特許第6735360号(P6735360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6735360蓄電池放電のための制御装置および蓄電池を放電する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6735360
(24)【登録日】2020年7月15日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】蓄電池放電のための制御装置および蓄電池を放電する方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20200728BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20200728BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20200728BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20200728BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20200728BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20200728BHJP
   G01R 31/3835 20190101ALI20200728BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20200728BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20200728BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20200728BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20200728BHJP
【FI】
   H02J7/00 B
   H02J7/00 X
   H02J7/00 P
   H02J7/00 Y
   B60L3/00 S
   B60L50/60
   H01M10/48 P
   H01M10/44 P
   H01M10/48 301
   G01R31/382
   G01R31/3835
   G01R31/385
   G01R31/387
   G01R31/388
   G01R31/392
【請求項の数】26
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-558477(P2018-558477)
(86)(22)【出願日】2016年2月2日
(65)【公表番号】特表2019-507578(P2019-507578A)
(43)【公表日】2019年3月14日
(86)【国際出願番号】EP2016052192
(87)【国際公開番号】WO2017133760
(87)【国際公開日】20170810
【審査請求日】2018年10月9日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509043571
【氏名又は名称】トヨタ・モーター・ヨーロッパ
【氏名又は名称原語表記】TOYOTA MOTOR EUROPE
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 啓太
(72)【発明者】
【氏名】加藤 祐樹
【審査官】 宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−273413(JP,A)
【文献】 特開2013−096803(JP,A)
【文献】 特開2005−106747(JP,A)
【文献】 特開2011−115031(JP,A)
【文献】 特開2015−158416(JP,A)
【文献】 特開2004−095400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J7/00−7/12
H02J7/34−7/36
H01M10/42−10/48
G01R31/36−31/396
B60L1/00−3/12
B60L7/00−13/00
B60L15/00−58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池(2)の放電を制御するための制御装置(6)であって、
ダミー蓄電池(11)と、
前記電池(2)および前記ダミー電池(11)を放電するよう構成される第1の回路(C1)と、
前記ダミー電池(11)の開路電圧(OCV)を計測するよう構成される第2の回路(C2)とを含み、
前記制御装置(6)は、
前記第1の回路(C1)から前記ダミー電池(11)を分離し、
前記第2の回路(C2)を使用して前記ダミー電池(11)の開路電圧(OCV)を測定し、
前記測定された前記ダミー電池(11)の開路電圧(OCV)に基づいて前記電池(2)の容量減少量最大値(ΔAhmax)を求め
前記第1の回路を使用して前記電池(2)および前記ダミー電池を放電し、
放電された前記電池(2)の現時点での容量減少量(ΔAh)と、前記電池(2)の電圧(V)とを監視し、
前記電池(2)の前記現時点での容量減少量(ΔAh)が前記求めた容量減少量最大値(ΔAhmax)を超えない場合に、前記電池(2)が放電中に充電されているか否かを判定し、
前記電池(2)が放電中に充電されていれば、
前記第1の回路(C1)から前記ダミー電池(11)を分離し、
前記第2の回路(C2)を使用して前記ダミー電池(11)の開路電圧(OCV)を再測定し、
再測定された前記ダミー電池(11)の開路電圧(OCV)に基づいて前記容量減少量最大値(ΔAhmax)を再度求めるよう構成される、制御装置(6)。
【請求項2】
記電池(2)の現時点での容量減少量(ΔAh)が前記求めた容量減少量最大値(ΔAhmax)を超える場合、または前記電圧(V)が所定の下限電圧(Vmin2)より低い場合に放電を停止するようさらに構成される、請求項1に記載の制御装置(6)。
【請求項3】
前記電池(2)の放電電流(I)および放電時間に基づいてかつ/または前記ダミー電池(11)の開路電圧に基づいて、前記電池(2)の現時点での容量減少量(ΔAh)を求めるようさらに構成される、請求項1または2に記載の制御装置(6)。
【請求項4】
前記測定された前記ダミー電池(11)の開路電圧(OCV)に基づいて、特に所定のSOC‐OCVマッピングに基づいて、前記ダミー電池の充電レベル(SOC)を判定し、
前記判定された前記ダミー電池の充電レベル(SOC)に基づいて前記容量減少量最大値(ΔAhmax)を求めるようさらに構成される、請求項1〜のいずれか1項に記載の制御装置(6)。
【請求項5】
前記ダミー電池(11)の判定された劣化度(α)に基づいて前記所定のSOC‐OCVマッピングを更新するようさらに構成される、請求項に記載の制御装置(6)。
【請求項6】
