(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態によるダンプトラックを、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0011】
図において、ダンプトラック1は、大型の運搬車両をなし、車体2、ベッセル3、キャブ5、前輪8L,8R、後輪9L,9R等を備えている。
【0012】
図1および
図2に示すように、車体2は、フレーム構造体を構成する。車体2の上側には、ホイストシリンダ4によって後部側を支点として傾転(起伏)可能なベッセル3(荷台)が搭載されている。ベッセル3は、キャブ5を上側から覆う庇部3Aを有している。
【0013】
キャブ5は、ベッセル3の前側に位置して車体2の前部上側に設けられている。キャブ5は、例えば車体2の左側に位置して平板状の床板となるデッキ部2A上に配設されている。キャブ5は、ダンプトラック1の運転者(オペレータ)が乗降する運転室を形成している。キャブ5内には、運転席、エンジンスイッチ、シフトレバー、操舵ハンドル(いずれも図示せず)が設けられると共に、アクセルペダル6、ブレーキペダル7(リタードペダル)が設けられている。
【0014】
前輪8L,8Rは、車体2の前部下側に回転可能に設けられている。前輪8Lは車体2の左側に配置され、前輪8Rは車体2の右側に配置されている。これら左,右の前輪8L,8Rは、運転者によって操舵(ステアリング操作)される舵取り車輪を構成している。これらの前輪8L,8Rは、後輪9L,9Rと同様に、例えば2〜4m程度のタイヤ径(外径寸法)をもって形成されている。
【0015】
後輪9L,9Rは、車体2の後部側に回転可能に設けられている。後輪9Lは車体2の左側に配置され、後輪9Rは車体2の右側に配置されている。これら左,右の後輪9L,9Rは、ダンプトラック1の駆動輪を構成し、走行用モータ15L,15Rにより回転駆動される。左,右の後輪9L,9Rを回転駆動することにより、ダンプトラック1は走行駆動する。
【0016】
エンジン10は、傾動可能なベッセル3(荷台)の下側に配置されている。具体的には、エンジン10は、キャブ5の下側に位置して車体2内に設けられている。エンジン10は、例えば大型のディーゼルエンジンによって構成されている。エンジン10は、主発電機13および副発電機14を駆動する。また、エンジン10は、油圧ポンプ(図示せず)等を回転駆動する。エンジン10には、エンジン回転速度を制御するエンジン制御装置11が設けられている。これに加えて、エンジン10には、エンジン回転速度を検出するエンジン速度検出器12が設けられている。
【0017】
主発電機13および副発電機14は、エンジン10に機械的に接続されている。主発電機13は、本発明の発電機に相当している。主発電機13は、エンジン10によって駆動され、3相交流電力を発生させる。副発電機14も、エンジン10によって駆動される。このとき、副発電機14の発電電力は、主発電機13の発電電力よりも小さい。具体的には、副発電機14の定格発電電力は、例えば主発電機13の定格発電電力の10%以下に設定されている。副発電機14は、送風機29等の駆動回路30に接続され、送風機29等に駆動電力を供給している。
【0018】
走行用モータ15L,15Rは、車体2にアクセルハウジング(図示せず)を介して設けられている。走行用モータ15Lは、減速機構16Lを介して左側の後輪9Lに機械的に接続され、後輪9Lを駆動する。走行用モータ15Rは、減速機構16Rを介して右側の後輪9Rに機械的に接続され、後輪9Rを駆動する。これらの走行用モータ15L,15Rは、大型の電動モータにより構成され、主発電機13からコントロールユニット21を介して供給される電力によって回転駆動する。
【0019】
