(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記蛍光プレートから被照射面に照射される光は、当該被照射面における波長350nm以上455nm以下の範囲の光の放射照度積分値をIAとし、当該被照射面における455nm超650nm以下の範囲の光の放射照度積分値をIBとしたとき、下記式(1)を満足するものであることを特徴とする請求項1に記載の光線力学的治療用光照射装置。
式(1) IA/IB=0.2〜5
前記光源部は、前記フレキシブル基板上に前記LED素子が配置された領域を取り囲むよう形成された壁材と、この壁材に取り囲まれた前記LED素子が配置された領域に、当該LED素子を覆うよう形成された保護樹脂層とを有し、
前記蛍光プレートは、前記保護樹脂層および壁材の上面を覆うよう配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の光線力学的治療用光照射装置。
被照射面に接触される透明性を有する接触部材が、少なくとも前記蛍光プレートを覆うよう設けられていることを特徴とする請求項6に記載の光線力学的治療用光照射装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のPDT用光照射装置においては、以下のような問題がある。
(1)皮膚疾患は、日光に対する暴露との関係から顔面や頸部に頻発することが知られている。そして、顔面例えば鼻部や頬部の表面は、平面ではなく凹凸の形状を有する。
一方、上記のPDT用光照射装置のように、複数のLED素子が配置された構成においては、被照射面における照度分布の均一化を図るために、LED素子として光の発散角が大きい(例えば発散全角が135°)ものが用いられる。然るに、発散角の大きいLED素子においては、照射距離に対する照度の依存性が大きいため、患部が鼻部や頬部のように凹凸を有するときには、凹部表面の照度が凸部表面の照度よりも相当に低くなる結果、いわゆる治療むらが生ずる。また、光の発散角が小さい(例えば発散全角が30°)LED素子を用いた場合には、照射距離に対する照度の依存性が小さくなるが、被照射面における照度分布の均一性が低いため、結局、治療むらが生ずる。
【0006】
(2)上記のPDT用光照射装置においては、第1のLED素子および第2のLED素子が交互に配列されているため、PDT用光照射装置が被照射面に接近して配置された場合には、被照射面には、第1のLED素子からの光による照度が大きい領域や第2のLED素子からの光による照度が大きい領域が生じる。従って、被照射面において分光分布の均一性が低くなる。また、PDT用光照射装置が被照射面に大きく離間して配置された場合には、被照射面における照度が低くなるので、十分な治療を行うためには、長い照射時間を要することとなる。
【0007】
(3)上記のPDT用光照射装置において第2のLED素子は、波長500〜520nmにピーク波長を有するものであるが、このようなLED素子として照度の高いものは実用化されていない。従って、上記のPDT用光照射装置を構成する場合には、第1のLED素子からの光を例えばフィルタ等によって減衰することが必要となる。そのため、PDT用光照射装置の部品の数が増加することにより、PDT用光照射装置の生産コストが増加する。また、被照射面に対して高い照度の光を照射することが困難となるため、十分な治療を行うためには、長い照射時間を要することとなる。
【0008】
本発明の目的は、被照射面に波長域が互いに異なる2つの光を照射する光線力学的治療用光照射装置において、被照射面が凹凸を有するものであっても、被照射面において均一な照度で光を照射することができ、しかも、被照射面全体にわたって均一性の高い分光分布が得られる光線力学的治療用光照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光線力学的治療用光照射装置は、フレキシブル基板上に、波長400nm以上420nm以下の範囲にピーク波長を有する第1の光を出射する一つ以上のLED素子が配置されてなる光源部と、
前記光源部からの第1の光のうち、その一部を透過すると共に他の一部を波長500nm以上520nm以下の第2の光に変換して出射する蛍光プレートと
を備えてなることを特徴とする。
【0010】
