特許第6735175号(P6735175)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6735175
(24)【登録日】2020年7月15日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/08 20060101AFI20200728BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   B60C19/08
   B60C11/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-150225(P2016-150225)
(22)【出願日】2016年7月29日
(65)【公開番号】特開2018-16271(P2018-16271A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 邦彦
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−290485(JP,A)
【文献】 特開2013−023200(JP,A)
【文献】 特開2013−095323(JP,A)
【文献】 特開2009−023152(JP,A)
【文献】 特開2013−189183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電ゴムで形成され且つ接地面を形成するキャップゴムと、前記キャップゴムのタイヤ幅方向両端にある対をなす側端部のうち少なくとも一方の側端部に設けられる導電部と、を備え、
前記導電部は、導電性ゴムで形成され、前記接地面から前記キャップゴムの内部を通り前記キャップゴムの側面に至り、
前記導電部は、タイヤ子午線断面において、前記接地面及び前記キャップゴムの側面における厚みが相対的に小さく、前記接地面と前記キャップゴムの側面との間の中間部分の最大厚みが相対的に大きく、タイヤ幅方向外側及び径方向外側へ湾曲する三日月形状をなしている、空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ子午線断面の半分において、前記キャップゴムの内部に存在する前記導電部の断面積Sと前記キャップゴムの断面積Sとの合計面積(S+S)に対し、前記導電部の面積Sは、5%以上且つ15%以下である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記キャップゴムの側面を覆うストリップゴムを備え、
前記ストリップゴムは、前記キャップゴムよりもゴム硬度の低いゴムで形成され、接地面を形成せず、
前記導電部は、前記ストリップゴムの内部に入り込んでいる、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記キャップゴムは、前記導電部によって中央側キャップゴムと端側キャップゴムとに区画されており、
前記端側キャップゴムのゴム硬度は、前記中央側キャップゴムのゴム硬度よりも低く且つ前記ストリップゴムのゴム硬度よりも高い、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記導電部は、前記ストリップゴムの内部にて終端している、請求項3又は4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
車両に対するタイヤの装着方向を示す表示がタイヤ外表面に設けられており、
前記導電部は、車両に対して装着内側となる前記側端部に少なくとも設けられている、請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車体やタイヤに生じた静電気を路面に放出可能な空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費性能と関係が深いタイヤの転がり抵抗の低減を目的として、トレッドゴムなどのゴム部材を、シリカを高比率で配合した非導電性ゴムで形成した空気入りタイヤが提案されている。ところが、かかるゴム部材は、カーボンブラックを高比率で配合した従来品に比べて電気抵抗が高く、車体やタイヤで発生した静電気の路面への放出を阻害するため、ラジオノイズなどの不具合を生じやすいという問題がある。
【0003】
