(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記装着孔の内周面およびその周縁部を回避した部分の少なくとも一部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%未満であることを特徴とする請求項1に記載の骨固定部材。
前記第二の工程において、プレス速度を、前記α’マルテンサイトTi合金材のプレス方向における高さの0.0001倍/秒以上50倍/秒以下として、前記α’マルテンサイトTi合金材をプレスすることを特徴とする請求項5または6に記載の骨固定部材の製造方法。
前記窪み部の内周面およびその周縁部におけるTi合金のβ相の含有率が面積率で0%を超えて4%以下であることを特徴とする請求項8または9に記載の骨固定部材製造用の中間成形体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に開示されている従来の骨固定部材では、β型Ti合金であるTi−Nb−Sn合金を使用して、装着孔の周囲に加熱によって硬さの高い析出物を析出させているので、この部分の静的強度は向上するが、疲労強度が十分ではない場合がある。これは、前述の析出物と析出物が析出していない部分(基地)との硬さ(或いは弾性歪)の差が大きいため、繰返し応力の掛かる疲労強度においては、析出物と基地との界面が破壊の起点となることが多いためである。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、装着孔周囲の静的強度が高く、かつ疲労強度が高い骨固定部材およびその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、装着孔周囲の静的強度が高く、かつ疲労強度が高い骨固定部材を工業的に有利に製造することができる骨固定部材製造用の中間成形体を提供することもその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、骨固定部材を、ニアα型および/またはα+β型に一般分類される組成をもつTi合金で形成し、骨固定部材の装着孔の内周面およびその周縁部は、粒径が1μm未満である微細な等軸粒の含有率を面積率で50%以上とすることによって、骨固定部材の装着孔周囲の静的強度を向上させるとともに、骨固定部材の疲労強度を向上させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の骨固定部材は、体内に埋め込まれ、骨に取り付けられる骨固定部材であって、ニアα型および/またはα+β型に一般分類される組成をも
ち、Alを4質量%以上9質量%以下の範囲、Vを2質量%以上10質量%以下の範囲にて含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなるTi合金で形成され、この骨固定部材を骨に取り付けるための取り付け部材が挿入される装着孔を有し、この骨固定部材における前記装着孔の内周面およびその周縁部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%以上であることを特徴としている。
【0009】
本発明の骨固定部材によれば、ニアα型および/またはα+β型に一般分類される組成をもつTi合金で形成されていて、β相よりも硬いα相を有するので、装着孔の内周面およびその周縁部に析出物を存在させなくともその静的強度を高くすることができる。また、装着孔の内周面およびその周縁部が、粒径が1μm未満である微細な等軸粒の含有率が面積率で50%以上と高く、緻密な組織で形成されているので、静的強度をより高くすることができる。さらに、装着孔の内周面およびその周縁部には析出物が存在しないか、存在するとしても微細な等軸粒の粒界にわずかに存在する程度となるので、析出物と基地との界面が破壊の起点となることが起こりにくい。このため、骨固定部材の疲労強度が向上する。
またさらに、Ti合金は、Alを4質量%以上9質量%以下の範囲、Vを2質量%以上10質量%以下の範囲にて含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなるので、骨固定部材における装着孔の内周面およびその周縁部の静的強度並びに骨固定部材の疲労強度をさらに確実に向上させることができる。
【0010】
ここで、本発明の骨固定部材においては、前記装着孔の内周面およびその周縁部を回避した部分の少なくとも一部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%未満であることが好ましい。
