特許第6735224号(P6735224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6735224アストロサイトのグルコース代謝活性化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6735224
(24)【登録日】2020年7月15日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】アストロサイトのグルコース代謝活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/73 20060101AFI20200728BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20200728BHJP
   A61K 36/82 20060101ALI20200728BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20200728BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200728BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20200728BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20200728BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20200728BHJP
【FI】
   A61K36/73
   A61K36/48
   A61K36/82
   A61P3/08
   A61P43/00 107
   A61P25/28
   A23L33/105
   A61K127:00
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-248774(P2016-248774)
(22)【出願日】2016年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-137296(P2017-137296A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-13957(P2016-13957)
(32)【優先日】2016年1月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】石田 恵子
(72)【発明者】
【氏名】三澤 幸一
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 浩二郎
【審査官】 春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−283227(JP,A)
【文献】 特開平05−246866(JP,A)
【文献】 CHATURVEDULA V, PRAKASH I,Isolation of Stigmasterol and β-Sitosterol from the dichloromethane extract of Rubus suavissimus,International Current Pharmaceutical Journal,2012年,Vol.1, No.9,p.239-242
【文献】 Sookwong Phumon,宮澤 大樹 ほか,認知症および血管新生病に対するビタミンEの改善効果,Functional Food,2010年,第3巻,第3号,p.253−258
【文献】 浦野 四郎,酸化ストレスと老化により発現する退行性変化・認識機能低下とビタミンEによる防御,ビタミン,2009年,第83巻,第3号,p.85−93
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A23L 33/00−33/29
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
甜茶、ルイボス、または紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とし、該疎水性溶媒がペンタン、ヘキサン、超臨界二酸化炭素および食用油からなる群より選択される1種以上である、アストロサイトのグルコース代謝活性化剤。
【請求項2】
甜茶、または紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とし、該疎水性溶媒がペンタン、ヘキサン、超臨界二酸化炭素および食用油からなる群より選択される1種以上である、脳内神経細胞賦活化剤。
【請求項3】
甜茶、または紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とし、該疎水性溶媒がペンタン、ヘキサン、超臨界二酸化炭素および食用油からなる群より選択される1種以上である、脳機能低下抑制剤。
【請求項4】
甜茶、または紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とし、該疎水性溶媒がペンタン、ヘキサン、超臨界二酸化炭素および食用油からなる群より選択される1種以上である、脳機能向上剤。
【請求項5】
甜茶、または紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とし、該疎水性溶媒がペンタン、ヘキサン、超臨界二酸化炭素および食用油からなる群より選択される1種以上である、脳機能障害の予防または改善剤。
【請求項6】
甜茶、または紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とし、該疎水性溶媒がペンタン、ヘキサン、超臨界二酸化炭素および食用油からなる群より選択される1種以上である、脳機能低下抑制用飲食品組成物。
【請求項7】
甜茶、または紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とし、該疎水性溶媒がペンタン、ヘキサン、超臨界二酸化炭素および食用油からなる群より選択される1種以上である、脳機能向上用飲食品組成物。
【請求項8】
甜茶、または紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とし、該疎水性溶媒がペンタン、ヘキサン、超臨界二酸化炭素および食用油からなる群より選択される1種以上である、脳機能障害の予防または改善用飲食品組成物。
【請求項9】
前記疎水性溶媒がヘキサンまたは超臨界二酸化炭素である、請求項1〜5のいずれか1項記載の剤。
【請求項10】
前記食用油が、ナタネ油および大豆油からなる群より選択される1種以上である、請求項1〜5のいずれか1項記載の剤。
【請求項11】
前記疎水性溶媒がヘキサンまたは超臨界二酸化炭素である、請求項6〜8のいずれか1項記載の飲食品組成物。
【請求項12】
前記食用油が、ナタネ油および大豆油からなる群より選択される1種以上である、請求項6〜8のいずれか1項記載の飲食品組成物。
【請求項13】
前記食用油がナタネ油である、請求項1〜5のいずれか1項記載の剤。
【請求項14】
前記食用油がナタネ油である、請求項6〜8のいずれか1項記載の飲食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アストロサイトのグルコース代謝を活性化する素材に関する。
【背景技術】
【0002】
