特許第6734181号(P6734181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6734181行動量の個体差を減弱させた魚類の脳機能の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6734181
(24)【登録日】2020年7月13日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】行動量の個体差を減弱させた魚類の脳機能の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20200728BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   G01N33/15 Z
   G01N33/48 N
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-225419(P2016-225419)
(22)【出願日】2016年11月18日
(65)【公開番号】特開2018-81062(P2018-81062A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】蓮村 卓広
(72)【発明者】
【氏名】細井 紗弥佳
(72)【発明者】
【氏名】目黒 真一
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/106544(WO,A1)
【文献】 特開平01−240129(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103299944(CN,A)
【文献】 吉田将之,魚類における恐怖・不安行動とその定量的観察,比較生理生化学,日本,2012年 1月11日,2011, Vol.28, No.4,pp.317-325
【文献】 獅々見照,獅々見元太郎,小型魚類用シャトル箱の開発−ゼブラフィッシュ(Danio rerio)を用いて−,広島修大論集,日本,2009年 2月,Vol.49, No.2,pp.13-32
【文献】 AOKI Tazu et al.,Imaging of Neural Ensemble for the Retrieval of a Learned Behavioral Program,Neuron,2013年,Vol.78,pp.881-894
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00,33/15,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類を用いた脳機能の評価方法であって
動量の個体差を減弱させた魚類に対して、能動回避学習評価に基づき脳機能を評価する方法であり、
前記能動回避学習評価の前に外部刺激を与える逃避学習試験を行い、
逃避学習試験の逃避率が50%以下である個体を、能動回避学習評価が成立しない個体として予め排除することで、前記魚類の行動量の個体差を減弱させる、
魚類を用いた脳機能の評価方法
【請求項2】
前記能動回避が、光の照射、又は音若しくは振動の発生が電気刺激の合図とした条件下で、光、音若しくは振動を検知した場合、電気刺激を受けることなく、予め電気刺激から回避することである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脳機能として記憶学習能力を評価する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
行動量の個体差を減弱させた前記魚類が、行動量過多により条件学習惹起が困難な個体に対しても期待する条件学習能力を惹起させた魚類である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
行動量過多により条件学習惹起が困難な個体に対しても期待する条件学習能力を惹起させた魚類が、光の照射、音若しくは振動の発生、又は、光の照射、音若しくは振動の発生と電気刺激とを受けた際に、行動量過多の個体が電気刺激を回避若しくは逃避した場合、電気刺激が実施されていた領域に一定時間光の照射、又は音若しくは振動の発生と電気刺激の発生を行い、電気刺激が生じている領域に再び戻ることがないように、個体に学習させた魚類である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記魚類が金魚、メダカ又はゼブラフィッシュである、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
外部刺激を魚類群に与えて逃避学習試験を行い、
逃避学習試験の逃避率が50%以下である個体を、能動回避学習評価が成立しない個体として予め排除することで、前記魚類群の行動量の個体差を減弱させ、
行動量の個体差を減弱させた前記魚類群に対して、脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤の候補物質を投与又は摂取させ、
能動回避学習評価に基づいて魚類群の各個体の脳機能を評価し、
脳機能の向上又は改善が見られた場合に、投与又は摂取させた候補物質を脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤として選択する、
脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
外部刺激を魚類群に与えて逃避学習試験を行い、
逃避学習試験の逃避率が50%以下である個体を、能動回避学習評価が成立しない個体として予め排除することで、前記魚類群の行動量の個体差を減弱させ、
