてもよい。
【0050】
可動部材13の形状は、特に制限されないが、球状、針状、鱗片状、楔状、及び直方体等の、蓄熱材16の中で動くときに可動部材13が受ける粘性抵抗が小さい形状であることが望ましい。可動部材13の形状は、長方形状の薄板、長方形状の薄板を曲げて得られる形状、複数の長方形状の薄板が連結された形状であってもよい。上記の動作を生じさせるために可動部材13が別の可動部材13又は他の部材と接触する箇所は、例えば、点状、線状、又は面状に形成されている。
【0051】
可動部材13の材料は、特に制限されず、容器11の材料として例示した材料であってもよい。可動部材13の材料は良好な熱伝導性を有することが望ましい。しかし、可動部材13の材料は、ガラス、セラミックス、樹脂、又はゴムであってもよい。可動部材13の材料が容器11の材料と異なる場合、可動部材13の材料と容器11の材料との組み合わせは、腐食が起こりにくい組み合わせであることが望ましい。短期間で蓄熱材16が冷熱を蓄えるためには、蓄熱材16が結晶化するときに発生する熱を速やかに容器11の外部に放出する必要がある。このため、熱伝導性を考慮して可動部材13の形状及び材料が定められることが望ましい。
【0052】
多くの場合、蓄熱材が結晶化する過程で結晶化熱が放出される。局所的に生成された微小な結晶が徐々に成長していく反応は、固液界面で発生する結晶化熱を放出させながら進行する逐次反応である。このため、蓄熱材に局所的に発生した結晶を徐々に成長させる方法では、蓄熱材の全体の結晶化熱が放出されて蓄熱材の結晶化が完了するまでには長い期間を要する。一方、蓄熱材の全体において短期間に多数の結晶核を発生させることができれば、蓄熱材の結晶化による発熱反応が蓄熱材の全体でほぼ同時に発生する。この場合、蓄熱材の全体で蓄熱材の結晶化により発生する熱を短期間で放熱できれば、短期間で蓄熱材の結晶化を完了できる。
【0053】
可動部材同士又は可動部材と他の部材との接触及び離間又は摺動により結晶核が生成されて蓄熱材の過冷却が解除される。また、可動部材同士又は可動部材と他の部材との接触及び離間又は摺動が継続することによって、蓄熱材が対流する。その結果、生成された結晶核が蓄熱材の中を移動する。一方、蓄熱材の結晶化が始まると、蓄熱材の粘度が上昇して、可動部材の動きが止まり、結晶核が対流しなくなる。蓄熱材の全体に亘って結晶核が拡散しなかった場合には、蓄熱材の結晶化が逐次反応で進行するので、蓄熱材の結晶化が完了するのに長期間を要する。蓄熱材の過冷却を解除して速やかに蓄冷材の結晶化を完了させるためには、可動部材同士又は可動部材と他の部材との接触及び離間又は摺動により発生した結晶核を対流させて蓄熱材の全体に亘って結晶核を短期間に拡散させる必要がある。
【0054】
可動部材13が、特に、球状、針状、鱗片状、楔状、及び直方体等の、蓄熱材16の中で動くときに可動部材13が受ける粘性抵抗が小さい形状である場合、蓄熱材16の粘度が上昇する前に結晶核が対流により拡散できる範囲は限られる。このため、可動部材13は、容器11に収容された蓄熱材16によって占められた100cm
3の空間のいずれにおいても、上記の動作が可能な位置に配置されている。可動部材13は、望ましくは、容器11に収容された蓄熱材16によって占められた10cm
3の空間のいずれにおいても、上記の動作が可能な位置に配置されている。可動部材13は、望ましくは、容器11に収容された蓄熱材16によって占められた1cm
3の空間のいずれにおいても、上記の動作が可能な位置に配置されている。蓄熱装置10a〜10dの製造コストを抑制する観点から、容器11に収容された蓄熱材16によって占められた所定の容積の空間のいずれにおいても上記の動作が可能な位置に配置されている場合のその空間の容積は、例えば0.008cm
3以上である。
【0055】
図2A及び