脳はグルコースを重要なエネルギー基質とし、その代謝により産生されるATPを用いて活動を維持している。脳神経細胞のエネルギー代謝は脳機能の維持において重要であり、これまで脳エネルギー代謝研究が盛んに行われてきた。1988年のFoxらによるPositron Emission Tomography (PET)を用いた研究では、ヒトの視覚野の脳グルコース消費率、脳血流量および脳酸素消費量を測定し、視覚刺激による脳の機能活動亢進により脳グルコース消費が高まること、およびこの代謝が嫌気的であることが明らかにされている(非特許文献1)。したがって、脳グルコース代謝は脳の機能活動と相関すると考えられる。一方、脳グルコース代謝は、加齢により、またはアルツハイマー病の初期段階から低下することが報告されている(非特許文献2、3)。脳グルコース代謝の改善は、加齢に伴う脳機能障害や、アルツハイマー病をはじめとする認知症の予防および軽減に有用であると考えられる(特許文献1)。
【0003】
これまで、脳グルコース代謝機構については不明な点が多かった。2000年、脳機能を考える上で細胞間のネットワークが重要であるというneurovascular unitという概念が提唱された。脳グルコース代謝の場合も同様に、ニューロン、脳微小循環(微小血管)、アストロサイトの3者間のネットワークが重要であるとされている。現在、種々の反証はあるものの、脳グルコース代謝機構としてはアストロサイトーニューロン間の乳酸供与仮説(astrocyte−neuron lactate shuttle hyposis;ANLSH)が一般的に支持されている。この仮説によれば、脳の機能活動の際、グルコースは、主にアストロサイトのグルコース輸送体1(glucose transporter 1;GLUT1)を介して細胞内に取り込まれ、解糖系で代謝されて乳酸に変換される。その後乳酸は、アストロサイト上の乳酸輸送担体1(monocarboxylate transpoter 1;MCT1)および乳酸輸送担体4(monocarboxylate transpoter 4;MCT4)の働きにより細胞外に輸送され、ニューロンに取り込まれる。ニューロンは取り込んだ乳酸をエネルギー基質としてATPを産生し、これをエネルギー源にして活動する(非特許文献4)。ニューロン自身もグルコースを取り込むことは可能であるが、ニューロンはグルコースよりも乳酸を選択的に取り込み、エネルギー基質として用いている(非特許文献5)。したがって、アストロサイトのグルコース代謝による乳酸供給が、ニューロンの活動や機能維持にとって非常に重要であると考えられている。
【0004】
したがって、近年、脳内乳酸に関する研究が盛んに行われている。非特許文献6では、アストロサイトに存在する乳酸輸送担体であるMCT1またはMCT4を欠損させたマウスでは記憶形成が低下すること、このマウスの脳内への乳酸投与は記憶形成の低下を改善する一方、グルコース投与は記憶形成の低下改善には効果がないこと、これらの知見から、アストロサイトからニューロンへの乳酸供給が記憶を形成する上で非常に重要であると考えられることが報告されている。
【0005】
一方、特許文献1には、脳内でインスリン感受性を改善しグルコース利用を増進させる物質の投与により、患者の精神活動を改善する方法が記載されている。しかし、非特許文献6によると、脳機能改善には、脳内ニューロンによるグルコース利用の増進だけでは不十分であり、アストロサイトによる乳酸産生の増加やアストロサイトからニューロンへの乳酸の供給が重要であると考えられる。
【0006】
特許文献2には、ブドウ種子抽出物由来のガロイル化プロアントシアニジンを神経変性疾患の治療のために使用することが記載されている。特許文献3には、未発酵ルイボスの水−アルコールとの混合溶液による抽出物を認知症疾患の予防および/または治療のために使用することが記載されている。特許文献4には、Aspalathus linearis(ルイボス)エキスまたはコウチャエキスを含むカスパーゼ−9活性阻害組成物を、カスパーゼ−9の存在が関与する神経疾患の治療または予防のための医薬製剤として使用することが記載されている。特許文献5および6には、生体内での蛋白質糖化反応が認知症などの加齢による機能低下の要因であること、ならびにルイボス、甜茶および紅茶の熱水抽出物が蛋白質糖化反応を阻害または最終糖化産物の酵素分解を促進したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−532416号公報
【特許文献2】特表2011−520814号公報
【特許文献3】特表2012−501990号公報
【特許文献4】特開2004−307443号公報
【特許文献5】特開2013−253072号公報
【特許文献6】特開2014−118406号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Science, 241:462-464, 1988
【非特許文献2】J Neurol Sci, 181(1-2):19-28, 2000
【非特許文献3】Neuroimage, 17:302-316, 2002
【非特許文献4】Cell Metabo, 14(6):724-738, 2011
【非特許文献5】脳循環代謝, 21:18-27, 2010
【非特許文献6】Cell, 144:810-823, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、脳内神経活動の向上、または加齢、アルツハイマー病等の認知症などによって生じる脳機能障害の予防または改善に有効な素材を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、脳内グルコース代謝の活性化に有効な成分の探索を行った結果、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物が、アストロサイトのグルコース代謝を活性させる作用を有し、脳内の神経活動の賦活化、脳機能の向上もしくは抑制低下、または脳機能障害の予防もしくは改善などに有効であることを見出した。
【0011】
したがって、本発明は、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とする、アストロサイトのグルコース代謝活性化剤を提供する。
また本発明は、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とする、脳内神経細胞賦活化剤を提供する。
また本発明は、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とする、脳機能低下抑制剤を提供する。
また本発明は、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とする、脳機能向上剤を提供する。
また本発明は、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とする、脳機能障害の予防または改善剤を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、優れたアストロサイトのグルコース代謝活性化作用を有し、脳内ニューロンへのエネルギー供給の向上および脳内神経活動の向上に有効な素材を提供することができる。本発明によれば、脳機能の向上、脳機能の低下抑制、または加齢、アルツハイマー病等の認知症などによって生じる脳機能障害の予防もしくは改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】甜茶抽出物によるアストロサイトのグルコース代謝活性化作用。A:ヘキサン抽出物、エラーバー=±標準誤差(n=5〜6)。B:エタノール抽出物、エラーバー=±標準誤差(n=4〜6)。* p<0.05、*** p<0.001(t検定、vs 対照)。
