特許第6735704号(P6735704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6735704透明で無色の、チタニア含量の低いベータ・石英・ガラス・セラミック材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6735704
(24)【登録日】2020年7月16日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】透明で無色の、チタニア含量の低いベータ・石英・ガラス・セラミック材料
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/14 20060101AFI20200728BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   C03C10/14
   C03C3/085
【請求項の数】4
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-83623(P2017-83623)
(22)【出願日】2017年4月20日
(62)【分割の表示】特願2015-207849(P2015-207849)の分割
【原出願日】2007年11月29日
(65)【公開番号】特開2017-141160(P2017-141160A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2017年5月22日
(31)【優先権主張番号】0655231
(32)【優先日】2006年11月30日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501059442
【氏名又は名称】ユーロケラ
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】マリー コント
(72)【発明者】
【氏名】ロタール ヴォントラクツェク
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭44−024430(JP,B1)
【文献】 特開昭64−052631(JP,A)
【文献】 特開平05−213629(JP,A)
【文献】 特開平11−228181(JP,A)
【文献】 特開2001−354443(JP,A)
【文献】 特開2002−154840(JP,A)
【文献】 特表2006−523600(JP,A)
【文献】 特表2010−510951(JP,A)
【文献】 特開2016−020303(JP,A)
【文献】 米国特許第05173453(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 10/12 − 10/14
C03C 3/076 − 3/097
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主結晶相としてβ−石英の固溶体を含む、透明で、実質的に無色のガラス・セラミック材料であって、
SiO: >65〜71
Al: 19〜23
LiO: 3〜4
: 0〜0.8
TiO: 0.3〜<1.2
SnO: 0.25〜1.2
TiO+SnO: <1.8
CeO: 0〜0.4
WO+MoO: 0〜<1
CeO+WO+MoO: 0〜<1
Nb: 0〜0.6
ZrO: 2.2〜3.8
ZrO+TiO+SnO: >3.0〜<4.8
MgO: 0〜2
ZnO: 1〜4
SrO: 0〜2
BaO: 0〜1.8
: 0〜3
O+NaO: 0〜1.5
Gd+La+Ta+Y: 0〜4
Nd+Er: 0〜0.08
Fe: <0.03
から実質的に成る、酸化物基準の質量%で表示される組成を有し、
不可避的な微量を除いて、酸化ヒ素、酸化アンチモンおよびハロゲン化物を含まない、ガラス・セラミック材料。
【請求項2】
主結晶相としてβ−石英の固溶体を含む、透明で、実質的に無色のガラス・セラミック材料であって、
SiO: 67〜70
Al: 19.5〜<22
LiO: 3.2〜3.8
: 0〜0.8
TiO: 0.3〜1.2
SnO: 0.3〜0.8
TiO+SnO: <1.8
CeO: 0〜0.2
WO+MoO: 0〜<1
CeO+WO+MoO: 0〜<1
Nb: 0〜0.2
ZrO: 2.2〜3.3
ZrO+TiO+SnO: >3.0〜<4.4
MgO: 0〜1.5
ZnO: 1.3〜2.4
SrO: 0〜1.2
BaO: 0〜1.5
: 0〜3
O: 0〜1.3
O+NaO: 0〜1.5
Gd+La+Ta+Y: 0〜2
Nd+Er: 0〜0.06
Fe: <0.02
から実質的に成る酸化物基準の質量%で表示される組成を有し、
不可避的な微量を除いて、酸化ヒ素、酸化アンチモンおよびハロゲン化物を含まない、ガラス・セラミック材料。
【請求項3】
前記組成が、不可避的な微量を除いてリン酸塩を含まない、請求項1または2記載のガラス・セラミック材料。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載のガラス・セラミック材料の調製方法であって、
前記ガラス・セラミック材料の前駆体である、リチウムアルミノケイ酸塩ガラス、または、それ自体が前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスの前駆体であるミネラルチャージを、セラミック化を確実にする条件下で、加熱処理する工程を有してなり、
前記ガラスまたは前記ミネラルチャージが、請求項1〜3いずれか1項記載のガラス・セラミック材料のものに対応する組成を有する、ガラス・セラミック材料の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス・セラミック材料全般、その前駆体ガラス、ガラス・セラミック材料を含む物品、およびガラス・セラミック材料の製造方法に関する。詳細には、本発明は、可視スペクトルにおいて実質的に透明および無色の、主結晶相としてβ−石英を含むガラス・セラミック材料、並びにそれらの前駆体ガラス材料、それらを含む物品、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主結晶相としてβ−石英の固溶体を含む、熱膨張率(CTE)の低い透明なガラス・セラミック材料は、多くの刊行物、特に、W.HoelandおよびG.Beallの非特許文献1に記載されている。このガラス・セラミック材料は、前駆体ガラス(さらに一般には、前記ガラスの構成物質の混合物:このようなガラスの前駆体である、ミネラルチャージ)を加熱処理することによって、一般的に得られ、その組成はLiO2−Al23−SiO2(LAS)系である。前記加熱処理には、核形成段階およびその後の結晶成長段階が含まれる。