行動量の個体差を減弱させた前記魚類群に対して、脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤の候補物質を投与又は摂取させ、
能動回避学習評価に基づいて魚類群の各個体の脳機能を評価し、
脳機能の向上又は改善が見られた場合に、投与又は摂取させた候補物質を脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤として評価する、
脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の脳機能の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼブラフィッシュ(Danio rerio)は、成体の体長が4〜5cm程度のコイ科の小型淡水魚である。ゼブラフィッシュは、他の動物と比較して飼育が容易である。さらにゼブラフィッシュは、多産であり、世代交代期間が短く、遺伝子操作や機能解析が容易である、という遺伝学の研究に適した特徴も有する。また、ゼブラフィッシュの発生や器官形成のメカニズムの多くは、ヒトを含む高等脊椎動物との間で共通性が高い。そのためゼブラフィッシュは、医学、生理学、生物科学などの領域で実験動物(モデル動物)として広く用いられている。
また、金魚(Carassius auratus)や、メダカ(ミナミメダカ(Oryzias latipes)、キタノメダカ(Oryzias sakaizumii)など)も、ゼブラフィッシュと同様の特徴を有することから、各種領域でモデル動物として広く用いられている。
【0003】
記憶学習機能などの脳機能の研究には、マウスなどのげっ歯類の動物がモデル動物として用いられている。マウスの脳の構造については、ヒトと同様、大脳、中脳、延髄、海馬、扁桃体、線条体に相当する脳部位が存在する。さらに、アルツハイマー病に関連する遺伝子(APP、PSEN1、PSEN2、BACE1等)の存在も知られている。
さらに脳機能の研究では、マウスなどのげっ歯類の動物に変えて、ゼブラフィッシュや金魚などを用いた研究も進んでいる。このうちゼブラフィッシュは、マウスと同様、大脳、中脳、延髄、海馬、扁桃体、線条体に相当する脳部位が存在する。さらに、アルツハイマー病に関連する遺伝子も存在する。ゼブラフィッシュではこのような脳機能の特徴に加え、飼育が容易であり、多産であり、世代サイクルが短く(高いスループット性)、胚が透明であり、遺伝子組換えが容易である、という特徴を有する。よって、脳機能の研究において、モデル動物としての魚類の使用が期待されている。
【0004】
モデル動物としての魚類に関して、行動パターンを解析することで脳機能を研究することが行われている。例えば、非特許文献1では、ゼブラフィッシュが記憶に基づいて意思決定を行う際の脳の神経活動を可視化することが記載されている。そして、この技術を応用し、脳機能低下の予防又は改善剤などの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Aoki, et al., Neuron, 2013, vol. 78(5), p. 881-894
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脳機能の解明のために、ゼブラフィッシュ等の魚類にモデル動物としての期待が寄せられている。
これまで、マウスなどのげっ歯類は、モデル動物としてその地位を確立している。しかしゼブラフィッシュ等の魚類は、脳機能の研究のためのモデル動物としては未成熟である。
【0007】
そこで本発明は、魚類をモデル動物として使用し、脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤のスクリーニングなどに適用可能な、信頼性の高い脳機能の評価方法を確立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。そして、行動パターンを解析することで、ゼブラフィッシュ等の魚類の脳機能への薬剤の影響が確認された。
しかし、ゼブラフィッシュ等の魚類の行動パターンは、音、光、振動、電気刺激などの外部刺激に大きく影響される。また、他のモデル動物と比較して魚類は、行動量の個体差が大きく、行動パターンの再現性に劣る。さらに、魚類の行動パターンの解析作業は煩雑であり、スループット性が低い。
【0009】
そこで本発明者らはさらに検討を行った。その結果、魚類の行動量の個体差を減弱させることで、採用可能な行動解析データが増加し、解析データのぶれを抑制できることを見い出した。そして、このような魚類に対して、能動回避学習評価に基づき脳機能を評価することで、信頼性の高い結果が得られることを見い出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0010】
本発明は、魚類を用いた脳機能の評価方法であって、行動量の個体差を減弱させた魚類に対して、能動回避学習評価に基づき脳機能を評価する方法に関する。
【0011】
さらに本発明は、行動量の個体差を減弱させた魚類群に対して、脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤の候補物質を投与又は摂取させ、能動回避学習評価に基づいて魚類群の各個体の脳機能を評価し、脳機能の向上又は改善が見られた場合に、投与又は摂取させた候補物質を脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤として選択する、脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤のスクリーニング方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の脳機能の評価方法によれば、行動量の個体差を減弱させた魚類をモデル動物として用いて、信頼性の高い脳機能の評価結果が得られる。さらに本発明の脳機能の評価方法は、脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤のスクリーニング方法などに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】能動回避学習を説明するための概略図である。