前記ダミー電池(11)の温度/頻度分布および前記ダミー電池(11)の所定の劣化率(β)に基づいて前記ダミー電池(11)の劣化度(α)を判定するようさらに構成される、請求項に記載の制御装置(6)。
【請求項7】
前記ダミー電池(11)の劣化度(α)の判定はアレニウスの式に基づく、請求項またはに記載の制御装置(6)。
【請求項8】
前記ダミー電池(11)の各温度について、寿命終了までの間に前記ダミー電池(11)がその温度であった時間の長さを記録することによって、前記ダミー電池(11)の温度/頻度分布を求めるようさらに構成される、請求項またはに記載の制御装置(6)。
【請求項9】
前記電池(2)の充電レベル(SOC)の判定を、前記判定された前記ダミー電池(11)の充電レベル(SOC)に基づいて、特に、前記電池(2)の充電レベル(SOC)と前記ダミー電池(11)の充電レベル(SOC)とを対応づけた所定のマッピングに基づいて実施し、
前記電池(2)の充電レベル(SOC)に基づいて前記容量減少量最大値(ΔAhmax)を求めるようさらに構成される、請求項のいずれか1項に記載の制御装置(6)。
【請求項10】
所定の劣化率を有する特定の電池型の電池(2)についてその放電を制御するよう構成され、
前記ダミー電池(11)は劣化率を有し、前記劣化率は前記電池(2)の劣化率と相関関係にあり、特には前記電池(2)の劣化率と同一である、請求項1〜のいずれか1項に記載の制御装置(6)。
【請求項11】
前記特定の電池型の電池(2)は所定の容量を有し、
前記ダミー電池(11)は容量を有し、前記ダミー電池(11)の容量は前記電池(2)の容量と相関関係にある、特には前記電池(2)の容量と同一である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の制御装置(6)。
【請求項12】
前記ダミー電池(11)の開路電圧(OCV)を検出するための電圧センサを含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の制御装置(6)。
【請求項13】
前記ダミー電池(11)および/または前記電池(2)の温度(T)を検出するための温度センサを含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の制御装置(6)。
【請求項14】
少なくとも1つの電池(2)、特にバイポーラ固体電池と、
請求項1〜13のいずれか1項に記載の制御装置(6)とを含む、組電池。
【請求項15】
少なくとも1つの電池(2)、特にバイポーラ固体電池と、
前記電池(2)のための放電装置(5)と、
請求項1〜13のいずれか1項に記載の制御装置(6)とを含む、電池放電システム。
【請求項16】
電動モータ(4)と、
請求項14に記載の組電池とを含む、車両(1)。
【請求項17】
電動モータ(4)と、
少なくとも1つの電池(2)、特にバイポーラ固体電池と、
請求項1〜13のいずれか1項に記載の制御装置(6)とを含む、車両(1)。
【請求項18】
蓄電池(2)の放電を制御する方法であって、前記電池(2)およびダミー蓄電池(11)を放電するために第1の回路(C1)が使用され、かつ前記ダミー電池(11)の開路電圧(OCV)を計測するために第2の回路(C2)が使用される方法であり、前記方法は、
前記第1の回路(C1)から前記ダミー電池(11)を分離する工程と、
前記第2の回路(C2)を使用して前記ダミー電池(11)の開路電圧(OCV)を測定する工程と、
前記測定された前記ダミー電池(11)の開路電圧(OCV)に基づいて前記電池(2)の容量減少量最大値(ΔAhmax)を求める工程と、
前記第1の回路(C1)を使用して前記電池(2)および前記ダミー電池(11)を放電する工程と、
放電された前記電池(2)の現時点での容量減少量(ΔAh)と、前記電池(2)の電圧(V)とを監視する工程と、
前記電池(2)の現時点での容量減少量(ΔAh)が前記求めた容量減少量最大値(ΔAhmax)を超えない場合に、前記電池(2)が放電中に充電されているか否かを判定する工程と、
前記電池(2)が放電中に充電されていれば、前記第1の回路(C1)から前記ダミー電池(11)を分離する工程と、
前記第2の回路(C2)を使用して前記ダミー電池(11)の開路電圧(OCV)およびを再測定する工程と、
再測定された前記ダミー電池(11)の開路電圧(OCV)に基づいて、前記容量減少量最大値(ΔAhmax)を再度求める工程とを含む、方法。
【請求項19】
記電池(2)の現時点での容量減少量(ΔAh)が前記求めた容量減少量最大値(ΔAhmax)を超える場合、または前記電圧(V)が所定の下限電圧(Vmin2)より低い場合に放電を停止する工程とをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記電池(2)の放電電流(I)および放電時間に基づいてかつ/または前記ダミー電池(11)の開路電圧に基づいて、前記電池(2)の現時点での容量減少量(ΔAh)が求められる、請求項18または請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ダミー電池(11)の充電レベル(SOC)は、前記測定された前記ダミー電池(11)の開路電圧(OCV)に基づいて、特に所定のSOC‐OCVマッピングに基づいて判定され、
前記容量減少量最大値(ΔAhmax)は前記判定された前記ダミー電池(11)の充電レベル(SOC)に基づいて求められる、請求項1820のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記所定のSOC‐OCVマッピングは前記ダミー電池(11)の判定された劣化度(α)に基づいて更新される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記電池(2)の劣化度(α)は前記ダミー電池(11)の温度/頻度分布および前記ダミー電池(11)の所定の劣化率(β)に基づいて判定される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ダミー電池(11)の劣化度(α)はアレニウスの式に基づいて判定される、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記ダミー電池(11)の温度/頻度分布は、前記ダミー電池(11)の各温度について、寿命終了までの間に前記ダミー電池(11)がその温度であった時間の長さを記録することによって求められる、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記判定された前記ダミー電池(11)の充電レベル(SOC)に基づいて、特に、前記電池(2)の充電レベル(SOC)と前記ダミー電池(11)の充電レベル(SOC)とを対応づけた所定のマッピングに基づいて、前記電池(2)の充電レベル(SOC)が判定され、
前記電池(2)の充電レベル(SOC)に基づいて前記容量減少量最大値(ΔAhmax)が求められる、請求項2125のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の分野
