特許第6735134号(P6735134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6735134ノズル式電子線照射装置およびこれを具備する電子線滅菌設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6735134
(24)【登録日】2020年7月15日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】ノズル式電子線照射装置およびこれを具備する電子線滅菌設備
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/04 20060101AFI20200728BHJP
   G21K 5/10 20060101ALI20200728BHJP
   B65B 55/04 20060101ALI20200728BHJP
   B65B 55/08 20060101ALI20200728BHJP
   A61L 2/08 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   G21K5/04 E
   G21K5/10 T
   B65B55/04 C
   B65B55/04 K
   B65B55/08 B
   A61L2/08 108
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-82553(P2016-82553)
(22)【出願日】2016年4月18日
(65)【公開番号】特開2017-194272(P2017-194272A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2019年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 武史
(72)【発明者】
【氏名】坂井 一郎
(72)【発明者】
【氏名】大工 博之
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭47−041318(JP,B1)
【文献】 特開2008−128969(JP,A)
【文献】 特開2009−068973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/00−5/10
A61L 2/08
B65B 55/04
B65B 55/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、この真空チャンバの内部に配置された電子線発生器と、上記真空チャンバに接続されて上記電子線発生器からの電子線を案内して外部に照射する真空ノズルとを備えるノズル式電子線照射装置であって、
上記真空チャンバにおいて真空ノズルが接続されている部分から吸引し得る高真空ポンプを備えることを特徴とするノズル式電子線照射装置。
【請求項2】
高真空ポンプが、イオンポンプであり、
上記イオンポンプからの磁場を、電子線発生器からの電子線に影響させない程度にする磁場無力化手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のノズル式電子線照射装置。
【請求項3】
磁場無力化手段が、イオンポンプを覆う磁気シールドであることを特徴とする請求項2に記載のノズル式電子線照射装置。
【請求項4】
磁場無力化手段が、イオンポンプと真空チャンバとを接続するとともに当該イオンポンプを退避位置にする退避用配管であることを特徴とする請求項2に記載のノズル式電子線照射装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のノズル式電子線照射装置を外周部に配置したターンテーブルと、
上記ターンテーブルにノズル式電子線照射装置を固定したフランジとを具備し、
上記フランジが、上記ノズル式電子線照射装置の真空チャンバ、真空ノズルおよび高真空ポンプを接続するものであることを特徴とする電子線滅菌設備。
【請求項6】
高真空ポンプが、ターンテーブルの中心側に向けて配置されたものであることを特徴とする請求項5に記載の電子線滅菌設備。
【請求項7】
ターンテーブルに配置されたノズル式電子線照射装置が複数あり、
