特許第6736035号(P6736035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6736035
(24)【登録日】2020年7月17日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】銀ナノワイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20200728BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20200728BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20200728BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20200728BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   B22F9/24
   B82Y40/00
   H01B1/00
   H01B1/02
   H01B13/00
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-503327(P2020-503327)
(86)(22)【出願日】2019年5月16日
(86)【国際出願番号】JP2019019484
(87)【国際公開番号】WO2019225469
(87)【国際公開日】20191128
【審査請求日】2020年1月22日
(31)【優先権主張番号】特願2018-100568(P2018-100568)
(32)【優先日】2018年5月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109635
【氏名又は名称】星光PMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164828
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦 康宏
(72)【発明者】
【氏名】植田 恭弘
(72)【発明者】
【氏名】栗村 宗稔
【審査官】 大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−222792(JP,A)
【文献】 特開2013−144822(JP,A)
【文献】 特表2016−519206(JP,A)
【文献】 特開2013−194290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/24
B82Y 40/00
H01B 1/00
H01B 1/02
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール中で成長制御剤及びハロゲン化物塩を用い、銀塩から銀ナノワイヤを得る方法であって、さらに下記一般式(1)で示されるα−ヒドロキシカルボニル化合物(a)を用いることを特徴とする銀ナノワイヤの製造方法。
(a)〔一般式(1)〕
【化1】
(但し、一般式(1)中、Rは水素原子、炭素数1〜6の炭化水素基のいずれかを表す)
【請求項2】
前記α−ヒドロキシカルボニル化合物(a)がヒドロキシアセトンまたはα−ヒドロキシアセトフェノンである請求項1に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項3】
前記銀塩が硝酸銀である請求項1または請求項2に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項4】
前記α−ヒドロキシカルボニル化合物(a)の銀塩中の銀原子に対するモル比が0.20〜3.0である請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項5】
反応温度において前記α−ヒドロキシカルボニル化合物(a)を含む第1溶液と銀塩を含む第2溶液とを10分以上かけて混合する工程を含む、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項6】
成長制御剤の反応液に対する濃度が0.40質量%以上である請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項7】
ハロゲン化物塩中のハロゲン原子の銀塩中の銀原子に対するモル比が0.010〜0.30である請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオール中において、銀塩を、成長制御剤、ハロゲン化物塩、特定の部分構造を有するα−ヒドロキシカルボニル化合物存在下で反応させることを特徴とする銀ナノワイヤの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機エレクトロルミネセンスディスプレイや電子ペーパーなどの表示デバイス、タッチパネルなどの入力センサー、薄膜型アモルファスSi太陽電池や色素増感太陽電池などの太陽光を利用した太陽電池などの利用が増えており、これらのデバイスに必須の部材である透明導電膜の需要も増えている。
