特許第6736077号(P6736077)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6736077新規スクアリリウム誘導体、及びそれを用いた有機薄膜太陽電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6736077
(24)【登録日】2020年7月17日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】新規スクアリリウム誘導体、及びそれを用いた有機薄膜太陽電池
(51)【国際特許分類】
   C07C 251/30 20060101AFI20200728BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   C07C251/30CSP
   H01L31/04 154D
【請求項の数】3
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-107477(P2016-107477)
(22)【出願日】2016年5月30日
(65)【公開番号】特開2016-222665(P2016-222665A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2019年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-112798(P2015-112798)
(32)【優先日】2015年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度よりの、独立行政法人科学技術振興機構の研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム COI拠点「フロンティア有機システムイノベーション拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】笹部 久宏
(72)【発明者】
【氏名】城戸 淳二
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健志
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 司
【審査官】 早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−510804(JP,A)
【文献】 特開2015−153767(JP,A)
【文献】 特開2003−109676(JP,A)
【文献】 特開2011−198811(JP,A)
【文献】 特表2012−503315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 225/22
H01L 51/46
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物であるスクアリリウム誘導体;
【化1】
(一般式(1)中、R1はそれぞれ独立に芳香族基、R2はそれぞれ独立に炭素数4以上の分岐した脂肪族炭化水素基である。)。
【請求項2】
前記一般式(1)中、R1が炭素数6〜50の芳香族基であり、R2が炭素数4〜20の脂肪族炭化水素基である、請求項1に記載のスクアリリウム誘導体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスクアリリウム誘導体を用いた有機薄膜太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なスクアリリウム誘導体、及びそれを用いた有機薄膜太陽電池素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機薄膜太陽電池は、軽量で自由に曲げられるという特徴をもち、製造コスト面でも有利であることから、シリコン系無機太陽電池に代わって、実用化・市場投入段階に入りつつある。有機薄膜太陽電池には蒸着型及び塗布型があるが、特に塗布型の有機薄膜太陽電池は、蒸着型の有機薄膜太陽電池に比べて製造コストが安く、大量生産に向いている。しかしながら、有機薄膜太陽電池は、その光電エネルギー変換効率が10%程度であり、シリコン系無機太陽電池と比較して、効率や信頼性の点で未だ改善の余地があり、盛んに研究開発が行われている。
【0003】
太陽光は、そのエネルギーの50%以上を、650nmより長波長の近赤外・赤外領域に持つ。そのため、光電変換効率の飛躍的な向上には、この波長領域を効率良く吸収し、電気エネルギーとして取り出すことが必須である。有機薄膜太陽電池素子はドナー材料とアクセプター材料を用いて作製される。一般にアクセプター材料で用いられているフラーレン誘導体は逆電子移動が遅く、対称性が高いという利点があるが、これらは近赤外領域付近に強い吸収を持たないため、有機薄膜太陽電池の高効率化には、長波長領域の吸収を持つドナー材料の開発が非常に重要となる。また、有機薄膜太陽電池の高効率化には、ドナー材料と、アクセプター材料とのエネルギー準位の関係が重要である。ドナー材料で太陽光を吸収して発生した励起子(エキシトン)からアクセプター材料に電荷移動させるには、一般にドナー材料の最低非占有分子軌道(lowest unoccupied molecular orbital:LUMO)準位がアクセプター材料のLUMO準位よりも0.3eV以上浅いことが好ましいとされている。塗布型有機薄膜太陽電池では、アクセプター材料として、通常溶解性が高いフェニルC71酪酸メチル(PC70BM)が使用される。PC70BMのLUMO準位は4.0eVであるから、ドナー材料には3.7eV程度のLUMO準位が求められる。
【0004】
塗布型有機薄膜太陽電池に使用されるドナー材料は、当然ながら、溶媒によく溶ける必要がある。ドナー材料は大きく分けて高分子型と低分子型の2つが知られている。高分子型材料は変換効率が8%程度まで効率が向上しているが、高分子型材料は、精製が難しく、高純度化が困難で、製造ロット間の特性変化が大きく品質を保つことが難しい。一方、低分子型材料は、分子量分布を持たず、精製が容易で信頼性が高い、又は、製造ロット間の品質が変わらず、ロットによりエネルギー変換効率に影響を与えない等の特徴を持つ。しかしながら、低分子型材料は、現時点で移動度も10-5cm2/Vs程度と低く、エネルギー変換効率も7%以下に留まっている。また、低分子型材料のうち、高効率を達成している材料は、一般に溶解性が低く、塗布型有機薄膜太陽電池を作製する際に、オルトジクロロベンゼン(ODCB)、クロロホルム等、ハロゲン系の溶媒を使用しなければならず、環境面で問題がある。そのため、塗布型有機薄膜太陽電池の高性能化と実用性向上には、近赤外光の吸収能と高い移動度を持ち、非ハロゲン系の溶媒等にも高い溶解性を示す新しい低分子材料の開発が求められている。
【0005】
スクアリリウム誘導体は、非ハロゲン系溶媒に対しても高い溶解性を示し、近赤外領域に強い吸収を持ち、かつ、逆電子移動が遅く、高い対称性を持つ構造であることから、ドナー材料として研究開発が行われており、すでに多数報告されている(非特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】G. Chen, H. Sasabe, Y. Sasaki, H. Katagiri, X.F. Wang, T. Sano, Z. Hong, Y. Yang, and J. Kido, “Chem.Mater.” 2014, 26, 1356-1364.
