(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1シールは、エンジンパイロンに支持される熱交換器の吸気口に前方から通じる開口が形成されたフレームと、前記エンジンパイロンとの間で前後方向に圧縮されて弾性変形し、
前記第2シールは、エンジンナセルに設けられ、前記第1シールに側方から押圧されて前記前後方向と交差する方向に弾性変形する、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の航空機用のファイアシール構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンナセルがパイロンに支持されている箇所の周辺には、エンジンナセルやパイロン等の構造部材に加えて、エンジン本体の動作に必要な種々の装備品も配置されている。これらの構造部材や装備品は狭い範囲に近接して配置されており、エンジンナセルおよびパイロンの周辺は非常に複雑な構造となっている。
そういった複雑な構造にあって、エンジン本体の周りの防火区域からの火炎の突き抜けを防ぐために部材同士の間を封止するにあたり、封止区間の一部では、弾性シールが突き当てられるシール受け部材を確保することができずに、弾性シール同士を突き当てて封止せざるを得ない場合がある。
例えば、エンジンナセルとパイロンとの間を封止するためにエンジンナセルに前後方向に沿って弾性シールが設けられており、その弾性シールが、左右方向に沿っている他の弾性シールの側壁に対向する場合に、それらの弾性シール同士の間に、弾性シールを受ける部材が配置されないとすれば、弾性シール同士が直接突き当てられる。
【0006】
しかし、弾性変形した弾性シール同士が密着するとは限らない。弾性変形した後の弾性シールのそれぞれの形状が定まらないので、弾性シール同士の間に隙間ができる可能性がある。
例えば、
図10(a)に示すように、部材80に設けられている弾性シール81が、シール受け部材82と部材80との間に圧縮されて弾性変形していることで、
図10(b)に示すように、弾性シール81の元々は平坦な側壁81Aに、側壁81Aに沿った面内で圧縮方向と直交する方向に沿って皺83ができるとする。皺83の形状は定まっていない。この側壁81Aに向けて、
図10(b)および(c)に示すように、他の弾性シール84が押圧されるとすると、皺83のある側壁81Aに弾性シール84が必ずしも十分に追従できない。そのため、皺83の位置で側壁81Aと弾性シール84の表面との間に隙間ができると、その隙間を火炎Fが突き抜けてしまうおそれがある。
【0007】
以上より、本発明は、突き当てられた弾性シール同士の間から火炎が突き抜けるのを十分に防ぐことが可能な航空機用のファイアシール構造および航空機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、航空機の防火区域の外側へと火炎が出るのを防ぐファイアシール構造であって、航空機を構成する部材同士の間で圧縮されて弾性変形する第1シールと、第1シールを圧縮する圧縮方向と交差する方向から第1シールに押圧されて弾性変形する第2シールと、を備え、第2シールにより押圧される第1シールの壁には、少なくとも一つの曲がった部分を有する屈曲溝が形成されていることを特徴とする。
【0009】
第1シールおよび第2シールの双方が弾性変形した状態において、屈曲溝は、曲がった部分を維持している。
【0010】
本発明のファイアシール構造において、屈曲溝は、負荷が加えられていない第1シールの壁に予め形成されていることが好ましい。
【0011】
本発明のファイアシール構造において、屈曲溝は、曲がった部分と、曲がった部分から両側に延びる延出部と、を有し、第1シールの圧縮方向に対して直交する方向において延出部が曲がった部分を間に挟んで配置されている向きとなるように、屈曲していることが好ましい。
【0012】
本発明のファイアシール構造において、壁は、第1シールに負荷が加えられていない状態で、屈曲溝を除く領域が平坦であってもよい。
【0013】