各走行用モータ15L,15Rは、コントロールユニット21によって制御され、それぞれ独立して回転駆動する。コントロールユニット21は、システムコントローラ32からの制御信号に基づいて、車両の直進時に左,右の後輪9L,9Rの回転速度を同じにし、旋回時に旋回方向に応じて左,右の後輪9L,9Rの回転速度を異ならせる等の制御を行う。
【0020】
次に、ダンプトラック1に搭載された走行駆動用システムについて、
図3を参照して説明する。
【0021】
コントロールユニット21は、後述のシステムコントローラ32と共に走行用モータ15L,15Rの力行動作と回生動作とを制御する。コントロールユニット21は、キャブ5の側方に位置して車体2のデッキ部2A上に立設されたコントロールキャビネット20に収容されている。コントロールユニット21は、コンバータ22およびインバータ24を備えている。
【0022】
コンバータ22は、主発電機13に接続され、主発電機13の出力する電力を変換する変換器を構成している。具体的には、コンバータ22は、主発電機13が出力する交流電力(U相、V相、W相の3相交流電力)を直流電力(p相、n相の直流電力)に変換する。コンバータ22は、例えばダイオード、サイリスタ等の整流素子を用いて構成され交流電力を全波整流する整流器22Aと、整流器22Aの後段に接続され電力波形を平滑化する平滑コンデンサ22Bとを備えている。コンバータ22は、一対の直流母線23A,23Bを用いてインバータ24に接続されている。
【0023】
インバータ24は、例えばトランジスタ、サイリスタ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を用いた複数のスイッチング素子(図示せず)を用いて構成されている。インバータ24は、走行用モータ15L,15Rにそれぞれ接続して設けられ、システムコントローラ32からの制御信号に基づいて動作する。
【0024】
ダンプトラック1の走行時には、インバータ24は、直流電力を可変周波数の3相交流電力に変換し、走行用モータ15L,15Rを力行動作させる。このため、インバータ24は、スイッチング素子のオン/オフを制御することによって、コンバータ22から出力された直流電力をU相、V相、W相の3相交流電力に変換し、この3相交流電力を走行用モータ15L,15Rに供給する。
【0025】
一方、ダンプトラック1の減速時には、インバータ24は、3相交流電力を直流電力に変換し、走行用モータ15L,15Rを回生動作させる。このため、インバータ24は、スイッチング素子のオン/オフを制御することによって、走行用モータ15L,15Rで回生された3相交流電力からなる起電力を直流電力に変換し、この直流電力を電力消費装置25に向けて出力する。
【0026】
電力消費装置25は、インバータ24に接続されて、走行用モータ15L,15Rで回生される起電力を消費する。また、電力消費装置25は、コンバータ22に接続されて、コンバータ22によって変換された電力(直流電力)を消費する。電力消費装置25は、直流母線23A,23Bに接続され、抵抗器26、チョッパ28等を備えている。
【0027】
抵抗器26は、コンバータ22およびインバータ24の間の直流母線23A,23Bに接続されている。この抵抗器26は、角筒状をなすグリッドボックス27内に配設され、インバータ24から供給される直流電力に応じて発熱し、走行用モータ15L,15Rで回生される起電力を消費する。
【0028】
図2に示すように、グリッドボックス27は、左,右方向に対してコントロールユニット21を挟んでキャブ5の反対側に位置して、車体2のデッキ部2A上に複数個積み重ねて設けられている。これら複数個のグリッドボックス27にはそれぞれ抵抗器26が収容され、これら複数個の抵抗器26は、直流母線23A,23Bに互いに並列接続されている。
【0029】
