【実施例】
【0139】
実施例1:PCT/EP2014/060997号明細書に記載のステムベースポリペプチド
PCT/EP2012/073706号明細書は、インフルエンザヘマグルチニンステムドメインポリペプチド、組成物およびワクチンならびにインフルエンザの予防および/または治療の分野におけるそれらの使用方法を開示している。PCT/EP2014/060997号明細書は、H1−mini2−cluster1+5+6−GCN4(配列番号2)の部位特異的突然変異により得られ、CR6261(Throsby et al,2009;Ekiert et al 2010)および/またはCR9114の広域中和エピトープをさらに安定的に提示したH1N1A/Brisbane/59/2007(配列番号1)の全長HAに由来するステムドメインポリペプチドの付加配列を開示している。
【0140】
H1−mini2−cluster1+5+6−GCN4(配列番号2)は、H1N1A/Brisbane/59/2007(配列番号1)の全長HAから以下のステップを利用することにより導いた:
1.HA0の開裂部位を除去すること。この部位における野生型HAの開裂は、HA1およびHA2をもたらす。除去は、P1位におけるRからQへの突然変異により達成することができる(例えば、開裂部位(配列番号1の343位)の命名法の説明については、Sun et al,2010参照)。
2.配列番号1からアミノ酸53から320を欠失させることにより頭部ドメインを除去すること。配列の残りのNおよびC末端部分は、4残基フレキシブルリンカーGGGGにより結合させた。
3.H1A/Brisbane/59/2007(配列番号1)中の残基402から418(の相当物)により形成されるループ(AへリックスおよびCDへリックス間)の溶解度を増加させて融合前立体構造の安定性を増加させ、改変HAの融合後立体構造を脱安定化させること。H1−mini2−cluster1+5+6−GCN4(配列番号2)において、突然変異F406S、V409T、F413GおよびL416S(番号付与は、配列番号1を指す)を導入した。
4.H1A/Brisbane/59/2007中の324および436位におけるアミノ酸間のジスルフィド架橋を導入すること;これは、突然変異R324CおよびY436C(番号付与は、配列番号1を指す)を導入することにより達成される。
5.三量体化することが公知のGCN4由来配列MKQIEDKIEEIESKQ(配列番号5)を419〜433位(番号付与は配列番号1を指す)において導入すること。
【0141】
ある実施形態において、分泌(可溶性)ポリペプチドが細胞中での発現後に産生されるように、膜貫通および細胞内ドメインの配列は、HA2の514、515、516、517、518、519、520、521、522、523、524、525、526、526、527、528、529、または530位(または配列アラインメントから決定してその相当物)からHA2のC末端(配列番号1による番号付与)まで欠失されている。可溶性ポリペプチドは、三量体構造を形成することが公知の配列、すなわち、foldon配列GYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTFL(配列番号3)を、場合により上記の短いリンカーを介して連結させて導入することによりさらに安定化させた。リンカーは、場合により、当業者に周知のプロトコルに従って後でプロセシングするための開裂部位を含有し得る。可溶性形態の精製および検出を容易にするため、タグ配列、例えば、ヒスチジンタグ(HHHHHH(配列番号15)もしくはHHHHHHH(配列番号16)またはFLAGタグ(DYKDDDDK;配列番号22)またはそれらの組合せを場合により短いリンカーを介して連結させて場合により付加することができる。リンカーは、場合により、当業者に周知のプロトコルに従って後でプロセシングするためのタンパク質分解開裂部位(の一部)、例えば、LVPRGS(配列番号23)(トロンビン)またはIEGR(配列番号24)(第X因子)を含有し得る。プロセシングされたタンパク質も本発明に包含される。
【0142】
FLAGタグ、トロンビン開裂部位、foldon、およびHis配列を組み合わせるこのようなC末端配列の一例は、配列番号4のFLAG−thrombin−foldon−Hisである。この配列をH1−mini2−cluster1+5+6−GCN4(配列番号2)配列の可溶性形態と組み合わせて親配列(配列番号6)を作出し、それを使用して突然変異導入により本発明の新規ポリペプチドを作出した。この配列は、配列番号1および2のアミノ酸1〜17に対応するリーダー配列を含有しない。
【0143】
したがって、ステムドメインポリペプチドは、PCT/2012/073706号明細書および上記に記載のとおり分子の頭部ドメインをコードするヘマグルチニン配列の一部を欠失させ、配列のNおよびC末端部分を欠失の両側でリンカーを介して再連結させることにより作出した。頭部ドメインの除去は、水性溶媒から既に保護された分子の一部を曝露されたままとし、本発明のポリペプチドの構造を潜在的に脱安定化させる。この理由のため、Bループ中の残基(特にアミノ酸残基406(配列番号1および2のそれぞれFおよびS)、409(VおよびT)413(FおよびG)および416(LおよびS)を、親配列の配列番号6を出発点として使用して種々の組合せにおいて突然変異させた。配列番号6は、H1−mini2−cluster1+5+6−GCN4(配列番号2)から、リーダー配列を除去し、残基520〜565をFlag−thrombin−foldon−−his配列(配列番号4)により置き換えることにより作出した。
【0144】
同様に、融合ペプチド周辺の区域において、多数の疎水性残基が溶媒に曝露され、このことは、天然全長HAとは異なり、ポリペプチドが開裂され得ず、タンパク質内部に疎水性融合ペプチドを埋め込む関連立体構造変化を受ける事実により引き起こされる。この問題に対処するため、配列番号2の残基I337、I340、F352およびI353の一部または全部も突然変異させた。
【0145】
このように、HAステムポリペプチドの可溶性形態74H9(配列番号57)、127H1(配列番号55)、71H2(配列番号61)、86B4(配列番号56)、115A1(配列番号60)、2201C9(配列番号63)、55G7(配列番号59)、113E7(配列番号64)、6E12(配列番号58)、181H9(配列番号62)を作出した。
【0146】
当業者に周知のプロトコルを使用して上記ポリペプチドをコードするDNA配列をピキア・パストリス(Pichia pastoris)中に形質転換させ、またはHEK293F細胞中に形質移入した。哺乳動物細胞中の発現に使用される構築物は、HAリーダー配列(配列番号1および2の残基1〜17)を含有した一方、ピキア・パストリス(P.pastoris)中の発現に使用される構築物において、HAリーダー配列を酵母アルファ因子リーダー配列(配列番号7)により置き換えた。このように発現タンパク質を細胞培養培地に指向させ、したがって、本発明のポリペプチドのさらなる精製なしで結合および発現の決定を可能とした。全ての配列は、FLAG−foldon−HIS C末端配列(配列番号4)を含有した。
【0147】
ポリペプチドへのモノクローナル抗体結合(CR6261、CR9114、CR8020)は、ELISAにより決定した。この目的のため、ELISAプレートを2μg/mlのモノクローナル抗体溶液(20μl/ウェル)により4℃において一晩処理した。抗体溶液の除去後、残留表面を脱脂粉乳のPBS中4%溶液により室温において少なくとも1時間ブロッキングした。プレートを洗浄した後、20μlの細胞培養培地(無希釈または希釈)をそれぞれのウェルに添加し、室温において少なくとも1時間インキュベートした。次いで、ELISAプレートを洗浄し、20μlの抗FLAG−HRP抗体溶液(Sigma A8952、PBS−Tween中4%の脱脂粉乳中2000倍希釈)を添加した。インキュベーション(室温において1時間)後、プレートを再度1回洗浄し、20μlの発光基質(Thermoscientific C#34078)を添加してシグナルを発現させた。あるいは、比色検出法を使用してシグナルを発現させることができる。
【0148】
本発明のポリペプチドの発現は、均一性時間分解蛍光アッセイ(一般的記載について、例えば、Degorce et al.,Curr.Chem.Genomics 2009 3:22−32参照)から決定することができる。この目的のため、テルル(Tb)標識抗FLAGモノクローナル抗体(ドナー)およびAlexa488標識抗Hisモノクローナル抗体(アクセプター)の混合物(HTRF溶液)は、210.5μlの抗FLAG−TB(原液26μg/ml)および1.68mlの抗HIS−488(原液50μg/ml)を培養培地および50mMのHEPES+0.1%のBSAの80mlの1対1混合物に添加することにより調製した。19μlのHTRF溶液をELISAプレートのそれぞれのウェルに添加し、1μlの培養培地を添加した。励起時および他の化合物(タンパク質、培地構成要素など)から生じる短期寿命バックグラウンドシグナルの減衰を可能にするための遅延後、520および665nmにおける蛍光発光の比を決定した。これは、試料中の総タンパク質含有率の尺度であり、異なる実験間のmAb結合シグナルを正規化するために使用する。
【0149】
当業者に周知のプロトコルに従って表3および4に列記されるポリペプチドをピキア・パストリス(P.Pastoris)中で発現させた。培養培地を回収し、ステムドメインポリペプチドのCR6261結合への結合および発現を上記のとおり決定した。結合アッセイにおける応答は発現タンパク質の濃度に対応するため、それぞれの発現配列についてのHTRFアッセイにおけるシグナルに対する結合シグナルの比を比較することによりELISA結合シグナルをタンパク質発現について正規化した。全ての発現ポリペプチドは、配列番号6の親配列と比較して高いHTRFシグナルとCR6261結合との比を示す。
