(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平均粒径1μmから10μmのアルミニウム粉体の焼結層からなる多孔質層がアルミニウム芯材の表面に150μmから3000μmの厚さで積層されたアルミニウム電極を純水中でボイルする純水ボイル工程と、
前記純水ボイル工程の後、以下の化学式(1)、(2)、(3)のいずれかで表される有機酸を含む有機酸水溶液中に前記アルミニウム電極を浸漬する有機酸浸漬工程と、
化学式(1)
R−COOH
化学式(2)
R−(COOH)2
化学式(3)
R−(COOH)3
上記化学式(1)、(2)、(3)において、
R=炭素数が1以上の飽和炭化水素、不飽和炭化水素、または芳香族炭化水素
前記有機酸浸漬工程の後、前記アルミニウム電極を400V以上の化成電圧まで化成する化成工程と、
を有し、
前記化成工程は、皮膜耐電圧が前記化成電圧まで昇圧するまでの途中に、有機酸あるいはその塩を含み、50℃で測定した比抵抗が5Ωmから500Ωmの水溶液中において、液温が30℃から80℃の条件下で前記アルミニウム電極に化成を行う有機酸化成工程を含み、
前記化成工程では、前記有機酸化成工程の途中に、リン酸イオンを含む水溶液中に前記アルミニウム電極を浸漬するリン酸浸漬工程を1回以上行うことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
前記有機酸は、ドデカン酸、安息香酸、プロパン二酸、ブタン二酸、(E)-2-ブテン二酸(フマル酸)、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、デカン二酸、ドデカン二酸、2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸、および(E)-1-プロペン-1,2,3-トリカルボン酸のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方
法。
前記化成工程では、前記アルミニウム電極を800V以上の化成電圧まで化成することを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
前記リン酸浸漬工程では、前記リン酸イオンを含む水溶液として、50℃で測定した比抵抗が0.2Ωm以上、かつ、60℃で測定した比抵抗が5Ωm以下のリン酸水溶液を用いることを特徴とする請求項1から3までの何れか一項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム電解コンデンサの陽極として、エッチング処理を行ったアルミニウム箔に代えて、アルミニウム粉体の焼結層からなる多孔質層がアルミニウム芯材の表面に積層されたアルミニウム電極(多孔性アルミニウム電極)を用いることが提案されており、かかるアルミニウム電極によれば、塩酸等を用いたエッチング処理を行う必要がないという利点がある(特許文献1参照)。また、多孔性アルミニウム電極であれば、多孔質層を十分厚く形成することができるとともに、空隙が複雑に入り組んだ構造となるので、静電容量を増大させることができるという利点もある。
【0003】
しかしながら、多孔性アルミニウム電極を中高圧用の陽極箔として用いると、エッチング処理を行ったアルミニウム箔に比較して漏れ電流が大きくなりやすい。その理由は、例えば、
図5を参照して以下に説明する理由によると考えられる。
図5は、多孔性アルミニウム電極の場合に漏れ電流が大きくなりやすい理由を模式的に示す説明図であり、
図5(a)には、電解コンデンサ用陽極の製造過程における多孔質層30の様子を模式的に示してあり、
図5(b)には、電解コンデンサ用陽極の製造過程における多孔質層30を構成するアルミニウム粉体31の様子を模式的に示してある。
【0004】
多孔性アルミニウム電極に純水ボイルを行うと、
図5(a)、(b)に示す多孔質層30およびアルミニウム粉体31の表面に水和皮膜36が形成される。かかる水和皮膜36は多孔性であり、ボイド37が存在する。特に、多孔性アルミニウム電極の場合、多孔質層30を構成するアルミニウム粉体31の表面が、エッチング層の表面より沸騰純水との反応性が高いため、水和皮膜36中にボイド37が発生しやすい。かかるボイド37は、化成工程において、化成電圧が比較的低い場合(例えば、化成電圧が400V未満の場合)、熱デポラリゼーション処理等のデポラリゼーションで化成皮膜38から取り除くことが可能であるが、化成電圧が比較的高い場合(例えば、化成電圧が400V以上の場合)、化成皮膜38の厚さが厚いために、十分に取り除くことができない。そのため、ボイド37中に取り残された化成液は、純水洗浄などでは取り除くことができない。それ故、その後の化成処理や熱デポラリゼーション処理の際に膨張することにより、化成皮膜38に欠陥39が生じ、漏れ電流が増大してしまうのである。かかる現象は、特に有機酸またはその塩を含む水溶液中で化成を行うに顕著である。すなわち、ボイド37の内部に残った化成液中の有機酸が、化成中に発生する熱や熱デポラリゼーション処理の熱によって燃焼・爆発し、化成皮膜38や多孔質層30を破壊してしまい、漏れ電流が増大してしまう。
