(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付図面を参照して、本発明による目標物監視システムおよび目標物監視方法を実施するための形態を以下に説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
ここでは、監視する目標物が海上を移動する船舶である場合について説明する。
図1Aは、監視対象の一例である海面の状態を例示する平面図である。なお、監視する目標物は、その他、例えば陸上を移動する車両などであっても良い。
【0015】
図1Aは、監視領域1としての海上と、この海上を移動する目標物2としての船舶とを示している。ここで、監視領域1は平面に近似されて、この平面には直交座標(O,x,y)が定義されている。この直交座標(O,x,y)において、原点Oは、任意の点であり、例えば探知開始時刻t
0において目標物2が探知された位置であっても良い。x軸は、原点Oを通り、かつ、任意の方向を向いており、例えば経線に平行であっても良い。y軸は、原点Oでx軸に直交しており、例えば緯線に平行であっても良い。
【0016】
直交座標(O,x,y)において、任意の時刻t
nにおける目標物2の位置を、座標(x
n,y
n)と表記する。さらに、目標物2の移動ベクトル3を、その針路θおよび移動速度uで示す。ここで、針路θは、x軸と、移動ベクトル3との間の角度である。
【0017】
(断続的な探知について)
海上のように面積が広い監視領域1に対して比較的小さい船舶のような目標物2の位置および移動を、有意義な精度で監視するためには、センサとして哨戒機や人工衛星などを利用することが現実的である。ただし、航空機である哨戒機は、一度に搭載可能な燃料などの制限により、目標物2の付近に留まり続けることが出来ない。したがって、哨戒機は、目標物2の付近と、飛行場などの基地との間を往復する必要がある。また、人工衛星は、その移動経路があらかじめ決定されており、かつ、途中で変更することが非常に困難である。したがって、本実施形態による目標物監視システムでは、監視領域1を移動する目標物2を、1つまたは複数のセンサを用いて、断続的に探知する。
【0018】
(探知の結果を存在確率分布として扱う)
センサが目標物2の位置を探知した結果には、無視出来ない誤差が含まれていることが考えられる。そこで、本実施形態による目標物監視システムでは、探知の精度を向上するために、探知の結果を目標物2の単なる座標ではなく、誤差を勘案した存在確率分布として扱う。ここで、目標物2の存在確率分布は、二次元正規分布として以下のように算出される。
【数1】
ここで、F
D((x,y),t
n)は、座標(x,y)および時刻t
nにおける目標物2の存在確率密度関数である。πは、円周率である。σ
mは、探知を行うセンサの観測誤差の分散である。なお、分散σ
mはx軸およびy軸で共通である。座標(x
n,y
n)は、時刻t
nにおいてセンサが目標物2を探知した位置の座標である。また、上記の数式「数1」を極座標で扱う際は下記のように表現される。
【数2】
ここで、rは二次元正規分布の中心からの距離である。
【0019】
(監視領域の2次元メッシュ分割)
本実施形態では、目標物2の位置を探知した結果を存在確率分布として扱うにあたって、計算時間を短縮するために、監視領域1を2次元のメッシュ状に分割し、メッシュごとに各種のデータを管理する。
図1Cは、監視領域1を2次元メッシュ状に分割管理することを説明するための平面図である。
【0020】
図1Cの例では、x軸を単位長さΔxで分割し、かつ、y軸を単位長さΔyで分割することで、監視領域1を2次元のメッシュ状に分割している。
【0021】
本実施形態では、時刻t
nにおける目標物2の位置を示す座標(x
n,y
n)を、この座標を含むメッシュ(X
i,Y
j)として管理する。
図1Bの例では、
4Δx≦x
n<5Δx、かつ、3Δy≦y
n<4Δy
が成り立つので、座標(x
n,y
n)はメッシュ(5,4)に含まれるものとして管理される。
【0022】
図1Bは、一実施形態による探知による目標物2の存在確率分布の一例を示すグラフである。
図1Bのグラフは、二次元正規分布に従う存在確率分布40を、xy平面の各メッシュにおける存在確率の大きさとして3次元的に示している。
図1Bにおいて、存在確率が最大値となる頂点40Aは、目標物2の探知位置であり、存在確率分布40を示すグラフの、xy平面における中心部分に位置している。反対に、目標物2の探知位置から距離が遠いほど、存在確率は減少する。任意のメッシュ(X
i,Y
j)に目標物2が存在する確率は、前述の「数1」式と、メッシュ面積との積によって、下記のように算出される。
P
D((X
i,Y
j),t
n)=F
D((X
i,Y
j),t
n)ΔxΔy
【0023】
(ベイズの定理)
本実施形態では、目標物2の位置を断続的に探知してその予測針路確率を算出するにあたって、ベイズの定理を適用する。ベイズの定理によれば、下記の恒等式を用いて条件付きの確率を算出することが出来る。
【数3】
ここで、Aは、任意の事象を表す。Bは、別の事象を表す。P(A)は、事象Aが生起する確率を表す。P(A∩B)は、事象Aと、事象Bとが両方とも生起する確率を表す。P(B|A)は、事象Aが生起した上で事象Bが起こる確率を表す。このとき、P(A)を事前確率と呼び、P(B|A)を事後確率と呼ぶ。
【0024】
ベイズの定理を表す上記の恒等式は、ベイズの反転公式と呼ばれる下記の恒等式に書き換えることが出来る。
【数4】
【0025】
このことは、事象Aの生起を知ることで、事象Bの事前確率P(B)が事後確率P(B|A)に変化することを意味する。言い換えれば、追加情報としての事象Aによって、確率空間についての知識が増し、情報が追加される前に見積っていた事象Bの生起確率が修正されることを意味する。
【0026】
このことは、事象Bが複数の事象B
iの集合であっても成立する。この場合には、上記のベイズの反転公式は下記の恒等式に書き換えられる。
【数5】
【0027】
さらに、事象Aの生起が繰り返される環境においては、ある時点t
nの事後確率は、次の時点t
n+1の事前確率として考えることが出来る。この場合は、事象Aが生起する度に事象Bの生起確率が更新されていき、結果としてより精度の高い事後確率の推定が期待される。
【0028】
本実施形態では、ベイズの定理を以下のように適用する。すなわち、事象Aを、センサが目標物2を探知する事象とする。事象B
iを、監視領域1に想定される複数の移動経路のうち、i番目の移動経路に沿って目標物2が移動する事象とする。このように考えることで、センサによる探知が起こる前に「目標物2がi番目の移動経路に沿って移動する確率」として見積もった事前確率P(B
i)が、探知事象Aの生起によって、事後確率P(B