【0003】
この透明導電膜材料として透明酸化物であるITO(InとSnの酸化物)を主成分とした薄膜が主に用いられている。ITOを用いた薄膜は、高い透明性と高い導電性を得るために一般的にはスパッタ装置や蒸着装置により気相法により作製されているが、この作成方法では装置が大掛りかつ複雑なものとなり、また作製に大量のエネルギーを消費するため、製造コストや環境負荷を軽減できる技術の開発が求められている。また、一方で、透明導電材料の大面積化が指向されており、それに伴い透明導電材料の軽量化や柔軟性、低抵抗化に対する要請が高まっている。
【0004】
これに対して、湿式製法が可能で軽量性と柔軟性が高い、金属元素のナノワイヤを含有する透明導電膜が検討されている。金属元素のナノワイヤの直径は250nm以下と小さいため、可視光領域での光透過性が高く、ITOに代わる透明導電膜としての応用が期待されている。特に、銀ナノワイヤを用いた透明導電膜は高い導電性と安定性を有するため注目されている。
【0005】
そのような銀ナノワイヤの製造方法として、還元剤として作用するエチレングリコール等のポリオールを溶媒とし、銀ナノワイヤの元となる銀化合物を、ハロゲン化物イオンと成長制御剤とともに反応させる製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、ポリオールを用いた銀ナノワイヤの製造方法には、同一の反応条件で製造を試みた場合においても、ポリオールの製造ロットが異なることにより、一定の形状(長軸長、直径)を有するナノワイヤが安定して製造できないという再現性の問題を有していた。このため、特許文献2では窒素パージを行うなどの改良がおこなわれている。
【0007】
一方、銀ナノワイヤを含有する透明電導膜は銀ナノワイヤの直径が小さいほど高い透明性を有することから、透明導電膜の製造にはより細い銀ナノワイヤが好ましい。しかしながら、前記特許文献2の方法では75nm前後の平均直径を有する銀ナノワイヤしか得られない。このことから、ワイヤの直径が小さい銀ナノワイヤの製造方法について盛んに研究されている。
【0008】
例えば、特許文献3には前記特許文献1において、更にアルカリ金属水酸化物とアルミニウム塩とを特定の割合で用いることで、細く(平均直径50nm以下)、長い(平均長さ10μm以上)銀ナノワイヤを安定して製造するための技術が開示されている。この方法では一定の形状を有する銀ナノワイヤを製造することはできるものの、製造に時間がかかることが課題であった。
【0009】
また、特許文献4には、明確に定義されたサイズ分布を有する銀ナノワイヤを生産するための合成及び精製の工程が示されており、特定の製造方法で得られた銀ナノワイヤを含む塗布液は、アスペクト比が少なくとも3である銀ナノ構造の80%超が直径25nm未満である旨、開示されている。しかしながら、この方法によれば高収率で一定の形状・品質を有する銀ナノワイヤを製造することはできるものの、銀塩の添加を2回に分けるため合成手順が煩雑であり、かつ、製造に時間がかかるため生産性が低くなってしまうという課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0210052号公報
【特許文献2】特表2013−503260号公報
【特許文献3】特開2015−180772号公報
【特許文献4】特表2017−515983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記した従来技術における課題に鑑み、簡便な方法にて一定の形状(長軸長、直径)を有する銀ナノワイヤを効率良く安定して製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ポリオール中において、成長制御剤とハロゲン化物塩と銀塩とを、特定の部分構造を有するα−ヒドロキシカルボニル化合物存在下で反応させることを特徴とする銀ナノワイヤの製造方法を用いた場合に、前記した課題が解消できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)ポリオール中で成長制御剤及びハロゲン化物塩を用い、銀塩から銀ナノワイヤを得る方法であって、さらに下記一般式(1)で示されるα−ヒドロキシカルボニル化合物(a)を用いることを特徴とする銀ナノワイヤの製造方法、
(a)〔一般式(1)〕
【化1】
(但し、一般式(1)中、Rは水素原子、炭素数1〜6の炭化水素基のいずれかを表す)