図2Bに示す通り、容器11に収容された蓄熱材16によって占められた特定の空間15において複数の可動部材13が配置されていてもよい。この場合、可動部材13同士の衝突又は摺動が発生し得る。これにより、生成される結晶核の数を増加させることができ、蓄熱材16の結晶化をより短期間で完了させることができる。
【0056】
図3C、
図3D、及び
図3Eに示す通り、可動部材13は、波板によって形成されていてもよい。
【0057】
図4A及び
図4Bに示す通り、可動部材13は、複数の長方形状の薄板が連結された形状であってもよい。可動部材13は、例えば、長方形状の薄板の主面同士が向かい合い、かつ、複数の長方形状の薄板が特定の方向(X軸方向)に並んだ形状を有している。この場合、容器11の内周面と接触する箇所の数及び面積が大きいので、結晶核の生成効率が高い。可動部材13は、例えば、長方形状の薄板の主面同士が向かい合い、かつ、複数の長方形状の薄板が特定の方向に並んだ形状を有している。この場合、隣接する2つの長方形状の薄板によって区画された空間の体積は、望ましくは10cm
3以下であり、より望ましくは5cm
3以下であり、さらに望ましくは1cm
3以下である。
【0058】
可動部材13は、複数の長方形状の薄板が格子状に組み付けられた形状を有していてもよい。この場合、可動部材13の格子の1つのマス目の体積は、望ましくは10cm
3以下であり、より望ましくは5cm
3以下であり、さらに望ましくは1cm
3以下である。
【0059】
上記の動作において可動部材13同士又は可動部材13と他の部材とが接触するときの圧力又は摩擦力を調整するために、可動部材13の表面又は容器11の内周面の表面粗さを調整してもよい。また、可動部材13の表面又は容器11の内周面に凹凸を形成してもよい。可動部材13が大型化して可動部材13同士又は可動部材13と他の部材とが接触するときの接触面積が増えると、可動部材13の表面又は容器11の内周面の表面粗さが大きいことが蓄熱材16の過冷却の解除に有利に働く。可動部材13の表面又は容器11の内周面の表面粗さを大きくする方法としては、サンドブラスト法又はウェットエッチング法を用いることができる。サンドブラスト法では、セラミックス微粒子を処理対象の部材の表面に吹き付けることによって処理対象の部材の表面を物理的に粗くする。ウェットエッチング法では、処理対象の部材を所定の薬液に浸して化学的に処理対象の部材の表面を浸食することによって処理対象の部材の表面を粗くする。
【0060】
可動部材13と容器11の内周面との間の距離は、特に制限されない。容器11又は可動部材13に対して振動エネルギーを付与することによって上記の動作を生じさせる場合、振動エネルギーを発生させるのに消費されるエネルギーを抑制する観点から、振動の振幅は例えば1〜2mmである。このため、可動部材13が小さい場合、すなわち、蓄熱材16の中で動くときに可動部材13が受ける粘性抵抗が小さい場合、可動部材13と容器11の内周面との間の振動方向の距離の最大値は望ましくは1〜2mmである。一方、可動部材13が大きい場合、すなわち、蓄熱材16の中で動くときに可動部材13が受ける粘性抵抗が大きい場合、可動部材13と容器11の内周面との間の振動方向の距離の最大値は望ましくは1mm以下である。可動部材13が大型であり、蓄熱材16の中で動くときに可動部材13が受ける粘性抵抗が大きいほど、可動部材13の容器11の内周面との衝突による接触及び離間によって蓄熱材16の過冷却を解除することが難しくなる場合がある。この場合、可動部材13の容器11の内周面との摺動を利用することによって蓄熱材16の過冷却が有利に解除される。この場合には、可動部材13が容器11の内周面と摺動する面と垂直な方向における可動部材13と容器11の内周面との間の距離の最大値は、例えば0.1〜0.5mmである。
【0061】
蓄熱装置10a〜10cは、例えば、
図1A、
図2A、及び
図3Aに示す通り、仕切り部材12を構造物として備えている。仕切り部材12は、液相の蓄熱材16が通過可能な構造を有し、容器11の内部空間を複数の空間15に仕切っている。仕切り部材12は、例えば、
図1B、
図2B、及び