図3に示すように、抵抗器26と直流母線23A,23Bとの間には、チョッパ28が設けられている。このチョッパ28は、例えば半導体素子を用いた各種のスイッチング素子を用いて構成されている。ダンプトラック1の減速時には、チョッパ28は、直流母線23A,23Bに印加される直流電圧を、所定の電圧値以下まで低下させる。即ち、チョッパ28は、スイッチング素子のオン/オフを制御することによって、走行用モータ15L,15Rによる回生電力を所定の電圧値以下まで低下させて、抵抗器26に供給する。これにより、抵抗器26に電流が流れて、抵抗器26は、電気エネルギを熱エネルギに変換する。一方、ダンプトラック1の走行時には、チョッパ28は、遮断状態となり、直流母線23A,23Bと抵抗器26との間を電気的に遮断する。
【0030】
送風機29は、グリッドボックス27に取付けられている。送風機29は、電動モータによって構成され、例えばインバータ等からなる駆動回路30を介して副発電機14に接続されている。送風機29は、副発電機14からの給電によって駆動する。送風機29は、例えば抵抗器26の発熱動作に応じて駆動し、抵抗器26に向けて冷却風を供給する。
【0031】
電力検出器31は、主発電機13によって発電された電力値Pを検出する。電力検出器31は、例えば直流母線23A,23Bに印加される電圧を検出する電圧検出器31Aと、抵抗器26に供給される電流を検出する電流検出器31Bとを備え、これらの積に基づいて、電力値Pを検出する。電力検出器31は、システムコントローラ32に接続され、検出した電力値Pをシステムコントローラ32に出力する。
【0032】
システムコントローラ32は、例えばマイクロコンピュータ等により構成され、コントロールユニット21と一緒にコントロールキャビネット20に収容されている。システムコントローラ32は、エンジン10、コントロールユニット21等に接続され、これらの動作を制御する。システムコントローラ32は、エンジン回転速度の指令値ωoを出力する速度指令部32Aと、電力消費装置25によって消費する電力を制御する消費電力制御部32Bとを有している。
【0033】
また、システムコントローラ32は、
図4に示すエンジン10の検査処理プログラムを実行するデータ保存処理部32Cと、データの読込みと書込みが可能な記憶装置32Dを備えている。記憶装置32Dは、長期間(例えば数年)に亘ってデータの記憶が可能となるように、例えば不揮発性メモリ等によって構成されている。データ保存処理部32Cおよび記憶装置32Dは、エンジン速度検出器12によって検出されたエンジン回転速度と、電力検出器31によって検出された発電された電力値Pとの関係を蓄積するデータ保存装置33を構成している。
【0034】
速度指令部32Aは、エンジン制御装置11に指令値ωoを出力する。これにより、エンジン制御装置11は、エンジン回転速度が指令値ωoとなるように、エンジン10を制御する。
【0035】
消費電力制御部32Bは、電力消費装置25によって消費する電力を制御する。具体的には、消費電力制御部32Bは、電力消費装置25のチョッパ28に対して、デューティ比Dに応じた制御信号を出力する。電力消費装置25は、デューティ比Dに応じた電力を消費する。このとき、デューティ比Dが増加するに従って、抵抗器26によって消費する電力は増加する。
【0036】
データ保存装置33は、指令値ωoのエンジン回転速度でエンジン10を動作させた状態で、消費電力制御部32Bによって電力消費装置25が消費する電力を徐々に増加させたときに、エンジン回転速度が所定の閾値まで低下したときの電力値Pを、指令値ωoおよびこのときの時間情報(例えば日付、時刻等)と一緒に記憶装置32Dに保存する。
【0037】
また、速度指令部32Aは、例えばエンジン回転速度が互いに異なる複数の指令値ωoを出力する。このとき、データ保存装置33は、複数の指令値ωoに対応して、複数の電力値Pを保存する。これに加え、データ保存装置33の記憶装置32Dには、出荷時の電力値P、指令値ωoおよび時間情報が予め保存されている。
【0038】