(2)前記α−ヒドロキシカルボニル化合物(a)がヒドロキシアセトンまたはα−ヒドロキシアセトフェノンである前記(1)に記載の銀ナノワイヤの製造方法、
(3)前記銀塩が硝酸銀である前記(1)または(2)に記載の銀ナノワイヤの製造方法、
(4)前記α−ヒドロキシカルボニル化合物(a)の銀塩中の銀原子に対するモル比が0.20〜3.0である前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤの製造方法、
(5)反応温度において前記α−ヒドロキシカルボニル化合物(a)を含む第1溶液と銀塩を含む第2溶液とを10分以上かけて混合する工程を含む、前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤの製造方法、
(6)成長制御剤の反応液に対する濃度が0.40質量%以上である前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤの製造方法、
(7)ハロゲン化物塩中のハロゲン原子の銀塩中の銀原子に対するモル比が0.010〜0.30である前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の銀ナノワイヤの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の銀ナノワイヤの製造方法によれば、ポリオールの製造ロットが変わっても、従来技術よりも短い時間で一定の形状を有する銀ナノワイヤを効率良く得ることができる。また、本発明で規定するα−ヒドロキシカルボニル化合物を用いない場合に比べて、エネルギー効率よく、より低い温度でも反応を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
[ポリオール]
本発明で用いるポリオールとしては、銀イオンを還元できる化合物であれば特に制限はなく、2つ以上の水酸基を有する化合物から少なくとも一種類を目的に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができるポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、等のジオール類およびこれらの異性体、グリセリン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール等のトリオール類およびこれらの異性体、ブタンテトラオール、ペンタンテトラオール、ヘキサンテトラオール等のテトラオール類およびこれらの異性体、ペンタンペンタオール、ヘキサンペンタオール等のペンタオール類およびこれらの異性体、ヘキサンヘキサオール等のヘキサオール類およびこれらの異性体が挙げられる。これらの中でも、常温で液体であることや、成長制御剤の溶解のし易さ、といった点から、炭素数が1〜5である飽和炭化水素のジオール、炭素数が1〜5である飽和炭化水素のトリオールが好ましい。中でも、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、グリセリンを用いることがより好ましく、プロピレングリコールを用いることがさらに好ましい。
【0017】
[成長制御剤]
本発明に用いる成長制御剤は、特に制限はなく、少なくとも一種類のポリマーを目的に応じて適宜選択することができる。具体的な例としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリN置換(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ポリビニルアルコール、またはそれら主成分とする共重合体が挙げられる。これらの中でもアミド基を有するポリマーが好ましく、ポリビニルピロリドン、ポリN置換(メタ)アクリルアミドがより好ましく、ポリビニルピロリドンがさらに好ましい。ここで使用されるN置換(メタ)アクリルアミドとは、(メタ)アクリルアミドのN位の水素原子が1個以上アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリール基、アルコキシアルキル基等の官能基で置換されたものであれば特に限定されない。上記重合体の分子構造は、直鎖構造でも、分散溶媒への溶解性を阻害しない程度に架橋構造を有していてもよい。また、ポリオールへの溶解性、銀ナノワイヤの形成を阻害しない程度に上記重合体の重合成分として他のモノマーを共重合して導入することができる。
【0018】