図2】実施例で作製した能動回避学習試験用装置を撮影した、図面代用写真である。図2(a)は試験装置の正面外観を撮影した図面代用写真であり、図2(b)は試験装置の水槽の平面方向から撮影した図面代用写真であり、図2(c)は水槽の中央に設けた中央ダムの形状を撮影した図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の脳機能の評価方法で使用する魚類は、適宜選択することができる。
本発明では、省コスト及び省スペースでの飼育が可能である点、世代交代期間が短い点、様々な目的の科学研究用に従来から用いられている点、などから、金魚、メダカ又はゼブラフィッシュを用いることが好ましい。また、ヒトと同様の脳部位が存在する点、アルツハイマー病に関連する遺伝子が既に解明されている点、脳の神経活動を可視化できる点、などから、ゼブラフィッシュを用いることがより好ましい。
【0015】
前述のように、ゼブラフィッシュなどの魚類の行動解析を行った結果、行動パターンは外部刺激に大きく影響された。また、行動量の個体差が大きく、魚類をモデル動物として使用した場合、行動パターンの再現性に劣る。さらに、魚類の行動パターンの解析作業は煩雑であり、スループット性が低い。
これに対して本発明では、能動回避学習評価における行動量の個体差を減弱させた魚類群を使用する。能動回避学習評価における行動量の個体差を減弱させることで、魚類の各個体間の行動量及び行動パターンを平均化できる。その結果、採用可能な行動解析データが増加し、解析データのぶれを抑制できる。
【0016】
本明細書において「学習」とは、体験などを通して経験を蓄えることをいう。そして経験によって、動物の行動が変容する。
また本明細書において「能動回避学習」とは、個体が記憶に基づいて意思決定を行い、その決定を行動に移すことをいう。「能動回避」とは具体的に、近い将来起こる身の危険が起こる環境下に個体が置かれた場合、その危険を察知し、いずれ起こる身の危険から予め回避する行動をいう。例えば、光の照射や、音若しくは振動の発生が電気刺激の合図とした条件下で、光、音若しくは振動を検知した場合、電気刺激を受けることなく、予め電気刺激から回避する行動が挙げられる。
ここで「能動回避」は、実際に身の危険が及んだ場合にその危険から逃避する「逃避行動」とは区別される。「逃避行動」とは例えば、実際に電気刺激などの外部刺激を受けた際に、その刺激から回避するためにとる行動をいう。
【0017】
能動回避学習の評価について、図1に示す能動回避学習を説明するための概略図に基づいて具体的に説明する。しかし本発明はこれに制限するものではない。
まず、図1(a)に示すように、通路2を設けた中央仕切り(ダム)3にて2つの領域に区切られた試験水槽1に、試験動物(魚)4を1個体投入する。試験水槽1では、区切られた2つの領域それぞれに、ランプ5(5a、5b)を設ける。そして、能動回避学習試験開始前に適当な馴化時間を設ける。
能動回避学習試験を開始するとまず、試験動物4がいる試験水槽1の領域に設けたランプ5aを点灯させる(図1(a))。そして一定時間の経過後に、ランプ5aの点灯と併せて、同じ領域に軽い電気刺激6(忌避刺激)を一定時間与える。このとき試験動物4は、他方の領域へ移動する(図1(b))。あるいは、試験動物4が移動せず電気刺激6を受ける(図1(c))。所定の電気刺激6の付与後、ランプ5aを消灯し、同時に電気刺激6も停止させる。
このような操作を繰り返すと、試験動物4は、ランプ5の点灯後に電気刺激6が発生することを学習及び記憶し、ランプ5が点灯した場合他方の領域へ移動し、電気刺激6を能動的に回避することができるようになる。このような記憶学習能力を、各個体の行動パターンを解析することで評価する。
なお、図1(b)に示すように試験動物4が電気刺激6の発生しない領域に移動した場合において、ランプ5aが点灯した後、電気刺激6が与えられる前に他方の領域へ移動し、電気刺激6を避けることができた場合を「回避」と評価する。これに対して、ランプ5aが点灯した後電気刺激6を受けたが、電気刺激6の付与が終了する前に他方の領域へ移動した場合を「逃避」と評価する。そして、図1(c)に示すように電気刺激6を受けても他方の領域に移動せず、電気刺激6を指定時間いっぱいに受けた場合を「能動回避及び逃避失敗」と評価する。そして、ランプ5の点灯が電気刺激6の合図と認識でき、能動回避行動を取れる個体は、認知機能、学習能力、並びに求心性、中枢、及び遠心性を含む神経系全体、のいずれかが優れ、脳機能の優れた個体として評価する。
また、図1では、試験開始時に試験動物4が水槽1の左側の領域に存在している状態を示しているが、試験開始時に試験動物4が右側の領域に存在していてもよい。この場合、点灯させるランプ5、及び電気刺激6を与える領域は、図1に示した状態とは逆となる。また、光照射に変えて、音や振動を発生させ、同様の試験を行ってもよい。
【0018】
能動回避学習評価における行動量の個体差を減弱させる方法としては、前述の能動回避学習評価が成立しない個体を排除する方法が挙げられる。
