(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
周方向に複数のカム面が形成されたカムリングと、このカムリングと相対回転可能で軸方向移動可能に配置され周方向に前記カムリングのカム面と対向する複数のカム面が形成されたプレッシャリングと、前記カムリングと前記プレッシャリングとの前記カム面間に配置され前記カムリングと前記プレッシャリングとの相対回転により前記カム面間で周方向に相対移動して前記プレッシャリングを軸方向に移動させる複数のカム部材とを備えたカム機構であって、
前記カム部材は、内径側から外径側に向けて回転径が拡がるテーパローラからなり、
前記カムリングと前記プレッシャリングとの前記カム面は、前記カム部材の前記カム面に対する相対移動における前記カム部材の内径側の中心位置と前記カム部材の外径側の中心位置とを径方向に同一とさせる傾斜に設定され、
前記カム部材は、前記カム面より材料強度が高い材料で形成されていることを特徴とするカム機構。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、
図1を用いて本発明の実施の形態に係るカム機構が適用されるクラッチ装置について説明する。
【0015】
本実施の形態に係るクラッチ装置101は、相対回転可能に配置された一対の回転部材としての外側回転部材103と内側回転部材105と、この外側回転部材103と内側回転部材105との間に配置され軸方向移動によって外側回転部材103と内側回転部材105との間の動力伝達を断続する断続部107と、この断続部107を作動させるアクチュエータ109と、このアクチュエータ109の作動により断続部107を操作するカム機構1とを備えている。
【0016】
外側回転部材103は、ベアリング111を介して静止系部材としてのキャリア113に回転可能に支持され、ロータ115と、ハウジング117とから構成されている。
【0017】
ロータ115は、磁性材料からなり、軸方向のアクチュエータ109の電磁石167側に延設された一側延設部119,121と壁部123とが電磁石167の周囲を覆うように配置され、壁部123が電磁石167とアクチュエータ109のパイロットクラッチ163との軸方向間に配置されている。
【0018】
また、壁部123には、磁束ループを形成させるための非磁性材料からなる磁路形成部材125が溶接などの固定手段によって壁部123と一体的に設けられている。
【0019】
このロータ115は、電磁石167のコア175との径方向間に微小隙間を持って対向するエアギャップが設けられており、電磁石167のコア175からロータ115への磁束の受け渡しが可能となっている。
【0020】
このようなロータ115のパイロットクラッチ163側は、軸方向に延設された他側延設部127となっており、この他側延設部127の内周にはスプライン形状の連結部129が設けられている。
【0021】
この連結部129には、ハウジング117が一体回転可能に連結されると共に、ハウジング117に設けられた凸部131と端部が当接することによってロータ115の軸方向位置が位置決めされ、溶接などの固定手段によってハウジング117と一体回転可能に固定される。
【0022】
ハウジング117は、非磁性材料からなり、有底の筒状に形成されている。また、ハウジング117とロータ115との径方向間には、外側回転部材103の内部を外部から区画するシール部材133が設けられている。
【0023】
なお、ハウジング117の底壁部135には、外側回転部材103内に潤滑油を流入させる注入孔137が設けられ、潤滑油を注入させた後、蓋部材139によって閉塞される。
【0024】
このハウジング117の筒状の内周には、スプライン形状の係合部141が形成され、
断続部107の外側クラッチ板が係合されている。
【0025】
また、係合部141と軸方向に隣り合うハウジング117の端部には、軸方向のロータ115側に向けて延設され周方向に凹凸形状の係合部143が形成され、パイロットクラッチ163の外側プレートが凹部に係合されている。
【0026】
この係合部143は、ロータ115の他側延設部127の内周側に位置されており、非磁性材料の係合部143を配置させることによって他側延設部127に磁束が透過し難い構造となっている。
【0027】
このようなハウジング117の底壁部135には、スタッドボルトなどの連結部材145が固定され、この連結部材145を介して、例えば、入出力部材のうちいずれか一方の回転部材(不図示)が外側回転部材103と一体回転可能に連結される。
【0028】
なお、外側回転部材103とキャリア113との間には、キャリア113の内部と外部とを区画するシール部材147が配置されると共に、シール部材147の周囲を覆うようにダストカバー149が配置されている。