本発明のファイアシール構造において、壁は、第1シールに負荷が加えられていない状態で、第2シールの押圧される部位の形状に倣って窪んでおり、押圧される第2シールを包み込むように構成されていてもよい。
【0014】
本発明のファイアシール構造において、第1シールは、エンジンパイロンに支持される熱交換器の吸気口に前方から通じる開口が形成されたフレームと、エンジンパイロンとの間で前後方向に圧縮されて弾性変形し、第2シールは、エンジンナセルに設けられ、第1シールに側方から押圧されて前後方向と交差する方向に弾性変形することが好ましい。
【0015】
本発明の航空機は、上述したファイアシール構造を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のファイアシール構造によれば、第2シールが押圧される第1シールの壁に、曲がった部分のある屈曲溝が形成されているため、壁に皺ができるのを避けながら第1シールを変形させ、その壁に第2シールを押圧して密着させ易い。
第1シールおよび第2シールの双方が弾性変形している状態で、両者の間には、屈曲溝の曲がった部分の位置に隙間ができている。この隙間に火炎が入ったとしても、火炎は曲がらないので、曲がった部分を通過できない。そのため、第1シールと第2シールとの間を通り防火区域の外側に火炎が出るのを十分に防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
図1に示す航空機のエンジン1は、パイロン2により、図示しない主翼に支持される。
エンジン1は、例えばターボファンエンジンの場合、ファン3と、エンジン1の図示しない本体(エンジンコア)と、ファン3およびエンジン本体を包囲する筒状のエンジンナセル5とを備えている。
パイロン2は、
図1および
図2に示すように、構造部材であるパイロン本体20と、パイロン本体20を覆うパイロンフェアリング2Aとを備えている。
図1および
図2は、パイロン2における前側の部位のみを示しており、それよりも後側の部位の図示は省略されている。
本明細書において、「前」および「後」は、航空機の進行方向における前および後を意味する。
【0019】
エンジン1の本体の周りには、エンジン本体から発火した場合に備えて防火区域6が定められており、防火区域6の外側へと火炎が出るのを防ぐことが要求される。
図1は、防火区域6の外形を二点鎖線で示している。
【0020】
エンジンナセル5は、
図1に示すように、ファン3へと空気を取り入れるエアインレット5Aと、エアインレット5Aの後端に連なるファンカウル5Bと、ファンカウル5Bの後端に連なるスラストリバーサーカウル5Cとを含んで構成されている。
ファンカウル5Bによりファン3が包囲され、スラストリバーサーカウル5Cによりエンジン本体が包囲されている。
【0021】
スラストリバーサーカウル5Cは、右側と左側とに分割されており、パイロン本体20に軸支されている。スラストリバーサーカウル5Cは、図示しないヒンジ部を中心に回動されることで、エンジン1の内部を開閉可能に構成されている。防火区域6の外周側は、スラストリバーサーカウル5Cとパイロン本体20とによって区画されている。
パイロン本体20とスラストリバーサーカウル5Cとの取り合い箇所には、火炎が防火区域6の外側に出るのを防ぐように、第2シールとしてのナセルシール12(
図4)が設けられている。
【0022】
パイロン本体20には、種々の装備品が設けられている。それらの装備品のうちの一部の装備品として、
図2に、艤装品7と艤装品8とを示している。
これらの艤装品7,8は、パイロン本体20の下部に支持されている。艤装品7,8は、防火区域6に位置している。
【0023】
以下、艤装品7としてエンジンオイルクーラー(以下、エンジンオイルクーラー7)を備える構造を例にとり、説明する。
エンジンオイルクーラー7(熱交換器)は、ファン3により後方へと供給される空気流から吸気ダクト71により取り込んだ空気と、エンジン本体の動作に必要なエンジンオイルとを熱交換することで、エンジンオイルを冷却する。エンジンオイルクーラー7からの排気は、排気ダクト74により機外へと排出される。エンジンオイルクーラー7に設けられているエンジンオイルの配管の図示は省略する。
