(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電力の供給を受けて駆動するモータ部と、該モータ部の回転運動を直線運動に変換して出力する運動変換機構部と、前記モータ部および前記運動変換機構部を収容し、軸方向一方側の端部に開口部を有すると共に軸方向他方側の端部に底部を有する有底筒状の筐体とを備え、前記運動変換機構部が、前記モータ部のロータの回転中心と同軸に配置されたねじ軸と、複数のボールを介して前記ねじ軸の外周に回転可能に嵌合され、前記モータ部のロータとトルク伝達可能に設けられたナット部材とを有し、前記ナット部材の回転方向に応じて、前記ねじ軸を含む出力部材が軸方向一方側に前進又は軸方向他方側に後退する電動アクチュエータにおいて、
前記筐体の開口端面およびこれに対向する前記出力部材の軸方向他方側の端面との間に、両者と軸方向で係合することにより前記出力部材の原点位置を決定付ける環状の原点位置決め部材が設けられ、該原点位置決め部材は、軸方向の圧縮荷重に対する弾性復元力を有しており、
前記出力部材が原点に位置した状態では、前記筐体の底部の内端面と前記出力部材の端面とが軸方向隙間を介して互いに対向することを特徴とする電動アクチュエータ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動アクチュエータにおいては、ねじ軸(出力部材)の軸方向の変位量を精度良く管理・制御するために、通常、出力部材の原点位置が設定される。特許文献1のように、全体として有底筒状をなす筐体を採用した電動アクチュエータにおいては、出力部材と筐体の底部が軸方向で当接する位置を出力部材の原点に設定することができる。すなわち、有底筒状の筐体を用いる場合、筐体の底部を、出力部材の原点位置を決定付けるための原点位置決め部として活用できる。
【0005】
しかしながら、筐体の底部を出力部材の原点位置決め部として活用した場合、出力部材が動作不能になるという重大欠陥が生じる可能性があることが判明した。その詳細を、
図13および
図14(a)(b)を参照しながら説明する。
【0006】
図13は、電動アクチュエータの要部を抜き出して示す部分拡大断面図である。この電動アクチュエータは、図示外のモータの回転中心と同軸に配置され、外周面に螺旋状溝101aが設けられた中空状のねじ軸101と、ねじ軸101の外周に配置され、内周面に螺旋状溝102aが設けられたナット部材102と、両螺旋状溝101a,102aの間に転動自在に介在する複数のボール103とを備えたボールねじ装置104で運動変換機構を構成すると共に、ねじ軸101およびその内周に固定され、操作対象を軸方向に操作可能な操作部を有する内方部材105で出力部材100を構成している。ボールねじ装置104や図示外のモータは、軸方向一方側(図中右側)の端部に開口部111が設けられ、軸方向他方側(図中左側)の端部に円盤状の底部112が設けられた有底筒状の筐体110に収容されている。
【0007】
この電動アクチュエータの出力部材100に撓みがない場合、すなわち、出力部材100の軸線とモータの回転中心Xとが一致している場合には、
図14(a)に示すように、ボール103の中心Obは、ねじ軸101の螺旋状溝101aとボール103との接触点101bと、ナット部材102の螺旋状溝102aとボール103との接触点102bとを結ぶ直線Y上に位置する。この場合、モータの出力を受けてナット部材102が回転すると、ボール103は
図14(a)中に白抜き矢印で示す方向に滑らかに転動してトルクを伝達するため、ねじ軸101を含む出力部材100は軸方向に滑らかに直線運動する。
【0008】
一方、例えば、電動アクチュエータの電気系等に何らかの不具合が生じることにより、出力部材100の原点復帰に伴って出力部材100がオーバーランし、出力部材100と筐体110の底部112とが強く突き当たった場合、出力部材100には、その軸線X’がモータの回転中心Xに対して位置ズレするような撓みが生じる[
図13および
図14(b)参照]。この場合、ボール103は、所定の接触点101b以外の接触点101cでもねじ軸101の螺旋状溝101aと接触するため、ねじ軸101およびナット部材102とボール103との接触状態が三点接触となり(ボール103の中心Obが接触点101b,102bを結ぶ直線Yに対して位置ズレし)、ボール103が転動不能ないわゆるロック状態に陥る。そのため、モータの回転運動をねじ軸101に伝達することができず、出力部材100が動作不能となる。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、運動変換機構にボールねじ装置が採用される電動アクチュエータにおいて、出力部材の原点復帰に伴って出力部材が作動不能となるような重大欠陥が発生する可能性を効果的に低減しつつ、出力部材の原点を容易に設定可能とし、もって出力部材の動作精度に優れ、信頼性に富む電動アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、電力の供給を受けて駆動するモータ部と、モータ部の回転運動を直線運動に変換して出力する運動変換機構部と、モータ部および運動変換機構部を収容し、軸方向一方側の端部に開口部を有すると共に軸方向他方側の端部に底部を有する有底筒状の筐体とを備え、運動変換機構部が、モータ部のロータの回転中心と同軸に配置されたねじ軸と、複数のボールを介してねじ軸の外周に回転可能に嵌合され、モータ部のロータとトルク伝達可能に設けられたナット部材とを有し、ナット部材の回転方向に応じて、ねじ軸を含む出力部材が軸方向一方側に前進又は軸方向他方側に後退する電動アクチュエータにおいて、筐体の開口端面およびこれに対向する出力部材の軸方向他方側の端面との間に、両者と軸方向で係合することにより出力部材の原点位置を決定付ける環状の原点位置決め部材が設けられ、該原点位置決め部材が軸方向の弾性復元力を有することを特徴とする。なお、本発明でいう「出力部材」とは、電動アクチュエータの出力部材である。
