(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光輝性薄片状微粒子が、アルミニウム、銀、銅、白金、金、チタン、ニッケル、スズ、スズ‐コバルト合金、インジウム、クロム、酸化チタン、酸化アルミニウム、および硫化亜鉛からなる群から選択される金属系粒子、ガラスに金属または金属酸化物を被覆した光輝性材料、または天然雲母もしくは合成雲母に金属または金属酸化物を被覆した光輝性材料である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラス複合体。
前記無機ガラスが、水ガラス、ゾルゲル材料、および軟化温度が150〜650℃のガラス材料からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス複合体。
前記略球状微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、チタン酸バリウム、およびチタン酸ストロンチウムからなる群より選択された少なくとも1種である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のガラス複合体。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<ガラス複合体>
本発明によるガラス複合体は、無機ガラスと、光輝性薄片状微粒子または略球状微粒子の少なくともいずれか一方とを含んでなり、反射防止層、粘着層、および基材等の他の層をさらに積層してもよい。後述する光輝性薄片状微粒子または略球状微粒子の少なくともいずれか一方を用いることで、ガラス複合体内で光を異方的に散乱反射させて、視野角を向上させることができる。無機ガラスは、耐傷性に優れ、化学的に安定な材料であるため長期使用した際経時変化が生じにくい。特に、光輝性薄片状微粒子または略球状微粒子として、酸化チタン等の光活性を有する粒子を樹脂に分散させた場合、樹脂の劣化が促進されるため長期使用できない恐れがある。本発明においては、無機ガラスを用いることで、光活性を有する微粒子を用いた場合でも長期使用可能な透明スクリーンを製造することができる。
【0029】
本発明によるガラス複合体は透視可能であり、透明スクリーンとして好適に用いることができる。本発明によるガラス複合体は、投影光を異方的に散乱反射することにより投影光の視認性および透過光の視認性に優れ、視野角が広く、透明性が高く、さらに、優れた耐傷性、耐摩耗性および長期安定性を有するものである。このようなガラス複合体は、ヘッドアップディスプレイやウェアラブルディスプレイ等に用いられる反射型透明スクリーンとして好適に用いることができる。なお、本発明において、「透明」とは、用途に応じた透過視認性を実現できる程度の透明性があれば良く、半透明であることも含まれる。
【0030】
本発明によるガラス複合体の一実施形態の厚さ方向の断面模式図を
図1に示す。ガラス複合体の積層体15は、無機ガラス10中に光輝性薄片状微粒子11および略球状微粒子12が分散されてなるガラス複合体13と、基材14とを備えてなる。このようなガラス複合体15の積層体は、投影光16、17を異方的に散乱することで、視認者19は散乱光18を視認できる。
【0031】
当該ガラス複合体は、ヘイズ値が、好ましくは50%以下、より好ましくは1%以上40%以下であり、より好ましくは1.3%以上30%以下であり、さらにより好ましくは1.5%以上20%以下であり、最も好ましくは2%以上10%以下である。全光線透過率が、好ましくは70%以上であり、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらにより好ましくは85%以上である。ヘイズ値が上記範囲内であれば、透明性が高く、透過視認性をより向上させることができ、スクリーンとしての性能に優れる。なお、本発明において、ガラス複合体のヘイズ値は、濁度計(日本電色工業(株)製、品番:NDH−5000)を用いてJIS−K−7361およびJIS−K−7136に準拠して測定することができる。
【0032】
当該ガラス複合体は、反射正面光度が、好ましくは3以上60以下であり、より好ましくは4以上50以下であり、さらに好ましくは4.5以上40以下である。また、当該ガラス複合体は、透過正面光度に1000を乗じた値が、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは2.0以上であり、さらにより好ましくは3.0以上50以下である。ガラス複合体の反射正面光度および透過正面光度に1000を乗じた値が上記範囲内であれば、反射光の輝度が高く、反射型スクリーンとしての性能に優れる。なお、本発明において、ガラス複合体の反射光度および反射光度向上率は、以下のようにして測定した値である。
(反射正面光度)
変角光度計(日本電色工業(株)製、品番:GC5000L)を用いて測定した。光源の入射角を45度にセットし、測定ステージに白色度95.77の標準白色板を載せたときの0度方向への反射光強度を100とした。サンプル測定時は、光源の入射角を15度にセットし、0度方向への反射光の強度を測定した。
(透過正面光度)
変角光度計(日本電色工業(株)製、品番:GC5000L)を用いて測定した。光源の入射角を0度にセットし、測定ステージに何も置かない状態での0度方向への透過光強度を100とした。サンプル測定は、光源の入射角を15度にセットし、0度方向への透過光の強度を測定した。
【0033】
当該ガラス複合体は、写像性が、好ましくは70%以上であり、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらにより好ましくは85%以上であり、特に好ましくは90%以上である。当該ガラス複合体の写像性が上記範囲内であれば、透明スクリーンを透過して見える像が極めて鮮明となる。なお、本発明において、写像性とは、JIS K7374に準拠して、光学くし幅0.125mmで測定した時の像鮮明度(%)の値である。
【0034】
当該ガラス複合体の厚さは、特に限定されるものではないが、用途、生産性、取扱い性、および搬送性の観点から、好ましくは0.1μm〜20mmであり、より好ましくは0.5μm〜15mmであり、さらに好ましくは1μm〜10mmである。
【0035】
(無機ガラス)
ガラス複合体を形成する無機ガラスとしては、後述する光輝性薄片状微粒子または略球状微粒子の分散性がよいものを用いるのが好ましく、水ガラス、ゾルゲル材料、または低軟化点を有するガラスの微細粉末の分散液を用いるのが特に好ましい。これらのガラス材料は、液体状態であるため光輝性薄片状微粒子または略球状微粒子の分散性が良く、かつ成形性に優れる。なお、本明細書においてガラス複合体とは、焼結やゾルゲルの加水分解反応等の硬化反応によって、液体状の無機ガラスを硬化した微粒子分散ガラス(ガラス複合体)であってもよく、溶融した無機ガラス(珪砂、ソーダ灰、石灰石やカレット等のガラス屑)に微粒子を分散させて冷却した微粒子分散ガラス(ガラス複合体)であってもよい。
【0036】
(水ガラス)
水ガラスとは、アルカリ珪酸塩の濃厚水溶液をいい、アルカリ金属としては通常ナトリウムが含まれている。代表的な水ガラスは、Na
2O・nSiO
2(n:正の任意の数)により示すことができる。市販される水ガラスは、nが2から4の範囲にある。市販される水ガラスには珪酸ナトリウム水溶液として1号から3号があり、この順にNa
2Oに対するSiO
2の比率が高くなる。水ガラスから水分を蒸発させると和水ガラスと称される水分を10〜30質量%程度含んだ割れにくく弾性を有する固体が形成され、接着性を有するバインダとしての機能が発現する。また、場合により、Na
2Oに換えて一部K
2Oを含むことがあるが、この場合であってもSiO
2とのモル比は上記の範囲にあることが好ましい。バインダとしての機能は水ガラスに含まれるポリ珪酸イオンの分子量が高いほど力学的強度の高い塗膜を形成する傾向があるが、塗膜にひび割れが生成し易くなる場合があるため、塗布液として使用する際の含まれる水ガラスの濃度やpH、及びヒドロキシアパタイトに対する割合等によってNa
2Oに対するSiO
2の最適なモル比で含まれる水ガラスを使用することが好ましい。水ガラスとしては、富士化学(株)社製珪酸ソーダを用いることができる。
【0037】
(ゾルゲル材料)
ゾルゲル材料は、熱や光、触媒などの作用により、加水分解重縮合が進行し、硬化する化合物群である。例えば、金属アルコキシド(金属アルコラート)、金属キレート化合物、ハロゲン化金属、液状ガラス、スピンオングラス、またはこれらの反応物であり、これらに硬化反応を促進させる触媒を含ませたものであってもよい。また、金属アルコキシド官能基の一部にアクリル基などの光反応性の官能基を有するものであってもよい。ゾルゲル材料は、要求される物性に応じて、単独で用いても良いし、複数種類を組み合わせて用いても良い。ゾルゲル材料の硬化膜とは、ゾルゲル材料の重合反応が十分に進行した状態を指す。ゾルゲル材料は、重合反応の過程において無機基板の表面と化学的に結合して強く接着する。そのため、ガラス複合体としてゾルゲル材料の硬化膜を用いることで、安定したガラス複合体を形成することができる。