図3Bに示す通り、仕切り部材12と容器11の内周面との間に所定の隙間14を形成している。これにより、蓄熱材16が隙間14を通って蓄熱材16の対流が生じやすい。また、仕切り部材12は、例えば複数の貫通孔を有し、これにより液相の蓄熱材16が仕切り部材12を通過可能であってもよい。また、仕切り部材12は網によって形成されていてもよい。この場合でも、液相の蓄熱材16が仕切り部材12を通過可能である。
【0062】
図1A、
図2A、及び
図3Aに示す通り、例えば、仕切り部材12によって形成された複数の空間15のすべてにおいて少なくとも1つの可動部材13が配置されている。これにより、より確実に、蓄熱材16の結晶化を短期間で完了させることができる。
【0063】
図4Aに示す通り、仕切り部材12は、可動部材13を兼ねていてもよい。すなわち、容器11の内部空間が可動部材13によって複数の空間15に仕切られている。これにより、容器11の内部空間を複数の空間15に仕切ることができるとともに、容器11の内部に収容できる蓄熱材16の容積を大きくできる。
【0064】
蓄熱材16が過冷却状態である場合、蓄熱材16の融点から過冷却状態の蓄熱材16の温度を差し引いた差(過冷却度)が大きいほど、蓄熱材16の過冷却が解除されやすく、蓄熱材16の結晶化の速度も高い。しかし、冷房用途で蓄熱材16を利用する場合に、蓄熱材の過冷却度を大きくするためには、冷凍サイクルのコンプレッサーなどの蓄熱材16に冷熱を付与するために必要な機器が消費するエネルギーが大きくなってしまう。このため、蓄熱装置10a〜10dにおける蓄熱材16の過冷却度は、例えば10K以下であり、望ましくは8K以下であり、より望ましくは7K以下である。これにより、蓄熱材16に冷熱を蓄えるときに消費されるエネルギーを低減できる。
【0065】
蓄熱材16は、特に制限されないが、例えば、TBABと水との混合物、THFと水との混合物、クラスレートハイドレートを形成可能な水を含む別の混合物、クラスレートハイドレート以外の水和物を形成可能な水和塩である。なお、クラスレートハイドレート(包接水和物)とは、水分子が作る分子規模のかご構造の中に疎水性相互作用により様々なゲスト分子が入り込んだ包接化合物の総称である。ゲスト分子とは、水分子が作る「かご構造」の中に収まって安定化する分子を意味する。蓄熱材16は、例えば、冷房に適した温度範囲、暖房に適した温度範囲、又は冷凍に適した温度範囲に属する融点を有する。蓄熱材16は、安価で入手可能な材料であることが望ましい。蓄熱材16は、単一の種類の蓄熱材料であってもよく、2種類以上の蓄熱材料を含んでいてもよい。また、蓄熱材16は、各種の添加剤を含んでいてもよい。蓄熱材16に含まれる添加剤の例としては、防錆剤、粘度調整剤、整泡剤、酸化防止剤、脱泡剤、砥粒、充填剤、顔料、染料、着色剤、増粘剤、界面活性剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、耐熱安定剤、粘着付与剤、硬化触媒、安定剤、シランカップリング剤、及びワックスが挙げられる。蓄熱材16には、これらの添加剤が単独で含まれていてもよいし、2種類以上の添加剤の組み合わせが含まれていてもよい。本開示の蓄熱材の結晶化を完了させる方法は、蓄熱材16に含まれる添加剤の種類及び含有量は特に制限されない。
【0066】
蓄熱材16がクラスレートハイドレートを形成可能な材料である場合、蓄熱材16は例えば以下のように調製できる。まず、容器に入れた純水又はイオン交換水にクラスレートハイドレートを形成するためのゲスト物質を純水又はイオン交換水を撹拌しながら所定量まで徐々に加え、純水又はイオン交換水とゲスト物質とを十分に混合する。必要に応じて、上記の添加剤を、ゲスト物質と同時に、ゲスト物質に先立って、又はゲスト物質に続いて、純水又はイオン交換水に加えて、混合及び/又は撹拌してもよい。このようにして、蓄熱材16を調製できる。また、ゲスト物質と上記の添加剤とを予め混合した容器に純水又はイオン交換を供給する方法によっても蓄熱材16を調製できる。