(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1が示すのは、本実施の形態に係るシス‐リコピン含有組成物の製造方法(以下、「本製法」という。)のフローチャートである。本製法を構成するのは、混合工程(S01)、異性化工程(S02)である。
【0016】
<シス‐リコピン含有組成物>
本発明のシス‐リコピン含有組成物が含むのは、少なくともシス‐リコピンである。当該シス‐リコピン含有組成物が目指す指標を列挙すると、組成物に含まれる全リコピンに対するシス‐リコピンの含有率(以下、「シス‐リコピン含有率」という。)である。当該指標の詳細は、後述する。
【0017】
<リコピン含有材料>
リコピン含有材料は、リコピンを含んでいればよく、天然物であっても化学合成されたものであってもよい。天然物の場合を例示すると、トマト加工品、オレオレジン(青果物又はその搾汁液を充分に濃縮した濃縮物から有機溶媒や超臨界二酸化炭素により抽出した後、溶媒を除去することにより得られる脂質画分)、オレオレジンを有機溶媒や食用油脂等の溶媒に混合してこれらに含まれているリコピンを溶解させることによって得られたリコピン溶液、オレオレジンの油分を除去したもの(「精製リコピン」と称されることがある。)等が挙げられる。トマト加工品を例示すると、トマトジュース、トマトピューレ、トマトペーストやそれらを遠心分離して得られる沈殿物(トマトパルプ)及びトマトペーストやトマトパルプなどを乾燥して得られる乾燥粉末(トマトパウダー)などである。
【0018】
<イソチオシアネート含有材料>
イソチオシアネートとは、イソチオシアネート基を有する物質の総称である。アブラナ科の植物等に多く含まれており、イソチオシアネートを例示すると、アリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、パラヒドロキシベンジルイソチオシアネート、フェネチルイソチオシアネート、スルフォラファン、6‐メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートなどである。イソチオシアネート含有素材は、イソチオシアネートを含んでいればよく、天然物であっても化学合成されたものであってもよい。天然物の場合を例示すると、マスタードオイル、ホースラディッシュオイルなどである。イソチオシアネート含有材料として、イソチオシアネートの前駆体と当該前駆体をイソチオシアネートに変換する酵素とを混合したものを用いてもよい。
【0019】
<混合(S01)>
混合工程では、少なくとも、リコピン含有材料とイソチオシアネート含有材料とが混合される。イソチオシアネート含有材料を混合させる目的は、リコピンの異性化の促進である。混合する手段は、公知の手段でよく、例示すると、ミキサー、ブレンダー、ミル、ホモジナイザーなどである。混合工程の時期は、異性化工程と同時又は異性化工程の前である。
【0020】
<異性化(S02)>
異性化工程では、少なくとも、リコピン含有材料とイソチオシアネート含有材料とを含む混合物(以下、「本混合物」とする。)が異性化される。異性化する目的は、本混合物に含まれるオール‐トランス‐リコピンをシス‐リコピンに異性化し、シス‐リコピン含有率を高めることである。異性化する手段は、公知の手法でよく、例示すると、加熱、マイクロ波照射、光照射、触媒による異性化等である。好ましくは、加熱、マイクロ波照射、光照射である。さらに本製法においては、異性化工程として、恒温保管を用いることもできる。各手段の詳細は、後述する。
【0021】
<加熱>
加熱する手段は、公知の手法でよく、例示すると、直火、蒸気、ウォーターバス、オイルバスなどである。また、加熱工程では、本混合物に熱が加わればよく、直接加熱であっても間接加熱であってもよい。また、加熱は有機溶媒や食用油脂等の溶媒に溶解させた状態で行ってもよい。加熱の温度は、特に限定されないが、好ましくは50℃以上140℃以下であり、より好ましくは60℃以上130℃以下であり、さらに好ましくは80℃以上120℃以下である。加熱温度が140℃より高い温度であると、リコピンの分解が促進され、得られるシス‐リコピンの量が少なくなってしまう。加熱の時間は、特に限定されないが、好ましくは2時間以下であり、より好ましくは1時間以下であり、さらに好ましくは30分間以下である。加熱時間が長時間であると、リコピンの分解が促進され、得られるシス‐リコピンの量が少なくなってしまう。加熱温度と加熱時間を適宜調整し、所望のシス‐リコピン組成物を得ればよい。
【0022】
<マイクロ波照射>
