(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
近年、切削加工において被削材の難削化が進み、加工形状もより複雑化する等、切削工具の使用条件は過酷になっており、更に高い破壊靭性及び熱伝導率を有する硬質材料が求められている。
【0009】
特許文献1に開示される炭窒化チタン粉末は、平均粒径が比較的小さいため、この粉末を原料として製造した硬質材料は、炭窒化チタンを主成分とする硬質相が微粒であり、硬度に優れる一方、破壊靭性の低下を招き易い。また、この炭窒化チタン粉末は、混合と共に粉砕を行って製造されているため、粉末の粒径にばらつきが生じ易い。粉末の粒径にばらつきがある場合、硬質材料の製造過程において溶解再析出が生じ易く、炭窒化チタンと副添加炭化物(例えば、炭化タングステンや炭化ニオブ等)とが相互固溶した周辺組織の成長が促進され、この周辺組織の肥大化により熱伝導率の低下を招き易い。
【0010】
そこで、破壊靭性及び熱伝導率に優れる硬質材料を提供することを目的の一つとする。
また、破壊靭性及び熱伝導率に優れる切削工具を提供することを別の目的の一つとする。
[本開示の効果]
【0011】
上記硬質材料及び上記切削工具は、破壊靭性及び熱伝導率に優れる。
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0013】
(1)本発明の実施形態に係る硬質材料は、
炭窒化チタンを主成分とする第一硬質相と、鉄族元素を主成分とする結合相とを備える硬質材料であって、
前記第一硬質相は、当該硬質材料の任意の表面又は断面において、
面積基準の粒度分布における累積50%の粒径D50が1.0μm以上であり、
D50以上の粒径を有する第一硬質相の平均アスペクト比が2.0以下である。
【0014】
炭窒化チタンを主成分とする第一硬質相は、D50が1.0μm以上である、つまり粗粒であることで、亀裂進展の抑制効果(クラック迂回効果)によって破壊靭性を向上できる。
【0015】
炭窒化チタンを主成分とする第一硬質相は、D50以上の粒径を有する粗粒の第一硬質相の平均アスペクト比が2.0以下であることで、進展してきた亀裂が粒内に伝播することを抑制できる。この平均アスペクト比が2.0以下の粗粒の第一硬質相、つまり断面が円形に近い形状の粗粒の第一硬質相は、例えば、原料として均一な粒度分布を有する炭窒化チタン粉末を用い、製造過程において過度の粉砕を行わないことで得られる。特許文献1に開示される炭窒化チタン粉末のように粒度分布が不均一である場合、焼結性が低く、焼結性を改善するために過度の粉砕を行う必要がある。しかし、過度の粉砕を行うと、炭窒化チタン粉末が微粉砕され、液相焼結中にオストワルド成長(溶解再析出現象)が生じ易く、炭窒化チタンと副添加炭化物(例えば、炭化タングステンや炭化ニオブ等)とで相互固溶体が形成され易い。この相互固溶体は、フォノン散乱により熱伝導率が低下する傾向にある。また、過度の粉砕を行うと、原料として断面円形状のものを用いたとしても、粉砕によって角張った異形形状となり、そのまま焼結後の組織に反映されるため、平均アスペクト比が2.0超の硬質相が形成され易い。つまり、粗粒の第一硬質相の平均アスペクト比が2.0以下であることで、その製造過程において微粉末の発生と、この微粉末に伴う上記相互固溶体の形成を抑制できるため、硬質材料の熱伝導率を向上できる。
【0016】
(2)上記硬質材料の一例として、前記第一硬質相は、前記任意の表面又は断面において、面積基準の粒度分布における累積20%の粒径D20が0.7μm以上であることが挙げられる。
【0017】
D20が0.7μm以上である、つまり面積率80%以上の第一硬質相の粒径が0.7μm以上であることで、硬質材料の破壊靭性及び熱伝導率をより向上できる。
【0018】
(3)上記硬質材料の一例として、前記任意の表面又は断面における前記第一硬質相の面積割合が30%以上であることが挙げられる。
【0019】
第一硬質相の面積割合が30%以上であることで、硬質材料の熱伝導率をより向上できる。
【0020】
(4)上記硬質材料の一例として、更に、周期表4,5,6族元素から選択される一種以上の金属元素を含む炭化物、窒化物、炭窒化物、及びそれらの相互固溶体の一種以上(但し、炭窒化チタンを除く)からなる第二硬質相を備えることが挙げられる。
【0021】
更に第二硬質相を備えることで、硬さに優れる硬質材料とできる。
【0022】
(5)本発明の実施形態に係る切削工具は、上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の硬質材料を基材として用いる。
【0023】
上記切削工具は、破壊靭性及び熱伝導率に優れる硬質材料を基材に備えることで、より厳しい切削条件に対応した加工や、長寿命化等を実現できる。
【0024】
(6)上記切削工具の一例として、前記基材の表面の少なくとも一部に被覆された硬質膜を備えることが挙げられる。
【0025】
基材の表面に硬質膜を備えることで、切削工具の耐摩耗性等を改善できる。よって、上記切削工具は、更に厳しい切削条件への対応や、更なる長寿命化等を実現できる。
