【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医療分野研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A−STEP)「活性酸素表面処理装置の開発と医療用滅菌器への応用」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御手段が、前記減圧手段による減圧、並びに前記アルコール供給手段による前記アルコールの供給、前記酸素ガス供給手段による前記酸素ガスの供給、及び前記加湿ガス供給手段による前記加湿ガスの供給の内の少なくとも1つ以上の供給動作を繰り返し実行させる、請求項3に記載の滅菌装置。
前記紫外照射手段が200nm以下の波長を有する紫外線を前記アルコールに照射し、前記処理室内に少なくとも前記アルコール由来の活性種及び前記酸素ガス由来の活性種を発生させる、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の滅菌装置。
【背景技術】
【0002】
医療分野においては、細菌や微生物を完全に駆除するために滅菌装置が用いられる。特に、被処理物の形状に依存せず、またプラスチックなどの耐熱性の低い被処理物にも使用できる滅菌装置としては、エチレンオキサイドガスや過酸化水素を用いた滅菌装置が知られている。しかしながら、エチレンオキサイドや過酸化水素は、強毒性、発癌性、分解爆発性を有するため、これらの代替として窒素酸化物や活性酸素を用いた滅菌装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1〜9には、一酸化窒素(NO)や二酸化窒素(NO
2)等の窒素酸化物を含む滅菌性を有するガスを用いた滅菌装置(特許文献1、3〜9)及び活性種を生成するための材料(特許文献2)が開示されている。これらの滅菌装置においては、炭素系ジアゼニウムジオレート化合物(特許文献1、3、5、8)、液体状のNO
2を収容したタンク(特許文献4、9)、又はプラズマ放電(特許文献6、7)を用いて窒素酸化物を含む活性種を生成し、処理室内に生成した活性種を供給することにより、被処理物の滅菌処理を行っている。
【0004】
また、特許文献10には、酸素供給手段から酸素を含むガスを処理室内に供給するとともに第1の紫外線発生ランプから紫外線を発生させることにより当該酸素に当該紫外線を吸収させて処理室内に活性酸素を発生させ、その発生させた活性酸素によって被処理物を殺菌する装置が記載されている。また、前記装置では、殺菌処理時に、第2の紫外線発生ランプを第1の紫外線発生ランプとともに点灯することにより、処理室内で活性酸素と酸素とが結合して生成されたオゾンに第2の紫外線発生ランプから発生させた紫外線を吸収させて、オゾンを酸素と活性酸素とに分解することができ、処理室内における活性酸素の濃度を高くして、被処理物に対してさらに短時間で殺菌処理を行うことが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の各実施形態に係る滅菌装置内では、紫外線、真空紫外線による光化学反応、ならびに種々の気相化学反応により、活性種を発生させることができる。以下に、本発明の実施形態に係る滅菌装置内で発生し得る化学反応とその化学反応により生成すると考えられる主要な活性種を示す。
【0014】
[酸素由来の活性種の生成反応]
【化1】
ここでO(
3P)基底状態原子状酸素、
1O
2(又はO
2(
1aΔg))励起一重項酸素分子、O(
1D)励起一重項原子状酸素、M:第3体(O
2もしくはN
2、(2)は三体反応)である。
【0015】