【0029】
このような外側回転部材103の回転軸心部には、内側回転部材105が外側回転部材103と相対回転可能に配置されている。
【0030】
内側回転部材105は、中空状に形成され、外周でXリング151、摺動ブッシュ153、ベアリング155を介して外側回転部材103に回転可能に支持されている。
【0031】
なお、Xリング151は、外側回転部材103の内部に潤滑油を封入した後、外部に対して区画するシール手段となっている。
【0032】
この内側回転部材105の外周には、スプライン形状の係合部157が形成され、断続部107の内側クラッチ板と、カム機構1のプレッシャリング9とが係合されている。
【0033】
また、内側回転部材105の軸心側の中央部には、区画壁159が内側回転部材105と連続する一部材で設けられ、外側回転部材103の内部と外部とを区画している。
【0034】
このような内側回転部材105の内周には、スプライン形状の連結部161が形成され、例えば、入出力部材のうち他方の回転部材(不図示)が内側回転部材105と一体回転可能に連結される。
【0035】
このような内側回転部材105と外側回転部材103との間に伝達される駆動トルクは、断続部107によって断続される。
【0036】
断続部107は、外側回転部材103内に配置され、複数の外側クラッチ板と、複数の内側クラッチ板とを備えている。
【0037】
複数の外側クラッチ板は、ハウジング117の内周に形成された係合部141に軸方向移動可能で外側回転部材103と一体回転可能に係合されている。
【0038】
複数の内側クラッチ板は、複数の外側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され、内側回転部材105の外周に形成された係合部157に軸方向移動可能で内側回転部材105と一体回転可能に係合されている。
【0039】
この断続部107は、複数の外側クラッチ板と複数の内側クラッチ板とで構成された多板クラッチであり、滑り摩擦を伴い伝達トルクを中間制御可能な制御型の摩擦クラッチとなっている。
【0040】
このような断続部107は、アクチュエータ109の作動によって断続され、外側回転部材103と内側回転部材105との間に伝達される駆動トルクを断続する。
【0041】
アクチュエータ109は、パイロットクラッチ163と、アーマチャ165と、電磁石167などから構成されている。
【0042】
パイロットクラッチ163は、外側回転部材103内でロータ115とアーマチャ165との軸方向間に配置されている。
【0043】
このパイロットクラッチ163は、ハウジング117の係合部143に軸方向移動可能で外側回転部材103と一体回転可能に連結する複数の外側プレートと、カム機構1のカムリング5の外周に複数の外側プレートに対して軸方向間に交互に配置され軸方向移動可能でカムリング5と一体回転可能に連結する複数の内側プレートとで構成されている。
【0044】
このようなパイロットクラッチ163は、アーマチャ165が電磁石167の励磁によって吸引移動されることにより接続される。
【0045】
アーマチャ165は、磁性材料からなり、環状に形成され、軸方向にパイロットクラッチ163を挟んでロータ115と対向配置され、外側回転部材103内に軸方向移動可能に配置されている。
【0046】
このアーマチャ165は、電磁石167が励磁されたときに形成される磁束ループによってロータ115側に吸引移動され、パイロットクラッチ163を接続させる。
【0047】
電磁石167は、ロータ115内でベアリング169を介して外側回転部材103の外部に配置されると共に、回り止め部材171によってキャリア113に回り止めされ、電磁コイル173とコア175とを備えている。
【0048】
電磁コイル173は、環状に所定巻き数巻回されて樹脂でモールド成形されている。また、電磁コイル173には、リード線177が接続され、このリード線177を介して通電を制御するコントローラ(不図示)に接続されている。この電磁コイル173の周囲には、コア175が配置されている。
【0049】
コア175は、電磁コイル173への通電により磁界が形成されるように磁性材料から形成され、所定の磁路断面積を有し、電磁コイル173とロータ115との径方向間に配置されてロータ115と共に磁束を透過して磁束ループを形成させる。
【0050】
この電磁石167は、コントローラによる制御によって断続部107で必要な摩擦トルクを生じさせるように電磁コイル173に通電され、パイロットクラッチ163が接続されてカム機構1でスラスト力が発生される。
【0051】