ゲスト物質及び添加剤を加える順序は特に制限されない。また、ゲスト物質又は添加剤の溶解又は分散を促進するために所定の温度に加熱して蓄熱材16を調製してもよい。この場合、ゲスト物質又は添加剤が化学的に分解することがないように加熱処理が行われる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例により本開示の蓄熱材の結晶化を完了させる方法及び蓄熱装置をより詳細に説明する。ただし、本開示の蓄熱材の結晶化を完了させる方法及び蓄熱装置は、以下の実施例に限定されない。
【0068】
<実施例1>
図1Aに示すような実施例1に係る蓄熱装置を準備した。実施例1に係る蓄熱装置の容器11の形状は直方体であり、容器11は、直方体である容器11の一面が透明なガラス板によって形成されている以外は、ステンレスによって形成されていた。容器11の内部空間は、ステンレス製の仕切り部材12によって、Z軸方向の寸法が2.7mmであり、かつ、X軸方向及びY軸方向の寸法がそれぞれ3.0mmである複数の空間15に区画されていた。すなわち、空間15の容積は、24.3mm
3(0.0243cm
3)であった。容器11の内部空間は、0.91719cm
3の容積を有していた。なお、容器11の内部空間の容積(0.91719cm
3)から仕切り部材12が占める容積を差し引いた差は、0.810171cm
3であった。実施例1に係る蓄熱装置の各空間15には1つの可動部材13が配置されていた。実施例1に係る蓄熱装置の可動部材13は、1.5mmの直径を有するステンレス製の球であった。複数の空間15の天井面と可動部材13との距離は1.2mmであった。容器11の内部空間は蓄熱材16である40重量%濃度のTBAB水容液によって満たされており、複数の空間15のそれぞれは可動部材13が別の空間15に移動しない程度の隙間14によって互いに連通していた。なお、40重量%濃度のTBAB水容液の融点は12℃である。
【0069】
容器11の周囲を所定の温度で水冷できる治具によって振動試験機に実施例1に係る蓄熱装置を固定した。その治具を用いて、蓄熱材16の温度が5℃になるように容器11の周囲を水冷した。このとき、蓄熱材16は、液相の状態を保っており、過冷却度が7Kの過冷却状態であった。次に、振動試験機を作動させ、周波数50Hz、振幅1.8mm、及び加速度80m/s
2という条件で、容器11にZ軸方向の振動を55秒間加えた。振動試験機による振動を開始してから60秒目に蓄熱材16の結晶化の進行状況を目視で確認した。その結果、蓄熱材16の結晶化が60秒目には完了していることが確認された。すなわち、容器11の内部空間の全体で蓄熱材16が結晶化していた。
【0070】
<実施例2>
図2Aに示すような実施例2に係る蓄熱装置を準備した。実施例2に係る蓄熱装置の容器11の形状は直方体であり、容器11は、直方体である容器11の一面が透明なガラス板によって形成されている以外は、ステンレスによって形成されていた。容器11の内部空間は、ステンレス製の仕切り部材12によって、Z軸方向の寸法が2.7mmであり、Y軸方向の寸法が3.0mmであり、X軸方向の寸法が10.0mmである複数の空間15に区画されていた。すなわち、空間15の容積は、81.0mm
3(0.081cm
3)であった。容器11の内部空間は、1.443cm
3の容積を有していた。なお、容器11の内部空間の容積(1.443cm
3)から仕切り部材12が占める容積を差し引いた差は、1.330cm
3であった。実施例2に係る蓄熱装置の各空間15には5つの可動部材13が配置されていた。実施例2に係る蓄熱装置の可動部材13は、1.5mmの直径を有するステンレス製の球であった。複数の空間15の天井面と可動部材13との距離は1.2mmであった。容器11の内部空間は蓄熱材16である40重量%濃度のTBAB水容液によって満たされており、複数の空間15のそれぞれは可動部材13が別の空間15に移動しない程度の隙間14によって互いに連通していた。