システムコントローラ32は、各種の情報を表示するモニタ装置34に接続されている。モニタ装置34は、モード選択部としてのタッチパネル35を備えている。オペレータは、タッチパネル35を操作することによって、ダンプトラック1の走行等を行うための通常モードと、エンジン10の検査を行うためのエンジン負荷試験モードとを切り換えることができる。なお、モード選択部は、タッチパネル35に限らず、モニタ装置34とは別個に設けられた選択スイッチ等であってもよい。
【0039】
まず、通常モード選択時のシステムコントローラ32の動作について説明する。通常モードが選択されたときには、システムコントローラ32は、アクセルペダル6の操作量に応じた加速指令とブレーキペダル7の操作量に応じた制動指令とに基づいて、車両を走行駆動させる。システムコントローラ32は、ダンプトラック1の走行状態等に応じた制御信号をコントロールユニット21に出力し、この制御信号によってインバータ24のスイッチング素子を切り換え制御する。
【0040】
さらに、システムコントローラ32は、電力消費装置25を動作させ、直流母線23A,23Bに供給される不要な電力を消費させる。具体的には、ダンプトラック1の減速時には、システムコントローラ32は、チョッパ28を駆動状態にして、抵抗器26と直流母線23A,23Bとの間を電気的に接続する。これにより、システムコントローラ32は、抵抗器26による電力消費を許可すると共に、送風機29を駆動させて抵抗器26に向けて冷却風を供給する。なお、ダンプトラック1の減速時に限らず、ダンプトラック1の加速時等に、システムコントローラ32は、電力消費装置25を動作させて、不要な電力を消費させてもよい。
【0041】
次に、エンジン負荷試験モード選択時のシステムコントローラ32の動作について説明する。エンジン負荷試験モードが選択されたときには、システムコントローラ32のデータ保存処理部32Cは、エンジン負荷試験用の検査処理プログラムを実行する(
図4参照)。
【0042】
このとき、システムコントローラ32のデータ保存装置33は、指定した任意の数点のエンジン回転速度に対し、指定したエンジン回転速度を維持することができる主発電機13の最大負荷をかけた状態で、主発電機13によって発電した電力を検出する。具体的には、データ保存装置33は、指令値のエンジン回転速度でエンジン10を動作させた状態で、コントロールユニット21によって抵抗器26が消費する電力を徐々に増加させる。そして、データ保存装置33は、エンジン回転速度が指令値ωoに基づく閾値ωtまで低下したときに、そのときの電力値Pを、指令値ωoおよびこのときの時間情報(例えば検査日、検査時刻等)と一緒に記憶装置32Dに保存する。
【0043】
次に、
図4を参照しつつ、システムコントローラ32のデータ保存処理部32Cによるエンジン10の検査処理について説明する。
【0044】
まず、ステップS1では、システムコントローラ32は、エンジン回転速度の指令値ωoを設定する。このとき、指令値ωoは、ダンプトラック1が正常に動作しているときに、エンジン回転速度の適正使用範囲内の値に設定される。具体的には、指令値ωoは、適正使用範囲の下限値であるローアイドル回転速度ω
L以上で、適正使用範囲の上限値であるハイアイドル回転速度ω
H以下の値に設定される(ω
L≦ωo≦ω
H)。
【0045】
指令値ωoは、モニタ装置34のタッチパネル35を用いてオペレータ(検査作業者)が手動操作で入力してもよく、予め記憶装置32Dに記憶された値を自動的に入力してもよい。指令値ωoが設定されると、システムコントローラ32の速度指令部32Aは、指令値ωoをエンジン制御装置11に出力する。これにより、エンジン制御装置11は、エンジン回転速度が指令値ωoとなるように、エンジン10を制御する。このとき、主発電機13および副発電機14は、エンジン10によって駆動し、発電動作する。このとき、副発電機14は、電力消費装置25の送風機29を最大速度で動作させるために、ほぼ一定の発電電力(例えば最大発電電力)で動作する。
【0046】