【0150】
さらに、CR6261結合とHTRFシグナルとの比を計算し、親配列の配列番号6について計算された比と比較した。結果を表3および4の第5列に列記し;全ての発現タンパク質は、より高い比を示し、上記ステムポリペプチドがCR6261の結合の増加を示すことを示す。
【0151】
実施例2:本発明のポリペプチドの設計および特性決定
本発明のポリペプチドは、酵母転写アクチベータータンパク質GCN4に由来する配列RMKQIEDKIEEIESK(配列番号20)またはRMKQIEDKIEEIESKQK(配列番号21)をCDヘリックス中で含有する。この配列は、ヘリカル二次構造を形成する高い傾向を有し、こうして本発明のポリペプチドの全安定性を向上させ得る。驚くべきことに、本発明によれば、本発明のポリペプチドの安定性および凝集状態が本発明のポリペプチドの一次配列中のGCN4由来配列の正確な局在および配列に依存的であることが見出された。
【0152】
したがって、ここで、本発明者らは、配列RMKQIEDKIEEIESK(配列番号20)が419〜433位において導入されており(配列番号1による番号付与;例えば、配列番号81から110)または配列RMKQIEDKIEEIESKQK(配列番号21)が417〜433位において導入されている(例えば、配列番号111から140)本発明のポリペプチドの新規セットを記載する。
【0153】
この目的のため、当業者に周知の分子生物学の技術を使用して実施例1に記載のポリペプチド、すなわち、74H9(配列番号57)、127H1(配列番号55)、71H2(配列番号61)、86B4(配列番号56)、115A1(配列番号60)、2201C9(配列番号63)、55G7(配列番号59)、113E7(配列番号64)、6E12(配列番号58)、181H9(配列番号62)を改変して419〜433位における配列RMKQIEDKIEEIESK(配列番号20)を含有する配列74H9−t2(配列番号83)、127H1−t2(配列番号81)、71H2−t2(配列番号87)、86B4−t2(配列番号82)、115A1−t2(配列番号86)、220C9−t2(配列番号89)、55G7−t2(配列番号85)、113E7−t2(配列番号90)、6E12−t2(配列番号84)、181H9−t2(配列番号88)を作出した。
【0154】
類似の様式において、417〜433位における配列RMKQIEDKIEEIESKQK(配列番号21)を含有する配列74H9−t3(配列番号113)、127H1−t3(配列番号111)、71H2−t3(配列番号117)、86B4−t3(配列番号112)、115A1−t3(配列番号116)、2201C9−t3(配列番号119)、55G7−t3(配列番号115)、113E7−t3(配列番号120)、6E12−t3(配列番号114)、181H9−t3(配列番号118)を作出した。
【0155】
本発明のポリペプチドは、異なるウイルス株からのHA分子の配列に基づき作出することができる。例えば、配列番号149〜155は、H1N1A/California/07/09株のHA配列をベースとする本発明のポリペプチドを記載する。
【0156】
上記のとおり、本発明の可溶性ポリペプチドは、例えば、HA2ドメインの残基519、520、521、522、523、524、525、526、527、526、528、529、または530からHA2ドメインのC末端(配列番号1による番号付与)のHAベース配列のC末端部分を除去することにより作出することができる。
【0157】
ポリペプチドは、三量体構造を形成することが公知の配列、すなわち、GYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTFL(配列番号3)を場合によりリンカーを介して連結させて導入することによりさらに安定化させることができる。リンカーは、場合により、当業者に周知のプロトコルに従って後でプロセシングするための開裂部位を含有し得る。可溶性形態の精製を容易にするため、タグ配列、例えば、hisタグ(HHHHHHH(配列番号16)もしくはHHHHHH(配列番号15))またはFLAGタグ(DYKDDDDK)(配列番号22)またはそれらの組合せを場合により短いリンカーを介して連結させて付加することができる。リンカーは、場合により、当業者に周知のプロトコルに従って後でプロセシングするためのタンパク質分解開裂部位(の一部)、例えば、IEGR(配列番号24)(第X因子)またはLVPRGS(配列番号23)(トロンビン)を含有し得る。プロセシングされたタンパク質も本発明に包含される。
【0158】
配列番号55〜64および81〜90のポリペプチドの可溶性形態は、残基519〜565(番号付与は配列番号1を指す)の相当物を、改変トロンビン開裂部位および6ヒスチジンタグ(配列番号15)の両方を含有する配列RSLVPRGSPGHHHHHHにより置き換えることにより作出し、当業者に周知のプロトコルに従ってHEK293F細胞中で発現させた。
【0159】
比較のため、H1−mini2−cluster1+5+6−GCN4t2(配列番号52)およびH1−mini2−cluster1+5+6−GCN4t3(配列番号53)の可溶性形態。培養培地を回収し、CR6261、CR9114への結合は、サンドイッチELISAにより、培養培地から直接本発明のポリペプチドを捕捉するためのコートmAbのCR6261またはCR9114および検出目的のためのC末端hisタグに対して指向されるセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗体を使用して検出した。あるいは、ビオチン化CR9114を、HRPコンジュゲートストレプトアビジンとの組合せで、サンドイッチELISAにおけるCR9114により捕捉された本発明のポリペプチドの検出に使用した。このフォーマットは、本発明のポリペプチドの多量体形態の存在の検出を可能とする。試験された本発明の全てのポリペプチドは、ELISAにより決定されたとおりCR9114(
図2AおよびB、
図3AおよびBならびに
図4AおよびB)およびCR6261(
図2CおよびD、
図3CおよびD、
図4CおよびD)に結合し得た。CR9114捕捉−ビオチン化CR9114検出サンドイッチELISAにより検出される多量体化のレベルの増加は、
図2EおよびF、
図3EおよびFならびに
図4EおよびFに示されるとおりs55G7−t2(配列番号95)、s86B4−t2(配列番号92)、s115A1−t2(配列番号96)、s127H1−t2(配列番号91)、s113E7−t2(配列番号100)、s220C9−t2(配列番号99)、s71H2−t3(配列番号127)、s127H1−t3(配列番号121)、s74H9−t3(配列番号123)について観察された。
【0160】
さらなる特性決定のために本発明のポリペプチドの高度に純粋な調製物を得るため、HEK293F細胞に、127H1−t2(配列番号81)、86B4−t2(配列番号82)および55G7−t2(配列番号85)の可溶性形態をコードする遺伝子を含有する発現ベクターpcDNA2004を形質移入した。産生の間にタンパク質の輸送を指向するリーダー配列(またはシグナル配列)(配列番号1のアミノ酸1〜17に対応)が分泌最終ポリペプチド中に存在しないことが当業者により理解される。
【0161】
本発明のポリペプチドの生成のため、HEK293F細胞(Invitrogen)を300gにおいて5分間スピンダウンさせ、SF1000フラスコを介して300mLの予備加温Freestyle(商標)培地中で再懸濁することにより1.0
*10
6vc/mLを播種した。この培養物をmultitronインキュベーター中で37℃、10%のCO
2、110rpmにおいて1時間インキュベートした。1時間後、プラスミドDNAを9.9mLのOptimem培地中で300mLの培養容量中1.0μg/mLの濃度にピペッティングした。並行して、440μLの293fectin(登録商標)を9.9mLのOptimem培地中でピペッティングし、室温において5分間インキュベートした。5分後、プラスミドDNA/Optimem混合物を293fectin(登録商標)/Optimem混合物に添加し、室温において20分間インキュベートした。インキュベーション後、プラスミドDNA/293fectin(登録商標)混合物を細胞懸濁液に滴加した。形質移入培養物をmultitronインキュベーター中で37℃、10%のCO
2および110rpmにおいてインキュベートした。7日目、細胞を培養培地から遠心分離(3000gにおいて30分間)により分離した一方、本発明の可溶性ポリペプチドを含有する上清をさらなる処理のために0.2μmボトルトップフィルター上で濾過した。
【0162】
精製目的のため、1500ml(s127H1_t2)、1800ml(s86B4_t2)、および2400ml(s55G7_t2)の培養上清を、洗浄緩衝液(20mMのTRIS、500mMのNaCl、pH7.8)中で予備平衡化された24mlのNi Sepharose HPカラムにアプライした。洗浄緩衝液中10mMのイミダゾールによる洗浄ステップ後、結合した本発明のポリペプチドを、洗浄緩衝液中300mMのイミダゾールの段階的勾配により溶出させた。溶出ピークを回収し、濃縮し、さらなる精製のためのサイズ排除カラム(Superdex 200)にアプライした。溶出プロファイルを
図5に示す。55G7−t2および127H1−t2について、分画を回収し、図面に示されるとおりプールし、SDS−PAGE(
