(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6736265
(24)【登録日】2020年7月17日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】モアレ模様描画方法及びスタンプ
(51)【国際特許分類】
B41M 1/02 20060101AFI20200728BHJP
B41K 1/02 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
B41M1/02
B41K1/02 C
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-114551(P2015-114551)
(22)【出願日】2015年6月5日
(65)【公開番号】特開2017-1202(P2017-1202A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】503438621
【氏名又は名称】株式会社リバーデザインフィールド
(74)【代理人】
【識別番号】100152700
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 透
(72)【発明者】
【氏名】河原 修治
【審査官】
中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−012388(JP,A)
【文献】
特開2004−203031(JP,A)
【文献】
実開昭56−014029(JP,U)
【文献】
実開昭62−157256(JP,U)
【文献】
米国特許第04629428(US,A)
【文献】
“発達心理学から生まれたシヤチハタの知育スタンプ『エポンテ カラースタンプ』で子供たちの未来を広げよう!”,[online],株式会社フロンティア,2014年12月28日,[2019年12月4日検索],URL,https://www.shin−shouhin.com/2014/12/28/shachihata−eponte1/
【文献】
“vol.86:プラスステーショナリー(2)〜文字で文字を隠す”,[online],オピ研,2008年 3月19日,[2019年6月28日検索],URL,https://www.opi−net.com/opiken/200803_02.asp
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/02
B41K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の同一の要素図形(ドットを除く)の凸面を二次元点対称に配列して成る幾何学的模様の印面を有するスタンプを、描画対象物に手押しにて押印して第一の印画を得る第一の工程と、前記スタンプを第一の印画に対して位相を変えて手押しにて複数回重ねて押印する第二の工程とから成ることを特徴とするモアレ模様の描画方法。
【請求項2】
請求項1に記載のモアレ模様の描画方法に用いる、多数の同一の要素図形(ドットを除く)の凸面を二次元点対称に配列して成る印面を有するスタンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタンプを用いて紙等の描画対象物にモアレ模様を描画する方法に関し、また、かかるモアレ模様を描画する方法に用いるスタンプに関する。
【背景技術】
【0002】
モアレとは「干渉縞」ともいい、規則正しく分布している細かな点や線等の要素図形を位相をずらせて重ね合わせたときに視覚的に発生する縞模様のことである。印刷の分野では写真等の階調表現のために網点を配列し、また、コンピュータによる画像処理の分野では画像処理において画像を画素と呼ばれる点を配置するが、モアレは、網点や画素のピッチや傾きのずれによって本来は存在しない縞模様等が生じるため、これをいわゆるノイズとして、一般には忌避すべき現象とされている。
【0003】
しかし、単純単調な網点や網線から成る図形を、水平にずらす、回転させる等、僅かに位相を変えて重ねることにより、予期せず複雑で看者に美観を感じさせるモアレ模様が生じることが知られている。繊維分野では、織物の繊維の位相をずらせて織ることで意図的に美しいモアレ模様を発生させることがある。また、イラストレーションや漫画の分野では、規則的な模様のスクリーントーンを重ねることでモアレ模様を演出として利用されることがある。しかし、スクリーントーンは高価な上、取扱いに慣れが必要であるほか、裏面の接着剤が有効な紙等にしか適用できず、重ね貼りにより厚みが増加し、剥がれるおそれもある。そのため、スクリーントーンはイラストレーター等の専門的用途向けであり、気軽に様々な対象物にモアレ模様の描画を楽しむ用途には適していなかった。
【0004】
一方、ハンドクラフトの分野では、近年「スタンプアート」と呼ばれる技法が注目されている。スタンプアートは、文字や図形を印画できるゴム印方式のスタンプと様々な色彩のインクを用い、紙面だけでなく身の回り品等に自由に描画して楽しむホビーである。非特許文献1のような入門書が発刊されており(
図1参照)、
図2、3に示すようなスタンプアート用のラバースタンプが製造販売されている。また、技法を学べる講座や愛好家によるイベントも開催されている。
【非特許文献1】「はじめてのスタンプアート」マガジンランド社刊
【0005】
従来のスタンプアートは、主に有意な図形や文字等の具象図形の印面を有するスタンプと様々な色彩のインクを用いて紙等に押印することで描画するもので、多種類のスタンプを組み合わせたり、手書きの描画や他の描画手段と組み合わせる等の技法が行われている。
また、描画対象物も画用紙のほか、カードや栞その他の雑貨類がある。