【0003】
β−石英のガラス・セラミックで作られる物品の製造は、通常、3つの連続した主工程:
通常1550℃〜1750℃で行なわれる、出発原料および/またはガラスカレットなどのバッチ材料を溶融する第1の工程、
得られた溶融ガラスを冷却し、所望の形状へと成形する第2の工程、および
適切な加熱処理を行うことにより、前記成形および冷却されたガラスを結晶化またはセラミック化する第3の工程(上記の核生成および結晶成長の段階を含む)、
を有してなる。
【0004】
さまざまな透明度を有し、実質的に無色の、主結晶相としてβ−石英固溶体を含むガラス・セラミック材料が知られている。 例えば、特許文献1〜11は、すべてガラス・セラミック材料に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,438,210号明細書
【特許文献2】米国特許第5,591,682号明細書
【特許文献3】米国特許第6,677,046号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0198579号明細書
【特許文献5】英国特許第2159154号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第0437228号明細書
【特許文献7】特開2001−348250号公報
【特許文献8】独国特許第19939787号明細書
【特許文献9】国際公開第02/16279号パンフレット
【特許文献10】独国特許第10110225号明細書
【特許文献11】独国特許第19907038号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】W. Hoeland and G. Beall, "Glass-ceramic technology", Am. Ceram. Soc., Westerville (2002), p. 88-96
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それでもなお、実質的に透明で、実質的に無色のガラス・セラミックの現行商品は、可視スペクトルにおいて、望ましくない着色を有する傾向にある。主結晶相としてβ−石英固溶体を含む、無色透明のガラス・セラミックが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、主結晶相としてβ−石英の固溶体を含む、透明で、実質的に無色のガラス・セラミック材料であって:

から実質的になる、酸化物基準の質量%で表示された組成を有し、
不可避的な微量を除いて、酸化ヒ素および酸化アンチモンを含まない、
ガラス・セラミック材料に関する。
【0009】
本発明の第1の態様のガラス・セラミック材料の特定の実施の形態では、ガラス・セラミック材料は:
から実質的になる、酸化物に基づいた全組成の質量%で表された組成を有する。
先に具体的に述べた実施の形態であるか否かに関わらず、本発明の第1の態様のガラス・セラミック材料の特定の実施の形態では、ガラス・セラミック材料の組成は、さらに、不可避的な微量を除いて、ハロゲン化物を含まない。
【0010】
先に具体的に述べた実施の形態であるか否かに関わらず、本発明の第1の態様のガラス・セラミック材料の特定の実施の形態では、ガラス・セラミック材料の組成は、さらに、不可避的な微量を除いて、リン酸塩を含まない。
【0011】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に従ったガラス・セラミック材料(上述の本発明の第1の態様の特定の実施の形態を含むが、それらに限定されない)で作られた物品に関し、例えば、料理板、調理器具、電子レンジのプレート、暖炉の窓、防火扉または窓、乾留炉または触媒炉用の覗き窓、レンズ物品、食卓用の食器類、建築要素、または弾道保護に関するものなどである。
【0012】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に従ったガラス・セラミック材料(上述の本発明の第1の態様の特定の実施の形態のものを含むがそれらに限定されない)の前駆体ガラス材料である、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスに関する。本発明の第3の態様のガラス材料の組成は、本発明の第1の態様のガラス・セラミック材料の組成に対応している。
【0013】
本発明の第4の態様は、本発明の第1の態様のガラス・セラミック材料の製造方法であって、
前記ガラス・セラミック材料の前駆体である、リチウムアルミノケイ酸塩ガラス、または、それ自体がこれらリチウムアルミノケイ酸塩ガラスの前駆体であるミネラルチャージを、セラミック化を確実にする条件下で、加熱処理する工程を有してなり、
前記ガラスまたは前記ミネラルチャージが、本発明の第1の態様のガラス・セラミック材料のものに対応する組成を有することを特徴とする、
方法に関する。
【0014】
本発明の第4の態様の方法の特定の実施の形態では、前記方法は、次の工程:
(i)リチウムアルミノケイ酸塩ガラスまたはこれらガラスの前駆体であるミネラルチャージを溶融し、その後、得られた溶融ガラスを清澄させる工程であって、前記ガラスまたは前記チャージが少なくとも1種類の清澄剤を有効であって過剰ではない量で含むものである工程と、
(ii) 得られた、前記清澄させた溶融ガラスを冷却すると同時に、それを、目的とする物品の所望の形状に成形する工程と、
(iii)前記成形されたガラスをセラミック化する工程と、
を順に有してなり、
前記ガラスまたは前記ミネラルチャージが、本発明の第1の態様に従って、ガラス・セラミック材料のものに対応する組成を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の第4の態様の方法の特定の実施の形態では、前記方法は、1000℃未満の温度、有利には950℃未満の温度で、150分間行なわれる。