「能動回避学習評価が成立しない」とは、電気刺激などの外部刺激を受けても逃避行動をとれないこと、電気刺激などの外部刺激を感じることができないこと、寿命が近いため行動量が著しく低いこと、外部刺激により容易にパニック状態に陥ること、若齢すぎて脳機能が十分に発達していないこと、通常の飼育環境と違う試験環境への馴化能力が低いこと、などが挙げられる。また、能動回避学習評価が成立しない個体を排除する方法としては、前述の能動回避学習評価の前に、電気刺激などの外部刺激を与える逃避学習試験を行い、一定値以下(好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下)の逃避率を示す個体を排除する方法が挙げられる。
【0019】
本発明において、能動回避学習評価が成立しない個体を排除するために、高齢すぎる個体や若齢すぎる個体を排除する(使用しない)方法、環境の変化に対し馴化が遅い個体を行動の観察から選別、排除する方法、通常飼育の行動を観察し鬱傾向等で行動量が低い個体を排除する方法、なども採用することができる。
【0020】
能動回避学習評価における行動量の個体差を減弱させる別の方法としては、行動量過多により条件学習惹起が困難な個体に対しても期待する条件学習を惹起させ、過多な行動を抑制する方法が挙げられる。
「条件学習を惹起させる」とは、行動量過多により、危険を偶然に回避する個体、若しくは危険からの逃避が多発する個体に対しても、行動量過多を利用して条件学習を惹起させることを言う。例えば、光の照射や、音若しくは振動の発生、又は、光の照射や、音若しくは振動の発生と電気刺激を受けた際に、行動量過多の個体が電気刺激を回避若しくは逃避した場合でも、電気刺激が実施されていた領域に一定時間光の照射や、音若しくは振動の発生と電気刺激の発生を行い、電気刺激が生じている領域に再び戻ることがないようにする方法が挙げられる。
【0021】
本発明において、能動回避学習を実施するために好適に用いることができる、コンピュータープログラムについて説明する。しかし本発明はこれに制限するものではない。
【0022】
能動回避学習を実施するための、最も基本的なプログラムとして、下記のとおりに設定することが好ましい。下記基本プログラム1を用いた評価方法はシンプルであり、自動化が容易である。そして、同時に複数検体を評価することも可能である。さらに、各工程の時間や、回数を適宜削減することで、評価効率(時間当たり処理数)が向上する。

(基本プログラム1)
(1)ゼブラフィッシュを投入した水槽に、光の照射や外部刺激を与えない、訓化無刺激工程を、1〜30分、好ましくは15〜25分、に設定する。
(2)ゼブラフィッシュが存在する領域に光照射(外部刺激の合図)を与える時間を、5〜20秒、好ましくは7秒〜15秒、さらに好ましくは10秒、に設定する。
(3)ゼブラフィッシュが存在する領域に光照射及び外部刺激(電気刺激)を与える時間を、5〜20秒、好ましく7秒〜15秒、さらに好ましくは10秒、に設定する。
(4)上記(3)の工程の後に、インターバルとして5〜30秒、さらに好ましくは7.5秒〜22.5秒、を設定する。
(5)上記(2)〜(4)の工程を1トライアルとし、20〜80トライアル、好ましくは30〜60トライアル、を繰り返す。

本明細書において、基本プログラム1の前記工程(2)で行う「光照射」は、適宜音や振動の発生に変え、これを外部刺激の合図としてもよい。
また、前記工程(4)などに記載の「インターバル」とは、一定の時間を指すものではなく、トライアルごとに適宜変更される。インターバルの時間を前記範囲に設定することで、トライアル中に生じる一定のリズムの学習が、本来の学習のノイズとして現れることを防ぐことができる。
【0023】
前記基本プログラム1において、外部刺激を与えた領域から他方の領域へゼブラフィッシュが移動した場合、その時点で外部刺激を停止させてもよい。このように外部刺激を停止することで、外部刺激が印加されていない領域への多少の刺激が漏れ、個体を混乱(撹乱)させることを防ぐことができる。さらに、試験時間の短縮や、個体へのストレスの低減にも繋がる。
さらに、外部刺激を与えてもゼブラフィッシュが移動しない場合、外部刺激付与の最長時間経過後に、外部刺激の付与を停止させてもよい。
前記基本プログラム1における電気刺激は適宜設定することができる。例えば、1〜5V、好ましくは2〜3V、の電気刺激を与えることが好ましい。また、前記電気刺激は、交流電流が好ましい。さらに、前記電気刺激は連続的なパルス電流であってもよい。電気刺激を与える場所(領域)、サイズ、距離は、適宜設定することができる。具体的には、後述の実施例に示す試験装置(図2(b)参照)を参考に、常法に従い設定することができる。また設定する電気抵抗は、0.1〜5.0kΩが好ましく、0.5〜2.5kΩがより好ましく、1.0〜2.0kΩがさらに好ましい。
また前記基本プログラム1において、上記工程(2)〜(5)を1セッションとし、1〜5セッション、好ましくは2セッション繰り返すことが好ましい。
【0024】
能動回避学習を実施するための、別の好ましいプログラムとして、下記のとおりに設定することができる。下記基本プログラム2は、行動量過多により条件学習惹起が困難な個体に対しても期待する条件学習を惹起させるよう設定されており、前記基本プログラム1を改良したものである。

(基本プログラム2)
(1)ゼブラフィッシュを投入した水槽に、光の照射や外部刺激を与えない、訓化無刺激工程を、1〜30分、好ましくは15〜25分、に設定する。
(2)ゼブラフィッシュが存在する領域に光照射(外部刺激の合図)を与える時間を、5〜20秒、好ましくは7秒〜15秒、さらに好ましくは10秒、に設定する
(3)ゼブラフィッシュが存在する領域に光照射と外部刺激(電気刺激)を与える時間を、5〜20秒、好ましくは7秒〜15秒、さらに好ましくは10秒、に設定する。
(4)上記(3)の工程の後に、インターバルとして5〜30秒、さらに好ましくは7.5秒〜22.5秒、を設定する。