共重合可能な他のモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル類、(メタ)アクリルアミド等のN無置換(メタ)アクリルアミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル、ケイ皮酸ビニル、ソルビン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アコニット酸等の不飽和カルボン酸類、(メタ)アリルアルコール、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アリルアミン等の(メタ)アリル化合物類、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルプロピオン酸アミド等のN−ビニルカルボン酸アミド類、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等のビニル基含有複素環類が挙げられる。イオン性を有するモノマーに関しては、それらの塩類を含む。
【0019】
成長制御剤の重量平均分子量は、1万〜300万が好ましく、10万〜200万がより好ましい。成長制御剤の重量平均分子量が1万より小さい場合には、銀微粒子の生成が多くなるため、銀ナノワイヤの収率が低下してしまう。300万より大きい場合には、銀ナノワイヤが太くなりやすい。
【0020】
[ハロゲン化物塩]
本発明に用いるハロゲン化物塩は、無機塩あるいは有機塩を極性溶媒中に溶解することによってハロゲン化物イオンを解離する化合物であれば特に制限はなく、少なくとも一種類を目的に応じて適宜選択することができる。ハロゲン化物塩の具体例としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩化物、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等のアルカリ金属臭化物、沃化リチウム、沃化ナトリウム、沃化カリウム等のアルカリ金属沃化物、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等のアルカリ土類金属塩化物、臭化マグネシウム、臭化カルシウム等のアルカリ土類金属臭化物、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等の土類金属ハロゲン化物、塩化亜鉛、臭化亜鉛等の亜鉛族金属ハロゲン化物、塩化スズ等の炭素族金属ハロゲン化物、塩化マンガン、塩化鉄、臭化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、臭化ニッケル、オキシ塩化ジルコニウム等の遷移金属ハロゲン化物、ヒドラジン塩酸塩、トリメチルアミン塩酸塩、トリエチルアミン塩酸塩、エタノールアミン塩酸塩、ジエタノールアミン塩酸塩、トリエタノールアミン塩酸塩、ジメチルエタノールアミン塩酸塩、メチルジエタノールアミン塩酸塩、シクロヘキシルアミン塩酸塩、エチレンジアミン塩酸塩、ジエチレンテトラミン塩酸塩、トリエチレンペンタミン塩酸塩、アニリン塩酸塩等のアミン塩酸塩、アラニン塩酸塩、アルギニン塩酸塩、リシン塩酸塩、システイン塩酸塩等のアミノ酸塩酸塩、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム等のアンモニウム塩ハロゲン化物、塩化テトラブチルホスホニウム、臭化テトラフェニルホスホニウム等のホスホニウム塩ハロゲン化物等が挙げられる。
【0021】
これらは単独で用いられてもよく、2種類以上組み合わせて用いられてもよい。特に塩化物塩、臭化物塩を用いることが好ましく、塩化物塩を単独で用いる場合、収率は高いもののワイヤが太くなってしまい、臭化物塩を単独で用いると収率が低下してしまうため、塩化物塩と臭化物塩を組み合わせて用いることが好ましい。これらの中でも、塩化リチウム、塩化ナトリウム、オキシ塩化ジルコニウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウムを用いることが好ましい。また、[塩化物中の塩素原子の総モル数]/[臭化物中の臭素原子の総モル数](「Cl/Br」と表記)は0.10〜15が好ましく、0.80〜8.0がより好ましく、1.5〜5.0がさらに好ましい。0.10より小さい場合には収率が低くなってしまい、15より大きい場合には、ワイヤが太くなってしまう。
【0022】
[銀塩]
本発明で用いる銀塩としては、銀錯体を除く、ポリオールによって還元される銀化合物であれば特に制限はなく、少なくとも一種類を目的に応じて適宜選択することができる。本発明で用いることのできる銀塩の具体的な例としては、硝酸銀、塩化銀、硫酸銀、スルファミン酸銀、塩素酸銀、過塩素酸銀等の無機酸塩類、酢酸銀、乳酸銀等の有機酸塩類が挙げられる。これらの中でも硝酸銀を用いることが好ましい。なお、銀錯体とは、対アニオン以外の配位子を有する銀化合物のことであり、例えば配位子としては、アンモニア、チオウレア、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類が挙げられる。また、本発明においては成長制御剤、ポリオールやその他反応溶媒は配位子に含まない。