【非特許文献2】佐々木、笹部、洪、楊、及び城戸「高分子学会第62回年次大会」、1J28 (2013)
【非特許文献3】H. Sasabe, T. Igarashi, Y. Sasaki. G. Chen, Z. Hong, and J. Kido, “RSC Advances” 2014,4, 42804-42807.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スクアリリウム誘導体は、脱水縮合反応により高収率で比較的容易に合成できて環境に優しく、種々の置換基の導入も可能である。スクアリリウム誘導体のうち、SQ−1、YSQ−8、SQ−BPは、塗布成膜によるBHJ(bulk heterojunction)型の素子において、それぞれPCE(power conversion efficiency)が4.0%、3.8%、4.8%を達成している。これらの誘導体のエネルギー変換効率は、以前のものに比べると向上しているが、まだ低い値に留まっている。また、これらのスクアリリウム誘導体を用いた有機薄膜太陽電池は、そのVOC(開放電圧)、JSC(短絡電流密度)の値が他の材料に比べて高いものの、FF(曲線因子)が低いという問題があった。
【化1】
【0008】
前記誘導体のうち、YSQ−8、SQ−BPは、アクセプター材料としてPC70BMを組み合わせるのに適したエネルギー準位になるように設計した分子である。なかでもSQ−BPはその分子構造が左右対称であり、合成の収率が80%以上であり、PCEも4.8%と比較的高い。
【0009】
そこで、本発明では、高効率な素子を提供するために有用な新規スクアリリウム誘導体を提供すべく、SQ−BPに着目し、その末端置換基を改良して、エネルギー準位を変化させずに、薄膜状態での移動度を向上させ、さらにFFを改善してエネルギー変換効率を向上させることを課題としている。また、得られたスクアリリウム誘導体からなるドナー材料及びそれを用いた有機薄膜太陽電池を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の事項からなる。
本発明は、下記一般式(1)で表されるスクアリリウム誘導体であることを特徴とする。
【化2】
前記一般式(1)中、R1はそれぞれ独立に芳香族基、R2はそれぞれ独立に炭素数4以上の分岐した脂肪族炭化水素基である。
前記一般式(1)中、R1は炭素数6〜50の芳香族基であり、R2は炭素数4〜20の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
本発明の有機薄膜太陽電池は、前記スクアリリウム誘導体を用いたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスクアリリウム誘導体は、該スクアリリウム誘導体におけるアミノ基、すなわち、一般式(1)中のR1に芳香族基を導入することにより、その最高占有分子軌道(highest occupied molecular orbital;HOMO)が深くなり、長波長の光を吸収することができる。また、分子の平面性が高くなり、成膜時にフェイスオン(face−on)配向性が高くなり、キャリア移動度を向上させることができる。さらに、550〜700nmの領域で強い吸収を示す。
また、一般式(1)中のR2に、炭素数4以上の分岐した脂肪族炭化水素基を導入することにより、非ハロゲン溶媒に対する溶解性が向上する。
【0012】
よって、本発明によれば、上記一般式(1)で表されるスクアリリウム誘導体を用いることにより、得られる素子は、薄膜状態でのキャリア移動度が向上してFFの値が改善され、結果としてエネルギー変換効率が向上した、高効率な有機薄膜太陽電池を提供することができる。
また、上記一般式(1)で表されるスクアリリウム誘導体は、非ハロゲン系溶媒に対する溶解性が向上したことで脱ハロゲン化が可能となり、環境面での問題解決や、デバイス性能の向上が期待できる。
また、上記一般式(1)で表されるスクアリリウム誘導体は、高収率かつ安価に大量に合成することができる。よって、上記一般式(1)で表されるスクアリリウム誘導体は、工業的に極めて重要である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の有機薄膜太陽電池の素子構造を模式的に示した概略断面図である。
図2図2は、a)SQ−ET、b)SQ−EP、c)SQ−EN、d)SQ−EB、e)SQ−ETPA、f)SQ−EF、及びg)SQ−ESのそれぞれについて、溶液状態で測定した場合(- - -)、キャストフィルムにして測定した場合(―■―)、熱アニール処理(70℃、10分)後に測定した場合(―◆―)、熱アニール処理(120℃、10分)後に測定した場合(―▲―)のUV−Vis吸収スペクトルを表す図である。
図3図3は、SQ−EPのa)電圧−電流密度、b)波長−外部量子効率(EQE)の関係を表す図である。
図4図4は、SQ−ENのa)電圧−電流密度、b)波長−外部量子効率(EQE)の関係を表す図である。
図5図5は、SQ−EBのa)電圧−電流密度、b)波長−外部量子効率(EQE)の関係を表す図である。
図6図6は、SQ−ETPA、SQ−EF、及びSQ−ESのa)電圧−電流密度、b)波長−外部量子効率(EQE)の関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、詳細に説明する。
[スクアリリウム誘導体]
本発明のスクアリリウム誘導体は、下記一般式(1)で表される。
【化3】
【0015】
上記一般式(1)中、R1は芳香族基である。前記芳香族基は、芳香族炭化水素基でもよいし、芳香族基に窒素原子、酸素原子又は硫黄原子等を含んでいてもよい。
前記芳香族炭化水素基は、単環のアリール基でも、多環(縮合環)芳香族炭化水素基でもよく、前記芳香族炭化水素基における芳香環上の水素原子の一部が、例えば、メチル基、イソプロピル基及びイソブチル基等で置換されていてもよい。
前記芳香族基に窒素原子、酸素原子又は硫黄原子等を含む基には、例えば、ジフェニルアミノフェニル基、エーテル基及びチオエーテル基、フラニル基、チオフェニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基等が挙げられる。