図6)、ELISAおよび分析サイズ排除クロマトグラフィーと多角度光散乱との組合せ(SEC−MALS)より分析して分子質量を推定した。ELISA結果は、CR6261およびCR9114への本発明のポリペプチドの結合を裏付けたが、CR8020への結合は裏付けなかった。SEC−MALS結果を表8にまとめる。
【0163】
図5および表8は、本発明のポリペプチドs127H1−t2がs55G7−t2およびs86B4−t2と比較して高い収量(1lの培養上清当たり約30mgのタンパク質)を有することを示す。タンパク質の大多数は、単量体または二量体について予測されるものの間である62kDaの分子量を示す。タンパク質の凝集状態を裏付けるため、SEC−MALS実験をCR6261、CR9114およびCR8020に由来するFab断片の存在下で繰り返した。結果を
図7に示し、表8にまとめる。
【0164】
結果は、本発明のポリペプチドの可溶性形態s127H1−t2が、CR6261およびCR9114からのFab断片の存在下で複合体(SECクロマトグラム中のピークのシフトにより証明)を形成することを示すが、CR8020からのFab断片の存在下では示さない。これは、Fab断片の結合反応の特異性と一致する。それというのも、CR6261およびCR9114はグループ1に由来するHAに結合する一方、CR8020は結合しないためである。複合体のサイズを表8に列記し、これは、ポリペプチドs127H1−t2が1から2つのFab断片に結合することを示し、本発明の精製ポリペプチドs127H1−t2の集団の少なくとも一部が二量体形態であることを示す。
【0165】
本発明のポリペプチド127H1−t2とmAbのCR6261およびCR9114との間の結合反応をさらに分析するため、ならびにCR6261およびCR9114の立体構造エピトープの存在を裏付けるため、精製タンパク質とのそれらの抗体の複合体化をバイオレイヤー干渉法(Octet Red
384,Forte Bio)により試験した。この目的のため、ビオチン化CR6261、CR9114およびCR8020をストレプトアビジンコートセンサ上に固定化し、続いてそれを最初に精製された本発明のポリペプチドの溶液に曝露させて会合速度を計測し、次いで洗浄溶液に曝露させて解離速度を計測した。結果を
図8に示す。
【0166】
固定化CR6261およびCR9114は、両方とも、127H1−t2の可溶性形態への曝露後の明らかな応答により証明されるとおり本発明のポリペプチドを認識する(
図8)。結合相互作用についての解離定数を推定するため、2倍希釈系列を使用して力価測定を実施した。固定化CR6261またはCR9114を含有するセンサを、40、20、10、5、2.5、1.3および0.63nMの濃度における可溶性s127H1−t2溶液にそれぞれ曝露させ、6600秒後の最終応答を記録した。応答をステムドメインポリペプチド濃度の関数としてプロットし、定常状態1:1結合モデルへのフィットを実施し、CR6261/ステムドメインポリペプチド複合体について3.5nMおよびCR9114複合体について2.3nMの解離定数K
dを生じさせた(
図8)。
【0167】
まとめると、本発明のポリペプチドs127H1−t2(配列番号91は多量に産生され、広域中和モノクローナル抗体CR6261およびCR9114に高い親和性で結合し得、このステムドメインポリペプチド中の対応中和エピトープの存在を裏付ける。ポリペプチドは、二量体構造を形成する傾向を有する。
【0168】
実施例3:致死インフルエンザチャレンジモデルにおける本発明のポリペプチドの保護効力の評価
致死インフルエンザチャレンジモデルにおける本発明のポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)の保護効力を評価するため、10匹の雌BALB/cマウス(6〜8週齢)の群をアジュバント無添加、または10μgのMatrix−Mがアジュバント添加された10μgの精製s127H1−t2により3週間の間隔において3回免疫化した。チャレンジモデルのための陽性対照として、広域中和抗体モノクローナル抗体CR6261(15mg/kg)をチャレンジ1日前に筋肉内投与した一方、PBSによる免疫化が陰性対照として機能した。最後の免疫化から4週間後、マウスを25×LD50の異種チャレンジウイルス(H1N1A/Puerto Rico/8/34)によりチャレンジし、3週間毎日モニタリングした(生存率、体重、臨床スコア)。プレチャレンジ血清を、免疫化に使用された本発明のポリペプチドs127H1−t2への結合(正確な免疫化を確認するため)、可溶性H1N1A/Brisbane/59/07全長HAへの結合(全長HAの認識を確認するため)および全長HAへの結合についての広域中和抗体モノクローナル抗体CR9114との競合(誘導された抗体が広域中和CR9114エピトープに近接して結合するか否かを決定するため)についてELISAアッセイにおいて試験する。結果を
図9〜12に示す。
【0169】
結果は、実験が有効であることを示す。それというのも、PBS対照群における全てのマウスはチャレンジ後7日目に感染により死亡する一方、陽性対照群(15mg/kgのCR6261、チャレンジ1日前)は完全に保護されるためである(
図9)。PBS処理マウスとは対照的に、本発明のアジュバント無添加ポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)により免疫化されたマウスの10匹のうち3匹および本発明のアジュバント添加ポリペプチドにより免疫化されたマウスの10匹のうち10匹が、致死チャレンジを生存する(
図10参照)。PBS対照群と比較して、生存比率の増加、生存時間の増加および臨床スコアの低減が、本発明のポリペプチドs127H1−t2により免疫化された群について観察される。差は、本発明のアジュバント添加ポリペプチドを受けた群について最も顕著であるが、アジュバント無添加ポリペプチドを受けた群についても観察される。
【0170】
s127H1−t2または可溶性全長HAを抗原として使用するELISAデータは、本発明のポリペプチドs127H1が免疫原性であり、アジュバントの使用にかかわらず全長HAを認識し得る抗体を誘導することを示す(
図11AおよびB)。
【0171】
免疫化に対する免疫学的応答をさらに理解するため、競合結合ELISAを実施した。この目的のため、プレート結合全長HAを段階希釈された血清試料とインキュベートし、その後に所定の力価測定濃度におけるCR9114−ビオチンを添加する。さらなるインキュベーション後、当分野において周知のプロトコルに従ってストレプトアビジンコンジュゲートセイヨウワサビペルオキシダーゼを使用して結合CR9114−ビオチンの量を定量する。「傾きOD」(ΔOD/10倍率希釈)と表現される対数希釈に対するODの線形回帰を使用してデータを分析する。データは、広域中和抗体CR9114と結合について競合し得る検出可能なレベルの抗体が本発明のアジュバント添加ポリペプチドによる免疫化により誘導されることを示し、
図12Aに観察される競合のレベルの上昇により示されるとおりである。比較として、非標識CR9114(すなわち、自己競合)ならびに非結合モノクローナル抗体CR8020およびCR−JB(両方とも5μg/mlの出発濃度から段階希釈)により誘導されるレベルを別個のグラフに示す。
【0172】
まとめると、本発明者らは、本発明のポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)による免疫化がインフルエンザによる致死感染に対してマウスを保護し得ることを示した。ポリペプチドは、免疫原性であり、全長HAに結合し得る抗体を誘導する。本発明のポリペプチドをアジュバントとの組合せで使用する場合、誘導される検出可能な抗体の少なくとも一部が、モノクローナル抗体CR9114の広域中和エピトープのエピトープに結合し、またはその近くに結合する。
【0173】
実施例4:致死インフルエンザチャレンジモデルにおける本発明のポリペプチドの保護効力の評価
致死インフルエンザチャレンジモデルにおける本発明のポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)の保護効力をさらに評価するため、10匹の雌BALB/cマウス(6〜8週齢)の群を、10μgのMatrix−Mがアジュバント添加された30μgの精製s127H1−t2により3週間の間隔において1、2および3回免疫化した。チャレンジモデルのための陽性対照として、広域中和抗体モノクローナル抗体CR6261(15mg/kg)をチャレンジ1日前に静脈内投与した一方、PBSによる免疫化が陰性対照として機能した。最後の免疫化から4週間後、マウスを25×LD50の異種チャレンジウイルス(H1N1A/Puerto Rico/8/34)によりチャレンジし、3週間毎日モニタリングした(生存率、体重、臨床スコア)。最後の免疫化から4週間後に得られたプレチャレンジ血清を、免疫化に使用された本発明のポリペプチドs127H1−t2への結合(正確な免疫化を確認するため)、可溶性H1N1A/Brisbane/59/07全長HAへの結合(全長HAの認識を確認するため)および全長HAへの結合についての広域中和モノクローナル抗体CR9114との競合(誘導された抗体が広域中和抗体CR9114エピトープに近接して結合するか否かを決定するため)についてELISAアッセイにおいて試験した。結果を
図13〜18に示す。
【0174】
結果は、実験が有効であることを示す。それというのも、PBS対照群における全てのマウスはチャレンジ後7日目に感染により死亡する一方、陽性対照群(15mg/kgのCR6261、チャレンジ1日前)は完全に保護されるためである(
図13A)。s127H1−t2(配列番号91)により1回免疫化されたマウスは、7および9日目の間に感染により全て死亡した(