本発明の光線力学的治療用光照射装置においては、前記光源部は、前記LED素子の複数を有することが好ましい。
また、前記蛍光プレートは、前記第1の光と前記第2の光とが被照射面において重畳するよう配置されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明の光線力学的治療用光照射装置においては、前記蛍光プレートから被照射面に照射される光は、当該被照射面における波長350nm以上455nm以下の範囲の光の放射照度積分値をIAとし、当該被照射面における455nm超650nm以下の範囲の光の放射照度積分値をIBとしたとき、下記式(1)を満足するものであることが好ましい。なお、以下において、単に「照度」と表現する場合には、前記IAと前記IBとの合計を意味する。
式(1) IA/IB=0.2〜5
このような光線力学的治療用光照射装置においては、前記式(1)において、IA/IB=1〜1.8であることがより好ましい。
【0012】
また、本発明の光線力学的治療用光照射装置においては、前記光源部は、前記フレキシブル基板上に前記LED素子が配置された領域を取り囲むよう形成された壁材と、この壁材に取り囲まれた前記LED素子が配置された領域に、当該LED素子を覆うよう形成された保護樹脂層とを有し、
前記蛍光プレートは、前記保護樹脂層および壁材の上面を覆うよう配置されていることが好ましい。
また、被照射面に接触される透明性を有する接触部材が、少なくとも前記蛍光プレートを覆うよう設けられていることが好ましい。
また、本発明の光線力学的治療用光照射装置においては、前記蛍光プレートは、蛍光体としてBa
2 SiO
4 :Euが含有されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光線力学的治療用光照射装置によれば、被照射面が凹凸を有するものであっても、被照射面において均一な照度で光を照射することができ、しかも、被照射面全体にわたって均一性の高い分光分布が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の光線力学的治療用光照射装置の一例における構成を示す説明用断面図である。
このPDT用光照射装置は、生体内に光増感性物質または光増感性物質の前駆物質よりなる生体投与物質を投与した後、病変部(病変異常組織)に蓄積された光増感性物質(生体内において光増感性物質の前駆物質から合成された光増感性物質を含む)に対して光を照射することによって光線力学的治療法を行うためのものである。
生体投与物質としては、必要に応じて生体内において反応し、病変部においてポルフィリン化合物として蓄積される化合物などが用いられる。
生体投与物質の具体例としては、例えばδ−アミノレブリン酸(5−ALA)が挙げられる。このδ−アミノレブリン酸は、光増感性物質の前駆物質であって、酵素反応を経て合成されるプロトポルフィリンIX(PpIX)が光増感性物質として機能するものである。
【0016】
図1に示すPDT用光照射装置は、複数のLED素子15を備えた光源部10と、この光源部10上に配置された蛍光プレート20とを有する。この例のPDT装置においては、被照射面すなわち患部に接触される透明性を有する接触部材25が、後述するフレキシブル基板11の表面および蛍光プレート20を覆うよう設けられている。
【0017】
光源部10は、表面(
図1において上面)および裏面の各々に、例えば銅よりなる配線部12,13が形成されたフレキシブル基板11を有する。このフレキシブル基板11の表面上に、複数のLED素子15が、例えばフリップチップ実装法によって実装されて配列されている。フリップチップ実装法は、200℃以上の熱履歴が、配線部12、光反射膜16等に加わることになる。
LED素子15の実装は、フリップチップ実装法に限るものではないが、光源部10を患部やその周囲の形態に沿って屈曲させるためには、フリップチップ実装が好ましい。ワイヤーボンド実装では、患部等の形態に沿って屈曲させたときにワイヤーの断線のおそれがある。
図2に示すように、光源部10におけるLED素子15の各々は、フレキシブル基板11の表面に、所定の大きさの配置ピッチ(中心間距離)で格子状に配置されている。図示の例では、LED素子15は、縦3列横3列の格子状に配列されている。
【0018】