【0038】
金属アルコキシドとは、加水分解触媒などによって任意の金属種を、水や有機溶剤と反応させて得られる化合物群であり、任意の金属種と、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロピル基、イソプロピル基等の官能基とが結合した化合物群である。金属アルコキシドの金属種としては、シリコン、チタン、アルミニウム、ゲルマニウム、ボロン、ジルコニウム、タングステン、ナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、スズなどが挙げられる。
【0039】
金属種がシリコンの金属アルコキシドとしては、例えば、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン(MTES)、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、トリエトキシシラン(TEOS)、ジフェニルシランジオール、ジメチルシランジオールなどや、これら化合物群のエトキシ基が、メトキシ基、プロピル基、イソプロピル基、ヒドロキシ基などに置き換わった化合物群などが挙げられる。これらのなかでも、TEOS、TEOSのエトキシ基をメトキシ基に置き換えたテトラメトキシシラン(TMOS)、およびMTESが特に好ましい。これらは単独で用いても良く、複数種類を組み合わせて用いることもできる。
【0040】
TEOS、MTESまたはこれらの混合物を用いる場合には、それらの混合比は、例えばモル比で1:1にすることができる。このゾル溶液は、加水分解及び重縮合反応を行わせることによって非晶質シリカを生成する。合成条件として溶液のpHを調整するために、塩酸等の酸またはアンモニア等のアルカリを添加してもよい。pHは4以下もしくは10以上が好ましい。また、加水分解を行うために水を加えてもよい。加える水の量は、金属アルコキシド種に対してモル比で1.5倍以上にすることができる。
【0041】
また、金属アルコキシドとしては、シルセスキオキサン化合物を用いることもできる。シルセスキオキサンとは、SiO
1.5で表される化合物群の総称で、ケイ素原子一個に対し、一つの有機基と三つの酸素原子が結合した化合物である。ハロゲン化金属とは、上記金属アルコキシドにおいて、加水分解重縮合する官能基がハロゲン原子に置き換わった化合物群である。
【0042】
金属キレート化合物としては、チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトネート、チタンテトラキスアセチルアセトネート、チタンジブトキシビスオクチレングリコレート、ジルコニウムテトラキスアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビスアセチルアセトネート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムジブトキシモノアセチルアセトネート、亜鉛ビスアセチルアセトネート、インジウムトリスアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネートなどが挙げられる。
【0043】
液状ガラスとしては、例えば、アポロリング社製のTGAシリーズなどを挙げることができ、要求される物性に応じて、その他ゾルゲル化合物を添加することができる。スピンオングラスとしては、例えば、東京応化社製OCDシリーズ、Honeywell社製のACCUGLASSシリーズなどを用いることができる。
【0044】
硬化を進行させる触媒としては、種々の酸、塩基を用いることができる。種々の酸には、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸だけでなく、各種カルボン酸、不飽和カルボン酸、酸無水物などの有機酸が含まれる。また、硬化が光硬化の場合には、UV硬化樹脂において用いられるような光重合開始剤、光酸発生剤、光増感剤などを用いることができる。
【0045】
ゾルゲル材料には、溶媒を含有させて用いても良い。好適な溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノール、2−ブタノール等のアルコール類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン類、ブトキシエチルエーテル、ヘキシルオキシエチルアルコール、メトキシ−2−プロパノール、ベンジルオキシエタノール等のエーテルアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類、フェノール、クロロフェノール等のフェノール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエタン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、2硫化炭素等の含ヘテロ元素化合物、水、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。特に、エタノールおよびイソプロピルアルコール、またはそれらに水を混合した溶媒が好ましい。
【0046】
ゾルゲル材料には、粘度調整のためにポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコールや、溶液安定剤であるトリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、アセチルアセトンなどのβ―ジケトン、β―ケトエステル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキサンなどを適用してもよい。
【0047】
(低軟化点ガラス材料)
低軟化点ガラス材料は、軟化温度が150〜620℃の範囲にあるのが好ましく、200〜600℃の範囲にあるのがさらに好ましく、250〜550℃の範囲にあるのが最も好ましい。このような範囲のガラス材料としては、PbO−B
2O
3系、PbO−B
2O
3−SiO
2系、PbO−ZnO−B
2O
3系、酸成分及び金属塩化物を含む混合物を熱処理することにより得られる鉛フリー低軟化点ガラス等を用いることができる。これらのなかでも、特に環境汚染性の低い、鉛フリーの低軟化点ガラスを用いるのが好ましい。低軟化点ガラス材料は、後述する硬化工程で溶解する、いわゆるガラスフリットが好ましい。また、低軟化点ガラス材料としては、メジアン径が1〜50μmの範囲の粉末を用いるのが好ましい。低軟化点ガラス材料には、微粒子の分散性および成形性向上のために、バインダ、極性溶剤および高沸点有機溶剤等を混合することができる。
【0048】
バインダは、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、非塩素化ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸セルロース等を用いることができるが、その中でも、特にアクリル系樹脂、酢酸セルロースが好ましい。バインダの濃度は、低軟化点ガラス材料の質量に対して、0.2〜40質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜20質量部、さらに好ましくは1〜10質量部である。
【0049】
極性溶剤は、水、アルコール(メタノール、エタノール、イソプルピルアルコール等)、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、酢酸エチル、石油エーテル等を使用するのが好ましい。溶剤の使用量は、低軟化点ガラス材料の質量に対して、好ましくは100〜900質量部、より好ましくは150〜800質量部、さらに好ましくは200〜500質量部である。
【0050】
高沸点有機溶剤は、特に限定しないが、鉱物油、植物油、合成乾性油等を用いることができ、例えば、テルピン油、ブチルカルビトールアセテート、キシレン、ブチルセロソルブ、テルピネオール、セロソルブアセテート、アルキルアルコール、アセテート、プロピオネート、高級アルキルエステル、パインオイル等を使用するのが好ましい。高沸点有機溶剤は、低軟化点ガラス材料の質量に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは2〜15質量部、さらに好ましくは3〜10質量部である。
【0051】
(光輝性薄片状微粒子)
