特許第6736614号(P6736614)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンタルアシストの特許一覧

<>
  • 特許6736614-歯列矯正装置 図000002
  • 特許6736614-歯列矯正装置 図000003
  • 特許6736614-歯列矯正装置 図000004
  • 特許6736614-歯列矯正装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6736614
(24)【登録日】2020年7月17日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】歯列矯正装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/10 20060101AFI20200728BHJP
   A61C 7/08 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   A61C7/10
   A61C7/08
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-142810(P2018-142810)
(22)【出願日】2018年7月30日
(65)【公開番号】特開2020-18401(P2020-18401A)
(43)【公開日】2020年2月6日
【審査請求日】2019年2月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517118102
【氏名又は名称】株式会社デンタルアシスト
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】石亀 勝
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0081769(US,A1)
【文献】 特開2011−045530(JP,A)
【文献】 特開2004−065482(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0135850(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0009449(US,A1)
【文献】 登録実用新案第3008730(JP,U)
【文献】 特開2015−177969(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0099546(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0007366(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2017−0119834(KR,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0230819(US,A1)
【文献】 独国実用新案第29613253(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/10
A61C 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも奥歯を覆うように装着され、個々の歯を整列すべき方向に移動させるマウスピースと、
前記奥歯の左右の位置を拡大する拡大床と、
を備え、
前記拡大床は、前記マウスピースが装着される部位に着脱自在に装着されるように構成され、
前記拡大床は、それぞれ板状に形成されて前記左右の奥歯の歯冠部の内側に配置され、該板状の外縁が前記マウスピース上において該歯冠部の内側の形状に沿うように形成され、左右方向に拡大可能な左右の床部と、
板状に形成された前記左右の床部の外縁から複数突出して設けられ、それぞれ一本で鉤状に形成され、前記マウスピース上において前記左右の奥歯の歯冠部間の内側から咬合面の高さを越えて外側に延び、該外側にて前記左右の奥歯の歯冠部間を通って該奥歯の根元まで延長されて該根元に先端部が掛止される左右の固定ワイヤと、
を備えることを特徴とする歯列矯正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯並びを矯正する歯列矯正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯並びを矯正する器具には、歯列に装着するマウスピースがある。このようなマウスピースは、上歯全体又は下歯全体を覆う形状に形成されている。すなわち、上記マウスピースは、口腔内に挿入し、使用者の該当する歯列弓(アーチ)上に装着したとき、そのアーチに歯係合部材が矯正力を与えるように、オープンフレーム構造を有している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、他の歯列矯正装置としては、緩徐拡大矯正装置がある。この緩徐拡大矯正装置には、例えば拡大床タイプの装置がある。この拡大床タイプの緩徐拡大矯正装置は、左右の床部と、これら左右の床部を歯列に固定するためのワイヤと、左右の床部の中央に埋設された拡大ねじとを備えている。そして、上記拡大ねじを回転させることで、床部を左右にスライドさせ、側方の歯列に拡がる力を作用させている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5705794号公報