【0011】
上記のような原点位置決め部材を設けておけば、筐体の底部を活用せずに、出力部材の原点位置を容易かつ正確に設定することができる。また、原点位置決め部材は、軸方向の弾性復元力(軸方向の圧縮荷重に対する弾性復元力)を有することから、出力部材の原点復帰に伴って出力部材に対して軸方向の大きな衝撃荷重が作用した場合でも、出力部材を軸方向一方側(筐体の底部から離反する方向)に押し戻すことが、すなわち上記の衝撃荷重を減衰・緩和することができる。そのため、ボールねじ装置を構成するボールが転動不能になるロック状態に陥る可能性を効果的に低減することができる。
【0012】
出力部材が原点に位置した状態では、筐体の底部の内端面を、軸方向隙間を介して出力部材の端面と対向させるのが好ましい。このようにすれば、出力部材の原点復帰に伴って、ボールねじ装置がロック状態に陥る可能性を低減する上で有利となる。
【0013】
原点位置決め部材を、ゴム材料、樹脂材料、熱可塑性エラストマー等の弾性材料で形成すれば、所定形状の原点位置決め部材を容易に作製することができるので、原点位置決め部材を設けることによるコスト増を抑制する上で有利となる。
【0014】
モータ部のロータは、ナット部材を内周に配置し、軸方向に離間した二箇所に配置された転がり軸受により回転自在に支持された中空回転軸を有するものとすることができ、この場合、中空回転軸には、2つの転がり軸受のうち、一方の転がり軸受の内側軌道面を設けても良い。このようにすれば、中空回転軸、ひいては筐体を軸方向にコンパクト化することができる。これにより、軸方向にコンパクトで、使用機器に対する搭載性に優れた電動アクチュエータを実現することができる。
【0015】
中空回転軸に上記の内側軌道面が設けられている場合に、この内側軌道面をナット部材の軸方向幅の内側に配置すれば、電動アクチュエータを軸方向に一層コンパクト化することができる。
【0016】
運動変換機構部は、ロータの回転を減速してナット部材に伝達する減速機を有するものとすることができる。このようにすれば、小型のモータを採用することができるので、電動アクチュエータの軽量・コンパクト化を図ることができる。減速機としては、遊星歯車減速機を採用することができる。遊星歯車減速機であれば、例えば歯車諸元を変更したり、遊星ギヤの設置段数を変更したりすることで減速比を容易に調整することができ、しかも遊星ギヤを多段に設置しても減速機、ひいては電動アクチュエータの大型化を回避することができる、という利点がある。
【0017】
筐体は、軸方向に結合された複数部材で構成することができ、この場合、電装部品を保持したターミナル部に、筐体の構成部材により軸方向両側から挟持された筒状部を設けると共に、筒状部に、筐体の内外を連通させる径方向の貫通穴を設けることができる。なお、ここでいう「電装部品」とは、例えば、モータ部に駆動電力を供給するための給電回路や、モータ部の回転制御に用いるための回転角度検出用センサなどを含む概念である。
【0018】
上記の構成によれば、筐体を構成する部材同士を軸方向に結合し、筐体を組み立てるだけでモータ部を駆動可能な状態にすることができる。特に、ターミナル部の筒状部に筐体の内外を連通させる径方向の貫通穴を設けておけば、電装部品に接続される電気配線を上記の貫通穴を介して筐体の径方向外側に引き出すことができる。この場合、電気配線の取り回し作業をターミナル部単体の状態で完結することができるので、電動アクチュエータの組立段階で煩雑な電気配線の取り回し作業を実施する必要がなくなる。従って、電動アクチュエータの組立性・生産性を高め、そのコスト低減を図ることができる。
【0019】
モータ部のステータの少なくとも一部は、ターミナル部の筒状部に嵌合しても良い。このようにすれば、筐体を組み立てるのと同時にモータ部のステータを筐体の内周に組み付けることができるので、電動アクチュエータの組立性を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上より、本発明によれば、運動変換機構にボールねじ装置が採用される電動アクチュエータにおいて、出力部材の原点復帰に伴って出力部材が作動不能となるような重大欠陥が発生する可能性を効果的に低減しつつ、出力部材の原点を容易に設定することが可能となる。これにより、出力部材の動作精度に優れ、信頼性に富む電動アクチュエータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、“軸方向一方側”および“軸方向他方側”とは、それぞれ、
図1,2における紙面右側および紙面左側である。
【0023】
図1に、本発明の一実施形態に係る電動アクチュエータの縦断面図を示し、
図2に、
図1のE−E線矢視断面図を示し、
図3に、モータ部のロータと運動変換機構部とを取り出して拡大した縦断面図を示す。なお、