【0026】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態の詳細を、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0027】
〔硬質材料〕
実施形態の硬質材料は、硬質相と、硬質相を結合する結合相と、不可避不純物とにより構成される。硬質相は、炭窒化チタン(TiCN)を主成分とする第一硬質相と、必要に応じて第一硬質相とは異なる第二硬質相とを備える。不可避不純物は、原料に含有したり、製造工程で混入したりする、酸素やppmオーダー(質量割合)の金属元素が挙げられる。実施形態の硬質材料は、第一硬質相が、粗粒かつ断面円形状であることを特徴の一つとする。
【0028】
各硬質相の組成は、硬質材料の表面又は断面を光学顕微鏡で観察したり、硬質材料の表面又は断面を走査型電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線(EDS)による分析(EDS面分析)とを用いた画像解析を行ったりすることで、容易に特定することができる。
【0029】
≪硬質相≫
・第一硬質相
第一硬質相は、TiCNを主成分とする。ここで、TiCNを主成分とする第一硬質相とは、実質的にTiCNのみで構成される態様を言う。勿論、製造工程で混入したりする数質量%程度(0.01質量%以上2.0質量%以下程度)の不可避不純物(例えば、タングステン)を含有していてもよい。第一硬質相は、その組織形態として、硬質材料中に単独析出粒子として存在してもよいし、その周囲の少なくとも一部に後述する第二硬質相が被覆された所謂有芯構造を構成することで存在してもよい。いずれの形態であっても、TiCNの部分を第一硬質相とする。
【0030】
第一硬質相は、硬質材料の任意の表面又は断面において、面積基準の粒度分布における累積50%の粒径D50が1.0μm以上を満たす。つまり、第一硬質相は、粗粒である。第一硬質相が粗粒であることで、亀裂進展の抑制効果(クラック迂回効果)によって硬質材料の破壊靭性を向上できる。第一硬質相のD50は、更1.2μm以上、特に1.6μm以上であることが好ましい。
【0031】
なお、ここで「粒径」は、最大フェレ径であり、硬質材料の任意の表面又は断面を鏡面加工し、その加工面を顕微鏡で撮影し、その撮影画像を画像解析することにより求められる。測定する第一硬質相の数は、少なくとも100個以上とし、更に200個以上とすることが好ましい。また、同一の硬質材料において、複数の視野で上記画像解析を行い、その平均値を第一硬質相の粒径とすることが好ましい。視野数は、5視野以上、更に7視野以上とすることが好ましい。
【0032】
鏡面加工の方法としては、例えば、ダイヤモンドペーストで研磨する方法、クロスセクションポリッシャー装置(CP装置)を用いる方法、及びこれらを組み合わせる方法等が挙げられる。顕微鏡の種類としては、走査型電子顕微鏡(SEM)、電界放出形走査電子顕微鏡写真(FE−SEM)等が挙げられる。顕微鏡で撮影した撮影画像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフトウェア(例えば「ImageJ」)を用いて解析して、粒径等の各種情報を取得する。画像解析ソフトウェア「ImageJ」を用いた解析方法は、後述する試験例にて詳述する。
【0033】
第一硬質相は、D50以上の粒径を有するものの平均アスペクト比が2.0以下を満たす。つまり、粗粒の第一硬質相は、断面が円形に近い形状である。粗粒の第一硬質相が断面円形状であることで、結果的に、第一硬質相を取り巻く周辺組織(炭窒化チタンと副添加炭化物(炭化タングステンや炭化ニオブ等)との相互固溶体)の成長が抑制されて熱伝導率を向上できる。第一硬質相のアスペクト比は、更に1.8以下、特に1.7以下であることが好ましい。
【0034】
なお、ここで「アスペクト比」は、硬質材料の任意の表面又は断面における第一硬質相の形状を楕円近似したときの長軸に対する短軸の比(長軸/短軸)であり、上述した粒径と同様に、硬質材料の任意の表面又は断面を鏡面加工し、その加工面を顕微鏡で撮影し、その撮影画像を画像解析ソフトウェアにより解析することにより求められる。
【0035】
第一硬質相は、硬質材料の任意の表面又は断面において、面積基準の粒度分布における累積20%の粒径D20が0.7μm以上を満たすことが好ましい。D20が0.7μm以上である、つまり面積率80%以上の第一硬質相の粒径が0.7μm以上であることで、硬質材料の破壊靭性及び熱伝導率をより向上できる。第一硬質相のD20は、更に0.8μm以上、特に1.0μm以上であることが好ましい。
【0036】
第一硬質相は、硬質材料の任意の表面又は断面における面積割合が30%以上であることが好ましい。第一硬質相が面積割合で30%以上含まれることで、硬質材料の熱伝導率をより向上できる。第一硬質相の上記面積割合は、更に35%以上、特に40%以上であることが好ましい。
【0037】
・第二硬質相
第二硬質相は、周期表4,5,6族元素から選択される一種以上の金属元素を含む炭化物、窒化物、炭窒化物、及びそれらの相互固溶体の一種以上(但し、炭窒化チタンを除く)からなる。周期表4,5,6族元素から選択される金属元素としては、チタン(Ti)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)等が挙げられる。