【特許文献2】特許第4332641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された従来のマウスピースでは、前歯の歯列を比較的長い期間を要せずに矯正することができるものの、歯列を横方向に拡げる力が弱いため、奥歯の歯列を矯正するのに長い期間を要するという問題がある。
【0006】
また、特許文献2に記載された拡大床タイプの緩徐拡大矯正装置では、奥歯の歯列を横方向に短期間で拡げることができるものの、装着していない期間が長いと、矯正された歯列が矯正前の叢生状態に戻り易いという不具合があり、また歯と歯との間隔が広くなりすぎる場合があるという問題がある。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、歯列の矯正期間を短縮化し、かつ矯正した綺麗な状態の歯列を維持することが可能な歯列矯正装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を達成するために、請求項1に記載の発明は、少なくとも奥歯を覆うように装着され、個々の歯を整列すべき方向に移動させるマウスピースと、前記奥歯の左右の位置を拡大する拡大床と、を備え、前記拡大床は、前記マウスピースが装着される部位に着脱自在に装着されるように構成され、前記拡大床は、それぞれ板状に形成されて前記左右の奥歯の歯冠部の内側に配置され、該板状の外縁が前記マウスピース上において該歯冠部の内側の形状に沿うように形成され、左右方向に拡大可能な左右の床部と、板状に形成された前記左右の床部の外縁から複数突出して設けられ、それぞれ一本で鉤状に形成され、前記マウスピース上において前記左右の奥歯の歯冠部間の内側から咬合面の高さを越えて外側に延び、該外側にて前記左右の奥歯の歯冠部間を通って該奥歯の根元まで延長されて該根元に先端部が掛止される左右の固定ワイヤと、を備える歯列矯正装置としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、個々の歯を整列すべき方向に移動させるマウスピースが少なくとも奥歯を覆うように装着され、このマウスピースが装着される部位に拡大が着脱自在に装着されるため、拡大により歯列の矯正期間を短縮化し、かつ拡大した状態の歯列をマウスピースにより維持することが可能になる。これにより、叢生状態の歯を矯正するために抜歯することがなくなることから、各個人の負担を減らすことができる。また、マウスピースの使用回数や使用段階数を減少させることができるため、経済性に優れた歯列矯正装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る歯列矯正装置を上歯に設置した状態を示す下面図である。
図2】同第1実施形態に係る歯列矯正装置を上歯に設置した状態を示す斜視図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る歯列矯正装置を上歯に設置した状態を示す下面図である。
図4図3のA部を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の各実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、口腔内の上歯にマウスピース及び拡大装置を装着した例について説明する。
[発明の第1実施形態]
図1及び図2には、本発明の第1実施形態を示す。
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態に係る歯列矯正装置を上歯に設置した状態を示す下面図である。図2は、同第1実施形態に係る歯列矯正装置を上歯に設置した状態を示す斜視図である。
【0020】
本実施形態のマウスピース20は、透明な薄片で徐々に歯列を矯正すべき方向、すなわち個々の歯を整列すべき方向に移動させる形状に成型した成型物(アライナー)であり、複数段階的に用意して、それらを定期的に交換することにより矯正治療を進めていくものである。
【0021】
本実施形態のマウスピース20は、透明な薄片で徐々に歯列を矯正すべき方向に移動させる形状に成型した成型物(アライナー)であり、複数段階的に用意して、それらを定期的に交換することにより矯正治療を進めていくものである。