【0005】
一方、漏れ電流を低減させるために、純水ボイルの後に水和皮膜表面に有機酸を付着させる工程を含む電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法(特許文献2)が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、多孔性アルミニウム電極から中高圧用の陽極箔を製造する際に、特許文献2に記載の技術を適用すると、エッチング層に比して、多孔質層の場合には、空隙が複雑に深くまで入り組んだ構造になっているので、多孔質層30の空隙の内部やボイド37の内部に、有機酸浸漬処理に用いた有機酸が残ってしまう。その結果、化成中に発生する熱や熱デポラリゼーション処理の熱によって、有機酸が燃焼・爆発して化成皮膜や多孔質層を破壊してしまい、漏れ電流が増大してしまうという問題点がある。
【0008】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、多孔性アルミニウム電極に化成を行う際の皮膜や多孔質層の破壊を防ぐことにより、漏れ電流を抑制することのできる電解コンデンサ用陽極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る電解コンデンサ用陽極の製造方法は、
平均粒径1μmから10μmのアルミニウム粉体の焼結層からなる多孔質層がアルミニウム芯材の表面に150μmから3000μmの厚さで積層されたアルミニウム電極を純水中でボイルする純水ボイル工程と、
前記純水ボイル工程の後、以下の化学式(1)、(2)、(3)のいずれかで表される有機酸を含む有機酸水溶液中に前記アルミニウム電極を浸漬する有機酸浸漬工程と、
化学式(1)
R−COOH
化学式(2)
R−(COOH)
2
化学式(3)
R−(COOH)
3
上記化学式(1)、(2)、(3)において、
R=炭素数が1以上の飽和炭化水素、不飽和炭化水素、または芳香族炭化水素
前記有機酸浸漬工程の後、前記アルミニウム電極を400V以上の化成電圧まで化成する化成工程と、
を有し、
前記化成工程は、皮膜耐電圧が前記化成電圧まで昇圧するまでの途中に、有機酸あるいはその塩を含み、50℃で測定した比抵抗が5Ωmから500Ωmの水溶液中において、液温が30℃から80℃の条件下で前記アルミニウム電極に化成を行う有機酸化成工程を含み、
前記化成工程では、
前記有機酸化成工程の途中に、リン酸イオンを含む水溶液中に前記アルミニウム電極を浸漬するリン酸浸漬工程を1回以上行うことを特徴とする。
【0010】
本発明で用いたアルミニウム電極は、平均粒径1μmから10μmのアルミニウム粉体の焼結層からなる多孔質層がアルミニウム芯材の表面に150μmから3000μmの厚さで積層された多孔性アルミニウム電極であるため、皮膜耐電圧が400V以上となるまで化成した場合でも、高い静電容量を得ることができる。ここで、平均粒径が1μm未満であると空隙部が細かすぎ、皮膜耐電圧400V以上の皮膜を形成すると空隙が埋まってしまい、所望の静電容量が得られない。これに対して、平均粒径が10μmを超えると、空隙部が粗すぎて表面積が低下し、やはり所望の静電容量が得られない。その一方で、多孔質層の表面は、エッチン