【0023】
[α−ヒドロキシカルボニル化合物]
本発明の製造方法は、ポリオール中で銀ナノワイヤを析出させる際に、特定の構造を有するα−ヒドロキシカルボニル化合物を共存させておく点に特徴がある。このα−ヒドロキシカルボニル化合物を共存させておくことにより、収率よく、細い銀ナノワイヤを製造することができる。このα−ヒドロキシカルボニル化合物を共存させることにより、用いない場合と比較してより低い温度で反応を行うことができることがわかっており、このことから、α−ヒドロキシカルボニル化合物はポリオールとともに銀塩の還元剤としての機能を有していると考えられる。
【0024】
本発明で用いるα−ヒドロキシカルボニル化合物は、下記一般式(2)で示されるα−ヒドロキシカルボニル化合物である。
〔一般式(2)〕
【化2】
(但し、一般式(2)中、Rは水素原子、炭素数1〜6の炭化水素基のいずれかを表す)
具体的には、ヒドロキシアセトン、α−ヒドロキシアセトフェノン、1−ヒドロキシ−2−ブタノン、1−ヒドロキシ−2−ペンタノン、1−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン等が挙げられる。これらの中でもヒドロキシアセトン、α−ヒドロキシアセトフェノンを用いることが好ましく、ヒドロキシアセトンを用いることがより好ましい。
【0025】
上記一般式(2)で示されるα−ヒドロキシカルボニル化合物以外のα−ヒドロキシカルボニル化合物(たとえばアセトイン)では、所望の還元力が得られない。この明確な理由は定かではないが、例えば、ヒドロキシルカルボニル骨格が末端ではなく内部に存在する場合を考えると、末端の場合には反応系中で還元能が高いと推測されるホルミル基が平衡で生成しうるが、内部の場合にはこのような寄与が存在しないことから、所望の還元力が得られないと推測できる。
【0026】
[その他反応溶媒]
本発明に用いる溶媒として、成長制御剤の溶解性や、銀ナノワイヤの生成を阻害しない程度にポリオール以外の反応溶媒を加えてもよい。例えば、水、あるいは、メタノール、プロパノール等のアルコール類、あるいはメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン等のアミド類が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0027】
[反応温度]
本発明の銀ナノワイヤの製造方法における反応温度は、銀ナノワイヤが形成可能な温度であればどのような温度でもよいが、50〜200℃であることが好ましく、100〜170℃がより好ましく、100〜150℃がさらに好ましい。50℃よりも低いと銀ナノワイヤ形成に時間がかかりすぎ、200℃を超えると均質なワイヤが得られにくくなってしまう。
【0028】
[反応時間]
本発明の銀ナノワイヤの製造方法における反応時間は、銀ナノワイヤが形成可能な時間であれば任意に設定できるが、製造コストの観点から72時間以内が好ましい。
【0029】
[各原料の仕込み方法]
本発明に用いる各原料の仕込み方法は、あらかじめポリオールやその他反応溶媒などの使用溶媒に溶解した後反応容器に仕込んでも、反応容器に使用溶媒を仕込んでから各原料を仕込んでもどちらでもよいが、均一混合のし易さから、あらかじめ使用溶媒に溶解してから仕込むことが好ましい。各原料の仕込み順序は特に指定はないが、反応温度においてα−ヒドロキシカルボニル化合物を含む第1溶液と銀塩を含む第2溶液とを混合することが好ましい。このとき、成長制御剤、ハロゲン化物塩、その他の添加剤は第1溶液または第2溶液に入れておいてもよく、別の溶液として同時に混合してもよい。第1溶液と第2溶液の混合においては、混合時間を延ばすことによりナノワイヤの長軸長が長くなるため、5分以上かけて混合することが好ましく、10分以上かけて混合することがより好ましい。また製造コストの観点から、720分以内が好ましい。
【0030】
[銀塩の反応濃度]
本発明に用いる銀塩の濃度は、良好な銀ナノワイヤの形成の点から、反応液に対して、0.10〜20質量%となるように用いるのが好ましく、0.20〜10質量%となるように用いるのがより好ましい。銀塩の濃度が0.10質量%を下回ると銀ナノワイヤの生成量が少なくなって製造コストがかかりすぎ、20質量%を上回ると良好な形態の銀ナノワイヤが得られにくくなる。
【0031】
[成長制御剤の反応濃度]
本発明に用いる成長制御剤の濃度は、良好な銀ナノワイヤの形成の点から、反応液に対して、0.20〜10質量%となるように用いるのが好ましく、0.40〜8.0質量%となるように用いるのがより好ましい。成長制御剤の濃度が0.20質量%を下回るとワイヤ径にばらつきが大きくなり、良好な形態の銀ナノワイヤが得られにくくなるとともに収率が低下する。また、10質量%を上回ると銀ナノワイヤを単離する際に成長制御剤の除去操作が煩雑になることから製造コストの上昇を招く。
