特許第6734691号(P6734691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6734691不燃性を有し自己発火しない合成樹脂の成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6734691
(24)【登録日】2020年7月14日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】不燃性を有し自己発火しない合成樹脂の成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 11/14 20060101AFI20200728BHJP
   C08J 3/205 20060101ALI20200728BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20200728BHJP
   B29C 45/02 20060101ALI20200728BHJP
   B29C 43/00 20060101ALI20200728BHJP
   B29C 48/86 20190101ALI20200728BHJP
   B29C 49/04 20060101ALI20200728BHJP
   B29C 49/78 20060101ALI20200728BHJP
   B29C 51/02 20060101ALI20200728BHJP
   B29C 51/08 20060101ALI20200728BHJP
   B29C 51/42 20060101ALI20200728BHJP
   B29K 103/06 20060101ALN20200728BHJP
【FI】
   B29B11/14
   C08J3/205
   B29C45/00
   B29C45/02
   B29C43/00
   B29C48/86
   B29C49/04
   B29C49/78
   B29C51/02
   B29C51/08
   B29C51/42
   B29K103:06
【請求項の数】9
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2016-82454(P2016-82454)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-179318(P2017-179318A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年3月25日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【審査官】 北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−078336(JP,A)
【文献】 特開2014−201831(JP,A)
【文献】 特開2015−128824(JP,A)
【文献】 特開2005−319746(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0244519(US,A1)
【文献】 特開2017−075385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00−11/14
B29B 13/00−15/06
B29C 31/00−31/10
B29C 37/00−37/04
B29C 48/00−48/96
B29C 63/00−63/48
B29C 65/00−65/82
B29C 71/00−71/02
B32B 1/00−43/00
C23C 18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂の成形材料の表面が金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われた該成形材料の集まりが、液体の有機化合物に分散した懸濁液を製造する製造方法は、
熱分解で金属を析出する金属化合物をアルコールに分散し、該金属化合物が分子状態でアルコールに分散したアルコール分散液を作成し、前記アルコールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度が前記アルコールの粘度より20倍以上高い第二の性質と、融点が20℃より低い第三の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より高い第四の性質とからなる4つの性質を兼備する有機化合物を、前記アルコール分散液に混合し、該有機化合物が前記アルコールに溶解ないしは混和し、該有機化合物が前記アルコール分散液と均一に混ざり合った混合液を作成する、さらに、該混合液に合成樹脂の成形材料の集まりを混合し、該混合液の粘度に応じた厚みで該混合液が前記成形材料に付着した混合物を作成する、この後、該混合物から前記アルコールを気化させる、これによって、前記成形材料の表面に前記金属化合物の微細結晶の集まりが析出し、該金属化合物の微細結晶の集まりが表面に析出した成形材料の集まりが、前記有機化合物に分散した第一の懸濁液が製造される、さらに、該第一の懸濁液を熱処理し、前記金属化合物の微細結晶を熱分解させ、粒状の金属のナノ粒子が前記成形材料の表面に一斉に析出し、隣接する前記粒状の金属のナノ粒子同士が接触する部位で金属結合し、該金属結合した金属のナノ粒子の集まりが前記成形材料の表面を覆う、これによって、該金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われた成形材料の集まりが、前記有機化合物に分散した第二の懸濁液が製造され、合成樹脂の成形材料の表面が金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われた該成形材料の集まりが、液体の有機化合物に分散した懸濁液が製造される懸濁液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した懸濁液を製造する製造方法において、前記した金属化合物が、無機物の分子ないしは無機物のイオンからなる配位子が、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体であり、前記したアルコールがメタノールであり、前記した有機化合物が、芳香族カルボン酸エステル類、グリコール類、グリコールエーテル類ないしはグリセリンに属するいずれか一種類の有機化合物であり、前記金属化合物として前記無機金属化合物からなる錯体を用い、前記アルコールとしてメタノールを用い、前記有機化合物として前記一種類の有機化合物とを用い、請求項1に記載した懸濁液を製造する製造方法に従って懸濁液を製造する、請求項1に記載した懸濁液を製造する製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載した懸濁液を製造する製造方法において、前記した金属化合物が、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、前記カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物であり、前記したアルコールがメタノールであり、前記した有機化合物が、芳香族カルボン酸エステル類、グリコール類、グリコールエーテル類ないしはグリセリンに属するいずれか一種類の有機化合物であり、前記金属化合物として前記カルボン酸金属化合物を用い、前記アルコールとしてメタノールを用い、前記有機化合物として前記一種類の有機化合物とを用い、請求項1に記載した懸濁液を製造する製造方法に従って懸濁液を製造する、請求項1に記載した懸濁液を製造する製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載した製造方法に従って製造した懸濁液を用いて圧縮成形法に依って成形体を製造する製造方法は、請求項1に記載した製造方法に従って製造した懸濁液を充填するキャビティを、予め前記懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温し、前記懸濁液を圧縮する成形機を、予め前記キャビティより高い温度に昇温し、この後、前記キャビティに前記懸濁液を充填し、該懸濁液から前記有機化合物を気化させる、さらに、前記キャビティに前記成形機を下ろし、該成形機によって、前記キャビティ内に充填された前記懸濁液を昇温するとともに、徐々に増大する加圧力を加え、前記懸濁液に残存した前記有機化合物を気化させ、さらに、前記懸濁液を構成する成形材料を熱融解もしくは熱軟化させ、この後、該成形材料を圧縮変形させる、この後、前記成形機による加圧を一旦中止し、残存した前記有機化合物の体をキャビティと成形機とから抜け出させる、さらに、前記成形機によって、再度、前記キャビティ内に充填された前記懸濁液を昇温するとともに、前記加圧力より大きい加圧力を加える、これによって、圧縮変形した前記成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われるとともに、隣接する前記金属のナノ粒子同士が金属結合することで、該圧縮変形した成形材料同士が結合され、前記キャビティと前記成形機とで形成される間隙に成形体が製造される、請求項1に記載した製造方法に従って製造した懸濁液を用いて圧縮成形法に依って成形体を製造する製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を用いてトランスファ成形法に依って成形体を製造する製造方法は、請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を充填するポットを、予め前記懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温し、前記懸濁液が押し込まれるキャビティを、予め前記ポットより高い温度に昇温し、前記ポットに前記懸濁液を充填し、該懸濁液から前記有機化合物を気化させる、この後、前記ポットに設置されたプランジャーによって、前記ポットに充填された前記懸濁液を昇温するとともに加圧し、前記懸濁液に残存した前記有機化合物を気化させ、さらに、前記懸濁液を構成する成形材料を熱融解もしくは熱軟化させ、この後、該成形材料を前記キャビティ内に押し込む、この後、前記プランジャーに依る加圧を一旦中止し、残存した前記有機化合物の気体を前記キャビティから抜け出させる、さらに、前記プランジャーによって、再度、前記キャビティ内に押し込まれた前記懸濁液を加熱するとともに、徐々に増大する加圧力を加える、これによって、圧縮変形した前記成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われるとともに、隣接する前記金属のナノ粒子同士が金属結合することで、該圧縮変形した成形材料同士が結合され、前記キャビティ内に成形体が製造される、請求項1に記載した製造方法に従って製造した懸濁液を用いてトランスファ成形法に依って成形体を製造する製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を用いて射出成形法に依って成形体を製造する製造方法は、請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を充填するシリンダーを、予め前記懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温し、前記懸濁液が射出される金型を、予め前記シリンダーより高い温度に昇温し、前記シリンダーに前記懸濁液を充填し、該懸濁液から前記有機化合物を気化させる、この後、前記シリンダー内に設置されたスクリューによって、前記シリンダーに充填された前記懸濁液を昇温するとともに加圧し、該懸濁液を前記金型内に射出し、前記懸濁液に残存した前記有機化合物を気化させ、さらに、前記懸濁液を構成する成形材料を熱融解もしくは熱軟化させ、この後、該成形材料を圧縮変形させる、この後、前記スクリューに依る加圧を一旦中止し、残存した前記有機化合物の気体を前記金型から抜け出させる、さらに、前記スクリューによって、再度、前記金型内に射出された前記懸濁液に徐々に増大する加圧力を加える、これによって、圧縮変形した前記成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われるとともに、隣接する前記金属のナノ粒子同士が金属結合することで、該圧縮変形した成形材料同士が結合され、前記金型内に成形体が製造される、請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を用いて射出成形法に依って成形体を製造する製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を用いて押出成形法に依って成形体を製造する製造方法は、請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を充填するシリンダーを、予め前記懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温し、前記シリンダーの前方に設置されたダイを、予め前記シリンダーより高い温度に昇温し、前記シリンダーに前記懸濁液を充填し、該懸濁液から前記有機化合物を気化させる、この後、前記シリンダー内に設置されたスクリューによって、前記シリンダー内に充填された前記懸濁液を加圧し、該懸濁液を前記ダイの内側の溝を通過させ、該溝の出口から前記懸濁液を押し出す、これによって、残存した前記有機化合物の気体が前記ダイの出口から気化し、さらに、前記懸濁液を構成する成形材料が熱融解もしくは熱軟化し、この後、該成形材料が圧縮変形し、圧縮変形した前記成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われるとともに、隣接する前記金属のナノ粒子同士が金属結合することで、該圧縮変形した成形材料同士が結合され、該成形材料同士が結合された成形体が、前記ダイの溝の出口から押し出される、請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を用いて押出成形法に依って成形体を製造する製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を用いてエアブロー成形法に依って成形体を製造する製造方法は、請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を充填するシリンダーを、予め前記懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温し、チューブ状に押し出された前記懸濁液を挟む一対の金型を、予め前記シリンダーより高い温度に昇温し、前記シリンダーに前記懸濁液を充填し、該懸濁液から前記有機化合物を気化させる、この後、前記シリンダー内に設置されたスクリューによって、前記シリンダー内に充填された前記懸濁液を加圧し、該懸濁液を前記シリンダーの前方に設置されたダイの内側の溝を通過させ、該溝の出口からチューブ状の前記懸濁液として押し出し、該チューブ状の懸濁液を前記一対の金型で挟み、該一対の金型を閉じた後に、エアブロー装置によって前記チューブ状の懸濁液の内側に、徐々に空気圧が増大する圧縮空気を供給し、該チューブ状の懸濁液を前記一対の金型内で膨らませる、これによって、残存した前記有機化合物の体が前記チューブから気化し、さらに、前記懸濁液を構成する成形材料が熱融解もしくは熱軟化し、この後、該成形材料が圧縮変形し、圧縮変形した形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われるとともに、隣接する前記金属のナノ粒子同士が金属結合することで、該圧縮変形した成形材料同士が結合され、該成形材料同士が結合された成形体が、前記一対の金型内に、中空の成形体として製造される、請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を用いてエアブロー成形法に依って成形体を製造する製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を用いてサーモフォーミング成形法に依って成形体を製造する製造方法は、請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を充填するシリンダーを、予め前記懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温し、前記懸濁液を圧縮する上方の金型と、真空ポンプの吸引ホースが繋がる下方の金型を、予め前記シリンダーより高い温度に昇温し、前記シリンダーに前記懸濁液を充填し、該懸濁液から前記有機化合物を気化させる、この後、前記シリンダー内に設置されたスクリューによって、前記シリンダー内に充填された前記懸濁液を加圧し、該懸濁液を前記シリンダーの前方に設置されたダイの内側の溝を通過させ、該溝の出口からシート状の前記懸濁液として押し出し、該シート状の懸濁液を、前記上方の金型と前記下方の金型との間に挟み、前記真空ポンプを稼働させるとともに、前記上方の金型を前記下方の金型に下ろし、該上方の金型によって、徐々に増大する加圧力を前記シート状の懸濁液に加え、該シート状の懸濁液を、前記下方の金型に密着させるとともに、前記上方の金型で圧縮する、これによって、残存した前記有機化合物の気体が、前記懸濁液を構成する成形材料から気化し、さらに、前記成形材料が熱融解もしくは熱軟化し、この後、該成形材料が圧縮変形し、圧縮変形した前記成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われるとともに、隣接する前記金属のナノ粒子同士が金属結合することで、該圧縮変形した成形材料同士が結合され、該成形材料同士が結合した成形体が、前記上方の金型と前記下方の金型とで形成される間隙に製造される、請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を用いてサーモフォーミング成形法に依って成形体を製造する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不燃性を有し自己発火しない合成樹脂の成形体の製造方法に関わる。つまり、成形材料の表面に金属結合した金属のナノ粒子の集まりが析出し、この成形材料の集まりが液体の有機化合物に分散した懸濁液を作成する。この懸濁液を成形機ないしは金型に充填して熱と圧力とを同時に加えると、有機化合物が気化した後に、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが圧縮変形した成形材料を覆い、金属のナノ粒子の金属結合で圧縮変形した成形材料同士が結合し、成形体が製造される。成形体を構成する全ての圧縮変形した成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりからなる気密性の被膜で覆われ、成形体は不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。
【背景技術】
【0002】
本発明に近い技術に難燃性の合成樹脂の製造方法がある。燃えにくい合成樹脂を難燃性合成樹脂と言い、燃えにくい性質として、難燃性、自己消化性、燃焼の遅延性がある。しかし、合成樹脂が有機材料で構成され、その分子の骨格が炭素と水素が主たる構成元素であるため、合成樹脂は燃えやすい性質を持つ。このため、合成樹脂の分子の骨格に塩素や窒素などのいわゆるヘテロ原子と呼ばれる元素を導入して(例えば、特許文献1を参照)、あるいは、難燃化の効果を有するハロゲン化合物、リン化合物、または無機化合物などを添加して(例えば、特許文献2と特許文献3とを参照)、合成樹脂を燃えにくくしている。
しかしながら、塩素元素を導入することやハロゲン化合物を添加することに依り、合成樹脂の燃焼によって有毒性ガスが発生する懸念の払しょくが新たに必要となる。また、リン化合物を添加することに依り、合成樹脂の加水分解性が進行する課題や金型を汚染する課題が新たに発生する。さらに、無機化合物の熱分解温度が低いため、成形温度の高い合成樹脂には適用できない課題が新たに発生する。
これに対し、最も難燃性が高い合成樹脂として、分子の骨格の50wt%以上が塩素から構成されるポリ塩化ビニル樹脂PVCがあり、火災時の安全性が重視される電線被覆材、建材、雨樋、通気などのパイプ類、床材、サッシなどに幅広く用いられている。また、難燃性の指標の一つに、燃やすのに必要な酸素濃度を意味する酸素指数があり、PVCの酸素指数が大気中の酸素濃度の21%を超えるため、自己消化性を持つ。さらに、PVCは燃焼の際の放熱量が他の合成樹脂より低いため、燃焼しても他の材料に比べ延焼しにくい性質を持つ。
しかしながら、PVCは有機溶剤に弱く、65−85℃で軟化し、−20℃で脆化するため、使用できる温度範囲が狭く、また、衝撃力に弱いため、製品の用途が著しく制約される。
このため、合成樹脂の材質に拘わらず合成樹脂が難燃化でき、難燃化の処理で新たな課題や問題点が発生しない汎用性のある合成樹脂の難燃化技術が求められている。
【0003】
合成樹脂が燃焼する過程は、最初に合成樹脂が加熱され、次に高分子が熱分解し、さらに自己発火して燃焼が始まり、火炎が伝搬する過程を踏む。なお、自己発火とは自らが燃え出すことを言い、発火に必要な熱エネルギーを得ると、つまり、発火点を超える温度に昇温されると、可燃性物質は酸素ガスが存在する雰囲気で燃え出す。加熱過程は、不燃性ないしは難燃性が要求される場面で合成樹脂が使用されるため、全ての合成樹脂は加熱される。また、合成樹脂を構成する全ての高分子が、加熱によって熱分解する。
いっぽう、高分子の熱分解反応は、酸素ガスが存在する雰囲気と、窒素ガス雰囲気とでは大きく異なる。つまり、酸素ガスが存在する雰囲気では、酸化反応による熱分解が連続して起こり、酸化反応は発熱を伴うため、高分子の熱分解を促進させる。また、発熱現象が、熱分解された可燃性ガスに熱エネルギーを与え、可燃性ガスが発火点以上に昇温されると、自己発火して燃焼が開始し、酸素ガスの存在で合成樹脂の燃焼が継続する。いっぽう、窒素ガス雰囲気では、酸化反応は起こらず、吸熱反応を伴う熱分解が連続して起こる。熱分解が吸熱反応であるため、窒素ガス雰囲気での熱分解反応は遅れ、熱分解は酸素ガスが存在する雰囲気に比べて著しく高温側で進む。いっぽう、窒素ガス雰囲気であっても、熱分解によって可燃性ガスが生成され、可燃性ガスが大気雰囲気に移動して発火点以上に昇温されれば、可燃性ガスが自己発火し、火災の起点を作る。
これに対し、合成樹脂の成形体を構成する成形材料、すなわち、個々のペレットないしは個々の粉粒体を、外界を遮断する気密性の被膜で覆う事ができれば、個々の成形材料の体積に相当する狭い領域内で高分子が熱分解する。このため、熱分解で最初に生成される可燃性ガスは、気密性の被膜で覆われた狭い領域内に閉じ込められ、狭い領域内における可燃性ガスが占める分圧が徐々に増大し、その温度における飽和圧力になって熱分解が停止する。従って、開放された窒素雰囲気における熱分解より、より大きな熱エネルギーを与えないと熱分解は進まない。また、可燃性ガスの1モルが22.4リットルの体積を占めるため、ごく微量が熱分解された時点で、閉じ込められた狭い領域内で、その温度における可燃性ガスの飽和圧力になる。さらに、熱分解で2番目以降に生成される可燃性ガスは、すでに最初の可燃性ガスが閉じ込められているため、さらに大きな熱エネルギーを供給しないと熱分解が進まない。この結果、高分子の熱分解は、窒素雰囲気における熱分解より著しく高温側にシフトし、可燃性ガスの発火点を超えて熱分解が進む。この結果、合成樹脂の成形体は、加熱に依る高分子の熱分解で自己発火せず、火災の起点を作らない。さらに、気密性の被膜が一定の結合強度を持てば、被膜内に閉じ込められたガス圧で被膜が破壊されない。これによって、成形材料に酸素ガスが供給されず、成形体は不燃性を持つ。
以上に説明したように、合成樹脂の成形体を構成する全ての成形材料を、一定の結合強度を持つ気密性の被膜で覆えば、成形体は、第一に、火災の起点となる自己発火が起こらない。第二に不燃性を持つため、燃焼に依る有毒ガスと可燃性ガスと黒煙とを発生せず、また、火災が延焼しない。これによって、合成樹脂の成形体に新たな用途が開拓される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−339510号公報
【特許文献2】特開2010−047703号公報
【特許文献3】特開2005−042060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