前記紫外線ランプの照射による酸素からの活性種の生成は、上式(1)〜(6)に示すように、185nm及び254nmの波長(hν)の光により進行する。そのため、本発明に用いる紫外線ランプは、いかなる紫外線ランプを用いても良いが、260nm以下の波長の光を照射するランプであることが好ましく、低圧水銀ランプのように少なくとも185nm及び254nmの波長の光、又はキセノンエキシマランプのように200nm以下で直接活性酸素種を生成できる波長(例えば主発光波長172nm)を照射できなければならない。また、活性酸素の生成と該活性酸素の滅菌処理対象物への曝露を同一装置内で行う場合、前記装置内の酸素濃度(体積比)は、活性酸素が生成する濃度であればいかなる濃度でも構わないが、好ましくは通常の空気と同程度の20%程度から100%までの濃度である。この場合、本発明を大規模で行う場合は安全面の観点から酸素濃度は20%程度が好ましく、実験室レベルで行う場合は効率の観点から100%の濃度が好ましい。
【0016】
[アルコール由来の滅菌因子となる活性種の生成反応]
アルコールは、細菌に対する滅菌効果を有すが、細菌の芽胞に対しては、ほとんど滅菌効果を有さないことが知られている。しかし、本発明では、紫外線照射下において、活性酸素との気相反応により、アルコールが分解及び酸化され、対応するアルデヒド、酸、過酸を活性種として生成すると考えられる。前記気相反応において、アルコールは気化していることが好ましいが、霧化された状態であっても良い。本発明に用いることのできるアルコールとしては、活性酸素と反応することにより、分解及び酸化され、対応するアルデヒド、酸、過酸を活性種として生成するアルコールであればいかなるアルコールを用いることもできる。好ましくは、アルコールは1級アルコールであり、メタノール、エタノール、n−プロパノール等が好ましく用いられる。また、複数種のアルコールを混合して用いても良い。
【0017】
例えば、エタノール(C
2H
5OH)は182nm近傍に吸収ピークを持つため、紫外線照射下で活性酸素と反応することにより分解物を生成、さらに、酸化されることにより、ホルムアルデヒド、ギ酸、過ギ酸等の活性種を生じる。また、エタノールが活性酸素で酸化されることにより、アセトアルデヒド、酢酸、過酢酸等の活性種を生じる。また、ホルムアルデヒドはさらに、活性酸素と反応することにより、反応性の高いヒドロキシラジカルを生じる。
このように、紫外線照射下において、活性酸素との気相反応により生じたアルコール由来の活性種及び活性酸素等の酸素由来の活性種の相乗効果により、本発明の滅菌装置及び滅菌方法は、優れた滅菌効果を奏すると考えられる。
【0018】
紫外線発光部(ランプ)103の発光管としては、185nm、254nmの波長の紫外線を透過させる合成石英ガラス等が用いられる。また、処理室10の内部に設けられる紫外線発光部(ランプ)103の数は、処理室10の大きさ等に応じて任意の数に変更できる。また、エキシマランプを用いて紫外線発光部(ランプ)103を構成できる。エキシマランプとしては、例えば172nmの波長の紫外線を発生させるキセノンエキシマランプを用いることができる。紫外線発光部(ランプ)103は、低圧水銀灯とエキシマランプを組み合わせることにより構成することもできる。また、滅菌対象の領域が小さい場合、GaN系やダイヤモンド形の紫外線LEDを紫外線発光部(ランプ)103として用いることもできる。
【0019】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態で説明する寸法、材料、形状、構成要素の相対的な位置等は任意であり、本発明が適用される装置の構造又は様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に説明される実施形態で具体的に記載された形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明を省略することもある。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る滅菌装置1の模式図である。滅菌装置1は、処理室10、減圧部12、排気ガス処理部13、アルコール供給部14、酸素ガス供給部15、マスフローコントローラ(MFC)161及び162、配管171〜173、バルブ181〜183、制御部19、測定部20を備える。
【0021】