そこで、トレッドゴムを非導電性ゴムで形成しつつ、カーボンブラック等を配合した導電性ゴムを設けて、通電性能を発揮できるようにした空気入りタイヤが開発されている。例えば特許文献1に記載の空気入りタイヤでは、非導電性ゴムで形成されたキャップゴムのタイヤ幅方向の両端部に、接地面からキャップゴムの側面又は底面まで延びる枝分かれ状の導電部を設けることが開示されている。この構造により、導電経路を確保するだけでなく、導電部によってノイズ低減という効果を奏するという記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−95323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、このような事情に着目してなされたものであって、その目的は、導電経路という機能以外の機能を奏する導電部を備えた空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0007】
すなわち、本開示の空気入りタイヤは、非導電ゴムで形成され且つ接地面を形成するキャップゴムと、前記キャップゴムのタイヤ幅方向両端にある対をなす側端部のうち少なくとも一方の側端部に設けられる導電部と、を備え、
前記導電部は、導電性ゴムで形成され、前記接地面から前記キャップゴムの内部を通り前記キャップゴムの側面に至り、
前記導電部は、タイヤ子午線断面において、前記接地面及び前記キャップゴムの側面における厚みが相対的に小さく、前記接地面と前記キャップゴムの側面との間の中間部分の最大厚みが相対的に大きく、タイヤ幅方向外側及び径方向外側へ湾曲する三日月形状をなしている。
【0008】
この構成によれば、導電部は、タイヤ幅方向外側及び径方向外側へ湾曲する三日月形状であり、且つ中間部分の最大厚みが端部に比べて相対的に大きいので、厚み一定である場合に比べて、タイヤ幅方向内側から外側へ向かう横力が作用したときにその変形が抑制される。変形が抑制できれば、歪みが少なくなるので、耐久性が向上する。また、横力による変形が抑制できれば、転がり抵抗が低減する。さらに、横力に対して導電部が支えることになるので、操縦安定性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示に係る空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図。
図2】加硫前のトレッドゴムを模式的に示す断面図。
図3】加硫前のキャップゴムと導電部との面積比を模式的に示す断面図。
図4A】加硫後のショルダー部を示す断面図。
図4B】他の実施形態について加硫後のショルダー部を示す断面図。
図5A】上記以外の実施形態について加硫後のショルダー部を示す断面図。
図5B】上記以外の実施形態について加硫後のショルダー部を示す断面図。
図6A】比較例1の加硫前のトレッドゴムを模式的に示す断面図。
図6B】比較例2の加硫前のトレッドゴムを模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態の空気入りタイヤについて、図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、各々のビード部1からタイヤ径方向RD外側に延びるサイドウォール部2と、両サイドウォール部2のタイヤ径方向RD外側端に連なるトレッド部3とを備える。ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aと、硬質ゴムからなるビードフィラー1bとが配設されている。
【0012】
また、このタイヤTは、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至るトロイド状のカーカス層4を備える。カーカス層4は、一対のビード部同士1の間に設けられ、少なくとも一枚のカーカスプライにより構成され、その端部がビードコア1aを介して巻き上げられた状態で係止されている。カーカスプライは、タイヤ赤道CLに対して略直角に延びるコードをトッピングゴムで被覆して形成されている。カーカス層4の内側には、空気圧を保持するためのインナーライナーゴム4aが配置されている。
【0013】