本開示は、蓄電池の放電を制御するための制御装置および蓄電池を放電する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本開示の背景
蓄電池は、二次電池ともよばれ、エネルギー貯蔵手段として、特に車両用のエネルギー貯蔵手段としてますます重要になってきている。このような車両としては、内燃機関と1つ以上の電動モータとを備えるハイブリッド車や、電気のみで駆動される自動車が挙げられる。車両が電力で駆動される際に、電池が放電される。
【0003】
このような車両で使用するのに好適な蓄電池としては、たとえばバイポーラ固体電池や、それ以外の蓄電池として、液体電池、特にラミネート型リチウムイオン電池が挙げられる。上記用途に用いられる蓄電池は、単電池1つからなるものであってもよいし、複数の単電池、好ましくは複数の同一の単電池からなるものであってもよい。後者の蓄電池は組電池ともよばれる。
【0004】
電池の重要な特徴の1つに容量がある。電池の容量とは、電池が定格電圧において有し得る電荷の量である。電池の容量は、その電池に含有される電極材の量が多いほど大きくなる。容量は、アンペア時(A・h)などの単位で計測される。
【0005】
電池または組電池は、充放電を制御するための制御装置を含んでもよい。制御装置は、電池が安全作動域を超えて作動することのないよう、電池の充電レベル(SOC)を監視する。こうした電池または組電池は、スマート電池またはスマート組電池ともよばれる。制御装置は車両に装備されていてもよい。
【0006】
充放電制御において重要な態様の1つは、電池の過充電や過放電を確実に回避することである。過充電や過放電は、電池の電圧を監視することによって回避できる。電池の電圧が充電中に上昇し、放電中に低下するからである。放電中に電池の測定電圧が所定の下限電圧より低くなると、電池が完全放電状態であると制御装置が認識して、放電を停止する。
【0007】
電池の寿命の間において、充放電が繰り返されることにより、電池を構成している積層された層が劣化する可能性がある。特に、積層型電極は劣化の影響を受ける可能性がある。劣化により、抵抗が増大して、放電中に計測される電池の電圧計測値が低くなる。
【0008】
そのため、層劣化した電池の放電においては、電圧計測値が所定の下限電圧に達するのが早く、制御装置は、電池が完全放電状態になったと誤認識する。実際には電池が完全放電状態に達していない(SOCの許容範囲の下限に達していない)にもかかわらず、放電が終了することになる。つまり、電池から得られるエネルギーの量が、劣化分散により減少するのである。
【0009】
欧州特許出願公開第1422769号は、単電池電圧計測タブを備えたラミネート型積層型電池を開示する。複数の単電池が積層方向に積層されたものが直列に接続されており、当該複数の単電池の電圧を計測するための共有電圧計測タブ電極が、当該複数の単電池のそれぞれに接して形成されている。
【0010】
ただ、この技術においては、単電池1つに電圧計測タブ電極1つが必要となる。電池が単電池400〜500個からなる場合には、このようにセンサを配置するとコストが非常に多くかかり得るし、場合によってはこのような配置は不可能である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の概要
現状では、信頼性が高く経済的な放電制御機能を有し、かつ種々の電池型の電池に対して好適に使用できる制御装置の提供が望まれている。
【0012】
したがって、本開示の実施形態は、蓄電池の放電を制御するための制御装置を提供する。制御装置は、
ダミー蓄電池と、
電池およびダミー電池を放電するよう構成される第1の回路と、
ダミー電池の開路電圧を計測するよう構成される第2の回路とを含む。
【0013】
制御装置は、
第2の回路を使用してダミー電池の開路電圧を測定し、
ダミー電池の上記測定された開路電圧に基づいて電池の容量減少量最大値を求めるよう構成される。
【0014】
このような構成を提供することにより、電池容量の監視に基づいて放電を制御することが可能となる。この目的のためにダミー電池が使用される。ダミー電池は、電池の容量減少量最大値を求めることを可能とするよう構成される。電池の容量減少量最大値とは、好ましくは、放電により実現できる最大の容量減少量である。より具体的には、容量減少量最大値は、好ましくは、電池が完全放電状態となるまでに、有利には電池の充電レベル(SOC)使用範囲の下限に達するまでに放電されるべき容量の大きさである。
【0015】
したがって、「完全放電状態である」という記載は、電池が物理的に完全に放電された状態(すなわち0%SOC)であることを意味するものではない。電池が物理的に完全に放電された状態は、電池を損なう可能性があるため、回避すべきである。SOCの許容範囲の下限は、電池の危険な放電や危険な低電圧が生じるリスクを冒すことなく電池が最大限に放電され得るように選択されてもよい。
【0016】
ダミー電池を使用することにより、電池で計測するよりも正確に開路電圧を計測できる。したがって、電池の容量減少量最大値についてもより正確に求めることができる。ダミー電池は、1種の単独の二次電池(すなわち蓄電池)からなるものであってもよい。ダミー電池は、(特に電池が複数の単電池を含む組電池の形態である場合に)電池に含まれていてもよい。基本的に、ダミー電池と電池は同じ設計変数(たとえば電池容量、劣化率、電池型など)を有していてもよい。特に、電池が複数の単電池を含む組電池の形態である場合に、ダミー電池は、この電池の単電池と同じ型のものであってもよい。ダミー電池の使用目的は、特にダミー電池の貯蔵電力の使用目的は、蓄電池の充放電制御を補助するためのみであってよく、車両を駆動するためでなくてよい。ただ、ダミー電池は、電池の充放電に対応して充放電されてもよい。
【0017】
電池の容量とは、電池が定格電圧において有し得る電荷の量である。容量は、アンペア時(A・h)などの単位で計測される。本開示に係る電池の容量減少量最大値は、放電開始時における、放電され得る電荷の量を表す。したがって、充電開始時に充電レベルSOCがたとえば70%であって、放電が10%で停止される必要がある場合には、電池の容量減少量最大値は60%に対応する。電池の容量減少量最大値は電池の放電深度(DOD)とも称される。DODはSOCとの対で用いられ、一方が大きくなると他方が小さくなる。DODはAhで表されてもよい。
【0018】
開路電圧とは、あらゆる回路との接続が切断された、特に本開示に係る第1の回路との接続が切断された、ある装置の2つの端子の間の、すなわちダミー電池の2つの端子の間の電位差である。よって外部電源には接続されていないため、2つの端子の間には外部電流は流れていない。
【0019】
制御装置および制御装置により実施される上記プロシージャは、あらゆる型のバイポーラ固体電池に適している。また、制御装置は、他の型の電池、たとえばリチウムイオン電池などの液体電池にも適用できる。
【0020】
制御装置は、
第1の回路を使用して電池およびダミー電池を放電し、
放電された電池の現時点での容量減少量を監視し、
電池の現時点での容量減少量が上記求めた容量減少量最大値を超える場合に放電を停止するようさらに構成されてもよい。
【0021】