合成樹脂の成形体は、粉粒体ないしはペレットからなる成形材料の集まりを、成形機ないしは金型に充填し、成形材料の集まりを加熱して融解もしくは軟化させ、さらに、熱と圧縮力とを加え、融解もしくは軟化した成形材料を直接結合させ、この後冷却して成形体を製造する。従って、3段落で説明した不燃性を有し自己発火しない性質を持つ成形体を実現する上で次の5つの課題が発生する。第一に、成形材料が、外界を遮断する気密性を有する被膜を形成する物質で覆われる。この成形材料の集まりを成形機ないしは金型に充填し、熱と圧縮力とを同時に加えると、第二に、被膜を形成する物質が、一定の結合強度を持つ気密性の被膜に変わり、第三に、全ての成形材料が気密性の被膜で覆われ、第四に、気密性の被膜を介して成形材料同士が結合し、成形体が形成される。さらに、第五に、成形体の内部に空胞が形成されない。これによって、成形体が火災時に高温にさらされても、空胞の熱膨張が起こらず、気密性の被膜は破壊されない。この結果、火災時に高温下にさらされても、成形体を構成する全ての成形材料が、外界から遮断され、また、酸素ガスの供給が断たれるため、成形体は不燃性を有し自己発火しない性質を維持する。
これらの5つの課題を解決して成形体が製造でき、さらに、気密性の被膜が金属で構成できれば、成形材料は金属の被膜で外界から遮断され、成形材料の集まりからなる成形体は金属の耐熱性と金属の導電性と熱伝導性とを兼備する。これによって、第一に、成形体は、不燃性を有し自己発火しない性質と金属の耐熱性とを持つ。従って、成形体が高温にさらされても燃焼しないため、塩化水素などの有毒性ガスと可燃性ガスなどからなる一切のガスと黒煙とを発生しない。このため、火災時において、合成樹脂の製品の燃焼に依る様々な災害が起こらない。また、第二に、金属より軽量な金属の性質を持つ合成樹脂の成形体に、新たな用途が拡大される。例えば、成形法に準じて電磁波を反射するシールド基材、熱を放出する放熱基材、静電気を帯電させない帯電防止基材などとして成形体が製造できる。さらに、第三に、既存の各種合成樹脂からなる成形材料を気密性の被膜で覆うため、従来の成形方法で成形体が製造でき、2段落で説明した成形材料の組成を変えることに依る課題や問題点が一切発生しない。また、従来の成形体と同様に安価に製造できる。
以上に説明したように、前記した5つの課題が解決できれば、合成樹脂の成形体に画期的な性質が付与され、これによって、画期的な新たな用途が合成樹脂に開拓される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に関わる合成樹脂の成形材料の表面が金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われた該成形材料の集まりが、液体の有機化合物に分散した懸濁液を製造する製造方法は、
熱分解で金属を析出する金属化合物をアルコールに分散し、該金属化合物が分子状態でアルコールに分散したアルコール分散液を作成し、前記アルコールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度が前記アルコールの粘度より20倍以上高い第二の性質と、融点が20℃より低い第三の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より高い第四の性質とからなる4つの性質を兼備する有機化合物を、前記アルコール分散液に混合し、該有機化合物が前記アルコールに溶解ないしは混和し、該有機化合物が前記アルコール分散液と均一に混ざり合った混合液を作成する、さらに、該混合液に合成樹脂の成形材料の集まりを混合し、該混合液の粘度に応じた厚みで該混合液が前記成形材料に付着した混合物を作成する、この後、該混合物から前記アルコールを気化させる、これによって、前記成形材料の表面に前記金属化合物の微細結晶の集まりが析出し、該金属化合物の微細結晶の集まりが表面に析出した成形材料の集まりが、前記有機化合物に分散した第一の懸濁液が製造される、さらに、該第一の懸濁液を熱処理し、前記金属化合物の微細結晶を熱分解させ、粒状の金属のナノ粒子が前記成形材料の表面に一斉に析出し、隣接する前記粒状の金属のナノ粒子同士が接触する部位で金属結合し、該金属結合した金属のナノ粒子の集まりが前記成形材料の表面を覆う、これによって、該金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われた成形材料の集まりが、前記有機化合物に分散した第二の懸濁液が製造され、合成樹脂の成形材料の表面が金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われた該成形材料の集まりが、液体の有機化合物に分散した懸濁液が製造される懸濁液の製造方法。
【0007】
つまり、本製造方法における5つの処理を連続して実施すると、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが成形材料の表面に析出し、この成形材料の集まりが液体の有機化合物に分散した第二の懸濁液が製造される。第二の懸濁液から有機化合物を気化すれば、全ての成形材料が金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われる。この金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、一定の結合強度を有する被膜を形成し、この被膜は成形材料が外界から遮断される気密性を有する。これによって、5段落に記載した第一の課題を解決する成形体が製造される。
すなわち、第一に、金属化合物をアルコールに分散すると、金属化合物が分子状態でアルコールに分散し、金属の原料が液相化される。第二に、有機化合物をアルコール分散液に混合すると、有機化合物がアルコールに溶解ないしは混和するため、有機化合物は金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合って混合液を形成する。第三に、混合液に合成樹脂の成形材料の集まりを混合させると、有機化合物の粘度がアルコールの粘度より20倍以上高いため、混合液の粘度に応じた厚みで混合液が成形材料に付着し、混合液が付着した成形材料の集まりからなる混合物が形成される。第四に、混合物からアルコールを気化させると、金属化合物はアルコールに分散するが有機化合物に分散しないため、金属化合物の微細結晶が、成形材料の表面に一斉に析出する。この結果、金属化合物の微細結晶の集まりが成形材料の表面に析出し、この成形材料の集まりが液体の有機化合物に分散した第一の懸濁液が製造される。第五に、第一の懸濁液を熱処理し金属化合物を熱分解すると、金属化合物の微細結晶の大きさに応じた40−60nmの大きさからなる粒状の金属のナノ粒子が、成形材料の表面に一斉に析出する。金属のナノ粒子は不純物を持たない活性状態で析出するため、隣接した金属のナノ粒子は接触する部位で互いに金属結合し、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが成形材料の表面に析出し、この成形材料の集まりが液体の有機化合物に分散した第二の懸濁液が作成される。なお、金属のナノ粒子は有機化合物と反応せず、金属結合した金属のナノ粒子の集まりを形成した後は、安定した金属のナノ粒子の集まりとして有機化合物と共に第二の懸濁液を構成する。また、有機化合物は吸湿性がないため、液体の有機化合物で外界から遮断された金属結合した金属のナノ粒子の集まりは経時変化しない。従って、第二の懸濁液から有機化合物を気化すれば、全ての成形材料が金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われる。この金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、金属のナノ粒子が積み重なり合った積層構造を形成して成形材料を覆うため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、一定の結合強度を有し、また、気密性の被膜を形成して成形材料を覆う。これによって、5段落の第一の課題が解決される。
また、第二の懸濁液における有機化合物の粘度と混合割合とを変え、さらに、成形材料の混合割合を変えれば、第二の懸濁液における成形材料の滑り性と第二の懸濁液の粘り性とが自在に変わる。さらに、有機化合物の沸点を変えれば、第二の懸濁体に加熱と加圧とを加えて成形体を加工する際に、第二の懸濁液における成形材料の滑り性と第二の懸濁液の粘り性とが自在に変えられ、成形体を加工する際の成形機の制約を受けない。
なお、熱可塑性樹脂の成形材料と一部の熱硬化性樹脂の成形材料は、長さが2ないし3mm程度のペレットで、金属のナノ粒子より5桁も大きい。また、残りの熱硬化性樹脂の成形材料は、粒径が数十μm以上の粉粒体で、金属のナノ粒子より3桁以上も大きい。従って、成形材料に比べて3桁以上も小さい金属のナノ粒子が金属結合し、金属のナノ粒子の集まりとなって、成形材料の表面に析出する。
また、金属化合物の熱分解反応は、最初に金属化合物が金属と無機物ないしは有機物とに分解する。次に、無機物ないしは有機物が気化熱を奪いながら気化し、気化が完了した後に、金属が析出して熱分解反応が完了する。この析出した金属は不純物を含まない。
なお、本製造方法における原料は、熱分解で金属を析出する金属化合物とアルコールと高沸点の有機化合物とからなり、いずれも汎用的な工業用薬品である。また、本製造方法における処理は、第一に金属化合物をアルコールに分散する処理と、第二にアルコール分散液に有機化合物を混合する処理と、第三に混合液に合成樹脂の成形材料の集まりを混合する処理と、第四に混合物からからアルコールを気化させる処理と、第五に第一の懸濁液を熱処理する処理とからなり、これら5つの簡単な処理を連続して実施すると、第二の懸濁液が製造される。このため、第二の懸濁液は、極めて安価な費用で大量に製造できる。
いっぽう、アルコールの沸点と、金属化合物の熱分解で生成される無機物ないしは有機物の沸点とは、各々に温度差があり、気化したアルコールと、気化した無機物ないしは有機物とは、回収機で分離して個別に回収できる。
【0008】
前記した懸濁液を製造する製造方法において、前記した金属化合物が、無機物の分子ないしは無機物のイオンからなる配位子が、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体であり、前記したアルコールがメタノールであり、前記した有機化合物が、芳香族カルボン酸エステル類、グリコール類、グリコールエーテル類ないしはグリセリンに属するいずれか一種類の有機化合物であり、前記金属化合物として前記無機金属化合物からなる錯体を用い、前記アルコールとしてメタノールを用い、前記有機化合物として前記一種類の有機化合物とを用い、前記した懸濁液を製造する製造方法に従って懸濁液を製造する、前記した懸濁液を製造する製造方法。
【0009】
つまり、本懸濁液の製造方法における無機金属化合物からなる錯体は、還元雰囲気の180−220℃の比較的低い温度で熱分解が完了して金属を析出する。また、最も汎用的なアルコールであるメタノールに、10重量%に近い割合で分散する。このため、無機金属化合物からなる錯体は、6段落に記載した懸濁液の製造方法において、懸濁液を製造する際の原料になる。
すなわち、無機物の分子ないしは無機物のイオンからなる配位子が、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体を、還元雰囲気で熱処理すると、配位結合部が最初に分断され、無機物と金属とに分解される。さらに昇温すると、無機物が気化熱を奪って気化し、すべての無機物の気化が完了した後に金属が析出する。つまり、錯体を構成するイオンの中で、分子の中央に位置する金属イオンが最も大きい。このため、金属イオンと配位子との距離が最も長い。従って、錯体を還元雰囲気で熱処理すると、金属イオンが配位子と結合する配位結合部が最初に分断され、金属と無機物とに分解する。さらに温度が上がると、無機物が気化熱を奪って気化し、気化が完了した後に金属が析出する。この際、無機物が低分子量であるため、無機物の分子量に応じた180−220℃の低い温度で無機物の気化が完了する。このような錯体として、アンモニアNHが配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体、塩素イオンClが、ないしは塩素イオンClとアンモニアNHとが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体、シアノ基CNが配位子イオンとなって金属イオンに配位結合するシアノ金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体、臭素イオンBrが配位子イオンとなって金属イオンに配位結合するブロモ金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体、沃素イオンIが配位子イオンとなって金属イオンに配位結合するヨード金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体などがある。また、このような分子量が小さい無機金属化合物からなる錯体は、合成が容易で最も安価な金属錯イオンを有する金属錯体である。
また、本懸濁液の製造方法における芳香族カルボン酸エステル類、グリコール類、グリコールエーテル類ないしはグリセリンに、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタ―ノールの粘度より20倍以上高い第二の性質と、融点が20℃より低い第三の性質と、沸点が無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度より高い第四の性質とを兼備する有機化合物がある。このような有機化合物は、いずれも汎用的な工業用薬品である。このため、このような有機化合物は、6段落に記載した懸濁液の製造方法において、懸濁液を製造する際の安価な原料になる。
従って、無機金属化合物からなる錯体のメタノール分散液に、前記した有機化合物のいずれかを混合すると、錯体と有機化合物とが分子状態で均一に混ざり合う。この混合液に、合成樹脂の成形材料の集まりを混合して混合物を作成すると、有機化合物の粘度がメタノールの粘度より20倍以上高いため、混合液の粘度に応じた厚みで混合液が成形材料の表面に付着する。この後、混合物からメタノールを気化させると、錯体はメタノールに分散するが有機化合物に分散しないため、錯体の微細結晶が、成形材料の表面に一斉に析出する。この結果、錯体の微細結晶の集まりが表面に析出した成形材料の集まりが、液体の有機化合物に分散した第一の懸濁液が製造される。この第一の懸濁液を熱処理し、錯体を熱分解すると、錯体の微細結晶の大きさに応じた40−60nmの大きさからなる金属の粒状のナノ粒子が、成形材料の表面に一斉に析出する。この金属のナノ粒子は不純物を持たない活性状態で析出するため、隣接した金属のナノ粒子は接触する部位で互いに金属結合し、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが表面に析出した成形材料の集まりが、液体の有機化合物に分散した第二の懸濁液が製造される。従って、本懸濁液の製造方法における錯体とメタノールと有機化合物とは、6段落に記載した懸濁液の製造方法において、懸濁液を製造する際の第一の安価な原料になる。
なお、熱硬化性樹脂の成形材料を用いる場合は、成形材料の軟化点が無機金属化合物の錯体の熱分解温度より低い。このため、第二の懸濁液を製造する際に、軟化したペレットないしは粉粒体の表面に、錯体の熱分解で金属のナノ粒子の集まりが一斉に析出し、このペレットないしは粉粒体の集まりが有機化合物に分散した第二の懸濁液が製造される。
また、非晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、ガラス転移温度が無機金属化合物の錯体の熱分解温度より低い成形材料を用いる。このため、第二の懸濁液を製造する際に、軟化したペレット表面に、錯体の熱分解で金属のナノ粒子の集まりが一斉に析出し、このペレットの集まりが有機化合物に分散された第二懸濁液が製造される。
さらに、結晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、融点が無機金属化合物の錯体の熱分解温度より低い成形材料を用いる。このため、第二の懸濁液を製造する際に、融解したペレットの表面に、錯体の熱分解で金属のナノ粒子の集まりが一斉に析出し、このペレットの集まりが有機化合物に分散した第二懸濁液が製造される。
以上に説明したように、本懸濁液の製造方法に依れば、安価な工業用薬品である無機金属化合物からなる錯体と、最も汎用的なアルコールであるメタノールと、汎用的な工業用薬品である有機化合物とを原料として用い、さらに、様々な材質の合成樹脂の成形材料を用いて第一の懸濁液を製造し、さらに、第一の懸濁液を還元雰囲気の180−220℃の温度で熱処理するだけで、6段落に記載した懸濁液が大量に安価な費用で製造される。
【0010】
前記した懸濁液を製造する製造方法において、前記した金属化合物が、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、前記カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物であり、前記したアルコールがメタノールであり、前記した有機化合物が、芳香族カルボン酸エステル類、グリコール類、グリコールエーテル類ないしはグリセリンに属するいずれか一種類の有機化合物であり、前記金属化合物として前記カルボン酸金属化合物を用い、前記アルコールとしてメタノールを用い、前記有機化合物として前記一種類の有機化合物とを用い、前記した懸濁液を製造する製造方法に従って懸濁液を製造する、前記した懸濁液を製造する製造方法。
【0011】
つまり、本懸濁液の製造方法における二つの特徴を持つカルボン酸金属化合物は、大気雰囲気の290−430℃で熱分解が完了し金属を析出する。また、最も汎用的なアルコールであるメタノールに対し、10重量%に近い濃度で分散する。このため、カルボン酸金属化合物は、6段落に記載した懸濁液の製造方法において、懸濁液を製造する際の原料になる。
すなわち、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物においては、金属イオンが最も大きいイオンであり、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物を大気雰囲気で熱処理すると、カルボン酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、カルボン酸と金属とに分離する。さらに、カルボン酸が飽和脂肪酸から構成される場合は、炭素原子が水素原子に対して過剰となる不飽和構造を持たないため、カルボン酸の分子量と数とに応じて、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了すると金属が析出する。こうしたカルボン酸金属化合物として、オクチル酸金属化合物、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物などがある。なお、オクチル酸の沸点は228℃であり、ラウリン酸の沸点は296℃であり、ステアリン酸の沸点は361℃である。従って、これらのカルボン酸金属化合物は、290−430℃の大気雰囲気で熱分解が完了する。また、メタノールに10重量%に近い割合で分散する。
さらに、カルボン酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、最も汎用的な有機酸であるカルボン酸を、強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成され、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、カルボン酸金属化合物が合成される。従って、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。このため、9段落で説明した無機金属化合物からなる錯体より熱処理温度が高いが、錯体より安価な金属化合物である。
また、本懸濁液の製造法における芳香族カルボン酸エステル類、グリコール類、グリコールエーテル類ないしはグリセリンに、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの粘度より20倍以上高い第二の性質と、融点が20℃より低い第三の性質と、沸点がカルボン酸金属化合物の熱分解温度より高い第四の性質とを兼備する有機化合物がある。このような有機化合物は、汎用的な工業用薬品である。このため、このような有機化合物は、6段落に記載した懸濁液の製造方法において、懸濁液を製造する際の安価な原料になる。
従って、カルボン酸金属化合物のメタノール分散液に、前記した有機化合物のいずれかを混合すると、カルボン酸金属化合物と有機化合物とが分子状態で均一に混ざり合う。この混合液に、合成樹脂の成形材料の集まりを混合して混合物を作成すると、有機化合物の粘度がメタノールの粘度より20倍以上高いため、混合液の粘度に応じた厚みで混合液が成形材料に付着する。この混合物からメタノールを気化させると、カルボン酸金属化合物はメタノールに分散するが有機化合物に分散しないため、カルボン酸金属化合物の微細結晶が、成形材料の表面に一斉に析出する。この結果、カルボン酸金属化合物の微細結晶の集まりが成形材料の表面に析出し、この成形材料の集まりが、液体の有機化合物に分散した第一の懸濁液が製造される。さらに、第一の懸濁液を熱処理して、カルボン酸金属化合物を熱分解すると、カルボン酸金属化合物の微細結晶の大きさに応じた40−60nmの大きさからなる金属の粒状のナノ粒子が、成形材料の表面に一斉に析出する。この金属のナノ粒子は不純物を持たない活性状態で析出するため、隣接した金属のナノ粒子は接触する部位で互いに金属結合し、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが成形材料の表面に析出し、この成形材料の集まりが、液体の有機化合物に分散した第二の懸濁液が製造される。従って、本懸濁液の製造方法におけるカルボン酸金属化合物とメタノールと有機化合物とは、6段落に記載した懸濁液の製造方法において、懸濁液を製造する第二の安価な原料になる。
なお、非晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、ガラス転移温度が、無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度より高く、かつ、オクチル酸金属化合物の熱分解温度より低い成形材料を用いる。この際、金属のナノ粒子の原料として、オクチル酸金属化合物を用いる。従って、第二の懸濁液を製造する際に、オクチル酸金属化合物の熱分解で金属のナノ粒子の集まりが、軟化したペレット表面に一斉に析出し、こうしたペレットの集まりが有機化合物に分散した第二懸濁液が製造される。
また、結晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、融点が無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度より高く、かつ、オクチル酸金属化合物の熱分解温度より低い成形材料を用いる。この際、金属のナノ粒子の原料として、オクチル酸金属化合物を用いる。従って、第二の懸濁液を製造する際に、融解したペレットの表面に、オクチル酸金属化合物の熱分解で、金属のナノ粒子の集まりが一斉に析出し、こうしたペレットの集まりが、有機化合物に分散した第二懸濁液が製造される。
さらに、融点がオクチル酸金属化合物の熱分解温度より高い結晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、ラウリン酸金属化合物を金属のナノ粒子の原料として用いる。従って、第二の懸濁液を製造する際に、融解したペレットの表面に、ラウリン酸金属化合物の熱分解で、金属のナノ粒子の集まりが一斉に析出し、こうしたペレットの集まりが有機化合物に分散した第二の懸濁液が製造される。
以上に説明したように、本懸濁液の製造方法に依れば、安価な工業用薬品であるカルボン酸金属化合物と、汎用的なアルコールのメタノールと、汎用的な工業用薬品である有機化合物とを原料として用い、さらに、様々な材質の合成樹脂の成形材料を用いて第一の懸濁液を製造し、さらに、第一の懸濁液を大気雰囲気の290−430℃の温度で熱処理するだけで、6段落に記載した懸濁液が大量に安価な費用で製造される。
【0012】