さらに、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外側には、サイドウォールゴム6が設けられている。また、ビード部1におけるカーカス層4の外側には、リム装着時にリム(図示しない)と接するリムストリップゴム7が設けられている。本実施形態では、カーカス層4のトッピングゴム及びリムストリップゴム7が導電性ゴムで形成されており、サイドウォールゴム6は非導電性ゴムで形成されている。
【0014】
トレッド部3におけるカーカス層4の外側には、カーカス層4を補強するためのベルト4bと、ベルト補強材4cと、トレッドゴム5とが内側から外側に向けて順に設けられている。ベルト4bは、複数枚のベルトプライにより構成されている。ベルト補強材4bは、タイヤ周方向に延びるコードをトッピングゴムで被覆して構成されている。ベルト補強材4bは、必要に応じて省略しても構わない。
【0015】
図1及び図2に示すように、トレッドゴム5は、非導電性ゴムで形成され且つ接地面Eを構成するキャップゴム50と、キャップゴム50のタイヤ径方向内側に設けられるベースゴム51と、導電性ゴムで形成され且つ接地面Eからキャップゴム50の側面50aに至る導電部52と、を有する。キャップゴム50の表面には、タイヤ周方向に沿って延びる複数本の主溝5aが形成されている。主溝5aには、溝底から突出する突起であるTWI(Tread Wear Indicator)が設けられている。TWIは、タイヤが磨耗して交換時期であることを示す。なお、本実施形態では、ベースゴム51は導電性ゴムで形成されているが、非導電性ゴムで形成してもよい。
【0016】
上記において接地面Eは、正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの路面に接地する面であり、そのタイヤ幅方向WDの最外位置が接地端となる。なお、正規荷重及び正規内圧とは、JISD4202(自動車タイヤの諸元)等に規定されている最大荷重(乗用車用タイヤの場合は設計常用荷重)及びこれに見合った空気圧とし、正規リムとは、原則としてJISD4202等に定められている標準リムとする。
【0017】
本実施形態では、トレッドゴム5の両側端部にサイドウォールゴム6を載せてなるサイドウォールオントレッド(SWOT;side wall on tread)構造を採用しているが、この構造に限られるものではなく、トレッドゴムの両側端部をサイドウォールゴムのタイヤ径方向RD外側端に載せてなるトレッドオンサイド(TOS;tread on side)構造を採用することも可能である。
【0018】
ここで、導電性ゴムは、体積抵抗率が10Ω・cm未満を示すゴムが例示され、例えば原料ゴムに補強剤としてカーボンブラックを高比率で配合することにより作製される。カーボンブラック以外にも、カーボンファイバーや、グラファイト等のカーボン系、及び金属粉、金属酸化物、金属フレーク、金属繊維等の金属系の公知の導電性付与材を配合することでも得られる。
【0019】
また、非導電性ゴムは、体積抵抗率が10Ω・cm以上を示すゴムが例示され、原料ゴムに補強剤としてシリカを高比率で配合したものが例示される。該シリカは、例えば原料ゴム成分100重量部に対して30〜100重量部で配合される。シリカとしては、湿式シリカを好ましく用いるが、補強材として汎用されているものは制限なく使用できる。非導電性ゴムは、沈降シリカや無水ケイ酸などのシリカ類以外にも、焼成クレーやハードクレー、炭酸カルシウムなどを配合して作製してもよい。
【0020】
上記の原料ゴムとしては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上混合して使用される。かかる原料ゴムには、加硫剤や加硫促進剤、可塑剤、老化防止剤等も適宜に配合される。
【0021】
導電性ゴムは、耐久性を高めて通電性能を向上する観点から、窒素吸着非表面積:NSA(m/g)×カーボンブラックの配合量(質量%)が1900以上、好ましくは2000以上であって、且つ、ジブチルフタレート吸油量:DBP(ml/100g)×カーボンブラックの配合量(質量%)が1500以上、好ましくは1700以上を満たす配合であることが望ましい。NSAはASTM D3037−89に、DBPはASTM D2414−90に準拠して求められる。
【0022】
