特許第6734626号(P6734626)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6734626-超音波洗浄装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6734626
(24)【登録日】2020年7月14日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】超音波洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/12 20060101AFI20200728BHJP
   C23G 3/00 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   B08B3/12 A
   C23G3/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-204422(P2014-204422)
(22)【出願日】2014年10月3日
(65)【公開番号】特開2016-73896(P2016-73896A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年6月23日
【審判番号】不服2018-14965(P2018-14965/J1)
【審判請求日】2018年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】592068635
【氏名又は名称】アクトファイブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 郁男
【合議体】
【審判長】 堀川 一郎
【審判官】 久保 竜一
【審判官】 長馬 望
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2003/0079763(US,A1)
【文献】 実開昭63−133392(JP,U)
【文献】 特開平7−136605(JP,A)
【文献】 特開2012−200611(JP,A)
【文献】 特開2010−94639(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0166569(US,A1)
【文献】 特開2004−9019(JP,A)
【文献】 特開2003−62532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/12
C23G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 内部の所定位置にワークが保持され、該所定位置よりも上側まで洗浄液が貯留される槽であって、底部に排出口を有し、該排出口が最深部となるように該底部の全体に、該排出口に向かって傾斜が設けられた洗浄槽と、
b) 前記洗浄槽内の前記所定位置と前記底部の間に設けられ、該洗浄槽の側壁に基部が取り付けられ、該側壁の反対側の側壁付近にまで延びている、該所定位置及び該底部の双方に向けて超音波振動を発振する線状の超音波振動子と
を備えることを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項2】
前記洗浄槽内を減圧する減圧装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項3】
前記排出口からフィルタを経て、前記洗浄槽に設けられた洗浄液の導入口に至る循環濾過経路を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工等を行った後に切粉等の付着物が付着したワークの表面を超音波により洗浄する超音波洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工を行った後のワークの表面には切削油や切粉等の付着物が付着しており、製品として出荷する前に、或いは後の工程の前に、それら付着物を除去する必要がある。工作物の場合、そのような付着物の除去には超音波洗浄が有効である。超音波洗浄装置は、洗浄液を貯留する洗浄槽と、洗浄槽内に向けて超音波を発振する超音波振動子を備えており、洗浄槽内に洗浄液を貯留したうえでワークを該洗浄液に浸漬し、超音波振動子から超音波を発振することにより、洗浄液を介してワークに振動を付与する。これにより、付着物がワークの表面から離脱する。超音波振動子としては、多くの場合、「投げ込み式」と呼ばれる、直方体の箱形であって該直方体の1つの面から超音波を発振するものが用いられ、その超音波発振面をワークに向けて洗浄槽の底に置かれる。
【0003】
切削油等の液体の付着物は、ワークの表面から除去されると洗浄液と混合するため、使用回数が増えるにつれ洗浄液が劣化する。そのため、洗浄槽内の洗浄液は、循環濾過されるか定期的に交換される。一方、切粉等の固体の付着物は、ワークの表面から離脱すると洗浄槽の底部に沈澱し、洗浄液を循環濾過したり交換してもそのまま残留してしまう。このような沈澱物は別途人手による清掃作業を行って洗浄槽から除去する必要があり、手間を要する。
【0004】
特許文献1には、洗浄槽の底部に傾斜を形成し、その最深部に、沈澱物を排出する排出口を設けた超音波洗浄装置が記載されている。この装置によれば、沈澱物は重力により該底部の傾斜に沿って徐々に最深部に移動し、最深部の排出口から排出される。そのため、別途人手による清掃作業を行うことなく、沈澱物を除去することができる。
【0005】