上記ノズル式電子線照射装置の高真空ポンプが、ターンテーブルの外側に向けて、且つ当該ノズル式電子線照射装置とこれに隣接するノズル式電子線照射装置との間に配置されたものであることを特徴とする請求項5に記載の電子線滅菌設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル式電子線照射装置およびこれを具備する電子線滅菌設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子線滅菌設備に具備されるノズル式電子線照射装置は、その真空ノズルから電子線を照射するので、滅菌対象物である容器などの口部から真空ノズルを差し込んで、真空ノズルの先端から電子線を容器の内面に照射することができる。すなわち、このような電子線滅菌設備では、ノズル式電子線照射装置により容器の内面を電子線の直接的な照射により滅菌するので、照射する電子線の強度が小さくて済む。このため、上記電子線滅菌設備は、容器の内面を当該容器の外部から強力な電子線の照射により滅菌する設備に比べて、電力の消費を抑えられるだけでなく、強力な電子線の照射による容器の変質を抑えられる。
【0003】
ノズル式電子線照射装置のように電子線を照射する装置では、電子線発生源からの電子線を加速するために、真空チャンバの内部を高真空ポンプなどにより高真空雰囲気にする必要がある。ここで、電子線発生源は電子線を発生させるための熱により気体も生じさせるので、高真空ポンプは電子線発生源の近くに配置される方が好ましい。従来では、高真空ポンプ(具体的にはイオンポンプ)をこのように配置した装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2854466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載されたイオンポンプの配置をノズル式電子線照射装置に適用した場合、図13に示すように、電子線発生源3からの気体aがイオンポンプ50で直ちに排出されることになる。しかしながら、ノズル式電子線照射装置の電子線Eは、案内される真空ノズル4が細長く、また地磁気など外乱による影響で進行する方向が変化しやすいので、真空ノズル4の内面に当たる場合もある。この場合、真空ノズル4の内面から気体bが生ずることになるが、この気体bの発生源である真空ノズル4からイオンポンプ50が離れているので、真空チャンバ2において真空ノズル4が接続されている部分の近傍では真空度が悪くなる。一方で、真空チャンバ2においてイオンポンプ50が接続されている部分の近傍では当然ながら真空度が良い。このため、上記ノズル式電子線照射装置では、真空チャンバ2の内部における真空度の分布が不均一になり、その結果として、適切な電子線を照射しにくいという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、真空チャンバの内部における真空度の分布を略均一にすることにより、適切な電子線を照射し得るノズル式電子線照射装置およびこれを具備する電子線滅菌設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1の発明に係るノズル式電子線照射装置は、真空チャンバと、この真空チャンバの内部に配置された電子線発生器と、上記真空チャンバに接続されて上記電子線発生器からの電子線を案内して外部に照射する真空ノズルとを備えるノズル式電子線照射装置であって、
上記真空チャンバにおいて真空ノズルが接続されている部分から吸引し得る高真空ポンプを備えるものである。
【0008】
また、第2の発明に係るノズル式電子線照射装置は、第1の発明に係るノズル式電子線照射装置における高真空ポンプが、イオンポンプであり、
上記イオンポンプからの磁場を、電子線発生器からの電子線に影響させない程度にする磁場無力化手段を備えるものである。
【0009】
さらに、第3の発明に係るノズル式電子線照射装置は、第2の発明に係るノズル式電子線照射装置における磁場無力化手段が、イオンポンプを覆う磁気シールドであるものである。
【0010】
加えて、第4の発明に係るノズル式電子線照射装置は、第2の発明に係るノズル式電子線照射装置における磁場無力化手段が、イオンポンプと真空チャンバとを接続するとともに当該イオンポンプを退避位置にする退避用配管であるものである。
【0011】
また、第5の発明に係る電子線滅菌設備は、第1乃至第4のいずれかの発明に係るノズル式電子線照射装置を外周部に配置したターンテーブルと、
上記ターンテーブルにノズル式電子線照射装置を固定したフランジとを具備し、
上記フランジが、上記ノズル式電子線照射装置の真空チャンバ、真空ノズルおよび高真空ポンプを接続するものである。
【0012】
また、第6の発明に係る電子線滅菌設備は、第5の発明に係る電子線滅菌設備における高真空ポンプが、ターンテーブルの中心側に向けて配置されたものである。