図2は、加流成形前のトレッドゴム5を模式的に示している。図1及び図2に示すように、導電部52は、キャップゴム50のタイヤ幅方向両側にある対をなす側端部のうち少なくとも一方の側端部に設けられる。本実施形態では、導電部52は、車両に対して装着内側(IN)となる側端部のみに設けられている。勿論、導電部52は、装着内側及び装着外側の双方に設けてもよく、装着外側のみに設けてもよい。導電部52は、少なくとも装着内側(IN)に設けられることが好ましい。装着内側(IN)は、キャンバ角によって装着外側に比べて荷重が強く且つ接地しやすく、後述する導電部52の効果が発現しやすいからである。なお、タイヤ外表面(特にサイドウォール)には、車両に対するタイヤの装着方向を示す表示が設けられている。車両に対して装着内側であれば「IN」、装着外側であれば「OUT」といった表示が挙げられる。
【0023】
導電部52は、導電性ゴムで形成されており、接地面Eからキャップゴム50の内部を通りキャップゴム50の側面50aに至る。導電部52は、タイヤ子午線断面において、接地面E及びキャップゴム50の側面50aにおける厚みD1,D2が相対的に小さく、接地面Eとキャップゴム50の側面50aとの間の中間部分の厚みD3が相対的に大きい。導電部52は、タイヤ子午線断面において、タイヤ幅方向外側WD2及び径方向外側RD2へ湾曲する三日月形状をなしている。導電部52は、枝分かれ構造を有さず、三日月形状も一つである。
【0024】
導電部52は、タイヤ幅方向外側WD2及び径方向外側RD2へ湾曲する三日月形状であり、且つ中間部分の最大厚みが端部に比べて相対的に大きいので、厚み一定である場合に比べて、タイヤ幅方向内側WD1からタイヤ幅方向外側WD2へ向かう横力が作用したときにその変形が抑制される。変形が抑制できれば、歪みが少なくなるので、耐久性が向上する。また、横力による変形が抑制できれば、転がり抵抗が低減する。これに対し、特許文献1のように、厚みが一定の湾曲構造であると、支えがなく、変形しやすいため、転がり抵抗の低減効果が得られにくいと考えられる。さらに、横力に対して導電部52が支えることになるので、操縦安定性能が向上する。
また、導電部52は、中間部分の厚みが端部に比べて相対的に大きいので、磨耗中期で路面に現れる導電部52の幅が、タイヤ新品時よりも大きくなり、放電効果を向上させることができる。
さらに、導電部52は、湾曲する形状であるので、直線形状に比べてキャップゴム50との接触面積が増え、接着性が向上し、耐久性を向上させることができる。
【0025】
具体的な形状について、D1<D3、D2<D3という関係を満たす。接地面Eにおける導電部52の厚みD1は、0.1〜0.5mmに設定される。この厚みD1が0.1mm以上に設定されることで通電性能を確保しやすくなるとともに、0.5mm以下であることによって、導電性ゴムのボリュームを抑えて、転がり抵抗の低減効果とウェット制動性能の向上効果をより良好に発揮できる。
キャップゴム50の側面50aにおける導電部52の厚みD2は、0.1〜0.4mmに設定される。この厚みD2が0.1mm以上であることで通電性能を確保しやすくなるとともに、0.4mm以下であることによって、転がり抵抗の低減効果をより良好に発揮できる。
接地面Eとキャップゴム50の側面50aとの間の中間部分の最大厚みD3は、0.6〜1.5mmに設定される。最大厚みD3が、0.6mm以上であることで耐久性及び制動性能を確保しやすくなるとともに、1.5mm以下であることで転がり抵抗の低減効果とウェット制動性能の向上効果をより良好に発揮できる。最大厚みD3は、三日月形状の内側の法線方向厚みのうちの最大値である。
【0026】
また、三日月形状の内側における平均曲率半径R1、三日月形状の外側における平均曲率半径R2が、R1>R2という関係を満たす。本明細書において「平均曲率半径」は、曲面が単一の曲線で構成される場合には、その曲線の曲率半径を意味し、曲面が複数の曲線で構成されている場合には、各々の曲線の曲率半径の平均値を意味する。この形状では、平均曲率半径R1は5〜45mmに設定され、平均曲率半径R2は25〜65mmに設定される。
【0027】
キャップゴム50の側面50aにおける導電部52の位置は、TWIのタイヤ幅方向への仮想延長線上又は仮想延長線よりも径方向内側にあることが、通電性能を確保するうえで必須である。径方向内側へ延び過ぎても導電部52のボリュームが増えてしまうので、導電部52のボリュームを抑えるためには、仮想延長線上であることが好ましい。
【0028】