【0022】
マウスピース20は、上歯2の全ての歯、すなわち上歯2の前歯3及び奥歯4を覆うように形成されたプラスチック製のマウスピースであり、透明でかつ前歯3及び奥歯4を覆って所定の形状を保持する硬度を有している。また、マウスピース20は、上歯2の歯列弓(アーチ)に沿った形状に形成されて前歯3及び奥歯4の歯冠部を覆って保持する本体部21と、当該本体部21から歯肉5側に位置する歯肉部22とを有している。
【0023】
ここで、前歯3は、切歯であって、左右の中切歯、左右の側切歯、及び左右の犬歯を備える。奥歯4は、臼歯であって、複数の小臼歯、複数の大臼歯を備える。
【0024】
拡大床30は、図1に示すように左右の固定ワイヤ31,31と、左右の床部32,32と、拡大ねじ33とを備える。左右の固定ワイヤ31,31は、それぞれ先端が鉤状に形成されている。左右の固定ワイヤ31,31は、左右の奥歯4の歯冠部に対応したマウスピース20の上からそれぞれ掛止される。すなわち、左右の固定ワイヤ31,31は、マウスピース20上において左右の奥歯4の歯冠部間にそれぞれ掛止される。
【0025】
左右の床部32,32は、それぞれプラスチックによって作製されている。左右の床部32,32には、それぞれ左右の固定ワイヤ31,31がそれぞれ設けられている。具体的には、左右の固定ワイヤ31,31は、左右の奥歯4の歯冠部間にそれぞれ掛止される部分を除く大部分がそれぞれ左右の床部32,32に埋設されることで、固定されている。左右の床部32,32は、それぞれ左右の奥歯4の歯冠部側がその歯冠部の内側の形状に沿うように形成されている。
【0026】
拡大ねじ33は、金属によって作製されて左右の床部32,32間に設置されている。拡大ねじ33は、例えば専用の回転用工具を用いて回転させることで、左右の床部32,32及び左右の固定ワイヤ31,31を介して左右の奥歯4の位置を拡大するような力を付与する。拡大ねじ33の両側には、ガイド部34,34が設けられている。これらのガイド部34,34は、拡大ねじ33を回転させたとき、左右の床部32,32が同一平面を保持して開くように案内する。左右の床部32,32は、拡大ねじ33を回転させる前は互いに接触して略連続して形成されている。
【0027】
次に、本実施形態の歯列矯正装置10の作用について説明する。
【0028】
まず、上歯2の前歯3及び奥歯4を本体部21で覆うようにマウスピース20を装着する。次いで、拡大床30の左右の固定ワイヤ31,31を奥歯4の左右の歯冠部に対応したマウスピース20の上からそれぞれ掛止することで、マウスピース20の奥歯4の左右の歯冠部間に装着する。
【0029】
ところで、マウスピース20は、上述したように前歯3の歯列を比較的長い期間を要せずに矯正することができるものの、奥歯4の歯列を横方向に拡げる力が弱いため、奥歯4の歯列を矯正するのに長い期間を要する。
【0030】
また、拡大床30は、上述したように奥歯4の歯列を横方向に短期間で拡げることができるものの、装着していない期間が長いと、矯正された歯列が矯正前の叢生状態に戻り易いという不具合があり、また歯と歯との間隔が広くなりすぎる場合がある。しかし、拡大床30は、連続して長時間装着すると、口腔1内において舌への違和感が大きいという問題がある。
【0031】
そこで、本実施形態では、例えばマウスピース20は、常に装着しておき、拡大床30は、就寝時や週末及び休日に装着する。すると、拡大床30によって歯列を短期間で矯正、つまり拡大することができる。そして、拡大床30を取り外した場合でも、拡大された歯列がマウスピース20によって拡大前の狭窄した状態に戻ることがなく、拡大した綺麗な状態の歯列を維持することができる。
【0032】
このように本実施形態の歯列矯正装置10によれば、マウスピース20が少なくとも奥歯4を覆うように装着され、このマウスピース20が装着される部位に拡大床30が着脱自在に装着されるため、拡大床30により歯列の矯正期間を短縮化し、かつ矯正した綺麗な状態の歯列をマウスピース20により維持することが可能になる。
【0033】
また、奥歯4の歯列を横方向に短期間で拡げることができるので、叢生状態の歯を矯正するために抜歯することがなくなり、各個人の負担を減らすとともに、上顎前突も矯正することができる。加えて、マウスピースの使用回数や使用段階数を減少させることができるため、経済性に優れた歯列矯正装置10を提供することができる。
【0034】
さらに、本実施形態の歯列矯正装置10によれば、拡大床30は、左右の奥歯4の歯冠部に対応したマウスピース20にそれぞれ装着される左右の固定ワイヤ31,31と、左右の固定ワイヤ31,31がそれぞれ取り付けられた左右の床部32,32と、左右の床部32,32及び左右の固定ワイヤ31,31を介して左右の奥歯4の位置を拡大する拡大ねじ33と、を備えるため、既存のタイプの拡大床を用いることができる。その結果、経済性に優れた歯列矯正装置10を提供することができる。