図1および
図2は、電動アクチュエータの出力部材3が原点に位置した状態を示している。詳細は後述するが、「原点に位置した状態」とは、環状の原点位置決め部材90の軸方向一方側および他方側の端部90a,90bが、それぞれ、軸方向で対峙するアクチュエータヘッド39の頭部39aの端面およびケーシング20の開口端面20a1と軸方向で係合する位置にある状態のことである。
【0024】
図1および
図2に示すように、電動アクチュエータ1は、電力の供給を受けて駆動されるモータ部Aと、モータ部Aの回転運動を直線運動に変換して出力する運動変換機構部Bと、図示外の操作対象を操作する操作部Cと、ターミナル部Dとを備え、これらは筐体2に収容・保持されている。
【0025】
筐体2は、同軸配置された状態で軸方向に結合された複数の部材からなり、全体として有底筒状をなす。本実施形態の筐体2は、軸方向の両端が開口した筒状のケーシング20と、ケーシング20の軸方向他方側の端部開口を閉塞する底部としてのカバー29と、ケーシング20とカバー29の間に配置され、ターミナル部Dを構成するターミナル本体50との結合体からなる。カバー29およびターミナル本体50は、
図9,10に示す組立用ボルト61によりケーシング20に対して取り付け固定されている。
【0026】
モータ部Aは、ケーシング20およびターミナル本体50(の筒状部50A)の内周面に嵌合固定されたステータ23と、径方向隙間を介してステータ23の内周に対向配置されたロータ24とを備えたラジアルギャップ型のモータ(詳細には、U相、V相およびW相を有する三相ブラシレスモータ)25で構成されている。ステータ23は、ステータコア23aに装着された絶縁用のボビン23bと、ボビン23bに巻き回されたコイル23cとを備える。ロータ24は、ロータコア24aと、ロータコア24aの外周に取り付けられたロータマグネットとしての永久磁石24bと、中空状に形成され、ロータコア24aを外周に装着した中空回転軸としてのロータインナ26とを備える。
【0027】
図3に示すように、ロータコア24aは、ロータインナ26の軸方向一方側の肩部26aにサイドプレート65をセットした後、ロータインナ26の外周面26bに嵌合される。永久磁石24b(
図2参照)は、ロータコア24aの外周に嵌合された後、ロータインナ26のうち、ロータコア24aの軸方向他方側の端部の軸方向外側に取り付けられたサイドプレート65、およびその軸方向外側に取り付けられたサークリップ66により位置決め固定されている。
【0028】
図1〜
図3に示すように、ロータインナ26の軸方向一方側の端部外周には転がり軸受27の内側軌道面27aが形成され、転がり軸受27の外輪27bはケーシング20の内周面に固定された軸受ホルダ28の内周面に装着されている。また、ロータインナ26の軸方向他方側の端部内周面と、カバー29の円筒部29aの外周面との間に転がり軸受30が装着されている。このような構成により、ロータインナ26は、転がり軸受27,30を介して筐体2に対して回転自在に支持されている。
【0029】
図1〜
図3に示すように、本実施形態の運動変換機構部Bは、ボールねじ装置31と、減速機としての遊星歯車減速機10とを備え、遊星歯車減速機10はモータ部Aの軸方向一方側に隣接配置されている。
【0030】
ボールねじ装置31は、ロータ24の回転中心と同軸に配置されたねじ軸33と、複数のボール34を介してねじ軸33の外周に回転可能に嵌合され、ロータインナ26とトルク伝達可能にロータインナ26の内周に配置されたナット部材32と、循環部材としてのこま35とを備える。ナット部材32の内周面に形成された螺旋状溝32aと、ねじ軸33の外周面に形成された螺旋状溝33aとの間に複数のボール34が装填され、こま35が組み込まれている。これにより、ナット部材32が回転するのに伴ってねじ軸33が軸方向に直線運動する際には、両螺旋状溝32a,33aの間でボール34が循環する。ねじ軸33は、内方部材36や、操作部Cとしてのアクチュエータヘッド39などと共に、電動アクチュエータ1の出力部材3を構成する。
【0031】
ねじ軸33は、軸方向に延びた孔部(本実施形態では、軸方向両側の端面に開口した貫通穴)33bを有する中空状に形成され、孔部33bに内方部材36が収容されている。内方部材36は、例えばPPS等の樹脂材料で形成され、軸方向一方側の端部に設けられた円形中実部36aと、軸方向他方側の端部に設けられたフランジ部36bと、両部36a,36bを接続する筒部36cとを一体に有する。
【0032】
ねじ軸33の孔部33bに収容された内方部材36は、その円形中実部36aとねじ軸33とを径方向に貫通するようにピン37を嵌め込むことによってねじ軸33と連結固定される。ピン37の両端部は、ねじ軸33の外周面から径方向外側に突出しており、この突出部分にガイドカラー38が回転自在に外嵌されている。ガイドカラー38は、例えばPPS等の樹脂材料で形成され、ケーシング20の小径円筒部20aの内周に設けられた軸方向の案内溝20b(
図5も併せて参照)に嵌め込まれている。このような構成により、ロータ24の回転に伴ってナット部材32がねじ軸33の軸線回りに回転すると、ねじ軸33(を含む出力部材3)は回り止めされた状態で軸方向に直線運動する。なお、ねじ軸33が、軸方向他方側から軸方向一方側に向けて直線運動(前進)するか、あるいは軸方向一方側から軸方向他方側に向けて直線運動(後退)するかは、基本的には、ナット部材32の回転方向に応じて決定付けられるが、本実施形態では、圧縮コイルばね48のばね力によってもねじ軸33が後退移動可能となっている(詳細は後述する)。