マイクロ波を照射する手段は、公知の方法でよく、例示すると、マイクロ波反応装置を用いる方法である。マイクロ波の周波数は、2.45GHzである。マイクロ波照射の時間は、本混合物の量によって変わるため、特に限定されない。マイクロ波照射の出力は、特に限定されないが、100Wから10000Wが好ましい。マイクロ波照射の出力が100W未満であると、シス‐リコピンへの異性化が効率的に行われない。10000Wより高い出力であると、リコピンの分解が促進され、得られるシス‐リコピンの量が少なくなってしまう。マイクロ波の照射時間と出力を適宜調整し、所望のシス‐リコピン組成物を得ればよい。
【0023】
<光照射>
光照射は光源を用いて行われる。当該光源は、300nmから800nmの範囲内のうち少なくとも一部の波長の光を放出するものであればよく、例示すると、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、及び蛍光灯等が挙げられる。光照射は、本混合物に対して直接行ってもよいし、光を透過する容器や包装体越しに行ってもよい。光照射の照射時間は、特に限定されない。光照射の照度は、特に限定されないが、100ルクスから1000000ルクスが好ましい。光照射の照度が高すぎると、リコピンの分解が引き起こされる可能性がある。光照射の照射時間と照度を適時調整し、所望のシス‐リコピン組成物を得ればよい。
【0024】
<恒温保管>
恒温保管は本混合物を有機溶媒に溶解させた状態で行われる。有機溶媒は、リコピンが溶解するものであれば特に限定されないが、好ましくは、酢酸エチルまたはヘキサンである。保管温度は、特に限定されないが、好ましくは0℃から50℃である。保管期間は、特に限定されないが、好ましくは24時間以上である。恒温保管の保管温度と保管期間を適宜調整し、所望のシス‐リコピン組成物を得ればよい。
【0025】
<本混合物のリコピン濃度>
本混合物のリコピン濃度は、リコピン含有材料のリコピン濃度が異なるため、特に限定されないが、好ましくは20mg/100g以上、より好ましくは50mg/100g以上、さらに好ましくは100mg/100g以上、最も好ましくは150mg/100g以上である。本混合物のリコピン濃度が高すぎると、異性化工程に必要な時間が長くなるため、必要に応じて、リコピン含有材料を希釈することができる。リコピン含有材料を希釈する溶媒は特に限定されないが、好ましくは有機溶媒や食用油脂であり、食用油脂を例示すると、オリーブ油、胡麻油、キャノーラ油、大豆油、ヒマワリ油、ベニバナ油、米油、アマニ油、シソ油、コーン油、グレープシード油などである。
【0026】
<本混合物のイソチオシアネート濃度>
本混合物のイソチオシアネート濃度は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは5%以上、最も好ましくは10%以上である。本混合物のイソチオシアネート濃度が0.1%よりも低いと、異性化促進効果が弱くなり、異性化工程が長時間となってしまう。
【0027】
<シス‐リコピン含有率>
シス‐リコピン含有組成物のシス‐リコピン含有率は、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、最も好ましくは60%以上である。シス‐リコピン含有率とは、組成物中の全リコピン量に対する全シス‐リコピン量の割合(%)である。リコピン量の測定方法は、逆相カラムや順相カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法である。定量は、クロマトグラム中における各リコピンのピークのピーク面積に基づいて算出される。より詳細には、シス‐リコピン含有率(%)は、下記式により算出できる。
【0028】
[シス‐リコピン含有率(%)]=([全シス‐リコピンのピークのピーク面積の合算値]/[全リコピンのピークのピーク面積の合算値])×100
ここで、全リコピンとは、オール‐トランス‐リコピンと全シス‐リコピンをあわせたものを指す。また、全シス‐リコピンは、全てのシス‐リコピンをあわせたものを指す。
【0029】
シス‐リコピンは、HPLC分析によって得られるピークの吸収スペクトルとピークのリテンションタイムによって特定される。
図2が示すのは、後述する区分11(80℃、30分間加熱)におけるシス‐リコピン含有組成物をHPLC分析して得られたクロマトグラムである。β‐カロテンのピーク以降に検出されるピークであって5‐シス‐リコピンまでのピークをシス‐リコピンと確認できる。リコピンの吸収波長は、リコピンを溶解する有機溶媒によって多少の変化が認められる。