上記芳香族基は、炭素数6〜50の芳香族基であることが好ましい。前記炭素数6〜50の芳香族基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、ターフェニル基、クオーターフェニル基、アントラセニル、9,9’−スピロビフルオレニル基、ジフェニルアミノフェニル基、及び9,9’−ジメチルフルオレニル基等が挙げられる。これらのうち、フェニル基、トリフェニレニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、クオーターフェニル基、9,9’−スピロビフルオレニル基、ジフェニルアミノフェニル基、及び9,9’−ジメチルフルオレニル基等がより好ましく、フェニル基、2−トリフェニレニル基、2−ナフチル基、ビフェニル−4−イル基、4−(ジフェニルアミノ)フェニル基、2−(9,9’−スピロビフルオレニル)基、3−(9,9’−ジメチルフルオレニル)基が特に好ましい。
【0016】
上記一般式(1)中、R2は炭素数4つ以上の分岐した脂肪族炭化水素基であるが、好ましくは、炭素数4〜20の分岐した脂肪族炭化水素基である。
炭素数4〜20の分岐した脂肪族炭化水素基としては、例えば、イソブチル基、2−エチルヘキシル基及び2−エチルオクチル基等が挙げられる。これらのうち、2−エチルヘキシル基、イソブチル基及び2−エチルオクチル基等がより好ましく、2−エチルヘキシル基が特に好ましい。
ここで、脂肪族炭化水素基とは、広く芳香族炭化水素基以外の基を指し、鎖状(非環式)でも環式でもよく、また、脂肪族炭化水素基を構成する水素原子の一部が、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基及びエーテル基等で置換されていてもよい。
なお、R1及びR2は、本発明の効果を損なわない範囲内で、その水素原子の一部が窒素原子、硫黄原子、酸素原子、リン原子若しくはケイ素原子又はこれらを含む置換基で置換されていてもよい。
【0017】
具体的には、上記一般式(1)で表される化合物は、以下の構造式で表される化合物SQ−ET、SQ−EP、SQ−EN、SQ−EB、SQ−ETPA、SQ−EF、及びSQ−ESであることが好ましい。
【化4】
【0018】
上記一般式(1)で表されるスクアリリウム誘導体は、その末端の置換基の一方に芳香族炭化水素基を有することにより、深いHOMO及び近赤外領域における広い吸収を持つことができ、他方に分岐した脂肪族炭化水素基を有することにより、有機溶媒への溶解性が向上し、例えば、スクアリリウム誘導体の末端の置換基がいずれも芳香族基である場合や、末端置換基の一方が芳香族基であり、他方が直鎖状の脂肪族基である場合と比較して、近赤外領域におけるモル吸光係数と有機溶媒への溶解性が向上する。
したがって、上記スクアリリウム誘導体は、PC70BM等のフラーレン又はその誘導体からなるアクセプター材料に対するドナー材料として好適に用いることができる。
【0019】
[スクアリリウム誘導体の製造方法]
本発明のスクアリリウム誘導体は、例えば、以下に示す方法により製造することができる。SQ−ETの製造方法を一例に示す。
2−エチルヘキシルアミン及び2−ブロモトリフェニレンを、ヨウ化銅(I)、炭酸カリウム及びL−プロリンの存在下、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中で反応させることにより、(2−エチル−1−ヘキシル)(2−トリフェニレリル)アミンを得る。次いで、得られた(2−エチル−1−ヘキシル)(2−トリフェニレリル)アミンと1−ブロモ−3,5−ジメトキシベンゼンとを、Pd(0)触媒、カリウム−t−ブトキシド及びトリブチルホスフィンの存在下、キシレン溶液中で加熱還流することにより、対応するアミン化合物を得る。次いで、得られたアミン化合物に三臭化ホウ素を添加し、塩化メチレン溶液中で反応させることにより、3,5−ジヒドロキシアニリン誘導体を得る。次いで、得られた3,5−ジヒドロキシアニリン誘導体にスクアリン酸を添加して、トルエン及びブタノール混合溶液中で反応させることにより、収率80%でSQ−ETを得る。
ただし、上記一般式(1)で表されるスクアリリウム誘導体は、上記した方法に限られず、種々の公知の方法で製造することができる。
【0020】
【化5】
【0021】
[有機薄膜太陽電池及びその製造方法]
本発明の有機薄膜太陽電池素子(以下「太陽電池素子」という。)は、一対の電極(陽極2、陰極6)間に少なくとも一層の有機エレクトロルミネッセンス(EL)層が積層された素子構造を有し、典型的には、図1に示すように、基板1、陽極2、正孔輸送層3、活性層4、電子輸送層5及び陰極6が順次積層された素子構造を有する。
以下、本発明の太陽電池素子の構成を説明する。
【0022】
<太陽電池素子の構成>
本発明の太陽電池素子の構成は、図1の例に限定されず、陽極と陰極との間に順次、1)陽極バッファ層(図示せず)/正孔輸送層/活性層、2)陽極バッファ層(図示せず)/活性層/電子輸送層、3)陽極バッファ層(図示せず)/正孔輸送層/活性層/電子輸送層、4)陽極バッファ層(図示せず)/正孔輸送性化合物、活性化合物および電子輸送性化合物を含む層、5)陽極バッファ層(図示せず)/正孔輸送性化合物及び活性化合物を含む層、6)陽極バッファ層(図示せず)/活性化合物及び電子輸送性化合物を含む層、7)陽極バッファ層(図示せず)/正孔電子輸送性化合物および活性化合物を含む層、8)陽極バッファ層(図示せず)/活性層/正孔ブロック層(図示せず)/電子輸送層を設けた構成等が挙げられる。また、図1に示した活性層は一層であるが、二層以上であってもよい。
【0023】
<陽極>
前記陽極には、−5〜80℃の温度範囲で、面抵抗が、通常1000Ω(オーム)以下、好ましくは100Ω以下の材料が用いられる。
太陽電池素子の陽極側から光を取り出す場合(ボトムエミッション)には、陽極は可視光線に対して透明(380〜680nmの光に対する平均透過率が50%以上)であることが必要であるため、陽極の材料には、酸化インジウム錫(ITO)及びインジウム−亜鉛酸化物(IZO)等が用いられる。これらのうち、入手容易性の観点から、ITOが好ましい。
