(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
連続的に走行する繊維束に樹脂を連続的に含浸させる樹脂含浸繊維束の製造方法であって、少なくとも、樹脂未含浸の繊維束を巻き出す巻き出し工程と、前記繊維束を、樹脂で満たされた含浸バスを通過させる樹脂含浸工程と、前記樹脂含浸工程後に繊維束内部に樹脂を浸透させる含浸促進工程とを含み、
少なくとも含浸促進工程が大気圧より減圧された減圧空間で行われるとともに、前記減圧空間の圧力が前記巻き出し工程内および/または前記樹脂含浸工程を行う空間の圧力よりも低く、前記減圧空間が、繊維束の走行方向に対し略直交方向に少なくとも2つ以上に分割できる隔壁からなることを特徴とする樹脂含浸繊維束の製造方法。
前記減圧空間内の空気を排気する真空吸引口が前記隔壁上に少なくとも2つ以上設けられ、そのうち少なくとも1つ以上は気密壁構造の存在する部位に、少なくとも1つ以上は気密壁構造の存在しない部位に設けられることを特徴とする請求項4または5に記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
前記隔壁および前記気密壁上に設けられた前記繊維束通過口のうち少なくとも一つ以上が、最も上流側の繊維束通過口における繊維束の走行方向と繊維束通過口の幅方向とを含んで形成される平面上にないことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
前記気密壁構造において繊維束通過口を形成する壁端部が、繊維束と接触することで繊維束を下流に誘導することを目的とした繊維束ガイド形状に形成されていることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
前記減圧空間において、繊維束の走行方向に対し略直交方向に少なくとも2つ以上に分割可能な追加糸道部材が、前記一組の隔壁および気密壁で挟み込むように配置され、前記追加糸道部材上に繊維束通過口が形成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
前記含浸促進工程通過後に、該含浸繊維束を固定軸上で回転するマンドレルに対し、移動自在な巻き付けヘッドを用いて巻き付けて巻取体の成形品を得ることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示されるように製造装置一式全てを減圧空間内に保持して樹脂含浸繊維束を製造する手法は、減圧空間が巨大になることから、減圧度を高めるためには強力な減圧機器が必要であり、結果としてコストが高くなる恐れがあった。
【0008】
特許文献2、3に示されるような樹脂含浸繊維束製造工程の一部を減圧する手法については、減圧空間と常圧空間との間を繊維束が出入りする必要があり、気密性の保持が困難であった。気密性の観点からは接触式のシール構造とするのが良いが、接触式シールに繊維束を通過させた場合、擦過によって繊維束に毛羽が発生しやすく、品質低下を招くほか、毛羽つまりなどで停止しやすくなる。そのため非接触シールを用いることが多いが、気密性では劣るために、十分な減圧度を得るにはこちらも強力な減圧機器が必要となっていた。
【0009】
また、特許文献1、2、3全てに共通する課題として、減圧空間が作業性を考慮されていない構成となっている。減圧部内部の繊維巻きつきや毛羽詰まりなどによる異常停機時の対応、また、異常停機を未然に防ぐメンテナンス等を行うためには装置を停止、分解する必要があり、生産性を低下させる要因となっていた。
【0010】
本発明の目的は、簡便な機器で減圧でき、気密性を保持しやすく、さらに作業性の良い構成を備えた減圧空間を有する樹脂含浸繊維束の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題は、次の発明により解決される。
(1)連続的に走行する繊維束に樹脂を連続的に含浸させる樹脂含浸繊維束の製造方法であって、少なくとも、樹脂未含浸の繊維束を巻き出す巻き出し工程と、前記繊維束を、樹脂で満たされた含浸バスを通過させる樹脂含浸工程と、前記樹脂含浸工程後に繊維束内部に樹脂を浸透させる含浸促進工程とを含み、少なくとも含浸促進工程が大気圧より減圧された減圧空間で行われるとともに、前記減圧空間の圧力が前記巻き出し工程内および/または前記樹脂含浸工程を行う空間の圧力よりも低いことを特徴とする樹脂含浸繊維束の製造方法。
(2)前記減圧空間が真空である(1)に記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