この場合、装着孔の内周面およびその周縁部を回避した部分の少なくとも一部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%未満である比較的疎な組織とされているので、骨固定部材全体が、粒径が1μm未満である微細な等軸粒の含有率が面積率で50%以上と高い緻密な組織で形成されている場合と比較して、冷間加工性が向上し、骨の形状に合うように骨固定部材の形状を加工することが容易となる。
【0011】
また、本発明の骨固定部材においては、前記装着孔の内周面およびその周縁部におけるTi合金のβ相の含有率が面積率で0%を超えて4%以下であることが好ましい。
この場合、装着孔の内周面およびその周縁部はβ相の含有率が低いので、骨固定部材における装着孔の内周面およびその周縁部の静的強度を確実に向上させることができ、さらにα相とβ相との界面での破壊が起こりにくくなるので、骨固定部材の疲労強度を確実に向上させることができる。
【0012】
さらに、本発明の骨固定部材においては、前記内周面およびその周縁部の硬さは340HV以上であることが好ましい。
この場合、装着孔の内周面およびその周縁部は硬さが高いので、骨固定部材における装着孔の内周面およびその周縁部の静的強度並びに骨固定部材の疲労強度をより確実に向上させることができる。
【0014】
本発明の骨固定部材の製造方法は、体内に埋め込まれ、骨に取り付けられる骨固定部材の製造方法であって、ニアα型および/またはα+β型に一般分類される
組成をもち、Alを4質量%以上9質量%以下の範囲、Vを2質量%以上10質量%以下の範囲にて含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなるTi合金からなるTi合金素材に溶体化処理を施した後、焼き入れ処理を行って、α’マルテンサイトTi合金材を得る第一の工程と、このα’マルテンサイトTi合金材に対して、前記α’マルテンサイトTi合金材のβ変態点に対して−300℃以上−100℃以下の温度に加熱した状態でプレスして熱間鍛造を施すことにより、骨固定部材を骨に取り付けるための取り付け部材が挿入される装着孔形成用の窪み部を有し、この窪み部の内周面およびその周縁部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%以上である中間成形体を得る第二の工程と、を備えることを特徴としている。
【0015】
本発明の骨固定部材の製造方法によれば、第二の工程において、熱間鍛造によって中間成形体を得るので、装着孔形成用の窪み部の内周面およびその周縁部に微細な等軸粒を発現させる工程と所定形状に成形する工程とを同時に行うことが可能となり、製造コストを削減することができる。また、熱間鍛造によって得られる中間成形体の外縁部(バリ)は、微細な等軸粒の含有率が面積率で50%未満である比較的疎な組織とすることができるので、除去等の後加工が容易となる。
【0016】
本発明の骨固定部材の製造方法は、前記第二の工程で得られた前記中間成形体の前記窪み部を除去して、前記装着孔を形成する第三の工程を備える。
この場合、中間成形体の窪み部は厚みが薄いので、比較的容易に装着孔を形成することができる。
【0017】
本発明の骨固定部材の製造方法においては、前記第二の工程において、プレス速度を、前記α’マルテンサイトTi合金材のプレス方向における高さの0.0001倍/秒以上50倍/秒以下として、前記α’マルテンサイトTi合金材をプレスすることが好ましい。
この場合は、プレス速度が上記の範囲にあるので、熱間鍛造によって微細な等軸粒を装着孔の内周面およびその周縁部に確実に発現させることができる。
【0018】
本発明の骨固定部材製造用の中間成形体は、体内に埋め込まれ、骨に取り付けられる骨固定部材を製造するための骨固定部材製造用の中間成形体であって、ニアα型および/またはα+β型に一般分類される組成をも
ち、Alを4質量%以上9質量%以下の範囲、Vを2質量%以上10質量%以下の範囲にて含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなるTi合金で形成され、骨固定部材を骨に取り付けるための取り付け部材が挿入される装着孔形成用の窪み部を有し、この窪み部の内周面およびその周縁部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%以上であることを特徴としている。
本発明の骨固定部材製造用の中間成形体によれば、窪み部を除去して装着孔を形成することによって、骨固定部材における装着孔の内周面およびその周縁部の静的強度並びに骨固定部材の疲労強度が向上した骨固定部材を工業的に有利に製造することができる。
