特許第6735173号(P6735173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6735173
(24)【登録日】2020年7月15日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】端子の製造方法及び端子
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/16 20060101AFI20200728BHJP
   H01R 13/11 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   H01R43/16
   H01R13/11 K
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-146969(P2016-146969)
(22)【出願日】2016年7月27日
(65)【公開番号】特開2018-18647(P2018-18647A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】中田 洋人
【審査官】 藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/065803(WO,A1)
【文献】 特開2013−111643(JP,A)
【文献】 特開2015−220061(JP,A)
【文献】 米国特許第06475040(US,B1)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0011331(KR,A)
【文献】 特開2008−000784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 43/16
H01R 13/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手端子の相手接触部に接触する端子接触部を有し、前記端子接触部には、前記相手端子の接触側に突出し、頂点から外周側に向かって徐々に高さが低くなるインデント部が設けられた端子の製造方法であって、
前記端子接触部の一方の面側に配置され、前記インデント部の表面形状に対応する凹み形状の窪み部を有する第1型と、前記端子接触部の他方の面側に配置され、前記第1型の前記窪み部よりも小さな面積で、且つ、前記端子接触部を押圧する押圧面がフラット面の突部を有する第2型とを用い、
前記第1型と前記第2型で前記端子接触部をプレス成形して前記インデント部を形成し
前記第1型の前記窪み部の窪み形状は、断面形状が円弧状の曲面形状であり、前記第2型の前記突部は、円柱形状であることを特徴とする端子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の端子の製造方法であって、
端子の母材は、アルミニウム合金の圧延材を用いられたことを特徴とする端子の製造方法。
【請求項3】
相手端子の相手接触部に接触する端子接触部を有し、前記端子接触部には、前記相手端子の接触側に突出し、頂点から外周側に向かって徐々に高さが低くなるインデント部が設けられた端子であって、
前記インデント部の裏面側には、前記インデント部の表面積よりも小さく、且つ、底面がフラットな凹部が形成され、
前記インデント部の表面側は、断面形状が円弧状の曲面形状であり、前記凹部は、円柱形状であることを特徴とする端子。
【請求項4】
請求項3記載の端子であって、
全体がアルミニウム合金の圧延材より形成されたことを特徴とする端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相手端子との端子接触部にインデント部が設けられた端子の製造方法及び端子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、端子には、アルミニウム合金材を使用したものが種々提案されている。アルミニウム合金材の圧延材は、熱調質時の熱によって表面に厚い酸化膜(膜厚は、数10nm〜100nm)が生成される。端子の表面に酸化膜が存在すると、相手端子との電気的導通性が阻害される。
【0003】
そこで、相手端子との電気的導通性を向上させるために、次のような従来例が提案されている。第1従来例として、アルミニウム合金材の表面にSn、Ni、インジウム等のめっき層を形成したものが提案されている(特許文献1参照)。又、第2従来例として、アルミニウム合金製の端子の相手接触部のみを鉄合金材にしたものが提案されている(特許文献2参照)。この第2従来例は、相手端子との接触荷重を大きくすることで相手端子との電気的導通性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−201753号公報
【特許文献2】特開2014−89810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記第1従来例では、めっき処理を行う必要があるため、端子の製造工程にめっき工程が加わると共にめっきの材料費が付加されるため、コストが高くなるという問題がある。
【0006】