図14A)。対照的に、2回の免疫化後、10匹のマウスのうち8匹が生存し、3回の免疫化後、全てのマウス(10匹のうち10匹)が致死チャレンジを生存した(
図14B、C)。複数回免疫化された群について、体重損失も低減し、3回免疫化された動物について最小の割合が観察された(
図15B、C)。PBS対照群と比較して、統計的に有意な生存比率の増加、生存時間の増加、体重損失の低減および臨床スコアの低減(
図16B、C参照)が、本発明のポリペプチドs127H1−t2により2または3回免疫化された群について観察された。
【0175】
s127H1−t2(
図17A)または可溶性全長HA(
図17B)を抗原として使用する最後の免疫化から4週間後のプレチャレンジ時点からのELISAデータは、本発明のポリペプチドs127H1が免疫原性であり、1回の免疫化後でさえ全長HAを認識し得る抗体を誘導することを示すが、レベルは、2および3回の免疫化後に有意に高い。上記CR9114競合結合アッセイを使用して、広域中和抗体CR9114と結合について競合し得る検出可能レベルの抗体が、本発明のポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)による2および3回の免疫化後に誘導された(
図18A)。比較として、非標識CR9114(すなわち、自己競合)ならびに非結合モノクローナル抗体CR8020およびCR−JB(両方とも5μg/mlの出発濃度から段階希釈)により誘導されるレベルを別個のグラフに示す(
図18B)。
【0176】
まとめると、本発明者らは、本発明のポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)による2および3回の免疫化がインフルエンザによる致死感染に対してマウスを保護し得ることを示した。ポリペプチドは、免疫原性であり、全長HAに結合し得る抗体を誘導する。誘導される抗体の少なくとも一部が、モノクローナル抗体CR9114の広域中和エピトープのエピトープに結合し、またはその近くで結合する。
【0177】
実施例5:致死異種亜型H5N1インフルエンザチャレンジモデルにおける本発明のポリペプチドの保護効力の評価
致死H5N1インフルエンザチャレンジモデルにおける本発明のポリペプチドs127H1−t2−(配列番号91)の保護効力をさらに評価するため、8〜12匹の雌BALB/cマウス(6〜8週齢)の群を、10μgのMatrix−Mがアジュバント添加された30μgの精製s127H1−t2により3週間の間隔において3回免疫化した。チャレンジモデルのための陽性対照として、広域中和抗体モノクローナル抗体CR6261(15mg/kg)をチャレンジ1日前に静脈内投与した一方、PBSによる免疫化が陰性対照として機能した。最後の免疫化から4週間後、マウスを12.5×LD50の異種亜型チャレンジウイルス(H5N1A/Hong Kong/156/97)によりチャレンジし、3週間毎日モニタリングした(生存率、体重、臨床スコア)。
【0178】
結果は、実験が有効であることを示す。それというのも、PBS対照群における全てのマウスはチャレンジ後8〜10日目の間に感染により死亡する一方、陽性対照群(15mg/kgのCR6261、チャレンジ1日前)は完全に保護されるためである(
図19A)。s127H1−t2(配列番号91)により免疫化された10匹のうち8匹(80%)のマウスが、致死チャレンジを生存する(
図19B)。平均体重損失は9日目において約15%であるが、生存動物は回復し、増量する(
図19C)。生存マウスについて臨床スコア中央値は3〜6日目において1.5であるが、8日目以降、臨床症状は観察されなかった(
図19D)。PBS対照群と比較して、統計的有意な生存比率の増加、生存時間の増加、体重損失の減少および臨床スコアの低減が、本発明のポリペプチドs127H1−t2により免疫化された群について観察される。まとめると、本発明者らは、本発明のポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)による免疫化が、異種亜型H5N1インフルエンザ株による致死感染に対してマウスを保護し得ることを示した。
【0179】
実施例6:本発明のポリペプチドによる免疫化を介して誘発された血清の結合域の評価
実施例5に記載の3回免疫化されたマウスからのプレチャレンジ血清を、いくつかの他のグループ1(H1、H5およびH9)およびグループ2(H3およびH7)インフルエンザ株からの全長HAに対する結合についても、ELISAにより当分野において周知のプロトコルに従って試験した(
図20)。結果は、本発明のポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)により誘導された抗体が、FL HAの天然配列中に存在するエピトープを効率的に認識すること、および抗体が結合するエピトープが、H1、H5およびH9HAを含む異なるグループ1インフルエンザ株間で保存されることを実証する。
【0180】
実施例7:致死H1N1A/Brisbane/59/2007インフルエンザチャレンジモデルにおける本発明のポリペプチドの保護効力の評価
致死H1N1インフルエンザチャレンジモデルにおけるs127H1−t2(配列番号91)の保護効力をさらに評価するため、8〜18匹の雌BALB/cマウス(6〜8週齢)の群を、10μgのMatrix−Mがアジュバント添加された30μgの精製s127H1−t2により3週間の間隔において3回免疫化した。チャレンジモデルのための陽性対照として、広域中和抗体モノクローナル抗体CR6261(15mg/kg)をチャレンジ1日前に静脈内投与した一方、PBSによる免疫化が陰性対照として機能した。最後の免疫化から4週間後、マウスを12.5×LD50のチャレンジウイルス(H1N1A/Brisbane/59/2007)によりチャレンジし、3週間毎日モニタリングした(生存率、体重、臨床スコア)。
【0181】
結果は、実験が有効であることを示す。それというのも、PBS対照群における全てのマウスはチャレンジ後7〜10日目の間に感染により死亡する一方、陽性対照群(15mg/kgのCR6261、チャレンジ1日前)は完全に保護されるためである(
図21A)。s127H1−t2(配列番号91)により免疫化された10匹のうち10匹のマウスが、致死チャレンジを生存する(
図21B)。さらに、体重損失は、感染後5日目において平均して約20%である(
図21C)が、動物は21日間のフォローアップ期間以内に完全に回復する。臨床スコア中央値は、感染後2から9日目の間で3の値においてピークであるが、感染後16日目以降、ベースラインレベル(0)に戻る(
図21D)。PBS対照群と比較して、統計的有意な生存比率の増加、生存時間の増加、体重損失の減少および臨床スコアの低減が、本発明のポリペプチドs127H1−t2により免疫化された群について観察される。
【0182】
まとめると、本発明者らは、本発明のポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)による免疫化が、H1N1A/Brisbane/59/2007による致死感染に対してマウスを保護し得ることを示した。
【0183】
実施例8:本発明のポリペプチドにより免疫化されたマウスの血清中のインフルエンザ中和抗体の存在の評価
インフルエンザに対する保護における役割を担う抗体媒介エフェクター機序をさらに調査するため、プレチャレンジ血清を、下記のH5N1A/Vietnam/1194/04に由来する偽粒子を使用する偽粒子中和アッセイ(Alberini et al 2009)において試験した。
【0184】
偽粒子中和アッセイ
FL HAを発現する偽粒子を既に記載のとおり生成した(Temperton et al.,2007)。既に記載のとおり(Alberini et al 2009)(わずかに改変)、ルシフェラーゼレポーター遺伝子をコードするH5A/Vietnam/1194/04偽粒子によるHEK293細胞の単一形質導入ラウンドを使用して中和抗体を決定した。手短に述べると、熱不活性化(56℃において30分間)プレチャレンジ血清試料を成長培地(2mMのL−グルタミン(Lonza)、1%の非必須アミノ酸溶液(Lonza)、100U/mlのペニシリン/ストレプトマイシン(Lonza)および10%のFBS(Euroclone,Pero,Italy)が補給されたEBSSを有するMEM Eagle(Lonza,Basel,Switserland))中で、96ウェル平底培養プレート中で3つ組で3倍段階希釈し、力価測定数のH5A/Vietnam/1194/04偽粒子(感染後に10
6の相対発光単位(RLU)を生じさせる)を添加した。37℃、5%のCO
2における1時間のインキュベーション後、ウェル当たり10
4個のHEK293細胞を添加した。37℃、5%のCO
2における48時間のインキュベーション後、ルシフェラーゼ基質(Britelie Plus,Perkin Elmer,Waltham,MA)を添加し、ルミノメーター(Mithras LB 940,Berthold Technologies,Germany)を製造業者の説明書に従って使用して発光を計測した。
【0185】
実施例5、6、および7に記載の本発明のポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)により免疫化された動物から得られたプレチャレンジ血清は、偽粒子中和アッセイを使用して高い血清濃度において検出可能な中和を示した(
図22)。これは、免疫原として使用される場合に広域中和抗体を誘発する本発明のポリペプチドの能力を実証する。
【0186】
