特許第6734576号(P6734576)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

<>
  • 特許6734576-ファン及び圧縮機の翼 図000002
  • 特許6734576-ファン及び圧縮機の翼 図000003
  • 特許6734576-ファン及び圧縮機の翼 図000004
  • 特許6734576-ファン及び圧縮機の翼 図000005
  • 特許6734576-ファン及び圧縮機の翼 図000006
  • 特許6734576-ファン及び圧縮機の翼 図000007
  • 特許6734576-ファン及び圧縮機の翼 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6734576
(24)【登録日】2020年7月14日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】ファン及び圧縮機の翼
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/38 20060101AFI20200728BHJP
【FI】
   F04D29/38 E
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-519453(P2019-519453)
(86)(22)【出願日】2017年12月20日
(86)【国際出願番号】JP2017045802
(87)【国際公開番号】WO2018216255
(87)【国際公開日】20181129
【審査請求日】2019年4月3日
(31)【優先権主張番号】特願2017-102826(P2017-102826)
(32)【優先日】2017年5月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】岡田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】林 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】室岡 武
(72)【発明者】
【氏名】榎 友謹
【審査官】 田中 尋
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−508043(JP,A)
【文献】 特開2014−111941(JP,A)
【文献】 特開平11−013692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボファンエンジンの構成要素であるファンまたは圧縮機の翼であって、
前記翼は、高さ方向において亜音速領域と遷音速領域とに区分され、前記ターボファンエンジンの定格運転時における前記翼への流入空気流の相対マッハ数が、前記亜音速領域においては0.8未満、前記遷音速領域においては0.8以上であり、
前記翼は、高さ方向の各位置における断面が、前縁と後縁の間をそれぞれ延びる凹状の正圧面と凸状の負圧面から成り、
前記断面において、
前記正圧面及び前記負圧面の上の点における接線と前記ターボファンエンジンの軸方向とのなす角を翼面角(β)、前記前縁における翼面角を入口翼面角(βin)、前記後縁における翼面角を出口翼面角(βex)として、(式1)により定義されるパラメータ(δ)を翼面角変化率と称し、
δ=(βin−β)/(βin−βex) (式1)
前記前縁と前記後縁を結ぶ線分を翼弦、前記正圧面及び前記負圧面の上の点から前記前縁まで軸方向に計った距離(x)を前記翼弦の軸方向長さ(c)により除したパラメータ(x/c)をコード比と称するとき、
前記亜音速領域における前記翼の前記正圧面においては、翼面角変化率の最小値が-0.90以上、かつ、コード比0.39の位置における翼面角変化率が0.43以下であり、
前記亜音速領域における前記翼の前記負圧面においては、コード比0.05の位置における翼面角変化率が0.26以上、かつ、コード比0.36の位置における翼面角変化率が0.58以下であり、
前記遷音速領域における前記翼の前記正圧面においては、翼面角変化率の最小値が-0.48以上、かつ、コード比0.35の位置における翼面角変化率が0.12以下であり、
