(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態のインク循環装置12およびインクジェット記録装置1を、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態のインクジェット記録装置1は、ケーシング2内に送りテーブル3と、キャリッジ4と、メンテナンスユニット5とが設置されている。
送りテーブル3は、ケーシング2内に設置された送り用ガイドレール6にスライド可能に保持されている。送り用ガイドレール6は、略水平方向に直線状に延びている。送りテーブル3は、図示しない送りモータによって送り用ガイドレール6に沿う方向に移動される。送りテーブル3には、送りテーブル3上に枚葉紙等のシート状の記録媒体Sを吸着固定する負圧発生装置7が設けられている。これら送りテーブル3、送り用ガイドレール6、前記送りモータ及び負圧発生装置7により、記録媒体Sを、後述するインクジェットヘッド11による印刷位置に搬送する搬送部8が構成されている。なお、記録媒体Sは、紙に限らず、樹脂や金属のフィルム、木材の板等であってもよい。
【0010】
キャリッジ4は、ケーシング2内に設置された図示しない走査用ガイドレールにスライド可能に保持されている。走査用ガイドレールは、送り用ガイドレール6と直交する略水平方向に直線状に延びている。キャリッジ4は、図示しない走査モータによって駆動する搬送ベルト9により、走査用ガイドレールに沿う方向に移動される。
キャリッジ4には、複数のインクジェットユニット10が搭載されている。複数のインクジェットユニット10は、キャリッジ4の走査方向に沿って配列されている。
【0011】
図2を併せて参照し、各インクジェットユニット10は、インクを記録媒体Sに吐出するインクジェットヘッド11と、インクジェットヘッド11の上部側でインクジェットヘッド11に結合される本実施形態のインク循環装置12と、を備えている。各インクジェットユニット10は、記録媒体Sに吐出するインクの種類に応じて設けられている。各インクジェットユニット10から吐出するインクは、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック、ホワイト等の色の異なるものの他、透明光沢インク、または赤外線若しくは紫外線を照射したときに発色する特殊インク等が用いられる。各インクジェットユニット10のインク循環装置12には、それぞれ図示しないインクカートリッジが接続されている。
【0012】
複数のインクジェットユニット10は、キャリッジ4上に集約して配置され、キャリッジ4とともに走査用ガイドレールに沿って移動する。キャリッジ4は、送りテーブル3上の記録媒体Sにインクジェットヘッド11からインクを吐出するときには、送りテーブル3の移動軌道と交差する範囲を移動する。キャリッジ4は、インクジェットヘッド11からインクの吐出を行わないときには、送りテーブル3の移動軌道から外れた待機位置に停止する。
【0013】
メンテナンスユニット5は、複数のインクジェットユニット10がキャリッジ4とともに待機位置に戻ったときに、各インクジェットヘッド11のインクの吐出部(ノズル部)を覆ってインクの蒸発を防止する。メンテナンスユニット5は、複数のインクジェットユニット10が待機位置に戻ったときに、インクジェットヘッド11の記録媒体Sとの接触部を適宜清掃する。
【0014】
インクジェットヘッド11は、インクを吐出する図示しない複数のノズル部と、複数のノズル部に対向するように設けられる図示しないアクチュエータと、複数のノズル部とアクチュエータとの間に設けられる図示しないインクインク圧力室と、インク圧力室に連通して外部からインクを導入可能とするインク導入部11aと、インク圧力室に連通してノズル部から吐出されなかったインクを外部に排出可能とするインク排出部11bと、を備えている。
【0015】
インクジェットヘッド11のアクチュエータは、例えば、圧電セラミックを用いた圧電振動膜等によって構成されている。アクチュエータの構造は、この構造に限らず、入力信号に応じてインクの圧力を高め得るものであれば他の構造であってもよい。