また、素子の陰極側から光を取り出す場合(トップエミッション)には、陽極の光透過度は制限されないため、陽極の材料には、ITO及びIZOの他に、ステンレスや、銅、銀、金、白金、タングステン、チタン、タンタル若しくはニオブの単体、又はこれらの合金が用いられる。
陽極の厚さは、ボトムエミッションの場合には、高い光透過率を実現するために、通常2〜300nmであり、トップエミッションの場合には、通常2nm〜2mmである。
【0024】
<陽極バッファ層>
陽極バッファ層は、陽極上に、陽極バッファ層用材料を塗布し、さらに加熱することによって形成される。
この塗布操作においては、スピンコート法、キャスト法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の公知の塗布法を適用することがきできる。
また、陽極バッファ層用材料には、活性層形成の際に陽極バッファ層が溶解するのを防ぐ観点から、通常は、有機溶剤に対する耐性の高い材料が用いられる。
陽極バッファ層の厚さは、バッファ層としての効果を充分に発揮させ、また、太陽電池素子の駆動電圧の上昇を防ぐ観点から、通常5〜50nm、好ましくは10〜30nmである。
【0025】
<活性層、正孔輸送層、電子輸送層>
太陽電池素子における有機EL層は、活性層、正孔輸送層及び電子輸送層で構成される。
前記活性層には、上記一般式(1)で表されるスクアリリウム誘導体が用いられる。前記スクアリリウム誘導体は、通常アクセプター材料を混合して用いられる。前記スクアリリウム誘導体をドナー材料とし、アクセプター材料とともに、活性層4を形成することにより、高効率の有機薄膜太陽電池を提供することができる。
前記アクセプター材料には、公知の材料が適宜選択して用いられるが、電子輸送性があり、HOMOのエネルギー準位が深い化合物が好ましく、具体的には、フラーレン(C60、C70等)又はその誘導体(PC70BM等)体が好適に用いられる。
【0026】
前記活性層は、活性層のキャリア輸送性を補う目的で、図1に示すように、正孔輸送層と電子輸送層との間に挿入してもよいし、活性層中に、前記アクセプター材料とともに、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物を分散させて用いてもよい。
正孔輸送性化合物としては、例えば、酸化モリブデン(VI)(MoO3)、酸化バナジウム(V25)、酸化タングステン(WO3)、酸化ルテニウム(RuO2)等の金属酸化物、ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニル(HATCN)、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノ−キノジメタン(F4TCNQ)等の低分子材料や、該低分子材料に重合性官能基を導入して高分子化したもの等が挙げられる。
電子輸送性化合物としては、例えば、BCP(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)等のフェナントロリン誘導体、B4PyMPM(ビス−3,6−(3,5−ジ−4−ピリジルフェニル)−2−メチルピリミジン)等のオリゴピリジン誘導体及び[60]フラーレン、[70]フラーレン等のナノカーボン誘導体等の低分子材料や、該低分子材料に重合性官能基を導入して高分子化したもの等が挙げられる。
【0027】
<正孔ブロック層>
正孔が活性層を通過するのを抑え、活性層内で電子と効率よく再結合させる目的で、活性層の陰極側に隣接して正孔ブロック層を設けてもよい。この正孔ブロック層には、活性化合物よりHOMO準位の深い化合物が用いられ、例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体等が用いられる。
さらに、励起子(エキシトン)が陰極金属で失活することを防ぐ目的で、活性層の陰極側に隣接してエキシトンブロック層を設けてもよい。このエキシトンブロック層には、活性化合物よりも、三重項励起エネルギーの大きな化合物が用いられ、該化合物としては、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体等が用いられる。
【0028】
<陰極>
陰極材料としては、仕事関数が低く(4eV以下)、かつ、化学的に安定なものが使用される。具体的には、Al、MgAg合金、AlLiやAlCa等のAlとアルカリ金属との合金等の既知の陰極材料が挙げられる。これらの陰極材料の成膜方法としては、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等が用いられる。陰極の厚さは、通常10nm〜1μmであり、好ましくは50〜500nmである。
【0029】
また、陰極から有機EL層への電子注入障壁を下げて電子の注入効率を上げる目的で、陰極より仕事関数の低い金属層を、陰極バッファ層として、陰極と該陰極に隣接する層の間に挿入してもよい。このような目的に使用できる低仕事関数の金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属等が挙げられる。また、陰極より仕事関数の低いものであれば、合金又は金属化合物も使用することができる。これらの陰極バッファ層の成膜方法としては、蒸着法やスパッタ法等を用いることができる。陰極バッファ層の厚さは、通常0.05〜50nmであり、好ましくは0.1〜20nmである。
【0030】
さらに、陰極バッファ層は、上記の低仕事関数の金属等と電子輸送性化合物との混合物として形成させることもできる。この場合の成膜方法としては共蒸着法を用いることができる。また、溶液による塗布成膜が可能な場合は、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、印刷法(インクジェットプリント法、ディスペンサー塗布法)等の成膜方法を用いることができる。この場合の陰極バッファ層の厚さは、通常は0.1〜100nmであり、好ましくは0.5〜50nmである。陰極と有機物層との間に、導電性高分子からなる層、或いは、金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる平均膜厚2nm以下の層を設けてもよい。