【0030】
<5‐シス‐リコピン含有率>
シス‐リコピン含有組成物の5‐シス‐リコピン含有率は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上である。5‐シス‐リコピン含有率とは、組成物中の全リコピン量に対する5‐シス‐リコピン量の割合(%)である。5‐シス‐リコピンを含むリコピンの量は、逆相カラムや順相カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法により測定できる。定量は、クロマトグラム中における各リコピンのピークのピーク面積に基づいて算出される。より詳細には、5‐シス‐リコピンの含有率(%)は、下記式により算出できる。
【0031】
[5‐シス‐リコピン含有率(%)]=([5‐シス‐リコピンのピークのピーク面積]/[全リコピンのピークのピーク面積の合算値])×100
5‐シス‐リコピンは、他のシス‐リコピンと比較して、熱エネルギー学上、非常に安定性が高い構造である。また、5‐シス‐リコピンは、オール−トランス−リコピンや9‐シス‐リコピン、13‐シス‐リコピンと比較して抗酸化活性が高いこと、人体への吸収が高いことが知られている。5‐シス‐リコピン含有率が高いことは、製品に用いた際に長期間にわたって有効量を担保しながら、その吸収性の高さや抗酸化活性の高さを訴求することが可能となる。
【0032】
<リコピン濃度>
シス‐リコピン含有組成物のリコピン濃度は、リコピン含有材料のリコピン濃度が異なるため、特に限定されないが、好ましくは20mg/100g以上、より好ましくは50mg/100g以上、さらに好ましくは100mg/100g以上、最も好ましくは150mg/100g以上である。
【0033】
<シス−リコピン含有組成物の用途>
得られたシス−リコピン含有組成物の用途は、幅広く、例示すると、飲食品、化粧品、医薬品等である。飲食品は、特に限定されるものではないが、好ましくは、各種飲料、調味料、ジュレ、ゼリー、ジャム、シャーベット、サプリメント(栄養補助食品)等である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
異性化工程(S02)に加熱を採用し、リコピン含有材料にトマトパウダーを採用して、シス‐リコピン含有組成物を得た。
【0036】
<原材料>
トマトパウダーは、以下の方法で作成した。生トマトを搾汁し、得られた搾汁液を遠心分離した。遠心分離により沈殿したパルプ質を取り出し、水分量が5%程度になるまで乾燥させた。当該トマトパウダーのシス‐リコピン含有率は、約13.2%であり、5‐シス‐リコピン含有率は、約5.8%であり、リコピン濃度は、約249mg/100gであった。
【0037】
イソチオシアネート含有材料には、アリルイソチオシアネート(東京化成工業社製、I0185、純度:>95.0%)、ベンジルイソチオシアネート(東京化成工業社製、I0224、純度:>98.0%)、マスタードオイル(Volgograd Mustard Oli Plant Sarepta社製、マスタードエッセンシャルオイル、アリルイソチオシアネート:95%以上)を用いた。
【0038】
<混合>
トマトパウダー、オリーブ油(Jオイルミルズ社製、オリーブオイルエキストラバージン)、胡麻油(かどや製油社製、銀印胡麻油濃口)、アリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、マスタードオイルを表1に示す割合で混合した。表1における%は、重量%を表している。混合物1.2gを3mlの褐色瓶に入れ、内部のガスを窒素で置換した。
【0039】
【表1】
【0040】
<加熱>
加熱は、オイルバス(Julabo社製、SE−12)を用いて行った。加熱温度は、50℃、55℃、60℃、80℃、100℃、120℃、140℃で実施した。加熱時間は、0.5分間、1分間、5分間、10分間、30分間、60分間、120分間で実施した。
【0041】
<シス‐リコピン含有率>
各区分のシス‐リコピン含有率の測定方法は、以下に示した。組成物約0.05gを秤量し、アセトン(関東化学社製、HPLC用)にて50mlに定容し、10分間の超音波処理を行った。超音波処理後の溶液を、ろ紙(桐山製作所社製、5Bろ紙)を用いて吸引ろ過し、エバポレーター(東京理化機器社製、NVC‐2000)で乾固させた後、20mlのヘキサン(関東化学社製、HPLC用)に溶解させ、0.45μmのPTFEフィルター(ADVANTEC社製)に通し、HPLCに供するサンプルを得た。得られたサンプルは、以下の条件でHPLC分析に供した。