前記第2従来例では、端子の製造工程で相手接触部の接続工程が加わると共に鉄合金の材料費(アルミニウム合金より鉄合金が割高)が付加されるため、第1従来例と同様にコストが高くなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、低コストで、且つ、相手端子との良好な電気的導通性が得られる端子の製造方法及び端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、相手端子の相手接触部に接触する端子接触部を有し、前記端子接触部には、前記相手端子の接触側に突出し、頂点から外周側に向かって徐々に高さが低くなるインデント部が設けられた端子の製造方法であって、前記端子接触部の一方の面側に配置され、前記インデント部の表面形状に対応する凹み形状の窪み部を有する第1型と、前記端子接触部の他方の面側に配置され、前記第1型の前記窪み部よりも小さな面積で、且つ、前記端子接触部を押圧する押圧面がフラット面の突部を有する第2型とを用い、前記第1型と前記第2型で前記端子接触部をプレス成形して前記インデント部を形成し、前記第1型の前記窪み部の窪み形状は、断面形状が円弧状の曲面形状であり、前記第2型の前記突部は、円柱形状であることを特徴とする端子の製造方法である。
【0009】
他の本発明は、相手端子の相手接触部に接触する端子接触部を有し、前記端子接触部には、前記相手端子の接触側に突出し、頂点から外周側に向かって徐々に高さが低くなるインデント部が設けられた端子であって、前記インデント部が突出する反対面側には、前記インデント部の表面積よりも小さく、且つ、底面がフラットな凹部が形成され、前記インデント部の表面側は、断面形状が円弧状の曲面形状であり、前記凹部は、円柱形状であることを特徴とする端子である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プレス成形されたインデント部は、その頂点位置の厚み寸法よりも頂点の周辺の厚み寸法が小さくなるため、第1型と第2型の押圧力によってインデント部の箇所のアルミニウム合金材の外周側への移動量が大きく、それに伴ってインデント部の表面側の材料の移動量(表面積拡大量)が大きくなるため、インデント部の表面に生成された酸化膜の破断が促進される。破断部位にはその後に酸化膜が生成されるが、当該酸化膜は破断部位以外の酸化膜と比べて薄いものしかできず、その薄い酸化膜は、相手端子の接触時の接触荷重によって容易に破断され、相手端子との間で導体間の接触状態が得られる。また、端子は、単一の導電性金属材(例えばアルミニウム合金材)の裸材を使用し、めっきなどの表面加工を行うことなく製造すれば良いため、低コストで、且つ、相手端子との良好な電気的導通性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態を示し、メス端子とオス端子の離間状態の断面図である。
図2】本発明の一実施形態を示し、メス端子とオス端子の嵌合状態の断面図である。
図3】本発明の一実施形態を示し、(a)は弾性撓み部の概略斜視図、(b)はインデント部の詳細な断面図である。
図4】本発明の一実施形態を示し、(a)はインデント部のプレス成形を説明する断面図、(b)はプレス成形過程におけるインデント部のアルミニウム合金材(母材)の移動を説明する断面図である。
図5】本発明の一実施形態を示し、(a)は図3(b)のC部拡大図、(b)は接触荷重が作用する前の状態を説明する断面図、(c)は端子間の接触荷重で酸化膜が破断された状態を示す断面図である。
図6】本発明の比較例を示し、(a)はインデント部のプレス成形を説明する断面図、(b)はプレス成形過程におけるインデント部のアルミニウム合金材(母材)の材料移動を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1図5は本発明の一実施形態を示す。図1及び図2に示すように、メス端子1は、全体が単一の導電性金属であるアルミニウム合金材より形成されている。メス端子1は、所定形状に打ち抜かれたアルミニウム合金材を折り曲げ加工して形成されている。メス端子1は、オス端子10のタブ部11が挿入される箱部2を有する。箱部2は、前方が開口された方形状である。箱部2内には、箱部2の下面部より折り曲げられた端子接触部である弾性撓み部3が配置されている。弾性撓み部3には、上面側(オス端子10の挿入されるタブ部11側)に向かって突出するインデント部4が設けられている。
【0014】
インデント部4は、図3(a)、(b)に詳しく示すように、その表面が頂点から外周側に向かって徐々に高さが低くなる円弧状の曲面であり、中心の頂点が最上方に位置している。
【0015】
インデント部4の裏面側(突出する表面の反対面側)には、インデント部4の表面積よりも小さく、且つ、円柱形の凹部5が形成されている。円柱形の凹部5によって、インデント部4の裏面(突出する表面の反対面)は、フラット面4bに形成されている。
【0016】
箱部2の上面壁、つまり、弾性撓み部3のインデント部4側には、ビード部7が設けられている。ビード部7は、インデント部4に間隔を置いて対向配置される位置に設けられている。ビード部7は、インデント部4に対して端子嵌合方向Aの両外側位置が最も突出した2山形状の凸部である。ビード部7は、箱部2の上面壁を折り曲げて形成されている。
【0017】