【0016】
本発明のさまざまな態様の1つ以上の実施の形態は、次の利点を1つ以上有する:主結晶相としてβ−石英固溶体を含む、実質的に無色で、非常に透明な、ガラス・セラミック材料を作ることができる。
【0017】
本発明のさらなる実施の形態は、ある程度、詳細な説明および添付の特許請求の範囲に記載され、またある程度は詳細な説明から導かれるであろうし、あるいは本発明の実施によって習得できる。前述の概要および後述の詳細な説明は、単に例示および説明の目的であって、開示される通りに本発明を限定するものではないものと理解されたい。
【0018】
本明細書に取り込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、本発明の特定の実施の形態を例証し、また、その記述と共に、限定はしないが、本発明の原理を説明する役割をするものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(i)本発明の1つの実施の形態にしたがったガラス・セラミック材料(下記実施例4)、(ii)比較実施例(Keralite(登録商標)、すなわち下記TiO2を含むガラス・セラミック材料)の透過曲線。
【発明を実施するための形態】
【0020】
後述の本発明は、現在知られている最良の実施の形態における本発明の実施可能な教示として提供される。この目的で、当業者は、本発明の有益な結果を得つつ、本明細書に記載される本発明のさまざまな実施の形態に多くの変更をなしうることを認識および理解するであろう。本発明の所望の利益の一部は、本発明の一部の特徴を選択することにより、他の特徴を使用せずに得られうることも明白であろう。したがって、当技術分野に従事する者は、本発明には多くの変更および適合が可能であり、特定の環境ではそれが望ましくさえあり、それらが本発明の一部であることを認識するであろう。よって下記説明は、本発明の原理の例証として提供されるものであって、それらを限定するものではない。
【0021】
他に明記しない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される、成分の質量%、サイズ、および、熱膨張率(CTE)などの特定の物理的性質についての値は、すべての場合において、「約」という用語によって修正されるものと解されるべきである。本明細書および特許請求の範囲で使用される正確な数値は、本発明の追加の実施の形態を形成することもまた理解されるべきである。実施例に開示した数値の正確性が確保されるように努めている。しかしながら、任意の測定された数値は、個別の測定技術に見られる標準偏差に起因する誤差を、本質的に含みうる。
【0022】
本明細書で用いられるように、単数形の「a」、「an」および「the」は、その文脈が明らかに別記しない限り、複数形の指示対象も含む。よって、例えば、単数形の「ガラス・セラミック材料」についての記載は、その文脈が明らかに別記しない限り、このようなガラス・セラミック材料を2種類以上有する実施の形態を含む。
【0023】
範囲は、本明細書では、「約」1つの特定の値から、及び/または「約」別の特定の値まで、として表されうる。このように範囲が表される場合、別の実施の形態には、1つの特定の値から、及び/または、別の特定の値までが含まれる。同様に、前述の「約」を用いて、値が近似値として表される場合、その特定の値が別の実施の形態を形成するものと理解されよう。さらには、各範囲の終点は、もう1つの終点と関係する場合、及び、もう一方の終点とは独立している場合の両方において、重要であるということも理解されよう。
【0024】
本明細書では、成分の「質量%」または「質量パーセント」もしくは「質量による%」は、特に異なる記載がない限り、その成分が含まれる組成物または物品の総質量に基づいている。
【0025】
本発明は、透明で実質的に無色のβ−石英のガラス・セラミック材料の分野に関する。さらに詳細には、本発明の対象は、(i)その組成がAs23およびSb23を含まない、新規の、透明で実質的に無色のβ−石英のガラス・セラミック材料であって、その組成が3種類の核形成剤:TiO2、ZrO2およびSnO2の非常に特異的な組合せを含み、TiO2含量が低い、ガラス・セラミック材料;(ii)前記新規ガラス・セラミック材料で作られた物品;(iii)リチウムアルミノケイ酸塩ガラス、すなわち前記新規ガラス・セラミック材料の前駆体であって、前記新規の、透明で実質的に無色のガラス・セラミック材料を、短いセラミック化時間で調製しうる、リチウムアルミノケイ酸塩ガラス;および(iv)前記新規ガラス・セラミック材料および前記新規ガラス・セラミック材料から作られた前記物品を製造する方法である。
【0026】
所望の微細構造(ガラス質のマトリクスにおけるβ−石英およびβ−ユークリプタイトの固溶体(以下本文中では単に「β−石英」と記載))を得ることを目的として、前記微細構造の最適化(熱膨張率の低い、半透明または透明のガラス・セラミック材料を得るための晶子のサイズおよび分布に関する最適化)と共に、通常有効な核生成剤が用いられる。一般的にはTiO2および/またはZrO2 が用いられる。ZrO2は、単独で用いる場合には、溶解限度に近い量で使用しなければならないことから(結果的に、前駆体ガラスのより高い溶融温度、均一ではない核生成、加工の間の失透の危険性、および/またはガラス・セラミック材料中の残留ZrO2濃度の高い領域につながる)、TiO2が、断然、最も幅広く用いられる核生成剤である。さらには、ZrO2は、TiO2と比較して非常に効率の劣る核生成剤であり、セラミック化に非常に長い時間を必要とする。
【0027】
透明で「実質的に無色」のガラス・セラミック材料を得るためには、そのガラス・セラミック材料内における着色部位の存在、すなわち、可視光線に晒された際に電子遷移を受けるであろうイオンまたはイオン対の存在を回避しなくてはならない。しかしながら、「実質的に無色」は、「本質的に実質的に無色」(上述のようなイオンまたはイオン対が存在しないことによる)および、材料内に補色を顕色させることによって「着色を相殺することに起因する実質的に無色」の両方に解されるべきであるということに留意されたい(上記米国特許第4,093,468号明細書の開示を参照のこと)。これらの概念は、当業者にはよく知られている。
【0028】