【0038】
具体的な第二硬質相の例としては、例えばWC、TiWC、TiWCN、TiWN、TiZrCN、TiTaCN、TiNbCN、TiVCN、TiCrCN、TiMoCN等のTiを含有する二元系の複合炭窒化物固溶体、TiZrNbCN等の三元系の複合炭窒化物固溶体、TiZrWNbCN、TiZrWTaNbCN等の多元系の複合炭窒化物固溶体、更にはTiを含有しないNbWC、NbWCN等も挙げられる。
【0039】
第二硬質相の粒径は特に限定されないが、一例として、面積基準の粒度分布における累積50%の粒径D50が0.5μm以上3.0μm以下であることが挙げられる。
【0040】
第二硬質相は、硬質材料の任意の表面又は断面に対する面積割合が20%以上60%以下であることが挙げられる。第二硬質相が面積割合で20%以上含まれることで、硬さに優れる硬質材料とできる。一方、第二硬質相の面積割合が60%以下であることで、第一硬質相が相対的に増加するため、破壊靭性及び熱伝導率に優れる硬質材料とできる。第二硬質相の上記面積割合は、更に25%以上55%以下、特に25%以上45%以下であることが挙げられる。
【0041】
硬質材料中の硬質相の割合は、硬質材料全体の80体積%以上、更には85体積%以上とすることが挙げられる。一方、硬質材料中の硬質相の割合は、硬質材料全体の96体積%以下、更には90体積%以下とすることが挙げられる。
【0042】
≪結合相≫
結合相は、鉄族元素を主成分とし、上記硬質相を結合させる。主成分とは、結合相全体の50質量%以上の割合で鉄族元素を含むことを言う。結合相を構成する鉄族元素としては、代表的には、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。また、結合相は、硬質相の成分であるタングステンや炭素、その他の不可避的な成分を含んでいてもよい。
【0043】
また、結合相は、クロム(Cr)及びバナジウム(V)の少なくとも一方を含んでいてもよい。これらの元素は、必要に応じて硬質材料の製造過程において用いられる粒成長抑制剤等に由来して含まれ得る。これらの元素が結合相中に存在する場合、少なくとも一部が結合相に固溶された状態で存在すると考えられる。
【0044】
結合相の含有量は、硬質材料全体に対して4体積%以上20体積%以下であることが好ましい。硬質材料中の結合相の含有量が4体積%以上であることで、製造時の焼結性の悪化を防止し、結合相によって硬質相が強固に結合されるため、強度が高く、欠損が生じ難い。また、硬質材料中の結合相の含有量が4体積%以上であることで、硬質材料の靱性が向上する。一方、硬質材料中の結合相の含有量が20体積%以下であることで、硬質相が相対的に減少することによる硬質材料の硬度の低下を抑制し、耐摩耗性や耐塑性変形性の低下を抑制できる。硬質材料中の結合相の含有量は、更に10体積%以上20体積%以下、特に10体積%以上15体積%以下であることが好ましい。
【0045】
〔硬質材料の製造方法〕
上述した硬質材料は、代表的には、原料粉末の準備⇒混合⇒成形⇒焼結という工程を経て製造することができる。以下、各工程について詳しく説明する。
【0046】
≪準備工程≫
準備工程は、硬質相粉末と結合相粉末とを準備する工程である。硬質相粉末として、第一硬質相となる炭窒化チタン(TiCN)粉末(第一硬質相粉末)を準備する。また、必要に応じて、硬質相粉末として、周期表4,5,6族元素から選択される一種以上の金属元素を含む炭化物、窒化物、炭窒化物、及びそれらの相互固溶体の一種以上(但し、炭窒化チタンを除く)からなる粉末(第二硬質相粉末)を準備する。結合相粉末としては、結合相となる鉄族金属粉末を準備する。
【0047】
硬質材料中に粗粒かつ断面円形状の第一硬質相を構成する条件の一つとして、粗粒かつ均粒のTiCN粉末を用いることが挙げられる。また、各粒子の形状が球形状に近いTiCN粉末を用いることが挙げられる。TiCN粉末は、体積基準の粒度分布における累積50%の粒径をD50、累積10%の粒径をD10、累積90%の粒径をD90としたとき、D50が2.0μm以上6.0μm以下を満たし(粗粒である)、かつD10/D90が0.20以上0.50以下を満たす(均粒である)ことが好ましい。このような粗粒・均粒のTiCN粉末は、例えば、以下のようにして得られる。
【0048】
〈TiCN粉末の製造方法〉
TiCN粉末は、代表的には、原料粉末の準備⇒混合⇒造粒⇒熱処理⇒解砕という工程を経て製造することができる。
【0049】
(準備工程)
粉末製造時における準備工程では、酸化チタン粉末と炭素粉末とを含む原料粉末を準備する。原料粉末は、粒度が均質なものを用いることで、後述する熱処理工程後の粉末を均粒化し易い。
【0050】
