(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記系列を構成する各々の前記振幅パターンにおいて、前記第1交流電圧より大きい振幅を持った前記第2交流電圧を前記1つの駆動電極又は前記一群の駆動電極に印加する、
請求項2に記載の入力装置。
前記制御部は、前記系列を構成する各々の前記振幅パターンにおいて、前記一群の駆動電極に含まれる一部の前記駆動電極に前記第1交流電圧より大きい振幅を持った前記第2交流電圧を印加し、前記一群の駆動電極に含まれる他の一部の前記駆動電極に前記第1交流電圧より小さい振幅を持った前記第2交流電圧を印加する、
請求項2に記載の入力装置。
前記制御部は、前記系列を構成する各々の前記振幅パターンにおいて、前記キャパシタの位置が隣接する2つの前記駆動電極の一方に前記第1交流電圧より大きい振幅を持った前記第2交流電圧を印加し、当該2つの駆動電極の他方に前記第1交流電圧より小さい振幅を持った前記第2交流電圧を印加する、
請求項4に記載の入力装置。
前記系列を構成する各々の前記振幅パターンにおいて、前記一群の駆動電極の数と前記残りの駆動電極の数とを一致させ、前記一群の駆動電極に印加する前記第2交流電圧の振幅を前記第1交流電圧の振幅より大きくし、前記残りの駆動電極に印加する前記第2交流電圧の振幅を前記第1交流電圧の振幅より小さくする、
請求項1に記載の入力装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される装置では、自己容量型の検出と相互容量型の検出とを同時に行うことができないため、指の近接を検知する時間や、指の近接位置を特定する時間が長くなるという不利益がある。
【0008】
また特許文献2に記載される装置では、1つの検出電極に複数の駆動電極が交差して配置されており、検出電極と複数の駆動電極との間にはそれぞれキャパシタ(相互容量)が形成される。複数の駆動電極のうち、一部の駆動電極には検出電極の電圧と同相の駆動電圧が印加され、残りの駆動電極には検出電極の電圧と逆相の駆動電圧が印加される。駆動電圧が逆相の駆動電極では、駆動電圧が同相の駆動電極に比べてキャパシタの電圧変化が大きくなり、キャパシタに供給される電荷量が大きくなる。逆相の駆動電圧が印加される駆動電極の数が多くなると、検出電極に指が近接していない定常状態で検出電極の全体のキャパシタに供給される電荷量が大きくなる。定常状態の電荷量が大きいほど、検出電極の全キャパシタの検出結果として得られる検出信号のオフセット成分が大きくなる。検出信号のオフセット成分が大きくなることにより、検出信号を増幅するアンプにおけるダイナミックレンジが制限されてしまい、検出感度が低下するという不利益がある。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、自己容量型の検出と相互容量型の検出とを同時に行うことが可能であり、良好な検出感度が得られる入力装置とその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点は、検出領域に対する物体の位置の変化による静電容量の変化に応じた情報を入力する入力装置に関する。この入力装置は、前記検出領域に配置された検出電極と、前記検出領域に配置され、前記検出電極との間にそれぞれキャパシタが形成される複数の駆動電極と、前記検出電極において第1交流電圧が生じるように前記検出電極へ周期的に電荷を供給し、供給した電荷に応じた検出信号を出力する電荷検出部と、周波数及び位相が前記第1交流電圧と等しい第2交流電圧を前記複数の駆動電極の各々に印加し、前記第2交流電圧の振幅を前記駆動電極ごとに変更可能な駆動部と、前記駆動部が前記複数の駆動電極の各々に印加する前記第2交流電圧の振幅の組み合わせである振幅パターンを切り替える制御部とを有する。前記制御部は、予め定められた前記振幅パターンの系列に基づいて前記振幅パターンの切り替えを行い、前記系列を構成する各々の前記振幅パターンにおいて、1つの前記駆動電極又は一群の前記駆動電極を除いた残りの前記駆動電極に同一の振幅を持った前記第2交流電圧を印加し、前記1つの駆動電極又は前記一群の駆動電極には前記残りの駆動電極とは異なる振幅を持った前記第2交流電圧を印加する。
【0011】
この構成によれば、前記検出電極には、前記電荷検出部から周期的に電荷が供給されることにより、前記第1交流電圧が生じる。また前記検出電極との間にそれぞれキャパシタが形成される前記複数の駆動電極の各々には、前記駆動部により、周波数及び位相が前記第1交流電圧と等しい前記第2交流電圧が印加される。前記振幅パターンは、前記複数の駆動電極の各々に印加される前記第2交流電圧の振幅の組み合わせであり、予め定められた前記振幅パターンの系列に基づいて、前記振幅パターンの切り替えが行われる。
【0012】
前記検出電極に指等の物体が近接すると、前記検出電極と前記物体との間にキャパシタが形成される。前記検出電極と前記物体との近接の度合いに応じて当該キャパシタの静電容量(自己容量)が変化すると、前記電荷検出部から前記検出電極へ供給される電荷量が変化し、これに応じて前記検出信号が変化する。すなわち、前記検出信号には、前記検出電極と前記物体との間の自己容量に関わる成分が含まれる。この自己容量に関わる成分に基づいて、前記検出電極に対する前記物体の近接の有無や近接度合いを検出することが可能となる。
【0013】
また、前記検出電極と前記駆動電極との間に形成される前記キャパシタに前記物体が近接した場合、当該キャパシタの静電容量(相互容量)が変化し、この相互容量の変化に応じて前記検出信号が変化する。すなわち、前記検出信号には、前記検出電極と前記物体との間の相互容量に関わる成分も含まれる。前記系列を構成する各々の前記振幅パターンにおいて、1つの前記駆動電極又は一群の前記駆動電極を除いた残りの前記駆動電極には、同一の振幅を持った前記第2交流電圧が印加され、前記1つの駆動電極又は前記一群の駆動電極には、前記残りの駆動電極とは異なる振幅を持った前記第2交流電圧が印加される。そのため、1つの前記駆動電極又は一群の前記駆動電極と前記検出電極との間に形成される前記キャパシタに前記物体が近接した場合と、前記残りの電極と前記検出電極との間に形成されるキャパシタに前記物体が近接した場合とでは、相互容量の変化に応じた前記検出信号の変化の大きさが異なる。従って、前記検出信号に含まれる相互容量の成分が前記振幅パターンに応じて異なることに基づいて、前記検出電極上のどの部分に前記物体が近接しているかを識別することが可能となる。
【0014】
前記駆動電極に印加される前記第2交流電圧と前記検出電極に生じる前記第1交流電圧とは、周波数及び位相が等しいため、これらの位相が逆の場合に比べて、前記駆動電極と前記検出電極との間に形成される前記キャパシタの電圧の変化が抑制される。このキャパシタの電圧変化が小さくなると、前記物体の近接の有無に関わらず前記キャパシタへ供給される電荷が小さくなるため、前記検出信号のオフセット成分が小さくなる。従って、自己容量や相互容量の変化による前記検出信号のダイナミックレンジが、前記検出信号のオフセット成分によって制限され難くなるため、検出感度を高め易くなる。
【0015】
好適に、前記制御部は、前記系列を構成する各々の前記振幅パターンにおいて、前記第1交流電圧と同じ振幅を持った前記第2交流電圧を前記残りの駆動電極に印加してよい。
【0016】
この構成によれば、前記検出電極に生じる前記第1交流電圧と前記残りの駆動電極に印加される前記第2交流電圧とが同じ振幅になるため、前記残りの駆動電極と前記検出電極との間に形成されるキャパシタへ供給される電荷量がゼロになる。従って、前記物体の近接の有無に関わらず前記キャパシタへ供給される電荷が小さくなるため、前記検出信号のオフセット成分が小さくなる。
【0017】
好適に、前記制御部は、前記系列を構成する各々の前記振幅パターンにおいて、前記第1交流電圧より大きい振幅を持った前記第2交流電圧を前記1つの駆動電極又は前記一群の駆動電極に印加してよい。
【0018】
この構成によれば、前記第1交流電圧より大きい振幅を持った前記第2交流電圧が前記1つの駆動電極又は前記一群の駆動電極に印加される。そのため、前記1つの駆動電極又は前記一群の駆動電極と前記検出電極との間における相互容量の変化に応じて前記検出電極に供給される電荷の極性と、前記検出電極と前記物体との間における自己容量の変化に応じて前記検出電極に供給される電荷の極性とが逆になる。また、前記物体と前記検出電極との距離が変化した場合、相互容量の変化の方向と自己容量の変化の方向とが逆になる(一方が大きくなると他方が小さくなる)。従って、前記物体と前記検出電極との距離が変化した場合、相互容量の変化に応じて前記検出電極に供給される電荷が変化する方向と、自己容量の変化に応じて前記検出電極に供給される電荷が変化する方向とが一致する。これにより、両者の電荷の変化が打ち消し合うことがないため、前記物体と前記検出電極との距離に対する前記検出信号の線形性の劣化が抑制される。