【0031】
<基板>
前記素子を構成する基板には、太陽電池素子に要求される機械的強度を満たす材料が用いられる。
ボトムエミッション型の太陽電池素子には、可視光線に対して透明な基板が用いられ、例えば、ソーダガラス、無アルカリガラス等のガラス;アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂等の透明プラスチック;シリコンからなる基板等が使用できる。
トップエミッション型の太陽電池素子には、ボトムエミッション型の太陽電池素子に用いられる基板に加えて、ステンレスや、銅、銀、金、白金、タングステン、チタン、タンタル若しくはニオブの単体又はこれらの合金からなる基板等が使用できる。
基板の厚さは、要求される機械的強度にもよるが、通常0.1〜10mm、好ましくは0.25〜2mmである。
なお、各層の膜厚は、概ね5nm〜5μmの範囲内である。
【0032】
(太陽電池素子の形成方法)
上記の有機EL化合物層は、例えば、蒸着法(抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法等)、スパッタリング法等のドライプロセス、又は塗布法(スピンコート法、キャスティング法、ダイコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等)等のウェットプロセスにより形成することができる。これらの方法のうち、スピンコート法、ダイコート法、スプレーコート法が好ましく用いられる。
【0033】
なお、太陽電池素子を長期間、安定的に用いるために、その周囲に保護層及び/又は保護カバーを装着することが好ましい。前記保護層には、高分子化合物、金属酸化物、金属フッ化物、金属ホウ化物等が用いられる。前記保護カバーには、ガラス板、表面に低透水化処理を施したプラスチック板、金属等が用いられ、該カバーを熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂で素子基板と貼り合わせて密閉する方法が好適に用いられる。さらに、前記空間に窒素やアルゴンのような不活性ガスを封入すれば、陰極の酸化を防止することができ、酸化バリウム等の乾燥剤を空間内に入れれば、製造工程で吸着した水分が太陽電池素子にタメージを与えるのを抑制できる。
【0034】
[用途]
本発明の有機薄膜太陽電池は、マトリックス方式またはセグメント方式による画素として画像表示装置に好適に用いられる。また、上記有機薄膜太陽電池は、画素を形成せずに、面発光光源としても好適に用いられる。
本発明の有機薄膜太陽電池は、具体的には、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、標識、看板、ビデオカメラのビューファインダー等における表示装置、バックライト、電子写真、照明、レジスト露光、読み取り装置、インテリア照明、光通信システム等における光照射装置に好適に用いられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0036】
[実施例1]SQ−ETの合成
(i)(2−エチル−1−ヘキシル)(2−トリフェニレリル)アミンの合成
2−エチルヘキシルアミン1.55g(12mmol)及び2−ブロモトリフェニレン2.45g(8mmol)をジメチルスルホキシド(DMSO)8mlに溶解させた溶液中に、ヨウ化銅(I)228mg(1.2mmol)、炭酸カリウム2.21g(16mmol)及びL−プロリン230mg(2mmol)を添加して、90℃で21時間攪拌し、さらに温度を上げて140℃で18時間攪拌した。
得られた粗生成物を分液漏斗に移し酢酸エチル100mlを加えて希釈し、イオン交換水を100mlを加え洗浄した。次に飽和食塩水を用いて同様の操作を2回行い洗浄した。その後、硫酸マグネシウムを用いて脱水し、溶媒を減圧除去した。最後に、シリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(溶媒;ヘキサン:トルエン=3:1)で精製をすることにより、収率53%でN−(2−エチルヘキシル)トリフェニレリル−2−アミンを得た。
(ii)SQ−ETの合成
1−ブロモ−3,5−ジメトキシベンゼン1.39g(6.4mmol)及びN−(2−エチルヘキシル)トリフェニレリル−2−アミン1.52g(4.29mmol)をキシレン30mlに溶解させた溶液中に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd2(dba)3)36mg(0.04mmol)、カリウム−t−ブトキシド481mg(4.3mmol)、トリブチルホスフィン49mg(0.24mmol)を添加して、21時間加熱還流することにより、N−(2−エチルヘキシル)−N−(3,5−ジメトキシフェニル)トリフェニレン−2−アミンを得た。
ここに、三臭化ホウ素2.3g(9.2mmol)を塩化メチレン9.2mlに溶解させた溶液を添加し、室温で23時間攪拌することにより、5−(N−(2−エチルヘキシル)−N−(トリフェニレニル)アミノ)ベンゼン−1,3−ジオールを得た。
ここに、スクアリン酸166mg(1.45mmol)をトルエン45ml及びブタノール15mlに溶解させた溶液を添加し、18時間加熱還流することにより、収率102%でSQ−ETを得た。
【化6】
1H−NMR、MS及び元素分析により、SQ−ETの生成を確認した。
結果を以下に示す。
1H NMR(400 MHz, CDCl3): δ 10.97 (s, 4H), 8.74-8.63 (m, 8H), 8.53 (d, 2H, J=7.6 Hz), 8.45 (d,2H J=2.8Hz), 7.73-7.65 (m, 8H), 7.49 (d, 2H, J=9.2 Hz), 5.86 (s,4H), 3.84 (d, 4H, J=7.2 Hz), 1.85-1.78 (m, 2H), 1.42-1.22 (m, 16H),0.88-0.81 (m, 12H) ppm
MS: m/z n.d. [M]+
Anal. Calcd for C68H64N2O6:C, 81.25; H, 6.42; N, 2.79%. Found: C, 81.25; H, 6.52; N, 2.70%.
