【実施例】
【0024】
以下、上記実施の形態をより具体的に示した実施例に係るノズル式電子線照射装置1およびこれを具備する電子線滅菌設備100について説明する。
まず、上記ノズル式電子線照射装置1について
図3に基づき説明する。
【0025】
このノズル式電子線照射装置1は、
図3に示すように、真空チャンバ2と、この真空チャンバ2の内部に配置された電子線発生器3と、上記真空チャンバ2に接続されて上記電子線発生器3からの電子線Eを案内して外部に照射する真空ノズル4とを備える。上記ノズル式電子線照射装置1は、さらに、上記真空チャンバ2において真空ノズル4が接続されている部分の近傍から吸引し得るイオンポンプ50(高真空ポンプ5の一例である)を備える。
【0026】
上記真空チャンバ2は、大円筒形の円筒部21と、この円筒部21から連続するとともに電子線Eの進行する方向に向けて絞られた縮径部22と、この縮径部22から連続するとともに小円筒形の接続部23とを有する。
【0027】
上記電子線発生器3は、電源が供給されることで図示しない電子発生源(例えばフィラメントやカソード)から電子線Eを発生させる電子銃31と、この電子銃31を保持するとともに真空チャンバ2の円筒部21に取り付けられた保持部32とを有する。また、上記電子線発生器3は、図示しないが、電子銃31に電源を供給する電源供給部(例えば真空チャンバ2の外部に配置される)も有する。
【0028】
上記真空ノズル4は、真空チャンバ2の接続部23に接続されている側が基端となり、この基端の反対側で電子線Eを外部に照射する側が先端となる。また、上記真空ノズル4は、この先端に電子線Eが透過し得る透過窓41を有する。
【0029】
上記イオンポンプ50には、真空チャンバ2の接続部23に接続するL型配管8と、イオンポンプ50からの磁場を電子線Eに影響させない程度にする磁気シールド9(磁気無力化手段の一例である)とが設けられている。
【0030】
上記実施の形態では、フランジ7を電子線滅菌設備100の構成部材として説明したが、ノズル式電子線照射装置1の構成部材と考えてもよい。本実施例では、フランジ7をノズル式電子線照射装置1の構成部材として説明する。このフランジ7は、ターンテーブル6などの台座に図示しない固定手段(例えばボルトおよびナット)により固定される円盤体である。このフランジ7を構成する円盤体には、その表裏面を貫通する貫通孔72と、この貫通孔72から円盤体の側面まで連通する横孔75とが形成されている。上記貫通孔72には上記真空チャンバ2の接続部23が嵌め込まれ、上記横孔75にはL型配管8の真空チャンバ2側(具体的には接続部23側)が嵌め込まれている。
【0031】
次に、上記イオンポンプ50および磁気シールド9の構成について
図4および
図5に基づき詳細に説明する。
上記イオンポンプ50は、
図4に示すように、ポンプ本体部51と、L型配管8側に位置するマグネット部52とを有する。このマグネット部52は、
図5に示すように、互いに向き合う第一磁石53および第二磁石54(いずれも永久磁石)を含む。この第一磁石53はそのN極を第二磁石54のS極に向けるものであり、上記第二磁石54はそのS極を第一磁石53のN極に向けるものである。また、上記マグネット部52は、これら永久磁石53,54の効率を高めるためのヨーク55も含む。このヨーク55は、第一磁石53を保持する第一部分56と、第二磁石54を保持する第二部分57と、これら第一部分56および第二部分57を接続する中間部分58とからなる。また、上記ヨーク55は、その中間部分58が真空チャンバ2にまたは真空ノズル4のいずれか近い方に向けて配置されることで、永久磁石53,54からの磁力線を電子線Eに到達しにくくするものでもある。このようなヨーク55の配置により、イオンポンプ50を真空チャンバ2の近くに配置しても、マグネット部52の電子線Eに対する影響は小さいまま(本発明者による実験でも示された)である。
【0032】
