特許第6735239号(P6735239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6735239
(24)【登録日】2020年7月15日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】密閉型圧縮機、および冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/02 20060101AFI20200728BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   F04C29/02 351A
   F04B39/00 106D
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-10326(P2017-10326)
(22)【出願日】2017年1月24日
(65)【公開番号】特開2018-119437(P2018-119437A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀明
(72)【発明者】
【氏名】知念 武士
(72)【発明者】
【氏名】安西 史弥
【審査官】 井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−177738(JP,A)
【文献】 実開平02−107783(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
F04C 29/00
F04C 29/02
F04C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉ケースと、
前記密閉ケース内に設けられる圧縮機構と、
前記密閉ケース内に設けられる電動機と、
前記電動機の回転駆動力を前記圧縮機構へ伝達する回転軸と、
前記圧縮機構によって圧縮され前記密閉ケース内に吐出されるガス冷媒に混入している潤滑油を分離する油分離部と、を備え、
前記電動機の回転子は、
前記回転軸に固定される小内径を有する小内径鉄心部と、前記小内径鉄心部よりも径の大きな内径を有し、前記回転軸の端部側に空間を形成する大内径鉄心部と、前記小内径鉄心部を軸方向に貫き前記空間に繋がる第一冷媒通路と、を有する鉄心と、
前記大内径鉄心部側の端部に前記回転子に対する前記油分離部の自転を阻止する第一板と、
前記回転軸の中心線方向において前記回転子からの前記油分離部の離脱を阻止する第二板と、を備え
前記油分離部は、前記空間に入り込む基部を有し、
前記第一板および前記第二板には、前記空間に繋がる第二冷媒通路が設けられている密閉型圧縮機。
【請求項2】
前記第二冷媒通路の合計断面積は、前記第一冷媒通路の合計断面積よりも小さい請求項に記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】
前記基部は、筒形であり、
前記基部の外径は、前記小内径よりも大きい請求項1または2に記載の密閉型圧縮機。
【請求項4】
前記第二板と前記鉄心との間に複数の前記第一板を備える請求項からのいずれか1項に記載の密閉型圧縮機。
【請求項5】
前記鉄心の前記小内径鉄心部、および前記大内径鉄心部は、板材の積層体である請求項1からのいずれか1項に記載の密閉型圧縮機。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の密閉型圧縮機と、
放熱器と、
膨張装置と、
吸熱器と、
前記密閉型圧縮機と前記放熱器と前記膨張装置と前記吸熱器とを接続して前記冷媒を流通させる冷媒管と、を備える冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係る実施形態は、密閉型圧縮機、および冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉ケーシングと、密閉ケーシングに収容される圧縮機構と、密閉ケーシングに収容され、圧縮機構を駆動する電動機と、密閉ケーシングの電動機側に設けられ、圧縮されたガス冷媒を吐出する吐出管と、電動機の回転子の吐出管側に取り付けられた油分離部材と、を備える密閉型圧縮機が知られている。