ガラス・セラミックにおける着色を与える化合物の存在は、原料への前記化合物またはそれらの前駆体の取り込みを妨げるか最小限に抑えることによって回避できるように思われるが、特定の必要成分がガラス・セラミック材料中の着色種と相互に作用しうる場合には、状況はさらに複雑になる。たとえば、ガラス・セラミック中にFe23が単独で、最大で300ppmの量で存在する(TiO2不存在)ことは、一般に、着色に関しては懸念事項ではないことが知られている。しかしながら、Fe23とTiO2の並存は、特徴的な黄色がかった色合いを生じる。特に、商用名「KERALITE」として本出願人から市販されるもの(欧州特許出願公開第0437228号明細書に記載)、商用名ROBAX(登録商標)としてSchott AG社から市販されるもの、および商用名NEOCERAM(登録商標)N-0として日本電気硝子株式会社から市販されるもののように、そうでなければ非常に透明であることが知られている多くの商品が、それらの組成中におけるFe23とTiO2の並存に起因して、この黄色がかった着色を保持している。Fe23含量を特に150ppm未満に低減させるのに用いられる原料の処理は、費用のかかる工程であり(特開2001−348250号公報に記載される選択肢)、TiO2が最良の性能を発揮する核生成剤であり、適当な時間スケールでセラミック化を生じさせることは、上記の通りである。上記技術的問題を解決する、すなわち、黄色がかった着色のない、透明なβ−石英のガラス・セラミック材料を得るために、可能性のあるアプローチの1つは、これらのガラス・セラミック材料を調製する際に、TiO2を使用せずに行うか、または少なくともそれらの含量を最小限に抑えることであると思われる。
【0029】
上記特定されるようなβ−石英のガラス・セラミックでできた物品の調製方法における第1の溶融工程の後に、気体状の介在物を、溶融ガラス塊から可能な限り効率的に除去することが適切であることにも留意すべきである。この目的で、少なくとも1種類の清澄剤を使用する。今日まで、清澄剤として、As23および/またはSb23が最も用いられている(上記参照)。CeO2、SnO2および、ハロゲン化物などの他の化合物の使用についても述べてきた。As23、ハロゲン化物およびSb23は、それらの毒性の理由から排除されることが有利であり、前記ハロゲン化物およびSb23はまた、非常に揮発性であり、当業者は、主にSnO2の使用を推奨するであろう。一方、CeO2は、TiO2の存在下では強い黄色の着色を生じさせることが知られており、本発明者らはSnO2(およびNb25) が TiO2と相互作用した後に、同一の問題を証明した。
【0030】
結果として、単にTiO2とFe23との相互作用のみならず、TiO2と、SnO2、CeO2およびNb25などの非毒性の清澄剤との相互作用にも起因して、透明で、実質的に無色のガラス・セラミック材料の組成において、TiO2の存在を最小限に抑えるか、回避することが有利であることが発明者にとって明らかとなった。
【0031】
組成にTiO2を含まないガラス・セラミック材料については、説明されてきた(米国特許第3,252,811号、同第3,977,886号、および同第5,017,519号の各明細書)しかしながら、当業者は、TiO2の不存在が、結果的にセラミック化時間を長期化し、したがって、生産コストが高くなり、上記不利な点を有するZrO2がさらに大量に存在することにつながることを知っている。
【0032】
したがって、本発明者らが取り組む技術的問題は、透明かつ実質的に無色のβ−石英のガラス・セラミック材料およびガラス・セラミック材料物品(低い熱膨張率(CTE)を有する)を、TiO2含量が低く、望ましくない清澄剤(As23およびSb23)を含まない前駆体ガラスから、溶融および/または成形の間に生じる失透の問題なしに、適切なセラミック化時間で、得ることであった(驚くべきことに、これを150分以下の時間で達成可能であることが判明した)。
【0033】
この技術的問題に関して、本発明者らは、その組成に、付随的にTiO2、ZrO2およびSnO2(および随意的に、CeO2および/またはWO3および/またはMoO3および/またはNb25)を含む、特に対象とするガラス・セラミック材料の狭小な群を特定した。
【0034】
したがって、その第1の態様によれば、本発明は、主結晶相としてβ−石英の固溶体を含む、透明で、実質的に無色のガラス・セラミック材料であって、下記:

から実質的になる、酸化物基準の質量%で表示された組成を有し、
不可避的な微量を除いて、二酸化チタン、酸化ヒ素、酸化アンチモンおよびリン酸を実質的に含まない、
ガラス・セラミック材料に関する。
【0035】
「透明」および「実質的に無色」の用語は、当業者には良く知られている。それらは、下記のように定量化される(表示値には依然として振幅があり、厳密に解釈されるべきではない):本発明にしたがった、3mmの厚さのガラス・セラミック材料サンプルは、一般に、標準光Cを用いて測定した「CIE 1976 Lab」(国際照明委員会、1976年)に規定された色空間におけるL*(明度)、a*およびb* (色座標)のパラメータについて下記の値を有している:
【0036】
当業者は、高い透明度には90を超える「L*」値が必要であり、わずかに黄色がかった着色には2未満の「a*」値が必要であることを、一般に認識している。12を超える「b*」値は、一般に、乳白色の外観と関連することが認められている。
【0037】
透明度を定量化するため、同一の型(3mmの厚さ)のサンプルについて、次の測定をした:透過率Tがそれぞれ60%および10%を超える、最も低い波長、乳白色を評価するために計算される差分。結果は、一般に下記のようになる:

【0038】
また、本発明に従ったガラス・セラミック材料の熱膨張率(25℃〜700℃で測定)は、一般に、−10×10-7-1 〜+15×10-7-1である。
【0039】
β−石英固溶体は、主結晶相として存在することが望ましい。本発明のガラス・セラミック材料内では、残留するガラス質の相は一般に35質量%未満に相当し、β−石英固溶体は結晶化した画分の少なくとも65%、一般には70〜85質量%に相当する。本発明に従ったガラス・セラミック材料の結晶相に関しては、次のことがいえるが、決してそれらに限定されるものではない。一般に、その結晶相は、主に、少なくとも80質量%の、β−石英またはβ−ユークリプタイトの固溶体から成る。この結晶相はまた、一般に、スリランカイト(srilankite)、立方体のZrO2、ルチルなど、SnO2と共に固溶体中に存在可能な微量の第2の結晶相を含む。この結晶相は、β−スポジュメン固溶体などの第3の結晶相(3質量%未満)またはその他のもの(5質量%未満)も含みうる。