処理室10は、中空の箱形をなし、断熱性及び気密性を有する。処理室内部には被処理物121が収容され、酸素及びアルコールの混合気体に紫外線を照射して発生する活性種による滅菌処理が行われる。本明細書において、単に活性種と記載した場合は、アルコール由来の活性種及び酸素由来の活性酸素等の活性種の両方を含むものを表す。減圧部12は、真空ポンプ等で構成され、配管171を介して処理室10の内部を吸気して減圧する。減圧部12と処理室10とを繋ぐ配管171の途中には、排気ガス処理部13が設けられていても良い。排気ガス処理部13は、処理室10の内部で発生した活性種を分解又は吸着する。図中、排気ガス処理部13は処理室10の外部に設けられているが、処理室10の内部に設けられても良い。また、アルコール由来の活性種を分解又は吸着するための排気ガス処理部と酸素由来の活性種を分解するための排気ガス処理部とが別個に設けられても良い。排気ガス処理部13は、プラチナ、パラジウム、ロジウム、二酸化マンガン、酸化チタンなどから構成される触媒、紫外線発光部(ランプ)、ヒータのいずれか、又はこれらの組み合わせから構成されている活性種分解部、及びアルデヒド、カルボン酸等の吸着材を有する活性種吸着部を有する。
【0022】
アルコール供給部14は、配管172を介して処理室10に接続され、アルコールを処理室10の内部に供給する。MFC161は、配管172の途中に設けられていてもよく、アルコール供給部14から処理室10へ供給されるアルコールの流量検出及び流量制御を行う。アルコールは、液体状態で処理室10の内部に供給されても良く、アルコール供給部14に備えられた霧化装置を用いて噴霧することにより処理室10の内部に供給されても良く、又は、揮発させ気体として処理室10の内部に供給されても良い。
【0023】
酸素ガス供給部15は、配管173を介して処理室10に接続され、酸素を含有する気体(酸素ガス)を処理室10の内部に供給する。酸素ガスは、純酸素、又は酸素を含有する空気であっても良い。MFC162は、配管173の途中に設けられ、酸素ガス供給部15から処理室10へ供給される酸素ガスの流量検出及び流量制御を行う。
【0024】
バルブ181は、処理室10と減圧部12との間の配管171に設けられ、配管171の流路を開閉する。即ち、バルブ181が開状態となると、処理室10と減圧部12との間の流路が開かれ、減圧部12によって処理室10が減圧される。一方、バルブ181が閉状態となると、処理室10と減圧部12との間の流路が遮断され、減圧部12による処理室10の減圧動作が停止する。バルブ182は、処理室10とアルコール供給部14との間の配管172に設けられ、配管172の流路を開閉する。即ち、バルブ182が開状態となると、処理室10とアルコール供給部14との間の流路が開かれ、アルコール供給部14によって処理室10へアルコールが供給される。一方、バルブ182が閉状態となると、処理室10とアルコール供給部14との間の流路が遮断され、アルコール供給部14による処理室10へのアルコールの供給動作が停止する。同様に、バルブ183は、処理室10と酸素ガス供給部15との間の配管173に設けられ、配管173の流路を開閉する。即ち、バルブ183が開状態となると、処理室10と酸素ガス供給部15との間の流路が開かれ、酸素ガス供給部15によって処理室10へ酸素ガスが供給される。一方、バルブ183が閉状態となると、処理室10と酸素ガス供給部15との間の流路が遮断され、酸素ガス供給部15による処理室10への酸素ガスの供給動作が停止する。
【0025】
制御部19は、プログラム等を記録するROM、ワーク用の記憶領域のRAM、プログラムを実行するマイクロプロセッサ、制御信号を出力するポートを含み得る。なお、必ずしも制御部19をつかさどる電子機器がここになくとも、公知の通信手段(有線又は無線)を介して外部で同様の信号処理を行い、その処理情報としての制御情報を受信し、同様に制御しても構わない。制御信号は、処理室10の内部の温度、圧力、湿度を制御し、またバルブ181〜183の開閉、減圧部12、アルコール供給部14、酸素ガス供給部15の動作を制御するための信号である。制御部19は、制御信号を送信することで処理室10、バルブ181〜183、減圧部12、アルコール供給部14、酸素ガス供給部15の動作を制御する。