グ処理されたアルミニウム箔の表面に比べて、沸騰純水との反応性が高いため、純水ボイル工程で生成する水和皮膜中にはボイドが生成しやすい。かかるボイドは、化成電圧が400V未満の場合には、デポラリゼーション処理で取り除くことが可能であるが、400V以上の電圧で化成を行う場合においては、化成で生成する皮膜の厚さが厚くなるために、十分に取り除くことができない。そのため、ボイド中に取り残された化成液は、純水洗浄などでは取り除くことができず、その後の化成処理や熱デポラリゼーション処理の際に膨張・爆発することにより、皮膜に欠陥が生じて漏れ電流が増大してしまう。しかるに本発明では、純水ボイル工程の後に有機酸浸漬工程を行うため、水和皮膜が化成液に溶解することを抑制することができるとともに、有機酸浸漬工程での水和皮膜の溶解により、純水ボイル工程で生じたボイドを露出させることができる。従って、化成皮膜中のボイドを低減することができる。また、昇圧途中にリン酸浸漬工程を行うため、有機酸浸漬工程によって、多孔層の内部に残った有機酸を取り除くことができる。また、多孔質層の空隙部が厚くて複雑な形状である場合、化成液条件やデポラリゼーション条件を適正化した場合でも、水酸化アルミニウムの析出により目詰まりが起こりやすいが、本発明では、昇圧途中にリン酸浸漬工程を行うため、目詰まりが生じる前に、析出した水酸化アルミニウムを効率よく取り除くことができるとともに、その後の水酸化アルミニウムの生成を抑制することができる。従って、多孔質層の空隙の内部に化成液が残留することを抑えられる。
すなわち、有機酸あるいはその塩を含む水溶液中で化成を行った際、ボイドの内部や多孔層の内部に有機酸が残留すると、化成中に発生する熱や熱デポラリゼーション処理の熱によって有機酸が燃焼・爆発し、化成皮膜や多孔質層を破壊してしまい、漏れ電流が増大するおそれがあるが、本発明によれば、リン酸浸漬工程によって、ボイドの内部や多孔質層の空隙の内部に化成液が残留することを抑えられる。従って、有機酸の燃焼・爆発に起因する漏れ電流の増大を抑制することができる。また、リン酸浸漬工程によって、化成皮膜内にリン酸イオンを取り込むことができるので、沸騰水や酸性溶液への浸漬に対する耐久性を向上することができる等、化成皮膜の安定性を効果的に向上することができる。
【0011】
本発明において、前記有機酸は、例えば、ドデカン酸、安息香酸、プロパン二酸、ブタン二酸、(E)-2-ブテン二酸(フマル酸)、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、デカン二酸、ドデカン二酸、2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸、および(E)-1-プロペン-1,2,3-トリカルボン酸のいずれかである。
【0012】
本発明において、前記化成工程では、前記アルミニウム電極を800V以上の化成電圧まで化成する態様を採用することができる。本発明において、前記リン酸浸漬工程では、前記リン酸イオンを含む水溶液として、50℃で測定した比抵抗が0.2Ωm以上、かつ、60℃で測定した比抵抗が5Ωm以下のリン酸水溶液を用いる態様を採用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、アルミニウム電極として、平均粒径1μmから10μmのアルミニウム粉体の焼結層からなる多孔質層がアルミニウム芯材の表面に150μmから3000μmの厚さで積層された多孔性アルミニウム電極を用いるため、高い静電容量を得ることができる。また、純水ボイル工程の後、有機酸浸漬工程を行うため、純水ボイル工程で生じたボイドを露出させることができるので、化成皮膜中のボイドを低減することができる。また、昇圧途中にリン酸浸漬工程を行うため、多孔層の内部に残った有機酸を取り除くことができるとともに、水酸化アルミニウムの析出による目詰まりを抑制することができる。従って、多孔質層の空隙内部に化成液が残留することを抑えられる。また、リン酸浸漬工程によって、化成皮膜内にリン酸イオンを取り込むことができるので、沸騰水や酸性溶液への浸漬に対する耐久性を向上することができる等、化成皮膜の安定性を効果的に向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、アルミニウム電解コンデンサ用電極を製造するにあたって、アルミニウム粉体を焼結してなる多孔質層がアルミニウム芯材の表面に積層されたアルミニウム電極(多孔性アルミニウム電極)を用い、かかるアルミニウム電極に化成を行う。以下、アルミニウム電極の構成を説明した後、化成方法を説明する。
【0016】
(アルミニウム電極の構成)
図1は、本発明を適用したアルミニウム電極の断面構造を示す説明図であり、
図1(a)、(b)は、アルミニウム電極の断面を電子顕微鏡により120倍に拡大して撮影した写真、およびアルミニウム電極の芯材付近を電子顕微鏡により600倍に拡大して撮影した写真である。
図2は、本発明を適用したアルミニウム電極の表面を電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。なお、