【0040】
結晶の大きさは、一般に、70nm未満であり、60nm以下が好ましい。
【0041】
組成は、上記リストに掲げた化合物(酸化物)「から実質的になる」ことが望ましい。これは、本発明に従ったガラス・セラミック材料では、リストに挙げられた化合物(酸化物)の合計が少なくとも95質量%、一般には少なくとも98質量%に相当することを意味する。そのガラス・セラミック材料中に、他の化合物が少量で認められうることを完全に排除することはできない。
【0042】
本発明に従ったガラス・セラミック材料の質量組成に関しては、下記のように特定することができるが、決してそれらに限定されることはない。
【0043】
(1)課題となるガラス・セラミック材料は、LAS系である。それらは、β−石英固溶体の本質的構成物質として、Li2O、Al23およびSiO2を含み、それらに透明性と低い熱膨張率を与える。必須構成物質として望ましい範囲は狭い。したがって、それは次のように決定される:
(i)最終製品の特性(高い透明度と低い熱膨張率(CTE))に関して、また、その最終製品を得る方法(溶融工程およびセラミック化時間)に関して、対象とする結果を得るためには、SiO2含量は、65%を上回り、71%未満である。SiO2含量は、67%〜70%が有利である;
(ii)Al23含量は、19%〜23%に限定され、19.5%〜22%未満が有利である。Al23含量が十分に高くない場合(<19%)、最終製品の透明度は低下し、セラミック化は遅すぎるようになる。Al23含量が高すぎる場合(>23%)、溶融およびセラミック化を行うことは困難であり、前記ガラスの形成の際に失透現象の発生が見られうる;
(iii)Li2O含量は、3%〜4%に限定され、3.2%〜3.8%が有利である。Li2Oの最小値3.2%は、一般に、低い熱膨張率(CTE)を有する透明なガラス・セラミック材料を得るため、および、セラミック化時間を最小限に抑えるために、必要である。Li2O含量が高すぎる場合には、失透現象の発生が見られうる。
【0044】
(2)本発明に従ったガラス・セラミック材料は、ホウ酸塩を含みうる。特に、B23は、ZrO2を溶解し、溶融の際の粘性を低下させるのに有益に使用されうる。しかしながら、B23は相分離を容易にすることが知られており、大きい結晶およびβ−スポジュメンの存在の有無に関し、乳白色化に関与しうる。したがって、本発明に従ったガラス・セラミック材料は、1質量%を超えるB23を含まない。
【0045】
(3)核生成剤として、本発明に従ったガラス・セラミック材料は、TiO2(制限量で)、ZrO2、およびSnO2を含む。これら3成分の量は、典型的には下記のようになる:

【0046】
これら成分のこのような量は、セラミック化(TiO2+SnO2+ZrO2>3%、SnO2も清澄剤として作用する)を、最も意外なことに、短い時間内(150分以下:下記参照)で可能にする。それはまた、TiO2(<1.6%)、SnO2(≦1.2%)、TiO2+SnO2(<2%、有利には、<1.8%)の量の低さに起因して、黄色がかった着色の開始を最小限に抑えるか、あるいは回避すること(望ましいFe含量で)を可能にする。加えて、溶融工程は、十分に制御され、失透現象の開始は最小化される(ZrO2+TiO2+SnO2<4.8%)。
【0047】
特定の実施の形態では、下記が望ましい:

【0048】
一般に、本発明に従ったガラス・セラミック材料の組成値は、最も有利には、
TiO2 0.6%〜0.8質量%
および/または
3.5% <ZrO2+TiO2+SnO2 <4.4%
である。
【0049】
(4)SnO2は、核生成剤としての機能に加えて、清澄剤としての機能も確保する。本発明に従ったガラス・セラミック材料の組成は、酸化ヒ素および酸化アンチモンを含まないことが想起される。SnO2含量は、少なくとも0.25%(したがって、核生成剤および清澄剤としての効率に関して)、かつ1.2%以下であり、TiO2 +SnO2 <2%、有利には<1.8%、および3.0%<ZrO2+TiO2+SnO2<4.8%(着色、核生成、溶融工程の実施、および失透の問題に関して)である。SnO2の使用の利点および非常に有利な条件については、すでに上述した。
【0050】
(5)CeO2、WO3、MoO3、およびNb25は、単独で、または組み合わせて、清澄剤として使用して差し支えない。WO3+MoO3で表される、タングステンおよび/またはモリブデンの酸化物の合計は、次の理由により、1質量%未満に制限される:構成物質の両方を制限量で使用して、融液の清澄を補助する際に、それらの合計量が1質量%を超える場合には、1550℃〜1750℃の温度でガラスの融液に小さい気泡が大量に形成され、これらの気泡は除去することが非常に困難である。したがって、多すぎる量で使用すると、WO3およびMoO3の効果はマイナスになりうる。さらには、両方の構成物質、特にMoO3は、多すぎる量で使用すると、最終的なガラス・セラミックに異なるタイプの着色を生じうる。CeO2+WO3+MoO3の使用は、1%未満に制限される。この値を超えると、黄色い着色の開始が見られる。WO3およびMoO3は、存在しないことが有利であり、CeO2およびNb25の含量は、共に0.2%までに制限される。
【0051】
(6)ZnO、およびMgO、SrOおよびBaO群のアルカリ土類金属酸化物は、ガラス・セラミック材料の溶融特性の改善、ガラス質相の安定化、およびガラス・セラミック材料の微細構造に影響を与えるために、用いられる。Mgが固溶体に取り込まれるのに対し、SrOおよびBaOは、一般に、ガラス質相に残存することが知られている。MgO、BaOおよびSrOが熱膨張率(CTE)を増大させるのに対し、ZnOは、熱膨張率を低下させることも可能にする。BaおよびSrなどの重元素はガラス質相の屈折率および濁度に影響を与える。本発明に従ったガラス・セラミック材料は、0〜2%のMgO、1〜4%のZnO、0〜2%のSrO、および0〜1.8%のBaOを含む。それらのMgO含量は、0〜1.5%が有利であり、それらのZnO含量は1.3〜2.4%、それらのSrO含量は0〜1.2%、およびそれらのBaO含量は0〜1.5%が有利である。
