【氏名又は名称】トロン − トランスラティオナレ・オンコロギー・アン・デア・ウニヴェルジテーツメディツィン・デア・ヨハネス・グーテンベルク−ウニヴェルジテート・マインツ・ゲマインニュッツィゲ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】TRON − Translationale Onkologie an der Universitaetsmedizin der Johannes Gutenberg−Universitaet Mainz gemeinnuetzige GmbH
【文献】
J.Immunol. vol.171, pp.2154-2160 (2003)
【文献】
nature immunology,2001年12月,Vol. 2, No. 10,pp. 962-970
【文献】
The Journal of Immunology,2005年,Vol. 174,pp. 4415-4423
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(i)配列番号:46のT細胞受容体α鎖配列を含むT細胞受容体α鎖をコードしている核酸、および配列番号:47のT細胞受容体β鎖配列を含むT細胞受容体β鎖をコードしている核酸、または
(ii)配列番号:46のT細胞受容体α鎖配列および配列番号:47のT細胞受容体β鎖配列を含むT細胞受容体をコードしている核酸
をリンパ球様細胞に導入することによって製造される抗原特異的リンパ球様細胞。
(i)配列番号:46のT細胞受容体α鎖配列の3つのCDR配列の全てを含むT細胞受容体α鎖をコードしている核酸、および配列番号:47のT細胞受容体β鎖配列の3つのCDR配列の全てを含むT細胞受容体β鎖をコードしている核酸、または
(ii)配列番号:46のT細胞受容体α鎖配列の3つのCDR配列の全て、および配列番号:47のT細胞受容体β鎖配列の3つのCDR配列の全てを含むT細胞受容体をコードしている核酸
をリンパ球様細胞に導入することによって製造される、NY−ESO−1のエピトープに特異的に結合する抗原特異的リンパ球様細胞。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
免疫系の進化は、脊椎動物に、2タイプの防御、すなわち先天免疫と養子(adoptive)免疫とに基づく、極めて効果的なネットワークをもたらした。
【0003】
病原体に関連する共通の分子パターンを認識する不変受容体に頼る進化論的に古い先天免疫系とは対照的に、養子(adoptive)免疫は、B細胞(Bリンパ球)およびT細胞(Tリンパ球)上の高度に特異的な抗原受容体とクローン選択とに基づいている。
【0004】
B細胞が抗体の分泌による体液性免疫を生じるのに対し、T細胞は認識された細胞の破壊につながる細胞性免疫応答を媒介する。
【0005】
T細胞はヒトおよび動物における細胞媒介性免疫に中心的役割を果たす。特定抗原の認識および結合は、T細胞の表面に発現したT細胞受容体(TCR)によって媒介される。
【0006】
T細胞のT細胞受容体(TCR)は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合して標的細胞の表面に提示される免疫原性ペプチド(エピトープ)と、相互作用することができる。TCRの特異的結合は、増殖と成熟エフェクターT細胞への分化とにつながるT細胞内のシグナルカスケードの引き金を引く。極めて多様な抗原を標的にすることができるように、T細胞受容体は大きな多様性を有する必要がある。
【0007】
この多様性は、TCRの異なる構造領域をコードしている遺伝子の異なる不連続セグメントの遺伝子再編成によって得られる。TCRは、1本のα鎖および1本のβ鎖または1本のγ鎖および1本のδ鎖から構成される。TCRα/β鎖は、抗原認識に関与するN末端の高度に多型な可変領域と、不変定常領域とから構成される。遺伝子レベルでは、これらの鎖は数個の領域、すなわち可変(variable)(V)領域、多様性(diversity)(D)領域(β鎖およびδ鎖のみ)、連結(joining)(J)領域および定常(constant)(C)領域に、分離されている。ヒトβ鎖遺伝子は、60個を超える可変(V)、2個の多様性(D)、10個を超える連結(J)セグメントと、2個の定常領域セグメント(C)を含んでいる。ヒトα鎖遺伝子は、1つのCセグメントの他に、50個を超えるVセグメントと、60個を超えるJセグメントを含んでいるが、Dセグメントは含んでいない。マウスβ鎖遺伝子は30個を超える可変(V)、2個の多様性(D)、10個を超える連結(J)セグメントと、2個の定常領域セグメント(C)を含んでいる。マウスα鎖遺伝子は、ほとんど100個のVセグメント、60個のJセグメントを含み、Dセグメントは含まないが、1個のCセグメントを含んでいる。T細胞の分化中に、1つのV、1つのD(β鎖およびδ鎖のみ)、1つのJ、および1つのC領域遺伝子を再編成することによって、特異的T細胞受容体遺伝子が生み出される。TCRの多様性は、組換え部位においてランダムなヌクレオチドの導入および/または欠失が起こる不正確なV-(D)-J再編成によって、さらに増幅される。TCR遺伝子座の再編成はT細胞の成熟中にゲノムにおいて起こるので、各成熟T細胞は1つの特異的α/β TCRまたはγ/δ TCRしか発現しない。
【0008】
MHCおよび抗原結合は、TCRの相補性決定領域1、2および3(CDR1、CDR2、CDR3)によって媒介される。抗原の認識および結合にとって最も決定的なβ鎖のCDR3は、再編成されたTCRβ鎖遺伝子のV-D-J接合部によってコードされている。
【0009】
TCRは、TCRα鎖およびβ鎖のヘテロ二量体型複合体、補助受容体CD4またはCD8ならびにCD3シグナル伝達モジュールを含む複雑なシグナリング機構の一部である(
図1)。CD3鎖が細胞内部に活性化シグナルを伝達するのに対し、TCRα/βヘテロ二量体はもっぱら抗原認識を担っている。したがって、TCRα/β鎖の移入により、T細胞を任意の目的抗原にリダイレクト(redirect)する機会が与えられることになる。
【0010】
免疫療法
抗原特異的免疫療法は、感染性疾患または悪性疾患を制御するために、患者における特異的免疫応答を強化または誘導することを目指している。病原体関連抗原および腫瘍関連抗原(TAA)が次々と同定されることで、免疫療法に適した標的が幅広く収集されることになった。これらの抗原に由来する免疫原性ペプチド(エピトープ)を提示する細胞は、能動免疫戦略または受動免疫戦略のどちらかによって、特異的に標的とすることができる。能動免疫は、疾患細胞を特異的に認識して殺すことができる患者中の抗原特異的T細胞を、誘導し、拡大する結果につながる。対照的に受動免疫は、インビトロで拡大され、場合によっては遺伝子改変された、T細胞の養子移入に依る(養子T細胞療法)。
【0011】
ワクチン接種
腫瘍ワクチンは能動免疫によって内在性腫瘍特異的免疫応答を誘導することを目指している。腫瘍ワクチン接種には、がん細胞全体、タンパク質、ペプチドまたは免疫化ベクター、例えばRNA、DNAもしくはウイルスベクターなどといった、異なる抗原フォーマットを使用することができ、それらはインビボで直接適用するか、患者への移入に続いて、DCのパルス処理により、インビトロで適用することができる。
【0012】
治療が誘導する免疫応答を同定することのできる臨床研究の数は、免疫戦略の改善と抗原特異的免疫応答を検出するための方法の改善とにより、着実に増えている(Connerotte, T. et al. (2008). Cacer Res.
68, 3931-3940;Schmitt, M. et al. (2008) Blood
111, 1357-1365;Speiser, D.E. et al. (2008) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A
105, 3849-3854;Adams, S. et al. (2008) J. Immunol.
181, 776-784)。しかしほとんどの場合、検出される免疫応答を臨床アウトカムと体系的に関連付けることはできない(Curigliano, G. et al. (2006) Ann. Oncol.
17, 750-762;Rosenberg, S.A. et al. (2004) Nat. Med.
10, 909-915)。
【0013】
それゆえに、腫瘍抗原由来のペプチドエピトープの厳密な定義は、免疫モニタリングの方法だけでなく、ワクチン接種戦略の特異性と効率の改善にも貢献するであろう。
【0014】
養子細胞移入(ACT)
ACTに基づく免疫療法は、非免疫レシピエントに移入されるか、低い前駆体頻度から臨床的に妥当な細胞数までエクスビボで拡大した後に自己宿主に移入される、前もって感作されたT細胞による受動免疫の一形態であると、広く定義することができる。ACT実験に使用されてきた細胞タイプは、リンフォカイン活性化キラー(LAK)細胞(Mule, J.J. et al. (1984) Science
225, 1487-1489;Rosenberg, S.A. et al. (1985) N. Engl. J. Med.
313, 1485-1492)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)(Rosenberg, S.A. et al. (1994) J. Natl. Cancer Inst.
86, 1159-1166)、造血幹細胞移植(HSCT)後のドナーリンパ球、ならびに腫瘍特異的T細胞株またはT細胞クローン(Dudley, M.E. et al. (2001) J. Immunother.
24, 363-373;Yee, C. et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A
99, 16168-16173)である。
【0015】
養子T細胞移入は、CMVなどのヒトウイルス感染症に対して治療活性を有することが示されている。CMV感染と内在性潜在ウイルスの再活性化が健常個体では免疫系によって制御されるのに対し、移植レシピエントやAIDS患者などといった免疫機能が低下した個体では、これが有意な罹病および死亡をもたらす。Riddellとその共同研究者らは、養子T細胞療法によるウイルス免疫の再構成を、HLA適合CMV血清陽性移植ドナー由来のCD8+ CMV特異的T細胞クローンを移入した後の免疫抑制患者において実証した(Riddell, S.R. (1992) Science
257, 238-241)。
【0016】
代替的アプローチとして、ポリクローナルドナー由来CMVまたはEBV特異的T細胞集団を移植レシピエントに移入したところ、移入されたT細胞の残留性が増加した(Rooney, C.M. et al. (1998) Blood
92, 1549-1555;Peggs, K.S. et al. (2003) Lancet
362, 1375-1377)。
【0017】
メラノーマの養子免疫療法に関して、Rosenbergとその共同研究者らは、切除した腫瘍から単離されたインビトロ拡大自己腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の注入と骨髄非破壊的リンパ球枯渇(lymphodepleting)化学療法および高用量IL2との併用に依る、ACTアプローチを確立した。最近公表された臨床研究は、処置を受けた転移メラノーマ罹患患者の約50%という奏功率をもたらした(Dudley, M.E. et al. (2005) J. Clin. Oncol.
23: 2346-2357)。
【0018】
しかし、ACT免疫療法の対象となるには、患者が、いくつかの前提を満たさなければならない。患者の腫瘍は切除可能でなければならない。腫瘍は、細胞培養条件下で、生存可能なTILを生成しなければならない。TILは腫瘍抗原に対して反応性でなければならず、インビトロで十分な数まで拡大しなければならない。とりわけメラノーマ以外のがんでは、そのような腫瘍反応性TILを得ることは困難である。さらにまた、正常ヒトTリンパ球のインビトロ刺激とクローン拡大を繰り返すと、テロメラーゼ活性が徐々に低下し、テロメアが短縮して、複製老化と、移入されたT細胞の残留の可能性の低下が起こる(Shen, X. et al. (2007) J. Immunother.
30: 123-129)。
【0019】
ACTの限界を克服する一つのアプローチは、短期間のエクスビボ培養中に、所定の特異性を有する腫瘍反応性TCRを発現するように再プログラムしてから、患者に再注入される、自己T細胞の養子移入である。この戦略により、腫瘍反応性T細胞が患者に存在しない場合であっても、ACTをさまざまな一般的悪性病変に適用することが可能になる。T細胞の抗原特異性はもっぱらTCRα鎖およびβ鎖のヘテロ二量体型複合体に基づいているので、T細胞へのクローン化TCR遺伝子の移入は、それらを任意の目的抗原にリダイレクトすることを潜在的に可能にする。それゆえに、TCR遺伝子治療は、処置選択肢として自己リンパ球による抗原特異的免疫療法を開発するための、魅力的な戦略になる。TCR遺伝子移入の主な利点は、数日以内に治療的な量の抗原特異的T細胞が生成する点と、患者の内在性TCRレパートリーには存在しない特異性を導入することが可能になる点である。
【0020】
TCR遺伝子移入が初代T細胞の抗原特異性をリダイレクトするための魅力的な戦略であることは、いくつかのグループが実証している(Morgan, R.A. et al. (2003) J. Immunol.
171, 3287-3295;Cooper, L.J. et al. (2000) J. Virol.
74, 8207-8212;Fujio, K. et al. (2000) J. Immunol.
165, 528-532;Kessels, H.W. et al. (2001) Nat. Immunol.
2, 957-961;Dembic, Z. et al. (1986) Nature
320, 232-238)。
【0021】
ヒトにおけるTCR遺伝子治療の実行可能性は、最近、Rosenbergと彼のグループにより、悪性メラノーマの処置に関する臨床治験において実証された。メラノーマ/メラノサイト抗原特異的TCRをレトロウイルスを使って形質導入した自己リンパ球の養子移入は、処置を受けたメラノーマ患者の最大30%に、がん退縮をもたらした(Morgan, R.A. et al. (2006) Science
314, 126-129;Johnson, L.A. et al. (2009) Blood
114, 535-546)。
【0022】
抗原特異的免疫療法のための標的構造
複数の腫瘍関連抗原(TAA)の発見が、抗原特異的免疫療法という概念の基礎になっている(Novellino, L. et al. (2005) Cancer Immunol. Immunother.
54, 187-207)。TAAは、腫瘍細胞上に、その遺伝子不安定性ゆえに発現する、正常細胞では発現しないか発現量が限られている珍しいタンパク質である。これらのTAAは、免疫系による悪性細胞の特異的認識につながりうる。
【0023】
自己腫瘍特異的T細胞(van der Bruggen, P. et al. (1991) Science
254, 1643-1647)または循環抗体(Sahin, U. et al. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A
92, 11810-11813)を使った腫瘍由来cDNA発現ライブラリーのスクリーニング、リバース・イムノロジー・アプローチ、生化学的方法(Hunt, D.F. et al. (1992) Science
256, 1817-1820)、遺伝子発現解析、またはインシリコ・クローニング戦略(Helftenbein, G. et al. (2008) Gene
414, 76-84)によるTAAの分子クローニングにより、免疫療法的戦略のための標的候補が、かなりの数、もたらされている。TAAは、分化抗原、過剰発現抗原、腫瘍特異的スプライス変異体、変異型(mutated)遺伝子産物、ウイルス抗原、およびいわゆるがん精巣抗原(CTA)を含む、いくつかのカテゴリーに分類される。がん精巣ファミリーは、その発現が精巣と多数の異なる腫瘍実体とに制限されているので、極めて有望なTAAのカテゴリーである(Scanlan, M.J. et al. (2002) Immunol. Rev.
188, 22-32)。現在までに、50個を超えるCT遺伝子が記述されており(Scanlan, M.J. et al. (2004) Cancer Immun.
4, 1)、そのうちのいくつかは臨床研究において検討されている(Adams, S. et al. (2008) J. Immunol.
181, 776-784;Atanackovic, D. et al. (2004) J. Immunol.
172, 3289-3296;Chen, Q. et al. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A
101, 9363-9368;Connerotte, T. et al. (2008). Cancer Res.
68, 3931-3940;Davis, I.D. et al. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A
101, 10697-10702;Jager, E. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A
97, 12198-12203;Marchand, M. et al. (1999) Int. J. Cancer
80, 219-230;Schuler-Thurner, B. et al. (2000) J. Immunol.
165, 3492-3496)。
【0024】
免疫療法的アプローチのための魅力的な標的構造の数はますます増えているにもかかわらず、所定のHLA拘束性を有する特異的T細胞クローンまたはT細胞株は、そのうちのわずかなものについてしか存在しない(Chaux, P. et al. (1999) J. Immunol.
163, 2928-2936;Zhang, Y. et al. (2002) Tissue Antigens
60, 365-371;Zhao, Y. et al. (2005) J. Immunol.
174, 4415-4423)。TPTEを含めて、CATの大部分については、特異的T細胞応答の証拠さえ見つかっていない。
【発明を実施するための形態】
【0091】
[発明の詳細な説明]
本発明を以下に詳述するが、この発明は、本明細書に記載する特定の方法論、プロトコールおよび試薬に限定されない(これらはさまざまであることができるからである)と理解すべきである。ここで使用される用語法が、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、本願請求項によってのみ限定される本発明の範囲を限定するつもりはないことも理解すべきである。別段の定義がある場合を除き、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者に一般に理解されている意味と同じ意味を有する。
【0092】
以下に本発明の要素を説明する。これらの要素を具体的実施形態と共に列挙するが、それらを任意の方法で、任意の数だけ組み合わせて、さらなる実施形態を生み出すことができると理解すべきである。さまざまに説明する実施例および好ましい実施形態を、本発明を明示的に記載した実施形態だけに限定するものであると解釈してはならない。本明細書は、明示的に記載する実施形態と開示された要素および/または好ましい要素のいくつかとを併せもつ実施形態を裏付け、包含するものであると、理解されるべきである。さらにまた、本願に記載されている要素のあらゆる順列および組合せは、文脈がそうでないことを示す場合を除き、本願の明細書によって開示されているとみなすべきである。
【0093】
好ましくは、本明細書において使用する用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)」H.G.W. Leuenberger, B. Nagel, およびH. Koelbl編 (1995) Helvetica Chimica Acta(CH-4010スイス・バーゼル)に記載されているとおりに定義される。
【0094】
本発明の実施には、別段の表示がある場合を除き、当該分野の文献に説明されている生化学、細胞生物学、免疫学、および組換えDNA技法の通常の方法が使用されるであろう(例えば「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第2版, J. Sambrookら編, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor 1989参照)。
【0095】
本明細書とそれに続く特許請求の範囲の全体を通して、文脈上別段の必要がある場合を除き、用語「を含む」(comprise)とその異形(例えば「comprises」および「comprising」)は、明示された部材、整数もしくはステップ、または部材、整数もしくはステップの群の包含を含意するが、他の任意の部材、整数もしくはステップまたは部材、整数もしくはステップの群の排除を含意するわけではなく(ただし、一部の実施形態では、そのような他の部材、整数もしくはステップまたは部材、整数もしくはステップの群が排除される場合もある)、すなわちその主旨は、明示された部材、整数もしくはステップまたは部材、整数もしくはステップの群の包含にあると理解されるであろう。本発明の説明との関連において(とりわけ請求項との関連において)使用される用語「ある」および「一つの」ならびに「その」(「a」および「an」ならびに「the」)とそれに類する指示は、ここに別段の表示がある場合または文脈上明らかに矛盾する場合を除き、単数と複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、その範囲に含まれる個々の値について個別に言及する簡略化された方法であることを意図しているに過ぎない。別段の表示が本明細書にある場合を除き、個々の値は、あたかもそれが本明細書に個別に列挙されているかのように、本明細書に組み込まれる。
【0096】
配列番号108〜139への言及は、配列番号108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138および139がそれぞれに個別に言及されるように理解すべきである。
【0097】
同様に、配列番号178〜187への言及は、配列番号178、179、180、181、182、183、184、185、186および187がそれぞれ個別に言及されるように理解すべきである。
【0098】
本明細書に記載する方法は全て、本明細書において別段の表示がある場合または文脈上明らかに矛盾する場合を除き、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書に掲載するありとあらゆる実施例または例示的表現(例えば「など」)の使用は、本発明をより良く例示しようとするものに過ぎず、特許請求の範囲に別段の記載をする本発明の範囲に限定を課すものではない。特許請求の範囲には記載のない何らかの要素であって、しかも本発明の実施に欠かすことができないものを示していると解釈すべき文言は、本明細書にはない。
【0099】
本明細書の本文ではいくつかの文書に言及する。ここに言及された文書(全ての特許、特許出願、科学文献、製造者の仕様書、説明書などを含む)はそれぞれ、上述のものであれ後述するものであれ、引用により本明細書にそのまま組み込まれる。本発明が、先行発明を理由としてそれらの開示に先行する資格がないことの自白であると解釈すべきものは、本明細書にはない。
【0100】
本発明との関連において「組換え」という用語は、「遺伝子工学によって作られた」ことを意味する。好ましくは、本発明との関連において、組換え細胞などの「組換え物」は、自然には存在しない。
【0101】
本明細書において使用する「天然の(naturally occurring)」という用語は、ある物体が自然界に見いだされうるという事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)中に存在して、自然界の供給源から単離することができ、実験室で人間によって意図的に改変されていないペプチドまたは核酸は、天然である。
【0102】
「免疫応答」という用語は、抗原に対する統合された身体応答を指し、好ましくは、細胞性免疫応答または細胞性免疫応答と体液性免疫応答とを指す。免疫応答は、防御的/防止的/予防的かつ/または治療的であることができる。
【0103】
「免疫応答を誘導する」とは、ある特定抗原に対する免疫応答が誘導前には存在しなかったことを意味しうるが、ある特定抗原に対する免疫応答が誘導前に一定レベルは存在し、誘導後は該免疫応答が強化されることも意味しうる。したがって「免疫応答を誘導する」には「免疫応答を強化する」も包含される。好ましくは、対象における免疫応答を誘導した後は、該対象が、感染性疾患、特に本明細書に開示するようなウイルス性疾患、または悪性疾患などといった疾患の発症から防御されるか、あるいは免疫応答を誘導することによって、疾患状態が改善される。例えば、ウイルス性疾患を有する患者、またはウイルス性疾患を発症する危険がある対象において、hCMV-pp65などのウイルス抗原に対する免疫応答を誘導することができる。例えば、悪性疾患を有する患者、または悪性疾患を発症する危険がある対象において、NY-ESO-1、TPTEまたはPLAC1などの腫瘍関連抗原に対する免疫応答を誘導することができる。この場合、免疫応答を誘導するとは、対象の疾患状態が改善されること、対象が転移を発症しないこと、または悪性疾患を発症する危険がある対象が悪性疾患を発症しないことを意味しうる。