【0003】
電動機の回転子は、圧縮機構側から吐出管側へ圧縮されたガス冷媒を導く冷媒通路を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−177738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の密閉型圧縮機は、回転子の吐出管側の端面に開口する冷媒通路から圧縮されたガス冷媒を流出させる。この冷媒通路は、回転子の圧縮機構側の端面から吐出管側の端面に至る。ガス冷媒に混入している潤滑油は、この冷媒通路を通過した後に油分離部材によって分離されるが、冷媒通路を通過するガス冷媒による回転子の冷却効果は小さい。
【0006】
そこで、本発明は、電動機の回転子内を通過するガス冷媒により、回転子をより効率良く冷却可能な密閉型圧縮機と、この密閉型圧縮機を備える冷凍サイクル装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機は、密閉ケースと、前記密閉ケース内に設けられる圧縮機構と、前記密閉ケース内に設けられる電動機と、
前記電動機の回転駆動力を前記圧縮機構へ伝達する回転軸と、前記圧縮機構によって圧縮され前記密閉ケース内に吐出されるガス冷媒に混入している潤滑油を分離する油分離部と、を備え、前記電動機の回転子は、前記回転軸に固定される小内径を有する小内径鉄心部と、前記小内径鉄心部よりも径の大きな内径を有し、前記回転軸の端部側に空間を形成する大内径鉄心部と、前記小内径鉄心部を軸方向に貫き前記空間に繋がる第一冷媒通路と、を有する鉄心と、前記大内径鉄心部側の端部に前記回転子に対する前記油分離部の自転を阻止する第一板と、前記回転軸の中心線方向において前記回転子からの前記油分離部の離脱を阻止する第二板と、を備え、前記油分離部は、前記空間に入り込む基部を有し、前記第一板および前記第二板には、前記空間に繋がる第二冷媒通路が設けられている。
【0008】
また、本発明の実施形態に係る冷凍サイクル装置は、前記密閉型圧縮機と、放熱器と、膨張装置と、吸熱器と、前記密閉型圧縮機と前記放熱器と前記膨張装置と前記吸熱器とを接続して冷媒を流通させる冷媒管と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る冷凍サイクル装置の概略的な図。
図2】本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機の回転子および油分離部の軸方向断面図。
図3】本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機の小内径鉄心部を構成する板材の平面図。
図4】本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機の大内径鉄心部を構成する板材の平面図。
図5】本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機の第二板の平面図。
図6】本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機の第一板の平面図。
図7】本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機のバランサーを構成する板材の平面図。
図8】本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機の回転子および油分離部の他の例の軸方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る密閉型圧縮機、および冷凍サイクル装置の実施形態について、図1から図8を参照して説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る冷凍サイクル装置の概略的な図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1は、密閉型圧縮機2と、放熱器である凝縮器3と、膨張装置5と、吸熱器である蒸発器6と、アキュームレータ7と、冷媒管8と、を備えている。冷媒管8は、密閉型圧縮機2と凝縮器3と膨張装置5と蒸発器6とアキュームレータ7とを順次に接続して冷媒を流通させる。