【0032】
[ハロゲン化物塩の銀塩中の銀原子に対するモル比]
本発明に用いるハロゲン化物塩は、良好な銀ナノワイヤの形成の点からすべてのハロゲン化物塩中のハロゲン原子のモル数の銀塩中の銀原子に対するモル比で0.0010〜0.50となるように用いるのが好ましく、0.010〜0.30となるように用いるのがより好ましい。ハロゲン化物塩中のハロゲン原子の銀塩中の銀原子に対するモル比が0.0010を下回る場合には、収率が低下するとともに良好な形態の銀ナノワイヤが得られにくくなる。また、0.50を上回る場合には、銀塩に対して相対的な量が多くなってしまい銀ナノワイヤの収率が低下してしまう。
【0033】
[α−ヒドロキシカルボニル化合物の銀塩中の銀原子に対するモル比]
本発明に用いるα−ヒドロキシカルボニル化合物は、良好な銀ナノワイヤの形成の点から銀塩中の銀原子に対するモル比で0.010〜5.0となるように用いるのが好ましく、0.020〜3.0となるように用いるのがより好ましい。α−ヒドロキシカルボニル化合物の銀塩中の銀原子に対するモル比が0.010を下回る場合には、添加効果がほとんど得られず収率が向上しない。α−ヒドロキシカルボニル化合物の銀塩中の銀原子に対するモル比が5.0を上回る場合には、銀微粒子の生成量が多くなってしまい、銀ナノワイヤの収率が低下してしまう。
【0034】
本発明における「ナノワイヤ」とは、断面直径が1μm未満であり、アスペクト比(長軸長/直径)が2以上である構造体をいう。また、本発明における「微粒子」とは、断面直径が1μm未満であり、アスペクト比(長軸長/直径)が2未満である構造体をいう。
【0035】
[銀ナノワイヤの長軸長]
銀ナノワイヤを含有する透明電導膜は、銀ナノワイヤが互いに接触し合い、3次元的な導電ネットワーク構造が空間的に広く分布して形成されることにより、導電性を発現するため、導電性の観点からはナノワイヤの長軸長は長いほうが好ましい。一方で、長すぎるナノワイヤは絡まりやすくなるため、分散安定性の観点からは短いナノワイヤが好ましい。従って、本発明においては、銀ナノワイヤの長軸長として1〜100μmが好ましく、5〜50μmがより好ましい。
【0036】
[銀ナノワイヤの直径]
銀ナノワイヤを透明導電膜として用いる場合、透明性を高めるため、ワイヤの直径は小さい方が有利であり好ましい。本発明においては、銀ナノワイヤの直径として100nm未満が好ましく、60nm未満であることがより好ましく、40nm未満であることがさらに好ましい。
【0037】
[銀ナノワイヤ分散液製造工程]
本発明の製造方法で得られた銀ナノワイヤは、反応液を遠沈法、濾過法、傾瀉法、水簸法、溶媒による沈殿後再分散処理する方法等従来公知の方法により精製してから、銀ナノワイヤ分散液の製造に供することが好ましい。
【0038】
精製した銀ナノワイヤは溶媒に分散して銀ナノワイヤ分散液とする。溶媒は銀ナノワイヤを分散可能なものであれば特に制限はない。具体例としては、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、ジアセトンアルコール、ベンジルアルコール、ターピネオール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリン等のポリオール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のグライム類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルエステル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、乳酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、3−メチル−2−ヘキサノン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族類、およびこれらの2種類以上からなる溶媒が挙げられる。
【0039】
また、銀ナノワイヤ分散液とする際に分散安定性向上の目的で樹脂を添加しても構わない。樹脂の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、ガティガム、ローカストビーンガム、ヒドロキシエチルグアーガム、ヒドロキシプロピルグアーガム等の多糖類およびその誘導体、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコールおよびその誘導体等があげられる。
【0040】