【0033】
図1および
図2に示すように、ねじ軸33の軸方向一方側の端部には、操作部Cとしてのアクチュエータヘッド39が着脱可能に装着されている。従って、電動アクチュエータ1の出力部材3は、ねじ軸33、内方部材36、ピン37、ガイドカラー38およびアクチュエータヘッド39などの結合体で構成される。本実施形態のアクチュエータヘッド39は、ねじ軸33が軸方向一方側に直線運動(前進)するのに伴って操作対象を軸方向に加圧するいわゆる押しタイプであり、凸曲面状の先端面を有する頭部39aと、ねじ軸33に固定された基部39bと、頭部39aと基部39bの間に設けられた段付き円筒状の中間部39cとを一体に有する。
【0034】
なお、アクチュエータヘッド39としては、操作対象を軸方向両側に操作可能な、いわゆる押し引きタイプを採用することもできる。いかなるタイプ・形状のアクチュエータヘッド39を使用するかは、電動アクチュエータ1が搭載される使用機器(操作対象の形状や動作態様)を考慮して決定付けられる。
【0035】
アクチュエータヘッド39の頭部39aと筐体2(ケーシング20)との間には、出力部材3の原点位置を決定付けるために、円環状の原点位置決め部材90が配設されている。本実施形態において、原点位置決め部材90は、その軸方向一方側の端部90aを軸方向で対峙する出力部材3の端面(アクチュエータヘッド39の頭部39bの軸方向他方側の端面)と係合させた状態でアクチュエータヘッド39の中間部39cの外周面に固定されている。出力部材3の原点位置は、
図1および
図2に示すように、原点位置決め部材90の軸方向一方側の端部90aがアクチュエータヘッド39の頭部39bの軸方向他方側の端面と軸方向で係合すると共に、原点位置決め部材90の軸方向他方側の端部90bがケーシング20の開口端面20a1と軸方向で係合する位置に設定されている。
【0036】
図1および
図2に示すように、出力部材3が原点に位置した状態では、筐体2の底部(カバー29)の内端面が、内方部材36のフランジ部36bの軸方向他方側の端面と軸方向隙間4を介して対向している。
【0037】
原点位置決め部材90は、軸方向の圧縮荷重に対する弾性復元力を有する。以上の構成を有する原点位置決め部材90は、弾性材料、ここではゴム材料で形成される。原点位置決め部材90は、ゴム材料以外の弾性材料、例えば、樹脂材料や熱可塑性エラストマーで形成しても良い。
【0038】
遊星歯車減速機10は、
図1〜
図4に示すように、ケーシング20に固定されたリングギヤ40と、ロータインナ26に固定されたサンギヤ41と、リングギヤ40とサンギヤ41の間に配置され、両ギヤ40,41に噛合った複数(本実施形態では4つ)の遊星ギヤ42と、遊星ギヤ42を回転自在に保持した遊星ギヤキャリア43および遊星ギヤホルダ44と、を備え、遊星ギヤキャリア43は、遊星ギヤ42の公転運動を取り出して出力する。
【0039】
サンギヤ41は、ロータインナ26の段部内周面26cに圧入されている。このようにすれば、組立時の連結作業性が良好である。なお、このような連結構造を採用しても、サンギヤ41は減速前のロータインナ26と一体回転できれば良いので、両者間で必要とされるトルク伝達性能は十分に確保できる。また、ロータインナ26とサンギヤ41とは、ロータインナ26を支持する転がり軸受27の直下位置で連結されているので、サンギヤ41の回転精度も良好である。
【0040】
図4に示すように、リングギヤ40の外周には径方向外側に突出したノッチ40aが周方向に離間した複数箇所(図示例では4箇所)に設けられ、各ノッチ40aは、ケーシング20の内周面20cの周方向に離間した複数箇所(図示例では4箇所)に設けられた軸方向溝20e(
図5を併せて参照)にそれぞれ嵌合されている。これにより、リングギヤ40は、ケーシング20に対して回り止めされている。
【0041】
遊星ギヤキャリア43は、
図1〜
図3に示すように、ロータインナ26の内周面とナット部材32の外周面32bとの間に介在する円筒部43aを有する。この遊星ギヤキャリア43は、ロータインナ26に対して相対回転可能である一方、ナット部材32とトルク伝達可能に連結されている。本実施形態では、円筒部43aの外周面がロータインナ26の内周面26d(およびサンギヤ41の内周面)と径方向隙間を介して対向し、円筒部43aの内周面43bがナット部材32の外周面32bに圧入固定されている。このような連結構造を採用すれば、組立時の連結作業性が良好であることに加え、減速後の高トルクに対しても安定したトルク伝達が可能である。
【0042】
以上の構成を有する遊星歯車減速機10により、モータ25のロータ24の回転が減速された上でナット部材32に伝達される。これにより、回転トルクを増加することができるので、小型のモータ25を採用することができる。
【0043】
図1〜
図3に示すように、ナット部材32の軸方向一方側の端面とケーシング20との間にスラストワッシャ45が配設され、カバー29の円筒部29aの先端部外周に取り付けられたスラスト受けリング46とナット部材32の軸方向他方側の端面との間にスラスト軸受としての針状ころ軸受47が配設されている。
【0044】
図1および
