特許第6734842号(P6734842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6734842ディスプレイ用ガラスの静電放電を抑制するための有機表面処理
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  • 特許6734842-ディスプレイ用ガラスの静電放電を抑制するための有機表面処理 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6734842
(24)【登録日】2020年7月14日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】ディスプレイ用ガラスの静電放電を抑制するための有機表面処理
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/28 20060101AFI20200728BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20200728BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   C03C17/28 A
   C03C23/00 A
   G02F1/1333 500
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-507882(P2017-507882)
(86)(22)【出願日】2015年8月7日
(65)【公表番号】特表2017-524644(P2017-524644A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(86)【国際出願番号】US2015044226
(87)【国際公開番号】WO2016025320
(87)【国際公開日】20160218
【審査請求日】2018年8月7日
(31)【優先権主張番号】62/036,166
(32)【優先日】2014年8月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ハミルトン,ジェイムズ パトリック
(72)【発明者】
【氏名】マンリー,ロバート ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】ミズ,ジョナサン マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ワルクザック,ワンダ ジャニーナ
【審査官】 谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−273166(JP,A)
【文献】 特開2002−308643(JP,A)
【文献】 特開平07−053948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
G02F 1/1333
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板であって、
シリコン薄膜トランジスタ素子を形成することができるA面、及び
均一な有機膜を有するB面であって、前記有機膜が、接触帯電又は摩擦帯電による電圧の発生を抑制する成分を含み、かつ、前記有機膜が、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、オクタデカノール、フェニルシラン、ポリ(アリルアミン)、及びオクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリドの1つ又はそれ以上を含む、B面を備え、
ボロアルミノシリケートを含み、2.45g/cm未満の密度を有することを特徴とするガラス基板。
【請求項2】
前記有機膜が、前記B面の親水性を実質的に低下させる有機化合物、前記ガラス基板B面の表面摩擦係数を低下させる有機化合物、及びこれ等の組み合わせから成る群より選択される化合物を含むことを特徴とする、請求項1記載のガラス基板。
【請求項3】
前記有機膜が、アミン、又は芳香環を含むことを特徴とする、請求項1又は2記載のガラス基板。
【請求項4】
前記有機膜が、炭素数2以上のアルキル基を有する、アルキルアンモニウム終端シランカップリング剤、芳香族化合物、又は炭素数2以上の長鎖アルキル基のうちの1つ以上を含むことを特徴とする、請求項1〜3いずれか1項記載のガラス基板。
【請求項5】
10%以上のすべての相対湿度において、前記有機膜で被覆したガラス基板の表面抵抗率の対数が、16.5オーム/スクエア未満であることを特徴とする、請求項1〜4いずれか1項記載のガラス基板。
【請求項6】
20mMのKCl電極を用いて、中性pH及び室温において測定した、前記B面のゼータ電位が、−30mV〜40mVの範囲であることを特徴とする、請求項1〜5いずれか1項記載のガラス基板。
【請求項7】
前記B面の水接触角が25度より大きいことを特徴とする、請求項1〜6いずれか1項記載のガラス基板。
【請求項8】
ガラス製品を製造する方法であって、
A面及びB面を有するガラス基板を形成するステップであって、前記A面に電子素子を形成することができ、前記ガラス基板が、ボロアルミノシリケートを含み、2.45g/cm3未満の密度を有する、ステップと、
前記ガラス基板の前記B面に、実質的に均一な有機膜を形成するステップであって、前記有機膜が、接触帯電又は摩擦帯電による電圧の発生を抑制する成分を含み、かつ、前記有機膜が、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、オクタデカノール、フェニルシラン、ポリ(アリルアミン)、及びオクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリドの1つ又はそれ以上を含む、ステップと、
を備えたことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記有機膜が、湿式化学法を用いて、前記ガラス基板の前記B面を洗浄する間に形成されることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
トップゲート型薄膜トランジスタを、ボロアルミノシリケートガラス基板に直接作製する方法であって、
