(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6736211
(24)【登録日】2020年7月17日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】高電圧保護構造
(51)【国際特許分類】
B60R 16/02 20060101AFI20200728BHJP
【FI】
B60R16/02 650Y
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-85107(P2016-85107)
(22)【出願日】2016年4月21日
(65)【公開番号】特開2017-193270(P2017-193270A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2019年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】下永吉 裕親
【審査官】
菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−294215(JP,A)
【文献】
特開2010−108874(JP,A)
【文献】
特開2013−038079(JP,A)
【文献】
特開2014−043124(JP,A)
【文献】
特開平04−328382(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0136374(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧を用いる高電圧機器および前記高電圧機器の動作/停止を制御する制御装置を搭載した車両に適用される構造であって、
前記高電圧機器は、外装をなすケースと、前記ケースに設けられた開口を閉鎖するように前記ケースに取り付けられ、その取り付けられた状態で前記ケースと電気的に接続されるカバーと、前記カバーが前記ケースに取り付けられた状態で前記カバーと電気的に接続され、前記カバーが前記ケースから取り外された状態で前記カバーと電気的に分離される導電性部材とを備えており、
前記ケースがボディアースに接続され、
前記制御装置に設けられた信号端子が前記導電性部材と電気的に接続され、
前記信号端子にプルアップ抵抗を介して正電源が電気的に接続されており、
前記カバーの内面に、前記カバーが前記ケースに取り付けられた状態で前記導電性部材が当接する部分を除いて、絶縁コーティングが施されている、高電圧保護構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧から人を保護するための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンから排出される排ガスを浄化する装置として、プラズマリアクタを用いたものが提案されている。プラズマリアクタでは、複数の放電電極がそれぞれ排ガスの流れに沿う方向に延び、互いに間隔を空けて平行をなして配置されている。放電電極間には、高電圧が印加される。高電圧の印加により、放電電極間に放電が生じて、放電によるプラズマが発生し、放電電極間を流通する排ガスが浄化される。
【0003】
このプラズマリアクタを用いた排ガス浄化装置などの高電圧機器を車両に搭載するに際しては、高電圧に対する安全性の確保が重要である。
【0004】
たとえば、高電圧機器が作動している状態でメンテナンスなどのサービス作業が行われると、サービスマンが感電するおそれがある。そのため、高電圧機器が車載される場合、高電圧機器のケースがボディアースに接続される。また、サービスマンやユーザが高電圧機器に直接触れることができないよう、高電圧機器をカバーで覆うといった対策が講じられることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平1−130850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高電圧に対する安全性のさらなる向上を図ることができる、高電圧保護構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明に係る高電圧保護構造は、高電圧を用いる高電圧機器および高電圧機器の動作/停止を制御する制御装置を搭載した車両に適用される構造であって、高電圧機器は、外装をなすケースと、ケースに設けられた開口を閉鎖するようにケースに取り付けられ、その取り付けられた状態でケースと電気的に接続されるカバーと、カバーがケースに取り付けられた状態でカバーと電気的に接続され、カバーがケースから取り外された状態でカバーと電気的に分離される導電性部材とを備えており、ケースがボディアースに接続され、制御装置に設けられた信号端子が導電性部材と電気的に接続され、信号端子にプルアップ抵抗を介して正電源が電気的に接続されている。
【0008】
この構成によれば、高電圧機器のカバーがケースに取り付けられた状態では、カバーとケースとが電気的に接続(導通可能に接続)され、カバーと導電性部材とが電気的に接続される。ケースは、ボディアースに接続されている。導電性部材は、制御装置に設けられた信号端子と電気的に接続されている。信号端子には、プルアップ抵抗を介して、正電源が電気的に接続されている。
【0009】
これにより、ケースとボディアースとの接続および信号端子と導電性部材との接続がいずれも正常であり、かつ、カバーがケースに取り付けられることにより、カバーとケースとが接続され、導電性部材とカバーとが接続された状態では、信号端子が導電性部材、カバーおよびケースを介してボディアースに接続され、信号端子の電位が車両のボディと同電位となる。一方、ケースとボディアースとの接続不良や信号端子と導電性部材との接続不良などの異常が生じている状態、または、カバーがケースから取り外された状態では、信号端子がボディアースから切り離されて、信号端子の電位が正電源の出力端子と同電位となる。