図3に示すように、タイヤ子午線断面の半分において、キャップゴム50の内部に存在する導電部52の断面積S(図中にて左上がり斜線で示す)とキャップゴム50の断面積S(図中にて右上がり斜線で示す)との合計面積(S+S)に対し、前記断面積Sは、(S+S):S=100:5〜15という関係を有する。すなわち、合計面積(S+S)に対して断面積Sは、5%以上且つ15%以下である。この中でも10%が好ましい。5%未満になれば加工性が悪くなり、15%を超えると導電性ゴムのボリュームが増大することにより、運動性能及び耐磨耗性能の低下が著しくなる。なお、ここでいう導電部52の断面積Sは、導電部52が後述するストリップゴム53の内部に入り込んでいる場合には、ストリップゴム53に入り込んだ部分を含まない。
【0029】
図2及び図1に示すように、キャップゴム50の側面50aを覆うストリップゴム53が設けられている。ストリップゴム53は、キャップゴム50のゴム硬度よりも低いゴムで形成されている。ストリップゴム53は、接地面Eを形成しない。ここでいうゴム硬度は、JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)に準じて測定した硬度を意味する。導電部52は、ストリップゴム53の内部に入り込んでいる。キャップゴム50の側端部はタイヤ全体でいえばショルダー部となり、ショルダー部は荷重が作用して変形しやすい。このように、ストリップゴム53がキャップゴム50よりもゴム硬度が低く、その柔らかさでキャップゴム50及び導電部52との接着性を高めることができる。また、導電部52がストリップゴム53の内部に入り込んでいるので、ショルダー部の各ゴム(導電部52、ストリップゴム53、キャップゴム50)の接着性を高める結果となる。特に、導電部52はタイヤ幅方向外側WD2及び径方向外側RD2へ湾曲する形状であるので、ストリップゴム53の形状に沿っており、タイヤ幅方向外側WD2へ向かうにつれて下がる形状であり、ストリップゴム53との引っ掛かり効果が生まれやすい。よって接地面積の増大及び引っ掛かりにより接着性が高まる。また、ストリップゴム53は、接地面を形成せずに路面と接地しないので、耐久力の低減を回避できる。
【0030】
また、図2に示すように、キャップゴム50は、導電部52によって中央側キャップゴム50cと端側キャップゴム50eとに区画されている。端側キャップゴム50eのゴム硬度H50eは、中央側キャップゴム50cのゴム硬度H50cと同じか又は低い。ゴム硬度H50eは、ストリップゴム53のゴム硬度H53よりも高い。H50c≧H50e>H53という関係を有する。この中でも、H50c>H50e>H53という関係が好ましい。端側キャップゴム50eのゴム硬度により接地性が上がり、操縦安定性能が向上するからである。また、端側キャップゴム50eでも歪みを低減するので、導電部52と協働して歪みを吸収するので、耐久性が向上する。
【0031】
本実施形態では、図4Aに示すように、導電部52は、ストリップゴム53の内部にて終端している。このように、SWOT構造であれば、導電部52のゴムボリュームを低減できる。図4Aの例では、導電経路を確保するために、ストリップゴム53が導電性ゴムで形成されている必要がある。その他は、サイドウォールゴム6、カーカス層4、及びベースゴム51は、適宜、導電性ゴム及び非導電性ゴムのいずれかを採用できる。カーカス層4が導電性ゴムであればサイドウォールゴム6を非導電性ゴムにでき、カーカス層4が非導電性ゴムであればサイドウォールゴム6を導電性ゴムにすればよい。
【0032】
[他の実施形態]
(1)図4Bに示すように、TOS構造において、導電部52は、ストリップゴム53の内部にて終端している。このように、TOS構造であれば、導電部52がストリップゴム53を貫通している場合に比べて、外観を損ねることを回避できる。図4Bの例では、導電経路を確保するために、ストリップゴム53及びサイドウォールゴム6が導電性ゴムで形成されている必要がある。その他は、適宜、導電性ゴム及び非導電性ゴムのいずれかを採用できる。
【0033】
(2)図5Aに示すように、導電部52がストリップゴム53を貫通してストリップゴム53に接触していてもよい。図5Aの例であれば、サイドウォールゴム6が導電性ゴムであれば導電経路を確保できる。サイドウォールゴム6が非導電性ゴムである場合にはストリップゴム53及びカーカス層4が導電性ゴムであればよい。