前記した製造方法に従って製造した懸濁液を用いて圧縮成形法に依って成形体を製造する製造方法は、前記した製造方法に従って製造した懸濁液を充填するキャビティを、予め前記懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温し、前記懸濁液を圧縮する成形機を、予め前記キャビティより高い温度に昇温し、この後、前記キャビティに前記懸濁液を充填し、該懸濁液から前記有機化合物を気化させる、さらに、前記キャビティに前記成形機を下ろし、該成形機によって、前記キャビティ内に充填された前記懸濁液を昇温するとともに、徐々に増大する加圧力を加え、前記懸濁液に残存した前記有機化合物を気化させ、さらに、前記懸濁液を構成する成形材料を熱融解もしくは熱軟化させ、この後、該成形材料を圧縮変形させる、この後、前記成形機による加圧を一旦中止し、残存した前記有機化合物の体をキャビティと成形機とから抜け出させる、さらに、前記成形機によって、再度、前記キャビティ内に充填された前記懸濁液を昇温するとともに、前記加圧力より大きい加圧力を加える、これによって、圧縮変形した前記成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われるとともに、隣接する前記金属のナノ粒子同士が金属結合することで、該圧縮変形した成形材料同士が結合され、前記キャビティと前記成形機とで形成される間隙に成形体が製造される、前記した製造方法に従って製造した懸濁液を用いて圧縮成形法に依って成形体を製造する製造方法。
【0013】
つまり、本成形体の製造方法に依れば、前記した製造方法で製造した懸濁液を用い、従来の圧縮成形法に近い方法で、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ合成樹脂の成形体が、キャビティと成形機とで形成される間隙に製造される。
すなわち、予めキャビティを、6段落に記載した第二の懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温する。また、予め成形機をキャビティより高い温度に昇温する。なお、第二の懸濁液は、有機化合物の存在によって滑り性と粘り性とを兼備する。このため、キャビティに第二の懸濁液が容易に充填され、この後、第二の懸濁液から有機化合物の多くが気化する。いっぽう、残存した有機化合物の粘度が高いため、成形材料から有機化合物は離脱せず、成形材料に滑り性をもたらし、成形材料の移動を容易にする。なお、気化した有機化合物は、回収機をキャビティの近くに設置し、回収機で吸引して再利用する。この後、成形機をキャビティに下し、成形機によって第二の懸濁液を昇温させ、また、徐々に増大する加圧力を加える。この際、最初に第二の懸濁液から残りの有機化合物が気化し、第二の懸濁液は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われた成形材料の集まりになる。次に、成形材料が熱融解もしくは熱軟化し、徐々に増大する加圧力によって、成形材料が圧縮変形される。いっぽう、有機化合物の気体は、徐々に増大する加圧力によって、成形材料の集まりに留まれず、成形材料の集まりとキャビティとの隙間と、成形材料の集まりと成形機との隙間とに吐き出る。この後、成形機による加圧を一旦中止し、有機化合物の気体をキャビティと成形機とから抜け出させ、抜け出た気体を回収機で吸引して再利用する。このため、キャビティ内の成形材料の集まりに気体は存在せず、成形体の内部に空胞が形成されない。この後、成形機で前記した加圧力より大きな加圧力を成形材料の集まりに加え、成形材料を昇温しながらさらに圧縮変形する。この結果、圧縮変形した成形材料は金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われる。また、成形材料が金属のナノ粒子が析出した温度より高い温度に昇温されるため、金属結合した金属のナノ粒子が活性状態になって僅かに粗大化し、僅かに粗大化した金属のナノ粒子が再度金属結合する。このため、成形材料を覆っていた金属のナノ粒子の集まりが再度金属結合することで、圧縮変形した成形材料が互いに結合され、成形材料の集まりからなる成形体がキャビティと成形機とで形成される間隙に形成される。この金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、金属のナノ粒子が積み重なり合った積層構造を形成して成形材料を覆うため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、一定の結合強度を有し、気密性の被膜を形成して成形材料を覆う。このため、成形体は内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。また、成形体は金属に近い性質を持つため、例えば、熱伝導性に優れた放熱基材を圧縮成形法で製造できる。
すなわち、金属化合物が熱分解して金属のナノ粒子を析出した温度は、有機化合物の沸点より低いため、有機化合物が気化する際と、熱融解もしくは熱軟化した成形材料が圧縮変形する際とを通じて、金属のナノ粒子の集まりが継続して昇温される。このため、金属のナノ粒子の集まりに、継続して熱エネルギーが供給され、金属のナノ粒子が再び活性状態になる。いっぽう、有機化合物で外界と遮断されていた金属のナノ粒子の集まりは経時変化せず、不純物を持たないため、活性状態になった金属のナノ粒子は、隣接する金属のナノ粒子を取り込んで成長し、僅かに粗大化した金属のナノ粒子が、再び接触部位で互いに金属結合し、改めて金属結合した金のナノ粒子の集まりとなる。こうした金属のナノ粒子が昇温され、活性化され、ナノ粒子が僅かに成長し、僅かに成長したナノ粒子が再度金属結合する過程を、成形材料が昇温されるたびに、キャビティ内で繰り返す。この結果、圧縮変形された成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、成形材料を覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合して成形材料が互いに結合し、成形体が形成される。従って、成形体を構成する全ての成形材料が、一定の結合強度を有する金属結合した金属のナノ粒子の集まりからなる被膜で覆われ、全ての成形材料が外界の雰囲気を遮断する気密性の被膜で覆われる。このため、成形体は不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。
なお、成形材料として熱硬化性樹脂を用いる場合は、有機化合物の沸点に昇温されたキャビティ内に第二の懸濁液を充填すると、有機化合物が気化し、また、成形材料が軟化した後に重合反応が始まる。さらに、成形機によって成形材料を昇温させて加圧すると、残存した有機化合物が最初に気化し、次に軟化した成形材料が圧縮変形される。従って、有機化合物が気化した後は、成形材料は金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われる。さらに、成形材料より3桁以上も小さい金属のナノ粒子の集まりが、成形材料の変形に追従して変形し、圧縮変形した成形材料を覆い続ける。また、金属のナノ粒子が析出した温度より高い温度に昇温されるため、金属結合した金属のナノ粒子が成長して僅かに粗大化し、粗大化した金属のナノ粒子が再度金属結合する。このため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、重合反応が進んだ成形材料を覆い、成形材料を覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合して成形材料が互いに結合し、熱硬化性樹脂からなる成形体が製造される。
また、熱硬化性樹脂は、昇温するほど重合反応が進み、熱硬化も同時に進むため、熱硬化が進み過ぎた成形材料を圧縮するには過大な加圧力が必要になる。いっぽう、熱硬化性樹脂の軟化点が、無機金属化合物からなる錯体が熱分解する温度より低い。このため、第二の懸濁液を加熱して圧縮する成形機の温度を、錯体が熱分解する温度より高いが、軟化点に応じて錯体の熱分解温度に近づける。これによって、熱硬化が進み過ぎる前の軟化状態にある成形材料が圧縮され、圧縮された成形材料は成形機でさらに昇温されて重合反応が進み、重合反応が進んだ成形材料の集まりからなる熱硬化性樹脂の成形体が製造される。
さらに、成形材料として非晶性の熱可塑性樹脂を用いる場合は、成形機の温度を非晶性樹脂のガラス転移温度より高く、かつ、金属のナノ粒子が析出した温度より高いが、ガラス転移温度に応じて、金属のナノ粒子が析出した温度に近づける。こうして、成形機によって第二の懸濁液に熱と圧力とを同時に加えると、最初に有機化合物が気化し、この後、ペレットの粘性が低下する前に軟化したペレットが圧縮変形する。従って、有機化合物が気化した後は、ペレットは金属結合した金属のナノ粒子の集まりで継続して覆われる。さらに、ペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、ペレットの変形に追従して変形し、変形したペレットを覆い続ける。また、金属のナノ粒子が析出した温度より高い温度に昇温されるため、金属結合した金属のナノ粒子が成長して僅かに粗大化し、粗大化した金属のナノ粒子が再度金属結合する。この結果、ペレットが再度金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、ペレットを覆う金属のナノ粒子の集まりが再度金属結合してペレットが互いに結合し、非晶性の熱可塑性樹脂からなる成形体が製造される。
また、成形材料として結晶性の熱可塑性樹脂を用いる場合は、成形機の温度を結晶性樹脂の融点より高く、かつ、金属のナノ粒子が析出した温度より高いが、融点に応じて金属のナノ粒子が析出した温度に近づける。こうして、成形機によって第二の懸濁液に熱と圧力とを同時に加えると、最初に有機化合物が気化し、この後、ペレットの粘性が低下する前に融解したペレットが圧縮変形する。従って、有機化合物が気化した後は、ペレットは金属結合した金属のナノ粒子の集まりで継続して覆われる。さらに、ペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、ペレットの変形に追従して変形し、変形したペレットを覆い続ける。また、金属のナノ粒子が析出した温度より高い温度に昇温されるため、金属結合した金属のナノ粒子が成長して僅かに粗大化し、粗大化した金属のナノ粒子が再度金属結合する。この結果、ペレットが再度金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、ペレットを覆う金属のナノ粒子の集まりが再度金属結合して成形材料が互いに結合し、結晶性の熱可塑性樹脂からなる成形体が製造される。
この後、成形機を引き上げ、キャビティから成形体を取り出すと、固化した成形材料の集まりからなる成形体が得られる。この固化した成形材料は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、外界の雰囲気から遮断される。従って、固化した成形材料が結合した成形体は、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。
なお、成形体は内部に空胞がないため、火災時に高温に昇温されても、空胞の体積膨張が起こらず、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが破壊されない。また、成形体が高温に昇温されても、金属のナノ粒子の大きさが3桁以上も小さいため、合成樹脂の体積膨張に、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが追従して変形し、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは破壊されない。このため、不燃性と自己発火しない性質とが維持される。
さらに、成形体のリサイクルの際は、金属のナノ粒子を構成する金属の融点と、熱可塑性樹脂の融点、ないしは、熱硬化樹脂の反応温度とは大きく乖離し、かつ、金属の比重と合成樹脂の比重とが大きく乖離するため、リサイクルの際に成形体から金属ナノ粒子の集まりを分離させることは容易で、合成樹脂とナノ粒子の金属とは再利用できる。
以上に説明したように、本成形体の製造方法に依れば、5段落で説明した第2から第5の4つの課題を解決して、圧縮成形法によって、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ合成樹脂の成形体が製造される。
【0014】
前記した製造方法で製造した懸濁液を用いてトランスファ成形法に依って成形体を製造する製造方法は、前記した製造方法で製造した懸濁液を充填するポットを、予め前記懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温し、前記懸濁液が押し込まれるキャビティを、予め前記ポットより高い温度に昇温し、前記ポットに前記懸濁液を充填し、該懸濁液から前記有機化合物を気化させる、この後、前記ポットに設置されたプランジャーによって、前記ポットに充填された前記懸濁液を昇温するとともに加圧し、前記懸濁液に残存した前記有機化合物を気化させ、さらに、前記懸濁液を構成する成形材料を熱融解もしくは熱軟化させ、この後、該成形材料を前記キャビティ内に押し込む、この後、前記プランジャーに依る加圧を一旦中止し、残存した前記有機化合物の気体を前記キャビティから抜け出させる、さらに、前記プランジャーによって、再度、前記キャビティ内に押し込まれた前記懸濁液を加熱するとともに、徐々に増大する加圧力を加える、これによって、圧縮変形した前記成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われるとともに、隣接する前記金属のナノ粒子同士が金属結合することで、該圧縮変形した成形材料同士が結合され、前記キャビティ内に成形体が製造される、前記した製造方法に従って製造した懸濁液を用いてトランスファ成形法に依って成形体を製造する製造方法。
【0015】
つまり、本成形体の製造方法に依れば、前記した製造方法で製造した懸濁液を用い、従来のトランスファ成形法に近い方法で、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ合成樹脂の成形体が、キャビティ内に製造される。
すなわち、予めポットを、6段落に記載した第二の懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温する。また、予めキャビティをポットより高い温度に昇温する。なお、第二の懸濁液は、有機化合物の存在によって滑り性と粘り性とを兼備する。このため、ポットに第二の懸濁液が容易に充填され、この後、第二の懸濁液から有機化合物の多くが気化する。いっぽう、残存した有機化合物の粘度が高いため、成形材料から有機化合物は離脱せず、成形材料に滑り性をもたらし、成形材料の移動を容易にする。なお気化した有機化合物は、回収機をポットの近くに設置し、回収機で吸引して再利用する。この後、ポットに充填された第二の懸濁液を、プランジャーで加圧し、スプール、ランチ、ゲートを通過させた後に、キャビティ内に押し込む。キャビティに押し込まれた第二の懸濁液は昇温され、また一定の加圧力が作用する。この際、最初に残りの有機化合物が気化し、第二の懸濁液は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われた成形材料の集まりになる。さらに、成形材料が融解もしくは軟化し、加圧力で圧縮変形する。なお、気化した有機化合物は、加圧力で成形材料の集まりの内部に留まれず、成形材料の集まりとキャビティとの隙間と、成形材料の集まりとプランジャーとの隙間とに吐き出される。この後、プランジャーの加圧を一旦中止し、気体をキャビティから抜け出させ、回収機で吸引して再利用する。このため、キャビティ内の成形材料の集まりに気体は存在せず、成形体の内部に空胞が形成されない。この後、プランジャーによって、スプール、ランチ、ゲートを介して、キャビティ内に押し込まれた成形材料の集まりを、加熱しながら徐々に増大する加圧力で再度圧縮する。この結果、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われた成形材料がさらに変形する。また、成形材料が金属のナノ粒子が析出した温度より高い温度に昇温されるため、金属結合した金属のナノ粒子が活性状態になって僅かに粗大化し、僅かに粗大化した金属のナノ粒子が再度金属結合する。このため、成形材料を覆っていた金属のナノ粒子の集まりが再度金属結合することで、変形した成形材料同士が互いに結合され、成形体がキャビティ内に形成される。この金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、金属のナノ粒子が積み重なり合った積層構造を形成して成形材料を覆うため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、一定の結合強度を有し、また、気密性の被膜を形成して成形材料を覆う。このため、成形体は内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。また、成形体は金属に近い性質を持つため、例えば、熱伝導性に優れた放熱基材をトランスファ成形法で製造できる。
また、13段落で説明したように、金属化合物が熱分解して金属のナノ粒子を析出した温度は、有機化合物の沸点より低いため、有機化合物が気化する際と、熱融解もしくは熱軟化した成形材料が圧縮変形する際とを通じて、金属のナノ粒子の集まりが継続して昇温される。従って、金属のナノ粒子が昇温され、活性化され、ナノ粒子が僅かに成長し、僅かに成長したナノ粒子が再度金属結合する過程を、成形材料が昇温されるたびに、ポット内とキャビティ内とで繰り返す。この結果、圧縮変形された成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、成形材料を覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合して成形材料同士が互いに結合し、成形材料の集まりからなる成形体が形成される。従って、成形体を構成する全ての成形材料が、一定の結合強度を有する金属結合した金属のナノ粒子の集まりからなる被膜で覆われ、全ての成形材料が、外界の雰囲気を遮断する気密性の被膜で覆われる。これによって、成形体は不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。
なお、成形材料として熱硬化性樹脂を用いる場合は、13段落で説明したように、第二の懸濁液を加熱して圧縮するキャビティの温度を、無機金属化合物の錯体が熱分解する温度より高いが、熱硬化性樹脂の軟化点に応じて錯体の熱分解温度に近づける。また、キャビティ内で圧縮変形した成形材料が、軟化した固体のペレットないしは粉粒体であるため、成形材料より3桁以上も小さい金属のナノ粒子の集まりが、成形材料の変形に追従して変形し、成形材料を金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。この結果、重合反応が進んだ成形材料が金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、金属のナノ粒子の金属結合を介して成形材料が結合され、熱硬化性樹脂からなる成形体が製造される。
また、非晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、13段落で説明したように、第二の懸濁液を加熱して圧縮するキャビティの温度を、非晶性樹脂のガラス転移温度より高く、かつ、金属のナノ粒子が析出した温度より高いが、ガラス転移温度に応じて金属のナノ粒子が析出した温度に近づける。また、軟化したペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、ペレットの変形に追従して変形し、圧縮変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。この結果、金属のナノ粒子の金属結合を介して成形材料が結合され、非晶性の熱可塑性樹脂からなる成形体が製造される。
さらに、結晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、13段落で説明したように、第二の懸濁液を加熱して圧縮するキャビティの温度を、ペレットの融点より高く、かつ、金属のナノ粒子が析出した温度より高いが、融点に応じて金属のナノ粒子が析出した温度に近づける。また、熱融解したペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、ペレットの変形に追従して変形し、変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。この結果、金属のナノ粒子の集まりの金属結合を介して成形材料が結合され、結晶性の熱可塑性樹脂からなる成形体が製造される。
この後、プランジャーを引き上げ、キャビティから成形体を取り出すと、固化した成形材料の集まりからなる成形体が得られる。固化した成形材料は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、外界の雰囲気を遮断する気密性を持つ。従って、固化した成形材料が結合した成形体は、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。
なお、成形体は内部に空胞がないため、火災時に高温に昇温されても、空胞の体積膨張が起こらず、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが破壊されない。また、成形体が高温に昇温されても、金属のナノ粒子の大きさが3桁以上も小さいため、合成樹脂の体積膨張に、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが追従して変形し、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは破壊されない。このため、不燃性と自己発火しない性質とが維持される。
さらに、成形体のリサイクルの際は、金属のナノ粒子を構成する金属の融点と、熱可塑性樹脂の融点、ないしは、熱硬化樹脂の反応温度とは大きく乖離し、かつ、金属の比重と合成樹脂の比重とが大きく乖離するため、リサイクルの際に成形体から金属ナノ粒子の集まりを分離させることは容易で、合成樹脂とナノ粒子の金属とは再利用できる。
以上に説明したように、本成形体の製造方法に依れば、5段落で説明した第2から第5の4つの課題を解決して、トランスファ成形法に依って、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ合成樹脂の成形体が製造される。
【0016】
前記した製造方法で製造した懸濁液を用いて射出成形法に依って成形体を製造する製造方法は、請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を充填するシリンダーを、予め前記懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温し、前記懸濁液が射出される金型を、予め前記シリンダーより高い温度に昇温し、前記シリンダーに前記懸濁液を充填し、該懸濁液から前記有機化合物を気化させる、この後、前記シリンダー内に設置されたスクリューによって、前記シリンダーに充填された前記懸濁液を昇温するとともに加圧し、該懸濁液を前記金型内に射出し、前記懸濁液に残存した前記有機化合物を気化させ、さらに、前記懸濁液を構成する成形材料を熱融解もしくは熱軟化させ、この後、該成形材料を圧縮変形させる、この後、前記スクリューに依る加圧を一旦中止し、残存した前記有機化合物の気体を前記金型から抜け出させる、さらに、前記スクリューによって、再度、前記金型内に射出された前記懸濁液に徐々に増大する加圧力を加える、これによって、圧縮変形した前記成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われるとともに、隣接する前記金属のナノ粒子同士が金属結合することで、該圧縮変形した成形材料同士が結合され、前記金型内に成形体が製造される、前記した製造方法で製造した懸濁液を用いて射出成形法に依って成形体を製造する製造方法。
【0017】
つまり、本成形体の製造方法に依れば、前記した製造方法で製造した懸濁液を用い、従来の射出成形法に近い方法で、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ合成樹脂の成形体が、金型内に製造される。