トランジスタを形成することができるA面、及び該A面に対向するB面を有するガラス基板を用意するステップであって、前記B面が有機膜を備えた、ステップと、
シリコン被膜をA面に直接形成するステップと、
前記シリコン被膜をパターン化して、薄膜トランジスタのベースを形成するステップと、
前記薄膜トランジスタを形成するのに必要な形成ステップを継続するステップと、
を備えたことを特徴とする方法であって、前記有機膜が、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、オクタデカノール、フェニルシラン、ポリ(アリルアミン)、及びオクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリドの1つ又はそれ以上を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記有機膜が、前記B面の親水性を実質的に低下させる有機化合物、前記ガラス基板B面の表面摩擦係数を低下させる有機化合物、及びこれ等の組み合わせから成る群より選択される化合物を含むことを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記ガラス基板の前記B面のゼータ電位が、中性pHにおいて、−30mV〜40mVの範囲であることを特徴とする、請求項10又は11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連技術の相互参照】
【0001】
本出願は、2014年8月12日出願の米国仮特許出願第62/036166号の米国特許法第119条に基づく優先権を主張するものであって、その内容に依拠し、参照により全内容が本明細書に組み込まれたものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、ディスプレイ用ガラスの静電放電を抑制するための有機表面処理に関するものである。
【背景技術】
【0003】
液晶ディスプレイの分野では、多結晶シリコン系薄膜トランジスタ(TFT)が、電子をより効率的に輸送する能力を有していることから好まれている。多結晶シリコントランジスタ(p−Si)は、アモルファスシリコン系トランジスタ(a−Si)に基づくものより、高い移動度を有することによって特徴付けられる。これによって、より小型で高速のトランジスタの製造が可能になり、究極的には、より明るく高速のディスプレイが得られる。
【0004】
フラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラスは、TFT素子が形成される機能面(A面)と非機能的な裏面(B面)の2つの面から構成されている。一般に、広い領域にわたってTFT構造を形成する上における感度の故に、高品質のA面に焦点が当てられている。注目すべきは、処理中に、B面が様々な材料(即ち、金属、プラスチック、ゴム、セラミック等)と接触し、2つの異種材料間の摩擦による摩擦帯電又は接触帯電によって、ガラスの表面に電荷が移動することである。一般に、2つの異種材料は、その固有の仕事関数値の差、又はフェルミエネルギー準位に基づいて、電荷を移動する能力に起因して、接触分離から帯電する。式1から分かるように、表面に電荷が蓄積されるほど、表面の電圧は高くなる。更に、2つの帯電した表面が分離すると、平行平板コンデンサと同様に(式2)、離間距離が大きくなるにつれ、静電容量が減少する。より小さな静電容量を式1に戻して再び接触させると、接触材料の分離によって表面電圧が上昇する。
【0005】
【数1】
【0006】
ここで、Vは表面電圧、Qは電荷、Cは静電容量である。
【0007】
【数2】
【0008】
ここで、Aは表面積、εは誘電率、dは離間距離である。
ガラスの接触分離は、TFT−LCDの製造において不可避であるため、ガラス表面の総電荷蓄積量を抑制する方法が必要である。
【0009】
ゲート及び/又はラインの損傷等、静電放電(ESD)に関わる問題が報告されている。摩擦帯電を少なくする見込みがある表面属性として、B面の表面粗さを大きくすることが提案されている。その結果、ESD関連の性能を改善するために、B面を改質するための新しい技術が開発されている。ガラスシートの大型化及び薄型化が進むにつれ、より高い電荷が生成される可能性が高まっている。更に、超薄型(<0.3mm)ガラスのロールツーロール製造が、静電荷生成に関する大きな課題を提起している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、当技術分野において、表面の総電荷量を抑制したガラス及びガラスの製造方法の必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様は、シリコン薄膜トランジスタ素子を形成することができるA面、及び実質的に均一な有機膜を有するB面を備えた、ディスプレイ用ガラス基板に関するものである。有機膜は、接触帯電又は摩擦帯電による電圧の発生を抑制する成分を含んでいる。ディスプレイ用ガラス基板は、ボロアルミノシリケートを含み、2.45g/cm未満の密度を有している。
【0012】
本発明の別の実施の形態は、フロートプロセス、キャスティングプロセス、又はヒュージョンダウンドロープロセス又はスロットダウンドロープロセス等のダウンドロープロセスによって、ディスプレイ用ガラス基板を作製する方法に関するものである。
【0013】
本発明の更なる実施の形態は、ディスプレイ用ガラス製品を製造する方法に関するものである。A面及びB面を有するガラス基板であって、A面に電子素子を形成することができ、ボロアルミノシリケートを含み、2.45g/cm未満の密度を有するガラス基板が形成される。実質的に均一な有機膜がガラス基板のB面に形成される。有機膜は接触帯電又は摩擦帯電による電圧の発生を抑制する成分を含んでいる。
【0014】
本発明の更なる実施の形態は、トップゲート型薄膜トランジスタを、ボロアルミノシリケートガラス基板に直接作製する方法に関するものである。トランジスタを形成することができるA面、及びA面に対向するB面であって、有機膜を備えたB面を有するガラスが用意される。シリコン被膜がA面に直接形成される。シリコン被膜がパターン化されて、薄膜トランジスタのベースが形成される。薄膜トランジスタを形成するのに必要な形成ステップが継続される。