またさらに、Ti合金は、Alを4質量%以上9質量%以下の範囲、Vを2質量%以上10質量%以下の範囲にて含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなるので、骨固定部材における装着孔の内周面およびその周縁部の静的強度並びに骨固定部材の疲労強度がさらに確実に向上した骨固定部材を製造することが可能となる。
【0019】
ここで、本発明の骨固定部材製造用の中間成形体においては、前記窪み部の内周面およびその周縁部を回避した部分の少なくとも一部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%未満であることが好ましい。
この場合、窪み部の内周面およびその周縁部を回避した部分の少なくとも一部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%未満である比較的疎な組織とされているので、冷間加工性が向上し、例えば、この中間成形体の外縁部(バリ)の除去等の加工が容易になる。
【0020】
また、本発明の骨固定部材製造用の中間成形体においては、前記窪み部の内周面およびその周縁部におけるTi合金のβ相の含有率が面積率で0%を超えて4%以下であることが好ましい。
この場合、骨固定部材における装着孔の内周面およびその周縁部の静的強度並びに骨固定部材の疲労強度が確実に向上した骨固定部材を製造することが可能となる。
【0021】
さらに、本発明の骨固定部材製造用の中間成形体においては、前記窪み部の内周面およびその周縁部の硬さが、340HV以上であることが好ましい。
この場合、骨固定部材における装着孔の内周面およびその周縁部の静的強度並びに骨固定部材の疲労強度がより確実に向上した骨固定部材を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、装着孔周囲の静的強度と疲労強度が高い骨固定部材およびその製造方法を提供することが可能となる。また、本発明によれば、装着孔周囲の静的強度と疲労強度が高い骨固定部材を工業的に有利に製造することができる骨固定部材製造用の中間成形体を提供することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る骨固定部材とその製造方法、および骨固定部材製造用の中間成形体について、添付図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る骨固定部材を上から見た平面図であり、
図2は、
図1に示す骨固定部材のII−II線断面図である。
図1において、本実施形態の骨固定部材10は、体内に埋め込まれ、骨30に取り付けられる本体部11を備える。
本体部11は、
図1に示される上面視において長方形状を呈する板状に形成されている。本体部11は、
図2に示される幅方向に沿う断面視において上方に向けて突となるように湾曲している。本体部11は、この本体部11を骨30に取り付けるためのネジ(取り付け部材)20が挿入される装着孔12を複数個有している。装着孔12は、本体部11に長手方向に間隔をあけて複数形成されている。装着孔12の上部は、ネジ20の皿形状の頭部21が収容されるテーパー状のザグリ部13となっている。
【0027】
この構成の骨固定部材10は、骨折や骨切りなどにより分離した骨同士を、ネジ20を介して連結するために使用される。但し、施術後の生活において、骨に負荷がかかると、ネジ20が挿入されている装着孔12の内周面およびその周縁部(以下、「内周面等」という)、特に、骨固定部材10の上面における装着孔12の頭部21が収容されているザグリ部13には応力が集中し易い。このため、装着孔12の内周面等は、静的強度と疲労強度とを向上させる必要がある。
なお、本実施形態の骨固定部材10において、装着孔12の内周面の周縁部とは、JIS T 0312の曲げ疲労試験において、耐久限である10
6回以上の繰り返し数に相当する曲げ荷重を負荷した場合に、骨固定部材10に発生する最大応力に対してその70%以上の応力が発生する領域を意味する。
【0028】
本実施形態の骨固定部材10は、ニアα型および/またはα+β型に一般分類される組成をもつTi合金で形成されている。これらのTi合金は、β相よりも相対的に硬度が高いα相の含有率が大きいことから、不純物を析出させずに静的強度を高くすることができる。
ここで、α+β型のTi合金は、通常の鋳造等の冷却速度により常温でβ相が面積率で10〜50%となるTi合金であり、ここで、ニアα型のTi合金は、V、Cr、Moなどのβ相安定化元素を0.1〜2質量%含んでいるTi合金で、同冷却速度により常温でのβ相は面積率で0%を超え10%未満のTi合金である。
【0029】