したがって、制御装置は、上記求めた容量減少量最大値に基づいて、電池が完全放電状態になるまで電池の放電を確実に実施できる。
【0022】
代替的にまたは追加的に、制御装置は、
電池の放電中における電池の電圧を監視し、
電圧が所定の下限電圧より低い場合に放電を停止するよう構成されてもよい。
【0023】
したがって、所定の下限電圧は、電池の危険な放電や危険な低電圧が生じるリスクを冒すことなく電池が最大限に放電され得るように選択されてもよい。この所定の下限電圧は、電池の劣化度に基づいて決定されてもよい。所定の下限電圧は、第2の所定の下限電圧に対応していてもよく、第1の所定の下限電圧より小さくてもよい。第1の所定の下限電圧は、従来技術から知られる従来の所定の下限電圧に対応していてもよく、新しい電池のSOC使用範囲下限に対応していて、劣化は考慮に入れていないものである。
【0024】
制御装置は、電池が放電中に充電されているか否かを判定するようさらに構成されてもよい。放電中に充電されている場合には、制御装置は、好ましくは、第2の回路を使用してダミー電池の開路電圧を再測定するよう、そして再測定された開路電圧に基づいて電池の容量減少量最大値を再度求めるようさらに構成される。
【0025】
このように、制御装置は、電池の放電と同時に生じ得る電池の充電を考慮するよう構成されてもよい。たとえば、車両が内燃機関により駆動されている際には、電池が放電されてもよい。車両がハイブリッド車である場合には、電池は放電されると同時に、内燃機関により生成される電力によって充電されてもよい。制御装置は、こうした電池の充放電を制御するよう構成されてもよい。
【0026】
制御装置は、電池の放電電流および放電時間に基づいてかつ/またはダミー電池の開路電圧に基づいて、電池の現時点での容量減少量を求めるようさらに構成されてもよい。
【0027】
言い換えると、時間経過に伴う電流値の積分によって電池の容量が計算されてもよい。代替的または追加的に、容量は、ダミー電池の開路電圧に基づいて測定されてもよい。現時点での容量減少量の計測は、電池の放電電流および放電時間に基づいて、電池の放電中にされてもよい。ダミー電池の電圧の計測を使用する系においては、現時点での容量減少量を計測する際に放電が短時間停止されてもよい。
【0028】
制御装置は、ダミー電池の上記測定された開路電圧に基づいて、特に所定のSOC‐OCVマッピングに基づいて、ダミー電池の充電レベルを判定するよう構成されてもよい。したがって、制御装置はSOC‐OCV曲線などの所定のSOC‐OCVマッピングを備えていてもよく、制御装置はこのSOC‐OCVマッピング内において、OCVの計測値に対応するSOC値を検索してもよい。
【0029】
制御装置は、上記判定されたダミー電池の充電レベルに基づいて容量減少量最大値を求めるよう構成されてもよい。言い換えると、電池の容量減少量最大値は、上記判定されたダミー電池の充電レベルに基づいて求められてもよい。この充電レベルは、ダミー電池の上記測定された開路電圧に基づいて判定されたものである。
【0030】
所定のSOC‐OCVマッピングは、ダミー電池の判定された劣化度に基づいて更新されてもよい。したがって、このSOC‐OCVマッピングは、ダミー電池の初回充電より前にあらかじめ作成されてもよい。そして、SOC‐OCVマッピングは放電プロシージャの実施中に更新されてもよい。その結果、電池の容量減少量最大値が、ダミー電池の上記測定された開路電圧およびダミー電池の劣化度に基づいて求められてもよい。
【0031】
ダミー電池の劣化度は、ダミー電池の温度/頻度分布およびダミー電池の所定の劣化率に基づいて判定されてもよい。
【0032】
ダミー電池の劣化度の判定は、アレニウスの式に基づいてなされてもよい。
ダミー電池の温度/頻度分布は、ダミー電池の各温度について、寿命終了までの間にダミー電池がその温度であった時間の長さを記録することによって求められてもよい。
【0033】
言い換えると、ダミー電池の温度データは、ダミー電池の寿命終了までの間、すなわち使用期間中および使用期間と使用期間との間の休止期間中に取得されてもよい。温度/頻度分布は、ダミー電池の各温度について、現時点までの間にダミー電池がその温度であった時間の長さを累積することによって確立されてもよい。この理由から、ダミー電池と電池とが同じ有効期間、すなわち同じ寿命期間を有することが有利である。言い換えると、電池の交換時にダミー電池も交換することが有利である。
【0034】
制御装置は、上記判定されたダミー電池の充電レベルに基づいて、特に、電池の充電レベルとダミー電池の充電レベルとを対応づけた所定のマッピングに基づいて電池の充電レベルを判定するようさらに構成されてもよい。たとえば制御装置は、所定のルックアップテーブル内、すなわち所定のマッピング内で、上記判定されたダミー電池の充電レベルと一致する電池の充電レベルを検索してもよい。言い換えると、電池の充電レベルと上記判定されたダミー電池の充電レベルとの関係は、あらかじめ決められていてもよく、したがって、制御装置にとって既知であってもよい。一例として、ダミー電池の充電レベルは、電池の充電レベルに常に対応していてもよい。
【0035】
制御装置は、電池の充電レベルに基づいて容量減少量最大値を求めるようさらに構成されてもよい。したがって、容量減少量最大値と上記判定された電池の充電レベルとの関係は、制御装置によって計算されてもよい。言い換えると、電池の容量減少量最大値は、上記判定された電池の充電レベルに基づいて求められてもよい。この電池の充電レベルは、上記判定されたダミー電池の充電レベルに基づいて判定されたものであり、このダミー電池の充電レベルは、ダミー電池の上記測定された開路電圧およびダミー電池の判定された劣化度に基づいて判定されたものである。
【0036】
制御装置は、所定の劣化率を有する特定の電池型の電池についてその放電を制御するよう構成されてもよい。ダミー電池は劣化率を有してよく、ダミー電池の劣化率は電池の劣化率と相関関係にあり、特には電池の劣化率と同一であってもよい。したがって、ダミー電池は蓄電池であってもよい。好ましくは、ダミー電池は、ダミー電池の特徴についての計測値に基づいて電池の特徴が決められ得るように選択される。特に、ダミー電池は、ダミー電池について判定された劣化率に基づいて、電池の劣化率と、したがって電池についての適切な容量減少量最大値とが決められ得るように選択される。
【0037】
また、特定の電池型の電池は、好ましくは所定の容量を有し、ダミー電池の容量は電池の容量と相関関係にあってもよい。たとえば、電池が複数の単電池を含む組電池である場合には、ダミー電池の容量は単電池の容量と同じであってもよい。さらに、ダミー電池の型は電池の型と同じであってもよい。したがって、ダミー電池は、ダミー電池の充電レベルに基づいて、電池の充電レベルと、したがって電池の好適な容量減少量最大値とが決められ得るように選択される。たとえば、車両が使用している電池がSOC20%〜SOC80%のものである場合、ダミー電池の容量はこの範囲と同等であってもよい、すなわちSOC20%〜SOC80%の範囲であってよい。
【0038】
好ましくは、制御装置は、ダミー電池の開路電圧を検出するための電圧センサを含んでもよい。制御装置は、電池の電圧および/または充電レベルを検出するためのさらなる電圧センサを含んでもよい。