【0024】
エンジンオイルクーラー7の吸気ダクト71の吸気口71Aの前方には、
図3に示すように、AOCインレットフレーム70が配置される。AOCインレットフレーム70には、吸気口71Aに前方から通じる略矩形状の開口70Aが形成されている。吸気口71Aおよび開口70Aのいずれも前方を向いており、ファン3(
図1)に対向している。吸気口71Aの周縁部と、開口70Aの周囲との間はベローズ75により接続されている。
ファン3から供給される空気流が開口70Aから吸気ダクト71に入り、吸気ダクト71を通じてエンジンオイルクーラー7の本体73(
図2)に取り込まれると、エンジンオイルが冷却される。
【0025】
AOCインレットフレーム70は、左側の部材70L(
図3)と、図示しない右側の部材とに分割されている。そのため、吸気ダクト71の前方のスペースが狭くても、ファン3(
図1)と吸気ダクト71との間に左右の部材70を両側からそれぞれ挿入するようにして、AOCインレットフレーム70を吸気ダクト71の前方の所定位置に設置することができる。
【0026】
AOCインレットフレーム70は、パイロン本体20に支持されており、パイロン本体20の下部(以下、パイロン下部21)に対向する位置から下方へと、開口70Aの下端を超える位置まで、エンジン本体に向けて延在している。防火区域6の内側から外側へと火炎が出るのを防ぐため、AOCインレットフレーム70と、対向する部材との間にシール部材を介在させている。
そうしたシール部材の一つとして、
図2に、第1シールであるAOCインレットシール11を示している。AOCインレットシール11は、パイロン下部21に、左右方向にほぼ沿って設けられており、AOCインレットフレーム70に突き当てられる。
【0027】
図2は、負荷が加えられていない状態のAOCインレットシール11を示している。AOCインレットシール11は、AOCインレットフレーム70(
図3)の形状に倣って少し湾曲しており、AOCインレットフレーム70の開口70Aの上端に沿って、開口70Aよりも左側から右側まで延在している。
【0028】
AOCインレットシール11は、シリコーンゴム等の耐熱性が良好なゴム材料を用いて中空状に形成されている。AOCインレットシール11の内部には、壁で囲まれた空間(空洞)が存在する。
AOCインレットシール11は、繊維や織物が用いられることによって、少なくとも表面が補強されていると好ましい。
【0029】
AOCインレットフレーム70がパイロン本体20に組み付けられると、
図3に示すように、AOCインレットフレーム70とパイロン下部21との間でAOCインレットシール11が前後方向D1に圧縮されて弾性変形する。AOCインレットフレーム70の後端部70Bが、AOCインレットシール11の前端部と接触するシール受け部である。AOCインレットシール11は、後端部70Bに密着することで、パイロン下部21とAOCインレットフレーム70との間の前後方向の間隙を封止している。
【0030】
図3は、AOCインレットフレーム70、AOCインレットシール11、およびパイロン下部21を側方(左方)から示している。
これらのAOCインレットフレーム70、AOCインレットシール11、およびパイロン下部21のいずれにも、スラストリバーサーカウル5C(
図1)を閉じる時に、前後方向に延びているナセルシール12(
図4)が側方から突き当てられる。
【0031】
ナセルシール12は、
図4に示すように、スラストリバーサーカウル5Cの左側の部材と、右側の部材とにそれぞれ設けられている。このナセルシール12は、AOCインレットフレーム70およびパイロン下部21と、スラストリバーサーカウル5Cとの間の左右方向の間隙を封止する。
【0032】
ナセルシール12は、
図3に示されているAOCインレットフレーム70の側壁701と、AOCインレットシール11の側壁11Aと、パイロン下部21の側壁22とにそれぞれ、AOCインレットシール11が圧縮される前後方向D1とは直交する左右方向から押圧される。
ナセルシール12は、シリコーンゴム等のゴム材料を用いて中空状に形成されている(