図2】ルイボス抽出物によるアストロサイトのグルコース代謝活性化作用。A:ヘキサン抽出物、エラーバー=±標準誤差(n=5〜6)。B:エタノール抽出物、エラーバー=±標準誤差(n=4〜5)。** p<0.005、*** p<0.001(t検定、vs 対照)。
図3】ブドウ抽出物によるアストロサイトのグルコース代謝活性化作用。A:ヘキサン抽出物、エラーバー=±標準誤差(n=4〜5)。B:エタノール抽出物、エラーバー=±標準誤差(n=4〜6)。* p<0.05、*** p<0.001(t検定、vs 対照)。
図4】紅茶抽出物によるアストロサイトのグルコース代謝活性化作用。A:ヘキサン抽出物、エラーバー=±標準誤差(n=5〜6)。B:エタノール抽出物、エラーバー=±標準誤差(n=4〜5)。*** p<0.001(t検定、vs 対照)。
図5】甜茶ヘキサン抽出物によるGLUT1遺伝子の発現向上。エラーバー=±標準誤差(n=4)。*** p<0.001(t検定、vs 対照)。
図6】ルイボスヘキサン抽出物によるGLUT1遺伝子およびMCT4遺伝子の発現向上。エラーバー=±標準誤差(n=4)。* p<0.05(t検定、vs 対照)。
図7】ブドウヘキサン抽出物によるGLUT1遺伝子およびMCT1遺伝子の発現向上。エラーバー=±標準誤差(n=4)。* p<0.05、** p<0.005(t検定、vs 対照)。
図8】紅茶ヘキサン抽出物によるGLUT1遺伝子、MCT1遺伝子およびMCT4遺伝子の発現向上。エラーバー=±標準誤差(n=4)。* p<0.05、** p<0.005、*** p<0.001(t検定、vs 対照)。
図9】マウスにおける甜茶抽出物投与による新奇物体認識力の改善。エラーバー=±標準誤差(n=6〜8)。*** p<0.001(One-way ANOVA Tukey test)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「アストロサイトのグルコース代謝活性化」とは、好ましくは、アストロサイトによるグルコースを乳酸に変換する代謝活動、またはアストロサイトによる乳酸産生活動の向上をいう。アストロサイトのグルコース代謝レベルの変化は、アストロサイトによるグルコース取込み量または乳酸産生量の変化を測定することによって評価することができる。アストロサイトによるグルコース取込み量または乳酸産生量の変化は、グルコース含有培地でアストロサイトを培養し、培養前後での培地中のグルコース量または乳酸量を比較することによって測定することができる。または、アストロサイトのグルコース代謝レベルの変化は、グルコース含有培地でアストロサイトを培養し、酸素消費量を測定するか、または生産された乳酸による培地のpH変化を測定することによって評価することができる。培地のpH変化は、培地の水素イオン濃度の変化を測ることで測定することができる。細胞の酸素消費量や培地のpH変化の測定は、例えば、細胞外フラックスアナライザー(Seahorse Bioscience)によって行うことができる。
【0015】
あるいは、アストロサイトのグルコース代謝レベルの変化は、アストロサイトにおけるグルコース取込み、グルコースから乳酸への変換または乳酸輸送に関与する遺伝子もしくはタンパク質の発現量を測定することによって評価することができる。アストロサイトのグルコース取込み、グルコースから乳酸への変換または乳酸輸送に関与する遺伝子もしくはタンパク質としては、グルコース輸送体1(glucose transporter 1;GLUT1)、乳酸輸送担体1(monocarboxylate transpoter 1;MCT1)、乳酸輸送担体4(monocarboxylate transpoter 4;MCT4)、およびこれらをコードする遺伝子、ならびに該遺伝子のホモログ、パラログおよびオルソログが挙げられる。該遺伝子またはタンパク質の発現量の測定には、当該分野で通常用いられる方法が利用できる。例えば、遺伝子の発現量は、定量RT−PCR法、RNA分解酵素プロテクションアッセイ法、ノーザンブロット解析法、次世代シーケンサーを用いたRNA−Seq解析、DNAマイクロアレイ解析などにより測定することができ、タンパク質の発現量は、通常の免疫測定法、例えばRIA法、ELISA、バイオアッセイ法、プロテオーム、ウェスタンブロットなどにより測定することができる。
【0016】
本明細書において「脳機能」としては、記憶、学習、思考、注意または知覚、言語、時空間認識、見当識、その他抽象的事象の認知または総合判断能力、および実行能力などが挙げられ、好ましくは記憶または学習能力、総合判断能力、および実行能力が挙げられる。したがって、本明細書における「脳機能低下抑制」および「脳機能向上」とは、好ましくは、記憶、学習、思考、注意または知覚、言語、時空間認識、見当識、その他抽象的事象の認知または総合判断能力、および実行能力について、該能力の低下を抑制することおよび該能力を向上させることである。さらに本明細書における「脳機能障害」とは、好ましくは、加齢、外傷、またはアルツハイマー病や脳血管性認知症等の認知症などによって生じる記憶障害、学習障害、思考能力障害、または認知もしくは総合判断能力の障害、あるいはアルツハイマー病や脳血管性認知症等の認知症の症状または徴候をいう。
【0017】
本明細書において、「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療または診断する方法を含まない概念、より具体的には医師または医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療または診断を実施する方法を含まない概念である。
【0018】
本明細書において、「予防」とは、個体における疾患、症状もしくは状態の発症の防止、抑制または遅延、あるいは個体の疾患、症状もしくは状態の発症の危険性を低下させることをいう。また本明細書において、「改善」とは、疾患、症状もしくは状態の好転、疾患、症状もしくは状態の悪化の防止、抑制または遅延、あるいは疾患、症状もしくは状態の進行の逆転、防止、抑制または遅延をいう。
【0019】
本発明で使用される甜茶とは、バラ科テンチャ(Rubus suavissimus S. Lee)の葉である。
【0020】
本発明で使用されるルイボスとは、マメ科ルイボス(Aspalathus linearis L.)である。また本発明で使用されるブドウとは、ブドウ科ブドウ属に属する植物をいい、ヨーロッパブドウ(ヴィニフェラ種 Vitis vinifera L.)、アメリカブドウ(ラブルスカ種 Vitis labrusca)、マスカダイン(ロトゥンディフォリア種 Vitis rotundifolia)、アムールブドウ(アムレンシス種 Vitis amurensis)、ヤマブドウ(Vitis coignetiae)およびそれらの交雑種などが挙げられ、好ましくはVitis vinifera L.である。ブドウは果皮の色により「赤」、「黒」および「緑(白)」の三つに大別されるが、本発明では赤、黒、および緑(白)ブドウのいずれも使用することができ、またそれらを組み合わせて使用することもできる。好ましくは赤ブドウが使用される。上記植物は、任意の部位、例えばその植物の全木、全草、葉(葉身、葉柄を含む)、樹皮、木質部、枝、果実、果皮、種子、花(花弁、子房を含む)、根、根茎等、またはそれらの組み合わせを使用することができる。好ましい使用部位としては、ルイボスは葉であり、ブドウは果実または果皮、より好ましくは果皮および種を含む果実である。
【0021】
本発明で使用される紅茶とは、ツバキ科チャ(Camellia sinensis)の葉の発酵物である。
【0022】