【0015】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付図面は、以下に説明する幾つかの態様を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の1つ以上の実施の形態による、有機膜で被覆したガラス基板の法線力を関数とした摩擦係数のグラフ。
図2】本開示の1つ以上の実施の形態による、異なる温度で用意されたサンプルの法線力を関数とした摩擦係数のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の実施の形態は、任意の一般的な製造プロセス(例えば、フュージョン、フロート、スロットドロー、ダウンドロー等)によって形成された、任意の大きさ又は厚さを有するガラスシートの、B面の表面を有機化学物質で処理する方法に関するものである。このB面のガラス表面処理は、A面の優れた表面性能の属性に殆ど影響を及ぼさない。本開示の実施の形態によるB面のガラス表面の処理によって、接触搬送、ハンドリング及び分離の間の静電帯電事象を減少させることに加え、材料間の摩擦係数を下げて耐摩耗性を延ばすことによって、顧客の搬送装置の寿命を向上させる。TFTバックプレーン基板に使用される、フラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラスのB面の静電帯電が、静電放電(ESD)による絶縁破壊、及び/又は表面を汚染する粒子の誘引を介したゲートの損傷等、A面に問題を起こす可能性があり、ひいてはTFT−LCDの製造プロセスにおける歩留まり低下の原因になる。
【0018】
ESDを抑制するために開発された1つの技術は、B面を酸エッチングして、ガラス表面の粗さを大きくすることによって、顧客のプロセスにおいて、B面のガラスと様々な材料との接触領域を少なくすることである。この目的のために、NaF、HPO、及び水の混合物を含む特定の酸性化学物質が開発されている。フラットパネルディスプレイ用ガラスのB面をこの混合物で処理すると、平均の表面粗さRが、約0.2nm(フュージョンドロー成形されたままのガラス)から1.0nm以上に増大することが実証されている。また、一部のガラスは、処理中に、他のガラスよりも遥かに速く粗くなり、より高いR値を達成することも実証されている。特定の動作理論に束縛されるものではないが、これは、バルク及び表面のガラス組成の違いによるものであると考えられる。NaF/HPO化学物質を用いたエッチングは、ガラスの表面を粗くするだけでなく、表面の化学組成を改質する(例えば、Si/Al原子比を増大する)。表面の化学物質は、静電帯電挙動に影響を及ぼす可能性がある表面抵抗率、又はその他の電子特性を規定する上において、更なる役割を果たす。
【0019】
本開示の実施の形態は、ガラスと、ハンドリング及び処理中に接触する他の材料との摩擦係数を低下させるために、B面のガラス表面に有機膜を堆積することを含む方法に関するものである。加えて、有機表面処理は、静電荷を消散させ、それによって摩擦帯電及び静電放電事象を最小限に抑制又は排除することができる。有機表面処理によって、特に中性又は基本環境下において、ガラス表面のアニオン性(負に帯電する特性)、(例えば、ゼータ電位)を中和することもできる。一部のカチオン性を有する有機物は、電荷の中和において、更に効果的であり得るが、ガラス表面に正の電荷を与える可能性がある。この処理は、当技術分野で一般的な様々な適用方法(例えば、液体、蒸気等)によって、任意の形状の任意のガラス組成に適用することができる。
【0020】
本開示の一部の実施の形態は、酸エッチング、又は他のかかる表面の改質を介した表面粗面化によって、現在達成されるものより、更に効果的に静電帯電を抑制する表面処理を提供する。本開示の1つ以上の実施の形態は、大きなガラスシートの「A」面に影響を与えることなく、「B」面に堆積させることができる。一部の実施の形態において、有機物による表面処理は、ガラスシートに適用するための処理時間が短いため、酸エッチングよりも安価である。
【0021】
本開示の一部の態様によれば、シリコン薄膜トランジスタ素子を形成することができるA面、及び実質的に均一な有機膜を有するB面を有する構成を備えた、ディスプレイ用ガラス基板が記載されている。有機膜は、接触帯電又は摩擦帯電による電圧の発生を抑制する成分を含んでいる。本開示及び添付の特許請求の範囲において、「実質的に均一」という用語は、被覆が施された領域と被覆が施されていない領域との離散した領域がなく、表面全体にわたる分子の分布がランダムであることを意味する。
【0022】
本開示の更なる態様は、ディスプレイ用ガラス製品を製造する方法に関するものである。A面及びB面を有するガラス基板が用意される。ガラスのA面は、電子素子を形成することができる好適な表面を有している。実質的に均一な有機膜が、ガラス基板のB面に形成される。有機膜は接触帯電又は摩擦帯電による電圧の発生を抑制する成分を含んでいる。
【0023】
本開示の更なる態様は、トップゲート型薄膜トランジスタを、ガラス基板に直接形成する方法に関するものである。トランジスタを形成することができるA面、及びA面に対向するB面を有するガラスが用意される。B面は有機膜を備えている。シリコン被膜がA面に直接形成される。シリコン被膜がパターン化されて、薄膜トランジスタのベースが形成される。薄膜トランジスタを形成するのに必要な形成ステップが継続される。
【0024】
表示用ガラス基板は、様々な組成を有することができると共に、異なる方法で形成することができる。好適な形成プロセスには、フロートプロセス、及びスロットドロープロセス、フュージョンドロープロセス等のダウンドロープロセスが含まれるが、これに限定されるものではない。例えば、米国特許第3,338,696号及び第3,682,609号明細書を参照されたい。スロットドロー及びフュージョンドロープロセスにおいて、新たに成形されたガラスシートが垂直方向に配向される。コーニング社が製造する1つのガラス基板である、Lotus(商標)は、熱膨張係数が小さく、比較的高い処理温度において寸法安定性及び作業性に優れている。Lotusガラスは、ガラス中にアルカリ成分を殆ど含んでいない。
【0025】