光輝性薄片状微粒子としては、薄片状に加工できる光輝性材料を好適に用いることができる。光輝性薄片状微粒子の正反射率は、好ましくは12.0%以上であり、より好ましくは15.0%以上であり、さらに好ましくは20.0%以上80.0%以下である。なお、本発明において、光輝性薄片状微粒子の正反射率は、以下のようにして測定した値である。
(正反射率)
分光測色計(コニカミノルタ(株)製、品番:CM−3500dを用いて測定した。適切な溶媒(水またはメチルエチルケトン)に分散させた光輝性薄片状微粒子をスライドガラス上に膜厚が0.5mm以上になるように塗布、乾燥させた。得られた塗膜付きガラス板について、ガラス面の法線に対して45度の角度でガラス面から塗膜へ光を入射したときの正反射率を測定した。光輝性薄片状微粒子を塗膜としたときの正反射率を測定することで、微粒子表面の酸化状態等を考慮した光輝性薄片状微粒子の反射性能を把握することができる。
【0052】
金属系微粒子に用いる金属材料は、投影光の反射性に優れる金属が用いられる。具体的には、金属材料は、測定波長550nmにおける反射率Rが好ましくは50%以上であり、より好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは60%以上であり、さらにより好ましくは70%以上である。以下、本発明において、「反射率R」とは、金属材料に対して光を垂直方向から入射させたときの反射率を指す。反射率Rは金属材料固有値である屈折率nと消衰係数kの値を用いて下記式(1)により算出することができる。nおよびkは、例えばHandbook of Optical Constants of Solids: Volume 1(Edward D.Palik著)や、P.B. Johnson and R.W Christy, PHYSICAL REVIEW B, Vol.6, No.12, 4370-4379(1972)等に記載されている。
R={(1−n)
2+k
2}/{(1+n)
2+k
2} 式(1)
すなわち、測定波長550nmにおける反射率R(550)は、波長550nmで測定したときのnおよびkより算出できる。金属材料は、測定波長450nmにおける反射率R(450)と、測定波長650nmにおける反射率R(650)の差の絶対値が、測定波長550nmにおける反射率R(650)に対して25%以内であり、好ましくは20%以内であり、より好ましくは15%以内であり、さらに好ましくは10%以内である。このような金属材料を用いることで、反射型透明スクリーンとして用いた場合、投影光の反射性および色再現性に優れ、スクリーンとしての性能に優れる。
【0053】
金属系微粒子に用いる金属材料は、誘電率の実数項ε’が、好ましくは−60〜0であり、より好ましくは−50〜−10である。なお、誘電率の実数項ε’は、屈折率nと消衰係数kの値を用いて下記式(2)により算出することができる。
ε’=n
2−k
2 式(2)
本発明はいかなる理論にも束縛されるものではないが、金属材料の誘電率の実数項ε’が上記数値範囲を満たすことで、以下の作用が生じ、透明光散乱体が反射型透明スクリーンとして好適に使用できると考えられる。すなわち、光が金属系微粒子の中に入ると、金属系微粒子中には光による振動電界が生じるが、同時に金属系微粒子の自由電子によって逆向きの電気分極が生じ電界を遮蔽してしまう。誘電率の実数光ε’が0以下であるとき、光が完全に遮蔽され金属系微粒子の中に光が入って行けない、すなわち、表面凹凸による拡散や金属系微粒子による光の吸収が無いという理想状態を仮定すると、光は全て金属系微粒子表面で反射されることになるため、光の反射性は強い。ε’が0より大きいとき、金属系微粒子の自由電子の振動は光の振動に追随出来ないため光による振動電界を完全には打ち消すことが出来ず、光は金属系微粒子の中に入ったり、透過したりする。その結果、金属系微粒子表面で反射されるのは一部の光だけになり、光の反射性は低くなる。
【0054】
金属材料としては、上記の反射率R、好ましくはさらに誘電率を満たす金属材料を用いたものであればよく、純金属や合金も用いることができる。純金属としてはアルミニウム、銀、白金、チタン、ニッケル、およびクロムからなる群から選択されるものが好ましい。金属系微粒子としては、これらの金属材料からなる微粒子や、これらの金属材料を樹脂、ガラス、天然雲母もしくは合成雲母等に被覆した微粒子を用いることができる。また、金属系微粒子の形状は、特に限定されず、薄片状微粒子や略球状微粒子等を用いることができる。各種の金属材料について、各測定波長における屈折率nおよび消衰係数kを表1に、その値を用いて算出した反射率Rおよびε’を表2にまとめる。
【表1】
【表2】
【0055】
光輝性薄片状微粒子としては、分散させる無機ガラスの種類にもよるが、例えば、アルミニウム、銀、銅、白金、金、チタン、ニッケル、スズ、スズ‐コバルト合金、インジウムおよびクロム等の金属系微粒子、または、酸化チタン、酸化アルミニウムおよび硫化亜鉛からなる金属系微粒子、ガラスに金属または金属酸化物を被覆した光輝性材料、または天然雲母や合成雲母に金属または金属酸化物を被覆した光輝性材料を用いることができる。
【0056】
光輝性薄片状微粒子は、一次粒子の平均径が好ましくは0.01〜100μm、より好ましくは0.05〜80μm、さらに好ましくは0.1〜50μm、さらにより好ましくは0.5〜30μmである。さらに、光輝性薄片状微粒子は、平均アスペクト比(=光輝性薄片状微粒子の平均径/平均厚み)が好ましくは3〜800、より好ましくは4〜700、さらに好ましくは5〜600、さらにより好ましくは10〜500である。光輝性薄片状微粒子の平均径および平均アスペクト比が上記範囲内であると、ガラス複合体を透明スクリーン用として使用した場合に、透過視認性を損なわずに投影光の十分な散乱効果が得られることで、鮮明な映像を投影することができる。なお、本発明において、光輝性薄片状微粒子の平均径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置((株)島津製作所製、品番:SALD−2300)を用いて測定した。平均アスペクト比は、SEM((株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名:SU−1500)画像より算出した。
【0057】
光輝性薄片状微粒子は、市販のものを使用してもよく、例えば、大和金属粉工業株式会社製アルミニウムパウダー、松尾産業株式会社製金属被覆ガラス(メタシャインシリーズ)を好適に使用することができる。
【0058】
ガラス複合体中の光輝性薄片状微粒子の含有量は、光輝性薄片状微粒子の正反射率に応じて適宜調節することができ、無機ガラスに対して、好ましくは0.0001〜5.0質量%であり、好ましくは0.0005〜3.0質量%であり、より好ましくは0.001〜1.0質量%である。光輝性薄片状微粒子を上記範囲のように低濃度で無機ガラス中に分散させてガラス複合体を形成することによって、光源から出射される投影光を異方的に散乱反射することにより、投影光の視認性と透過光の視認性とを向上することができる。
【0059】
(略球状微粒子)
略球状微粒子とは、真球状粒子を含んでいてもよく、凹凸や突起のある球状粒子を含んでいてもよい。無機ガラスの屈折率n
1と略球状微粒子の屈折率n
2は、下記数式(1):
|n
2−n
1|≧0.1 ・・・(1)
を満たすことが好ましく、下記数式(2):
|n
2−n
1|≧0.15 ・・・(2)
を満たすことがより好ましく、下記数式(3):
3.0≧|n
2−n
1|≧0.2 ・・・(3)
を満たすことがさらに好ましい。ガラス複合体を形成する無機ガラスと略球状微粒子の屈折率が上記数式を満たすことで、ガラス複合体内で光を異方的に散乱させ、視野角を向上させることができる。また、略球状の微粒子を用いることで、光を全方位的に散乱させ、輝度を向上させることができる。
【0060】
高屈折率を有する略球状微粒子としては、例えば、屈折率n
2が好ましくは1.80〜3.55であり、より好ましくは1.9〜3.3であり、さらに好ましくは2.0〜3.0である、金属酸化物や金属塩を微粒化した金属系粒子を用いることができる。金属酸化物としては、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO
2、n=2.40)、酸化亜鉛(ZnO
2、n=2.40)、酸化チタン(TiO
2、n=2.72)、および酸化セリウム(CeO
2、n=2.20)等を挙げることができる。金属塩としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO
3、n=2.40)およびチタン酸ストロンチウム(SrTiO
3、n=2.37)等を挙げることができる。これらの略球状微粒子は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
