特許第6735162号(P6735162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6735162-含浸型陰極構体 図000002
  • 特許6735162-含浸型陰極構体 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6735162
(24)【登録日】2020年7月15日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】含浸型陰極構体
(51)【国際特許分類】
   H01J 1/28 20060101AFI20200728BHJP
   H01J 1/22 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   H01J1/28
   H01J1/22
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-123268(P2016-123268)
(22)【出願日】2016年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-228407(P2017-228407A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(72)【発明者】
【氏名】原 昭人
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−214324(JP,A)
【文献】 特開2016−058348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子放射物質が含浸され、電子放出面を有する陰極基体と、
前記陰極基体の前記電子放出面とは反対側の面に設けられた外筒と、
前記外筒の内側に設けられた内筒と、
前記内筒の前記陰極基体側とは反対側の端部の外壁、または、前記外筒の前記陰極基体側とは反対側の端部の内壁に設けられ、環状を呈し、切欠き部を有する支持体と、
前記切欠き部の内部に設けられ、らせん状に巻かれた線状部材からなるコイルと、
前記内筒の前記外壁と前記外筒の前記内壁との間に設けられ、一方の端部が前記コイルの内部に設けられたヒータと、
を備え
前記切欠き部の内部において、前記支持体と前記コイル、および、前記ヒータと前記コイルが溶融固着している含浸型陰極構体。
【請求項2】
前記コイルの前記線状部材の断面寸法は、前記ヒータの前記一方の端部の断面寸法よりも小さい請求項1記載の含浸型陰極構体。
【請求項3】
前記コイルの前記線状部材同士が接触している請求項1または2に記載の含浸型陰極構体。
【請求項4】
前記コイルの前記線状部材は、タングステン、モリブデン、レ二ウム、タンタル、ニオブ、白金、及びそれらの合金、からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む請求項1〜3のいずれか1つに記載の含浸型陰極構体。
【請求項5】
前記支持体と、前記コイルと、前記ヒータとが溶接されている請求項1〜4のいずれか1つに記載の含浸型陰極構体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、含浸型陰極構体に関する。
【背景技術】
【0002】
含浸型陰極構体を備えた電子銃は、クライストロンや進行波管などの直流電子エネルギーをマイクロ波電力に変換する電子管に用いられている。
含浸型陰極構体には、円板状を呈した陰極基体、内筒および外筒を有する筒体、陰極基体と筒体とにより形成された空間に収納されたヒータおよび埋め込み部などが設けられている。
また、ヒータの一方の端部は、筒体の内筒または外筒に溶接されている。
ここで、筒体の熱膨張率は、埋め込み部の熱膨張率とは異なる。そのため、ヒータによる加熱を行った際に、筒体の熱膨張量と埋め込み部の熱膨張量との間に差が生じ、この熱膨張量の差に起因して、ヒータの端部と筒体との溶接部分に応力が発生する。
ヒータの端部と筒体との溶接強度が充分でないと、ヒータのオン・オフの繰返しにより、ヒータの端部と筒体との接合が外れるおそれがある。
そのため、ヒータの端部と筒体との溶接強度を高める技術が提案されている。
例えば、ヒータと内筒との溶接強度を確保するために、内筒の外壁に切欠きを有する環状の支持体を設け、この切欠きに収納空間から突き出たヒータの一端を溶接する方法が提案されている。