【0037】
[実施例2]SQ−EPの合成
(i)N−(2−エチルヘキシル)ベンゼンアミンの合成
2−エチルヘキシルアミン5.81g(45mmol)及びブロモベンゼン2.36g(15mmol)をジメチルスルホキシド(DMSO)15mlに溶解させた溶液中に、ヨウ化銅(I)571mg(3mmol)、炭酸カリウム5.52g(40mol)及びL−プロリン575mg(5mmol)を添加して、90℃で16時間攪拌し、さらに温度を上げて120℃で8時間攪拌した。
得られた粗生成物を分液漏斗に移し酢酸エチル100ml加えて希釈し、イオン交換水を100mlを加え洗浄した。次に飽和食塩水を用いて同様の操作を2回行い洗浄した。その後、硫酸マグネシウムを用いて脱水し、溶媒を減圧除去した。最後に、シリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(溶媒;ヘキサン:トルエン=1:1)で精製することにより、収率66%でN−(2−エチルヘキシル)ベンゼンアミンを得た。
【化7】
(ii)SQ−EPの合成
1−ブロモ−3,5−ジメトキシベンゼン3.36g(15.5mmol)及びN−(2−エチル−1−ヘキシル)アニリン1.59g(7.73mmol)をキシレン80mlに溶解させた溶液中に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd2(dba)3)91mg(0.1mmol)、カリウム−t−ブトキシド3.7mg(33mmol)、トリブチルホスフィン82mg(0.4mmol)を添加して、25時間加熱還流することにより、N−(2−エチルヘキシル)−3,5−ジメトキシ−N−フェニルベンゼンアミンを得た。
ここに、三臭化ホウ素4.0g(16mmol)を塩化メチレン16mlに溶解させた溶液を添加し、室温で21時間攪拌することにより、5−(N−(2−エチルヘキシル)−N−フェニルアミノ)ベンゼン−1,3−ジオールを得た。
ここに、スクアリン酸167mg(1.47mmol)をトルエン45ml及びブタノール15mlに溶解させた溶液を添加し、24時間加熱還流することにより、収率83%でSQ−EPを得た。
【化8】
1H−NMR、MS及び元素分析により、SQ−EPの生成を確認した。
結果を以下に示す。
1H NMR(400 MHz, CDCl3): δ 10.94 (s, 4H), 7.45 (t, 4H, J=7.2 Hz), 7.89 (t, 2H, J=7.2 Hz), 7.18(d, 4H J=7.2 Hz), 5.74 (s, 4H), 3.66 (d, 4H, J=7.2 Hz), 1.73-1.67 (m,2H), 1.43-1.16 (m, 16H), 0.87-0.80 (m, 12H) ppm
MS: m/z 706 [M]+
Anal. Calcd for C44H52N2O6:C, 74.97; H, 7.44; N, 3.97%. Found: C, 75.04; H, 7.35; N, 3.92%.
【0038】
[実施例3]SQ−ENの合成
(i)N−(2−エチルヘキシル)ナフタレン−2−アミンの合成
2−エチルヘキシルアミン2.33g(18mmol)及び2−ブロモナフタレン2.48g(12mol)をジメチルスルホキシド(DMSO)6mlに溶解させた溶液中に、ヨウ化銅(I)228mg(1.8mmol)、炭酸カリウム2.21g(24mmol)、L−プロリン230mg(3mmol)を添加して、90℃で11時間攪拌し、さらに温度を上げて120℃で23時間攪拌した。
得られた粗生成物を分液漏斗に移し酢酸エチル100ml加えて希釈し、イオン交換水を100mlを加え洗浄した。次に飽和食塩水を用いて同様の操作を2回行い洗浄した。その後、硫酸マグネシウムを用いて脱水し、溶媒を減圧除去した。最後に、シリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(溶媒;ヘキサン:トルエン=2:1)で精製することにより、収率68%でN−(2−エチルヘキシル)ナフタレン−2−アミンを得た。
【化9】
(ii)SQ−ENの合成
1−ブロモ−3,5−ジメトキシベンゼン2.54g(11.7mmol)及びN−(2−エチルヘキシル)ナフタレン−2−アミン2.01g(7.86mmol)をキシレン50mlに溶解させた溶液中に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd2(dba)3)91mg(0.1mmol)、カリウム−t−ブトキシド897mg(8mmol)、トリブチルホスフィン82mg(0.4mmol)を添加して、25時間加熱還流することにより、N−(2−エチルヘキシル)−N−(3,5−ジメトキシフェニル)ナフタレン−2−アミンを得た。
ここに、三臭化ホウ素3.75g(15mmol)を塩化メチレン15mlに溶解させた溶液を添加し、室温で20時間攪拌することにより、5−(N−(2−エチルヘキシル)−N−(ナフタレニル)アミノ)ベンゼン−1,3−ジオールを得た。
ここに、スクアリン酸244mg(2.15mmol)をトルエン45ml及びブタノール15mlに溶解させた溶液を添加し、22時間加熱還流することにより、収率85%でSQ−ENを得た。
【化10】
1H−NMR、MS及び元素分析により、SQ−ENの生成を確認した。
結果を以下に示す。
1H NMR(400 MHz, CDCl3): δ 10.96 (s, 4H), 7.92 (d, 2H, J=8.0 Hz), 7.89-7.87 (m, 2H),7.83-7.8 (m, 2H), 7.66 (d, 2H, J=1.2 Hz), 7.56-7.52 (m, 4H), 7.28 (d,2H, J=8.6 Hz), 5.79 (s, 4H), 3.78 (d, 4H, J=7.2 Hz), 1.78-1.70 (m,2H), 1.50-1.18 (m, 16H), 0.85-0.81 (m, 12H) ppm
MS: m/z 806 [M]+
Anal. Calcd for C52H56N2O6:C, 77.58; H, 7.01; N, 3.48%. Found: C, 77.48; H, 6.85; N, 3.46%.