【0026】
測定部20は、温度計、圧力計、湿度計、窒素酸化物濃度計、オゾン濃度計等のセンサ、センサからの信号を出力する出力部から構成される。センサは、処理室10の内部に設けられ、出力部はセンサによって検出された処理室10の内部の温度や圧力等の検出データを、制御部19、又は図示されていないモニタに出力する。制御部19は、測定部20から受信した検出データに基づいて、バルブ181〜183、及び後述する送風ファン102に制御信号を出力し、処理室10の内部の温度、圧力、湿度を制御する。
【0027】
図2は、本発明の第1実施形態に係る処理室10の断面図である。処理室10は、処理台101、送風ファン102、紫外線発光部(ランプ)103、流体入出力口となる接続部111〜113を備える。処理台101上には、滅菌袋122に収容された被処理物121が載置される。送風ファン102は、制御部19からの制御信号により作動又は停止し、ファンの回転により処理室10の内部を撹拌し、また処理室10の内部を冷却する。
【0028】
紫外線発光部(ランプ)103は、発光管内に水銀を封入した水銀灯から構成される。水銀灯は、点灯中の水銀の蒸気圧が1〜10Pa程度の低圧水銀灯であって、主として185nm、254nm近傍の波長の紫外線を出力する。上記の波長の紫外線を処理室10の内部に照射することにより、以下に示すような種々の反応過程により、反応性が高く、強い殺菌力を有する活性種を発生させることができる。なお、このランプの代わりに同様の波長を発光する発光部、例えばLED光源やレーザ等を利用しても構わない。
【0029】
接続部111〜113は、処理室10の内部にアルコール、酸素ガスを供給し、また処理室10の内部を減圧するための外部装置との連絡口である。接続部111〜113のそれぞれは、配管171〜173のいずれか1つと接続される。本実施形態では、接続部111は、配管171と接続され、バルブ181を介して減圧部12と接続される。また、接続部112は、配管172と接続され、バルブ182を介してアルコール供給部14と接続される。また、接続部113は、配管173と接続され、バルブ183を介して酸素ガス供給部15と接続される。しかしながら、接続部111〜113のそれぞれを配管171〜173のいずれと接続するかは、装置寸法や被処理物の載置位置等の条件により適宜変更できる。また、アルコール及び酸素ガスの導入及び減圧は処理室10の側面部から行うように図示されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、ガスの供給及び減圧は処理室10の上面部又は下面部から行っても良い。これらガス供給系統及び減圧系統の数や接続位置は、処理室10の寸法や被処理物121の位置によって適宜変更できる。
【0030】
図3は、本発明の第1実施形態に係る滅菌装置1による滅菌処理を示す流れ図である。ステップS301において、滅菌袋122に収容された被処理物121を処理室10の内部の処理台101に載置する。ステップS302において、制御部19は、紫外線発光部(ランプ)103を点灯させ、処理室10の内部に185nm、254nmの波長の紫外線を照射させる。ステップS303において、制御部19は、送風ファン102を作動させ、処理室10の内部の雰囲気を撹拌する。ステップS304において、制御部19は、バルブ181を開状態にするよう制御信号を送信する。バルブ181は制御信号を受信し、開状態となり、減圧部12が処理室10の内部を吸気することで処理室10の内部を減圧する。次いで、制御部19は、所定の時間の経過後、又は処理室10の内部が所定の圧力(例えば、500Pa以下)まで減圧された後、バルブ181を閉状態にするよう制御信号を送信し、減圧部12の減圧動作を停止させる。なお、ステップS302〜S304は、その実行手順を変更することができ、またこれらのステップは同時に実行されることもできる。
【0031】