【0071】
容器11の周囲を所定の温度で水冷できる治具によって振動試験機に実施例2に係る蓄熱装置を固定した。その治具を用いて、蓄熱材16の温度が5℃になるように容器11の周囲を水冷した。このとき、蓄熱材16は、液相の状態を保っており、過冷却度が7Kである過冷却状態であった。次に、振動試験機を作動させ、周波数50Hz、振幅1.8mm、及び加速度80m/s
2という条件で、容器11にZ軸方向の振動を55秒間加えた。振動試験機による振動を開始してから60秒目に蓄熱材16の結晶化の進行状況を目視で確認した。その結果、蓄熱材16の結晶化が60秒目には完了していることが確認された。
【0072】
<実施例3>
図3Aに示すような実施例3に係る蓄熱装置を準備した。実施例3に係る蓄熱装置の容器11の形状は直方体であり、容器11は、直方体である容器11の一面が透明なガラス板によって形成されている以外は、ステンレスによって形成されていた。容器11の内部空間は、ステンレス製の仕切り部材12によって、Z軸方向の寸法が2.2mmであり、Y軸方向の寸法が2.2mmであり、X軸方向の寸法が21.0mmである複数の空間15に区画されていた。すなわち、空間15の容積は、101.6mm
3(0.1016cm
3)であった。容器11の内部空間は、0.9101cm
3の容積を有していた。なお、容器11の内部空間の容積(0.9101cm
3)から仕切り部材12が占める容積を差し引いた差は、0.8461cm
3であった。容器11の、ステンレスによって形成された内周面には、金属光沢がない梨地になるようにサンドブラストによって粗面化処理を施した。実施例3に係る蓄熱装置の各空間15には、
図3C〜
図3Eに示す、波板で形成されたステンレス製の1つの可動部材13が配置されていた。可動部材13は、Z軸方向の寸法が2.0mmであり、Y軸方向の寸法が2.0mmであり、X軸方向の寸法が20.0mmであった。可動部材13を形成する波板の厚みは0.3mmであった。また、可動部材13は、平面視で4mmの波長を有する波形が5回繰り返して出現する形状を有していた。容器11の内部空間は蓄熱材16である40重量%濃度のTBAB水容液によって満たされており、複数の空間15のそれぞれは可動部材13が別の空間15に移動しない程度の隙間14によって互いに連通していた。
【0073】
容器11の周囲を所定の温度で水冷できる治具によって振動試験機に実施例3に係る蓄熱装置を固定した。その治具を用いて、蓄熱材16の温度が5℃になるように容器11の周囲を水冷した。このとき、蓄熱材16は、液相の状態を保っており、過冷却度が7Kである過冷却状態であった。次に、振動試験機を動作させ、周波数50Hz、振幅1.8mm、及び加速度80m/s
2という条件で、容器11にZ軸方向の振動を55秒間加えた。振動試験機による振動を開始してから60秒目に蓄熱材16の結晶化の進行状況を目視で確認した。その結果、蓄熱材16の結晶化が60秒目には完了していることが確認された。
【0074】
<実施例4>
図4A及び
図4Bに示すような実施例4に係る蓄熱装置を準備した。実施例4に係る蓄熱装置の容器11の形状は直方体であり、容器11は、直方体である容器11のY軸方向に並んだ一対の面の一方が透明なフィルムで形成されており、直方体である容器11のその他の面はアルミニウム箔と樹脂フィルムとが積層された積層フィルムによって形成されていた。容器11は、Z軸方向の寸法が31.0mmであり、Y軸方向の寸法が2.2mmであり、X軸方向の寸法が22.0mmである内部空間を有していた。すなわち、容器11の内部空間の容積は、1500.4mm
3(1.5004cm