本発明の銀ナノワイヤ分散液は、例えば透明導電膜の形成に用いることができ、基板上に銀ナノワイヤ分散液を公知の方法で塗布することで透明導電膜を得る。塗布方法の具体例としては、スピンコート法、スリットコート法、ディップコート法、ブレードコート法、バーコート法、スプレー法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、平板印刷法、ディスペンス法およびインクジェット法等が挙げられる。また、これらの塗布方法を用いて複数回塗り重ねてもよい。
【0041】
透明導電膜を有する基板は、例えば液晶ディスプレイ用電極材、プラズマディスプレイ用電極材、有機エレクトロルミネセンスディスプレイ用電極材、電子ペーパー用電極材、タッチパネル用電極材、薄膜型アモルファスSi太陽電池用電極材、色素増感太陽電池用電極材、電磁波シールド材、帯電防止材等の各種デバイスなどに幅広く適用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
銀ナノワイヤの収率、銀ナノワイヤの直径、銀ナノワイヤの長軸長は、以下のようにして測定、評価した。
[銀ナノワイヤの収率]
銀ナノワイヤの収率は、反応に仕込んだ銀塩中の銀原子の質量に対する精製後の銀ナノワイヤ溶液中の銀の質量の割合から求めた。また、ここで用いる精製後の銀ナノワイヤ溶液中の銀の質量は、2時間以上525℃の電気乾燥機で乾燥させたときの重量から求めた。評価基準は以下のような5段階とした。D以上の評価であれば実用上問題なく、B以上の評価が好ましい。
評価基準
A:35%以上
B:25%〜35%
C:15%〜25%
D:5%〜15%
E:5%未満
【0044】
[銀ナノワイヤの直径]
走査型電子顕微鏡(SEM;日本電子株式会社製、JSM−5610LV)を用い、100個の銀ナノワイヤを観察し、その平均値から銀ナノワイヤの直径を求めた。評価基準は以下のような4段階とした。D以上の評価であれば実用上問題なく、B以上の評価が好ましい。
評価基準
A:20nm〜35nm
B:35nm〜40nm
C:40nm〜45nm
D:45nm〜60nm
【0045】
[銀ナノワイヤの長軸長]
走査型電子顕微鏡(SEM;日本電子株式会社製、JSM−5610LV)を用い、100個の銀ナノワイヤを観察し、その平均値から銀ナノワイヤの長軸長を求めた。評価基準は以下のような5段階とした。E以上の評価であれば実用上問題なく、D以上の評価が好ましく、C以上の評価がより好ましい。
評価基準
A:11μm〜30μm
B:9μm〜11μm
C:7μm〜9μm
D:5μm〜7μm
E:1μm〜5μm
【0046】
[反応効率の評価]
銀ナノワイヤの反応効率の評価としては、単位反応時間当たりの銀ナノワイヤ収率で評価する。すなわち、下記(1)式に反応時間と銀ナノワイヤの収率を代入することにより算出する。評価基準は以下のような5段階とした。D以上の評価であれば実用上問題なく、B以上の評価が好ましい。
[反応効率] = [銀ナノワイヤの収率(%)] / [反応時間(時間)] … (1)
評価基準
A:35以上
B:25〜35
C:15〜25
D:5〜15
E:5未満
【0047】
<成長制御剤の合成>
(合成例1)
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管を具備した四つ口フラスコにN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド112.5質量部、N,N−ジエチルアクリルアミド37.5質量部、プロピレングリコール50質量部、イオン交換水750質量部を仕込んだ後、窒素ガスを送入しながら70℃に昇温した。次いで、濃度3質量%の2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)のプロピレングリコール溶液50質量部を添加し、90℃で3時間反応させ、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体を調製した。その後反応液400部にプロピレングリコール600部を投入したのち、減圧蒸留により含有している水の理論量よりも少し上回る蒸留液を留去し溶媒置換を行った。溶媒置換後の液に、濃度6質量%に調整するために必要なプロピレングリコール量を添加することにより、銀ナノワイヤの作成に供する濃度6質量%の成長制御剤のプロピレングリコール溶液を得た。GPC−MALS法より、Agilent1100HPLCシステム(Agilent Technologies,Inc.製)を用いてもとめた重量平均分子量は420000であった。
【0048】
<銀アンモニア錯体溶液の調整>
硝酸銀水溶液に1Nのアンモニア水を透明になるまで添加した後、イオン交換水によって濃度調整し10質量%銀アンモニア錯体水溶液を得た。さらに、プロピレングリコールにより希釈し、5質量%銀アンモニア錯体溶液を得た。
【0049】
<銀ナノワイヤの作成>
(実施例1)