上記磁気シールド9は、
図4に示すように、イオンポンプ50の外周囲を覆うシールド本体91と、このシールド本体91およびL型配管8の間からの磁力線の漏れを防止する密閉シールド体92とを有する。
【0033】
この構成により、
図3に示すように、電子線発生器3で発生させた電子線Eが、真空チャンバ2および真空ノズル4の内部で加速され、真空ノズル4の基端から先端まで案内された後に、この先端の透過窓41から外部に照射される。この際に、電子線発生器3が電子線Eを発生させることにより生ずる気体aと、電子線Eが真空ノズル4の内面に当たることにより生ずる気体bとが、イオンポンプ50により適切に排出される。イオンポンプ50からはマグネット部52により磁場が発生するが、イオンポンプ50を覆う磁気シールド9により、この磁場は電子線発生器3からの電子線Eに影響しない。
【0034】
このように、上記ノズル式電子線照射装置1によると、電子線発生器3および真空ノズル4からの気体a,bが適切に排出されるので、真空チャンバ2の内部における真空度の分布が略均一になり、その結果として、適切な電子線Eを照射することができる。
【0035】
また、ノズル式電子線照射装置1がそのフランジ7により構造的に安定するので、装置のひずみを原因とする電子線Eの損失が低減され、その結果として、適切な電子線Eを照射することができる。
【0036】
さらに、イオンポンプ50を覆う磁気シールド9により、イオンポンプ50からの磁場が電子線発生器3からの電子線Eに影響しないので、適切な電子線Eを照射することができる。
【0037】
次に、上記ノズル式電子線照射装置1を具備する電子線滅菌設備100について
図6および
図7に基づき説明する。
この電子線滅菌設備100は、
図6に示すように、上記ノズル式電子線照射装置1を外周部に等ピッチで多数配置したターンテーブル6を具備する。このターンテーブル6は、その中心61を軸にして回転することにより、外周部に多数配置したノズル式電子線照射装置1を円移動させるものである。
【0038】
上記電子線滅菌設備100は、いずれも図示を省略するが、滅菌対象物Oを円経路Cに搬送する搬送装置と、円経路Cに搬送されている滅菌対象物Oを昇降させる昇降装置とを具備する。この搬送装置は、上記ノズル式電子線照射装置1の円移動に同期して多数の滅菌対象物Oを当該ノズル式電子線照射装置1の下方で円経路Cに搬送するものである。上記昇降装置は、滅菌対象物Oを昇降させることによりノズル式電子線照射装置1に接近および離間させるものである。
【0039】
上記電子線滅菌設備100は、
図6および
図7に示すように、イオンポンプ50をターンテーブル6の中心61側に向けて配置したものである。具体的に説明すると、各ノズル式電子線照射装置1において、イオンポンプ50が真空チャンバ2よりもターンテーブル6の中心61側に位置するように配置される。
【0040】
この構成により、上記電子線滅菌設備100に具備されるノズル式電子線照射装置1は、ターンテーブル6の回転により遠心力を受けることになる。しかし、ターンテーブル6に固定されたフランジ7により、真空チャンバ2、真空ノズル4および高真空ポンプ5が接続されているので、ノズル式電子線照射装置1は構造的に安定する。また、イオンポンプ50が真空チャンバ2よりもターンテーブル6の中心61側に位置するので、各ノズル式電子線照射装置1の重心がターンテーブル6の中心61側に寄ることになる。
【0041】
このように、上記電子線滅菌設備100によると、そのノズル式電子線照射装置1が構造的に安定するので、装置のひずみを原因とする電子線Eの損失が低減され、その結果として、適切な電子線Eを照射することができる。
【0042】
また、イオンポンプ50が真空チャンバ2よりもターンテーブル6の中心61側に位置するので、設備自体をコンパクト化することができる。