カム機構1は、カムリング5と、プレッシャリング9と、カム部材11とから構成されている。
【0052】
カムリング5は、内側回転部材105の外周に軸方向移動可能に配置され、カムリング5の外径部に形成された凹凸状の係合部21にパイロットクラッチ163の複数の内側プレートが一体回転可能に連結されている。
【0053】
このカムリング5とロータ115の軸方向間には、カム機構1で生じるスラスト反力を受けるスラストベアリング179が配置されている。
【0054】
このようなカムリング5は、パイロットクラッチ163の接続により回転が制御され、プレッシャリング9との間に差回転を生じる。
【0055】
プレッシャリング9は、内側回転部材105の係合部157に軸方向移動可能で内側回転部材105と一体回転可能に配置され、断続部107のクラッチ板と当接可能に断続部107と軸方向に隣接配置されている。
【0056】
このプレッシャリング9は、カム機構1で生じるスラスト力によって断続部107の接続方向に軸方向移動され、外周側に形成された環状の押圧部23で断続部107の複数のクラッチ板に押圧力を付与して接続させる。
【0057】
このようなプレッシャリング9とカムリング5との軸方向の対向面には、それぞれ複数のカム面3,7(
図2,
図3参照)が周方向に形成されており、これらのカム面3,7間にカム部材11が介在されている。
【0058】
このカム部材11は、パイロットクラッチ163の接続によってカムリング5とプレッシャリング9との間に差回転が生じることにより、パイロットクラッチ163に生じる摩擦トルクに応じた強さでプレッシャリング9を断続部107側へ軸方向押圧移動させるカムスラスト力を発生させる。
【0059】
このように構成されたクラッチ装置101では、電磁石167への通電により、コア175、ロータ115の一側延設部119,121及び壁部123、アーマチャ165を介した磁力線が循環されて磁束ループが形成され、アーマチャ165が電磁石167側に吸引移動されてパイロットクラッチ163が締結される。
【0060】
このパイロットクラッチ163の締結トルクは、カム機構1を介して軸方向推力に変換され、プレッシャリング9の押圧部23が断続部107の複数のクラッチ板を押圧して断続部107が接続される。
【0061】
この断続部107の接続により、外側回転部材103と内側回転部材105とが接続され、例えば、入出力部材間の駆動トルクの伝達が可能となる。
【0062】
以下、
図1〜
図14を用いてこのようなクラッチ装置101に適用される本発明の実施の形態に係るカム機構について説明する。
【0063】
(第1実施形態)
図1〜
図8を用いて第1実施形態について説明する。
【0064】
本実施の形態に係るカム機構1は、周方向に複数のカム面3が形成されたカムリング5と、このカムリング5と相対回転可能で軸方向移動可能に配置され周方向にカムリング5のカム面3と対向する複数のカム面7が形成されたプレッシャリング9と、カムリング5とプレッシャリング9とのカム面3,7間に配置されカムリング5とプレッシャリング9との相対回転によりカム面3,7間で周方向に相対移動してプレッシャリング9を軸方向に移動させる複数のカム部材11とを備えている。
【0065】
そして、カム部材11は、内径側から外径側に向けて回転径が拡がるテーパローラからなり、カムリング5とプレッシャリング9とのカム面3,7は、カム部材11のカム面3,7に対する相対移動におけるカム部材11の内径側の中心位置とカム部材11の外径側の中心位置とを径方向に同一とさせる傾斜に設定されている。
【0066】
また、カムリング5とプレッシャリング9とには、カム部材11の内径側への移動を規制する内径壁部13と、カム部材11の外径側への移動を規制する外径壁部15とが設けられている。
【0067】
さらに、内径壁部13と外径壁部15とは、複数のカム部材11を同時に規制可能な周回形状を備えている。
【0068】
また、カム部材11におけるテーパローラの内端周壁17と外端周壁19とは、曲面状20,22に形成されている。
【0069】
さらに、カム部材11は、カム面3,7より材料強度が高い材料で形成されている。
【0070】
図1〜
図8に示すように、カム部材11は、円筒状に形成され、回転径が内径側から外径側に向けて拡がるテーパローラからなり、カムリング5とプレッシャリング9との軸方向に対向するそれぞれの対向面に形成されたカム面3,7間に、カムリング5及びプレッシャリング9の周方向等間隔に複数配置されている。
【0071】
このカムリング5とプレッシャリング9とは、上述したように、パイロットクラッチ163の締結によるカムリング5の回転の制御により、カムリング5とプレッシャリング9との間に回転差が生じて相対回転する。