【0039】
制御装置は、ダミー電池および/または電池の温度を検出するための温度センサを含んでもよい。
【0040】
本開示は組電池にも関する。組電池は、少なくとも1つの電池、特にバイポーラ固体電池と、上述の制御装置とを含んでもよい。
【0041】
本開示は電池充電システムにも関する。電池充電システムは、少なくとも1つの電池、特にバイポーラ固体電池と、電池の放電装置と、上述の制御装置とを含んでもよい。
【0042】
さらなる態様によれば、本開示は、上述したような、電動モータおよび組電池を含む車両に関する。
【0043】
代替的には、車両は、上述したように、電動モータと、少なくとも1つの電池、特にバイポーラ固体電池と、さらに制御装置とを含んでもよい。
【0044】
また本開示は、蓄電池の放電を制御する方法にも関する。電池およびダミー蓄電池を放電するために第1の回路が使用され、かつダミー電池の開路電圧を計測するために第2の回路が使用される。上記方法は、
第2の回路を使用してダミー電池の開路電圧を測定する工程と、
ダミー電池の上記測定された開路電圧に基づいて電池の容量減少量最大値を求める工程とを含む。
【0045】
上記方法は、
第1の回路を使用して電池およびダミー電池を放電する工程と、
放電された電池の現時点での容量減少量を監視する工程と、
電池の現時点での容量減少量が上記求めた容量減少量最大値を超える場合に放電を停止する工程とをさらに含んでもよい。
【0046】
代替的に、または追加的に、上記方法は、
電池の放電中における電池の電圧を監視する工程と、
電圧が所定の下限電圧より低い場合に放電を停止する工程とを含んでもよい。
【0047】
上記方法は、電池が放電中に充電されているか否かを判定し、放電中に充電されていれば、ダミー電池の開路電圧および電池の容量減少量最大値を再度求める工程をさらに含んでもよい。
【0048】
電池の現時点での容量減少量は、電池の放電電流および放電時間に基づいてかつ/またはダミー電池の開路電圧に基づいて求められてもよい。
【0049】
ダミー電池の充電レベルは、ダミー電池の上記測定された開路電圧に基づいて、特に所定のSOC‐OCVマッピングに基づいて判定されてもよい。
【0050】
容量減少量最大値は、上記判定されたダミー電池の充電レベルに基づいて求められてもよい。
【0051】
所定のSOC‐OCVマッピングは、好ましくは、ダミー電池の判定された劣化度に基づいて更新される。
【0052】
電池の劣化度は、ダミー電池の温度/頻度分布およびダミー電池の所定の劣化率に基づいて判定されてもよい。
【0053】
ダミー電池の劣化度の判定は、アレニウスの式に基づいてなされてもよい。
ダミー電池の温度/頻度分布は、ダミー電池の各温度について、寿命終了までの間にダミー電池がその温度であった時間の長さを記録することによって求められてもよい。
【0054】
電池の充電レベルは、上記判定されたダミー電池の充電レベルに基づいて、特に、電池の充電レベルとダミー電池の充電レベルとを対応づけた所定のマッピングに基づいて判定されてもよい。容量減少量最大値は、電池の充電レベルに基づいて求められてもよい。
【0055】
添付の図面は、本明細書に援用され、本明細書の一部を構成している。本開示の実施形態を例示するものであり、かつ、本明細書の記載とともに本明細書の基本的な思想を説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】本開示の一実施形態に係る制御装置を含む車両の概略図である。
図2】本開示の一実施形態に係る制御装置の電気回路を示す概略図である。
図3】本開示の一実施形態に係る一般的な放電制御プロシージャを示すフローチャートである。
図4】本開示の一実施形態に係るSOC‐OCV曲線更新プロシージャを示すフローチャートである。
図5】SOC‐OCV曲線を示す例示的な概略図である。
図6】ダミー電池の温度に対する所定の劣化率を示す例示的な概略図である。
図7】ダミー電池について求められた温度/頻度分布を示す例示的な概略図である。
図8】従来の放電制御が適用された場合の電池の電圧とSOCとを表した例示的な概略図である。
図9】本開示の一実施形態に係る放電制御が適用された場合の電池の電圧とSOCとを表した第1の例示的な概略図である。
図10】本開示の一実施形態に係る放電制御が適用された場合の電池の電圧とSOCとを表した第2の例示的な概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
実施形態の説明
以下に、本開示の例示的な実施形態が詳細に参照され、その例が添付の図面中に示される。同一または類似の部品や部分を指すために、全ての図面を通して可能な限り同一の参照番号が用いられる。
【0058】
図1は、本開示の一実施形態に係る制御装置6を含む車両1の概略図である。車両1は、ハイブリッド車または電気自動車(すなわち、電気のみで駆動される自動車)であってもよい。車両1は少なくとも1つの電動モータ4を含み、電動モータ4は、電池または組電池2により、好ましくはインバータ3を介して駆動される。車両がハイブリッド車である場合には、車両は内燃機関をさらに含む。電池2はバイポーラ固体電池であってもよい。電池2は別の型の電池であってもよく、たとえばリチウムイオン電池のような液体型電池であってもよい。
【0059】
電池2は放電装置5に接続され、放電装置5は電池2を放電するよう構成される。放電装置5は電気制御回路、たとえばパワーエレクトロニクス回路を含んでもよい。放電装置5は電動モータ4に、特にインバータ3を介して接続されてもよい。したがって、電池2は、車両1、特に電動モータ4を動作させるために放電されてもよい。電池2は、さらに、電池処理および/または回収プロシージャにおいても放電されてよい。
【0060】
放電装置は、電池を充電するようさらに構成されてもよい。この目的のために、放電装置は、外部電源を用いて外部から充電するためのコネクタを含んでもよい、またはこうしたコネクタに接続されていてもよい。コネクタは、たとえばプラグ式または無線式コネクタシステムであってもよい。車両がハイブリッド車である場合には、放電装置5は、車両の内燃機関の発電機にさらに接続されていてもよい。こうして、内燃機関の作動中にかつ/または車両が外部電源に接続されている間に電池2が充電され得る。
【0061】
車両はダミー電池11をさらに含み、ダミー電池11は、電池2の充放電制御に使用される情報、特に計測値を提供するよう構成される。その詳細は以降の記載において示す。ダミー電池11は、好ましくは電池2と同じ型の、もうひとつの蓄電池であってもよい。ダミー電池11は車両中に一体化されていてもよく、たとえば制御装置6と一体化されていてもよい。代替的には、ダミー電池11は電池2と一体化されていてもよい。後者の場合には、ダミー電池11の取り替えが電池2と一緒にでき、容易である。たとえば、電池は複数の単電池を含む組電池であってもよく、この場合のダミー電池は同じ型の単電池であり、上記組電池に含まれてもよい。
【0062】