【0010】
すなわち、ケースとボディアースとの接続不良(ケースがボディアースから浮いている、いわゆるアース浮き)などの異常が生じておらず、かつ、カバーがケースに取り付けられた状態では、信号端子にローレベルの信号が入力される。一方、異常が生じている状態、または、カバーがケースから取り外された状態では、信号端子にハイレベルの信号が入力される。
【0011】
したがって、制御装置では、信号端子に入力される信号のレベルに基づいて、アース浮きなどの異常が生じた場合にそれを検出することができ、また、カバーがケースから取り外された場合にもそれを検出することができる。そのため、アース浮きなどの異常が生じたことに応じて、また、カバーがケースから取り外されたことに応じて、高電圧機器の動作を停止させることができる。よって、高電圧に対する安全性のさらなる向上を図ることができる。
【0012】
カバーの内面には、カバーがケースに取り付けられた状態で導電性部材が当接する部分を除いて、絶縁コーティングが施されていてもよい。
【0013】
これにより、カバーがケースに対して正しい位置からずれて取り付けられた場合に、カバーの内面における絶縁コーティングの施されている部分が導電性部材に当接し、カバーと導電性部材とが電気的に接続されない。その結果、制御装置の信号端子にハイレベルの信号が入力されるので、それに応じて、高電圧機器の動作を停止することができる。よって、カバーがケースに正しく取り付けられない場合の高電圧に対する安全性をさらに向上させることができる。
【0014】
また、カバーに嵌合部材が設けられて、カバーがケースに取り付けられたときに、嵌合部材と導電性部材とが嵌合することにより、カバーと導電性部材とが電気的に接続される構成が採用されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高電圧機器が搭載された車両において、高電圧に対する安全性のさらなる向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る高電圧保護構造を図解的に示す図である。
【
図2】高電圧機器の図解的な平面図であり、(a)カバーがケースに正常に取り付けられた状態を示し、(b)カバーがケースに異常に(正常位置からずれて)取り付けられた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0018】
<高電圧保護構造>
図1は、本発明の一実施形態に係る高電圧保護構造1を図解的に示す図である。
【0019】
高電圧保護構造1は、高電圧を用いる高電圧機器2と、高電圧機器2を制御するECU(Electronic Control Unit)3とを搭載した車両4に適用される。
【0020】
高電圧機器2は、たとえば、プラズマリアクタである。プラズマリアクタは、車両4のエンジン(図示せず)から排出される排ガスに含まれるPMを除去するために、エキゾーストパイプなどの排気管の途中部に介装される。プラズマリアクタには、複数の放電電極が備えられている。放電電極は、それぞれ排ガスの流れに沿う方向に延び、互いに間隔を空けて平行をなして交互に配置されている。放電電極間には、パルス波状の高電圧が印加される。これにより、放電電極間に放電が生じ、その放電によるプラズマが発生する。プラズマの発生により、電極パネル間を流通する排ガスに含まれるPMが酸化(燃焼)されて除去される。
【0021】
高電圧機器2は、外装をなすケース5と、ケース5に取り付けられるカバー6とを備えている。ケース5およびカバー6は、導電性を有する材料からなる。
【0022】
ケース5は、ボディアース(車両4のボディ)7に電気的に接続されている。ケース5の上面には、サービス作業用(メンテナンス作業用)の開口8が形成されている。
【0023】
カバー6は、開口8を閉鎖するように、ケース5に取り付けられる。具体的には、カバー6の周縁部をケース5の上面における開口8の周縁部に当接させて、複数本の金属製のボルト9でカバー6の周縁部をケース5に締結することにより、カバー6がケース5に取り付けられる。これにより、カバー6は、ケース5に取り付けられた状態で、ボルト9およびケース5を介してボディアース7と電気的に接続される。
【0024】
ケース5内には、導電性部材11が設けられている。導電性部材11は、たとえば、金属製のコイルばねからなり、伸縮方向が上下方向(開口8がケース5の内外を連通する方向)に沿うように、支持部12を介してケース5に支持されている。支持部12は、絶縁性を有する材料からなる。カバー6がケース5から取り外された状態で、導電性部材11の上端部が開口8を通してケース5の外部に突出する。これにより、カバー6がケース5に取り付けられた状態では、カバー6の内面が導電性部材11に当接し、導電性部材11がカバー6と支持部12との間で圧縮される。また、導電性部材11は、内部接続線13を介して、ケース5に設けられた信号端子14と電気的に接続されている。
【0025】
ECU3は、たとえば、車両4に搭載される複数のECUのうちの1つである。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。ECU3は、CPU、ROMおよびRAMなどを含む構成のマイコン(マイクロコントローラ)21を備えている。
【0026】
ECU3には、外部との接続のための接続端子として、信号端子22およびアース端子23が設けられている。
【0027】
信号端子22は、ECU3内において、内部信号線24を介してマイコン21に接続されている。信号端子22には、ECU3の外部から外部信号線25の一端が接続される。外部信号線25の他端は、高電圧機器2の信号端子14に電気的に接続されている。また、信号端子22には、プルアップ抵抗26を介して、正電源27(たとえば、車載12Vバッテリ)の出力端子が電気的に接続されている。
【0028】
アース端子23は、ECU3の内部において、グランド線28に接続されている。また、アース端子23は、ECU3の外部において、ボディアース7と電気的に接続されている。