本発明において、上記甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶は、そのまま、または切断、破砕、粉砕もしくは搾取して使用されてもよく、またはそれらの乾燥物が使用されてもよい。好適には乾燥物が用いられる。該乾燥物は、切断、破砕、粉砕もしくは粉末化されていてもよい。
【0023】
本発明において使用される甜茶抽出物、ルイボス抽出物、ブドウ抽出物または紅茶抽出物は、上記甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶を、そのまま抽出、または乾燥、切断、破砕、粉砕もしくは搾取したものから抽出した抽出物であってもよいが、好適には、上記甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の乾燥物、または該乾燥物を切断、破砕、粉砕もしくは粉末化したものからの抽出物である。
【0024】
上記抽出物を得るための抽出手段としては、例えば、固液抽出、圧搾抽出、液液抽出、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、ソックスレー抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出、攪拌等の通常の手段を用いることができる。これらの抽出手段は組み合わせてもよい。例えば、浸漬や固液抽出と液液抽出を組み合わせてもよく、または抽出時間を短縮する場合には、攪拌を伴う固液抽出をおこなってもよい。
【0025】
上記抽出物の抽出のための溶媒としては、疎水性溶媒(低極性溶媒および非極性溶媒を含む)、例えば、ジエチルエーテル等の鎖状エーテル類;ペンタン、ヘキサン等の飽和または不飽和の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;二酸化炭素、超臨界二酸化炭素;ナタネ油、大豆油等の食用油;ジアシルグリセロール(DAG)、中鎖脂肪酸油、スクワラン、スクワレン等の油脂類;ならびにこれらの混合物が挙げられる。上記抽出溶媒のうち、ペンタン、ヘキサン、超臨界二酸化炭素、食用油および油脂類が好ましく、ヘキサンがより好ましい。
【0026】
抽出における溶媒の使用量としては、植物(乾燥質量換算)1gに対して1〜100mLが好ましい。抽出条件は、十分な抽出が行える条件であれば特に限定されない。通常、溶媒がより低温であればより長時間、溶媒がより高温であればより短時間の抽出を行う。例えば、抽出時間は1時間以上が好ましく、12時間以上がより好ましく、他方、2ヶ月以下が好ましく、4週間以下がより好ましい。また例えば、抽出温度は0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、他方、溶媒沸点以下が好ましいが、室温程度であってもよい。好ましい抽出条件の例としては、15〜40℃で3日〜4週間等が挙げられるが、これらに限定されず、当業者によって適宜選択され得る。
【0027】
超臨界二酸化炭素抽出の条件としては、二酸化炭素使用量は植物(乾燥質量換算)1gに対して10〜200g、7.5〜50MPa、40〜100℃、1〜24時間が好ましい。必要に応じてエタノールを1質量%程度添加してもよい。
【0028】
上述の手順で得られた抽出物に対して、必要に応じて、植物抽出物の製造に一般的に用いられる精製処理、例えば、有機溶剤沈殿、遠心分離、限界濾過膜、高速液体クロマトグラフ、カラムクロマトグラフ、液液分配、ゲルろ過分離、活性炭等を用いた処理を行うこともできる。
【0029】
上述の手順で得られた抽出物は、抽出液やその画分を単独でまたは混合して、そのまま用いてもよく、または適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、または濃縮や凍結乾燥などにより濃縮エキスや乾燥粉末もしくはペースト状に調製して用いてもよい。あるいは、該濃縮エキスや乾燥粉末もしくはペーストを、用時に溶媒、例えば水、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、水−エタノール混合液、水−プロピレングリコール混合液、水−ブチレングリコール混合液等で希釈して用いることもできる。またあるいは、該濃縮エキスや乾燥粉末もしくはペーストを、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0030】
本発明において、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物は、いずれかが単独で使用されてもよく、またはいずれか2以上の組み合わせで使用されてもよい。好ましくは、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶のヘキサン抽出物、またはそれらのヘキサン抽出物からなる群より選択される2以上の組み合わせが使用される。
【0031】
甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物は、アストロサイトのグルコース代謝を活性化する作用、及び障害により低下した脳機能を向上させる作用を有する(後述の実施例1〜3)。アストロサイトのグルコース代謝の活性化は、脳内のニューロンにエネルギー基質となる乳酸をより多く供給することによって、脳内ニューロンの活動を上昇させ(例えば非特許文献1、4参照)、また脳機能(例えば、記憶、学習、総合判断能力等の認知機能、および実行能力)の向上またはその低下抑制をもたらす(例えば非特許文献2、6参照)。したがって、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物は、アストロサイトのグルコース代謝活性化のため、脳内ニューロンへのエネルギー供給の向上のため、脳内神経細胞賦活化のため、脳機能の向上または脳機能の低下抑制のため、さらには脳機能障害の予防または改善のために有効である。
【0032】
したがって、一態様において、本発明は、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つを有効成分とする、アストロサイトのグルコース代謝活性化剤を提供する。また本発明は、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つを有効成分とする、脳内ニューロンへのエネルギー供給向上剤、脳内神経細胞賦活化剤、脳機能向上剤、脳機能低下抑制剤、あるいは脳機能障害の予防または改善剤を提供する。
別の態様において、本発明は、アストロサイトのグルコース代謝活性化剤、脳内ニューロンへのエネルギー供給向上剤、脳内神経細胞賦活化剤、脳機能向上剤、脳機能低下抑制剤、あるいは脳機能障害の予防または改善剤の製造のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用を提供する。
一実施形態において、上記の剤は、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つから本質的に構成され得る。
【0033】
また別の態様において、本発明は、アストロサイトのグルコース代謝活性化、脳内ニューロンへのエネルギー供給向上、脳内神経細胞賦活化、脳機能向上、脳機能低下抑制、あるいは脳機能障害の予防または改善のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用を提供する。
さらに別の態様において、本発明は、アストロサイトのグルコース代謝活性化、脳内ニューロンへのエネルギー供給向上、脳内神経細胞賦活化、脳機能向上、脳機能低下抑制、あるいは脳機能障害の予防または改善に使用するための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つを提供する。
【0034】