しかしながら、溶接の際には、支持体よりも容積の小さいヒータの端部の溶融量が大きくなる。そのため、ヒータの端部が劣化したり、ヒータの端部が痩せたり、支持体とヒータの端部との溶接が不十分となったりして、溶接部の溶接強度が低下してしまうおそれがある。この場合、ヒータの端部の断面寸法(線径)が1mm以下になると、溶接部の溶接強度の低下が顕著となる。
そこで、溶接部の溶接強度の向上に関して、更なる改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−129384号公報
【特許文献2】特開2016−058348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、ヒータと支持体との溶接強度を高めることができる含浸型陰極構体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る含浸型陰極構体は、電子放射物質が含浸され、電子放出面を有する陰極基体と、前記陰極基体の前記電子放出面とは反対側の面に設けられた外筒と、前記外筒の内側に設けられた内筒と、前記内筒の前記陰極基体側とは反対側の端部の外壁、または、前記外筒の前記陰極基体側とは反対側の端部の内壁に設けられ、環状を呈し、切欠き部を有する支持体と、前記切欠き部の内部に設けられ、らせん状に巻かれた線状部材からなるコイルと、前記内筒の前記外壁と前記外筒の前記内壁との間に設けられ、一方の端部が前記コイルの内部に設けられたヒータと、を備えている。前記切欠き部の内部において、前記支持体と前記コイル、および、前記ヒータと前記コイルが溶融固着している。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施の形態に係る含浸型陰極構体1を例示するための模式部分断面図である。
図2】ヒータ40の端部44、コイル70、および支持体30の溶接部80を例示するための模式斜視拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
本実施の形態に係る含浸型陰極構体1は、例えば、クライストロンの電子銃に用いられる陰極構体とすることができる。
ただし、含浸型陰極構体1の用途は、クライストロン用に限定されるわけではない。
【0009】
図1は、本実施の形態に係る含浸型陰極構体1を例示するための模式部分断面図である。
図1に示すように、含浸型陰極構体1には、陰極基体10、筒体20、支持体30、ヒータ40、埋め込み部50、第1反射板60、第2反射板62、反射筒66、および、コイル70が設けられている。
【0010】
陰極基体10には、電子放射物質が含浸されている。陰極基体10は、電子放出面12を有する。陰極基体10は、例えば、20%程度の空孔率を有する多孔質のタングステン(W)から形成することができる。陰極基体10は、例えば、円板状を呈している。陰極基体10の直径寸法は50mm程度とすることができる。陰極基体10には、所定の曲率を有し、曲面状に窪んだ電子放出面12が形成されている。陰極基体10の空孔には、例えば、酸化バリウム(BaO)、酸化カルシウム(CaO)、および、酸化アルミニウム(Al)からなる電子放射物質が含浸されている。
【0011】
なお、電子放出面12の加工時に空孔の目潰れが生じる場合がある。目潰れが生じると、電子放射物質が空孔に充分に含浸されないことがある。これを防ぐために、以下の様にして陰極基体10の空孔に電子放射物質を含浸させるようにすることが望ましい。
まず、電子放出面12の加工前に、陰極基体10の空孔にプラスチックを含浸させる。 次に、電子放出面12の加工後に、陰極基体10を水素雰囲気下または真空下において加熱して、含浸されているプラスチックを飛散させる。
その後、陰極基体10の空孔に電子放射物質を含浸させる。
この様にすれば、陰極基体10の空孔に電子放射物質を充分に含浸させることができる。
【0012】
筒体20は、陰極基体10を支持する。また、筒体20は、内部に形成された収納空間22にヒータ40および埋め込み部50を収納する機能をも有する。
筒体20は、外筒24、および内筒26を有している。
【0013】
外筒24および内筒26は、モリブデン(Mo)から形成することができる。外筒24および内筒26は、円筒状を呈している。外筒24は、陰極基体10の電子放出面12とは反対側の面に設けられている。内筒26は、外筒24の内側に、外筒24と同軸(同心状)となるように配置されている。そのため、内筒26の外壁(外筒24側の壁面)と、外筒24の内壁(内筒26側の壁面)との間には、環状の収納空間22が形成される。例えば、内筒26の直径寸法は15mm程度、軸方向の長さ寸法は15mm程度、肉厚寸法は1mm程度とすることができる。
【0014】