【0039】
[実施例4]SQ−EBの合成
(i)N−(2−エチルヘキシル)−4−ビフェニルアミンの合成
2−エチルヘキシルアミン1.55g(12mmol)及び4−ブロモビフェニル1.86g(8mmol)をジメチルスルホキシド(DMSO)8mlに溶解させた溶液中に、ヨウ化銅(I)228mg、炭酸カリウム2.21g、L−プロリン230mgを添加して、90℃で18時間攪拌した。
得られた粗生成物を分液漏斗に移し酢酸エチル100ml加えて希釈し、イオン交換水を100mlを加え洗浄した。次に飽和食塩水を用いて同様の操作を2回行い洗浄した。その後、硫酸マグネシウムを用いて脱水し、溶媒を減圧除去した。最後に、シリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(溶媒;ヘキサン:トルエン=2:1)で精製することにより、収率39%でN−(2−エチルヘキシル)−4−ビフェニルアミンを得た。
【化11】
(ii)SQ−EBの合成
1−ブロモ−3,5−ジメトキシベンゼン1.01g(4.63mmol)及び4−(N−(2−エチルヘキシル)アミノ)ビフェニル868mg(3.08mmol)をキシレン30mlに溶解させた溶液中に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd2(dba)3)27mg(0.03mmol)、カリウム−t−ブトキシド348mg(3.1mmol)、トリブチルホスフィン33mg(0.17mol)を添加して、20時間加熱還流することにより、N−(2−エチルヘキシル)−N−(3,5−ジメトキシフェニル)−4−ビフェニルアミンを得た。
ここに、三臭化ホウ素1.5g(6mmol)を塩化メチレン6mlに溶解させた溶液を添加し、室温で16時間攪拌することにより、5−(N−(2−エチルヘキシル)−N−(4−ビフェニルアミノ)ベンゼン−1,3−ジオールを得た。
ここに、スクアリン酸108mg(0.95mmol)をトルエン45ml及びブタノール15mlに溶解させた溶液を添加し、25時間加熱還流することにより、収率77%でSQ−EBを得た。
【化12】
1H−NMR、MS及び元素分析により、SQ−ETPA及びSQ−EFの生成を確認した。
結果を以下に示す。
1H NMR(400 MHz, CDCl3): δ 10.97 (s, 4H), 7.64 (d, 4H, J=8.8Hz), 7.61 (d, 4H, J=7.6 Hz), 7.47 (t, 4H, J=7.8 Hz), 7.38 (t, 2H,J=7.4 Hz), 7.25 (d, 4H, J=6.8 Hz), 5.81 (s, 4H), 3.70 (d, 4H, J=7.2Hz), 1.7-1.72 (m, 2H), 1.48-1.22 (m, 16H), 0.87-0.83 (m, 12H) ppm
MS: m/z 856 [M]+
Anal. Calcd for C56H60N2O6:C, 78.48; H, 7.06; N, 3.27%. Found: C, 78.60; H, 7.20; N, 3.22%.
[実施例5、6]
下記構造式で表されるSQ−ETPA(実施例5)及びSQ−EF(実施例6)を、実施例1〜4と同様の手順で合成した。
【化13】
合成スキームは以下のとおりである。
【化14】
1H−NMR、MS及び元素分析により、SQ−ETPA及びSQ−EFの生成を確認した。
結果を以下に示す。
(1)SQ−ETPA
1H NMR(400 MHz, CDCl3): δ 10.98 (s, 4H), 7.30 (t, 8H, J=8.0 Hz), 7.14 (d, 8H, J=8.8Hz), 7.08 (t, 8H, J=6.6 Hz), 6.99 (d, 4H, J=6.4 Hz), 5.80 (s, 4H), 3.63 (d, 4H,J=7.6 Hz), 1.77-1.73 (m, 2H), 1.46-1.21 (m, 16H), 0.89-0.82 (m, 12H) ppm
MS: m/z n.d. [M]+
Anal. Calcd for C68H70N4O6:C, 78.58; H, 6.79; N, 5.31%. Found: C, 78.50; H, 6.89; N, 5.31%.
(2)SQ−EF
1H NMR(400 MHz, CDCl3): δ 10.95 (s, 4H), 7.76 (d, 2H, J=8.0 Hz), 7.73 (d, 2H, J=6.0 Hz), 7.45(d, 2H, J=6.0 Hz), 7.39-7.33 (m, 4H), 7.24 (d, 2H, J=2.0 Hz),7.14 (d, 2H, J=8.4 Hz), 5.82 (s, 4H), 3.70 (d, 4H, J=7.6 Hz), 1.75-1.68 (m,2H), 1.49 (s, 12H), 1.45-1.15 (m, 16H), 0.85-0.80 (m, 12H) ppm
MS: m/z 937 [M]+
Anal. Calcd for C62H68N2O6:C, 79.46; H, 7.31; N, 2.99%. Found: C, 79.39; H, 7.35; N, 2.97%.
[実施例6]
下記構造式で表されるSQ−ESを以下の合成スキームに従って合成した。
【化15】
【化16】
1H−NMR、MS及び元素分析により、SQ−ESの生成を確認した。
結果を以下に示す。
1H NMR(400 MHz, CDCl3): δ 10.84 (s, 4H), 7.88-7.81 (m, 8H), 7.40-7.34 (m, 6H), 7.18-7.10 (m,8H), 7.75 (t, 6H, J=7.6 Hz), 7.53 (s, 2H), 5.66 (s, 4H), 3.45 (d, 4H, J=7.2 Hz),1.49-1.40 (m, 2H), 1.17-0.98 (m, 16H), 0.76 (t, 6H, J=6.8 Hz), 0.61 (t, 6H,J=6.8 Hz) ppm
MS: m/z n.d. [M]+
Anal. Calcd for C82H72N2O6:C, 83.36; H, 6.14; N, 2.37%. Found: C, 83.33; H, 6.36; N, 2.36%.