[発明の第2実施形態]
図3及び図4には、本発明の第2実施形態を示す。図3は、本発明の第2実施形態に係る歯列矯正装置を上歯に設置した状態を示す下面図である。図4は、図3のA部を示す拡大図である。なお、本実施形態では、以下に説明する事項以外については前記第1実施形態と同様であるので、前記第1実施形態と異なる事項以外は説明を省略する。
【0035】
本実施形態の歯列矯正装置10は、図3及び図4に示すように、前歯3及び奥歯4に装着したマウスピース20において、奥歯4の部位に相当する左右の内側、すなわち舌側にそれぞれ被係止部としての突出部23が複数設けられている。これらの突出部23は、例えばマウスピース20の本体部21とプラスチックによって一体に成形されている。なお、突出部23は、本体部21とは別に成形し、突出部23を本体部21に接着してもよい。
【0036】
一方、拡大床30には、これら左右の突出部23にそれぞれ嵌り込んで係止する左右の係止部としての嵌合凹部35が設けられている。
【0037】
ここで、本実施形態において、拡大ねじ33及びガイド部34を金属ではなく、硬質のプラスチックにて構成すれば、全ての部材がプラスチック製となり、金属アレルギーの使用者でも装着することが可能になる。
【0038】
なお、本実施形態では、突出部23に嵌合凹部35が嵌り込んで係止するように構成したが、これに限らず互いに嵌合して係止するものであれば、如何なるものであってもよい。
【0039】
このように本実施形態の歯列矯正装置10によれば、マウスピース20の左右の内側にそれぞれ突出部23が設けられる一方、左右の突出部23にそれぞれ係止する左右の嵌合凹部35を拡大床30に設けたので、マウスピース20に対して拡大床30を容易に着脱することが可能になる。
【0040】
また、本実施形態の歯列矯正装置10によれば、マウスピース20が装着される部位の左右の歯冠部の内側で拡大床30が係止されるため、審美性を向上させることができる。
【0041】
さらに、本実施形態の歯列矯正装置10によれば、拡大床30は、左右の嵌合凹部35がそれぞれ取り付けられた左右の床部32,32と、左右の床部32,32及び左右の嵌合凹部35を介して左右の奥歯4の位置を拡大する拡大ねじ33と、を備えているため、拡大ねじ33によって歯列に対し適正な力を作用させることができる。
【0042】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0043】
前記第2実施形態では、突出部23を奥歯4の部位に相当するマウスピース20の左右の内側にそれぞれ被係止部としての突出部23を複数設けた実施形態である。
【0044】
本変形例では、突出部23を左右の奥歯4の歯冠部の内側、すなわち舌側にそれぞれ接着剤により直接取り付けるようにしてもよい。この突出部23は、マウスピース20を装着するときに障害となるため、突出部23に対応する部位にあらかじめ開口部を形成しておくことが望ましい。
【0045】
このように本変形例によれば、第2実施形態と同様にマウスピース20に対して拡大床30を容易に着脱することが可能になる。また、マウスピース20が装着される部位の左右の歯冠部の内側で拡大床30が係止されるため、審美性を向上させることができる。
[発明の他の実施形態]
なお、上記各実施形態は本発明の例示であり、本発明が上記各実施形態のみに限定されることを意味するものではないことは、いうまでもない。
【0046】
上記各実施形態では、マウスピース20、拡大床30等の素材、形状については、口腔1内に入れることができるもので同様の機能を有するものであれば、適宜の素材、形状で構成されていてもよい。また、被係止部の形状も突起状でなくてもよく、適宜の形状に形成されていてもよい。同様に、係止部の形状も凹形状でなくてもよく、適宜の形状に形成されていてもよい。
【0047】
また、上記各実施形態では、拡大装置として拡大床30を適用した例について説明したが、これに限らず例えばクワドヘリックスタイプの拡大装置やオーバレイタイプの緩徐拡大装置にも適用可能である。
【0048】
さらに、上記各実施形態は、口腔内の上歯にマウスピース及び拡大装置を装着した例について説明したが、下歯に装着した場合についても同様に適用可能である。
【0049】
そして、上記各実施形態では、マウスピース20が前歯3及び奥歯4を覆うように装着した例について説明したが、奥歯4だけを覆うように装着してもよい。つまり、マウスピース20は、少なくとも奥歯4を覆うように装着すればよい。
【符号の説明】
【0050】
1 口腔
2 上歯
3 前歯
4 奥歯
5 歯肉
10 歯列矯正装置
20 マウスピース
21 本体部
22 歯肉部
23 突出部(被係止部)
30 拡大床(拡大装置)
31 固定ワイヤ
32 床部
33 拡大ねじ
34 ガイド部
35 嵌合凹部(係止部)
図1
図2
図3
図4