すなわち、予めシリンダーを、6段落に記載した第二の懸濁液を構成する有機合物の沸点に昇温する。また、金型を予めシリンダーより高い温度に昇温する。なお、第二の懸濁液は、有機化合物の存在によって滑り性と粘り性とを兼備する。このため、シリンダーに第二の懸濁液が容易に充填され、この後、第二の懸濁液から有機化合物の多くが気化する。いっぽう、残存した有機化合物の粘度が高いため、成形材料から有機化合物は離脱せず、成形材料に滑り性をもたらし、成形材料の移動を容易にする。なお、気化した有機化合物は、シリンダーの外に配置した回収機で吸引して再利用する。次に、シリンダー内に設置されたスクリューの回転移動で、徐々に増大する加圧力を第二の懸濁液に加え、シリンダー内でスムースに金型側に移動させ、この後、スクリューをより高速回転させ、より大きな加圧力で第二の懸濁液を金型に射出する。金型に射出された第二の懸濁液は昇温され、一定の加圧力が作用する。この際、最初に残りの有機化合物が気化し、第二の懸濁液は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われた成形材料の集まりになる。次に、成形材料が融解もしくは軟化し、さらに、加圧力で圧縮変形される。なお、気化した有機化合物は、加圧力で成形材料の集まりに留まれず、成形材料の集まりと金型との隙間に吐き出される。この後、スクリューに依る加圧を一旦中止し、有機化合物の気体を、金型からシリンダーに移動させ、シリンダーから吐き出させ、吐き出た気体を回収機で吸引して再利用する。このため、金型内の成形材料の集まりに気体は存在せず、成形体の内部に空胞が形成されない。この後、再びスクリューを回転移動させ、徐々に増大する加圧力を金型内の成形材料の集まりに加え、加熱してさらに圧縮変形させる。この結果、圧縮変形した成形材料は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われる。また、成形材料が金属のナノ粒子が析出した温度より高い温度に昇温されるため、僅かに粗大化した金属のナノ粒子が再度金属結合する。このため、成形材料を覆っていた金属のナノ粒子の集まりが再度金属結合することで、圧縮変形した成形材料が互いに結合され、成形材料の集まりからなる成形体が金型内に形成される。この金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、金属のナノ粒子が積み重なり合った積層構造を形成して成形材料を覆うため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、一定の結合強度を有し、また、気密性の被膜を形成して成形材料を覆う。このため、成形体は内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。また、成形体は金属に近い性質を持つため、例えば、熱伝導性に優れた放熱基材を射出成形法で製造できる。
また、13段落で説明したように、金属化合物が熱分解して金属のナノ粒子を析出した温度は、有機化合物の沸点より低いため、有機化合物が気化する際と、熱融解もしくは熱軟化した成形材料が圧縮変形する際とを通じて、金属のナノ粒子の集まりが継続して昇温される。従って、金属のナノ粒子が昇温され、活性化され、ナノ粒子が僅かに成長し、僅かに成長したナノ粒子が再度金属結合する過程を、成形材料が昇温されるたびに、シリンダー内と金型内とで繰り返す。この結果、圧縮変形された成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、成形材料を覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合して成形材料が互いに結合し、成形材料の集まりからなる成形体が形成される。従って、成形体を構成する全ての成形材料が、一定の結合強度を有する金属結合した金属のナノ粒子の集まりからなる被膜で覆われ、全ての成形材料が、外界の雰囲気を遮断する気密性の被膜で覆われる。これによって、成形体は、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。
なお、成形材料として熱硬化性樹脂を用いる場合は、13段落で説明したように、第二の懸濁液を加熱して圧縮する金型の温度を、錯体が熱分解する温度より高いが、熱硬化性樹脂の軟化点に応じて錯体の熱分解温度に近づける。また、金型内で圧縮変形した成形材料が、軟化した固体のペレットないしは粉粒体であるため、成形材料より3桁以上も小さい金属のナノ粒子の集まりが、成形材料の変形に追従して変形し、成形材料を金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。この結果、重合反応が進んだ成形材料が金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、金属のナノ粒子の金属結合を介して成形材料が結合し、熱硬化性樹脂からなる成形体が製造される。
また、非晶性の熱可塑性樹脂の成形材料を用いて成形体を製造する場合は、13段落で説明したように、第二の懸濁液を加熱して圧縮する金型の温度を、非晶性樹脂のガラス転移温度より高く、かつ、金属のナノ粒子が析出した温度より高いが、ガラス転移温度に応じて、金属のナノ粒子が析出した温度に近づける。また、軟化したペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、ペレットの変形に追従して変形し、圧縮変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。この結果、成形材料が金属のナノ粒子の金属結合で結合された非晶性の熱可塑性樹脂からなる成形体が製造される。
さらに、結晶性の熱可塑性樹脂の成形材料を用いて成形体を製造する場合は、13段落で説明したように、第二の懸濁液を加熱して圧縮する金型の温度を、成形材料の融点より高く、かつ、金属のナノ粒子が析出した温度より高いが、融点に応じて金属のナノ粒子が析出した温度に近づける。また、熱融解したペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、ペレットの変形に追従して変形し、圧縮変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。この結果、成形材料が金属のナノ粒子の金属結合で結合された結晶性の熱可塑性樹脂からなる成形体が製造される。
この後、金型を開き、金型から成形体を取り出すと、固化した成形材料の集まりからなる成形体が得られる。固化した成形材料は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、外界の雰囲気から遮断される気密性を持つ。従って、固化した成形材料が結合した成形体は、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。さらに、成形体から不要となるランナーを切断し成形品を得る。
なお、成形体は内部に空胞がないため、火災時に高温に昇温されても、空胞の体積膨張が起こらず、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが破壊されない。また、成形体が高温に昇温されても、金属のナノ粒子の大きさが3桁以上も小さいため、合成樹脂の体積膨張に、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが追従して変形し、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは破壊されない。このため、不燃性と自己発火しない性質とが維持される。
さらに、成形体のリサイクルの際は、金属のナノ粒子を構成する金属の融点と、熱可塑性樹脂の融点、ないしは、熱硬化樹脂の反応温度とは大きく乖離し、かつ、金属の比重と合成樹脂の比重とが大きく乖離するため、リサイクルの際に成形体から金属ナノ粒子の集まりを分離させることは容易で、合成樹脂とナノ粒子の金属とは再利用できる。
以上に説明したように、本成形体の製造方法に依れば、5段落で説明した第2から第5の4つの課題を解決して、射出成形法に依って、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ合成樹脂の成形体が製造される。
【0018】
前記した製造方法で製造した懸濁液を用いて押出成形法に依って成形体を製造する製造方法は、請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を充填するシリンダーを、予め前記懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温し、前記シリンダーの前方に設置されたダイを、予め前記シリンダーより高い温度に昇温し、前記シリンダーに前記懸濁液を充填し、該懸濁液から前記有機化合物を気化させる、この後、前記シリンダー内に設置されたスクリューによって、前記シリンダー内に充填された前記懸濁液を加圧し、該懸濁液を前記ダイの内側の溝を通過させ、該溝の出口から前記懸濁液を押し出す、これによって、残存した前記有機化合物の気体が前記ダイの出口から気化し、さらに、前記懸濁液を構成する成形材料が熱融解もしくは熱軟化し、この後、該成形材料が圧縮変形し、圧縮変形した前記成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われるとともに、隣接する前記金属のナノ粒子同士が金属結合することで、該圧縮変形した成形材料同士が結合され、該成形材料同士が結合された成形体が、前記ダイの溝の出口から押し出される、前記した製造方法で製造した懸濁液を用いて押出成形法に依って成形体を製造する製造方法。
【0019】
つまり、本成形体の製造方法に依れば、前記した製造方法で製造した懸濁液を用い、従来の押出成形法に近い方法で、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ合成樹脂の成形体が、ダイ(金型)から押し出される。
すなわち、シリンダーを、6段落に記載した第二の懸濁液を構成する有機化合物の沸点に予め昇温する。また、シリンダーの前方に設置されるダイは、予めシリンダーより高い温度に昇温する。なお、第二の懸濁液は、有機化合物の存在によって滑り性と粘り性とを兼備する。このため、シリンダーに第二の懸濁液が容易に充填され、この後、第二の懸濁液から有機化合物の多くが気化する。いっぽう、残存した有機化合物の粘度が高いため、成形材料から有機化合物は離脱せず、成形材料に滑り性をもたらし、成形材料の移動を容易にする。なお、気化した有機化合物は、シリンダーの外に配置した回収機で吸引して再利用する。この後、シリンダー内に設置されたスクリューの回転移動で第二の懸濁液を加圧し、シリンダーの前方に設置された所定の長さを持つダイの内側に形成された狭い体積からなる溝を、加圧された第二の懸濁液を通過させる。これによって、所定の長さを持ち、かつ、断面積が狭い溝を第二の懸濁液が通過するため、第二の懸濁液に継続して加圧力が加わり、また、第二の懸濁液が徐々に昇温される。この際、最初に残りの有機化合物が気化し、第二の懸濁液は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われた成形材料の集まりになる。次に、成形材料が融解もしくは軟化し、さらに、加圧力で圧縮変形される。なお、気化した有機化合物は継続して加圧力を受け、成形材料の集まりに留まれず、成形材料の集まりから吐き出され、ダイの出口から放出され、回収機で回収する。このため、成形材料の集まりに気体は存在せず、成形体の内部に空胞が形成されない。また、成形材料が金属のナノ粒子が析出した温度より高い温度に昇温されるため、僅かに粗大化した金属のナノ粒子が再度金属結合する。このため、成形材料を覆っていた金属のナノ粒子の集まりが再度金属結合することで、圧縮変形した成形材料が互いに結合され、ダイの溝の断面形状からなるシートやチューブやパイプなどの成形体として、溝の出口から押し出される。この金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、金属のナノ粒子が積み重なり合った積層構造を形成して成形材料を覆うため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、一定の結合強度を有し、また、気密性の被膜を形成して成形材料を覆う。このため、成形体は内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。また、成形体は金属に近い性質を持つため、例えば、電磁波を反射するシールド基材や、静電気を帯電させない帯電防止基材を、押出成形法によって製造できる。
また、13段落で説明したように、金属化合物が熱分解して金属のナノ粒子を析出した温度は、有機化合物の沸点より低いため、有機化合物が気化する際と、熱融解もしくは熱軟化した成形材料が圧縮変形する際とを通じて、金属のナノ粒子の集まりが継続して昇温される。従って、金属のナノ粒子が昇温され、活性化され、ナノ粒子が僅かに成長し、僅かに成長したナノ粒子が再度金属結合する過程を、成形材料が昇温されるたびに、シリンダー内とダイ内とで繰り返す。この結果、圧縮変形された成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、成形材料を覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合して成形材料が互いに結合し、成形材料の集まりからなる成形体が形成される。従って、成形体を構成する全ての成形材料が、一定の結合強度を有する金属結合した金属のナノ粒子の集まりからなる被膜で覆われ、全ての成形材料が、外界の雰囲気を遮断する気密性の被膜で覆われる。これによって、成形体は、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。
なお、成形材料がダイの内側を通過する際に加えられる加圧力は、ダイの出口が開放されているため他の成形方法より小さい。従って、非晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、第二の懸濁液を加熱して圧縮するダイの温度を、ガラス転移温度より十分に高くする。これによって、軟化したペレットが容易に圧縮変形する。なお、軟化したペレットは固体であるため粘性が高く、有機化合物が気化した後は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで継続して覆われる。また、ペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、ペレットの変形に追従して変形し、変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。この結果、変形したペレットが金属のナノ粒子の金属結合で互いに結合され、非晶性の熱可塑性樹脂の成形体がダイの出口から押し出される。
さらに、結晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、第二の懸濁液を加熱して圧縮するダイの温度を、結晶性樹脂の融点より高くする。なお、融解したペレットは粘性が高く、有機化合物が気化した後は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで継続して覆われる。また、融解したペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、融解したペレットの変形に追従して変形し、変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。この結果、変形したペレットが金属のナノ粒子の金属結合で結合し、結晶性の熱可塑性樹脂からなる成形体がダイの出口から押し出される。
この後、成形体を引き取り機で引き取り、また、ローラーで巻き取ると、固化した成形材料の集まりからなる成形体が得られる。この固化した成形材料は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、外界の雰囲気を遮断する気密性を持つ。従って、固化した成形材料が結合した成形体は、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。
なお、成形体は内部に空胞がないため、火災時に高温に昇温されても、空胞の体積膨張が起こらず、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが破壊されない。また、成形体が高温に昇温されても、金属のナノ粒子の大きさが3桁以上も小さいため、合成樹脂の体積膨張に、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが追従して変形し、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは破壊されない。このため、不燃性と自己発火しない性質とが維持される。
さらに、成形体のリサイクルの際は、金属のナノ粒子を構成する金属の融点と、熱可塑性樹脂の融点、ないしは、熱硬化樹脂の反応温度とは大きく乖離し、かつ、金属の比重と合成樹脂の比重とが大きく乖離するため、リサイクルの際に成形体から金属ナノ粒子の集まりを分離させることは容易で、合成樹脂とナノ粒子の金属とは再利用できる。
以上に説明したように、本成形体の製造方法に依れば、5段落で説明した第2から第5の4つの課題を解決して、押出成形法に依って、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ合成樹脂の成形体が製造される。
【0020】
前記した製造方法で製造した懸濁液を用いてエアブロー成形法に依って成形体を製造する製造方法は、請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を充填するシリンダーを、予め前記懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温し、チューブ状に押し出された前記懸濁液を挟む一対の金型を、予め前記シリンダーより高い温度に昇温し、前記シリンダーに前記懸濁液を充填し、該懸濁液から前記有機化合物を気化させる、この後、前記シリンダー内に設置されたスクリューによって、前記シリンダー内に充填された前記懸濁液を加圧し、該懸濁液を前記シリンダーの前方に設置されたダイの内側の溝を通過させ、該溝の出口からチューブ状の前記懸濁液として押し出し、該チューブ状の懸濁液を前記一対の金型で挟み、該一対の金型を閉じた後に、エアブロー装置によって前記チューブ状の懸濁液の内側に、徐々に空気圧が増大する圧縮空気を供給し、該チューブ状の懸濁液を前記一対の金型内で膨らませる、これによって、残存した前記有機化合物の体が前記チューブから気化し、さらに、前記懸濁液を構成する成形材料が熱融解もしくは熱軟化し、この後、該成形材料が圧縮変形し、圧縮変形した形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われるとともに、隣接する前記金属のナノ粒子同士が金属結合することで、該圧縮変形した成形材料同士が結合され、該成形材料同士が結合された成形体が、前記一対の金型内に、中空の成形体として製造される、前記した製造方法で製造した懸濁液を用いてエアブロー成形法に依って成形体を製造する製造方法。
【0021】
本成形体の製造方法に依れば、前記した製造方法で製造した懸濁液を用い、従来のエアブロー成形法に依って中空の成形体を製作する方法に近い方法で、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ中空の成形体が金型内に製造される。
すなわち、シリンダーを、6段落に記載した第二の懸濁液を構成する有機合物の沸点に予め昇温する。一対の金型をシリンダーより高い温度に予め昇温する。なお、第二の懸濁液は、有機化合物の存在によって滑り性と粘り性とを兼備する。このため、シリンダーに第二の懸濁液が容易に充填され、この後、第二の懸濁液から有機化合物の多くが気化する。いっぽう、残存した有機化合物の粘度が高いため、成形材料から有機化合物は離脱せず、成形材料に滑り性をもたらし、成形材料の移動を容易にする。なお、気化した有機化合物は、シリンダーの外に配置した回収機で吸引して再利用する。この後、シリンダー内に設置されたスクリューの回転移動で第二の懸濁液を加圧し、シリンダーの前方に設置されたダイの内側に形成された溝を通過させてチューブ状に押し出す。次に、チューブ状に押し出された第二の懸濁液を一対の金型で挟む。この後、金型を閉じ、金型で挟まれたチューブの内側に、徐々に空気圧が増大する圧縮空気を供給してチューブを膨らませ、チューブを金型の内側に密着させて中空の成形体を形成する。この際、チューブが金型に密着するにつれ昇温され、また、金型に密着させる圧縮応力が増大する。このため、最初に残りの有機化合物が気化し、気化した有機化合物は増大する圧縮応力でチューブ内に留まれず、チューブから吐き出る。従って、チューブの内部に気体は存在せず、中空の成形体の内部に空胞が形成されない。このため、第二の懸濁液は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われた成形材料の集まりになる。次に、成形材料が融解もしくは軟化し、さらに圧縮変形する。また、成形材料が金属のナノ粒子が析出した温度より高い温度に昇温され、僅かに粗大化した金属のナノ粒子が再度金属結合する。これによって、再度金属結合した金属のナノ粒子の集まりで成形材料が互いに結合され、成形材料の集まりからなる中空の成形体が金型内に形成される。この金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、金属のナノ粒子が積み重なり合った積層構造を形成して成形材料を覆うため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、一定の結合強度を有し、また、気密性の被膜を形成して成形材料を覆う。従って、中空の成形体は内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。また、中空の成形体は金属に近い性質を持つため、中空の成形体は導電性と熱伝導性に優れた性質を持つ。
また、13段落で説明したように、金属化合物が熱分解して金属のナノ粒子を析出した温度は、有機化合物の沸点より低いため、有機化合物が気化する際と、熱融解もしくは熱軟化した成形材料が圧縮変形する際とを通じて、金属のナノ粒子の集まりが継続して昇温される。従って、金属のナノ粒子が昇温され、活性化され、ナノ粒子が僅かに成長し、僅かに成長したナノ粒子が再度金属結合する過程を、成形材料が昇温されるたびに、シリンダー内と金型内とで繰り返す。この結果、圧縮変形された成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、成形材料を覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合して成形材料が互いに結合し、成形材料の集まりからなる成形体が形成される。従って、成形体を構成する全ての成形材料が、一定の結合強度を有する金属結合した金属のナノ粒子の集まりからなる被膜で覆われ、全ての成形材料が、外界の雰囲気を遮断する気密性の被膜で覆われる。これによって、成形体は、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。
なお、圧縮空気に依る加圧力は、19段落で説明した押出成形方法と同様に、他の成形方法に依る加圧力より小さい。従って、非晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、一対の金型の温度を、ガラス転移温度より十分に高い温度にする。なお、軟化したペレットは固体であるため、有機化合物が気化した後は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで継続して覆われる。また、軟化したペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、ペレットの変形に追従して変形し、変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。この結果、変形したペレットが金属のナノ粒子の金属結合で結合され、非晶性の熱可塑性樹脂からなる成形体が金型内に製造される。
さらに、結晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、一対の金型の温度を、結晶性樹脂の融点より高い温度にする。なお、融解したペレットは粘性が高く、有機化合物が気化した後は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで継続して覆われる。また、融解したペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、融解したペレットの変形に追従して変形し、変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。この結果、変形したペレットが金属のナノ粒子の金属結合で結合され、結晶性の熱可塑性樹脂からなる中空の成形体が、金型内に製造される。