続くステップS2では、システムコントローラ32は、電力消費装置25のチョッパ28を駆動するためのデューティ比Dを初期値D0に設定する。このとき、電力消費装置25の消費電力が主発電機13の発電電力となり、発電電力に応じた負荷がエンジン10に作用する。このため、初期値D0は、ラグダウンやエンジンストールが生じない主発電機13の発電電力(エンジン10の負荷)に基づいて予め決められている。初期値D0は、指令値ωoに拘らず一定の値(同じ値)でもよく、指令値ωoに応じて異なる値であってもよい。
【0047】
システムコントローラ32の消費電力制御部32Bは、デューティ比Dに基づいてチョッパ28を動作させる。これにより、電力消費装置25は、デューティ比Dに応じた電力を消費する。
【0048】
続くステップS3では、システムコントローラ32は、エンジン速度検出器12を用いてエンジン回転速度を検出する。これにより、システムコントローラ32は、エンジン回転速度の検出値ωeを取得する。ステップS4では、エンジン回転速度の検出値ωeと指令値ωoとの間の速度差Δωを演算する。このとき、速度差Δωは、指令値ωoから検出値ωeを減算した値の絶対値になっている(Δω=|ωo−ωe|)。
【0049】
続くステップS5では、一定時間に亘って、速度差Δωが予め決められた判定値A以下(Δω≦A)か否かを判定する。即ち、ステップS5では、システムコントローラ32は、エンジン回転速度が指令値ωo付近に収束し、エンジン10が指令値ωo付近で安定駆動した状態になっているか否かを判定する。このとき、判定値Aは、例えば指令値ωoの2〜10%程度の値に設定されている。一例として、エンジン回転速度の適正使用範囲が800〜1900rpmであり、この適正使用範囲内で指令値ωoが設定されているときに、判定値Aは、50rpmに設定されている。なお、判定値Aは、指令値ωoに応じて異なる値に設定してもよい。
【0050】
速度差Δωが判定値Aよりも大きい(Δω>A)ときには、エンジン回転速度が指令値ωo付近から逸脱した状態となっている。このため、ステップS5で「NO」と判定し、ステップS3以降の処理を繰り返す。即ち、エンジン回転速度が指令値ωo付近に収束するまで、このまま待機する。
【0051】
一方、速度差Δωが判定値A以下(Δω≦A)となったときには、エンジン回転速度が指令値ωo付近に収束している。このため、ステップS5で「YES」と判定し、ステップS6に移行する。
【0052】
ステップS6では、システムコントローラ32は、デューティ比Dを予め決められた所定値ΔDだけ上昇させる。システムコントローラ32の消費電力制御部32Bは、上昇したデューティ比Dに基づいてチョッパ28を動作させる。これにより、電力消費装置25が消費する電力が増加する。なお、エンジン10の挙動が急激に変化するのを抑制するために、所定値ΔDは、例えば2〜10%程度の値(例えば5%)に設定されている。主発電機13によって発電された電力は、電力消費装置25によって概ね消費される。このため、電力消費装置25の消費電力を増加させることによって、主発電機13の発電電力と、エンジン10に作用する負荷とを増加させることができる。
【0053】
続くステップS7では、システムコントローラ32は、電力検出器31を用いて、主発電機13によって発電された電力値Pを検出する。このとき、電力値Pは、電力消費装置25が消費する電力値と概ね一致する。続くステップS8では、システムコントローラ32は、エンジン速度検出器12を用いてエンジン回転速度を検出する。これにより、システムコントローラ32は、エンジン回転速度の検出値ωeを取得する。
【0054】
ステップS9では、エンジン回転速度の検出値ωeが、指令値ωoに基づいて決められた閾値ωtまで低下した(ωe<ωt)か否かを判定する。即ち、ステップS9では、システムコントローラ32は、負荷(主発電機13の発電電力)の増加によって、エンジン回転速度(検出値ωe)が指令値ωoから低下したか否かを判定する。このとき、閾値ωtは、指令値ωoよりも所定値Bだけ低下した値(ωt=ωo−B)に設定されている。所定値Bは、負荷上昇に伴うエンジン回転速度の低下を判定するための判定値である。このため、所定値Bは、例えば判定値Aと同じ値(例えば50rpm)でもよく、判定値Aと異なる値でもよい。