(3)前記減圧空間が、繊維
束の走行方向に対し略直交方向に少なくとも2つ以上に分割できる隔壁からなることを特徴とする(1)または(2)に記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
(4)前記隔壁の外周面に、繊維束を供給および/または排出するための繊維束通過口を備えることを特徴とする(3)に記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
(5)前記
減圧空間内部に、繊維束が
通過する繊維束通過口を備えた気密壁構造を備えることを特徴とする(3)または(4)に記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
(6)前記隔壁の外周面に備えられた繊維束通過口の開口面積が、前記気密壁構造に備えられた繊維束通過口の開口面積以下であることを特徴とする(5)に記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
(7)前記
減圧空間内の空気を排気する真空吸
引口が前記隔壁上に少なくとも2つ以上設けられ、そのうち少なくとも1つ以上は気密壁構造の存在する部位に、少なくとも1つ以上は気密壁構造の存在しない部位に設けられることを特徴とする(5)または(6)に記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
(8)前記隔壁および前記気密壁上に設けられた前記繊維束通過口のうち少なくとも一つ以上が、最も上流側の繊維
束通過口における繊維束の走行方向と繊維束通過口の幅方向とを含んで形成される平面上にないことを特徴とする(5)〜(7)のいずれかに記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
(9)前記気密壁構造において繊維束通過口を形成する壁端部が、繊維束と接触することで繊維束を下流に誘導することを目的とした繊維束ガイド形状に形成されていることを特徴とする(5)〜(8)のいずれかに記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
(10)前記減圧空間において、分割された隔壁
同士の接触面上には、気密保持用のシート状弾性部材を挟んで使用することを特徴とする(3)〜(9)のいずれかに記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
(11)前記繊維束通過口は、四角形状であることを特徴とする(3)〜(10)のいずれかに記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
(12)前記
減圧空間において、繊維束通過口が前記シート状弾性部材と、隔壁および気密壁で形成されていることを特徴とする(11)に記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
(13)前記
減圧空間において、繊維
束の走行方向に対し略直交方向に少なくとも2つ以上に分割可能な追加糸道部材が、前記一組の隔壁および気密壁で挟み込むように配置され、前記追加糸道部材上に繊維束通過口が形成されていることを特徴とする(3)〜(12)のいずれかに記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
(14)前記含浸促進工程は、回転を拘束された含浸促進バー上に繊維束を通過させる工程からなることを特徴とする(1)〜(13)のいずれかに記載の樹脂含浸繊維束の製造方法。
(15)前記含浸促進工程または樹脂付着工程通過後に、該含浸繊維束を固定軸上で回転するマンドレルに対し、移動自在な巻き付けヘッドを用いて巻き付けて
巻取体の成形品を得ることを特徴とする(1)〜(14)のいずれかに記載の樹脂含浸繊維束
の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便な機器で減圧でき、気密性を保持しやすく、さらに作業性の良い構成を備えた減圧空間を有する樹脂含浸繊維束の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<工程概要>
図1に示す工程図を用いて、本発明に係る樹脂含浸繊維束の製造方法について説明する。本製造工程は、樹脂未含浸の繊維束を巻き出す巻き出し工程100、前記繊維束を樹脂で満たされた
含浸バスを通過させる含浸工程200、樹脂を繊維束中に浸透させる含浸促進工程300を少なくとも含んで構成される。