車両2は、充放電を制御する目的で、制御装置6およびセンサ7を備える。この目的のために、制御装置6は、センサ7を介して電池2および/またはダミー電池11を監視して放電部5を制御する。制御装置6および/またはセンサ7は、電池2に備わっていてもよい。制御装置は電子制御回路(ECU)であってもよい。制御装置はデータ記憶装置をさらに含んでもよい。車両は、スマート電池とスマート充電装置とを備えたスマート電池充電システムを含むこともできる。言い換えると、電池と車両との両方がそれぞれECUを含み、この2つのECUが一緒に動作し、一緒になって本開示に係る制御装置を形成してもよい。後者の場合には、ダミー電池11は、スマート電池中に一体化されていてもよい。さらに制御装置6は、電池管理システムを含んでもよい、または電池管理システムの一部であってもよい。
【0063】
制御装置6は、特定用途向け集積回路(ASIC)、電子回路、プロセッサ(共有プロセッサ、専用プロセッサ、またはグループプロセッサ)、結合論理回路、1つ以上のソフトウェアプログラムを実行するメモリ、および/または上記以外の好適な部品であって、上述した制御装置6の機能性を与える部品を含んでもよい。
【0064】
以降でより詳細に説明するように、センサ7は、ダミー電池11の開路電圧(OCV)を計測するための電圧センサ10を特に含む。またセンサ7は、電池2および/またはダミー電池11の温度を計測するための1つ以上の温度センサ8、電池2および/またはダミー電池11の充電レベルを計測するための少なくとも1つのSOC(充電レベル)センサ9、ならびに電池2および/またはダミー電池11の電圧を計測するための少なくとも1つのさらなる電圧センサ10を含んでもよい。SOCセンサ9は電圧センサであってもよく、この電圧センサにより計測された電圧値が電池のSOCを決めるために使用される。言うまでもなく、SOCセンサ9は、電池のSOCの判定にあたり他の型のセンサをさらに含んでもよく、このことは従来公知である。
【0065】
図2は、本開示の一実施形態に係る制御装置の電気回路を示す概略図である。ダミー電池11および電池2は、たとえば直列に、第1の電気回路C1に接続されている。この回路C1は、ダミー電池11と電池2との両方を放電するよう構成される。好ましくは、回路C1は、ダミー電池11と電池2との両方を充電するようにも構成される。第2の回路C2は、ダミー電池の開路電圧OCVを計測するよう構成される。回路C1と回路C2との間の切り換えのためにスイッチが提供されてもよく、このスイッチは制御装置6によって制御され得る。注目すべきは、図2は制御装置の電気回路の簡略図であるという点である。
【0066】
図3は、本開示の一実施形態に係る一般的な充電制御プロシージャを示すフローチャートである。制御装置6は、この図3のプロシージャを実施するよう構成される。
【0067】
工程S11において、プロシージャが開始される。開始のトリガは、(たとえば電動モータの使用が要求されたために)電池の放電が必要になったと制御装置が判定することによって、かつ/または(たとえば充電された電池のために)放電が可能になることによってなされてもよい。
【0068】
工程S12において、ダミー電池11が主放電回路C1から分離される。言い換えると、制御装置は回路C2に切り換わり得て、ダミー電池11は回路C1から分離される。続いて、ダミー電池の開路電圧OCVが計測される。
【0069】
工程S13において、上記計測されたダミー電池11の開路電圧に基づいて、ダミー電池の現時点での充電レベルSOCが判定される。このSOC判定は厳密な判定でない場合もあるため、推測値と称されてもよい。また、ダミー電池の充電レベルSOCはダミー電池の判定された劣化度に基づいて判定され、この点は、図4の文脈において詳細に説明される。
【0070】
工程S14において、基本的にはダミー電池の開路電圧OCVに基づいて、有利にはダミー電池の判定された劣化度αに基づいて、電池の容量減少量最大値ΔAhmaxが求められる。ダミー電池の判定された劣化度αは好ましくは、電池の劣化度に対応するか、または電池の劣化度との関連が知られている。
【0071】
特に、電池の容量減少量最大値ΔAhmaxは、上記判定されたダミー電池11の充電レベルSOCに基づいて求められてもよい。この充電レベルSOCは、工程S13においてダミー電池の開路電圧および劣化度に基づいて判定されている。また、電池2の容量減少量最大値ΔAhmaxは、所定のSOC‐OCVマッピングに基づいて、OCV計測値に対応するSOC値を特定することによって求められてもよい。SOC‐OCVマッピングは、ダミー電池の上記判定された劣化度αに基づいて常に更新されてもよく、この点は図4の文脈において詳細に説明される。SOC‐OCVマッピングは、図5に示されるように、SOC‐OCV曲線で表されてもよい。
【0072】
より具体的には、電池の容量減少量最大値ΔAhmaxは、電池の充電レベルSOCに基づいて求められてもよく、この電池の充電レベルSOCはダミー電池11の充電レベルSOCに基づいて判定される。この判定には、ダミー電池11のSOC(工程S13において判定)と電池のSOCとの関連を示す所定のマッピングが使用されてもよい。たとえば、電池の容量減少量最大値ΔAhmaxは、所定のSOC下限(たとえば10%SOC)(現時点での劣化度αに基づいて判定)と、判定された現時点でのSOC(現時点での劣化度αに基づいて判定)との間の差に基づいて計算されてもよい。すなわち、以下のとおりである。
ΔAhmax=SOC(α)−SOC下限(α
工程S13および工程S14のプロシージャにかかる時間は、好ましくは限られた時間であり、たとえば0.02秒、0.05秒、0.1秒、0.2秒、または1秒である。
【0073】
工程S15において、放電が開始される。これは、回路C1への切り換えにより実施される。
【0074】
工程S16において、電池の現時点での容量減少量ΔAhが上記求めた容量減少量最大値ΔAhmaxを超えるか否かが判定される。電池の現時点での容量減少量ΔAhが上記求めた容量減少量最大値ΔAhmaxを超えない限り、電池2が放電される。超えた場合には、電池が完全放電状態であると判定され、プロシージャが工程S18において最終的に停止される。
【0075】
この目的のために、工程S16において、電池の現時点での容量減少量ΔAhが監視される。電池の現時点での容量減少量ΔAhは、電池について監視された放電電流Iおよび放電時間に基づいて、特に放電電流I計測値を放電時間で積分したものに基づいて求められてもよい。さらに、または代替的に、電池の現時点での容量減少量ΔAhは、以前に計測されたダミー電池の開路電圧に基づいて求められてもよい。
【0076】
さらに工程S16において、好ましくは放電中に、電池の電圧Vが計測される(すなわち監視される)。次いで、電池の電圧計測値Vが第2の所定の下限電圧Vmin2より低いか否かが判定される。低くなければ、放電が継続される。電池の電圧計測値Vが第2の所定の下限電圧Vmin2より低ければ、放電が工程S18において最終的に停止される。
【0077】