【0019】
好適に、前記制御部は、前記系列を構成する各々の前記振幅パターンにおいて、前記一群の駆動電極に含まれる一部の前記駆動電極に前記第1交流電圧より大きい振幅を持った前記第2交流電圧を印加し、前記一群の駆動電極に含まれる他の一部の前記駆動電極に前記第1交流電圧より小さい振幅を持った前記第2交流電圧を印加してよい。
例えば、前記制御部は、前記系列を構成する各々の前記振幅パターンにおいて、前記キャパシタの位置が隣接する2つの前記駆動電極の一方に前記第1交流電圧より大きい振幅を持った前記第2交流電圧を印加し、当該2つの駆動電極の他方に前記第1交流電圧より小さい振幅を持った前記第2交流電圧を印加してよい。
【0020】
この構成によれば、前記第1交流電圧より大きい振幅を持った前記第2交流電圧が印加される前記一部の駆動電極と、前記第1交流電圧より小さい振幅を持った前記第2交流電圧が印加される前記他の一部の駆動電極とにおいて、相互容量の変化に応じた電荷の変化の極性が逆になっている。そのため、相互容量の変化に応じた電荷の変化の極性が異なる前記振幅パターンを用いて、1つの前記駆動電極についての異なる前記検出信号を得ることが可能になる。従って、前記異なる検出信号により、前記1つの駆動電極における相互容量の変化が感度良く検出される。
また、前記一部の駆動電極と前記他の一部の駆動電極とにおいて、相互容量の変化に応じた電荷の変化の極性が逆になっているため、両者の電荷の変化が打ち消し合い、前記検出電極へ供給される全体の電荷が小さくなる。そのため、前記検出信号のオフセット成分が小さくなる。
【0021】
好適に、前記制御部は、前記系列を構成する各々の前記振幅パターンにおいて、前記一群の駆動電極の数と前記残りの駆動電極の数とを一致させ、前記一群の駆動電極に印加する前記第2交流電圧の振幅を前記第1交流電圧の振幅より大きくし、前記残りの駆動電極に印加する前記第2交流電圧の振幅を前記第1交流電圧の振幅より小さくしてよい。
【0022】
この構成によれば、前記一群の駆動電極に印加する前記第2交流電圧の振幅が前記第1交流電圧の振幅より大きくなり、前記残りの駆動電極に印加する前記第2交流電圧の振幅が前記第1交流電圧の振幅より小さくなる。これにより、前記一群の駆動電極における1つの駆動電極と前記検出電極との間に形成されるキャパシタに供給される電荷の極性と、前記残りの駆動電極における1つの駆動電極と前記検出電極との間に形成されるキャパシタに供給される電荷の極性とが逆になり、これらの電荷が互いに打ち消し合う。更に、前記一群の駆動電極の数と前記残りの駆動電極の数とが等しいため、前記一群の駆動電極の全体と前記検出電極との間に形成されるキャパシタに供給される電荷の量と、前記残りの駆動電極の全体と前記検出電極との間に形成されるキャパシタの供給される電荷の量とが近くなり、両者の電荷の和が小さくなる。従って、前記物体の近接の有無に関わらず前記キャパシタへ供給される全体の電荷が小さくなるため、前記検出信号のオフセット成分が小さくなる。
【0023】
好適に、前記系列を構成する各々の前記振幅パターンは、第1振幅パターン又は第2振幅パターンのいずれかであってよい。前記制御部は、前記第1振幅パターンの場合、第1振幅を持った前記第2交流電圧を前記1つの駆動電極に印加するとともに、第3振幅を持った前記第2交流電圧を前記残りの駆動電極に印加し、前記第2振幅パターンの場合、前記第1振幅より小さい第2振幅を持った前記第2交流電圧を前記1つの駆動電極に印加するとともに、前記第3振幅を持った前記第2交流電圧を前記残りの駆動電極に印加してよい。前記第1振幅パターンにおいて前記1つの駆動電極と前記検出電極との間に形成される前記キャパシタと、前記第2振幅パターンにおいて前記1つの駆動電極と前記検出電極との間に形成される前記キャパシタとが、前記検出領域において交互に並んでいてよい。
【0024】
この構成によれば、前記第1振幅パターンにおいて前記1つの駆動電極と前記検出電極との間に形成される前記キャパシタ(以下、第1キャパシタと記す場合がある。)と、前記第2振幅パターンにおいて前記1つの駆動電極と前記検出電極との間に形成される前記キャパシタ(以下、第2キャパシタと記す場合がある。)とでは、印加される前記第2交流電圧の振幅が異なるため、それぞれの静電容量(相互容量)の変化に応じた電荷の変化量が異なる。また、前記検出領域において前記第1キャパシタと前記第2キャパシタとが交互に並んでいるため、前記検出領域には、互いに隣接する位置関係にある前記第1キャパシタと前記第2キャパシタとが存在する。従って、前記検出領域において前記第1キャパシタと前記第2キャパシタとが隣接関係にある前記第1振幅パターンの検出信号と前記第2振幅パターンの検出信号との違いに基づいて、前記第1キャパシタと前記第2キャパシタとが隣接する位置における前記物体の近接の度合いに関する情報が得られる。
【0025】
好適に、上記入力装置は、前記検出電極に隣接して配置されたシールド電極と、前記第1交流電圧を発生して前記シールド電極に印加する電圧発生部とを有してよい。
【0026】
この構成によれば、前記検出電極に隣接して前記シールド電極が配置されるため、前記検出電極に対する不要な静電結合が減少する。また、前記シールド電極と前記検出電極とが同じ電圧になるため、前記シールド電極と前記検出電極との間に形成される寄生キャパシタには電荷が供給されない。
【0027】
好適に、前記電荷検出部は、前記検出電極の電圧と前記シールド電極の電圧とが等しくなるように前記検出電極へ電荷を供給し、供給した電荷に応じた前記検出信号を出力してよい。
【0028】
好適に、前記入力装置は複数の前記検出電極を有してよい。
【0029】
好適に、前記検出領域の表面は、操作者によって操作される操作面を含んでよい。
【0030】
本発明の第2の観点は、検出領域に対する物体の位置の変化による静電容量の変化に応じた情報を入力する入力装置の制御方法に関する。前記入力装置は、前記検出領域に配置された検出電極と、前記検出領域に配置され、前記検出電極との間にそれぞれキャパシタが形成される複数の駆動電極と、前記検出電極において第1交流電圧が生じるように前記検出電極へ周期的に電荷を供給し、供給した電荷に応じた検出信号を出力する電荷検出部と、周波数及び位相が前記第1交流電圧と等しい第2交流電圧を前記複数の駆動電極の各々に印加し、前記第2交流電圧の振幅を前記駆動電極ごとに変更可能な駆動部とを有する。前記制御方法は、前記駆動部が前記複数の駆動電極の各々に印加する前記第2交流電圧の振幅の組み合わせである振幅パターンを、予め定められた前記振幅パターンの系列に基づいて切り替えることと、前記系列を構成する各々の前記振幅パターンにおいて、1つの前記駆動電極又は一群の前記駆動電極を除いた残りの前記駆動電極に同一の振幅を持った前記第2交流電圧を印加し、前記1つの駆動電極又は前記一群の駆動電極には前記残りの駆動電極とは異なる振幅を持った前記第2交流電圧を印加することとを有する。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、自己容量型の検出と相互容量型の検出とを同時に行うことが可能であり、良好な検出感度が得られる入力装置とその制御方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態に係る入力装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る入力装置の構成の一例を示す図である。
図1に示す入力装置は、指やペンなどの物体が近接することで静電容量が変化するセンサ部10と、センサ部10の静電容量の変化を検出する静電容量検出部20と、処理部30とを有する。本実施形態に係る入力装置は、センサ部10の検出領域ARに対する物体の位置の変化による静電容量の変化を静電容量検出部20において検出し、検出した静電容量の変化に応じた情報を入力する装置である。例えば入力装置は、タッチパッドやタッチパネルなどのユーザインターフェース装置である。検出領域ARの表面には、操作者によって操作される操作面が設けられている。
【0034】
(センサ部10)
センサ部10は、検出領域ARの複数の検出位置において、指やペンなどの物体が近接することによる静電容量の変化を生じるように構成される。例えばセンサ部10は、検出領域ARに配置された複数の検出電極(Y1〜Y4)及び複数の駆動電極(X1〜X5)と、検出電極(Y1〜Y4)に隣接して配置されたシールド電極ASを有する。