また、第7の発明に係る電子線滅菌設備は、第5の発明に係る電子線滅菌設備において、ターンテーブルに配置されたノズル式電子線照射装置が複数あり、
上記ノズル式電子線照射装置の高真空ポンプが、ターンテーブルの外側に向けて、且つ当該ノズル式電子線照射装置とこれに隣接するノズル式電子線照射装置との間に配置されたものである
【発明の効果】
【0013】
上記ノズル式電子線照射装置によると、真空チャンバおよび真空ノズルの内部における真空度の分布が略均一になることにより、適切な電子線を照射することができる。また、上記ノズル式電子線照射装置を具備する電子線滅菌設備によると、当該ノズル式電子線照射装置が構造的に安定するので、装置のひずみを原因とする電子線の損失が低減され、その結果として、適切な電子線を照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係るノズル式電子線照射装置を示す概略縦断面図である。
図2】同ノズル式電子線照射装置を具備する電子線滅菌設備の概略斜視図である。
図3】本発明の実施例に係るノズル式電子線照射装置を示す縦断面図である。
図4】同ノズル式電子線照射装置のイオンポンプ付近を拡大した一部切欠拡大縦断面図である。
図5図4のA−A断面図である。
図6】同ノズル式電子線照射装置を具備する電子線滅菌設備の斜視図である。
図7】同電子線滅菌設備の平面図である。
図8】同ノズル式電子線照射装置の他の例を示す縦断面図である。
図9】同電子線滅菌設備のさらに他の例を示す平面図である。
図10】異なる形態のノズル式電子線照射装置を示す概略縦断面図である。
図11図10のB−B断面図であり、電子線が逸れていない場合を示す。
図12図10のB−B断面図であり、電子線が逸れている場合を示す。
図13】イオンポンプの従来の配置を適用したノズル式電子線照射装置を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係るノズル式電子線照射装置およびこれを具備する電子線滅菌設備について説明する。
まず、上記ノズル式電子線照射装置について図1に基づき説明する。
【0016】
このノズル式電子線照射装置は、図1に示すように、真空チャンバ2と、この真空チャンバ2の内部に配置された電子線発生器3と、上記真空チャンバ2に接続されて上記電子線発生器3からの電子線Eを案内して外部に照射する真空ノズル4とを備える。上記ノズル式電子線照射装置1は、さらに、上記真空チャンバ2において真空ノズル4が接続されている部分の近傍から吸引し得る高真空ポンプ5を備える。
【0017】
上記真空チャンバ2は、上記高真空ポンプ5で吸引されることにより、真空ノズル4とともに内部を電子線Eの加速に適した高真空雰囲気にするものである。上記電子線発生器3は、発生させた電子線Eが真空ノズル4の基端(真空チャンバ2側)から先端(真空チャンバ2の反対側)に向けて進行するように配置される。上記真空ノズル4は、案内した電子線Eが先端から外部に照射されるように構成され、例えば電子線Eが透過し得る透過窓41を先端に有する。上記高真空ポンプ5は、上記真空チャンバ2に接続されていることから当該真空チャンバ2の内部に配置された電子線発生器3からの気体aを適切に排出するとともに、上記真空ノズル4の基端近傍に接続されていることから当該真空ノズル4からの気体bも適切に排出するものである。なお、上記高真空ポンプ5は、上記真空ノズル4の基端近傍に直接接続されていてもよいが、図1に示すように、L型配管8のような配管などを介して接続されていてもよい。
【0018】
この構成により、電子線発生器3で発生させた電子線Eが、真空チャンバ2および真空ノズル4の内部で加速され、真空ノズル4の基端から先端まで案内された後に、この先端から外部に照射される。この際に、電子線発生器3が電子線Eを発生させることにより生ずる気体aと、電子線Eが真空ノズル4の内面に当たることにより生ずる気体bとが、高真空ポンプ5により適切に排出される。なお、電子線Eが真空ノズル4の内面に当たるのは、電子線Eが地磁気など外乱による影響を受けやすく、このような電子線Eの照射窓41からの出力を安定させるために、電子線Eを真空ノズル4よりも多少(例えば約10%)大径にするからである。
【0019】
このように、上記ノズル式電子線照射装置1によると、電子線発生器3および真空ノズル4からの気体a,bが適切に排出されるので、真空チャンバ2の内部における真空度の分布が略均一になり、その結果として、適切な電子線Eを照射することができる。
【0020】