この後、金型を開き、最初に有機化合物の気体を回収し、次に金型から中空の成形体を取り出し、固化した成形材料の集まりからなる成形体を得る。この固化した成形材料は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、外界の雰囲気を遮断する気密性を持つ。従って、中空の成形体は、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。
なお、成形体は内部に空胞がないため、火災時に高温に昇温されても、空胞の体積膨張が起こらず、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが破壊されない。また、成形体が高温に昇温されても、金属のナノ粒子の大きさが3桁以上も小さいため、合成樹脂の体積膨張に、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが追従して変形し、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは破壊されない。このため、不燃性と自己発火しない性質とが維持される。
さらに、成形体のリサイクルの際は、金属のナノ粒子を構成する金属の融点と、熱可塑性樹脂の融点、ないしは、熱硬化樹脂の反応温度とは大きく乖離し、かつ、金属の比重と合成樹脂の比重とが大きく乖離するため、リサイクルの際に成形体から金属ナノ粒子の集まりを分離させることは容易で、合成樹脂とナノ粒子の金属とは再利用できる。
以上に説明したように、本成形体の製造方法に依れば、5段落で説明した第2から第5の4つの課題を解決して、エアブロー成形法に依って、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ合成樹脂の中空の成形体が製造される。
【0022】
前記した製造方法で製造した懸濁液を用いてサーモフォーミング成形法に依って成形体を製造する製造方法は、請求項1に記載した製造方法で製造した懸濁液を充填するシリンダーを、予め前記懸濁液を構成する有機化合物の沸点に昇温し、前記懸濁液を圧縮する上方の金型と、真空ポンプの吸引ホースが繋がる下方の金型を、予め前記シリンダーより高い温度に昇温し、前記シリンダーに前記懸濁液を充填し、該懸濁液から前記有機化合物を気化させる、この後、前記シリンダー内に設置されたスクリューによって、前記シリンダー内に充填された前記懸濁液を加圧し、該懸濁液を前記シリンダーの前方に設置されたダイの内側の溝を通過させ、該溝の出口からシート状の前記懸濁液として押し出し、該シート状の懸濁液を、前記上方の金型と前記下方の金型との間に挟み、前記真空ポンプを稼働させるとともに、前記上方の金型を前記下方の金型に下ろし、該上方の金型によって、徐々に増大する加圧力を前記シート状の懸濁液に加え、該シート状の懸濁液を、前記下方の金型に密着させるとともに、前記上方の金型で圧縮する、これによって、残存した前記有機化合物の気体が、前記懸濁液を構成する成形材料から気化し、さらに、前記成形材料が熱融解もしくは熱軟化し、この後、該成形材料が圧縮変形し、圧縮変形した前記成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われるとともに、隣接する前記金属のナノ粒子同士が金属結合することで、該圧縮変形した成形材料同士が結合され、該成形材料同士が結合した成形体が、前記上方の金型と前記下方の金型とで形成される間隙に製造される、前記した製造方法で製造した懸濁液を用いてサーモフォーミング成形法に依って成形体を製造する製造方法。
【0023】
つまり、本成形体の製造方法に依れば、前記した製造方法で製造した懸濁液を用い、従来のサーモフォーミング成形法に近い方法で、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ合成樹脂の成形体が、上方の金型と下方の金型とで形成される間隙に製造される。なお、本特徴手段は、第四特徴手段で記載した圧縮成形法に近い製法であるが、真空ポンプで成形材料の集まりを金型に密着させるため、圧縮成形法に依る成形体より肉厚が薄い成形体を製造するのに適している。
すなわち、シリンダーを、6段落に記載した第二の懸濁液を構成する有機合物の沸点に予め昇温する。また、一対の金型をシリンダーより高い温度に予め昇温する。なお、第二の懸濁液は、有機化合物の存在によって滑り性と粘り性とを兼備する。このため、シリンダーに第二の懸濁液が容易に充填され、この後、第二の懸濁液から有機化合物の多くが気化する。いっぽう、残存した有機化合物の粘度が高いため、成形材料から有機化合物は離脱せず、成形材料に滑り性をもたらし、成形材料の移動を容易にする。なお、気化した有機化合物は、回収機をシリンダーの近くに設置し、回収機で吸引して再利用する。この後、シリンダー内に設置されたスクリューの移動で第二の懸濁液を加圧し、シリンダーの前方に設置されたダイの内側に形成された溝を通過させ、溝の出口からシート状に押し出す。次に、シート状に押し出された第二の懸濁液を移動させ、一対の金型で挟む。この後、真空ポンプを稼働させ、第二の懸濁液を下方の金型に密着させ、また、上方の金型を下方の金型に下ろし、上方の金型によって徐々に増大する加圧力を第二の懸濁液に加える。この際、最初に残りの有機化合物が気化し、気化した有機化合物は増大する加圧力で成形材料の集まりに留まれず、成形材料の集まりから吐き出る。このため、成形材料の集まりに気体は存在せず、成形体の内部に空隙は形成されない。また、第二の懸濁液は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われた成形材料の集まりになる。次に、成形材料が融解もしくは軟化し、さらに圧縮変形される。また、成形材料が金属のナノ粒子が析出した温度より高い温度に昇温され、僅かに粗大化した金属のナノ粒子が再度金属結合する。これによって、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで成形材料が結合され、上方の金型と下方の金型とで形成される間隙に成形体が形成される。この金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、金属のナノ粒子が積み重なり合った積層構造を形成して成形材料を覆うため、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、一定の結合強度を有し、また、気密性の被膜を形成して成形材料を覆う。このため、成形体は、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。また、成形体は金属に近い性質を持つため、例えば、電磁波を反射するシールド基材や、静電気を帯電させない帯電防止基材などが、サーモフォーミング成形法で製造できる。
また、13段落で説明したように、金属化合物が熱分解して金属のナノ粒子を析出した温度は、有機化合物の沸点より低いため、有機化合物が気化する際と、熱融解もしくは熱軟化した成形材料が圧縮変形する際とを通じて、金属のナノ粒子の集まりが継続して昇温される。従って、金属のナノ粒子が昇温され、活性化され、ナノ粒子が僅かに成長し、僅かに成長したナノ粒子が再度金属結合する過程を、成形材料が昇温されるたびに、シリンダー内と金型内とで繰り返す。この結果、圧縮変形された成形材料が、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、成形材料を覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合して成形材料が互いに結合し、成形材料の集まりからなる成形体が形成される。従って、成形体を構成する全ての成形材料が、一定の結合強度を有する金属結合した金属のナノ粒子の集まりからなる被膜で覆われ、全ての成形材料が、外界の雰囲気を遮断する気密性の被膜で覆われる。これによって、成形体は、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。
なお、熱硬化性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、13段落で説明したように、第二の懸濁液を加熱して圧縮する一対の金型の温度を、熱硬化性樹脂の軟化点より高く、かつ、錯体が熱分解する温度より高いが、軟化点に応じて錯体の熱分解温度に近づける。また、金型で圧縮変形された成形材料が、固体のペレットないしは粉粒体であるため、成形材料より3桁以上も小さい金属のナノ粒子の集まりが、成形材料の変形に追従して変形し、成形材料を金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。この結果、重合反応が進んだ成形材料が金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、金属のナノ粒子の金属結合を介して成形材料が結合され、熱硬化性樹脂からなる成形体が製造される。
また、非晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、13段落で説明したように、第二の懸濁液を加熱して圧縮する一対の金型の温度を、非晶性樹脂のガラス転移温度より高く、かつ、金属のナノ粒子が析出した温度より高いが、ガラス転移温度に応じて金属のナノ粒子が析出した温度に近づける。また、軟化したペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、ペレットの変形に追従して変形し、変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。この結果、変形したペレットが金属のナノ粒子の金属結合で結合され、非晶性の熱可塑性樹脂からなる成形体が製造される。
さらに、結晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、13段落で説明したように、第二の懸濁液を加熱して圧縮する一対の金型の温度を、成形材料の融点より高く、かつ、金属のナノ粒子が析出した温度より高いが、融点に応じて金属のナノ粒子が析出した温度に近づける。また、融解したペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、ペレットの変形に追従して変形し、変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。この結果、変形したペレットが金属のナノ粒子の金属結合で結合され、結晶性の熱可塑性樹脂からなる成形体が製造される。
この後、金型を開き、最初に有機化合物の気体を回収し、次に金型から成形体を取り出し、成形材料が固化した成形体を得る。この固化した成形材料は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われ、外界の雰囲気を遮断する気密性を持つ。従って、固化した成形材料が結合した成形体は、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。
なお、成形体は内部に空胞がないため、火災時に高温に昇温されても、空胞の体積膨張が起こらず、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが破壊されない。また、成形体が高温に昇温されても、金属のナノ粒子の大きさが3桁以上も小さいため、合成樹脂の体積膨張に、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが追従して変形し、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは破壊されない。このため、不燃性と自己発火しない性質とが維持される。
さらに、成形体のリサイクルの際は、金属のナノ粒子を構成する金属の融点と、熱可塑性樹脂の融点、ないしは、熱硬化樹脂の反応温度とは大きく乖離し、かつ、金属の比重と合成樹脂の比重とが大きく乖離するため、リサイクルの際に成形体から金属ナノ粒子の集まりを分離させることは容易で、合成樹脂とナノ粒子の金属とは再利用できる。
以上に説明したように、本成形体の製造方法に依れば、5段落で説明した第2から第5の4つの課題を解決して、サーモフォーミング成形法に依って、内部に空胞がなく、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ合成樹脂の成形体が製造される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】圧縮成形法で製造したパッキンの形状を説明する図である。
図2】トランスファ成形法で製造した歯車の形状を説明する図である。
図3】射出成形法で製造したはすば内歯車の形状を説明する図である。
図4】押出成形法で製造した六角パイプの断面の形状を説明する図である。
図5】エアブロー成形法で製造したボトルの形状を説明する図である。
図6】サーモフォーミング成形法で製造した容器の形状を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施形態1
様々な材質の合成樹脂からなる成形材料を用いて、本発明における不燃性を有し自己発火しない性質を持つ成形体を製造する実施形態を説明する。
合成樹脂は熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とに大別される。熱硬化性樹脂は加熱によって軟化し、さらに加熱すると重合反応が起こり、粘度が低下する一方で、高分子の網目構造が形成されて分子量が増大して硬化が始まり、もとの高分子に戻らない。また、昇温されるほど重合反応が進み、重合反応の進展に伴い熱硬化が進む。このため、熱硬化が進み過ぎたペレットないしは粉粒体を圧縮するには、過大な加圧力が必要になる。従って、熱硬化性樹脂の成形体の製造は、ペレットないしは粉粒体の集まりを加熱して軟化させ、硬化し過ぎる前のペレットないしは粉粒体の集まりを加圧して直接結合させ、さらに昇温し、結合したペレットないしは粉粒体の重合反応を進める。この結果、重合反応が進んだペレットないしは粉粒体の集まりからなる成形体が製造される。
本発明の目的は、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ成形体を製造することである。従って、本発明の目的を達成するには、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが成形材料を覆い、成形材料を覆う金属のナノ粒子の集まりの金属結合で成形材料同士が結合すればよい。いっぽう、熱硬化性樹脂のペレットないしは粉粒体の軟化点は、無機金属化合物からなる錯体が熱分解する温度より低い。このため、ペレットないしは粉粒体の集まりを加熱して圧縮する成形機ないしは金型の温度を、錯体の熱分解温度より高いが、軟化点に応じて錯体の熱分解温度に近い温度に設定する。これによって、熱硬化が進み過ぎる前にペレットないしは粉粒体が圧縮できる。また、有機化合物が気化した後は、成形材料は金属結合した金属のナノ粒子の集まりで継続して覆われる。さらに、ペレットないしは粉粒体より3桁以上も小さい金属のナノ粒子の集まりは、ペレットないしは粉粒体の圧縮変形に追従して変形し、変形したペレットないしは粉粒体を、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。また、金属のナノ粒子の集まりが析出した温度より高い温度に昇温されるため、金属結合した金属のナノ粒子が成長して僅かに粗大化し、僅かに粗大化した金属のナノ粒子が再度金属結合する。このため、再度金属結合した金属のナノ粒子の集まりがペレットないしは粉粒体を覆い、ペレットないしは粉粒体を覆う金属のナノ粒子の集まりが再度金属結合することでペレットないしは粉粒体が互いに結合する。これによって、本発明の目的が達成される。
なお、熱硬化性樹脂は軟化点を超えると、成形材料が軟化するが重合反応が徐々に進み、重合反応の進捗度に応じて成形材料が硬化する。従って、所定の大きさの加圧力で成形材料を圧縮しないと、重合反応が進んだペレットないしは粉粒体が変形しない。いっぽう、押出成形法とエアブロー成形法は、軟化したペレットないしは粉粒体に大きな加圧力を加えることができないため、熱硬化性樹脂を用いた成形体の製造には不向きである。
【0026】
これに対し、熱可塑性樹脂は、加熱すると軟化してゴム状の弾性を示す状態となり、さらに加熱を続けると弾性を失って流動状態(液相)に近づく。この際、非晶性樹脂と結晶性樹脂とでは、結晶度が大きく異なるため、加熱時の挙動が異なる。なお、結晶性樹脂には非晶性部分が混在し、結晶性部分の占める体積割合を結晶度という。同様に、非晶性樹脂は、一部に結晶性部分が混在し、非晶性部分の占める体積割合を非晶度という。
つまり、非晶性の熱可塑性樹脂を昇温すると、無定形の高分子の鎖が結合した脆い状態からゴム状の弾性を示す状態に移る。この転移をガラス転移と言い、ガラス転移する温度をガラス転移温度と呼ぶ。このガラス転移温度以下では、分子の主鎖がガラス状に凍結した固化状態にあるが、ガラス転移温度を超えると、分子の主鎖が回転や振動の運動を開始し、温度の上昇と共に弾性率が直線的に低下する。さらに昇温すると、ゴム状の流動状態から弾性を失った液状の流動状態に近づくが、結晶度が低いため、全ての高分子が液状に転移する温度が明確でなく、融点を持たない。従って、非晶性樹脂の成形体の製造では、ガラス転移温度を超えた温度までペレットの集まりを昇温し、軟化したペレットを加圧して圧縮変形させ、圧縮変形したペレットを直接結合させて成形体を製造する。
本発明の目的は、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ成形体を製造することである。従って、金属結合した金属のナノ粒子の集まりがペレットを覆い、かつ、ペレットを覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合することでペレット同士が結合すればよい。いっぽう、ペレットの集まりを加熱して圧縮する成形機ないしは金型の温度を、有機化合物の沸点より高く、かつ、ペレットのガラス転移温度より高いが、ガラス転移温度に近づける。これによって、ペレットの粘性が低下する前にペレットが圧縮変形する。また、有機化合物が気化した後は、ペレットは金属結合した金属のナノ粒子の集まりで継続して覆われる。さらに、ペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、ペレットの変形に追従して変形し、圧縮変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。また、金属のナノ粒子の集まりが析出した温度より高い温度に昇温され、金属結合した金属のナノ粒子が成長して僅かに粗大化し、僅かに粗大化した金属のナノ粒子が再度金属結合する。このため、再度金属結合した金属のナノ粒子の集まりがペレットを覆い、ペレットを覆う金属のナノ粒子の集まりが再度金属結合することでペレットが互いに結合し、成形体が製造される。これによって、本発明の目的が達成される。
なお、ガラス転移温度が無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度より低い非晶性樹脂として次の熱可塑性樹脂がある。ポリ塩化ビニル樹脂PVCのガラス転移温度は80℃で、ポリカーボネート樹脂PSのガラス転移温度は90℃で、アクリル樹脂PMMAのガラス転移温度は100℃で、ABS樹脂のガラス転移温度は100−125℃で、ポリカーボネート樹脂PCのガラス転移温度は145℃である。従って、これらの非晶性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、無機金属化合物からなる錯体を用いて第二の懸濁液を作成し、第二の懸濁液を加熱して圧縮する温度を、有機化合物の沸点より高く、かつ、錯体の熱分解温度に近づければ、ペレットの粘性が低下する前にペレットが圧縮変形され、ペレットの変形に追従して金属結合した金属のナノ粒子の集まりが変形し、圧縮変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆う。また、圧縮変形したペレットを覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合してペレットが互いに結合し、成形体が製造される。
なお、PC樹脂を除く非晶性樹脂のガラス転移温度は、錯体の熱分解温度より100℃以上低い。しかし、これらの成形材料を用いる場合でも、第二の懸濁液において、成形材料の表面に金属結合した金属のナノ粒子の集まりが析出する。このため、第二の懸濁液を加熱して圧縮する際に、有機化合物が気化すると、PC樹脂の成形材料より粘性が低下しているが、これらの成形材料は、確実に金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われる。つまり、メタノールが気化した後に、全ての成形材料の表面に金属化合物の微細結晶の集まりが析出して第一の懸濁液が製造される。このため、第二の懸濁液を製造する際に、全ての成形材料の表面に金属結合した金属のナノ粒子の集まりが析出する。これによって、成形体を製造する際に、有機化合物が気化すると、全ての成形材料は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われる。
また、ガラス転移温度が、無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度より高い非晶性樹脂として次の熱可塑性樹脂がある。ポリスルホン樹脂PSUのガラス転移温度は190℃で、ポリアリレート樹脂PARのガラス転移温度は193℃で、ポリフェニレンエーテル樹脂PPEのガラス転移温度は211℃で、ポリエーテルイミド樹脂PEIのガラス転移温度は217℃で、ポリエーテルサルホン樹脂PESのガラス転移温度は225℃で、ポリアミドイミド樹脂PAIのガラス転移温度は280℃である。従って、これらの非晶性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、無機金属化合物からなる錯体を用いて第二の懸濁液を作成し、第二の懸濁液を加熱して圧縮する温度を、有機化合物の沸点より高く、かつ、ガラス転移温度に近づければ、ペレットの粘性が低下する前にペレットが圧縮変形し、ペレットの変形に追従して金属結合した金属のナノ粒子の集まりが変形し、変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆う。また、変形したペレットを覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合してペレットが互いに結合し、非晶性樹脂からなる成形体が製造される。
さらに、ガラス転移温度が、オクチル酸金属化合物の熱分解温度より高い非晶性の熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、オクチル酸金属化合物を用いて第二の懸濁液を作成し、第二の懸濁液を加熱して圧縮する温度を、有機化合物の沸点より高く、かつ、ガラス転移温度に近づければ、ペレットの粘性が低下する前にペレットが圧縮変形され、ペレットの変形に追従して金属結合した金属のナノ粒子の集まりが変形し、変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆う。また、変形したペレットを覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合することでペレットが互いに結合し、成形体が製造される。
【0027】
いっぽう、結晶性の熱可塑性樹脂は結晶度が高いため、ゴム状の流動状態から弾性を失った液状の流動状態に移る転移が完了する温度、つまり、融点が明確に現れる。従って、結晶性樹脂からなる成形体の製造は、融点を超える温度まで成形材料を昇温し、融解した成形材料を圧縮変形させ、変形した成形材料同士を直接結合させて成形体を形成する。
本発明の目的は、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ成形体を製造することである。従って、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが成形材料を覆い、成形材料を覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合することで成形材料が結合すればよい。いっぽう、成形材料の集まりを加熱して圧縮する成形機ないしは金型の温度を、有機化合物の沸点より高く、かつ、成形材料の融点より高いが融点に近い温度とし、融解したペレットの粘性が低下する前にペレットを圧縮変形させる。従って、有機化合物が気化した後に、ペレットは金属結合した金属のナノ粒子の集まりで覆われる。さらに、ペレットより5桁も小さい金属のナノ粒子の集まりが、ペレットの変形に追従して変形し、変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆い続ける。また、金属のナノ粒子の集まりが昇温され、金属結合した金属のナノ粒子が成長して僅かに粗大化し、僅かに粗大化した金属のナノ粒子が再度金属結合する。このため、再度金属結合した金属のナノ粒子の集まりがペレットを覆い、ペレットを覆う金属のナノ粒子の集まりが再度金属結合してペレットが互いに結合する。これによって、本発明の目的が達成される。