【0042】
装置:日立高速液体クロマトグラフChromaster(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)
カラム:Nucleosil 300‐5 〔固定相:シリカゲル、内径:4.6mm×250mm、ジーエルサイエンス株式会社製〕 カラム3本を連結して使用
カラム温度:30℃
サンプル注入量:10μL
移動相:ヘキサン(0.1% N,N‐ジイソプロピルエチルアミン含有)
流速:1.0mL/min
検出波長:460nm
シス‐リコピン含有率は、HPLC分析によって得られたクロマトグラフ中のピーク面積に基づいて前述の式から算出した。
【0043】
<5‐シス‐リコピン含有率>
各区分の5‐シス‐リコピン含有率の測定方法は、以下に示した。組成物からのリコピンの抽出及びHPLC分析は、シス‐リコピン含有率と同様の方法で行った。5‐シス‐リコピン含有率は、HPLC分析によって得られたクロマトグラフ中のピーク面積に基づいて前述の式から算出した。
【0044】
<リコピン濃度>
各区分のリコピン濃度の測定方法は、以下に示した。組成物約0.05gを秤量し、アセトンにて50mlに定容し、10分間の超音波処理を行った。超音波処理後の溶液を0.45μmのPTFEフィルターに通し、HPLCに供するサンプルを得た。得られたサンプルは、以下の条件でHPLC分析に供した。
【0045】
装置:島津高速液体クロマトグラフLC‐2030C Plus(株式会社島津製作所社製)
カラム:L‐column〔固定相:ODS、内径:4.6mm×150mm、一般財団法人化学物質評価研究機構製〕
カラム温度:40℃
サンプル注入量:10μL
移動相:アセトニトリル/メタノール/テトラヒドロフラン(55:40:5(v/v))混液(α‐トコフェロール50ppm含有)
流速:1.5mL/min
検出波長:453nm
リコピンの濃度は、別途市販のリコピン試薬から作成した検量線をもとにHPLC分析によって得られたクロマトグラフ中のピーク面積と抽出に供したサンプルの重量及び定容量から算出した。
【0046】
<評価結果>
評価結果は表2から表5のとおりである。表2によれば、イソチオシアネート含有材料を含まない混合物を加熱する場合に比べ、イソチオシアネート含有材料を含む混合物を加熱することで、短時間でリコピンの異性化が起こる。表3によれば、通常、異性化が殆ど起こらないような低温の加熱(60℃以下)であっても、イソチオシアネート含有材料を含む混合物を加熱することで、異性化が起こる。表4によれば、イソチオシアネート含有材料が低濃度(1%)であっても、短時間でリコピンの異性化が起こる。表5によれば、5分間以下の短時間加熱であっても、短時間でリコピンの異性化が起こる。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【実施例2】
【0051】
異性化工程(S02)に加熱を採用し、リコピン含有材料にトマトオレオレジンを採用し、シス‐リコピン含有組成物を得た。
【0052】
<原材料>
トマトオレオレジンは、ライコレッド社製のLyc‐O‐Mato15%を用いた。当該トマトオレオレジンのシス‐リコピン含有率は、約9.1%であり、5‐シス‐リコピン含有率は、約5.1%であり、リコピン濃度は、約15.3g/100gであった。
【0053】
イソチオシアネート含有材料は、実施例1と同じものを用いた。
【0054】
<混合>
トマトオレオレジンをオリーブ油で2倍に希釈し、リコピン溶液Aとしたリコピン溶液A、オリーブ油、胡麻油、アリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、マスタードオイルを表6に示す割合で混合した。また、トマトオレオレジン、オリーブ油、胡麻油、アリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、マスタードオイルを表7に示す割合で混合した。表6及び表7における%は、重量%を表している。混合物2.0gを3mlの褐色瓶に入れ、内部のガスを窒素で置換した。
【0055】
【表6】
【0056】
【表7】
【0057】
<加熱>
加熱は、オイルバスを用いて行った。加熱温度は、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃で実施した。加熱時間は、15分、30分で実施した。
【0058】
<シス‐リコピン含有率>