配線部12の表面には、光反射膜16が形成されている。このような光反射膜16を設けることにより、LED素子15や蛍光プレート20からの光を患部に向って反射することができる。また、患部に向けて照射された光のうち、患部やその周囲の表面によって反射されて、戻ってきた光を再度患部に向けて反射する効果も期待することができ、且つ、フレキシブル基板11の裏面からの漏光を防止することもできる。
【0019】
また、フレキシブル基板11の表面には、LED素子15が配置された領域を取り囲むよう、矩形の枠状の壁材18が形成されている。なお、壁材18の形状は矩形に限るものではなく、円形、楕円形、多角形状であっても良い。壁材18として患部の形状に適した形状のものが使用される。この壁材18の高さは、LED素子15におけるフレキシブル基板11からの高さよりも大きいものとされている。壁材18に取り囲まれた、LED素子15が配置された領域には、LED素子15および配線部12の各々を覆うよう、保護樹脂層17が設けられている。この保護樹脂層17におけるフレキシブル基板11からの厚みは、壁材18の高さと同等である。そして、保護樹脂層17の上面および壁材18の上面を覆うよう、蛍光プレート20が配置されている。
このような構成によれば、LED素子15からの光が、蛍光プレート20を介さずに患部に照射されることを防ぐことができる。また、蛍光プレート20上に接触部材25を配置する際には、当該蛍光プレート20に圧力が加わるが、その圧力が保護樹脂層17および壁材18に分散されるので、LED素子15の配線不良が生じることを抑制することができる。
【0020】
フレキシブル基板11は、樹脂材料よりなる柔軟な絶縁性基板であって、例えば、ポリイミド等の絶縁性フィルムによって形成されている。但し、フレキシブル基板11の材料は、ポリイミドに限定されるものではなく、絶縁性の材料であって、必要とされる機械的強度及び柔軟性を有していれば、どのような材料でも使用することができる。フレキシブル基板11としては、ポリイミド樹脂フィルム以外にも、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のフィルムを使用することが可能である。また、フレキシブル基板11としては、これらのフィルムの表面に白色顔料を含む樹脂(白樹脂、白レジスト等)を塗布した高反射性の樹脂フィルム、白色顔料を混合した高反射性フィルム、液晶ポリマーフィルム等を使用することが可能である。
また、フレキシブル基板11の厚みは、例えば25〜200μmである。フレキシブル基板11の厚みが過小である場合には、所要の機械的強度を得ることが困難となることがある。一方、フレキシブル基板11の厚みが過大である場合には、必要な柔軟性を得ることが困難となることがある。すなわち、フレキシブル基板11の厚さにおいて、機械的強度と柔軟性とはトレードオフの関係にあり、最適な値が存在する。フレキシブル基板11の厚みは、40〜100μmであることがより好ましい。
フレキシブル基板11の大きさは、特に限定されない。フレキシブル基板11は、患部を覆う大きさを有していればよいが、光源部10が患部とその周囲の表面を覆った状態で光照射され得る大きさを有することにより、患者に対する拘束性を少なくし、患者に対する負担を最小限に抑制することができる。
本発明のPDT用光照射装置は、数cm程度の比較的小面積の局所的疾患に好適に使用される。このようなPDT用光照射装置においては、フレキシブル基板11は、局所的疾患に対応した大きさに形成されていることが好ましい。
【0021】
LED素子15としては、波長400nm以上420nm以下の範囲にピーク波長を有する第1の光を出射するものが用いられる。この例のLED素子15は、波長405nmにピーク波長を有する光を出射するものである。
LED素子15の各々の平面形状は略正方形を採用することができる。なお、平面形状は略正方形に限るものではない。
LED素子15の一辺の長さは例えば0.6〜1.5mmである。光線力学的治療には、一般に50〜100J/cm
2 のエネルギー密度が必要である。例えば光照射時間が15分の条件で治療を行う場合には、55.6〜111mW/cm