図1の例において、各検出電極(Y1〜Y4)は横方向に延びており、各駆動電極(X1〜X5)は縦方向に延びている。複数の検出電極(Y1〜Y4)は縦方向へ平行に配列され、複数の駆動電極(X1〜X5)は横方向へ平行に配列される。複数の検出電極(Y1〜Y4)と複数の駆動電極(X1〜X5)とが格子状に交差して配置されており、その交差点の付近において検出電極と駆動電極の間にキャパシタが形成される。
図1の例では、検出領域ARに対する物体の位置の変化に応じた静電容量の変化を生じ易くするため、検出電極及び駆動電極の交差点の近くには、ひし形状に膨らんだ部分が設けられている。検出電極(Y1〜Y4)と駆動電極(X1〜X5)は、それぞれ配線を介して静電容量検出部20に接続される。
【0035】
図2は、
図1の点線P−P’におけるセンサ部10の断面を例示する図である。
図2の例において、センサ部10は7つの層(L1〜L7)を有しており、白塗りの部分は絶縁体を表す。物体の接触を考慮して、検出領域ARの操作面となる最上層L1は絶縁体で覆われる。駆動電極X3、検出電極Y4及びシールド電極ASは、この順番で上層から下層に向かって配置される。駆動電極X3、検出電極Y4及びシールド電極ASの層間には、各電極が電気的に独立の電位を取り得るように、絶縁体の層が設けられている。なお、
図1の例において、駆動電極X3は検出電極Y4より上層(検出領域ARの操作面に近い側)に配置されているが、逆の配置でもよい。また、
図1の例では、検出領域ARの全体において駆動電極(X1〜X5)が検出電極(Y1〜Y4)より上層に配置されているが、これらの電極の上下関係は部分的に入れ替わってもよい。いずれの場合においても、シールド電極ASは検出電極(Y1〜Y4)及び駆動電極(X1〜X5)より下層(検出領域ARの操作面から離れた側)に配置される。
【0036】
図3は、本実施形態に係る入力装置におけるセンサ部10と静電容量検出部20の構成の一例を示す図であり、1つの検出電極Yと1つの駆動電極Xについて静電容量の検出を行う回路を示す。なお、符号「Y」は複数の検出電極(Y1〜Y4)における任意の1つを示し、符号「X」は複数の駆動電極(Y1〜Y5)における任意の1つを示す。
【0037】
図3において、符号「Cxy」は、駆動電極Xと検出電極Yとの交差部付近に形成される駆動電極Xと検出電極Yとの間のキャパシタ、若しくは当該キャパシタの静電容量である相互容量を示す。符号「Cas」は、検出電極Yとシールド電極ASとの間に形成されるキャパシタ、若しくは、当該キャパシタの静電容量であるシールド容量を示す。なお、これらのキャパシタの他に、検出電極YとグランドGNDとの間には、指などの物体の近接によるキャパシタCfsが形成される。キャパシタCfsの静電容量である自己容量も符号「Cfs」で表す。
【0038】
(静電容量検出部20)
静電容量検出部20は、シールド電極ASに第1交流電圧V1を印加する電圧発生部25と、複数の駆動電極Xの各々に第2交流電圧V2を印加する駆動部24と、検出電極Yに接続される電荷検出部22と、アナログ−デジタル変換器23と、制御部21を有する。
【0039】
電圧発生部25は、周期的にレベルが変化する第1交流電圧V1を発生し、シールド電極ASに印加する。以下では例として、第1交流電圧V1の波形は、基準電圧Vrefを中心として周期的に振動する矩形波とする。
【0040】
駆動部24は、周波数と位相が概ね第1交流電圧V1と等しい第2交流電圧V2を複数の駆動電極Xの各々に印加する。以下では例として、第2交流電圧V2の波形も第1交流電圧V1と同様に、基準電圧Vrefを中心として周期的に振動する矩形波とする。駆動部24は、後述する制御部21の制御に従って、第2交流電圧V2の振幅を駆動電極Xごとに変更することができる。
【0041】
なお、第1交流電圧V1、第2交流電圧V2の波形は矩形波に限らず、正弦波などの他の周期的な波形でもよい。
【0042】
電荷検出部22は、シールド電極ASと同じ第1交流電圧V1が検出電極Yにおいて生じるように検出電極Yへ周期的に電荷を供給し、供給した電荷に応じた検出信号Sを出力する。
【0043】
シールド電極ASと検出電極Yとの間や、駆動電極Xと検出電極Yとの間には、
図3において示すようにキャパシタ(Cas、Cxy等)が形成される。そのため、交流電圧(第1交流電圧V1、第2交流電圧V2)の印加によってシールド電極ASの電圧や駆動電極Xの電圧が変化すると、検出電極Yの電圧も変化する。電荷検出部22は、この検出電極Yの電圧の変化とシールド電極ASの電圧の変化とが一致するように、検出電極Yへ正又は負の電荷を供給する。
【0044】
シールド電極ASに印加される第1交流電圧V1の振幅は一定であり、駆動電極Xに印加される第2交流電圧V2の振幅は制御部21の制御に従って設定される。そのため、交流電圧(第1交流電圧V1、第2交流電圧V2)の一回のレベル変化に伴って電荷検出部22から検出電極Yに供給される電荷は、検出電極Yに形成されるキャパシタ(Cxy、Cfs等)の静電容量に応じた大きさを持つ。従って、この電荷に応じた電荷検出部22の検出信号Sは、検出電極Yに形成されるキャパシタ(Cxy、Cfs等)の静電容量に応じた信号となる。
【0045】
図4は、電荷検出部22の構成の一例を示す図である。
図4に示す電荷検出部22は、演算増幅器221と、電荷リセット回路222と、キャパシタCintとを有する。演算増幅器221の非反転入力端子はシールド電極ASに接続され、反転入力端子は検出電極Yに接続される。キャパシタCintは、演算増幅器221の出力端子と反転入力端子との間の経路に設けられる。演算増幅器221の出力端子から検出信号Sが出力される。
【0046】
電荷リセット回路222は、後述する振幅パターンの切り替えを行う際、キャパシタCintに蓄積される電荷をリセットする回路であり、キャパシタCintと並列接続されたスイッチSWを含む。スイッチSWは、キャパシタCintに蓄積された電荷をリセットする場合にオンし、検出信号Sを出力する期間においてオフする。
【0047】
電荷検出部22は、複数の検出電極Yにそれぞれ1つずつ設けられてもよいし、切り替え回路を用いて複数の検出電極Yを1つの電荷検出部22に接続してもよい。電荷検出部22が複数の場合、アナログ−デジタル変換器23は、複数の電荷検出部22の後段に1つずつ設けられてもよいし、切り替え回路を用いて複数の電荷検出部22を1つのアナログ−デジタル変換器23に接続してもよい。
【0048】
アナログ−デジタル変換器23は、電荷検出部22から出力される検出信号Sをデジタル信号Dに変換する。アナログ−デジタル変換器23は、例えば、制御部21から供給されるタイミング信号に同期したタイミングでアナログ−デジタル変換を行う。
【0049】
制御部21は、入力装置における各部の動作を制御する。制御部21は、例えば、特定の処理を実行するように構成されたハードウェア(ロジック回路)を含んでもよいし、ソフトウェア(プログラム)に基づいて処理を実行するコンピュータを含んでもよい。制御部21は、全ての処理をハードウェアで実行してもよいし、少なくとも一部の処理をコンピュータとソフトウェアによって実行してもよい。
【0050】
制御部21は、駆動部24が複数の駆動電極Xの各々に印加する第2交流電圧V2の振幅の制御を行う。ここで、駆動部24が複数の駆動電極Xの各々に印加する第2交流電圧V2の振幅の組み合わせを「振幅パターン」と呼ぶことにすると、制御部21は、この振幅パターンを、予め決められた振幅パターンの系列に基づいて順に切り替える。
【0051】
制御部21は、振幅パターンの系列を構成する各々の振幅パターンにおいて、1つの駆動電極Xを除いた残りの駆動電極Xに同一の振幅を持った第2交流電圧V2を印加し、当該1つの駆動電極Xには残りの駆動電極Xと異なる振幅を持った第2交流電圧V2を印加する。具体的には、制御部21は、各々の振幅パターンにおいて、1つの駆動電極Xに第1交流電圧V1より大きい振幅VHを持った第2交流電圧V2を印加し、残りの駆動電極Xには第1交流電圧V1と同じ振幅VDを持った第2交流電圧V2を印加する。制御部21は、振幅パターンを切り替えることにより、全ての駆動電極Xへ振幅VHの第2交流電圧V2を順に印加する。
【0052】