なお、結晶性の熱可塑性樹脂の中で、以下の合成樹脂は融点が無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度より低い。低密度ポリエチレン樹脂LDPEの融点は95−130℃で、高密度ポリエチレン樹脂HDPEの融点は120−140℃である。ポリプロピレン樹脂PPの融点は168℃である。ポリ弗化ビニリデン樹脂PVDFの融点は134−169℃である。ポリアミド樹脂PAの中で融点が低いPA12の融点は179℃である。ポリアセタール樹脂POMの融点は175℃である。これらの結晶性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、無機金属化合物からなる錯体を用いて第二の懸濁液を作成し、第二の懸濁液を加熱して圧縮する温度を、有機化合物の沸点より高く、かつ、錯体の熱分解温度に近づければ、ペレットの粘性が低下する前にペレットが圧縮変形され、ペレットの変形に追従して金属結合した金属のナノ粒子の集まりが変形し、変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆う。また、変形したペレットを覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合してペレットが互いに結合し、ペレットの集まりからなる成形体が製造される。
次に説明する結晶性の熱可塑性樹脂の融点は、無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度より高く、オクチル酸金属化合物の熱分解温度より低い。ポリエチレンテレフタレート樹脂PETの融点は245℃で、ポリ塩化ビニリデン樹脂PVDCの融点は210℃で、ポリアミド樹脂PAの中で最もポピュラーなPA6の融点は225℃で、PA66の融点は265℃で、ポリブチレンテレフタレート樹脂PBTの融点は232−267℃で、ポリフェニレンサルファイド樹脂PPSの融点は280℃で、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂PCTFEの融点は220℃であり、酢酸セルロース樹脂CAの融点は230℃である。これらの結晶性樹脂からなる成形材料を用いる場合は、無機金属化合物からなる錯体を用いて第二の懸濁液を作成し、第二の懸濁液を加熱して加圧する温度を、有機化合物の沸点より高く、かつ、融点より高いが、融点に近づければ、ペレットの粘性が低下する前にペレットが圧縮変形され、ペレットの変形に追従して金属結合した金属のナノ粒子の集まりが変形し、変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆う。また、変形したペレットを覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合してペレットが互いに結合し、成形体が製造される。
さらに、次の結晶性の熱可塑性樹脂の融点は、オクチル酸金属化合物の熱分解温度より高い。ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂PFAの融点は310℃であり、ポリテトラフルオロエチレン樹脂PTFEの融点は327℃である。また、液晶ポリマーLCPの融点は、ラウリン酸金属化合物の熱分解温度より10℃高い370℃である。従って、液晶ポリマーを除く結晶性樹脂は、オクチル酸金属化合物を原料として用い、液晶ポリマーはラウリン酸金属化合物を原料として用い、第二の懸濁液を作成し、第二の懸濁液を加熱して加圧する温度を、融点より高いが、融点に近づければ、ペレットの粘性が低下する前にペレットが圧縮変形され、ペレットの変形に追従して金属結合した金属のナノ粒子の集まりが変形し、変形したペレットを金属結合した金属のナノ粒子の集まりが覆う。また、変形したペレットを覆う金属のナノ粒子の集まりが金属結合してペレットが互いに結合し、成形体が製造される。
【0028】
次に、25段落から27段落に説明した本発明の成形体が、不燃性を有し自己発火しない性質を持つことを、合成樹脂を構成する高分子の熱分解反応から説明する。高分子の熱分解反応は、酸素ガスが存在する雰囲気と、窒素雰囲気とでは大きく異なる。つまり、酸素ガスが存在する雰囲気での熱分解は、酸化反応に依る熱分解であるため発熱を伴う。この発熱現象が、酸化されやすい有機物質からなる高分子の熱分解を促進させ、また、熱分解の途上で生成される可燃性ガスが自己発火する。これに対し、窒素雰囲気での熱分解では酸化反応が起こらず、吸熱反応に依る熱分解が起こり、発熱現象が生じない。このため、高分子が熱分解を開始する温度は、酸素ガスが存在する雰囲気に比べて大幅に遅れて高温側にシフトする。例えば、高密度ポリエチレン樹脂の熱分解は、大気雰囲気では250℃付近で開始するのに対し、窒素雰囲気では400℃付近と150℃も高温側にシフトする。
いっぽう、高分子は窒素雰囲気で、発火点が537℃のメタン、発火点が510℃のエタン、発火点が450℃のプロパンなどのパラフィン系炭化水素ガスや、発火点が450℃のエチレン、発火点が498℃のプロピレンなどのオレフィン系炭化水素ガスや、発火点が498℃のベンゼン、発火点が480℃のトルエンなどの芳香族炭化水素ガスや、発火点が500℃より高いタール、発火点が490℃のモノスチレンからなる液状物質に分解される。
また、窒素雰囲気での合成樹脂の熱分解の開始温度と終了温度とは次の通りである。ポリアセタール樹脂POMは280℃で始まり420℃で終了する。ポリスチレン樹脂PSは350℃で始まり460℃付近で終了する。ポリエチレンテレフタレート樹脂PETが425℃で始まり480℃付近で終了する。ポリプロピレン樹脂PPが370℃で始まり500℃付近で終了する。高密度ポリエチレン樹脂HDPEが400℃で始まり520℃付近で終了する。ポリテトラフルオルエチレン樹脂PTFEは490℃で始まり640℃付近で終了する。なお、ポリ塩化ビニル樹脂PVC樹脂は、不燃性で有害の塩化水素ガスHClの離脱が、吸熱反応を伴って220℃付近から始まり260℃付近で急激に進行し360℃まで続く。この後、420℃付近から吸熱を伴う高分子の熱分解が始まり、発火点が498℃のベンゼンを生成して550℃付近で終了し、固体の残査(灰分)を10%残す。ノボラック型フェノール樹脂の熱分解反応は、260℃付近から可塑剤の脱離が始まり、360℃付近まで続き、この後、390℃から吸熱を伴う高分子の熱分解が始まり、発火点が715℃のフェノールや発火点が626℃のクレゾールなどの液状モノマーを生成し、700℃付近で終了し、固体の残査(灰分)を65%残す。
従って、PP樹脂、HDPE樹脂、PTFE樹脂が窒素雰囲気で昇温される場合であっても、これらの樹脂が熱分解すると、プロパン、エタン、トルエンなどの炭化水素ガスが生成され、さらに、これら可燃性ガスが大気雰囲気に移動して発火点以上に昇温されれば、可燃性ガスが自己発火し、火災の起点を作る。また、PVC樹脂は、熱分解でベンゼンを生成し、さらに、大気雰囲気に移動して498℃以上に昇温されれば、ベンゼンが自己発火する。さらに、ノボラック型フェノール樹脂は、熱分解してクレゾールを生成し、さらに、大気雰囲気に移動して626℃以上に昇温されれば、クレゾールが自己発火する。
これに対し、本発明における成形体を構成する全ての成形材料は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりからなる気密性の被膜で覆われる。このため、高分子の熱分解は、窒素雰囲気での熱分解とは全く異なる。つまり、窒素雰囲気が開放された雰囲気であるため、熱分解で生成される可燃性ガスは窒素雰囲気中に順次気化するため、温度の上昇に伴って可燃性ガスが順次生成される熱分解が進み、可燃性ガスが順次窒素雰囲気に放出される。いっぽう、本発明における気密性の被膜で覆われた高分子は、熱分解で生成される最初の可燃性ガスは、成形材料の体積に相当する狭い領域内に閉じ込められ、狭い領域内における可燃性ガスの分圧が増大し、その温度での飽和圧力となって熱分解が停止する。従って、熱分解を進めるには、開放された雰囲気における熱分解より大きな熱エネルギーを高分子に与える必要がある。さらに、生成されたガスの1モルに相当する量が22.4リットルの体積を占める。このため、ごく微量の可燃性ガスが生成された時点で、狭い領域内における可燃性ガスの分圧がその温度での飽和圧力になり、窒素ガスの雰囲気に比べて生成される可燃性ガスの量は極めて少ない。また、熱分解で生成される2番目以降の可燃性ガスは、最初の可燃性ガスが閉じ込められているため、さらに大きな熱エネルギーが供給されないと熱分解が進まない。この結果、本発明における気密性の被膜で覆われた成形材料は、窒素雰囲気における熱分解温度より、著しく高温側で熱分解反応が進み、高分子の熱分解で生成される各種可燃性ガスの発火点を超えて熱分解する。従って、本発明における成形体は自己発火しない。また、金属結合した金属のナノ粒子の集まりからなる気密性の被膜は一定の結合強度を持ち、狭い領域を占めるガスの分圧で被膜が破壊されない。これによって、成形材料に酸素ガスを供給されず、成形体は不燃性を持つ。この結果、本発明における成形体は、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ。
【0029】
実施形態2
本実施形態は、9段落に記載した無機金属化合物からなる錯体に関わる実施形態である。本発明に関わる金属化合物は、第一にアルコールに分散し、第二に熱分解で金属を析出する2つの性質を兼備する。ここでは金属を銅とし、2つの性質を兼備する銅化合物として、無機物からなる分子ないしはイオンが配位子となって銅イオンに配位結合する銅錯イオンを有する無機金属化合物からなる銅錯体が適切であることを説明する。
最初に、分子量が小さい無機銅化合物のアルコール分散性を説明する。塩化銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機銅化合物はアルコールに溶解し、銅イオンが溶出してしまい、多くの銅イオンが銅微粒子の析出に参加できない。さらに、酸化銅、塩化銅、硫化銅などの無機銅化合物はアルコール類に分散しない。このため、こうした分子量が小さい無機銅化合物は、アルコールに分散する性質を持たないので、銅化合物として適切でない。
いっぽう、銅化合物は、熱分解で銅を析出する。銅化合物から銅が生成される化学反応の中で、最も簡単な処理による化学反応に熱分解反応がある。つまり、銅化合物を昇温するだけで、銅化合物が熱分解して銅が析出する。さらに、銅化合物の熱分解温度が低ければ、融点もしくは軟化点が低い多くの合成樹脂の成形材料を銅の微粒子で覆うことができる。さらに、銅化合物の合成が容易であれば、銅微粒子の安価な原料になる。このような銅化合物として、無機物からなる低分子量の分子ないしはイオンが配位子となって、銅イオンに配位結合する銅錯イオンを有する無機金属化合物からなる銅錯体がある。つまり、配位子が低分子量で、配位子の数が少なく、無機金属化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、銅錯体の熱分解温度は低い。さらに、こうした銅錯イオンからなる銅錯体は分子量が小さいため、他の銅錯イオンからなる銅錯体より合成が容易で安価である。
すなわち、銅錯体を構成する分子の中で、銅イオンが最も大きい。ちなみに、銅原子の共有結合半径は132±4pmであり、一方、窒素原子の共有結合半径の71±1pmであり、酸素原子の共有結合半径は66±2pmである。このため、銅錯体の分子構造において、分子ないしはイオンからなる配位子が、銅イオンに配位結合する配位結合部の距離が最も長い。従って、熱処理においては、最初に配位結合部が分断され、金属と無機物とに分解し、無機物の気化が完了した後に銅が析出する。
このような無機物からなる低分子量の分子ないしはイオンが配位子となる銅錯イオンとして、アンモニアNHが配位子となって銅イオンに配位結合するアンミン錯体、塩素イオンClが、ないしは、塩素イオンClとアンモニアNHとが配位子となって銅イオンに配位結合するクロロ錯体は、他の銅錯体に比べて合成が容易であるため、銅錯体の中でも安価に製造できる。こうした銅錯イオンからなる銅錯体は、アンモニアガスや水素ガスなどの還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の比較的低い温度で熱分解が完了して銅が析出する。また、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの濃度まで分散する。こうした銅錯体として、テトラアンミン銅錯イオン[Cu(NH2+ないしはヘキサアンミン銅錯イオン[Cu(NH2+を持つ銅錯体があり、このような銅錯イオンからなる無機化合物として、テトラアンミン銅硝酸塩[Cu(NH](NOないしはヘキサアンミン銅硫酸塩[Cu(NH]SOがある。
また、銀錯体としては、例えば、塩化ジアンミン銀[Ag(NH]Cl、硫酸ジアンミン銀[Ag(NHSO、硝酸ジアンミン銀[Ag(NH]NOなどがある。このような銀錯体は、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の低い温度で無機物の気化が完了して銀が析出する。また、メタノールやn−ブタノールに10重量%近くの濃度まで分散する。
以上に説明したように、無機金属化合物からなる錯体は、配位子が低分子量で、配位子の数が少なく、無機金属化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、熱分解温度が最も低く、合成が容易で最も安価な金属錯体である。従って、無機金属化合物からなる錯体は、金属結合した金属のナノ粒子が有機化合物に析出した懸濁液で、合成樹脂の成形材料を覆う第一の金属の原料になる。
なお、25段落で説明したように、熱硬化性樹脂の軟化点が、無機金属化合物からなる錯体が熱分解する温度より低い。また、26段落で説明したように、一部の非晶性樹脂のガラス転移温度が錯体の熱分解温度より低い。従って、これらの合成樹脂の成形材料を懸濁液で覆う際は、無機金属化合物からなる錯体を金属のナノ粒子の原料として用いる。
【0030】
実施形態3
本実施形態は、11段落に記載したカルボン酸金属化合物に関わる実施形態である。つまり、29段落で説明した無機金属化合物からなる錯体を、成形材料を覆う金属のナノ粒子の第一の原料とすると、カルボン酸金属化合物は第二の原料になる。
本発明に関わる金属化合物は、第一にアルコールに分散し、第二に熱分解で金属を析出する2つの性質を兼備する。ここでは金属をクロムとし、2つの性質を兼備する物質として、カルボン酸クロム化合物が適切であることを説明する。
最初に、分子量が小さい無機クロム化合物のアルコール分散性を説明する。酸化クロムCr、塩化クロムCrCl、硝酸クロムCr(NOなどの無機クロム化合物はアルコールに溶解し、クロムイオンCr3+がアルコール分散液に溶出し、多くのクロムイオンがクロム微粒子の析出に参加できない。硫酸クロムCr(SO、酢酸クロムCr(CHCOO)、リン酸クロムCrPOなどの無機クロム化合物は、アルコールに分散しない。こうした分子量が小さい無機クロム化合物は、アルコールに分散しないので、クロム化合物として適切でない。
なお、無機クロム化合物の中で、28段落で説明した無機物からなる低分子量の分子ないしはイオンが、クロムイオンに配位結合するクロム錯イオンを有する無機クロム化合物として、例えば、ヘキサアンミンクロム塩酸塩[Cr(NH]Clがある。このクロム錯体は、成形材料を覆うクロム微粒子の第一の原料となる。
ここで、有機クロム化合物について説明する。有機クロム化合物は、熱分解でクロムを析出する。有機クロム化合物からクロムが生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。つまり、有機クロム化合物を昇温するだけで、熱分解でクロムが析出する。さらに、有機クロム化合物の熱分解温度が低ければ、多くの合成樹脂の成形材料をクロムの微粒子で覆うことができる。さらに、有機クロム化合物の合成が容易であれば、クロム微粒子の安価な原料になる。こうした性質を兼備する有機クロム化合物に、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンがクロムイオンに共有結合するカルボン酸クロム化合物がある。さらに、合成樹脂の融点もしくは軟化点が、カルボン酸クロム化合物の熱分解温度より高ければ、金属結合したクロム微粒子で成形材料を覆うことができる。従って、カルボン酸クロム化合物の熱分解温度が低いことが望ましい。
すなわち、カルボン酸クロム化合物を構成するイオンの中で、最も大きいイオンはクロムイオンである。従って、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、クロムイオンに共有結合すれば、クロムイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの距離が、イオン同士の距離の中で最も長い。こうしたカルボン酸クロム化合物を大気雰囲気で昇温させると、カルボン酸の沸点を超えると、カルボン酸とクロムとに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成されれば、カルボン酸が気化熱を伴って気化し、カルボン酸の気化した後にクロムが析出する。なお、還元雰囲気でのカルボン酸クロム化合物の熱分解は、大気雰囲気での熱分解より高温側で進むため、大気雰囲気での熱分解のほうが熱処理費用は安価で済む。また、カルボン酸が不飽和脂肪酸であれば、炭素原子が水素原子に対して過剰になるため、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸クロム化合物が熱分解すると、酸化クロムが析出する。
いっぽう、カルボン酸クロム化合物の中で、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子となってクロムイオンに近づいて配位結合するカルボン酸クロム化合物は、クロムイオンと酸素イオンとの距離が短くなり、反対に、酸素イオンがクロムイオンと反対側で結合するイオンとの距離が最も長くなる。このような分子構造の特徴を持つカルボン酸クロム化合物の熱分解反応は、酸素イオンがクロムイオンと反対側で結合するイオンとの結合部が最初に分断され、この結果、酸化クロムが析出する。
さらに、カルボン酸クロム化合物は、カルボン酸が最も汎用的な有機酸であるため、合成が容易で最も安価な有機クロム化合物である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液中で反応させると、カルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。このカルボン酸アルカリ金属化合物を、硫酸クロムなどの無機クロム化合物と反応させると、カルボン酸クロム化合物が生成される。このため、有機クロム化合物の中で最も安価な有機クロム化合物である。
すなわち、カルボン酸クロム化合物の組成式はCr(COOR)で表わせられる。Rは炭化水素で、この組成式はCである(ここでmとnとは整数)。カルボン酸クロム化合物を構成する物質の中で、組成式の中央に位置するクロムイオンCr3+が最も大きい。従って、クロムイオンCr3+とカルボキシル基を構成する酸素イオンOとが共有結合する場合は、クロムイオンCr3+と酸素イオンOとの距離が最大になる。この理由は、クロム原子の3重結合における共有結合半径は103pmであり、酸素原子の2重結合における共有結合半径は57pmであり、炭素原子の2重結合における共有結合半径は67pmであることによる。このような分子構造上の特徴を持つカルボン酸クロム化合物は、カルボン酸の沸点を超えると、結合距離が最も長いクロムイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に分断され、クロムとカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸であれば、カルボン酸が気化熱を伴って気化し、カルボン酸の気化が完了した後にクロムが析出する。こうしたカルボン酸クロム化合物として、オクチル酸クロム、ラウリン酸クロム、ステアリン酸クロムなどがある。このようなカルボン酸クロム化合物は、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。また、金属石鹸として市販されている安価な工業用薬品である。
さらに、飽和脂肪酸の沸点が低ければ、カルボン酸クロム化合物は低い温度で熱分解する。飽和脂肪酸を構成する炭化水素が長鎖構造である場合は、長鎖が長いほど、つまり、飽和脂肪酸の分子量が大きいほど、飽和脂肪酸の沸点が高く、熱分解温度が高くなる。ちなみに、分子量が200.3であるラウリン酸の大気圧での沸点は296℃であり、分子量が284.5であるステアリン酸の大気圧での沸点は361℃である。
いっぽう、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点がさらに低くなる。これによって、さらに低い温度で熱分解する。また、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は極性を持つため、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物も極性を持ち、アルコールなどの極性を持つ有機溶剤に相対的に高い割合で分散する。このような分岐構造の飽和脂肪酸としてオクチル酸がある。オクチル酸は構造式がCH(CHCH(C)COOHで示され、CHでCH(CHとCとのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。オクチル酸の大気圧での沸点は228℃であり、ラウリン酸より沸点が68℃低い。このため、クロムを析出する原料として、オクチル酸銅Cr(C15COO)が望ましい。オクチル酸クロムは、大気雰囲気において290℃で熱分解が完了してクロムが析出する。
同様に、銅の原料としてオクチル酸銅Cu(C15COO)が、アルミニウムの原料としてオクチル酸アルミニウムAl(C15COO)が、鉄の原料としてオクチル酸鉄Fe(C15COO)が、ニッケルの原料としてオクチル酸ニッケルNi(C15COO)が望ましい。このように、オクチル酸金属化合物は様々な金属イオンで構成され、金属結合した金属のナノ粒子が有機化合物に析出した懸濁液で、合成樹脂の成形材料を覆う第二の原料になる。
いっぽう、26段落で説明したように、ガラス転移温度が最も高い非晶性樹脂は、ガラス転移温度が280℃のポリアミドイミド樹脂である。また、27段落で説明したように、融点が最も高い結晶性樹脂は、融点が370℃の液晶ポリマーである。また、オクチル酸金属化合物の熱分解温度が290℃で、ラウリン酸金属化合物の熱分解温度が360℃である。従って、ガラス転移点が無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度より高い非晶性樹脂と、液晶ポリマーを除く結晶性樹脂とからなる成形材料を懸濁液で覆う際は、オクチル酸金属化合物を金属のナノ粒子の原料として用い、液晶ポリマーからなる成形材料を用いる場合のみ、ラウリン酸金属化合物を金属のナノ粒子の原料として用いることになる。
【0031】
実施形態4
本実施形態は、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの粘度より20倍以上高い第二の性質と、融点が20℃より低い第三の性質と、沸点が金属化合物の熱分解温度より高い第四の性質とを兼備する有機化合物に関する実施形態である。これら4つの性質を兼備する有機化合物として、芳香族カルボン酸エステル類、グリコール類、グリコールエーテル類ないしはグリセリンのいずれかに属する有機化合物が存在する。なお、無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度は180−220℃であり、沸点が220℃より高い有機化合物は、錯体の熱分解で析出した金属のナノ粒子の集まりと共に懸濁液を構成する。また、オクチル酸金属化合物の熱分解温度は290℃であり、沸点が290℃より高い有機化合物は、オクチル酸金属化合物の熱分解で析出した金属のナノ粒子の集まりと共に懸濁液を構成する。さらに、ラウリン酸金属化合物の熱分解温度は360℃であり、沸点が360℃より高い有機化合物は、ラウリン酸金属化合物の熱分解で析出した金属のナノ粒子の集まりと共に懸濁液を構成する。なおメタノールは20℃で0.59mPa秒の粘度を持つ。また、グリセリンはメタノールに溶解し、290℃の沸点を持ち、20℃で1499mPa秒の粘度を持つ液体である。