i|A)に変化する。
【0029】
したがって、本実施形態による目標物監視システムでは、探知情報を取得すると、目標物2がどの移動経路に沿って移動するのかが、確率的に算出される。ここで、P(A|B
i)は、目標物2がi番目の移動経路に沿って移動する上で探知事象Aが生起する確率である。P(A|B
i)の算出方法について説明する。
【0030】
まず、その存在確率分布が二次元正規分布に従う目標物2が、分布の中心から距離rの位置に存在する確率P(r)は、前述の「数2」式をrdθで積分することによって、下記のように求められる。
【数6】
ここで、θは、極座標系の角度である。
【0031】
図1Dは、目標物2の存在確率分布40と、目標物2が沿って移動しているi番目の移動経路10と、センサが探知した目標物2の位置Wとの関係の一例を示す図である。
図1Cに示した例において、目標物2は、i番目の移動経路10に沿って監視領域1を移動している。目標物2がi番目の移動経路10上の地点Vに位置しているときに、センサは探知を行い、目標物2が地点Vから距離r
dだけ離れた地点Wに位置しているとの結果を得る場合について考える。すると、このような探知が起こる確率は、地点Vから距離r
d離れた地点Wに目標物2が存在する確率である。したがって、この確率P(A|B
i)は下記のように得られる。
【数7】
【0032】
以上により、事前確率P(B
i)と、上記の「数7」式とを、前述の「数5」式に適用することで、事後確率P(B
i|A)が算出される。また、探知が繰り返される環境においては、前回の探知時点t
n-1の事後確率を今回の探知時点t
nの事前確率として考えることが出来るので、本実施形態における事後確率は下記のように算出される。
【数8】
ここで、P
E(B
i,t
n|A)は、今回の探知時点t
nの事後確率である。P
E(B
i,t
n−1)は、前回の探知時点t
n−1の事後確率であり、今回の探知時点t
nの事前確率として扱っている。
【0033】
本実施形態による目標物2の移動経路を推定する手順は、以下のとおりである。
(1)まず、センサによる目標物2の探知が最初に起こったら、その探知位置から、目標物2の目的地や、考えられる経由地などを示す移動経路を複数設定する。ここで、これらの移動経路において目標物2の移動速度についても併せて設定することが可能である。
(2)次に、センサによる次の探知が起こる前に、目標物2がどれくらいの確率で各移動経路に沿って移動するのか、を見積もった事前確率を設定する。
(3)センサによる次の探知が起こった時点で、前述の「数5」式を用いて事後確率を計算する。この時点における事後確率が、その先の移動経路の推定となる。
(4)以降、センサによる探知が起こるたびに上記(3)の処理を繰り返す。
【0034】
以上の前提に基づいて、本実施形態による目標物監視システムについて説明する。
図2Aおよび
図2Bは、一実施形態による目標物監視システムの全体的な構成の一例を示す機能ブロック図である。ここで、目標物監視システムのうち、一部を
図2Aに示し、残りを
図2Bに示している。
【0035】
図2Aに示す構成要素について説明する。本実施形態による目標物監視システムは、監視サーバ100と、センサ200A、200Bとを備える。ここで、ネットワーク300を目標物監視システムの一部として考えても良い。反対に、センサ200A、200Bを、目標物監視システムに含まれない外部センサと考えても良い。この場合、監視サーバ100は、目標物監視システムと同義と考えられる。
【0036】
監視サーバ100は、データベース110と、センサ情報入力部120と、目標行動仮説生成処理部130と、センサ情報処理部140と、出力部150とを備える。出力部150の詳細については、
図2Bに示す。
【0037】
データベース110は、センサモデル格納領域111と、目標物理モデル格納領域112と、目標非物理モデル格納領域113と、地図情報格納領域114とを備える。
【0038】
センサ情報処理部140は、航跡抽出処理部141と、目標行動推定処理部142と、未来位置予測処理部143とを備える。
【0039】
図2Bに示す出力部150は、目標情報格納領域151と、センサ情報格納領域152と、目標情報出力部153と、地図出力部154と、センサ情報出力部155とを備える。なお、目標情報格納領域151と、センサ情報格納領域152とのうち、その一部または全てを、出力部150が備えず、代わりにデータベース110が備えても良い。
【0040】
図2Aおよび
図2Bの構成要素の接続関係について説明する。データベース110は、そのうち特にセンサモデル格納領域111は、センサ情報入力部120に接続されている。センサ200A、200Bの出力は、ネットワーク300を介して、センサ情報入力部120の入力に接続されている。センサ情報入力部120の出力は、センサ情報処理部140に、そのうち特に航跡抽出処理部141に、接続されている。センサ情報入力部120の出力は、さらに、センサ情報格納領域152にも接続されている。
【0041】
データベース110は、そのうち特に目標物理モデル格納領域112および目標非物理モデル格納領域113は、目標行動仮説生成処理部130に接続されている。目標行動仮説生成処理部130は、センサ情報処理部140に、そのうち特に航跡抽出処理部141に、接続されている。
【0042】
データベース110は、そのうち特に地図情報格納領域114は、センサ情報処理部140に、そのうち特に航跡抽出処理部141に、接続されている。
【0043】
航跡抽出処理部141の出力は、目標行動推定処理部142の入力に、接続されている。目標行動推定処理部142の出力は、未来位置予測処理部143の入力に、接続されている。未来位置予測処理部143の出力は、航跡抽出処理部141の入力に、接続されている。
【0044】
センサ情報処理部140の出力は、出力部150の入力に接続されている。
【0045】
出力部150において、目標情報格納領域151の入力は、センサ情報処理部140の出力に接続されている。目標情報格納領域151の出力は、目標情報出力部153の入力に接続されている。目標情報格納領域151の出力は、地図出力部154の入力にもさらに接続されている。
【0046】
センサ情報格納領域152の入力は、センサ情報入力部120の出力に接続されている。センサ情報格納領域152の出力は、センサ情報出力部155の入力に接続されている。センサ情報格納領域152の出力は、地図出力部154の入力にもさらに接続されていても良い。
【0047】
本実施形態による目標物監視システムは、一般的な計算機の機能として実現することも可能である。
図2Cは、
図2Aおよび
図2Bに示した本実施形態による目標物監視システムの全体的なハードウェア構成の一例を示すブロック回路図である。
【0048】
図2Cに示した構成要素について説明する。