第2の所定の下限電圧Vmin2は、電池の危険な放電や危険な低電圧が生じるリスクを冒すことなく電池が最大限に放電され得るように選択されてもよい。第2の所定の下限電圧は、電池の劣化度に基づいて決定されてもよい。第2の所定の下限電圧は、第1の所定の下限電圧Vmin1より小さくてもよい。第1の所定の下限電圧Vmin1は従来技術から知られる従来の所定の下限電圧に対応していてもよく、新しい電池のSOC使用範囲下限に対応していて、劣化は考慮に入れていないものである。または、第2の所定の下限電圧Vmin2は、Vmin1を所定の量だけ、たとえば0.1V、0.2V、0.5V、1V、または2Vだけ低くすることによって得られてもよい。さらには、Vmin2は、許容される最低のSOC下限に基づいて決定されてもよい。たとえば、従来から許容される使用範囲は20%SOC〜80%SOCであってもよい。Vmin2は、さらに低くされたSOC下限、たとえば5%または10%に基づいて決定されてもよい。
【0078】
また、工程S17において、電池が放電中に同時に充電されているか否かが判定される。この充電が生じる原因は、電池に貯蔵されている電力が消費されているため、たとえば車両の電気モータが使用されているためであってもよい。好ましくは、ダミー電池は、電池の充電とともに充電されるように構成される。この充電は回路C1によって実施されてもよい。このようにして、ダミー電池の充電レベルが電池の充電レベルと常に対応し得る。
【0079】
工程S17における判定は、好ましくは定期的に、たとえば1秒毎、5秒毎、20秒毎、または1分毎に実行される。電池が充電されていない場合には、上記方法は工程S16に戻る。言い換えると、放電中、上記方法は工程S16と工程S17との短いループを実施する。
【0080】
工程S17において、電池が放電中に同時に充電されていると判定された場合、上記方法は工程S12に戻る。言い換えると、充電が検出された場合、上記方法は工程S12〜工程S17の長いループを実施する。このようにして上記方法は、工程S14において、容量減少量最大値ΔAhmaxを再度、上述のとおりに求めてもよい。こうすることによって、有利に、上記方法は、最後に容量減少量最大値ΔAhmaxが工程S14において求められた後に充電された容量の大きさを測定できる。また、その間に電池の劣化がさらに生じていれば、その劣化を考慮することもできる。したがって、容量減少量最大値ΔAhmaxが再度求められてもよく、こうすることにより、上記さらなる劣化が考慮されてもよい。
【0081】
図4は、本開示の一実施形態に係るSOC‐OCV曲線(すなわちSOC‐OCVマッピング)更新プロシージャを示すフローチャートである。SOC‐OCV曲線の例示的な概略図を図5に示す。
【0082】
図4のプロシージャは好ましくは図3のプロシージャの工程S13において実施され、その結果、SOC‐OCV曲線が、したがって容量減少量最大値ΔAhmaxが、現時点での値に更新された劣化度αに常に基づいて求められる。注目すべきは、判定された劣化度αが表すのは電池の実際の劣化度の概算であるという点である。
【0083】
工程S22において、ダミー電池の温度データが得られる。この目的のために温度センサ8が使用されてもよい。ここで得られたデータは、現時点でのダミー電池の温度だけでなく、図4のプロシージャが最後に実施されてからの、特に温度頻度分布Tが最後に更新されてからの(工程S23を参照)、温度履歴データも含んでいてよい。
【0084】
工程S23において、温度頻度分布Tが確立される、または、温度頻度分布Tが既にある場合にはこれが更新される。工程S22において収集された温度データはこの目的のために累積されたものであり、各計測温度における累積時間がその逆関数として、すなわち頻度として表される。温度頻度分布Tは、以下に図7の文脈でより詳細に記載される。
【0085】
工程S24において、温度頻度分布Tと、上記特定のダミー電池についての所定の劣化率βとに基づいて、ダミー電池の劣化度αが判定される。劣化度αは、好ましくは特定の電池型についての劣化率βに対応する、特にはこれに等しい。この判定、すなわちこの計算については、以下に図6および図7を参照して記載される。
【0086】
基本的に、劣化度αの計算はアレニウスの式に基づいてなされ、このことは従来公知である。劣化度αは以下のように計算される。
【0087】
【数1】
【0088】
式中、
t=時間
c=ln(A)
b=−(E/R)
T=温度
したがって、現時点での劣化度αは累積値、すなわち現時点での劣化度計算値および現時点より以前に計算された劣化度計算値の総計であり、たとえば以下のとおりである。
αx1=α+α+α
式中、
【0089】
【数2】
【0090】
温度Tの値および時間tの値は、図7中に示される温度頻度分布Tから得られる。それら以外のパラメータであるcおよびbは、劣化率βの決定に関する文脈においてあらかじめ決定される。
【0091】
劣化率βは下記の等式に基づいて計算される。
【0092】
【数3】
【0093】
式中、
k=所定の反応速度定数(または速度定数)
A=定数
=活性化エネルギー
R=気体定数
T=温度
パラメータk、A、Ea、およびRは、使用されたダミー電池の電池型(好ましくは電池の型に対応)に特定して行なった予備実験から既知であるか、または一般に公知のパラメータである。
k⇒βである場合、以下のとおりである。
【0094】
【数4】
【0095】
劣化度αの計算に用いるパラメータbおよびcは、下記のように決定できる。
b=−(E/R)
c=ln(A)
得られた劣化率βの図を図6に示す。劣化率βは所定の値であり、また、使用されたダミー電池の電池型(好ましくは電池の型に対応)に特定のものである。劣化率βは好ましくは予備実験において決定され、(スマート電池の場合には)電池について、かつ/または制御装置について既知のものである。
【0096】
電池のSOCがダミー電池のSOCに対してマッピングされてもよく、ダミー電池のSOCは、ルックアップマップ中において、判定された劣化度αに対して(たとえばSOC‐OCVマッピングを介して)、たとえば下記の通りマッピングされる。
【0097】
αx1⇒SOCd1⇒SOCb1
αx2⇒SOCd2⇒SOCb2
αx3⇒SOCd3⇒SOCb3
αx4⇒SOCd4⇒SOCb4
このSOCとαxとの関係および/またはSOCとSOCとの関係は好ましくは予備実験において決定され、かつ、使用されたダミー電池の電池型(好ましくは電池2の電池型に対応)に特定のものである。ルックアップマップは、制御装置の、または(スマート電池の場合には)電池のデータ記憶装置に記憶されていてもよい。
【0098】
図5は、SOC‐OCV曲線を示す例示的な概略図である。図から分かるように、SOCの増大に伴ってOCV値が連続的に増加する。したがって、SOC‐OCV曲線から個々のOCV値について固有のSOC値が決定され得る。SOC‐OCV曲線は、好ましくは、電池使用前に実験であらかじめ決定される。電池のSOC‐OCV曲線は、寿命終了までの間に、図3の文脈において記載される放電プロシージャが実施される毎に少なくとも1回、継続的に更新される。
【0099】
図6は、ダミー電池の温度に対する所定の劣化率を示す例示的な概略図である。図から分かるように、この図から、パラメータbおよびcの値を直接得ることができる。bが一次関数の傾きであり、cが(縦長の)一次関数とY軸との交点である。
【0100】