本発明による上記使用は、治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。治療的使用の例としては、認知症と診断された者、または重度の認知機能障害を有し、日常生活に支障をきたしている者に対する使用が挙げられる。非治療使用の例としては、脳機能の低下により日常生活に支障をきたしていないが、脳機能向上、脳機能低下抑制または脳機能障害の予防を必要とする者、例えば、軽度認知障害(MCI)の者、記憶、学習、認知機能等の脳機能の低下を感じる者、記憶や学習能力のさらなる向上を所望する者、などに対する使用が挙げられる。また例えば、非治療的使用とは、他者に、医療行為としてではなく甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物を投与または摂取させるために、上記脳機能向上、脳機能低下抑制または脳機能障害予防効果を謳ってそれらを提供することである。
【0035】
本発明において、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物は、ヒトおよび非ヒト動物のいずれに対しても使用することができる。非ヒト動物としては、非ヒト哺乳動物、鳥類などが挙げられ、非ヒト哺乳動物としては、例えば、類人猿、その他霊長類、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、およびコンパニオン動物などが挙げられる。
【0036】
本発明において、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物は、医薬品、医薬部外品または飲食品等に対して、アストロサイトのグルコース代謝活性化、脳内ニューロンへのエネルギー供給向上、脳内神経細胞賦活化、脳機能向上、脳機能低下抑制、あるいは脳機能障害の予防または改善の機能を付与するための有効成分として使用することができる。
【0037】
上記医薬品(医薬部外品も含む)は、アストロサイトのグルコース代謝活性化、脳内ニューロンへのエネルギー供給向上、脳内神経細胞賦活化、脳機能向上、脳機能低下抑制、あるいは脳機能障害の予防または改善のための医薬品であり、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つを、当該機能のための有効成分として含有する。さらに、該医薬品は、該有効成分の機能が失われない限りにおいて、必要に応じて薬学的に許容される担体、または他の有効成分、薬理成分等を含有していてもよい。
【0038】
上記医薬品(医薬部外品も含む)の投与形態は、経口投与および非経口投与の何れであってもよい。該医薬品の剤形は、経口または非経口的に投与可能な剤形であれば特に限定されず、例えば注射剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、各種外用剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤等の何れでもよく、また、このような種々の剤形の製剤は、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物を、薬学的に許容される担体(例えば賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、希釈剤等)、他の薬効成分等と適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。
【0039】
上記医薬品(医薬部外品も含む)における甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物の含有量(乾燥物換算)は、特に限定されないが、好ましくは全質量中0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、なお好ましくは10質量%以上であり、かつ好ましくは95質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。さらに、当該含有量の例として、0.01〜95質量%、0.01〜80質量%、0.01〜60質量%、0.1〜95質量%、0.1〜80質量%、0.1〜60質量%、1.0〜95質量%、1.0〜80質量%、1.0〜60質量%、10質量%〜95質量%、10質量%〜80質量%、および10質量%〜60質量%が挙げられる。
【0040】
上記飲食品は、アストロサイトのグルコース代謝活性化、脳内ニューロンへのエネルギー供給向上、脳内神経細胞賦活化、脳機能向上、脳機能低下抑制、あるいは脳機能障害の予防または改善の機能を提供するための飲食品であり、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つを、当該機能のための有効成分として含有する。該飲食品には、アストロサイトのグルコース代謝活性化、脳内ニューロンへのエネルギー供給向上、脳内神経細胞賦活化、脳機能向上、脳機能低下抑制、あるいは脳機能障害の予防または改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した病者用飲食品、および栄養機能飲食品、特定保健用飲食品、機能性表示飲食品等の保健機能食品が包含される。これらの飲食品は、例えば「記憶力を高める」、「物忘れや言葉忘れを防ぐ」、「言語、判断、理解または思考能力を高める」、「加齢による脳機能の衰えを予防または改善する」「認知機能の低下による妄想、徘徊、または幻覚症状を緩和または予防する」などの機能表示と共に提供されてもよい。
【0041】
上記飲食品の形態は、固形、半固形または液状(例えば飲料)であり得る。飲食品の例としては、パン類、麺類、飯類、クッキー等の菓子類、ゼリー類、乳製品、スープ類、冷凍食品、インスタント食品、でんぷん加工製品、加工魚肉製品、その他加工食品、調味料、栄養補助食品、およびお茶やコーヒー飲料、果実飲料、炭酸飲料、ゼリー状飲料等の飲料、ならびにそれらの原料が挙げられる。あるいは、該飲食品は、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、液剤、シロップなどの経口投与製剤の形態を有するサプリメントであってもよい。
【0042】
当該飲食品は、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物を、任意の飲食品材料または飲食品に許容される添加物(例えば溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、甘味料、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、固着剤、分散剤、湿潤剤等)と適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。
【0043】
上記飲食品中における、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物の含有量(乾燥物換算)は、特に限定されないが、好ましくは全質量の0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上、さらにより好ましくは0.1質量%以上、なお好ましくは1質量%以上であり、かつ好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。さらに、当該含有量の例として、0.0001〜50質量%、0.0001〜20質量%、0.0001〜10質量%、0.001〜50質量%、0.001〜20質量%、0.001〜10質量%、0.01〜50質量%、0.01〜20質量%、0.01〜10質量%、0.1〜50質量%、0.1〜20質量%、および0.1〜10質量%、1〜50質量%、1〜20質量%、および1〜10質量%が挙げられる。