2 の平均放射照度が必要となる。LED素子15の一辺の長さが過小である、すなわちLED素子15の面積が過小である場合には、LED素子15に流すことができる最大の電流が小さくなるため、上記平均放射照度を確保することが困難となる虞がある。一方、LED素子15の一辺の長さが過大である場合には、光源部10の平均放射照度の面内均一性の観点から、LED素子15の配置ピッチを大きくせざるを得なくなり、光源部10の表面の面積が大きくなる、という問題が生じる。
本実施形態では、LED素子15は略正方形で、一辺の長さが1mm、厚さが0.15mmである。
【0022】
LED素子15の配置ピッチは、LED素子15の寸法にもよるが、3〜15mmであることが好ましい。本実施形態では、LED素子15の配置平均ピッチは5〜10mm程度である。
【0023】
光反射膜16を構成する材料としては、銀、アルミ、白色顔料を含む樹脂等を用いることができる。LED素子15をフリップ実装する場合には、上述の通り、200℃以上の熱履歴が光反射膜16に加わるため、光反射膜16には、この温度以上での耐熱性が必要である。この観点から、光反射膜16を構成する材料は、銀、アルミが好ましい。
以下において、全光束反射率という用語を用いるが、鏡面反射の反射率ではなく、入射光のエネルギーに対する、拡散反射された全ての反射光を積分した光エネルギーの割合を示す。光反射膜16は、全光束反射率が80%以上の反射材料(以下、「高反射率材料」と称する。)、特に、全光束反射率が90%以上の高反射率材料によって構成されていることが好ましい。このような光反射膜16を設けることにより、LED素子15や蛍光プレート20からの光を患部に向かって効率よく反射することができる。また、患部に向けて照射された光のうち、患部やその周囲の表面によって反射されて、戻ってきた光を再度患部に向けて反射する効果も期待することができ、且つ、フレキシブル基板11の裏面からの漏光を防止することもできる。
また、光反射膜16の厚みは、例えば3〜10μmである。本実施形態では、銀メッキによって、5μmの光反射膜16が形成されている。
【0024】
保護樹脂層17は、透明であることが好ましい。具体的には、保護樹脂層17の透過率は、第1の光および第2の光に対して80%以上であることが好ましい。これにより、光源部10の消費電力を下げることができると共に、光源部10の発熱量を下げることが可能となる。
また、保護樹脂層17は、柔軟なものであることが好ましい。
このような保護樹脂層17を構成する材料としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などを用いることができる。
また、保護樹脂層17の厚みは、例えば0.5〜1mmである。本実施形態では、保護樹脂層17の厚みは、0.8mm程度である。
【0025】
壁材18は、シリコーン樹脂によって形成されている。壁材18は、光反射材料によって形成されることにより、壁材18が光反射性を有する。これにより、LED素子15からの光を壁材18により反射させ、保護樹脂層17を通して光を取り出すことが可能となる。さらに、壁材18が蛍光プレート20に接するよう形成される、すなわち蛍光プレート20によって保護樹脂層17の表面全面が覆われていることにより、LED素子15の発する光が、蛍光プレート20を介さずに、患部に入射することを防止することができる。これにより、後述するIA/IBの値の面内均一性が向上する。
また、壁材18を形成することにより、厚みが均一な保護樹脂層17を容易に形成することができるので、LED素子15が露出することによる製造不良を減らすことができる。
【0026】
蛍光プレート20は、光源部10からの第1の光のうち、その一部を透過すると共にその一部を波長500nm以上520nm以下の第2の光に変換して出射するものである。このような蛍光プレート20としては、透明基材中に蛍光体が分散されてなるものを用いることができる。
また、蛍光プレート20の厚みは、例えば0.3〜1mmである。
【0027】
蛍光プレート20を形成する透明基材としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン系エラストマー等の、柔軟性を有する樹脂を用いることができる。本実施形態では、シリコーン樹脂が用いられている。
【0028】
蛍光体としては、波長400nm以上420nm以下の範囲にピーク波長を有する第1の光を受けて、蛍光として波長500nm以上520nm以下の第2の光を放射するものが用いられる。このような蛍光体の具体例としては、BaSi