攪拌装置、温度計、窒素導入管を具備した四つ口フラスコに窒素を送入しながら、成長制御剤としてポリビニルピロリドン(関東化学品、ポリビニルピロリジノン(K=90) 分子量360,000)6.87質量部、α−ヒドロキシカルボニル化合物(a)としてヒドロキシアセトン4.58質量部、ポリオールとしてプロピレングリコール841.3質量部およびハロゲン化物塩として濃度1.5質量%の塩化ナトリウムのプロピレングリコール溶液5.35質量部、濃度2.5質量%の臭化ナトリウムのプロピレングリコール溶液1.88質量部を加え、室温で30分間攪拌した。次いで、内温を145℃まで昇温し、銀塩として濃度5質量%の硝酸銀のプロピレングリコール溶液140.0質量部を15分かけて加え、さらに30分攪拌し、銀ナノワイヤを合成した。その後、反応液を取り出し、反応液100質量部に水100質量部を加えて希釈し、メンブレンフィルターで吸引濾過した。さらに残渣上に水を加えて吸引濾過を5回繰り返すことで銀ナノワイヤを単離した。得られた銀ナノワイヤは水溶媒に分散させた後に物性を測定した。結果を表5に示す。
【0050】
(実施例2〜23、比較例1〜7)
実施例2〜23、比較例1〜7は表1〜表4に記載のように条件を変更する以外は実施例1と同様にして銀ナノワイヤを得た。結果を表5に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
表5中の「−」は銀ナノワイヤの収率が低かったため、銀ナノワイヤとしての物性評価を行わなかったことを示す。
【0057】
(実施例24)
実施例3の反応条件において、用いるプロピレングリコールの製造ロットを変えて5回銀ナノワイヤの製造を行った。結果を表6に示す。
【0058】
(実施例25)
実施例24の反応条件において、反応温度を160℃とした以外は同様にして銀ナノワイヤの製造を行った。結果を表6に示す。
【0059】
(比較例8)
実施例24の反応条件において、ヒドロキシアセトンを加えず、反応温度を160℃とした以外は同様にして銀ナノワイヤの製造を行った。結果を表6に示す。
【0060】
表6における変動係数とは、5回行った製造結果のばらつきを示すものであり、下記(2)式により求められる。この値が小さいほど、ばらつきが小さいことを示している。
[変動係数] = [評価項目の標準偏差] / [評価項目の平均値] … (2)
【0061】
【表6】
【0062】
本発明で規定するα−ヒドロキシカルボニル化合物を併用する実施例1〜23は、いずれも収率、反応効率が実用レベルにあり、得られる銀ナノワイヤの形状も所望のレベルにあることがわかる。
【0063】
一方、本発明で規定するα−ヒドロキシカルボニル化合物を併用しない比較例1は、実施例1と同条件においては銀イオンの還元反応がほとんど進行しないため、収率、反応効率ともに実施例1が優れる。また、比較例1から反応時間を延ばした比較例7においても、それほど収率が向上していないことがわかる。
【0064】
比較例1や比較例7において反応を進行させるためには、より高い温度で反応させる必要があるが、反応温度が高いと比較例8のようにプロピレングリコールの製造ロットの違いにより、収率及び得られるワイヤ形状に大きなばらつきが生じてしまう。一方で、実施例24、25のようにα−ヒドロキシカルボニル化合物を用いた本発明の製造方法では、銀ナノワイヤの収率及びワイヤ形状ともにばらつきが少ないことがわかる。
【0065】
本発明で規定するα−ヒドロキシカルボニル化合物以外のα−ヒドロキシカルボニル化合物を用いた比較例2〜5は、比較例1同様にほとんど還元反応が進行しなかった。すなわち、本発明で規定するα−ヒドロキシカルボニル化合物を使用した場合のみ、所望の形状を有する銀ナノワイヤを効率よく得られることがわかる。
【0066】
実施例3において硝酸銀を銀アンモニア錯体に換えた比較例6は、銀ナノワイヤを得られなかった。このことから、銀塩は銀錯体を除いた硝酸銀のような配位子を持たないものを用いなければならないことがわかる。
【0067】
実施例6、7に比べ実施例3〜5は、α−ヒドロキシカルボニル化合物の銀塩中の銀原子に対するモル比がさらに好ましい範囲にあるため収率、反応効率ともに向上していることがわかる。
【0068】
実施例10に比べ実施例3、8、9は、α−ヒドロキシカルボニル化合物を含む第1溶液と銀塩を含む第2溶液との混合時間が好ましい範囲にあるため、より好ましいワイヤ長軸長の銀ナノワイヤが得られていることがわかる。
【0069】
実施例12に比べ実施例3、11は、成長制御剤の反応液に対する濃度がより好ましい範囲にあるため、収率、反応効率ともに向上し、より好ましいワイヤ直径を有する銀ナノワイヤが得られるようになる。
【0070】
実施例14、15に比べ実施例3、13は、ハロゲン化物塩中のハロゲン原子の銀塩中の銀原子に対するモル比がより好ましい範囲にあるため、収率、反応効率ともに向上していることがわかる。