(5)上記(2)〜(4)の工程を1トライアルとし、20〜80トライアル、好ましくは30〜60トライアル、を繰り返す。

本明細書において、基本プログラム2の前記工程(2)で行う「光照射」は、適宜音や振動の発生に変え、これを外部刺激の合図としてもよい。
【0025】
前記基本プログラム2において、外部刺激を与えた領域から他方の領域へゼブラフィッシュが移動した場合、移動後、刺激を与えた領域で3秒間〜7秒間、好ましくは5秒間、の光刺激及び電気刺激を行った後に停止することが好ましい。行動量過多により条件学習惹起が困難な個体に対しても期待する条件学習を惹起させ、過多な行動を抑制することができる。
外部刺激を与えてもゼブラフィッシュが移動しない場合は、刺激付与の最長時間経過後に、外部刺激の付与を停止させてもよい。なお、ここでの「最長時間」とは、個体が存在する領域に光照射(外部刺激の合図)を与える時間と、個体が存在する領域に光照射と外部刺激(電気刺激)を与える時間との合算である。よって、最長時間としては、10秒〜40秒が好ましく、15秒〜30秒が好ましく、20秒がより好ましい。
前述の一連の刺激を付与している最中に、刺激を与えた領域から他方の領域へ試験動物が移動し、移動後、刺激を与えた領域で一定時間の光刺激及び電気刺激を行った場合は、プログラム時間の短縮のため、この時間はその直後のインターバル時間に含まれることが好ましい。
【0026】
前記基本プログラム2における電気刺激は適宜設定することができる。例えば、1〜5V、好ましくは2〜3V、の電気刺激を与えることが好ましい。また、前記電気刺激は、交流電流が好ましい。さらに、前記電気刺激は連続的なパルス電流であってもよい。電気刺激を与える場所(領域)、サイズ、距離は、適宜設定することができる。具体的には、後述の実施例に示す試験装置(図2(b)参照)を参考に、常法に従い設定することができる。また設定する電気抵抗は、0.5〜2.5kΩが好ましく、1.0〜2.0kΩがより好ましい。
前記基本プログラム2において、上記工程(2)〜(5)を1セッションとし、1〜5セッション、好ましくは2セッション繰り返すことが好ましい。
【0027】
能動回避学習評価が成立しない個体を比較的簡便、短時間の試験によって排除するために、事前逃避学習評価試験を行うことが好ましい。
前述の事前逃避学習評価試験を行うためのプログラムとして、下記のとおりに設定することが好ましい。

(基本プログラム3)
(1)ゼブラフィッシュを投入した水槽に、光の照射や外部刺激を与えない、訓化無刺激工程を1〜30分、好ましくは5〜15分、に設定する。
(2)ゼブラフィッシュが存在する領域に外部刺激(電気刺激)を与える時間を、1〜30秒、好ましくは5〜25秒、さらに好ましくは10秒〜15秒、に設定する。
(3)上記(2)の工程の後に、インターバルとして5〜30秒、好ましくは7.5秒〜22.5秒、を設定する。
(4)上記(2)〜(3)の工程を1トライアルとし、10〜60トライアル、好ましくは15〜30トライアル、さらに好ましくは20トライアル、を繰り返す。
【0028】
前記基本プログラム3において、外部刺激を与えた領域から他方の領域へゼブラフィッシュが移動した場合、その時点で外部刺激を停止させてもよい。
外部刺激を与えてもゼブラフィッシュが移動しない場合は、刺激付与の最長時間経過後に、外部刺激の付与を停止させてもよい。
前記基本プログラム3における電気刺激は適宜設定することができる。例えば、1〜5V、好ましくは2〜3V、の電気刺激を与えることが好ましい。また、前記電気刺激は、交流電流が好ましい。さらに、前記電気刺激は連続的なパルス電流であってもよい。電気刺激を与える場所(領域)、サイズ、距離は、適宜設定することができる。具体的には、後述の実施例に示す試験装置(図2(b)参照)を参考に、常法に従い設定することができる。また設定する電気抵抗は、0.5〜2.5kΩが好ましく、1.0〜2.0kΩがより好ましい。
また前記基本プログラム3において、上記工程(2)〜(4)を1セッションとし、1〜5セッション、好ましくは3セッション繰り返すことが好ましい。
上記基本プログラム3を用いた事前逃避学習評価試験を行い、複数のセッション中、一度でも逃避率が50%以上、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、を示さない個体を排除することで、能動回避学習評価が成立しない個体を排除することが好ましい。
【0029】
前記基本プログラム1〜3における「光の照射」とは、外部刺激の合図として光を照射することを指し、個体の行動パターンを観察するために必要な照明を指すものではない。
【0030】
本発明では前述のように、能動回避学習評価における行動量の個体差を減弱させ、試験動物の行動量を平均化する。行動量を平均化することによって、試験動物個体間の行動パターンのばらつきが減少する。そのため、行動パターンの解析に採用する試験プログラムを簡略化でき、スループット性を向上させることができる。さらに、能動回避学習評価が成立しない個体を排除することで、脳機能の評価結果の精度を向上させることもできる。
【0031】
本発明の脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤のスクリーニング方法は、前述の魚類の脳機能の評価方法を利用して行う。
まず、行動量の個体差を減弱させた魚類群に対して、候補物質を投与又は摂取させる。その後、本発明の魚類の脳機能の評価方法により、各個体の脳機能を評価する。そして、脳機能の向上又は改善が見られた場合に、投与又は摂取させた候補物質を脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤として選択する。
【0032】
また、本発明の脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤の評価方法も、前述の魚類の脳機能の評価方法を利用して行う。