2 (O,Cl)
2 N
2 :Eu、(Ba,Sr)MgAl
10O
17:(Eu,Mn)、BaMgAl
10O
17:(Eu,Mn)、(Ba,Sr)
2 SiO
4 :Eu、Ba
2 SiO
4 :Eu、SrAl
2 O
4 :Eu、(Sr,Al)
6 (O,N)
8 :Euなどが挙げられる。
生体投与物質として、δ−アミノレブリン酸(5−ALA)を用いる場合には、プロトポルフィリンIX(PpIX)が光増感性物質として機能する。PpIXの吸収スペクトルにおいて、波長410nm、波長510nm、波長545nm、波長580nm、波長630nmに吸収ピークを有することが、特許文献1に開示されている。このため、PpIXの第2吸収波長である510nm付近にピークを有するBa
2 SiO
4 :Euが最も蛍光体としては適している。また、Ba
2 SiO
4 :Euの発光は半値幅が64nmと広いため、PpIXの第3吸収波長である波長545nmまたはその近傍の光も、PpIXに吸収されることが期待される。
【0029】
蛍光体の含有割合は、LED素子15から出射される光の強度や蛍光プレート20の厚みにもよるが、透明樹脂100質量部に対して1〜20質量部となる割合であることが好ましい。
蛍光体の含有割合が過小である場合には、蛍光プレート20に含有される蛍光体の含有割合の面内分布が大きくなってしまう。一方、蛍光体の含有割合が過大である場合には、蛍光体の励起効率は100%ではないため、第1の光と第2の光との合計光強度を確保するために、LED素子15に印加する電流を増やさざるを得ず、消費電力が増加してしまう。
【0030】
本発明のPDT用光照射装置においては、被照射面における波長350nm以上455nm以下の範囲の光の放射照度積分値をIAとし、当該被照射面における波長455nm超650nm以下の範囲の光の放射照度積分値をIBとしたとき、下記式(1)を満足するものであることが好ましい。
式(1) IA/IB=0.2〜5
また、上記式(1)におけるIA/IBの値が1〜1.8であることがより好ましい。
PpIXは、波長410nm、波長510nm、波長545nm、波長580nmおよび波長630nmの順に、吸光度が大きいものである。一方、これらの光の生体進達性は、波長410nmの光、波長510nmの光、波長545nmの光、波長580nmの光および波長630nmの光の順に小さくなる。
従って、IA+IBが一定値であるとき、式(1)におけるIA/IBの値が過小、すなわち第1の光に対して第2の光の相対的放射照度が過大である場合には、患部における生体表面からの距離が長い部分(以下、単に「深い患部」という。)に対しては、PpIXに作用する、吸光度を考慮した実効的放射照度は大きくなる。反対に、患部における生体表面からの距離が短い部分(以下、単に「浅い患部」という。)に対しては、実効的放射照度が小さくなる。これにより、浅い患部への治療効果が少なくなるという問題が生ずる。
一方、式(1)におけるIA/IBの値が過大、すなわち第1の光に対して、第2の光の相対的放射照度が過小である場合には、浅い患部に対しては、実効的放射照度は大きくなる。反対に、深い患部に対しては、実効的放射照度は小さくなる。それにより、深い患部への治療効果が少なくなるという問題が生ずる。
また、患部の深さは様々である。すなわち、浅い患部のみの場合もあれば、浅い患部および深い患部の両方を有する場合もある。そして、表面から見えない深い患部を有する場合には、光線力学治療を行った後においても、腫瘍が残存して増殖する結果、十分な治療効果が得られないことが考えられる。このような観点から、IA/IB=1〜1.8とすることにより、浅い患部に対しても、深い患部に対しても、十分な治療効果が得られる、という利点がある。
【0031】
蛍光プレート20において、上記式(1)を満足するためには、蛍光体の種類、蛍光体の含有割合、蛍光プレートの厚みなどを適宜設定すればよい。
【0032】
接触部材25は、透明性を有するものであればよいが、被照射面である患部の表面形状に応じて弾性変形することにより、当該患部に密着し得るものであることが好ましい。
また、接触部材25の表面は、患部に十分に密着するよう、粘着性を有するものが好ましい。接触部材25の表面における粘着性の程度は、例えば引張速度が300mm/minの条件で試験したときの垂直剥離力(以下、単に「垂直剥離力」という。)が60〜80Nである。