この実施形態に係るインクジェット記録装置1は、記録媒体S上に入力信号に応じた印刷を行う場合に、複数のインクジェットユニット10を搭載したキャリッジ4と、記録媒体Sを載せた送りテーブル3とを適宜直線移動させる。このとき、複数のインクジェットユニット10への入力信号に応じて、インクジェットヘッド11のアクチュエータがインクの圧力を高め、複数のノズル部からインクを噴射して記録媒体Sに印刷を行う。
【0016】
本実施形態においては、記録媒体Sを送りテーブル3に吸着固定し、その送りテーブル3を一方向に移動させるとともに、複数のインクジェットユニット10を送りテーブル3の移動方向と直交する方向に移動させて、記録媒体S上に入力信号に応じた印刷を行う。なお、記録媒体Sおよび記録媒体Sの送り方式は、これに限るものではない。例えば、巻取り紙のようなロールタイプの記録媒体を用いて、その記録媒体をロールから引き出しながら、該記録媒体上にインクジェットヘッド11で画像を形成してもよい。また、シート状の記録媒体Sを一枚ずつプラテンロールで送りながら、インクジェットヘッド11で記録媒体S上に画像を形成してもよい。
【0017】
図2に示すように、インクジェットユニット10は、インク循環式のインクジェットヘッド11の上方に、該インクジェットヘッド11にインクを循環させるインク循環装置12を配置している。インクジェットヘッド11及びインク循環装置12は、互いに一体に連結されてインクジェットユニット10を構成している。インクジェットヘッド11及びインク循環装置12は、金属製の連結部材10aにより機械的に強固に連結されている。これにより、インク循環装置12とインクジェットヘッド11とをキャリッジ4に搭載する際、インクジェットヘッド11のマウントをキャリッジ4に固定するのみで、キャリッジ4の高速移動に耐えるような強固な固定が可能である。
また、インクジェットヘッド11とインク循環装置12とを一体化してインクジェットユニット10とすることで、インクジェットヘッド11とインク循環装置12との間のインク吸排管が簡素化されている。インクジェットユニット10には、インクカートリッジからインク循環装置12へインクを送液する図示しない補給チューブおよび電力供給配線が接続されている。
【0018】
インク循環装置12は、ケーシング17、インク供給管18、インク戻し管19、ポンプユニット25及び圧力調整部24を備えている。
ケーシング17は、全体がほぼ直方体状に形成されている。ケーシング17は、インクジェットユニット10が前記キャリッジ4に搭載された状態で、キャリッジ4の走査方向と合致する幅方向Wの寸法が、送りテーブル3の送り方向と合致する奥行方向Dの寸法と高さ方向Hの寸法に比較して小さくなっている。なお、インクジェットヘッド11も同様の直方体状に形成され、もってインクジェットユニット10の幅方向Wの寸法が抑えられている。
【0019】
インク供給管18は、インク循環装置12からインクジェットヘッド11にインクを供給する管であり、ケーシング17の下端から下方へ延びている。
インク戻し管19は、インクジェットヘッド11からインク循環装置12にインクを戻す管であり、ケーシング17の下端から下方へ延びている。
ポンプユニット25は、外部からケーシング17内にインクを補給可能とする後述するインク補給ポンプ15と、インク循環装置12とインクジェットヘッド11との間でインクを循環させる後述するインク循環ポンプ16と、を備えている。
圧力調整部24は、ケーシング17内部の圧力を調整し、インクジェットヘッド11のノズル部内のインク圧力を適正に保つ。圧力調整部24は、ケーシング17の上端に設置されている。
【0020】
図3を併せて参照し、ケーシング17は、供給側インク室21と回収側インク室22とを形成するケーシング本体17Aと、ケーシング本体17Aの幅方向Wの一側面に結合される偏平状のポンプユニットケース17Bと、を備えている。ケーシング17は、さらに、ポンプユニットケース17Bにおけるケーシング本体17Aと反対側の側面を閉塞するユニットカバー17Cを備えている。ユニットカバー17Cおよびポンプユニットケース17Bは、これらの間にポンプユニット25を挟み込んでいる。
【0021】