【0013】
本実施形態に係る密閉型圧縮機2は、密閉ケース11と、密閉ケース11内の上部に設けられる電動機12と、密閉ケース11内の下部に設けられる圧縮機構部13と、電動機12の回転駆動力を圧縮機構部13へ伝達する回転軸14と、回転軸14を回転自在に支持する主軸受15と、主軸受15と協働して回転軸14を回転自在に支持する副軸受16と、圧縮機構部13によって圧縮され密閉ケース11内に吐出されるガス冷媒に混じっている潤滑油を分離する油分離部17と、を備えている。
【0014】
密閉ケース11は、円筒形である。密閉ケース11は、上下に設けられた半球形の鏡板と、円筒形の胴部と、を備えている。密閉ケース11の胴部には、冷媒を密閉型圧縮機2へ導く吸込管8bが接続されている。吸込管8bは、アキュームレータ7に繋がれている。吸込管8bは、冷媒管8の一部である。密閉ケース11の上側の鏡板には、冷媒を密閉型圧縮機2から吐出させる吐出管8aが接続されている。吐出管8aは、冷媒管8に繋がれている。
【0015】
電動機12は、圧縮機構部13を回転駆動させる駆動力を発生させる。電動機12は密閉ケース11の内壁に固定される固定子18と、固定子18に周囲を囲まれて回転軸14に設けられる回転子19と、を備えている。
【0016】
回転子19の上面、つまり、密閉ケース11の上側の鏡板を臨む面には、油分離部17が設けられている。
【0017】
回転軸14は、電動機12と圧縮機構部13とを互いに連結している。回転軸14は、電動機12が発生させる駆動力を圧縮機構部13へ伝達する。
【0018】
回転軸14の中間部分14aは、主軸受15に回転自在に支持されている。回転軸14の下端部分14bは、副軸受16に回転自在に支持されている。主軸受15および副軸受16は、圧縮機構部13の一部でもあって、圧縮機構部13を上下から挟んでいる。つまり、回転軸14は、圧縮機構部13を貫通している。
【0019】
また、回転軸14は、主軸受15に支持されている中間部分14aと副軸受16に支持されている下端部分14bとの間に、複数の偏心部21、21を備えている。複数の偏心部21のうち、主軸受15に近い側を第一偏心部22と呼び、副軸受16に近い側を第二偏心部23と呼ぶ。それぞれの偏心部21、21は、回転軸14の中心に不一致の中心を有する円盤、あるいは円柱である。それぞれの偏心部21、21の中心は、回転軸14のまわりに約180度の位相差で偏心されている。第一偏心部22は、電動機12に近い上側に配置され、第二偏心部23は、電動機12から遠い下側に配置されている。
【0020】
圧縮機構部13は、電動機12が回転軸14を回転駆動することによって、ガス状の冷媒を吸込んで圧縮し、かつ吐出する。圧縮機構部13は、密閉ケース11に収容されていて、密閉ケース11の下部に配置されている。密閉ケース11の下部は潤滑油(図示省略)で満たされていて、圧縮機構部13の大部分は、この潤滑油に浸されている。
【0021】
圧縮機構部13は、複数の圧縮機構25、25を備えている。つまり、圧縮機構部13は、密閉ケース11内に設けられる第一圧縮機構26と、密閉ケース11内に設けられる第二圧縮機構27と、第一圧縮機構26と第二圧縮機構27との間に設けられる仕切板29と、を備えている。
【0022】
第一圧縮機構26は、円形の第一シリンダ室31を有する第一シリンダ32と、第一シリンダ室31内に配置される環状の第一ローラ33と、を備えている。
【0023】
第二圧縮機構27は、円形の第二シリンダ室41を有する第二シリンダ42と、第二シリンダ室41内に配置される環状の第二ローラ43と、を備えている。
【0024】
第一シリンダ32および第二シリンダ42は、回転軸14の軸方向に積み重なるように配置されている。上側の第一シリンダ32は、電動機12に近い側に配置されている。
【0025】
第一シリンダ32は、複数箇所の溶接部51によって密閉ケース11に固定されている。溶接部51は、第一シリンダ32を密閉ケース11に固定するスポット溶接によって形成されている。
【0026】