【0104】
「細胞性免疫応答」、「細胞性応答」、「抗原に対する細胞性応答」または類似の用語は、クラスIまたはクラスII MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞に向けられた細胞性応答を包含するものとする。細胞性応答は、「ヘルパー」または「キラー」として作用するT細胞またはTリンパ球と呼ばれる細胞に関係する。ヘルパーT細胞(CD4
+ T細胞とも呼ばれる)は免疫応答を調節することによって中心的役割を果たし、キラー細胞(細胞傷害性T細胞、細胞溶解性T細胞、CDD8
+ T細胞またはCTLとも呼ばれる)は、感染細胞または悪性細胞などの疾患細胞を殺して、さらなる疾患細胞の生成を防止する。
【0105】
「抗原」という用語は、エピトープ(そのエピトープに対する免疫応答を生じさせようとしているもの)を含む作用物質に関する。好ましくは、本発明との関連において抗原とは、場合によってはプロセシング後に、免疫反応(好ましくはその抗原に特異的なもの)を誘導する分子である。「抗原」という用語には、特にタンパク質、ペプチド、多糖、核酸、とりわけRNAおよびDNA、ならびにヌクレオチドが包含される。
【0106】
抗原は、好ましくは、天然の抗原に対応するか天然の抗原に由来する産物である。そのような天然の抗原は、アレルゲン、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫ならびに他の感染性因子および病原体を含むか、それらに由来することができ、抗原は腫瘍関連抗原であることもできる。本発明によれば、抗原は、天然産物、例えばウイルスタンパク質、またはその一部に対応してもよい。
【0107】
「抗原を含む作用物質」という用語は、抗原を含む実体、例えばウイルス抗原を含むウイルスなどに関する。一例はhCMV-pp65を含むhCMVである。
【0108】
好ましい一実施形態において、抗原は、腫瘍関連抗原、すなわち悪性細胞の構成成分(細胞質、細胞表面および細胞核に由来しうるもの)、特に、細胞内で好ましくは大量に生産されるか、悪性細胞上の表面抗原として生産される抗原である。
【0109】
特に、抗原またはそのペプチドは、T細胞受容体によって認識されうるべきである。好ましくは、抗原またはペプチドは、それがT細胞受容体によって認識されると、適当な共刺激シグナルの存在下で、その抗原またはペプチドを特異的に認識するT細胞受容体を保有するT細胞のクローン拡大を誘導することができる。本発明の実施形態に関連して、抗原は、好ましくは細胞によって、好ましくは抗原提示細胞および/または疾患細胞によって、MHC分子との関連において提示され、それが、その抗原に対する免疫反応をもたらす。
【0110】
本発明との関連において、「腫瘍関連抗原」または「腫瘍抗原」という用語は、正常な状態では、限られた数の組織および/または器官において、または特異的発生段階において、特異的に発現するタンパク質に関し、例えば腫瘍関連抗原は、正常な状態では、胃組織、好ましくは胃粘膜において、生殖器官、例えば精巣において、栄養芽層組織、例えば胎盤において、または生殖系列細胞において特異的に発現する場合があり、1つ以上の腫瘍組織またはがん組織において、発現または異常発現する。この文脈において「限られた数」とは、好ましくは、3以下、より好ましくは2以下を意味する。本発明との関連において、腫瘍関連抗原には、例えば、分化抗原、好ましくは細胞タイプ特異的分化抗原、すなわち正常な状態では一定の分化段階にある一定の細胞タイプにおいて特異的に発現するタンパク質、がん/精巣抗原、すなわち正常な状態では精巣および時には胎盤において特異的に発現するタンパク質、ならびに生殖系列特異的抗原が含まれる。本発明との関連において、腫瘍関連抗原は、好ましくは、悪性細胞の細胞表面に付随しており、好ましくは、正常組織では発現しないか、まれにしか発現しない。好ましくは、腫瘍関連抗原または腫瘍関連抗原の異常発現によって、悪性細胞が同定される。本発明との関連において、対象(例えば悪性疾患を患っている患者)において悪性細胞が発現する腫瘍関連抗原は、好ましくは、該対象における自己タンパク質である。好ましい実施形態では、本発明との関連において、腫瘍関連抗原が、正常な状態では、必須でない組織または臓器、すなわち免疫系による損傷を受けても、対象の死につながらない組織もしくは器官において、または免疫系が到達できないかほとんど到達できない器官もしくは身体の構造において、特異的に発現する。好ましくは、腫瘍関連抗原のアミノ酸配列は、正常組織において発現する腫瘍関連抗原と悪性組織において発現する腫瘍関連抗原との間で同一である。好ましくは、腫瘍関連抗原は、それを発現する悪性細胞によって提示される。
【0111】
好ましい実施形態では、抗原がhCMV-pp65などのウイルス抗原であり、本発明は、そのようなウイルス抗原を発現する感染細胞(好ましくはクラスI MHCによってそのようなウイルス抗原を提示するもの)に対するCTL応答の刺激を伴う。
【0112】
サイトメガロウイルスはヘルペスウイルス群(herpesviruses group)のヘルペスウイルス属(herpes viral genus)である。ヒトでは、一般に、hCMVまたはヒトヘルペスウイルス5(HHV-5)として知られている。全てのヘルペスウイルスは共通して、長期間にわたって体内で潜在性でありつづけるという特徴的な能力を有している。
【0113】
hCMV感染症は唾液腺と関連することが多いが、体中至るところに見いだされうる。hCMV感染症は、免疫機能が低下している患者(例えばHIVを有する患者、臓器移植レシピエント、または新生児)にとっては、生命を脅かす場合もある。いくつかの哺乳動物種には他のCMVウイルスが見いだされるが、動物から分離される種はゲノム構造がhCVMとは異なっており、ヒト疾患を引き起こすという報告はなされていない。
【0114】
hCMVは、全ての地理的位置および社会経済的集団に見いだされ、母集団の大半に抗体が存在することによって示されるとおり、米国では成人の50%〜80%(世界全体では40%)に感染している。hCMVは、発生中の胎児に最もよく伝染するウイルスでもある。hCMV感染症は、開発途上国および社会経済的地位が低い地域社会では、より広く行き渡っており、工業国における出生時欠損の最も重要なウイルス的原因に相当する。
【0115】
2つのCMVタンパク質、ホスホプロテイン65(pp65;CMV-pp65)と前初期タンパク質-1(IE-1)が、細胞性免疫応答の主たる標的である。
【0116】
「hCMV-pp65」という用語は、好ましくは、配列番号1に示すアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。
【0117】
本発明のさまざまな態様に従って、hCMV-pp65、特に配列番号1、hCMV-pp65のエピトープ配列、特に配列番号108〜110、またはhCMV-pp65に特異的なT細胞受容体配列、特に配列番号4〜29が関与する場合は常に、目標は、好ましくは、hCMV、またはhCMVに感染した標的細胞(好ましくはhCMV-pp65の提示を特徴とするもの)に対する免疫応答を誘導または決定すること、およびhCMV感染を診断、処置または防止することである。好ましくは、免疫応答は、hCMV-pp65を発現する感染細胞(好ましくはクラスI MHCによってhCMV-pp65を提示するもの)に対する抗hCMV-pp65 CTL応答の刺激を伴う。
【0118】
好ましい実施形態では、抗原がNY-ESO-1、TPTEまたはPLAC1などの腫瘍関連抗原であり、本発明は、そのような腫瘍関連抗原を発現する悪性細胞(好ましくはクラスI MHCによってそのような腫瘍関連抗原を提示するもの)に対する抗腫瘍CTL応答の刺激を伴う。
【0119】
NY-ESO-1は、正常成体組織では正常成人の精巣生殖細胞にのみ発現し、さまざまながんにおいても発現するがん/精巣抗原である。これは、NY-ESO-1発現がんを有する患者における特異的体液性および細胞性免疫を誘導する。
【0120】
「NY-ESO-1」という用語は、好ましくは、ヒトNY-ESO-1、特に配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。
【0121】
本発明のさまざまな態様に従って、NY-ESO-1、特に配列番号2、NY-ESO-1のエピトープ配列、特に配列番号111〜117および175、またはNY-ESO-1に特異的なT細胞受容体配列、特に配列番号30〜47、140〜151、176および177が関与する場合は常に、目標は、好ましくは、NY-ESO-1を発現する悪性細胞(好ましくはNY-ESO-1の提示を特徴とするもの)に対する免疫応答を誘導または決定すること、およびNY-ESO-1を発現する細胞が関与する悪性疾患を診断、処置または防止することである。好ましくは、免疫応答は、NY-ESO-1を発現する悪性細胞(好ましくはクラスI MHCによってNY-ESO-1を提示するもの)に対する抗NY-ESO-1 CTL応答の刺激を伴う。
【0122】
用語「TPTE」は「テンシン相同性を有する貫膜ホスファターゼ(transmembrane phosphatase with tensin homology)」に関する。用語「TPTE」は、好ましくは、ヒトTPTEに関し、特に配列表の配列番号3に示すアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。
【0123】
健常組織におけるTPTE発現は精巣に限定されており、他の全ての正常組織標本では、転写産物量が検出限界未満である。対照的に、TPTE発現は、悪性メラノーマ、乳がん(breast cancer)、肺がん、前立腺がん、乳房がん(mammary cancer)、卵巣がん、腎細胞癌および子宮頸がんを含むさまざまながんタイプに見いだされる。.
【0124】
TPTE転写は、がん関連DNA低メチル化による悪性形質転換の過程において開始される。さらにまた、TPTEは、がんの進行およびがん細胞の転移による伝播を促進する。特に、TPTEは、効率のよい走化性にとって不可欠である。走化性は、がんの侵入および転移を含むがん進行の複数の側面に関与する過程であり、がん細胞のホーミングおよび転移先に影響を及ぼす。原発腫瘍におけるTPTE発現は有意に高い転移性疾患率と関連する。
【0125】
本発明のさまざまな態様に従って、TPTE、特に配列番号3、TPTEのエピトープ配列、特に配列番号118〜139および178〜187、またはTPTEに特異的なT細胞受容体配列、特に配列番号48〜107および188〜193が関与する場合は常に、目標は、好ましくは、TPTEを発現する悪性腫瘍(好ましくはTPTEの提示を特徴とするもの)に対する免疫応答を誘導または決定すること、およびTPTEを発現する細胞が関与する悪性疾患を診断、処置または防止することである。好ましくは、免疫応答は、TPTEを発現する悪性細胞(好ましくはクラスI MHCによってTPTEを提示するもの)に対する抗TPTE CTL応答を刺激を伴う。
【0126】
「PLAC1」という用語は「胎盤特異的タンパク質1(placenta-specific protein 1)」に関する。用語「PLAC1」は、好ましくは、ヒトPLAC1に関し、特に、配列表の配列番号174に示すアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。
【0127】
PLAC1は、さまざまな腫瘍タイプにおいてしばしば異常に活性化され高度に発現する胎盤特異的遺伝子である。PLAC1発現は、例えば乳がん、肺がん、卵巣がん、胃がん、前立腺がん、膵がん、腎細胞がん、肝がん、肉腫、甲状腺がん、および頭頸部がんに見いだされている。PLAC1は乳がん患者の82%において発現している。肺がんおよび胃がんについては、PLAC1がそれぞれ、42%および58%の症例で発現している。
【0128】
MCF-7およびBT-549乳がん細胞におけるPLAC1のRNAi媒介性サイレンシングは、運動性、移動、および侵入を著しく害し、G1/S細胞周期ブロックを誘導して、増殖をほぼ完全に抑止する。PLAC1のノックダウンは、サイクリンD1の発現量の減少、およびAKTキナーゼのリン酸化の低下と関連する。PLAC1は、細胞増殖に関与するだけでなく、細胞の運動性、移動および侵入にも関与する。
【0129】
本発明のさまざまな態様に従って、PLAC1、特に配列番号174、PLAC1のエピトープ配列、特に配列番号172、173および196、またはPLAC1に特異的なT細胞受容体配列、特に配列番号152〜171、194および195が関与する場合は常に、目標は、好ましくは、PLAC1を発現する悪性細胞(好ましくはPLAC1の提示を特徴とするもの)に対する免疫応答を誘導または決定すること、およびPLAC1を発現する細胞が関与する悪性疾患を診断、処置または防止することである。好ましくは、免疫応答は、PLAC1を発現する悪性細胞(好ましくはクラスI MHCによってPLAC1を提示するもの)に対する抗PLAC1 CTL応答の刺激を伴う。
【0130】
上述の抗原配列には、該配列の任意の変異体、特にミュータント(mutant)、スプライス変異体、コンフォメーション(conformation)、アイソフォーム、アレル変異体、種変異体および種ホモログ、特に自然に存在するものが含まれる。アレル変異体は、遺伝子の正常配列の変化に関し、その意義は不明であることが多い。完全な遺伝子配列決定を行うと、所与の遺伝子について、しばしば、数多くのアレル変異体が同定される。種ホモログは、所与の核酸またはアミノ酸配列の起源とは異なる種を起源とする核酸またはアミノ酸配列である。「CMV-pp65」、「NY-ESO-1」、「TPTE」および「PLAC1」という用語は、(i)スプライス変異体、(ii)翻訳後修飾変異体、特にグリコシル化(例えばN-グリコシル化)状態が異なっている変異体を含む、(iii)コンフォメーション変異体、および(iv)疾患関連変異体および非疾患関連変異体を包含するものとする。好ましくは、「CMV-pp65」、「NY-ESO-1」、「TPTE」または「PLAC1」は、その未変性コンフォメーションで存在する。
【0131】
「標的細胞」は、細胞性免疫応答などの免疫応答の標的である細胞を意味するものとする。標的細胞には、抗原、または抗原エピトープ、すなわち抗原に由来するペプチドフラグメントを提示する細胞が含まれ、上述のように、ウイルス感染細胞または悪性細胞などといった任意の望ましくない細胞が含まれる。好ましい実施形態では、標的細胞が、本明細書に記載するような抗原を発現する細胞(好ましくはクラスI MHCによって該抗原を提示するもの)である。
【0132】
「前もって抗原に曝露された対象」という用語は、前もって抗原と接触したヒトなどの対象(好ましくは抗原および/または抗原を含む作用物質に関して血清陽性であるもの)を意味する。そのような血清陽性は、対象において、抗原もしくは抗原を含む作用物質または抗原以外の該作用物質の構成要素(例えば別の抗原)に対する免疫応答を決定することによって、決定することができる。免疫応答の該決定は、好ましくは、IgG応答などの抗体応答を決定することを含む。
【0133】
「エピトープ」という用語は、抗原などの分子中の抗原性決定基、すなわち、特にMHC分子との関連において提示された場合に、免疫系によって認識される(例えばT細胞によって認識される)分子中のパーツまたはフラグメントを指す。腫瘍関連抗原またはウイルス抗原などのタンパク質のエピトープは、好ましくは、該タンパク質の連続部分または不連続部分を含み、好ましくは5〜100、好ましくは5〜50、より好ましくは8〜30、最も好ましくは10〜25アミノ酸長であって、例えばエピトープは、好ましくは、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25アミノ酸長でありうる。本発明との関連において、エピトープは、T細胞エピトープであることが、特に好ましい。
【0134】
「エピトープ」、「抗原のフラグメント」、「抗原ペプチド」および「ペプチド」という用語は、本明細書においては可換的に使用され、好ましくは、抗原の不完全な表現であって、好ましくはその抗原またはその抗原を発現する細胞もしくはその抗原を含む細胞(好ましくはその抗原を提示するもの)に対する免疫応答を引き出す能力を有するものに関する。好ましくは、これらの用語は、抗原の免疫原性部分に関する。好ましくは、これは抗原のうち、特にMHC分子との関連において提示された場合に、T細胞受容体によって認識される(すなわち特異的に結合される)部分である。一定の好ましい免疫原性部分は、MHCクラスIまたはクラスII分子に結合する。本明細書において免疫原部分は、そのような結合が当技術分野において知られている任意のアッセイを使って検出可能であるならば、MHCクラスIまたはクラスII分子「に結合する」という。
【0135】
好ましくは、配列番号108〜139、172、173、175、178〜187、および196からなる群より選択されるアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含む、本明細書に開示する抗原ペプチドは、それが由来する抗原またはその抗原の発現を特徴とする細胞(好ましくは抗原の提示を特徴とするもの)に対する免疫応答、好ましくは細胞性応答を刺激する能力を有する。好ましくは、抗原ペプチドは、クラスI MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞に対する細胞性応答を刺激する能力を有し、好ましくは、抗原応答性CTLを刺激する能力を有する。好ましくは、本発明の抗原ペプチドは、MHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドであるか、プロセシングを受けてMHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドを生成することができる。好ましくは、MHC分子に結合する配列は、配列番号108〜139、172、173、175、178〜187、および196から選択される。
【0136】
抗原ペプチドを直接的に、すなわちプロセシングを伴わずに、特に切断を伴わずに提示させる場合、それは、MHC分子、特にクラスI MHC分子への結合に適した長さを有し、好ましくは7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。好ましくは、直接提示させる抗原ペプチドの配列は、配列番号108〜139、172、173、175、178〜187、および196から選択される配列に実質的に対応し、好ましくはその配列と完全に同一である。
【0137】
抗原ペプチドをプロセシング後に、特に切断後に提示させる場合、プロセシングによって生成するペプチドは、MHC分子、特にクラスI MHC分子への結合に適した長さを有し、好ましくは7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。好ましくは、プロセシング後に提示させるペプチドの配列は、配列番号108〜139、172、173、175、178〜187、および196から選択される配列に実質的に対応し、好ましくはその配列と完全に同一である。したがって、本発明の抗原ペプチドは、ある実施形態において、配列番号108〜139、172、173、175、178〜187、および196から選択される配列を含み、抗原ペプチドのプロセシング後に、配列番号108〜139、172、173、175、178〜187、および196から選択される配列を構成する。
【0138】
MHC分子によって提示されるペプチドの配列に実質的に対応するアミノ酸配列を有するペプチドは、MHCによって提示されるペプチドのTCR認識にとってまたはMHCへのペプチド結合にとって必須ではない1つ以上の残基が異なっていてもよい。そのような実質的に対応するペプチドは、好ましくは、抗原特異的CTLなどの抗原特異的細胞性応答を刺激する能力も有する。提示されるペプチドとのアミノ酸配列の相違点が、TCR認識には影響を及ぼさないがMHCへの結合の安定性を改善する残基にあるペプチドは、抗原ペプチドの免疫原性を改善する場合があり、本明細書ではこれらを「最適化されたペプチド」と呼ぶ場合がある。これらの残基のうちどれがMHCまたはTCRへの結合に影響を及ぼす可能性が高いかに関する既存の知識を用いることで、実質的に対応するペプチドを設計するために、合理的なアプローチを使用することができる。結果として得られた機能的なペプチドは、抗原ペプチドであると考えられる。上で議論した配列は、本明細書において使用する「変異体」という用語に包含される。
【0139】
抗原ペプチドは、MHC分子(例えば細胞表面上のMHC分子)に結合することができ、それゆえに「MHC結合ペプチド」であることができる。「MHC結合ペプチド」という用語は、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子に結合するペプチドに関する。クラスI MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には、8〜10アミノ酸長であるが、これより長いまたは短いペプチドも有効でありうる。クラスII MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には、10〜25アミノ酸長であり、特に13〜18アミノ酸長であるが、これより長いペプチドおよび短いペプチドも有効でありうる。
【0140】
「部分」(portion)という用語は断片(fraction)を指す。アミノ酸配列またはタンパク質などの特定の構造に関して、その「部分」という用語は、該構造の連続的または不連続的断片を示しうる。好ましくは、アミノ酸配列の部分は、該アミノ酸配列のアミノ酸の少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%を含む。好ましくは、部分が不連続断片である場合、前記不連続断片は、ある構造の2、3、4、5、6、7、8個またはそれ以上のパーツから構成され、各パーツはその構造の連続的要素である。例えば、アミノ酸配列の不連続断片は、前記アミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8個またはそれ以上の、好ましくは4個以下のパーツから構成されることができ、ここで、各パーツは、好ましくは、前記アミノ酸配列の少なくとも5連続アミノ酸、少なくとも10連続アミノ酸、好ましくは少なくとも20連続アミノ酸、好ましくは少なくとも30連続アミノ酸を含む。
【0141】
「パーツ」(part)および「フラグメント」(fragment)という用語は、本明細書では可換的に使用され、連続的要素を指す。例えば、アミノ酸配列またはタンパク質などの構造のパーツとは、該構造の連続的要素を指す。ある構造の部分、パーツまたはフラグメントは、好ましくは、該構造の1つ以上の機能的性質を含む。例えば、エピトープ、ペプチドまたはタンパク質の部分、パーツまたはフラグメントは、好ましくは、それが由来するエピトープ、ペプチドまたはタンパク質と免疫学的に等価である。本発明との関連において、アミノ酸配列などの構造の「パーツ」は、好ましくは、その構造またはアミノ酸配列全体の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%、少なくとも99%を含み、好ましくはそれらからなる。上に議論した部分、パーツまたはフラグメントは、本明細書において使用する「変異体」という用語に包含される。
【0142】
「抗原プロセシング」とは、細胞(好ましくは抗原提示細胞)によって特異的T細胞に提示するための、抗原の、該抗原のフラグメントであるプロセシング産物への分解(例えばタンパク質の、ペプチドへの分解)およびこれらのフラグメントの1つ以上の(例えば結合による)MHC分子との会合を指す。
【0143】
抗原提示細胞(APC)は、抗原を主要組織適合遺伝子複合体(MHC)との関連においてその表面にディスプレイする細胞である。T細胞は、そのT細胞受容体(TCR)を使って、この複合体を認識しうる。抗原提示細胞は、抗原をプロセシングし、それらをT細胞に提示する。
【0144】
プロフェッショナル抗原提示細胞は、極めて効率よく、貪食によってまたは受容体介在性エンドサイトーシスによって抗原を内部に取り込み、次に、クラスII MHC分子に結合した抗原のフラグメントを、その膜上にディスプレイする。T細胞は、抗原提示細胞の膜上の抗原-クラスII MHC分子複合体を認識し、それと相互作用する。次に、追加の共刺激シグナルが抗原提示細胞によって生産され、それがT細胞の活性化をもたらす。共刺激分子の発現は、プロフェッショナル抗原提示細胞の決定的特徴である。
【0145】
プロフェッショナル抗原提示細胞の主なタイプは、抗原提示の範囲が最も広くおそらく最も重要な抗原提示細胞である樹状細胞、マクロファージ、B細胞、および一定の活性化上皮細胞である。
【0146】
非プロフェッショナル抗原提示細胞は、ナイーブT細胞との相互作用に必要なMHCクラスIIタンパク質を構成的には発現せず、これらは、IFNγなどの一定のサイトカインによって非プロフェッショナル抗原提示細胞が刺激された時にのみ発現する。
【0147】
樹状細胞(DC)は、末梢組織において補足された抗原をMHCクラスII抗原提示経路とおよびMHCクラスI抗原提示経路の両方によってT細胞に提示する白血球集団である。樹状細胞が免疫応答の強力な誘導因子であり、これらの細胞の活性化が、抗腫瘍免疫の誘導にとって決定的に重要なステップであることは、よく知られている。
【0148】
