(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
使用されるグリースは、その使用条件(機械の種類、運転条件、使用温度範囲等)に合わせて選別される。例えば、自動車のハブユニット用のグリースとしては、70〜100mm
2/s(40℃)程度の動粘度を有する中粘度の基油を含むグリースが用いられる。この種のグリースは、ハブユニットの軸受の焼付きを防止することや、軸受の潤滑寿命を長期に亘って維持することに貢献する。
【0006】
一方、近年では、地球温暖化に対する関心の高まり等から、自動車の高い燃費性が要求されている。
燃費性の向上のためには、グリースに低粘度の基油を使用して、軸受の摺動部(軌道接触部)の摩擦抵抗をできる限り小さくすることが必要である。しかしながら、低粘度の基油を単に採用するだけでは、その背反の事象として、軸受の耐焼付き性や長期に亘る潤滑寿命を維持することが困難になる。
【0007】
また、世界の寒冷地への自動車市場の拡大に伴い、輸送時の振動によって軸受の摺動部に低温フレッティングが発生することが懸念される。低温環境下ではグリースが固化し易く、摺動部にグリースの基油が行き渡らないためである。
そこで、本発明の目的は、摺動部の摩擦抵抗の低減と、耐焼付き性および長期に亘る潤滑寿命の維持とを両立できると共に、低温環境下におけるフレッティングの発生を低減できるグリース組成物およびこれを備える車両用転動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明のグリース組成物は、車両用転動装置に用い、ポリαオレフィンからなり、40℃における動粘度20〜60mm
2/sである基油と、脂環式アミンおよび芳香族アミンの混合アミンと、ジイソシアネート化合物とを反応させて得られるウレア系化合物からなる増ちょう剤と、添加剤とを含有するグリース組成物であって、前記添加剤は、亜リン酸エステル、
次の一般式(1)で示されるスルホラン誘導体(式中、R1は炭素数8のアルキル基を示し、R2およびR3は、それぞれ、水素を示す。)および酸化パラフィンを含む(請求項1)。
【化1】
【0009】
本発明のグリース組成物では、前記基油は、トラクション係数が0.02以下であり、流動点が−50℃以下であることが好ましい(請求項2)
。
本発明のグリース組成物では、前記増ちょう剤を10〜25質量%、前記亜リン酸エステルを0.2〜5質量%、前記
スルホラン誘導体を0.2〜5質量%および酸化パラフィン0.5〜10質量%含有することが好ましい(請求項
3)。
【0010】
本発明の車両用転動装置(1)は、潤滑剤(G)として封入された本発明のグリース組成物を含む(請求項
4)。
【発明の効果】
【0011】
本発明のグリース組成物を備える車両用転動装置によれば、軸受で支持された軸の摩擦抵抗を低減して回転トルクを低減できるので、車両の燃費性を向上させることができる。むろん、軸受の耐焼付き性および長期に亘る潤滑寿命を維持できると共に、車両が寒冷地で貨物輸送(例えば、鉄道、トラック等による輸送)される際のフレッティングの発生を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一態様のグリース組成物は、基油、増ちょう剤および添加剤を含有している。
基油としては、ポリαオレフィンを含み、40℃における動粘度20〜60mm
2/sである合成油が使用される。
基油の物性については、次の範囲が好ましい。すなわち、動粘度(JIS K 2283に準拠)は、20〜60mm
2/s(40℃)であり、好ましくは、25〜55mm
2/s(40℃)である。基油の動粘度が上記の範囲であれば、動粘度が70〜100mm
2/s(40℃)程度の基油が用いられたグリース組成物に比べて、軸受の摺動部の摩擦抵抗を小さくすることができる。また、流動点(JIS K 2269に準拠)は、好ましくは、−50℃以下であり、さらに好ましくは、−70℃〜−50℃である。基油の流動点が上記の範囲であれば、低温環境下(例えば、−40℃以下)においてグリース組成物の流動性を確保できるので、軸受の摺動部に基油を行き渡らせやすくすることができる。したがって、低温フレッティングの抑制効果を向上させることができる。また、トラクション係数は0.02以下であり、好ましくは0.001以上0.01以下である。基油のトラクション係数が上記の範囲であれば、グリースのトルクを低減することができる。
【0014】
ポリαオレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)およびそれらの水素化物が挙げられる。
また、基油の配合量は、グリース組成物全量に対して、好ましくは、60〜90質量%であり、さらに好ましくは、65〜88質量%である。
【0015】
増ちょう剤としては、脂環式アミンおよび芳香族アミンの混合アミンと、ジイソシアネート化合物とを反応させて得られるウレア系化合物が使用される。ウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物(ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物を除く)等のウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン等のウレタン化合物またはこれらの混合物等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、ジウレア化合物が使用される。この組み合わせのウレア化合物であれば、フレッティングの発生を低減することができる。
【0016】
脂環式アミンとしては、例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられ、芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、p−トルイジン等が挙げられる。
また、ジイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、飽和および/または不飽和の直鎖状、または分岐鎖の炭化水素基を有するジイソシアネートが挙げられ、具体的には、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート(HDI)等が挙げられる。また、脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、シクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。また、芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が挙げられる。
【0017】
また、ウレア系増ちょう剤の原料として脂環式アミンおよび芳香族アミンの混合アミンが使用される場合、脂環式アミンと芳香族アミンとの配合割合(質量比)は、好ましくは、脂環式アミン:芳香族アミン=55:45〜99:1であり、さらに好ましくは、60:40〜95:5である。
そして、混合アミンとジイソシアネート化合物は、種々の方法と条件下で反応させることができる。増ちょう剤の均一分散性が高いジウレア化合物が得られることから、基油中で反応させることが好ましい。また、反応は、混合アミンを溶解した基油中に、ジイソシアネート化合物を溶解した基油を添加して行ってもよいし、ジイソシアネート化合物を溶解した基油中に、混合アミンを溶解した基油を添加して行ってもよい。これらの反応における温度および時間は、特に限定されず、通常のこの種の反応と同様でよい。反応温度は、混合アミンおよびジイソシアネートの溶解性、揮発性の点から、60℃〜170℃が好ましい。反応時間は、混合アミンとジイソシアネートの反応を完結させるという点と製造時間短縮による効率化の点から0.5〜2.0時間が好ましい。
【0018】
また、増ちょう剤の配合量は、グリース組成物全量に対して、好ましくは、10質量%〜25質量%であり、さらに好ましくは、12〜23質量%である。
添加剤としては、必須成分として、亜リン酸エステル、エーテル系化合物および酸化パラフィンが挙げられ、任意成分として、極圧剤、防錆剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤等の各種添加剤が挙げられる。極圧剤としては、硫黄系化合物(ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)等)や塩素系化合物(塩素化パラフィン等)、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)などの有機Mo化合物等が任意成分として使用されてもよい。
【0019】
亜リン酸エステルとしては、例えば、トリイソプロピルホスファイト、ジイソプロピルホスファイト、ジフェニルハイドロジエンホスファイト等が挙げられる。特には、ジフェニルハイドロジェンホスファイトが好ましい。