また制御部21は、各振幅パターンにおいて電荷検出部22から検出信号Sを出力させ、アナログ−デジタル変換器23において検出信号Sをデジタル信号Dに変換するための制御を行う。制御部21は、1つの振幅パターンを別の振幅パターンへ切り替える場合、電荷検出部22のキャパシタCintに蓄積される電荷を電荷リセット回路222によってリセットする。そして制御部21は、新たな振幅パターンに切り替わった後、リセット状態のキャパシタCintにおいて電荷を蓄積させる。制御部21は、各振幅パターンにおいて電荷検出部22から出力される検出信号Sを、アナログ−デジタル変換器23においてデジタル信号Dに変換する。
【0053】
(処理部30)
処理部30は、静電容量検出部20の検出結果(デジタル信号D)に基づいて、各振幅パターンにおいて電荷検出部22から検出電極Yに供給される電荷に応じた検出値SDを取得する。例えば処理部30は、振幅パターンごとに静電容量検出部20から出力される交流のデジタル信号Dと第1交流電圧V1に同期した交流の基準信号とを乗算し、その乗算結果の信号に含まれる高周波成分をローパスフィルタによって減衰させることにより、デジタル信号Dの振幅に応じた検出値SDを取得する。処理部30は、振幅パターンごとに得られる検出値SDに基づいて、例えば物体が近接した位置の座標や、物体の大きさ(接触範囲)などを算出する。処理部30は、例えば、ソフトウェアに基づいて処理を実行するコンピュータを含む。処理部30の処理は、全てコンピュータとソフトウェアによって実行してもよいし、少なくとも一部を専用のハードウェアによって実行してもよい。
【0054】
(入力装置の動作)
ここで、上述した構成を有する本実施形態に係る入力装置の動作を説明する。
【0055】
図5は、センサ部10に指が接近した場合の等価回路を示す図である。この図では簡単化のため、アナログ−デジタル変換器23以降を省略して図示している。また、理解を容易にするため、検出電極Y1におけるキャパシタのみを図解している。符号「Cx1y1」は駆動電極X1と検出電極Y1との間に形成されるキャパシタとその静電容量を示し、符号「Cxny1」は駆動電極Xnと検出電極Y1との間に形成されるキャパシタとその静電容量を示す。
【0056】
通常、人体は、センサに近接したときのセンサとの静電容量に比べて十分に大きな静電容量でグランドGNDと結合していることから、指などの人体は実質的にグランドGNDとみなせる。そのため、検出電極Y1に指が近接すると、
図5に示すように、指の自己容量CfsがグランドGNDと検出電極Y1との間に形成されることになる。指の自己容量Cfsの大きさは、指が検出電極Y1に近接するときの距離によって変化し、距離が短いほど自己容量Cfsは大きくなる。
【0057】
図6は、本実施形態における第2交流電圧V2の振幅パターンの例を示す図である。この図の例では、n本の駆動電極X1〜Xnが検出電極Y1と交差するように配置され、それらの下層にシールド電極ASが配置されている。駆動電極Xと検出電極Yは模式的に短冊状に示されているが、この形状に限定されない。
図6に示す振幅パターンでは、第1交流電圧V1より大きな振幅VHを持つ第2交流電圧V2が駆動電極X1に印加され、他の駆動電極X2〜Xnには第1交流電圧V1と同じ振幅VDを持つ第2交流電圧V2が印加される。また、シールド電極ASには、振幅VDの第1交流電圧V1が印加される。駆動電極X2〜Xnに印加される第2交流電圧V2は、シールド電極ASに印加される第1交流電圧V1とほぼ同じ周波数及び位相を持つ。
【0058】
この
図6の例において、センサ部10に指が全く近接していない場合と、二重丸で示す「A」の部分に指が近接する場合と、二重丸で示す「B」の部分に指が近接する場合について、それぞれ
図7〜
図9を参照して説明する。
【0059】
まず初めに、指が検出領域ARに近接していない状態の等価回路を
図7に示す。駆動電極X2〜Xnには同一振幅の第2交流電圧V2が印加されるため、
図7では、駆動電極X2〜Xnと検出電極Y1との間に形成されるn−1個のキャパシタを1つのキャパシタCrxyで表している。検出電極Y1とシールド電極ASとの間には、キャパシタCasが形成される。検出電極Y1とシールド電極ASは、破線で囲まれた電荷検出部22に接続される。電荷検出部22は、検出電極Y1とシールド電極ASとの電圧がほぼ等しくなるように検出信号Sを出力し、キャパシタCintを介して検出電極Y1に電荷を供給する。電荷検出部22は、検出電極Y1に供給する電荷に応じた検出信号Sを出力する。
【0060】
図7に示すように、駆動電極X1には振幅VHの矩形波の第2交流電圧V2が印加され、駆動電極X2〜Xnには振幅VDの第2交流電圧V2が印加され、シールド電極ASには振幅VDの第1交流電圧V1が印加される。
図7における矩形波の上向きの矢印は、同一のタイミングを示す。これらの矩形波の電圧が各電極に印加されるとき、上向きの矢印で示す1つのエッジのタイミングにおいて(ただし、それ以前の動作が収束していると仮定する)、電荷検出部22のキャパシタCintから検出電極Y1に向かって流入する正の電荷を「Qy1」とする。この場合、電荷検出部22の負帰還動作により、検出電極Y1とシールド電極ASはほぼ同じ電圧となるため、シールド容量Casに対する電荷の流入はゼロとなる。また、駆動電極X2〜Xnとシールド電極ASには同相で同じ振幅の交流電圧が印加されるため、キャパシタCrxyに対する電荷の流入もゼロとなる。従って、電荷検出部22から検出電極Yに供給される電荷Qy1は、キャパシタCx1y1の静電容量によって、次の式で表される。
【0061】
Qy1=−(VH−VD)・Cx1y1 … (1)
【0062】
電荷検出部22は、この式(1)で表される電荷Qy1に応じた検出信号Sを出力する。
【0063】
次に、
図6の「A」の部分に指が近接する状態の等価回路を
図8に示す。この場合は、検出電極Y1とグランドGNDとの間に指の自己容量Cfsが形成される。また、「A」の部分は駆動電極X1の上であるため、駆動電極X1と検出電極Y1との間の相互容量は、指が近接していないときの相互容量Cx1y1に比べて若干減少する。
【0064】
図10は、指の近接による相互容量の減少を説明するための図である。
図10Aは、指が近接していない状態で駆動電極Xと検出電極Yに電位差がある場合の電気力線FLを模式的に表す。この2つの電極は、空間的に絶縁体を介して並んでいるため、静電容量の等価回路は
図10Bに示すように相互容量Cxyとして表すことができる。
【0065】
一方、
図10Cは、指が近接した状態を表す図である。この場合は、
図10Cに示すように、駆動電極Xと検出電極Yの間の空間にグランドGNDの電位を持つ導体が存在することになる。そのため、駆動電極Xと検出電極Yとの間を渡る電気力線FLの一部が、グランドGNDの電位を持つ導体によって遮蔽された状態になる。この場合の等価回路は、
図10Dに示すように、駆動電極Xと検出電極Yとの間の相互容量CMxy、駆動電極XとグランドGNDとの間の静電容量Cfd、及び、検出電極YとグランドGNDとの間の静電容量Cfsに分割される。従って、指が近接する場合の相互容量CMxyは、指が近接していない場合の相互容量Cxyに比べて小さくなる。すなわち、「Cxy>CMxy」の関係が成立する。
【0066】
相互容量Cxyと相互容量CMxyとの差を「Cp」(=Cxy−CMxy)とすると、指が近接する場合の相互容量CMx1y1は、「Cx1y1−Cp」と表せる。このとき、「A」以外の場所では指が近接していないため、駆動電極X2〜Xnと検出電極Y1との間の相互容量は「Crxy」で変わらない。駆動電極X1、X2〜Xn及びシールド電極ASに図示するような振幅を持つ矩形波の交流電圧を印加する場合、矢印で示す1つのエッジのタイミングにおいて電荷検出部22から検出電極Y1へ流入する正の電荷を「Qy1’」とすると、電荷Qy1’は次の式で表される。
【0067】
Qy1’=−(VH−VD)・(Cx1y1−Cp)+VD・Cfs
… (2)
【0068】
次に、
図6の「B」の部分に指が近接する状態の等価回路を
図9に示す。
この場合も、検出電極Y1上に指が近接することによって、その場所における相互容量が減少する。ただし、
図8の場合と異なり、駆動電極X1とは別の駆動電極X2に指が近接するため、駆動電極X2〜Xnと検出電極Y1との間に形成される相互容量CMrxyは、
図8の場合における相互容量Crxyに比べて「Cp」だけ小さくなる(CMrxy=Crxy−Cp)。駆動電極X1、X2〜Xn及びシールド電極ASに図示するような振幅を持つ矩形波の交流電圧を印加する場合、矢印で示す1つのエッジのタイミングにおいて電荷検出部22から検出電極Y1へ流入する正の電荷を「Qy1’’」とすると、この電荷Qy1’’は次の式で表される。
【0069】
Qy1’’=−(VH−VD)・Cx1y1+VD・Cfs … (3)
【0070】
指の自己容量Cfsは、指の近接の有無による相互容量の差Cpに比べて大きく、自己容量Cfsは相互容量の差Cpの3倍以上であることが知られている。