図2には、多孔性アルミニウム電極の表面を1000倍で拡大した写真と、3000倍で拡大した写真とを示してある。
【0017】
図1および
図2に示すアルミニウム電極10は、アルミニウム芯材20と、アルミニウム芯材20の表面に積層された多孔質層30とを有しており、多孔質層30は、アルミニウム粉体を焼結してなる層である。本形態において、アルミニウム電極10は、アルミニウム芯材20の両面に多孔質層30を有している。
【0018】
本形態において、アルミニウム芯材20は、厚さが10μm〜50μmである。
図1には、厚さが約30μmのアルミニウム芯材20を用いたアルミニウム電極10が示されている。一層当たりの多孔質層30の厚さは、例えば、150μm〜3000μmである。
図1には、厚さが30μmのアルミニウム芯材20の両面に、厚さが約350μmの多孔質層30が形成されたアルミニウム電極10が示されている。多孔質層30の厚さは、厚い程、静電容量が増大するので、厚い方が好ましいが、厚さが3000μmを超えると、多孔質層30の空隙35の深部まで化成を行いにくくなることから、多孔質層30の厚さは3000μm以下であることが好ましい。
【0019】
アルミニウム芯材20は、鉄含有量が1000質量ppm未満であることが好ましい。多孔質層30は、鉄含有量が好ましくは1000質量ppm未満のアルミニウム粉体を焼結してなる層であり、アルミニウム粉体は、互いに空隙35を維持しながら焼結されている。
【0020】
アルミニウム粉体の形状は、特に限定されず、略球状、不定形状、鱗片状、短繊維状等のいずれも好適に使用できる。特に、アルミニウム粉体間の空隙を維持するために、略球状粒子からなる粉体が好ましい。本形態におけるアルミニウム粉体の平均粒径は1μmから10μmである。このため、表面積を効果的に拡大することができる。ここで、アルミニウム粉体の平均粒径が1μm未満では、アルミニウム粉体間の間隙が狭すぎて電極等として機能しない無効部分が増大する一方、アルミニウム粉体の平均粒径が10μmを超えると、アルミニウム粉体間の間隙が広すぎて表面積の拡大が不十分である。すなわち、アルミニウム粉体の平均粒径が1μm未満では、皮膜耐電圧が400V以上の化成皮膜を形成した際、アルミニウム粉体間の空隙35が埋没し静電容量が低下する。一方、平均粒径が10μmを超えると空隙35が大きくなりすぎ、静電容量の大幅な向上が望めない。従って、アルミニウム電極10に皮膜耐電圧が400V以上の厚い化成皮膜を形成する場合、多孔質層30に用いたアルミニウム粉体の平均粒径は1μmから10μm、好ましくは、2μmから10μmである。なお、本形態におけるアルミニウム粉体の平均粒径は、レーザー回折法により粒度分布を体積基準で測定した。また、焼結後の前記粉末の平均粒径は、前記焼結体の断面を、走査型電子顕微鏡によって観察することによって測定する。例えば、焼結後の前記粉末は、一部が溶融又は粉末同士が繋がった状態となっているが、略円形状を有する部分は近似的に粒子状とみなせる。個数基準の粒度分布から体積基準の粒度分布を計算し、平均粒径を求めた。なお、上記で求められる焼結前の平均粒径と焼結後の平均粒径はほぼ同じである。
【0021】
本形態において、アルミニウム電極10をアルミニウム電解コンデンサの陽極として用いる際、多孔質層30には化成皮膜が形成される。その際、アルミニウム芯材20において、多孔質層30から露出している部分がある場合、アルミニウム芯材20にも化成皮膜が形成される。
【0022】
(アルミニウム電極10の製造方法)
本発明を適用した多孔性アルミニウム電極10の製造方法は、まず、第1工程においてアルミニウム芯材20の表面に、鉄含有量が好ましくは1000質量ppm未満のアルミニウム粉体を含む組成物からなる皮膜を形成する。アルミニウム粉体は、アトマイズ法、メルトスピニング法、回転円盤法、回転電極法、その他の急冷凝固法等により製造されたものである。これらの方法のうち、工業的生産にはアトマイズ法、特にガスアトマイズ法が好ましく、アトマイズ法では、溶湯をアトマイズすることにより粉体を得る。
【0023】