収納空間22の一方の端部は、陰極基体10により塞がれている。外筒24および内筒26の一方の端部には、陰極基体10が接合されている。例えば、外筒24および内筒26の一方の端部と、陰極基体10の裏面(電子放出面12とは反対側の面)14とが、ルテニウム−モリブデン(Ru−Mo)合金を用いてろう付けされている。
【0015】
支持体30は、環状を呈し、内筒26の外壁に設けられている。支持体30は、内筒26の、陰極基体10側とは反対側の端部の近傍に設けられている。支持体30は、内筒26に溶接されている。支持体30は、例えば、アーク溶接により溶接することができる。 例えば、支持体30の内周径寸法は15mm程度、外周径寸法は20mm程度、厚み寸法は1mm程度とすることができる。ただし、支持体30の寸法は、例示をしたものに限定されるわけではない。
【0016】
支持体30は、切欠き部31を有する。切欠き部31は、支持体30を厚み方向に貫通している。切欠き部31の内部には、ヒータ40の端部44およびコイル70が設けられている。(図2を参照)
例えば、コイル70の外周径寸法が1.6mmの場合には、端部44およびコイル70を設ける前の状態において、切欠き部31の内筒26側の幅寸法は1.6mm程度とすることができる。この場合、切欠き部31の幅寸法が、コイル70の外周径寸法よりも僅かに小さくなるようにすれば、弾性力により、ヒータ40の端部44およびコイル70を支持体30に保持させることができる。また、切欠き部31の幅寸法が、コイル70の外周径寸法よりも僅かに大きくなるようにすれば、ヒータ40の端部44が傾いている場合であっても、切欠き部31の内部にヒータ40の端部44およびコイル70を設けることが容易となる。
なお、切欠き部31の寸法は、例示をしたものに限定されるわけではなく、コイル70の外周径寸法によって適宜変更することができる。
【0017】
ヒータ40の端部44と、コイル70と、支持体30とは溶接されている。なお、これらの溶接に関する詳細は後述する。
【0018】
ヒータ40は、後述する埋め込み部50を介して、陰極基体10を加熱する。ヒータ40は、線状部材からなるフィラメントである。線状部材は、例えば、断面寸法(線径)が0.6mmのタングステン(W)線、または、断面寸法(線径)が0.6mmのモリブデン(Mo)線とすることができる。ヒータ40の中間部分(発熱部分)42は、コイル状を呈している。中間部分42は、埋め込み部50の内部に設けられている。中間部分42の中心軸は、例えば、内筒26の周方向に沿って延びている。
【0019】
ヒータ40の一方の端部44には、後述するコイル70が設けられている。ヒータ40の端部44は、コイル70および支持体30を介して、内筒26と電気的に接続されている。すなわち、ヒータ40、筒体20、および、陰極基体10は、同電位となっている。
【0020】
ヒータ40の他方の端部46は、アルミナ管48を通って含浸型陰極構体1の外部に延びている。ヒータ40の端部46は、図示しない電源装置と電気的に接続されている。
アルミナ管48は、筒体20の、陰極基体10が設けられる側とは反対側に設けられている。アルミナ管48は、埋め込み部50の表面付近において端部46が折損するのを防止するとともに、ヒータ40と第1反射板60、および、ヒータ40と第2反射板62を絶縁するために設けられている。
【0021】
埋め込み部50は、ヒータ40からの熱を陰極基体10に伝える。埋め込み部50は、収納空間22に収納されたヒータ40を保持する。埋め込み部50は、ヒータ40を絶縁する。埋め込み部50は、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)の焼結体であって、ヒータ40の中間部分42が収納された収納空間22に隙間なく充填されている。
【0022】
第1反射板60、第2反射板62、および、反射筒66は、収納空間22から外部への放熱を抑制し、輻射により陰極基体10の加熱効率を高める役割を果たす。
【0023】
第1反射板60は、モリブデン(Mo)から形成することができる。第1反射板60は、環状の板状体とすることができる。第1反射板60は、収納空間22の、陰極基体10が設けられる側とは反対側の開口を塞ぐように設けられている。第1反射板60は、アーク溶接により外筒24に溶接されている。
【0024】
第2反射板62は、円板状を呈し、モリブデン(Mo)から形成することができる。第2反射板62は、第1反射板60の、外筒24側とは反対側に設けられている。第1反射板60と第2反射板62との間には、環状のスペーサ64が設けられている。スペーサ64と第1反射板60は、アーク溶接により溶接されている。スペーサ64と第2反射板62は、アーク溶接により溶接されている。