【0006】
ところで、従来のスタンプアートにおいても、平行線やドットの集合から成る幾何学的模様の印面を有するスタンプが用いられることがあるが、その用途は模様自体の描画あるいは背景的模様の描画であり、幾何学的模様を重ね合せて意図的にモアレ模様を描画することは行われていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、スタンプアートにおいて、所定の条件を備える幾何学的模様の印面を有するスタンプを用いることで描画対象物に意図的にモアレ模様を描画する方法を提供し、また該方法に適したスタンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に記載したモアレ模様の描画方法は、多数の同一の要素図形
(ドットを除く)の凸面を二次元点対称に配列して成る幾何学的模様の印面を有するスタンプを、描画対象物に手押しにて押印して第一の印画を得る第一の工程と、前記スタンプを第一の印画に対して位相を変えて手押しにて複数回重ねて押印する第二の工程とから成ることを特徴とする。
【0009】
モアレは二つの空間周波数のうなり現象であり、二次元描画面に生じるモアレ模様は、特定の周期で連続的に並んだ線や点等の図形(以下、「要素図形」という。)を、位相をずらせて二つ重ね合せた場合に、隣接する要素図形の距離と位相のずれとの差分に相当する周期で生じる新たな縞模様として視覚される。従って、要素図形自体が直線、曲線、点、あるいは何らかの図形のいずれの場合でも、それらが特定の周期で連続的に並んでいればモアレ模様は生じる。また、前記位相のずれは、水平移動、回転あるいはそれらの組み合わせである。
【0010】
特定の周期で連続的に並ぶ要素図形を最も手軽に描画する手段はスタンプである。要素図形を配列したスタンプを描画対象面に一回押印した後、スタンプをやや水平移動、あるいは回転させ重ねて押印することで、位相のずれた二つの同一の要素図形群が重なり、モアレ模様が描画される。
【0011】
スタンプアートでは、計算に基づいて所期のモアレ模様を現出させることが目的ではなく、手押しによる微妙な位相のずれにより、ユーザ(創作者)が予期せぬ多彩なモアレ模様の偶然の現出を楽しむことが目的である。従って、個々の要素図形の形状を問わず、その配列は二次元点対称、すなわち180度対称とすることが美術的観点からは好適である。なぜなら、配列が二次元点対称であれば、二つの要素図形群の位相をどの方向にずらせた場合も、得られるモアレ模様は常にシンメトリとなり、人間の視覚の特性上、審美性の高いものとなるからである。
【0012】
具体的には、要素図形を点(ドット)とする場合は、その配列は正方形格子状あるいは点とそのすべての隣接点を等距離としたいわゆる網点状とし、直線とする場合は、等間隔の並行線とし、円(楕円を含む)とする場合は同心円とするが、全体としての配列が二次元点対称であれば、これらに限られない。
【0013】
スタンプによる押印は、二回だけでなく三回以上重ねることで、複雑で高密度なモアレ模様を描画できる。また、同じ形状の要素図形の大きさ、又は配列の間隔・周期の異なるスタンプを重ね押しすれば、より複雑なモアレ模様を描画できる。さらに、スタンプに用いるインクの色や濃度を変えて重ね押しすることで、表現力を高めることもできる。
【0014】
請求項2に記載したスタンプは、請求項1に記載したモアレ模様の描画方法に用いる、多数の同一の要素図形
(ドットを除く)の凸面を二次元点対称に配列して成る印面を有するものとしている。スタンプ自体の構成は、木材又はプラスティック等から成る把持部を有する本体に、要素図形を成す凸面を一体的に配列成形したゴム等一定の弾力性を有する素材から成る印面を貼付したもので足り、本体及び印面の大きさや形状は任意である。
【0015】
なお、要素図形が、点(ドット)等の独立した図形や平行線のように、そのままの配列で連続的に拡張させても二次元点対称性が失われない図形である場合は、印面を円筒外側面に切れ目なく貼り付けてローラー状に構成することもできる。この場合、取っ手にローラー状の印面を回転可能に取り付ければ、ペンキ塗り用ローラの如く描画対象物に連続的に印画することが可能となる。かかるローラー式スタンプを用いれば、印画を隙間なく並行に並べて印面の幅よりも幅広の第一の印画を得、さらに位相をずらせて同様の幅広の第二の印画を重ねることにより、より大きなモアレ模様を効率的に描画したり、帯状の第一の印画と第二の印画の交差重複部分のみにモアレ模様を生じさせるなど、描画方法の幅をさらに拡げることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ユーザは格別の技術を要さず、スタンプを押すだけで簡単に複雑で美しいモアレ模様を描画可能である。モアレ模様は、スタンプの重ね押しの僅かな位相のずれにより千変万化し、その意外性の高さがユーザの創作意欲を刺激する。本発明は、ユーザの年齢や技量を問わず、スタンプアートの表現力を格段に高める効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について
図4乃至14を参照して説明する。
図4は、本発明の一つの実施形態に係るスタンプ1の斜視図、
図5は印面4を正面から見た正面図及びスタンプ1の側面図である。
【0018】
スタンプ1は、印台2と把持部3とから成り、印台2の表面にはクッション5を介して印面4を貼付しており、一般的な事務用スタンプと同様の構成である。印台2及び把持部3は木材又はプラスティック等の合成樹脂製とし、一体成型も可能である。印面4はゴム(ラバー)製、クッション5はスポンジシートが好適である。印面4の表面には要素図形としてのドットから成る凸面6を多数、二次元点対称の正方形格子状に一体成型している。