前記組成物は、必要に応じて樹脂バインダ、溶剤、焼結助剤、界面活性剤等が含まれていても良い。これらはいずれも公知または市販のものを使用することができる。本形態では、樹脂バインダおよび溶剤の少なくとも1種を含有させてペースト状組成物として用いることが好ましい。これにより効率よく皮膜を形成することができる。樹脂バインダとしては、例えば、カルボキシ変性ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩酢ビ共重合樹脂、ビニルアルコール樹脂、ブチラール樹脂、フッ化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル樹脂、ニトロセルロース樹脂等が好適に使用できる。これらのバインダは、それぞれ分子量、樹脂の種類等により、加熱時に揮発するものと、熱分解によりその残渣がアルミニウム粉末とともに残存するものとがあり、静電容量等の電気特性の要求に応じて使い分けすることができる。前記組成物を調製する際、溶媒を添加するが、かかる溶媒としては、水、エタノール、トルエン、ケトン類、エステル類等を単独あるいは混合して用いることができる。
【0024】
また、多孔質層30の形成は、前記組成物の性状等に応じて公知の方法から適宜採択することができる。例えば、組成物が粉末(固体)である場合は、その圧粉体を芯材上に形成(または熱圧着)すれば良い。この場合は、圧粉体を焼結することにより固化するとともに、アルミニウム芯材20上にアルミニウム粉末を固着させることができる。また、液状(ペースト状)である場合は、ローラー、刷毛、スプレー、ディッピング等の塗布方法により形成できるほか、公知の印刷方法により形成することもできる。なお、皮膜は、必要に応じて、20℃以上300℃以下の範囲内の温度で乾燥させても良い。
【0025】
次に、第2工程においては、皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する。焼結時間は、焼結温度等により異なるが、通常は5〜24時間程度の範囲内で適宜決定することができる。焼結雰囲気は、特に制限されず、例えば真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、酸化性ガス雰囲気(大気)、還元性雰囲気等のいずれであっても良いが、特に、真空雰囲気または還元性雰囲気とすることが好ましい。また、圧力条件についても、常圧、減圧または加圧のいずれでも良い。なお、組成物中(皮膜中)に樹脂バインダ等の有機成分が含有している場合は、第1工程後、第2工程に先立って予め100℃以上から600℃以下の温度範囲で保持時間が5時間以上の加熱処理(脱脂処理)を行なうことが好ましい。その際の加熱処理雰囲気は特に限定されず、例えば真空雰囲気、不活性ガス雰囲気または酸化性ガス雰囲気中のいずれでも良い。また、圧力条件も、常圧、減圧または加圧のいずれでも良い。
【0026】
(アルミニウム電解コンデンサの構成)
本形態の化成済みのアルミニウム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極)を用いてアルミニウム電解コンデンサを製造するには、例えば、化成済みの多孔性アルミニウ
ム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極)からなる陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介在させて巻回してコンデンサ素子を形成する。次に、コンデンサ素子を電解液(ペースト)に含浸する。しかる後には、電解液を含んだコンデンサ素子を外装ケースに収納し、封口体でケースを封口する。
【0027】
また、電解液に代えて固体電解質を用いる場合、化成済みのアルミニウム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極)からなる陽極箔の表面に固体電解質層を形成した後、固体電解質層の表面に陰極層を形成し、しかる後に、樹脂等により外装する。その際、陽極に電気的接続する陽極端子と陰極層に電気的接続する陰極端子とを設ける。この場合、陽極箔が複数枚積層されることがある。
【0028】
また、アルミニウム電極10としては、棒状のアルミニウム芯材20の表面に多孔質層30が積層された構造が採用される場合もある。かかるアルミニウム電極10を用いてアルミニウム電解コンデンサを製造するには、例えば、化成済みのアルミニウム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極)からなる陽極の表面に固体電解質層を形成した後、固体電解質層の表面に陰極層を形成し、しかる後に、樹脂等により外装する。その際、陽極に電気的接続する陽極端子と陰極層に電気的接続する陰極端子とを設ける。
【0029】
(アルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法の概要)
図3は、本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法を示す説明図であり、