好適なガラスのディスプレイ用基板は、コーニング社が製造した高性能ガラス基板を有している。ガラス基板は、フラットパネルディスプレイの製造向けに特に設計され、2.45g/cm未満の密度、及び約200,000ポアズ、約400,000ポアズ、約600,000ポアズ、又は約800,000ポアズを超える液相粘度(液相温度におけるガラスの粘度として定義される)を示す。加えて、好適なガラス基板は、0〜300℃の温度範囲にわたり、28〜35×10−7/℃又は28〜35×10−7/℃の実質的に線形の熱膨張係数、及び650℃より高い歪点を示す。本明細書及び添付の特許請求の範囲において、「実質的に線形」という用語は、指定された範囲にわたるデータ点の線形回帰が、約0.9以上、約0.95以上、約0.98以上、約0.99以上、又は約0.995以上の決定係数を有することを意味する。好適なガラス基板は、1700℃未満の溶融温度を有するものを含んでいる。更に、好適なガラス基板は、1パートのHF(50重量%)と10パートのNHF(40重量%)の溶液に30℃で5分間浸漬した後、0.5mg/cm未満の重量損失を示す。
【0026】
記載されたプロセスの1つの実施の形態において、ガラス基板は、ガラスの主成分がSiO、Al、B、及び少なくとも2つのアルカリ土類酸化物である組成を有している。好適なアルカリ土類酸化物には、MgO、BaO、及びCaOが含まれるが、これに限定されるものではない。フラットパネルディスプレイ用ガラス、例えば、アクティブマトリックス液晶ディスプレイパネル(AMLCD)に適した密度及び化学的耐久性をガラスに付与すると共に、以下でより詳細に説明する、ダウンドロープロセス(例えば、フュージョンプロセス)によるガラスの成形を可能にするための液相温度(液相粘度)を有するようにするために、SiOが基本的なガラス形成剤として機能する。好適なガラス基板は、約2.45グラム/cm、又は約2.41グラム/cmの密度、並びに研磨したサンプルを5%のHCl溶液に95℃で24時間晒したとき、約0.8ミリグラム/cm以下の重量損失、及び1容積の50重量%のHF及び10容積の40重量%NHFの溶液に30℃で5分間晒したとき、1.5ミリグラム/cm未満の重量損失を有している。
【0027】
本開示の実施の形態の使用に好適なガラスは、従来の大量の溶融技術、例えば、耐火溶融装置において、ジュール溶融を使用して、バッチ材料を溶融できるようにするために、約71モルパーセント以下のSiO濃度を有している。詳細な実施の形態において、SiO濃度は、約66.0〜約70.5モルパーセントの範囲、約66.5〜約70.0モルパーセントの範囲、又は約67.0〜約69.5モルパーセントの範囲である。SiO濃度の結果、好適なガラスは、概して、約1600℃以上の融解温度を有している。
【0028】
酸化アルミニウム(Al)が、本開示の実施の形態に好適に使用される、もう1つのガラス形成剤である。特定の動作理論に束縛されるものではないが、約9.0モルパーセント以上のAlの濃度が、低い液相温度及び対応する高い液相粘度を有するガラスをもたらすと考えられる。少なくとも約9.0モルパーセントのAlを使用することによって、ガラスの歪点及び弾性率も改善される。詳細な実施の形態において、Alの濃度は、約9.5〜約11.5モルパーセントの範囲である。
【0029】
酸化ホウ素(B)は、ガラス形成剤であると同時に、融解を助け、融解温度を低下させる融剤でもある。これ等の効果を得るために、本開示の実施の形態に使用されるガラスは、約7.0モルパーセント以上のBの濃度を有している。しかし、大量のBは、歪点(7.0モルパーセントを超えるBの各モルパーセントの増加につき、約10℃)、弾性率、及び化学耐性の低下につながる。
【0030】
好適なガラス基板は、約650℃以上、約655℃以上、又は約660℃以上の歪点、10.0×10psi(約68.95×10パスカル)以上のヤング率、及びガラスのSiOの含有量の説明に関連して上述した化学耐性を有している。特定の動作理論に束縛されるものではないが、高い歪点が、ガラス製造後の熱処理における、圧縮/収縮に起因するパネルの歪みの防止に役立つと考えられる。特定の動作理論に束縛されるものではないが、高いヤング率が、大きなガラスシートが輸送及びハンドリング中に示す垂れ下がり量を減少させると考えられる。
【0031】
ガラス形成剤(SiO、Al、及びB)に加えて、好適なガラス基板は、少なくとも2つのアルカリ土類酸化物、例えば、少なくともMgO及びCaO、並びに、任意として、SrO及び/又はBaOを含むこともできる。特定の動作理論に束縛されるものではないが、アルカリ土類酸化物が、溶融、清澄、成形、及び最終的な使用にとって、重要な種々の特性をガラスに与えると考えられる。一部の実施の形態において、MgOの濃度は約1.0モルパーセント以上である。詳細な実施の形態において、MgOの濃度は約1.6〜約2.6モルパーセントの範囲である。
【0032】
アルカリ土類酸化物のうち、ガラス基板の一部の実施の形態のCaOの濃度が最も高い。特定の動作理論に束縛されるものではないが、CaOによって、フラットパネル用途、具体的には、AMLCD用途にとって、最も望ましい範囲の低い液相温度(高い液相粘度)、高い歪み点及び弾性率、並びに熱膨張係数(CTE)が得られると考えられる。また、CaOは化学耐性に対し有利に働くと考えられると共に、他のアルカリ土類酸化物と比較して、バッチ材料として比較的安価である。従って、一部の実施の形態において、CaOの濃度は、約6.0モルパーセント以上である。特定の実施の形態において、ディスプレイ用ガラスのCaOの濃度は、約11.5モルパーセント以下、又は約6.5〜約10.5モルパーセントの範囲である。
【0033】
このプロセスに記述されたガラス基板は、当技術分野で積層ガラスと呼ばれるものであってよい。1つの態様において、ディスプレイ用ガラス基板は、ガラスコアの少なくとも1つの露出面に、ガラス膜をフュージョンドローすることによって製造される。概して、ガラス膜は、650℃以上の歪み点を有することになる。一部の実施の形態において、膜ガラス組成は670℃以上、690℃以上、710℃以上、730℃以上、750℃以上、770℃以上、又は790℃以上の歪み点を有している。開示した組成の歪み点は、公知の技術を用いて当業者によって測定することができる。例えば、歪み点はASTM法C336を用いて測定することができる。
【0034】