前記遷音速領域における前記翼の前記負圧面においては、コード比0.10の位置における翼面角変化率が0.29以上、かつ、コード比0.43の位置における翼面角変化率が0.47以下である、翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ターボファンエンジンの構成要素であるファン及び圧縮機の翼、特に翼周りの流れの減速を制御することによって翼面上の層流域を拡大し損失を低減したファン及び圧縮機の翼に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボファンエンジンの構成要素であるファン及び圧縮機は、それぞれ動翼及び静翼を備えている。一例として、ファン動翼を、図4に示す。なお、以下の説明で用いられる「径方向」、「周方向」、「軸方向」は、それぞれ、ファン動翼が組み込まれるターボファンエンジンの径方向、周方向、軸方向と一致する方向である。
【0003】
図4は、ファン動翼RBの概略斜視図である。ファン動翼RBは、翼部AFと翼根部RTから成っている。翼部AFは、作動流体である空気が流れる環状流路内を径方向に延びる部位であり、当該翼部AFが周方向に等間隔に配置されることにより、翼列が形成される。翼根部RTは、回転軸に接続されたディスク(図示省略)にファン動翼RBを取り付ける際、当該ディスクの外周面に形成された溝に嵌め込まれるように構成された部位である。
【0004】
図5は、図4におけるI−I断面図であり、あるスパン方向位置(翼部AFの高さ方向の位置)における翼部AFの断面形状、すなわち翼型を示している。なお、同図において矢印Z、θは、それぞれ軸方向、周方向を示している。
【0005】
翼型は、前縁LEと後縁TEの間をそれぞれ延びる凹状の正圧面PSと凸状の負圧面SSから構成されている。なお、前縁LEと後縁TEを結ぶ線分を翼弦(コード)という。また、翼弦の長さを翼弦長、翼弦に沿う方向を翼弦方向という。なお、「正圧面」及び「負圧面」という語は、本来は翼部の表面を構成する曲面を表すものであるが、本明細書においては、翼型の輪郭を構成する曲線を表すものとして用いている。
【0006】
図5に示すように、翼型は湾曲しているが、この湾曲は、前縁LEから後縁TEまでの翼面角(β)の変化として捉えることができる。
【0007】
翼面角(β)は、図5に示すように、翼面上のある点(P)における接線(T)と軸方向(Z)とのなす角であり、このうち、前縁LEにおける翼面角を入口翼面角(βin)、後縁TEにおける翼面角を出口翼面角(βex)と呼ぶことにする。なお、翼面角βは、正圧面PS、負圧面SSのそれぞれにおいて定義されるものであるが、図が煩雑になることを避けるため、図5においては、負圧面SS上の点Pにおける翼面角βのみを例示している。
【0008】
一般に、入口翼面角βinは出口翼面角βexより大きく、翼面角βは、前縁LEから後縁TEへ向かって次第に減少する。ただし、正圧面PSの翼面角βは、前縁LE近傍の領域において、入口翼面角βinと比較して一旦大きくなった後、後縁TEへ向かって次第に減少する。これは、正圧面PSが、前縁LE近傍の領域において局所的に膨らんだ部位を有していることによるものである。
【0009】
ここで、翼面角の変化の態様(すなわち、前縁LEから後縁TEへ向かっての減少の度合い)を客観的に捉えるためのパラメータとして、翼面角変化率を導入することにする。
翼面角変化率(δ)は、(式1)により定義される。
δ=(βin−β)/(βin−βex) (式1)
【0010】
(式1)から分かるように、翼面角変化率δは、翼面上のある点における翼面角βの前縁LEにおける翼面角(入口翼面角βin)からの減少量を、前縁LEから後縁TEに至るまでの翼面角の総減少量(入口翼面角βinから出口翼面角βexを減じた角)によって正規化したパラメータであり、前縁LEにおいて0、後縁TEにおいて1の値をとる。そして、翼面角変化率δは、上述した翼面角βの変化に対応して、正圧面PSにおいては、前縁LE(=0)から後縁TEへ向かうにつれ一旦減少して負の値となり、最小となった後、後縁TE(=1)まで単調に増加する。また、負圧面SSにおいては、前縁LE(=0)から後縁TE(=1)まで単調に増加する。
【0011】
このように、前縁LEから後縁TEへ向かっての翼面角変化率の増加は、翼面角の減少と1対1に対応するので、翼面角の減少の緩急(すなわち、翼型の湾曲の大小)は、翼面角変化率の増加の緩急として捉えることができる。また、翼面角変化率を用いることにより、異なる翼の間でも翼面角の減少の緩急を比較することが可能となる。
【0012】
なお、翼型の湾曲の態様を調整することにより損失を低下させた圧縮機の翼が、特許文献1に開示されている。同文献が開示する翼においては、翼型のキャンバーライン(中心線)上の点における接線と軸方向とのなす角をβ’、前縁、後縁における当該角をそれぞれβin’、βex’とするとき、(式2)により定義されるパラメータ(δ’)が0.5に等しくなるキャンバーライン上の点を、翼弦方向において所定の範囲に配置している。