図2に示すように、運動変換機構部Bは、ねじ軸33の径方向外側(カバー29の円筒部29aの内周面29bとねじ軸33の外周面との間)に配設された圧縮コイルばね48を有する。圧縮コイルばね48の軸方向一方側および他方側の端部は、それぞれ、針状ころ軸受47およびねじ軸33に連結された内方部材36のフランジ部36bに当接している。
【0045】
上記態様で設けられた圧縮コイルばね48のばね力により、ねじ軸33を含む出力部材3が常時軸方向他方側(原点側)に付勢される。このようにすれば、例えば、モータ25に適切に駆動電力が供給されないような場合には、出力部材3を自動的に原点復帰させ、図示しない操作対象の作動に悪影響を及ぼす可能性を可及的に低減することができる。また、上記態様で圧縮コイルばね48を設けておけば、ナット部材32に軸方向の与圧を付与することができる。これにより、ナット部材32とねじ軸33との間に設けられる運転隙間に起因した応答遅れを解消し、ねじ軸33、ひいては出力部材3の作動性を高めることもできる。
【0046】
筐体2の底部として機能するカバー29の詳細を
図9および
図10を参照して説明する。
図9は、
図1の左側面図であり、
図10は、
図9中に示すI−I線矢視断面図である。カバー29は、加工性および熱伝導率に優れた金属材料、例えば、アルミニウム合金、亜鉛合金又はマグネシウム合金で形成される。図示は省略しているが、カバー29の外側表面には、電動アクチュエータ1の冷却効率を高めるための冷却フィンを設けても良い。
図10に示すように、カバー29の円筒部29aの外周面には、転がり軸受30が装着された軸受装着面63と、スラスト受けリング46が嵌合された嵌合面64とが設けられている。また、
図9に示すように、カバー29には、電動アクチュエータ1の組立用ボルト61が挿通された図示外の貫通穴と、電動アクチュエータ1を使用機器に取り付けるための取付用ボルトが挿通される貫通穴62とが設けられている。
【0047】
次に、ターミナル部Dを
図1および
図6〜
図8を参照して説明する。
図6は、
図1に示すモータ25のステータ23とターミナル部Dとを取り出して拡大した縦断面図(ステータ23とターミナル部Dとを組み付けてなるサブアセンブリの縦断面図)、
図7は、
図1のG−G線矢視断面図、
図8は、
図1のH−H線矢視断面図である。
図1および
図6に示すように、ターミナル部Dは、筐体2の一部を構成する筒状部50A、および筒状部50Aの軸方向他方側の端部から径方向内側に延びる円盤状部50Bを一体に有する樹脂製のターミナル本体50と、ターミナル本体50(の円盤状部50B)に対してねじ止めされたバスバー51および穴開き円盤状のプリント基板52とを備える。
図7および
図8に示すように、ターミナル本体50(の筒状部50A)は、
図9,10に示す組立用ボルト61が挿通される貫通穴50Cと、電動アクチュエータ1を使用機器に取り付けるためのボルトが挿通される貫通穴50Dとを有し、上記の組立用ボルト61により、ケーシング20とカバー29の間で挟持される(
図1,2参照)。
【0048】
ターミナル部D(ターミナル本体50)は、モータ25に駆動電力を供給するための給電回路や後述する各種センサ等の電装部品をまとめて保持している。給電回路は、
図7および
図8に示すように、ステータ23のコイル23cをU相、V相、W相の相別にバスバー51の端子51aに結線し、さらに、
図2に示すように、バスバー51の端子51bと、ターミナル本体50の端子台50aとをねじ70で締結することで構成される。端子台50aは、図示外のリード線が接続される端子50bを有し、上記のリード線は、ターミナル本体50の筒状部50Aに設けられた径方向の貫通穴50c(
図1参照)を介して筐体2の径方向外側に引き出され、制御装置80のコントローラ81(
図11又は
図12参照)に接続される。
【0049】
本実施形態の電動アクチュエータ1には2種類のセンサが搭載されており、これら2種類のセンサはターミナル部Dに保持されている。
図1等に示すように、2種類のセンサのうちの一方は、モータ25の回転制御に用いる回転角度検出用センサ53であり、他方は、ねじ軸33(出力部材3)の軸方向の変位量検出のために用いるストローク検出用センサ55である。回転角度検出用センサ53およびストローク検出用センサ55としては、何れも、磁気センサの一種であるホールセンサが使用される。
【0050】
図1および
図8に示すように、回転角度検出用センサ53は、プリント基板52に取り付けられており、ロータインナ26の軸方向他方側の端部に取り付けられたパルサリング54と軸方向隙間を介して対向配置されている。この回転角度検出用センサ53は、モータ25のU相、V相、W相のそれぞれに電流を流すタイミングを決める。
【0051】
図2、
図7および
図8に示すように、ストローク検出用センサ55は、軸方向に延び、軸方向他方側の端部がプリント基板52に接続された帯状のプリント基板56に取り付けられている。プリント基板56およびストローク検出用センサ55は、ねじ軸33の孔部33bの内周、より詳細には、孔部33bに収容された内方部材36の筒部36c内周に配置されている。また、内方部材36の筒部36cの内周には、ストローク検出用センサ55と径方向隙間を介して対向するようにターゲットとしての永久磁石57が取り付けられている。そして、ストローク検出用センサ55は、永久磁石57の周囲に形成される軸方向および径方向の磁界をそれぞれ検出し、これに基づいてねじ軸33の軸方向の変位量を算出する。
【0052】