さらに、各ノズル式電子線照射装置1の重心がターンテーブル6の中心61側に寄ることにより、各ノズル式電子線照射装置1に作用する遠心力が低減されるので、装置のひずみを原因とする電子線Eの損失が低減され、その結果として、適切な電子線Eを照射することができる。
【0043】
ところで、上記実施例では、磁場無力化手段として、磁気シールド9について説明したが、
図8に示すように、磁気シールド9を設けるのではなく、イオンポンプ50を退避位置に配置してもよい。なお、退避位置とは、イオンポンプ50からの磁場が電子線発生器3からの電子線Eに影響しない程度の位置であり、例えば
図8に示すように、イオンポンプ50が真空チャンバ2の真空ノズル4から反対側に外れる位置である。イオンポンプ50を退避位置に配置するために、L型配管8を、
図8に示す縦長のもの80にしてもよく、図示しないが横長のものにしてもよい。このような退避位置のイオンポンプ50と真空チャンバ2とを接続するものが、退避用配管80である。この退避用配管80は、L型の形状に限られず、イオンポンプ50を退避位置に配置するものであれば、どのような形状でもよい。
【0044】
また、上記実施例では、ノズル式電子線照射装置1のイオンポンプ50をターンテーブル6の中心61側に向けて配置するとして説明したが、
図9に示すように、当該ノズル式電子線照射装置1とこれに隣接するノズル式電子線照射装置1との間に配置されたものでもよい。これにより、イオンポンプ50のメンテナンス性を維持したまま、設備自体をコンパクト化することができる。
【0045】
さらに、上記実施例では、イオンポンプ50について説明したが、これに限られるものではなく、他の高真空ポンプ5であってもよい。なお、他の高真空ポンプ5が磁場を発生させないものであれば、ノズル式電子線照射装置1に磁気シールド9および退避用配管80は不要である。
【0046】
加えて、上記実施例で説明した構成のうち、上記実施の形態で説明した構成以外については、任意の構成であり、適宜削除および変更することが可能である。
ところで、上記実施の形態および実施例では電子線Eが真空ノズル4よりも多少(例えば約10%)大径であるとして説明したが、この構成により、真空ノズルから外部に照射する電子線の出力が安定しないという、従来の課題を解決することができる。このようなノズル式電子線照射装置は、
図10に示すように、
真空チャンバ2と、この真空チャンバ2の内部に配置された電子線発生器3と、上記真空チャンバ2に接続されて上記電子線発生器3からの電子線Eを案内して外部に照射する真空ノズル4とを備えるノズル式電子線照射装置1であって、
上記電子線発生器3が、上記真空ノズル2の軸心Zに沿うとともに当該真空ノズル2の内径よりも大径の電子線Eを発生させるものであることを特徴とする。
【0047】
この特徴により、電子線Eが外乱の影響を受けても、真空ノズル4から出力される電子線Eの横断面積が変化しにくいので、真空ノズル4からの電子線Eの出力を安定させることができる。
【0048】
また、この場合、電子線Eが真空ノズル4から出力される部分41(例えば照射窓41)での仮想の径を、当該部分41での真空ノズル4の内径よりも、電子線Eが外乱により逸れ得る分dの2倍以上に大きくすることが好ましい。
【0049】
ここで、電子線Eが真空ノズル4から出力される部分41において、電子線Eが外乱により逸れていない場合を
図11に示し、電子線Eが外乱により逸れている場合を
図12に示す。この電子線Eが外乱により逸れ得る分dは、予め実験などにより求められ、例えば5%(2倍にすると10%)である。これら
図11および
図12を比較すると明らかなように、上記特徴により、電子線Eが外乱の影響を受けても、真空ノズル4から出力される電子線Eの横断面積が一定となるので、真空ノズル4からの電子線Eの出力を一層安定させることができる。
【0050】
勿論、
図10〜
図12およびその説明で示した形態には、上記実施の形態および実施例で説明した構成を部分的または全て含んでもよい。