特許文献1に記載の装置では、超音波振動子は、金属製の洗浄槽の底面の外側に、振動板が表面に当接するように複数個取り付けられている。超音波振動は、超音波振動子から洗浄槽の底面に与えられ、洗浄槽及び洗浄液を介してワークの表面に到達する。これにより、ワークの表面が洗浄されると共に、洗浄槽の底部において沈澱物の移動が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭63-133392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波振動子を洗浄槽の底面に取り付けた場合、超音波振動は主に金属製の洗浄槽自体(これを「洗浄槽容器」と呼ぶ)の内部を伝播し、洗浄槽容器を振動させる。その洗浄槽容器の振動が洗浄槽に貯留された洗浄液に伝播し、さらにワークに伝達される。一方、洗浄槽容器の振動は、洗浄槽底部の沈殿物にも与えられ、それが重力により低い方に移動するのを助ける。このように、特許文献1に記載の超音波洗浄装置において、超音波振動子の振動は、底部の沈澱物を移動させるには効果的に使用されるものの、ワークを洗浄するには有効に使用されているとは言い難かった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、ワークを洗浄する能力が高く、且つ、ワークの表面から除去されて洗浄槽の底部に沈澱した沈澱物を該底部から排出し易い超音波洗浄装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る超音波洗浄装置は、
a) 洗浄液が貯留され、内部の所定位置にワークが保持される槽であって、底部に排出口を有し、該排出口が最深部となるように該底部に傾斜が設けられた洗浄槽と、
b) 前記洗浄槽内の前記所定位置と前記底部の間に設けられた、該所定位置及び該底部の双方に向けて超音波振動を発振する超音波振動子と
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る超音波洗浄装置は、洗浄槽内のワークが保持される位置(所定位置)と底部の間に、該所定位置及び該底部の双方に向けて超音波振動を発振する超音波振動子が設けられていることにより、超音波振動は、洗浄液のみを介してワーク及び洗浄槽の底部の双方に伝達される。また、超音波振動子とワークの距離も短い。そのため、従来の超音波洗浄装置よりもワークを洗浄する能力が高い。一方、超音波振動が洗浄槽の底部にも到達することにより、底部の沈殿物が最深部にある排出口に移動することが促進される。
【0011】
前記超音波振動子には、例えば、前記所定位置の方向に向けて超音波振動を発振する振動板と、前記底部に向けて超音波振動を発振する振動板を組み合わせて成る超音波振動子を用いることができる。また、線状の振動部の外周面から超音波振動を発振する線状超音波振動子、あるいは球状の振動部の外面から超音波振動を発振する球状超音波振動子を用いることもできる。広い範囲で超音波振動を発振することができ、ワークに異なった角度から超音波振動を到達させ、洗浄効果を上げることができるという点において、線状超音波振動子が好ましい。線状超音波振動子の形状は、直線状、U字状、リング状等とすることができる。
【0012】
なお、洗浄槽の底部に設けられた傾斜は、直線状であってもよいし、湾曲状であってもよい。
【0013】
本発明に係る超音波洗浄装置は、前記排出口からフィルタを経て、前記洗浄槽に設けられた洗浄液の導入口に至る循環濾過経路を備えることが望ましい。これにより、排出口に達した固体の付着物をフィルタにより除去することができる。付着物が除去された後の洗浄液は、導入口から洗浄槽に返送される。
【0014】
本発明に係る超音波洗浄装置は、洗浄槽内を減圧する減圧装置を備えることが望ましい。超音波振動子から超音波振動を生成すると共に洗浄槽内を減圧することにより、洗浄液が脱気され、それによりワークの表面に強いキャビテーションが発生するため、ワーク表面の付着物を除去し易くなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、ワークを洗浄する能力が高く、且つ、沈澱物を洗浄槽の底部から排出し易い超音波洗浄装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る超音波洗浄装置の一実施例を示す概略構成図。
図2】本発明に係る超音波洗浄装置の変形例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を用いて、本発明に係る超音波洗浄装置の一実施例を説明する。本実施例の超音波洗浄装置10は、洗浄槽11と、超音波振動子12、循環濾過経路13及び減圧装置14を有する。以下、各構成要素について説明する。
【0018】
洗浄槽11は洗浄液Lが貯留される槽であり、その側壁に、ワークWが収容された籠Bを保持する突起111が設けられている。籠Bを突起111で保持することにより、ワークWが洗浄槽11の内部の所定位置に保持される。洗浄槽11の底部112は下に凸の曲面になっており、湾曲状の傾斜を有する。底部112の最深部には排出口113が設けられている。排出口113は循環濾過経路13に接続されている。また、洗浄槽11の側壁には、後述のように循環濾過経路13で濾過された洗浄液を導入する導入口114が設けられている。洗浄槽11の上部には、着脱可能であって洗浄槽11の開口を気密に覆う蓋115が設けられている。洗浄槽11の横断面の形状は、本実施例では円形であるが、長方形(正方形を含む)等であってもよい。
【0019】
超音波振動子12は、ワークWが保持される位置(前記所定位置)と洗浄槽11の底部112の間に配置されている。超音波振動子12は、本実施例では棒状(直線状)のものを用いた。超音波振動子12は、一端が洗浄槽11の側壁に取り付けられ、洗浄槽11の横断面の中心付近を通って他端が反対側の側壁付近にまで延びている。
【0020】