まず、行動量の個体差を減弱させた魚類群に対して、候補物質を投与又は摂取させる。その後、本発明の魚類の脳機能の評価方法により、各個体の脳機能を評価する。そして、脳機能の向上又は改善が見られた場合に、投与又は摂取させた候補物質を脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤として評価する。
【0033】
本明細書において「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止若しくは遅延、又は個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。また、本明細書において「改善」とは、疾患、症状若しくは状態の好転若しくは緩和、疾患、症状若しくは状態の悪化の防止若しくは遅延、又は疾患、症状若しくは状態の進行の逆転、防止若しくは遅延をいう。
【0034】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の脳機能の評価方法、並びに脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤のスクリーニング方法を開示する。
【0035】
<1>魚類を用いた脳機能の評価方法であって、行動量の個体差を減弱させた魚類に対して、能動回避学習評価に基づき脳機能を評価する方法。
<2>行動量の個体差を減弱させた魚類群に対して、脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤の候補物質を投与又は摂取させ、
能動回避学習評価に基づいて魚類群の各個体の脳機能を評価し、
脳機能の向上又は改善が見られた場合に、投与又は摂取させた候補物質を脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤として選択する、
脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤のスクリーニング方法。
<3>行動量の個体差を減弱させた魚類群に対して、脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤の候補物質を投与又は摂取させ、
能動回避学習評価に基づいて魚類群の各個体の脳機能を評価し、
脳機能の向上又は改善が見られた場合に、投与又は摂取させた候補物質を脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤として評価する、
脳機能低下の予防剤又は脳機能の改善剤の評価方法。
【0036】
<4>前記能動回避が、近い将来起こる身の危険が起こる環境下に個体が置かれた場合、その危険を察知し、いずれ起こる身の危険から予め回避することである、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の方法。
<5>前記能動回避が、光の照射、又は音若しくは振動の発生が電気刺激の合図とした条件下で、光、音若しくは振動を検知した場合、電気刺激を受けることなく、予め電気刺激から回避することである、前記<4>項に記載の方法。
<6>脳機能として記憶学習能力を評価する、前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載の方法。
<7>前記魚類の行動パターンを解析することで脳機能の評価を行う、前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の方法。
<8>行動量の個体差を減弱させた前記魚類が、能動回避学習評価が成立しない個体を予め排除した魚類である、前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の方法。
<9>能動回避学習評価が成立しない個体が、電気刺激などの外部刺激を受けても逃避行動をとれない個体、電気刺激などの外部刺激を感じることができない個体、寿命が近いため行動量が著しく低い個体、外部刺激により容易にパニック状態に陥る個体、若齢すぎて脳機能が十分に発達していない個体、又は通常の飼育環境と違う試験環境への馴化能力が低い個体である、前記<8>項に記載の方法。
<10>能動回避学習評価が成立しない個体を予め排除した前記魚類が、前述の能動回避学習評価の前に、外部刺激(好ましくは電気刺激)を与える逃避学習試験を行い、一定値以下(好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下)の逃避率を示す個体を排除した魚類である、前記<8>又は<9>項に記載の方法。
<11>行動量の個体差を減弱させた前記魚類が、行動量過多により条件学習惹起が困難な個体に対しても期待する条件学習能力を惹起させた魚類である、前記<1>〜<10>のいずれか1項に記載の方法。
<12>行動量過多により条件学習惹起が困難な個体に対しても期待する条件学習能力を惹起させた魚類が、光の照射、音若しくは振動の発生、又は、光の照射、音若しくは振動の発生と電気刺激とを受けた際に、行動量過多の個体が電気刺激を回避若しくは逃避した場合、電気刺激が実施されていた領域に一定時間光の照射、又は音若しくは振動の発生と電気刺激の発生を行い、電気刺激が生じている領域に再び戻ることがないように、個体に学習させた魚類である、前記<11>項に記載の方法。
<13>前記魚類が、金魚、メダカ又はゼブラフィッシュ、好ましくはゼブラフィッシュ、である、前記<1>〜<12>のいずれか1項に記載の方法。
<14>前記能動回避額評価において能動回避行動を取れる個体を、認知機能、学習能力、及び神経系全体のいずれかに優れ、脳機能の優れた個体として評価する、前記<1>〜<13>のいずれか1項に記載の方法。