図2Cの目標物監視システムは、監視サーバ100と、センサ200A、200Bとを備える。ここで、ネットワーク300も目標物監視システムに含まれると捉えても良い。
【0049】
図2Cの監視サーバ100は、バス101と、入出力インタフェース102と、演算装置103と、記憶装置104と、外部記憶装置105とを備える。
【0050】
図2Cの構成要素の接続関係について説明する。バス101は、入出力インタフェース102と、演算装置103と、記憶装置104と、外部記憶装置105とに接続されている。入出力インタフェース102は、ネットワーク300を介して、センサ200A、200Bに接続されている。
【0051】
図2Cに示した構成要素の動作について説明する。バス101は、入出力インタフェース102と、演算装置103と、記憶装置104と、外部記憶装置105との間で行われる通信を仲介する。入出力インタフェース102は、監視サーバ100と、その外部との間の通信を仲介する。入出力インタフェース102は、例えば、センサ情報入力部120としての機能を実現し、ネットワーク300を介してセンサ200A、200Bとの間で通信を行っても良い。また、入出力インタフェース102は、目標情報出力部153、地図出力部154およびセンサ情報出力部155の機能の一部または全てを実現し、各種の情報を例えば電子的、視覚的または聴覚的な方法などによって出力しても良い。
【0052】
外部記憶装置105は、外部の記録媒体106からプログラムやデータなどを読み込み、または外部の記録媒体106にプログラムやデータを書き込む。記録媒体106は、一度書き込んだ情報の変更または削除を出来ない非一過性の記録媒体であっても良い。
【0053】
記憶装置104は、プログラムやデータなどを記憶する。記憶装置104は、例えば、データベース110、センサモデル格納領域111、目標物理モデル格納領域112、目標非物理モデル格納領域113、地図情報格納領域114、目標情報格納領域151およびセンサ情報格納領域152の一部または全ての機能を実現しても良い。
【0054】
演算装置103は、プログラムを実行してデータを処理することで、監視サーバ100の各機能を実現する。演算装置103は、例えば、センサ情報入力部120、目標行動仮説生成処理部130、センサ情報処理部140、航跡抽出処理部141、目標行動推定処理部142、未来位置予測処理部143、出力部150、目標情報出力部153、地図出力部154およびセンサ情報出力部155の一部または全ての機能を実現しても良い。
【0055】
図2Aおよび
図2Bに示した本実施形態による目標物監視システムの動作、すなわち本実施形態による目標物監視方法について説明する。
図3は、一実施形態による目標物監視システムの全体的な動作の一例を示すフローチャートである。
【0056】
図3に示したフローチャートは、合計9のステップS100〜S108を備える。
図3のフローチャートを実行すると、まず、第0ステップS100において目標物監視方法が開始される。第0ステップS100の次には、第1ステップS101が実行される。
【0057】
第1ステップS101において、目標行動仮説生成処理部130が複数の仮説経路を生成する。ここで、仮説経路について説明する。
図4は、一実施形態による目標行動仮説生成処理部が生成する仮説経路の一例を示す平面図である。なお、目標行動仮説生成処理部130が複数の仮説経路を生成する処理を、仮説経路算出処理と呼ぶ。
【0058】
図4は、合計5の仮説経路11〜15を示している。これらの仮説経路11〜15は、
図1Aおよび
図1Bに示した直交座標(O,x,y)上に定義されている。ここで、仮説経路11〜15のそれぞれにおいて、監視を開始する時刻t
0における目標物2の位置は、直交座標の原点Oに設定されている。また、ここでは説明を容易にするために、仮説経路11〜15のそれぞれは直線として設定されている。なお、これらの設定は、あくまでも一例であって、本来的にはあらゆる設定が可能である。
【0059】
また、
図4は、目標物2の移動速度uに基づいて、捜索を行う時刻t
1〜t
5までに目標物2が移動すると予想される距離に対応する合計5の距離線21〜25を示している。仮説経路11〜15のそれぞれと、距離線21〜25のそれぞれとが交わる点は、時刻t
1〜t
5において予想される目標物2の位置を示す。
【0060】
目標行動仮説生成処理部130は、上記に説明したような仮説経路11〜15を生成するにあたって、目標物理モデル格納領域112から目標物理モデルを読み出す。さらに、目標行動仮説生成処理部130は目標非物理モデル格納領域113から目標非物理モデルを読み出す。そして、目標行動仮説生成処理部130は、読み出した目標物理モデルおよび目標非物理モデルを参照して仮説経路11〜15を生成する。
【0061】
目標物理モデルとは、目標物2が監視領域1を移動するにあたって従わざるを得ない物理的な制約を、計算機で演算可能な形式で表した各種のデータまたはプログラムの集合である。この物理的制約には、例えば、監視領域1に分布する、潮が流れる方向および速度、風が吹く方向および速度、海面から海底までの深さ、島や岩礁などの存在、などが含まれる。
【0062】
目標非物理モデルとは、目標物2が監視領域1を移動するにあたって従うと予想される非物理的な法則である行動パターンを、計算機で演算可能な形式で表した各種のデータまたはプログラムの集合である。この非物理的な法則には、例えば、目標物2としての船舶を操舵する人間の意志などが含まれる。具体例としては、目標物2としての船舶が目的地として選択し得る港や、航路として選びたくなる安全な海域や、反対に航路としては避けたくなる危険な海域などを示す情報などが、目標非物理モデルに含まれることが望ましい。また、目標物2の過去の行動パターンを分析して学習した結果を活用してもよい。
【0063】
生成された仮説経路11〜15を示すデータは、目標行動仮説生成処理部130が記憶していても良いし、データベース110に格納されても良い。いずれの場合も、後段のセンサ情報処理部140が必要に応じて仮説経路11〜15を読み出せることが重要である。
【0064】
第1ステップS101の次には、第2ステップS102が実行される。
【0065】
第2ステップS102において、センサ情報入力部120が、センサ200A、200Bから探知情報を受信する。まず、センサ200A、200Bのうちいずれかのセンサが目標物2を探知し、ネットワーク300を介して探知の結果をセンサ情報入力部120に向けて送信する。ここで、センサが探知して送信する情報には、目標物2の探知位置の他に、目標物2の移動速度および移動方向が含まれていることが好ましい。
【0066】
図5は、一実施形態によるセンサ情報入力部が受信する探知情報の一例を示す平面図である。