詳細な図示は省略しているが、回転角度検出用センサ53の信号線およびストローク検出用センサ55の信号線は、何れも、ターミナル本体50の筒状部50Aに設けた径方向の貫通穴50c(
図1参照)を介して筐体2の外径側に引き出され、制御装置80(
図11又は
図12参照)に接続される。
【0053】
以上の構成を有する電動アクチュエータ1の組立手順を簡単に説明する。まず、
図5に示すように、リングギヤ40をケーシング20に組み込む。次いで、
図3に示すモータ25のロータ24と運動変換機構部Bのサブアセンブリをケーシング20に挿入する。このとき、遊星ギヤ42とリングギヤ40とを噛み合わせ、ガイドカラー38をケーシング20の案内溝20bに嵌合させ、さらに軸受ホルダ28をケーシング20の内周面20cに嵌合させる。その後、
図6に示すモータ25のステータ23とターミナル部D(ターミナル本体50)のサブアセンブリのうち、ステータ23をケーシング20の内周に嵌合してから、カバー29およびターミナル本体50をケーシング20に対して組立用ボルト61(
図9,10参照)により締結する。これにより、電動アクチュエータ1が完成する。
【0054】
以上の構成を有する電動アクチュエータ1の作動態様を
図1および
図11を参照して簡単に説明する。例えば、図示しない車両上位のECUに操作量が入力されると、この操作量に基づいてECUは要求される位置指令値を演算する。
図11に示すように、位置指令値は制御装置80のコントローラ81に送られ、コントローラ81は、位置指令値に必要なモータ回転角の制御信号を演算し、この制御信号をモータ25に送る。
【0055】
コントローラ81から送られた制御信号に基づいてロータ24が回転すると、この回転運動が運動変換機構部Bに伝達される。具体的には、ロータ24が回転すると、ロータインナ26に連結された遊星歯車減速機10のサンギヤ41が回転し、これに伴って遊星ギヤ42が公転すると共に遊星ギヤキャリア43が回転する。これにより、ロータ24の回転運動が遊星ギヤキャリア43に連結されたナット部材32に伝達される。このとき、遊星ギヤ42の公転運動により、ロータ24の回転数が減速されるので、ナット部材32に伝達される回転トルクが増加する。
【0056】
ロータ24の回転運動を受けてナット部材32が回転すると、ねじ軸33を含む出力部材3は、回り止めされた状態で前進する。この際、ねじ軸33はコントローラ81の制御信号に基づく位置まで前進し、ねじ軸33の軸方向一方側の端部に装着されたアクチュエータヘッド39が図示しない操作対象を操作(加圧)する。
【0057】
ねじ軸33の軸方向位置(軸方向の変位量)は、
図11にも示すように、ストローク検出用センサ55により検出され、その検出信号は制御装置80の比較部82に送られる。そして、比較部82は、ストローク検出用センサ55により検出された検出値と位置指令値との差分を算出し、コントローラ81はこの算出値および回転角度検出用センサ53から送られた信号に基づいてモータ25に制御信号を送る。このようにして、ねじ軸33(出力部材3)の位置がフィードバック制御される。このため、本実施形態の電動アクチュエータ1を、例えば、シフト・バイ・ワイヤに適用した場合、シフト位置を確実にコントロールすることができる。なお、モータ25やセンサ53,55等を駆動するための電力は、車両側に設けられたバッテリ等の外部電源(図示せず)から、制御装置80およびターミナル部Dに保持された給電回路を介してモータ25等に供給される。
【0058】
以上で説明した電動アクチュエータ1においては、筐体2(ケーシング20)の開口端面20a1およびこれに対向する出力部材3(アクチュエータヘッド39の頭部39a)の軸方向他方側の端面との間に、両端面と軸方向で係合することにより出力部材3の原点位置を決定付ける環状の原点位置決め部材90が設けられている。このような原点位置決め部材90を設けておけば、筐体2の底部(カバー29)を活用せずに、出力部材3の原点位置を容易かつ正確に設定することができる。また、原点位置決め部材90は、軸方向の弾性復元力を有することから、出力部材3の原点復帰に伴って出力部材3に対して軸方向の大きな衝撃荷重が作用した場合でも、出力部材3を軸方向一方側(カバー29から離反する方向)に押し戻すことが、すなわち上記の衝撃荷重を減衰・緩和することができる。そのため、ボールねじ装置31を構成するボール34が転動不能になるロック状態[
図14(b)参照]に陥る可能性を効果的に低減することができる。
【0059】
特に、本実施形態では、
図1および
図2に示すように、軸方向他方側に突出した断面略三角形状の環状凸部が原点位置決め部材90に一体的に設けられていることにより、軸方向他方側が軸方向一方側よりも優先的に圧縮可能となっている。これは、原点位置決め部材90の軸方向他方側を優先的に圧縮可能とすることによって通常作動時の出力部材3の原点位置決めを容易に行うことを可能としつつ、軸方向の衝撃荷重等、大きな圧縮荷重が出力部材3に作用した際には、原点位置決め部材90の軸方向一方側で上記の衝撃荷重を効率良く緩和するためである。
【0060】