【0016】
<巻き出し工程>
巻き出し工程100は、繊維束ボビン101と巻き出しロール102を少なくとも含んで構成される。
【0017】
<巻き出しロール>
繊維束ボビン101から巻きだした繊維束1を含浸工程200へと誘導する巻き出しロール102の数は、製造設備レイアウト制約の観点や経済性の観点から、各々の製造装置にとって最適な数が選択される。巻き出しロール102の軸方向については、繊維束走行方向に対して直交していることが重要であり、繊維束ボビン101の軸方向と軸方向が一致していてもよいし、直交していてもよいし、ねじれの位置であってもよい。
【0018】
<繊維>
本製造手法に用いられる強化繊維としては、FRPの強化繊維として一般的に用いられているガラス繊維などの無機繊維、炭素繊維やアラミド繊維などの有機繊維など、種々の強化繊維を単体または複数種の組合せで使用することが可能である。
【0019】
<含浸工程>
含浸工程200は、樹脂2を保持する含浸バス201と、導入ロール
203と、樹脂含浸ロール
202と、導出ロール204とを少なくとも含んで構成される。
【0020】
<含浸バスの仕組み>
図において示されている、含浸ロールによる方式では、繊維束1が導入ロール202を通過した後、含浸ロール
202を通過し、導出ロール204を通過して次工程である含浸促進工程300へと繰り出される。含浸バス201内は樹脂2で満たされており、含浸ロール
202が樹脂2の中を通過する配置とすることでロール表面に樹脂が付着する。その結果、含浸ロール
202上を通過した繊維束1に樹脂2が付着し、繊維束中への樹脂含浸がなされる。
【0021】
<導入/導出ロール>
図1の実施態様において導入ロール
203および導出ロール204はそれぞれ1つであるが、特に制約があるものではなく、それぞれ複数のロール群として構成されていてもよい。ロール相互の位置関係に関しても、特に制約されず種々の態様が実施可能であるが、複数の導入ロール
203および含浸ロール
202および導出ロール204の回転軸方向については、全て同一方向となるよう配置することが、繊維束1のねじれや折り畳みを防止できるために好ましい。
【0022】
<他含浸手段>
また、含浸ロール方式による含浸工程は含浸手法の一例にすぎない。例えば、樹脂中に繊維束を直接通過させるディップ方式、含浸ダイに繊維束を引き込み、ダイ内部に別途計量された樹脂を吐出する定量吐出方式など、繊維束に所定量の樹脂を付着および含浸させることが目的の工程である限りは、種々の手段が適用可能である。
【0023】
<樹脂>
樹脂2については最終製品の用途、
使用環境、製品要求特性に応じて、エポキシや不飽和ポリエステルなどの熱硬化樹脂、またはポリアミドなどの熱可塑樹脂が選択されるが、特に制限されるものではない。作業性やエネルギー消費量の観点からは、エポキシ樹脂など熱硬化樹脂のほうが、概ね樹脂温度を低い状態で含浸工程を実施できるために作業性がよいため好ましい。
【0024】
<樹脂粘度>
含浸樹脂の粘度について、含浸性の観点からは、小さいほうが良いが、低すぎると樹脂が繊維束中に十分に含浸する前に垂れ落ち、所定の樹脂含有量を保てない恐れがあるため、適切な粘度は必要である。具体的には、10〜2000mPa・sの範囲にあることが好ましい。更に好ましくは、100〜1100mPa・sの範囲である。
【0025】
<含浸促進工程>
含浸促進工程300は、種々の含浸促進形態が実施可能であるが、複数の含浸促進バー301を少なくとも含んで構成されるのが好ましい。含浸促進バー301は、バーの軸線方向回りの回転を拘束された状態で使用されるのが好ましい。
【0026】
<含浸促進バーによる作用>
繊維束1は、複数の含浸促進バー301に対し、ジグザグ状に掛けられながら工程を通過する。樹脂含浸繊維束の製造工程においては通常、繊維束1に張力が付与されるため、含浸促進バー301を通過時、繊維束1はその厚み方向に対して含浸促進バー301からの反力を受ける。この反力により、前記含浸工程200で繊維束1に付着した樹脂2の繊維束中への更なる含浸(浸透)が促進され、繊維束1中に残留している空隙を樹脂2に置換することが可能である。
【0027】
<工程速度>
繊維束1の走行速度に関しては、生産性の観点から0.1〜300m/minの範囲が好ましい。速すぎると含浸時間が確保されずに製品の品質が低下する恐れがある。また、繊維束の走行抵抗が大きくなることや、単位時間あたりの繊維走行量が増えるため、毛羽の発生量が増えるなど、メンテナンスが追いつかずに糸切れなどのトラブルを引き起こす恐れがある。
【0028】