図5Aは、合計5の探知位置31〜35を示している。これらの探知位置31〜35は、合計5の時刻t
1〜t
5のそれぞれにおいてセンサ200A、200Bのいずれかが目標物2を探知した位置を示している。
【0067】
次に、センサ情報入力部120は、ネットワーク300を介して、センサが送信した情報を受信する。ここで、センサ情報入力部120は、センサ200A、200Bの特性に係るセンサモデル情報を、データベース110のセンサモデル格納領域111から読み取っても良い。センサモデル情報には、各センサの種類に係る情報と、各センサの周囲の環境を表す情報とのうち、少なくとも一方を含むことが好ましい。センサモデル情報には、探知精度や、一度に移動出来る航続距離や、次回の探知までに必要な時間の間隔などがさらに含まれていても良い。
【0068】
第2ステップS102の次には、第3ステップS103が実行される。
【0069】
第3ステップS103〜第5ステップS105にかけて、センサ情報処理部140が目標物2の存在確率分布の推定を行う。
【0070】
まず、第3ステップS103において、航跡抽出処理部141が、目標物2の航跡を抽出する。ここで、航跡とは、監視領域1としての海上を目標物2としての船舶が移動した経路である。したがって、監視領域1が海上ではなく例えば陸上などであり、かつ、目標物2が船舶ではなく例えば車両などである場合には、航跡は例えば「軌跡」などに読み替えても良い。第3ステップS103の詳細については、後述する。
【0071】
次に、第4ステップS104において、目標行動推定処理部142が、目標物2の行動を推定する。ここで、目標物2の行動は、目標物2が各仮説経路に沿って移動する確率として推定される。第4ステップS104の詳細については、後述する。
【0072】
次に、第5ステップS105において、未来位置予測処理部143が、目標物2の未来における位置を予測する。ここで、未来とは、次回の探知時刻であることが好ましい。目標物2の未来における位置とは、次回の探知時刻における目標物2の存在確率分布であって、これは最新の探知結果に基づく目標物2の存在確率分布が次回の探知時刻までに拡散すると予測することによって算出される。第5ステップS105の詳細については、後述する。
【0073】
第3ステップS103の詳細について説明する。航跡の抽出は、目標物2の統合目標分布を算出し、探知ごとの最も確からしい存在位置をプロットすることによって実行される。そのために、航跡抽出処理部141は、前回の探知結果に基づく目標物2の拡散存在確率分布を、未来位置予測処理部143から取得する。また、航跡抽出処理部141は、センサ200A、200Bが目標物2の位置を探知した最新の結果を、センサ情報入力部120から取得する。そして、目標物2の前回の探知結果に基づく拡散存在確率分布と最新の探知結果に基づく存在確率分布を情報蓄積方式により合成し、統合目標分布を算出する。ここで、前回の探知における統合目標分布P(t
n−1)と、今回の探知における統合目標分布P(t
n)を参照し、存在確率が最も高い位置を線で結ぶことによって、目標物2の航跡として成立させる。センサ情報処理部140が統合目標分布P(t
n)を算出する処理を、統合目標分布算出処理と呼ぶ。情報蓄積方式および拡散存在確率分布の詳細については後述する。なお、航跡抽出処理部141は、さらに、地図情報をデータベース110の地図情報格納領域114から取得しても良い。
【0074】
図6Aは、一実施形態による航跡抽出処理部が抽出する航跡の一例を示す平面図である。
図6Aは、
図5に示した複数の探知位置31〜35を示すとともに、各探知における目標物2の統合目標分布の概形と、各分布において目標物2の存在確率が最も高い位置を線で結ぶことにより成立させた航跡を示す。
【0075】
図6Bは、一実施形態による情報蓄積方式の原理を示す図である。
図6Bは、合計4の部分(A)〜(D)を含んでいる。
図6Bの部分(A)は、前回の探知結果から得られた目標物2の統合目標分布51の一例を示している。
図6Bの部分(B)は、部分(A)に示した前回の存在確率分布に基づく拡散存在確率分布52の一例を示している。ここで、拡散存在確率分布52は円弧状の形状を有している。この円弧は、角度θ
eの範囲によって定義されている。この角度θ
eの範囲は、目標物2の針路方向範囲52Aとして設定されている。
図6Bの部分(C)は、今回の探知結果から得られた目標物2の存在確率分布53の一例を示している。
図6Bの部分(D)は、部分(B)に示した拡散存在確率分布52と、部分(C)に示した存在確率分布53とを合成することを示している。
【0076】
この合成は、例えば、前回の存在確率分布に基づく拡散存在確率分布52と、今回の探知結果から得られた目標物2の存在確率分布53とのそれぞれに所定の重み付けをした上で両者を加算することで行うことが出来る。
【0077】
この重み付けは、例えば、センサ200A、200Bによる目標物2の位置の探知結果に対する信頼度であっても良い。ここで、信頼度とは、探知結果が真である確率である。今回の探知結果から得られた目標物2の存在確率分布53に対する信頼度をp
0と置く。すると、前回の存在確率分布に基づく拡散存在確率分布52の信頼度は、今回の探索結果が偽である確率1−p
0と置くことができる。この重み付けにより存在確率分布を合成することで、今回の探知結果が真であった場合はその存在確率分布53が重視され、今回の探知結果が偽であった場合は前回の存在確率分布に基づく拡散存在確率分布52が重視される。そして、探知を繰り返すと、信頼度の高い情報が確率分布上に蓄積されていくことになる。
【0078】
例えば下記の式で、前回の存在確率分布に基づく拡散存在確率分布52と、今回の探知結果から得られた目標物2の存在確率分布53との合成を、重み付けとしての信頼度p
0を用いてメッシュごとに行える。
【数9】
ここで、P
D((X
i,Y
j),t
n)は、今回の探知結果から得られた目標物2の存在確率分布を表す。P
M((X
i,Y
j),t
n)は、前回の探知結果から算出した、今回の探知時刻における拡散存在確率分布を表す。P((X
i,Y
j),t
n)は、合成された存在確率分布すなわち統合目標分布を表す。信頼度p
0を考慮した場合には、この統合目標分布が、ある時点t
nにおける目標物2の実質的な存在確率分布となる。
【0079】
なお、信頼度p
0は、任意の初期値が用いられても良いし、センサ情報処理部140が自動的に行う信頼度算出処理によって算出されても良いし、利用者によって手動で入力されても良い。信頼度算出処理は、センサモデル格納領域111から読み出されるセンサモデル情報を参照して実行されることが好ましい。信頼度算出処理は、センサ200A、200Bから探知情報が受信される度に実行されても良いし、任意のタイミングで過去の信頼度p
0が算出されても良い。
【0080】