略球状微粒子の一次粒子のメジアン径は好ましくは0.1〜100nmであり、より好ましくは0.2〜70nmであり、さらに好ましくは0.5〜50nmである。略球状微粒子の一次粒子のメジアン径が上記範囲内であると、透明スクリーンとして使用した場合に、透過視認性を損なわずに投影光の十分な拡散効果が得られることで、透明スクリーンに鮮明な映像を投影することができる。なお、本発明において、無機微粒子の一次粒子のメジアン径(D
50)は、動的光散乱法により粒度分布測定装置(大塚電子(株)製、商品名:DLS−8000)を用いて測定した粒度分布から求めることができる。
【0062】
略球状微粒子の含有量は、ガラス複合体の厚さや微粒子の屈折率に応じて適宜調節することができる。ガラス複合体中の微粒子の含有量は、無機ガラスに対して、好ましくは0.0001〜2.0質量%であり、より好ましくは0.001〜1.0質量%であり、さらに好ましくは0.005〜0.5質量%であり、さらにより好ましくは0.01〜0.3質量%である。ガラス複合体中の略球状微粒子の含有量が上記範囲内であれば、ガラス複合体の透明性を確保しながら、投射装置から出射される投影光を異方的に十分に拡散させることで、拡散光の視認性と透過光の視認性とを両立することができる。
【0063】
前記無機ガラスに対する前記光輝性薄片状微粒子および/または前記略球状微粒子の濃度は、ガラス複合体の厚さをt(μm)とし、前記無機ガラスに対する前記光輝性薄片状微粒子および/または前記略球状微粒子の濃度をc(質量%)としたとき、tとcが、下記数式(I):
0.05≦(t×c)≦50 ・・・(I)
を満たすことが好ましく、
0.1≦(t×c)≦40 ・・・(I−2)
を満たすことがより好ましく、
0.15≦(t×c)≦35 ・・・(I−3)
を満たすことがさらに好ましく、
0.3≦(t×c)≦30 ・・・(I−4)
を満たすことがさらにより好ましい。ガラス複合体の厚さtと濃度cが上記の数式(I)を満たす場合、ガラス複合体中の微粒子の分散状態が疎である(ガラス複合体中の微粒子の濃度が低い)ため、真直ぐに透過する光の割合を増やし(微粒子に衝突しない光の割合を増やし)、その結果、透過光の視認性を損なわずに、スクリーンに鮮明な映像を表示することができる。なお、光輝性薄片状微粒子および/または略球状微粒子が2種以上含まれる場合、濃度cは全微粒子の合計濃度である。
【0064】
ガラス複合体の厚さは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01μm〜1mmであり、より好ましくは0.1μm〜500μmであり、さらに好ましくは1μm〜300μmである。硬化膜の厚さが上記範囲内であれば、透明スクリーンとしての機能を十分に発揮することができる。ガラス複合体は単層構成であってもよく、塗布等で2種以上の層を積層させた複層構成であってもよい。
【0065】
ガラス複合体は、JIS−K5600−5−4(引っかき硬度法)に準拠して測定した引っかき硬度がHB以上であることが好ましく、H以上であることがより好ましく、2H以上の耐傷性を有することがさらに好ましい。
【0066】
(反射防止層)
反射防止層は、外光の映り込み現象や層表面におけるプロジェクターからの入射光の反射を低減することで、画像視認性を改善するための層である。さらに、反射防止層は、光源から出射された光の一部がスクリーン表面で反射することを抑制し、結果としてガラス複合体内に入射する光量が増加するため輝度向上効果を有する。反射防止層は、ガラス複合体の視認者側に積層されるものであってもよく、両面に積層されるものであってもよい。反射防止層は、単層であってもよく、全波長領域で反射を防止するために、屈折率の異なる樹脂を多層積層したものであってもよい。
【0067】
反射防止層は、ガラス複合体の透過視認性や所望の光学特性を損なわないような樹脂を用いて形成することができる。このような樹脂としては、例えば、紫外線・電子線によって硬化する樹脂、即ち、電離放射線硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂に熱可塑性樹脂と溶剤を混合したもの、および熱硬化型樹脂を用いることができるが、これらの中でも電離放射線硬化型樹脂が特に好ましい。
【0068】
また、反射防止層は、ガラス複合体の透過視認性や所望の光学特性を損なわないような金属および金属酸化物等の無機材料の薄膜層からなるものであってもよい。無機材料としては、特に限定されるものではないが、蒸着容易性、透光性などを考慮し、例えば、TiO
2(n=2.72)、ZrO
2、(n=2.40)、SiO
2(n=1.46)、フッ化マグネシウム(MgF
2、(n=1.39)、フッ化カルシウム(CaF
2、(n=1.39)、CeO
2(n=2.45)、酸化スズ(SnO
2、n=2.30)、酸化タンタル(V)(Ta
2O
5、n=2.12)、酸化インジウム(In
2O
3n=2.00)などが挙げられる。
【0069】
反射防止層の厚みは、好ましくは50nm〜100μmであり、より好ましくは80nm〜80μm以下であり、さらに好ましくは90nm〜100μm以下である。反射防止層の厚さが上記の範囲であれば、高透明性を維持したまま、優れた反射防止機能を付与することができる。
【0070】
(基材)
基材は、前記ガラス複合体を薄膜状に形成するための支持体である。基材は、具体的には、金属、セラミックス、ソーダガラス、石英ガラス、サファイヤ基板、石英、シリコン基板等の無機材料からなる基板やポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)、ポリアリレート等の樹脂基板を用い得る。基板は透明でも不透明でもよいが、例えば、400nm〜780nmの可視光領域で光学的に透明な基材は、そのまま透明スクリーンとして使用できるだけでなく、スクリーン以外のさまざまな光学用途に用いることができるため特に好ましい。紫外光領域において用いる場合には、紫外線の透過率が高い石英ガラスやサファイアガラスを含む基材を用いることが好ましい。基板上には密着性を向上させるために、表面処理や易接着層を設けるなどをしてもよく、水分や酸素等の気体の浸入を防ぐ目的で、ガスバリア層を設けるなどしてもよい。また、硬化反応が焼結等の高温工程を含む場合は、高温で軟化や損傷の起こらない材料を用いるのが好ましい。具体的には軟化温度が600℃以上のガラス基板が好ましく、650℃以上のものがより好ましく、700℃以上のものが最も好ましい。基材は、平板であっても良いし、使用する目的に応じてどのような形状であっても良い。なお、基材の厚さは、その強度が適切になるように用途・材料に応じて適宜変更することができる。例えば、10μm〜1mm(1000μm)の範囲としてもよく、1mm以上の厚板であってもよい。
【0071】
(粘着層)
粘着層は、ガラス複合体の少なくとも片面に基材、反射防止層等を貼付するための層である。ガラス複合体の両面に粘着層を設け、基材でガラス複合体を挟んだ積層構造を作製することも可能である。粘着層は、ガラス複合体の透過視認性や所望の光学特性を損なわないような粘着剤組成物を用いて形成することが好ましい。粘着剤組成物としては、例えば、天然ゴム系、合成ゴム系、ポリ(メタ)アクリル系、ポリビニルエーテル系、ポリウレタン系、ポリシリコーン系、ポリビニルアルコール系等が挙げられる。合成ゴム系の具体例としては、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ポリイソブチレンゴム、イソブチレン−イソプレンゴム、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレンブロック共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコール系の具体例としてはポリビニルブチラール、エチレン-酢酸ビニル樹脂が挙げられる。ポリシリコーン系の具体例としては、ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール系粘着剤、アクリル系粘着剤が好ましい。これらの粘着剤は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
アクリル系樹脂粘着剤は、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーを含んで重合させたものである。炭素原子数1〜18程度のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとカルボキシル基を有するモノマーとの共重合体であるのが一般的である。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸をいう。(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸sec−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ウンデシルおよび(メタ)アクリル酸ラウリル等を挙げることができる。 また、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、通常は、アクリル系粘着剤中に30〜99.5質量部の割合で共重合されている。