【0019】
図6は、前記スタンプ1を描画対象面に押印して現れる網点の印画である。複数の印画を重ねずに隙間なく並べて押すことにより、網点模様の印画は拡大可能である。
【0020】
図7は、前記スタンプ1で一回印画した後、スタンプ1を中心軸で回転させることにより位相をずらして二回目の押印を行った印画である。回転角度の変化により、様々に異なるモアレ模様が描画される。
【0021】
図8は、左と中央の印画は、前記スタンプ1でさらに回転角度を変えてもう一回重ねて三回重ねで押印したものであり、右の印画は四回重ねで押印したものである。
図7の場合に比べ、より複雑で立体的なモアレ模様が描画される。
【0022】
図9は、前記スタンプ1で、二回目の印画を回転ではなく斜め方向に位相をずらせて行ったものである。一回押印の場合に比べて縦横方向の格子状のモアレ模様が描画される。
【0023】
図10は、前記スタンプ1での一回目押印後、同形同大のドットのピッチを変えて配列した異なるスタンプで重ねて二回目の押印を行った印画である。中心軸で回転させた左図では略千鳥格子模様状のモアレ模様が描画され、位相をずらさずに単純に重ね押しした右図では縦横斜め各方向に線状のモアレ模様が描画される。
【0024】
図11は、前記スタンプ1での一回目押印後、同形でより大きなドットを配列した異なるスタンプを重ねて中心軸で回転させて二回目押印を行った印画である。重なったドットが変形するため、部分的に立体的なモアレ模様が描画される。
【0025】
図12は、スタンプ1の要素図形を、ドットのほか、それぞれ短い斜め線、×印、〇印として中心軸で回転させて二回押印して得た印画を例示したものである。要素画像が異なっても、いずれもシンメトリな新たな図形単位の格子状配列のモアレ模様が描出され、リズム感のある模様を形成する。
【0026】
図13は、スタンプ1の要素図形を等間隔の水平線とし、中心軸で回転させて二回押印して得た印画を例示したものである。畳の目状の縦線が現れた立体的なモアレ模様が描出される。
【0027】
図14は、スタンプ1の要素図形を細かい間隔の同心円とし、二回目押印を斜め上方に位相をずらせて得た印画を例示したものである。重なり部分では放射状の模様が現れたモアレ模様が描出される。
【0028】
以上、本発明に係るモアレ模様の描画方法並びに該方法に用いるスタンプの実施の形態について図面を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的又は本発明の技術的思想の範囲内において改良又は変更が可能であり、それらは本発明の技術的範囲に属する。
【0029】
例えば、要素図形を凸部で表すだけでなく、凹部として反転図形とした印面としても、位相をずらせて二回以上押印すれば、異なる風合いのモアレ模様を描画できる。もちろん、同じ印面のスタンプを用いても、位相のずらし方により生じるモアレ模様のパターンは無限である。また、スタンプの印台・印面を可撓性と弾力性を備えた素材で構成し、印面を立体曲面にも密着可能に構成すれば、紙等の平面だけでなく身の回り品の立体的な表面にもモアレ模様を描画可能とできるし、たとえば、人間の皮膚や爪の曲面にモアレ模様を描画してメイクアップやネイルアート等にも応用可能である。なお、本発明に係るスタンプは、モアレ模様の描画のみならず、描画対象物に単純に並べて連続的に押印して埋め尽くすことで、手押しで生じる微妙な傾きの味わいのある装飾を行うこともでき、一部をモアレパターンにすることもできる。そのため、オリジナルデザインのラッピングペーパの制作、Tシャツ等の柄のデザイン、壁の装飾等、幅広い用途にも活用できる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、スタンプアートに代表される芸術及びホビーの分野はもとより、テキスタイルデザイン、プロダクトデザイン、インテリアデザイン等における新たなデザイン描画方法並びにデザイン用具として利用可能であり、その適用範囲は広い。また、子供の知育教材、高齢者福祉施設におけるアクティビティにも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図2】既存のスタンプアート用スタンプの一事例の写真である。
【
図3】既存のスタンプアート用スタンプの印画の一事例の写真である。
【
図4】本発明の実施形態に係るスタンプの斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るスタンプの正面図及び側面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るスタンプによる印画の一例である。
【
図7】同一同大の図形要素の印画を回転させた二回重ね押しで得られるモアレ模様の例示である。
【
図8】同一同大の図形要素の印画を回転させた三回重ね押しで得られるモアレ模様の例示である。
【
図9】同一同大の図形要素の印画を水平移動させた二回重ね押しで得られるモアレ模様の例示である。
【
図10】同一同大でピッチが異なる図形要素の印画を回転又は水平移動させた二回重ね押しで得られるモアレ模様の例示である。
【
図11】同形で大きさの異なる図形要素を回転させた二回重ね押しで得られるモアレ模様の例示である。
【
図12】様々な形状の図形要素の印画とそれを回転させた二回重ね押しで得られるモアレ模様の例示である。
【
図13】等間隔の複数の水平線の印画とそれを回転させた二回重ね押しで得られるモアレ模様の例示である。
【
図14】等間隔の複数の同心円の印画とそれを水平移動させた二回重ね押しで得られるモアレ模様の例示である。
【符号の説明】
【0032】
1 スタンプ
2 印台
3 把持部
4 印面
5 クッション
6 図形要素の凸部