樹状細胞とその前駆細胞は、末梢血、骨髄、腫瘍浸潤細胞、腫瘍周囲組織浸潤細胞、リンパ節、脾臓、皮膚、臍帯血または他の任意の適切な組織もしくは体液から得ることができる。例えば樹状細胞は、末梢血から収穫された単球の培養物にGM-CSF、IL-4、IL-13および/またはTNFaなどのサイトカインの組合せを添加することによって、エクスビボで分化させることができる。あるいは、末梢血、臍帯血または骨髄から収穫されたCD34陽性細胞を、GM-CSF、IL-3、TNFα、CD40リガンド、LPS、flt3リガンドおよび/または樹状細胞の分化、成熟および増殖を誘導する他の化合物の組合せを培養培地に添加することによって、樹状細胞に分化させてもよい。
【0149】
樹状細胞は、便宜上、「未熟」細胞と「成熟」細胞とに分類され、これを、2つの詳しく特徴づけられた表現型を見分ける簡単な方法として使用することができる。しかし、この命名法を、分化の考えうる中間段階を全て排除するものであると解釈してはならない。
【0150】
未熟樹状細胞は、高い抗原取り込みおよびプロセシング能(これはFcγ受容体およびマンノース受容体の高発現と相関する)を有する抗原提示細胞と特徴づけられる。成熟表現型は、典型的には、これらのマーカーの低発現と、クラスIおよびクラスII MHC、接着分子(例えばCD54およびCD11)および共刺激分子(例えばCD40、CD80、CD86および4-1 BB)などといったT細胞活性化を担う細胞表面分子の高発現とを特徴とする。
【0151】
樹状細胞成熟は、その抗原提示樹状細胞がT細胞プライミングにつながるような樹状細胞活性化の状態とみなされ、一方、未熟樹状細胞による提示は寛容をもたらす。樹状細胞成熟は、主として、先天性受容体によって検出される微生物特徴を有する生体分子(細菌DNA、ウイルスRNA、エンドトキシンなど)、炎症誘発性サイトカイン(TNF、IL-1、IFN)、CD40Lによる樹状細胞表面のCD40のライゲーション、およびストレス性細胞死を起こしている細胞が放出する物質によって引き起こされる。樹状細胞は、骨髄細胞をインビトロで顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)や腫瘍壊死因子アルファなどのサイトカインと共に培養することによって派生させることができる。
【0152】
抗原提示細胞または標的細胞などの細胞には、細胞にペプチドを曝露、すなわちパルスすることによって、または提示されるべきペプチドもしくは提示されるべきペプチドを含むタンパク質をコードする核酸、好ましくはRNA、例えば抗原をコードする核酸を、細胞に形質導入することによって、MHCクラスI提示ペプチドを負荷することができる。
【0153】
いくつかの実施形態において、本発明の医薬組成物は、抗原ペプチドを負荷された抗原提示細胞を含む。この点において、プロトコールは、抗原ペプチドを人工的に提示するような形で操作された樹状細胞のインビトロ培養/分化に依るものであることができる。遺伝子改変された樹状細胞の生産は、抗原または抗原ペプチドをコードする核酸の、樹状細胞への導入を伴いうる。mRNAによる樹状細胞のトランスフェクションは、強い抗腫瘍免疫を刺激する有望な抗原負荷技法である。そのようなトランスフェクションはエクスビボで行うことができ、その場合は、そのようなトランスフェクト細胞を含む医薬組成物を治療目的に使用することができる。あるいは、樹状細胞または他の抗原提示細胞を標的とする遺伝子送達媒体を患者に投与して、インビボでトランスフェクションを起こらせてもよい。樹状細胞のインビボおよびエクスビボでのトランスフェクションは、例えば、一般に、当技術分野において知られている任意の方法、例えばWO 97/24447に記載されているもの、またはMahvi et al., Immunology and cell Biology 75: 456-460, 1997に記載されている遺伝子銃アプローチなどを使って行うことができる。樹状細胞の抗原負荷は、樹状細胞または前駆細胞を、抗原、DNA(裸のDNAまたはプラスミドベクター内のDNA)またはRNAと共に、または抗原を発現する組換え細菌もしくはウイルス(例えばワクシニア、鶏痘、アデノウイルスまたはレンチウイルスベクター)と共にインキュベートすることによって達成することができる。
【0154】
「免疫原性」という用語は、免疫反応を誘導する抗原の相対的効率に関する。
【0155】
本発明との関連において「免疫反応性細胞」という用語は、免疫反応中にエフェクター機能を発揮する細胞に関する。「免疫反応性細胞」は、好ましくは、抗原または抗原もしくは抗原に由来する抗原ペプチドの提示を特徴とする細胞に結合し、免疫応答を媒介する能力を有する。例えば、そのような細胞は、サイトカインおよび/またはケモカインを分泌し、微生物を殺し、抗体を分泌し、感染細胞またはがん性細胞を認識し、場合によってはそのような細胞を排除する。例えば免疫反応性細胞には、T細胞(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、腫瘍浸潤T細胞)、B細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球、マクロファージ、および樹状細胞が含まれる。好ましくは、本発明との関連において、「免疫反応性細胞」は、T細胞、好ましくはCD4
+および/またはCD8
+ T細胞である。
【0156】
好ましくは「免疫反応性細胞」は、抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを、特にそれが抗原提示細胞または悪性細胞もしくはウイルス感染細胞などの疾患細胞の表面などにMHC分子との関連において提示されている場合には、ある程度の特異性を持って認識する。好ましくは、該認識は、抗原または該抗原に由来する抗原ペプチドを認識する細胞が、応答性または反応性であることを可能にする。細胞が、MHCクラスII分子との関連において抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを認識する受容体を保持するヘルパーT細胞(CD4
+ T細胞)である場合、上記の応答性または反応性は、サイトカインの放出および/またはCD8
+リンパ球(CTL)および/またはB細胞の活性化を伴いうる。細胞がCTLである場合、上記の応答性または反応性は、MHCクラスI分子との関連において提示された細胞、すなわちクラスI MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞の、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介性細胞溶解などによる排除を伴いうる。本発明によれば、CTL応答性には、持続的カルシウム流束、細胞分裂、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの生産、CD44およびCD69などの活性化マーカーのアップレギュレーション、ならびに抗原発現標的細胞の特異的な細胞溶解的死滅が含まれうる。CTL応答性は、CTL応答性を正確に示す人工的レポーターを使って決定することもできる。抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを認識し、応答性または反応性であるそのようなCTLを、本明細書においては、「抗原応答性CTL」ともいう。細胞がB細胞である場合、上記の応答性は、免疫グロブリンの放出を伴いうる。
【0157】
本発明によれば、「免疫反応性細胞」という用語は、適切な刺激によって免疫細胞(例えばT細胞、特にTヘルパー細胞、または細胞溶解性T細胞)へと成熟することができる細胞も包含する。免疫反応性細胞には、CD34
+造血幹細胞、未熟および成熟T細胞ならびに未熟および成熟B細胞が含まれる。抗原を認識する細胞溶解性細胞またはTヘルパー細胞の生産を望む場合は、免疫反応性細胞を、抗原または抗原ペプチドを提示している細胞と、細胞溶解性T細胞およびTヘルパー細胞の生産、分化および/または選択に有利な条件下で接触させる。抗原に曝露された時のT細胞前駆体の、細胞溶解性T細胞への分化は、免疫系のクローン選択に似ている。
【0158】
「リンパ球様細胞」は、場合によっては適切な修飾後に、例えばT細胞受容体の移入後に、細胞性免疫応答などの免疫応答を生み出す能力を有する細胞、またはそのような細胞の前駆細胞であり、これには、リンパ球、好ましくはTリンパ球、リンパ芽球、および形質細胞が含まれる。リンパ球様細胞は、本明細書に記載するような免疫反応性細胞であることができる。好ましいリンパ球様細胞は、T細胞受容体の内在性発現を欠き、細胞表面にそのようなT細胞受容体を発現するように修飾することができる、T細胞である。
【0159】
「T細胞」および「Tリンパ球」という用語は、本明細書では可換的に使用され、これには、Tヘルパー細胞(CD4+ T細胞)と、細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTL、CD8+ T細胞)が包含される。
【0160】
T細胞は、リンパ球として知られている白血球のグループに属し、細胞媒介性免疫において中心的な役割を果たしている。これらは、その細胞表面にT細胞受容体(TCR)と呼ばれる特別な受容体が存在することで、B細胞やナチュラルキラー細胞などの他のリンパ球タイプとは識別することができる。胸腺がT細胞のT細胞成熟を担う主要器官である。T細胞にはいくつかの異なるサブセットが発見されており、それぞれが独特な機能を有している。
【0161】
Tヘルパー細胞は、B細胞の形質細胞への成熟や細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化をはじめとする免疫学的過程において、他の白血球を支援する。これらの細胞は、その表面にCD4タンパク質を発現するので、CD4+ T細胞とも呼ばれている。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面に発現したMHCクラスII分子によってペプチド抗原を提示されると、活性型になる。ひとたび活性化されると、それらは迅速に分裂し、能動免疫応答を調節または支援するサイトカインと呼ばれる小さなタンパク質を分泌する。
【0162】
細胞傷害性T細胞は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、移植片拒絶とも関連付けられている。これらの細胞は、その表面にCD8糖タンパク質を発現するので、CD8+ T細胞とも呼ばれている。これらの細胞は、身体のほぼ全ての細胞の表面に存在するMHCクラスIと会合した抗原に結合することによって、その標的を認識する。
【0163】
大半のT細胞は、数個のタンパク質の複合体として存在するT細胞受容体(TCR)を有する。実際のT細胞受容体は、2つの別々のペプチド鎖から構成され、これらのペプチド鎖は、独立したT細胞受容体アルファおよびベータ(TCRαおよびTCRβ)遺伝子から生産され、α-TCR鎖およびβ-TCR鎖と呼ばれる。γδT細胞(ガンマデルタT細胞)は、独特なT細胞受容体(TCR)をその表面に保有するT細胞の小さなサブセットを表す。ただし、γδT細胞では、TCRが1本のγ鎖と1本のδ鎖で構成されている。このグループのT細胞は、αβT細胞よりも、はるかに少ない(全T細胞の2%)。
【0164】
T細胞受容体の構造は、組み合わされた抗体アームの軽鎖および重鎖と定義される領域である免疫グロブリンFabフラグメントによく似ている。TCRの各鎖は、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、1つのN末端免疫グロブリン(Ig)可変(V)ドメイン、1つのIg定常(C)ドメイン、貫膜/細胞膜貫通領域、およびC末端の短い細胞質テールを保有している。
【0165】
本発明によれば、「T細胞受容体の可変領域」という用語は、TCR鎖の可変ドメインに関する。
【0166】
TCRα鎖とβ鎖の可変ドメインがどちらも3つの超可変領域または相補性決定領域(CDR)を有するのに対し、β鎖の可変領域は、通常は抗原と接触せずそれゆえにCDRとはみなされない、さらにもう一つの超可変性領域(HV4)を有している。CDR3は、プロセシングされた抗原の認識を担う主なCDRであるが、α鎖のCDR1も、抗原性ペプチドのN末端部分と相互作用することが示されており、他方、β鎖のCDR1はペプチドのC末端部分と相互作用する。CDR2はMHCを認識すると考えられている。β鎖のCDR4は、抗原認識に参加するとは考えられていないが、スーパー抗原と相互作用することが示されている。
【0167】
本発明によれば、「CDR配列の少なくとも1つ」という用語は、好ましくは、少なくともCDR3配列を意味する。「T細胞受容体鎖のCDR配列」という用語は、好ましくは、T細胞受容体のα鎖またはβ鎖のCDR1、CDR2およびCDR3に関する。
【0168】
TCRドメインの定常ドメインは、システイン残基がジスルフィド結合を形成している短い連結(connecting)配列からなり、2本の鎖の間のリンクを形成している。
【0169】
全てのT細胞は、骨髄中の造血幹細胞から派生する。造血幹細胞に由来する造血前駆細胞は、胸腺に集合し、細胞分裂によって拡大して、未熟胸腺細胞の大きな集団を生成する。最初期の胸腺細胞は、CD4もCD8も発現せず、それゆえに二重陰性(CD4-CD8-)細胞と分類される。これらは、その発生が進むにつれて二重陽性胸腺細胞(CD4+CD8+)になり、最終的には単一陽性(CD4+CD8-またはCD4-CD8+)胸腺細胞に成熟して、次に、胸腺から末梢組織へと放出される。
【0170】
T細胞の活性化における最初のシグナルは、別の細胞上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によって提示された短いペプチドへのT細胞受容体の結合によって与えられる。これが、そのペプチドに特異的なTCRを有するT細胞だけが活性化されることを、保証する。パートナー細胞は、通常はプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)であり、ナイーブ応答の場合は、通常は樹状細胞であるが、B細胞およびマクロファージも重要なAPCである。MHCクラスI分子によってCD8+ T細胞に提示されるペプチドは8〜10アミノ酸長であり;MHCクラスII分子の結合溝の末端は開いているので、MHCクラスII分子によってCD4+ T細胞に提示されるペプチドはそれより長い。
【0171】
T細胞は、一般に、標準的な手法を使って、インビトロまたはエクスビボで調製することができる。例えばT細胞は、市販の細胞分離システムを使うことで、患者などの哺乳動物の骨髄、末梢血または骨髄もしくは末梢血の画分内に存在しうる(またはそこから単離されうる)。あるいは、T細胞は、血縁関係にあるヒトまたは血縁関係のないヒト、非ヒト動物、細胞株または培養物に由来してもよい。「T細胞を含む試料」は、例えば末梢血単核球(PBMC)であることができる。
【0172】
T細胞は、抗原、ペプチド、核酸および/または抗原を発現する抗原提示細胞(APC)によって刺激されうる。そのような刺激は、抗原、ペプチドおよび/または抗原もしくはペプチドを提示する細胞に特異的なT細胞を生成させるのに十分な条件下で十分な時間、行われる。
【0173】
CD4+またはCD8+ T細胞の特異的活性化は、さまざまな方法で検出することができる。特異的T細胞活性化を検出するための方法には、T細胞の増殖、サイトカイン(例えばリンフォカイン)の生産、または細胞溶解活性の生成を検出することが含まれる。CD4+ T細胞の場合、特異的T細胞活性化を検出するための好ましい方法は、T細胞の増殖の検出である。CD8+ T細胞の場合、特異的T細胞活性化を検出するための好ましい方法は、細胞溶解活性の生成の検出である。
【0174】
CD8+ T細胞株を生成させるために、抗原を生産する核酸をトランスフェクトした抗原提示細胞、好ましくは自己抗原提示細胞を、刺激細胞として使用することができる。
【0175】
T細胞受容体(TCR)鎖をコードするRNAなどの核酸を、T細胞または溶解能を有する他の細胞などのリンパ球様細胞に導入することができる。適切な一実施形態では、TCRα鎖およびβ鎖を抗原特異的T細胞株からクローニングし、それらを養子T細胞療法に使用する。本発明は、本明細書に開示する抗原または抗原ペプチドに特異的なT細胞受容体を提供する。一般に、本発明のこの態様は、MHCとの関連において提示された抗原ペプチドを認識するかその抗原ペプチドに結合するT細胞受容体に関する。T細胞受容体(例えば本発明に従って提供されるT細胞受容体)のα鎖およびβ鎖をコードする核酸は、発現ベクターなどの別個の核酸分子上に含まれていてもよいし、あるいは単一の核酸分子であってもよい。したがって、「T細胞受容体をコードする核酸」という用語は、同じ核酸分子上の、または好ましくは異なる核酸分子上の、T細胞受容体鎖をコードする核酸分子に関する。
【0176】
「ペプチドと反応する免疫反応性細胞」という用語は、それがペプチドを認識した場合に、特にそのペプチドが、抗原提示細胞または悪性細胞もしくはウイルス感染細胞などの疾患細胞の表面上などに、MHC分子との関連において提示されているのであれば、上述のような免疫反応性細胞のエフェクター機能を発揮する免疫反応性細胞に関する。
【0177】
「ペプチドと反応するT細胞受容体」という用語は、免疫反応性細胞上に存在する場合に、ペプチドを(特にそのペプチドが、抗原提示細胞または悪性細胞もしくはウイルス感染細胞などの疾患細胞の表面上などに、MHC分子との関連において提示されているのであれば)、免疫反応性細胞が上述のような免疫反応性細胞のエフェクター機能を発揮するような形で認識する、T細胞受容体に関する。
【0178】
「抗原反応性T細胞」という用語は、抗原がMHC分子との関連において例えば抗原提示細胞または悪性細胞もしくはウイルス感染細胞などの疾患細胞の表面上に提示された場合に、その抗原を認識し、上述のようなT細胞のエフェクター機能を発揮する、T細胞に関する。
【0179】
「抗原特異的リンパ球様細胞」という用語は、抗原特異的T細胞受容体を与えられた場合に、抗原がMHC分子との関連において例えば抗原提示細胞または悪性細胞もしくはウイルス感染細胞などの疾患細胞の表面上に提示されるのであれば、その抗原を認識し、好ましくは上述のようなT細胞のエフェクター機能を発揮する、リンパ球様細胞に関する。T細胞および他のリンパ球様細胞は、その細胞が、抗原を発現するか抗原ペプチドを提示する標的細胞を殺すのであれば、抗原に対して特異的であるとみなされる。T細胞特異性は、さまざまな標準的技法のいずれかを使って、例えばクロム放出アッセイまたは増殖アッセイにおいて、評価することができる。あるいは、リンフォカイン(インターフェロン-γなど)の合成を測定することもできる。
【0180】
「主要組織適合遺伝子複合体」およびその略号「MHC」には、MHCクラスI分子とMHCクラスII分子が包含され、これは、全ての脊椎動物に見いだされる遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質またはMHC分子は、免疫反応におけるリンパ球と抗原提示細胞または疾患細胞との間のシグナリングにとって重要であり、ここでは、MHCタンパク質またはMHC分子がペプチドに結合し、T細胞受容体による認識のために、それらを提示する。MHCによってコードされているタンパク質は、細胞の表面に発現し、自己抗原(細胞自身に由来するペプチドフラグメント)と非自己抗原(例えば侵入した微生物のフラグメント)をどちらも、T細胞にディスプレイする。
【0181】
MHC領域は、3つのサブクラス、クラスI、クラスII、およびクラスIIIに分割される。MHCクラスIタンパク質は、α鎖とβ2-ミクログロブリン(MHCの一部ではなく15番染色体によってコードされている)を含んでいる。これらは抗原フラグメントを細胞傷害性T細胞に提示する。大半の免疫系細胞において、特に抗原提示細胞において、MHCクラスIIタンパク質はα鎖とβ鎖とを含んでおり、これらは、抗原フラグメントをTヘルパー細胞に提示する。MHCクラスIII領域は、補体成分やサイトカインをコードするものなど、他の免疫構成要素をコードしている。
【0182】
ヒトでは、細胞表面上の抗原提示タンパク質をコードするMHC領域中の遺伝子が、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と呼ばれている。しかしMHCという略号がHLA遺伝子産物を指すために使用されることが多い。HLA遺伝子には、9つのいわゆる古典的MHC遺伝子:HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DRA、およびHLA-DRB1が含まれる。
【0183】
本発明の全ての態様の好ましい一実施形態では、MHC分子がHLA分子である。
【0184】
「抗原の提示を特徴とする細胞」、「抗原を提示する細胞」、「細胞によって提示された抗原」、「提示された抗原」または類似の表現は、それが発現する抗原または該抗原に由来するフラグメントを、例えば抗原のプロセシングによるなどして、MHC分子との関連において、特にMHCクラスI分子との関連において、提示しているウイルス感染細胞もしくは悪性細胞などの疾患細胞または抗原提示細胞などの細胞を意味する。同様に「抗原の提示を特徴とする疾患」という用語は、抗原の提示(特にクラスI MHCによるもの)を特徴とする細胞が関与する疾患を表す。細胞による抗原の提示は、抗原をコードするRNAなどの核酸を、その細胞にトランスフェクトすることによって達成することができる。
【0185】
「提示される抗原のフラグメント」または類似の表現は、そのフラグメントが、例えば抗原提示細胞に直接添加された場合に、MHCクラスIまたはクラスII、好ましくはMHCクラスIによって提示されうることを意味する。ある実施形態において、フラグメントは、抗原を発現する細胞によって自然に提示されるフラグメントである。
【0186】
いくつかの治療法は、クラスI MHCによって抗原を提示する疾患細胞の溶解をもたらす患者の免疫系の反応に基づいている。これに関連して、例えば抗原ペプチドとMHC分子との複合体に特異的な自己細胞傷害性Tリンパ球を、疾患を有する患者に投与することができる。インビトロでのそのような細胞傷害性Tリンパ球の生産は知られている。T細胞を分化させる方法の一例は、WO-A-9633265に見いだすことができる。一般的には、血球などの細胞を含んでいる試料を患者から採取し、それらの細胞を、前記複合体を提示すると共に、細胞傷害性Tリンパ球の増殖を引き起こすことができる細胞(例えば樹状細胞)と接触させる。標的細胞はCOS細胞などのトランスフェクト細胞であることができる。これらのトランスフェクト細胞はその表面に所望の複合体を提示し、細胞傷害性Tリンパ球と接触させた場合は、後者の増殖を刺激する。次に、クローン拡大された自己細胞傷害性Tリンパ球を患者に投与する。
【0187】
細胞傷害性Tリンパ球を選択するためのもう一つの方法では、細胞傷害性Tリンパ球の特異的クローンを得るために、MHCクラスI分子/ペプチド複合体の発蛍光性テトラマーを使用する(Altmanら (1996), Science
274:94-96;Dunbar et al. (1998), Curr. Biol.
8:413-416, 1998)。
【0188】
さらにまた、所望の複合体を提示する細胞(例えば樹状細胞)を、高いアフィニティを有する特異的細胞傷害性Tリンパ球の増殖をもたらしうる健常個体または他の種(例えばマウス)の細胞傷害性Tリンパ球と組み合わせることもできる。これら増殖された特異的Tリンパ球の高アフィニティT細胞受容体をクローニングして、場合によってはさまざまな程度にヒト化し、そうして得られたT細胞受容体を、次に、遺伝子移入によって、例えばレトロウイルスベクターを使って、患者のT細胞に形質導入する。次に、これらの遺伝子改変Tリンパ球を使って、養子移入を行うことができる(Stanislawski et al. (2001), Nat Immunol.
2:962-70;Kessels et al. (2001), Nat Immunol.
2:957-61)。
【0189】
細胞傷害性Tリンパ球は、自体公知の方法により、インビボで生成させることもできる。一つの方法では、MHCクラスI/ペプチド複合体を発現する非増殖性細胞を使用する。ここで使用される細胞は、通常に複合体を発現するもの、例えば照射された腫瘍細胞であるか、または複合体の提示に必要な遺伝子(すなわち抗原性ペプチドおよび提示MHC分子)の一方もしくは両方がトランスフェクトされた細胞であるだろう。もう一つの好ましい形態は、例えばリポソーム移入またはエレクトロポレーションなどによって細胞中に導入することができる組換えRNAの形態にある抗原の導入である。その結果生じる細胞は、目的の複合体を提示し、自己細胞傷害性Tリンパ球によって認識され、次いでその自己細胞傷害性Tリンパ球が増殖する。
【0190】
同様の効果は、抗原または抗原ペプチドを、インビボでの抗原提示細胞への組込みを可能にするために、アジュバントと組み合わせることによって達成することができる。抗原または抗原ペプチドは、タンパク質、DNA(例えばベクター内にあるもの)、またはRNAとして表すことができる。抗原はプロセシングされることでMHC分子のペプチドパートナーを生産しうるが、そのフラグメントは、さらなるプロセシングを受ける必要なく、提示されうる。後者は、これらがMHC分子に結合することができる場合には、特にそうである。完全な抗原が樹状細胞によってインビボでプロセシングされるような投与形態は好ましい。というのも、これは、効果的な免疫応答に必要なTヘルパー細胞応答も生じうるからである(Ossendorp et al., Immunol Lett. (2000),
74:75-9;Ossendorp et al. (1998), J. Exp. Med.