第一シリンダ室31および第二シリンダ室41の中心は、実質的に回転軸14の回転中心に重なっている。これらシリンダ室31、41は、実質的に同じ直径寸法と同じ高さ寸法(回転軸14方向の寸法)を有している。第一シリンダ室31は、第一シリンダ32の内側の空間であって、主軸受15および仕切板29によって閉鎖されている。第一シリンダ室31内には、回転軸14の第一偏心部22が配置されている。第二シリンダ室41は、第二シリンダ42の内側の空間であって仕切板29と副軸受16によって閉鎖されている。第二シリンダ室41内には、回転軸14の第二偏心部23が配置されている。
【0027】
上側の主軸受15は、ボルトなどの締結部材52によって第一シリンダ32に固定されている。上側の主軸受15には、第一シリンダ室31内で圧縮された冷媒を吐出する吐出ポートと吐出弁とを有する第一吐出弁機構(図示省略)と、第一吐出マフラ55とが設けられている。第一吐出マフラ55は、吐出孔(図示省略)を有している。第一吐出マフラ55は、第一吐出弁機構に覆い被さっている。第一吐出弁機構の吐出ポートは、第一シリンダ室31に繋がれており、圧縮機構部13の圧縮作用にともない第一シリンダ室31内が所定圧値に達したときに吐出弁が吐出ポートを開放して、圧縮された冷媒を第一吐出マフラ55内に吐出する。
【0028】
下側の副軸受16は、ボルトなどの締結部材53によって第一シリンダ32に固定されている。締結部材53は、第二シリンダ42と仕切板29を貫いて第一シリンダ32に達している。下側の副軸受16には、第二シリンダ室41内で圧縮された冷媒を吐出する吐出ポートと吐出弁とを有する第二吐出弁機構(図示省略)と、第二吐出マフラ56とが設けられている。第二吐出マフラ56は、第二吐出弁機構に覆い被さっている。第二吐出弁機構の吐出ポートは、第二シリンダ室41に接続されており、圧縮機構部13の圧縮作用にともない第二シリンダ室41内が所定圧値に達したときに吐出弁が吐出ポートを開放して、圧縮された冷媒を第二吐出マフラ56内に吐出する。
【0029】
第一ローラ33は、第一偏心部22の周面に嵌合されて第一シリンダ室31内に収容されている。第一ローラ33は、回転軸14の回転にともなって、外周面の一部を第一シリンダ室31の内周面に沿って線接触させながら偏心運動する。
【0030】
第二ローラ43は、第二偏心部23の周面に嵌合されて第二シリンダ室41内に収容されている。第二ローラ43は、回転軸14の回転にともなって、外周面の一部を第二シリンダ室41の内周面に沿って線接触させながら偏心運動する。
【0031】
なお、第一ローラ33と第一シリンダ32との接触、および第二ローラ43と第二シリンダ42との接触は、直接的な接触ではなく、油膜(図示省略)を介在させた間接的なものであるが、説明の便宜のために、これら油膜を介した接触を単に「接触」と表現する。第一ローラ33と第一偏心部22との間、第二ローラ43と第二偏心部23との間、第一ローラ33と主軸受15との間、第二ローラ43と副軸受16との間、第一ローラ33と仕切板29との間、第二ローラ43と仕切板29との間も同じである。
【0032】
第一シリンダ32には、第一スライドベーン57が設けられている。第一スライドベーン57は、第一シリンダ32の高さ方向へ拡がる板状であり、第一コイルスプリング59により先端を第一ローラ33の外周面に押されている。第一圧縮機構26は、第一ローラ33と第一スライドベーン57とで区画される圧縮室の容積を第一ローラ33の回転にともなって変化させ、冷媒を圧縮する。
【0033】
第二シリンダ42には、第二スライドベーン67が設けられている。第二スライドベーン67は、第二シリンダ42の高さ方向へ拡がる板状であり、第二コイルスプリング69により、先端を第二ローラ43の外周面に押されている。第二圧縮機構27は、第二ローラ43と第二ベーン68とで区画される圧縮室の容積を第二ローラ43の回転にともなって変化させ、冷媒を圧縮する。
【0034】