【0052】
(7)本発明に従ったガラス・セラミック材料は、0〜3%のP25も含みうる。それらは、リン酸塩を含まないことが有利であり、それによって均質性および透明性を最適化することができる。
【0053】
(8)本発明に従ったガラス・セラミック材料は、Li2O以外のアルカリ酸化物、例えばNa2OおよびK2Oを、0〜2.1%、有利には0〜1.5%含みうる。Na2Oは存在しないことが好ましい。K2Oは、単独で(0〜1.3%の量で)存在することが好ましい。セラミック化後、アルカリイオンはガラス質相に残る。それらは、熱膨張を増大させ、したがって、マイナスすぎる熱膨張率(CTE)の値を相殺するのに使用して差し支えない。それらはまた、溶融温度を低下させ、ZrO2を溶解し易くする、すなわち、本方法の遂行を簡単にするのに使用することができる。それらを多すぎる量で使用した場合は、熱膨張が強すぎ、核生成は調節が難しくなるであろう。
【0054】
(9)本発明に従ったガラス・セラミック材料には、4%までの酸化物も含めて差し支えなく、例えばGd23, La23, Ta25およびY23などである(このリストは包括的ではない)。これらの酸化物は、残留するガラス質相の屈折率を増大させることによって、ガラス・セラミックを着色することなく、ガラス・セラミックの透明度および光学的外観を向上させることができる。それらを多すぎる量で用いた場合には、熱膨張は増大し、屈折率は高くなりすぎ、溶融工程を行うことは困難である。本発明に従ったガラス・セラミック材料は、これらの酸化物を2質量%より多く含めないことが有利である。
【0055】
(10)本発明に従ったガラス・セラミック材料における黄色に対する補色的着色剤の存在は、除外されない。これは、所望の目的:黄色がかった着色の排除(補色による)の改善を補助する。具体的には、Nd23および/またはEr23を使用して差し支えない。Nd23およびEr23は、0〜0.08%の量に制限して使用しなければならず、0〜0.06%が有利であり、0〜0.04%がさらに有利である。例えば、Nd23を多すぎる量で使用した場合は、青みがかった着色が観察され、Er23を多すぎる量で使用した場合は、ピンクがかった着色が観察される。
【0056】
(11)最後に、本発明に従ったガラス・セラミック材料中のFe23含量は、300ppm未満であると特定された。明らかに、Fe23は、ガラスの構成成分として意図的に加えられない。存在する場合には、それは、用いる原料中の一般的不純物である、という理由からである。本発明の文脈では、Fe23は、わずかに、制限量のTiO2に干渉するかもしれない。一般的には、鉄の存在を最小限に抑えることが好ましいことは明らかであるが、この目的では、用いる原料を精製しなければならず、よって、多くの場合、費用がかかりすぎることが判明するであろう。さらには、一部の事例では、Fe23の存在が、溶融および清澄に関して対象とすべきことを証明することができる。一般に、本発明に従ったガラス・セラミック材料は、100〜250ppmのFe23を含む。本発明に従ったガラス・セラミック材料は、200ppm未満のFe23を含むことが有利である。
【0057】
その組成について説明した、本発明に従ったガラス・セラミック材料は、特徴として、不可避的な微量を除いて、酸化ヒ素および酸化アンチモンを含まない:このように、これらの望ましくない生成物の使用が回避される。
【0058】
したがって、本発明に従ったガラス・セラミック材料の調製の際には、これらの化合物のいずれも、原料として意図的に加えられない。
【0059】
非常に意外なことに、前記化合物の作用なしに、TiO2含量を制限して、本明細書の冒頭に記載した仕様(さらに詳細には、そのセラミック化処理が150分未満で足りうる、透明で実質的に無色のβ−石英のガラス・セラミック材料)に見合うガラス・セラミック材料を調製することを可能にした。
【0060】
上記有利な範囲は、互いに独立している、また、互いに併用して差し支えないものとみなされるべきである。
【0061】
本発明に従ったガラス・セラミック材料は、次の質量組成、すなわち、酸化物基準の質量%で表示された組成を有することが有利であり、以下から実質的に成る(上記定義した意味において):

【0062】
本発明に従ったガラス・セラミック材料の組成は、不可避的微量を除いてハロゲン化物を含まないことが有利である。ハロゲン化物の使用に関連する問題(腐食、汚染)については、先に述べてきた。したがって、本発明に従ったガラス・セラミック材料の調製の場合には、原料としてハロゲン化物を意図的に加えないことが有利である。
【0063】
本発明に従ったガラス・セラミック材料の組成は、不可避的微量を除いて、リン酸塩を含まないことが有利である。リン酸塩の存在は、特に、乳白色化を促進する。したがって、本発明に従ったガラス・セラミック材料の調製の場合には、原料としてリン酸塩を意図的に加えないことが有利である。
【0064】
本発明に従ったガラス・セラミック材料の組成は、不可避的微量を除いてハロゲン化物およびリン酸塩の両方を含まないことが非常に有利である。
【0065】
第2の対象によれば、本発明は、上述のようなガラス・セラミック材料で作った物品に関する。その物品は、例えば、料理板、調理器具、電子レンジのプレート、暖炉の窓、防火扉または防火窓、乾留炉または触媒炉用の覗き窓、レンズ物品、食卓用の食器類、建築要素、または弾道保護に関するものなどであって差し支えない。
【0066】
第3の対象によれば、上述のような本発明に従ったガラス・セラミック材料の前駆体である、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスに関する。本発明に従ったガラス・セラミック材料用の上記組成を有するリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、事実上、新規である。
【0067】
第4の対象によれば、上述のような本発明に従ったガラス・セラミック材料の調製方法に関する。通常、本方法は、ガラス・セラミックの前駆体である、リチウムアルミノケイ酸塩ガラス、またはそれ自体がこのようなリチウムアルミノケイ酸塩ガラスの前駆体であるミネラルチャージを、セラミック化を確実にする条件下で、加熱処理する工程を有してなる。このセラミック化処理はそれ自体既知である。