187:693-702)。一般的には、有効量の腫瘍関連抗原を、例えば皮内注射によって患者に投与することができる。しかし、注射をリンパ節に節内的に行うこともできる(Maloy et al. (2001), Proc Natl Acad Sci USA
98:3299-303)。
【0191】
本発明によれば、参照試料または参照生物などの「参照」は、ある試験試料または試験生物から、本発明の方法において得られた結果を、相関させ、比較するために使用することができる。典型的には、参照生物は健常生物、特に悪性疾患またはウイルス性疾患などの疾患を患っていない生物である。「参照値」または「参照レベル」は、十分に多数の参照を測定することにより、参照から実験的に決定することができる。好ましくは、参照値は、少なくとも2、好ましくは少なくとも3、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも8、好ましくは少なくとも12、好ましくは少なくとも20、好ましくは少なくとも30、好ましくは少なくとも50、または好ましくは少なくとも100個の参照を測定することによって決定される。
【0192】
「免疫グロブリン」という用語は、免疫グロブリンスーパーファミリーのタンパク質、好ましくは抗体またはB細胞受容体(BCR)などの抗原受容体に関する。免疫グロブリンは、特徴的な免疫グロブリン(Ig)フォールドを有する構造ドメイン、すなわち免疫グロブリンドメインを特徴とする。この用語は、可溶性免疫グロブリンだけでなく、膜結合型免疫グロブリンも包含する。膜結合型免疫グロブリンは表面免疫グロブリンまたは膜免疫グロブリンとも呼ばれ、一般的にはBCRの一部である。可溶性免疫グロブリンは、一般に抗体と呼ばれ、免疫グロブリンは一般に数本の鎖、典型的には、ジスルイド結合によって連結された2本の同一な重鎖と2本の同一な軽鎖とを含む。これらの鎖は、主として、免疫グロブリンドメインV
L(可変軽鎖)ドメイン、 C
L(定常軽鎖)ドメイン、およびC
H(定常重鎖)ドメインC
H1、C
H2、C
H3、およびC
H4から構成される。哺乳動物免疫グロブリン重鎖には5つのタイプ、すなわちα、δ、ε、γ、およびμがあり、これらは、異なる抗体クラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMの原因になっている。可溶性免疫グロブリンの重鎖とは対照的に、膜または表面免疫グロブリンの重鎖は、貫膜ドメインと、そのカルボキシ末端にある短い細胞質ドメインとを含む。哺乳動物では、2タイプの軽鎖、すなわちラムダおよびカッパがある。免疫グロブリン鎖は可変領域と定常領域を含む。定常領域は、免疫グロブリンの異なるアイソタイプ(ここでは、可変部分が高度に多様であり、抗原認識の原因となる)内で、本質的に保存されている。
【0193】
「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互に結びつけられた少なくとも2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質を指し、その抗原結合部分を含む任意の分子を包含する。「抗体」という用語には、モノクローナル抗体およびそのフラグメントまたは誘導体が含まれ、限定するわけではないが、ヒトモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、一本鎖抗体、例えばscFv、およびFabフラグメントやFab'フラグメントなどの抗原結合性抗体フラグメントなどを含むと共に、あらゆる組換え形態の抗体、例えば原核生物において発現される抗体、非グリコシル化抗体、ならびに任意の抗原結合性抗体フラグメントおよび誘導体も含まれる。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではV
Hと略す)と重鎖定常領域とから構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではV
Lと略す)と軽鎖定常領域とから構成される。V
H領域およびV
L領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性領域と、それらの間に挿入された、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域とに、さらに細分することができる。各V
HおよびV
Lは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序で配置された、3つのCDRと4つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含んでいる。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(C1q)を含む、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介しうる。
【0194】
本発明によれば、T細胞受容体または抗体は、それが予め定められた標的に対して有意なアフィニティを有し、標準的アッセイにおいて前記予め定められた標的に結合するのであれば、前記予め定められた標的に結合する能力を有する。「アフィニティ」または「結合アフィニティ」は、多くの場合、平衡解離定数(K
D)によって測定される。T細胞受容体または抗体は、標的に対して有意なアフィニティを有さず、標準的アッセイにおいて該標的に有意に結合しないのであれば、該標的に結合する能力を(実質的に)有さない。
【0195】
T細胞受容体または抗体は、好ましくは、予め定められた標的に特異的に結合する能力を有する。T細胞受容体または抗体は、それが予め定められた標的に結合する能力を有すると同時に、他の標的に結合する能力を(実質的に)有さない場合、すなわち、他の標的に対する有意なアフィニティを有さず、標準的アッセイにおいて他の標的に有意に結合しない場合、予め定められた標的に特異的である。
【0196】
「免疫学的に等価」という用語は、免疫学的に等価な分子、例えば免疫学的に等価なアミノ酸配列が、例えば体液性免疫応答および/または細胞性免疫応答の誘導、誘導される免疫反応の強さおよび/または持続時間、あるいは誘導される免疫反応の特異性などといった免疫学的効果のタイプに関して、同じまたは本質的に同じ免疫学的性質を示し、かつ/または同じもしくは本質的に同じ免疫学的効果を発揮することを意味する。本発明との関連において、「免疫学的に等価な」という用語は、好ましくは、免疫処置に使用されるペプチドもしくはペプチド変異体の免疫学的効果または性質に関して使用される。例えばアミノ酸配列は、対象の免疫系に曝露された時に、該アミノ酸配列が、参照アミノ酸配列と反応する特異性を有する免疫反応を誘導するのであれば、参照アミノ酸配列と免疫学的に等価である。
【0197】
本発明との関連において、「免疫エフェクター機能」という用語には、免疫系の構成成分によって媒介される任意の機能であって、例えばウイルス感染細胞または腫瘍細胞の死滅をもたらすもの、または腫瘍の播種および転移の阻害を含む腫瘍成長の阻害および/または腫瘍発生の阻害をもたらすものが含まれる。好ましくは、本発明との関連において、免疫エフェクター機能は、T細胞が媒介するエフェクター機能である。そのような機能は、ヘルパーT細胞(CD4
+ T細胞)の場合であれば、MHCクラスII分子との関連における抗原または抗原に由来する抗原ペプチドのT細胞受容体による認識、サイトカインの放出および/またはCD8
+リンパ球(CTL)および/またはB細胞の活性化を含み、CTLの場合であれば、MHCクラスI分子との関連における抗原または抗原に由来する抗原ペプチドのT細胞受容体による認識、MHCクラスI分子との関連において提示された細胞の、すなわちクラスI MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞の、例えばアポトーシスもしくはパーフォリン媒介性細胞溶解による排除、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの生産、および抗原を提示する標的細胞の特異的な細胞溶解的死滅を含む。
【0198】
「もう一つのT細胞受容体の特異性を有するT細胞受容体」という用語は、2つのT細胞受容体が、特に免疫反応性細胞上に存在する場合に、同じエピトープを(特にそれが、例えば抗原提示細胞またはウイルス感染細胞もしくは悪性細胞などの疾患細胞上でMHC分子との関連において提示された場合に)認識し、好ましくは免疫反応性細胞に、上に開示したようなエフェクター機能を与えることを意味する。好ましくは、T細胞受容体の結合特異性および/または結合アフィニティは、類似しているか同一である。好ましい一実施形態では、「もう一つのT細胞受容体の特異性を有するT細胞受容体」が、他方のT細胞受容体の少なくともCDR領域、好ましくは少なくとも可変領域を含むT細胞受容体に関する。ある実施形態では、それら2つのT細胞受容体が、本質的に同一または同一である。
【0199】
核酸は、本発明によれば、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、より好ましくはRNA、最も好ましくはインビトロ転写されたRNA(IVT RNA)である。核酸には、本発明によれば、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え的に調製された分子および化学合成された分子が含まれる。核酸は、本発明によれば、一本鎖または二本鎖であって、線状の、または共有結合的に閉じて環を形成している分子の形態をとりうる。核酸は、細胞への導入に、すなわち細胞のトランスフェクションに、例えばDNAテンプレートからインビトロ転写によって調製することができるRNAの形態で、使用することができる。RNAはさらに、応用前に、安定化配列、キャッピング、およびポリアデニル化によって修飾することもできる。
【0200】
本明細書に記載する核酸はベクターに含まれていてもよい。本明細書において使用する「ベクター」という用語には、プラスミドベクター、コスミドベクター、ラムダファージなどのファージベクター、アデノウイルスベクターもしくはバキュロウイルスベクターなどのウイルスベクター、または細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、もしくはP1人工染色体(PAC)などの人工染色体を含めて、当業者に知られている任意のベクターが含まれる。該ベクターには、クローニングベクターだけでなく、発現ベクターも含まれる。発現ベクターは、プラスミドならびにウイルスベクターを含み、一般に、所望のコード配列と、作動的に連結されたコード配列の特定宿主生物(例えば細菌、酵母、植物、昆虫、または哺乳動物)またはインビトロ発現系における発現に必要な、適当なDNA配列とを含んでいる。クローニングベクターは、一般に、一定の所望のDNAフラグメントを工学的に操作し増幅するために使用され、所望のDNAフラグメントの発現に必要な機能的配列を欠いていてもよい。
【0201】
T細胞受容体を発現させるためのベクターとしては、T細胞受容体鎖が異なるベクター中に存在するベクタータイプか、T細胞受容体鎖が同じベクター中に存在するベクタータイプのどちらかを使用することができる。
【0202】
MHC分子が抗原または抗原ペプチドを提示する本発明の例では、核酸が、該MHC分子をコードする核酸配列も含みうる。MHC分子をコードする核酸配列は、抗原または抗原ペプチドをコードする核酸分子と同じ核酸分子上に存在してもよいし、両方の核酸配列が異なる核酸分子上に存在してもよい。後者の場合、それら2つの核酸分子を細胞に同時トランスフェクトすることができる。それゆえに、宿主細胞が抗原または抗原ペプチドもMHC分子も発現しない場合は、それらをコードする両核酸配列を、同じ核酸分子にのせて、または異なる核酸分子にのせて、細胞にトランスフェクトすることができる。細胞が既にMHC分子を発現している場合は、抗原または抗原ペプチドをコードする核酸配列だけを、細胞にトランスフェクトすることができる。
【0203】
本明細書において使用する「RNA」という用語は、少なくとも1つのリボヌクレオチド残基を含む分子を意味する。「リボヌクレオチド」は、ベータ-D-リボフラノース部分の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドを意味する。この用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、単離されたRNA、例えば部分精製RNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換え生産されたRNA、ならびに天然のRNAとは、1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって異なっている改変RNAを包含する。そのような改変には、例えばRNAの末端への、または内部への、例えばRNAの1つ以上のヌクレオチドにおける、非ヌクレオチド物質の付加を含むことができる。RNA分子中のヌクレオチドは、非標準的ヌクレオチド、例えば非天然ヌクレオチドもしくは化学合成ヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドを含むことができる。これらの改変RNAは、類似体または天然RNAの類似体と呼ぶことができる。
【0204】
本発明によれば、「RNA」という用語は、「mRNA」を包含し、好ましくは「mRNA」に関する。「mRNA」は「メッセンジャーRNA」を意味し、テンプレートとしてDNAを使用して生産されうる、ペプチドまたはタンパク質をコードする「転写産物」に関する。mRNAは典型的には5'非翻訳領域、タンパク質またはペプチドコード領域および3'非翻訳領域を含む。mRNAは細胞内およびインビトロで限られた半減期を有する。好ましくは、mRNAは、DNAテンプレートを使って、インビトロ転写によって生産される。本発明の一実施形態では、細胞中に導入されるRNAが、適当なDNAテンプレートのインビトロ転写によって得られる。
【0205】
本発明との関連において、「転写」という用語は、DNA配列中の遺伝暗号がRNAに転写される過程に関する。引き続きそのRNAはタンパク質に翻訳されうる。本発明によれば、「転写」という用語は「インビトロ転写」を含み、この場合、「インビトロ転写」という用語は、RNA、特にmRNAが、無細胞系において、好ましくは適当な細胞抽出物を使って、インビトロで合成される過程に関する。好ましくは、転写産物の生成には、クローニングベクターが応用される。これらのクローニングベクターは、一般に、転写ベクターとして設計され、本発明によれば、「ベクター」という用語に包含される。本発明によれば、RNAは、適当なDNAテンプレートのインビトロ転写によって得ることができる。転写を制御するためのプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼのための任意のプロモーターであることができる。RNAポリメラーゼの具体例は、T7、T3、およびSP6 RNAポリメラーゼである。インビトロ転写用のDNAテンプレートは、核酸、特にcDNAをクローニングし、それを、インビトロ転写用の適当なベクター中に導入することによって得ることができる。cDNAは、RNAの逆転写によって得ることができる。好ましくは、転写産物の生産には、一般に転写ベクターと呼ばれるクローニングベクターを使用する。
【0206】
cDNA含有ベクターテンプレートは、転写後に異なるRNA分子(場合によっては異なる因子を発現する能力を有するもの)の集団をもたらす異なるcDNAインサートを保有するベクターを含むか、転写後に、1つの因子のみを発現する能力を有する1つのRNA種の集団だけをもたらす1つのcDNAインサート種のみを保有するベクターを含みうる。したがって、単一の因子だけを発現させる能力を有するRNAを生産するか、または異なるRNAの組成物を生産することができる。
【0207】
本発明に従って記載される核酸は、好ましくは、単離されている。「単離された核酸」という用語は、本発明によれば、その核酸が、(i)インビトロで、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などによって増幅されたこと、(ii)クローニングによって組換え生産されたこと、(iii)例えば切断とゲル電気泳動による分画などによって精製されたこと、または(iv)例えば化学合成などによって合成されたことを意味する。単離された核酸は、組換えDNA技法による操作に利用することができる核酸である。
【0208】
核酸は、本発明によれば、単独で存在してもよいし、相同(homologous)であっても非相同(heterologous)であってもいよい他の核酸と組み合わされて存在してもよい。好ましい実施形態では、核酸は、該核酸に関して相同であっても非相同であってもよい発現制御配列に、機能的に連結される。「相同」という用語は、その核酸が自然でも機能的に連結されていることを意味し、「非相同」という用語は、その核酸が自然では機能的に連結されていないことを意味する。
【0209】
ある核酸と発現制御配列とが、該核酸の発現または転写が該発現制御配列の制御下または影響下にあるような形で互いに共有結合によって連結されているならば、それらは互いに「機能的に」連結している。核酸が機能的タンパク質に翻訳されるものである場合は、発現制御配列がコード配列に機能的に連結されていることにより、該発現制御配列の誘導が、コード配列のフレームシフトを引き起こすことなく、または該コード核酸が所望のタンパク質もしくはペプチドに翻訳されなくなることもなく、該核酸の転写をもたらす。
【0210】
「発現制御配列」または「発現制御要素」という用語は、本発明によれば、プロモーター、リボソーム結合部位、エンハンサー、および遺伝子の転写またはmRNAの翻訳を調節する他の制御要素を含む。本発明の特定の実施形態では、発現制御配列を調節することができる。発現制御配列の正確な構造は種または細胞タイプに応じて異なりうるが、一般的には、例えばTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などといった、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5'非転写配列ならびに5'および3'非翻訳配列を含む。より具体的には、5'非転写発現制御配列は、機能的に連結された核酸の転写制御のためのプロモーター配列が含まれているプロモーター領域を含む。発現制御配列は、エンハンサー配列または上流活性化配列も含みうる。
【0211】
本発明によれば、「プロモーター」または「プロモーター領域」という用語は、発現する核酸配列に対して上流(5'側)に位置し、RNAポリメラーゼに認識および結合部位を提供することによって配列の発現を制御する核酸配列に関する。「プロモーター領域」は、遺伝子の転写の調節に関与するさらなる因子のためのさらなる認識および結合部位を含みうる。プロモーターは、原核生物遺伝子または真核生物遺伝子の転写を制御しうる。さらにまた、プロモーターは「誘導性」であることができ、誘導剤に応答して転写を開始しうるか、あるいは転写が誘導剤によって制御されない場合には、「構成的」であることもできる。誘導的プロモーターの制御下にある遺伝子は、誘導剤が存在しなければ、発現しないか、またはわずかしか発現しない。誘導剤の存在下では、遺伝子のスイッチが入って作動するか、または転写のレベルが増加する。これは、一般に、特異的転写因子の結合によって媒介される。
【0212】
本発明によれば、好ましいプロモーターには、SP6、T3およびT7ポリメラーゼ用のプロモーター、ヒトU6 RNAプロモーター、CMVプロモーター、およびそれら(例えばCMV)の人工ハイブリッドプロモーターであって、1つまたは複数のパーツが、例えばヒトGAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)などの他の細胞タンパク質の遺伝子のプロモーターの1つまたは複数のパーツに融合されていて、追加の1または複数のイントロンを含むものまたは含まないものが含まれる。
【0213】
「発現」という用語は、本明細書では、その最も広い意味で使用され、RNAの生産またはRNAとタンパク質もしくはペプチドの生産を含む。RNAに関して「発現」または「翻訳」という用語は、特に、ペプチドまたはタンパク質の生産に関する。発現は一過性の発現であっても、安定的発現であってもよい。本発明によれば、発現という用語には「異状(aberrant)発現」または「異常(abnormal)発現」も含まれる。
【0214】
「異状発現」または「異常発現」とは、本発明によれば、参照と比較して、好ましくは一定のタンパク質(例えば腫瘍関連抗原)の異状または異常発現に関連する疾患を有さない対象における状態と比較して、発現が改変されていること、好ましくは増加していることを意味する。発現の増加とは、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも100%、またはそれ以上の増加を指す。ある実施形態では、発現が、疾患組織にのみ見いだされ、健常組織における発現は抑止されている。
【0215】
「特異的に発現する」という用語は、あるタンパク質が、本質的に、ある特異的組織または器官でのみ発現することを意味する。例えば、胃粘膜において特異的に発現する腫瘍関連抗原とは、該タンパク質が主として胃粘膜において発現し、他の組織では発現しないこと、または他の組織もしくは器官タイプでは有意な程度には発現しないことを意味する。したがって、もっぱら胃粘膜の細胞において発現し、精巣などの他のどの組織においても、それより有意に少ない程度に発現するタンパク質は、胃粘膜の細胞において特異的に発現している。いくつかの実施形態において、腫瘍関連抗原は、正常条件下で、2つ以上の組織または器官において、例えば2つまたは3つの組織タイプまたは器官において、ただし好ましくは3つを超えない異なる組織または器官タイプにおいて、特異的に発現していてもよい。この場合は、腫瘍関連抗原がこれらの器官において特異的に発現する。例えば、腫瘍関連抗原が、正常条件下で、肺および胃において、好ましくはほぼ同程度に発現している場合、該腫瘍関連抗原は肺および胃において特異的に発現する。
【0216】
本発明によれば「翻訳」という用語は、メッセンジャーRNAの鎖がアミノ酸の配列のアセンブリを指示してタンパク質またはペプチドを作る、細胞のリボソームにおける過程に関する。
【0217】
本発明によれば、「をコードする核酸」という用語は、適当な環境下(好ましくは細胞内)に存在するならば、核酸が発現して、それがコードするタンパク質またはペプチドを生産できることを意味する。
【0218】
本発明によれば、細胞中に導入されたRNAの安定性および翻訳効率は、必要に応じて修飾することができる。例えば、安定化効果を有しかつ/またはRNAの翻訳効率を増加させる1つ以上の修飾によって、RNAを安定化し、その翻訳を増加させることができる。そのような修飾は、例えば引用により本明細書に組み込まれるPCT/EP2006/009448に記載されている。
【0219】
例えば、マスキングされていないポリA配列を有するRNAは、マスキングされたポリA配列を有するRNAよりも効率よく翻訳される。「ポリA配列」または「ポリA+」という用語は、典型的にはRNA分子の3'末端に位置するアデニル(A)残基の配列に関し、「マスキングされていないポリA配列」とは、RNAの3'端にあるポリA配列が、ポリA配列のAで終わっていて、ポリA配列の3'端(すなわち下流)に位置するA以外のヌクレオチドが後続していないことを意味する。さらにまた、約120塩基対の長いポリA配列は、最適な転写産物安定性とRNAの翻訳効率をもたらす。
【0220】
それゆえに、本発明に従って使用されるRNAの安定性および/または発現を増加させるために、ポリA配列(好ましくは10〜500、より好ましくは30〜300、さらに好ましくは65〜200、とりわけ100〜150個のアデノシン残基を有するもの)と一緒に存在するように、RNAを修飾することができる。とりわけ好ましい一実施形態では、ポリA配列が約120個のアデノシン残基の長さを有する。本発明に従って使用されるRNAの安定性および/または発現をさらに増加させるために、ポリA配列を脱マスキングすることができる。
【0221】
加えて、RNA分子の3'非翻訳領域への3'翻訳領域(UTR)の組込みも、翻訳効率の強化をもたらしうる。そのような3'非翻訳領域を2つ以上組み込むことによって相乗効果を得ることができる。3'非翻訳領域は、それらが導入されるRNAに対して自己であっても異種であってもよい。特定の一実施形態では、3'非翻訳領域がヒトβ-グロビン遺伝子に由来する。
【0222】
上述の修飾、すなわちポリA配列の組込み、ポリA配列の脱マスキングおよび1つ以上の3'非翻訳領域の組込みの組合せは、RNAの安定性に対して相乗的影響を有し、翻訳効率を増加させる。
【0223】
本発明に従って使用されるRNAの発現を増加させるために、コード領域内、すなわち発現させる因子をコードする配列内を、好ましくは発現させる因子の配列を変化させることなく、GC含量を増加させ、よって細胞における翻訳が強化されるように、修飾することができる。
【0224】
本発明のさらなる実施形態では、細胞に導入しようとするRNAが、その5'端に、宿主細胞における翻訳を促進するキャップ構造または調節配列を有する。好ましくは、RNAは、5'-5'橋によってmRNAの最初の転写されたヌクレオチドに取り付けられた、修飾されていてもよい7-メチルグアノシンで、その5'端がキャッピングされる。好ましくは、RNAの5'端は、次の一般式を有するキャップ構造を含む:
【化1】
[式中、R
1およびR
2は独立してヒドロキシまたはメトキシであり、W
-、X
-およびY
-は独立して酸素または硫黄である]。好ましい一実施形態では、R
1およびR
2がヒドロキシであり、W
-、X
-およびY
-が酸素である。さらにもう一つの好ましい実施形態では、R
1とR
2の一方(好ましくはR
1)がヒドロキシ、他方がメトキシであり、W
-、X
-およびY
-が酸素である。さらにもう一つの好ましい実施形態では、R
1およびR
2がヒドロキシであり、W
-、X
-およびY
-の一つ(好ましくはX
-)が硫黄、その他が酸素である。さらにもう一つの好ましい実施形態では、R
1およびR
2の一方(好ましくはR