【0040】
[試験例1]紫外・可視分光分析(UV−vis)
実施例1〜7で得られたSQ−ET、SQ−EP、SQ−EN、SQ−EB、SQ−ETPA、SQ−EF、及びSQ−ESを2mgずつ秤量し、それぞれクロロホルム1mlに溶解させ、2mg/ml溶液を調製した。
SQ−ET、SQ−EP、SQ−EN、SQ−EBのそれぞれについて、クロロホルム溶液を石英ガラスに入れて測定した場合(- - -)、キャストフィルムにして測定した場合(―■―)、キャストフィルムに熱アニール処理(70℃、10分)を施した後に測定した場合(―◆―)、キャストフィルムに熱アニール処理(120℃、10分)を施した後に測定した場合(―▲―)のUV−Vis吸収スペクトルを測定した。SQ−ETPA、SQ−EF、SQ−ESについては、キャストフィルムにして測定した場合(―●―)、キャストフィルムに熱アニール処理(70℃、10分)を施した後に測定した場合(―■―)、キャストフィルムに熱アニール処理(120℃、10分)を施した後に測定した場合(―◆―)のUV−Vis吸収スペクトルを測定した。
UV−Vis吸収スペクトルでは、SQ−EP<SQ−EB<SQ−EN<SQ−ETの順に長波長化しているが、そのエネルギー差はわずか0.03eV程度であることがわかった。
結果を表1及び図2に示す。
【0041】
[試験例2]示差走査熱量測定(DSC)及び示差熱分析(TGA)
実施例1〜7で得られたSQ−ET、SQ−EP、SQ−EN、SQ−EB、SQ−ETPA、SQ−EF、SQ−ESをそれぞれ5mgずつアルミニウムパンに入れてDSC、TGAを測定した。
結果を表1に示す。SQ−ET、SQ−EP、SQ−EN、SQ−EB、SQ−ETPA、SQ−EF、SQ−ESのガラス転位温度(Tg)は観測されず、融点(Tm)は164〜285℃であり、5%重量減少温度(Td)は305〜343℃であった。SQ−ET、SQ−EP、SQ−EN、SQ−EB、SQ−ETPA、SQ−EF、SQ−ESのいずれも芳香族炭化水素基を有するため、剛直な構造であり、高い熱安定性を有することがわかった。
【0042】
[試験例3]サイクリックボルタンメトリー(CV)
実施例1〜4で得られたSQ−EPを2.11mg、SQ−ENを2.41mg、SQ−EBを2.57mg秤量し、それぞれ塩化メチレン6mlに溶解させ、0.5mM溶液を調製し、CV測定を行った。SQ−ETは1mg秤量し、塩化メチレン6mlでも完全溶解していなかったが、それ(0.17mM以下の溶液)を用いてCV測定を行った。
実施例5〜7で得られたSQ−ETPA、SQ−EF、SQ−ESについても同様に、CV測定を行った。
結果を表1に示す。SQ−ET、SQ−EP、SQ−EN、SQ−EB、SQ−ETPA、SQ−EF、SQ−ESについて、芳香族炭化水素基の違いによるエネルギー準位の差はほとんど認められなかった。
【0043】
【表1】
【0044】
[試験例4]溶解性試験
実施例1〜7で得られたSQ−ET、SQ−EP、SQ−EN、SQ−EB、SQ−ETPA、SQ−EF、SQ−ESを、クロロホルム、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、クロロベンゼン(CB;120℃)及びo−ジクロロベンゼン(ODCB)に溶解させて、溶解性の評価を行った。
芳香族炭化水素基に2−ナフチル基、2−トリフェニレニル基を導入したSQ−EN及びSQ−ETは溶解性が低いことがわかった。
結果を表2に示す。
【表2】
【0045】
[試験例5]太陽電池特性評価
陽極として、ガラス基板の全面に酸化インジウムスズ(ITO)膜が塗布されたITO基板を準備し、ITO電極の上に、正孔輸送層として、6nm厚の酸化モリブデン(VI)(MoO3)層を積層させ、その上に活性層として、ドナー材料に、実施例1〜7で得られたSQ−ET、SQ−EP、SQ−EN、SQ−EB、SQ−ETPA、SQ−EF、SQ−ESと、アクセプター材料にフェニルC71酪酸メチル(PC70BM)とを所定の質量比で混合したものを70〜100nm厚となるように塗布し、その上に電子輸送層として、10nm厚の2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)を積層し、陰極として100nm厚のアルミニウム板を積層させて、BHJ型太陽電池の素子を作製し、特性評価を行った。
【化17】
SQ−EP、SQ−EN、SQ−EB、SQ−ETPA、SQ−EF、及びSQ−ESのそれぞれの素子特性結果を表3及び図3〜5に示す。
【0046】
【表3】
SQ−EP及びSQ−EBを用いた太陽電池素子において、熱アニールすることで、VOC(開放電圧)、JSC(短絡電流密度)及びFF(曲線因子)のすべての値が低下し、PCEが低下する傾向が確認できた。一方、SQ−ENを用いた太陽電池素子では、熱アニールによる変化がみられなかった。
SQ−EP:PC70BM=1:1.7(SQ 46.2%)の質量比で太陽電池素子を作製した結果、VOC=1.00V、JSC=11.68mA/cm-2、FF=0.48であり、PCEが5.53%と比較的高い効率を示した。そこで、SQ−EPの割合を多くした素子を作成し、素子の最適化をすれば、より高い効率を得られることが期待できる。しかしながら、SQ−EBについては、分子の平面性の観点から、効率の向上が期待できると考えられたが、SQの割合を多くするほどJSCの低下がみられ、SQ−EPと比べて効率が劣っていた。
【符号の説明】
【0047】
1 基板
2 陰極
3 正孔輸送層
4 活性層
5 電子輸送層
6 陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6