【0029】
<絶縁コーティング>
図2は、高電圧機器2の図解的な平面図である。
【0030】
カバー6の内面には、
図2に部分的なハッチングで図解的に示されるように、カバー6がケース5に取り付けられた状態で導電性部材11が当接する領域31を除いて、絶縁コーティングが施されている。これにより、カバー6がケース5に正常に取り付けられた状態では、
図2(a)に示されるように、カバー6の内面における絶縁コーティングの施されていない領域31が導電性部材11に当接し、カバー6と導電性部材11とが電気的に接続される。
【0031】
<作用効果>
以上のように、高電圧機器2のカバー6がケース5に正常に取り付けられた状態では、カバー6とケース5とが電気的に接続(導通可能に接続)され、カバー6と導電性部材11とが電気的に接続される。ケース5は、ボディアース7に接続されている。導電性部材11は、内部接続線13、信号端子14および外部信号線25を介して、ECU3に設けられた信号端子22と電気的に接続されている。信号端子22には、プルアップ抵抗26を介して、正電源27が電気的に接続されている。
【0032】
これにより、ケース5とボディアース7との接続および信号端子22と導電性部材11との接続がいずれも正常であり、かつ、カバー6がケース5に正常に取り付けられることにより、カバー6とケース5とが接続され、導電性部材11とカバー6とが接続された状態では、信号端子22が外部信号線25、信号端子14、内部接続線13、導電性部材11、カバー6およびケース5を介してボディアース7に接続され、信号端子22の電位がボディアース7(車両4のボディ)と同電位となる。一方、ケース5とボディアース7との接続不良や信号端子22と導電性部材11との接続不良などの異常が生じている状態、または、カバー6がケース5から取り外された状態では、信号端子22がボディアース7から切り離されて、信号端子22の電位が正電源27の出力端子と同電位となる。
【0033】
すなわち、ケース5とボディアース7との接続不良(ケース5がボディアース7から浮いている、いわゆるアース浮き)などの異常が生じておらず、かつ、カバー6がケース5に取り付けられた状態では、信号端子22にローレベルの信号が入力される。一方、異常が生じている状態、または、カバー6がケース5から取り外された状態では、信号端子22にハイレベルの信号が入力される。
【0034】
したがって、ECU3では、信号線から入力される信号のレベルに基づいて、アース浮きなどの異常が生じた場合にそれを検出することができ、また、カバー6がケース5から取り外された場合にそれを検出することができる。そのため、アース浮きなどの異常が生じたことに応じて、また、カバー6がケース5から取り外されたことに応じて、高電圧機器2の動作を停止させることができる。よって、高電圧に対する安全性のさらなる向上を図ることができる。
【0035】
また、カバー6の内面には、カバー6がケース5に取り付けられた状態で導電性部材11が当接する領域31を除いて、絶縁コーティングが施されている。これにより、
図2(b)に示されるように、カバー6がケース5に対して正しい位置からずれて取り付けられた場合に、カバー6の内面における絶縁コーティングの施されている領域が導電性部材11に当接し、カバー6と導電性部材11とが電気的に接続されない。その結果、ECU3の信号端子22にハイレベルの信号が入力されるので、それに応じて、高電圧機器2の動作を停止することができる。よって、カバー6がケース5に正しく取り付けられない場合の高電圧に対する安全性をさらに向上させることができる。
【0036】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0037】
たとえば、前述の実施形態では、導電性部材11が金属製のコイルばねからなるとした。しかしながら、導電性部材11の材料は、導電性を有する材料であればよく、金属に限らない。また、導電性部材11は、コイルばねに限らず、板ばねであってもよいし、ばね以外の部材であってもよい。
【0038】
ばね以外の部材としては、雌型端子との嵌合により雌型端子と電気的に接続される雄型端子、雄型端子との嵌合により雄型端子と電気的に接続される雌型端子などを例示することができる。導電性部材11に雄型端子が採用される場合、カバー6がケース5に正しく取り付けられた状態で導電性部材11が雌型端子と嵌合するように、その雌型端子がカバー6に配設されるとよい。同様に、導電性部材11に雌型端子が採用される場合、カバー6がケース5に正しく取り付けられた状態で導電性部材11が雄型端子と嵌合するように、その雄型端子がカバー6に配設されるとよい。
【0039】
また、前述の実施形態では、カバー6の内面には、カバー6がケース5に取り付けられた状態で導電性部材11が当接する領域31を除いて、絶縁コーティングが施されているとした。絶縁コーティングが施される領域は、カバー6の内面における領域31を除いた全領域であってもよいし、たとえば、カバー6の内面におけるケース5と当接する領域の少なくとも一部をさらに除いた領域であってもよい。後者の場合、カバー6がケース5に取り付けられた状態で、ボルト9を介さなくても、ケース5とカバー6との当接により、それらの電気的な接続を達成することができる。
【0040】
高電圧機器2の一例として、プラズマリアクタを挙げたが、高電圧機器2は、高電圧を用いる車載機器であればよい。高電圧を用いる車載機器としては、プラズマリアクタ以外に、ハイブリッド車や電気自動車に搭載されるインバータやDC−DCコンバータなどを例示することができる。
【0041】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 高電圧保護構造
2 高電圧機器
3 ECU(制御装置)
4 車両
5 ケース
6 カバー
7 ボディアース
8 開口
11 導電性部材
22 信号端子
26 プルアップ抵抗
27 正電源