ステップS305において、制御部19は、バルブ182を開状態にするよう制御信号を送信する。バルブ182が制御信号を受信し、開状態となり、アルコール供給部14が処理室10の内部にアルコールの供給を行う。アルコールが処理室10の内部に導入されると、アルコール中の溶存酸素が、紫外線発光部(ランプ)103から照射される紫外線と反応して式(1)〜(6)に示す反応が起こり、オゾン、励起一重項酸素、過酸化水素等の活性酸素が生成される。生成された酸素由来の活性種は、導入されたアルコールと反応し、アルコール由来の活性種を生成する。これら活性種は、減圧下の処理室10の内部で急速に拡散する。その結果、生成された活性種は、滅菌袋122内に効率よく浸透し、被処理物121に対して高い殺菌作用をもたらす。
【0032】
ステップS306において、制御部19は、所定の時間の経過後、又は処理室10の内部が所定の圧力(例えば、50kPa程度)まで上昇した後、バルブ182を閉状態にするよう制御信号を送信する。バルブ182が制御信号を受信し、閉状態となり、アルコール供給部14が処理室10の内部へのアルコールの供給を停止する。
【0033】
ステップS307において、制御部19は、バルブ183を開状態にするよう制御信号を送信する。バルブ183が制御信号を受信し、開状態となり、酸素ガス供給部15が処理室10の内部に酸素ガスの供給を行う。酸素ガスが処理室10の内部に導入されると、紫外線発光部(ランプ)103から照射される紫外線と反応して式(1)〜(6)に示す反応が起こり、酸素由来の活性種が生成される。生成された酸素由来の活性種は、前記導入されたアルコールと反応し、アルコール由来の活性種を生成する。生成された活性種は、減圧下の処理室10の内部で急速に拡散する。その結果、生成された活性種は、滅菌袋122内に効率よく浸透し、被処理物121に対して高い殺菌作用をもたらす。
【0034】
ステップS308において、制御部19は、所定の時間の経過後、又は処理室10の内部が所定の圧力(例えば、95kPa程度)まで上昇した後、バルブ183を閉状態にするよう制御信号を送信する。バルブ183が制御信号を受信し、閉状態となり、酸素ガス供給部15が処理室10の内部への酸素ガスの供給を停止する。このとき、処理室10の内部の圧力が大気圧以上になると、処理室10の内部のガスが外部に漏出するおそれがある。そのため、処理室10の内部の圧力が大気圧よりも若干低い程度であることが望ましい。
【0035】
なお、ステップS305〜S308は、まず、ステップS307において酸素ガスの供給を行い、ステップS308においてバルブ183を閉状態にした後に、ステップS305において、アルコールを処理室10の内部に、例えば霧化装置等を用いて導入した後に、ステップS307において活性種の生成を行っても良い。このとき、ステップS308において、処理室10の内部の圧力が大気圧以上になると、処理室10の内部にアルコールを導入することが難しくなることがある。そのため、処理室10の内部の圧力が大気圧よりも若干低い程度であることが望ましい。
【0036】
また、ステップS305〜S308は、ステップS305におけるアルコールの導入及びステップS307における酸素ガスの供給を同時に行っても良い。このとき、処理室10の内部の圧力が大気圧以上になると、処理室10の内部のガスが外部に漏出するおそれがある。そのため、処理室10の内部の圧力が大気圧よりも若干低い程度となるように、ステップS306及びステップS308において、制御部19により、バルブ182及びバルブ183が閉状態になり、アルコールの導入及び酸素の供給が停止される。
【0037】
ステップS315において、制御部19は、所定の時間(例えば、5分〜4時間程度の範囲)だけ、バルブ181〜183の閉状態を維持する。一方で、制御部19は、送風ファン102の回転動作及び紫外線発光部(ランプ)103の紫外線照射を維持する。この間に、処理室内に閉じ込められたアルコール及び酸素分子からの活性種の生成は継続し、かつ生成された活性種は処理室10の内部で撹拌される。その結果、滅菌袋122内に浸透した活性種の被処理物121に対する殺菌作用は継続する。
【0038】