【0025】
反射筒66は、例えば、レニウム−モリブデン(Re−Mo)合金の薄板を用いて形成することができる。反射筒66は、外筒24と間隔を空けて、外筒24の外側に配置されている。反射筒66の一端(陰極基体10側の端部)は、外筒24にろう付けされている。ろう付けは、例えば、ルテニウム−モリブデン−ニッケル(Ru−Mo−Ni)合金を用いて行うことができる。反射筒66の他端(陰極基体10側とは反対側の端部)には、環状のフランジ部材68がろう付けされている。ろう付けは、例えば、ルテニウム−モリブデン−ニッケル合金を用いて行うことができる。
含浸型陰極構体1は、フランジ部材68を介して、図示しない電子銃部に固定される。
【0026】
コイル70は、線状部材をらせん状に巻いたものとすることができる。コイル70の軸方向において、線状部材と線状部材との間に隙間があってもよいが、線状部材と線状部材とが接触している方が好ましい。線状部材と線状部材とが接触していれば、コイル70の剛性を高めることができるので、後述する溶接が容易となる。
また、溶接部80の品質や溶接のし易さなどを考慮すると、線状部材の断面寸法(線径)は、ヒータ40の端部44の断面寸法(線径)よりも小さくすることが好ましい。
【0027】
コイル70の線状部材は、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、レ二ウム(Re)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、白金(Pt)、及びそれらの合金、からなる群より選ばれた少なくとも1種を含むものとすることができる。
なお、溶接部80の品質や溶接のし易さなどを考慮すると、ヒータ40、コイル70、および支持体30の材料を同じにすることが好ましい。
【0028】
本発明者の得た知見によれば、コイル70の線状部材の断面寸法(線径)は、ヒータ40の端部44の断面寸法(線径)の1/2以下とすることが好ましい。
例えば、ヒータ40、コイル70、および支持体30の材料をモリブデン(Mo)とし、ヒータ40の端部44の断面寸法(線径)を0.6mm、コイル70の線状部材の断面寸法(線径)を0.3mmとすることができる。
【0029】
また、コイル70の第2反射板62側の端部は、支持体30から突出するようにすることが好ましい。例えば、コイル70の第2反射板62側の端部は、支持体30から線状部材の直径寸法以上突出することが好ましい。
この様にすれば、溶接部80の品質や、溶接作業の作業性などを向上させることができる。
【0030】
コイル70の陰極基体10側の端部は、支持体30から突出していてもよいし、支持体30から突出していなくてもよい。この場合、コイル70の陰極基体10側の端部が、埋め込み部50にまで到達していれば、ヒータ40の端部44を保護することができる。(図2を参照)
また、コイル70の外周面は、支持体30の外周面から突出していてもよいし、支持体30の外周面から突出していなくてもよい。この場合、支持体30の外周径寸法を小さくすれば、支持体30の外周面からコイル70の外周面が突出することになる。支持体30の外周径寸法を小さくすれば、溶接の際に支持体30の溶融が容易となるので、溶接部80の品質や、溶接作業の作業性などを向上させることができる。
【0031】
次に、ヒータ40の端部44、コイル70、および支持体30の溶接についてさらに説明する。
図2は、ヒータ40の端部44、コイル70、および支持体30の溶接部80を例示するための模式斜視拡大図である。なお、図2は、図1中のA部を拡大した斜視図である。
【0032】
図2に示すように、支持体30の切欠き部31の近傍と、コイル70と、ヒータ40の端部44とが溶接されている。またさらに、これらと内筒26が溶接されていてもよい。溶接された部分が溶接部80となる。
【0033】
本実施の形態に係る含浸型陰極構体1においては、ヒータ40の端部44およびコイル70は、支持体30の切欠き部31の内部に設けられている。ヒータ40の端部44およびコイル70は、支持体30に挟まれているので、溶接の際に姿勢を安定させることができる。
また、前述したように、コイル70の線状部材の断面寸法(線径)は、ヒータ40の端部44の断面寸法(線径)よりも小さい。そのため、溶接の際に、容積の小さいコイル70の線状部材が溶融して、ヒータ40の端部44、支持体30、および内筒26を密接に接合することができる。