第3ステップS103の次に、第4ステップS104が実行される。
【0081】
第4ステップS104の詳細について説明する。目標行動推定処理部142が目標行動を推定する。目標行動推定処理部142は、目標物2の行動を推定するために、目標行動仮説生成処理部130が事前に生成した複数の仮説経路と、航跡抽出処理部141が抽出した航跡を表す情報を参照し、各仮説経路に対する目標物2の予測針路確率P
E(B
i,t
n)を算出する。
【0082】
図6Cは、一実施形態による目標行動推定処理部が参照する、仮説経路および航跡の一例を表す平面図である。
図6Cは、
図4および
図6Aの重ね合わせに等しい。つまり、
図6Cは
図4に示した複数の仮説経路11〜15と、
図6Aに示した探知位置31〜35に基づく航跡とを示している。予測針路確率P
E(B
i,t
n)は、前述の「数8」式と、重み付けとしての信頼度p
0を用いて下記のように算出される。
【数10】
信頼度p
0を考慮した場合には、この予測針路確率が、ある時点t
nにおける実質的な事後確率であり、次の時点t
n+1の事前確率となる。
【0083】
図7は、一実施形態による目標行動推定処理部が予測する予測針路確率の変化の一例を示すグラフである。
図7のグラフは、合計6の帯グラフを含んでいる。
図7のグラフの全体において、横軸は時間の経過を示し、縦軸は仮説経路11〜15のそれぞれに目標物2が沿って移動している予測針路確率P
E(B
i,t
n)を示している。これらの帯グラフは、左から順に、時刻t
0〜t
5にそれぞれ対応する。また、それぞれの帯グラフは、合計5の領域α〜εに分割されている。これらの領域α〜εは、仮説経路11〜15にそれぞれ対応する。それぞれの帯グラフにおいて、目標物2が仮説経路11〜15のそれぞれに沿って移動している5つの予測針路確率の合計は、1すなわち100%である。なお、
図7のグラフは、
図6Cに示した仮説経路11〜15および探知位置31〜35の例に対応している。
【0084】
時刻t
0に対応する第1の帯グラフでは、合計5の領域α〜εのそれぞれが全体の0.2ずつを占めている。このことは、センサ200A、200Bによる目標物2の探知が開始する前の時刻t
0においては、目標物2が仮説経路11〜15のそれぞれに沿って移動する5つの予測針路確率が等しいと考えられていることを示している。
【0085】
時刻t
1に対応する第2の帯グラフでは、時刻t
0に対応する第1の帯グラフと比較して、領域γ、δおよびεが縮小し、領域αおよびβが増大している。このことは、センサ200A、200Bによる目標物2の探知が開始した結果、時刻t
1に対応する探知位置31が、仮説経路11および12の間に位置していることに対応している。言い換えれば、探知位置31が、仮説経路11および12には近く、仮説経路13、14および15から離れていることに対応している。
【0086】
時刻t
2に対応する第3の帯グラフでは、時刻t
1に対応する第2の帯グラフと比較して、領域α、δおよびεが減少し、領域βおよびγが増大している。ここで、時刻t
2に対応する探知位置32が、仮説経路12および13の間に位置しているので、目標物2が、仮説経路12に沿って移動している予測針路確率と、仮説経路13に沿って移動している予測針路確率とが、増大している。
【0087】
その後の時刻t
3〜t
5にそれぞれ対応する第4〜第6の帯グラフでは、領域γが増大し続けて、領域α、β、δおよびεは減少し続けている。言い換えれば、目標物2が時刻t
3〜t
5に渡って仮説経路13に沿って移動する予測針路確率が増大し続けている。
【0088】
図7の例では、監視の前半では目標物2が仮説経路11または12を通る予測針路確率が高かったが、探知を重ねることで、最終的には目標物2が仮説経路13を通る予測針路確率が高いと推測することが可能となった。
【0089】
第4ステップS104の次に、第5ステップS105が実行される。
【0090】
第5ステップS105の詳細について説明する。未来位置予測処理部143が、目標物2の未来位置を予測する。前述のとおり、ここで予測される目標物2の未来位置とは、最新の探知結果に基づく目標物2の存在確率分布が、次回の探知時刻までに拡散する、という予測によって算出される存在確率分布である。このように算出される目標物2の存在確率分布を、区別のために、目標物2の拡散存在確率分布P
Mと呼ぶ。
【0091】
図8Aは、一実施形態による拡散存在確率分布の算出方法を説明するための図である。
図8Aは、監視領域1を示している。この監視領域1には、原点Oと、x軸と、y軸とによって定義される直交座標(O,x,y)が定義されている。この直交座標(O,x,y)において、原点Oは、探知開始時刻t
0において目標物2が探知された位置である。点Aは、任意の探知時刻t
nにおける目標物2の探知位置である。距離utは、目標物2が、時間tが経過する間に移動速度uで移動する距離である。時間tは、任意の探知時刻t
nと、前回の探知時刻t
n−1との間に経過する時間である。円Qは、その中心が点Aであり、その半径はutであり、すなわち目標物2が前回の探知時刻t
n−1にいた可能性がある位置の集合である。点Bは、円Q上の任意の点である。
【0092】
前回の探知時刻t
n−1において、目標物2が点Bに位置していた場合について考える。この場合、目標物2は、点Aに向かって移動するために、角度θ
eの針路を取ったことになる。以降、計算を簡略化するために、目標物2の位置を基準とする角度θ
eの代わりに、相対針路φを用いる。相対針路φは、原点Oおよび点Aを結ぶ直線と、点Aおよび点Bを結ぶ直線との間の角度として定義される。
【0093】
前回の探知時刻t
n−1において、点Bにおける目標物2の存在確率分布は、前述の「数1」式から、F(z,t
n−1)で表すことが出来る。ここで、zは、原点Oから点Bまでの距離を表す。点Bに位置する目標物2が、点Aに向かう相対針路φを選択する確率は、dφ/2πで表し、移動速度uを選択する確率をg(u)duで表す。すると、前回の探知時刻t
n−1において点Bに位置する目標物2が、相対針路φおよび移動速度uを選択し、時間tが経過した後に点Aに位置する確率は、F(z,t
n−1)g(u)dudφ/2πで表される。ここで、余剰定理z
2=r
2+(ut)
2−2rut・cosφを代入し、相対針路φについて範囲[0〜2π]で積分し、移動速度uについて速度分布範囲[u
l〜u
h]で積分すると、時間tが経過した後の目標物2の存在確率密度関数F
MA(r,t)が下記のように求められる。
【数11】
ここで、rは、原点Oから点Aまでの距離を表す。
【0094】
点Aの座標を(x,y)と置くと、r
2=x
2+y
2となり、前述の「数11」式は下記のように書き換えられる。
【数12】
【0095】
任意のメッシュ(X
i,Y