<減圧の定義>
次に、本発明の特徴のひとつである、減圧空間400に関しての詳細を記載する。ここで減圧とは、周囲空間の大気圧よりも小さい圧力に低下させることを指す。減圧の大きさを示す減圧度は、減圧空間中の圧力で表現することができるが、0〜750mmHgの範囲とすることが好ましい。より好ましくは、真空(0mmHg以上76mmHg以下)とすると含浸がより一層促進されるため好ましい。
【0029】
<減圧空間の占める領域>
減圧空間400の占める領域について、少なくとも含浸促進工程300を収容していることが重要である。例えば、
図2に示すように減圧空間は含浸工程200を更に収容していてもよいし、または巻き出し工程100を更に収容していてもよく(図示しない)、あるいは
図3に示すように含浸促進工程300のみ収容していてもよい。
【0030】
<減圧による効果>
工程内を減圧することにより、含浸させられる樹脂2の圧力と繊維束1中に残留している空気との圧力差が大きくなる。その結果、含浸が促進されるため、空隙の少ない樹脂含浸繊維束を得ることができる。特に、樹脂含浸への寄与度が大きい樹脂含浸促進工程300が減圧下で実施されるため、効果的に含浸性を向上させることができる。
【0031】
<減圧手段>
減圧空間400を得る減圧手段については特に制約されるものではなく、例えば
図2〜4に示すように減圧空間中に設けられた真空吸引口401を通じて、例えば一般的な真空ポンプ(図示しない)などにより空間中の空気を吸い出すことで減圧空間400を得ることができる。
【0032】
<減圧空間>
続いて、本発明の特徴のひとつである、減圧空間400を形成する減圧空間隔壁の好ましい実施形態について以下説明する。
図4に実施例を斜視図にて示す。
【0033】
本発明に依る減圧空間400は、繊維束の走行方向に対して略直交する方向に分割可能な隔壁402、403によって外部空間と隔離され、減圧された空間を保持する。隔壁402、403の外周面上には繊維束通過口405を備え、繊維束1を減圧空間400内に導入する入口と、減圧空間400内から繊維束を導出する出口から構成されている。また、隔壁402、403の少なくともどちらか一方には、減圧空間を得るための少なくとも1つ以上の真空吸引口401を備える。減圧空間400内は
図6に示されるように、少なくとも含浸促進手段(本実施例においては複数の含浸促進バー301)を収容することが重要である。
【0034】
<空間隔壁>
隔壁402、403の材質、寸法については特に制限されるものではなく、所望の減圧度や収容物に応じた材質や寸法が選択されうる。好ましくは、内部収容物に合わせた最小限の大きさとすることが、減圧度を効率よく向上させられるために望ましい。
【0035】
<隔壁の分割構造>
また隔壁402、403が対向して固定される締結面上には、気密性保持のためシール構造が設けられることが好ましい。例えば、
図4に示すように隔壁402、403にフランジ404をそれぞれ設け、それぞれの間にパッキンを配置のうえ締結する構造とすることができる。また、隔壁の分割数に関しても特に制限されるものではないが、
図4に示された2分割構造のように出来る限り分割数は少ない方が、減圧空間の気密性を保ちやすく、減圧度を効率よく向上させられるために望ましい。
【0036】
<パッキン>
用いられるパッキンとしては、減圧空間の気密性を保持する目的が達成されうるものであれば特に制限されるものではないが、繊維束1と接触した際に繊維束1を傷つけたり樹脂2と反応する等で製品に悪影響を与えず、適度な弾性を有する弾性部材を用いることが好ましい。弾性部材の例としては、例えばシリコーンゴムが挙げられ、厚みが0.2〜10mm、硬度20〜90°のものが適度な弾性および作業性を有し、好ましい。
【0037】
<分割構成による効果>
減圧空間隔壁を容易に分解可能な構成とすることで、減圧空間内に収容された含浸促進バー301への繊維巻きつきや繊維束通過口405への毛羽堆積など、製造停止の予兆となりうるトラブルへの予防措置、起きてしまったトラブルへの対処が容易になるため、生産性の向上が可能である。
【0038】
<繊維束通過口405>
繊維束通過口405に関しては、
図5に示すように、入口側・出口側共に、繊維束1が通過するに足りるだけの最小限の開口面積とすることが好ましい。また、
図6に示すように、繊維束通過口405を含まない領域においては繊維束通過口のような開口部を設けないことが好ましい。この結果、繊維束通過口405以外は外部空間と連通しないために、減圧空間400内の減圧度をより高く保持することが可能になる。
【0039】