図4)。ナセルシール12も、繊維や織物が用いられることによって、少なくとも表面が補強されていると好ましい。
図4に示すナセルシール12は、Ωの字の形状の断面を呈しているが、中空部を有するその他の形状(例えば、断面P字状)にナセルシール12が形成されていてもよい。
【0033】
AOCインレットフレーム70およびパイロン下部21は、金属材料あるいは繊維強化樹脂等から構成されており、ナセルシール12が押圧されても殆ど変形しない剛性を有している。AOCインレットフレーム70と、パイロン下部21とのそれぞれの側壁701,22は、平坦に、あるいは所定の形状に形成されている。これらの側壁701,22にナセルシール12が十分な接触面積で密着する。
【0034】
一方、ゴム材料が用いられているAOCインレットシール11は、弾性変形可能であり、何の対処もされていなければ、同じく弾性変形可能なナセルシール12と、AOCインレットシール11の側壁11Aとが密着するかどうかはなりゆき次第である。一般に、弾性シール同士が互いに押圧される場合、弾性変形後の弾性シールそれぞれの形状が定まらないので、弾性シール同士の間に隙間ができる可能性がある。その隙間を火炎が突き抜けるのを防ぐ必要がある。
【0035】
本実施形態では、AOCインレットフレーム70がパイロン本体20に組み付けられている状態で、スラストリバーサーカウル5Cが開閉されるため、AOCインレットフレーム70とパイロン下部21との間で既に弾性変形しているAOCインレットシール11の側壁11Aに、ナセルシール12が押し付けられる(押圧される)こととなる。
一般的な弾性シールの例で説明すると、
図10(b)に示すように、先に、部材80,82間で弾性シール81が弾性変形した後に、
図10(c)に示すように、弾性シール81の側壁81Aに弾性シール84が押し付けられる。
このように、先に弾性シール81が弾性変形したことによって、開放されている側壁81Aに不定形な筋状の皺83ができ、皺83のある側壁81Aに弾性シール84が押し付けられると、皺83の位置で、側壁81Aと弾性シール84の表面との間に隙間ができ易い。
【0036】
図10(b)に示すように、部材80と部材82とを結ぶ方向D1に加圧されていることで弾性シール81は緻密となっているため、その後、弾性シール84によりD1方向と直交するD2方向に押圧されても(
図10(c))、弾性シール81は、部材80,82間に圧縮された時のようには容易に弾性変形しない。そのため、弾性シール81の反発力により側壁81Aが皺83のない状態に十分に回復するとは限らない。また、側壁81Aに押し付けられることで弾性変形した弾性シール84の形状も定まらないので、弾性シール84が必ずしも側壁81Aの表面の凹凸に十分に追従できるとは限らない。
【0037】
部材80,82間に弾性シール81を圧縮するのと同時に、弾性シール81に弾性シール84を押圧する場合など、
図10(b)に示すような皺83が側壁81Aにできないとしても、結局、弾性シール81と弾性シール84とのそれぞれの弾性変形後の形状が定まらないため、側壁81Aと弾性シール84との間の隙間を確実になくすことはできない。
側壁81Aに弾性シール84を押し付ける前に、皺83をなくすように側壁81Aを整える作業を行うことはできるが、弾性シール84を密着させることができる適切な面に側壁81Aを整えるのは難しい上、手間が掛かる。
【0038】
以上より、いずれも弾性シールであるAOCインレットシール11と、ナセルシール12との間の隙間を確実になくすことは難しい。
しかし、これらのシール11,12間の隙間に火炎が入ったとしても、隙間の形状が曲がっていれば、火炎は、直進する性質から、曲がらないので、その隙間を突き抜けて防火区域6の外側に出るのを防ぐことができる。
このことに基づいて、曲がっている形状の隙間をAOCインレットシール11とナセルシール12との間に設定することで、火炎の突き抜けを防いでいるファイアシール構造10(
図5)について、以下説明する。
「ファイアシール」は、防火区域6内の火炎が防火区域6の外側へと出るのを防ぐことを意味するものとする。
【0039】
ファイアシール構造10は、