また、蛍光プレート20は、接触部材25によって被照射面である患部表面から離間した状態とされる。蛍光プレート20を構成する蛍光体には、Baなどの金属材料が含まれており、直接生体に接触する際に、金属アレルギーが生ずる可能性がある、という問題がある。
接触部材25が設けられることにより、金属アレルギーの原因となる金属材料を含む蛍光プレート20を、接触部材25によって患部から離間した状態で使用することができる。従って、本発明のPDT用光照射装置を、金属アレルギーを有する患者に対しても適用することが可能となる。
また、接触部材25は、蛍光プレート20から出射される光(第1の光と第2の光との混光)の透過率が80%以上であることが好ましい。
このような接触部材25としては、一定の厚さを保つように加工したプラスチック製の袋に水または空気を充填したもの、エポキシ系、ポリウレタン系、シリコーン系の柔軟性を有する透明な樹脂板、板状に加工した吸水性ポリマーやスチレン系エラストマー等、種々の形態のものを用いることができる。
【0033】
上記のPDT用光照射装置においては、患部の表面に接触部材25を密着させた状態で使用される。具体的には、PDT用光照射装置における接触部材25を患部の表面に接触させて押圧すると、PDT用光照射装置は、フレキシブル基板11を有するため、患部の表面に追随して変形する。これにより、PDT用光照射装置における接触部材25が患部の表面に沿って密着した状態となる。
【0034】
そして、PDT用光照射装置を作動させると、LED素子15から波長400nm以上420nm以下の範囲にピーク波長を有する第1の光が出射され、この第1の光は、保護樹脂層17を介して蛍光プレート20の裏面に入射される。蛍光プレート20に入射された第1の光は、その一部が蛍光プレート20を透過して当該蛍光プレート20の表面から出射される。それと共に、第1の光における他の一部が蛍光プレート20中の蛍光体に吸収され、当該蛍光体によって波長500nm以上520nm以下の蛍光である第2の光に変換され、この第2の光は蛍光プレート20の表面から出射される。蛍光プレート20の表面から出射された第1の光および第2の光は、接触部材25を介して被照射面である患部の表面に重畳して照射される。
【0035】
このようなPDT用光照射装置によれば、フレキシブル基板11を有することにより、被照射面である患部の表面に追随して変形するため、患部の表面が凹凸を有するものであっても、被照射面とLED素子15との間の距離を一定に保つことができる。従って、被照射面において均一な照度で光を照射することができる。
また、蛍光プレート20の表面から、当該蛍光プレート20を透過した第1の光と、当該蛍光プレート20によって変換された第2の光とが出射されることにより、被照射面である患部の表面には、第1の光および第2の光が重畳して照射される。従って、被照射面全体にわたって均一性の高い分光分布が得られる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明のPDT用光照射装置の具体的な実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0037】
〈実施例1〉
図1および
図2の構成に従い、下記の仕様のPDT用光照射装置を作製した。
[光源部]
フレキシブル基板:材質=液晶ポリマー,寸法=35mm×35mm×50μm
光反射膜:材質=銀,厚み=5μm,全光束反射率=92%
LED素子:ピーク波長=404nm,寸法=1mm×1mm×0.15mm,全放射束=30mW,LED素子の数=25個(縦5列横5列の格子状に配列),配置ピッチ=5mm
保護樹脂層:材質=シリコーン樹脂,厚み=0.8mm
壁材:材質=シリコーン樹脂,外形の寸法=28mm×28mm×0.6mm
[蛍光プレート]
透明基材:材質=シリコーン樹脂
蛍光体:材質=Ba
2 SiO
4 :Eu,蛍光体の含有割合=透明樹脂100質量部に対して4質量部
寸法=28mm×28mm×1mm
[接触部材]
材質=スチレン系エラストマー,寸法=50mm×50mm×5mm,硬度=アスカーC15,表面の粘着性=垂直剥離力が70N
【0038】