酸化チタン粉末は、結晶構造がアナターゼ型のものやルチル型のもの等いずれでもよく、市販品を用いることができる。酸化チタン粉末の平均粒径は、0.1μm以上1μm以下であることが挙げられる。なお、原料粉末の平均粒径は、フィッシャーサブシーブサイザー(FSSS)法による平均粒径(FSSS径)のことである。酸化チタン粉末の平均粒径が1μm以下であることで、酸化チタン粉末と炭素粉末との接触面積を増大させることができ、後述する熱処理工程において、迅速に還元・窒化反応を行うことができる。一方、酸化チタン粉末の平均粒径が0.1μm以上であることで、原料粉末を取り扱い易い。酸化チタン粉末の平均粒径は、更に0.3μm以上0.7μm以下、特に0.45μm以上0.6μm以下とすることが挙げられる。
【0051】
炭素粉末は、無定形炭素(木炭、すす、コークス等)を用いることができる。炭素粉末の平均粒径は、1μm以下であることが挙げられる。炭素粉末の平均粒径が1μm以下であることで、酸化チタン粉末と炭素粉末との接触面積を増大させることができ、後述する熱処理工程において、迅速に還元・窒化反応を行うことができる。
【0052】
酸化チタン粉末と炭素粉末との配合比は、後述する熱処理工程によって得られるTiCN粉末の炭素と窒素の比率に合わせて適宜選択できる。酸化チタン粉末と炭素粉末との配合比は、例えば、質量比で74.3:25.7〜71.1:28.9.更に73.5:26.5〜71.9:28.1、特に73.1:26.9〜72.3:27.7とすることが挙げられる。
【0053】
(混合工程)
粉末製造時における混合工程では、上記準備工程で準備した原料粉末を実質的に粉砕することなく混合して混合粉末を得る。粗粒・均粒で、かつ各粒子の形状が球形状に近いTiCN粉末とする条件の一つとして、原料粉末が粉砕されない混合条件で混合することが挙げられる。原料粉末を粉砕することなく混合することで、混合前の原料粉末と混合後の混合粉末とで実質的に粒度及び形状に変化がなく、原料粉末における均質な粒度及び球形状を維持したまま後述する熱処理工程を行うことができる。粉末製造時における混合工程に用いる装置としては、例えば、回転翼による乾式気流混合機や、超音波湿式混合機、渦流式湿式混合機等を用いることができる。例えば、ヘンシェルミキサーやアトライター等を用いることができる。混合条件の一例としては、ヘンシェルミキサーを用いた場合、回転数:1200rpm以上1800rpm以下、混合時間:30分以上90分以下とすることが挙げられる。
【0054】
(造粒工程)
粉末製造時における造粒工程では、上記混合工程で得た混合粉末を造粒及び整粒して造粒粉末を得る。造粒には、打錠機や押出造粒機等を用いた公知の造粒方法が適用できる。
造粒することで、粉末の操作性を向上できると共に、後述する熱処理工程後の粉末の品質ばらつきを低減できる。造粒バインダーとしては、特に限定されず、例えばデキストリン等が挙げられる。造粒粉末の形状も特に限定されず、例えば、φ3mm〜5mm程度の球形や、φ1mm〜2mm×長さ2mm〜5mm程度の円柱状、φ1mm〜5mm×高さ1mm〜2mm程度のタブレット状とすることが挙げられる。造粒粉末が大き過ぎると、後述する熱処理工程において、造粒粉末の中心部に未反応部分が発生する虞があるため、造粒粉末の中心部まで窒化可能な程度の大きさとする。造粒及び整粒した後は、乾燥(150℃程度)させる。
【0055】
(熱処理工程)
粉末製造時における熱処理工程では、上記造粒工程で得た造粒粉末を窒素含有雰囲気中で加熱して炭窒化チタン粉末(造粒物)を得る工程である。粗粒のTiCN粉末とする条件の一つとして、熱処理温度を2000℃超2500℃以下とすることが挙げられる。熱処理温度を2000℃超とすることで、粉末の粒成長を促進することができ、粗粒のTiCN粉末を得ることができる。一方、熱処理温度を2500℃以下とすることで、過度の粒成長を抑制し、硬質材料を製造する際の焼結性を確保できる。熱処理温度は、更に2050℃以上2400℃以下、特に2150℃以上2300℃以下とすることが好ましい。
【0056】
室温から上記熱処理温度までの昇温速度は、5℃/min以上とすることが挙げられる。昇温速度を5℃/min以上とすることで、粒成長に伴う時間が短くなるため、異常な粒成長が抑制される。上記熱処理温度までの昇温速度は、更に10℃/min以上、特に15℃/min以上とすることが好ましい。
【0057】
熱処理時間は、0.5時間以上2.0時間以下とすることが挙げられる。熱処理時間を0.5時間以上とすることで、粉末の粒成長を促進し易く、粗粒のTiCN粉末を得ることができる。一方、熱処理時間を2.0時間以下とすることで、粉末同士の凝集を抑制し易い。熱処理時間は、更に0.6時間以上1.5時間以下、特に0.75時間以上1.25時間以下とすることが好ましい。
【0058】
熱処理の雰囲気は、窒素を含有する雰囲気であり、窒素(N
2)のみの単一雰囲気、或いはアンモニア(NH
3)雰囲気、或いは窒素(N
2)やアンモニアといった窒素元素を含むガスとArといった不活性ガスとの混合ガス雰囲気等が挙げられる。
【0059】
熱処理に使用する熱処理炉としては、バッチ式の真空雰囲気炉や、連続式のロータリーキルン炉等が挙げられる。
【0060】
上記熱処理温度での加熱後は、例えば、5℃/min以上40℃/min以下の冷却速度で室温まで冷却することが挙げられる。
【0061】
(解砕工程)
上記熱処理工程によって得られるTiCN粉末は、造粒物である。この造粒物を、例えば乳鉢により手解砕することで、粒状のTiCN粉末を得ることができる。