図5(a)および(b)に示すように、上述したAOCインレットシール11と、ナセルシール12とを備えており、上述の皺83を防止するように、前後方向D1に圧縮されるAOCインレットシール11に、ナセルシール12が押圧される側壁11Aの表面から窪み、意図した形状に変形させるための屈曲溝13が形成されていることを特徴とする。
つまり、ファイアシール構造10の特徴は、AOCインレットシール11の側壁11Aとナセルシール12とが突き当てられる箇所にある。
【0040】
屈曲溝13は、少なくとも一つの曲がった部分131を有する形状に形成されており、前後方向D1と直交するD2方向に沿って、ナセルシール12がAOCインレットシール11に押圧される向きに窪んでいる。
【0041】
負荷が加えられていない状態であるAOCインレットシール11を
図6(a)および(b)に示している。
図6(b)に示すように、屈曲溝13は、AOCインレットシール11の左右の側壁11A,11Aのいずれにも形成されている。屈曲溝13は、AOCインレットシール11の内部空間11Bにまで貫通していない。
AOCインレットシール11は、前後方向に押し潰された時(
図5(a))にAOCインレットフレーム70とパイロン下部21との間の間隙を封止することのできるように、パイロン下部21から前方に向けて所定の寸法だけ突出するように成形されている。
【0042】
シリコーンゴム等のゴム材料を用いて成形されたAOCインレットシール11には、既に、曲がった部分131を有する屈曲溝13が側壁11Aの表面から窪むように形成されている。つまり、屈曲溝13は、負荷が加えられていないAOCインレットシール11の側壁11Aに予め形成されている(
図6(a))。AOCインレットシール11に負荷が加えられていない状態で、側壁11Aの屈曲溝13を除く領域の表面は平坦に形成されている(
図4)。
ゴム材料に加えて、補強のために繊維や織物を用いる場合は、屈曲溝13の位置で繊維や織物が欠損することなく、屈曲溝13を含めた側壁11Aの表面全体に亘り繊維や織物が連続しているようにAOCインレットシール11を成形するとよい。そうすることで、繊維や織物による補強の効果を担保できる。
【0043】
屈曲溝13は、
図5(a)に示すようにAOCインレットシール11が前後方向D1に圧縮されるのに伴って形状が変化した後も、曲がった部分131を維持する。
AOCインレットシール11の成形時に屈曲溝13が予め形成されていると、AOCインレットシール11が圧縮され、かつナセルシール12が側壁11Aに押圧されている状態において、曲がった部分131を含む隙間を側壁11Aとナセルシール12との間に確実に設定することができる。
【0044】
屈曲溝13の形状としては、例えば、
図6(a)に示すように、横倒しのV字状に形成することができる。この場合、屈曲溝13は、上端13Aと下端13Bとのほぼ中間の位置で屈曲している。上端13Aから部分131までの区間(延出部132)と、部分131から下端13Bまでの区間(延出部133)はいずれも、上下方向に対して傾斜している。
ここで、AOCインレットシール11の側壁11Aの面内方向において、AOCインレットシール11が圧縮される圧縮方向(前後方向D1)に対して直交する方向をD3とすると、屈曲溝13は、曲がった部分131から両側に延びる延出部132,133が、曲がった部分131をD3方向において間に挟んで配置されている向きとなるように、屈曲している、これは、後述する
図7〜
図9に示される屈曲溝についても同様である。この向きに屈曲溝13が形成されていると、AOCインレットシール11は、D1方向に圧縮されたときに、溝全体の形状(
図6(a)の例ではV字状)が開き、D3方向に延伸するような変形挙動を示す。
図6(b)にAOCインレットシール11の断面を示すように、屈曲溝13は、例えば、断面V字状に形成することができる。その他、屈曲溝13を断面U字状や断面矩形状に形成することもできる。
【0045】
屈曲溝13は、前後方向D1に圧縮されたAOCインレットシール11の側壁11Aに、火炎の突き抜けを防ぐことのできる曲がった形状の隙間を形成する。