図3(a)、(b)、(c)には各々、化成工程の各方法を示す説明図である。
まず、
図3(a)に示すように、アルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法では、アルミニウム電極10を純水中でボイルする純水ボイル工程ST10を行った後、アルミニウム電極10に皮膜耐電圧が400V以上となるまで化成する化成工程ST30を行い、その後、乾燥工程を行う。
【0030】
純水ボイル工程ST10では、アルミニウム電極10を液温が60℃から100℃の純水中で1分から20分ボイルし、アルミニウム電極10にベーマイト等のアルミニウム水和膜を形成する。
【0031】
純水ボイル工程ST10で生成するアルミニウム水和膜の量は、純水ボイル工程によって増加した質量の割合xを以下の式(数1)で表したとき、
図4に実線L11で示すxの下限から、
図4に破線L12で示すxの上限までの範囲とすることが好ましい。
【0033】
より具体的には、化成皮膜の最終的な皮膜耐電圧をVf(V)とし、純水ボイル工程によって増加した質量の割合をxとしたとき、xの下限を示す実線L11は、以下の式
x=(0.01×Vf)
で表される。また、xの上限を示す破線L12は、以下の式
x=(0.017×Vf+28)
で表される。
【0034】
従って、本形態では、皮膜耐電圧Vf(V)および割合x(質量%)が、以下の条件式
(0.01×Vf)≦x≦(0.017×Vf+28)
を満たすように純水ボイル工程ST10の条件を設定することが好ましい。アルミニウム
水和膜の量が適正であると、化成工程ST30において少ない電気量で十分に厚い化成膜を形成することができる。これに対して、xが上記条件式の下限を下回ると、化成工程ST30において過剰な発熱が起きてしまい、健全な化成皮膜が形成されない。また、xが上記条件式の上限を上回ると、アルミニウム水和膜が過剰になっていまい、多孔質層30の空隙35内に、後述する有機酸浸漬処理に用いた有機酸水溶液や、化成液に用いた有機酸水溶液が閉じ込められやすくなってしまう。
【0035】
本形態では、
図3(a)に示すように、純水ボイル工程ST10の後、化成工程ST30の前に、以下の化学式(1)、(2)、(3)のいずれかで表される有機酸を含む有機酸水溶液中にアルミニウム電極10を浸漬する有機酸浸漬工程ST20を行う。本形態では、有機酸水溶液は、有機酸の濃度が0.001M(mol/L)から1.0Mであり、液温は30℃〜100℃である。
化学式(1)
R−COOH
化学式(2)
R−(COOH)
2
化学式(2)
R−(COOH)
3
上記化学式(1)、(2)、(3)において、
R=炭素数が1以上の飽和炭化水素、不飽和炭化水素、または芳香族炭化水素
【0036】
上記の化学式(1)に対応する有機酸としては、ドデカン酸、安息香酸を例示することができる。上記の化学式(2)に対応する有機酸としては、プロパン二酸、ブタン二酸、(E)-2-ブテン二酸(フマル酸)、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、デカン二酸、ドデカン二酸を例示することができる。上記の化学式(1)に対応する有機酸としては、2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸、(E)-1-プロペン-1,2,3-トリカルボン酸を例示することができる。
【0037】
かかる有機酸浸漬工程ST20によれば、水和皮膜が化成液に溶解することを抑制することができるとともに、有機酸水溶液による水和皮膜の溶解によって、純水ボイル工程ST10で水和皮膜に生じたボイドを露出させることができる。従って、化成皮膜中のボイドを低減することができる。
【0038】
また、本形態では、化成工程ST30において、電源電圧が化成電圧まで昇圧する途中に、リン酸イオンを含む水溶液中にアルミニウム電極10を浸漬するリン酸浸漬工程ST40を1回以上行う。かかるリン酸浸漬工程ST40では、液温が40℃から80℃であり、60℃で測定した比抵抗が0.1Ωmから5Ωmであるリン酸水溶液にアルミニウム電極10を3分から30分の時間で浸漬する。リン酸浸漬工程ST40は、1回あるいは複数回行う。
図3(a)には、皮膜耐電圧が最終的な化成電圧Vfより低い電圧Vaに到達した際、リン酸浸漬工程ST40を1回行う場合を示してある。
【0039】