メス端子1は、アルミニウム合金材の母材のみより形成されている。つまり、メス端子1は、アルミニウム合金材の圧延材より形成され、めっき等の表面加工が施されていない。アルミニウム合金材の圧延材は、熱調質時の熱によって表面に厚い熱酸化膜8(膜厚は、数10nm〜100nm)が生成される。しかし、下記する製造方法の結果、インデント部4の表面のみは、図3(b)に示すように、厚い熱酸化膜8には破断箇所が形成され、この破断箇所には薄い自然酸化膜9が生成されている。
【0018】
次に、インデント部4の製造について説明する。インデント部4は、図4(a)に示すように、プレス成形機20を用いて成形される。プレス成形機20は、第1型21と第2型22を有する。第1型21は、弾性撓み部3(正確には、後工程の折り曲げ工程によって弾性撓み部3に成形される部位であるが、便宜上弾性撓み部3として説明する)の表面側に配置され、インデント部4の表面形状に対応する凹み形状の窪み部21aを有する。第2型22は、弾性撓み部3の裏面側に配置され、第1型21の窪み部21aよりも小さな面積の円柱状の突部22aを有する。突部22aは、弾性撓み部3の裏面を押圧する押圧面がフラット面22bである。
【0019】
図6には、比較例のプレス成形機30が示されている。比較例のプレス成形機30は、第1型31と第2型32を有する。第1型31は、弾性撓み部3(正確には、後工程の折り曲げ工程によって弾性撓み部3に成形される部位であるが、便宜上弾性撓み部3として説明する)の表面側に配置され、インデント部4の表面形状(円弧状の曲面)に対応する凹み形状の窪み部31aを有する。第2型32は、弾性撓み部3の裏面側に配置され、第1型31の窪み部31aとほぼ同じ形状の突部32aを有する。従って、突部32aは、弾性撓み部3の裏面を押圧する押圧面が円弧状の曲面32bである。
【0020】
比較例のプレス成形機30では、図6(b)に示すように、インデント部4の全域が頂点位置とほぼ同じ厚み寸法となるため、インデント部4に形態変形される箇所のアルミニウム合金材の材料移動が小さく、これに倣ってインデント部4の表面側のアルミニウム合金材の移動量(表面積拡大量)が小さい。そのため、熱酸化膜8が脆性材料の特性を示すものの極僅かにしか破断が発生しない(破断するための表面積拡大率の閾値は、約1%)。
【0021】
これに対し、本実施形態のプレス成形機20では、図4(c)に示すように、インデント部4の頂点位置の厚み寸法d1よりも頂点の周辺の厚み寸法d2が小さくなるため、第1型21と第2型22の押圧力によってインデント部4に形態変形される箇所のアルミニウム合金材の外周側への移動量が大きく、それに伴ってインデント部4の表面側の材料の移動量(表面積拡大量)が大きくなる。熱酸化膜8が脆性材料の特性を示すため、インデント部4の表面側の伸びに追従できずに、インデント部4の表面に生成された熱酸化膜8の破断が促進される。破断によって新生面が露出し、この新生面にはその後に自然酸化膜9が生成されるが、自然酸化膜9は熱酸化膜8と比べて薄いものとなる(図3(a)参照)。
【0022】
このようにしてインデント部4の表面に厚い熱酸化膜8と薄い自然酸化膜9が形成されたメス端子1に、オス端子10を嵌合する。オス端子10は、銅合金材より形成されている。オス端子10は、タブ部11の表面にSnめっき層12(図5(b)に図示)が形成され、Snめっき層12の表面には薄い自然酸化膜13が生成されている。
【0023】
図1の離間位置にあって、オス端子(相手端子)10のタブ部(相手接触部)11をメス端子1の箱部2に挿入する。すると、先ずタブ部11の先端が弾性撓み部3に当接し、この当接箇所より更に挿入が進むと、弾性撓み部3が撓み変形してタブ部11の挿入が許容される。タブ部11の挿入過程では、インデント部4がタブ部11の接触面を摺動し、端子挿入完了位置に達する(図2の位置)。
【0024】
図5(c)に示すように、端子挿入完了位置では、タブ部11とインデント部4が弾性撓み部3の撓み復帰力による接触荷重を受けて接触する。すると、この接触荷重によってタブ部11の表面の薄い自然酸化膜13が、インデント部4の表面の薄い自然酸化膜9がそれぞれ容易に破断される。自然酸化膜9,13の破断(ひび割れ)箇所より内部の導体が接触荷重等によって表面側に押し出される。このように導体が表面側に押し出される箇所が増加するため、導体同士の接触点(オーミック点)が増加する。
【0025】
以上より、メス端子1は、単一の導電性金属材であるアルミニウム合金材の裸材を使用し、めっきなどの表面加工を行うことなく製造すれば良いため、低コストで、且つ、オス端子10との良好な電気的導通性が得られる。
【0026】
この実施形態では、インデント部4がメス端子1に設けられた場合を説明したが、オス端子10に設けられた場合、メス端子1とオス端子10の双方に設けられた場合も本発明を適用できる。
【0027】
この実施形態では、メス端子1がアルミニウム合金材にて形成された場合を説明したが、アルミニウム合金材以外で、表面に酸化膜が生成される導体にて形成された場合にも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 メス端子(端子)
3 弾性撓み部(端子接触部)
4 インデント部
5 凹部
10 オス端子(相手端子)
11 タブ部(相手接触部)
21 第1型
21a 窪み部
22 第2型
22a 突部
22b フラット面
図1
図2
図3
図4
図5
図6