【0055】
エンジン回転速度の検出値ωeが閾値ωtよりも高い(ωe>ωt)ときには、エンジン10は、指令値ωo付近のエンジン回転速度で駆動している。このため、ステップS9で「NO」と判定し、ステップS6以降の処理を繰り返す。即ち、エンジン回転速度が低下するまで、電力消費装置25が消費する電力を徐々に増加させる。
【0056】
一方、エンジン回転速度の検出値ωeが閾値ωt以下(ωe≦ωt)に低下したときには、主発電機13の負荷に応じて、エンジン回転速度が低下したものと考えられる。このため、ステップS9で「YES」と判定し、ステップS10に移行する。
【0057】
ステップS10では、システムコントローラ32は、エンジン回転速度の検出値ωeが指令値ωoに基づく閾値ωtまで低下したときに、そのときの電力値Pを、指令値ωoおよびこのときの時間情報(例えば検査日、検査時刻等)と一緒に、記憶装置32Dに保存する。即ち、指令値ωo、電力値P、時間情報(検査日、検査時刻等)は、これらが一組のデータとなった状態で、記憶装置32Dに一緒に保存される。
【0058】
続くステップS11では、計測を終了するか否かを判定する。例えば、エンジン回転速度の適正使用範囲の全体に亘ってエンジン10の性能(出力特性)を検査するためには、適正使用範囲内で複数(例えば4つ)の指令値ωoを設定する。このとき、指令値ωoは、適正使用範囲の下限値であるローアイドル回転速度ω
Lと、適正使用範囲の上限値であるハイアイドル回転速度ω
Hと、ローアイドル回転速度ω
Lとハイアイドル回転速度ω
Hとの間の値として、標準アイドル回転速度となる第1中間アイドル回転速度ω
m1と、第1中間アイドル回転速度ω
m1とハイアイドル回転速度ω
Hとの間の値として、第2中間アイドル回転速度ω
m1とに設定される。なお、指令値ωoの設定数は、4つの限らず、例えば3つでもよく、5つ以上でもよい。
【0059】
このとき、ステップS11では、全ての指令値ωoに対する電力値Pの計測が終了したか否かを判定する。計測を継続するときは、ステップS11で「NO」と判定し、ステップS1以降の処理を繰り返す。計測が終了したときは、ステップS11で「YES」と判定し、処理を終了する。
【0060】
以上の検査処理によって取得したエンジン10の出力特性の一例を、
図5に示す。記憶装置32Dには、出荷時のエンジン10の出力特性(指令値ωo、電力値P、出荷日)が予め保存されている。具体的に説明すると、記憶装置32Dには、出荷時における4つの指令値ωoとして、ローアイドル回転速度ω
Lと、ハイアイドル回転速度ω
Hと、第1中間アイドル回転速度ω
m1と、第2中間アイドル回転速度ω
m2と、が保存されている。これに加え、記憶装置32Dには、これらの4つの指令値ωo(回転速度ω
L,ω
H,ω
m1,ω
m2)のそれぞれに個別に対応した出荷時の電力値Pとして、4つの電力値P
L0,P
H0,P
m10,P
m20が記憶されている。このとき、電力値P
L0はローアイドル回転速度ω
Lに対応し、電力値P
H0はハイアイドル回転速度ω
Hに対応し、電力値P
m10は第1中間アイドル回転速度ω
m1に対応し、電力値P
m20は第2中間アイドル回転速度ω
m2に対応している。
【0061】
出荷時の4つの指令値ωo(回転速度ω
L,ω
H,ω
m1,ω
m2)と、4つの電力値P
L0,P
H0,P
m10,P
m20は、出荷時の時間情報として、出荷日の日付情報と一緒に、記憶装置32Dに保存されている。このため、
図5に示すように、システムコントローラ32は、エンジン回転速度の指令値ωoと電力値Pとの関係をモニタ装置34に表示することができる。これにより、エンジン回転速度の適正使用範囲の全域に亘って、エンジン10の出力特性(特性線40)を把握することができる。