一部の実施の形態において、フュージョンプロセスによって、ガラスコアの露出面にガラス膜を適用することができる。好適なフュージョンプロセスの例が、参照により全内容が本明細書に組み込まれたもとする、米国特許第4,216,886号明細書に開示されている。フュージョンガラス基板形成プロセスは、以下のように要約することができる。組成が異なる少なくとも2つのガラス(例えば、ベース又はコアガラスシートと膜)が別々に溶融される。次に、ガラスの各々が、適切な送出システムを通して、それぞれのオーバーフロー分配器に送出される。分配器は、それぞれが分配器の上端部を越えて少なくとも1つの側部を流れて、分配器の片側又は両側に、適切な厚さの均一な流れの層が形成されるように、一方が他方の上に取り付けられる。下側分配器をオーバーフローした溶融ガラスは、分配器の壁に沿って下方に流れ、下側分配器の集束外面の近傍において、初期ガラス流層を形成する。同様に、上側分配器をオーバーフローした溶融ガラスは、上側分配器の壁上を下方に流れ、初期ガラス流層の外面上を流れる。2つの分配器からの2つの個々のガラス層が1つに集められ、下側分配器の集束表面が合流する位置に形成された、引き出し線において融合され、連続して積層された1つのガラスのリボンが形成される。2枚から成るガラス積層体の中心ガラスは、コアガラスと呼ばれる一方、コアガラスの外面に配置されたガラスは、膜ガラスと呼ばれる。膜ガラスは、コアガラスの各々の表面に配置することも、コアガラスの1つの側に配置された1つの膜ガラス層のみとすることもできる。1つのみの膜ガラスが、コアに直接融合される場合、膜はコアに「隣接」している。
【0035】
オーバーフロー分配器プロセスは、それによって形成されたガラスリボンに火炎研磨された表面をもたらし、制御された分配器によって形成されたガラスリボン、及びそこから切断されたガラスシートの均一に分布する厚さによって、ガラスシートに優れた光学的品質がもたらされる。ディスプレイ用ガラス基板として用いられるガラスシートは、100マイクロメートル(μm)から約0.7μmの範囲の厚さを有することができるが、本明細書に記載の方法の恩恵を受けることができる他のガラスシートは、約10μm〜約5mmの範囲の厚さを有することができる。本明細書に記載の方法に用いることができる別のフュージョンプロセスは、参照により全内容が本明細書に組み込まれたもとする、米国特許第3,338,696号明細書、第3,682,609号明細書、第4,102,664号明細書、第4,880,453号明細書、及び米国特許出願公開第2005/0001201号明細書に記載されている。フュージョン製造プロセスは、優れた厚さ制御を有する平坦なガラス、並びに清浄無垢な表面品質及びスケーラビリティを有するガラス含む、ディスプレイ産業に利益をもたらす。液晶ディスプレイ(LCD)テレビ用パネルの製造において、平坦性からの如何なる偏差も、視覚的歪みをもたらす可能性があるため、ガラス基板の平坦性が重要であり得る。
【0036】
一部の実施の形態において、ガラス基板は、640℃以上の歪み点、約31×10−7/℃〜約57×10−7/℃の範囲のCTE、名目上アルカリ金属酸化物を含まない、約95℃の5重量%のHCl水溶液に24時間浸漬した後、20mg/cm未満の重量減少を有することになり、酸化物ベースの重量パーセントで算出した組成であって、約49〜67%のSiO、少なくとも約6%のAl、SiO+Al>68%、約0%〜約15%のB、示された調製物において、約0〜21%のBaO、約0〜15%のSrO、約0〜18%のCaO、約0〜8%のMgO、及び約12〜30%のBaO+CaO+SrO+MgOから成る群より選択される、少なくとも1種のアルカリ土類金属酸化物を含む組成を有している。
【0037】
ディスプレイ用ガラスのB面に形成される有機膜は、任意の適切な有機膜であってよい。本明細書及び添付の特許請求の範囲において、「形成される」、「堆積される」等の用語は、有機膜の形成に関し交換可能に使用される。有機膜は、(1)B面の親水性を実質的に低下させる有機化合物、(2)プロトン化可能なアミン基又は他のカチオン基を含む有機化合物、(3)ディスプレイ用ガラス基板のB面の表面摩擦係数を低下させる有機化合物、(4)表面電子移動度を向上させるオルガノシランを含む有機化合物、及び(5)(1)〜(4)の特性の任意の組み合わせを示す有機膜から成る群より選択される化合物を含んでいる。
【0038】
一部の実施の形態において、有機膜は少なくとも2個の炭素を有する長鎖アルキル基である。長鎖アルキル基は、ガラス表面上に膜を形成することができる任意の元素で終結することも、任意の適切な官能基で終結することもできる。膜は、化学吸着を含み、これに限定されない、任意の適切な化学的又は物理的反応によって形成することができる。一部の実施の形態において、アルキル基は、炭素数が、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20以上である。1つ以上の実施の形態において、アルキル基は、炭素数が約2〜約34、約4〜約32、約6〜約30、約8〜約28、約10〜約26、約12〜約24、約14〜約22、又は約16〜約20の範囲である。一部の実施の形態において、有機膜は有機ポリマーを含んでいる。
【0039】
1つ以上の実施の形態において、有機膜はアミンを含んでいる。アミンは、アルカン、アルケン、アルキン、又はアリール成分を終結する官能基であり得る。アミンは、カップリング剤として作用する(即ち、ガラス表面に対する結合サイトに配置される)か、結合サイトから分子の反対側の末端に存在し得る。一部の実施の形態において、有機膜はシランカップリング剤を含んでいる。シランは、例えば、アルキル鎖、アルキルアンモニウム末端鎖、又は芳香族末端鎖によって終結することができる。一部の実施の形態において、有機膜は可動電子を提供する芳香環を含んでいる。好適な芳香環には、フェニル環が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0040】
詳細な実施の形態において、有機膜は、炭素数2以上のアルキル基を有する、アルキルアンモニウム終端シランカップリング剤、芳香族化合物、又は炭素数2以上の長鎖アルキル基のうちの1つ以上を含んでいる。
【0041】
好適な有機膜には、ガンマ−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(GAPS)、オクタデカノール、フェニルシラン、ポリ(アリルアミン)、及びオクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリドが含まれるが、これに限定されるものではない。
【0042】
有機膜は湿式化学法、物理蒸着、及び化学蒸着を含みこれに限定されない、任意の適切な方法を用いて、ガラスのB面に堆積することができる。一部の実施の形態において、有機膜は、水性洗浄プロセスの間に、表面に堆積される。有機膜を堆積する水性洗浄プロセスは、ガラスを用意するステップに組み込むことも、既存の洗浄ステップに取って代わることもできる。一部の実施の形態において、有機膜は、化学蒸着(CVD)又はプラズマ蒸着(PVD)の1つ以上のプロセスにおいて、ガラスのB面に堆積される。