2)がヒドロキシ、他方がメトキシであり、W
-、X
-およびY
-の一つ(好ましくはX
-)が硫黄、その他が酸素である。上述の実施形態の全てにおいて、特にX
-が硫黄と定義される実施形態において、もう一つの選択肢として、X
-はホウ素またはセレンであってもよい。
【0225】
上式において、右側のヌクレオチドはその3'基を介してRNA鎖につながっている。
【0226】
W
-、X
-およびY
-の少なくとも一つが硫黄であるキャップ構造は、すなわちホスホロチオエート部分を有するキャップ構造は、異なるジアステレオ異性体型で存在し、それらは全てここに包含される。さらにまた、本発明は、上式の全ての互変異性体および立体異性体を包含する。
【0227】
もちろん、本発明に従ってRNAの安定性および/または翻訳効率を低下させることが望まれる場合には、RNAの安定性および/または翻訳効率を増加させる上述のような要素の機能が妨害されるように、RNAを修飾することが可能である。
【0228】
本発明によれば、細胞中に核酸を導入(すなわち移行またはトランスフェクト)する任意の技法を使用することができる。好ましくは、RNAは、標準的技法によって、細胞にトランスフェクトされる。そのような技法には、エレクトロポレーション、リポフェクションおよびマイクロインジェクションが含まれる。本発明の特に好ましい一実施形態では、RNAがエレクトロポレーションによって細胞中に導入される。
【0229】
エレクトロポレーションまたは電気透過処理(electropermeabilization)は、外部から印加された電場によって引き起こされる細胞形質膜の電気伝導度および透過性の有意な増加に関する。これは、分子生物学では、通常、細胞中に何らかの物質を導入する方法として使用される。
【0230】
エレクトロポレーションは通常、細胞溶液中に電磁場を生じさせる装置であるエレクトロポレーターを使って行われる。2つのアルミニウム電極をその側面に有するガラス製またはプラスチック製のキュベットに、細胞懸濁液をピペットで移す。エレクトロポレーションには、通例、50マイクロリットル前後の細胞懸濁液を使用する。エレクトロポレーションに先だって、それを、トランスフェクトすべき核酸と混合する。その混合物をピペットでキュベットに移し、電圧およびキャパシタンスを設定し、キュベットをエレクトロポレーターに挿入する。好ましくは、エレクトロポレーションの直後に、(キュベットまたはエッペンドルフチューブ中で)液体培地を添加し、そのチューブを、その細胞の至適温度で1時間以上インキュベートすることで、細胞を回復させ、場合によっては抗生物質耐性を発現させる。
【0231】
本発明によれば、タンパク質またはペプチドをコードする核酸の、細胞への導入が、該タンパク質またはペプチドの発現をもたらすことが好ましい。
【0232】
「ペプチド」という用語は、オリゴペプチドおよびポリペプチドを含み、ペプチド結合によって共有結合的に接合された2つ以上、好ましくは3つ以上、好ましくは4つ以上、好ましくは6つ以上、好ましくは8個以上、好ましくは9個以上、好ましくは10個以上、好ましくは13個以上、好ましくは16個以上、好ましくは21個以上、かつ最大で好ましくは8、10、20、30、40または50個、特に100個のアミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、大きなペプチドを指し、好ましくは、100個を上回るアミノ酸残基を有するペプチドをさすが、一般的には、用語「ペプチド」と「タンパク質」は同義であり、本明細書においては、可換的に使用される。
【0233】
好ましくは、本発明に従って記述されるタンパク質およびペプチドは、単離されている。「単離されたタンパク質」または「単離されたペプチド」という用語は、タンパク質またはペプチドが、その自然環境から分離されていることを意味する。単離されたタンパク質またはペプチドは、本質的に精製された状態にありうる。「本質的に精製された」という用語は、そのタンパク質またはペプチドが、自然界またはインビボでそれに付随している他の物質を本質的に含まないことを意味する。
【0234】
具体的アミノ酸配列、例えば配列表に示すものに関して、本明細書において教示する内容は、該具体的配列と機能的に等価な配列、例えば具体的アミノ酸配列の性質と同一のまたは類似する性質を示すアミノ酸配列をもたらす、該具体的配列の修飾体、すなわち変異体にも関するように解釈すべきである。重要な性質の一つは、ペプチドのMHC分子および/もしくはT細胞受容体への結合またはT細胞受容体のその標的への結合を保つこと、またはT細胞のエフェクター機能を持続させることである。好ましくは、ある具体的配列と比較して修飾された配列は、T細胞受容体中の前記具体的配列を前記修飾された配列で置き換えた時に、標的への該T細胞受容体の結合と、好ましくは本明細書に記載するような該T細胞受容体の機能または前記T細胞受容体を保有するT細胞の機能とを保つ。
【0235】
特に、標的に結合する能力を失わずにCDR配列、超可変領域および可変領域の配列を修飾することができることは、当業者には理解されるであろう。例えば、CDR配列は、本明細書に明記するCDR配列と同一であるか、高度に相同であるだろう。
【0236】
ペプチド「変異体」は、所与のペプチドの免疫原性を保ちうる(例えばT細胞株またはT細胞クローンと反応する変異体の能力は、所与のペプチドと比較して、実質的に低下していない)。言い換えると、T細胞株またはT細胞クローンと反応する変異体の能力は、所与のペプチドと比較して強化されているか、変化なしであってもよいし、所与のペプチドと比較して50%未満、好ましくは20%未満、減少していてもよい。
【0237】
変異体は、MHC分子に結合するその能力を評価することによって同定しうる。好ましい一実施形態では、変異体ペプチドが、MHC分子に結合する変異体ペプチドの能力が所与のペプチドと比較して増加するような修飾を有する。MHC分子に結合する変異体ペプチドの能力は、所与のペプチドの能力と比較して、少なくとも2倍、好ましくは少なくとも3倍、4倍、または5倍増加しうる。したがって一定の好ましい実施形態において、ペプチドは、T細胞株またはT細胞クローンと反応する能力が無修飾ペプチドの能力よりも統計的に大きくなるように免疫原性部分内の1〜3アミノ酸が置換されている変異体を含む。そのような置換は、好ましくは、ペプチドのMHC結合部位内に位置する。好ましい置換は、MHCクラスIまたはクラスII分子への結合を増加させる。一定の変異体は、保存的置換を含有する。
【0238】
「高度に相同」とは、1〜5、好ましくは1〜4、例えば1〜3または1もしくは2個の置換を設けうることと考えられる。
【0239】
本発明によれば、「変異体」という用語には、ミュータント、スプライス変異体、コンフォメーション、アイソフォーム、アレル変異体、種変異体および種ホモログ、特に自然に存在するものも包含される。アレル変異体は、遺伝子の正常配列の変化に関し、その意義は不明であることが多い。完全な遺伝子配列決定を行うと、所与の遺伝子について、しばしば、数多くのアレル変異体が同定される。種ホモログは、所与の核酸またはアミノ酸配列の起源とは異なる種を起源とする核酸またはアミノ酸配列である。
【0240】
本発明に関して、アミノ酸配列の「変異体」には、アミノ酸挿入変異体、アミノ酸付加変異体、アミノ酸欠失変異体および/またはアミノ酸置換変異体が含まれる。タンパク質のN末端および/またはC末端に欠失を含むアミノ酸欠失変異体は、N末端および/またはC末端切断変異体とも呼ばれる。
【0241】
アミノ酸挿入変異体は、特定のアミノ酸配列中に、1つまたは2つ以上のアミノ酸の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列変異体の場合、1つ以上のアミノ酸残基が、アミノ酸配列中の特定の部位に挿入されるが、ランダム挿入とその結果生じる産物の適当なスクリーニングも可能である。
【0242】
アミノ酸付加変異体は、1つ以上のアミノ酸、例えば1、2、3、5、10、20、30、50個以上のアミノ酸の、アミノ末端および/またはカルボキシ末端融合物を含む。
【0243】
アミノ酸欠失変異体は、配列からの1つ以上のアミノ酸の除去、例えば1、2、3、5、10、20、30、50個、またはそれ以上のアミノ酸の除去を特徴とする。欠失はタンパク質のどの位置にあってもよい。
【0244】
アミノ酸置換変異体は、配列中の少なくとも1つの残基が除去され、その代わりに別の残基が挿入されていることを特徴とする。修飾は、相同タンパク質またはペプチド間で保存されていないアミノ酸配列中の位置にあること、かつ/またはアミノ酸は、類似する性質を有する別のアミノ酸で置き換えられることが、好ましい。好ましくは、タンパク質変異体中のアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、すなわち同じように荷電しているアミノ酸または同じように非荷電であるアミノ酸の置換である。保存的アミノ酸変化は、側鎖同士が関連しているアミノ酸のファミリーの一つの置換を伴う。天然のアミノ酸は、一般に、次の4つのファミリーに分割される:酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、ヒスチジン)、無極性アミノ酸(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、および非荷電極性アミノ酸(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン)。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、まとめて芳香族アミノ酸と分類される場合もある。
【0245】
好ましくは、所与のアミノ酸配列と該所与のアミノ酸配列の変異体であるアミノ酸配列との間の類似性(好ましくは同一性)の程度は、少なくとも約60%、65%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%であるだろう。類似性および同一性の程度は、好ましくは、参照アミノ酸配列の全長の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または約100%であるアミノ酸領域について与えられる。例えば、参照アミノ酸配列が200アミノ酸からなる場合、類似性または同一性の程度は、好ましくは、少なくとも約20、少なくとも約40、少なくとも約60、少なくとも約80、少なくとも約100、少なくとも約120、少なくとも約140、少なくとも約160、少なくとも約180、または約200個のアミノ酸(好ましくは連続アミノ酸配列)について与えられる。好ましい実施形態では、類似性または同一性の程度は、参照アミノ酸配列の全長について与えられる。配列類似性、好ましくは配列同一性を決定するためのアラインメントは、当技術分野において知られているツールで、好ましくは最適配列アラインメントを使って、例えばAlignを使って、標準的設定、好ましくはEMBOSS::needle、マトリックス:Blosum62、ギャップ開始(Gap Open)10.0、ギャップ伸長(Gap Extend)0.5を使って、行うことができる。
【0246】
「配列類似性」は、同一であるかまたは保存的アミノ酸置換に相当するアミノ酸のパーセンテージを示す。2つのアミノ酸配列の間の「配列同一性」は、それらの配列の間で同一であるアミノ酸またはヌクレオチドのパーセンテージを示す。
【0247】
「同一性パーセンテージ」という用語は、最適アラインメント後に得られる、比較しようとする2つの配列間で同一であるアミノ酸残基のパーセンテージを表するものとし、このパーセンテージは純粋に統計的であって、2つの配列間の相違はそれらの全長にわたってランダムに分布する。2つのアミノ酸配列の間の配列比較は、従来どおり、それらを最適にアラインメントした後にこれらの配列を比較することによって実施され、該比較は、配列類似性を有する局所領域を同定し、比較するために、セグメントごとに、または「比較ウインドウ」ごとに、実施される。比較のための配列の最適アラインメントは、手作業で行われる他、Smith and Waterman, 1981, Ads App. Math. 2, 482の局所相同性アルゴリズムによって、Neddleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48, 443の局所相同性アルゴリズムによって、Pearson and Lipman, 1988, Proc. Natl Acad. Sci. USA 85, 2444の類似性検索法によって、またはこれらのアルゴリズムを用いたコンピュータプログラム(Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group、ウィスコンシン州マディソン、サイエンスドライブ575)中のGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST NおよびTFASTA)によって作成することもできる。
【0248】
同一性パーセンテージは、比較される2つの配列間で同一な位置の数を決定し、その数を比較した位置の数で割り、これら2つの配列間の同一性パーセンテージが得られるように、得られた結果に100を掛けることによって算出される。
【0249】
相同なアミノ酸配列は、本発明によれば、少なくとも40%、特に少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、少なくとも98または少なくとも99%のアミノ酸残基の同一性を示す。
【0250】
当業者は、本明細書に記載するアミノ酸配列変異体を、例えば組換えDNA操作によって、容易に調製することができる。置換、付加、挿入または欠失を有するタンパク質およびペプチドを調製するためのDNA配列の操作は、例えばSambrook et al. (1989)に、詳述されている。さらにまた、本明細書に記載するペプチドおよびアミノ酸変異体は、既知のペプチド合成技法を利用して、例えば固相合成法および類似の方法によって、容易に調製することができる。
【0251】
本発明は、本明細書に記載するペプチドまたはタンパク質の誘導体を包含し、これらは「ペプチド」および「タンパク質」という用語に含まれる。本発明によれば、タンパク質およびペプチドの「誘導体」は、タンパク質およびペプチドの修飾型である。そのような修飾には任意の化学的修飾が含まれ、そのような修飾は、糖質、脂質および/またはタンパク質もしくはペプチドなどといった、タンパク質またはペプチドに関連する任意の分子の、1つまたは複数の置換、欠失、および/または付加を含む。ある実施形態において、タンパク質またはペプチドの「誘導体」には、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、パルミトイル化、ミリストイル化、イソプレニル化、脂質化、アルキル化、誘導体化、保護基/ブロッキング基の導入、タンパク質加水分解的切断または抗体への結合もしくは他の細胞性リガンドへの結合によってもたらされる、修飾された類似体が含まれる。「誘導体」という用語は、該タンパク質およびペプチドのあらゆる機能的化学等価物にも及ぶ。好ましくは修飾ペプチドは、増加した安定性および/または増加した免疫原性を有する。
【0252】
ペプチドのミメティックも含まれる。そのようなミメティックは、1つ以上のアミノ酸ミメティックに連結されたアミノ酸を含んでもよいし(すなわち、ペプチド内の1つ以上のアミノ酸が、アミノ酸ミメティックで置き換えられていてもよいし)、もっぱら非ペプチドミメティックであってもよい。アミノ酸ミメティックは、コンフォメーションがアミノ酸に似ていて、それゆえに、例えばT細胞株またはT細胞クローンと反応する能力を実質的に減少させることなく、アミノ酸の代わりに使用することができるような化合物である。非ペプチドミメティックは、アミノ酸を含有せず、ペプチドに似た全体的コンフォメーションを有していて、それゆえに、例えばT細胞株またはT細胞クローンと反応する能力が所与のペプチドの能力と比較して実質的に減少しないような化合物である。
【0253】
本発明によれば、アミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質の変異体、誘導体、修飾型、フラグメント、パーツまたは部分は、好ましくは、それぞれ、それが由来するアミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質の機能的性質を有する。すなわち、それは機能的に等価である。ある実施形態では、アミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質の変異体、誘導体、修飾型、フラグメント、パーツまたは部分が、それぞれ、それが由来するアミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質と免疫学的に等価である。ある実施形態では、機能的性質が免疫学的性質である。
【0254】
ある特定の性質は、MHC分子との複合体を形成し、それが適切な場合には、好ましくは細胞傷害性細胞またはTヘルパー細胞を刺激することによって、免疫応答を生じさせる能力である。
【0255】
「由来する」という用語は、本発明によれば、特定の実体、特に特定の配列が、それが由来する物体、特に生物または分子中に存在することを意味する。アミノ酸配列の場合、とりわけ特定の配列領域の場合、「由来する」は、特に、関連するアミノ酸配列が、それが内在しているアミノ酸配列に由来することを意味する。
【0256】
「細胞」または「宿主細胞」という用語は、好ましくは、無傷の細胞、すなわち、酵素、細胞小器官、または遺伝物質などといったその正常な細胞内構成要素を放出していない、無傷の膜を有する細胞である。無傷の細胞は、好ましくは、生細胞、すなわちその正常な代謝機能を果たす能力を有する、生きている細胞である。好ましくは、該用語は、本発明によれば、外因性の核酸による形質転換またはトランスフェクションを受けることができる任意の細胞に関する。「細胞」という用語は、本発明によれば、原核細胞(例えば大腸菌(E. coli))または真核細胞(例えば樹状細胞、B細胞、CHO細胞、COS細胞、K562細胞、HEK293細胞、HELA細胞、酵母細胞、および昆虫細胞)を包含する。外因性の核酸は、細胞内に、(i)そのまま自由に分散しているか、(ii)組換えベクターに組み込まれているか、または(iii)宿主細胞のゲノムDNAもしくはミトコンドリアDNA中に組み込まれた状態で、見いだすことができる。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、および霊長類由来の細胞などといった哺乳動物細胞は、特に好ましい。細胞は、数多くの組織タイプに由来することができ、これには、初代細胞および細胞株が含まれる。具体的な例には、ケラチノサイト、末梢血白血球、骨髄幹細胞、および胚性幹細胞が含まれる。さらなる実施形態では、細胞が抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球、またはマクロファージである。
【0257】
核酸分子を含む細胞は、好ましくは、その核酸がコードするペプチドまたはタンパク質を発現する。
【0258】
細胞は、組換え細胞であってもよく、コードされているペプチドまたはタンパク質を分泌してもよく、それを表面上に発現してもよく、好ましくはさらに、該ペプチドもしくはタンパク質またはそのプロセシング産物に結合するMHC分子を発現してもよい。ある実施形態では、細胞がMHC分子を内在性に発現する。さらなる一実施形態では、細胞が、MHC分子および/またはペプチドもしくはタンパク質またはそのプロセシング産物を、組換え的に発現する。細胞は、好ましくは、非増殖性である。好ましい一実施形態では、細胞が抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。
【0259】
「クローン拡大(clonal expansion)」という用語は、特異的な実体が増倍される過程を指す。本発明との関連において、この用語は、好ましくは、リンパ球が抗原によって刺激され、増殖し、該抗原を認識する特異的リンパ球が増幅される、免疫学的応答との関連において使用される。好ましくは、クローン拡大は、リンパ球の分化につながる。
【0260】
抗原発現に関連する疾患は、生物学的試料中のペプチドと特異的に反応するT細胞の存在に基づいて検出することができる。一定の方法では、患者から単離されたCD4+および/またはCD8+ T細胞を含む生物学的試料を、本発明のペプチド、そのようなペプチドをコードする核酸、および/またはそのようなペプチドの少なくとも免疫原性部分を発現かつ/または提示する抗原提示細胞と共にインキュベートし、T細胞の特異的活性化の有無を検出する。適切な生物学的試料には、単離されたT細胞が含まれるが、これに限るわけではない。例えばT細胞は、患者から、日常的な技法によって(例えば末梢血リンパ球のFicoll/Hypaque密度勾配遠心分離などによって)単離することができる。CD4+ T細胞の場合、活性化は、好ましくは、T細胞の増殖を評価することによって検出される。CD8+ T細胞の場合、活性化は、好ましくは、細胞溶解活性を評価することによって検出される。無疾患対象と比較して少なくとも2倍高い増殖レベルおよび/または少なくとも20%高い細胞溶解活性レベルは、その対象における抗原発現に関連する疾患の存在を示す。
【0261】
本明細書にいう「低減する」または「阻害する」は、レベルの全体的低下、好ましくは5%以上、10%以上、20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上の全体的低下を引き起こす能力を意味する。「阻害する」という用語またはそれに類する表現には、完全な阻害または本質的に完全な阻害、すなわちゼロへの低減または本質的にゼロへの低減が含まれる。
【0262】
「増加する」または「強化する」などの用語は、好ましくは、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも100%程度の増加または強化に関する。
【0263】
本明細書に記載する作用物質、組成物および方法は、疾患(例えば抗原を発現し抗原ペプチドを提示する疾患細胞の存在を特徴とする疾患)を有する対象を処置するために使用することができる。処置しかつ/または防止することができる疾患の例には、本明細書に記載する抗原の一つを発現する全ての疾患が包含される。特に好ましい疾患はhCMV感染症などのウイルス性疾患および悪性疾患である。
【0264】
本明細書に記載する作用物質、組成物および方法は、本明細書に記載する疾患を防止するための免疫処置またはワクチン接種にも使用することができる。
【0265】
本発明によれば、「疾患」という用語は、ウイルス感染症および悪性疾患を含む任意の病理学的状態、特に本明細書に記載する形態のウイルス感染症および悪性疾患を指す。
【0266】
「正常組織」または「正常状態」という用語は、健常組織、または健常対象における状態、すなわち非病理学的状態を指し、ここで「健常」とは、好ましくは、非ウイルス感染性または非がん性を意味する。
【0267】
「抗原を発現する細胞が関与する疾患」とは、本発明によれば、疾患組織または疾患器官の細胞における抗原の発現が、好ましくは、健常組織または健常器官における状態と比較して増加していることを意味する。増加とは、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%またはそれ以上の増加を指す。ある実施形態では、発現が疾患組織にしか見いだされず、健常組織における発現は抑制されている。本発明によれば、抗原を発現する細胞が関与または関係する疾患には、ウイルス感染症および悪性疾患、特に本明細書に記載する形態のウイルス感染症および悪性疾患が含まれる。
【0268】
悪性病変(malignancy)とは、進行性に悪化し、潜在的に死をもたらす、医学的状態(特に腫瘍)の傾向である。これは、退形成、侵襲性、および転移という性質を特徴とする。悪性の(malignant)とは、重症な進行性に悪化する疾患を記述するために使用される、対応する形容詞的医学用語である。本明細書にいう「悪性疾患」とは、好ましくは、がんまたは腫瘍疾患に関する。同様に、本明細書において使用する「悪性細胞」という用語は、好ましくは、がん細胞または腫瘍細胞に関する。悪性腫瘍は、悪性病変が、その成長において自己限定的でなく、隣接組織に侵入する能力を有し、遠隔組織に伝播する(転移する)能力も持ちうるのに対し、良性腫瘍はこれらの性質をいずれも有さないという点で、非がん性良性腫瘍と対比させることができる。悪性病変、悪性新生物、および悪性腫瘍は、本質的に、がんと同義である。
【0269】
本発明によれば、「腫瘍」または「腫瘍疾患」という用語は、細胞(新生物細胞または腫瘍細胞と呼ばれる)の異常な成長によって形成される腫脹または病変を指す。「腫瘍細胞」とは、迅速で無制御な細胞増殖によって成長し、新しい成長を開始させた刺激が途絶えた後も成長し続ける、異常細胞を意味する。腫瘍は、構造的組織化および正常組織との機能的協調の部分的または完全な欠如を示し、通常は、良性、前悪性または悪性のいずれかでありうる異質な組織塊を形成する。
【0270】
良性腫瘍は、がんの3つの悪性的性質を全て欠いている腫瘍である。したがって、定義上、良性腫瘍は、無制限の攻撃的な成長をすることがなく、周囲組織に侵入することがなく、非隣接組織に伝播する(転移する)ことがない。良性腫瘍のよくある例には、母斑および子宮類線維腫が含まれる。
【0271】
「良性」という用語は、軽度で非進行性の疾患を含意し、事実、多くの種類の良性腫瘍は健康にとって無害である。しかし、がんの侵入性を欠いているという理由で「良性腫瘍」と定義される新生物の中には、それでもなお、健康に負の影響をもたらしうるものもある。その例には、「マス効果」(血管などの重要器官の圧迫)を生じる腫瘍、または一定のホルモンを過剰産生しうる内分泌組織の「機能的」腫瘍(例には甲状腺腺腫、副腎皮質腺腫、および下垂体腺腫が含まれる)が含まれる。
【0272】