図7は、ダミー電池について求められた温度/頻度分布を示す例示的な概略図である。図中、X軸はダミー電池の温度Tを表し、Y軸は頻度、すなわち時間の逆関数を表す。図は、ダミー電池の寿命全体にわたっての、すなわちダミー電池が使用された全期間および使用期間と使用期間との間の休止期間にかけての累積温度データを含む。図の確立にあたり、すなわち図中の曲線の確立にあたり、寿命終了までの間におけるダミー電池の各温度について、たとえば−40℃〜+60℃の範囲で(量子化)段階的に1℃間隔で、ダミー電池がその温度であった時間の長さが測定される。そして、累積時間はその逆関数、すなわち頻度で表される。好ましくは、ダミー電池の寿命は電池2の寿命に対応する。ダミー電池の温度は電池の温度にほぼ対応すべきであり、そうであれば、両者の劣化度が同じとなる。したがって、ダミー電池は電池の近くに位置してもよい。また、ダミー電池と電池は両方とも、組電池のケースの中に位置していてもよい。このケースは、冷却用ファン、ならびに/またはダミー電池および電池の温度を安定させる手段を備えていてもよい。そうすることにより、ダミー電池および電池の温度が同じ温度になり得る。
【0101】
図8は、従来の放電制御が適用された場合の電池の電圧とSOCとを表した例示的な概略図である。図から分かるように、電池の電圧Vが放電中に下がる、すなわち電池のSOCの減少に伴って下がる。
【0102】
したがって、連続する直線は劣化していない電池、たとえば新しい電池を表す。SOC範囲の下限(たとえば10%)に到達すると、この電池の電圧の計測値Vは放電中に従来の第1の下限電圧Vmin1に到達する。影響として、電池が完全放電状態であるという正しい判定がなされ、放電が停止される。
【0103】
破線は、層劣化した電池、たとえば使用された電池を表す。この電池では、層劣化により抵抗が大きくなっているため、放電中における電圧計測値Vの下降がより急激である。したがって、SOCが約35%である時に既に、電圧Vが第1の下限電圧Vmin1に到達している。影響として、電池が完全放電状態であるという誤った判定がなされ、放電が停止される。この誤判定は、図9および図10の文脈で記載される本開示によって回避できる。
【0104】
図9は、本開示の一実施形態に係る放電制御が適用された場合の電池の電圧とSOCとを表した第1の例示的な概略図である。図9図8と同様のものを例示している。すなわち、劣化していない(新しい)電池と層劣化した(使用された)電池とを例示している。2本の曲線はともに、従来の第1の下限電圧Vmin1に到達するまで下降している。破線は、層劣化した電池を表しており、SOCが約35%である時に第1の下限電圧Vmin1に到達している。
【0105】
ここで、本開示においては、放電制御は電池の容量に基づいてなされるのであり、従来の第1の下限電圧Vmin1に基づいてなされるのではない。したがって、電池の電圧がVmin1より低くても放電は停止されない。その代わりに、放電は、現時点での容量減少量ΔAhが所定の容量減少量最大値ΔAhmaxを超える時点まで、または電池の電圧がVmin2より低くなる時点まで継続され、この時点でのみ停止される。
【0106】
この目的のために、放電開始前に容量減少量最大値ΔAhmaxが求められ、放電中は、現時点での容量減少量ΔAhが継続的に監視される。本例においては、SOCがほぼ55%になると放電が開始される。したがって、上記求めた容量減少量最大値ΔAhmaxは、(SOCの許容範囲の下限が10%SOCであると想定した場合に)残った45%SOCにほぼ対応する。放電が開始されて35%SOCにおいて電池の電圧がVmaxを超えたとき、現時点での容量減少量ΔAhは未だ、上記求めた容量減少量最大値ΔAhmaxを超えない。したがって、放電が継続される。
【0107】
しかし、この例においては、電池の電圧はほぼ17%SOCにおいて第2の下限電圧Vmin2に到達する。したがって、放電の停止は、17%SOCにおいて、電池の臨界の低電圧を回避するために既に実行されており、SOCの許容範囲の下限(すなわち10%SOC)において実行されるのではない。Vmin2は好ましくは、臨界の低電圧の閾値となるよう選択される。いずれにしても、このプロシージャによって、エネルギー損失が18%SOC低減され得る。
【0108】
したがって、閾値Vmin2の使用が、そしてこの使用により放電停止がトリガされることが、安全停止機能として働く。
【0109】
放電プロセス中に同時に電池が充電されていることが検出された場合には、容量減少量最大値ΔAhmaxが再度求められる。したがって、図9の例において、電池がたとえば5%だけ放電されると、この失われた5%分を増加させるために容量減少量最大値ΔAhmaxが再度求められてもよい。ΔAhmaxを再度求める際には、同時に、さらなる劣化が予期されてもよい。
【0110】
図10は、本開示の一実施形態に係る放電制御が適用された場合の電池の電圧とSOCとを表した第2の例示的な概略図である。図10は、劣化していない(新しい)電池と層劣化した(使用された)電池とを例示している。2本の曲線はともに、第1の下限電圧Vmin1の初期値に到達するまで下降している。破線は、層劣化した電池を表しており、SOCが約35%である時に第1の下限電圧Vmin1に到達している。
【0111】
ここで、放電制御は電池の容量に基づいてなされるのであり、従来の第1の下限電圧Vmin1に基づいてなされるのではない。したがって放電は継続される。図10の例において、電池は、ほぼ10%SOCにおいて容量減少量最大値ΔAhmaxに到達する。したがって、この例において、放電の最終的な停止は、電池のSOCの許容範囲の下限に到達したことによって実施される。したがって、劣化によるエネルギー損失はない。
【0112】
請求項を含む本開示全体にわたって、「含む」という用語は、特記しない限り、「少なくとも1つ含む」と同義であるとして理解される。また、本記載中に示される範囲(請求項を含む)はいずれも、特記しない限り、当該範囲の両端の値を含むものとして理解される。記載された要素についての特定の値は、当業者に公知である許容製造公差または工業界における許容公差の範囲内であるものとして理解され、また、「実質的に」および/または「ほぼ」および/または「一般的に」という用語が使用されている箇所では、これらの用語の意味が上記の許容公差の範囲内にあるものとして理解される。
【0113】
国内、または国際、またはそれら以外の標準化団体が定める標準が参照されている箇所では(たとえばISOなど)、本明細書の優先日の時点で当該国内または国際標準化団体により定義された標準が参照されることが意図される。優先日以降に当該標準に加えられた実質的な変更によって、本開示および/または請求項の範囲および/または定義が変更されるものではない。
【0114】
本明細書中の開示は特定の実施形態を参照して記載されたものであるが、これらの実施形態は本開示の思想および用途についての例示を示すのみであることが理解される。
【0115】
本明細書および実施例は具体例として提示されるのみであり、本開示の真の範囲は以下の請求項により示される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10