吸込管8bは、第一シリンダ32に接続される第一吸込管71と、第二シリンダ42に接続される第二吸込管72と、を含んでいる。第一吸込管71および第二吸込管72は、それぞれ個別にアキュームレータ7から密閉ケース11へ達している。第一吸込管71は、上下方向に延びる円筒形のアキュームレータ7の下部鏡板から下方へ突出し、水平方向へ緩やかに曲がって延びている。そして、第一吸込管71は、水平に延びて密閉ケース11を貫き、第一シリンダ32に接続されている。第二吸込管72は、アキュームレータ7の下部鏡板から下方へ突出し、水平方向へ緩やかに曲がって延びている。そして、第二吸込管72は、水平に延びて密閉ケース11を貫き、第二シリンダ42に接続されている。
【0035】
次いで、電動機12の回転子19および油分離部17について詳細に説明する。
【0036】
図2は、本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機の回転子および油分離部の軸方向断面図である。
【0037】
図1および図2に示すように、本実施形態に係る密閉型圧縮機2の電動機12の回転子19は、小内径を有する小内径鉄心部81および小内径鉄心部81の内径より大きい内径を有する大内径鉄心部82を有する鉄心83と、鉄心83の大内径鉄心部82の端部側に設けられ、回転子19に対する油分離部17の自転を阻止する第一板85と、第一板85の鉄心83とは反対側に設けられ、回転軸14の中心線方向において回転子19からの油分離部17の離脱を阻止する第二板86と、バランサー87と、回転子19を一体化する複数の鋲88、88を備えている。
【0038】
鉄心83は、板材91、92の積層体である。換言すると、小内径鉄心部81および大内径鉄心部82は、板材91、92の積層体である。小内径鉄心部81および大内径鉄心部82は、互いに異なる形状の板材91、92の積層体である。
【0039】
鉄心83は、小内径鉄心部81を軸方向に貫く第一冷媒通路95を有している。つまり、第一冷媒通路95は、小内径鉄心部81を構成する複数の板材91に設けられている。第一冷媒通路95は、鉄心83の回転中心線に対して平行に延びている。
【0040】
また、鉄心83は、その全長に渡って磁石挿入孔96を有している。つまり、磁石挿入孔96は、小内径鉄心部81を構成する複数の板材91、および大内径鉄心部82を構成する板材92の両方に設けられている。磁石挿入孔96は、鉄心83の回転中心線に対して平行に延びている。磁石挿入孔96には永久磁石97が埋設されている。
【0041】
小内径鉄心部81の外径寸法と大内径鉄心部82の外径寸法とは、実質的に同じである。換言すると、鉄心83の外径寸法は、実質的に一様である。鉄心83の外周面は、固定子18の内周面に対面している。
【0042】
小内径鉄心部81は、回転軸14に固定される小内径Dsを有している。小内径鉄心部81の内周面は、回転軸14に固定されている。回転子19は、小内径鉄心部81によって回転軸14に固定されている。
【0043】
大内径鉄心部82は、小内径Dsよりも大径な大内径Dlを有している。大内径鉄心部82は、回転軸14の上端部側に空間Sを形成している。大内径鉄心部82は、隣接する小内径鉄心部81を介して回転軸14に固定されている。
【0044】
第一冷媒通路95は、大内径鉄心部82が区画する空間Sに繋がっている。つまり、第一冷媒通路95を通って油分離部17へ向かうガス冷媒は、空間Sを通過する。
【0045】
第一板85は、油分離部17のいわゆる回り止めである。第二板86は、油分離部17のいわゆる抜け止めである。第一板85の外径寸法および第二板86の外径寸法は、小内径鉄心部81の外径寸法(=大内径鉄心部82の外径寸法)以下に設定される。
【0046】
バランサー87、87は、板材98の積層体である。バランサー87、87は、鉄心83の両端面に設けられている。
【0047】
鋲88、88は、小内径鉄心部81を構成する複数の板材91、大内径鉄心部82を構成する複数の板材92、第一板85、第二板86、およびバランサー87を構成する板材98を貫通し、これらを一体化する。
【0048】
また、回転子19は、第一板85および第二板86を貫いて空間Sに繋がる第二冷媒通路99を備えている。
【0049】
第二冷媒通路99は、空間Sから回転子19の外へガス冷媒を流出させる。第二冷媒通路99から流出したガス冷媒は、油分離部17によって油を分離される。
【0050】
油分離部17は、油分離ディスク101と、保持力発生環102と、を備えている。