繊維束通過口405の形状については、繊維束1が通過することが可能であれば特に制限を受けるようなものではなく、種々の形態が適用可能である。例えば、
図7に示すように、隔壁402または403上のみに切り欠き状、或いはくり抜いた穴状に設けられていても良いし、その形状は長方形状でも、円状でも良い。あるいは、隔壁402、403上にそれぞれ切り欠き状に設け、双方を組み合せることで繊維束通過口
405を形成する組み合わせ構造としても良い。あるいは、
図8に示すように、気密性向上のために導入した隔壁シール用弾性部材450を介在させて繊維束通過口405を形成しても良い。
【0040】
<糸道部材の使用>
更には
図9に示すように、糸道部材420、421を隔壁402、403で挟んだ構成とし、糸道部材420、421上に繊維束通過口405を設けても良い。糸道部材420、421は、隔壁402、403と同様に分割可能な構成とすることが、生産性を向上させることが可能であり好ましい。また、気密性向上のために糸道部材420、421間に糸道部材シール用弾性部材451を挿入して使用してもよい。隔壁402、403上に設ける糸道部材420、421を収容するための切り欠きについては、糸道部材420、421のみをすき間無く収容する大きさとしてもよいし、隔壁シール用弾性部材450を挟んだ状態ですき間無く収容する大きさとしてもよい。
【0041】
糸道部材420、421上に設ける繊維束通過口405についても隔壁402、403と同様の考え方が適用できる。すなわち、糸道部材420、421のどちらか一方に切り欠き状あるいはくり抜いた穴状、あるいは双方に設けた切り欠き形状を組み合わせることで繊維束通過口405を形成する構成とすることができる。また、糸道部材シール用弾性部材451を介在させて繊維束通過口405を形成する構成とすることが可能である。
【0042】
糸道部材420、421を用いることで、一般的には糸道部材420、421と比較して大きい隔壁402、403よりも精密な加工が可能となるために、寸法精度の高い繊維束通過口を形成することが可能である。
【0043】
<開口面積の好ましい範囲>
繊維束通過口405に関して重要なことは、繊維束通過口405と繊維束1とを非接触式とすることが毛羽発生を抑止する観点から好ましい。繊維束通過口405の大きさは、繊維束の幅と厚みに対してそれぞれ、1.2〜20倍の範囲に収めることが好ましい。このような最小限の開口面積とすることで、繊維束通過口405から減圧空間400内への空気の漏れ外気流入を最小化して気密性を高めることができる。また、最小限の大きさとした結果、含浸工程200で付着した繊維束上の樹脂2が繊維束通過口
405の境界部に付着しやすいため、繊維束1と繊維束通過口405との間に存在する隙間が樹脂によって封止されることで、気密性の更なる向上が期待できる。
【0044】
<気密壁>
減圧空間400の構成として、より好ましくは、減圧空間400中に複数の気密壁406および407を設けるとより空間内の減圧度を高められる。
図10に示すように、隔壁402、403の双方から延伸して対向するように気密壁406、407を設けても良いし、
図11に示すように、例えば隔壁402の片側のみから延伸するような気密壁406を設けてもよい。気密壁の数についても特に制約はなく、内部収容物や所望の減圧度に合わせて選択することが可能である。
【0045】
<気密壁上の繊維束通過口>
また、気密壁406、407上には繊維
束が通過するための繊維束通過口405を備えることが好ましい。開口の範囲については、隔壁402、403と同様の思想のもとで実施するのが好ましい。具体的には、繊維束通過口405は繊維束1が通過するに足りるだけの最小限の開口面積とし、繊維束通過口405のない領域には開口部を設けずに、開口面積が最小限となるように配設するのが気密性保持の観点から好ましい。形状についても同様であり、
図12に示すように、例えば片側の気密壁406上のみに切り欠き状に設けてもよいし、穴状に設けてもよいし、両側の気密壁406、407にまたがるように設けてもよい。あるいは、
図13に示すように、気密性向上のために導入した隔壁シール用弾性部材450を介在させて繊維束通過口405を形成しても良い。
【0046】
<糸道部材挿入時>
糸道部材420、421を挿入した構成についても同様の思想のもとで実施が可能である。
図14に示すように、気密壁406、407上に設ける糸道部材420、421を収容するための切り欠きについては、糸道部材420、421のみをすき間無く収容する大きさとしてもよいし、隔壁シール用弾性部材450を挟んだ状態ですき間無く収容する大きさとしてもよい。