α+β型の組成をもつTi合金としては、たとえば、Ti−6Al−4V(数値は質量%を意味する)、Ti−8Mn、Ti−3Al−2.5V、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−7Al−1Mo、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−5Al−2Cr−1Fe、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Moなどが挙げられる。ニアα型の組成をもつTi合金としては、たとえば、Ti−6Al−5Zr−0.5Mo−0.25Si、Ti−5.5Al−3.5Sn−3Zr−1Nb−0.25Mo−0.3Si、Ti−6Al−2.7Sn−4Zr−0.4Mo−0.45Si、Ti−5.8Al−4Sn−3.5Zr−0.7Nb−0.5Mo−0.35Si−0.06Cなどが挙げられる。
【0030】
本実施形態の骨固定部材10は、α+β型のTi合金の組成をもつTi合金で形成されていることが好ましい。α+β型の組成をもつTi合金は、Alを4質量%以上9質量%以下の範囲、Vを2質量%以上10質量%以下の範囲にて含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなるTi合金であることが好ましい。特に好ましいTi合金は、Ti−6Al−4Vである。
【0031】
本実施形態の骨固定部材10において、装着孔12の内周面等は、粒径が1μm未満である微細な等軸粒の含有率が面積率で50%以上とされている。この微細な等軸粒の含有率(面積率)は、SEM/EBSD装置(走査型電子顕微鏡を装着した後方散乱電子線回折装置)を用いて測定することができる。なお、加速電圧20kVのSEM/EBSD装置を用いて50000倍で観察判別できる最小の結晶粒径は98nmであるので、本実施形態における等軸粒の最小径は、実質的には98nmである。
【0032】
上記の等軸粒は、球状であることが好ましい。但し、球状は、必ずしも真球である必要はなく、楕円球状であってもよい。等軸粒が真球でない場合、等軸粒の粒径は等軸粒の長軸の長さを意味する。等軸粒の長軸と短軸との比(長軸/短軸)は、1より大きく4以下の範囲にあることが好ましい。
【0033】
上記の等軸粒は、Ti合金のα相からなることが好ましい。
本実施形態の骨固定部材10では、装着孔12の内周面等は、等軸粒の含有率が面積率で50%以上とされており、等軸粒の含有率が高く、緻密な組織とされているので、静的強度が高くなる。また、装着孔の内周面等には析出物が存在しないか、存在するとしても微細な等軸粒の粒界にわずかに存在する程度となるので、析出物と基地との界面が破壊の起点となることが起こりにくく、疲労強度も高くなる。本実施形態の骨固定部材10において、装着孔12の内周面等に存在する析出物の量は、面積割合で4%以下であることが好ましい。
【0034】
本実施形態の骨固定部材10において、本体部11における装着孔12の非形成部分など、装着孔12の内周面等を回避した部分の少なくとも一部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%未満とされている。この回避部分は、等軸粒の含有率が面積率で50%未満の比較的疎な組織とされているので冷間加工による加工が行ないやすい。
【0035】
本実施形態の骨固定部材10において、装着孔12の内周面等におけるTi合金のβ相の含有率が面積率で0%を超えて4%以下であることが好ましい。β相の面積率が4%を超えると、α相とβ相との界面で破壊が起こる可能性が高くなり、骨固定部材10の疲労強度および装着孔12の内周面等の静的強度が低下するおそれがある。
【0036】
本実施形態の骨固定部材10において、装着孔12の内周面等の硬さ(ビッカース硬さ)は、340HV以上であることが好ましい。
装着孔12の内周面等の硬さを340HV以上とすることによって、骨固定部材10の疲労強度および装着孔12の内周面等の静的強度をより確実に向上させることができる。
【0037】
本実施形態の骨固定部材の製造方法は、体内に埋め込まれ、骨に取り付けられる骨固定部材の製造方法であって、ニアα型および/またはα+β型に一般分類されるTi合金からなるTi合金素材に溶体化処理を施した後、焼き入れ処理を行って、α’マルテンサイトTi合金材を得る第一の工程と、このα’マルテンサイトTi合金材に対して、前記α’マルテンサイトTi合金材のβ変態点に対して−300℃以上−100℃以下の温度に加熱した状態でプレスして熱間鍛造を施すことにより、骨固定部材を骨に取り付けるための取り付け部材が挿入される装着孔形成用の窪み部を有し、この窪み部の内周面およびその周縁部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%以上である中間成形体を得る第二の工程と、を備える。