良性腫瘍は、典型的には、悪性的に振る舞うそれらの能力を阻害する外表面で囲まれている。いくつかの例では、一定の「良性」腫瘍が、後に悪性がんを発生させることがあり、これは、腫瘍の新生物細胞の亜集団における、さらなる遺伝子変化に起因するものである。この現象の顕著な一例が管状腺腫であり、これは、結腸がんへの重要な前駆体である一般的なタイプの結腸ポリープである。管状腺腫中の細胞は、しばしばがんへと進行する大半の腫瘍と同様に、細胞の成熟および外観に、異形成と総称される一定の異常を示す。これらの細胞異常は、稀にしかがん化しないまたは決してがん化しない良性腫瘍には見られないが、孤立した塊を形成しない他の前がん組織異常(例えば子宮頸部の前がん病変)には見られる。権威者の中には、異形成腫瘍を「前悪性」と呼び、「良性」という用語は稀にしかがんを発生させないまたは決してがんを発生させない腫瘍のために取っておくことを好む人々もいる。
【0273】
新生物は、新形成の結果としての異常な組織塊である。新形成(neoplasia:ギリシャ語で新しい成長の意)は、細胞の異常な増殖である。細胞の成長は、それを取り囲む正常組織の成長を上回り、それら正常組織の成長とは協調しない。刺激が途絶えた後でさえ、同じく過剰な成長が持続する。これは通常、しこりまたは腫瘍を引き起こす。新生物は良性、前悪性または悪性でありうる。
【0274】
「腫瘍の成長」または「腫瘍成長」は、本発明によれば、そのサイズを増加しようとする腫瘍の傾向、および/または増殖しようとする腫瘍細胞の傾向に関する。
【0275】
好ましくは、「悪性疾患」は、本発明によれば、がん疾患または腫瘍疾患であり、悪性細胞はがん細胞または腫瘍細胞である。好ましくは、「悪性疾患」は、NY-ESO-1、TPTEまたはPLAC1などの腫瘍関連抗原を発現する細胞を特徴とする。
【0276】
がん(医学用語:悪性新生物)は、一群の細胞が制御されない成長(正常範囲を超えて分裂)、侵入(隣接する組織への貫入とその破壊)、および時には転移(リンパまたは血液を介した身体の他の場所への伝播)を示す疾患の一種である。これら3つのがんの悪性的性質により、がんは、自己限定性であって侵入も転移もしない良性腫瘍と識別される。大半のがんは腫瘍を形成するが、白血病のように腫瘍を形成しないものもある。
【0277】
がんは、その腫瘍に似ている細胞のタイプによって、それゆえにその腫瘍の起源であると推定される組織によって、分類される。これらは、それぞれ組織学および場所である。
【0278】
「がん」という用語は、本発明によれば、白血病、精上皮腫、メラノーマ、奇形腫、リンパ腫、神経芽細胞腫、グリオーマ、直腸がん、子宮内膜がん、腎がん、副腎がん、甲状腺がん、血液がん、皮膚がん、脳のがん、子宮頸がん、腸のがん、肝がん、結腸がん、胃がん、腸がん、頭頸部がん、胃腸がん、リンパ節がん、食道がん、直腸結腸がん、膵がん、耳鼻咽喉科(ENT)がん、乳がん、前立腺がん、子宮のがん、卵巣がんおよび肺がん、ならびにそれらの転移を包含する。その例は、肺癌、乳癌、前立腺癌、結腸癌、腎細胞癌、子宮頸癌、または上述のがんタイプまたは腫瘍の転移である。がんという用語は、本発明によれば、がん転移も包含する。
【0279】
肺がんの主要タイプは、小細胞肺癌(SCLC)および非小細胞肺癌(NSCLC)である。非小細胞肺癌には3つの主要サブタイプ、すなわち肺扁平上皮癌、腺癌、および大細胞肺癌がある。腺癌は肺がんの約10%を占める。このがんは通常、肺の末梢に見られ、小細胞肺がんおよび扁平上皮肺がん(どちらも、より中枢側に位置する傾向がある)とは対照的である。
【0280】
皮膚がんは皮膚上の悪性成長である。最も一般的な皮膚がんは基底細胞がん、扁平上皮がん、およびメラノーマである。悪性メラノーマは、重篤なタイプの皮膚がんである。これは、メラノサイトと呼ばれる色素細胞の制御されない成長によるものである。
【0281】
本発明によれば、「癌」とは、上皮細胞由来の悪性腫瘍である。このグループは、一般的な形態の乳がん、前立腺がん、肺がんおよび結腸がんを含む最も一般的ながんを表す。
【0282】
「細気管支癌」は、終末細気管支の上皮に由来すると考えられる肺の癌であって、この癌では、新生物組織が肺胞壁に沿って延び、肺胞内で小塊状に成長する。細胞の一部および肺胞中の物質にムチンが認められる場合があり、これには裸化細胞も含まれている。
【0283】
「腺癌」は、腺組織に起源を有するがんである。この組織は、上皮組織と呼ばれる、さらに大きな組織カテゴリの一部でもある。上皮組織には、皮膚、腺、ならびに身体の腔および器官を裏打ちする他の様々な組織が含まれる。上皮は、発生学的には、外胚葉,内胚葉および中胚葉に由来する。細胞が分泌性を有する限り、腺癌と分類されるために細胞が腺の一部である必要は、必ずしもない。この形態の癌はヒトを含む一部の高等哺乳動物において発生することができる。高分化型腺癌はそれらが由来する腺組織に似る傾向があるが、低分化型はそうではない場合がある。病理学者は、生検からの細胞を染色することによって、その腫瘍が腺癌であるか、他の何らかのタイプのがんであるかを決定することになる。腺癌は、体内での腺の遍在性ゆえに、身体の多くの組織に生じることができる。各腺は同じ物質を分泌するわけではないだろうが、細胞に外分泌機能がある限り、それは腺性であるとみなされ、その悪性形態は、それゆえに腺癌と呼ばれる。悪性腺癌は他の組織に侵入し、転移するのに十分な時間が与えられれば、しばしば転移する。卵巣腺癌は最も一般的なタイプの卵巣癌である。これには、漿液性および粘液性腺癌、明細胞腺癌ならびに類内膜腺癌が含まれる。
【0284】
腎細胞癌は、腎細胞がんまたは腎細胞腺癌とも呼ばれ、近位曲尿細管(血液をろ過して老廃物を除去する腎臓内の極めて小さな管)の内層を起源とする腎臓がんである。腎細胞癌は、成人では群を抜いて最も一般的なタイプの腎臓がんであり、すべての尿生殖器腫瘍の中で最も致死的である。腎細胞癌の明確に異なるサブタイプは、明細胞腎細胞癌および乳頭状腎細胞癌である。明細胞腎細胞癌は最も一般的な形態の腎細胞癌である。顕微鏡で見ると、明細胞腎細胞癌を構成する細胞は、ごく薄い色または透明に見える。乳頭状腎細胞癌は2番目に一般的なサブタイプである。これらのがんは、腫瘍の(大半とは言わないまでも)一部において、小指様の突起(乳頭と呼ばれる)を形成する。
【0285】
リンパ腫および白血病は、造血(血液形成)細胞に由来する悪性疾患である。
【0286】
芽細胞性腫瘍または芽細胞腫は、未熟組織または胚性組織に似た腫瘍(通常は悪性)である。これらの腫瘍の多くは、小児に最もよく見られる。
【0287】
「転移」とは、そのもとの部位から身体の別のパーツへのがん細胞の伝播を意味する。転移の形成は非常に複雑な過程であり、原発性腫瘍からの悪性細胞の脱離、細胞外マトリックスへの侵入、体腔および脈管に入るための内皮基底膜の貫入、そして次に、血液によって輸送された後の、標的器官の浸潤に依存する。最後に、標的部位における新たな腫瘍、すなわち続発性腫瘍または転移性腫瘍の成長は、血管新生に依存する。腫瘍転移はしばしば原発性腫瘍の除去後にも起こるが、これは、腫瘍細胞または腫瘍構成要素が残存していて、転移能を発生させうるからである。ある実施形態において、「転移」という用語は、本発明によれば、「遠隔転移」に関し、これは、原発性腫瘍および所属リンパ節系から遠く離れた転移に関する。
【0288】
続発性腫瘍または転移性腫瘍の細胞は、もとの腫瘍における細胞に似ている。これは、例えば、卵巣がんが肝臓に転移した場合、続発性腫瘍は異常な肝細胞ではなく異常な卵巣細胞で構成されることを意味する。肝臓における腫瘍は、その場合、肝がんではなく転移性卵巣がんと呼ばれる。
【0289】
卵巣がんの場合、転移は、次に挙げる形で起こりうる:直接的接触または拡張によるもの(卵巣がんは、卵巣の近くまたは周囲に位置する隣接組織または隣接器官、例えばファロピウス管、子宮、膀胱、直腸などに侵入することができる);腹腔への播種または脱落によるもの(これは、卵巣がんが伝播する形として最もよく見られるものであり、がん細胞は卵巣塊の表面を突き破り、肝臓、胃、結腸または横隔膜などの腹部内の他の構造体へと「落ちる」);卵巣塊から離脱してリンパ管に侵入し、次に身体の他の領域または肺もしくは肝臓などの遠隔器官へと移動するもの;卵巣塊から離脱して血液系に侵入し、身体の他の領域または遠隔器官へと移動するもの。
【0290】
本発明によれば、転移性卵巣がんには、ファロピウス管におけるがん、腹部の器官におけるがん、例えば腸におけるがん、子宮におけるがん、膀胱におけるがん、直腸におけるがん、肝臓におけるがん、胃におけるがん、結腸におけるがん、横隔膜におけるがん、肺におけるがん、腹部または骨盤(腹膜)の内層におけるがん、および脳におけるがんが含まれる。同様に、転移性肺がんとは、肺から体内の遠隔部位および/またはいくつかの部位に伝播したがんを指し、これには、肝臓におけるがん、副腎におけるがん、骨におけるがん、および脳におけるがんが含まれる。
【0291】
再燃または再発は、ある人が、過去に罹患した状態に再び罹患した場合に起こる。例えば、ある患者が腫瘍疾患を患い、前記疾患の処置を受けて成功を収めたことがあり、再び該疾患を発症した場合、該新たに発症した疾患を再燃または再発とみなすことができる。ただし、本発明によれば、腫瘍疾患の再燃または再発は、もとの腫瘍疾患の部位でも起こりうるものの、必ずしも、もとの腫瘍疾患の部位で起こるとは限らない。したがって例えば、ある患者が卵巣腫瘍を患い、処置を受けて成功を収めたことがある場合、再燃または再発は卵巣腫瘍の発生である場合も、卵巣とは異なる部位での腫瘍の発生である場合もありうる。腫瘍の再燃または再発には、腫瘍がもとの腫瘍の部位に発生する状況だけでなく、もとの腫瘍の部位とは異なる部位に発生する状況も含まれる。好ましくは、患者が処置を受けたもとの腫瘍は原発性腫瘍であり、もとの腫瘍の部位とは異なる部位にある腫瘍は、続発性または転移性腫瘍である。
【0292】
「処置する」とは、疾患を防止または排除すること(対象における腫瘍のサイズまたは腫瘍の数を低減することを含む);対象における疾患を停止または遅延させること;対象における新しい疾患の発生を阻害するか遅延させること;現在疾患を有しているか、過去に疾患を有していた対象における、症状および/または再発の頻度もしくは重症度を減少させること;および/または対象の寿命を延長、すなわち増加させることを目的として、本明細書に記載する化合物または組成物を対象に投与することを意味する。
【0293】
特に「疾患の処置」という用語には、疾患またはその症状を治療すること、その持続時間を短縮すること、改善させること、防止すること、その進行または悪化を減速させまたは阻害すること、あるいはその発症を防止しまたは遅延させることが含まれる。
【0294】
「危険性がある」とは、母集団と比較して、疾患、特にがんを発生させる可能性が通常より高いと同定された対象、すなわち患者を意味する。加えて、疾患、特にがんを有していた対象または現在有している対象は、疾患を発生させる危険性が増加している対象であり、したがって、対象は疾患を発生させ続ける可能性がある。がんを現在有している対象またはがんを有していた対象は、がん転移の危険性も増加している。
【0295】
「免疫療法」という用語は、特異的免疫反応が関わる処置に関する。本発明において、「防御する」、「防止する」、「予防的」、「防止的」または「防御的」などの用語は、個体における疾患の発生および/または増殖の防止もしくは処置またはその両方、特に対象が疾患を発生させる可能性を最小限に抑えること、または疾患の発生を遅延させることに関する。例えば、上述のように腫瘍の危険性がある人は、腫瘍を防止するための治療の候補であるだろう。
【0296】
免疫療法の予防的施行、例えば本発明の組成物の予防的投与は、好ましくは、疾患の発生からレシピエントを防御する。免疫療法の治療的施行、例えば本発明の組成物の治療的投与は、疾患の進行/成長の阻害につながりうる。これは、疾患の進行/成長の減速、特に、好ましくは疾患の排除につながる、疾患の進行の分断を含む。
【0297】
免疫療法は、ここに提供される作用物質が抗原発現細胞を患者から除去するように機能するさまざまな技法を、どれでも使って行うことができる。そのような除去は、抗原または抗原を発現する細胞に特異的な患者の免疫応答を強化または誘導した結果として起こりうる。
【0298】
一定の実施形態において、免疫療法は能動免疫療法であることができ、この場合、処置は、免疫応答修飾作用物質(ここに提供されるようなペプチドおよび核酸など)を投与して、疾患細胞に対して反応するように内在性宿主免疫系をインビボで刺激することに依る。
【0299】
他の実施形態において、免疫療法は受動免疫療法であることができ、この場合は、処置が、直接的または間接的に抗腫瘍効果を媒介することができかつ必ずしも無傷な宿主免疫系に依存しない確立された腫瘍免疫反応性を有する作用物質(例えばエフェクター細胞)の送達を伴う。エフェクター細胞の例には、Tリンパ球(例えばCD8+ 細胞傷害性Tリンパ球およびCD4+ Tヘルパーリンパ球)、および抗原提示細胞(例えば樹状細胞およびマクロファージ)が含まれる。養子免疫療法のために、本明細書において言及するペプチドに特異的なT細胞受容体をクローニングし、発現させ、他のエフェクター細胞に移入することができる。
【0300】
上述のように、免疫療法用に十分な数の細胞を生成させるために、本明細書に記載するような免疫反応性ペプチドを使って、抗原特異的T細胞培養を迅速に拡大することができる。特に、抗原提示細胞、例えば樹状細胞、マクロファージ、単球、線維芽細胞および/またはB細胞に、免疫反応性ペプチドをパルスするか、当技術分野において周知の標準的技法を使って1つ以上の核酸をトランスフェクトすることができる。治療に使用するための培養エフェクター細胞は、成長させて広く配送することと、インビボで長期間生き残ることが可能でなければならない。IL-2を補足した抗原で繰り返し刺激することにより、培養エフェクター細胞を、インビボで成長させ、かなりの数を長期間生き残らせることが可能であることは、研究によって明らかにされている(例えばCheever et al. (1997), Immunological Reviews
157, 177を参照されたい)。
【0301】
あるいは、本明細書において言及するペプチドを発現する核酸を、患者から採取した抗原提示細胞に導入し、同じ患者に移植し戻すためにエクスビボでクローン増殖させてもよい。
【0302】
トランスフェクト細胞は、当技術分野において知られる任意の手段を使って、好ましくは静脈内、腔内、腹腔内または腫瘍内投与により、好ましくは滅菌された形態で、患者に再導入することができる。
【0303】
本明細書に開示する方法は、ペプチドまたはペプチドを発現する抗原提示細胞胞に応答して活性化された自己T細胞の投与を伴いうる。そのようなT細胞はCD4+および/またはCD8+であることができ、上述のように増殖させることができる。T細胞は、疾患の発生を阻害するのに有効な量で、対象に投与することができる。
【0304】
ここに提供される作用物質および組成物は、単独で使用するか、外科手術、放射線照射、化学療法および/または骨髄移植(自己、同系、同種異系または無関係)などといった従来の治療レジメンと組み合わせて使用することができる。
【0305】
「免疫処置」(immunization)または「ワクチン接種」(vaccination)という用語は、治療的または予防的理由で免疫応答を誘導するという目的をもって、対象を処置するプロセスをいう。
【0306】
「インビボで」という用語は、対象内の状況に関する。
【0307】
「対象」、「個体」、「生物」または「患者」という用語は可換的に使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳動物に関する。例えば、本発明との関連において哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマなどの家畜、マウス、ラット、ウサギ、モルモットなどの実験動物、ならびに動物園の動物などといった飼育下の動物である。本明細書において使用される「動物」という用語にはヒトも含まれる。「対象」という用語には、患者、すなわち疾患(好ましくは本明細書に記載するような疾患)を有する動物(好ましくはヒト)も含めることができる。
【0308】
「自己」(autologous)という用語は、同じ対象に由来するものを記述するために使用される。例えば「自己移植」とは、同じ対象に由来する組織または器官の移植を指す。そのような手法は、そうでなければ拒絶をもたらす免疫学的障壁を克服するので、有利である。
【0309】
「異種」(heterologous)という用語は、複数の異なる要素からなるものを記述するために使用される。一例として、ある個体の骨髄を異なる個体に移入することは、異種移植を構成する。異種遺伝子とは、当該対象以外の供給源に由来する遺伝子である。
【0310】
免疫処置またはワクチン接種のための組成物の一部として、好ましくは、本明細書に記載する1つ以上の作用物質が、免疫応答を誘導するためのまたは免疫応答を増加させるための1つ以上のアジュバントと一緒に投与される。「アジュバント」という用語は、免疫応答を延長または強化または加速する化合物に関する。本発明の組成物は、好ましくは、アジュバントを添加しなくても、その効果を発揮する。それでもなお、本願の組成物は任意の既知アジュバントを含有しうる。アジュバントは、油エマルション(例えばフロイントアジュバント)、ミネラル化合物(例えばミョウバン)、細菌産物(例えば百日咳菌(
Bordetella pertussis)毒素)、リポソーム、および免疫刺激複合体など、不均一な一群の化合物を含む。アジュバントの例は、モノホスホリルリピドA(MPL SmithKline Beecham)、QS21(SmithKline Beecham)、DQS21(SmithKline Beecham;WO 96/33739)、QS7、QS17、QS18、およびQS-L1(So et al, 1997, Mol. Cells 7:178-186)などのサポニン、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、ビタミンE、モンタナイド、ミョウバン、CpGオリゴヌクレオチド(Krieg et al., 1995, Nature 374:546-549)、ならびにスクアレンおよび/またはトコフェロールなどの生物学的に分解可能な油から調製されたさまざまな油中水型エマルションである。
【0311】
本発明によれば、「試料」は、本発明に従って有用である任意の試料、特に体液を含む組織試料および/または細胞試料などの生物学的試料であることができ、パンチ生検を含む組織生検や、血液、気管支吸引液、喀痰、尿、糞便または他の体液の採取などといった、従来の方法で得ることができる。本発明によれば、「試料」という用語には、加工された試料、例えば生物学的試料の画分または単離物、例えば核酸およびペプチド/タンパク質単離物なども含まれる。
【0312】
患者の免疫応答を刺激する他の物質も投与することができる。例えばワクチン接種では、サイトカインを、リンパ球に対するその調節特性ゆえに、使用することが可能である。そのようなサイトカインには、例えば、ワクチンの防御作用を増加させることが示されているインターロイキン-12(IL-12)(
Science 268:1432-1434, 1995参照)、GM-CSFおよびIL-18が含まれる。
【0313】
免疫応答を強化し、それゆえにワクチン接種において使用しうる化合物は、いくつも知られている。該化合物には、タンパク質または核酸の形態で提供される共刺激分子、例えばB7-1およびB7-2(それぞれCD80およびCD86)が含まれる。
【0314】
本発明の治療活性剤は、注射または注入による投与を含む任意の従来経路によって投与することができる。投与は、例えば、経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下または経皮的に行うことができる。
【0315】
本明細書に記載する作用物質は有効量で投与される。「有効量」とは、単独で、またはさらなる投薬と一緒に、所望の反応または所望の効果を達成する量を指す。特定の疾患または特定の状態を処置する場合、所望の反応とは、好ましくは、その疾患の経過の阻害に関する。これは、疾患の進行を遅くすること、特に疾患の進行を中断することまたは反転させることを含む。疾患または状態の処置における所望の反応は、前記疾患または前記障害の発症の遅延または発症の防止でもありうる。
【0316】
本明細書に記載する作用物質の有効量は、処置すべき状態、疾患の重症度、年齢、生理学的状態、サイズおよび体重を含む患者の個体パラメータ、処置の継続期間、併用療法(存在する場合)のタイプ、具体的投与経路などといった因子に依存するであろう。したがって、本明細書に記載する作用物質の投与量は、さまざまな上記パラメータに依存しうる。患者における反応が初回用量では不十分な場合は、より高い用量(または、より局所的な異なる投与経路によって達成される、事実上、より高い用量)を使用することができる。
【0317】
本発明の医薬組成物は、好ましくは滅菌されており、所望の反応または所望の効果が生じるように、有効量の治療活性物質を含有している。
【0318】
本発明の医薬組成物は、一般に、医薬適合量で、かつ医薬適合調製物に入れて、投与される。「医薬適合(性)」という用語は、医薬組成物の活性構成要素の作用と相互作用しない無毒性材料を指す。この種の調製物は、通常、塩類、緩衝物質、保存剤、担体、補助免疫強化物質、例えばCpGオリゴヌクレオチドなどのアジュバント、サイトカイン、ケモカイン、サポニン、GM-CSFおよび/またはRNAなど、そして適宜、他の治療活性化合物を含有しうる。医薬品に使用する場合、塩類は医薬適合性であるべきである。ただし、医薬適合性でない塩類も、医薬適合性塩を調製するために使用することができ、医薬適合性でない塩類も、本発明に含まれる。薬理学的および医薬的に適合するこの種の塩類には、限定するわけではないが、次に挙げる酸から調製されたものが含まれる:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸など。医薬適合性塩は、ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩として調製することもできる。
【0319】
本発明の医薬組成物は、医薬適合性担体を含むことができる。「担体」という用語は、適用を容易にするために活性構成要素がそこに混合される天然のまたは合成の有機または無機構成要素を指す。本発明によれば、「医薬適合性担体」という用語には、患者への投与に適した1つ以上の適合性の固形または液状の充填剤、希釈剤または封入物質が含まれる。本発明の医薬組成物の構成要素は、通常は、所望の医薬効力を実質的に損なう相互作用が起こらないようなものである。
【0320】
本発明の医薬組成物は、塩中の酢酸、塩中のクエン酸、塩中のホウ酸、および塩中のリン酸などといった、適切な緩衝物質を含有することができる。
【0321】
医薬組成物は、適宜、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールなどの適切な保存剤も含有することができる。
【0322】
医薬組成物は通常は均一な剤形で提供され、自体公知の方法で調製することができる。本発明の医薬組成物は、例えばカプセル剤、錠剤、口中錠、溶液、懸濁液、シロップ剤、エリキシル剤の形態、またはエマルションの形態を取りうる。
【0323】
非経口投与に適した組成物は、通常、好ましくはレシピエントの血液と等張な、活性化合物の滅菌水性または非水性調製物を含む。適合性担体および適合性溶媒の例は、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液である。加えて、通常は滅菌された固定油が、溶液または懸濁液の媒質として使用される。
【0324】
本発明を図面と以下の実施例によって詳しく説明するが、これらは例示を目的として使用されているに過ぎず、限定を意図していない。これらの説明と実施例とにより、当業者は、本発明に同様に包含されるさらなる実施形態に到達することができる。
【実施例】
【0325】
ここで使用する技法および方法は、本明細書において説明するか、または自体公知の方法で、例えばSambrook et al.「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第2版(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州コールドスプリングハーバーに記載されているように行われる。キットおよび試薬の使用を含む全ての方法は、別段の具体的表示がある場合を除き、製造者の情報に従って行われる。
【0326】
[実施例1:材料および方法]
血清タイピング
完全長NY-ESO-1またはTPTEのN末端(アミノ酸1〜51)のどちらか一方を発現する細菌の粗溶解物に基づくELISA(CrELISAまたは粗溶解物酵素結合免疫吸着アッセイ(
Crude lysate
Enzyme-
Linked
Immuno
Sorbent Assay))を、IgG自己抗体の決定に関する既述のプロトコール(Tureci, O. et al. (2004), J. Immunol. Methods
289, 191-199)に従って使用した。CMV血清陽性は、ポリクローナルCMV特異的IgG応答を検出する標準的ELISAによって分析した。
【0327】
細胞株および試薬
ヒトリンパ腫細胞株SupT1(ATCC番号CRL-1942)またはJurkat76(Heemskerk, M.H. et al. (2003), Blood
102, 3530-3540)(どちらも内在性TCRの表面発現を欠く)、マウス胎児線維芽細胞細胞株NIH3T3(DSMZ番号ACC 59)およびヒト慢性骨髄性白血病細胞株K562(Lozzio, C.B. & Lozzio, B.B (1975), Blood
45, 321-334)は、標準的条件下で培養した。検証アッセイには、HLAアレロタイプを一過性または安定にトランスフェクトしたK562細胞(Britten, C.M. et al. (2002), J. Immunol. Methods
259, 95-110)(例えばK562-A
*0201などという)を使用した。初代ヒト新生児包皮線維芽細胞細胞株CCD-1079Sk (ATCC番号CRL-2097)は、製造者の指示に従って培養した。HLA A
*0201拘束性チロシナーゼ由来エピトープTyr
368-376に特異的な単一特異性CTL細胞株IVSB(Wolfel, T. et al. (1993), Int. J. Cancer
55, 237-244;Wolfel, T. et al. (1994) Eur. J. Immunol.