【0068】
特徴として、本発明に従って、本方法は、上記特定されるような本発明に従ったガラス・セラミック材料のものに対応する質量組成を有する、ガラスまたはミネラルチャージを用いて行なわれる。
【0069】
第5の対象によれば、本発明は、本発明に従ったガラス・セラミック材料から作られた物品の製造方法に関する。通常、その方法は、次の3つの連続した工程:
(a)リチウムアルミノケイ酸塩ガラス、またはこれらガラスの前駆体であるミネラルチャージであって、少なくとも1種類の清澄剤を有効量であって過剰ではない量で含む、前記ガラスまたは前記チャージを溶融した後、得られた溶融ガラスを清澄させる工程と、
(b) 得られた、前記清澄させた溶融ガラスを冷却すると同時に、それを、目的とする物品の所望の形状に成形する工程と、
(c)前記成形されたガラスをセラミック化する工程と、
を有してなる。
【0070】
特徴として、本発明によれば、検討対象の前記ガラスまたは前記ミネラルチャージは、上記特定されるような、本明細書に従ったガラス・セラミック材料のものに対応する質量組成で存在する。
【0071】
上記形成(成形)は、ローラーの間で圧延してシートを得る工程からなることが有利である。
【0072】
検討対象のガラスは、150分以下の時間でセラミック化することができる。
【0073】
成形されたガラスのセラミック化は、150分以下の時間、1000℃未満の温度で行うと有利であり、950℃未満がさらに有利である。非常に意外なことに、このように短いセラミック化時間で、本発明に従ったガラス・セラミック材料を得ることが可能であることが証明された。
【0074】
セラミック化時間は、650℃の温度から最高セラミック化温度(1000℃未満)まで達する所要時間に相当し、650℃〜950℃未満であることが有利であり、そのセラミック化時間は核生成および結晶の成長段階に相当する。
【0075】
セラミック化時間には、650℃の温度に達するまでに必要な時間、または最大温度からの冷却時間は含めない。
【0076】
セラミック化時間は150分以下でありうることが望ましい。それは、120分以下、または90分以下であってもよい。最も意外なことに、これらの短いセラミック化時間内で本発明に従ったガラス・セラミック材料を得ること可能であることが証明された。
【0077】
本発明に従った方法の有利な実施の形態のバリエーションとして、650℃の温度に、1時間未満(成形された製品の温度から開始)、最も有利には30分未満で達し、および/または、得られたガラス・セラミック材料が、10分未満で、最高セラミック化温度から少なくとも40℃冷却される。
【0078】
本発明を、以下の実施例および添付の図面を用いて例証する。
【実施例】
【0079】
前駆体ガラスの1kgバッチを調製するため、原料を、下記表1の第1部分に記載される割合(酸化物で表示)で、注意深く混合した。
【0080】
混合物を溶融用の白金るつぼに入れた。充填したるつぼを、1400℃まで予熱した加熱炉に入れた。それらを以下の溶融サイクルに供した:(i)加熱速度2℃/分で1650℃の温度まで上昇させ、(ii)この1650℃の温度を12時間保持。
【0081】
次に、るつぼを加熱炉から取り出し、溶融ガラスを予熱した鋼板に注いだ。それを4mmの厚さになるまで圧延した。約20cm×30cmの板ガラスを得た。それらを650℃で1時間アニーリングした後、徐々に冷却した。
【0082】
得られた板ガラスは、概ね、非常に透明であった。
【0083】
それらを、下記特定されるようなセラミック化(結晶化=核生成+結晶成長)処理に供した。板ガラスを30℃/分の加熱速度で650℃まで加熱した。次に、それらを、40分間で820℃まで加熱し、820℃の温度を10分間保持した。最後に、それらを加熱塞速度10℃/分で、820℃の温度から900℃まで加熱し、この900℃の温度を15分保持した。
【0084】
得られたガラス・セラミック材料は、表1の第2の部分に示す特性を有していた。
【0085】
表示透過率Tを、3mmの厚さのガラス・セラミック材料サンプルについて測定した。T10およびT60の値(nm表示)は、それぞれ10および60%を超える透過率Tにおける最も短い波長に相当し、その差分は乳白色化を示す。
【0086】
*、a*およびb* として示される色点は、本明細書の冒頭に記載したもの(標準光Cを用いて測定された、「CIE/1976 Lab」空間における明度および色座標)である。それらを3mmの厚さのサンプルについて評価した。
【0087】
熱膨張率を、水平増加率(horizontal dilatometry)で測定した(25℃〜700℃)。
【0088】
結晶サイズ(セラミック化で生じた)を、研磨したガラス・セラミック材料サンプルについて、従来のX線回折技術を使用して決定した(φ=32mm;厚さ=3mm)。そのサイズを当業者に知られるリートベルト解析(Rietveld analysis)を用いた回折図形(X線)から算出した。表示値を10未満で四捨五入した(例えば、34は30に、57は60に対応する)。
【0089】
表1に含まれる情報を考慮して、本発明の利点を確認する。
【0090】
実施例C1〜C5は比較実施例である。
【0091】
実施例C1のガラス・セラミック材料は、やや乳白色化している(T60−T10の値が非常に大きい)。そのTiO2含量は低すぎる。したがって、明度L*が弱すぎる。その結晶サイズは最適化されていない。
【0092】
実施例C2のガラス・セラミック材料も、やや乳白色化している(T60−T10の値は依然として大きい)。そのSnO2含量は低すぎる。その結晶サイズは最適化されていない。
【0093】
実施例C3の「ガラス・セラミック材料」は、ZrO含量が低すぎるため、および、さらに一般的には、核生成剤含量が低すぎる(TiO2+ZrO2+SO2:2.9質量%)ため、セラミック化されない。
【0094】
実施例C4のガラス・セラミック材料は、特に、累積されたTiO2(1.6%)およびSnO2(0.4%)含量:TiO2+SO2:2%に起因して、やや黄色みがかっている(「a*」の色座標およびT10の値によって確認した)。
【0095】
実施例C5のガラス・セラミック材料は、やや乳白色化している。そのB23含量が高すぎる。その結果として、大きい結晶が成長する。その「有害な」存在は、わずかな乳白色化として示される。