ステップS319において、制御部19は、バルブ181を開状態にするよう制御信号を送信する。制御信号を受信すると、バルブ181が開状態となり、減圧部12が処理室10の内部を吸気する。このとき、処理室10の内部の雰囲気にはホルムアルデヒド及びギ酸並びにオゾン等が含まれている。これらの化合物には毒性があり、特にオゾンはその強い酸化力によって減圧部12の構成部材を劣化させる可能性がある。そのため、制御部19は、排気ガス処理部13を介して処理室10の内部を吸気することが望ましい。
【0039】
ステップS321において、制御部19は、送風ファン102の回転動作、紫外線発光部(ランプ)103の紫外線照射を停止させる。次いで、ステップS322において,制御部19は、バルブ183を開状態にするよう制御信号を送信する。バルブ183が制御信号を受信し、開状態となり、酸素ガス供給部15が処理室10の内部に酸素ガスの供給を行う。制御部19は、処理室10の内部が大気圧まで達した後に、バルブ183を閉状態にするよう制御信号を送信する。なお、制御部19は、酸素ガスの代わりに空気を処理室10の内部に供給しても良い。ステップS323において、被処理物を取り出して、滅菌処理を終了する。
【0040】
なお、本実施形態では、最初に紫外線発光部(ランプ)103を点灯させ、次いでアルコールを処理室10の内部に導入し、最後に酸素ガスを処理室10の内部に導入する、としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、アルコール及び酸素ガスを導入後に紫外線発光部(ランプ)103を点灯させるようにしても同様の効果が得られる。
【0041】
本発明によれば、紫外線と酸素分子及びアルコールとの分解反応及び酸化反応を利用して活性種を生成している。これら反応を利用した活性種の生成には、反応させるアルコールの量や滅菌処理中の処理室10の内部の圧力に依存せず、瞬時に所望の濃度の活性種を安定的に得ることができる、という利点がある。本発明と比較して、薬剤を利用した生成方法の場合、得られる活性種の濃度は当該薬剤の組成によって制限されてしまう。従って、本発明による滅菌装置は、短時間で安定した滅菌処理を行える点で従来の滅菌装置よりも有利である。
【0042】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る加湿部21を備える滅菌装置5について説明する。
【0043】
図4は、本発明の第2実施形態に係る滅菌装置5の模式図である。本実施形態に係る滅菌装置5は、加湿部21、配管174、バルブ184を備える。加湿部21は、水を貯留する容器と、容器内の水を霧状化させ、霧状化した水分を含んだガス(加湿ガス)を噴射する噴射器とを備え、その上部が配管174を介して処理室10と接続されている。バルブ184は、処理室10と加湿部21との間に設けられ、配管174の流路を開閉する。バルブ184は、制御部19からの制御信号を受信し、開状態となり、加湿部21が処理室10の内部へ加湿ガスを供給する。その他の構成は第1実施形態と同一である。従って、重複する箇所についての説明を省略する。
【0044】
図5は、本発明の第2実施形態に係る滅菌装置5による滅菌処理を示す流れ図である。第2実施形態におけるステップS301〜S308は、
図3に示す第1実施形態の場合と同じである。酸素ガスの供給を停止(ステップS308)した後に、ステップS309において、制御部19は、バルブ184を開状態にするよう制御信号を送信する。バルブ184が制御信号を受信し、開状態となり、加湿部21が処理室10の内部に加湿ガスの供給を行う。加湿ガスが処理室10の内部に導入されると、式(4)及び(5)に示す反応がより進行し、過酸化水素が生成される。また、過酸化水素は、アルコール由来の活性種に含まれるカルボン酸を酸化し、より活性の高い過酸を生成する。このことから、加湿部21を備えることで、本発明の滅菌装置の滅菌効果をより向上させることができる。
【0045】