【0062】
また、記憶装置32Dには、指令値ωoおよび電力値Pと一緒に検査日が保存されている。具体的に説明すると、記憶装置32Dには、検査日1における4つの指令値ωo(回転速度ω
L,ω
H,ω
m1,ω
m2)が保存されている。これに加え、記憶装置32Dには、これらの4つの指令値ωo(回転速度ω
L,ω
H,ω
m1,ω
m2)のそれぞれに個別に対応した検査日1の4つの電力値P
L1,P
H1,P
m11,P
m21が記憶されている。検査日1の4つの指令値ωo(回転速度ω
L,ω
H,ω
m1,ω
m2)と、4つの電力値P
L1,P
H1,P
m11,P
m21は、検査日1の時間情報として、検査日1の日付情報と一緒に、記憶装置32Dに保存されている。
【0063】
同様に、記憶装置32Dには、検査日2における4つの指令値ωo(回転速度ω
L,ω
H,ω
m1,ω
m2)と、これらの4つの指令値ωo(回転速度ω
L,ω
H,ω
m1,ω
m2)のそれぞれに個別に対応した検査日2の4つの電力値P
L2,P
H2,P
m12,P
m22が記憶されている。検査日2の4つの指令値ωo(回転速度ω
L,ω
H,ω
m1,ω
m2)と、4つの電力値P
L2,P
H2,P
m12,P
m22は、検査日2の時間情報として、検査日2の日付情報と一緒に、記憶装置32Dに保存されている。
【0064】
このため、
図5に示すように、システムコントローラ32は、検査日(検査日1、検査日2)の異なるエンジン10の出力特性(特性線41,42)を、出荷時のエンジン10の出力特性(特性線40)と一緒にモニタ装置34に表示することができる。例えば、
図5に示す検査日1のエンジン10の出力特性(特性線41)は、出荷時のエンジン10の出力特性(特性線40)に近い。このため、検査日1の時点では、エンジン10の劣化は少ないものと考えられる。一方、
図5に示す検査日2のエンジン10の出力特性(特性線42)は、出荷時のエンジン10の出力特性(特性線40)に比べて、顕著に低下している。このため、検査日2の時点では、エンジン10の劣化が進行しており、メンテナンスが必要であると考えられる。このように、オペレータは、出荷時のエンジン10の出力特性と、検査日のエンジン10の出力特性とを比較することができ、エンジン10の劣化を容易に把握することができる。
【0065】
かくして、前記実施の形態によるダンプトラック1は、エンジン10のエンジン回転速度を検出するエンジン速度検出器12と、主発電機13によって発電された電力値Pを検出する電力検出器31と、エンジン速度検出器12によって検出されたエンジン回転速度と、電力検出器31によって検出された発電された電力値Pとの関係を蓄積するデータ保存装置33と、を備えている。
【0066】
一般的に、一定のエンジン回転速度で動作するエンジン10に、主発電機13の負荷を作用させた場合に、主発電機13の負荷がそのエンジン回転速度におけるエンジン10の限界を超えると、エンジン回転速度は低下する。そこで、データ保存装置33は、エンジン速度検出器12によって検出されたエンジン回転速度と、電力検出器31によって検出された発電された電力値Pとの関係として、一定のエンジン回転速度で動作するエンジン10において、エンジン回転速度の検出値ωeに低下が生じる最小の電力値Pを、記憶装置32Dに蓄積する。
【0067】
この場合、ダンプトラック1は、エンジン回転速度の指令値ωoを出力する速度指令部32Aと、電力消費装置25によって消費する電力を制御する消費電力制御部32Bと、を備えている。そして、データ保存装置33は、指令値ωoのエンジン回転速度でエンジン10を動作させた状態で、消費電力制御部32Bによって電力消費装置25が消費する電力を徐々に増加させたときに、エンジン回転速度が所定の閾値ωtまで低下したときの電力値Pを、指令値ωoおよびこのときの時間情報と一緒に記憶装置32Dに保存する。このとき、電力値Pは、指令値ωoのエンジン回転速度でエンジン10が駆動するときに、エンジン10が供給可能な最大出力に対応している。