直接ウイルス中和の他、Fc媒介エフェクター機序、例えば、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および抗体依存性細胞食作用(ADCP)が、インフルエンザに対する保護に実質的に寄与し、ステム指向bnAbはそれらの機序において特に有効である(DiLillo et al.,2014)。本発明のポリペプチドs127H1−t2l18long(配列番号186)による免疫化後に誘発された抗体がADCCを誘導し得るか否かを試験するため、本発明者らは、下記のとおりマウスについて適合させたADCC代理アッセイ(Parekh et al.,2012;Schneuriger et al.,2012;Cheng et al.,2014)を使用してプレチャレンジ血清を試験した。
【0187】
抗体依存性細胞傷害(ADCC)代理アッセイ
ヒト肺癌由来A549上皮細胞(ATCC CCL−185)を、10%の熱不活性化ウシ胎仔血清が補給されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)培地中で37℃、10%のCO2において維持した。実験2日前、Opti−MEM(Invitrogen)中でLipofectamine 2000(Invitrogen)を使用してA549細胞にH5A/Hong Kong/156/97 HAまたはH1A/Brisbane/59/2007 HAをコードするプラスミドDNAを形質移入した。アッセイ1日前、形質移入細胞をハーベストし、ADCCのために白色96ウェルプレート(Costar)中で、およびイメージングのために黒色透明底96ウェルプレート(BD Falcon)中で播種した。24時間後、試料をアッセイ緩衝液(RPMI1640(Gibco)中4%の超微量IgG FBS(Gibco))中で希釈し、56℃において30分間熱不活性化し、次いでアッセイ緩衝液中で段階希釈した。ADCCバイオアッセイのため、A549細胞に新たなアッセイ緩衝液を補充し、抗体希釈物およびマウスFcガンマ受容体IVを発現するADCC Bioassay Jurkatエフェクター細胞(FcγRIV;Promega)を細胞に添加し、1:4.5の標的−エフェクター比において37℃において6時間インキュベートした。細胞を室温に15分間平衡化してからBio−Glo Luciferase System基質(Promega)を添加した。発光をSynergy Neo(Biotek)上で10分後にリードアウトした。データを血清の不存在下のシグナルの誘導倍率として表現する。
【0188】
このアッセイを使用して、実施例5、6および7に記載の本発明のポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)により免疫化された動物から得られたプレチャレンジ血清を、抗原の資源としてのH5N1A/Hong Kong/156/97またはH1N1A/Brisbane/59/07からのFL HAが形質移入された標的細胞を使用してFcγRIVシグナリング活性について試験した(
図23)。両方の場合において、試験された最大血清濃度において30倍の誘導が観察され、マウスにおいてADCC/ADCPエフェクター機能を示すFcγRIVシグナリングを活性化させる抗体を誘発する本発明のポリペプチドの能力を実証する。
【0189】
実施例5〜8において示されるこれらの結果は、本発明のポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)の能力がステム標的化、中和およびADCC媒介抗体を誘発し、同種、異種および異種亜型グループIインフルエンザ株による致死チャレンジに対してマウスを保護し得ることを示す。
【0190】
実施例9:本発明のポリペプチドにより免疫化されたマウスからの血清の受身伝達によるH5N1A/Hong Kong/156/97による致死チャレンジからの保護
観察された保護に対する本発明のポリペプチドにより誘導された抗体の寄与を決定するため、移植試験を実施した。この試験の目的は、アジュバント(Matrix−M)の存在下でs127H1−t2(配列番号91)および追加のHisタグを含有するs127H1−t2long(配列番号101)により3回免疫化されたマウスからの血清の受身伝達(複数回投与)が、H5N1インフルエンザA/Hong Kong/156/97による致死チャレンジに対する保護を付与するか否かを評価することであった。
【0191】
雌BALB/cドナーマウス(6〜8週齢)の群を、10μgのMatrix−Mがアジュバント添加された30μgのs127H1−t2(配列番号91)、C末端Hisタグを含有するs127H1−t2long(配列番号101)またはPBSにより3週間の間隔において3回免疫化した。最後の免疫化から4週間後(70日目)、血清を単離し、群ごとにプールし、レシピエントマウス(雌BALB/c、6−8週齢、1群当たりn=10)中に移植した。それぞれのマウスは、400μlの血清を、チャレンジ前に3日間連続(−3、−2および−1日目)で腹腔内で受けた。チャレンジモデルのための陽性対照として、CR6261(15mg/kg)をチャレンジ1日前に投与した一方(n=8)、PBSによる注射が陰性対照として機能した(n=8)。0日目において、マウスを12.5×LD50のチャレンジウイルスによりチャレンジし、3週間モニタリングした(生存率、体重、臨床スコア)。
【0192】
ドナーマウスにおける本発明のポリペプチドの免疫原性を確認し、レシピエントマウス中への血清の移植後にHA特異的抗体レベルを評価するため、ドナーマウスの末梢血のプール血清試料(70日目)、血清移入前のナイーブレシピエントマウスのプール血清試料(−4日目)およびチャレンジ直前の3回血清移入後のレシピエントマウスの個々の血清試料(0日目)を、H1N1A/Brisbane/59/07からのFL HAへの結合についてELISAにおいて試験した。
【0193】
結果
チャレンジ
− 実験は有効であった;PBS対照群における全てのマウスはチャレンジ後13日目以前(中央値9.5日)に感染により死亡する一方、陽性対照群(15mg/kgのCR6261、チャレンジ1日前)は完全に保護される(p<0.001)。
− 本発明のMatrix−Mアジュバント添加ポリペプチド配列番号91により免疫化されたマウスからの血清のナイーブレシピエントマウス中への3回血清移入は、PBS血清移入対照群と比較して有意な生存時間の増加(p=0.007)および臨床スコアの低減(p=0.012)をもたらす(
図24)。
− 本発明のMatrix−Mアジュバント添加ポリペプチド配列番号101により免疫化されたマウスからの血清のナイーブレシピエントマウス中への3回血清移入は、PBS血清移入対照群と比較して有意な生存比率の増加(p=0.002)、生存時間の増加(p<0.001)、体重損失の減少(p=0.002)および臨床スコアの低減(p<0.001)をもたらす(
図24)。
− 本発明のポリペプチドについて、3回血清移入後の試験されたFL HA A/Brisbane/59/07特異的抗体力価は、活性免疫化後に得られたレベルと類似した(
図25)。
【0194】
結論
Matrix−Mアジュバント添加の本発明のポリペプチド配列番号91および101による3回の免疫化により誘導された血清構成要素(抗体である可能性が最も高い)は、H5N1A/Hong Kong/156/97による致死チャレンジからマウスを保護し得る(生存割合は、それぞれ30および78%である)。
【0195】
実施例10:マウスにおけるH1N1A/NL/602/09チャレンジモデルにおける本発明のポリペプチドのインビボ保護効力
PBS対照群と比較した、H1N1A/NL/602/09チャレンジモデルにおけるMatrix−Mを有する本発明のポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)および追加のHisタグを含有するs127H1−t2long(配列番号101)の保護効力を決定した。
【0196】
10匹の雌BALB/cマウス(6〜8週齢)の群を、10μgのMatrix−Mを有する30μgの本発明のポリペプチドにより3週間の間隔において3回免疫化した。チャレンジモデルのための陽性対照として、CR6261(15mg/kg)をチャレンジ1日前に投与した一方(n=8)、PBSによる注射が陰性対照として機能した(n=18)。最後の免疫化から4週間後、マウスを12.5×LD50のチャレンジウイルスによりチャレンジし、3週間モニタリングした(生存率、体重、臨床スコア)。
【0197】
本発明のポリペプチドの免疫原性を確認するため、プレチャレンジ血清(−1日目)を、H1N1A/Brisbane/59/07からのFL HAへの結合についてELISAアッセイにおいて試験した。誘導された抗体がCR9114エピトープに近接して結合するか否かを決定するため、CR9114競合ELISAを実施した。競合データを、応答を定量し得る傾きODを使用して表現した。
【0198】
結果
− 実験は有効であった;PBS対照群における全てのマウスはチャレンジ後8日目以前(中央値5日)に感染により死亡する一方、陽性対照群(15mg/kgのCR6261、チャレンジ1日前)は完全に保護される(p<0.001)。
− Matrix−Mアジュバント添加のs127H1−t2(配列番号91)および追加のHisタグを含有するs127H1−t2long(配列番号101)による3回の免疫化は、PBS対照群と比較して有意な生存比率の増加(p<0.001)、生存時間の増加(p<0.001)および臨床スコアの低減(p<0.001)をもたらす(
図26)。
− Matrix−Mアジュバント添加のH1 mini−HAバリアントs127H1−t2(配列番号91)による3回の免疫化は、PBS対照群と比較して有意な体重の減少(p<0.001)をもたらす(
図26)。
− 本発明のポリペプチドにより誘導されたH1N1A/Brisbane/59/07 FL HAに対するIgG抗体力価は、試験された全てのH1H1 mini−HAバリアントについてPBSと比較して有意に高い(p<0.001)(