【0037】
<15>前記基本プログラム1又は2、好ましくは基本プログラム2、を利用して、能動回避学習を実施する、前記<1>〜<14>のいずれか1項に記載の方法。
<16>能動回避学習を実施する前に、前記基本プログラム3を利用した事前逃避学習評価試験を行う、前記<1>〜<15>のいずれか1項に記載の方法。
<17>前記基本プログラム1又は2、好ましくは基本プログラム2、を利用する、脳機能の評価用システム。
<18>能動回避学習を実施する前に事前逃避学習評価試験を行うために前記基本プログラム3を利用する、前記<17>項記載のシステム。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
(1)試験装置の作製
非特許文献1に記載の装置を参考に、能動回避学習試験用装置を作製した。作製した装置の水槽の平面図を図2(a)〜(c)に示す。図2(a)は、試験装置の正面外観を撮影した図面代用写真である。図2(b)は、試験装置の水槽の平面方向から撮影した図面代用写真である。図2(c)は、水槽の中央に設けた中央ダムの形状を撮影した図面代用写真である。
【0040】
水槽の大きさは、内寸縦100mm、横200mm、高さ100mmであり、水槽の中央に水槽を左右に隔てる高さ60mmの中央ダム13を設置した。なおこのダムには、隔てられた左右の領域を行き来可能な通路部(高さが35mmに低下する凹状構造)を設けた。
試験時はここに飼育水約900mLを入れ、水深を45mmとした。なお中央ダムの通路部の水深は10mmになる。また、左右に隔てられたそれぞれの水槽部の側面には、赤色フィルター(他色に交換可能)により赤色に発光するLEDランプ15を設けた。さらに別の側面には、電気刺激(交流2.5V)を与えるためのステンレス板(電極版)16を設置した。このような構成とすることで、それぞれの水槽部で独立して赤色光と電気刺激を発生できる。
水槽内に投入された魚の挙動や位置は、水槽上部に設置されたカメラと、これを解析並びに制御するシステム(Lime Light-3若しくはLime Light-4(Actimetrics))にて把握できる。さらに、魚の検出感度(背景とのコントラスト)を確保する為、面発光するLEDトレス台に試験水槽(底面は白色半透明)を設置し、底面全体照明とした。
【0041】
(2)基本試験1(能動回避学習方法1)
試験動物として、ゼブラフィッシュ成魚雄を用いた。一つの水槽で同時に試験する個体は1匹とし、必要に応じ複数の水槽にて同時に試験を行った。前記試験装置の水槽にゼブラフィッシュを移した直後から、試験を開始した。
【0042】
1試験は2セッションからなる。1セションは20分の馴化無刺激時間と、その後の60回のトライアルからなる。
1トライアルは、ゼブラフィッシュが存在する側の領域への赤色光刺激最大10秒間と、その後の同領域への赤色光刺激及び電気刺激最大10秒間、並びにその後の7.5秒〜22.5秒の中からランダムに設定される平均15秒のインターバル(無刺激時間)からなる。
1トライアル中の一連の刺激は、刺激を与えた領域から他方の領域へゼブラフィッシュが移動した場合、その時点で停止した。これに対して、刺激を与えてもゼブラフィッシュが移動しない場合は、刺激付与の最長時間(20秒)経過後に、刺激の付与を停止した。
【0043】
赤色光刺激に用いた赤色照明については、白色LEDランプ15の光を、赤色フィルターを通して赤色光とした。電気刺激は交流電流であり、電極板16間の電圧を2.5V、抵抗は約1.4kΩとした。
ゼブラフィッシュの位置の把握、プログラムの実走、及び一連の刺激出力は、PC(図示せず)とこれに接続した観察用カメラ(図2の中央上部の四角い装置)を用いて自動制御により行った。
【0044】
トライアルごとの各個体の行動パターンの判定は、赤色光刺激のみを受けた場合に別の領域に移動し、電気刺激を受けなかったトライアルを「回避」と判定した。これに対して、電気刺激を受けた場合に別の領域へ移動したトライアルを「逃避」と判定した。
試験終了時にはセッションごとの、総横断回数(中央ダム13で隔てた2つの領域を行き来した回数)、回避トライアル回数、及び参考データとして逃避トライアル回数を記録した。評価は、(1セッション内の回避判定のトライアル回数)/(総トライアル数(60回))で求められる数値で行った。この数値が高いほど、成績良し(認知機能、学習能力、及び神経系全体のいずれかが優れている)とした。
【0045】
(3)基本試験2(能動回避学習方法2)
試験動物として、ゼブラフィッシュ成魚雄を用いた。一つの水槽で同時に試験する個体は1匹とし、必要に応じ複数の水槽にて同時に試験を行った。前記試験装置の水槽にゼブラフィッシュを移した直後から、試験を開始した。
【0046】
1試験は2セッションからなる。1セションは20分の馴化無刺激時間と、その後の60回のトライアルからなる。
1トライアルは、ゼブラフィッシュが存在する側の領域への赤色光刺激最大10秒間と、その後の同領域への赤色光刺激及び電気刺激最大10秒間、並びにその後の7.5秒〜22.5秒の中からランダムに設定される平均15秒のインターバル(無刺激時間)からなる。
1トライアル中の一連の刺激は、刺激を与えた領域から他方の領域へゼブラフィッシュが移動した場合、移動後に刺激を与えた領域で5秒間の赤色光刺激及び電気刺激を行った後に停止した。これに対して、刺激を与えてもゼブラフィッシュが移動しない場合は、赤色光刺激付与の最長時間(20秒)経過後に、刺激の付与を停止した。なお、一連の刺激中に、刺激を与えた領域から他方の領域へ試験動物が移動し、刺激を与えた領域で5秒間の赤色光刺激及び電気刺激を行った場合は、この5秒間はインターバル時間を消費するため、その後のインターバル時間は2.5秒〜17.5秒の中からランダムに設定した。また、この5秒間の赤色光刺激及び電気刺激は、試験動物の領域移動に関わらず、5秒間継続した。