ステップS310において、制御部19は、所定の時間の経過後、又は処理室10の内部が所定の圧力まで上昇した後、バルブ184を閉状態にするよう制御信号を送信する。バルブ184が制御信号を受信し、閉状態となり、加湿部21が処理室10の内部への加湿ガスの供給を停止する。このとき、処理室10の内部の圧力が大気圧以上になると、処理室10の内部のガスが外部に漏出するおそれがある。そのため、処理室10の内部の圧力が大気圧よりも若干低い程度であることが望ましい。本実施形態では、加湿ガスの供給(ステップS309)を、酸素ガスの供給を停止(ステップS308)した後としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、アルコールの供給(ステップS305)の前に加湿ガスを導入しても同様の効果が得られる。また、酸素ガスの供給(ステップS307)の前に加湿ガスを導入しても同様の効果が得られる。
【0046】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係る滅菌装置1について説明する。
【0047】
図6は、本発明の第3実施形態に係る滅菌装置1による滅菌処理を示す流れ図である。本発明の第3実施形態に係る滅菌装置1は、制御部19が実行するプログラムを除けば、
図1に示す第1実施形態と同じである。
図3に示す第1実施形態の流れ図と同様にステップS301〜S308までを実行し、続いて処理室10の内部を再度減圧(ステップS319)した後に、ステップS320において、制御部19は、ステップS305〜S315の滅菌工程のサイクル数が設定された所定の回数に到達したか否かを判断する。制御部19は、サイクル数がまだ設定された所定の回数に到達していないと判断した場合、ステップS305に戻り、アルコールを再び処理室内に供給させるよう制御信号を送信する。制御部19は、サイクル数が設定された所定の回数に到達するまで、ステップS305〜S315の滅菌工程を繰り返すようバルブ181〜183を制御する。制御部19は、サイクル数が設定された所定の回数に到達したと判断した場合、S305〜S315の滅菌工程を終了させ、ステップS321に進む。その他の構成は第1実施形態と同一である。従って、重複する箇所についての説明を省略する。なお、本実施形態は加湿部21を含む第2実施形態にも適用できる。このように滅菌工程を複数回繰り返すことにより、被処理物121に対する活性種の浸透性を高めることができる。特に、被処理物121が試験管の様な中空形状やデッドエンド部を有する場合に効果的である。
【0048】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係る処理室81及び82を備える滅菌装置8について説明する。
【0049】
図7は、本発明の第4実施形態に係る滅菌装置8の模式図である。本実施形態に係る滅菌装置8は、第1実施形態に係る滅菌装置1の処理室10が、処理室81、82に分かれた点、及びそれに関連して配管175〜177、バルブ185〜187を追加して備える点を除き、第1実施形態と同じである。処理室81は、紫外線発光部(ランプ)103を有し、アルコール供給部14及び酸素ガス供給部15からアルコール及び酸素ガスが供給される。これらのガスと紫外線発光部(ランプ)103から照射される紫外線とが反応し、処理室81には活性種が生成される。処理室82は、処理台101、送風ファン102を備え、処理室81と配管175を介して接続され、減圧部12と配管176を介して接続され、酸素ガス供給部15と配管177を介して接続されている。
【0050】
バルブ185は、処理室81と処理室82との間に設けられ、配管175の流路を開閉する。バルブ185は、制御部19からの制御信号を受信し、開状態となり、処理室81において生成された活性種が処理室82に供給される。バルブ186は、処理室82と減圧部12との間に設けられ、配管176の流路を開閉する。バルブ186は、制御部19からの制御信号を受信し、開状態となり、処理室82の内部を減圧する。バルブ187は、処理室82と酸素ガス供給部15との間に設けられ、配管177の流路を開閉する。バルブ187は、制御部19からの制御信号を受信し、開状態となり、処理室82の内部に酸素ガスを供給する。その他の構成は第1実施形態と同一である。従って、重複する箇所についての説明を省略する。なお、本実施形態は加湿部21を含む第2実施形態及び滅菌工程を繰り返す第3実施形態にも適用できる。