【0044】
なお別の態様において、本発明は、対象のアストロサイトのグルコース代謝活性化方法を提供する。また本発明は、対象の脳内ニューロンへのエネルギー供給向上方法を提供する。また本発明は、対象の脳内神経細胞賦活化方法を提供する。また本発明は、対象の脳機能向上または脳機能低下抑制のための方法を提供する。また本発明は、対象の脳機能障害の予防または改善のための方法を提供する。当該方法は、対象に、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つを有効量で投与することを含む。当該方法は、治療的方法であっても非治療的方法であってもよい。
【0045】
上記方法における対象としては、アストロサイトのグルコース代謝活性化、脳内ニューロンへのエネルギー供給向上、脳内神経細胞賦活化、脳機能向上、脳機能低下抑制、または脳機能障害の予防もしくは改善が所望されるかまたはそれらを必要とする動物が挙げられる。動物としては、脳を有する動物であれば特に限定されないが、上述したヒトおよび非ヒト動物が挙げられ、より好ましくはヒトである。
【0046】
本発明のアストロサイトのグルコース代謝活性化方法、脳内ニューロンへのエネルギー供給向上方法、および脳内神経細胞賦活化方法は、インビトロ方法であってもよい。インビトロ方法の場合の対象としては、上述したヒトまたは非ヒト動物由来の脳組織および培養アストロサイトを挙げることができる。
【0047】
上記方法における投与の有効量は、対象のアストロサイトのグルコース代謝活性化を達成できる量であり得る。好ましくは、有効量とは、投与群のアストロサイトのグルコース代謝を、未投与群と比べて統計的に有意に上昇させることができる量である。また好ましくは、有効量とは、培養アストロサイトにおいて、投与群のグルコース代謝を、未投与群の105%以上、好ましくは110%以上、より好ましくは120%以上に上昇させることができる量である。あるいは、有効量とは、投与群の脳活動を、未投与群と比べて統計的に有意に上昇させることができる量である。脳活動の測定は、機能的MRI、PET、単一光子放射断層撮影(SPECT)、近赤外線分光法(NIRS)、脳磁計(MEG)などによって測定することができる。
【0048】
本発明において、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物の投与量および投与計画は、対象の種、体重、性別、年齢、状態、またはその他の要因に従って当業者により適宜決定されればよい。限定ではないが、本発明による甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物(乾燥物換算)の投与量は、例えば成人1人1日当たり、好ましくは1mg以上、より好ましくは5mg以上、さらに好ましくは15mg以上であり、かつ好ましくは10g以下、より好ましくは5g以下、さらに好ましくは1g以下である。上記の用量を、例えば、1日に1回、2回または3回以上に分け、数週間〜数ヶ月間継続して投与することが好ましい。
【0049】
本発明はまた、例示的実施形態として以下の物質、製造方法、用途、方法等を包含する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0050】
〔1〕甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とする、アストロサイトのグルコース代謝活性化剤。
〔2〕甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とする、脳内神経細胞賦活化剤。
〔3〕甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とする、脳機能低下抑制剤。
〔4〕甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とする、脳機能向上剤。
〔5〕甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とする、脳機能障害の予防または改善剤。
〔6〕甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分とする、脳内ニューロンへのエネルギー供給向上剤。
〔7〕アストロサイトのグルコース代謝活性化剤の製造のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用。
〔8〕脳内神経細胞賦活化剤の製造のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用。
〔9〕脳機能低下抑制剤の製造のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用。
〔10〕脳機能向上剤の製造のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用。
〔11〕脳機能障害の予防または改善剤の製造のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用。
〔12〕脳内ニューロンへのエネルギー供給向上剤の製造のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用。
〔13〕アストロサイトのグルコース代謝活性化に使用するための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つ。
〔14〕脳内神経細胞賦活化に使用するための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つ。
〔15〕脳機能低下抑制に使用するための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つ。
〔16〕脳機能向上に使用するための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つ。
〔17〕脳機能障害の予防または改善に使用するための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つ。
〔18〕脳内ニューロンへのエネルギー供給向上に使用するための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つ。
〔19〕アストロサイトのグルコース代謝活性化のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用。
〔20〕脳内神経細胞賦活化のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用。
〔21〕脳機能低下抑制のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用。
〔22〕脳機能向上のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用。
〔23〕脳機能障害の予防または改善のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用。
〔24〕脳内ニューロンへのエネルギー供給向上のための、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つの使用。
〔25〕対象に、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つを有効量で投与することを含む、対象のアストロサイトのグルコース代謝活性化方法。