図27A)。
− H1 mini−HAバリアントs127H1−t2(配列番号91)は、追加のHisタグを含有するs127H1−t2long(配列番号101)と比較して有意に高いH1N1A/Brisbane/59/07FL HAに対するIgG抗体力価を有する(p=0.021)(
図27A)。
− 試験された全ての本発明のMatrix−Mアジュバント添加ポリペプチドは、PBSと比較して有意に高いCR9114競合力価を有する(p<0.001)(
図27B)。
【0199】
結論:
本発明のMatrix−Mアジュバント添加ポリペプチドs127H1−t2(配列番号91)および追加のHisタグを含有するs127H1−t2long(配列番号101)は、H1N1A/NL/602/09による致死チャレンジに対する保護を付与し、生存比率、生存期間の増加および臨床スコアの低減として確認される。さらに、Matrix−Mアジュバント添加のs127H1−t2(配列番号91)は、H1N1A/NL/602/09による致死チャレンジ後に体重損失の低減ももたらした。
【0200】
実施例11:ライブラリースクリーニング
PCT/EP2012/073706号明細書は、インフルエンザヘマグルチニンステムドメインポリペプチド、組成物およびワクチンならびにインフルエンザの予防および/または治療の分野におけるそれらの使用方法を開示している。ここで、本発明者らは、H1N1A/Brisbane/59/2007(配列番号1)の全長HAに由来するステムドメインポリペプチドの付加配列を記載する。ステムドメインポリペプチドは、H1−mini2−cluster1+5+6−GCN4t2(配列番号52)の部位特異的突然変異により得られ、CR6261(Throsby et al,2009;Ekiert et al 2010)および/またはCR9114の広域インフルエンザ中和エピトープを提示する。
【0201】
H1−mini2−cluster1+5+6−GCN4t2(配列番号52)は、H1N1A/Brisbane/59/2007(配列番号1)の全長HAから以下のステップを利用することにより導いた:
− HA0の開裂部位を除去すること。この部位における野生型HAの開裂は、HA1およびHA2をもたらす。除去は、P1位におけるRからQへの突然変異により達成することができる(例えば、開裂部位(配列番号1の343位)の命名法の説明については、Sun et al,2010参照。
− 配列番号1からアミノ酸53から320を欠失させることにより頭部ドメインを除去すること。配列の残りのNおよびC末端部分は、4残基フレキシブルリンカーGGGGにより結合させた。
− H1A/Brisbane/59/2007(配列番号1)中の残基402から418(の相当物)により形成されるループ(AへリックスおよびCDへリックス間)の溶解度を増加させて融合前立体構造の安定性を増加させ、改変HAの融合後立体構造を脱安定化させること。H1−mini2−cluster1+5+6−GCN4(配列番号2)において、突然変異F406S、V409T、F413GおよびL416S(番号付与は、配列番号1を指す)を導入した。
− H1A/Brisbane/59/2007中の324および436位におけるアミノ酸間のジスルフィド架橋を導入すること;これは、突然変異R324CおよびY436C(番号付与は、配列番号1を指す)を導入することにより達成される。
− 三量体化することが公知のGCN4由来配列RMKQIEDKIEEIESK(配列番号20)を419〜433位(番号付与は配列番号1を指す)において導入すること。
【0202】
ある実施形態において、本発明のポリペプチドは、HAの細胞内配列および膜貫通ドメインを含有する。他の実施形態において、分泌(可溶性)ポリペプチドが細胞中での発現後に産生されるように、膜貫通および細胞内ドメインの配列は、HA2の519、520、521、522、523、524、525、526、526、527、528、529、または530位(または配列アラインメントから決定してその相当物)からHA2のC末端(配列番号1による番号付与)まで欠失されている。可溶性ポリペプチドは、三量体構造を形成することが公知の配列、すなわち、foldon配列AYVRKDGEWVLL(配列番号3)を場合により上記の短いリンカーを介して連結させて導入することによりさらに安定化させることができる。リンカーは、場合により、当業者に周知のプロトコルに従って後でプロセシングするための開裂部位を含有し得る。可溶性形態の精製および検出を容易にするため、タグ配列、例えば、ヒスチジンタグ(HHHHHHH(配列番号16)もしくはHHHHHH(配列番号15)またはFLAGタグ(DYKDDDDK;配列番号22)またはそれらの組合せを場合により短いリンカーを介して連結させて場合により付加することができる。リンカーは、場合により、当業者に周知のプロトコルに従って後でプロセシングするためのタンパク質分解開裂部位(の一部)、例えば、LVPRGS(配列番号23)(トロンビン)またはIEGR(配列番号24)(第X因子)を含有し得る。プロセシングされたタンパク質も本発明に包含される。
【0203】
FLAGタグ、トロンビン開裂部位、foldon、およびHis配列を組み合わせるこのようなC末端配列の一例は、配列番号4のFLAG−thrombin−foldon−Hisである。この配列をH1−mini2−cluster1+5+6−GCN4t2(配列番号51)配列の可溶性形態と組み合わせて親配列(配列番号156)を作出し、それを使用して突然変異導入により本発明の新規ポリペプチドを作出した。この配列は、配列番号1および2のアミノ酸1〜17に対応するリーダー配列を含有しない。
【0204】
ステムドメインポリペプチドは、PCT/2012/073706号明細書および上記に記載のとおり分子の頭部ドメインをコードするヘマグルチニン配列の一部を欠失させ、配列のNおよびC末端部分を欠失の両側でリンカーを介して再連結させることにより作出する。頭部ドメインの除去は、水性溶媒から既に保護された分子の一部を曝露されたままとし、本発明のポリペプチドの構造を潜在的に脱安定化させる。この理由のため、Bループ中の残基(特にアミノ酸残基406(配列番号1および2のそれぞれFおよびS)、409(VおよびT)413(FおよびG)および416(LおよびS)を、親配列の配列番号156を出発点として使用して種々の組合せにおいて突然変異させた。配列番号156は、H1−mini2−cluster1+5+6−GCN4t2(配列番号52)から、リーダー配列を除去し、残基520〜565をFlag−thrombin−foldon−−his配列(配列番号4)により置き換えることにより作出した。
【0205】
同様に、融合ペプチド周辺の区域において、多数の疎水性残基が溶媒に曝露され、このことは、天然全長HAとは異なり、本発明のポリペプチドが開裂され得ず、タンパク質内部に疎水性融合ペプチドを埋め込む関連立体構造変化を受ける事実により引き起こされる。この問題に対処するため、配列番号156の残基I337、I340、F352およびI353の一部または全部も突然変異させた。
【0206】
突然変異ポリペプチドの2つの異なるセットを表9に開示する。全ての場合において、これらのポリペプチドは、419〜433位における配列番号20を含有する(番号付与は、配列番号1を指す)。
【0207】
実施例12:本発明の三量体ポリペプチドの同定、精製および特性決定
419〜433位における配列番号20を含有する実施例11に記載のポリペプチドのライブラリー(セット1およびセット2)を作出した。HEK293F細胞ならびに多量体(CR9114サンドイッチELISA)、CR6261結合(ELISA)およびタンパク質発現(HTRFアッセイ)のためのスクリーン培養培地中への単一クローンを、個々に形質移入した。CR9114サンドイッチアッセイ、CR9114、CR6261、およびCR8020ELISA、ならびにHTRFアッセイに基づくヒットを確認し、順位付けした。
【0208】
第一級アミン(リジン残基中に存在)特異的架橋剤BS3による架橋とそれに続くSDS−PAGE(下記参照)により多量体化を評価した。広範な多量体化のため、C末端Flag−Foldon−His(FFH)タグ配列をトロンビン開裂部位およびhisタグ配列(TCShis)により置き換えた。続いて、TCS−his含有配列の多量体化(CR9114サンドイッチアッセイ、BS3架橋)を再確認し、クローンを順位付けし、選択した。選択クローンを発現させ、精製し、特性決定した。
【0209】
架橋アッセイを以下のとおり実施した:
・架橋剤BS3(ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート)を培養培地に直接添加する
・室温において30分間インキュベートする。
・培地を回収し、還元(R、5mMのDTT)および非還元(NR)条件下でSDS−PAGE/ウエスタンブロットにより分析する
・還元条件下、BS3架橋種のみが共有結合したままである
・hisタグ特異的mAbを使用するウエスタンブロッティングを介してmini−HAを検出する
【0210】
結果:
1.419〜433位における配列番号20および予測配列変異(>97%のランダム化)を含有する高品質(補正ORFの>90%)の2つのライブラリーを、良好に作出した
2.合計10472クローン(セット1および2からそれぞれ5544および4928)を初回スクリーンにおいて評価した(
図28)
3.FL HA発現の>50%の発現およびFL HAについて観察されたシグナルの>80%のCR6261への結合シグナルを示すクローンをヒットとみなし;この手順は703のヒット(ライブラリー1および2からそれぞれ596および107)を生じさせた