【0062】
なお、上述したTiCN粉末の製造方法において、造粒工程及び解砕工程は省略することができる。この場合、熱処理工程では、混合工程で得た混合粉末を加熱すればよい。この場合、熱処理工程後に得られるTiCN粉末は、粒状であるため、解砕工程を行う必要はない。
【0063】
〈TiCN粉末〉
上述したTiCN粉末の製造方法によって得られたTiCN粉末は、D50が2.0μm以上6.0μm以下を満たし(粗粒である)、かつD10/D90が0.20以上0.50以下を満たす(均粒である)。D50,D10,D90は、市販の粒度分布測定装置(レーザー回析・散乱式粒子径分布測定装置)で測定できる。また、上述したTiCN粉末の製造方法によって得られたTiCN粉末は、構成する各粒子が球形状に近い形状を有する。
【0064】
TiCN粉末は、D50が2.0μm以上であることで、この粉末を原料として製造した硬質材料は、第一硬質相が粗粒であり、亀裂進展の抑制効果(クラック迂回効果)によって破壊靭性を向上できる。TiCN粉末は、D50が大きいほど、得られる硬質材料の第一硬質相がより粗大であるが、硬質材料の製造過程での焼結性に悪影響を及ぼす。よって、TiCN粉末は、D50が6.0μm以下であることで、硬質材料を製造する際の焼結性を確保できる。TiCN粉末は、D50が更に2.1μm以上4.0μm以下、特に2.5μm以上3.5μm以下であることが好ましい。
【0065】
TiCN粉末は、D10/D90が0.20以上であることで、粒度分布が狭くシャープであり、この粉末を原料とする硬質材料の製造過程での焼結時に溶解再析出を抑制できる。よって、この粉末を原料として製造した硬質材料は、第一硬質相が均粒化されており、第一硬質相を取り巻く周辺組織の成長が抑制されて熱伝導率を向上できる。一方、TiCN粉末は、D10/D90が0.50以下であることで、硬質材料を製造する際の焼結性を確保できる。TiCN粉末は、D10/D90が更に0.22以上0.45以下、特に0.24以上0.40以下であることが好ましい。
【0066】
TiCN粉末は、CuKαX線を用いたX線回折によるピークの半値幅が小さいことが好ましい。TiCNの結晶性は、例えば、半値幅により特定することができる。TiCNの結晶性が高いほど、つまりTiCNの結晶構造に欠陥が少ないほど、半値幅は小さくシャープになる傾向にある。TiCNの結晶性が高いほど、この粉末を原料として製造した硬質材料の機械的強度を向上できる。
【0067】
TiCN粉末は、(2,0,0)面、(2,2,0)面、(2,2,2)面の各ピークの半値幅がいずれも0.03°以上0.20°以下であることが好ましい。上記各ピークの半値幅がいずれも0.03°以上0.20°以下を満たすことで、TiCNの結晶性に優れ、機械的強度に優れる硬質材料が得られる。(2,0,0)面のピークの半値幅は、更に0.06°以上0.16°以下、特に0.09°以上0.12°以下であることが好ましい。(2,2,0)面のピークの半値幅は、更に0.06°以上0.16°以下、特に0.09°以上0.12°以下であることが好ましい。(2,2,2)面のピークの半値幅は、更に0.05°以上0.13°以下、特に0.07°以上0.11°以下であることが好ましい。
【0068】
〈第二硬質相粉末〉
第二硬質相粉末は、例えば、炭化タングステン(WC)粉末、炭化タンタル(TaC)粉末、炭化ニオブ(NbC)粉末、炭化バナジウム(VC)粉末、二炭化三クロム(Cr
3C
2)粉末、炭化二モリブデン(Mo
2C)粉末、炭窒化ジルコニウム(ZrCN)粉末等が挙げられる。第二硬質相粉末は、平均粒径が0.2μm以上5.0μm以下、更に0.5μm以上2.0μm以下とすることが挙げられるが、特に限定されず、硬質材料の焼結性を低下させない程度の範囲で適宜選択できる。なお、ここで使用する第二硬質相粉末は、硬質材料の焼結過程において溶解再析出反応により相互固溶体に変化する場合があり、硬質材料中の第二硬質相と、原料としての第二硬質相粉末とは必ずしも同一ではない。
【0069】
〈結合相粉末〉
結合相粉末は、コバルト(Co)粉末やニッケル(Ni)粉末等が挙げられる。結合相粉末は、平均粒径が0.5μm以上2.0μm以下、更に0.8μm以上1.0μm以下とすることが挙げられるが、特に限定されず、硬質材料の焼結性を低下させない程度の範囲で適宜選択できる。
【0070】
≪混合工程≫
混合工程は、準備工程で準備した各原料粉末を混合する工程である。硬質材料中に粗粒かつ断面円形状の第一硬質相を構成する条件の一つとして、準備した原料粉末、特にTiCN粉末が実質的に粉砕されない混合条件で混合することが挙げられる。原料粉末を粉砕することなく混合することで、混合前の原料粉末と混合後の原料粉末とで実質的に粒度及び形状に変化がなく、原料粉末における均質な粒度及び球形状を維持したまま後述する焼結工程を行うことができる。混合工程に用いる装置には公知の装置を用いることができる。例えば、アトライター、転動ボールミル、及びビーズミル等を用いることができる。混合条件は、湿式混合であっても乾式混合であってもよい。また、混合は、水、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール等の溶媒中で行ってもよい。