【0051】
油分離ディスク101は、板金加工、例えばプレス加工や絞り加工による金属製の板材の一体成形品である。油分離部17は、第一板85および第二板86を貫いて空間Sに入り込む筒形の基部105と、回転子19から遠ざかるほど拡がる円錐台形のコーン部106と、回転中心線に直交する方向へ拡がる環形の鍔部107と、を備えている。
【0052】
基部105の外径は、小内径Dsよりも大きい。基部105は、基部105の周壁の一部を径方向外側へ切り起こした爪108、108を有している。爪108、108は、基部105の周方向へ複数、例えば3つ設けられている。爪108、108は、空間Sから基部105が抜け出そうとすると第二板86に引っ掛かり、これを阻止する。他方、空間Sへ基部105を挿入する際、爪108、108は、これを妨げない。
【0053】
保持力発生環102は、弾性に富む鋼などの金属材料の一体成形品である。保持力発生環102は、油分離ディスク101の基部105が嵌め込まれるリング部111と、放射状に延びる複数の脚部112と、を備えている。複数の脚部112は、板ばねであり、リング部111を回転子19の表面から浮いた状態に支持できるよう、勾配を有している。複数の脚部112は、油分離ディスク101の基部105を回転子19の空間Sから引く抜く方向へばね力を発生させる。この脚部112のばね力は、基部105の爪108を第二板86に強く押し当て、油分離ディスク101と回転子19の連結を強固にする。
【0054】
図3は、本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機の小内径鉄心部を構成する板材の平面図である。
【0055】
図4は、本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機の大内径鉄心部を構成する板材の平面図である。
【0056】
図5は、本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機の第二板の平面図である。
【0057】
図6は、本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機の第一板の平面図である。
【0058】
図7は、本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機のバランサーを構成する板材の平面図である。
【0059】
図2および図3に示すように、本実施形態に係る密閉型圧縮機2の小内径鉄心部81を構成する板材91は、小内径Dsを有する環形の板材である。
【0060】
第一冷媒通路95は、板材91の内周、つまり小内径Dsの周囲に配置されている。第一冷媒通路95は、複数、例えば4つあり、小内径Dsの周囲に等間隔に配置されている。
【0061】
磁石挿入孔96は、板材91の外周近傍に配置されている。磁石挿入孔96は、径方向に直交する方向へ直線的に延びるスリット形を有する。磁石挿入孔96は、複数、例えば6つあり、全体で正六角形状に配置されている。
【0062】
鋲88が挿し通される鋲挿入孔115は、第一冷媒通路95よりも外側、かつ磁石挿入孔96よりも内側であって、磁石挿入孔96の近傍に配置されている。鋲挿入孔115は、複数、例えば6つあり、等間隔に配置されている。
【0063】
図2および図4に示すように、本実施形態に係る密閉型圧縮機2の大内径鉄心部82を構成する板材92は、大内径Dlを有する環形の板材である。大内径Dlは、板材91の第一冷媒通路95の最外周寸法よりも大きい。
【0064】
板材92は、第一冷媒通路95を有していない一方、板材91と同じ箇所に磁石挿入孔96、および鋲挿入孔115を有している。
【0065】
図2および図5に示すように、本実施形態に係る密閉型圧縮機2の第二板86は、油分離部17の基部105を挿入可能な内径D2を有する環形の板材である。内径D2は、基部105の外径よりも若干大きく、かつ、基部105の爪108に引っ掛かる。
【0066】
第二冷媒通路99は、第二板86の内周、つまり内径D2の周囲に配置されている。第二冷媒通路99は、複数、例えば4つあり、内径D2の周囲に等間隔に配置されている。第二冷媒通路99の最外周寸法は、大内径鉄心部82の大内径Dl以下である。4つの第二冷媒通路99の合計断面積S2は、4つの第一冷媒通路95の合計断面積S1よりも小さい。