4.703のヒットのうち658が、確認スクリーン後に保持された
5.上位20%のヒット(111)の架橋アッセイは、三量体種の精製を潜在的に干渉し得るより高次の多量体の存在を示した。
6.上位20%の確認されたヒット(111)を良好にクローニングしてFFHC末端をTCS−his配列により置き換え、次いでCR9114サンドイッチELISAおよび架橋アッセイにより評価した
7.架橋アッセイは、最も有望な三量体候補とみなされた9つのクローンを生じさせた(配列番号158から166、表11)。CR9114サンドイッチELISA(
図29)に基づき、3つの候補(2つはTCS−hisを有し、1つはFFH C末端を有する)を発現および精製のために選択した
8.選択候補の2つは十分に発現せず、精製を続行しなかった。候補GW1.5E2.FFH(配列番号158)を、実施例4に記載の手順に従って均一に精製した(7.6mgの総タンパク質;純度>95%、HP−SEC)。
9.SEC−MALS分析によるGW1.5E2.FFH(配列番号158)の特性決定は、溶液中の三量体形成を示し、三量体当たりCR9114またはCR6261の3つのFab断片が結合する(
図30および以下の表10)。バイオレイヤー干渉計測法(Octet)から決定されたK
dappは、CR6261およびCR9114の両方について1nMである。予測されるとおり、いずれの方法によってもCR8020(陰性対照)の結合を検出することができなかった。
【0211】
結論:3:1の化学量論で高い親和性でbnAbのCR6261およびCR9114に結合する本発明の非共有結合三量体ポリペプチド(GW1.5E2.FFH、配列番号158)が同定された。
【0212】
実施例13:H1N1A/Brisbane/59/07マウスモデルにおける本発明のポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)の保護効力
PBS対照群と比較した、H1N1A/Brisbane/59/07チャレンジモデルにおけるMatrix−Mがアジュバント添加されたsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)の保護効力を決定した。
【0213】
10匹の雌BALB/cマウス(6〜8週齢)の群を、10μgのMatrix−Mがアジュバント添加された30μgのsH1mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)により3週間の間隔において3回免疫化した。チャレンジモデルのための陽性対照として、CR6261(15mg/kg)をチャレンジ1日前に投与した一方(n=8)、PBSによる注射が陰性対照として機能した(n=16)。最後の免疫化から4週間後、マウスを12.5×LD50のチャレンジウイルスによりチャレンジし、3週間モニタリングした(生存率、体重、臨床スコア)。
【0214】
sH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)の免疫原性を確認するため、プレチャレンジ血清(−1日目)を、H1N1A/Brisbane/59/07からのFL HAへの結合についてELISAアッセイにおいて試験した。本発明のポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)誘導抗体がCR9114エピトープに近接して結合するか否かを決定するため、CR9114競合ELISAを実施した。競合データを「%競合」として可視化し、(A−P)/A×100)として定義し、式中、Aは、血清が存在しない場合のFL HAへのCR9114結合の最大ODシグナルであり、Pは、所与の希釈における血清存在下のFL HAへのCR9114結合のODシグナルであり、または応答を定量し得る傾きOD計量値を使用して表現し;参照のためにCR9114およびCR8020(出発濃度5mg/ml)溶液を含めた。
【0215】
結果:
− 実験は有効であった;PBS対照群(n=16)における全てのマウスはチャレンジ後10日目以前(中央値8日)に感染により死亡する一方、陽性対照群(n=8、15mg/kgのCR6261、チャレンジ1日前)は完全に保護される(p<0.001)。
− Matrix−Mがアジュバント添加されたsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)による3回の免疫化は、PBS対照群と比較して有意な生存比率の増加(p<0.001)、生存時間の増加(p<0.001)、体重損失の減少(p<0.001)および臨床スコアの低減(p<0.001)をもたらす(
図31)。
− sH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)により誘導されたH1N1A/Brisbane/59/07FL HAに対するプレチャレンジIgG抗体力価は、PBSと比較して有意に高い(p≦0.001)(
図32A)。
− H1N1A/Brisbane/59/07FL HAに対するIgG抗体力価は、2回の免疫化後にプラトーになる(図示せず)。
− 本発明のMatrix−Mアジュバント添加ポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)は、PBSと比較して有意に高いCR9114競合力価を誘導する(p<0.001)(
図32B)。
【0216】
結論:本発明のMatrix−Mアジュバント添加ポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)は、H1N1A/Brisbane/59/07による致死チャレンジに対する保護を付与する。
【0217】
実施例14:H5N1A/Hong Kong/156/97マウスモデルにおける本発明のポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)の保護効力
PBS対照群と比較した、H5N1A/Hong Kong/156/97チャレンジモデルにおけるMatrix−Mがアジュバント添加された優れたH1 mini−HAバリアントの保護効力を決定した。
【0218】
10匹の雌BALB/cマウス(6〜8週齢)の群を、10μgのMatrix−Mがアジュバント添加された30μgの本発明のポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)により3週間の間隔において3回免疫化した。チャレンジモデルのための陽性対照として、CR6261(15mg/kg)をチャレンジ1日前に投与した一方(n=8)、PBSによる注射が陰性対照として機能した(n=16)。最後の免疫化から4週間後、マウスを12.5×LD50のチャレンジウイルスによりチャレンジし、3週間モニタリングした(生存率、体重、臨床スコア)。
【0219】
本発明のポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)の免疫原性を確認するため、プレチャレンジ血清(−1日目)を、H1N1A/Brisbane/59/07からのFL HAへの結合についてELISAアッセイにおいて試験した。mini−HA誘導抗体がCR9114エピトープに近接して結合するか否かを決定するため、CR9114競合ELISAを実施した。競合データを「%競合」として可視化し、(A−P)/A×100)として定義し、式中、Aは、血清が存在しない場合のFL HAへのCR9114結合の最大ODシグナルであり、Pは、所与の希釈における血清存在下のFL HAへのCR9114結合のODシグナルであり、または応答を定量し得る傾きOD計量値を使用して表現し;参照のためにCR9114およびCR8020(出発濃度5μg/ml)溶液を含めた。
【0220】
結果:
− 実験は有効であった;PBS対照群における16匹のうち15匹のマウスはチャレンジ後9日目以前(中央値9日)に感染により死亡する一方、陽性対照群(n=8、15mg/kgのCR6261、チャレンジ1日前)は完全に保護される(p<0.001)。
− Matrix−Mがアジュバント添加されたsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)による3回の免疫化は、PBS対照群と比較して有意な生存比率の増加(p<0.001)、生存時間の増加(p<0.001)、体重損失の減少(p<0.001)および臨床スコアの低減(p<0.001)をもたらす(
図33)。
− 本発明のポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)により誘導されたH1N1A/Brisbane/59/07FL HAに対するプレチャレンジIgG抗体力価は、PBSと比較して有意に高い(p≦0.001)(
図34A)。
− 本発明のMatrix−Mアジュバント添加ポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)は、PBSと比較して有意に高いCR9114競合力価を誘導する(p<0.001)(
図34B)。
【0221】
結論:本発明のMatrix−Mアジュバント添加ポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)は、H5N1A/Hong Kong/156/97による致死チャレンジに対する異種亜型保護を付与する。
【0222】
実施例15:H1N1A/Puerto Rico/8/34マウスモデルにおける本発明のポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)の保護効力