【0072】
また、振幅VHは振幅VDより大きいため(VH>VD)、式(1)〜(3)における「VH−VD」の項は正である。そのため、指が近接していない状態(
図7)、「A」の部分に指が近接した状態(
図8)、及び、「B」の部分に指が近接した状態(
図9)のそれぞれにおいて電荷検出部22から検出電極Y1に流入する正の電荷には、次の関係が成立する。
【0073】
Qy1’>Qy1’’>Qy1 … (5)
【0074】
式(5)の関係が成立することから、検出電極Y1へ供給される電荷に応じた電荷検出部22の検出信号Sに基づいて、検出電極Y1に指が近接しているか否かを識別できるとともに、指が駆動電極X1に近接しているのか、あるいは駆動電極X2〜Xnに近接しているのかを識別することも可能となる。
【0075】
図11は、
図6の振幅パターンの次に切り替わる振幅パターンの例を示す図である。
図11に示す振幅パターンの例では、第1交流電圧V1より大きな振幅VHの第2交流電圧V2が駆動電極X2に印加され、他の駆動電極(X1、X3〜Xn)には第1交流電圧V1と同じ振幅VDの第2交流電圧V2が印加される。すなわち、振幅VHの第2交流電圧V2を印加される駆動電極Xが横へ1つシフトする。
図11の振幅パターンでは、駆動電極X2に指が近接しているのか、それとも駆動電極X1、X3〜Xnに指が近接しているのかを識別することが可能となる。以下同様に、振幅パターンが切り替わる度に、振幅VHの第2交流電圧V2を印加される駆動電極Xが横へずれていく。各振幅パターンにおいて得られる検出信号Sに基づいて、検出電極Y1上の指の近接位置を特定することが可能となる。また、「Y1」と平行に複数本の検出電極Yが縦方向へ配列される
図1の構成によって、検出領域ARに対する2次元的な指の近接位置を特定することが可能となる。
【0076】
(特許文献2の方式との比較)
次に、特許文献2の方式との比較について述べる。仮に、特許文献2と同様の方式で各駆動電極Xに印加する交流電圧を発生させたとすると、1つの駆動電極Xに印加する交流電圧は検出電極Yの交流電圧と同相かつ同振幅(振幅VD)であり、残りの駆動電極Xに印加する交流電圧は検出電極Yの交流電圧と逆相かつ同振幅(振幅VD)である。この場合、指が近接していない状態でも定常的に検出電極Yへ供給される電荷の絶対値Qoff1は、次の式で表される。
【0077】
Qoff1=2・VD・Crxy … (6)
【0078】
これに対し、上述した実施形態において、指が近接していない状態でも定常的に検出電極Yへ供給される電荷の絶対値Qoff2は、次の式で表される。
【0079】
Qoff2=(VH−VD)・Cxy … (7)
【0080】
式(6)と式(7)とを比較して判るように、特許文献2の方式におけるキャパシタCrxyの電圧変化は「2・VD」であり、各電極に印加する交流電圧の振幅VDに比べて2倍となる。また、特許文献2の方式におけるキャパシタCrxyの静電容量はキャパシタCxyの静電容量に比べて大きい(通常10倍以上)。従って、特許文献2の入力装置は、本実施形態の入力装置に比べて検出信号Sのオフセット成分が大きくなり、検出信号Sのダイナミックレンジが小さくなる。
【0081】
また、上述した特許文献2と同様の方式で各駆動電極Xに印加する交流電圧を発生させた場合において、検出電極Yの交流電圧と逆相かつ同振幅(振幅VD)の交流電圧を印加した駆動電極Xに指が近接したとする。この場合、その駆動電極Xの相互容量Crxyが指の近接に伴って減少することによる電荷の変化と、検出電極Yの自己容量Cfsが指の近接に伴って増大することによる電荷の変化とが打ち消し合う。そのため、指の近接度合いと検出信号Sとの関係における線形性が劣化する。本実施形態の入力装置では、式(2)から分かるように、指の近接時において駆動電極Xの相互容量Crxyが減少することによる電荷の変化と、検出電極Yの自己容量Cfsが増大することによる電荷の変化とが同じ方向になるため、上述した線形性の劣化が抑制される。
【0082】
(振幅VHと振幅VDとの関係)
自己容量Cfs、相互容量Cx1y1、及び、相互容量の変化分Cpについて、それぞれ実測定に基づいた値を以下のように設定する。
Cfs=200[fF]、 Cx1y1=400[fF]、 Cp=50[fF]
【0083】
各静電容量が上記の値を持つ場合において、振幅VHが振幅VDの1.5倍であるとすると、式(1)〜式(3)はそれぞれ次の式のようになる。
【0084】
Qy1=−VD×(200[fF]) … (8)
Qy1’=VD×(25[fF]) … (9)
Qy1’’=0 … (10)
【0085】
電荷の最大値(Qy1’)と最小値(Qy1)との差は、式(8)及び式(9)から次式で表される。
【0086】
Qy1’−Qy1=VD×(225[fF]) … (11)
【0087】
他方、各静電容量が上記の値を持つ場合において、振幅VHが振幅VDの2倍であるとすると、式(1)〜式(3)はそれぞれ次の式のようになる。
【0088】
Qy1=−VD×(400[fF]) … (12)
Qy1’=−VD×(150[fF]) … (13)
Qy1’’=−VD×(200[fF]) … (14)
【0089】
電荷の最大値(Qy1’)と最小値(Qy1)との差は、式(11)及び式(12)から次式で表される。
【0090】
Qy1’−Qy1=VD×(250[fF]) … (15)
【0091】
式(11)と式(15)を比較して分るように、振幅VHを大きくすることによって感度を増大させることができる。例えば、振幅VHを振幅VDの1.5倍にした場合(VH=1.5VD)、キャパシタCxy(相互容量)に加わる交流電圧の振幅は「0.5VD」となり、振幅VHを振幅VDの2倍にした場合(VH=2VD)、キャパシタCxy(相互容量)に加わる交流電圧の振幅は「VD」となるため、前者より後者の方の感度が高くなる。
【0092】
相互容量の駆動電圧は、経験的に2.5[V]以上あれば、静電容量検出回路での必要なS/Nを確保できる。また、相互容量の静電容量検出回路では一般に3.0〜3.3[V]の電源電圧が用いられており、それよりも高い標準的な電源電圧は5.0[V]である。故に、典型的な用途において、振幅VDの第2交流電圧V2を発生するための電源電圧は3.0〜3.3[V]、振幅VHの第2交流電圧V2を発生するための電源電圧は5.0[V]であることが望ましい。従って、振幅VHは振幅VDの1.5倍から2倍までの範囲であることが望ましい。
【0093】
(第1の実施形態の変形例)
図6、
図11の例では、1つの駆動電極Xに第1交流電圧V1よりも大きな振幅VHを持つ第2交流電圧V2を印加し、残りの駆動電極Xに第1交流電圧V1と同じ振幅VDを持つ第2交流電圧V2を印加していたが、振幅VHの第2交流電圧V2を印加する駆動電極Xは2本以上でもよい。
図12は、複数の駆動電極Xに振幅VHの第2交流電圧V2を印加する例を示す図である。例えば、振幅VHの第2交流電圧V2を印加する駆動電極Xの数と、振幅VDの第2交流電圧V2を印加する駆動電極Xの数とは等しくしてもよい。各振幅パターンにおいて、振幅VHの第2交流電圧V2を印加する駆動電極Xと振幅VDの第2交流電圧V2を印加する駆動電極Xとの境界は、1か所若しくは2か所に設定される。この場合においても、振幅VHの第2交流電圧V2を印加する駆動電極Xと振幅VDの第2交流電圧V2を印加する駆動電極Xとの境界が1つずつずれた振幅パターンの系列を用いて振幅パターンの切り替えを行うことにより、指の近接位置を特定することが可能である。
【0094】
(第1の実施形態のまとめ)
本実施形態に係る入力装置によれば、検出電極Yには電荷検出部22から周期的に電荷が供給されることにより第1交流電圧V1が生じる。また検出電極Yとの間にそれぞれキャパシタCxyが形成される複数の駆動電極Xの各々には、駆動部24により、周波数及び位相が第1交流電圧V1と等しい第2交流電圧V2が印加される。複数の駆動電極Xの各々に印加される第2交流電圧V2の振幅の組み合わせである振幅パターンは、予め定められた振幅パターンの系列に基づいて順に切り替えられる。検出電極Yに指等の物体が近接すると、検出電極Yと物体との間にキャパシタCfsが形成される。検出電極Yと物体との近接の度合いに応じてキャパシタCfsの静電容量(自己容量)が変化すると、電荷検出部22から検出電極Yへ供給される電荷量が変化し、これに応じて検出信号Sが変化する。すなわち、検出信号Sには、検出電極Yと物体との間の自己容量に関わる成分が含まれる。この自己容量に関わる成分に基づいて、検出電極Yに対する物体の近接の有無や近接度合いを検出することが可能となる。
【0095】