3)であった。容器11の、ステンレスによって形成された内周面には、金属光沢がない梨地になるようにサンドブラストによって粗面化処理を施した。実施例4に係る蓄熱装置の内部空間には、可動部材13が配置されていた。可動部材13は、Z軸方向の寸法が30.0mmであり、Y軸方向の寸法が2.0mmであり、X軸方向の寸法が0.3mmである10枚のステンレス製の薄板を含んでいた。可動部材13において、10枚のステンレス製の薄板はX軸方向に2mm間隔で並んでおり、10枚のステンレス製の薄板のZ軸方向の両端が連結されていた。可動部材13の隣り合う2枚のステンレス製の薄板によって空間15が形成されていた。各空間15の容積は120mm
3(0.12cm
3)であった。容器11の内部空間の容積(1.5004cm
3)から可動部材13が占める容積(30.0mm×2.0mm×0.3mm×10枚+両端の連結部分の容積)を差し引いた差は、1.2988cm
3であった。容器11の内部空間は蓄熱材である40重量%濃度のTBAB水容液によって満たされていた。
【0075】
容器11の周囲を所定の温度で水冷できる治具によって振動試験機に実施例4に係る蓄熱装置を固定した。その治具を用いて、蓄熱材16の温度が5℃になるように容器11の周囲を水冷した。このとき、蓄熱材16は、液相の状態を保っており、過冷却度が7Kである過冷却の状態であった。次に、振動試験機を作動させ、周波数50Hz、振幅1.8mm、及び加速度80m/s
2という条件で、容器11にY軸方向の振動を55秒間加えた。振動試験機による振動を開始してから60秒目に蓄熱材16の結晶化の進行状況を目視で確認した。その結果、蓄熱材16の結晶化が60秒目には完了していることが確認された。
【0076】
<実施例5>
図4A及び
図4Bに示すような実施例5に係る蓄熱装置を準備した。実施例5に係る蓄熱装置の容器11の形状は直方体であった。直方体である容器11のY軸方向に並んだ一対の面の一方が透明なフィルムで形成されており、直方体である容器11のその他の面はアルミニウム箔と樹脂フィルムとが積層された積層フィルムによって形成されていた。容器11は、Z軸方向の寸法が31.0mmであり、Y軸方向の寸法が2.2mmであり、X軸方向の寸法が68.0mmである内部空間を有していた。すなわち、容器11の内部空間の容積は、4,637.6mm
3(4.6376cm
3)であった。容器11の、ステンレスによって形成された内周面には、金属光沢がない梨地になるようにサンドブラストによって粗面化処理を施した。実施例5に係る蓄熱装置の内部空間には、可動部材13が配置されていた。可動部材13は、Z軸方向の寸法が30.0mmであり、Y軸方向の寸法が2.0mmであり、X軸方向の寸法が0.3mmである30枚のステンレス製の薄板を含んでいた。可動部材13において、30枚のステンレス製の薄板はX軸方向に2mm間隔で並んでおり、30枚のステンレス製の薄板のZ軸方向の両端が連結されていた。可動部材13の隣り合う2枚のステンレス製の薄板によって空間15が形成されていた。各空間15の容積は120mm
3(0.12cm
3)であった。容器11の内部空間の容積(4.6376cm
3)から可動部材13が占める容積(30.0mm×2.0mm×0.3mm×30枚+両端の連結部分の容積)を差し引いた差は、4.028cm
3であった。容器11の内部空間は蓄熱材16である40重量%濃度のTBAB水容液によって満たされていた。
【0077】
実施例5に係る蓄熱装置を水が貯まった水槽に沈め、水槽の水温を調整することによって蓄熱材16の温度が5℃になるように容器11の周囲を冷却した。このとき、蓄熱材16は、液相の状態を保っており、過冷却度が7Kである過冷却の状態であった。次に、Y軸方向において透明なフィルムと反対側に位置する容器11の外周面を、長さ100mmのラミネート用のローラーで押圧しながらローラーをZ軸方向に速度30mm/sでその外周面全体を往復移動させた。容器11の外周面をローラーで押す圧力は1〜10N/mm
2に調整した。容器11はローラーによる容器11の外周面の押圧により弾性変形し、ローラーの往復移動により、可動部材13と容器11の内周面とが接触及び離間を繰り返した。ローラーによる容器11の外周面の押圧を開始してから55秒目にローラーを容器11の外周面から離し、ローラーによる容器11の外周面の押圧を開始してから60秒目に蓄熱材16の結晶化の進行状況を目視で確認した。その結果、蓄熱材16の結晶化が60秒目には完了していることが確認された。