δ’=(βin’−β’)/(βin’−βex’) (式2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2016/024461号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、周方向に隣り合う2つの翼部の間にそれぞれ形成される翼間流路は、翼の入口側(上流側)から出口側(下流側)へ向かって流路面積が拡大する拡散流路となっている。したがって、翼間流路に流入する空気の流速が亜音速(マッハ数<0.8)である場合、翼の入口側から出口側へ向かうにつれ、流路面積の拡大に伴って流速の低下すなわち減速が生じる。
【0015】
このとき、流路面積が急激に拡大する部位においては、急激な減速が生じ、翼面上に形成された境界層が層流状態から乱流状態へ遷移する。
【0016】
層流境界層内では、壁面近傍の速度勾配が小さいため、壁面における剪断応力、すなわち摩擦応力は小さいが、乱流境界層内では、壁面近傍の速度勾配が大きいため、摩擦応力は大きくなる。そのため、翼面上において、層流境界層が形成された領域(層流域)が大きく、乱流境界層が形成された領域(乱流域)が小さいほど、翼に作用する摩擦抗力は小さくなり、翼間流れの摩擦損失は小さくなる。
【0017】
したがって、翼型の設計にあたっては、層流域をなるべく広くするために、境界層の層流状態から乱流状態への遷移位置がなるべく下流側に位置するよう配慮することが必要である。
【0018】
従来例のファン動翼では、正圧面においては特にチップ側(スパン方向における先端側)で、負圧面においては特にミッドスパンからチップ側で、遷移位置が比較的上流に位置しており、翼面上の境界層が早期に(すなわち、上流側で)層流状態から乱流状態へ遷移して層流域が小さくなり、結果的に翼間流れの摩擦損失が大きくなっていた。
【0019】
そこで、従来例のファン動翼の翼周りの流れの速度分布を詳細に分析した結果、正圧面、負圧面共に、比較的上流側の領域において急激な減速が生じており、この領域で境界層の遷移が生じていることが分かった。
【0020】
急激な減速が生じる部位は、上述したように、翼間流路の流路面積が急激に拡大する部位であると考えられるが、翼間流路の流路面積の拡大の緩急は、翼面角の減少の緩急と対応している。すなわち、翼面角が急激に減少する部位があると、それより下流側において、翼間流路の流路面積が急激に拡大するため、流れの急激な減速が生じ、境界層の層流状態から乱流状態への遷移が生じる可能性が高い。
【0021】
以上のことから、翼面角の減少の緩急を調整することによって翼間流路の流路面積の拡大の緩急を調整し、これによって翼周りの流れの減速を適切に制御すれば、翼面上の境界層の遷移を遅らせて(すなわち、遷移位置をより下流側として)層流域を大きくし、結果的に翼間流れの摩擦損失を低減できることが分かる。
【0022】
本開示は、以上の考察に基づいてなされたものであって、翼周りの流れの減速を適切に制御することによって翼面上の境界層の遷移を遅らせ(すなわち、遷移位置をより下流側とし)、翼面上の層流域を拡大し損失を低減したファン及び圧縮機の翼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本開示の翼は、ターボファンエンジンの構成要素であるファンまたは圧縮機に適用されるものであって、高さ方向において亜音速領域と遷音速領域とに区分され、前記ターボファンエンジンの定格運転時における前記翼への流入空気流の相対マッハ数が、前記亜音速領域においては0.8未満、前記遷音速領域においては0.8以上であり、また、高さ方向の各位置における断面が、前縁と後縁の間をそれぞれ延びる凹状の正圧面と凸状の負圧面から成り、前記断面において、前記正圧面及び前記負圧面の上の点における接線と前記ターボファンエンジンの軸方向とのなす角を翼面角(β)、前記前縁における翼面角を入口翼面角(βin)、前記後縁における翼面角を出口翼面角(βex)として、(式1)により定義されるパラメータ(δ)を翼面角変化率と称し、前記前縁と前記後縁を結ぶ線分を翼弦、前記正圧面及び前記負圧面の上の点から前記前縁まで軸方向に計った距離(x)を前記翼弦の軸方向長さ(c)により除したパラメータ(x/c)をコード比と称するとき、前記亜音速領域における前記翼の前記正圧面においては、翼面角変化率の最小値が-0.90以上、かつ、コード比0.39の位置における翼面角変化率が0.43以下であり、前記亜音速領域における前記翼の前記負圧面においては、コード比0.05の位置における翼面角変化率が0.26以上、かつ、コード比0.36の位置における翼面角変化率が0.58以下であり、前記遷音速領域における前記翼の前記正圧面においては、翼面角変化率の最小値が-0.48以上、かつ、コード比0.35の位置における翼面角変化率が0.12以下であり、前記遷音速領域における前記翼の前記負圧面においては、コード比0.10の位置における翼面角変化率が0.29以上、かつ、コード比0.43の位置における翼面角変化率が0.47以下である。