また、亜リン酸エステルの配合量は、グリース組成物全量に対して、好ましくは、0.2質量%〜5質量%であり、さらに好ましくは、0.3〜4質量%である。
【0020】
エーテル系化合物が必須成分として使用される。エーテル系化合物としては、好ましくは、分子中に極性基を有するエーテル系化合物が挙げられ、さらに好ましくは、分子の末端に極性基を有するエーテル系化合物が挙げられ、とりわけ好ましくは、分子の末端に少なくとも一つのヘテロ原子を有する5員環からなる極性基を有するエーテル系化合物が挙げられる。エーテル系化合物が極性基を有していれば、軸受の軌道表面(金属表面)との反応によって形成された、極性を有する亜リン酸エステルに由来する表面膜に対して、当該極性基が引き寄せられて吸着し易くなるので、りん系化合物の表面膜上にエーテル系化合物の油性膜を良好に形成することができる。
【0021】
分子の末端に少なくとも一つのヘテロ原子を有する5員環からなる極性基を有するエーテル系化合物としては、例えば、次の一般式(1)で示されるスルホラン誘導体が挙げられる。
【0023】
(式中、R
1は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、R
2およびR
3は、それぞれ、水素または炭素数1〜20の炭化水素基を示す。)
また、エーテル系化合物の配合量は、グリース組成物全量に対して、好ましくは、0.2質量%〜5質量%であり、さらに好ましくは、0.5〜4質量%である。
酸化パラフィンが必須成分として使用される。酸化パラフィンとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックスを酸化して得られたもの等が挙げられる。また、酸化パラフィンの配合量は、グリース組成物全量に対して、好ましくは、0.5〜10質量%である。
【0024】
そして、本発明のグリース組成物は、例えば、必須成分としての基油、ウレア系増ちょう剤、亜リン酸エステル、エーテル系化合物および酸化パラフィン、さらに必要に応じてその他の添加剤を混合し、撹拌した後、ロールミル等を通すことによって得ることができる。
次に、本発明のグリース組成物がグリース(G)として封入されたハブユニット1について添付の図面を参照して説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係るハブユニット1を示す断面図である。なお、
図1の左右方向をハブユニット1の軸方向といい、
図1の左側を軸方向外側、右側を軸方向内側という。
ハブユニット1は、例えば、自動車の車輪を車体側の懸架装置に対して回転自在に支持するものである。ハブユニット1は、転がり軸受2と、転がり軸受2の軌道輪部材となるハブホイール3と、ハブホイール3と一体的に設けられた円環状のフランジ部4とを含む。この実施形態のハブホイール3およびフランジ部4の素材は、例えば、熱間鍛造により形成されている。
【0026】
ハブホイール3は、断面円形状の小径部7と、小径部7の軸方向内側の端部が径方向外側に屈曲変形されたかしめ部8と、小径部7よりも径が大きく当該小径部7から軸方向外側に向かって連続して設けられた断面円形状の大径部9とを含む。ハブホイール3の大径部9には、その外周面から径方向外側に延びる上記フランジ部4が折り曲げ形成されている。
【0027】
転がり軸受2は、例えば、複列玉軸受で、内周面に一対の外輪軌道面11a,11bを有する外輪11と、内周面がハブホイール3の小径部7の外周面7aに密接するように挿嵌された内輪部材12とを備えている。そして、内輪部材12は、その外周面に軸方向内側の外輪軌道面11aに対向する内輪軌道面13aを有しており、ハブホイール3の大径部9は、その外周面に軸方向外側の外輪軌道面11bに対向する内輪軌道面13bを有している。
【0028】
また、転がり軸受2は、外輪軌道面11aと内輪軌道面13aとの間、及び外輪軌道面11bと内輪軌道面13bとの間にそれぞれ転動自在に2列に配置された複数の玉(転動体)14と、これらの2列に配置された玉14をそれぞれ周方向に所定の間隔で保持する一対の保持器15とを含む。
また、転がり軸受2は、ハブホイール3と外輪11との間に形成される環状空間を軸方向両端から密封するシール部材16を含む。このシール部材16で密封された環状空間16a内には、上記のグリース組成物からなるグリースGが封入されている。
【0029】
さらに、転がり軸受2は、外輪11の外周面11cから径方向外側に延びる軸受フランジ17を有している。軸受フランジ17には、その厚み方向に貫通する複数のボルト孔17aが形成されている。このボルト孔17aにはボルトBが挿通され、懸架装置のナックル51に螺合されている。これにより、軸受フランジ17はナックル51に固定されている。