各区分のシス‐リコピン含有率の測定方法は、以下に示した。組成物約0.04gを秤量し、ヘキサンにて50mlに定容し、5分間の超音波処理を行った。超音波処理後の溶液を、0.5mL採取し、ヘキサンにて10mLに定容した後、0.45μmのPTFEフィルターに通し、HPLCに供するサンプルを得た。得られたサンプルは、実施例1と同じ条件でHPLC分析に供した。シス‐リコピン含有率は、実施例1と同じ方法で算出した。
【0059】
<5‐シス‐リコピン含有率>
各区分の5‐シス‐リコピン含有率の測定方法は、以下に示した。組成物からのリコピンの抽出及びHPLC分析は、シス‐リコピン含有率と同様の方法で行った。5‐シス‐リコピン含有率は、実施例1と同じ方法で算出した。
【0060】
<リコピン濃度>
各区分のリコピン濃度の測定方法は、以下に示した。組成物約0.04gを秤量し、ヘキサンにて50mlに定容し、5分間の超音波処理を行った。超音波処理後の溶液を、0.5mL採取し、ヘキサンにて10mLに定容した後、0.45μmのPTFEフィルターに通し、HPLCに供するサンプルを得た。得られたサンプルは、実施例1と同じ条件でHPLC分析に供した。リコピンの濃度は、実施例1と同じ方法で算出した。
【0061】
<評価結果>
評価結果は表8及び表9のとおりである。表8によれば、リコピン含有材料としてトマトオレオレジンを用いた場合においても、イソチオシアネート含有材料を含む混合物を加熱することで、短時間でリコピンの異性化が起こる。表9によれば、リコピン濃度が高い(14000mg/g以上)区分においても、短時間でリコピンの異性化が起こる。
【0062】
【表8】
【0063】
【表9】
【実施例3】
【0064】
異性化工程(S02)にマイクロ波照射を採用し、リコピン含有材料にトマトオレオレジンを採用し、シス‐リコピン含有組成物を得た。
【0065】
<原材料>
リコピン含有材料とイソチオシアネート含有材料は、実施例2と同じものを用いた。
【0066】
<混合>
実施例2と同じ区分を用いた。混合物1.0gを3mlの褐色瓶に入れ、開放した状態でマイクロ波照射を行った。
【0067】
<マイクロ波照射>
マイクロ波照射は、電子レンジ(Haier社製、JM−17C)を用いて行った。出力は、400Wで実施した。照射時間は、30秒間、45秒間で実施した。電子レンジの庫内温度は、26.0±0.5℃とした。
【0068】
<シス‐リコピン含有率>
各区分のシス‐リコピン含有率の測定方法は、実施例2に記載の方法で行った。
【0069】
<5‐シス‐リコピン含有率>
各区分の5‐シス‐リコピン含有率の測定方法は、実施例2に記載の方法で行った。
【0070】
<リコピン濃度>
各区分のリコピン濃度の測定方法は、実施例2に記載の方法で行った。
【0071】
<評価結果>
評価結果は表10のとおりである。表10によれば、異性化手段としてマイクロ波照射を用いた場合においても、イソチオシアネート含有材料を含む混合物にマイクロ波を照射することで、短時間でリコピンの異性化が起こる。
【0072】
【表10】
【実施例4】
【0073】
異性化工程(S02)に光照射を採用し、リコピン含有材料にトマトオレオレジンを採用し、シス‐リコピン含有組成物を得た。
【0074】
<原材料>
リコピン含有材料とイソチオシアネート含有材料は、実施例2と同じものを用いた。
【0075】
<混合>
トマトオレオレジン、オリーブ油、胡麻油、アリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、マスタードオイルを表11に示す割合で配合し、ヘキサンにて25mLに定容し、5分間の超音波処理を行って混合した。混合物を透明のフラスコに入れ、密閉した。
【0076】
【表11】
【0077】
<光照射>
光照射は、光源装置(朝日分光社製、MAX−303)を用いて行った。光源の照度は100000ルクス、波長は300nmから600nmとした。照射時間は、1時間、2時間で実施した。光照射時は、撹拌子にて撹拌を行った。光照射時の室温は、20℃とした。
【0078】
<シス‐リコピン含有率>
各区分のシス‐リコピン含有率の測定方法は、組成物約1.5gを秤量し、ヘキサンにて50mlに定容する以外は、実施例2に記載の方法で行った。
【0079】
<5‐シス‐リコピン含有率>
各区分の5‐シス‐リコピン含有率の測定方法は、組成物を約1.5g秤量し、ヘキサンにて50mlに定容する以外は、実施例2に記載の方法で行った。
【0080】
<リコピン濃度>
各区分のリコピン濃度の測定方法は、組成物を約1.5g秤量し、ヘキサンにて50mlに定容する以外は、実施例2に記載の方法で行った。
【0081】
<評価結果>