次に、上記ノズル式電子線照射装置1を具備する電子線滅菌設備について図2に基づき説明する。
この電子線滅菌設備は、図2に示すように、上記ノズル式電子線照射装置1を外周部に配置するターンテーブル6と、上記ターンテーブル6にノズル式電子線照射装置1を固定するフランジ7とを具備する。上記フランジ7は、上記ノズル式電子線照射装置1の真空チャンバ2、真空ノズル4および高真空ポンプ5を接続するものである。
【0021】
上記ターンテーブル6は、その中心61を軸にして回転することにより、外周部に配置したノズル式電子線照射装置1を円移動させるものである。これにより、当該ノズル式電子線照射装置1は、円経路Cに搬送されている滅菌対象物O(例えば容器やそのプリフォームなど)を追随しながら、当該滅菌対象物Oを電子線Eの照射により滅菌することが可能になる。これ以外にも、上記ターンテーブル6により、当該ノズル式電子線照射装置1は、静止状態(搬送されない)で円経路Cに配置された複数の滅菌対象物Oを次々に電子線Eの照射により滅菌することが可能になる。いずれにしても、上記電子線滅菌設備100は、ノズル式電子線照射装置1がターンテーブル6の外周部に配置されることにより、滅菌対象物Oを連続して滅菌するのに適する。
【0022】
この構成により、上記電子線滅菌設備100に具備されるノズル式電子線照射装置1は、ターンテーブル6の回転により遠心力を受けることになる。しかし、ターンテーブル6に固定されたフランジ7により、真空チャンバ2、真空ノズル4および高真空ポンプ5が接続されているので、ノズル式電子線照射装置1は構造的に安定する。
【0023】
このように、上記電子線滅菌設備100によると、そのノズル式電子線照射装置1が構造的に安定するので、装置のひずみを原因とする電子線Eの損失が低減され、その結果として、適切な電子線Eを照射することができる。
【実施例】
【0024】
以下、上記実施の形態をより具体的に示した実施例に係るノズル式電子線照射装置1およびこれを具備する電子線滅菌設備100について説明する。
まず、上記ノズル式電子線照射装置1について図3に基づき説明する。
【0025】
このノズル式電子線照射装置1は、図3に示すように、真空チャンバ2と、この真空チャンバ2の内部に配置された電子線発生器3と、上記真空チャンバ2に接続されて上記電子線発生器3からの電子線Eを案内して外部に照射する真空ノズル4とを備える。上記ノズル式電子線照射装置1は、さらに、上記真空チャンバ2において真空ノズル4が接続されている部分の近傍から吸引し得るイオンポンプ50(高真空ポンプ5の一例である)を備える。
【0026】
上記真空チャンバ2は、大円筒形の円筒部21と、この円筒部21から連続するとともに電子線Eの進行する方向に向けて絞られた縮径部22と、この縮径部22から連続するとともに小円筒形の接続部23とを有する。
【0027】
上記電子線発生器3は、電源が供給されることで図示しない電子発生源(例えばフィラメントやカソード)から電子線Eを発生させる電子銃31と、この電子銃31を保持するとともに真空チャンバ2の円筒部21に取り付けられた保持部32とを有する。また、上記電子線発生器3は、図示しないが、電子銃31に電源を供給する電源供給部(例えば真空チャンバ2の外部に配置される)も有する。
【0028】
上記真空ノズル4は、真空チャンバ2の接続部23に接続されている側が基端となり、この基端の反対側で電子線Eを外部に照射する側が先端となる。また、上記真空ノズル4は、この先端に電子線Eが透過し得る透過窓41を有する。
【0029】
上記イオンポンプ50には、真空チャンバ2の接続部23に接続するL型配管8と、イオンポンプ50からの磁場を電子線Eに影響させない程度にする磁気シールド9(磁気無力化手段の一例である)とが設けられている。
【0030】
上記実施の形態では、フランジ7を電子線滅菌設備100の構成部材として説明したが、ノズル式電子線照射装置1の構成部材と考えてもよい。本実施例では、フランジ7をノズル式電子線照射装置1の構成部材として説明する。このフランジ7は、ターンテーブル6などの台座に図示しない固定手段(例えばボルトおよびナット)により固定される円盤体である。このフランジ7を構成する円盤体には、その表裏面を貫通する貫通孔72と、この貫通孔72から円盤体の側面まで連通する横孔75とが形成されている。上記貫通孔72には上記真空チャンバ2の接続部23が嵌め込まれ、上記横孔75にはL型配管8の真空チャンバ2側(具体的には接続部23側)が嵌め込まれている。
【0031】
次に、上記イオンポンプ50および磁気シールド9の構成について図4および図5に基づき詳細に説明する。