<気密壁による効果>
【0047】
気密壁406、407を設けることで、外部空間と内部収容物近傍との間で連通している領域が小さくなり、空気流入の抵抗が大きくなるため、内部収容物近傍の減圧度が向上し、含浸性が向上できる。
【0048】
<気密壁と隔壁の開口部面積の関係および吸
引口配置>
隔壁402、403上および気密壁406、407上に位置する繊維束通過口405の開口面積の関係については、全て同じ大きさとしてもよいが、隔壁402、403上に設けられた繊維束通過口405の開口面積を最小とし、減圧空間400の中央に近づくにつれて大きくしてもよい。外部空間に近い領域の開口面積を小さくすることで、気密性を保持することができる。また、開口部が小さい方が、毛羽が堆積しやすい傾向があるが、面積の小さい開口部を外部空間側に設けることで毛羽除去がより行いやすく、メンテナンス性に優れる。
【0049】
また、
図15に例示するように、気密壁構造内に少なくとも1つ以上の真空吸引口408、気密壁構造外に少なくとも1つ以上の真空吸引口409を設けた構成とすることで、外部空間からの空気流入をより効果的に抑え、減圧度を向上させることが可能である。
【0050】
<繊維
束通過口のジグザグ配置>
あるいは、
図16に示すように隔壁402、403ないし気密壁406、407ないし糸道部材420、421上に設けられた全ての繊維束通過口405のうち、少なくとも1つ以上の繊維束通過口411が、最も上流側の繊維束通過口410における繊維束の走行方向と繊維束
通過口の幅方向とを含んで形成される平面上にない構成、すなわち、
図16の領域412を拡大した図である
図17に示すように、それぞれの中心線413、414が一致しない構成とすることで、効果的に外部空間からの空気流入をより効果的に抑え、減圧度を向上させることが可能である。
【0051】
本構成を適用する場合、繊維
束通過口の一部に繊維束1が接触しながら繊維束1が走行することは不可避であるために、接触する部位は繊維束に引っ掛かりや損傷
を与えることなく、工程下流に誘導することを目的とした繊維束ガイド形状に形成されていることが好ましい。例えば、
図17に示すように、繊維
束通過口を形成する気密壁406、407の端部をRのついた形状とし、表面粗さを算術平均粗さRa=0.6〜25の範囲とするのがよい。あるいは繊維束ガイド用弾性部材452を配置した構成としてもよい。
【0052】
<繊維束ガイド用弾性部材>
用いられる繊維束ガイド用弾性部材452として求められる特性は、先述の隔壁シール用弾性部材450および糸道部材シール用弾性部材451と同様であり、繊維束1と接触した際に繊維束1を傷つけたり樹脂2と反応する等で製品に悪影響を与えず、適度な弾性を有する弾性部材であることが好ましい。弾性部材の例としては、例えばシリコーンゴムが挙げられ、厚みが0.2〜10mm、硬度20〜90°のものが適度な弾性および作業性を有し、好ましい。また、隔壁シール用弾性部材450ないし糸道部材シール用弾性部材451と一体に形成されていてもよい。
【0053】
<製造工程通過後の利用用途>
本発明に係る製造工程によって製造された樹脂含浸繊維束は、種々の方法で最終製品の形態へと加工することが可能である。例えば、含浸させた樹脂に種々の追加工程を加えて半硬化状態としてプリプレグ化した上でボビンに一度巻き取り、別の樹脂含浸繊維束の巻取体製造装置で最終製品形状を得ても良い。
【0054】
<巻付け工程>
また、
図18に示すように、同一工程上において含浸促進工程300の後に巻付け工程500を配し、樹脂含浸繊維束の巻取体を製造する工程としてもよい。巻付け工程500は、マンドレルに対して巻付けヘッド501、巻付けヘッドに搭載される複数の巻付けローラ502、巻き付ける対象物であるマンドレル503を少なくとも含んで構成される。
【0055】
<巻付け工程の動作概要>
樹脂含浸促進工程を通過した繊維束1は、巻付けヘッド501上に固定された巻付けローラ502を通過して巻き付けられる。空間上に固定された軸上で回転するマンドレル503に対して巻付けヘッド501は、巻取体の要求特性に合わせて設計された繊維束巻付け量・巻付け角度に応じて、位置を自在に移動することでマンドレルへの巻付けが実施され、樹脂含浸繊維束の巻取体が製造される。
【0056】
<巻取り後>
樹脂含浸繊維束の巻取体においては、巻付け工程の後、樹脂硬化工程、および余剰部のトリミングの追加工等からなる仕上げ工程を経て、最終製品となる。硬化工程は巻付け工程から移動されずに同じ場所でなされても良いし、巻付け工程から移動させて別の場所でなされてもよい。