上記のPDT用光照射装置を作動させ、光源部の直上の被照射面(以下、単に「被照射面」という。)における当該PDT用光照射装置からの光の分光スペクトルを測定した。このPDT用光照射装置からの光は、
図3に示す通り、波長400nm以上420nm以下の範囲にピーク波長を有する第1の光と、波長500nm以上520nm以下の第2の光を含んでいる。蛍光プレートを備えない場合において、第1の光のみを含んでおり、第2の光は、蛍光プレートの蛍光によるものであることがわかる。
また、上記のPDT用光照射装置について、被照射面における波長350nm以上455nm以下の範囲の光の放射照度積分値IA、および被照射面における波長455nm超650nm以下の範囲の光の放射照度積分値IBを測定したところ、IAが34.8mW/cm
2 、IBが23.7mW/cm
2 であり、IA/IBの値は1.47であった。
【0039】
〈比較例1〉
蛍光プレートを用いなかったこと以外は実施例1と同様の構成のPDT用光照射装置を作製した。
【0040】
〈比較例2〉
LED素子および蛍光プレートにおける蛍光体を下記の仕様のものに変更し、蛍光プレートの表面にLED素子からの光をカットするフィルタを備えたこと以外は実施例1と同様の構成のPDT用光照射装置を作製した。
LED素子:ピーク波長=450nm,寸法=1mm×1mm×0.15mm,全放射束=20mW
蛍光体:K
2 SiF
6 :Mn(蛍光のピーク波長=635nm)
【0041】
〈比較例3〉
フレキシブル基板の代わりに下記の仕様の剛性の配線基板を用いたことを以外は実施例1と同様の構成のPDT用光照射装置を作製した。
配線基板:材質=セラミックス,寸法=35mm×35mm×500μm
【0042】
〈試験〉
週齢4〜6週、体重約20gのヌードマウスを用意し、このマウスの左右の肩付け根部に、ヒトメラノーマ細胞(COLO679)の溶液(濃度:2×10
7 cells/mL)100μLを、皮下注射により接種した。このマウスの患部における腫瘍の長径を2日間経過する毎に測定した。そして、マウスの、腫瘍の長径が5〜7mmとなったときに(接種から2〜3週間後)、下記の薬剤をマウスに投与した。その後、薬剤を投与したマウスを、暗所において4時間放置した。
薬剤:生体投与物質としてδ−アミノレブリン酸(5−ALA)を用い、マウスの体重1kg当たり250mgとなる量の生体投与物質をリン酸緩衝生理食塩水中に溶解したもの。
【0043】
次いで、15mm×15mmの開口を有するアルミニウム製の遮光シートを用意し、この遮光シートの開口がマウスの患部に位置するよう、当該遮光シートをマウスの上に配置した。その後、実施例1および比較例1〜3に係るPDT用光照射装置の各々を、接触部材がマウスの患部に接するよう配置し、各PDT用光照射装置を1Nの力で押圧した。そして、各PDT用光照射装置により、各PDT用光照射装置の被照射面の照度、照射時間および照射量が下記表1に示す値となる条件に従って、マウスの患部に光を照射した。
【0044】
【表1】
【0045】
そして、光照射したマウスについて、5日間経過する毎に患部における腫瘍の面積を測定し、光照射直前におけるマウスの腫瘍の面積を1としたときの相対値を求めた。
ここで、マウスの腫瘍の表面形状は略楕円形であるため、腫瘍の面積は下記式(2)により算出した。
式(2) 腫瘍の面積=腫瘍の長径×腫瘍の短径×π
以上、結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2の結果から、実施例1に係るPDT用光照射装置によれば、光照射してから5日後にはマウスの腫瘍が消失したことが確認された。また、光照射してから15日後にマウスの腫瘍が再度発現したが、腫瘍の面積は1.0未満であり、光照射してから20日後においても腫瘍の面積は1.0未満であった。
これに対し、比較例1および比較例2に係るPDT用光照射装置においては、光照射してから5日後にマウスの腫瘍の面積が0.5以下であったが、マウスの腫瘍は消失しなかった。また、光照射してから10日後にはマウスの腫瘍の面積が大きくなっており、光照射してから20日後には、マウスの腫瘍の面積は1.0を大きく超えていた。
また、比較例3に係るPDT用光照射装置においては、光照射してから5日後にはマウスの腫瘍が消失したが、光照射してから10日後にはマウスの腫瘍が再度発現しており、腫瘍の面積も1.0を超えていた。