【0096】
実施例1〜9は、本発明を例証するものである。
【0097】
実施例1のガラス・セラミック材料は、比較的多量のSnO2(0.8%)を含む。したがって、比較的高いT60、T60−T10差分、および「a*」の色座標の値が観察された。しかしながら、この結果は許容できる。
【0098】
実施例2および4のガラス・セラミック材料は特に好ましい。それらは、非常に低いT10値、低いT60−T10値、低い熱膨張率(CTE)、および、特に対象とする結晶サイズを示す。これらの良好な結果は、短いセラミック化時間で得られる。この、「短い」セラミック化時間は、すべての実施例について同一(73分)である(上記参照)。
【0099】
実施例3のガラス・セラミック材料は、低いTiO2含量を有する。意外にも、このような低いTiO2含量で、セラミック化を行うことができ、表示時間内で行なうことも可能であった。しかしながら、このようなT60−T10および「b*」の色座標の値では、乳白色化への特定の傾向に留意すべきである。とはいえ、結果は依然として非常に許容できる状態にある。
【0100】
実施例5は、その組成にMgOを含まない、本発明に従ったさまざまなガラス・セラミック材料を例証している。色および透過率に関する結果は優れている。透過率に関して、その優れた結果は、結晶サイズ(極めて小さい)によって説明することができる。しかしながら、MgOの不存在は、熱膨張率(CTE)に好ましくない影響を及ぼす。すべての結果は、依然として非常に許容できる状態にある。
【0101】
実施例6は、その組成にMgOを含まない、本発明に従ったガラス・セラミック材料のもう1つのバリエーションを例証している。Ta25の存在に起因して、その熱膨張率(CTE)は高めである。同様に、b*の色座標値は、「耐えうる」限界(12)に近い。
【0102】
実施例7のガラス・セラミック材料は、少量のB23を含む。その少量は、透明性にとって有害ではない。この実施例7は、比較実施例C5と並行して検討すべきである。この少量のB23では、結晶サイズは、公表した好ましい範囲内にある。ガラス・セラミック材料は極めて透明で無色であり、公表した(対象の)熱膨張率(CTE)を有する。
【0103】
実施例8および9は、BaOおよびMgOの役割について、さらに詳細に例証している。所望の仕様を満たすガラス・セラミック材料は、BaOを含まず、また、MgOも含まない、前駆体ガラスから得ることができる。K2Oを用いて、それらの1つ、または他方、またはその両方を置き換えてもよい。しかしながら、同時に、または独立して、ZrO2の量を制限し(失透の回避のため)、TiO2の量を増大させることによってこれを補うことが必要とされる。このように、非常に透明な製品が生成される。しかしながら、それらは、本発明の特定の他の実施の形態に見られるような(たとえば実施例1〜5)、幾分強い(が許容できる)黄色の着色を有している。
【0104】
添付の図面は、3mmの厚さのガラス・セラミックのサンプル2枚の透過曲線(ナノメートル表示される、波長の関数として、%で表示される、透過率)を示している。そのサンプルは、ガラス・セラミックの板から直径32mmのディスクを切断することにより、調製した。次に、ディスク(4mmの厚さ)の両面を、3mmの厚さまで研磨した。1つのサンプルは、実施例4(図中の“4”)の材料であり、もう一方は比較ガラス・セラミック材料(図中の“C”:「Keralite」、すなわち、欧州特許出願公開第0437228号明細書に開示される、TiO2含有ガラス・セラミック材料)であった。
【0105】
本発明は、いくつかの説明およびそれらの特定の実施の形態に関して詳細に述べてきたが、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の幅広い範囲から逸脱することなく、多くの変更が可能であることから、これらに制限されるとみなされるべきではないものと解されるべきである。
【0106】
【表1-1】
【0107】
【表1-2】
【0108】
他の実施態様
1.主結晶相としてβ−石英の固溶体を含む、透明で、実質的に無色のガラス・セラミック材料であって、
SiO: >65〜71
Al: 19〜23
LiO: 3〜4
: 0〜1
TiO: 0.3〜<1.6
SnO: 0.25〜1.2
TiO+SnO: <1.8
CeO: 0〜0.4
WO+MoO: 0〜<1
CeO+WO+MoO: 0〜<1
Nb: 0〜0.6
ZrO: 2.2〜3.8
ZrO+TiO+SnO: >3.0〜<4.8
MgO: 0〜2
ZnO: 1〜4
SrO: 0〜2
BaO: 0〜1.8
: 0〜3
O+NaO: 0〜1.5
Gd+La+Ta+Y: 0〜4
Nd+Er: 0〜0.08
Fe: <0.03
から実質的に成る、酸化物基準の質量%で表示される組成を有し、
不可避的な微量を除いて、酸化ヒ素および酸化アンチモンを含まない、ガラス・セラミック材料。
2.SiO: 67〜70
Al: 19.5〜<22
LiO: 3.2〜3.8
: 0〜1
TiO: 0.3〜1.2
SnO: 0.3〜0.8
TiO+SnO: <1
CeO: 0〜0.2
Nb: 0〜0.2
ZrO: 2.2〜3.3
ZrO+TiO+SnO : >3.0〜<4.4
MgO: 0〜1.5
ZnO: 1.3〜2.4
SrO: 0〜1.2
BaO: 0〜1.5
O: 0〜1.3
Gd+La+Ta+Y: 0〜2
Nd+Er: 0〜0.06
Fe: <0.02
から実質的に成る酸化物基準の質量%で表示される組成を有する、実施態様1記載のガラス・セラミック材料。
3.前記組成が、さらに、不可避的な微量を除いて、ハロゲン化物を含まない、実施態様1または2記載のガラス・セラミック材料。
4.前記組成が、さらに、不可避的な微量を除いて、リン酸塩を含まない、実施態様1〜3いずれか1項記載のガラス・セラミック材料。
5.実施態様1〜4いずれか1項記載のガラス・セラミック材料の調製方法であって、
前記ガラス・セラミック材料の前駆体である、リチウムアルミノケイ酸塩ガラス、または、それ自体が前記リチウムアルミノケイ酸塩ガラスの前駆体であるミネラルチャージを、セラミック化を確実にする条件下で、加熱処理する工程を有してなり、
前記ガラスまたは前記ミネラルチャージが、実施態様1〜4いずれか1項記載のガラス・セラミック材料のものに対応する組成を有する、ガラス・セラミック材料の調製方法。
図1