またさらに、容積の小さいコイル70の線状部材を溶融させれば良いので、溶接電流を低くすることができる。そのため、ヒータ40の端部44の過溶融を抑制することができる。すなわち、ヒータ40の端部44が劣化したり、ヒータ40の端部44が痩せたり、支持体30および内筒26と、ヒータ40の端部44との溶接が不十分となったりするのを抑制することができる。その結果、溶接部80の溶接強度が低下するのを抑制することができる。
【0034】
本実施の形態に係る含浸型陰極構体1によれば、ヒータ40のオン・オフを繰り返しても、また、ヒータ40の急激な加熱を行っても、ヒータ40の端部44と支持体30とが外れにくくすることができる。
また、溶接作業に関する作業性の向上や、溶接部80の品質の向上、溶接部80に対する信頼性の向上を図ることができる。
【0035】
次に、本実施の形態に係る含浸型陰極構体1の製造方法について例示をする。
まず、筒体20を電子放射物質が含浸されていない陰極基体10の裏面14に設置して、陰極基体10と筒体20との接合部分にルテニウム−モリブデン合金を塗布する。同様に、陰極基体10の裏面14にルテニウム−モリブデン合金を塗布する。塗布後、ルテニウム−モリブデン合金を溶解させて、陰極基体10と筒体20とを接合し、陰極基体10の裏面14にルテニウム−モリブデン合金の膜を形成する。このルテニウム−モリブデン合金の膜は、電子放出面12から陰極基体10に電子放射物質を含浸させる際に、電子放射物質が陰極基体10の裏面14から収納空間22に染み出さないようにするために設けられる。
【0036】
次に、冶具を用いてヒータ40を収納空間22内の所定位置に保持し、収納空間22に埋め込み部50を充填する。埋め込み部50は、例えば、ペースト状の材料を収納空間22に流し込み、その後、乾燥と焼結を行うことで形成することができる。
ペースト状の材料は、例えば、結着剤を含む有機溶剤に粉末状のアルミナを加え、これを撹拌することで生成することができる。
また、乾燥は、ペースト状の材料に含まれる有機溶剤を飛散させるために行われる。
焼結においては、例えば、真空中あるいは水素雰囲気中において、1800℃〜1850℃程度に加熱するようにする。
【0037】
次に、内筒26に支持体30を取り付ける。
次に、ヒータ40の端部44にコイル70を取り付ける。
次に、コイル70を取り付けたヒータ40の端部44を支持体30の切欠き部31の内部に設け、支持体30にコイル70とヒータ40の端部44を保持させる。
次に、コイル70を取り付けたヒータ40の端部44を支持体30に保持させた状態で、コイル70を支持体30の切欠き部31の近傍に溶接する。
【0038】
次に、支持体30と内筒26を溶接する。
次に、筒体20に第1反射板60を溶接し、第1反射板60にスペーサ64を介して第2反射板62を溶接する。
次に、反射筒66の一方の端部(陰極基体10側の端部)を外筒24の外側に設置して、反射筒66と外筒24との接合部分にルテニウム−モリブデン−ニッケル合金を塗布する。同様に、反射筒66の他方の端部(陰極基体10側と反対側の端部)にフランジ部材68を配置して、反射筒66とフランジ部材68との接合部分にルテニウム−モリブデン−ニッケル合金を塗布する。塗布後、ルテニウム−モリブデン−ニッケル合金を溶解させて、反射筒66と外筒24およびフランジ部材68とを接合する。
最後に、陰極基体10に電子放射物質を含浸させて、含浸型陰極構体1が完成する。
【0039】
電子放射物質の含浸は、以下のようにして行うことができる。
まず、陰極基体10の電子放出面12上に電子放射物質を載せる。
次に、電子放射物質を水素雰囲気下において、1600℃程度に加熱する。すると、電子放射物質が溶融して陰極基体10に含浸する。
【0040】
以上においては、内筒26の端部の外壁(外筒24側の壁面)に切欠き部31を有する支持体30を設け、切欠き部31の内部に、コイル70が取り付けられたヒータ40の一方の端部44を設ける場合を説明した。
ただし、外筒24の端部の内壁(内筒26側の壁面)に切欠き部31を有する支持体30を設け、切欠き部31の内部に、コイル70が取り付けられたヒータ40の一方の端部44を設けても同様の効果を得ることができる。
すなわち、切欠き部31を有する支持体30は、内筒26の陰極基体10側とは反対側の端部の外壁、または、外筒24の陰極基体10側とは反対側の端部の内壁に設けることができる。
【0041】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 含浸型陰極構体、10 陰極基体、12 電子放出面、20 筒体、22 収納空間、24 外筒、26 内筒、30 支持体、31 切欠き部、40 ヒータ、44 端部、50 埋め込み部、60 第1反射板、62 第2反射板、66 反射筒、70 コイル、80 溶接部
図1
図2