【0043】
一部の実施の形態によれば、有機膜を施したディスプレイ用ガラスは、機能特性の変化を示す。有機膜によって変えることができる特性には、表面抵抗率、ゼータ電位、摩擦係数、及び水接触角が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0044】
無処理のディスプレイ用ガラス(無アルカリ)は、概して、10−17〜10−18オーム/スクウェアの範囲の表面抵抗率を有している。一部の実施の形態において、有機膜を施したガラスの表面抵抗率の対数は、約17.5オーム/スクエア以下、約17オーム/スクエア以下、約16.5オーム/スクエア以下、約16オーム/スクエア以下、約15.5オーム/スクエア以下、約15オーム/スクエア以下、約14.5オーム/スクエア以下、約14オーム/スクエア以下、又は約13.5オーム/スクエア以下である。表面抵抗率の値は、すべて、約10%以上のすべての相対湿度において測定したものである。一部の実施の形態において、被覆を施してない(即ち、無処理の)ガラスと比較して、有機膜は、表面抵抗率を少なくとも約1桁、少なくとも約0.9桁、少なくとも約0.8桁、少なくとも約0.7桁、又は少なくとも約0.6桁低下させる。
【0045】
ディスプレイ用ガラスは、概して、広いpH範囲にわたって、アニオン性(負に帯電)であり、中性〜基本的なpH範囲において、(電解液中で、ガラスプレートの流動電位を測定して決定した)ゼータ電位は、約−80〜−120ミリボルト(mV)である。本開示の実施形態による有機表面処理は、一般に、ガラス表面のゼータ電位を低下させ、アニオン性を低くする。一部の実施の形態において、ゼータ電位は、中性pHにおいて、約0mVに低下、又は僅かに正(約+40mVまで)にもなる。1つ以上の実施の形態において、20mMのKCl電極を用いて、中性pH及び室温において測定した、有機被覆ガラスB面のゼータ電位は、約−30mV〜約40mVの範囲である。一部の実施の形態において、同じ条件で測定したB面のゼータ電位は、約−20mV〜約30mV、約−15mV〜約25mV、約−10mV〜約20mV、約−5mV〜約15mV、約−5mV〜約10mV、又は約−5mV〜約5mV若しくは約0mVの範囲であって、ゼータ電位は、中性pH及び室温において、20mMのKCl電極で測定したものである。
【0046】
一部の実施の形態において、サファイアボールを用いて、25nN及び室温で測定した、有機膜を施したB面の摩擦係数は、有機膜を施してない同等のガラスより、少なくとも約20%、15%、10%又は5%低い。1つ以上の実施の形態において、サファイアボールを用いて、25ナノニュートン(nN)の法線力及び室温で測定した、有機膜を施したガラスの摩擦係数は、約0.35、0.3、0.25、又は0.2未満である。一部の実施の形態において、サファイアボールを用いて、50nN及び室温で測定した、有機膜を施したガラスの摩擦係数は、約0.3、0.25、又は0.15未満である。一部の実施の形態において、サファイアボールを用いて、100nN及び室温で測定した、有機膜を施したガラスの摩擦係数は、約0.25、0.20、0.15、又は0.1未満である。
【0047】
一部の実施の形態において、ディスプレイ用ガラスの有機被覆を施したB面は、約20度以上、約25度以上、又は約30度以上の水接触角を有している。
【実施例】
【0048】
以下の実施例は、例示的な実施の形態を説明するために、以下に記載されているものである。これ等の実施例は、本明細書に開示の主題の実施の形態をすべて包含するのではなく、代表的な方法及び結果を示すことを意図したものである。これらの実施例は、当業者には明らかである、均等物及び変形を排除することを意図したものではない。
【0049】
数値(例えば、量、温度等)に関する正確性を保証するための努力がなされているが、多少の誤差及び偏差は考慮願いたい。別に指示のない限り、温度は℃で示す周囲温度であり、圧力は大気圧又はそれに近い圧力である。組成そのものは、酸化物を基準とした重量パーセントで与えられ、100%に正規化されている。記載のプロセスから得られる生成物の純度及び歩留まりを最適化するために使用され得る成分濃度、温度、圧力、並びに他の反応範囲及び条件等の反応条件には、多数の変形及び組み合わせが存在する。妥当で慣例的な実験のみを必要として、このようなプロセスの条件が最適化されている。
【0050】
有機材料の堆積によるディスプレイ用ガラス表面の化学特性の改質によって、接触分離中の静電帯電を有意に減少させることが実証された。これ等の実施例において、230mm×180mm×0.5mmのLotusガラスに有機表面処理を施した。
【0051】
オクタデカノール、C18Y−SAM(オクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド)、ポリアリルアミン、GAPS(ガンマ−3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、及びフェニルシランの有機表面処理について調査した。4%のSemiClean KGアルカリ性洗剤を用いて、すべてのガラス片を同じ日に洗浄機で洗浄した。有機材料処理の間を除き、すべてのガラス片を、一方向流HEPAフィルター下のクリーンルーム(粒子及び分子を濾過)に常時保管した。接触分離による静電帯電測定において、次の被覆を試験する前に、ステンレス鋼の真空テーブルをHPLCグレードのIPAで洗浄した後、HPLCグレードの脱イオン水で洗浄し、1時間馴染ませて、前の試験からの在留有機物をすべて除去した。洗浄の説明を表1に示す。浴槽の温度は、洗浄機においてすべて華氏160°F(約71℃)であった。
【0052】
【表1】
【0053】
比較例A−ガラス
形成されたままの清浄なガラス片を対照として使用した。
【0054】
比較例B−希釈洗浄ガラス
比較例Aのガラス片をフッ化ナトリウム(NaF)及びリン酸(HPO)の希釈溶液で洗浄した。洗浄後、ガラスシートをクリーンルームに戻し、試験前に少なくとも12時間馴染ませた。
【0055】
サンプルA−ガンマ−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(GAPS又はAPTES)