【0072】
このとき、テーパローラからなるカム部材11は、カムリング5とプレッシャリング9との相対回転により、カム面3,7間を周方向に移動してプレッシャリング9を軸方向に移動させる。
【0073】
カムリング5のカム面3は、1つのカム部材11に対してカム部材11の移動方向の両側である周方向の両側に上り傾斜となる2つの傾斜面で形成され、この2つの傾斜面を1組としてそれぞれのカム部材11に対して周方向等間隔に山部と谷部とを連続して複数形成されている。
【0074】
このカムリング5のカム面3は、2つの傾斜面がそれぞれ内径側から外径側に向けて拡がるように傾斜されている。
【0075】
このようなカムリング5のカム面3には、軸方向にプレッシャリング9のカム面7が対向して配置されている。
【0076】
プレッシャリング9のカム面7は、カムリング5のカム面3と同一の傾斜角度及び同一の形状を有しており、カムリング5とプレッシャリング9との間に回転差が生じていない初期位置で、カムリング5のカム面3と軸方向に対向して対称に配置される。
【0077】
このようにカムリング5とプレッシャリング9とのカム面3,7を形成することにより、カム部材11のカム面3,7の周方向の移動において、カム部材11の外径側の移動距離をカム部材11の内径側の移動距離より大きくすることができ、カム部材11のカムリング5及びプレッシャリング9の周方向における回転軸心のブレを防止することができる。
【0078】
このようなカムリング5とプレッシャリング9との初期位置では、
図5,
図6に示すように、互いのカム面3,7間の谷部にそれぞれ複数のテーパローラからなるカム部材11が配置され、カムリング5とプレッシャリング9とが軸方向に最も近接した状態となる。
【0079】
この状態からカムリング5とプレッシャリング9とに回転差が生じると、
図7,
図8に示すように、複数のカム部材11がそれぞれカム面3,7を回転しながら周方向に移動し、プレッシャリング9を軸方向の断続部107の接続方向に移動させる。
【0080】
このプレッシャリング9の軸方向移動により、プレッシャリング9の押圧部23が断続部107の複数のクラッチ板を押圧し、断続部107が接続される。
【0081】
このようなカム部材11のカム面3,7の周方向の移動において、カム部材11がテーパローラからなり、カム面3,7が内径側から外径側に向けて拡がるように傾斜されているので、カム部材11がカム面3,7のどの位置に移動しても、カム部材11の内径側の中心位置とカム部材11の外径側の中心位置とを径方向に同一とさせることができる。
【0082】
このため、カム部材11のカム面3,7の周方向の移動におけるカム部材11の回転軸心のブレを防止することができ、カム部材11が、特に、カム部材11の外径側がカム面3,7上を滑りながら移動することがない。
【0083】
従って、例えば、プレッシャリング9の軸方向の移動ストロークの設計において、カム面3,7におけるカム部材11の滑りによって生じる摩擦抵抗など、複雑な条件を考慮する必要がなく、純粋なカム部材11とカム面3,7との設定で正確な設計を行うことができる。
【0084】
特に、カム機構1の設計の正確性を向上することができることにより、クラッチ装置101のアクチュエータ109におけるパイロットクラッチ163の締結トルクの設定などを容易に変更することができ、クラッチ装置101の断続部107における断続特性を向上することができる。
【0085】
ここで、カムリング5とプレッシャリング9とには、それぞれのカム面3,7の内径側に位置する内径壁部13と、カム面3,7の外径側に位置する外径壁部15とが設けられている。
【0086】
この内径壁部13と外径壁部15とは、カム部材11のカム面3,7の周方向の移動において、内径壁部13がカム部材11の内径側への移動を規制し、外径壁部15がカム部材11の外径側への移動を規制する。
【0087】
このような内径壁部13と外径壁部15とは、カムリング5とプレッシャリング9とのそれぞれの対向面に、同様の形状で対向するように形成され、複数のカム部材11に対して内径側への移動と、外径側への移動とを規制することができる。
【0088】
このように内径壁部13と外径壁部15とを設けることにより、カム部材11を安定してカム面3,7の周方向に移動させることができ、プレッシャリング9の軸方向移動を安定化することができる。
【0089】
加えて、内径壁部13と外径壁部15とは、複数のカム部材11を同時に規制可能なように、周方向に連続して環状に形成された周回形状をなしている。
【0090】
このように内径壁部13と外径壁部15とを周回形状とすることにより、複数のカム部材11の全てのカム面3,7の周方向の移動を安定して行うことができ、さらにプレッシャリング9の軸方向移動を安定化することができる。