【0071】
≪成形工程≫
成形工程は、混合工程で得られた混合粉末を所定の形状に成形して、成形体を得る工程である。成形工程における成形方法や成形条件は、一般的な方法や条件を採用すればよく、特に問わない。所定の形状としては、例えば、切削工具形状とすることが挙げられる。
【0072】
≪焼結工程≫
焼結工程は、成形工程で得られた成形体を焼結して、焼結体を得る工程である。焼結は、温度:1400℃以上1600℃以下、時間:0.25時間以上1.5時間以下とすることが挙げられる。焼結時の雰囲気は、特に限定されず、N
2ガス雰囲気、Ar等の不活性ガス雰囲気、真空雰囲気とすることが挙げられる。
【0073】
〔切削工具〕
≪基材≫
実施形態に係る切削工具は、硬質材料を基材として用いた切削工具である。本実施形態の切削工具は、上述した硬質材料を基材として用いたことを特徴の一つとする。これにより、疲労靱性及び耐熱衝撃性に優れる切削工具を得ることができる。
【0074】
切削工具の形状については、特に限定されない。切削工具の一例としては、バイト、ボールミル、エンドミル、ドリル、及びリーマ等を挙げることができる。特に、バイト等では、刃先交換型切削チップを挙げることができる。
【0075】
≪硬質膜≫
切削工具は、上記基材上に硬質膜を備えてもよい。硬質膜の組成は、周期表4,5,6族の金属元素、アルミニウム(Al)、及びシリコン(Si)から選択される一種以上の元素の炭化物、窒化物、酸化物、硼化物、及びこれらの固溶体が挙げられる。例えば、Ti(C,N)、Al
2O
3、(Ti,Al)N、TiN、TiC、(Al,Cr)N等が挙げられる。その他、立方晶窒化硼素(cBN)やダイヤモンドライクカーボン等も、硬質膜の組成として好適である。このような硬質膜は、化学的蒸着(CVD)法や物理的蒸着(PVD)法等の気相法により形成することができる。硬質膜がCVD法により形成されていると、基材との密着性に優れる硬質膜が得られ易い。CVD法としては、例えば、熱CVD法等が挙げられる。硬質膜がPVD法により形成されていると、圧縮残留応力が付与され、その靱性を高め易い。
【0076】
硬質膜は、基材における刃先となる部分とその近傍に被覆されていることが好ましく、基材の表面全体に被覆されていてもよい。また、硬質膜は、単層でも多層でもよい。硬質膜の厚さは、1μm以上20μm以下、更に1.5μm以上15μm以下であることが挙げられる。
【0077】
[試験例]
〔試験例1〕
試験例1では、硬質材料の原料粉末である炭窒化チタン粉末を作製し(試料No.1−1〜1−5,1−11,1−12)、その評価を行った。
【0078】
≪試料の作製≫
・試料No.1−1
原料粉末として、酸化チタン粉末(平均粒径:0.18μm、純度:98%超)と、無定形炭素粉末(平均粒径:0.18μm、純度:98%超)とを準備した(準備工程)。
原料粉末の平均粒径は、FSSS法により求めた平均粒径である。酸化チタン粉末と炭素粉末とを質量比4:1で配合し、ヘンシェルミキサーを用いて粉砕せずに混合し、混合粉末を得た(混合工程)。混合条件は、回転数:1500rpm、混合時間:1時間、乾式気流混合とした。得られた混合粉末を、バインダーとしてデキストリンを混ぜ込み、直径:約2mm×長さ:2〜5mmのペレット状に造粒して整粒し、その後150℃の温度で乾燥して造粒粉末を得た(造粒工程)。得られた造粒粉末を、窒素気流中(1atm)で、熱処理温度:2200℃×熱処理時間:1時間加熱してペレット状の炭窒化チタン粉末を得た(熱処理工程)。室温から2200℃までの昇温速度は、20℃/minとし、2200℃から室温までの冷却速度は、20℃/minとした。その後、ペレット状の炭窒化チタン粉末を、乳鉢により手解砕し、粒状の炭窒化チタン粉末を得た(解砕工程)。
【0079】
・試料No.1−2、試料No.1−3、試料No.1−11
熱処理工程における熱処理温度を変更して、各炭窒化チタン粉末を作製した。熱処理温度は、試料No.1−2:2000℃、試料No.1−3:2300℃、試料No.1−11:1700℃とした。熱処理温度以外の条件は、試料No.1と同様である。
【0080】
・試料No.1−4
熱処理工程における熱処理時間を0時間として、炭窒化チタン粉末を作製した。つまり、試料No.4では、熱処理工程において、室温から昇温速度:20℃/minで2200℃まで昇温後、すぐに冷却速度:20℃/minで室温まで冷却した。熱処理時間以外の条件は、試料No.1と同様である。
【0081】
・試料No.1−5
混合工程において、酸化チタン粉末及び炭素粉末に、更に不純物として炭窒化チタン換算でそれぞれ0.5質量%のタングステン粉末及びコバルト粉末を混入させて、炭窒化チタン粉末を作製した。それ以外の条件は、試料No.1と同様である。
【0082】
・試料No.1−12
比較品として、特許文献1に記載の製造方法にて炭窒化チタン粉末を作製した。具体的には、原料粉末として、水素化チタン(平均粒径:0.18μm、純度:98%)と、炭素粉末(平均粒径:0.18μm、純度:98%)とを準備し、更に、熱処理工程後にTiC
0.5N
0.5粉末としたときのタングステン純分及びコバルト成分がTiC
0.5N