j)に目標物2が存在する確率は、上記の「数12」式と、メッシュ面積との積によって、下記のように算出される。
P
MA((X
i,Y
j),t
n)=F
MA((X
i,Y
j),t)ΔxΔy
ここで、tは前回の探知時刻t
n―1から今回の探知時刻t
nまでの経過時間である。上記のP
MA((X
i,Y
j),t
n)では、角度θ
eの積分範囲を[0〜2π]としているので、これを全周拡散分布と呼ぶ。
図8Bは、全周拡散分布41の一例を示す図である。
【0096】
ここまで、目標物2が角度θ
eを範囲[0〜2π]の一様分布から決定する場合に拡散存在確率分布P
Mを算出する方法について説明した。しかし、実際の目標物2は、所定の目的地に向かって移動する船舶などであるので、次のことが考えられる。
・目標物2としての船舶は、帰投などの明確な意思変更が無い限り、針路を直前とは逆の方向へ変更する可能性は低い。
・監視領域1としての海上を航行する、目標物2としての船舶が、短時間で大幅な針路変更をすることは物理的に難しい。
これらのことから、角度θ
eの積分範囲を、[0〜2π]の全周に固定せず、任意の範囲に指定することも可能である。そこで、目標物2が角度θ
eを、任意の範囲[θ
l〜θ
h]の一様分布から選択する場合の、拡散存在確率分布P
Mの算出方法について説明する。
【0097】
角度θeの積分範囲を[θ
l〜θ
h]とすると、対応する相対針路φの範囲は[(ω−θ
l)〜(ω−θ
h)]となる。ここで、ωは、x軸と、原点および点Aを結ぶ直線との間の角度である。この相対針路φの範囲を、前述の「数12」式に適用すると、下記の式が得られる。
【数13】
ただし、ここで、
【数14】
である。
【0098】
任意のメッシュ(X
i,Y
j)に目標物2が存在する確率は、上記の「数13」式と、メッシュ面積との積によって、下記のように算出される。
P
M((X
i,Y
j),t
n)=F
M((X
i,Y
j),t)ΔxΔy
ここで、tは前回の探知時刻t
n―1から今回の探知時刻t
nまでの経過時間である。上記のP
M((X
i,Y
j),t
n)では、角度θ
eの積分範囲を[θ
l〜θ
h]としているので、これを所定範囲方向拡散分布と呼ぶ。
図8Cは、所定範囲方向拡散分布42の一例を示す図である。
図8Cの場合、x軸を中心に[−π/6〜π/6](ラジアン)の範囲で算出している。このように算出される所定範囲方向拡散分布は、その中心に対して非点対称となる。未来位置予測処理部143が所定範囲方向拡散分布を算出する処理を、拡散存在確率分布算出処理と呼ぶ。
【0099】
角度θ
eの範囲は、目標物2の針路方向範囲52Aとして設定される。角度θ
eの範囲は、任意の初期値が用いられても良いし、目標行動推定処理部142が推定した目標行動に基づいて自動的に設定されても良いし、利用者の推定に基づいて手動で入力されても良い。
【0100】
速度分布関数g(u)について説明する。速度分布関数g(u)の設定方法は、大きく分けて以下の2種類が考えられる。
・センサ200A、200Bから受信した探知情報に、目標物2の移動速度uに係る情報が含まれている場合
・センサ200A、200Bから受信した探知情報に、目標物2の移動速度uに係る情報が含まれていない場合
【0101】
速度情報が含まれている場合は、速度分布関数g(u)は、例えばディラックのデルタ関数δ(x)を用いて次のように表すことが出来る。
g(u)=δ(u−u
0)
ここで、u
0は、探知情報に含まれる目標物2の速度である。また、デルタ関数δ(x)は、
x≠0のとき、δ(x)=0、かつ、
【数15】
と定義される。
【0102】
速度情報が含まれていない場合は、例えば、目標物2は最低速度u
l乃至最大速度u
hの間の一様分布から速度を選択する、と考えて、速度分布関数g(u)を次のように表すことが出来る。
u
l≦u≦u
hの場合は、
g(u)=1/(u
h−u
l)
その他の場合は、
g(u)=0
【0103】
以上により、情報蓄積方式を活用して目標物2の存在確率分布を算出する方法が構築される。メッシュごとに算出された所定範囲方向拡散分布42は、次の探知時刻の第3ステップS103において拡散存在確率分布として参照される。したがって、第5ステップS105で算出された所定範囲方向拡散分布42は、少なくとも次の探知時刻の第3ステップS103で参照されるまで、未来位置予測処理部143によって記憶されていても良いし、センサ情報処理部140の図示しない記憶装置に記憶されていても良いし、データベース110に格納されていても良い。より好ましくは、算出された所定範囲方向拡散分布42は、監視の完了までいずれかの記憶領域に記憶される。
【0104】
第5ステップS105の次には、第6ステップS106が実行される。
【0105】
第6ステップS106において、出力部150のうち、特に目標情報出力部153が、目標情報を出力する。ここで、出力される目標情報には、第4ステップS104で推定された目標行動、すなわち、仮説経路11〜15のそれぞれに対応する予測針路確率が含まれる。なお、出力される目標情報には、第3ステップS103で抽出された航跡の情報、すなわち、合成された存在確率がさらに含まれても良い。また、出力される目標情報には、第5ステップS105で予測された未来位置、すなわち、拡散存在確率分布がさらに含まれても良い。
【0106】
なお、出力される目標情報は、目標情報出力部153によって出力される前に、目標情報格納領域151に格納されることが好ましい。
【0107】
第6ステップS106において、出力部150のセンサ情報出力部155が、センサ情報を出力しても良い。ここで、出力されるセンサ情報は、センサ情報入力部120で受信された探知情報を含む。
【0108】
なお、出力されるセンサ情報は、センサ情報出力部155によって出力される前に、センサ情報格納領域152に格納されることが好ましい。
【0109】
第6ステップS106において、出力部150の地図出力部154が地図情報をさらに出力しても良い。ここで、出力される地図情報は、監視領域1の地理情報と、抽出された航跡と、仮説経路11〜15のそれぞれに対応する予測針路確率とを合成した情報を含む。
【0110】
出力部150は、出力する各種の情報を、例えばディスプレイなどによって可視化して出力しても良いし、外部の電子機器に対して電子的に出力しても良いし、スピーカなどによって聴覚的に出力しても良い。
【0111】
第6ステップS106の次には、第7ステップS107が実行される。
【0112】
第7ステップS107において、センサ情報処理部140が監視を継続するかどうかを判定する。判定の結果、監視を継続する場合(YES)は、第2ステップS102を実行する。反対に、監視を継続しない場合(NO)は、第8ステップS108を実行して本実施形態による目標物監視方法を終了する。
【0113】