かかるリン酸浸漬工程ST40によれば、有機酸浸漬工程ST20によって、多孔層の内部に残った有機酸を取り除くことができる。また、化成工程ST30で、析出した水酸化アルミニウムを効率よく取り除くことができるとともに、その後の水酸化アルミニウムの生成を抑制することができる。従って、多孔質層の空隙の内部に化成液が残留することを抑えられる。また、リン酸浸漬工程によって、化成皮膜内にリン酸イオンを取り込むことができるので、沸騰水や酸性溶液への浸漬に対する耐久性を向上することができる等、化成皮膜の安定性を効果的に向上することができる。
【0040】
(化成工程ST30の具体例)
図3に示す各方法(1)、(2)、(3)、(4)のうち、
図3に示す方法(1)では、アジピン酸等の有機酸あるいはその塩の水溶液を化成液として用いた第1化成処理ST31を行う。例えば、アジピン酸等の有機酸あるいはその塩を含み、50℃で測定した比抵抗が5Ωmから500Ωmの水溶液(有機酸系の化成液)中において、液温が30℃から80℃の条件下でアルミニウム電極10に化成を行う。その際、アルミニウム電極10と対極との間に印加した電源電圧が、最終的な化成電圧Vfになるまで昇圧を行い、その後、化成電圧Vfでの保持を行う。かかる第1化成処理ST31において、本形態では、液温を80℃以下としたため、化成時のアルミニウムの溶出を低く抑えることができる。このため、アルミニウムイオンが水酸化アルミニウムとして析出することによって多孔質層30の空隙35内に有機酸あるいはその塩を含む水溶液を閉じ込められるという事態が発生しにくい。また、液温を30℃以上としたため、高い静電容量が得られる。第1化成処理ST31において、化成液の比抵抗が500Ωmを超えると、静電容量を向上させる効果が得られにくく、化成液の比抵抗が5Ωmを下回ると、多孔質層30の空隙35内に閉じ込められた有機酸あるいはその塩が燃焼、爆発する事態が発生しやすくなる。
【0041】
ここで、多孔質層30が厚くて複雑な形状であるアルミニウム電極10を有機酸あるいはその塩を含む水溶液中で化成する第1化成処理ST31を行うと、多孔質層30の厚さに起因する空隙35の破壊が起きやすくなる。特に、多孔質層30の厚さが250μm以上で、400V以上の化成を行う場合には、化成液条件やデポラリゼーション条件を適正化した場合でも、水酸化アルミニウムの析出により目詰まりが起こりやすい。しかるに本形態では、リン酸浸漬工程ST40を行うため、目詰まりが生じる前に析出した水酸化アルミニウムを効率よく取り除くことができるとともに、その後の水酸化アルミニウムの生成を抑制することができる。従って、多孔質層30の空隙35の内部に有機酸あるいはその塩を含む水溶液が残留することを抑えられる。また、リン酸浸漬工程ST40によれば、化成皮膜内にリン酸イオンを取り込むことができる。従って、沸騰水や酸性溶液への浸漬に対する耐久性を向上する事ができるので、化成膜の安定性を向上することができる。
【0042】
なお、化成工程ST30では、化成電圧Vfに到達した後、アルミニウム電極10を加熱する熱デポラリゼーション処理や、リン酸イオンを含む水溶液等にアルミニウム電極10を浸漬する液中デポラリゼーション処理等のデポラリゼーション処理を行う。
図3に示す各方法(1)、(2)、(3)、(4)は、4回のデポラリゼーション処理ST51、ST52、ST53、ST54を行う場合を例示してある。デポラリゼーション処理については、熱デポラリゼーション処理と、液中デポラリゼーション処理とを組み合わせて行うが、いずれの組み合わせの場合も、最後のデポラリゼーション処理については熱デポラリゼーション処理とすることが好ましい。また、熱デポラリゼーション処理のうち、最初に行う熱デポラリゼーション処理の前には、アルミニウム電極10に対して5分間以上の水洗浄処理を行うことが好ましい。
【0043】
熱デポラリゼーション処理では、例えば、処理温度が450℃〜550℃であり、処理時間は2分〜10分である。液中デポラリゼーション処理では、20質量%〜30質量%リン酸の水溶液中において、液温が60℃〜70℃の条件で皮膜耐電圧に応じて5分〜15分、アルミニウム電極10を浸漬することが好ましい。なお、液中デポラリゼーション処理では、アルミニウム電極10に電圧を印加しない。
【0044】
図3に示す各方法(1)、(2)、(3)、(4)のうち、
図3に示す方法(2)では、アジピン酸等の有機酸あるいはその塩を含む水溶液を化成液として用いた第1化成処理ST31に代えて、硼酸やリン酸等の無機酸あるいはその塩を含む水溶液を化成液として用いた第2化成処理ST32を行う。例えば、硼酸やリン酸等の無機酸あるいはその塩を含み、90℃で測定した比抵抗が10Ωmから1000Ωmの水溶液(無機酸系の化成液)中において、液温が50℃から95℃の条件下でアルミニウム電極10に化成を行う。第2化成処理S