また、本実施形態に係る入力装置によれば、検出電極Yと駆動電極Xとの間に形成されるキャパシタCxyに物体が近接した場合、キャパシタCxyの静電容量(相互容量)が変化し、この相互容量の変化に応じて検出信号Sが変化する。すなわち、検出信号Sには、検出電極Yと物体との間の相互容量に関わる成分も含まれる。振幅パターンの系列を構成する各々の振幅パターンにおいて、1つの駆動電極X(一群の駆動電極X)を除いた残りの駆動電極Xには、同一の振幅を持った第2交流電圧V2が印加され、この1つの駆動電極には、残りの駆動電極Xとは異なる振幅を持った第2交流電圧V2が印加される。そのため、1つの駆動電極X(一群の駆動電極X)と検出電極Yとの間に形成されるキャパシタCxyに物体が近接した場合と、残りの電極Xと検出電極Yとの間に形成されるキャパシタに物体が近接した場合とでは、相互容量の変化に応じた検出信号Sの変化の大きさが異なる。従って、検出信号Sに含まれる相互容量の成分が振幅パターンに応じて異なることに基づいて、検出電極Y上のどの部分に物体が近接しているかを識別することが可能となる。
【0096】
従って、本実施形態に係る入力装置では、自己容量型の検出と相互容量型の検出とを同時に行うことが可能である。
【0097】
また、本実施形態に係る入力装置によれば、駆動電極Xに印加される第2交流電圧V2と検出電極Yに生じる第1交流電圧V1とは、周波数及び位相が等しいため、これらの位相が逆の場合に比べて、駆動電極Xと検出電極Yとの間に形成されるキャパシタCxyの電圧の変化が抑制される。このキャパシタCxyの電圧変化が小さくなると、物体の近接の有無に関わらずキャパシタCxyへ供給される電荷が小さくなるため、検出信号Sのオフセット成分が小さくなる。従って、自己容量や相互容量の変化による検出信号Sのダイナミックレンジが、検出信号Sのオフセット成分によって制限され難くなるため、検出感度を高め易くなる。
【0098】
更に、本実施形態に係る入力装置によれば、検出電極Yに生じる第1交流電圧V1と、残りの駆動電極Xに印加される第2交流電圧V2とが同じ振幅になるため、残りの駆動電極Xと検出電極Yとの間に形成されるキャパシタCxyへ供給される電荷量がゼロになる。従って、物体の近接の有無に関わらずキャパシタCxyへ供給される電荷が小さくなるため、検出信号Sのオフセット成分が小さくなる。
【0099】
また、本実施形態に係る入力装置によれば、第1交流電圧V1より大きい振幅VHを持った第2交流電圧V2が1つの駆動電極X(一群の駆動電極X)に印加される。そのため、この1つの駆動電極X(一群の駆動電極X)と検出電極Yとの間における相互容量の変化に応じて検出電極Yに供給される電荷の極性と、検出電極Yと物体との間における自己容量の変化に応じて検出電極Yに供給される電荷の極性とが逆になる(式(2))。また、物体と検出電極Yとの距離が変化した場合、相互容量の変化の方向と自己容量の変化の方向とが逆になる(一方が大きくなると他方が小さくなる)。従って、物体と検出電極Yとの距離が変化した場合、相互容量の変化に応じて検出電極Yに供給される電荷が変化する方向と、自己容量の変化に応じて検出電極Yに供給される電荷が変化する方向とが一致する。これにより、両者の電荷の変化が打ち消し合うことがないため、物体と検出電極Yとの距離に対する検出信号Sの線形性の劣化を抑制できる。
【0100】
更に、本実施形態に係る入力装置によれば、振幅VHの第2交流電圧V2が印加される1つの駆動電極X(一群の駆動電極X)と検出電極Yとの間における相互容量に応じて検出電極Yに供給される電荷の極性と、検出電極YとグランドGNDとの間における寄生容量に応じて検出電極Yに供給される電荷の極性とが逆になる。そのため、寄生容量に応じた電荷が打ち消されて小さくなるため、寄生容量に起因する検出信号Sのオフセット成分を低減できる。
【0101】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に係る入力装置は、第1の実施形態に係る入力装置(
図1〜
図4)と同様の構成を有しており、両者の違いは、制御部21によって設定される第2交流電圧V2の振幅パターンにある。
【0102】
図13は、本実施形態に係る入力装置における第2交流電圧V2の振幅パターンの例を示す図である。この図に示す振幅パターンP1において、制御部21は、第1交流電圧V1より大きな振幅VHを持つ第2交流電圧V2を駆動電極X1に印加し、第1交流電圧V1より小さな振幅VLを持つ第2交流電圧V2を駆動電極X2に印加し、残りの駆動電極X3〜Xnに第1交流電圧V1と同じ振幅VDを持つ第2交流電圧V2を印加する。振幅VHと振幅VDと振幅VLとは「VH>VD>VL」の関係にある。振幅VH、VLの第2交流電圧V2を印加する2つの駆動電極X(X1、X2)は、本発明における「一群の駆動電極」の一例である。駆動電極X1と検出電極Y1との間に形成されるキャパシタCx1y1は、駆動電極X2と検出電極Y1との間に形成されるキャパシタCx2y1に隣接する。
【0103】
振幅パターンP1において指が検出領域ARに近接していない場合、交流電圧(第1交流電圧V1、第2交流電圧V2)の1つの立ち上がりエッジにおいて電荷検出部22から検出電極Y1へ流入する正の電荷QAy1は次の式で表される。
【0104】
QAy1=−(VH−VD)・Cx1y1−(VL−VD)・Cx2y1
…(16)
【0105】
振幅パターンP1において指が「A」(駆動電極X1と検出電極Y1との交差部)に近接する場合、交流電圧の1つの立ち上がりエッジにおいて電荷検出部22から検出電極Y1へ流入する正の電荷QAy1’は次の式で表される。
【0106】
QAy1’=−(VH−VD)・(Cx1y1−Cp)
−(VL−VD)・Cx2y1+VD・Cfs …(17)
【0107】
振幅パターンP1において指が「B」(駆動電極X3と検出電極Y1との交差部)に近接する場合、交流電圧の1つの立ち上がりエッジにおいて電荷検出部22から検出電極Y1へ流入する正の電荷QAy1’’は次の式で表される。
【0108】
QAy1’’=−(VH−VD)・Cx1y1
−(VL−VD)・Cx2y1+VD・Cfs …(18)
【0109】
振幅パターンP1において指が「C」(駆動電極X2と検出電極Y1との交差部)に近接する場合、交流電圧の1つの立ち上がりエッジにおいて電荷検出部22から検出電極Y1へ流入する正の電荷QAy1’’’は次の式で表される。
【0110】
QAy1’’’=−(VH−VD)・Cx1y1
−(VL−VD)・(Cx2y1−Cp)+VD・Cfs … (19)
【0111】
式(16)、式(17)及び式(18)は、式(1)、式(2)及び式(3)の右辺に「−(VL−VD)・Cx2y1」の項が加算されたものに等しい。振幅VLは振幅VDより小さいため、この項は正の値を持つ。従って、「C」に指が近接していない場合の電荷(QAy1、QAy1’、QAy1’’)は、第1の実施形態に係る入力装置において得られる電荷に固定のオフセット成分が加わったものと概ね等しい。
【0112】
他方、「C」に指が近接している場合の式(19)は、式(18)の右辺の第2項における相互容量を「Cx2y1」から「Cx2y1−Cp」へ減少させたものであるため、電荷QAy1’’’は電荷QAy1’’よりも小さい。また、自己容量「Cfs」は相互容量「Cx2y1」より十分大きいため、電荷QAy1’’’は電荷QAy1よりも大きい。従って、各状態において電荷検出部22から検出電極Y1に流入する正の電荷には、次の関係が成立する。
【0113】
QAy1’>QAy1’’>QAy1’’’>QAy1 … (20)
【0114】
図14は、
図13の振幅パターンP1の次に切り替わる振幅パターンP2の例を示す図である。振幅パターンP2では、振幅VHの第2交流電圧V2が駆動電極X2に印加され、振幅VLの第2交流電圧V2が駆動電極X3に印加され、振幅VDの第2交流電圧V2が残りの駆動電極X1、X4〜Xnに印加される。すなわち、振幅パターンP1からP2への切り替えによって、振幅VH、VDの第2交流電圧V2が印加される2つの駆動電極X(一群の駆動電極X)が横へ1つシフトする。相互容量Cxyとその変化分Cpが概ね均一であるものとすると、振幅パターンP2において「C」に指が近接する場合の電荷は、振幅パターンP1において「A」に指が近接する場合の電荷QAy1’(式(17))に近い値になる。以下同様に、振幅パターンが切り替わる度に、一群の駆動電極Xが横へずれていく。
【0115】
図15は、振幅パターンに応じて変化する検出値SDの例を示す図であり、
図13、
図14における「C」の位置に指が近接している場合の検出値SDを示す。検出値SDは、処理部30において静電容量検出部20の検出結果に基づいて取得されるデータ値であり、電荷検出部22から検出電極Yへ供給される電荷に応じた値を持つ。