上記イオンポンプ50は、図4に示すように、ポンプ本体部51と、L型配管8側に位置するマグネット部52とを有する。このマグネット部52は、図5に示すように、互いに向き合う第一磁石53および第二磁石54(いずれも永久磁石)を含む。この第一磁石53はそのN極を第二磁石54のS極に向けるものであり、上記第二磁石54はそのS極を第一磁石53のN極に向けるものである。また、上記マグネット部52は、これら永久磁石53,54の効率を高めるためのヨーク55も含む。このヨーク55は、第一磁石53を保持する第一部分56と、第二磁石54を保持する第二部分57と、これら第一部分56および第二部分57を接続する中間部分58とからなる。また、上記ヨーク55は、その中間部分58が真空チャンバ2にまたは真空ノズル4のいずれか近い方に向けて配置されることで、永久磁石53,54からの磁力線を電子線Eに到達しにくくするものでもある。このようなヨーク55の配置により、イオンポンプ50を真空チャンバ2の近くに配置しても、マグネット部52の電子線Eに対する影響は小さいまま(本発明者による実験でも示された)である。
【0032】
上記磁気シールド9は、図4に示すように、イオンポンプ50の外周囲を覆うシールド本体91と、このシールド本体91およびL型配管8の間からの磁力線の漏れを防止する密閉シールド体92とを有する。
【0033】
この構成により、図3に示すように、電子線発生器3で発生させた電子線Eが、真空チャンバ2および真空ノズル4の内部で加速され、真空ノズル4の基端から先端まで案内された後に、この先端の透過窓41から外部に照射される。この際に、電子線発生器3が電子線Eを発生させることにより生ずる気体aと、電子線Eが真空ノズル4の内面に当たることにより生ずる気体bとが、イオンポンプ50により適切に排出される。イオンポンプ50からはマグネット部52により磁場が発生するが、イオンポンプ50を覆う磁気シールド9により、この磁場は電子線発生器3からの電子線Eに影響しない。
【0034】
このように、上記ノズル式電子線照射装置1によると、電子線発生器3および真空ノズル4からの気体a,bが適切に排出されるので、真空チャンバ2の内部における真空度の分布が略均一になり、その結果として、適切な電子線Eを照射することができる。
【0035】
また、ノズル式電子線照射装置1がそのフランジ7により構造的に安定するので、装置のひずみを原因とする電子線Eの損失が低減され、その結果として、適切な電子線Eを照射することができる。
【0036】
さらに、イオンポンプ50を覆う磁気シールド9により、イオンポンプ50からの磁場が電子線発生器3からの電子線Eに影響しないので、適切な電子線Eを照射することができる。
【0037】
次に、上記ノズル式電子線照射装置1を具備する電子線滅菌設備100について図6および図7に基づき説明する。
この電子線滅菌設備100は、図6に示すように、上記ノズル式電子線照射装置1を外周部に等ピッチで多数配置したターンテーブル6を具備する。このターンテーブル6は、その中心61を軸にして回転することにより、外周部に多数配置したノズル式電子線照射装置1を円移動させるものである。
【0038】
上記電子線滅菌設備100は、いずれも図示を省略するが、滅菌対象物Oを円経路Cに搬送する搬送装置と、円経路Cに搬送されている滅菌対象物Oを昇降させる昇降装置とを具備する。この搬送装置は、上記ノズル式電子線照射装置1の円移動に同期して多数の滅菌対象物Oを当該ノズル式電子線照射装置1の下方で円経路Cに搬送するものである。上記昇降装置は、滅菌対象物Oを昇降させることによりノズル式電子線照射装置1に接近および離間させるものである。
【0039】
上記電子線滅菌設備100は、図6および図7に示すように、イオンポンプ50をターンテーブル6の中心61側に向けて配置したものである。具体的に説明すると、各ノズル式電子線照射装置1において、イオンポンプ50が真空チャンバ2よりもターンテーブル6の中心61側に位置するように配置される。
【0040】
この構成により、上記電子線滅菌設備100に具備されるノズル式電子線照射装置1は、ターンテーブル6の回転により遠心力を受けることになる。しかし、ターンテーブル6に固定されたフランジ7により、真空チャンバ2、真空ノズル4および高真空ポンプ5が接続されているので、ノズル式電子線照射装置1は構造的に安定する。また、イオンポンプ50が真空チャンバ2よりもターンテーブル6の中心61側に位置するので、各ノズル式電子線照射装置1の重心がターンテーブル6の中心61側に寄ることになる。
【0041】