【0047】
赤色光刺激に用いた赤色照明については、白色LEDランプ15の光を、赤色フィルターを通して赤色光とした。電気刺激は交流電流であり、電極板16間の電圧を2.5V、抵抗は約1.4kΩとした。
ゼブラフィッシュの位置の把握、プログラムの実走、及び一連の刺激出力は、PC(図示せず)とこれに接続した観察用カメラ(図2の中央上部の四角い装置)を用いて自動制御により行った。
【0048】
トライアルごとの各個体の行動パターンの判定は、赤色光刺激のみを受けた場合に別の領域に移動し、電気刺激を受けなかったトライアルを「回避」と判定した。これに対して、電気刺激を受けた場合に別の領域へ移動したトライアルを「逃避」と判定した。
なお、一連の刺激を付与した領域から別の領域へ試験動物が移動した場合に行う5秒間の赤色光刺激及び電気刺激の最中に、試験動物が再び元の領域へ移動する行動は、トライアルの判定に関係しないものとした。
試験終了時にはセッションごとの、総横断回数(中央ダム13で隔てた2つの領域を行き来した回数)、回避トライアル回数、及び参考データとして逃避トライアル回数を記録した。評価は、(1セッション内の回避判定のトライアル回数)/(総トライアル数(60回))で求められる数値で行った。この数値が高いほど、成績良し(認知機能、学習能力、及び神経系全体のいずれかが優れている)とした。
【0049】
(4)試験例1 能動回避学習方法1及び2との比較
同日に同じ個体から生まれた性状の近い系統のゼブラフィッシュを用いて、能動回避学習評価試験を、前述の方法1及び2に従い行った。能動回避学習評価試験は、それぞれ別の系統のゼブラフィッシュの個体群(A1、A2、A3)について行なった。能動回避学習の評価では、各個体について第2セッション(最終セッション)における総横断回数を比較した。
その結果を表1〜6に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
試験A1、A2及びA3いずれの場合であっても、前に条件学習を実施する(方法2)を実施することで、方法1と比較して、能動回避学習評価が成り立たないような過剰な横断回数(例えば第2セッション(最終セッション)において120回以上)を示す個体の発生割合が大幅に低下した。
【0057】
(5)試験例2
能動回避学習の評価に前もって、評価候補個体において前述の能動回避学習評価以外の記憶学習機能評価方法で個体の性質を把握し、能動回避学習評価が成立しない個体を予め排除する方法を検討した。
前記方法2による能動回避学習評価を行う前日に、下記に示す逃避学習試験を行った。そして、逃避学習評価の成績と、方法2による能動回避学習評価との相関性を検討した。
【0058】
(事前逃避学習評価試験)
試験動物として、ゼブラフィッシュ成魚雄を用いた。一つの水槽で同時に試験する個体は1匹とし、必要に応じ複数の水槽にて同時に試験を行った。前記試験装置の水槽にゼブラフィッシュを移した直後から、試験を開始した。
1トライアルは3セッションからなる。1セションは5分の馴化無刺激時間と、その後の20回のトライアルからなる。
1トライアルは、ゼブラフィッシュが存在する側の領域への電気刺激最大10秒間と、その後の7.5秒〜22.5秒の中からランダムに設定される平均15秒のインターバル(無刺激時間)からなる。
1トライアル中の一連の刺激は、刺激を与えた領域から他方の領域へゼブラフィッシュが移動した場合、その時点で停止した。これに対して、刺激を与えてもゼブラフィッシュが移動しない場合は、刺激付与の最長時間(10秒)経過後に、刺激の付与を停止した。
【0059】
電気刺激については、電極板16間の電圧を2.5Vとした。ゼブラフィッシュの位置の把握、プログラムの実走、及び一連の刺激出力は、PC(図示せず)とこれに接続した観察用カメラ(図2の中央上部の四角い装置)を用いて自動制御により行った。
【0060】
トライアルごとの各個体の行動パターンの判定は、電気刺激中に領域を移動したトライアルを「逃避」と判定した。
試験終了時には、セッションごとの逃避トライアル回数を記録した。評価は、(1セッション内の逃避判定のトライアル回数)/(総トライアル数(20回))で求められる数値で行った。
その結果を表7に示す。
【0061】
【表7】
【0062】
能動回避学習評価において、特に最終セッションに至っても回避率が著しく低い個体は、試験中の不動等の個体の性状により学習評価自体が成立していない危惧があり、これを事前の逃避学習評価で予め排除することを考える。
表7に示すように、予め排除すべき個体は、能動回避学習評価の第2セッションで低値(0.1以下)を示す個体B5及びB15である。これらの個体は、事前の逃避試験の全てのセッションで逃避率が0.6未満であった。つまり、事前の逃避試験において、第1セッション、若しくは第1セッションと第2セッションの中で少なくとも一度、若しくは第1セッションと第2セッションと第3セッションの中で少なくとも一度、逃避率0.6以上となった個体を選抜することで、時間のかかる能動回避学習評価に評価の成立しない個体(この場合B5及びB15)を投入することを避けることができる。
なお、事前の逃避学習評価においては、必ずしもセッションは3つある必要はなく、セッション数を少なくするほど選抜率は低下するが、時間あたりの事前評価個体数を増大でき、セッション数を増やすほど選抜率は向上するが、時間当たりの事前評価個体数は減少する。
【符号の説明】
【0063】
1 試験水槽
2 通路
3 中央仕切り(ダム)
4 試験動物
5 ランプ
5a 点灯させたランプ
5b 点灯させていないランプ
6 電気刺激
【0064】
13 中央ダム
15 LEDランプ
16 ステンレス板(電極版)
図1
図2