【0073】
また、アクリル系樹脂粘着剤を形成するカルボキシル基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸モノブチルおよびβ−カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基を含有するモノマーを挙げることができる。
【0074】
アクリル系樹脂粘着剤には、上記の他に、アクリル系樹脂粘着剤の特性を損なわない範囲内で他の官能基を有するモノマーが共重合されていても良い。他の官能基を有するモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルおよびアリルアルコール等の水酸基を含有するモノマー;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミドおよびN−エチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基を含有するモノマー;N−メチロール(メタ)アクリルアミドおよびジメチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド基とメチロール基とを含有するモノマー;アミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびビニルピリジン等のアミノ基を含有するモノマーのような官能基を有するモノマー; アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジルエーテルなどのエポキシ基含有モノマーなどが挙げられる。この他にもフッ素置換(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリルなどのほか、スチレンおよびメチルスチレンなどのビニル基含有芳香族化合物、酢酸ビニル、ハロゲン化ビニル化合物などを挙げることができる。
【0075】
粘着剤は市販のものを使用してもよく、例えば、SKダイン2094、SKダイン2147、SKダイン1811L、SKダイン1442、SKダイン1435、およびSKダイン1415(以上、綜研化学(株)製)、オリバインEG−655、およびオリバインBPS5896(以上、東洋インキ(株)製)等(以上、商品名)を好適に使用することができる。
【0076】
<ガラス複合体の製造方法>
本発明によるガラス複合体の製造方法は、特に限定されるものではなく、無機ガラス中に光輝性薄片状微粒子または略球状微粒子の少なくともいずれか一方を分散させたガラス複合体用材料を用いて、従来公知の成形方法でガラス複合体を形成することができる。例えば、本発明によるガラス複合体の製造方法は(1)光輝性薄片状微粒子または略球状微粒子の少なくともいずれか一方、無機ガラス、および溶剤を混合した無機ガラス溶液を作製する工程、(2)前記無機ガラス溶液を基材に塗布して塗布膜を形成する工程、(3)溶剤を乾燥させる工程および(4)前記塗布膜を硬化する工程を含む。なお、前記ガラス複合体は、工業的には、フロート法、ロールアウト法等の高温で溶融させた無機ガラス中に上記微粒子を分散させ、成形・冷却して板状のガラス複合体を製造することもできる。
【0077】
(1)無機ガラス溶液作製工程
無機ガラス溶液は、光輝性薄片状微粒子または略球状微粒子の少なくともいずれか一方、無機ガラス、及び溶剤を混合し、必要に応じてバインダ、高沸点有機溶剤、触媒等を添加し、分散することによって作製する。無機ガラス溶液は、固体の分散物なので、長期の保存安定性が必ずしも十分ではない。従って、光輝性薄片状微粒子または略球状微粒子の少なくともいずれか一方、無機ガラス、必要に応じてバインダ、触媒および高沸点有機溶剤等を含有するペーストをあらかじめ作製しておき、使用時に前記ペーストに溶剤を添加して分散し、ガラス材料溶液を作製するのが好ましい。この場合、ペーストは公知の分散法により作製することができる。
【0078】
分散法は、特に限定されるものではなく、顔料の分散等に通常用いられている分散装置を使用して行うことができる。分散装置としては、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製、商品名:クレアミックス、PRIMIX社製、商品名:フィルミックス)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製:商品名:ダイノミル)、アトライター、湿式ジェットミル(ジーナス社製:商品名ジーナスPY、メディアレス分散機(奈良機械社製、商品名MICROS)、その他ロールミル等が挙げられる。
【0079】
(2)塗布工程
作製した無機ガラス溶液の基材への塗布は、公知の方法、例えば、スピンコート、ディップコート、バーコート、フローコート、ロールコート、スプレーコート、ダイコート、インクジェット、グラビアコート等によって行うことができる。中でも、比較的大面積の基板にゾルゲル溶液を均一に塗布可能であること、ゾル溶液が硬化する前に素早く塗布を完了させることができるという観点から、バーコート、ダイコート及びスピンコートが好ましい。
【0080】
(3)乾燥工程
塗布工程後、塗布した塗膜中の溶剤を蒸発させるために基板を大気中もしくは減圧下で保持する。この保持時間が短いと溶剤が残存し、耐久性が悪化する。また、保持温度として、10〜200℃の範囲が望ましく、10〜100℃の範囲がより望ましい。保持温度がこの範囲より高いと、硬化反応が急速に進行する等して好ましくなく、保持温度がこの範囲より低いと、硬化反応に長時間必要となるため、生産性が低下し好ましくない。
【0081】
(4)硬化工程
硬化反応は、無機ガラスの種類にもよるが、200〜700℃で行うのが好ましい。200℃以下では硬化が不十分となるため硬化後のガラス複合体の強度が低くなる。700℃以上では基材の損傷を招く恐れがある。硬化時間は、5分〜1時間程度であるのが好ましく、10〜30分程度がより好ましい。450℃以上の温度では光輝性薄片状微粒子または略球状微粒子の酸化が始まる可能性があるので、このような温度域で硬化反応を行う場合は、低酸素雰囲気(窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中、又は真空中)で行うのが好ましい。
【0082】
<透明スクリーン>
本発明による透明スクリーンは、上記のガラス複合体を備えてなる。透明スクリーンは、上記のガラス複合体のみからなるものでもよく、無機ガラス溶液を塗布した基板をそのまま使用してもよく、透明パーティション等の支持体をさらに備えるものでもよい。透明スクリーンは、平面であってもよく、曲面であってもよく、凹凸面を有していてもよい。
【0083】
本発明による透明スクリーンは、背面投射型スクリーン(透過型スクリーン)であってもよく、前面投射型スクリーン(反射型スクリーン)であってもよい。すなわち、本発明による透明スクリーンを備える映像表示装置においては、光源の位置がスクリーンに対して視認者と反対側にあってもよく(透過型スクリーン)、視認者側にあってもよい(反射型スクリーン)。このような透明スクリーンは、光源から出射される投影光を異方的に散乱反射することにより投影光および透過光の視認性に優れ、視野角が広く、さらに、優れた防眩性、輝度を有するものである。
【0084】
当該透明スクリーンは、ヘイズ値が、好ましくは50%以下、より好ましくは1%以上40%以下であり、さらに好ましくは1.3%以上30%以下であり、さらにより好ましくは1.5%以上20%以下である。また、当該透明スクリーンは、全光線透過率が好ましくは70%以上であり、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらにより好ましくは85%以上である。また、当該透透明スクリーンは、拡散透過率が、好ましくは1.5%以上60%以下、より好ましくは1.7%以上55%以下であり、より好ましくは1.9%以上50%以下であり、さらにより好ましくは2.0%以上45%以下である。ヘイズ値、および全光線透過率が上記範囲内であれば、透明性が高く、透過視認性をより向上させることができ、拡散透過率が上記範囲内であれば、入射光を効率よく拡散させ、視野角をより向上させることができるため、スクリーンとしての性能に優れる。なお、本発明において、透明スクリーンのヘイズ値、全光線透過率および拡散透過率は、濁度計(日本電色工業(株)製、品番:NDH−5000)を用いてJIS−K−7361およびJIS−K−7136に準拠して測定することができる。
【0085】