【0091】
ここで、内径壁部13と外径壁部15とは、カム部材11と当接する内壁面が、カムリング5及びプレッシャリング9の端面から垂直となるように突設されている。
【0092】
このように内径壁部13と外径壁部15との内壁面を垂直に設けることにより、内径壁部13と外径壁部15との内壁面とカム部材11の内端周壁17と外端周壁19とが摺動したときに、内壁面に沿ってカム部材11の内径側や外径側が浮き上がることを防止でき、カム部材11のカム面3,7の周方向における移動を安定化することができる。
【0093】
この内径壁部13と外径壁部15との内壁面と摺動するカム部材11の内端周壁17と外端周壁19とは、曲面状20,22に形成されている。
【0094】
このようにカム部材11の内端周壁17と外端周壁19とを曲面状20,22に形成することにより、カム部材11が内端周壁17と外端周壁19との曲面に沿ってスムーズにカム面3,7を移動することができる。
【0095】
加えて、カム部材11は、カム面3,7、すなわちカムリング5及びプレッシャリング9より材料強度が高い材料で形成されている。
【0096】
ここで、カム部材11は、テーパローラからなるので、カム部材11とカム面3,7との接触が線接触となっており、カム部材11にボールを使用したときの点接触よりも、接触圧力が低下されている。
【0097】
カム部材11にボールを使用した場合には、カム部材11の材料強度がカム面3,7の材料強度より高いと、カム面3,7のカム部材11との接触部分に応力が集中し、カム面3,7に損傷が生じる恐れがあった。
【0098】
このため、カム部材11にボールを使用した場合には、クラッチ装置101において、パイロットクラッチ163の締結力を上げて、プレッシャリング9の軸方向の移動ストロークを上げるような場合、カム面3,7の材料強度をさらに高くする必要があり、設計変更や設計変更による高コスト化を引き起こしていた。
【0099】
加えて、カム面3,7の材料強度を高くした場合には、カム面3,7との接触圧力によりカム部材11に変形が生じる恐れがあった。
【0100】
これに対して、テーパローラからなるカム部材11は、カム面3,7との接触圧力が低下されているので、カム部材11の材料強度をカム面3,7より高くしても、カム面3,7の損傷やカム部材11の変形を防止することができる。
【0101】
このため、クラッチ装置101においては、設計変更や設計変更による高コスト化を伴うことなく、パイロットクラッチ163の締結力を上げて、プレッシャリング9の軸方向の移動ストロークを上げることができるなど、断続部107の断続特性を向上することができる。
【0102】
このようなカム機構1では、カム部材11が、内径側から外径側に向けて回転径が拡がるテーパローラからなり、カムリング5とプレッシャリング9とのカム面3,7が、カム部材11のカム面3,7に対する相対移動におけるカム部材11の内径側の中心位置とカム部材11の外径側の中心位置とを径方向に同一とさせる傾斜に設定されている。
【0103】
このため、カム部材11は、カムリング5とプレッシャリング9とのカム面3,7間で周方向に相対移動するとき、内径側の移動距離と外径側の移動距離との差を吸収しながら回転軸心がブレることがなく、カム部材11の外径側がカム面3,7上を滑りながら移動することがない。
【0104】
従って、このようなカム機構1では、カム面3,7におけるカム部材11の滑りによって生じる摩擦抵抗などを考慮することなく、プレッシャリング9の軸方向の移動などを設計することができ、設計の正確性を向上することができる。
【0105】
また、カムリング5とプレッシャリング9とには、カム部材11の内径側への移動を規制する内径壁部13と、カム部材11の外径側への移動を規制する外径壁部15とが設けられているので、カム部材11を安定してカム面3,7の周方向に移動させることができ、プレッシャリング9の軸方向移動を安定化することができる。
【0106】
さらに、内径壁部13と外径壁部15とは、複数のカム部材11を同時に規制可能な周回形状を備えているので、複数のカム部材11の全てのカム面3,7の周方向の移動を安定して行うことができ、さらにプレッシャリング9の軸方向移動を安定化することができる。
【0107】
また、カム部材11におけるテーパローラの内端周壁17と外端周壁19とは、曲面状20,22に形成されているので、カム部材11が内端周壁17と外端周壁19との曲面に沿ってスムーズにカム面3,7を移動することができる。
【0108】