【0067】
第二板86は、板材91と同じ箇所に鋲挿入孔115を有している。
【0068】
図2および図6に示すように、本実施形態に係る密閉型圧縮機2の第一板85は、油分離部17の基部105を挿入可能な内径D1を有する環形の板材である。内径D1は第二板86の内径D2と実質的に同じであることが好ましい。
【0069】
第一板85の内周は、複数の凹部116を有している。凹部116は、第二板86の内径D2を通過した油分離ディスク101の爪108が中立状態で配置される(逃げる)空間である。凹部116に納まった爪108は、回転子19に対する油分離ディスク101の自転を規制する。この凹部116と、第二板86の内径D2との寸法差は、第一板85と第二板86との間に段部117(図2)を生じさせる。この段部117に爪108が引っ掛かることによって、油分離ディスク101は、回転軸14の中心線方向において、回転子19からの離脱が阻止される。
【0070】
第二板86は、第二板86と同じ箇所に第二冷媒通路99および鋲挿入孔115を有している。
【0071】
図2および図7に示すように、本実施形態に係る密閉型圧縮機2のバランサー87を構成する板材98は、油分離部17の基部105を挿入可能な内径を有する環形の板材である。板材98の内径は、大内径鉄心部82の大内径Dlと実質的に同じであることが好ましい。
【0072】
板材98は、回転子19および圧縮機構部13の回転バランスを調整するための重量軽減孔118を有している。
【0073】
板材98は、第二板86と同じ箇所に鋲挿入孔115を有している。
【0074】
本実施形態に係る密閉型圧縮機2において、第二圧縮機構27で圧縮されたガス冷媒は、第二吐出弁機構の吐出ポートから吐出された後、副軸受16、第二シリンダ42、仕切板29、第一シリンダ32、主軸受15に設けられる冷媒通路(図示省略)を通過し、第一吐出マフラ55を通って密閉ケース11内に吐出される。第一シリンダ32で圧縮されたガス冷媒は、第一吐出弁機構の吐出ポートから吐出された後、第一吐出マフラ55で第二圧縮機構27で圧縮されたガス冷媒に合流し、第一吐出マフラ55を通って密閉ケース11内に吐出される。密閉ケース11内に吐出されたガス冷媒は、固定子18と回転子19との隙間や、固定子18の巻き線(図示省略)の隙間や、回転子19の冷媒通路(第一冷媒通路95、空間S、第二冷媒通路99)を通り、油分離ディスク101が取り付けられている側に導かれる。ガス冷媒は、油分離ディスク101に当たって、ガス冷媒に混ざっている潤滑油が分離される。潤滑油の分離された冷媒ガスは、吐出管8aから吐出され冷凍サイクル装置1に供給される。
【0075】
このとき、ガス冷媒は、回転子19の冷媒通路(第一冷媒通路95、空間S、第二冷媒通路99)を通る過程で回転子19を冷却する。特に空間Sにおいて、ガス冷媒は、回転子19から流出する前に、油分離ディスク101の基部105に触れる。油分離ディスク101は、鍔部107等からの放熱により、基部105の温度は空間S内のガス冷媒の温度よりも低い。そのため、ガス冷媒は油分離ディスク101の基部105に触れることにより冷却される。油分離ディスク101の基部105に触れて冷却された冷媒は、回転子19から流出する前に、回転子19をさらに冷却する。
【0076】
また、回転子19から流出するガス冷媒は、(第二冷媒通路99の合計断面積S2)<(第一冷媒通路95の合計断面積S1)の関係から、空間Sから第二冷媒通路99を通って油分離ディスク101の鍔部107へ向かって吐出される際、流速が大きくなり、油分離ディスク101に衝突しやすくなり、油分離性能を向上させる。
【0077】
図8は、本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機の回転子および油分離部の他の例の軸方向断面図である。
【0078】
図8に示すように、本実施形態に係る密閉型圧縮機2の回転子19Aは、第二板86と鉄心83との間に複数の第一板85を備えている。
【0079】
第二板86に隣接する第一板85は、油分離部17の回り止めとして機能している。