【0034】
(3)図5Bに示すように、ストリップゴム53を設けなくてもよい。この場合、導電部52はサイドウォールゴム6に接触しているので、サイドウォールゴム6が導電性ゴムであれば導電経路を確保できる。
【実施例】
【0035】
本開示の構成と効果を具体的に示すために、下記実施例について下記の評価を行った。
【0036】
(1)耐久性能
導電部52とキャップゴム50(非導電性ゴム)の剥離力を測定した。測定はJIS K−3:1999に準じて行った。剥離性を比較した。剥離力の評価結果は、比較例1を100とした指数で示した。数値が大きいほど、接着性が高く、耐久力が高いことを意味する。
【0037】
(2)操縦安定性能
日本産セダン車(2000cc)の車両に、タイヤサイズ195/65R15 91H、車両指定の空気圧にしたタイヤを車両に装着させて、路面走行により官能評価にて比較した。比較例1の結果を100とする指数で評価し、指数が大きいほど、操縦安定性能が優れていることを示す。
【0038】
(3)転がり抵抗
国際規格ISO28580(JIS D4234)に準じて転がり抵抗を測定した。比較例1の結果を100とする指数で評価し、指数が小さいほど、転がり抵抗が低く、優れていることを示す。
【0039】
比較例1
特許文献1及び図6Aに示すように、接地面Eからキャップゴム50の側面50aに至る湾曲した導電部152を設けた。導電部152は、タイヤ径方向に4つ連結されている。導電部152の厚みは一定である。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0040】
比較例2
図6Bに示すように、図6Aの湾曲部分を一つとした導電部252を設けた。導電部252の厚みは一定である。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0041】
実施例1
図2に示すように、導電部52を設けた。導電部52は、タイヤ子午線断面において、前記接地面及び前記キャップゴムの側面における厚みが相対的に小さく、前記接地面と前記キャップゴムの側面との間の中間部分の最大厚みが相対的に大きく、タイヤ幅方向外側及び径方向外側内側へ湾曲する三日月形状をなしている。
【0042】
【表1】
【0043】
表1より、実施例1は比較例1、2に対し、耐久性能、操縦安定性能及び転がり抵抗について全て優れていることが分かる。
【0044】
耐久性能について、比較例1に対して比較例2が向上しているのは、比較例1では湾曲導電部が4つあるのに対し、比較例2は湾曲導電部が1つとなり、導電部のボリュームが減ったからであると考えられる。比較例2に対して実施例1が向上しているのは、厚み変化によってボリュームが厚み一定に比べてあまり変わらないものの、キャップゴムと導電ゴムの界面の接触面積が増えるからと考えられる。
接触面積の増加以外の原因として、厚み一定では接地時の変形を抑える効果がないが、中央部が厚く両端が薄い三日月状であるので、接地時の変形を抑え、転がり抵抗が低減していると考えられる。実施例1は比較例2に対して、中央部の厚みが増えることで、導電性ゴムのボリュームが増え、転がり抵抗が悪化するものの、変形抑制による転がり抵抗の低減がこれを十分に上回ると考えられる。
【0045】
操縦安定性能について、実施例1は、比較例1,2に対して、タイヤ幅方向内側WD1からタイヤ幅方向外側WD2へ向かう横力が作用した際にその変形が抑制されるので、操縦安定性能が向上していると考えられる。
【0046】
転がり抵抗について、比較例1に対して比較例2が低減しているのは、導電部のボリュームが減り、転がり抵抗の低い非導電性ゴムのボリュームが増加することができたためであると考えられる。比較例2に対して実施例1が更に低減しているのは、厚み一定では接地時の変形を抑える効果がないが、中央部が厚く両端が薄い三日月状であるので、接地時の変形を抑え、歪みが小さくなり、その結果、転がり抵抗が低減していると考えられる。実施例1は比較例2に対して、中央部の厚みが増えることで、導電性ゴムのボリュームが若干増えるものの、形状による転がり抵抗の低減量がこれを十分に上回ると考えられる。
【0047】