【0051】
このように構成することで、活性種を被処理物121の載置されている処理室82とは別の処理室81に貯留させることができる。即ち、減圧部12は滅菌処理の間に処理室82のみを減圧し、一方処理室81内では活性種を継続的に生成及び貯留することができ、さらに効率的に滅菌処理を行うことができる。また、滅菌処理後の被処理物121を取り出す際でも、処理室81内で生成した活性種を排気する必要が無く貯留させておくことができる。即ち、排気する必要のある活性種は処理室82の内部に存在するガスのみであり、生成した全ての活性種を排気する必要が無くなる。従って、有毒である活性種の排出が削減され、使用されるアルコール及び酸素ガスの量も削減されるため、より低コストで滅菌処理を実現できる。
【実施例】
【0052】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。下記の実施例は、本発明の最良な実施形態の一例であり、本発明の実施形態1に対応するものであるが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
滅菌装置(容量90Liter、実処理容量45Liter、低圧水銀ランプQGL−200G4灯搭載)内部に滅菌評価用の指標菌・バイオロジカルインジケータ(Geobacillus stearothermophilis芽胞、ATCC#7953、初発菌数2×10
6CFU(コロニーフォーミングユニット)、商品名APEX DISC、Mesalabs社製)を滅菌袋にヒートシールした二重包装状態で配置し、前面扉を閉めた状態で、装置附属の真空ポンプで処理室内(槽内)を所定圧力(100Pa以下)まで真空排気した。なお、指標菌であるGeobacillus stearothermophilis芽胞は、エタノールに強い耐性を有する。その後、低圧水銀ランプ4灯を点灯、酸素ガスを流量50Liter/minで導入するとともに、エタノール(関東化学、鹿特級、純度99.5%)10mlを添加、95kPa台で酸素ガスの供給を停止し、15分間そのまま放置することで滅菌処理を行った。
上記滅菌処理時の処理室内(槽内)の温度、ならびに処理室内(槽内)の圧力の推移を
図8に示した。低圧水銀ランプからの輻射熱により処理室内(槽内)の温度は室温からやや上昇するものの、滅菌装置の処理室内(槽内)には冷却ファンが具備されており、最大でも50℃未満に保持されていた。
滅菌処理後、副生成物(オゾン、アルデヒド類)を分解除去する目的で、装置附属のオゾン分解ランプ(QGL−90U−3、岩崎電気)を点灯、所定時間待機した後、再び真空チャンバー内をドライ真空ポンプで排気、大気ベントしてバイオロジカルインジケータを取り出した。なお、バイオロジカルインジケータの取り出しの際に、わずかな酢臭が確認されたが、アルデヒドの独特の臭気が確認されなかったことから、前記オゾン分解ランプの照射により、発生したホルムアルデヒド及びアセトアルデヒド等のアルデヒドは、そのほとんどが酸へ酸化されるか、分解されたと考えられる。
【0054】
滅菌処理後のバイオロジカルインジケータを装置から取出し、滅菌水10ml中に投入、十分撹拌し、超音波洗浄を30分間行い、菌溶出液を得た。この菌溶出液全量をメンブレンフィルター(ポア径0.45μm、アドバンテック製)で濾過、フィルターをSCD寒天培地上に置いた状態で、インキュベータ(温度58℃)にて72Hr以上、培養を行った。
【0055】
上記操作を3つのバイオロジカルインジケータに対して行った。その結果、菌生存を示すコロニーが検出されず、それぞれのバイオロジカルインジケータの指標菌が完全に滅菌されていることを確認した。
【0056】
[比較例1]
比較例1では、エタノールを導入しなかった以外、実施例1と同じ装置及び手順で滅菌処理を行い、培養評価を行った。
【0057】
その結果、3つのバイオロジカルインジケータの指標菌由来のコロニーが発生した。バイオロジカルインジケータの初発菌数(2×10
6CFU)に対して、10
3個程度の菌が生残し、滅菌は完全ではないことが示された。