さらに、カム部材11は、カム面3,7より材料強度が高い材料で形成されているので、カム部材11の変形を防止して、カム機構1の高いカムスラスト力を得ることができる。
【0109】
また、カム機構1を用いたクラッチ装置101では、カム機構1の設計の正確性を向上することができるので、断続部107の特性に応じた的確な設計を行うことができ、断続部107の断続特性を向上することができる。
【0110】
(第2実施形態)
図9〜
図14を用いて第2実施形態について説明する。
【0111】
本実施の形態に係るカム機構201は、カム部材11におけるテーパローラの外端面203は、球面状に形成され、テーパローラの外端面203の球面半径R1は、外径壁部15の内周面205の内周半径R2より小さく設定されている。
【0112】
また、外径壁部15は、カムリング5とプレッシャリング9とのうちいずれか一方にのみ設けられている。
【0113】
さらに、カムリング5とプレッシャリング9とのカム面3,7は、カム部材11が初期位置から第1作動位置まで相対移動する第1カム面207と、カム部材が第1作動位置から第2作動位置まで相対移動する第2カム面209とを有し、第1カム面207は、第2カム面209より傾斜角度が大きく設定されている。
【0114】
なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して構成及び機能説明は第1実施形態を参照するものとし省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、得られる効果は同一である。
【0115】
ここで、
図1〜
図8に示すカム部材11には、カムリング5とプレッシャリング9とのカム面3,7間を相対移動するとき、外端面203(
図12参照)側が径方向外側に向けて移動するように外力が加わる。
【0116】
このため、カム部材11におけるテーパローラの外端面203は、カムリング5とプレッシャリング9とに設けられた外径壁部15,15と摺動することになる。
【0117】
このとき、外端面203が平面または平面に近い形状で形成されている場合には、外径壁部15が周回形状、すなわち円筒状に形成されているので、外径壁部15の内周面205(
図13参照)に対して少なくとも2点の接触点を有することになる。
【0118】
加えて、外径壁部15は、カムリング5とプレッシャリング9とにそれぞれ設けられているので、外端面203と外径壁部15の内周面205とが少なくとも4点で接触することになる。
【0119】
このようにカム部材11のカムリング5とプレッシャリング9とのカム面3,7間の相対移動におけるカム部材11の外端面203と外径壁部15の内周面205との接触点が多いと、摩擦抵抗が増大してしまう。
【0120】
そこで、
図9〜
図14に示すように、カム部材11におけるテーパローラの外端面203は、球面状に形成されており、テーパローラの外端面203の球面半径R1は、外径壁部15の内周面205の内周半径R2より小さく設定されている。
【0121】
テーパローラの外端面203は、外径壁部15の内周面205にテーパローラの外端面のローラ径以内に設けられ、外径壁部15の内周面205に当接摺動すべく形成された凸部であり、その一形態として球面状に形成されている。
【0122】
ここで、テーパローラの外端面203の球面半径R1とは、テーパローラの外端面203が外径壁部15の内周面205に当接した状態で、カムリング5(或いはプレッシャリング9)の中心から外端面203と内周面205との当接した点とを結ぶ直線の長さとする。或いは、別の表現をすれば、カム部材11の外端面203は球面形状で形成されているので、この球形の球面半径で定義される。
【0123】
このように外端面203の球面半径R1を外径壁部15の内周面205の内周半径R2より小さくすることにより、カム部材11がカムリング5とプレッシャリング9とのカム面3,7間を相対移動したとき、外端面203と外径壁部15の内周面205との接触点を1点とし、外径壁部15がカムリング5とプレッシャリング9とにそれぞれ設けられている場合には、外端面203と外径壁部15の内周面205との接触点を2点とすることができる。
【0124】
このため、カム部材11の外端面203と外径壁部15の内周面205との摩擦抵抗を低減することができ、カム機構201の設計への影響を抑制することができる。
【0125】
ここで、外径壁部15は、
図10,
図14に示すように、カムリング5のみ、或いはプレッシャリング9のみに設けられている。なお、内径壁部13も、カムリング5のみ、或いはプレッシャリング9のみに設けられている。
【0126】
このように外径壁部15をカムリング5とプレッシャリング9とうちいずれか一方にのみ設けることにより、カム部材11の外端面203と外径壁部15の内周面205との接触点を1点とすることができ、さらに摩擦抵抗を低減することができる。