【0116】
図15における「Sfs」は、振幅VDの第2交流電圧V2が印加された駆動電極Xと検出電極Yとの交差部(キャパシタ)に指が近接した場合の検出値SDを示しており、式(18)の電荷QAy1’’に対応する。振幅パターンP3以降において、検出値SDは概ね「Sfs」に近い値となる。
【0117】
図15における「Sfs−ΔSn」は、振幅VLの第2交流電圧V2が印加された駆動電極Xと検出電極Yとの交差部(キャパシタ)に指が近接した場合の検出値SDを示しており、式(19)の電荷QAy1’’’に対応する。「ΔSn」は、電荷QAy1’’と電荷QAy1’’’との差に対応する。振幅パターンP1において、検出値SDは「Sfs−ΔSn」となる。
【0118】
図15における「Sfs+ΔSp」は、振幅VHの第2交流電圧V2が印加された駆動電極Xと検出電極Yとの交差部(キャパシタ)に指が近接した場合の検出値SDを示しており、式(17)の電荷QAy1’に対応する。「ΔSp」は、電荷QAy1’と電荷QAy1’’との差に対応する。振幅パターンP2において、検出値SDは「Sfs+ΔSp」となる。
【0119】
図15における点線は、振幅VLと振幅VDとの差がゼロ(VL=VD)の場合を示しており、この場合は、振幅パターンP1と振幅パターンP2とにおける検出値SDの差が「ΔSp」になる。振幅VLを振幅VDよりも小さくすることで、
図15の実線が示すように、振幅パターンP1と振幅パターンP2とにおける検出値SDの差が「ΔSp+ΔSn」へ広がる。すなわち、指が近接している箇所がある場合に、振幅パターンの切り替わりに伴う検出値SDの変化が強調される。
【0120】
以上説明したように、本実施形態に係る入力装置によれば、第1交流電圧V1と異なる振幅を持つ第2交流電圧V2が印加された一群の駆動電極Xのうち、一部の駆動電極Xには、第1交流電圧V1より大きい振幅VHを持った第2交流電圧V2が印加され、他の一部の駆動電極Xには、第1交流電圧V1より小さい振幅VLを持った第2交流電圧V2が印加される。これにより、振幅VHの第2交流電圧V2が印加された一部の駆動電極Xと、振幅VLの第2交流電圧V2が印加された他の一部の駆動電極Xとにおいて、相互容量Cxyの変化に応じた電荷の変化の極性が逆になる(式(17)と式(19))。そのため、相互容量Cxyの変化に応じた電荷の変化の極性が異なる振幅パターンを用いて、1つの駆動電極Xについての異なる検出信号S(検出値SD)を得ることが可能になる。従って、この異なる検出信号S(検出値SD)を比較することにより、物体の近接による相互容量Cxyの変化を感度良く検出することが可能となり、物体の位置の検出精度を高めることができる。
【0121】
また、本実施形態に係る入力装置によれば、振幅VHの第2交流電圧V2が印加された一部の駆動電極Xと、振幅VLの第2交流電圧V2が印加された他の一部の駆動電極Xとにおいて、相互容量Cxyの変化に応じた電荷の変化の極性が逆になっているため、両者の電荷の変化が打ち消し合い、検出電極Yへ供給される全体の電荷が小さくなる。そのため、検出信号Sのオフセット成分を小さくすることができる。
【0122】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態に係る入力装置も、第1の実施形態に係る入力装置(
図1〜
図4)と同様の構成を有しており、両者の違いは、制御部21によって設定される第2交流電圧V2の振幅パターンにある。
【0123】
図16は、本実施形態に係る入力装置における第2交流電圧V2の振幅パターンの例を示す図である。この
図16に示す振幅パターンP1において、制御部21は、第1交流電圧V1より大きな振幅VHを持つ第2交流電圧V2を駆動電極X2に印加し、第1交流電圧V1より小さな振幅VLを持つ第2交流電圧V2を駆動電極X1及びX3に印加し、残りの駆動電極X4〜Xnに第1交流電圧V1と同じ振幅VDを持つ第2交流電圧V2を印加する。振幅VH、VLの第2交流電圧V2を印加する3つの駆動電極X(X1〜X3)は、本発明における「一群の駆動電極」の一例である。この3つの駆動電極X1〜X3と検出電極Y1との間に形成される3つキャパシタは、検出電極Y1上で並んでいる。
【0124】
図17は、
図16の振幅パターンP1の次に切り替わる振幅パターンP2の例を示す図である。
図17の振幅パターンP2では、振幅VHの第2交流電圧V2が駆動電極X3に印加され、振幅VLの第2交流電圧V2が駆動電極X2及びX4に印加され、振幅VDの第2交流電圧V2が残りの駆動電極X1、X5〜Xnに印加される。すなわち、振幅パターンP1からP2への切り替えにより、振幅VH、VDの第2交流電圧V2が印加される3つの駆動電極X(一群の駆動電極X)が横へ1つシフトする。以下同様に、振幅パターンが切り替わる度に、一群の駆動電極Xが横へずれていく。
【0125】
図18は、振幅パターンに応じて変化する検出値SDの例を示す図であり、
図16、
図17における「D」の位置に指が近接している場合の検出値SDを示す。
【0126】
図18における「Sfs」、「Sfs−ΔSn」、「Sfs+ΔSp」は、
図15における同一符号が示すものと同じ検出値SDを示す。振幅パターンP1において検出値SDは「Sfs」より小さい値(Sfs−ΔSn)となり、振幅パターンP2において検出値SDは「Sfs」より大きい値(Sfs+ΔSp)となり、振幅パターンP3において検出値SDは再び「Sfs」より小さい値(Sfs−ΔSn)となり、振幅パターンP4以降において、検出値SDは概ね「Sfs」に近い値となる。
【0127】
以上説明したように、本実施形態に係る入力装置によれば、既に説明した第2の実施形態と同様に、相互容量Cxyの変化に応じた電荷の変化の極性が異なる振幅パターンを用いて、1つの駆動電極Xについての異なる検出信号Sを得ることが可能になる。従って、この異なる検出信号Sを比較することにより、物体の近接による相互容量Cxyの変化を感度良く検出することが可能となり、物体の位置の検出精度を高めることができる。
【0128】
また、本実施形態に係る入力装置によれば、1つの振幅パターンにおいて1つの駆動電極Xに振幅VHの第2交流電圧V2が印加される場合に、その前後の振幅パターンにおいて当該1つの駆動電極Xに振幅VLの第2交流電圧V2が印加される。そのため、当該1つの駆動電極Xと検出電極Yとのキャパシタに物体が近接している場合に、振幅パターンの切り替えによる検出信号Sの変化を際立たせることが可能となる。
【0129】
<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。第4の実施形態に係る入力装置も、第1の実施形態に係る入力装置(
図1〜
図4)と同様の構成を有しており、両者の違いは、制御部21によって設定される第2交流電圧V2の振幅パターンにある。
【0130】
図19は、本実施形態に係る入力装置における第2交流電圧V2の振幅パターンの例を示す図である。
図19に示すように、制御部21は、検出領域ARに指等の物体が近接していないときに電荷検出部22から検出電極Yへ周期的に供給される電荷が最小となるように、各々の振幅パターンにおいて、駆動電極X1〜Xkに振幅VH(>VD)の第2交流電圧V2を印加し、残りの駆動電極Xk+1〜Xnに振幅VL(<VD)の第2交流電圧V2を印加する。また制御部21は、各々の振幅パターンにおいて、振幅VHの第2交流電圧V2を印加する駆動電極X1〜Xkの数と、振幅VLの第2交流電圧V2を印加する駆動電極Xk+1〜Xnの数とを一致させる。例えば制御部21は、各々の振幅パターンにおいて、振幅VHと振幅VLとの中間値を、第1交流電圧V1の振幅VDに一致させる。
【0131】
各振幅パターンにおいて、振幅VHの第2交流電圧V2を印加する駆動電極Xと振幅VLの第2交流電圧V2を印加する駆動電極Xとの境界は、1か所若しくは2か所に設定される。制御部21は、振幅パターンを切り替えることによって、上記の境界の位置をずらしていきながら、電荷検出部22による検出信号Sの生成を行う。検出電極Y上における物体の近接位置は、上記の境界の位置と検出信号Sとの関係に基づいて特定される。
【0132】