また、本実施形態では、出力部材3が原点に位置した状態において、カバー29の内端面を、軸方向隙間4を介して出力部材3の端面(内方部材36のフランジ部36bの軸方向他方側の端面)と対向させているので、出力部材3の原点復帰に伴って、出力部材3とカバー29とが軸方向で突き当たる可能性を効果的に低減できる。そのため、ボールねじ装置31がロック状態に陥る可能性を一層効果的に低減できる。従って、本発明によれば、出力部材3の原点復帰に伴って出力部材3が作動不能となるような重大欠陥が発生する可能性を効果的に低減しつつ、出力部材3の原点を容易に設定することが可能となるので、出力部材3の動作精度に優れ、信頼性に富む電動アクチュエータ1を実現することができる。
【0061】
また、中空回転軸としてのロータインナ26は、ロータコア24aの軸方向一方側の端部に近接配置された転がり軸受27により軸方向一方側の端部が回転自在に支持され、ロータコア24aの軸方向他方側の端部に近接配置された転がり軸受30により軸方向他方側の端部が回転自在に支持されている。このような構造により、ロータインナ26を軸方向にコンパクト化することができる。これに加えて、転がり軸受27がナット部材32の軸方向幅の内側に配置された構造が相俟って、電動アクチュエータ1を軸方向に一層コンパクト化することができる。
【0062】
また、ロータ24の回転バランスが取られていれば、ロータインナ26を支持する転がり軸受27,30は、ロータ24の自重程度のラジアル荷重を支持できれば良い。この場合、転がり軸受27の内側軌道面27aを一体に有するロータインナ26は、高強度の材料で形成する必要がなく、例えば、焼入れ焼戻し等の熱処理が省略された安価な軟鋼材で形成しても必要強度を確保することができる。特に、本実施形態の電動アクチュエータ1では、モータ25の回転運動が遊星歯車減速機10を介してナット部材32に伝達されるためにラジアル荷重の発生はなく、また、ねじ軸33の直線運動に伴って生じる反力(スラスト荷重)は針状ころ軸受47で直接的に支持される。従って、転がり軸受27は、ラジアル方向の位置決め機能を有していれば足りるため、転がり軸受27の内側軌道面27aを一体に有するロータインナ26は、上記のような材料仕様で足りる。これにより、電動アクチュエータ1を低コスト化することができる。
【0063】
また、上記のように、ナット部材32に作用するスラスト荷重を針状ころ軸受47で直接的に支持するようにしておけば、ナット部材32にスラスト荷重が負荷された状態においてもナット部材32を低トルクで回転させることが可能となるため、モータ25の小型化を促進できる。
【0064】
また、針状ころ軸受47を、転がり軸受27,30の間の軸方向範囲内に配置しておけば、ねじ軸33(出力部材3)が軸方向に直線運動するのに伴ってねじ軸33等に作用するモーメント荷重に対して有利となるため、出力部材3の動作精度および耐久寿命を高めることができることに加え、軸方向にコンパクトな針状ころ軸受47を採用できる。なお、本実施形態では、針状ころ軸受47を、両転がり軸受27,30の間の軸方向中央付近に配置しており、この場合には、モーメント荷重に対して一層有利になる。その結果、針状ころ軸受47およびスラスト受けリング46等として極めて小型のものを採用することができる。そのため、針状ころ軸受47およびスラスト受けリング46を設けることによる電動アクチュエータ1(筐体2)の軸方向寸法L(
図1参照)の長寸化を可及的に防止することができる。
【0065】
また、運動変換機構部Bに遊星歯車減速機10や針状ころ軸受47を設けたことにより実現されるモータ部A(モータ25)の小型化と、ロータインナ26、遊星ギヤキャリア43の円筒部43aおよびナット部材32の半径方向での重畳構造とが相俟って、筐体2の径方向寸法M(
図1参照)も極力小さくすることができる。これにより、電動アクチュエータ1を一層コンパクト化することができ、使用機器に対する搭載性が向上する。
【0066】
また、モータ部Aのロータ24(ロータインナ26)とナット部材32とを別体構造としたので、例えば、仕様が異なるボールねじ装置31を採用する場合でも、モータ部Aや運動変換機構部Bの一部(遊星歯車減速機10)を共用化することができる。これにより、汎用性を向上し、部品を共用化した多品種展開による電動アクチュエータ1のシリーズ化を実現することも容易となる。
【0067】
また、モータ25に駆動電力を供給するための給電回路、回転角度検出用センサ53およびストローク検出用センサ55等の電装部品をターミナル本体50でまとめて保持し、このターミナル本体50(ターミナル部D)をケーシング20とカバー29とで軸方向に挟持するサンドイッチ構造を採用したので、組立性が良好である。特に本実施形態では、
図1や
図6等に示すように、モータ25のステータ23の一部(軸方向他方側の端部外周)を、ターミナル本体50の筒状部50Aの内周に嵌合している。この場合、筐体2を組み立てるのと同時にステータ23を筐体2の内周に組み付けることができるので、この点からも組立性を向上することができる。
【0068】
また、ターミナル本体50の筒状部50Aは、筐体2の内外を連通させる貫通穴50cを有し、給電回路に接続されるリード線や上記のセンサ53,55に接続される信号線(電気配線)は、貫通穴50cを介して筐体2の径方向外側に引き出される。この場合、上記の電気配線の取り回し作業をターミナル本体50単体で完結することが、すなわち、電動アクチュエータ1を適当かつ精度良く動作させるために必要となる電気系統は、筐体2(電動アクチュエータ1)の組み立て前にターミナル本体50で集約して保持することができる。これにより、電動アクチュエータ1の組立段階で面倒な配線作業を別途実施する必要がなくなるため、電動アクチュエータ1の組立性を一層向上することができる。