そのために、屈曲溝13は、
図6(a)に示すように、上下方向に延在し、かつ前後方向にある程度の幅を持って形成されており、前後方向D1に圧縮されたAOCインレットシール11の変形分の逃げとして機能する。前後方向D1にAOCインレットシール11が圧縮されると(
図5(a))、屈曲溝13が全体としてD3方向に延伸し(V字が開く)、屈曲溝13の幅が狭まるように側壁11Aが弾性変形するため、側壁11Aが面外方向に畝状に隆起せず、隆起した部分の間に筋状の皺83ができるのも避けることができる。
以上より、屈曲溝13が予め形成されていることで、AOCインレットシール11は加圧時に所定の変形挙動を示し、変形後の不定形な皺83の発生を防止することができるので、変形後の側壁11Aに、屈曲した部分131を中心とする意図した形状の溝を与えることができる。
【0046】
上記のようにAOCインレットシール11の変形が制御される結果、屈曲溝13は残りつつ、側壁11Aにおける屈曲溝13以外の位置では、凹凸が少ない面を得ることができる。
前後方向D1にAOCインレットシール11が圧縮された後の屈曲溝13(
図5(a))は、圧縮前の形態(
図6(a))よりも上下方向に延伸した形状に変化するものの、曲がった部分131を維持する。
【0047】
その後、スラストリバーサーカウル5Cを閉じる際、
図5(b)に示すように、屈曲溝13のある側壁11Aにナセルシール12を押し付けると、屈曲溝13が形成されていることで強度が低下している分、側壁11Aが容易に弾性変形するので、AOCインレットシール11の側壁11Aとナセルシール12の表面とを密着させ易い。AOCインレットシール11の側壁11Aに、ナセルシール12がD2方向(左右方向)から押し付けられることで、屈曲溝13が変形したり深さが減少したりしたとしても、屈曲溝13の曲がった部分131およびその近傍には空隙が維持される。そして、側壁11Aの表面とナセルシール12の表面との間に、屈曲溝13の内側の空間に相当する隙間が残される。
【0048】
以上より、ファイアシール構造10によれば、AOCインレットシール11の屈曲溝13の存在により、AOCインレットシール11が前後方向D1に圧縮されていて、かつ、AOCインレットシール11の側壁11Aにナセルシール12が押し付けられている状態において(
図4)、AOCインレットシール11の側壁11Aとナセルシール12との間に、曲がった部分131を有する意図した形状の隙間を設定することができる。
したがって、防火区域6内の火炎が、側壁11Aとナセルシール12との間の隙間に入ったとしても、火炎Fは曲がった部分131(
図5(a))を通過できないので、その隙間を通じて火炎Fが防火区域6の外に出るのを防ぐことができる。
また、屈曲溝13が形成されていると、AOCインレットシール11が圧縮されている状態でも、ナセルシール12が押圧された時に側壁11Aが容易に弾性変形し、それよりも前方のAOCインレットフレーム70や後方のパイロン下部21と密着する。それによって、AOCインレットシール11と前後の部材70,21との境界をも確実に封止することができるので、それらの境界から火炎が突き抜けるのも十分に防ぐことができる。
【0049】
AOCインレットシール11に予め成形されている屈曲溝13(
図6(a))の幅は、中央の曲がった部分131では広く、端部(13A,13B)ではそれよりも狭くなるように徐々に変化している。そうすると、AOCインレットシール11が前後方向D1に圧縮される時(
図5(a))あるいは側壁11Aにナセルシール12が側方から押し付けられる時(
図5(b))に、側壁11Aをスムーズに弾性変形させ、変形分を屈曲溝13の内側に吸収しながら、曲がった部分131およびその近傍をたとえ微小な幅であれ、側壁11Aに残すことができる。屈曲溝13が断面V字状であることも、スムーズな変形に寄与する。
【0050】
屈曲溝13の幅や、断面形状、側壁11Aの表面からの深さ等は、側壁11Aの変形の状態、側壁11Aの強度、屈曲溝13の形態を検証する試験やシミュレーション等に基づいて、適宜に定めることができる。