【0127】
一方、カムリング5とプレッシャリング9とのカム面3,5は、第1カム面207と第2カム面209とを備えている。
【0128】
第1カム面207は、カム部材11の初期位置で位置するカム面3,7の谷部からカム部材11が初期位置からカムリング5とプレッシャリング9とのカム面3,7間をある程度相対移動するときの第1作動位置までの範囲に設けられている。
【0129】
すなわち、第1カム面207によれば第2カム面209と異なり、カムリング5とプレッシャリング9との回転位相に対するプレッシャリング9の軸方向ストロークが大きくとれる。
【0130】
第2カム面209は、第1作動位置からカム部材11が第1作動位置からカムリング5とプレッシャリング9とのカム面3,7間の相対移動を完了するカム面3,7の山部の頂部である第2作動位置までの範囲に設けられている。
【0131】
すなわち、第2カム面209によれば第1カム面207よりも、カムリング5とプレッシャリング9との回転位相を大きくして、これに対するプレッシャリング9の軸方向ストロークの変位割合を小さくすることで、プレッシャリング9のスラスト力を増大させている。
【0132】
このような第1カム面207と第2カム面209とは、第1カム面207の傾斜角度が第2カム面209の傾斜角度より大きくなるように設定されている。
【0133】
このように第1カム面207と第2カム面209との傾斜角度を設定することにより、カム部材11が第1カム面207を移動するとき、すなわちカム部材11が初期位置から第1作動位置に移動するとき、カムリング5の少ない回転で大きなプレッシャリング9の軸方向移動距離を得ることができ、プレッシャリング9の初期の応答性を向上することができる。
【0134】
これに対して、カム部材11が第2カム面209を移動するとき、すなわちカム部材11が第1作動位置から第2作動位置に移動するとき、カム部材11が第1カム面207に位置するときよりもカムリング5の多い回転でプレッシャリング9を軸方向移動させることで、断続部107(
図1参照)の締結力を的確に制御することができ、断続部107の断続特性を向上することができる。
【0135】
このようなカム機構201では、カム部材11におけるテーパローラの外端面203が、球面状に形成され、テーパローラの外端面203の球面半径R1が、外径壁部15の内周面205の内周半径R2より小さく設定されているので、カム部材11のカムリング5とプレッシャリング9とのカム面3,7間の相対移動におけるカム部材11の外端面203と外径壁部15の内周面205との接触点を低減でき、摩擦抵抗を低減することができる。
【0136】
また、外径壁部15は、カムリング5とプレッシャリング9とのうちいずれか一方にのみ設けられているので、カム部材11の外端面203と外径壁部15の内周面205との接触点を1点とすることができ、さらに摩擦抵抗を低減することができる。
【0137】
さらに、第1カム面207は、第2カム面209より傾斜角度が大きく設定されているので、第1カム面207によってカム部材11の初期位置からの応答性を向上することができ、第2カム面209によってプレッシャリング9の軸方向移動を的確に制御することができる。
【0138】
なお、本発明の実施の形態に係るカム機構では、カムリングとプレッシャリングとに内径壁部と外径壁部とが設けられているが、これに限らず、カムリングとプレッシャリングとのうち少なくとも一方に、内径壁部と外径壁部とを設ければよい。
【0139】
また、カム部材におけるテーパローラでは、内端周壁と外端周壁とが曲面状に形成されているが、これに限らず、内端周壁と外端周壁とのうちいずれか一方を曲面状に形成してもよい。
【0140】
また、外径壁部15をカムリング5とプレッシャリング9とのうちいずれか一方にのみ設ければ、カム部材11の外端面203と外径壁部15の内周面205との接触点を1点とすることが可能だが、カム部材11の外端面203は上述したように球面半径R1の球面状に形成せずとも、カム部材11の外端面203の軸心部近傍に凸部(突起などを含む)を設けて、外径壁部と当接・摺動するようにしてもよい。この場合にも、凸部の先端や先端の縁部分が外径壁部に対して片当たりをしないように、曲面取り又は平面取りなどを形成してもよい。
【0141】
さらに、本発明の実施の形態に係るクラッチ装置では、アクチュエータが電磁式アクチュエータとなっているが、これに限らず、例えば、モータ・ギヤ・カム機構など、カムリングとプレッシャリングとの間に相対回転を生じさせるアクチュエータであれば、どのようなアクチュエータであってもよい。