ケーシング17の各部材は、例えばPPS(ポリフェニレンスルファイド)で形成されている。なお、ケーシング17は、インクを変質させない材質であれば、PPS以外にも、ポリイミド、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、エポキシ樹脂及びポリカーボネート等の樹脂材料で形成されてもよい。ケーシング17は、合成樹脂以外にも、アルミニウム、ステンレス及び真鍮等の金属材料(純金属、合金を含む)で形成されてもよい。
供給側インク室21および回収側インク室22は、ケーシング本体17A内で奥行方向Dに並んで配置されている。供給側インク室21の下端には、インク供給管18を接続するインク供給部12aが形成されている。回収側インク室22の下端には、インク戻し管19を接続するインク戻し部12bが形成されている。
【0022】
ポンプユニットケース17Bは、正面視が奥行方向Dに長い略楕円状に形成されている。ポンプユニットケース17Bにおいて、その周壁の内部は、高さ方向Hに延びる第一の仕切壁26と第二の仕切壁27とによって三つの領域に仕切られている。ポンプユニットケース17Bの第一の仕切壁26と第二の仕切壁27とに挟まれた中央領域には、三つの連通部28が形成されている。三つの連通部28は、ポンプユニットケース17Bの高さ方向Hの下方側に偏った範囲に連通口を形成している。
【0023】
ポンプユニットケース17Bにおけるケーシング本体17Aと反対側の側面には、偏平状のポンプユニット25が配置されている。ポンプユニット25は、ポンプユニットケース17Bの側面に対向するように重なるベースプレート34と、ベースプレート34上で奥行方向Dに並んで配置されるインク補給ポンプ15およびインク循環ポンプ16と、を備えている。
ポンプユニットケース17Bの中央領域は、ポンプユニット25およびケーシング本体17Aとともに、吐出室20を形成している。吐出室20には、ポンプユニット25の両ポンプ15,16の吐出部15a,16aが臨んでいる。ポンプユニットケース17Bの三つの連通部28には、インク中の気泡を捕獲するフィルター29が取り付けられている。
【0024】
フィルター29は、エアトラップフィルターであり、例えば、直径10μmの孔が多数設けられた薄膜状の金属フィルターである。なお、フィルター29は、金属メッシュ、又は樹脂製のメンブレンフィルタでもよい。また、エアトラップフィルターと呼称しているが、当然、インク中のゴミ等の異物も捕捉する。
このフィルター29により、両ポンプ15,16が吐出したインク中の気泡は、供給側インク室21に至る前に捕獲される。フィルター29は、ポンプユニットケース17Bの三つの連通部28の周縁部に対向する枠状のホルダ29aにより、ポンプユニットケース17Bに固定される。
【0025】
ポンプユニット25は、インク戻し部12b及びインク補給部33からインク供給部12aに至る経路の途中に配置されている。ポンプユニット25は、ポンプユニットケース17Bとともに、ケーシング17の幅方向Wの一側面に取り付けられる。
インク補給ポンプ15は、印刷やメンテナンス動作等で消費した量のインクを前記インクカートリッジから吸引してケーシング17に補給する。
インク循環ポンプ16は、回収側インク室22からインクを吸引して吐出室20及び供給側インク室21へ送給する。
【0026】
各ポンプ15,16は、例えば圧電素子ポンプであり、圧電素子の歪みによって撓む振動膜の約50Hzから200Hzの駆動によって、圧力室の容積を高速で変化させ、インクを吸入かつ圧送する。各ポンプ15,16は、幅方向Wの厚さを抑えた偏平状をなし、インク循環装置12の幅方向Wの大型化を抑えている。
圧電ポンプは、モータやソレノイド等の大きな駆動源が不要なので、一般的なダイヤフラムポンプ、ピストンポンプ、チューブポンプ等よりも圧倒的に小さく作ることができるメリットがある。しかし、圧電ポンプは、圧電アクチュエータが圧力室の体積を高速で変化させるという特徴から、圧力室内でインクと空気が激しくぶつかり合い、インク内に気泡を取り込み易い。また、圧電アクチュエータの駆動条件によっては、圧力室内でキャビテーションが起き、インク内に溶存している気体が気泡として現われてしまうこともある。