PBS対照群と比較した、H1N1A/Puerto Rico/8/1934チャレンジモデルにおけるMatrix−Mがアジュバント添加された本発明のポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)の保護効力を決定した。
【0223】
10匹の雌BALB/cマウス(6〜8週齢)の群を、10μgのMatrix−Mがアジュバント添加された30μgの本発明のポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)により3週間の間隔において3回免疫化した。チャレンジモデルのための陽性対照として、CR6261(15mg/kg)をチャレンジ1日前に投与した一方(n=8)、PBSによる3回の免疫化が陰性対照として機能した(n=16)。最後の免疫化から4週間後、マウスを25×LD50のチャレンジウイルスによりチャレンジし、3週間モニタリングした(生存率、体重、臨床スコア)。
【0224】
本発明のポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)の免疫原性を確認するため、プレチャレンジ血清(−1日目)をH1N1A/Brisbane/59/07からのFL HAへの結合についてELISAアッセイにおいて試験した。mini−HA誘導抗体がCR9114エピトープに近接して結合するか否かを決定するため、CR9114競合ELISAを実施した。競合データを「%競合」として可視化し、(A−P)/A×100)として定義し、式中、Aは、血清が存在しない場合のFL HAへのCR9114結合の最大ODシグナルであり、Pは、所与の希釈における血清存在下のFL HAへのCR9114結合のODシグナルであり、または応答を定量し得る傾きOD計量値を使用して表現し;参照のためにCR9114およびCR8020(出発濃度5μg/ml)溶液を含めた。
【0225】
結果
− 実験は有効である;PBS対照群(n=16)における全てのマウスはチャレンジ後9日目以前(中央値8日)に感染により死亡する一方、陽性対照群(n=8、15mg/kgのCR6261、チャレンジ1日前)は完全に保護される(p<0.001)。
− Matrix−Mがアジュバント添加された本発明のポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)による3回の免疫化は、PBS対照群と比較して有意な生存比率の増加(p<0.001)、生存時間の増加(p<0.001)、体重損失の減少(p<0.001)および臨床スコアの低減(p<0.001)をもたらす(
図35)。
− 本発明のポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)により誘導されたH1N1A/Brisbane/59/07FL HAに対するプレチャレンジIgG抗体力価は、PBSと比較して有意に高い(p<0.001)(
図36A)。
− 本発明のMatrix−Mアジュバント添加ポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)は、PBSと比較して有意に高いCR9114競合力価を誘導する(p<0.001)(
図36B)。
【0226】
結論:本発明のMatrix−Mアジュバント添加ポリペプチドsH1 mini−HA GW1.5E2−FFH(配列番号158)は、H1N1A/Puerto Rico/8/34による致死チャレンジに対する保護を付与する。
【0227】
【表1】
【0228】
【表2】
【0229】
【表3】
【0230】
【表4】
【0231】
【表5】
【0232】
【表6】
【0233】
【表7】
【0234】
【表8】
【0235】
【表9】
【0236】
【表10】
【0237】
【表11】
【0238】
【表12】
【0239】
【表13】
【0240】
【表14】
【0241】
【表15】
【0242】
【表16】
【0243】
【表17】
【0244】
【表18】
【0245】
【表19】
【0246】
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また、本発明は以下を提供する。
[1]
インフルエンザヘマグルチニンステムドメインポリペプチドであって、
(a)HA1C末端ステムセグメントに0〜50アミノ酸残基の結合配列により共有結合しているHA1N末端ステムセグメントを含むインフルエンザヘマグルチニンHA1ドメインを含み、前記HA1C末端セグメントは、
(b)インフルエンザヘマグルチニンHA2に結合しており、前記HA1およびHA2ドメインは、H1亜型のHAを含むインフルエンザAウイルス亜型に由来し;
(c)前記HA1ドメインおよびHA2ドメイン間の連結部におけるプロテアーゼ開裂部位を含まず;
(d)前記HA1N末端セグメントは、HA1のアミノ酸1〜x、好ましくは、HA1のアミノ酸p〜xを含み、前記HA1C末端ステムセグメントは、HA1のアミノ酸y〜C末端アミノ酸を含み、x=配列番号1の52位(または別のインフルエンザウイルス株のヘマグルチニン中の相当位置)上のアミノ酸であり、p=配列番号1の18位(または別のインフルエンザウイルスのヘマグルチニン中の相当位置)上のアミノ酸であり、y=配列番号1の320位(または別のヘマグルチニン中の相当位置)上のアミノ酸であり;
(e)アミノ酸残基402〜418を含む領域は、アミノ酸配列X1NTQX2TAX3GKEX4N(H/K)X5E(K/R)(配列番号8)を含み、
X1は、M、E、K、V、RおよびTからなる群から選択されるアミノ酸であり、
X2は、F、I、N、T、H、LおよびY、好ましくは、I、LまたはYからなる群から選択されるアミノ酸であり、
X3は、V、A、G、I、R、FおよびS、好ましくは、A、IまたはFからなる群から選択されるアミノ酸であり、
X4は、F、I、N、S、T、Y、E、K、M、およびV、好ましくは、I、Y、MまたはVからなる群から選択されるアミノ酸であり、
X5は、L、H、I、N、R、好ましくは、Iからなる群から選択されるアミノ酸であり;
(f)337位(HA1ドメイン)上のアミノ酸残基は、I、E、K、V、A、およびTからなる群から選択され、
340位(HA1ドメイン)上のアミノ酸残基は、I、K、R、T、F、N、SおよびYからなる群から選択され、
352位(HA2ドメイン)上のアミノ酸残基は、D、V、Y、A、I、N、S、およびTからなる群から選択され、
353位(HA2ドメイン)上のアミノ酸残基は、K、R、T、E、G、およびVからなる群から選択され;
(g)324位上のアミノ酸および436位上のアミノ酸間のジスルフィド架橋をさらに含み;
(h)さらに、アミノ酸配列RMKQIEDKIEEIESK(配列番号20)が、419〜433位において導入されており、または配列RMKQIEDKIEEIESKQK(配列番号21)が417〜433位において導入されている
ポリペプチド。
[2]
前記HA2ドメインが、トランケートされている、[1]に記載のポリペプチド。
[3]
519位からC末端アミノ酸までの前記HA2ドメインのC末端部分が欠失されている、[1]または[2]に記載のポリペプチド。
[4]
530位からC末端アミノ酸までの前記HA2ドメインのC末端部分が欠失されている、[1]または[2]に記載のポリペプチド。
[5]
前記HA2ドメインのC末端部分が、場合によりリンカーを介して連結しているアミノ酸配列GYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTFL(配列番号3)により置き換えられている、[3]または[4]に記載のポリペプチド。
[6]
前記HA1C末端ステムセグメントのC末端アミノ酸残基が、アルギニン(R)またはリジン(K)以外の任意のアミノ酸、好ましくは、グルタミン(Q)である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のポリペプチド。
[7]
前記HA1ドメインおよび/または前記HA2ドメイン中の1つ以上のさらなる突然変異を含む、[1]〜[6]のいずれか一項に記載のポリペプチド。
[8]
抗体CR6261および/またはCR9114に選択的に結合する、[1]〜[7]のいずれか一項に記載のポリペプチド。
[9]
抗体CR8020および/またはCR8057に結合しない、[1]〜[8]のいずれか一項に記載のポリペプチド。
[10]
[1]〜[9]のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードする核酸分子。
[11]
[10]に記載の核酸分子を含むベクター。
[12]
[1]〜[9]のいずれか一項に記載のポリペプチドおよび/または[10]に記載の核酸分子を含む組成物。
[13]
医薬品として使用される、[1]〜[9]のいずれか一項に記載のポリペプチド、[10]に記載の核酸分子、および/または[11]に記載のベクター。
[14]
インフルエンザウイルスに対する免疫応答の誘導において使用される、[1]〜[9]のいずれか一項に記載のポリペプチド、[10]に記載の核酸分子、および/または[11]に記載のベクター。
[15]
ワクチンとして使用される、[1]〜[9]のいずれか一項に記載のポリペプチド、[10]に記載の核酸分子、および/または[11]に記載のベクター。
【0247】
配列表
【化5】
配列番号3:foldon
GYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTFL
配列番号4:FLAG−thrombin−foldon−HIS
SGRDYKDDDDKLVPRGSPGSGYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTFLGHHHHHH
配列番号5:
MKQIEDKIEEIESKQ
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】