以上に説明したように、本実施形態の目標物監視システムおよび目標物監視方法によれば、面積が比較的広大な監視領域1を移動する目標物2の位置を、探知範囲が比較的狭いセンサを用いて断続的に探知するにあたって、ベイズの定理を適用することで予測精度を向上し、情報蓄積方式を用いることで探知精度を向上することが出来る。また、目標物2が移動する上で従わざるを得ない物理的な制約に加えて、目標物2が従うと予想される非物理的な法則を、探知前に生成する仮説経路を用いることで考慮することが可能となり、探知精度のさらなる向上が期待される。
【0114】
(第2実施形態)
第1実施形態において、
図3のフローチャートに示した第3ステップS103として、探知の信頼度p
0について説明した。本実施形態では、第1実施形態の変更例として、探知の信頼度p
0がそれ以降の探知で変更された場合の対処法について説明する。
【0115】
探知を繰り返す中で、過去に受信した探知情報が、虚探知だったことが判明する場合がある。ここで、虚探知とは、例えば目標物2とは異なる物体を目標物2と誤認した場合などに発生し得る。そのような場合には、虚探知と判明した探知情報の信頼度を、例えば「0」に修正した上で統合目標分布Pを修正し、以降の予測針路確率を再計算する。このような再計算を可能とするために、全ての探知情報はデータベース110などに記録しておくことが好ましい。なお、修正された統合目標分布Pを修正後統合目標分布P
Cと呼ぶ。
【0116】
図9は、一実施形態による予測針路確率の再計算の一例を示すグラフである。
図9の例では、探知時刻t
3の探知情報が虚探知だと判明した場合を想定している。つまり
図9は、探知時刻t
3の探知情報の信頼度を「0」に修正した上で、探知時刻t
3以降の針路確率を再計算した場合の帯グラフである。その結果、探知時刻t
3に対応する帯グラフは、探知時刻t
2の帯グラフと同じである。その後の針路確率は、その後の探知結果が同じであるため、最終的には
図7に示した例に近づいているが、
図9の例では目標物2が仮説経路11または12を通っている確率が
図7の例よりも多く残っていることが分かる。
【0117】
本実施形態のその他の構成および動作については、第1実施形態の場合と同様であるので、さらなる詳細な説明を省略する。
【0118】
(第3実施形態)
第1実施形態では、ベイズの定理を適用するために、仮説経路11〜15を先に生成し、目標物2の探知をその後に行うと説明した。しかし、実際には、探知を繰り返す中で、仮説経路11〜15を修正する必要性が生じる場合がある。本実施形態では、第1実施形態の変更例として、探知開始後に仮説経路を変更し、かつ、ベイズの定理を適用する方法について説明する。
【0119】
図10Aは、一実施形態による目標行動仮説生成処理部が、探知開始後に仮説経路を修正する直前の状態について説明するための図である。
図10Aの例では、
図6Aの場合と同様に、仮説経路11〜15を生成した後、探知を開始し、探知時刻t
1およびt
2にそれぞれ対応する探知位置31および32が取得されている。
図7を参照すると、探知時刻t
2の時点で、予測針路確率は仮説経路12および13が最も高い。そこで、探知精度を高めるために、目標物2の目的地が仮説経路12または13の延長線上にあると予測して、仮説経路の密度をこの方向に高めるような修正が検討され得る。
【0120】
図10Bは、一実施形態による目標行動仮説生成処理部が、探知開始後に仮説経路を修正する方法について説明するための別の図である。
図10Bの例では、探知時刻t
2の時点で仮説経路11〜15が仮説経路11A〜15Aに修正されている。修正後の仮説経路11A〜15Aのうち、時刻t
3以降に対応する部分については、一例として、修正前の仮説経路13に平行であるが、この修正は本実施形態を限定しない。
【0121】
ただし、修正後の仮説経路11A〜15Aのうち、探知時刻t
0〜t
2に対応する部分については、修正前の仮説経路11〜15と同じである。これは、仮説経路の修正後も探知時刻t
2以前の探知情報にベイズの定理を適用するために必要な制限である。このため、仮説経路を修正する自由度は小さくなるものの、修正する以前に得られた予測針路確率の知見を継続活用することが出来る。
【0122】
図10Cは、
図10Bに示した修正後の仮説経路11A〜15Aを用いた場合の予測針路確率を示すグラフである。
図10Cに示した、仮説経路を修正した探知時刻t
2までの予測針路確率は、仮説経路を修正しない
図7の場合と同じである。
図10Cに示した、仮説経路を修正した後の、探知時刻t
3以降の予測針路確率は、
図7の場合と異なっている。仮説経路11A〜15Aのうち、探知時刻t
3以降に対応する部分は、仮説経路11A〜15A同士の密度が高いので、結果的に予測針路確率の精度の向上が期待される。
【0123】
探知開始後に仮説経路を修正するかどうかの判定は、監視サーバ100の利用者が手動で行っても良いし、センサ情報処理部140が自動的に行っても良い。この判定を行うタイミングは、例えば、第1実施形態の
図3に示したフローチャートにおける第7ステップS107において、目標物2の監視を継続するかどうかを判定した直後に行っても良い。
【0124】
本実施形態による目標物監視システムの動作、すなわち、本実施形態による目標物監視方法について説明する。
図10Dは、本実施形態による目標物監視システムの全体的な動作の一例を示すフローチャートである。
図10Dのフローチャートは、合計11のステップS200〜S210を備える。第0ステップS200〜第7ステップS207については、
図3に示した第0ステップS100〜第7ステップS107とそれぞれ同様であるので、さらなる詳細な説明を省略する。
【0125】
第7ステップS207において、監視を継続する場合(YES)は、その次に第8ステップS208が実行される。反対に、監視を継続しない場合(NO)は、その次に第10ステップS210が実行される。
【0126】
第8ステップ208において、仮説経路の修正を行うかどうかを判定する。修正を行う場合(YES)は、その次に第9ステップS209が実行される。反対に、修正を行わない場合(NO)は、その次に第2ステップS202が実行される。
【0127】
第9ステップ209において、仮説経路の修正が行われる。第9ステップS209の次には、第2ステップS202が実行される。
【0128】
第10ステップ210において、本実施形態による目標物監視システムの動作が終了する。
【0129】
本実施形態のその他の構成および動作については、第1実施形態の場合と同様であるので、さらなる詳細な説明を省略する。
【0130】
(第4実施形態)