このように、各ポンプに圧電ポンプを採用する場合は、高い周波数で圧力変動する圧電ポンプの圧力室で発生する細かい気泡を除去するために、圧電ポンプの出口にエアトラップフィルター29を設けることが好ましい。
【0027】
図3〜
図5に示すように、ケーシング17内には、インクを貯留する供給側インク室21及び回収側インク室22が設けられている。供給側インク室21及び回収側インク室22は、奥行方向Dで互いに並んで配置されている。供給側インク室21には、吐出室20から流入したインクI1が貯留される。供給側インク室21内のインクI1は、インク供給管18を介してインクジェットヘッド11に供給される。回収側インク室22には、インクジェットヘッド11からインク戻し管19を経て戻ったインクI2が貯留される。
供給側インク室21には、吐出室20が連通している。吐出室20は、各インク室21,22における奥行方向Dの内側部と幅方向Wで隣接している。吐出室20には、各ポンプ15,16の吐出側の逆止弁が臨んでいる。
【0028】
ケーシング17内には、インク循環ポンプ16の吸入側の逆止弁が臨む吸入室23が設けられている。吸入室23は、回収側インク室22における奥行方向Dの外側部と幅方向Wで隣接している。吸入室23は、回収側インク室22と連通している。
ケーシング17内には、インク補給ポンプ15の吸入側の逆止弁が臨む補給室32が設けられている。補給室32は、供給側インク室21における奥行方向Dの外側部と幅方向Wで隣接している。補給室32には、外部からインクを補給可能とするインク補給部33が設けられている。インク補給部33には、ケーシング17外に突出する接続ノズル部33aが連設されている。接続ノズル部33aには、前記インクカートリッジからインク循環装置12へインクを送液可能とする補給チューブが接続される。
【0029】
吐出室20と補給室32との間は、ケーシング17における補給側仕切壁48により仕切られている。補給室32に至ったインクは、インク補給ポンプ15を経て吐出室20に送られる。
吐出室20と吸入室23との間は、ケーシング17における回収側仕切壁49により仕切られている。吸入室23に至ったインクは、インク循環ポンプ16を経て吐出室20に送られる。
【0030】
図4に示すように、供給側インク室21に貯留されたインクの液面の上方、及び回収側インク室22に貯留されたインクの液面の上方には、それぞれ空気室K1,K2が形成される。供給側インク室21および回収側インク室22における空気室K1,K2の圧力は、それぞれ図示しない圧力センサによって検出される。この圧力センサの検出値に応じて、ケーシング17の上部に設けられる圧力調整部24が作動し、ケーシング17内部の圧力が適宜調整される。
【0031】
ポンプユニット25は、各ポンプ15,16に対応してベースプレート34のユニットカバー17C側の面に取り付けられた一対の圧電振動膜35を備えている。一対の圧電振動膜35は、それぞれベースプレート34との間に、各ポンプ15,16のポンプ室40,41を形成している。各圧電振動膜35は、それぞれ円板状の図示しない圧電素子および金属板を互いに張り合わせて構成されている。
【0032】
各ポンプ15,16は、それぞれ圧電振動膜35が通電により撓むことで、ポンプ室40,41内の容積を周期的に変化させてインクを送液する。各ポンプ15,16は、それぞれ一対の逆止弁によってインク送液方向を一方向に規制している。各ポンプ15,16において、一方の逆止弁は吸入部15b,16bに設けられ、他方の逆止弁は吐出部15a,16aに設けられている。吸入部15b,16bの逆止弁は、吸入部15b,16bにおいてインクの流れをポンプ室40,41への吸入方向に規制する。吐出部15a,16aの逆止弁は、吐出部15a,16aにおいてインクの流れをポンプ室40,41からの吐出方向に規制する。
【0033】
インク補給ポンプ15は、奥行方向Dで互いに隣接する補給室32と吐出室20とに跨って設けられている。インク補給ポンプ15は、吸入部15bを補給室32に臨ませ、吐出部15aを吐出室20に臨ませている。
インク循環ポンプ16は、奥行方向Dで互いに隣接する吸入室23と吐出室20とに跨って設けられている。インク循環ポンプ16は、吸入部16bを吸入室23に臨ませ、吐出部16aを吐出室20に臨ませている。