【0030】
図2は、フランジ部4を示す斜視図であり、
図3は、フランジ部4を示す正面図である。
図2および
図3において、フランジ部4は、その周方向に所定間隔をあけて形成された複数(この実施形態では5個)の肉厚部21を有している。各肉厚部21は、軸方向内側の端面が隆起するように形成されているとともに、
図3の正面視において径方向に放射状に延びて形成されている。また、各肉厚部21は、周方向に所定の幅W(以下、周方向幅Wという)を有している。
【0031】
各肉厚部21のそれぞれの径方向外側には、前記周方向幅Wの略中央部において厚さ方向に貫通する一個のボルト孔22が形成されている。各ボルト孔22には、
図1に示すように、ホイールやブレーキディスクを取り付けるためのハブボルトBがそれぞれ圧入によって固定されている。したがって、ボルト孔22の直径d(
図3参照)は、ハブボルトBを圧入可能な寸法に設定されている。
【0032】
以上、ハブユニット1によれば、グリース(G)中の亜リン酸エステル(極圧剤)が金属に対して良好な吸着性を有するため、転がり軸受2の外輪軌道面11aや内輪軌道面13aにおいて金属との反応によって、亜リン酸エステルに由来する化合物(例えば、リン酸鉄(II)等)からなる表面膜が形成されると考えられる。さらに、この表面膜は、リン酸鉄(II)のP=O結合に基づく極性を有するので、当該表面膜には、エーテル系化合物(油性剤)の極性基(スルホラン基本)が引き寄せられて良好に吸着する。これにより、表面膜上に、エーテル系化合物の油性膜が形成されると考えられる。
【0033】
亜リン酸エステルの表面膜によって外輪軌道面11aや内輪軌道面13aが薄くコーティングされるため、外輪軌道面11aや内輪軌道面13aに基油が行き渡っていない状態で振動が生じても、玉14の表面と、外輪軌道面11aおよび内輪軌道面13aとの金属接触をなくすか、接触による衝撃を軽減することができると考えられる。したがって、低温環境下におけるフレッティング(低温フレッティング)を低減することができるので、車両が寒冷地で貨物輸送(例えば、鉄道、トラック等による輸送)される際のフレッティングの発生を低減することができる。
【0034】
さらに、転がり軸受2が回転するときには、玉14の表面と、外輪軌道面11aおよび内輪軌道面13aとの間に引き込まれた基油に由来する油性膜による潤滑を、エーテル系化合物の油性膜で補助することができる。すなわち、基油の油性膜が薄くても、エーテル系化合物の油性膜と合わさることで、摺動部の耐焼付き性および長期に亘る潤滑寿命を維持することができる。そのため、動粘度を基準に基油を選択することができるので、低い動粘度の基油を採用することによって、摺動部における摩擦抵抗を低減することができる。これにより、転がり軸受2で支持された軸の摩擦抵抗を低減して回転トルクを低減できるので、車両の燃費性を向上させることができる。
【0035】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、他の実施形態で実施することもできる。
例えば、上記の実施形態では、(複列)玉軸受によって構成された転がり軸受2にグリース(G)が封入された例を説明したが、本発明のグリース組成物からなるグリースが封入される軸受は、転動体として玉以外のものが使用された針軸受、ころ軸受等、他の転がり軸受であってもよい。
【0036】
また、本発明のグリース組成物からなるグリースが封入された軸受は、上記のハブユニット1の他、サスペンションユニット、ステアリングユニット等、他の車両用転動装置に搭載されていてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
実施例1〜4および比較例1〜9
<グリースの配合>
各実施例および各比較例について表1に示す配合割合で、増ちょう剤、基油および添加剤を配合することによって、試験用グリース組成物を調製した。得られた試験用グリース組成物に対して、次に示す評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0038】
表1において、基油の動粘度はJIS K 2283に準拠して測定された値であり、基油の流動点はJIS K 2269に準拠して測定された値である。
(1)増ちょう剤
・脂環式アミン(シクロヘキシルアミン)
・芳香族アミン(p―トルイジン)