0.5ベースに対してそれぞれ0.8質量%及び0.3質量%となるように炭化タングステン粉末及びコバルト粉末を準備した。これら各粉末をボールミルにて混合・粉砕した混合粉末を、窒素含有雰囲気にて1600℃×1.0時間熱処理し、その後1.2μmとなるまで粉砕処理した。
【0083】
≪粒度分布測定≫
得られた各試料の炭窒化チタン粉末について、体積基準の粒度分布を、レーザー回析・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、マイクロトラック)を用いて測定した。測定条件は、湿式測定(溶媒:エタノール)で、溶媒の屈折率を1.36とし、粒子の屈折率を2.4とした。得られた粒度分布における累積10%の粒径D10、累積50%の粒径D50、累積90%の粒径D90、及び算出したD10/D90を表1に示す。代表して、試料No.1−1、試料No.1−11、試料No.1−12の各炭窒化チタン粉末を電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM、倍率:5000倍)で撮像した写真を
図1〜
図3に示す。
【0084】
≪回折ピークの半値幅測定≫
また、得られた各試料の炭窒化チタン粉末について、CuKαX線を用いたX線回折によって、(2,0,0)面、(2,2,0)面、(2,2,2)面の各ピークの半値幅を測定した。その結果を表1に併せて示す。
【0086】
表1より、酸化チタン粉末と炭素粉末とを粉砕することなく混合⇒造粒⇒窒素含有雰囲気中で2000℃超2500℃以下の温度で熱処理した試料No.1−1〜No.1−5は、(A)D50が2.0μm以上6.0μm以下を満たし、(B)D10/D90が0.20以上0.50以下を満たしていることがわかる。つまり、試料No.1−1〜No.1−5は、(A)粗粒であると共に(B)均粒であることがわかる(
図1を併せて参照)。一方、1700℃の温度で熱処理した試料No.1−11は、(B)D10/D90が0.20以上0.50以下を満たしているが、(A)D50が2.0μm未満であった。試料No.1−11は、混合工程において粉砕せずに混合しており、原料粉末における粒度を維持したまま熱処理工程を行うことができたため、(B)均粒であるが、熱処理工程において温度が低く、粒成長を促進できなかったため、(A)微粒となった(
図2を併せて参照)。また、原料粉末をボールミルにて混合及び粉砕した後に1600℃の温度で熱処理し、更に粉砕処理を施した試料No.1−12は、(A)D50が2.0μm以上6.0μm以下を満たしているが、(B)D10/D90が0.20未満であった。試料No.1−12は、混合工程において粉砕を行っていると共に、熱処理後にも粉砕処理を施しているため、原料粉末における粒度を維持できず微粒となり、(B)粒度が不均一となった(
図3を併せて参照)。
【0087】
〔試験例2〕
試験例2では、試験例1で得られた各試料の炭窒化チタン粉末を用いて硬質材料を作製し(試料No.2−1〜2−5,2−11,2−12)、その評価を行った。
【0088】
≪試料の作製≫
原料粉末として、試験例1で得られた各試料の炭窒化チタン粉末を準備する(試料No.2−1〜2−5,2−11,2−12はそれぞれ、試料No.1−1〜1−5,1−11,1−12を用いる)と共に、更に市販のWC粉末(平均粒径:1.0μm)、TaC粉末(平均粒径:0.7μm)、Co粉末(平均粒径:1.0μm)、Ni粉末(平均粒径:1.5μm)を準備した(準備工程)。原料粉末の平均粒径は、FSSS法により求めた平均粒径である。これらの粉末をTiCN−20WC−7TaC−8Co−8Niの比率で配合すると共に、ボールミルで粉砕せずに混合し、混合粉末とした(混合工程)。
混合は、溶媒を水とし、φ5mmの超硬ボールのメディアを用いて行った。混合時間は、試料No.2〜1〜2−5,2−11:12時間、試料No.2−12:120時間とした。得られた混合粉末を98MPaでプレス成形し成形体とした(成形工程)。得られた成形体を真空雰囲気中、1550℃×0.5時間焼結し、硬質材料を得た(焼結工程)。
【0089】
≪組織の観察≫
得られた各試料の硬質材料を、ダイヤモンドブレードを用いて切断後、切断面を平面研削及び#3000のダイヤモンドペーストにて鏡面加工し、この断面を顕微鏡用観察試料とした。
【0090】
この観察試料の加工面を、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)を使用して加速電圧:15kV、作動距離:10.0mm、5000倍の条件で撮像した。代表して、試料No.2−1、試料No.2−11、試料No.2−12の各硬質材料の写真を
図4〜
図6に示す。
図4〜
図6において、黒色が炭窒化チタンからなる第一硬質相、灰色がWやTaを含有する第二硬質相、それらの間の白色の領域がCoやNiを主成分とする結合相を示す。
図4では、第一硬質相が粗粒であり、かつ均粒であることがわかる。一方、
図5では、第一硬質相が微粒であり、
図6では、第一硬質相は微粒であり、その粒度にばらつきが見られる。
【0091】