【0034】
回収側インク室22へインクを供給するインクカートリッジは、インク循環装置12より重力方向において相対的に下方に配置されている。インクカートリッジを下方に配置することで、インクカートリッジ内のインクの水頭圧が回収側インク室22の設定圧力より低く保たれる。このため、インク補給ポンプ15が駆動している時に限り、回収側インク室22へインクが供給可能である。
【0035】
供給側インク室21は、流入するインク中に含まれる気泡を除去する機能を有している。供給側インク室21内のインク中の気泡は、浮力によって鉛直方向の上方に上昇し、液面上方の空気室K1に到達して除去される。空気室K1の空気量は、例えば供給側インク室21上部のエア抜き構造により設定値に維持される。供給側インク室21の空気室K1には、補給室32内に混入した空気も流入する。なお、補給室32の上部に別途エア抜き構造を備えてもよい。
同様に、回収側インク室22も、流入するインク中に含まれる気泡を除去する機能を有するとともに、空気室K2の空気量が設定値に維持される。回収側インク室22の空気室K2には、吸入室23に混入した空気も流入する。なお、吸入室23の上部に別途エア抜き構造を備えてもよい。
【0036】
各インク室21,22の空気室K1,K2は、各ポンプ15,16の駆動による脈動(圧力変動)を吸収するダンパとして機能する。
各インク室21,22の空気室K1,K2は、初期インク充填時等に残った空気で満たされているが、空気以外にインクと反応し難い窒素や希ガスで満たすことも可能である。すなわち、インク初期充填前にインクジェットユニット10内の空気を窒素や希ガスで置換し、この置換後にインクジェットユニット10にインクを供給すれば、窒素や希ガスを空気室K1,K2に充填することが可能である。
【0037】
インク循環装置12の循環経路において、両ポンプ15,16の吐出部15a,16a、吐出室20、供給側インク室21及びインク供給部12aの順にインクが流れる流路は、上流側インク流路46とされる。インク循環装置12の循環経路において、インク戻し部12b、回収側インク室22、吸入室23及びインク循環ポンプ16の吸入部16bの順にインクが流れる流路は、下流側インク流路47とされる。
上流側インク流路46は、フィルター29により、インク循環ポンプ16の吐出部16aに連通する第一流路46aと、インク供給部12aに連通する第二流路46bと、に仕切られている。吐出室20は、フィルター29により、第一流路46a側の上流室30と、第二流路46b側の下流室31と、に仕切られている。
【0038】
図6、
図7を併せて参照し、インク循環装置12は、フィルター29、第二流路46b及びインクジェットヘッド11を経ずに第一流路46aと下流側インク流路47とを直接連通させるバイパス部50を備えている。バイパス部50は、例えば、ケーシング17の回収側仕切壁49に設けられる貫通孔形成部51で構成されている。貫通孔形成部51は、吐出室20と吸入室23との間の回収側仕切壁49の上部を貫通して吐出室20と吸入室23とを連通させる貫通孔を形成している。
第一流路46aと下流側インク流路47とは回収側仕切壁49を介して隣接しているので、貫通孔によりバイパス部50を簡単に設けることができる。バイパス部50の貫通孔は、第一流路46aからフィルター29、第二流路46b及びインクジェットヘッド11を経由して下流側インク流路47に至る通常経路の流路抵抗よりも大きな流路抵抗を持っている。
【0039】
バイパス部50の貫通孔は、フィルター29よりも鉛直方向の上方に位置するように設けられている。フィルター29の上部は、吐出室20の上壁から下方に延びる垂下壁20aに支持されている。垂下壁20aにより、吐出室20に貯留されるインクI3の液面I3aの上方に空気室K3が形成される。垂下壁20aの下端高さがフィルター29の実際の上端高さである場合、貫通孔形成部51は垂下壁20aの下端よりも上方に位置すればよい。
【0040】