・脂肪族アミン(オクチルアミン)
表1に示した質量比でアミンを混合し、ジイソシアネート化合物(ジフェニルメタンジイソシアネート)反応させてウレア系化合物を調製した。
(2)基油
・鉱油 動粘度30mm
2/s(40℃)
・PAO 動粘度30〜70mm
2/s(40℃)
・エステル ジオクチルセバゲート
(3)添加剤
・ホスファイト(ジフェニルハイドロジェンホスファイト)
・ホスフェート(トリクレジルホスフェート)
・エーテル系(スルホラン誘導体(前記一般式(1)において、R
1が炭化水素8のアルキル基、R
2、R
3が水素の化合物)
・酸化パラフィン(石油系酸化ワックス)
<評価>
(1)トラクション係数の測定
各実施例および各比較例で用いた基油をDisk on Rollerにて、面圧0.5GPa,周速0.5m/sec,滑り率3%の条件でトラクション係数を測定した。評価結果は、表1に示している。
(2)軸受トルクの測定
各実施例および各比較例で得られたグリース組成物2gを転がり軸受(6204)に封入し、回転速度4000rpm、無負荷、室温の条件下で回転させ、回転0.5h後のトルク値を測定した。評価結果は、比較例1のトルク値を基準値(=1)とし、その基準値に対する相対値で示している。
(3)摩擦係数の測定
各実施例および各比較例で得られたグリース組成物を往復動すべり摩擦試験機にて、面圧1.7GPa,振幅1.5mm,周波数50Hz,温度40℃の条件で摩擦係数を測定した。測定時間は10分間とし,最後の1分間の摩擦係数の平均値を測定値とした。
(4)焼付寿命試験
各実施例および各比較例で得られたグリース組成物2gを転がり軸受(6204ZZ)に封入し、回転速度10000rpm、アキシャル荷重(Fa)=66N、ラジアル荷重(Fr)=66N、および軸受温度=150℃の条件下で回転させ、焼付けに至るまでの時間を測定した。評価結果は、比較例4の焼付けまでの時間を基準値(=1)とし、その基準値に対する相対値で示している。なお、実施例1〜4については、表1に記載の時間(相対値)が経過しても焼付けが起きなかったので、装置を停止した。
(5)剥離寿命試験
各実施例および各比較例で得られたグリース組成物1gを転がり軸受(51110)に封入し、回転速度1500rpm、ラジアル荷重(Fr)=3375N、および雰囲気温度=室温の条件下で回転させ、剥離に至るまでの時間を測定した。評価結果は、比較例4の剥離までの時間を基準値(=1)とし、その基準値に対する相対値で示している。なお、実施例1〜4については、表1に記載の時間(相対値)が経過しても焼付けが起きなかったので、装置を停止した。
【0039】
また、別の剥離寿命試験として、各実施例および各比較例で得られたグリース組成物14gを転がり軸受(DAC4378)に封入し、回転速度300rpm、アキシャル荷重(Fa)=8kN、ラジアル荷重(Fr)=8kN、雰囲気温度=室温で回転させ、剥離に至るまでの時間を測定した。評価結果は、比較例4の剥離までの時間を基準値(=1)とし、その基準値に対する相対値で示している。なお、実施例1〜4については、表1に記載の時間(相対値)が経過しても焼付けが起きなかったので、装置を停止した。
(6)低温フレッティング試験
各実施例および各比較例で得られたグリース組成物14gを転がり軸受(DAC4378)に封入し、その軸受を、
図4に示すフレッティング試験機にセットした。そして、振動数=4Hz、アキシャル荷重(Fa)=±1.4kN、ラジアル荷重(Fr)=5.5±4.4kN、および軸受温度=―40℃の条件下で、アキシャル荷重とラジアル荷重を上記の荷重の振幅で振るのを1サイクルとして1,000,000サイクル揺動させ、軸受の軌道面に生じたフレッティング摩耗の深さを測定した。評価結果は、軌道面に生じた最大の摩耗深さを示しており、比較例4の摩耗の深さを基準値(=1)とし、その基準値に対する相対値で示している。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、実施例1〜4のグリース組成物が封入された軸受では、30mm
2/s(40℃)および50mm
2/s(40℃)という比較的低い動粘度を有する基油を用いているにも関わらず、焼付寿命比、剥離寿命比および低温フレッティングのいずれの評価項目においても良好な結果が得られた。これにより、本発明のグリース組成物が、軸受の摺動部の摩擦抵抗の低減と、耐焼付き性および長期に亘る潤滑寿命の維持とを両立できると共に、低温環境下におけるフレッティングの発生を低減できることが認められた。