当該透明スクリーンは、写像性が、好ましくは70%以上であり、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらにより好ましくは85%以上であり、特に好ましくは90%以上である。当該透明スクリーンの写像性が上記範囲内であれば、透明スクリーンを透過して見える像が極めて鮮明となる。なお、本発明において、写像性とは、JIS K7374に準拠して、光学くし幅0.125mmで測定した時の像鮮明度(%)の値である。
【0086】
当該透明スクリーンは、反射正面光度が、好ましくは3以上60以下であり、より好ましくは4以上50以下であり、さらに好ましくは4.5以上40以下である。また、当該透明スクリーンは、透過正面光度に1000を乗じた値が、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは2.0以上であり、さらにより好ましくは3.0以上50以下である。透明スクリーンの反射正面光度および透過正面光度に1000を乗じた値が上記範囲内であれば、反射光の輝度が高く、反射型スクリーンとしての性能に優れる。なお、本発明において、透明スクリーンの反射光度および反射光度向上率は、以下のようにして測定した値である。
(反射正面光度)
変角光度計(日本電色工業(株)製、品番:GC5000L)を用いて測定した。光源の入射角を45度にセットし、測定ステージに白色度95.77の標準白色板を載せたときの0度方向への反射光強度を100とした。サンプル測定時は、光源の入射角を15度にセットし、0度方向への反射光の強度を測定した。
(透過正面光度)
変角光度計(日本電色工業(株)製、品番:GC5000L)を用いて測定した。光源の入射角を0度にセットし、測定ステージに何も置かない状態での0度方向への透過光強度を100とした。サンプル測定は、光源の入射角を15度にセットし、0度方向への透過光の強度を測定した。
【0087】
(支持体)
支持体は、ガラス複合体を支持するためのものである。支持体は、透明スクリーンの透過視認性や所望の光学特性を損なわないものであればよく、例えば、透明パーティション、ガラスウィンドウ、乗用車のヘッドアップディスプレイ、およびウェアラブルディスプレイ等が挙げられる。
【0088】
<車両用部材>
本発明による車両用部材は、上記のガラス複合体または透明スクリーンを備えてなる。車両用部材としては、フロントガラスやサイドガラス等が挙げられる。車両用部材は上記のガラス複合体または透明スクリーンを備えることで、別途のスクリーンを設けなくても、車両用部材上に鮮明な画像を表示させることができる。
【0089】
<建物用部材>
本発明による建物用部材は、上記のガラス複合体または透明スクリーンを備えてなる。建物用部材としては、住宅の窓ガラス、コンビニや路面店のガラス壁等を挙げることができる。建物用部材は上記のガラス複合体または透明スクリーンを備えることで、別途のスクリーンを設けなくても、建物用部材上に鮮明な画像を表示させることができる。
【0090】
<映像投影システム>
本発明による映像投影システムは、上記のガラス複合体または透視可能な反射型スクリーンと、投射装置とを備えてなる。投射装置とは、スクリーン上に映像を投射できるものであれば特に限定されず、例えば、市販のフロントプロジェクタを用いることができる。
【0091】
本発明による透明スクリーンおよび映像投影システムの一実施形態の模式図を
図2に示す。透明スクリーン23は、透明パーティション(支持体)22と、透明パーティション22上の視認者24側にガラス複合体の積層体21とを備えてなる。ガラス複合体の積層体21は、透明パーティション22に貼付するために、粘着層を含んでもよい。透過型スクリーンである場合、映像投影システムは、透明スクリーン23と、透明パーティション22に対して視認者24と反対側(背面側)に設置された投射装置25Aとを備えてなる。投射装置25Aから出射された投影光26Aは、透明スクリーン23の背面側から入射し、透明スクリーン23により異方的に散乱することで、視認者24は散乱光27Aを視認できる。また、反射型スクリーンである場合、映像投影システムは、透明スクリーン23と、透明パーティション22に対して視認者24と同じ側(前面側)に設置された投射装置25Bとを備えてなる。投射装置25Bから出射された投影光26Bは、透明スクリーン23の前面側から入射し、透明スクリーン23により異方的に散乱することで、視認者24は散乱光27Bを視認できる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例と比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定解釈されるものではない。
【0093】
実施例および比較例において、各種物性および性能評価の測定方法は次のとおりである。
(1)ヘイズ
濁度計(日本電色工業(株)製、品番:NDH−5000)を用い、JIS K7136に準拠して、後述するガラス複合体の積層体(石英ガラス基材付き)のヘイズを測定した。さらに基材として用いた石英ガラスのみのヘイズを測定し、ガラス複合体の積層体(石英ガラス基材付き)のヘイズ値から石英ガラス基材のヘイズ値を引くことでガラス複合体のヘイズを算出した(ガラス板のヘイズ値はほぼ0であるため、実質的にガラス複合体のヘイズ値には影響を与えない)。
(2)全光線透過率
濁度計(日本電色工業(株)製、品番:NDH−5000)を用い、JIS K7361−1に準拠して、ガラス複合体の積層体(石英ガラス基材付き)の全光線透過率を測定した。
(3)拡散透過率
濁度計(日本電色工業(株)製、品番:NDH−5000)を用い、JIS K7361−1に準拠してガラス複合体の積層体(石英ガラス基材付き)の拡散透過率を測定した。
(4)反射正面光度
変角光度計(日本電色工業(株)製、品番:GC5000L)を用いて測定した。光源の入射角を45度にセットし、測定ステージに白色度95.77の標準白色板を載せたときの0度方向への反射光強度を100とした。サンプル測定時は、光源の入射角を15度にセットし、0度方向への反射光の強度を測定した。
(5)透過正面光度
変角光度計(日本電色工業(株)製、品番:GC5000L)を用いて測定した。光源の入射角を0度にセットし、測定ステージに何も置かない状態での0度方向への透過光強度を100とした。サンプル測定は、光源の入射角を15度にセットし、0度方向への透過光の強度を測定した。
(6)視野角
変角光度計(日本電色工業(株)製、品番:GC5000L)を用いて測定した。光源の入射角を0度にセットし、測定ステージに何も置かない状態での0度方向への透過光強度を100とした。サンプル測定時は、光源の入射角は0度のまま、−85度から+85度までの透過光強度を1度刻みで測定した。測定範囲の中で、透過光強度が0.001以上ある範囲を視野角とした。
(7)正反射率
分光測色計(コニカミノルタ(株)製、品番:CM−3500dを用いて測定した。適切な溶媒(水またはメチルエチルケトン)に分散させた光輝性薄片状微粒子をスライドガラス上に膜厚が0.5mm以上になるように塗布、乾燥させた。得られた塗膜付きガラス板について、ガラス面の法線に対して45度の角度でガラス面から塗膜へ光を入射したときの正反射率を測定した。
(8)写像性
写像性測定器(スガ試験機(株)製、品番:ICM−1T)を用い、JIS K7374に準拠して、光学くし幅0.125mmで測定した時の像鮮明度(%)の値を写像性とした。像鮮明度の値が大きい程、透過写像性が高いことを示す。
(9)引っかき硬度
JIS−K5600−5−4 引っかき硬度法を用い、ガラス複合体について、硬度を評価した。
(10)スクリーン性能
透明スクリ−ンとして下記で作製したガラス複合体に、ガラス複合体の法線方向に対して角度15度で50cm離れた位置から、オンキョーデジタルソリューションズ(株)製のモバイルLEDミニプロジェクターPP−D1Sを用いて画像を投影した。次に、スクリ−ンの面上に焦点が合うようにプロジェクターの焦点つまみを調整した後、ガラス複合体の前方1mおよび後方1mの2ヶ所からガラス複合体に映し出された画像を目視で観察し、下記の基準に基づいて目視で評価した。スクリ−ンの前方からの観察は反射型スクリーンとしての性能が評価でき、後方からの観察により透過型スクリーンとしての性能が評価できる。
[評価基準]
◎:極めて鮮明に映像を視認することができた。
○:鮮明に映像を視認することができた。
△:映像の輪郭、色相がややぼやけて視認された。
×:映像の輪郭がぼやけ、スクリーンとして使用するには不適であった。
【0094】
[実施例1]
(1)無機ガラス溶液作製工程
無機ガラス材料として水ガラス(珪酸ナトリウム水溶液、キシダ化学(株)製、商品名:水ガラス3号)を用意した。該水ガラスに、光輝性薄片状微粒子として、薄片状アルミニウム微粒子A(一次粒子の平均径1μm、アスペクト比25、正反射率16.8%)を珪酸ナトリウムに対して0.13質量%加え、さらに、珪酸ナトリウム濃度が20質量%になるように、イソプロピルアルコールを加えて23℃、湿度45%で撹拌することで無機ガラス溶液Aを得た。