T32において、化成液の液温を95℃以下とするにより化成時のアルミニウムの溶出を低く抑えることができる。このため、アルミニウムイオンが水酸化アルミニウムとして析出することによって多孔質層30の空隙35が埋まり、静電容量が低下する事態を防ぐことができる。また、化成液の液温を50℃以上とすることにより、高い皮膜耐電圧を得ることができる。ここで、化成液の比抵抗が1000Ωmを超えると健全な皮膜が形成されず、漏れ電流が著しく高くなってしまう。これに対して、化成液の比抵抗が10Ωmを下回ると、化成中に火花放電が発生するために、形成した化成膜が破壊されてしまう。
【0045】
また、
図3に示す方法(3)のように、化成電圧Vfまでは、アジピン酸等の有機酸あるいはその塩の水溶液を化成液として用いた第1化成処理ST31を行い、化成電圧Vfに到達した以降、硼酸やリン酸等の無機酸あるいはその塩を含む水溶液を化成液として用いた第2化成処理ST32を行ってもよい。
【0046】
また、
図3に示す方法(4)のように、リン酸浸漬工程ST40の後、化成電圧Vfに到達する前の電圧Vbまでは、アジピン酸等の有機酸あるいはその塩の水溶液を化成液として用いた第1化成処理ST31を行い、その後、化成電圧Vfに到達するまで、および化成電圧Vfに到達した以降、硼酸やリン酸等の無機酸あるいはその塩を含む水溶液を化成液として用いた第2化成処理ST32を行ってもよい。
【0047】
(実施例)
次に、本発明の実施例を説明する。まず、表1に示す各種のアルミニウム電極10、表2に示す化成液、および液温が50℃で、50℃で測定した比抵抗が0.2Ωmのリン酸水溶液(リン酸浸漬工程ST40の処理液)を準備する。次に、アルミニウム電極10に純水ボイル工程ST10を行った後、表3に示す条件で有機酸浸漬工程ST20を行い、その後、化成工程ST30を行い、アルミニウム電解コンデンサ用電極を作製する。その際、表3に示す条件でリン酸浸漬工程ST40を行った。
【0048】
純水ボイル工程ST10では、液温が95℃の純水中で10分間の純水ボイルを行った。化成工程ST30では、
図3に示す方法(4)において、第1化成処理ST31で皮膜耐圧が600Vとなるまで昇圧させた後、第2化成処理ST32で800Vの化成電圧まで化成した。なお、第1化成処理ST31の途中で、表3に示す条件でリン酸浸漬工程ST40を行った。
【0049】
このような方法で製造したアルミニウム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極)に対して、多孔質層30の破壊の有無、皮膜耐電圧、静電容量、漏れ電流、および漏れ電流/静電容量を測定し、それらの結果を表4に示す。なお、化成電圧は800Vであり、耐電圧や静電容量の測定は、JEITA規格に準じる形で行った。
【0054】
表3および表4から分かるように、有機酸浸漬工程ST20、およびリン酸浸漬工程ST40を行っていない比較例1、リン酸浸漬工程ST40を行っていない比較例2、および有機酸浸漬工程ST20にエタン二酸を用いた比較例3では、漏れ電流が大きいのに対して、実施例1〜6では、漏れ電流が小さい。
【0055】
特に、比較例1では、有機酸デポラと昇圧途中のリン酸デポラを行っていないため、漏れ電流が大きい。比較例2は、化学式(2)に対応する(E)-2-ブテン二酸を用いているが、昇圧途中のリン酸浸漬工程ST40を行っていないために、皮膜表面に残った有機酸が熱デポラリゼーションの際に燃焼して多孔質層を破壊してしまい、漏れ電流が大きい。比較例3は、化学式(2)においてRの炭素数が0のエタン二酸を用いたため、漏れ電流を低減させる効果が小さい。
【0056】
(その他の実施例)
上記実施例では、化成工程ST30において、
図3に示す方法(4)のように、リン酸浸漬工程ST40の後、化成電圧Vfに到達する前の電圧Vbまでは第1化成処理ST31を行い、その後、第2化成処理ST32を行ったが、
図3に示す方法(3)のように、化成電圧Vfに到達するまで第1化成処理ST31を行い、その後、第2化成処理ST32を行う場合に本発明を適用してもよい。また、
図3に示す方法(1)のように、化成工程ST30の全てを第1化成処理ST31として行う場合に本発明を適用してもよい。また、
図3に示す方法(2)のように、化成工程ST30の全てを第2化成処理ST32として行う場合に本発明を適用してもよい。