バイパス部50の貫通孔形成部51は、吐出室20内において奥行方向Dを指向して開口している。バイパス部50から吐出室20内に流入するインクによって、吐出室20内において奥行方向Dに沿う流れが形成される。吐出室20内には、平板状のフィルター29における厚さ方向(幅方向W)の一側面が臨んでいる。バイパス部50から吐出室20内に流入するインクは、フィルター29の一側面に沿って流れ、一側面に気泡が付着することを抑制している。
【0041】
次に、本実施形態の作用について説明する。
まず、インクジェット記録装置1は、記録媒体Sへの印刷時、キャリッジ4の走査によりインクジェットユニット10を移動させる。インクジェットユニット10は、キャリッジ4の走査に同期して、印刷する画像データに応じたインクを記録媒体Sに対して吐出し、記録媒体Sに画像を形成する。
【0042】
記録媒体Sへの印刷の間、インクジェットヘッド11は、インク循環装置12の駆動によりインクを循環させる。インクジェットヘッド11のノズル部では、インクジェットヘッド11のアクチュエータの駆動により、循環するインクの一部がメニスカス(インクと空気の界面)を破り、インク滴となって吐出する。
インクジェットヘッド11からインクが吐出すると、ケーシング17内のインクの量が瞬間的に減少し、回収側インク室22内の圧力が低下する。回収側インク室22内の圧力の低下を圧力センサが検知すると、インク補給ポンプ15が駆動し、吐出したインク量相当のインクを前記インクカートリッジから回収側インク室22へ補給する。
【0043】
上記したインクの循環及び補給によって、ケーシング17内のインクに気泡が混入することがある。この気泡は、フィルター29により吐出室20の上流室30に捕獲され、インクジェットヘッド11への流入が阻止される。フィルター29が捕獲した気泡は、上流室30内に溜まって該上流室30内の空気層となる。この空気層は、各ポンプ15,16の駆動による脈動を吸収するダンパとして機能するが、上流室30の液面を過度に押し下げると、フィルター29の圧力損失を増加させて循環流量に影響を与えてしまう。
【0044】
特に、装置の小型化のためにフィルター29手前の上流室30の容積を小さくしている場合、フィルター29でトラップした気泡が比較的短い時間で液面を押し下げる。上流室30の液面が下がると、インクとフィルター29との接触面積が小さくなり、フィルター29を通過する単位面積当たりのインク流量が増大し、フィルター29の圧力損失が増大する。その結果、フィルター29上流の圧力とフィルター29下流の圧力の差が、フィルター孔でのインクの表面張力により決まるバブルポイント圧力を超えてしまい、フィルター29上流の空気がフィルター孔を通過してしまう。フィルター孔を通過した空気は、気泡としてインクと一緒に流れ続ける。インクと一緒に流れる気泡がインクジェットヘッド11のノズル部近傍を通過するとき、インクの吐出が不安定になってしまう。
【0045】
本実施形態では、上流室30内に溜まった空気層(空気室K3)がインクI3の液面I3aを押し下げても、液面I3aがある程度下がった時点で、フィルター29よりも上方に位置するバイパス部50の開口(貫通孔)が液面I3a上に露出する。これにより、上流室30内の空気層の空気の一部が、バイパス部50を通じて下流側インク流路47(本実施形態では吸入室23)に流出する。このように、上流室30内の空気層の空気がバイパス部50を介して流出することで、上流室30のインクI3の液面I3aが上昇し、再びバイパス部50の開口がインク液面の下方に戻る。
【0046】
バイパス部50を境にインク液面の上昇と下降とが繰り返されることで、フィルター29は常にインク液面の下方にあり、インクとフィルター29との接触面積が小さくなることがない。よって、フィルター29の圧力損失が大きくなることもなく、フィルター29上流の圧力とフィルター29下流の圧力との差がバブルポイント圧力を超えることもない。つまり、微小な気泡も捕捉可能となり、気泡を下流に流してしまうことが抑止される。上流室30から流出した空気は、例えば回収側インク室22上部のエア抜き構造により除去される。
【0047】
バイパス部50は、上流室30からフィルター29、下流室31及びインクジェットヘッド11を経由して下流側インク流路47に至る通常経路の流路抵抗よりも大きな流路抵抗をもっている。このため、バイパス部50の開口(貫通孔)が液中にあっても、バイパス部50を通じて下流側インク流路47へ直接流入するインクの量は少なく、インクの循環流量が維持される。