【0080】
その他の第一板85は、油分離ディスク101が倒れ込む範囲(倒れ角)を規制する。第二板86から離れた第一板85は、油分離ディスク101が倒れ込むと、基部105に接触し、油分離ディスク101の倒れ込みを阻止して倒れ角を規制する。
【0081】
本実施形態に係る密閉型圧縮機2および冷凍サイクル装置1は、回転軸14に固定される小内径Dsを有する小内径鉄心部81、小内径Dsよりも大径な大内径Dlを有し、回転軸14の端部側に空間Sを区画する大内径鉄心部82、および小内径鉄心部81を軸方向に貫き空間Sに繋がる第一冷媒通路95を有する鉄心83と、第一板85および第二板86を貫いて空間Sに入り込む基部105を有する油分離部17と、を備えている。そのため、密閉型圧縮機2および冷凍サイクル装置1は、回転子19から流出する以前に回転子19を冷却するガス冷媒をさらに冷却し、回転子19をより冷却できる。回転子19をより冷却することは、永久磁石97の減磁を防ぎ、密閉型圧縮機2の信頼性を向上させる。
【0082】
また、大内径鉄心部82の空間Sは、回転子19の重心を圧縮機構部13側へ偏倚させる。そのため、回転軸14の振れ回りが抑制される。
【0083】
また、本実施形態に係る密閉型圧縮機2および冷凍サイクル装置1は、第一冷媒通路95の断面積S1よりも小さい断面積S2の第二冷媒通路99を備えている。そのため、密閉型圧縮機2および冷凍サイクル装置1は、回転子19から流出するガス冷媒の流速を高め、油分離性能を向上させる。
【0084】
さらに、本実施形態に係る密閉型圧縮機2および冷凍サイクル装置1は、小内径鉄心部81の小内径Dsよりも大きい外径を有する基部105を備えている。そのため、密閉型圧縮機2および冷凍サイクル装置1は、空間Sにおいてガス冷媒に接する油分離ディスク101の表面積をより大きく確保することができる。空間Sにおいてガス冷媒に接する油分離ディスク101の表面積がより大きく確保されることによって、空間S内のガス冷媒は、より冷却され、回転子19をより低温に冷却する。
【0085】
さらにまた、本実施形態に係る密閉型圧縮機2および冷凍サイクル装置1は、板材91、92を積層した鉄心83を備えている。そのため、密閉型圧縮機2および冷凍サイクル装置1は、鉄心83の小内径鉄心部81および大内径鉄心部82を容易に形成できる。
【0086】
したがって、本実施形態の密閉型圧縮機2および、密閉型圧縮機2を備える冷凍サイクル装置1によれば、回転子19内の冷媒通路を通過する前にガス冷媒を冷却し、回転子19をより効率良く冷却できる。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
1…冷凍サイクル装置、2…密閉型圧縮機、3…放熱器、5…膨張装置、6…蒸発器、7…アキュームレータ、8…冷媒管、8a…吐出管、8b…吸込管、11…密閉ケース、12…電動機、13…圧縮機構部、14…回転軸、14a…中間部分、14b…下端部分、15…主軸受、16…副軸受、17…油分離部、18…固定子、19、19A…回転子、21…偏心部、22…第一偏心部、23…第二偏心部、25…圧縮機構、26…第一圧縮機構、27…第二圧縮機構、29…仕切板、31…第一シリンダ室、32…第一シリンダ、33…第一ローラ、41…第二シリンダ室、42…第二シリンダ、43…第二ローラ、51…溶接部、52…締結部材、53…締結部材、55…第一吐出マフラ、56…第二吐出マフラ、57…第一スライドベーン、59…第一コイルスプリング、67…第二スライドベーン、69…第二コイルスプリング、71…第一吸込管、72…第二吸込管、81…小内径鉄心部、82…大内径鉄心部、83…鉄心、85…第一板、86…第二板、87…バランサー、88…鋲、91、92…板材、95…第一冷媒通路、96…磁石挿入孔、97…永久磁石、98…板材、99…第二冷媒通路、101…油分離ディスク、102…保持力発生環、105…基部、106…コーン部、107…鍔部、108…爪、111…リング部、112…脚部、115…鋲挿入孔、116…凹部、117…段部、118…重量軽減孔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8