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤは、非導電ゴムで形成され且つ接地面Eを形成するキャップゴム50と、キャップゴム50のタイヤ幅方向両端にある対をなす側端部のうち少なくとも一方の側端部に設けられる導電部52と、を備える。導電部52は、導電性ゴムで形成され、接地面Eからキャップゴム50の内部を通りキャップゴム50の側面50aに至る。導電部52は、タイヤ子午線断面において、接地面E及びキャップゴム50の側面50aにおける厚み(D1,D2)が相対的に小さく、接地面Eとキャップゴム50の側面50aとの間の中間部分の最大厚み(D3)が相対的に大きく、タイヤ幅方向外側WD2及び径方向外側RD2へ湾曲する三日月形状をなしている。
【0048】
この構成によれば、導電部52は、タイヤ幅方向外側WD2及び径方向外側RD2へ湾曲する三日月形状であり、且つ中間部分の最大厚みが端部に比べて相対的に大きいので、厚み一定である場合に比べて、タイヤ幅方向内側から外側へ向かう横力が作用したときにその変形が抑制される。変形が抑制できれば、歪みが少なくなるので、耐久性が向上する。また、横力による変形が抑制できれば、転がり抵抗が低減する。さらに、横力に対して導電部52が支えることになるので、操縦安定性能が向上する。
【0049】
本実施形態では、タイヤ子午線断面の半分において、前記キャップゴムの内部に存在する前記導電部の断面積Sと前記キャップゴムの断面積Sとの合計面積(S+S)に対し、前記導電部の面積Sは、5%以上且つ15%以下である。
【0050】
この構成によれば、加工性、運動性能及び耐摩耗性能をより一層確保できる。
【0051】
本実施形態では、キャップゴム50の側面50aを覆うストリップゴム53を備える。ストリップゴム53は、キャップゴム50よりもゴム硬度の低いゴムで形成され、接地面Eを形成しない。導電部52は、ストリップゴム53の内部に入り込んでいる。
【0052】
この構成によれば、ストリップゴム53はキャップゴム50よりもゴム硬度が低い柔らかいゴムなので、荷重が作用しやすいショルダー部においても柔らかさでキャップゴム50及び導電部52との接着性が高まり、耐久力を向上させることができる。導電部52がストリップゴム53の内部に入り込んでいることによっても、ショルダー部の各ゴムの接着性を高め、耐久力を向上させる。それでいて、ストリップゴム53はゴム硬度がキャップゴム50よりも低いものの、接地面Eを形成せず、路面と接地しないので、耐久力を損なうことを回避できる。
【0053】
本実施形態では、キャップゴム50は、導電部52によって中央側キャップゴム50cと端側キャップゴム50eとに区画されている。端側キャップゴム50eのゴム硬度は、中央側キャップゴム50cのゴム硬度よりも低く且つストリップゴム53のゴム硬度よりも高い。
【0054】
この構成によれば、端側キャップゴム50eのゴム硬度により接地性が上がり、制動性能が向上する。また、端側キャップゴム50eと導電部52とが協働して歪みを吸収するので、耐久性が向上する。
【0055】
本実施形態では、導電部52は、ストリップゴム53の内部にて終端している。
【0056】
この構成によれば、TOS構造であれば外観を損ねず、SWOT構造であればゴムボリュームを低減できる。
【0057】
本実施形態では、車両に対するタイヤの装着方向を示す表示がタイヤ外表面に設けられており、導電部52は、車両に対して装着内側INとなる側端部に少なくとも設けられている。
【0058】
この構成によれば、キャンバ角の設定によって装着内側は装着外側に比べて荷重がかかりやすく、導電部52を装着外側のみに設ける場合に比べて、上記効果が高くなる。
【0059】
このような導電部52を有するトレッドゴム5は、押出成形法によって簡便に得られる。押出成形法では、キャップゴム50とベースゴム51と導電部52との共押出により、所定の断面形状を有するトレッドゴムが帯状に成形され、その端部同士をジョイントすることにより環状のトレッドゴム5が成形される。
【0060】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0061】
50…キャップゴム
50a…キャップゴムの側面
50c…中央側キャップゴム
50e…端側キャップゴム
52…導電部
53…ストリップゴム
E…接地面
IN…装着内側
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B