【0038】
本実施形態の骨固定部材の製造方法において、原料として用いるTi合金素材は、ニアα型および/またはα+β型に一般分類されるTi合金からなる。Ti合金素材を構成するニアα型のTi合金およびα+β型のTi合金の例は、前述の通りである。
Ti合金素材は、製造する骨固定部材の厚さの2倍以上の高さを有することが好ましい。Ti合金素材の形状は、棒材もしくは平板等の形状とすることができるが、棒材(丸棒あるいは角材)の形状とすることが好ましい。
【0039】
第一の工程では、Ti合金素材に溶体化処理を施した後、焼き入れ処理を行って、α’マルテンサイトTi合金材を得る。ここでの溶体化処理とは、Ti合金素材を、Ti合金素材のβ変態点以上に加熱してβ相を生成させて保持する処理である。焼き入れ処理は、Ti合金素材を冷却してβ相をα’マルテンサイト相に変態させてα’マルテンサイトTi合金材を生成させる処理である。この第一の工程で得られるα’マルテンサイトTi合金材内のα’マルテンサイト相は、積層欠陥または転位の集積により、エネルギー的に不安定であり、再結晶の核生成サイトを多量に有する。このため、α‘マルテンサイトTi合金材に対して後述する熱間鍛造(第二の工程)を行うことで、動的再結晶により微細な等軸粒を生成することが可能になる。
【0040】
Ti合金素材がTi−6Al−4V合金(β変態点:995℃)からなる場合、溶体化処理は、Ti合金素材を1000℃以上の温度で、1秒以上保持することによって行うことが好ましい。また、焼き入れ処理は、β変態点以上の温度からの冷却速度が20℃/秒以上の条件で室温まで冷却することによって行うことが好ましい。加熱温度が1000℃未満であるとα’マルテンサイト相の生成量が不十分となるおそれがある。また、保持時間が1秒未満であると、原子の拡散が不十分となり、合金元素が均一に固溶しないおそれがある。さらに、冷却速度が20℃/秒未満であると、α’マルテンサイト相中の積層欠陥や転位などの構造欠陥が減少するおそれがある。また、さらに構造欠陥が少ない徐冷組織であるウィドマンステッテン組織が発現するおそれがある。
【0041】
第二の工程では、α’マルテンサイトTi合金材に対して、α’マルテンサイトTi合金材のβ変態点に対して−300℃以上−100℃以下の温度に加熱した状態でプレスして熱間鍛造を施す。この熱間鍛造を施すことによって、骨固定部材を骨に取り付けるための取り付け部材が挿入される装着孔形成用の窪み部を有し、この窪み部の内周面およびその周縁部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%以上である中間成形体を得る。
【0042】
図3は、第二の工程で製造される中間成形体を上から見た平面図であり、
図4は、
図3に示す中間成形体のIV−IV線断面図である。
図3、4に示されるように、中間成形体40は、骨固定部材10の本体部11を形成する本体形成部41と、骨固定部材10の装着孔12が形成される位置に設けられた窪み部42とを有する。本体形成部41は、骨固定部材10の本体部11の形状に合せて、上方に向けて突となるように湾曲している。窪み部42の上部は、骨固定部材10のザグリ部13の形状に合せて、テーパー状のザグリ形成部43となっている。本体形成部の周囲には、外縁部44(バリ)が形成されている。
本体形成部41の窪み部42は、熱間鍛造によって形成される。このため、窪み部42の内周面等を、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%以上とすることができる。
【0043】
Ti合金素材がTi−6Al−4V合金(β変態点:995℃)からなる場合、熱間鍛造はα’マルテンサイトTi合金材を695℃以上895℃以下の温度に加熱した状態で行うことが好ましい。加工温度が695℃以下の温度(β変態点に対して−300℃よりも低い温度)であると、微細な等軸粒が生成しにくくなり、得られる中間成形体40内の微細な等軸粒の含有率が低くなるおそれがある。加工温度が895℃よりも高い温度(β変態点に対して−100℃よりも高い温度)であると、β相が生成しやすくなり、得られる中間成形体40内の微細な等軸粒の含有率が低くなるおそれがある。
【0044】