GAPSの1%溶液を、予め酢酸でpH4.0に酸性化した水中で調製した。この酸性溶液を30分間撹拌して、シランを完全に加水分解した。この溶液をポリプロピレンのトレイに注ぎ、予め洗浄したガラスシートを15秒間浸漬した。次に、処理したガラスシートを大量の脱イオン水で濯いで、余分な有機材料をすべて除去し、最後に100℃のオーブンで3時間乾燥させた。次に、処理したGLASSシートをクリーンルームに戻して、試験前に少なくとも12時間馴染ませた。
【0056】
サンプルB−オクタデカノール
薬グレードのオクタデカノールペレットをペトリ(登録商標)皿の中に置き、90℃に加熱した。オクタデカノールペレットが融解して所望の温度に達した後、予め洗浄したガラスシートを「ペトリ」皿の上に10秒間載置して、B面のみを処理した。処理後、ガラスシートをクリーンルームに戻して、試験前に少なくとも12時間コンディショニングした。
【0057】
サンプルC−フェニルシラン
フェニルシランの1%溶液をトルエン中で調製した。この溶液をポリプロピレントレイ上に注ぎ、予め洗浄したガラスシートを15秒間浸漬した。次に、処理したシートを空気乾燥させ、次いでクリーンルームに戻して、試験前に少なくとも12時間馴染ませた。
【0058】
サンプルD−ポリアリルアミン
試薬グレードのポリ(アリルアミン塩酸塩)を1重量%の濃度で水に溶解し、30分間撹拌した。予め洗浄したガラスシートをスピンコーターに入れ、ポリ(アリルアミン)溶液をB面の全面が完全に覆われるまで添加した。スピンコーターを1000rpm、1rpm/秒の傾斜、及びスピン時間を60秒に設定した。次いで、処理を施したガラスシートをクリーンルームに戻して、試験前に少なくとも12時間馴染ませた。
【0059】
サンプルE−C18YSAM
オクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド(C18YSAM)の1%溶液を、予め酢酸でpH4.0に酸性化した水中で調製した。酸性溶液を30分間撹拌して、シランを完全に加水分解した。この溶液をポリプロピレンのトレイに注ぎ、予め洗浄したガラスシートを15秒間浸漬した。次に、処理したガラスシートを大量の脱イオン水で濯いで、余分な有機材料をすべて除去し、続いてNガスで吹き付け乾燥した。次いで、処理を施したガラスシートをクリーンルームに戻して、試験前に少なくとも12時間馴染ませた。
【0060】
試験方法
複数の真空ポートを備えたステンレス鋼テーブルと接触分離帯電を反復する能力を備えたリフトテスター − 多くのTFTデバイス製造業者が装置のシミュレーションに使用する装置−を試験に使用した。一連の電界計プローブによって、帯電した表面に由来する電界線が測定され、それが表面電圧として伝達される。リフトテスターは、湿度制御及び分子HEPAフィルターを備えたクリーンルームに収容されている。
【0061】
ステンレス鋼の真空テーブルからガラスシートを接触分離させることによって、有機材料で様々な表面処理を施したガラス表面、及び処理を施していないガラス表面の電圧の発生を測定した。形成されたままのガラスサンプル(比較例A)及び洗浄されたガラスサンプル(比較例B)について、接触分離中の電圧発生を測定し、サンプルA〜Eの電圧発生と比較した。サンプルは相対湿度13%の室温で試験した。この試験結果を表2に示す。形成されたままの無処理のガラス表面に対する、各々の有機表面処理の%電圧低下がプロットしてある。
【0062】
【表2】
【0063】
相対湿度を関数として、形成されたままの/無処理のガラス表面、及びC18YSAMで処理したガラス表面(サンプルE)の表面抵抗率を測定した。試験するガラス表面に適用される、実験室で準備した焼成金同心リング電極を使用して、試験環境の相対湿度の増加を関数として、表面抵抗率の測定を実施した。何れのガラス表面の表面抵抗率も相対湿度の増加と共に減少したが、Y−SAMで処理した表面は、無処理のガラス表面より、1〜2桁高い導電性を示した。結果が表3にまとめてある。
【0064】
【表3】
【0065】
各サンプルについて、水接触角を測定した。接触角の結果が表4にまとめてある。延伸されたままのガラスと比較して、有機表面被覆によって水接触角が大きくなることが分かる。
【0066】
【表4】
【0067】
無処理及びC18YSAMで表面処理した(サンプルE)ガラスサンプルについて、摩擦係数を測定した。直径0.25インチ(約6.35mm)のナイロンボールを用いてサンプルを試験した。図1は、法線力(N)を関数とした摩擦係数のグラフである。処理を施した表面は、処理を施していない表面より、低い摩擦係数を有していることが分かる。
【0068】
オクタデカノールで表面処理を施したガラス及び表面処理を施していないガラスの摩擦係数も測定した。70℃〜100℃の温度の蒸気から、10秒間、オクタデカノールをガラスの表面に蒸着した。サファイアボールに25nN〜150nNの範囲の力を加えて、表面を横断してドラッグした。図2はこれ等の試験の結果を示している。各々のサンプルの摩擦係数は無処理のガラス表面の摩擦係数より低い。
【0069】
様々な他の有機分子又は有機材料の組み合わせによるガラス表面の処理によって、静電帯電と同様の改善がもたらされることが想定される。ガラス表面の親水性を実質的に低下させる、又はプロトン化され得るアミン基(又は他のカチオン種)を含む任意の有機材料は、接触分離における電圧の発生を抑制することが期待される。加えて、ガラス表面の摩擦係数を実質的に低下させる任意の有機材料は、ガラスシートを他の材料と摺動させる間における摩擦帯電を抑制すると予想される。
【0070】
PECVD等の方法による、フッ素化炭化水素による表面処理も、これらの有機材料がガラス表面の疎水性を高め、摩擦係数を低下させるので、静電帯電を抑制することが期待される。
【0071】
無機表面処理、特にガラス表面の抵抗率を減少させるもの(例えば、フッ素化スズ酸化物、インジウムスズ酸化物等の様々な透明導電性酸化物膜)も静電表面帯電を抑制することができる。
【0072】
本明細書に記載の材料、方法、及び製品に対して様々な改良及び変形が可能である。本明細書に記載の材料、方法、及び製品の別の態様は、本明細書を検討し、本明細書に開示の材料、方法、及び物品を実施することによって明らかになるであろう。本明細書及び実施例は、例示的なものとみなされるであろうことを意図したものである。
【0073】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0074】