24, 759-764)は、10%ヒトAB血清(Lonza、スイス・バーゼル)、350IU/ml IL-2(Richter-Helm BioLogics、ドイツ・ハンブルク)、5ng/mL IL-7(PeproTech、ドイツ・フランクフルト)および10ng/ml IL-15(R&D Systems、ドイツ・ウィースバーデン-ノルデンシュタット)を含むAIM-V培地(Invitrogen、ドイツ・カールスルーエ)中で培養し、週に1回、照射SK29-MelおよびAK-EBV細胞で刺激した。
【0328】
末梢血単核球(PBMC)、単球および樹状細胞(DC)
PBMCは、バフィーコートまたは血液試料から、Ficoll-Hypaque(Amersham Biosciences、スウェーデン・ウプサラ)密度勾配遠心分離によって単離した。HLAアレロタイプはPCR標準法によって決定した。抗CD14マイクロビーズ(Miltenyi Biotech、ドイツ・ベルギッシュグラートバッハ)を使って、単球を濃縮した。未熟DC(iDC)は、Kreiter et al. (2007), Cancer Immunol. Immunother., CII,
56, 1577-87に記述されているように、サイトカインを補足した培養培地中で単球を5日間分化させることによって得た。
【0329】
ペプチドおよび刺激細胞のペプチドパルス処理
CMV-pp65、HIV-gag、TPTE、NY-ESO-IまたはPLAC1の配列に対応する11アミノ酸オーバーラップを有するN末端およびC末端遊離15マー・ペプチドのプール(抗原ペプチドプールという)を標準的な固相化学(JPT GmbH、ドイツ・ベルリン)によって合成し、最終濃度が0.5mg/mlになるようにDMSOに溶解した。ノナマーペプチドは、PBS10%DMSO中に再構成した。パルス処理のために、異なるペプチド濃度を使って、刺激細胞を、培養培地中、37℃で1時間インキュベートした。
【0330】
RNAのインビトロ転写(IVT)のためのベクター
全てのコンストラクトは、既述のpST1-sec-insert-2βgUTR-A(120)-Sap1プラスミド(Holtkamp, S. et al. (2006), Blood
108, 4009-4017)の変異体である。ヒトTCR鎖をコードするプラスミドを得るために、TCR-αまたはTCR-β
1およびTCR-β
2定常領域をコードするcDNAをヒトCD8+ T細胞から増幅し、このバックボーン中にクローニングした。マウスTCR鎖をコードするプラスミドを作製する場合は、TCR-α、-β
1および-β
2定常領域をコードするcDNAを供給業者に注文し、同様にクローニングした(それぞれGenBankアクセッション番号M14506、M64239およびX67127)。特異的V(D)J PCR産物を、そのようなカセットに導入することで、完全長TCR鎖を得た(pST1-ヒト/マウスTCRαβ-2βgUTR-A(120)と呼ぶ)。
【0331】
同様に、ドナーのPBCMからクローニングした個々のHLAクラスIおよびIIアレルならびにヒトDC由来のβ2-ミクログロブリン(microgobulin)(B2M)cDNAを、このバックボーン中に挿入した(pST1-HLAクラスI/II-2βgUTR-A(120)およびpST1-B2M-2βgUTR-A(120)と呼ぶ)。
【0332】
分泌シグナル(sec)およびMHCクラスI輸送シグナル(MITD)に連結された、CMVのpp65抗原をコードするプラスミド(pST1-sec-pp65-MITD-2βgUTR-A(120))およびNY-ESO-Iをコードするプラスミド(pST1-sec-NY-ESO-1-MITD-2βgUTR-A(120))は、既述である(Kreiter, S. et al. (2008), J. Immunol.
180, 309-318)。PLAC1をコードするプラスミドpST1-sec-PLAC1-MITD-2βgUTR-A(120)は、Kreiterらのバックボーン中に、供給業者から入手したcDNA(GenBankアクセッション番号NM_021796)をクローニングすることによって作製した。TPTEをコードするプラスミドpST1-αgUTR-TPTE-2βgUTR-A(120)およびpST1-αgUTR-TPTE-MITD-2βgUTR-A(120)は、追加されたα-グロビン5'-非翻訳領域を特徴とするHoltkampらのベクターの変異体中に、供給業者から入手したcDNA(GenBankアクセッション番号AF007118)をクローニングすることによって作製した。
【0333】
プライマーはOperon Biotechnologies(ドイツ・ケルン)から購入した。
【0334】
インビトロ転写(IVT)RNAの作製および細胞への移入
IVT RNAの作製は既述のとおりに行い(Holtkamp, S. et al. (2006), Blood
108, 4009-4017)、予冷した4mmギャップの滅菌エレクトロポレーションキュベット(Bio-Rad Laboratories GmbH、ドイツ・ミュンヘン)中のX-VIVO 15培地(Lonza、スイス・バーゼル)に懸濁した細胞に加えた。エレクトロポレーションはGene-Pulser-II装置(Bio-Rad Laboratories GmbH、ドイツ・ミュンヘン)で行った(T細胞:450V/250μF;IVSB T細胞:350V/200μF;SupT1(ATCC番号CRL-1942):300V/200μF;ヒトDC:300V/150μF;K562:200V/300μF)。
【0335】
抗原特異的T細胞のインビトロ拡大
2.5×10
6PBMC/ウェルを24ウェルプレートに播種し、ペプチドプールをパルスし、5%AB血清、10U/ml IL-2および5ng/ml IL-7を補足した完全培養培地中で1週間培養した。一部の実験については、CD8+またはCD4+ T細胞を、陽性磁気細胞選別(positive magnetic cell sorting)(Miltenyi Biotech、ドイツ・ベルギッシュグラートバッハ)によってPBMCから精製してから、2×10
6個のエフェクターと、抗原をコードするRNAをエレクトロポレートするかオーバーラップペプチドプールをパルスした3×10
5個の自己DCとを、5%AB血清、10U/ml IL-2、および5ng/ml IL-7を補足した完全培地中で1週間、共培養することにより、拡大した。
【0336】
IFNγ分泌アッセイ後の抗原特異的CD8+またはCD4+ T細胞の単一細胞選別
単一抗原特異的CD8+またはCD4+ T細胞のフローサイトメトリー選別を、新たに単離されたT細胞またはPBMCから、エクスビボで直接的に、または1週間の抗原特異的拡大後に行った。2×10
6個のT細胞またはPBMCを、ペプチドプールを負荷するか各抗原または対照抗原をコードするIVT RNAをトランスフェクトした3×10
5個の自己DCで、刺激モードに応じて4〜15時間、刺激した。細胞を収穫し、IFNγ分泌アッセイキット(Miltenyi Biotech、ドイツ・ベルギッシュグラートバッハ)に従って、フィコエリトリン(PE)コンジュゲート抗IFNγ抗体、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲート抗CD8およびアロフィコシアニン(APC)コンジュゲート抗CD4抗体で処理した。選別は、BD FACS Ariaフローサイトメーター(BD Biosciences、ドイツ・ハイデルベルク)で行った。IFNγとCD8またはCD4に関して二重に陽性である細胞を選別し、フィーダー細胞としてNIH3T3マウス線維芽細胞が入っている96ウェルV底プレート(Greiner Bio-One GmbH、ドイツ・ゾーリンゲン)に、1ウェルにつき1細胞を収穫し、4℃で遠心分離し、直ちに-80℃で保存した。
【0337】
IVT RNAを使ったHLA A2.1/DR1マウスの節内免疫処置によるT細胞のインビボプライミング
A2.1/DR1マウス(Pajot A. et al. (2004), Eur. J. Immunol.
34, 3060-69)のT細胞を、抗原をコードするIVT RNAを用いる反復節内免疫処置により、目的の抗原に対してインビボでプライミングした(Kreiter S. et al. (2010), Cancer Research
70, 9031-40)。節内免疫処置のために、マウスをキシラジン/ケタミンで麻酔した。鼠径部リンパ節を外科的に露出させ、極細針(31G、BD Biosciences)を付けた使い捨て0.3ml注射器を使って、リンゲル液およびRnaseフリー水に希釈した10μL RNA(20μg)をゆっくり注射し、術創を閉じた。6回の免疫処置サイクル後にマウスを屠殺し、脾臓細胞を単離した。
【0338】
脾臓細胞の収穫
脾臓を滅菌条件下で切離した後、それらをPBSが入っているファルコンチューブに移した。脾臓を鉗子で機械的に破壊し、セルストレーナー(40μm)で細胞懸濁液を得た。脾細胞をPBSで洗浄し、遠心分離し、赤血球溶解用の低張緩衝液に再懸濁した。室温で5分間インキュベートした後、20〜30mlの培地またはPBSを添加することによって反応を停止させた。脾臓細胞を遠心分離し、PBSで2回洗浄した。
【0339】
CD137染色後の抗原特異的CD8+ T細胞の単一細胞選別
抗原特異的再刺激のために、免疫処置A2.1/DR1マウスからの脾臓細胞2.5×10
6個/ウェルを24ウェルプレートに播種し、目的の抗原または対照抗原をコードするオーバーラップペプチドのプールをパルスした。24時間のインキュベーション後に、細胞を収穫し、FITCコンジュゲート抗CD3抗体、PEコンジュゲート抗CD4抗体、PerCP-Cy5.5コンジュゲート抗CD8抗体およびDylight-649コンジュゲート抗CD137抗体で染色した。選別はBD FACS Ariaフローサイトメーター(BD Biosciences)で行った。CD137、CD3およびCD8またはCD4に関して陽性な細胞を選別し、フィーダー細胞としてヒトCCD-1079Sk細胞が入っている96ウェルV底プレート(Greiner Bio-One)に、1ウェルにつき1細胞を収穫し、4℃で遠心分離し、-80℃で保存した。
【0340】
選別された細胞からのRNA抽出、SMART法に基づくcDNA合成および非特異的増幅
選別されたT細胞から、RNeasy Micro Kit(Qiagen、ドイツ・ヒルデン)を使って、供給者の指示に従って、RNAを抽出した。cDNA合成には、変更を加えたBD SMARTプロトコールを使用した。すなわち、BD PowerScript逆転写酵素(BD Clontech、カリフォルニア州マウンテンビュー)を、第1鎖反応をプライミングするためのオリゴ(dT)-
T-primer longおよびオリゴ(リボG)配列を導入する
TS-short(Eurogentec S.A.、ベルギー・セラン)と組み合わせることで、逆転写酵素のターミナルトランスフェラーゼ活性による伸長型テンプレートの生成とテンプレートスイッチとが可能になるようにした(Matz, M. et al. (1999) Nucleic Acids Res.
27, 1558-1560)。製造者の指示に従って合成された第1鎖cDNAを、200μM dNTPの存在下で5UのPfuUltra Hotstart High-Fidelity DNAポリメラーゼ(Stratagene、カリフォルニア州ラホーヤ)および0.48μMのプライマー
TS-PCRプライマーによる21サイクルの増幅に付した(サイクリング条件:95℃で2分、94℃で30秒、65℃で30秒、72℃で1分、72℃で6分間の最終伸長)。TCR遺伝子の増幅の成功を、ヒトまたはマウスTCR-β定常領域特異的プライマーで確認し、強いバンドが検出された場合にのみ、引き続きクロノタイプ特異的ヒトまたはマウスVα-/Vβ-PCRを行った。
【0341】
HLAクラスIまたはII配列を増幅するための第1鎖cDNAは、患者由来のPBMCから抽出された1〜5μgのRNAを使って、SuperScriptII逆転写酵素(Invitrogen)とオリゴ(dT)プライマーとで合成した。
【0342】
TCRおよびHLA増幅用のPCRプライマーの設計
ヒトTCRコンセンサスプライマーを設計するために、ImMunoGeneTics(IMGT)データベース(http://www.imgt.org)に列挙されている67個のTCR-Vβ遺伝子と54個のTCR-Vα遺伝子(オープンリーディングフレームおよび偽遺伝子)の全てを、それぞれの対応するリーダー配列と共に、BioEdit Sequence Alignment Editor(例えばhttp://www.bio-soft.net)でアラインメントした。最大3つの縮重塩基と、40〜60%のGC含量と、3'端にGまたはCとを有する24〜27bp長のフォワードプライマーを、可能な限り多くのリーダー配列にアニールするように設計し、稀な制限酵素部位とコザック配列とを特徴とする15bpの5'伸長部を設けた。リバースプライマーは、定常領域遺伝子の第1エクソンにアニールするように設計され、プライマー
TRACex1_
asはCαのアミノ酸7〜16に相当する配列に結合し、
TRBCex1_
asはCβ1およびCβ2中のアミノ酸(aa)8〜16に結合する。どちらのオリゴヌクレオチドも5'リン酸基を持つように合成した。プライマーを、同一のアニーリング温度を有する2〜5個のフォワードオリゴのプールにまとめた。
【0343】
マウスTCRコンセンサスプライマーの設計においてもこの戦略を繰り返して、リストに記載された129個のTCR-Vα遺伝子とリストに記載された35個のTCR-Vβ遺伝子をアラインメントした。リバースプライマー
mTRACex1_
asおよび
mTRBCex1_
asは、それぞれ、aa24〜31および8〜15に対応する配列に相同である。
【0344】
HLAコンセンサスプライマーは、Anthony Nolan Research Instituteウェブサイト(www.anthonynolan.com)に列挙されている全てのHLAクラスIおよびII配列を、BioEdit Sequence Alignment Editorでアラインメントすることによって設計した。1つの遺伝子座のHLA配列に可能な限り多くアニーリングする、縮重しているがコードは保っている塩基を最大で3つ有する23〜27bp長のフォワードプライマーに、5'リン酸基およびKozak配列伸長部とを設けた。リバースプライマーも同様に設計したが、ゆらぎ塩基は導入せず、
AsiSI制限酵素部位をコードする14bpの5'伸長部を設けた。
【0345】
V(D)JおよびHLA配列のPCR増幅およびクローニング
単離されたT細胞に由来する増幅済みcDNA 3〜6μlを、0.6μM Vα-/Vβ特異的オリゴプール、0.6μM Cα-またはCβ-オリゴ、200μM dNTPおよび5U Pfuポリメラーゼの存在下で、40サイクルのPCRに付した(サイクリング条件:95℃で2分、94℃で30秒、アニーリング温度で30秒、72℃で1分、72℃で6分の最終伸長時間)。Qiagenのキャピラリー電気泳動システムを使ってPCR産物を分析した。400〜500bpにバンドを有する試料をアガロースゲルでサイズ分画し、バンドを切り出し、Gel Extraction Kit(Qiagen、ドイツ・ヒルデン)で精製した。
TRBCex1_
asプライマーと
mTRBCex1_
asプライマーはそれぞれ、ヒトおよびマウスにおけるTCR定常領域遺伝子β1およびβ2の両方にそれぞれ合致するので、配列解析を行うことで、V(D)Jドメインとβ定常領域の両方の配列が明らかになった。DNAを消化し、完全なTCR-α/β鎖のための適当なバックボーンを含んでいるIVTベクター中にクローニングした。
【0346】
HLA配列は、特異的HLAクラスIまたはIIセンスおよびアンチセンスプライマーを使って、ドナー特異的cDNAから、2.5U Pfuポリメラーゼで、製造者の指示に従って増幅した。DRB3遺伝子の転写はDRB1遺伝子の転写の5分の1以下であるため(Berdoz, J. et al. (1987) J. Immunol.
139, 1336-1341)、DRB3遺伝子の増幅は、ネステッドPCRアプローチを使って2段階で行った。PCRフラグメントを精製し、
AsiSI消化し、
EcoRV消化および
AsiSI消化したIVTベクター中にクローニングした。インサート内のEciI部位またはSapI部位は、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene、カリフォルニア州ラホーヤ)を使って変異させた。
【0347】
フローサイトメトリー分析
トランスフェクトされたTCR遺伝子の細胞表面発現を、TCRβ鎖の適当な可変領域ファミリーまたは定常領域に対するPEコンジュゲート抗TCR抗体(Beckman Coulter Inc.、米国フラートン)およびFITC/APC標識抗CD8/CD4抗体(BD Biosciences)を使って、フローサイトメトリーで分析した。FITC標識HLAクラスII特異的抗体(Beckman Coulter Inc.、米国フラートン)およびPE標識HLAクラスI特異的抗体(BD Biosciences)で染色することによってHLA抗原を検出した。フローサイトメトリー分析はFACS Calibur分析用フローサイトメーターでCellquest-Proソフトウェア(BD Biosciences)を使って行った。
【0348】
ルシフェラーゼ細胞傷害性アッセイ
細胞媒介性細胞傷害を評価するために、
51Cr放出法の代替および最適化として、バイオルミネセンスに基づくアッセイを確立した。標準的なクロム放出アッセイとは対照的に、このアッセイでは、共インキュベーション後の生存可能なルシフェラーゼ発現標的細胞の数を計算することによって、エフェクター細胞の溶解活性を測定する。標的細胞に、ホタルPhotinus pyralisのホタル・ルシフェラーゼ(EC 1.13.12.7)をコードするルシフェラーゼ遺伝子を安定にまたは一過性にトランスフェクトした。ルシフェラーゼは、ルシフェリンの酸化を触媒する酵素である。この反応はATP依存的であり、2段階で起こる:
ルシフェリン+ATP→ルシフェリルアデニレート+PP
i
ルシフェリルアデニレート+O
2→オキシルシフェリン+AMP+光。
【0349】
標的細胞を、白色96ウェルプレート(Nunc、ドイツ・ウィースバーデン)に、1ウェルあたり10
4細胞の濃度でプレーティングし、100μlの最終液量で、さまざまな数のTCRトランスフェクトT細胞と共培養した。3時間後に、50μlのD-ルシフェリン(BD Biosciences)含有反応ミックス(ルシフェリン(1μg/μl)、HEPES緩衝液(50mM、米国セントルイス)、アデノシン5'-トリホスファターゼ(ATPアーゼ、0.4mU/μl、Sigma-Aldrich、米国セントルイス)を細胞に添加した。反応ミックスへのATPアーゼの添加により、死細胞から放出されたルシフェラーゼに起因するルミネセンスを減少させた。
【0350】
4時間の総インキュベーション時間後に、生細胞によって放射されるバイオルミネセンスを、Tecan Infinite 200リーダー(Tecan、ドイツ・クライルスハイム)を使って測定した。2%Triton-X 100の添加によって誘導される完全な細胞溶解後に得られるルミネセンス値に対して、標的細胞のみによって放射されるルミネセンスと関連付けて、殺細胞活性を計算した。データ出力の単位はカウント毎秒(CPS)とし、特異的溶解百分率は次のように計算した:
(1-(CPS
exp−CPS
min)/(CPS
max−CPS
min)))*100。
【0351】
最大ルミネセンス(最大カウント毎秒、CPSmax)は、エフェクターなしで標的細胞をインキュベートした後に評価し、最小ルミネセンス(CPSmin)は、完全な溶解のために洗浄剤Triton-X-100で標的を処理した後に評価した。
【0352】
ELISPOT(Enzyme-Linked ImmunoSPOT assay;酵素結合免疫スポットアッセイ)
マイクロタイタープレート(Millipore、米国マサチューセッツ州ベッドフォード)に、抗IFNγ抗体1-D1k(Mabtech、スウェーデン・ストックホルム)を、室温で終夜コーティングし、2%ヒトアルブミン(CSL Behring、ドイツ・マールブルク)でブロックした。2〜5×10
4個/ウェルの抗原提示刺激細胞を、エレクトロポレーションの24時間後に、0.3〜3×10
5個/ウェルのTCRトランスフェクトCD4+またはCD8+エフェクター細胞と共に、三つ一組にしてプレーティングした。プレートを終夜(37℃、5%CO
2)インキュベートし、PBS 0.05%Tween 20で洗浄し、最終濃度1μg/mlの抗IFNγビオチン化mAB 7-B6-1(Mabtech)と共に、37℃で2時間インキュベートした。アビジン結合セイヨウワサビペルオキシダーゼH(Vectastain Elite Kit;Vector Laboratories、米国バーリンゲーム)をウェルに添加し、室温で1時間インキュベートし、3-アミノ-9-エチルカルバゾール(Sigma、ドイツ・ダイゼンホーフェン)で呈色させた。
【0353】
[実施例2:ウイルス抗原CMV-pp65に特異的なTCRの単離]
健常ドナーの末梢血において高頻度の抗原特異的T細胞を誘導することが知られているヒトサイトメガロウイルス(CMV)ホスホプロテイン65(CMV-pp65、pp65、65kDa下部(lower)マトリックスリンタンパク質、UL83)をモデル抗原として使用して、TCR単離/検証プロトコール(
図2)を確立した。
【0354】
CMVは、血液または唾液などの体液を介して宿主に感染する遍在性β-ヘルペスウイルスである。健常個体では、一次CMV感染と内在性潜在性イルスの再活性化は、免疫系によって制御されるのに対し、移植レシピエントやAIDS患者などの免疫機能が低下した個体では、これが有意な罹病および死亡をもたらす。
【0355】
ウイルステグメントタンパク質pp65は、CMV特異的細胞傷害性Tリンパ球の主要標的の一つであり、免疫機能が低下していない血清陽性個体の末梢血に高頻度で存在する(Kern, F. et al. (1999), J. Virol.