α’マルテンサイトTi合金材を加熱する際の昇温速度は、1℃/秒以上800℃/秒以下の範囲にあることが好ましい。昇温速度が1℃/秒未満であると、α’マルテンサイト相が平衡α+β相に分解するおそれがある。平衡α+β相はα相と比較して強度が低いので、平衡α+β相が中間成形体40内に多量に生成すると、中間成形体40の静的強度が低下して、最終製品である骨固定部材10における装着孔12の内周面等の静的強度、並びに骨固定部材の疲労強度が低下するおそれがある。一方、昇温速度が800℃/秒を超えると、α’マルテンサイトTi合金材の寸法にもよるが、現実的な加熱手段や一連の工程における温度制御が複雑になる。また、加熱後のα’マルテンサイトTi合金材の表面と内部との温度差が大きくなるおそれがある。α’マルテンサイトTi合金材の表面と内部との温度差が大きい状態で熱間鍛造を行うと、α’マルテンサイトTi合金材の表面と内部で熱間鍛造による流動性の差が大きくなるため、熱間鍛造時にα’マルテンサイトTi合金材の割れが生じやすくなる。また得られる骨固定部材10の組織が不均一となるおそれがある。
【0045】
プレス速度は、α’マルテンサイトTi合金材のプレス方向における高さの0.0001倍/秒以上50倍/秒以下とすることが好ましい。α’マルテンサイトTi合金材のプレス方向における高さは、α’マルテンサイトTi合金材が棒材である場合は、短手方向の長さであり、平板である場合は厚さ方向である。α’マルテンサイトTi合金材のプレス方向における高さは、最終製品である骨固定部材の厚さの2倍以上であることが好ましい。α’マルテンサイトTi合金材のプレス方向における高さが上記の範囲にあることによって、結晶粒径1μm未満の微細な組織を発現させることが可能となる。
【0046】
α’マルテンサイトTi合金材のプレス方向における高さが、例えば、1mmである場合、プレス速度は、1×10
−4mm/秒以上50mm/秒以下の範囲とする。プレス速度は、製造目的物である骨固定部材10の形状や強度などの特性に応じて適宜設定することができる。プレス速度を遅くすると、通常は、成形性が向上し、複雑な形状でも精度よく成形することができ、また成形時のピーク荷重を低くできる。また、プレス速度を速くすると、強度の高い組織が得られる。なお、プレス速度を遅くすると、プレス中にα’マルテンサイトTi合金材の温度が降下して、熱間鍛造できなくなるおそれがある。この場合は、必要に応じてα’マルテンサイトTi合金材を加熱しながら、プレスすることが好ましい。
【0047】
次に、第三の工程として、第二の工程で得られた中間成形体40の窪み部42の一部もしくは全部を取り除いて装着孔12を形成することによって、骨固定部材10が製造される。第三の工程にて、中間成形体40の外縁部44を除去してもよい。
なお、第一の工程、第二の工程および第三の工程は、同一の場所で実施してもよいし、異なる場所で実施してもよい。例えば、第一の工程と第二の工程を同一の場所で実施して、第三の工程を異なる場所で実施してもよい。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の骨固定部材10によれば、ニアα型および/またはα+β型に一般分類される組成をもつTi合金で形成されていて、β相よりも硬いα相を有するので、装着孔12の内周面等に析出物を存在させなくともその静的強度を高くすることができる。また、装着孔12の内周面等が、粒径が1μm未満である微細な等軸粒の含有率が面積率で50%以上と高く、緻密な組織で形成されているので、静的強度をより高くすることができる。さらに、装着孔12の内周面等には析出物が存在しないか、存在するとしても微細な等軸粒の粒界にわずかに存在する程度となるので、析出物と基地との界面が破壊の起点となることが起こりにくい。このため、骨固定部材10の疲労強度が向上する。
【0049】
また、本実施形態の骨固定部材10は、装着孔12の内周面等を回避した部分の少なくとも一部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%未満である比較的疎な組織とすることによって冷間加工性を向上させることができる。
【0050】
また、本実刑形態の骨固定部材10は、装着孔12の内周面等におけるTi合金のβ相の含有率が面積率で0%を超えて4%以下と、装着孔12の内周面等をβ相の含有率を低くすることによって、α相とβ相との界面での破壊が起こりにくくなり、骨固定部材10の疲労強度、並びに骨固定部材10における装着孔12の内周面等の静的強度を確実に向上させることができる。
【0051】
また、本実刑形態の骨固定部材10は、装着孔12の内周面等の硬さが340HV以上と高くすることによって、骨固定部材10の疲労強度、並びに骨固定部材10における装着孔12の内周面等の静的強度をより確実に向上させることができる。
【0052】
さらに、本実施形態の骨固定部材10は、Ti合金として、Alを4質量%以上9質量%以下の範囲、Vを2質量%以上10質量%以下の範囲にて含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなるTi合金を用いることによって、骨固定部材10の疲労強度、並びに骨固定部材10における装着孔12の内周面等の静的強度をさらに確実に向上させることができる。