上記観察試料において、1視野につき第一硬質相(TiCN)粒子300個以上について、画像解析ソフトウェア「ImageJ」を用いて以下の手順で解析した。まず、FE−SEMで撮像した画像をコンピュータに取り込み、Threshold機能により画像から暗色を有する第一硬質相を抽出し、二値化処理を行った。このとき、二値化処理によって近接した第一硬質相同士が一体物と見なされた部分については、元画像を参照しながら別個の第一硬質相となるように修正した。また、本来であれば一つの第一硬質相でありながら意図しない分割がなされた部分については、元画像を参照しながら一つの第一硬質相となるように修正した。次に、AnalyzeParticles機能により、各第一硬質相についてD50及びD20(最大フェレ径)、アスペクト比(楕円近似したときの長軸/短軸)、及び面積を求めた。なお、画像端部にかかる第一硬質相は、粒径(D50及びD20)及びアスペクト比の解析対象からは除外し、面積率の解析対象には含めた。
第一硬質相の粒径(D20及びD50)、アスペクト比、及び面積率の結果を表2に示す。
【0092】
≪機械的特性≫
上記観察試料の加工面に対して、ビッカース硬度(GPa)、及び破壊靭性(MPa・m
0.5)、を、それぞれJIS Z 2244(2009年)、及びJIS R 1607(1995年)に準拠して測定した。その結果を表2に併せて示す。
【0093】
また、熱拡散率測定装置(NETZSCH社製LFA457)、比熱測定装置(NETZSCH社製STA449)、及びアルキメデス法により、室温(20〜22℃)における各硬質材料の熱拡散率、比熱、及び比重を測定し、これらを乗算して熱伝導率(W/mK)を算出した。なお、STA449による比熱測定は、サファイアを基準試料として算出した。その結果を表2に併せて示す。
【0095】
表2より、原料粉末として粗粒・均粒のTiCN粉末を用いて得られた試料No.2−1〜No.2−5は、D50が1.0μm以上かつD20が0.7μm以上と粗粒であり、アスペクト比が2.0以下と断面円形状であった。その結果、試料No.2−1〜No.2−5は、破壊靭性が6.8MPa・m
0.5以上、かつ熱伝導率が18W/m以上であり、微粒のTiCN粉末を用いて得られた試料No.2−11、No.2−12に比較して破壊靭性及び熱伝導率が共に向上することがわかった。試料No.2−11は、微粒のTiCN粉末を用いたため、第一硬質相のD50が微粒となり、破壊靭性及び熱伝導率が低下したと考えられる。また、試料No.2−12は用いたTiCN粉末が粉砕を伴う混合を行って得られたものであり、TiCN粉末の各粒子が異形であるため、得られた硬質材料においてもその異形が反映され、アスペクト比が2.0超となり、破壊靭性及び熱伝導率が低下したと考えられる。硬度に関しては、炭窒化チタン粉末が粗粒になるにつれて低下する。これは、粗粒の炭窒化チタン粉末を用いることで、粗粒の硬質相とでき、亀裂進展の抑制効果(クラック迂回効果)によって破壊靭性を向上できる一方で、破壊靭性と相反する物性である硬さが低下したことによると考えられる。
【0096】
〔試験例3〕
試験例3では、試験例1で作製したTiCN粉末と同様の各種TiCN粉末を用いて硬質材料を作製し(試料No.3−1〜3−8,3−11〜3−14)、各硬質材料の切削性能を調べた。
【0097】
≪試料の作製≫
原料粉末として、表3に示す粉末を準備した(準備工程)。TiCN粉末は、試料No.3−1〜3−8:試料No.1−1、試料No.3−11,No.3−12:試料No.1−11、試料No.3−13,No.3−14:試料No.1−12を用いた。他の各粉末の平均粒径は、WC粉末:1.0μm、TaC粉末:0.7μm、NbC粉末:1.1μm、Mo
2C粉末:2.0μm、ZrCN粉末:2.5μm、VC:0.5μm、Cr
3C
2粉末:1.6μm、Co粉末:1.0μm、Ni粉末:1.5μmである。これらの粉末を表3に示す比率で配合すると共に、ボールミルで粉砕せずに混合し、混合粉末とした(混合工程)。混合は、溶媒を水とし、φ5mmの超硬ボールのメディアを用いて行った。混合時間は、試料No.3〜1〜3−8,3−11,3−12:12時間、試料No.3−13,3−14:120時間とした。得られた混合粉末を98MPaでプレス成形し成形体とした(成形工程)。得られた成形体を真空雰囲気(100Pa)中、1550℃×1.0時間焼結し、硬質材料を得た(焼結工程)。
【0098】
≪組織の観察≫
得られた各硬質材料に対して、試験例2と同様に、第一硬質相の粒径(D20及びD50)、アスペクト比、及び面積率を求めた。その結果を表3に併せて示す。
【0100】
≪切削試験≫
各試料の硬質材料に適宜ホーニング処理等の刃先処理加工を施してCNMA120404の形状を有する基材を作製した。そして、各試料の表面に公知のPVD法でTiAlNからなる硬質皮膜を5μmの平均厚みとなるように被覆した。各試料を用いて、表4に示す切削条件にて実際に切削試験を行った。その結果を表5に示す。
【0103】
表5より、原料粉末として粗粒・均粒のTiCN粉末を用いて作製した試料No.3−1〜No.3−8は、第一硬質相のD50が1.0μm以上かつD20が0.7μm以上と粗粒であり、アスペクト比が2.0以下と断面円形状であって、破壊靭性及び耐熱衝撃性の双方に非常に優れることがわかった。