循環濾過経路13は、洗浄槽11の排出口113から導入口114に至る送液管131と、送液管131の経路上に設けられた送液ポンプ132及びフィルタ133を有する。本実施例では、洗浄液L及び沈澱物を排出口113から排出するための吸引力を強くするために、フィルタ133よりも排出口113(上流)側に送液ポンプ132を設けている。なお、送液ポンプ132に沈澱物が吸引されることを防ぐために、送液ポンプ132よりも排出口113側にフィルタ133を設けてもよい。
【0021】
減圧装置14は、洗浄槽11の側壁の上端付近に接続された減圧管141と、減圧管141の経路上に設けられた真空ポンプ142を有する。
【0022】
次に、本実施例の超音波洗浄装置10の動作を説明する。洗浄槽11内に所定量の洗浄液Lを注入した後、ワークWが収容された籠Bを、突起111に保持されるように洗浄槽11内に導入する。こうしてワークWを洗浄液Lに浸漬した後、洗浄槽11の開口を蓋115で閉鎖し、減圧装置14により洗浄槽11内を減圧する。本実施例では、減圧時の圧力を約10kPaとした。
【0023】
この状態で、超音波振動子12により超音波振動を生成する。超音波振動は洗浄液Lを介してワークWの表面に伝達され、該表面が洗浄される。その際、洗浄槽11内が減圧されることにより洗浄液が脱気され、それによりワークWの表面に強いキャビテーションが生じ、表面の洗浄が促進される。
【0024】
この洗浄によってワークWの表面から離脱した切粉等の固形物は、洗浄槽11の底部112に沈澱する。沈降した沈澱物は、それ自身の重力と超音波振動により、底部112の傾斜に沿って徐々に、最深部にある排出口113の方に移動してゆく。
【0025】
ここまでに説明した操作は、洗浄対象のワークWを交換しつつ、繰り返し行われる。そして、定期的(例えばワークWの洗浄を所定回数行う毎、あるいは所定時間経過する毎)に、洗浄槽11内から沈殿物を排出すると共に洗浄液Lを濾過するために、以下の操作が行われる。すなわち、循環濾過経路13の送液ポンプ132を起動し、送液管131に設けられている弁を開放する。これにより、洗浄槽11の底部112において排出口113付近まで移動していた沈澱物が、洗浄液Lと共に排出口113から送液管131に吸引され、フィルタ133により捕捉される。また、洗浄液L内に浮遊している微小な洗浄離脱物もフィルタ133により捕捉される。こうして、洗浄液L内の固体の洗浄離脱物は、フィルタ133により全て除去される。なお、洗浄液Lに混入した切削油等の液体不純物は、それら液体不純物を吸着して除去する吸着剤から成るフィルタを用いて除去することができるが、フィルタ133を当該吸着剤製としてもよいし、フィルタ133とは別に液体不純物用のフィルタを循環濾過経路13内に設けてもよい。フィルタ133を通過した洗浄液Lは、導入口114から洗浄槽11内に返送される。
【0026】
本実施例の超音波洗浄装置10では、超音波振動子12により生成された超音波振動は、洗浄槽11の底部112を介することなく、洗浄液Lのみを介してワークWに伝達される。そのため、超音波振動子を洗浄槽の底部に設けた場合よりも、ワークWを洗浄する能力が高い。また、洗浄槽11の底部112に排出口113を最深部とする傾斜が設けられていると共に、超音波振動が洗浄液Lを介して底部112に伝達されることにより、底部112の沈澱物が排出口113に移動することが促進される。
【0027】
図2に、本発明に係る超音波洗浄装置の変形例を示す。本変形例の超音波洗浄装置20は、洗浄槽21と、超音波振動子22を有する。本変形例では、減圧装置は省略されていると共に、循環濾過経路の代わりに排出管23が設けられている。洗浄槽21は、横断面が長方形であり、底部212が下に凸であって、四角錐における角錐面状の形状を呈している。すなわち、底部212は、三角形状の4つの平面を組み合わせた形状であり、直線状の傾斜を有する。底部212の最深部には排出口213が設けられており、排出口213には下方に延びる排出管23が接続されている。排出管23には弁が設けられている。籠Bを保持する突起211は上記実施例のものと同様である。また、超音波振動子22も上記実施例のものと同様である。
【0028】
本変形例の超音波洗浄装置20の使用方法は、洗浄槽21内を減圧しない点、及び循環濾過を行わない点を除いて、上記実施例の超音波洗浄装置10の使用方法と同様である。洗浄槽21の底部212に沈澱して最深部に移動した沈澱物は、定期的に、排出管23の弁を開放することにより洗浄槽21の外に排出する。
【0029】
本発明は上記の実施例及び変形例には限定されない。例えば、上記実施例において洗浄槽11の代わりに上記変形例の洗浄槽21を用いてもよい。あるいは、上記実施例において循環濾過経路13及び/又は減圧装置14を省略したり、上記変形例において循環濾過経路13及び/又は減圧装置14を設けてもよい。洗浄槽の形状は上記のものには限らず、例えば横断面が円形であり、底部が下に凸であって円錐の錐面状のものを用いてもよい。この場合、底部の傾斜は直線状となる。
【0030】
超音波振動子も上記のものには限らず、例えば線状超音波振動子としてU字状やリング状のものを用いてもよい。あるいは、点状超音波振動子を、例えば棒状の保持具に取り付けたうえで、上記所定位置と洗浄槽の底面の間に配置してもよい。また、上記所定位置の方向に向けて超音波振動を発振する振動板と、洗浄槽の底部に向けて超音波振動を発振する振動板を組み合わせて成る超音波振動子を用いることもできる。
【符号の説明】
【0031】
10、20…超音波洗浄装置
11、21…洗浄槽
111、211…突起
112、212…底部
113、213…排出口
114…導入口
115…蓋
12、22…超音波振動子
13…循環濾過経路
131…送液管
132…送液ポンプ
133…フィルタ
14…減圧装置
141…減圧管
142…真空ポンプ
23…排出管
図1
図2