第3実施形態では、仮説経路を修正した後も、仮説経路を修正する前の予測針路確率の知見を活用するために、探知時刻t2以前の予測針路確率については修正を行わない。しかし、実際には、修正前の知見を捨ててでも、より抜本的な針路修正の必要性が生じる場合がある。本実施形態では、第1実施形態または第3実施形態の変更例として、探知開始後に仮説経路を変更する別の方法について説明する。
【0131】
本実施形態でも、第3実施形態の説明と同様に、第1実施形態の
図7に示した例を用いる。すなわち、探知時刻t
2までの、仮説経路を修正する直前の状態は、第3実施形態の
図10Aに示した状態と同じである。ただし、探知時刻t
2以降の、仮説経路を修正した後の状態は、第1実施形態とも、第3実施形態とも異なる。
図11Aは、本実施形態による目標行動仮説生成処理部が、探知開始後に仮説経路を修正する別の方法について説明するための図である。
【0132】
図11Aに示したように、探知時刻t
1〜t
5にそれぞれ対応する探知位置31〜35は、第1実施形態の
図7や、第3実施形態の
図10Aの場合と同じである。その一方で、
図11Aに示した修正後の仮説経路11B〜15Bは、修正前の仮説経路11〜15を部分的にも継承していない。このように、本実施形態では、探知開始後に仮説経路を修正する自由度が高い。ただし、探知時刻t
2までに得られた目標物2の存在確率分布に係る知見を、仮説経路の修正後に継続活用することは出来ない。また、修正後の仮説経路11B〜15Bは、いずれも、時刻t
2に対応する探知位置32から開始する。
【0133】
言い換えれば、本実施形態による探知開始後の仮説経路の修正は、修正する時刻を開始時刻として新たな監視に切り替えることに等しい。
【0134】
図11Bは、
図11Aに示した修正後の仮説経路11B〜15Bを用いた場合の予測針路確率を示すグラフである。
図11Bのグラフは、第1実施形態の
図7や、第3実施形態の
図10Cと同様に、合計6の帯グラフを含んでいる。また、
図11Bの帯グラフは、左から順に、探知時刻t
0〜t
5にそれぞれ対応する。探知開始時刻t
0および探知時刻t
1に対応する帯グラフは、それぞれ、合計5の領域α〜εに分割されている。この分割は、
図7と同じである。ただし、探知時刻t
2以降の帯グラフは、合計5の領域α’〜ε’に分割されている。これらの領域α’〜ε’は、それぞれ、修正後の仮説経路11B〜15Bに対応している。
【0135】
仮説経路の修正を行った探知時刻t
2において、合計5の領域α’〜ε’のそれぞれが全体の0.2ずつを占めている。このことは、修正前の探知開始時刻t
0の場合と同様に、探知時刻t
2においては、目標物2が仮説経路11B〜15Bに沿って移動する確率が等しいと考えられていることを示している。
【0136】
探知時刻t
3〜t
5においては、対応する探知位置33〜35が、修正後の仮説経路14B、13Bおよび12Bにそれぞれ接近している。探知時刻t
3〜t
5のそれぞれにおける領域α’〜ε’の分布は、このことを示している。
【0137】
本実施形態による目標物監視システムのその他の構成および動作は、第3実施形態の場合と同様であるので、さらなる詳細な説明を省略する。
【0138】
(第5実施形態)
本実施形態では、監視領域1を移動する目標物2の位置をより精度よく探知するために、監視サーバ100が探知計画を立案または更新し、センサ200A、200Bがこの探知計画を実行する。
【0139】
図12Aは、本実施形態による目標物監視システムの全体的な構成の一例を示す機能ブロック図の後半部分である。
図12Aは、第1実施形態の
図2Bと、以下の点で異なる。すなわち、本実施形態による目標物監視システムの出力部150は、第1実施形態による目標物監視システムの構成要素に加えて、監視計画生成処理部156と、監視計画格納領域157と、監視計画出力部158とをさらに含む。本実施形態による目標物監視システムのその他の構成要素については、
図2Aおよび
図2Bに示した第1実施形態の場合と同様であるので、さらなる詳細な説明を省略する。
【0140】
図12Aに示した監視計画生成処理部と、監視計画記憶部と、監視計画出力部と係る接続関係について説明する。監視計画生成処理部156の入力には、センサ情報処理部140の出力と、センサ情報格納領域152の出力とが接続されている。監視計画生成処理部156の出力には、監視計画格納領域157の入力が接続されている。監視計画格納領域157の出力には、監視計画出力部158の入力が接続されている。監視計画出力部158の出力は、ネットワーク300を介してセンサ200A、200Bに接続されている。
【0141】
本実施形態による目標物監視システムの動作、すなわち、本実施形態による目標物監視方法について説明する。
図12Bは、本実施形態による目標物監視システムの全体的な動作の一例を示すフローチャートである。
図12Bのフローチャートは、合計11のステップS300〜S310を備える。第0ステップS300〜第7ステップS307については、
図3に示した第1実施形態の第0ステップS100〜第7ステップS107と同様であるので、さらなる詳細な説明を省略する。
【0142】
第7ステップS307において、監視を継続する場合(YES)は、その次に第8ステップS308が実行される。反対に、監視を継続しない場合(NO)は、その次に第10ステップS310が実行される。
【0143】
第8ステップS308において、監視計画を更新するかどうかを判定する。この判定は、監視サーバ100の利用者が手動で行っても良いし、センサ情報処理部140が自動的に行っても良い。更新を行う場合(YES)は、その次に第9ステップS309が実行される。反対に、更新を行わない場合(NO)は、その次に第2ステップS302が実行される。
【0144】
第9ステップS309において、監視計画の更新が行われる。新たな監視計画は、監視計画生成処理部156が生成する。生成された監視計画を表す監視計画情報は、監視計画格納領域157に記憶される。監視計画出力部158は、記憶された監視計画情報を、ネットワーク300を介してセンサ200A、200Bに向けて送信する。センサ200A、200Bは、送信された監視計画情報を受信して実行する。具体的には、センサ200A、200Bが目標物2を探知するために監視領域1を移動する時刻、タイミングまたは頻度や、経路などが、新たな監視計画情報にしたがって更新されても良い。第9ステップS309の次には、第2ステップS302が実行される。
【0145】
第10ステップS310において、本実施形態による目標物監視システムの動作が終了する。
【0146】
本実施形態のその他の構成および動作については、第1実施形態の場合と同様であるので、さらなる詳細な説明を省略する。
【0147】
以上、発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、前記実施の形態に説明したそれぞれの特徴は、技術的に矛盾しない範囲で自由に組み合わせることが可能である。