【0032】
次の芳香族カルボン酸エステル類は、メタノールに溶解ないしは混和し、融点が20℃以下の液体である。フタル酸ジメチルは沸点が283℃で、粘度が25℃で17mPa秒である。フタル酸ジエチルは沸点が295℃で、粘度が20℃で13mPa秒である。フタル酸ジブチルは沸点が340℃で、粘度が38℃で10mPa秒である。フタル酸ジ2−エチルヘキシルは沸点が386℃で、粘度が20℃で81mPa秒である。フタル酸ジイソノニルは沸点が403℃で、20℃の粘度が78mPa秒である。
こうした芳香族カルボン酸エステルは、合成樹脂、ラッカー、接着剤、塗料、工業用インクなどの可塑剤として使用されている汎用的な工業用薬品である。
【0033】
次のグリコール類はメタノールに溶解し、融点が20℃以下の液体である。モノエチレングリコールは沸点が197℃で粘度が20℃で21mPa秒である。ジエチレングリコールは沸点が244℃で粘度が20℃で36mPa秒である。トリエチレングリコールは沸点が288℃で粘度が20℃で48mPa秒である。テトラエチレングリコールは沸点が329℃で粘度が20℃で55mPa秒である。
こうしたグリコール類は、不凍液・流体の可視化用トレーサに用いられ、また、合成樹脂や繊維、溶剤、界面活性剤、食品添加物、医薬品などの原料に多用され、保湿剤としてシャンプー、化粧品などにも使われている汎用的な工業用薬品である。
【0034】
次のグリコールエーテル類はメタノールに溶解し、融点が20℃以下の液体である。フェニルジグリコールは沸点が245℃で、粘度が20℃で31mPa秒である。ベンジルジグリコールは沸点が302℃で、粘度が20℃で19mPa秒である。フェニルプロピレングリコールは沸点が243℃で、粘度が20℃で23mPa秒である。
こうしたグリコールエーテル類は、塗料、インキ、染料、写真複写液、洗浄剤、電解液、ソリュブルオイル、作動油、ブレーキ液、冷媒、凍結防止剤等に使用されている汎用的な工業用薬品である。
【0035】
実施例1
本実施例は、フェノール樹脂の成形材料の表面に金属結合した銅のナノ粒子の集まりが析出し、この成形材料の集まりが有機化合物に分散した懸濁液を製造する実施例である。銅のナノ粒子の原料として、29段落で説明した熱分解温度が200℃のテトラアンミン銅硝酸塩[Cu(NH](NO(例えば、三津和化学薬品株式会社の製品)を用いた。また、有機化合物として、33段落で説明した沸点が244℃で、融点が−10.5℃で、粘度が20℃で36mPa秒の性質を持つジエチレングリコール(例えば、株式会社日本触媒の製品)を用いた。ジエチレングリコールの粘度は、メタノールの61倍の粘度を持つ。さらに、フェノール樹脂の成形材料として、軟化点が120−126℃のペレット(例えば、明和化成株式会社の製品のAH−PM(H))を用いた。なお、銅の融点は1085℃であり、大気中の酸素と反応して酸化第二銅CuOの被膜を形成し、被膜はさらなる酸化の進行を防ぐ性質を持つ。
最初に、テトラアンミン銅硝酸塩の51g(0.2モルに相当する)が10重量%になるようにメタノールに分散し、この分散液にジエチレングリコールが10重量%になるように混合した。この混合液に、予め除湿乾燥機で乾燥させた1.1kgのペレットを混合した。この混合物を容器に入れ、水素ガス雰囲気で熱処理した。最初に65℃に昇温してメタノールを気化し、さらに、210℃に1分間放置し、テトラアンミン銅硝酸塩を熱分解し、試料1を作成した。さらに、試料1の一部を取り出して容器に入れ、大気雰囲気で245℃まで昇温し、ジエチレングリコールを気化し、試料2を作成した。
次に、試料1と試料2とを電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社が所有する極低加速電圧SEMを用いた。この装置は100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、導電性の被膜を形成せずに直接表面が観察できる。
最初に、試料1と試料2との表面からの反射電子線について、900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。2種類の試料の表面全体が、40−60nmの大きさからなる粒状微粒子の集まりで覆われていた。
次に、2種類の試料の表面からの反射電子線について、900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で粒子の材質を分析した。いずれの粒状微粒子にも濃淡が認められず、微粒子は単一原子から構成されていることが分かった。
さらに、2種類の試料の表面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒子を構成する元素の種類を分析した。粒状微粒子は銅原子のみで構成されていたため、2種類の試料の表面の粒状微粒子は、銅の粒状微粒子である。
また、試料2について、複数個所の表面抵抗を表面抵抗計によって測定した(例えば、シムコジャパン株式会社の表面抵抗計ST−4)。表面抵抗値は1×10Ω/□であったため、金属に近い表面抵抗を有した。
さらに、試料2を切断し、断面の複数個所を電子顕微鏡で観察した。複数の断面からの反射電子線について、900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。粒状の微粒子が6層前後の厚みで積み重なって結合し、ペレットを覆っていた。
以上の観察結果から、試料2は、銅のナノ粒子が6層前後の厚みで積み重なって結合した銅のナノ粒子の集まりでペレットが覆われたペレットの集まりである。これによって、ペレットの表面抵抗は金属に近い表面抵抗を持った。また、試料1は、ペレットの表面に、銅のナノ粒子の集まりが6層前後の厚みで積み重なって結合した銅のナノ粒子の集まりが析出し、このペレットの集まりがジエチレングリコールに分散した懸濁液である。
なお、フェノール樹脂のペレットは、軟化点が120−126℃で、150℃の70−86秒でゲル化される。つまり、無機金属化合物の錯体を熱分解する過程で、ペレットはゲル化される。いっぽう、試料1を作成する際にメタノールが気化すると、テトラアンミン銅硝酸塩の微細結晶の集まりがペレットの表面に析出し、ペレットの表面が微細結晶の集まりで覆われ、このペレットの集まりがジエチレングリコールに分散した懸濁液になる。さらに昇温するとペレットは軟化するが、微細結晶の集まりは軟化したペレットを覆い続ける。さらに、テトラアンミン銅硝酸塩が熱分解する過程に至ると、ペレットはゲル化されるが、所定の粘度を持つゲル化したペレットは微細結晶の集まりで覆われ続ける。このため、ゲル化したペレットの表面で微細結晶の集まりが熱分解し、ゲル化したペレットの表面に、金属結合した銅のナノ粒子の集まりが析出し、このペレットがジエチレングリコールに分散した懸濁液が作成され、試料1が得られる。なお、ゲル化したペレットは、210℃に短時間さらされただけであるため、ペレットの重合反応は進んでいない。
以上の結果から、フェノール樹脂の成形材料の表面に、金属結合した銅のナノ粒子の集まりが析出し、この成形材料の集まりが有機化合物に分散した懸濁液が製造できた。なお、本実施例は一例に過ぎない。無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度に対して、軟化点がより低い温度である25段落で説明した熱硬化性の樹脂を、ガラス転移温度がより低い温度である26段落で説明した非晶性の熱可塑性樹脂を、あるいは、融点がオクチル酸金属化合物の熱分解温度より低い27段落で説明した結晶性の熱可塑性樹脂を成形材料として用い、さらに、29段落で説明した無機金属化合物からなる錯体を、金属のナノ粒子の原料として用いると、様々な材料構成の懸濁液が製造できる。
【0036】
実施例2
本実施例は、実施例1におけるテトラアンミン銅硝酸塩の2倍の102g(0.4モルに相当する)が10重量%になるようにメタノールに分散し、この分散液にジエチレングリコールが10重量%になるように混合した。この混合液に、実施例1と同様に、1.1kgのフェノール樹脂のペレットを混合した。この混合物を容器に入れ、実施例1と同様にメタノールを気化させた後に、水素ガス雰囲気の210℃で熱処理し、試料3を作成した。さらに、実施例1と同様に、試料3の一部を取り出して容器に入れ、大気雰囲気の245℃で熱処理し、試料4を作成した。
実施例1と同様に、試料3と試料4とを電子顕微鏡で観察した。また、試料4の表面抵抗を測定した結果、1×10Ω/□の表面抵抗で、試料2よりさらに金属に近づいた表面抵抗を有した。さらに、試料4を切断し、断面の複数個所を電子顕微鏡で観察した結果、微粒子が12層前後の厚みで積み重なって結合した微粒子の集まりが、ペレットを覆っていた。
この結果、試料4は、銅のナノ粒子が12層前後の厚みで積み重なって結合した銅のナノ粒子の集まりでペレットが覆われ、このペレットの集まりである。また、試料3は、ペレットの表面に、銅のナノ粒子が12層前後の厚みで積み重なって結合した銅のナノ粒子の集まりが析出し、このペレットの集まりがジエチレングリコールに分散した懸濁液である。
以上の結果から、合成樹脂のペレットを覆う金属のナノ粒子が積み重なって結合する金属のナノ粒子の厚みが、ペレットの使用量に対する無機金属化合物からなる錯体のメタノールへの分散量で決まる。従って、懸濁液を原料として用いて成形体を成形する際に、成形体により金属に近い導電性と熱伝導性とを付与させる場合は、ペレットの使用量に対する無機金属化合物からなる錯体のメタノールへの分散量を増やせばよい。
【0037】
実施例3
本実施例は、ポリエーテルサルホン樹脂PESの成形材料の表面に、クロムのナノ粒子が積み重なって結合したクロムのナノ粒子の集まりが析出し、このペレットの集まりが有機化合物に分散した懸濁液を製造する実施例である。クロムのナノ粒子の原料として、30段落で説明したオクチル酸クロムCr(C15COO)(例えば、和光純薬工業株式会社の製品)を用いた。また、有機化合物として、34段落で説明した沸点が302℃で、融点が−50℃で、粘度が20℃で19.3mPa秒の性質を持つベンジルジグリコール(例えば、日本乳化剤株式会社の製品)を用いた。ベンジルジグリコールの粘度は、メタノールの33倍の粘度を持つ。さらに、ポリエーテルサルホン樹脂としてガラス転移温度が225℃のペレット(例えば、住友化学株式会社の製品スミカエクセル4100G)を用いた。なお、クロムの融点は1907℃と高く、表面はすぐさま酸化クロムCrの不動態を形成するのでさびにくい性質を持つ。
最初に、オクチル酸クロムの96g(0.2モルに相当する)が10重量%になるようにメタノールに分散し、この分散液にベンジルジグリコールが20重量%になるように混合した。この混合液に、予め除湿乾燥機で乾燥させた1.2kgのペレットを混合した。次に、この混合物を容器に入れ、大気雰囲気で熱処理した。最初に、65℃に昇温してメタノールを気化し、さらに、290℃に1分間放置し、オクチル酸クロムを熱分解し、試料5を作成した。さらに、試料5の一部を取り出して容器に入れ、大気雰囲気で305℃まで昇温し、ベンジルジグリコールを気化し、試料6を作成した。
次に、試料5と試料6とを、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察した。最初に、2種類の試料の表面からの反射電子線について、900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料表面はいずれの部位も、40−60nmの大きさからなる粒状微粒子が、表面全体を覆っていた。
次に2種類の試料の表面からの反射電子線について、900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で粒子の材質を分析した。いずれの粒状微粒子にも濃淡が認められなかったので、単一原子から構成されていることが分かった。
さらに、2種類の試料の表面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒子を構成する元素の種類を分析した。粒状微粒子はクロム原子のみで構成されていたため、クロムの粒状微粒子である。
また、試料6について、実施例1と同様に複数個所の表面抵抗を表面抵抗計によって測定した。表面抵抗値は1×10Ω/□であったため、金属に近い表面抵抗を有した。
さらに、試料6を切断し、断面の複数個所を電子顕微鏡で観察した。複数の断面からの反射電子線について、900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。粒状の微粒子が6層前後の厚みで積み重なって結合し、ペレットの表面を覆っていた。
以上の結果から、試料6は、クロムのナノ粒子が6層前後の厚みで積み重なって結合したクロムのナノ粒子の集まりがペレットを覆い、このペレットの集まりからなる。これによって、ペレットの表面抵抗は金属に近い表面抵抗を持った。試料5は、ペレットの表面に、クロム微粒子の集まりが6層前後の厚みで積み重なって結合したクロムのナノ粒子の集まりが析出し、このペレットの集まりがベンジルジグリコールに分散した懸濁液である。
以上の結果から、PES樹脂のペレットの表面に、金属結合したクロムのナノ粒子の集まりが析出し、このペレットの集まりが有機化合物に分散した懸濁液が製造できた。なお、本実施例は一例に過ぎない。無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度に対して、ガラス転移温度がより高い温度である26段落で説明した非晶性の熱可塑性樹脂を、あるいは、オクチル酸金属化合物の熱分解温度に対して、融点がより高い温度である27段落で説明した結晶性の熱可塑性樹脂を成形材料として用い、さらに、30段落で説明したオクチル酸金属化合物を金属のナノ粒子の原料として用いると、様々な材料構成の懸濁液が製造できる。
【0038】
実施例4
本実施例は、実施例3におけるオクチル酸クロムの使用量の2倍の192g(0.4モルに相当する)が10重量%になるようにメタノールに分散し、この分散液にベンジルジグリコールが10重量%になるように混合した。この混合液に、実施例3と同様に、1.2kgのポリエーテルサルホン樹脂のペレットを混合した。この混合物を容器に入れ、実施例3と同様に、メタノールを気化させた後に、大気雰囲気の290℃で熱処理し、試料7を製作した。さらに、試料7の一部を取り出し、大気雰囲気の305℃で熱処理し、試料8を作成した。
実施例3と同様に、試料7と試料8とを電子顕微鏡で観察した。また、試料8の表面抵抗を測定した結果、表面抵抗は1×10Ω/□であり、試料6よりさらに金属に近づいた。さらに、試料8を切断し、断面の複数個所を電子顕微鏡で観察した結果、40−60nmの大きさのクロムのナノ粒子が12層前後の厚みで積み重なって結合し、ペレットを覆っていた。この結果、試料8は、クロムのナノ粒子が12層前後の厚みで積み重なって結合したクロムのナノ粒子の集まりがペレットを覆い、このペレットの集まりからなる。また、試料7は、ペレットの表面に、クロムのナノ粒子が12層前後の厚み積み重なって結合したクロムのナノ粒子の集まりが析出し、このペレットの集まりがジエチレングリコールに分散した懸濁液である。
以上の観察結果から、実施例2と同様に、合成樹脂のペレットを覆う金属のナノ粒子が積み重なって結合する金属のナノ粒子の厚みが、ペレットの使用量に対するオクチル酸金属化合物のメタノールへの分散量で決まる。従って、成形体を成形する際に、成形体により金属に近い導電性と熱伝導性とを付与させる場合は、ペレットの使用量に対するオクチル酸金属化合物のメタノールへの分散量を増やせばよい。
【0039】
実施例5
本実施例は、ポリエチレンテレフタレートPET樹脂の成形材料の表面に金属結合した銅のナノ粒子の集まりが析出し、この成形材料の集まりが有機化合物に分散した懸濁液を製造する実施例である。銅のナノ粒子の原料は、実施例1で用いたテトラアンミン銅硝酸塩[Cu(NH](NOである。また、有機化合物は、34段落で説明した沸点が243℃で、融点が12.5℃で、粘度が20℃で23mPa秒の性質を持つフェニルプロピレングリコール(例えば、株式会社日本触媒の製品)である。この有機化合物の粘度は、メタノールの39倍である。また、融点が245℃のPET樹脂は、市販のリサイクル成形材料のペレットを用いた。
最初に、テトラアンミン銅硝酸塩の51g(0.2モルに相当する)が10重量%になるようにメタノールに分散し、この分散液にフェニルプロピレングリコールが15重量%になるように混合した。この混合液に、予め洗浄と乾燥とを行なった1.2kgのペレットを混合した。この混合物を容器に入れ、水素ガス雰囲気で熱処理した。最初に65℃に昇温してメタノールを気化し、さらに、200℃に5分間放置し、テトラアンミン銅硝酸塩を熱分解し、試料9を作成した。さらに、試料9の一部を取り出して容器に入れ、大気雰囲気で243℃に昇温し、フェニルプロピレングリコールを気化し、試料10を作成した。
実施例1と同様に、試料9と試料10とを電子顕微鏡で観察した。また、試料10の表面抵抗を測定した結果、1×10Ω/□の表面抵抗で、金属に近い表面抵抗を有した。さらに、試料10を切断し、断面の複数個所を電子顕微鏡で観察した結果、微粒子が6層前後の厚みで積み重なって結合した微粒子の集まりが、ペレットを覆っていた。
この結果、試料10は、銅のナノ粒子が6層前後の厚みで積み重なって結合した銅のナノ粒子の集まりでペレットが覆われたペレットの集まりである。試料9は、ペレットの表面に、銅のナノ粒子が6層前後の厚みで積み重なって結合した銅のナノ粒子の集まりが析出し、このペレットの集まりがフェニルプロピレングリコールに分散した懸濁液である。
以上の結果から、PET樹脂の成形材料の表面に、金属結合した銅のナノ粒子の集まりが析出し、この成形材料の集まりが有機化合物に分散した懸濁液が製造できた。なお、本実施例は一例に過ぎない。無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度に対して、軟化点がより低い温度である25段落で説明した熱硬化性の樹脂と、ガラス転移温度がより低い温度である26段落で説明した非晶性の熱可塑性樹脂を、あるいは、オクチル酸金属化合物の熱分解温度に対して、融点がより低い温度である27段落で説明した結晶性の熱可塑性樹脂を成形材料として用い、さらに、29段落で説明した無機金属化合物からなる錯体を、金属のナノ粒子の原料として用いると、様々な材料構成の懸濁液が製造できる。
【0040】
実施例6
本実施例は、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂PFAの成形材料の表面に金属結合したクロムのナノ粒子の集まりが析出し、この成形材料の集まりが有機化合物に分散した懸濁液を製造する実施例である。クロムのナノ粒子の原料は、実施例3で用いたオクチル酸クロムである。また、有機化合物として、33段落で説明した沸点が329℃で融点が−5.6℃で、粘度が20℃で55mPa秒の性質を持つテトラエチレングリコール(例えば、株式会社日本触媒の製品)を用いた。成形材料として、融点が310℃であるペルフルオロアルコキシフッ素樹脂PFAのペレット(例えば、ダイキン工業株式会社の製品AP−230)を用いた。
最初に、オクチル酸クロムの96g(0.2モルに相当する)が10重量%になるようにメタノールに分散し、この分散液にテトラエチレングリコールが10重量%になるように混合した。この混合液に、予め除湿乾燥機で乾燥させた1.2kgのペレットを混合した。次に、この混合物を容器に入れ、大気雰囲気で熱処理した。最初に、65℃に昇温してメタノールを気化し、さらに、290℃に1分間放置し、オクチル酸クロムを熱分解し、試料11を作成した。さらに、試料5の一部を取り出して容器に入れ、大気雰囲気で330℃まで昇温し、テトラエチレングリコールを気化し、試料12を作成した。
実施例3と同様に、試料11と試料12とを電子顕微鏡で観察した。また、試料12の表面抵抗を測定した結果、表面抵抗は1×10Ω/□であった。さらに、試料12を切断し、断面の複数個所を電子顕微鏡で観察した結果、40−60nmの大きさのクロムのナノ粒子が6層前後の厚みで積み重なって結合し、ペレットを覆っていた。この結果、試料12は、クロムのナノ粒子が12層前後の厚みで積み重なって結合したクロムのナノ粒子の集まりがペレットを覆い、このペレットの集まりからなる。また、試料11は、ペレットの表面に、クロムのナノ粒子が6層前後の厚み積み重なって結合したクロムのナノ粒子の集まりが析出し、このペレットの集まりがジエチレングリコールに分散した懸濁液である。
以上の結果から、PFA樹脂のペレットの表面に、金属結合したクロムのナノ粒子の集まりが析出し、この成形材料の集まりが有機化合物に分散した懸濁液が製造できた。なお、本実施例は一例に過ぎない。オクチル酸金属化合物の熱分解温度に対して、ガラス転移温度がより高い温度の非晶性の熱可塑性樹脂を、融点がより高い温度の結晶性の熱可塑性樹脂を成形材料として用い、オクチル酸金属化合物を金属のナノ粒子の原料として用いると、様々な材料構成の懸濁液が製造できる。
【0041】
実施例7
本実施例は、実施例1で製造した試料1と実施例2で製造した試料3とを用い、圧縮成形法に依って、図1に図示する厚みが2mmのパッキン1を製作した。なお、パッキン1の外側の形状を持つキャビティを、ジエチレングリコールの沸点の244℃に予め昇温した。パッキン1の内側の形状を持つ成形機を255℃に予め昇温した。このキャビティに試料1ないしは試料3を充填し、成形機をキャビティに下ろし、加圧力が30秒間に20MPaまで昇圧する加圧力を、成形機によってキャビティ内の試料1ないしは試料3に加え、30秒間放置した。この後、成形機の加圧力を抜き、キャビティ内のジエチレングリコールの気体を回収機で吸引した。さらに、成形機によって30MPaの加圧力を、キャビティ内の試料1ないしは試料3に加えた。成形機を引き上げ、キャビティ内のパッキン1を取り出した。
次に、試料1ないしは試料3を用いて成形したパッキン1の一部を、試料13ないしは試料14として切り出し、実施例1と同様に表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。双方のパッキン1の表面は、試料1と試料3とは異なり、50−70nmの大きさに粗大化した銅のナノ粒子の集まりで覆われていた。また、試料13の断面は試料2とは異なり、粗大化した銅のナノ粒子が5層前後の厚みで積み重なって結合してペレットを覆っていた。試料14は試料4とは異なり、粗大化した銅のナノ粒子が10層前後の厚みで積み重なって結合してペレットを覆っていた。
また、2種類のパッキン1の各々2個ずつを、2mの高さから落下させたが、僅かな打痕が形成されるだけで、パッキン1はいずれも壊れなかった。このため、銅のナノ粒子の集まりで成形材料が互いに結合した成形品は、一定の機械的強度を持つことが分かった。
さらに、2種類のパッキン1の2個ずつを、大気雰囲気の800℃に昇温された熱処理炉に5分間放置し、パッキン1を取り出し、パッキン1の一部を試料15と試料16して切り出し、実施例1と同様に、表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。双方のパッキン1の表面は、暗赤色からなる滑らかな状態になった。さらに、試料15の表面と試料16の表面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、表面を構成する元素の種類を分析した結果、表面は酸化第二銅CuOで構成されていた。また、試料15の断面と試料16の断面とを電子顕微鏡で観察した結果、試料13と試料14とは異なり、全てのペレットが黒色の液状物質と固体の灰分とに分解された。さらに、試料15は、試料13のペレットを覆う銅のナノ粒子の粒界が消え、全てのペレットが、銅の連続したバルクからなる約300nmの厚みの波状にうねった被膜で覆われた。また、試料16は、試料14のペレットを覆う銅のナノ粒子の粒界が消え、全てのペレットが、銅の連続したバルクからなる約600nmの厚みの波状にうねった被膜で覆われた。
以上に説明したように、大気雰囲気の800℃で熱処理した結果、パッキン1の表層は酸化第二銅に酸化されたが、パッキン1の内部は、全てのペレットが銅の被膜で覆われた状態で熱分解が進行し、液状物質と固体の灰分とに分解された。従って、パッキン1を構成するペレットは銅の被膜で外界から遮断され、パッキン1は不燃性と自己発火しない性質を持つ。また、ペレットを覆っていた金属結合した銅のナノ粒子の集まりは、昇温に伴ってナノ粒子が成長して粒界が粗大化し、800℃まで昇温された結果、銅のナノ粒子の粒界が消え、銅の連続したバルクからなる被膜に変わったと考えられる。従って、少なくとも800℃における不燃性と自己発火しない性質とをパッキンに持たせるには、ペレットを銅のナノ粒子が6層を形成して積み重なって結合した懸濁液を原料として用いればよい。