【0069】
また、電気配線の取り回し作業をターミナル本体50単体で完結することができれば、例えば、モータ25や遊星歯車減速機10等に仕様変更が生じた場合でも、ターミナル本体50の結合相手部材(ここでは、特にケーシング20)の被結合部形状が同じである限りにおいて、ターミナル本体50を共用することができる。これにより、部品・部材の共用化による電動アクチュエータ1の多品種展開(シリーズ化)にも容易に対応することができる。
【0070】
また、ターミナル本体50をケーシング20とカバー29とで軸方向に挟持するサンドイッチ構造を採用したこと、給電回路のリード線や上記センサの信号線を筐体2の外径側に引き出し可能にしたこと、および中空状のねじ軸33を採用したことにより、2つの電動アクチュエータ1(モータ部A、運動変換機構部Bおよびターミナル部Dをユニット化したもの)を軸方向に連ねて配置してなり、2つの操作対象を個別に操作可能な電動アクチュエータを実現することもできる。なお、このような電動アクチュエータは、例えば、自動変速機の一種であるDCTに好ましく搭載することができ、DCT全体のコンパクト化に貢献することができる。
【0071】
本実施形態の電動アクチュエータ1は、以上で説明したような特徴的な構成を有することから、出力部材3の動作精度に優れて信頼性に富み、軽量・コンパクトで使用機器に対する搭載性に優れ、組立性も良好で低コストに製造可能であり、さらに部品の共用化による多品種展開(シリーズ化)も容易である。
【0072】
以上、本発明の一実施形態に係る電動アクチュエータ1について説明を行ったが、本発明の実施の形態はこれに限られない。
【0073】
例えば、以上で説明した実施形態においては、ゴム材料等の弾性材料で形成された原点位置決め部材90を使用したが、原点位置決め部材90としては、圧縮コイルばね等の弾性体、あるいは当該弾性体を備えた部材で構成しても良い。但し、弾性材料であれば、所定形状の原点位置決め部材90を容易に作製することができるので、原点位置決め部材90を追加的に設けることによるコスト増を抑制する上で有利である。
【0074】
また、ナット部材32の軸方向他方側に隣接配置するスラスト軸受としては、針状ころ軸受47以外の転がり軸受、例えば円筒ころ軸受を採用することもできる。但し、荷重支持能力や、軸受の軸方向寸法を考慮すると、針状ころ軸受47が好ましい。
【0075】
また、以上で説明した実施形態においては、運動変換機構部Bに遊星歯車減速機10を設けているが、遊星歯車減速機10以外の減速機を採用することもできる。
【0076】
また、遊星歯車減速機10をはじめとする減速機は必ずしも設ける必要はなく、必要でない場合は省略しても構わない。遊星歯車減速機10を省略する場合には、モータ25のロータ24(ロータインナ26)とボールねじ装置31のナット部材32とを直接的にトルク伝達可能に連結しても構わないが、このようにすると、ロータインナ26およびナット部材32の少なくとも一方に異なる形状のものを採用する必要が生じる。そのため、遊星歯車減速機10を省略する場合には、例えば、ロータインナ26の内周面26dとナット部材32の外周面32bとの間に円筒状の中間部材を配置し、この中間部材の外周面および内周面のそれぞれを、ロータインナ26の内周面26dおよびナット部材32の外周面32bとトルク伝達可能に結合させるのが好ましい(図示省略)。これにより、遊星歯車減速機10を省略した場合でも、モータ部A(モータ25)およびボールねじ装置31を共用することが可能となるので、コスト増を抑制することができる。
【0077】
また、以上で説明した実施形態においては、ストローク検出用センサ55を使用するようにしているが、ストローク検出用センサ55は必要に応じて使用すれば足り、使用機器によっては、ストローク検出用センサ55を省略しても構わない。
【0078】
図12に基づき、ストローク検出用センサ55を使用しない場合における電動アクチュエータ1の作動態様の一例を説明する。
図12は、圧力制御の例であり、図示外の操作対象に圧力センサ83が設けられている。図示外のECUに操作量が入力されると、ECUは要求される圧力指令値を演算する。この圧力指令値が制御装置80のコントローラ81に送られると、コントローラ81は、圧力指令値に必要なモータ回転角の制御信号を演算し、この制御信号をモータ25に送る。そして、
図11を参照して説明した場合と同様に、ねじ軸33がコントローラ81の制御信号に基づく位置まで前進し、ねじ軸33の軸方向一方側の端部に装着されたアクチュエータヘッド39が図示外の操作対象を操作する。
【0079】
ねじ軸33の操作圧力は、外部に設置された圧力センサ83により検出され、フィードバック制御される。このため、ストローク検出用センサ55を使用しない電動アクチュエータ1を例えばブレーキバイワイヤに適用した場合、ブレーキの液圧を確実にコントロールすることができる。
【0080】
上記のように、ストローク検出用センサ55を使用しない場合、ねじ軸33としては、中実のものを採用し、内方部材36を省略しても良い。但し、中実のねじ軸33を使用する場合であって、圧縮コイルばね48を設ける場合には、ねじ軸33として、その軸方向他方側の端部にフランジ部を有するものを採用する。
【0081】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。