【0048】
バイパス部50により、フィルター29上流の上流室30の液面が常に適正に保たれ、フィルター29の圧力損失が適正に保たれる。しかも、バイパス部50がフィルター29の一側面に沿うインクの流れを形成するので、フィルター29への気泡の付着が抑えられ、この点でもフィルター29の圧力損失が適正に保たれる。
これにより、インクの循環流量が安定するとともに、フィルター29上流の圧力がバブルポイント圧力よりも小さく抑えられ、インクジェットヘッド11へのエアの混入が抑えられる。
【0049】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、インク循環装置12が、フィルター29およびバイパス部50を備えている。フィルター29は、インク循環ポンプ16の吐出部16aとインク供給部12aとの間に設けられる上流側インク流路46を、インク循環ポンプ16の吐出部16aに連通する第一流路46aと、インク供給部12aに連通する第二流路46bとに仕切り、第一流路46aにインク内の気泡を捕獲する。バイパス部50は、フィルター29よりも鉛直方向の上方に配置され、第一流路46aと、インク戻し部12bとインク循環ポンプ16の吸入部16bとの間に設けられる下流側インク流路47と、を直接連通させる。
【0050】
この構成によれば、インク内の気泡をフィルター29で除去しつつ、フィルター29上流側の液面高さを適正に保ち、空気層によるポンプ脈動の吸収効果を得ながら、インクとフィルター29との接触面積が小さくなることによるフィルター29の圧力損失の増大を抑えることができる。すなわち、インク循環ポンプ16の出口に配置したフィルター29の手前に溜まる空気を、フィルター29よりも上方に配置したバイパス部50により効率よく排出し、常にフィルター29の全体をインクと接触させることができる。このため、フィルター29の圧力損失の増大を抑え、インクの流量を確保するとともに、装置の小型化のためにフィルター29の手前の空間の容積を小さくした場合でも、空気がフィルター29を突破することがなく、インクに気泡が混ざることもない。
このように、インクの循環流量が低下したりインク内の気泡がフィルター29を通過したりすることを抑え、インクの吐出不良を抑えることができる。
【0051】
また、バイパス部50が、第一流路46aからフィルター29、第二流路46b及びインクジェットヘッド11を経由して下流側インク流路47に至る通常経路の流路抵抗よりも大きな流路抵抗を持つことで、バイパス部50の開口(貫通孔)が液中にあっても、バイパス部50を通じて下流側インク流路47へ直接流入するインクの量を抑え、インクの循環流量を維持することができる。
【0052】
また、バイパス部50における吐出室20内に臨む開口(貫通孔)が、フィルター29における吐出室20内に臨む一側面に沿う方向を指向するので、バイパス部50が液中にあるときには、バイパス部50がフィルター29の一側面に沿うインクの流れを形成し、フィルター29への気泡の付着を抑えることができる。この場合、バイパス部50の流路抵抗を小さくしてインクを積極的に流す構成としてもよい。バイパス部50の流路抵抗に係る内径等は、インクの特性、およびインクジェットヘッド11のインク吐出が安定する循環流量、等を考慮して適宜決めればよい。
【0053】
なお、本実施形態のバイパス部50は、例えば回収側仕切壁49を貫通する管部材(バイパスパイプ)で構成されてもよい。この場合、貫通孔形成部51によりバイパス部50を設ける場合と比べて、バイパス部50の設定自由度を高めることができ、かつ液面高さの設定自由度を高めることができる。
本実施形態のバイパス部50は、奥行方向Dに延びる流路を形成しているが、幅方向Wおよび高さ方向Hに延びる流路を含んでもよい。また、バイパス部50は、上流側インク流路46の上流室30と下流側インク流路47の回収側インク室22とを連通させてもよい。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。