δ=(βin−β)/(βin−βex) (式1)
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、翼面上の境界層の層流状態から乱流状態への遷移を遅らせる(すなわち、遷移位置をより下流側とする)ことにより、層流域を拡大し、摩擦損失を低減させるという、優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本開示の実施形態のファン動翼の、あるスパン方向位置における断面形状(翼型)を、従来例のファン動翼の翼型と比較して示す概略説明図である。
図2A】本開示の実施形態のファン動翼の亜音速領域における正圧面の翼面角変化率の翼弦方向分布を、従来例のファン動翼と比較して示す図である。
図2B】本開示の実施形態のファン動翼の亜音速領域における負圧面の翼面角変化率の翼弦方向分布を、従来例のファン動翼と比較して示す図である。
図3A】本開示の実施形態のファン動翼の遷音速領域における正圧面の翼面角変化率の翼弦方向分布を、従来例のファン動翼と比較して示す図である。
図3B】本開示の実施形態のファン動翼の遷音速領域における負圧面の翼面角変化率の翼弦方向分布を、従来例のファン動翼と比較して示す図である。
図4】ターボファンエンジンのファン動翼の概略斜視図である。
図5図4におけるI−I断面図であり、ファン動翼の断面形状(翼型)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
上述したように、従来例のファン動翼では、正圧面、負圧面共に、比較的上流側の領域において急激な減速が生じていた。特に、正圧面においてはコード比約0.05の領域において、負圧面においてはコード比約0.15の領域において、それぞれ急激な減速が生じていた。このことは、これらの領域に、翼面角が急激に減少する部位、換言すれば翼面角変化率が急激に増加する部位が存在することを意味している。なお、コード比(x/c)は、前縁から軸方向に計った距離(x)を翼弦の軸方向長さ(c)で除した無次元値である。
【0028】
そこで、本開示の実施形態のファン動翼では、以下の方針に沿って、従来例のファン動翼から翼型を変化させている。
(1)正圧面のコード比約0.05の領域における減速を抑えるため、この領域に出現する翼面角変化率のピークを小さく抑える。換言すれば、翼面角変化率が負となるこの領域における最小値の絶対値を小さく抑える。
(2)負圧面のコード比約0.15近傍の領域においては、減速を抑えるため、翼面角の変化を小さく抑える。そのために、これよりも上流のコード比約0.05近傍の領域において、翼面角の変化を大きくする。
【0029】
このようにして得られた本開示の実施形態のファン動翼の、あるスパン方向位置における断面形状(翼型)を、従来例のファン動翼の翼型と比較して図1に示す。また、本開示の実施形態のファン動翼の翼面角変化率の翼弦方向分布を、従来例のファン動翼の翼型と比較して図2A図3Bに示す。ここで、図2Aは亜音速領域における正圧面の分布を、図2Bは亜音速領域における負圧面の分布を、図3Aは遷音速領域における正圧面の分布を、図3Bは遷音速領域における負圧面の分布を、それぞれ示している。なお、これらの図の各グラフでは、縦軸に翼面角変化率を、横軸に翼弦方向位置を、それぞれプロットしているが、翼弦方向位置は、コード比を用いて表示している。
【0030】
ここで、亜音速領域、遷音速領域とは、ファン動翼が組み込まれるターボファンエンジンの定格運転時に、翼に流入する空気の流れの相対マッハ数がそれぞれ0.8未満、0.8以上となるスパン方向の領域を指している。動翼の場合、亜音速領域は、回転により流れに付加される周方向速度成分の小さい内径側の領域、遷音速領域は、回転により流れに付加される周方向速度成分の大きい外径側の領域となる。
【0031】
図2A図3Bに示すように、正圧面(図2A及び図3A参照)においては、コード比約0.05の領域に出現する翼面角変化率の最小値(負の値)の絶対値が小さく抑えられ、その結果、それより下流の領域において翼面角変化率の急激な増加が抑制されている。また、負圧面(各図の(B)参照)においては、コード比約0.05近傍の領域において翼面角変化率の増加が大きくなり、その結果、それより下流の領域において翼面角変化率の急激な増加が抑制されている。