〔26〕対象に、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つを有効量で投与することを含む、対象の脳内神経細胞賦活化方法。
〔27〕対象に、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つを有効量で投与することを含む、対象の脳機能低下抑制方法。
〔28〕対象に、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つを有効量で投与することを含む、対象の脳機能向上方法。
〔29〕対象に、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つを有効量で投与することを含む、対象の脳機能障害の予防または改善方法。
〔30〕対象に、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物からなる群より選択される少なくとも1つを有効量で投与することを含む、対象の脳内ニューロンへのエネルギー供給向上方法。
〔31〕前記〔1〕、〔7〕、〔13〕、〔19〕、〔25〕において、好ましくは、前記アストロサイトのグルコース代謝活性化は、アストロサイトにおけるGLUT1の遺伝子、MCT1の遺伝子およびMCT4の遺伝子からなる群より選択される1種以上の遺伝子の発現向上である。
〔32〕前記〔5〕、〔11〕、〔17〕、〔23〕、〔29〕において、好ましくは、前記脳機能障害は、加齢、外傷または認知症によって生じる記憶障害、学習障害、思考能力障害、または認知もしくは総合判断能力の障害、あるいは認知症の症状または徴候である。
〔33〕前記〔1〕〜〔12〕において、好ましくは、前記剤は経口投与製剤である。
〔34〕前記〔13〕〜〔18〕において、好ましくは、前記使用は、アストロサイトのグルコース代謝活性化、脳内神経細胞賦活化、脳機能低下抑制、脳機能向上、脳機能障害の予防もしくは改善、または脳内ニューロンへのエネルギー供給向上のための医薬としての使用である。
〔35〕前記〔34〕において、好ましくは、前記医薬は経口薬である。
〔36〕前記〔19〕〜〔24〕において、好ましくは前記使用は非治療的使用である。
〔37〕前記〔36〕において、好ましくは、前記甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物は、サプリメントの形態で使用される。
〔38〕前記〔25〕〜〔30〕において、好ましくは、前記投与は経口投与である。
〔39〕前記〔1〕〜〔38〕において、好ましくは、
前記甜茶は、Rubus suavissimus S. Leeの葉であり、
前記ルイボスは、Aspalathus linearis L.の葉であり、
前記ブドウは、Vitis vinifera L.の果皮および種を含む果実であり、
前記紅茶は、Camellia sinensisの葉の発酵物である。
〔40〕前記〔1〕〜〔39〕において、前記甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶の疎水性溶媒抽出物は、
好ましくは、ペンタン、ヘキサン、超臨界二酸化炭素、食用油または油脂類からなる群より選択される溶媒を用いて抽出された抽出物であり、
より好ましくは、ヘキサン抽出物である。
〔41〕前記〔25〕〜〔30〕において、前記対象は、好ましくは、アストロサイトのグルコース代謝活性化、脳内ニューロンへのエネルギー供給向上、脳内神経細胞賦活化、脳機能向上、脳機能低下抑制、または脳機能障害の予防もしくは改善が所望されるか、またはそれらを必要とする動物である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0052】
製造例 抽出物の調製
(甜茶抽出物)
バラ科テンチャ(Rubus suavissimus S. Lee)の葉乾燥品(甜茶、茶卸総本舗より購入)10gに、ヘキサンまたは99.5%エタノール100mLを加え、室温、静置下で8−11日間浸漬した。その後、ろ過により抽出残渣を除去した後、得られた抽出液を減圧にて留去・乾燥し、ヘキサン抽出物50.8mgおよびエタノール抽出物424.1mgを得た。
【0053】
(ルイボス抽出物)
マメ科ルイボス(Aspalathus linearis L.)の葉乾燥品(ルイボスティー、茶卸総本舗より購入)10gに、ヘキサンまたは99.5%エタノール100mLを加え、室温、静置下で8−11日間浸漬した。その後、ろ過により抽出残渣を除去した後、得られた抽出液を減圧にて留去・乾燥し、ヘキサン抽出物26.6mgおよびエタノール抽出物97.7mgを得た。
【0054】
(ブドウ抽出物)
ブドウ科ブドウ(Vitis vinifera L.)の新鮮果実(チリ産レッドグローブ、水梅屋より購入)100gを、果皮、種を除去することなくそのまま凍結乾燥し、果実乾燥品20.01gを得た。本乾燥品10gに、ヘキサンまたは99.5%エタノール100mLを加え、室温、静置下で9−12日間浸漬した。その後、ろ過により抽出残渣を除去した後、得られた抽出液を減圧にて留去・乾燥し、ヘキサン抽出物9.2mgおよびエタノール抽出物3.23gを得た。
【0055】
(紅茶抽出物)
ツバキ科チャ(Camellia sinensis)の葉を原料とする発酵茶(紅茶、茶卸総本舗より購入)10gに、ヘキサンまたは99.5%エタノール100mLを加え、室温、静置下で8−11日間浸漬した。その後、ろ過により抽出残渣を除去した後、得られた抽出液を減圧にて留去・乾燥し、ヘキサン抽出物21.5mgおよびエタノール抽出物217.6mgを得た。
【0056】
実施例1 アストロサイトにおけるグルコース代謝活性化
細胞は、グルコースを解糖系で代謝し乳酸にして細胞外に放出し、細胞外に放出された乳酸は細胞周辺環境のpHを低下させる。本実施例では、アストロサイト培養物のpH変化を測定することで、被験物質がアストロサイトのグルコース代謝能に及ぼす影響を評価した。pH変化の測定には細胞外フラックスアナライザー(XF96;Seahorse Bioscience)を用いた。この機器は、細胞培養物の水素イオン濃度変化をルミネッセンス法により測定し、細胞外酸性化速度(extracellular acidification rate;ECAR)を算出する。ECARの上昇は、細胞のグルコース代謝能の向上を反映する。被験物質の添加によりECARが上昇した場合、該被験物質はアストロサイトのグルコース代謝能を活性化させる物質である。
【0057】
被験物質には、上記製造例で調製した甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶のヘキサン抽出物およびエタノール抽出物を用いた。これらの抽出物を、それぞれ濃度1%(w/v)になるように99.5%エタノールに溶解し、サンプルとして用いた。陽性対照としてはメトホルミン(グルコース代謝活性化剤(AMPK活性化剤);Sigma)1mMを用いた。
【0058】
初代培養アストロサイト(SDラット胎児大脳由来;コスモバイオ)は、アストロサイト専用培地(コスモバイオ)を用い、5%CO、95%air、37℃に保ったインキュベーター内で培養した。トリプシン・EDTA(Gibco)を用いて、細胞の継代を行い、3継代の細胞を使用した。3継代培養アストロサイトを96wellプレートに5,000個/well播種し、アストロサイト専用培地にて8日間培養した後、DMEM/F12無血清培地(Gibco)に置換した。試験前日に各サンプル(被験物質として終濃度0.002%)を培地に添加した。対照には被験物質無添加培地を用いた。
【0059】