(2)塗布工程
前記無機ガラス溶液Aを、基材として洗浄した石英ガラス板(100×100×2mm、Ya=83%、Tg=63%、T1500=59%、T850=47%、ヘイズ率=0%)上に、バーコーターを用いて塗布した。バーコーターとしては、ドクターブレード(YOSHIMITSU SEIKI社製)を用いた。このドクターブレードは塗膜の膜厚が5μmとなるような設計であったが、ドクターブレードに35μmの厚みのイミドテープを張り付けて塗膜の膜厚が40μmとなるように調整し、膜厚25μmの塗布膜を得た。
(3)乾燥工程
塗布後のガラス板をホットプレート上で100℃、10分間熱処理して塗膜を乾燥した。乾燥後の膜厚は7μmであった。
(4)硬化工程
前記乾燥工程で得られた塗布膜を室温で乾燥させ、さらに250℃の乾燥炉中で10分間加熱して乾燥させ、ガラス複合体と基材(石英ガラス板)とを備えるガラス複合体の積層体を形成した。透過型電子顕微鏡(TEM)にて断面を確認したところ、得られたガラス複合体の厚みは5μmであった。
(5)透明スクリーンの評価
作製したガラス複合体の積層体をそのまま透明スクリーンとして用いたところ、ヘイズ値は4.7%であり、拡散透過率は4.1%であり、全光線透過率は88.1%であり、写像性は91%であり、引っかき硬度は6Hであり、高い透明性と耐傷性を有していた。
また、変角光度計にて測定した透過正面光度(×1000)は、1.08であり、透過正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した反射正面光度は、9.6であり、反射正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した視野角は±16度であり、視野角特性に優れることが分かった。また、ガラス複合体を形成してなる面は、指紋が付着しにくく、指紋が付着しても容易に拭き取ることができるものであった。さらに、スクリーン性能を評価したところ、前方観察時、後方観察時ともに鮮明な映像を視認することができ、特に前方観察時に極めて鮮明な映像を視認することができた。
【0095】
[実施例2]
(1)無機ガラス溶液作製工程
エタノール530質量部、水45質量部及び濃塩酸0.2質量部を混合した液に、ゾルゲル材料としてテトラエトキシシラン(TEOS)54.3質量部と、メチルトリエトキシシラン(MTES)45.7質量部を滴下して加え、さらに光輝性薄片状微粒子として薄片状アルミニウム微粒子Aを、TEOSとMTESの合計質量に対して0.70質量%加え、23℃、湿度45%で2時間攪拌して無機ガラス溶液Bを得た。
(2)塗布工程
実施例1と同様にして、無機ガラス溶液Bを基材として洗浄した石英ガラス板上に塗布し、膜厚10μmの塗布膜を得た。
(3)乾燥工程
前記工程で得られた塗布膜を室温で乾燥させ、さらに40℃で20分、80℃で10分乾燥した。
(4)硬化工程
前記乾燥工程で得られた塗布膜を、窒素雰囲気下のオーブンを用いて、300℃で1時間保持し、ガラス複合体と基材(石英ガラス板)とを備えるガラス複合体の積層体を得た。硬化後のガラス複合体の膜厚は2μmであった。
(5)透明スクリーンの評価
作製したガラス複合体の積層体をそのまま透明スクリーンとして用いたところ、ヘイズ値は17.7%であり、拡散透過率は13.2%であり、全光線透過率は74.7%であり、写像性は86%であり、引っかき硬度は7Hであり、十分な透明性と高い耐傷性を有していた。
変角光度計にて測定した透過正面光度(×1000)は、3.57であり、透過正面光度(×1000)に優れることが分かった。変角光度計にて測定した反射正面光度は、32.7であり、反射正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した視野角は±28度であり、視野角特性に優れることが分かった。また、視認性を目視で評価した結果、鮮明に映像を視認することができた。また、ガラス複合体を形成してなる面は、指紋が付着しにくく、指紋が付着しても容易に拭き取ることができるものであった。さらに、スクリーン性能を評価したところ、前方観察時、後方観察時ともに鮮明な映像を視認することができ、特に前方観察時に極めて鮮明な映像を視認することができた。
【0096】
[実施例3]
(1)無機ガラス溶液作製工程
硼珪酸鉛系ガラスフリット(78質量%のPbO、10質量%のSO
2、12質量%のBa
2O
3からなる低軟化点ガラス)に対して、略球状微粒子として酸化ジルコニウム(関東電化工業(株)製、一次粒子のメジアン径10nm、屈折率2.40)を0.15質量%、パインオイルを10質量%加えて混練し、ペーストを作製した。前記ペースト中の硼珪酸鉛系ガラスフリット)濃度が20質量%となるようにイソプロピルアルコールを混合し、ディゾルバーで分散することにより、無機ガラス溶液Cを作製した。
(2)塗布工程
ディップコート法を用いて無機ガラス溶液Cを、基材として洗浄した石英ガラス板上に塗布し、膜厚120μmの塗布膜を得た。
(3)乾燥工程
前記塗布膜を200℃で15分間乾燥し、イソプロピルアルコールを除去した。
(4)硬化工程
前記乾燥工程で得られた塗布膜を、580℃で20分間焼結することで、ガラス複合体(ガラス複合体)と基材(石英ガラス板)とを備えるガラス複合体の積層体を作製した。得られたガラス複合体の厚みは100μmであった。
(5)透明スクリーンの評価
作製したガラス複合体の積層体をそのまま透明スクリーンとして用いたところ、ヘイズ値は10.2%であり、拡散透過率は9.0%であり、全光線透過率は88.7%であり、写像性は92%であり、引っかき硬度は7Hであり、高い透明性および耐傷性を有していた。
変角光度計にて測定した透過正面光度(×1000)は、2.66であり、透過正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した反射正面光度は、1.2であり、反射正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した視野角は±22度であり、視野角特性に優れることが分かった。また、ガラス複合体を形成してなる面は、指紋が付着しにくく、指紋が付着しても容易に拭き取ることができるものであった。さらに、スクリーン性能を評価したところ、前方観察時、後方観察時ともに鮮明な映像を視認することができ、特に後方観察時に極めて鮮明な映像を視認することができた。
【0097】
[実施例4]
実施例1の(1)無機ガラス溶液作成工程において、薄片状アルミニウム微粒子Aの代わりに、酸化チタン(TiO
2)被覆雲母(トピー工業(株)製、商品名:HeliosR10S、一次粒子の平均径12μm、アスペクト比80、正反射率16.5%)を0.03質量%用いた以外は実施例1と同様にして、のガラス複合体(厚み20μm)と基材(石英ガラス板)とを備えるガラス複合体の積層体を作製した。
作製したガラス複合体の積層体をそのまま透明スクリーンに用いたところ、ヘイズ値は3.2%であり、拡散透過率は3.0%であり、全光線透過率は92.3%であり、写像性は90%であり、引っかき硬度は6Hであり、高い透明性および耐傷性を有していた。
変角光度計にて測定した透過正面光度(×1000)は、0.56であり、透過正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した反射正面光度は、5.5であり、反射正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した視野角は±12度であり、視野角特性に優れることが分かった。また、ガラス複合体を形成してなる面は、指紋が付着しにくく、指紋が付着しても容易に拭き取ることができるものであった。さらに、スクリーン性能を評価したところ、前方観察時に鮮明な映像を視認することができたが、後方観察時に映像の輪郭、色相がややぼやけて視認された。
【0098】
[実施例5]
実施例1の(1)無機ガラス材料溶液作製工程において、薄片状アルミニウム微粒子Aの代わりに、薄片状アルミニウム微粒子B(一次粒子の平均径10μm、アスペクト比300、正反射率62.8%)を0.03質量%、さらに略球状微粒子として酸化ジルコニウムを0.6質量%加えた以外は実施例1と同様にして、ガラス複合体(厚み20μm)と基材(石英ガラス板)とを備えるガラス複合体の積層体を作製した。
作製したガラス複合体の積層体をそのまま透明スクリーンに用いたところ、ヘイズ値は12.1%であり、拡散透過率は10.7%であり、全光線透過率は88.5%であり、写像性は85%であり、引っかき硬度は6Hであり、高い透明性および耐傷性を有していた。