73, 8179-8184;Wills, M.R. et al. (1996), J. Virol.
70, 7569-7579;Laughlin-Taylor, E. et al. (1994), J. Med. Virol.
43, 103-110)。
【0356】
血清陽性健常ドナーのCMV-pp65特異的IFNγ分泌CD8+ T細胞を、全pp65抗原をコードするIVT RNAをトランスフェクトした自己DCによる1週間の抗原特異的拡大および再チャレンジ後に、フローサイトメトリーによって単離した(
図2上段、
図3)。
【0357】
一組の配列特異的、部分縮重オリゴヌクレオチドを使って、TCRα/β可変領域を、単一T細胞から増幅した。増幅産物を、TCRα/β定常領域を含んでいるベクターの部位特異的にクローニングして、インスタント(instant)インビトロ転写用の完全長テンプレートを得た(
図2中段)。
【0358】
細胞表面発現を検証するために、本来は内在性TCR鎖の発現を欠いているSupT1細胞にTCRα/βRNAを移入し、フローサイトメトリーによって分析した(
図4)。
【0359】
クローン化TCRの機能的検証のために、チロシナーゼ由来エピトープTyr
368-376を認識する単一特異性T細胞株IVSB(Woelfel T. et al. (1994), Eur. J. Immunol 24, 759-64)に、TCR RNAをトランスフェクトし、pp65抗原に応答して起こる特異的サイトカイン分泌を、IFNγ-ELISPOTで分析した(
図2下段、
図5)。TCRは抗原全体による刺激によって生成させたので、それらを、pp65ペプチドプールまたはpp65をコードするIVT RNAをパルスした自己DCの特異的認識について評価した。無関係なTPTEペプチドプールを対照として使用した。TCR
CD8-CMV#1およびTCR
CD8-CMV#4は、どちらも、CMV血清陰性ドナーから単離された対照TCRと比較して、pp65を発現する標的細胞を特異的に認識した。
【0360】
HLA拘束要素を決定するために、TCR
CD8-CMV#1をトランスフェクトしたIVSB細胞を、患者の選択したHLAアレルを発現するペプチドパルスK562細胞との共培養後に、特異的IFNγ分泌について分析した(
図6上段)。HLA B
*3501が拘束要素と同定された。pp65ペプチドプールの個々の15マーを分析したところ、ペプチドP30、P31およびP32の認識が明らかになり、反応性はこの順に漸減した(
図6下段)。これにより、TCR
CD8-CMV#1によって認識されるエピトープの位置が、pp65のアミノ酸117〜131の領域内に特定されたことから、それが以前に報告された、免疫原性の高い、HLA-B
*3501拘束性エピトープCMV-pp65
123-131(配列:IPSINVHHY)(Gavin, M.A. et al. (1993), J. Immunol.
151, 3971-3980)と同一であることが示唆された。
【0361】
インビトロで高頻度になるまで拡大したpp65特異的CD8+ T細胞からのTCRの単離に成功した後、そのTCR単離プロトコールを、それより低頻度で存在するエクスビボ選別T細胞に応用した。
【0362】
HLA A
*0201陽性ドナーのPBMCから磁気精製したCD8+ T細胞を、免疫優性HLA A
*0201拘束性エピトープpp65
495-503をパルスした自己標的細胞で刺激し、活性化IFNγ分泌T細胞をフローサイトメトリーで選別した。
【0363】
pp65
495-503による前感作(presensitation)後にCD8+ T細胞からエクスビボで得たTCRの特異性を、IFNγ-ELISPOTアッセイで分析した。
図7に示すように、6つのTCRのうち4つが、対照ペプチドと比較してpp65
495-503をパルスしたK562-A
*0201細胞を認識するように、IVSB細胞をリダイレクトすることができた。対照的に、CMV血清陰性ドナーから単離された対照TCRを備えたIVSB細胞は、pp65
495-503をパルスしたK562-A
*0201細胞との共培養時に、IFNγを分泌しなかった。
【0364】
クローン化pp65特異的TCRが細胞溶解性エフェクター機能を媒介することもできることを示すために、ルシフェラーゼに基づく細胞傷害性アッセイを、TCR
CD8-CMV#1またはTCR
CD8-CMV#14をトランスフェクトしたIVSB細胞を使って行った。
【0365】
適当な標的細胞(それぞれpp65
117-131をパルスしたK562-B
*3501細胞またはペプチドpp65
495-503をパルスしたK562-A
*0201細胞)の特異的死滅を、IVSBエフェクターの内在性TCRによって媒介されるTyr
368-376をパルスしたK562-A
*0201細胞の死滅と比較した(
図8)。
【0366】
エフェクター対標的(E:T)比のタイトレーションにより、適当なpp66ペプチドをパルスした標的細胞は、TCRトランスフェクトIVSB細胞によって特異的に溶解されることが確認された。標的細胞の最大85%が、それぞれTCR
CD8-CMV#1およびTCR
CD8-CMV#14をトランスフェクトしたIVSB細胞によって殺された。注目すべきことに、組換えTCRは、広範囲にわたるE:T比で自然TCRと同等に効率のよい溶解を媒介した。
【0367】
要約すると、表1に列挙するように、13個のhCMV-pp65特異的TCRが、4人の異なるCMV血清陽性ドナーから得たCD4+およびCD8+ T細胞から、エクスビボで、または抗原特異的拡大後に、単離された。
【0368】
[実施例3:腫瘍抗原NY-ESO-1に特異的なTCRの単離]
高頻度の抗原特異的T細胞を引き出すウイルスモデル抗原としてCMV-pp65を用いる概念実証研究後に、本発明者らは、低存在量の腫瘍抗原特異的T細胞集団からTCRをクローニングする、本発明者らのアプローチの能力を評価した。腫瘍関連自己タンパク質に対する既存のT細胞の頻度は、持続性ウイルスによって引き出されるT細胞の頻度より、一般にはるかに低い。本発明者らの方法を腫瘍の状況に応用するために、本発明者らは、高度に免疫原性である腫瘍抗原NY-ESO-1を採用した。
【0369】
NY-ESO-1は、正常成体組織では、精巣生殖細胞においてのみ発現するがん/精巣抗原である。NY-ESO-1(同義語:CTG. CTAG、CTAG1、ESO1、LAGE-2、LAGE2、LAGE2A、LAGE2B、OTTHUMP00000026025、OTTHUMP00000026042)は、SEREXによって同定された最もよく特徴づけられたがん精巣抗原の一つであり(Chen, Y.T. et al. (1997), Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A
94, 1914-1918)、これは、メラノーマ、食道がん、乳がん、前立腺がん、尿路がん、卵巣がん、および肺がんを含むさまざまな悪性新生物において発現している(Chen, Y.T. et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A
94, 1914-1918;Jungbluth, A.A. et al. (2001) Int. J. Cancer
92, 856-860;Schultz-Thater, E. et al. (2000) Br. J. Cancer
83, 204-208)。これは、その固有の免疫原性ゆえに、腫瘍ワクチン接種戦略のモデル抗原として好まれている。NY-ESO-1は、NY-ESO-1発現腫瘍を保持する患者において、しばしば高力価の抗体応答を引き出し、NY-ESO-1に対する自己抗体応答は、しばしば、抗原特異的CD8+およびCD4+ T細胞の存在と関連することが示されている(Zeng, G. et al. (2001), Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A
98, 3964-3969;Jager, E. et al. (1998), J. Exp. Med.
187, 265-270;Gnjatic, S. et al. (2003), Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A
100, 8862-8867;Valmori, D. et al. (2007), Clin. Immunol.
122, 163-172)。
【0370】
本発明者らは、あるNSCLC患者を、NY-ESO-1に対する彼の自己抗体反応性に基づいて選択し、彼のバルクPBMCにNY-ESO-1ペプチドプールをパルスし、1週間拡大した。自己NY-ESO-1 RNAトランスフェクトDCへの曝露後に、IFNγ分泌CD8+ T細胞を選別し、単一細胞からTCRをクローニングした。同定されたTCRをNY-ESO-1発現標的細胞の特異的認識についてIFNγELISPOTアッセイで検証したところ、この患者からは7つの機能的NY-ESO-1特異的TCRが得られた。
図9に示すように、TCRは、NY-ESO-1ペプチドプールをパルスしたDCまたはNY-ESO-1 RNAをトランスフェクトしたDCを認識し、後者により、自然にプロセシングされたエピトープの認識が確認された。
【0371】
患者の個々のHLAクラスIアレルを発現するK562細胞(NY-ESO-1ペプチドプールをパルスしたもの)と共培養したTCRトランスフェクトIVSBエフェクターを使って、NY-ESO-1特異的TCRのHLA拘束性を、IFNγ-ELISPOTによって決定した。代表的な結果を
図10に示す。
【0372】
エピトープマッピングのために、IVSB T細胞にNY-ESO-1特異的TCRをトランスフェクトし、適当なHLA抗原を発現するK562細胞(NY-ESO-1タンパク質にまたがる個々のオーバーラップ15マー・ペプチドをパルスしたもの)と共培養した。NY-ESO-1ペプチドによるTCRトランスフェクトT細胞の反応性を、IFNγ-ELISPOTアッセイでアッセイした(
図11)。
【0373】
注目すべきことに、7つのTCR全てのエピトープが、NY-ESO-1タンパク質のアミノ酸85〜111に局在していた(
図11、12)。この領域は、疎水性配列ゆえに効率のよいプロテオソーム切断を受けることが知られており、さまざまなHLA拘束性を有する複数のエピトープにプロセシングされる(Valmori, D. et al. (2007), Clin. Immunol.
122, 163-172)。一連のノナマーをスクリーニングすることにより、本発明者らは、TCR
CD8-NY#5、#6、#8および#15のHLA-B
*3508拘束性エピトープを、NY-ESO-1
92-100(配列LAMPFATPM)に絞り込んだ(
図12)。
【0374】
CD8+ T細胞から単離されたNY-ESO-1特異的TCRが細胞溶解性エフェクター機能を媒介できることを示すために、TCRトランスジェニックIVSB細胞を、ペプチドパルスK562-A
*6801細胞の特異的死滅について分析した。
図13に示すように、IVSBエフェクターは、TCR
CD8-NY#2により、異なるE:T比で標的細胞を特異的に溶解するように再プログラムされた。
【0375】
他の2人の血清陽性NSCLC患者のCD4+ T細胞から単離されたTCRを検証したところ、9個の独立した機能的NY-ESO-1特異的TCRのクローニングがもたらされた。拘束要素の決定(
図14)とエピトープ局在の絞り込み(
図15)により、これらのTCRのうちの7つは、異なるHLAクラスIIアレロタイプとの関連においてaa117〜147を含むペプチドストレッチ中のエピトープを認識することが明らかになり、Tヘルパー細胞エピトープのホットスポットが示唆された(表5)。
【0376】
現在までに、16個のNY-ESO-1特異的TCRが、3人の異なるNSCLC患者に由来するCD4+およびCD8+からクローニングされ、HLA拘束性およびペプチド特異性に関して特徴づけられた(表2)。
【0377】
[実施例4:腫瘍抗原TPTEに特異的なTCRの単離]
TPTE(
Transmembrane
Phosphatase with
Tensin homology;同義語:CT44、PTEN2、EC 3.1.3.48、OTTHUMP00000082790)は、多くのヒトがんにおいて異常に転写される精子細胞特異的脂質ホスファターゼであるが(Chen, H. et al. (1999), Hum. Genet.
105, 399-409;Dong, X.Y. et al. (2003), Br. J. Cancer
89, 291-297;Singh, A.P. et al. (2008), Cancer Lett.
259, 28-38)、その免疫原性についてはほとんどわかっておらず、今までのところT細胞応答は報告されていない。
【0378】
TPTE特異的TCRを単離するために、CrELISAによるプレスクリーニングにおいて有意な吸光度値を示す3人のNSCLC患者を、TPTE特異的CD8+およびCD4+ T細胞の抗原特異的拡大およびフローサイトメトリー選別のために選択した。
【0379】
CD8+ T細胞から単離されたTCRを、TPTE発現標的細胞の認識について検証し、
図16にTCR
CD8TPT#3について例示的に示すように、HLA拘束性およびエピトープ特異性に関して特徴づけた。このTCRは、HLA B
*3501上にTPTEペプチドを提示するK562細胞を特異的に認識するように、IVSB細胞を再プログラムすることが示された(
図16上段)。HLA-B
*3501拘束性エピトープの位置は、TPTE 15マーP130、P131およびP132に特定され、TPTEのアミノ酸521〜535に相当するペプチドP131に対する反応性が最も高かった(
図16中段)。この領域をカバーする一連のノナマーを分析することにより、B
*3501結合モチーフの要件を満たしていて、2番目にアンカー残基としてプロリンを有し、4番目に荷電残基としてアスパラギン酸を有し、9番目に疎水性アミノ酸としてイソロイシンを有する、新規エピトープTPTE
527-535(配列YPSDFAVEI)を定義することができた(Falk, K. et al. (1993), Immunogenetics
38, 161-162)(
図16下段)。
【0380】
同様にして、CD4+ T細胞から単離されたTCRを、TPTEとドナーの個々のHLAクラスIIアレルとを発現するK562細胞の特異的認識について検証した(
図17)。HLA拘束性の決定後に、認識されるエピトープの位置を特定するために、TPTE特異的TCRをTPTE 15マー・ペプチドの認識について分析した(
図18)。
【0381】
今までに合計31個の機能的TPTE反応性TCRが同定され、そのうちの2つは、3人の異なるNSCLC患者のCD8+細胞に由来し、29個はCD4+ T細胞に由来する(表3)。単一ペプチドをパルスしたHLAアレル発現K562標的細胞を利用したエピトープの精密マッピングにより、エピトープはTPTEタンパク質配列の全体にわたって分布することが明らかになった(表5)。
【0382】
[実施例5:免疫処置A2.1/DR1マウスのT細胞からの高アフィニティPLAC1特異的TCRの単離]
栄養芽層特異的遺伝子PLAC1(
PLACenta-specific
1;同義語:OTTHUMP00000024066;がん/精巣抗原92)は、がん関連胎盤遺伝子の新規メンバーである(Koslowski M. et al. (2007), Cancer Research
67, 9528-34)。PLAC1は、広範囲にわたるヒト悪性疾患において異所性に発現し(最も頻繁に発現するのは乳がんである)、がん細胞の増殖、移動、および侵入に、本質的に関与する。PLAC1に特異的なTCRを得るために、本発明者らは、抗原特異的T細胞の供給源を変えた。がん患者の自然のレパートリーから単離されるTCRは、中枢性寛容機序ゆえに、通常、アフィニティーが低いので、本発明者らは、PLAC1に特異的な高アフィニティーT細胞を生成させるために、寛容を迂回する代替的アプローチを適用した。HLA A2.1/DR1トランスジェニックマウス(Pajot A. et al. (2004), Eur. J. Immunol.
34, 3060-69)のT細胞を、PLAC1をコードするIVT RNAを使った反復節内免疫処置により、インビボで、ヒトPLAC1抗原に対してプライミングした(Kreiter S. et al. (2010), Cancer Research
70, 9031-40)。これらのマウスから得られた脾臓細胞に、抗原特異的T細胞をそれらの活性化が誘導するCD137のアップレギュレーションに基づいて検出し単離した後で(
図19)、PLAC1オーバーラップペプチドを再チャレンジした。特筆すべきことに、5匹のマウスの全てにおいて、かなりのパーセンテージのPLAC1特異的T細胞(CD8+細胞の16〜48%にわたる)を、PLAC1 IVT RNAを使った節内免疫処置によって樹立することができた。
【0383】
マウスCD8+ T細胞からクローニングされたTCRを検証するために、TCR改変IVSB細胞を、PLAC1ペプチドをパルスしたK562-A
*0201細胞に応答して起こる特異的サイトカイン分泌について、IFNγ-ELISPOTで分析した(
図20)。合計11個のTCRが、対照抗原と比較して、PLAC1由来のペプチドをパルスされたK562-A
*0201細胞の特異的認識を媒介することが示された。注目すべきことに、PLAC1特異的TCRによって媒介されるIFNγ分泌は、IVSBエフェクターの内在性TCRによって媒介されるものと比較しても高かった。単一ペプチドをパルスしたHLAアレル発現K562標的細胞を利用したエピトープマッピングにより、同定されたPLAC1特異的TCRはいずれも、PLAC1のアミノ酸25〜43に相当する15マー・ペプチド7および8を認識することが、明らかになった(
図21)。この領域をカバーする一連のノナマーをスクリーニングすることにより、本発明者らは、2つのHLA-A
*0201拘束性エピトープ、すなわちPLAC1アミノ酸28〜36とアミノ酸30〜41(最適な認識はアミノ酸31〜39)を同定した(
図22、表5)。特筆すべきことに、4匹の異なるマウスから得られるPLAC1特異的TCRは全て、これら2つのエピトープを認識することが明らかになった。これは、これらのPLAC1ペプチドの優先的プロセシング(preferential procession)と、HLA A
*0201での効率のよい結合および提示を示している。どのTCRでも、アミノ酸31〜39に応答して起こるIFNγ分泌は、アミノ酸28〜36の場合よりも増加していた。後者は、一部のTCRによってのみ、適正に認識された。
【0384】
11個のPLAC1特異的TCR(表4)をクローニングし、HLA A
*0201によって提示される2つの免疫優性PLAC1エピトープ(表5)を同定することにより、本発明者らは、抗原をコードするIVT RNAを使った節内ワクチン接種によってインビボでプライミングされたA2/DR1マウスのT細胞を、TCR単離の供給源として利用できることを、明らかにすることができた。
【0385】
[結論]
本発明者らは、T細胞クローンまたはT細胞株の作製および拘束要素またはT細胞エピトープの予備知識を必要とすることなく、小さな抗原特異的T細胞集団から、免疫学的に関連のあるTCRを効率よくクローニングし、迅速に特徴づけるための、汎用性のあるプラットフォーム技術を確立することができた。
【0386】
本発明者らのTCR単離/検証アプローチをウイルス抗原および腫瘍抗原に使用することによって、70を超える抗原特異的TCR(表1、2、3、4)が発見され、そのうちの半分をはるかに超える数が、新規HLA提示エピトープに対するものであった(表5)。
【0387】
特筆すべきことに、単一のドナーから、CD8+ Tリンパ球にもCD4+ Tリンパ球にも由来するいくつかのTCR特異性が、並行してクローニングされ、それぞれの抗原を認識するようにT細胞エフェクターを再プログラムすることが明らかになった。
【0388】
このアプローチは、がん、自己免疫疾患および感染性疾患の分野における抗原特異的治療アプローチにとって大量の標的構造が利用可能であることと適切なTCR候補が少数であることとのギャップを埋める「規格品的」使用のために、TCRの大きなライブラリーを適時に作製することを可能にする。
【0389】
表
[表1]hCMV pp65特異的TCR
【表1】
【0390】
[表2]NY-ESO-1特異的TCR
【表2】
【0391】
[表3]TPTE特異的TCR
【表3-1】
【表3-2】
【0392】
[表4]PLAC1特異的TCR
【表4】
aIMGT命名法によるTCR V(D)J遺伝子の名称;例:Vβ7.9は、Vβ遺伝子サブグループ7の9番目の遺伝子であり、V7.9_3は、サブグループ7の遺伝子9の3番目のアレルである。アレルは、それがアレル1と異なる場合にのみ、下線によって指定する。
bHLAアレルの名称はHLA-と遺伝子座名で始まり、次に
*とアレルを指定する数字が続く。最初の2つの数字はアレルのグループを指定する。3番目と4番目の数字は同義アレル(synonymous allele)を指定する。5番目と6番目の数字は、その遺伝子のコード枠内の任意の同義変異(synonymous mutation)を表す。7番目と8番目の数字はコード領域外の変異を区別する。
cこのTCRベータ遺伝子はV12.4_1またはV12.4_2である。
dこのTCRベータ遺伝子はV6.2またはV6.3である。
eこのTCRアルファ遺伝子はV9D.1_1またはV9D.1_2である。
fこのTCRアルファ遺伝子はJ31_1またはJ31_2である。
g2つ以上のエピトープを認識するプロミスキャス(promiscous)TCR
aa=アミノ酸
【0393】
[表5]抗原hCMV pp65、NY-ESO-I、TPTE、PLAC1に由来するT細胞エピトープ
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【0394】
以下に、得られたT細胞受容体配列を示す。下線を付した配列はCDR配列であり、ここで、各T細胞受容体鎖における最初の配列はCDR1であり、続いてCDR2およびCDR3である。
【0395】
1.
hCMV pp65特異的T細胞受容体
【化2-1】
【化2-2】
【化2-3】
【化2-4】
【0396】
2.
NY-ESO-I特異的T細胞受容体
【化3-1】
【化3-2】
【化3-3】
【化3-4】
【化3-5】
【0397】
3.
TPTE特異的T細胞受容体
【化4-1】
【化4-2】
【化4-3】
【化4-4】
【化4-5】
【化4-6】
【化4-7】
【化4-8】
【化4-9】
【化4-10】
【0398】
4.
PLAC1特異的T細胞受容体
【化5-1】
【化5-2】
【化5-3】
【化5-4】