【0032】
このように、本開示の実施形態のファン動翼では、従来例のファン動翼と比較して、翼面角変化率の変化の態様の調整を通じて、翼周りの流れの減速が適切に制御され、その結果、以下に示すように、翼面上に形成された境界層の層流状態から乱流状態への遷移位置が、より下流側に移動している。なお、以下においては、本開示の実施形態のファン動翼における遷移位置(コード比)に続けて、従来例のファン動翼における遷移位置(コード比)を括弧内に表記している。
【0033】
・亜音速領域の正圧面における遷移位置:0.39(0.27)
・亜音速領域の負圧面における遷移位置:0.36(0.17)
・遷音速領域の正圧面における遷移位置:0.35(0.03)
・遷音速領域の負圧面における遷移位置:0.43(0.11)
【0034】
ここで、本開示の実施形態のファン動翼の遷移位置における翼面角変化率は、以下のとおりである。
・亜音速領域の正圧面:0.43
・亜音速領域の負圧面:0.58
・遷音速領域の正圧面:0.12
・遷音速領域の負圧面:0.47
【0035】
したがって、各遷移位置における翼面角変化率を、本開示の実施形態のファン動翼と同一またはそれより小さくすることにより、翼面上の層流域を本開示の実施形態のファン動翼以上に拡大することができると考えられる。この条件は、具体的には以下のとおりである(図2A図3Bの各グラフにおける(b)参照)。
・亜音速領域の正圧面においては、コード比0.39の位置における翼面角変化率を0.43以下とする。
・亜音速領域の負圧面においては、コード比0.36の位置における翼面角変化率を0.58以下とする。
・遷音速領域の正圧面においては、コード比0.35の位置における翼面角変化率を0.12以下とする。
・遷音速領域の負圧面においては、コード比0.43の位置における翼面角変化率を0.47以下とする。
【0036】
また、上述した翼型の変化の方針(1)に関して、正圧面における翼面角変化率の最小値の絶対値を、本開示の実施形態のファン動翼と同一またはそれより小さくすることにより、前縁近傍の領域における急激な減速を抑制することができると考えられる。この条件は、具体的には以下のとおりである(図2A及び図3Aの各グラフにおける(a)参照)。
・亜音速領域における翼面角変化率の最小値を-0.90以上とする。
・遷音速領域における翼面角変化率の最小値を-0.48以上とする。
【0037】
さらに、上述した翼型の変化の方針(2)に関して、負圧面の前縁近傍の領域における翼面角変化率を、本開示の実施形態のファン動翼と同一またはそれより大きくすることにより、それより下流の領域における翼面角変化率の急激な増加を抑制し、急激な減速の発生を防止することができると考えられる。この条件は、具体的には以下のとおりである(図2B及び図3Bの各グラフにおける(a)参照)。
・亜音速領域のコード比0.05の位置における翼面角変化率を0.26以上とする。
・遷音速領域のコード比0.10の位置における翼面角変化率を0.29以上とする。
【0038】
以上を踏まえ、本開示の実施形態のファン動翼は、以下の条件を満足するものとする。
・亜音速領域の正圧面において、翼面角変化率の最小値が-0.90以上、かつ、コード比0.39の位置における翼面角変化率が0.43以下
・亜音速領域の負圧面において、コード比0.05の位置における翼面角変化率が0.26以上、かつ、コード比0.36の位置における翼面角変化率が0.58以下
・遷音速領域の正圧面において、翼面角変化率の最小値が-0.48以上、かつ、コード比0.35の位置における翼面角変化率が0.12以下
・遷音速領域の負圧面において、コード比0.10の位置における翼面角変化率が0.29以上、かつ、コード比0.43の位置における翼面角変化率が0.47以下
【0039】
なお、以上においては、本開示の翼をターボファンエンジンの構成要素であるファンの動翼に適用した例について説明したが、本開示の翼は、ターボファンエンジン以外のガスタービンの圧縮機及び単一の装置としてのファンまたは圧縮機の動翼並びに静翼に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0040】
RB ファン動翼
AF 翼部
RT 翼根部
PS 正圧面
SS 負圧面
LE 前縁
TE 後縁
β 翼面角
δ 翼面角変化率
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5