【0068】
このように、エンジン回転速度の指令値ωoと電力値Pとの関係に基づいて、エンジン10の出力特性を把握することができる。また、一般的に、エンジン10の出力特性を取得するためには、ベッセル3を車体2から取外した後に、エンジン10を車体2から取外す必要がある。これに対し、前記実施の形態によるダンプトラック1は、エンジン10を車体2に搭載し、かつ、ダンプトラック1を停止させた状態で、エンジン10の出力特性を取得することができる。このため、エンジン10を検査するときに、分解作業や組立作業を行う必要がないのに加え、ダンプトラック1を走行させる必要もなく、簡単にエンジン10の出力特性を取得することができる。これに加え、過去の検査結果(指令値ωoおよび電力値P)と、今回の検査結果とを比較することによって、エンジン10の経年劣化を容易に把握することができる。
【0069】
また、速度指令部32Aは、エンジン回転速度が互いに異なる複数の指令値ωo(回転速度ω
L,ω
H,ω
m1,ω
m2)を出力し、データ保存装置33は、複数の指令値ωo(回転速度ω
L,ω
H,ω
m1,ω
m2)のそれぞれに個別に対応した複数の電力値P(例えば、電力値P
L0,P
H0,P
m10,P
m20、電力値P
L1,P
H1,P
m11,P
m21、電力値P
L2,P
H2,P
m12,P
m22)を保存する。このため、エンジン回転速度の適正使用範囲の全体に亘って、エンジン10の出力特性を取得し、保存することができる。
【0070】
さらに、データ保存装置33の記憶装置32Dには、出荷時における複数の指令値ωo(回転速度ω
L,ω
H,ω
m1,ω
m2)と、複数の指令値ωo(回転速度ω
L,ω
H,ω
m1,ω
m2)にそれぞれ個別に対応した複数の電力値P
L0,P
H0,P
m10,P
m20と、出荷時の時間情報(日付情報等)とが予め保存されている。このため、出荷時の検査結果(指令値ωoおよび電力値P)と、その後の検査結果とを比較することができ、出荷時を基準として、エンジン10の経年劣化を評価することができる。また、製品毎の特性ばらつきによって、エンジン10が異なると、エンジン10の出力特性も異なることがある。これに対し、記憶装置32Dは、ダンプトラック1に搭載されたエンジン10に固有の出力特性(
図5中の特性線40)を保存している。このため、エンジン10毎の特性ばらつきの影響を受けることなく、エンジン10の経年劣化を評価することができる。
【0071】
なお、前記実施の形態では、データ保存装置33は、エンジン速度検出器12によって検出されたエンジン回転速度と、電力検出器31によって検出された発電された電力値Pとの関係として、エンジン回転速度の指令値ωoと、エンジン回転速度が指令値ωoから低下し始めたときの電力値Pとを保存するものとした。本発明はこれに限らず、データ保存装置33は、例えばエンジン回転速度が指令値ωoから低下し始めたときのエンジン回転速度の検出値ωeと電力値Pとを保存してもよい。
【0072】
前記実施の形態では、データ保存装置33は、複数の指令値ωoのそれぞれに個別に対応した複数の電力値Pを保存するものとした。本発明はこれに限らず、例えばダンプトラックを駆動するときのエンジン回転速度が単一の値に決まっている場合には、記憶装置は、単一の指令値ωoと、この指令値ωoに対応した単一の電力値Pを保存してもよい。
【0073】
前記実施の形態では、データ保存装置33は、指令値ωoおよび電力値Pを、検査日等の時間情報と一緒に保存するものとした。本発明はこれに限らず、記憶装置は、時間情報を省いて、指令値ωoおよび電力値Pだけを保存してもよい。さらに、時間情報は、検査日に限らず、出荷時からの経過日数でもよく、ダンプトラックの積算駆動時間であってもよい。