このように、上記電子線滅菌設備100によると、そのノズル式電子線照射装置1が構造的に安定するので、装置のひずみを原因とする電子線Eの損失が低減され、その結果として、適切な電子線Eを照射することができる。
【0042】
また、イオンポンプ50が真空チャンバ2よりもターンテーブル6の中心61側に位置するので、設備自体をコンパクト化することができる。
さらに、各ノズル式電子線照射装置1の重心がターンテーブル6の中心61側に寄ることにより、各ノズル式電子線照射装置1に作用する遠心力が低減されるので、装置のひずみを原因とする電子線Eの損失が低減され、その結果として、適切な電子線Eを照射することができる。
【0043】
ところで、上記実施例では、磁場無力化手段として、磁気シールド9について説明したが、図8に示すように、磁気シールド9を設けるのではなく、イオンポンプ50を退避位置に配置してもよい。なお、退避位置とは、イオンポンプ50からの磁場が電子線発生器3からの電子線Eに影響しない程度の位置であり、例えば図8に示すように、イオンポンプ50が真空チャンバ2の真空ノズル4から反対側に外れる位置である。イオンポンプ50を退避位置に配置するために、L型配管8を、図8に示す縦長のもの80にしてもよく、図示しないが横長のものにしてもよい。このような退避位置のイオンポンプ50と真空チャンバ2とを接続するものが、退避用配管80である。この退避用配管80は、L型の形状に限られず、イオンポンプ50を退避位置に配置するものであれば、どのような形状でもよい。
【0044】
また、上記実施例では、ノズル式電子線照射装置1のイオンポンプ50をターンテーブル6の中心61側に向けて配置するとして説明したが、図9に示すように、当該ノズル式電子線照射装置1とこれに隣接するノズル式電子線照射装置1との間に配置されたものでもよい。これにより、イオンポンプ50のメンテナンス性を維持したまま、設備自体をコンパクト化することができる。
【0045】
さらに、上記実施例では、イオンポンプ50について説明したが、これに限られるものではなく、他の高真空ポンプ5であってもよい。なお、他の高真空ポンプ5が磁場を発生させないものであれば、ノズル式電子線照射装置1に磁気シールド9および退避用配管80は不要である。
【0046】
加えて、上記実施例で説明した構成のうち、上記実施の形態で説明した構成以外については、任意の構成であり、適宜削除および変更することが可能である。
ところで、上記実施の形態および実施例では電子線Eが真空ノズル4よりも多少(例えば約10%)大径であるとして説明したが、この構成により、真空ノズルから外部に照射する電子線の出力が安定しないという、従来の課題を解決することができる。このようなノズル式電子線照射装置は、図10に示すように、
真空チャンバ2と、この真空チャンバ2の内部に配置された電子線発生器3と、上記真空チャンバ2に接続されて上記電子線発生器3からの電子線Eを案内して外部に照射する真空ノズル4とを備えるノズル式電子線照射装置1であって、
上記電子線発生器3が、上記真空ノズル2の軸心Zに沿うとともに当該真空ノズル2の内径よりも大径の電子線Eを発生させるものであることを特徴とする。
【0047】
この特徴により、電子線Eが外乱の影響を受けても、真空ノズル4から出力される電子線Eの横断面積が変化しにくいので、真空ノズル4からの電子線Eの出力を安定させることができる。
【0048】
また、この場合、電子線Eが真空ノズル4から出力される部分41(例えば照射窓41)での仮想の径を、当該部分41での真空ノズル4の内径よりも、電子線Eが外乱により逸れ得る分dの2倍以上に大きくすることが好ましい。
【0049】
ここで、電子線Eが真空ノズル4から出力される部分41において、電子線Eが外乱により逸れていない場合を図11に示し、電子線Eが外乱により逸れている場合を図12に示す。この電子線Eが外乱により逸れ得る分dは、予め実験などにより求められ、例えば5%(2倍にすると10%)である。これら図11および図12を比較すると明らかなように、上記特徴により、電子線Eが外乱の影響を受けても、真空ノズル4から出力される電子線Eの横断面積が一定となるので、真空ノズル4からの電子線Eの出力を一層安定させることができる。
【0050】
勿論、図10図12およびその説明で示した形態には、上記実施の形態および実施例で説明した構成を部分的または全て含んでもよい。
【符号の説明】
【0051】
E 電子線
1 ノズル式電子線照射装置
2 真空チャンバ
3 電子線発生器
4 真空ノズル
5 高真空ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13