変角光度計にて測定した透過正面光度(×1000)は、13.62であり、透過正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した反射正面光度は、3.5であり、反射正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した視野角は±26度であり、視野角特性に優れることが分かった。また、ガラス複合体を形成してなる面は、指紋が付着しにくく、指紋が付着しても容易に拭き取ることができるものであった。さらに、スクリーン性能を評価したところ、前方観察時、後方観察時ともに極めて鮮明な映像を視認することができた。
【0099】
[実施例6]
実施例3の(1)無機ガラス溶液作製工程において、酸化ジルコニウムの代わりに、酸化チタン(テイカ(株)製、商品名:MT−01、屈折率2.72、一次粒子のメジアン径10nm)0.003質量%を加え、塗布工程を50回繰り返した以外は実施例3と同様にして、ガラス複合体(厚み5000μm)と基材(石英ガラス板)とを備えるガラス複合体の積層体を作製した。
作製したガラス複合体の積層体をそのまま透明スクリーンとして用いたところ、ヘイズ値は9.1%であり、拡散透過率は7.7%であり、全光線透過率は84.2%であり、写像性は88%であり、引っかき硬度は7Hであり、高い透明性および耐傷性を有していた。
変角光度計にて測定した透過正面光度(×1000)は、3.12であり、透過正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した反射正面光度は、2.3であり、反射正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した視野角は±24度であり、視野角特性に優れることが分かった。また、ガラス複合体を形成してなる面は、指紋が付着しにくく、指紋が付着しても容易に拭き取ることができるものであった。さらに、スクリーン性能を評価したところ、前方観察時、後方観察時ともに鮮明な映像を視認することができ、特に後方観察時に極めて鮮明な映像を視認することができた。
【0100】
[実施例7]
実施例1の(1)無機ガラス材料溶液作製工程において、薄片状アルミニウム微粒子Aの代わりに、銀微粒子(一次粒子の平均径1μm、アスペクト比200、正反射率32.8%)を0.85質量%加えた以外は実施例1と同様にして、ガラス複合体(厚み20μm)と基材(石英ガラス板)とを備えるガラス複合体の積層体を作製した。
作製したガラス複合体の積層体をそのまま透明スクリーンに用いたところ、ヘイズ値は5.4%であり、拡散透過率は3.8%であり、全光線透過率は70.1%であり、写像性は75%であり、引っかき硬度は6Hであり、高い透明性および耐傷性を有していた。
変角光度計にて測定した透過正面光度(×1000)は、1.32であり、透過正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した反射正面光度は、13.8であり、反射正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した視野角は±15度であり、視野角特性に優れることが分かった。また、ガラス複合体を形成してなる面は、指紋が付着しにくく、指紋が付着しても容易に拭き取ることができるものであった。さらに、スクリーン性能を評価したところ、前方観察時、後方観察時ともに鮮明な映像を視認することができ、特に前方観察時に極めて鮮明な映像を視認することができた。
【0101】
[実施例8]
実施例3の(1)無機ガラス溶液作製工程において、酸化ジルコニウムを添加せず、光輝性薄片状微粒子として薄片状アルミニウム微粒子Aを0.002質量%加えた以外は実施例3と同様にして、ガラス複合体(厚み80μm)と基材(石英ガラス板)とを備えるガラス複合体の積層体を作製した。
作製したガラス複合体の積層体をそのまま透明スクリーンとして用いたところ、ヘイズ値は2.0%であり、拡散透過率は1.8%であり、全光線透過率は90.1%であり、写像性は84%であり、引っかき硬度は7Hであり、高い透明性および耐傷性を有していた。
変角光度計にて測定した透過正面光度(×1000)は、0.81であり、透過正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した反射正面光度は、5.2であり、反射正面光度に優れることが分かった。変角光度計にて測定した視野角は±15度であり、視野角特性に優れることが分かった。また、ガラス複合体を形成してなる面は、指紋が付着しにくく、指紋が付着しても容易に拭き取ることができるものであった。さらに、スクリーン性能を評価したところ、前方観察時、後方観察時ともに鮮明な映像を視認することができ、特に前方観察時に極めて鮮明な映像を視認することができた。
【0102】
[比較例1]
実施例1の(1)無機ガラス溶液製造工程で用いた水ガラス水溶液の代わりに、アクリル溶液(三菱レイヨン(株)社製、商品名:アクリペットVHをトルエンに溶解し、20質量%としたもの)を用い、薄片状アルミニウム微粒子Aの代わりに酸化ジルコニウムをアクリル樹脂に対して0.60質量%添加し、23℃、湿度45%で5時間攪拌して微粒子分散アクリル溶液を得た。
(2)塗布工程
実施例1と同様にして、微粒子分散アクリル溶液を、基材として洗浄した石英ガラス板上に塗布し、膜厚12μmの塗布膜を得た。
(3)乾燥工程
前記工程で得られた塗布膜を室温で乾燥させ、さらに40℃で20分、80℃で1時間、減圧下で12時間乾燥した。乾燥後の微粒子分散アクリル層の膜厚は3μmであった。
(4)透明スクリーンの評価
作製した微粒子分散アクリル層と石英ガラス基材の積層体をそのまま透明スクリーンとして用いたところ、ヘイズ値は12.2%であり、拡散透過率は10.3%であり、全光線透過率は84.8%であり、写像性は84%であり、引っかき硬度は3Bであり、透明であるものの、耐傷性が劣っていた。また、変角光度計にて測定した透過正面光度(×1000)は、2.54であり、反射正面光度は、1.1であり、視野角は±20度であった。また、微粒子分散アクリル層を形成してなる面は、指紋が付着しやすく、付着した指紋は容易に拭き取ることができなかった。さらに、スクリーン性能を評価したところ、前方観察時、後方観察時ともに鮮明な映像を視認することができ、特に後方観察時に極めて鮮明な映像を視認することができた。
【0103】
[比較例2]
比較例1において、酸化ジルコニウムの代わりに、アルミニウム微粒子Aをアクリル樹脂ペレットに対して0.03質量%添加した以外は比較例1と同様にして微粒子分散アクリル層を作製した。作製した微粒子分散アクリル層と石英ガラス基材の積層体をそのまま透明スクリーンとして用いたところ、ヘイズ値は4.7%、拡散透過率は4.1%、全光線透過率は88.1%、写像性は88%、引っかき硬度は3Bであり、透明であるものの、耐傷性が劣っていた。また、変角光度計にて測定した透過正面光度(×1000)は、1.02であり、反射正面光度は、9.6であり、視野角は±16度であった。また、微粒子分散アクリル層を形成してなる面は、指紋が付着しやすく、付着した指紋は容易に拭き取ることができなかった。さらに、スクリーン性能を評価したところ、前方観察時、後方観察時ともに鮮明な映像を視認することができ、特に前方観察時に極めて鮮明な映像を視認することができた。
【0104】
[比較例3]
比較例1において、酸化ジルコニウムの代わりに、光輝性を有さない薄片状微粒子として雲母粒子((株)ヤマグチマイカ製、商品名:A−21S、一次粒子の平均径23μm、アスペクト比70、正反射率9.8%)をアクリル樹脂ペレットに対して0.20質量%添加した以外は比較例1と同様にして微粒子分散アクリル層を作製した。作製した微粒子分散アクリル層と石英ガラス基材の積層体をそのまま透明スクリーンとして用いたところ、ヘイズ値は0.5%、拡散透過率は0.4%、全光線透過率は88.3%、写像性は70%、引っかき硬度は3Bであり、透明であるものの、耐傷性が劣っていた。また、変角光度計にて測定した透過正面光度(×1000)は、0.00であり、反射正面光度は、0.0であり、視野角は±6度であり、透過正面光度、反射正面光度、視野角ともに劣っていた。った。また、微粒子分散アクリル層を形成してなる面は、指紋が付着しやすく、付着した指紋は容易に拭き取ることができなかった。さらに、スクリーン性能を評価したところ、前方観察時に映像の輪郭がぼやけ、スクリーンとして使用するには不適であり、後方観察時に映像の輪郭、色相がややぼやけて視認された。
【0105】
実施例および比較例で用いたガラス複合体または微粒子分散アクリル層の詳細を表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
実施例および比較例で用いた透明スクリーン(ガラス複合体の積層体または微粒子分散アクリル層の積層体)の各種物性および性能評価の結果を表4に示す。
【表4】