屈曲溝13がAOCインレットシール11の内部空間11Bまで貫通しない限り、屈曲溝13を適宜な深さに設定可能である。
【0051】
屈曲溝13に代えて採用しうる形態の屈曲溝を
図7および
図8に例示する。
図7および
図8に示す屈曲溝のいずれも、AOCインレットシール11が無負荷の時の形態を示している。
図7(a)に示す屈曲溝14は、AOCインレットシール11の側壁11Aの上端から下端までの全体に亘り形成されている。屈曲溝14の上端14AはAOCインレットシール11の上面に貫通し、屈曲溝14の下端14BはAOCインレットシール11の下面に貫通している。
図7(b)に示す屈曲溝15は、曲がった部分131が上端13Aおよび下端13Bよりも前方に位置するように横倒しのV字状に形成されている。
【0052】
図8(a)および(b)に示すように、AOCインレットシール11の側壁11Aには、2つ以上の屈曲溝を形成することもできる。AOCインレットシール11の変形分を複数の屈曲溝の内側に吸収することで、側壁11Aの皺をより十分に防ぐことができる。
図8(a)では、2つの屈曲溝13が、前後方向に並んで側壁11Aに形成されている。
図8(b)でも、2つの屈曲溝17が、前後方向に並んで側壁11Aに形成されている。屈曲溝17は、2つの曲がった部分171,172を含んでS字状に形成されている。部分171,172は、互いに逆向きに曲がっている。
図8(c)に示す屈曲溝18は、3つの曲がった部分181,182,183を有している。
屈曲溝17または屈曲溝18のように、複数の曲がった部分により曲がりくねったラビリンス状(迷路状)に構成されていると、火炎の進行方向の前方に複数の曲がった部分が存在するので、より確実に火炎の通過を阻止することができる。
【0053】
上述した屈曲溝13等の幅および深さは、側壁11Aに皺ができるのを避けてAOCインレットシール11を前後方向に圧縮させることのできる最小限の寸法に設定すれば足り、前後方向にAOCインレットシール11が圧縮された時には屈曲溝13の曲がった部分131およびその近傍に僅かな空隙しか残されていなくてもよい。少なくとも一つの曲がった部分131およびその近傍に間隙を残すことのできる限り、屈曲溝13等を一定の幅に形成することもできる。
【0054】
〔第2実施形態〕
次に、
図9を参照し、本発明の第2実施形態に係るファイアシール構造30を説明する。
ファイアシール構造30のAOCインレットシール31の側壁31Aには、
図9(a)および(b)に示すように、ナセルシール12の形状に倣って側壁31Aの表面から窪む凹部310が形成されている。
側壁31Aに押し付けられるナセルシール12の部位12Aは、
図9(a)に示すようにAOCインレットシール31に向けて凸となる向きに湾曲しており、凹部310の内側に受け入れられる。
図9(b)に示すように、凹部310が形成されている範囲に屈曲溝13の曲がった部分131が存在する。
【0055】
図9(a)に示すように、圧縮されたAOCインレットシール31の側壁31Aにナセルシール12が押し付けられると、第1実施形態と同様に、屈曲溝13の作用により側壁31Aに皺ができるのを避け、曲がった部分131とその近傍に微小な隙間を設定することができる。それに加えて、凹部310の内周部によってナセルシール12が包み込まれることにより、側壁31Aとナセルシール12との間に、3次元的なラビリンスが形成される。
【0056】
このラビリンスは、AOCインレットシール11およびナセルシール12の双方が圧縮状態に弾性変形している時に、
図9(b)に示す座標のXZ面内で曲がっている屈曲溝13と、YZ面内で曲がっている凹部310とによって形成されるものであって、3次元的に入り組んでいる。そのため、防火区域6内から凹部310の内側へと入り、屈曲溝13を通じて突き抜けようとする火炎を十分に阻止することができる。
【0057】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
本発明のファイアシール構造は、AOCインレットシール11およびナセルシール12の他にも、航空機を構成する部材に設けられている弾性シール同士が突き当てられる箇所に適用することができる。