【0078】
<実施例6>
容器11及び可動部材13が以下の点で異なる以外は実施例5と同様にして実施例6に係る蓄熱装置を準備した。実施例6に係る蓄熱装置の容器11は、Z軸方向の寸法が151.0mmであり、Y軸方向の寸法が2.2mmであり、X軸方向の寸法が311.5mmである内部空間を有していた。すなわち、容器11の内部空間の容積は、103480.3mm
3(103.4803cm
3)であった。また、可動部材13は、Z軸方向の寸法が150.0mmであり、Y軸方向の寸法が2.0mmであり、X軸方向の寸法が0.5mmである125枚のステンレス製の薄板を含んでいた。可動部材13において、125枚のステンレス製の薄板がX軸方向に2mm間隔で並んでおり、125枚のステンレス製の薄板のZ軸方向の両端が連結されていた。可動部材13の隣り合う2枚のステンレス製の薄板によって空間15が形成されていた。各空間15の容積は600mm
3(0.6cm
3)であった。容器11の内部空間の容積(103.4803cm
3)から可動部材13が占める容積(150.0mm×2.0mm×0.5mm×125枚+両端の連結部分の容積)を差し引いた差は、84.2343cm
3であった。実施例6に係る蓄熱装置について、実施例5と同様にして蓄熱材16の結晶化の進行状況を確認した。その結果、ローラーによる容器11の外周面の押圧を開始してから60秒目には蓄熱材16の結晶化が完了していることが確認された。
【0079】
<比較例>
図5A及び
図5Bに示すような比較例に係る蓄熱装置20を準備した。比較例に係る蓄熱装置20の容器21の形状は直方体であり、容器21は、容器21の一面が透明なガラス板によって形成されている以外は、ステンレスによって形成されていた。容器21の内部空間25は、Z軸方向の寸法が2.7mmであり、かつ、X軸方向及びY軸方向の寸法がそれぞれ19.5mmである単一の空間として形成されていた。容器21の内部空間25の内容積は、約1027mm
3(約1.027cm
3)であった。比較例1に係る蓄熱装置の内部空間25には1つの可動部材13が配置されていた。可動部材13は、1.5mmの直径を有するステンレス製の球であった。内部空間25の天井面と可動部材13との距離は1.2mmであった。容器21の内部空間は蓄熱材16である40重量%濃度のTBAB水容液によって満たされていた。なお、40重量%濃度のTBAB水容液の融点は12℃である。
【0080】
容器21の周囲を所定の温度で水冷できる治具によって振動試験機に比較例に係る蓄熱装置20を固定した。その治具を用いて、蓄熱材16の温度が5℃になるように容器21の周囲を水冷した。このとき、蓄熱材16は、液相の状態を保っており、過冷却度が7Kの過冷却状態であった。次に、振動試験機を作動させ、周波数50Hz、振幅1.8mm、及び加速度80m/s
2という条件で、容器21にZ軸方向の振動を55秒間加えた。振動試験機による振動を開始してから60秒目に蓄熱材16の結晶化の進行状況を目視で確認した。その結果、蓄熱材16の結晶化が60秒目には完了していないことが確認された。引き続き、結晶化が完了するまでの時間を計測した所、600秒を要することが確認された。
【0081】
実施例1〜6から示されるように、複数の空間15の容積が小さいほど、蓄熱材全体としての結晶化を短期間に完了させることが容易となる。これは、複数の空間15の容積が小さいほど、複数の空間15のそれぞれの内部において、同時多発的に結晶核を発生させ、さらに拡散させることが容易となることによると考えられる。特に、実施例1〜6に係る蓄熱装置は、1分以内で過冷却状態の蓄熱材16の結晶化を完了できる。このため、実施例1〜6に係る蓄熱装置は、自動車のアイドリングストップ時に車室に冷房を提供するのに特に望ましい性能を有している。