評価結果は表12のとおりである。表12によれば、異性化手段として光照射を用いた場合においても、イソチオシアネート含有材料を含む混合物に光を照射することで、短時間でリコピンの異性化が起こる。
【0082】
【表12】
【実施例5】
【0083】
異性化工程(S02)に有機溶媒中での加熱を採用し、リコピン含有材料にトマトオレオレジンを採用し、シス‐リコピン含有組成物を得た。
【0084】
<原材料>
リコピン含有材料とイソチオシアネート含有材料は、実施例2と同じものを用いた。
【0085】
<混合>
トマトオレオレジン、オリーブ油、胡麻油、アリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、マスタードオイルを表13に示す割合で配合し、酢酸エチル(関東化学社製、HPLC用)にて50mLに定容し、5分間の超音波処理を行って混合した。混合物を褐色のフラスコに入れ、密閉した。
【0086】
【表13】
【0087】
<加熱>
加熱は、ウォーターバス(アズワン製、TR‐1A)を用いて行った。加熱温度は、60℃で実施した。加熱時間は、30分間で実施した。
【0088】
<シス‐リコピン含有率>
各区分のシス‐リコピン含有率の測定方法は、以下に示した。組成物約0.3gを秤量し、ヘキサンにて50mLに定容し、5分間の超音波処理を行った。超音波処理後の溶液をエバポレーターで乾固させた後、20mlのヘキサンに溶解させ、0.45μmのPTFEフィルターに通し、HPLCに供するサンプルを得た。得られたサンプルは、実施例1と同じ条件でHPLC分析に供した。シス‐リコピン含有率は、実施例1と同じ方法で算出した。
【0089】
<5‐シス‐リコピン含有率>
各区分の5‐シス‐リコピン含有率の測定方法は、以下に示した。組成物からのリコピンの抽出及びHPLC分析は、シス‐リコピン含有率と同様の方法で行った。5‐シス‐リコピン含有率は、実施例1と同じ方法で算出した。
【0090】
<リコピン濃度>
各区分のリコピン濃度の測定方法は、以下に示した。組成物約0.3gを秤量し、ヘキサンにて50mlに定容し、5分間の超音波処理を行った。超音波処理後の溶液を0.45μmのPTFEフィルターに通し、HPLCに供するサンプルを得た。得られたサンプルは、実施例1と同じ条件でHPLC分析に供した。リコピンの濃度は、実施例1と同じ方法で算出した。
【0091】
<評価結果>
評価結果は表14のとおりである。表14によれば、異性化手段として有機溶媒中での加熱を用いた場合においても、イソチオシアネート含有材料を含む混合物を加熱することで、短時間でリコピンの異性化が起こる。
【0092】
【表14】
【実施例6】
【0093】
異性化工程(S02)に恒温保管を採用し、リコピン含有材料にトマトオレオレジンを採用し、シス‐リコピン含有組成物を得た。
【0094】
<原材料>
リコピン含有材料とイソチオシアネート含有材料は、実施例2と同じものを用いた。
【0095】
<混合>
トマトオレオレジン、オリーブ油、胡麻油、アリルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、マスタードオイルを表15に示す割合で配合し、酢酸エチルにて25mLに定容し、5分間の超音波処理を行って混合した。混合物を褐色のフラスコに入れ、密閉した。
【0096】
【表15】
【0097】
<恒温保管>
恒温保管は、20℃の恒温室で行った。保管時間は、48時間で実施した。
【0098】
<シス‐リコピン含有率>
各区分のシス‐リコピン含有率の測定方法は、組成物約1.5gを秤量し、ヘキサンにて50mLに定容すること以外は、実施例5と同じ方法で行った。
【0099】
<5‐シス‐リコピン含有率>
各区分の5‐シス‐リコピン含有率の測定方法は、シス‐リコピン含有率と同様の方法で行った。
【0100】
<リコピン濃度>
各区分のリコピン濃度の測定方法は、組成物約1.5gを秤量し、ヘキサンにて50mLに定容すること以外は、実施例5と同じ方法で行った。
【0101】
<評価結果>
評価結果は表16のとおりである。表16によれば、異性化手段として恒温保管を用いた場合においても、イソチオシアネート含有材料を含む混合物を恒温保管することで、短時間でリコピンの異性化が起こる。
【0102】
【表16】
【0103】
イソチオシアネート含有材料を含む混合物を異性化することで、短時間でリコピンの異性化が起こる理由は、推察ではあるが、イソチオシアネートが触媒としての機能を有していることである。イソチオシアネート基が有する求電子作用により、リコピンの異性化反応が促進される。ただし、作用はこれに限定されない。