【0053】
本実施形態の骨固定部材10の製造方法によれば、第二の工程において、熱間鍛造によって、骨の形状に沿って湾曲している本体形成部41を形成すると共に、装着孔12用の窪み部42に微細な等軸粒を発現させることが可能となるので、製造コストを削減することができる。また、第二の工程で得られる中間成形体40のうち、装着孔12用の窪み部42の内周面等を回避した部分(例えば、外縁部44等)は、微細な等軸粒の含有率が面積率で50%未満となるので、冷間加工性に優れ、例えば、中間成形体40から外縁部44を除去する等の後加工が容易となる。
【0054】
さらに本実施形態の骨固定部材10の製造方法においては、第二の工程において、プレス速度を、α’マルテンサイトTi合金材のプレス方向における高さの0.0001倍/秒以上50倍/秒以下として、α’マルテンサイトTi合金材をプレスするので、熱間鍛造によって微細な等軸粒を装着孔12用の窪み部42の内周面等に確実に発現させることができる。
【0055】
本実施形態の骨固定部材10は、骨折や骨切りなどにより分離した種々の骨同士を連結させるのに使用することができる。連結可能な骨の例としては、脊椎、頸椎、大腿骨等足の骨、上腕骨等腕の骨、顎や頭蓋骨等顔や頭部の骨、鎖骨を挙げることができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
図1に示した実施形態の骨固定部材10では、本体部11に複数個の装着孔12が形成されているが、装着孔12の数には特に制限はない。装着孔12の数は1個であってもよい。さらに、
図1に示した実施形態の骨固定部材10では、本体部11は、幅が一定となっているが、本体部11の形状には、特に制限はない。本体部11の形状は、一部が幅広になっていてもよいし、ねじれていてもよい。また、L字やCの字、円盤や三角形形状等であってもよい。また、使用部位の骨に沿うよう、側面はアーチ状に湾曲していてもよい。
【0057】
また、
図2に示した実施形態の骨固定部材10は、骨固定部材10を骨30に取り付けるための取り付け部材として、ネジ20が装着孔12に挿入されているが、例えば、ワイヤーのようなネジ以外の部材を用いてもよい。
【0058】
さらに、本実施形態の骨固定部材10において、本体部11は、装着孔12の内周面等を回避した部分の少なくとも一部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%未満であるとされているものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、本体部11は、装着孔12の内周面等を回避した部分においても、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%以上とされていてもよい。粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%以上とされている領域は、出発材料(Ti合金素材)の形状、熱間鍛造による成形条件、例えば、金型の形状、プレス方法などによって調整することができる。
【0059】
さらに、本実施形態の骨固定部材製造用の中間成形体40において、本体形成部41および外縁部44は、窪み部42の内周面等を回避した部分の少なくとも一部は、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%未満であるので、冷間加工性に優れ、除去等の後加工が容易となると説明したが、これに限定されることはない。例えば、本体形成部41および外縁部44は、窪み部42の内周面等を回避した部分においても、除去などの後加工が充分に可能であれば、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が面積率で50%以上とされていてもよい。後加工を行う部分においての粒径が1μm未満の等軸粒の含有率は、出発材料(Ti合金素材)の形状、熱間鍛造による成形条件、例えば、金型の形状、プレス方法などによって調整することができる。
【実施例】
【0060】
Ti合金素材として、Ti−6Al−4V合金(医療用規格合金、ASTM F136 ELI、β変態点:995℃)から形成された丸棒(長さ:100mm、直径:4.5mm)を用意した。このTi合金素材に溶体化処理を施した後、焼き入れ処理を行ってα’マルテンサイトTi合金材を得た。溶体化処理は、Ti合金素材を、あらかじめ加熱しておいた電気抵抗炉の中に入れて、1100℃で1時間保持することによって行い、焼き入れは、水冷により行った。