サンプルを添加して一晩培養後、培地をXF96測定用DMEM培地(Seahorse)に置換し、ECARを測定した。測定は、1 loopを9min(mix;3min、time delay;2min、measure;4min)とし、6 loop測定後、培地にグルコース(終濃度5mM;和光純薬)またはXF96測定用DMEM培地を添加し、さらに12 loopまで測定した。グルコース添加前(6 loop目の値)のECAR値を100%とし、グルコース添加後のECARの変化率を算出し、6−12 loop間における濃度曲線下面積(AUC)を求めた。下記式のとおり、グルコース添加群とグルコース無添加群(XF96測定用培地添加群)との間のAUCの差を、各被験物質添加群のグルコース代謝能とした。
(グルコース代謝能)=(グルコース添加群AUC)−(グルコース無添加群AUC)
【0060】
被験物質無添加群(対照)のグルコース代謝能を1として、各被験物質添加群のグルコース代謝能の相対値を求めた。結果を図1−4に示す。甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶のヘキサン抽出物を添加した培地のアストロサイトでは、グルコースによるECAR上昇の増大が認められ、これらのヘキサン抽出物がアストロサイトのグルコース代謝の活性化作用を有することが示された(図1−4;A)。一方、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶のいずれについても、エタノール抽出物にはECARの上昇作用が認められなかった(図1−4;B)。
【0061】
実施例2 アストロサイトにおけるグルコース代謝関連遺伝子の発現向上
甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶のヘキサン抽出物について、アストロサイトのグルコース代謝関連遺伝子である、グルコース輸送体1(glucose transporter 1;GLUT1)、乳酸輸送担体1(monocarboxylate transpoter 1;MCT1)および乳酸輸送担体4(monocarboxylate transpoter 4;MCT4)の遺伝子の発現に対する影響を調べた。
【0062】
上記製造例で調製した甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶のヘキサン抽出物は、それぞれ濃度1%(w/v)になるように99.5%エタノールに溶解し、サンプルとして用いた。対照としては、被験物質無添加培地を用いた。
【0063】
初代培養アストロサイト(コスモバイオ)を6wellプレートに480,000個/well播種し、アストロサイト専用培地(コスモバイオ)にて8日間培養した後、DMEM/F12無血清培地(Gibco)に置換した。試験前日に各サンプル(被験物質として終濃度0.002%)を培地に添加し、一晩培養した。その後、培地を除去しPBSで洗浄後、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて細胞から全RNAを抽出した。抽出した全RNAから、High Capacity RNA−to−cDNA kit(Applied Biosystems)を用いてcDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型に、Taqman Fast Universal PCR Master Mix (Applied Biosystems)およびABI Prism 7700装置(Applied Biosystems)を用いて、定量PCRを行った。各遺伝子発現量は、GAPDH遺伝子発現量で補正した。対照群での各遺伝子発現量を1として、ヘキサン抽出物添加群における各遺伝子の相対発現量を求めた。
【0064】
結果を図5−8に示す。甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶のヘキサン抽出物を添加した培地のアストロサイトでは、GLUT1、MCT1、またはMCT4の遺伝子の発現が増加した。したがって、甜茶、ルイボス、ブドウまたは紅茶のヘキサン抽出物が、遺伝子レベルで、アストロサイトのグルコース取り込みまたは乳酸輸送を促進し、細胞のグルコース代謝を活性化していることが示された。
【0065】
実施例3 新奇物体認識試験
新奇物体認識試験は、マウスが新奇性を好む性質を利用して認知機能を評価する試験である。試験にはC57BL/6Jマウス(雄、5週齢)(日本クレア)を用いた。マウスは室温22±2℃、湿度55±10%、照明12時間サイクル(7:00a.m.〜7:00p.m.)で飼育し、飼育期間中、餌及び水は自由摂取とした。動物は(I)対照群、(II)糖代謝阻害群、および(III)糖代謝阻害+甜茶群の3群に分けた。試験食として、糖代謝阻害+甜茶群には、上記製造例と同様の方法で調製した甜茶ヘキサン抽出物を0.5質量%添加した餌(コーン油10%、カゼイン20%、セルロース4%、ミネラル3.5%、ビタミン1%、ポテトスターチ61%)を、対照群及び糖代謝阻害群には、甜茶抽出物非添加の餌(コーン油10%、カゼイン20%、セルロース4%、ミネラル3.5%、ビタミン1%、ポテトスターチ61.5%)を、それぞれ摂取させた。
【0066】
試験食の摂取4週目に、イソフルラン麻酔下で脳固定装置を用いてマウス左海馬(A:−3.1、L:2.5、V:−1.3mm)にガイドカニューレ(長さ4mm)を刺入し脳内への薬物投与経路を確保した。ガイドカニューレは、歯科用セメントで頭部に固定した。
【0067】
試験食の摂取5週目に、新奇物体認識試験を行った。試験では、馴化試行、訓練試行、保持試行を3日間連続(24時間間隔)で行った。すなわち、初日に、物体を設置しないプラスチック製ケージにマウスを入れ、10分間慣らした(馴化試行)。翌日、該ケージに異なる2つの物体を設置し、その中でマウスを5分間自由に探索させた(訓練試行)。24時間後、該ケージ内の片方の物体を新しい物体に換え、その中でマウスを5分間自由に探索させた(保持試行)。訓練試行の1時間前に、マウス脳内に薬物を投与した。糖代謝阻害群および糖代謝阻害+甜茶群には、脳内糖代謝を阻害するグリコーゲン分解酵素阻害薬(1,4−dideoxy−1,4−amino−D−arabinitol hydrochloride;10mM)(Sigma)のリンゲル溶液を0.1μL投与した。対照群にはリンゲル液0.1μLを投与した。薬物は、マウスの頭部に固定したガイドカニューレにインジェクションカニューレ(長さ7mm)を刺入し、そこからマイクロシリンジを用いて投与した。
【0068】
訓練試行および保持試行中のマウスの各物体への接触回数(物体を鼻先でつついた回数)を探索回数として計測し、物体への総探索回数に対する各物体への探索回数の割合(%)を算出した。新奇物体の探索回数は、マウスの記憶または学習能力を反映している;すなわち、記憶または学習能力が正常であれば、保持試行中の新奇物体の探索回数が多くなる一方、記憶または学習能力に障害があると、新奇物体と既知物体の区別がつかないため、新奇物体の探索回数が減少する。
【0069】
試験結果を図9に示す。対照群では、既知物体と比較して新奇物体の探索回数の割合が有意に高く、記憶・学習機能が正常であることが示された。一方、糖代謝阻害群では、既知物体と新奇物体との間で探索回数に差はなく、記憶または学習機能が障害されていたことが示された。これに対し、糖代謝阻害+甜茶群での新奇物体の探索回数の割合は、既知物体と比較して有意に高く、対照群と比べても同程度であった。このことから、糖代謝阻害による記憶または学習機能障害が、甜茶抽出物投与により予防又は改善されることが示された。
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図9