また、本実施例では、圧縮成形法で不燃性と自己発火しない性質を持つパッキンを製作したが、パッキンの製作は一例に過ぎない。懸濁液を充填するキャビティの形状が自在に変えられ、また、キャビティに充填された懸濁液を加圧する成形機の形状も自在に変えられる。このため、パッキンに限らず、様々な形状からなる不燃性と自己発火しない性質を持つ成形体が製作できる。さらに、成形材料はフェノール樹脂に限らず、実施例1の35段落に記載したように、他の熱硬化性樹脂や非晶性の熱可塑性樹脂や結晶性の熱可塑性樹脂からなる様々な成形材料を用いることができる。また、成形材料を結合する金属のナノ粒子は銅のナノ粒子に限らず、29段落で説明した無機金属化合物からなる錯体を用いることで、様々な金属からなるナノ粒子の集まりで成形材料を結合させることができる。
【0042】
実施例8
本実施例は、実施例1で製造した試料1と実施例2で製造した試料3とを用い、トランスファ成形法で、図2に図示する厚みが5mmの歯車2を製作した。なお、試料1ないしは試料3を押し込む一対の金型からなるキャビティは、その内側が歯車2の形状を持つ。
試料を充填するポットを、予めジエチレングリコールの沸点である244℃に昇温した。また、試料を押し込む一対の金型を、255℃に予め昇温した。次に、ポットに試料1ないしは試料3を充填した。さらに、ポット内に設置されたプランジャーによって、試料1ないしは試料3を型締めされた金型内に30MPaの加圧力で押し込んだ。この後、プランジャーの加圧を一旦中止し、金型内のガスを回収機で吸引した。さらに、プランジャーによって、加圧力が30秒間に40MPaまで昇圧する加圧力を金型内にある試料に加え、30秒間保持した。この後、プランジャーを引き上げ、金型を開き歯車2を取り出した。
次に、成形した歯車2の一部を、試料17ないしは試料18として切り出し、実施例1と同様に表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。双方の歯車2の表面は、試料2ないしは試料4とは異なり、50−70nmの大きさの粗大化した銅のナノ粒子の集まりで覆われていた。試料17の断面は試料2とは異なり、銅のナノ粒子が5層前後の厚みで積み重なって結合してペレットを覆っていた。また、試料18は試料4とは異なり、銅のナノ粒子が10層前後の厚みで積み重なって結合しペレットを覆っていた。
また、2種類の歯車2の各々2個ずつを、2mの高さから落下させたが、僅かな打痕が形成されるだけで、歯車2はいずれも壊れなかった。このため、銅のナノ粒子の集まりで成形材料が互いに結合した成形品は、一定の機械的強度を持つことが分かった。
さらに、2種類の歯車2の各々2個ずつを、実施例7と同様に、大気雰囲気の800℃に5分間放置し、この後、成形品を取り出し、成形品の一部を試料19と試料20として切り出し、実施例1と同様に、表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。双方の歯車2の表面が、実施例7と同様に、暗赤色からなる滑らかな状態になり、表面は酸化第二銅CuOで構成されていた。また、試料19の断面と試料20の断面とを電子顕微鏡で観察した結果、実施例7と同様に、全てのペレットが黒色の液状物質と固体の灰分とに分解されていた。さらに、試料19は、試料17のペレットを覆う銅のナノ粒子の粒界が消え、全てのペレットは、銅の連続したバルクからなる約300nmの厚みの波状にうねった被膜で覆われていた。また、試料20は、試料18のペレットを覆う銅のナノ粒子の粒界が消え、銅の連続したバルクからなる約600nmの厚みの波状にうねった被膜で覆われていた。
以上に説明したように、歯車2を大気雰囲気の800℃で熱処理した結果、実施例7と同様に、歯車2の表層は酸化第二銅に酸化されたが、歯車2の内部は、全てのペレットが銅の被膜で覆われた状態で熱分解が進行し、液状物質と固体の灰分とに分解された。従って、歯車2を構成する全てのペレットは、銅の被膜で外界から遮断され、歯車2は不燃性と自己発火しない性質を持つ。従って、少なくとも800℃における不燃性と自己発火しない性質とを歯車に持たせるためには、実施例7と同様に、ペレットを銅のナノ粒子が6層を形成して積み重なって結合した懸濁液を原料として用いればよいことが分かった。
また、本実施例では、トランスファ成形法で不燃性と自己発火しない性質を持つ歯車を製造したが、歯車の製造は一例に過ぎない。懸濁液が押し込まれる一対の金型の形状が自在に変えられるため、歯車に限らず、様々な形状の不燃性と自己発火しない性質を持つ成形体が製作できる。さらに、成形材料はフェノール樹脂に限らず、35段落に記載したように、他の熱硬化性樹脂や非晶性の熱可塑性樹脂や結晶性の熱可塑性樹脂からなる様々な成形材料を用いることができる。また、成形材料を結合する金属のナノ粒子は銅のナノ粒子に限らず、29段落で説明した無機金属化合物からなる錯体を用いることで、様々な金属からなるナノ粒子の集まりで成形材料を結合させることができる。
以上に説明したように、成形材料がフェノール樹脂からなる懸濁液を用いて、実施例7では圧縮成形法に依って、実施例8ではトランスファ成形法で成形体を製作した。成形材料としてフェノール樹脂に限らず他の熱硬化性樹脂を用いることができ、25段落で説明したように、押出成形法とエアブロー成形法とを除く成形法であれば、軟化点を超えたペレットないしは粉粒体の集まりに、大きな加圧力を加えることができ、様々な成形法に依って様々な形状からなる不燃性と自己発火しない性質を持つ成形体が製作できる。
【0043】
実施例9
本実施例は、実施例3で製造した試料5と実施例4で製造した試料7とを用い、射出成形法に依って、図3に図示したはすば内歯車3を製作した。このため、試料5ないしは試料7を充填するシリンダーを、ベンジルジグリコールの沸点である302℃に予め昇温し、また、試料5ないしは試料7が射出される金型を、315℃に予め昇温した。次に、試料5ないしは試料7をシリンダーに充填し、この後、シリンダー内に設置されたスクリューの移動によって、3段階に分けて10MPaずつ加圧力を連続して増やし、30MPaの加圧力を試料5ないしは試料7に加え、金型内に射出した。この後、スクリューに依る加圧を一旦中止し、金型内のベンジルジグリコールをシリンダーの外側から回収機で吸引した。さらに、スクリューの移動によって、加圧力が30秒間に40MPaまで昇圧する加圧力を金型内の試料に加えた。この後、金型を開いてはすば内歯車3を取り出した。
次に、試料5ないしは試料7を用いて成形したはすば内歯車3の一部を、試料21ないしは試料22として切り出し、実施例1と同様に表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。双方のはすば内歯車3の表面は、試料6ないしは試料8の表面とは異なり、50−70nmの大きさの粗大化したクロムのナノ粒子の集まりで覆われた。試料21の断面は試料6の断面とは異なり、粗大化したクロムのナノ粒子が5層前後の厚みで積み重なって結合してペレットを覆っていた。試料22の断面は試料8の断面とは異なり、粗大化したクロムのナノ粒子が10層前後の厚みで積み重なって結合してペレットを覆っていた。
また、2種類のはすば内歯車3の各々2個ずつを、2mの高さから落下させたが、僅かな打痕が形成されるだけで、はすば内歯車3は壊れなかった。このため、クロムのナノ粒子の集まりで成形材料が互いに結合した成形品は、一定の機械的強度を持つ。
さらに、2種類のはすば内歯車3の各々2個ずつを、実施例7と同様に、大気雰囲気の800℃に5分間放置し、この後、成形品を取り出し、成形品の一部を試料23と試料24として切り出し、実施例1と同様に、表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。双方のはすば内歯車3の表面は、暗緑色からなる滑らかな状態になり、酸化クロムCrで構成されていた。また、試料23の断面と試料24の断面とを電子顕微鏡で観察した結果、実施例7と同様に、全てのペレットが黒色の液状物質と固体の灰分とに分解されていた。さらに、試料23は試料21のペレットを覆うクロムのナノ粒子の粒界が消え、全てのペレットは、クロムの連続したバルクからなる約300nmの厚みの波状にうねった被膜で覆われていた。試料24は試料22のペレットを覆うクロムのナノ粒子の粒界が消え、全てのペレットは、クロムの連続したバルクからなる約600nmの厚みの波状にうねった被膜で覆われていた。
以上に説明したように、はすば内歯車3を大気雰囲気の800℃で熱処理した結果、はすば内歯車3の表層は酸化クロムに酸化されたが、はすば内歯車3の内部は、全てのペレットがクロムの被膜で覆われた状態で熱分解が進行し、液状物質と固体の灰分とに分解された。従って、はすば内歯車3を構成する全てのペレットは、クロムの被膜で外界から遮断され、はすば内歯車3は不燃性と自己発火しない性質を持つ。また、はすば内歯車3を覆っていた金属結合したクロムのナノ粒子の集まりは、昇温に伴ってナノ粒子が成長して粒界が粗大化し、800℃まで昇温された結果、クロムのナノ粒子の粒界が消え、クロムの連続したバルクからなる被膜に変わったと考えられる。
従って、少なくとも800℃における不燃性と自己発火しない性質とをはすば内歯車に持たせるためには、実施例7および実施例8と同様に、ペレットをクロムのナノ粒子が6層を形成して積み重なって結合した懸濁液を原料として用いればよいことが分かった。
また、本実施例では、射出成形法で不燃性と自己発火しない性質を持つはすば内歯車を製造したが、はすば内歯車の製作は一例に過ぎない。懸濁液を射出する金型の形状が自在に変えられるため、様々な形状からなる不燃性と自己発火しない性質を持つ成形体が製作できる。また、成形材料はPES樹脂に限らず、実施例3の37段落に記載したように、他の非晶性の熱可塑性樹脂や結晶性の熱可塑性樹脂からなる様々な成形材料を用いることができる。また、成形材料を結合する金属のナノ粒子はクロムのナノ粒子に限らず、30段落で説明したオクチル酸金属化合物を用いることで、様々な金属からなるナノ粒子の集まりで成形材料を結合させることができる。
【0044】
実施例10
本実施例は、実施例3で製造した試料5と実施例4で製造した試料7を用い、押出成形法に依って、図4に断面形状を図示した長さが10cmの六角パイプ4を製作した。
このため、試料5ないしは試料7を充填するシリンダーを、ベンジルジグリコールの沸点である302℃に予め昇温し、また、試料5ないしは試料7が押し出されるダイを315℃に予め昇温した。次に、シリンダーに試料5ないしは試料7を充填し、シリンダー内のスクリューを15MPaの加圧力をかけて、ゆっくり回転移動させ、シリンダーの前方にあるダイの内側の溝から、六角パイプ4として押し出した。
次に、押し出された2種類の六角パイプ4の一部を、試料25ないしは試料26として切り出し、実施例1と同様に表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。双方の六角パイプ4の表面は、試料6ないしは試料8の表面とは異なり、50−70nmの大きさの粗大化したクロムのナノ粒子の集まりで覆われた。試料25の断面は試料6の断面とは異なり、粗大化したクロムのナノ粒子が5層前後の厚みで積み重なって結合してペレットを覆っていた。試料26の断面は試料8の断面とは異なり、粗大化したクロムのナノ粒子が10層前後の厚みで積み重なって結合してペレットを覆っていた。
また、2種類の六角パイプ4の各々2個ずつを、2mの高さから落下させたが、僅かな打痕が形成されるだけで、六角パイプ4は壊れなかった。このため、クロムのナノ粒子の集まりで成形材料が互いに結合した成形品は、一定の機械的強度を持つことが分かった。
さらに、2種類の六角パイプ4の各々2個ずつを、実施例7と同様に、800℃の大気雰囲気に5分間放置し、成形品を取り出し、成形品の一部を試料27と試料28として切り出し、実施例1と同様に、表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。双方の六角パイプ4の表面が、実施例9と同様に、暗緑色からなる滑らかな状態になり、酸化クロムで構成されていた。また、試料27の断面と試料28の断面とを電子顕微鏡で観察した結果、実施例7と同様に、全てのペレットが黒色の液状物質と固体の灰分とに分解されていた。さらに、試料27は試料25のペレットを覆うクロムのナノ粒子の粒界が消え、全てのペレットは、クロムの連続したバルクからなる約300nmの厚みの波状にうねった被膜で覆われていた。また、試料28は試料22のペレットを覆うクロムのナノ粒子の粒界が消え、全てのペレットは、クロムの連続したバルクからなる約600nmの厚みの波状にうねった被膜で覆われていた。
以上に説明したように、六角パイプ4を大気雰囲気の800℃で熱処理した結果、実施例9と同様に、六角パイプ4の表層は酸化クロムに酸化されたが、六角パイプ4の内部は、全てのペレットがクロムの被膜で覆われた状態で熱分解が進行し、液状物質と固体の灰分とに分解された。従って、六角パイプ4を構成する全てのペレットは、クロムの被膜で外界から遮断され、六角パイプ4は不燃性と自己発火しない性質を持つ。
従って、少なくとも800℃における不燃性と自己発火しない性質とを六角パイプ4に持たせるためには、実施例9と同様に、ペレットをクロムのナノ粒子が6層を形成して積み重なって結合した懸濁液を原料として用いればよいことが分かった。
また、本実施例では、射出成形法で不燃性と自己発火しない性質を持つ六角パイプを製造したが、六角パイプの製作は一例に過ぎない。懸濁液を押し出す溝の形状が自在に変えられ、様々な形状の不燃性と自己発火しない性質を持つ成形体が製作できる。さらに、成形材料はPES樹脂に限らず、実施例3の37段落に記載したように、他の非晶性の熱可塑性樹脂や結晶性の熱可塑性樹脂からなる様々な成形材料を用いることができる。また、成形材料を結合する金属のナノ粒子は銅に限らず、30段落で説明したオクチル酸金属化合物を用いることで、様々な金属からなるナノ粒子の集まりで成形材料を結合させることができる。
以上に説明したように、成形材料がPES樹脂からなる懸濁液を用いて、実施例9では射出成形法に依って、実施例10では押出成形法で成形体を製作した。成形材料としてPES樹脂に限らず他の非晶性の熱可塑性樹脂を用いることができ、26段落で説明したように、ガラス転移温度を超えた温度までペレットの集まりを昇温し、軟化したペレットを加圧して圧縮変形させることで、様々な成形法に依って様々な形状からなる不燃性と自己発火しない性質を持つ成形体が製作できる。
【0045】
実施例11
本実施例は、実施例5で製造した試料9を用い、エアブロー成形法で、図5に図示した厚みが0.3mmのボトル5を製造した。
このため、押出成形機のシリンダーを、フェニルプロピレングリコールの沸点の243℃に予め昇温した。また、チューブ状に押し出された懸濁体を挟む一対の金型を、255℃に予め昇温した。なお、一対の金型の内側は、製作する容器の外側の形状になる。次に、シリンダーに懸濁液を充填し、シリンダー内のスクリューを15MPaの加圧力をかけて、ゆっくり回転移動させ、シリンダーの前方にあるダイの内側の溝から、外径が1cmで肉厚が0.17cmのチューブとして押し出した。このチューブを一対の金型で挟み、金型を閉じた後に、エアブロー装置によってチューブの内側に、30秒間に20MPaまで昇圧する圧縮空気を供給し、チューブを一対の金型に張り付けさせ、1分間保持した。この後、圧縮空気の供給を中止し、膨らんだチューブから気体を吸引した。さらに、エアブロー装置によって、膨らんだチューブの内側に、40MPaの圧縮空気を送り込んで膨らんだチューブを加圧した。この後、金型を開いてボトル5を取り出した。
次に、ボトル5の一部を試料29として切り出し、実施例1と同様に表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。ボトル5の表面は試料9とは異なり、50−70nmの大きさの粗大化した銅のナノ粒子の集まりで覆われていた。試料29の断面は試料10の断面とは異なり、粗大化した銅のナノ粒子が5層前後の厚みで積み重なって結合してペレットを覆っていた。
また、2個のボトル5を、2mの高さから落下させたが、僅かな打痕が形成されるだけで、ボトル5は壊れなかった。このため、銅のナノ粒子の集まりで成形材料が互いに結合した成形品は、一定の機械的強度を持つことが分かった。
さらに、2個のボトル5を、実施例7と同様に、大気雰囲気の800℃に5分間放置した。成形品を取り出し、成形品の一部を試料30として切り出し、実施例1と同様に、表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。ボトル5の表面が、実施例7と同様に、暗赤色からなる滑らかな状態になり、酸化第二銅CuOで構成されていた。また、試料30の断面を電子顕微鏡で観察した結果、実施例7と同様に、全てのペレットが黒色の液状物質と固体の灰分とに分解されていた。さらに、試料30は試料29のペレットを覆う銅のナノ粒子の粒界が消え、銅の連続したバルクからなる約300nmの厚みの波状にうねった被膜で覆われていた。
以上に説明したように、ボトル5を大気雰囲気の800℃で熱処理した結果、ボトル5の表層は酸化第二銅に酸化されたが、ボトル5の内部は、全てのペレットが銅の被膜で覆われた状態で熱分解が進行し、液状物質と固体の灰分とに分解された。従って、ボトル5を構成する全てのペレットは、銅の被膜で外界から遮断され、ボトル5は不燃性と自己発火しない性質を持つ。また、ボトル5を覆っていた金属結合した銅のナノ粒子の集まりは、昇温に伴ってナノ粒子が成長して粒界が粗大化し、800℃まで昇温された結果、銅のナノ粒子の粒界が消え、銅の連続したバルクからなる被膜に変わったと考えられる。
また、本実施例では、エアブロー成形法で不燃性と自己発火しない性質を持つボトルを製造したが、ボトルの製作は一例に過ぎない。押し出されたチューブを挟む一対の金型の形状が自在に変えられるため、様々な形状からなる不燃性と自己発火しない性質を持つ中空の成形体が製作できる。さらに、成形材料はPET樹脂に限らず、実施例5の39段落に記載したように、熱硬化性樹脂や非晶性の熱可塑性樹脂や他の結晶性の熱可塑性樹脂からなる様々な成形材料を用いることができる。また、成形材料を結合する金属のナノ粒子は銅のナノ粒子に限らず、29段落で説明した無機金属化合物からなる錯体を用いることで、様々な金属からなるナノ粒子の集まりで成形材料を結合させることができる。
【0046】
実施例12
本実施例は、実施例6で製造した試料11を用い、サーモフォーミング成形法で図6に図示した厚みが1mmの容器6を製造した。このため、押出成形機のシリンダーをテトラエチレングリコールの沸点である329℃に予め昇温した。また、シート状に押し出された懸濁体を挟む一対の金型を、340℃に予め昇温した。なお、一対の金型のうち下方の金型は、容器6の外径の形状を持ち、下部の一部が真空ポンプの吸引ホースに繋がる。また、一対の金型うち上方の金型は、容器6の内径の形状を持つ。次に、シリンダーに試料11を充填し、シリンダー内のスクリューを15MPaの加圧力をかけて、ゆっくり回転移動させ、シリンダーの前方にあるダイの内側の溝から、幅が3.1cmで厚みが0.6mmのシートとして押出した。さらに、シートを一対の金型の間に挟んだ。この後、真空ポンプを稼働させ、上方の金型を下方の金型に対して0.5mmの距離まで下ろすとともに、加圧力が30秒間に20MPaまで昇圧する加圧力を、上方の金型によってシートに加え、1分間放置した。この後、上方の金型の加圧を中止した。さらに、上方の金型によって30MPaの加圧力を加えた。この後、上方の金型を引き上げて、下方の金型内の容器6を取り出した。
次に、容器6の一部を試料31として切り出し、実施例1と同様に表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。容器6の表面は試料11とは異なり、50−70nmの大きさの粗大化したクロムのナノ粒子の集まりで覆われていた。試料31の断面は試料11の断面とは異なり、粗大化したクロムのナノ粒子が5層前後の厚みで積み重なって結合してペレットを覆った。
また、2個の容器6を、2mの高さから落下させたが、僅かな打痕が形成されるだけで、容器6は壊れなかった。このため、クロムのナノ粒子の集まりで成形材料が互いに結合した成形品は、一定の機械的強度を持つことが分かった。
さらに、2個の容器6を実施例7と同様に、大気雰囲気の800℃に5分間放置した。この後、容器6の一部を試料32として切り出し、実施例1と同様に、表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。容器6の表面は、実施例9と同様に、暗緑色からなる滑らかな状態になり、酸化クロムCrで構成されていた。また、試料32の断面を電子顕微鏡で観察した結果、実施例7と同様に、全てのペレットが黒色の液状物質と固体の灰分とに分解されていた。さらに、試料32は、試料31のペレットを覆うクロムのナノ粒子の粒界が消え、クロムの連続したバルクからなる約300nmの厚みの波状にうねった被膜で覆われていた。
以上に説明したように、容器6を大気雰囲気の800℃で熱処理した結果、容器6の表層は酸化クロムに酸化されたが、容器6の内部は、全てのペレットがクロムの被膜で覆われた状態で熱分解が進行し、液状物質と固体の灰分とに分解された。従って、容器6を構成する全てのペレットは、クロムの被膜で外界から遮断され、容器6は不燃性と自己発火しない性質を持つ。また、容器6を覆っていた金属結合したクロムのナノ粒子の集まりは、昇温に伴ってナノ粒子が成長して粒界が粗大化し、800℃まで昇温された結果、クロムのナノ粒子の粒界が消え、クロムの連続したバルクからなる被膜に変わった。
本実施例では、サーモフォーミング成形法で不燃性と自己発火しない性質を持つ容器を製造したが、容器の製作は一例に過ぎない。押し出されたチューブを挟む一対の金型の形状が自在に変えられるため、様々な形状からなる不燃性と自己発火しない性質を持つ中空の成形体が製作できる。さらに、成形材料はPAF樹脂に限らず、実施例6の40段落に記載したように、オクチル酸金属化合物の熱分解温度に対して、ガラス転移温度がより高い温度の非晶性の熱可塑性樹脂を、また、融点がより高い温度の結晶性の熱可塑性樹脂を成形材料として用いることができる。また、成形材料を結合する金属のナノ粒子はクロムのナノ粒子に限らず、30段落で説明したオクチル酸金属化合物を用いることで、様々な金属からなるナノ粒子の集まりで成形材料を結合させることができる。
【0047】
以上に説明した実施例は一部の事例に過ぎない。つまり、29段落で説明した無機金属化合物からなる錯体、ないしは、30段落で説明したカルボン酸金属化合物をアルコールに分散し、このアルコール分散液に、錯体ないしはカルボン酸金属化合物の熱分解温度より沸点が高い有機化合物を、32−34段落で説明した有機化合物から選択して混合し、さらに、この混合液に、錯体ないしはカルボン酸金属化合物の熱分解温度に応じた軟化点、ガラス転移温度ないしは融点を持つ合成樹脂からなる成形材料を、25−27段落に説明した合成樹脂の成形材料から選択して混合し、この混合物を熱処理し、錯体ないしはオクチル酸金属化合物を熱分解すると、様々な材質の金属のナノ粒子の集まりで覆われた様々な材質からなる成形材料が有機化合物に分散された懸濁液が製造される。従って、実施例1−6に説明した懸濁液は懸濁液の一例に過ぎない。
さらに、懸濁液を構成する有機化合物の粘度と懸濁液における有機化合物の混合割合を変え、また、懸濁液における成形材料の混合割合を変えると、成形体を製造する際に懸濁液が有する滑り性と粘り性とが自在に変えられる。このため、懸濁液を原料として用い、成形体を加工する際に用いる成形機の種類と金型の形状との制約はない。従って、実施例7−12に説明した成形方法と成形体の形状は、一例に過ぎない。
このように、本発明に依れば、様々な金属からなる金属のナノ粒子の集まりが成形材料を外界から遮断するとともに、金属のナノ粒子の金属結合で成形材料が結合した成形体が、様々な成形法に依って様々な形状の成形体として製作できる。この成形体は、内部に空胞が形成されず、かつ、不燃性を有し自己発火しない性質を持つ画期的な成形体である。
さらに、成形体を構成する成形材料の全てが、金属結合した金属のナノ粒子の集まりで被覆されるため、金属より軽量な成形体が、金属の耐熱性と金属の性質とを持つ。これによって、従来の合成樹脂の成形体に対し、新たな機能用途が開拓される。例えば、成形方法に準じて、電磁波を反射するシールド基材、熱を放出する放熱基材、静電気を帯電させない帯電防止基材などの成形体が製造できる。
【符号の説明】
【0048】
1 パッキン 2 歯車 3 はすば内歯車 4 六角パイプ 5 ボトル 6 容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6