【0061】
得られたα’マルテンサイトTi合金材を、下記の表1に記載の加工温度に加熱して、サーボプレスを用いて下記の表1に記載のプレス速度にてプレスして熱間鍛造を施して、
図3、4に示す中間成形体40を作製した。なお、表1において、プレス速度は、4.5mm/秒(=α’マルテンサイトTi合金材の直径/秒)を1とした倍率として記載した。表1の「鍛造ピーク荷重」の欄に、熱間鍛造の際にα’マルテンサイトTi合金材に付与されたピーク荷重を示す。
【0062】
中間成形体40の窪み部42と外縁部44とを除去して、
図1、2に示す骨固定部材10を製造した。骨固定部材10の本体部11は、厚さを1.25mm、長手方向の長さを100mm、幅を10mm、長手方向を軸とした曲率を6.5とした。装着孔12は、それぞれ長辺5.2mm、短辺4.2mmの楕円形とし、12mm間隔で形成した。ザグリ部13の深さは0.25mmとした。なお、比較例4では、中間成形体40を作製できなかった。これは、低温・高速の加工条件であったため、変形抵抗が大きくなり割れが発生したためである。
【0063】
得られた骨固定部材10を用いて、等軸粒の面積率、β相面積率、マイクロビッカース硬さ、疲労強度を測定した。その結果を表1に示す。
等軸粒の面積率、β相面積率、マイクロビッカース硬さは、本体部11の上面における装着孔12の開口周縁部と、装着孔12の内周面等を回避した部分とにおいてそれぞれ測定した。装着孔12の開口周縁部は、装着孔12の開口周縁の最頂部から深さ50μmの部分(測定範囲:30μm×10μm)とした。装着孔12の内周面等を回避した部分は、中間成形体40の外縁部44を除去することによって露出した本体部11の端部の表面から深さ50μmの部分とした。
【0064】
(等軸粒の含有率(面積率)の測定方法)
SEM/EBSD装置を用いて、IPF(逆極点、Inverse Pole Figure、結晶方位差3°以上を粒界とする)マップを作成し、主な構成相であるα相についてそのIPFマップ中の粒径1μm未満の等軸粒の含有率(面積率)を算出した。
【0065】
(β相の含有率(面積率)の測定方法)
SEM/EBSD装置を用いて、α相とβ相の結晶構造の違いから相マップを作成し、その相マップ中のβ相の含有率(面積率)を算出した。
【0066】
(マイクロビッカース硬さの測定方法)
全自動マイクロビッカース硬さ試験機(FUTURE−TECH製:MF−700)を用いて、試験荷重1.96Nで圧痕を打ち、その大きさから硬さを算出した。
【0067】
(疲労強度の測定方法)
JIS T 0312に記載されている曲げ試験を実施して、得られた曲げ強度を骨固定部材の疲労強度とした。
α+β合金の展伸材(常温でのβ相の面積率が10〜50%となるTi合金)を原料とし、切削によって
図1、2に示す形状の骨固定部材を製造した。この製造した骨固定部材を基準試料として、その疲労強度を測定した。この基準試料の疲労強度に対する骨固定部材の疲労強度の向上率{=(骨固定部材の疲労強度−基準試料の疲労強度}/基準試料の疲労強度×100}が、3%以上30%未満の範囲にあったものを「○」、疲労強度の向上率が30%以上であったものを「◎」、疲労強度の向上率が3%未満であったものを「×」とした。
【0068】
【表1】
【0069】
比較例1〜3で得られた骨固定部材10は、装着孔12の内周面等のマイクロビッカース硬さが低く、また疲労強度も低かった。これは、装着孔12の内周面等において、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率(面積率)が低く、α相と比較して強度が低いβ相の含有率(面積率)が高いためである。
比較例5、6で得られた骨固定部材10は、装着孔の内周面等のマイクロビッカース硬さは高いが、疲労強度が低かった。マイクロビッカース硬さが高いのは、β相の面積率が低いためである。一方、疲労強度が低いのは、装着孔12の内周面等において、粒径が1μm未満の等軸粒の含有率が低いためである。疲労破壊における亀裂の進展に対して、粒内よりもより多くのエネルギーを必要とする粒界はその障壁となるが、比較例5、6の骨固定部材10では粒径が1μm以上の大きな結晶粒が多く含まれることからその粒界に当たる頻度が低く、所望の疲労強度が得られていない。
【0070】
これに対して、装着孔12の内周面等における粒径が1μm未満の等軸粒の含有率およびβ相の含有率が、本発明の範囲にある実施例1〜12の骨固定部材10は、マイクロビッカース硬さが硬く、疲労強度も高かった。特に、装着孔12の内周面等における粒径が1μm未満の等軸粒の面積率が90%以上で、β相の面積率が0.5%以下である実施例7、8の骨固定部材10は、マイクロビッカース硬さが特に硬く、疲労強度も高かった。