実施形態1
ガラス基板であって、
シリコン薄膜トランジスタ素子を形成することができるA面、及び
実質的に均一な有機膜を有するB面であって、前記有機膜が、接触帯電又は摩擦帯電による電圧の発生を抑制する成分を含む、B面を備え、
ボロアルミノシリケートを含み、2.45g/cm未満の密度を有するガラス基板。
【0075】
実施形態2
前記有機膜が、前記B面の親水性を実質的に低下させる有機化合物、プロトン化可能なアミン基又は他のカチオン基を含む有機化合物、前記ガラス基板B面の表面摩擦係数を低下させる有機化合物、表面電子移動度を向上させるオルガノシランを含む有機化合物、及びこれ等の組み合わせから成る群より選択される化合物を含む、実施形態1記載のガラス基板。
【0076】
実施形態3
前記有機膜が、少なくとも2個の炭素を有する長鎖アルキル基、アミン、又は可動電子を提供する芳香環のうちの1つ以上を含む、実施形態1記載のガラス基板。
【0077】
実施形態4
前記有機膜が、炭素数2以上のアルキル基を有する、アルキルアンモニウム終端シランカップリング剤、芳香族化合物、又は炭素数2以上の長鎖アルキル基のうちの1つ以上を含む、実施形態1記載のガラス基板。
【0078】
実施形態5
前記アルキル基の炭素数が10より多い、実施形態4記載のガラス基板。
【0079】
実施形態6
前記アルキル基の炭素数が約16〜約20の範囲である、実施形態4記載のガラス基板。
【0080】
実施形態7
前記有機膜が、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(GAPS)、オクタデカノール、フェニルシラン、ポリ(アリルアミン)、又はオクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリドのうちの1つ以上を含む、実施形態1記載のガラス基板。
【0081】
実施形態8
約10%以上のすべての相対湿度において、表面抵抗率の対数が、約16.5オーム/スクエア未満である、実施形態1記載のガラス基板。
【0082】
実施形態9
20mMのKCl電極を用いて、中性pH及び室温において測定した、前記B面のゼータ電位が、約−30mV〜約40mVの範囲である、実施形態1記載のガラス基板。
【0083】
実施形態10
サファイアボールを用いて、25nNの法線力及び室温で測定した、前記B面の摩擦係数が、前記有機膜を備えていない同等のガラス基板より、少なくとも約10%低い、実施形態1記載のガラス基板。
【0084】
実施形態11
前記B面が約25度より大きい水接触角を有する、実施形態1記載のガラス基板。
【0085】
実施形態12
前記有機膜が、水性洗浄プロセスの間に、前記ガラスの前記B面に堆積される、実施形態1記載のガラス基板。
【0086】
実施形態13
前記有機膜が、CVD又はPVDプロセスのうちの1つ以上の間に、前記ガラスの前記B面に堆積される、実施形態1記載のガラス基板。
【0087】
実施形態14
フロートプロセス、キャスティングプロセス、又はダウンドロープロセスによって形成された、実施形態1〜13いずれか1項記載のガラス基板。
【0088】
実施形態15
ガラス製品を製造する方法であって、
A面及びB面を有するガラス基板を形成するステップであって、前記A面に電子素子を形成することができ、前記ガラス基板が、ボロアルミノシリケートを含み、2.45g/cm未満の密度を有する、ステップと、
前記ガラス基板の前記B面に、実質的の均一な有機膜を形成するステップであって、前記有機膜が、接触帯電又は摩擦帯電による電圧の発生を抑制する成分を含む、ステップと、
を備えた方法。
【0089】
実施形態16
前記有機膜が、湿式化学法を用いて、前記ガラス基板の前記B面を洗浄する間に形成される、実施形態15記載の方法。
【0090】
実施形態17
前記ガラス基板が、フロートプロセス又はダウンドロープロセスによって形成される、実施形態15記載の方法。
【0091】
実施形態18
トップゲート型薄膜トランジスタを、ボロアルミノシリケートガラス基板に直接作製する方法であって、
トランジスタを形成することができるA面、及び該A面に対向するB面を有するガラス基板を用意するステップであって、前記B面が有機膜を備えた、ステップと、
シリコン被膜をA面に直接形成するステップと、
前記シリコン被膜をパターン化して、薄膜トランジスタのベースを形成するステップと、
前記薄膜トランジスタを形成するのに必要な形成ステップを継続するステップと、
を備えた方法。
【0092】
実施形態19
前記有機膜が、前記B面の親水性を実質的に低下させる有機化合物、プロトン化可能なアミン基又は他のカチオン基を含む有機化合物、ディスプレイ用の前記ガラス基板B面の表面摩擦係数を低下させる有機化合物、表面電子移動度を向上させるオルガノシランを含む有機化合物、及びこれ等の組み合わせから成る群より選択される化合物を含む、実施形態18記載の方法。
【0093】
実施形態20
前記有機膜が、少なくとも2個の炭素を有する長鎖アルキル基、アミン、又は可動電子を提供する芳香環のうちの1つ以上を含む、実施形態18記載の方法。
【0094】
実施形態21
前記有機膜が、炭素数2以上のアルキル基を有する、アルキルアンモニウム終端シランカップリング剤、芳香族化合物、又は炭素数2以上の長鎖アルキル基のうちの1つ以上を含む、実施形態18記載の方法。
【0095】
実施形態22
前記有機膜が、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(GAPS)、オクタデカノール、フェニルシラン、ポリ(アリルアミン)、又はオクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリドのうちの1つ以上を含む、実施形態18記載の方法。
【0096】
実施形態23
前記有機膜が、前記ガラス基板の表面抵抗率を少なくとも約0.8桁低下させる、実施形態18記載の方法。
【0097】
実施形態24
前記ガラス基板の前記B面が、中性pHにおいて、約−30mV〜約40mVの範囲のゼータ電位を有する、実施形態18記載の方法。
【0098】
実施形態25
前記ガラス基板の前記B面が、前記有機膜を備えていない同等のガラス基板より、少なくとも約10%低い摩擦係数を有する、実施形態18記載の方法。
【0099】
実施形態26
前記ガラス基板の前記B面が、約25度より大きい水接触角を有する、実施形態18記載の方法。
図1
図2