本実施形態に係る入力装置によれば、一群の駆動電極に印加する第2交流電圧V2の振幅VHが第1交流電圧V1の振幅VDより大きくなり、残りの駆動電極Xに印加する第2交流電圧V2の振幅VLが第1交流電圧V1の振幅VDより小さくなる。これにより、一群の駆動電極における1つの駆動電極Xと検出電極Yとの間に形成されるキャパシタ(相互容量)に供給される電荷の極性と、残りの駆動電極における1つの駆動電極Xと検出電極Yとの間に形成されるキャパシタ(相互容量)に供給される電荷の極性とが逆になる。そのため、これらの電荷が互いに打ち消し合う。更に、一群の駆動電極Xの数と残りの動電極Xの数とが等しいため、一群の駆動電極Xと検出電極Yとの間に形成されるキャパシタに供給される全体の電荷の量と、残りの駆動電極Xと検出電極Yとの間に形成されるキャパシタの供給される全体の電荷の量とが近くなり、両者の電荷の和が小さくなる。従って、物体の近接の有無に関わらずこれらのキャパシタへ供給される電荷の総和が小さくなるため、検出信号Sのオフセット成分を微小にすることができる。
【0133】
<第5の実施形態>
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。第5の実施形態に係る入力装置も、第1の実施形態に係る入力装置(
図1〜
図4)と同様の構成を有しており、両者の違いは、制御部21によって設定される第2交流電圧V2の振幅パターンと、処理部30(
図1)の動作にある。
【0134】
図20は、本実施形態に係る入力装置における第2交流電圧V2の振幅パターンの例を示す図である。本実施形態において、振幅パターンは「第1振幅パターン」と「第2振幅パターン」の2種類に分類される。
図20の例では、符号の数字が奇数の振幅パターンP1、P3、P5、…を第1振幅パターンとし、符号の数字が偶数の振幅パターンP2、P4、P6、…を第2振幅パターンとしている。
図20A、
図20C、
図20Eは、第1振幅パターンP1、P3、P5を示す。
図20B、
図20D、
図20Fは、第2振幅パターンP2、P4、P6を示す。
【0135】
制御部21は、第1振幅パターンの場合、第1振幅を持った第2交流電圧V2を1つの駆動電極Xに印加するとともに、第3振幅を持った第2交流電圧V2を残りの駆動電極Xに印加する。他方、制御部21は、第2振幅パターンの場合、第1振幅より小さい第2振幅を持った第2交流電圧V2を1つの駆動電極Xに印加するとともに、第1振幅パターンと同じ第3振幅を持った第2交流電圧V2を残りの駆動電極Xに印加する。
図20の例において、第1振幅は「VH」、第2振幅は「VL」、第3振幅は「VD」である。これらの振幅は、先に説明した実施形態と同じであり、「VH>VD>VL」の関係にある。第3振幅は第1交流電圧V1の振幅VDと等しいことが好ましい。
【0136】
ここでは、第1振幅パターンにおいて第1振幅VHの第2交流電圧V2が印加される1つの駆動電極Xを「第1駆動電極X」と呼び、第1駆動電極Xと検出電極Yとの間に形成されるキャパシタを「第1キャパシタ」と呼ぶ。また、第2振幅パターンにおいて第2振幅VLを持つ第2交流電圧V2が印加される1つの駆動電極Xを「第2駆動電極X」と呼び、第2駆動電極Xと検出電極Yとの間に形成されるキャパシタを「第2キャパシタ」と呼ぶ。
図20において示すように、第1駆動電極X(駆動電極X1、X3、X5、…)と第2駆動電極X(駆動電極X2、X4、X6、…)とは、検出電極Yの延伸方向において交互に並んでいる。そのため、第1キャパシタと第2キャパシタとは、検出領域ARにおいて交互に並んでいる。すなわち、検出領域ARには、互いに隣接した位置関係にある第1キャパシタと第2キャパシタとが存在する。
【0137】
処理部30は、検出領域ARにおいて第1キャパシタと第2キャパシタとが隣接関係にある第1振幅パターンの検出信号S(検出値SD)と第2振幅パターンの検出信号S(検出値SD)との差に基づいて、第1キャパシタと第2キャパシタとが隣接する位置における物体の近接の度合いを算出する。例えば処理部30は、検出領域ARにおいて第1キャパシタと第2キャパシタとが隣接関係にある第1振幅パターン及び第2振幅パターンのペアごとに、検出値SDの差を算出する。
【0138】
図21は、振幅パターンに応じて変化する検出値の例を示す図であり、
図20における「E」の位置に指が近接している場合の検出値を示す。
図21Aは、第1振幅パターン(P1、P3、P5、…)の検出値SD1を示す。
図21Bは、第2振幅パターン(P2、P4、P6、…)の検出値SD2を示す。
図21Cは、検出領域ARにおいて第1キャパシタと第2キャパシタとが隣接関係にある第1振幅パターン及び第2振幅パターンのペアごとに算出された検出値SD2と検出値SD1との差「SD2−SD1」を示す。
【0139】
図21Aにおける「SA」は、第1振幅パターンにおいて第3振幅「VD」が印加された駆動電極Xと検出電極Yとの交差部に物体が近接している場合の検出値SDを示しており、式(3)の電荷Qy1’’に対応する。また、
図21Aにおける「SA+ΔSA」は、第1振幅パターンにおいて第1振幅「VH」が印加された第1駆動電極Xと検出電極Yとの交差部(第1キャパシタ)に物体が近接している場合の検出値SDを示しており、式(2)の電荷Qy1’に対応する。従って、
図21Aにおける「ΔSA」は、式(2)の電荷Qy1’と式(3)の電荷Qy1’’との差である電荷「(VH−VD)・Cp」に対応する。
【0140】
他方、
図21Bにおける「SB」は、第2振幅パターンにおいて第3振幅「VD」が印加された駆動電極Xと検出電極Yとの交差部に物体が近接している場合の検出値SDを示しており、式(3)における「VH」を「VL」に置き換えた電荷QBy1’’に対応する。電荷QBy1’’は、次式で表される。
【0141】
QBy1’’=(VD−VL)・Cx1y1+VD・Cfs …(21)
【0142】
式(3)と式(21)とを比較して分るように、「SB」は「SA」に比べて大きい。
【0143】
図21Aにおける「SB−ΔSB」は、第2振幅パターンにおいて第2振幅「VL」が印加された第2駆動電極Xと検出電極Yとの交差部(第2キャパシタ)に物体が近接している場合の検出値SDを示しており、式(2)における「VH」を「VL」に置き換えた電荷QBy1’に対応する。電荷QBy1’は、次式で表される。
【0144】
QBy1’=(VD−VL)・(Cx1y1−Cp)+VD・Cfs
… (22)
【0145】
従って、
図21Bにおける「ΔSB」は、式(21)の電荷QBy1’’と式(22)の電荷QBy1’との差である電荷「(VD−VL)・Cp」に対応する。
【0146】
図21Cに示すように、第1キャパシタ及び第2キャパシタの両方に物体が近づいていない振幅パターンのペアにおいて、検出値の差「SD2−SD1」は概ね「SB−SA」となるが、第1キャパシタ及び第2キャパシタの少なくとも一方に物体が近づいている振幅パターンのペアにおいて、検出値の差「SD2−SD1」は「SB−SA」より小さくなる。「SB−SA」に対する減少分は、振幅パターンのペア(P2,P3)において「ΔSA」となり、振幅パターンのペア(P4,P3)において「ΔSA+ΔSB」となり、振幅パターンのペア(P4,P5)において「ΔSB」となっている。第1キャパシタと第2キャパシタとの両方に指が近接している状態にある振幅パターンのペア(P4,P3)では、それぞれの相互容量の変化が合わさるため、検出値の差「SD2−SD1」が「SB−SA」より大幅に減少している。従って、物体の近接による相互容量の変化が高い感度で検出される。
【0147】
以上説明したように、本実施形態に係る入力装置によれば、第1振幅パターンにおいて第1駆動電極Xと検出電極Yとの間に形成される第1キャパシタと、第2振幅パターンにおいて第2駆動電極Xと検出電極Yとの間に形成される第2キャパシタとでは、印加される第2交流電圧V2の振幅が異なるため、それぞれの静電容量(相互容量)の変化に応じた電荷の変化量が異なる。また、検出領域ARにおいて第1キャパシタと第2キャパシタとが交互に並んでいるため、検出領域ARにおいて隣接する関係にある第1キャパシタと第2キャパシタとが存在する。従って、検出領域ARにおいて第1キャパシタと第2キャパシタとが隣接関係にある第1振幅パターンの検出信号S(検出値SD)と第2振幅パターンの検出信号S(検出値SD)との違いに基づいて、第1キャパシタと第2キャパシタとが隣接する位置における指などの物体の近接の度合いを算出することができる。
【0148】
なお、本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、種々のバリエーションを含んでいる。
【0149】
上述した実施形態において例として挙げた各部材(駆動電極、検出電極、シールド電極など)の数や、これらの部材の形状、大きさ、位置関係などは一例であり、本発明はこの例に限定されない。例えば検出電極は1つでもよい。また、シールド電極は省略してもよい。
【0150】
上述した実施形態において例として挙げた電子回路などの構成は一例であり、同様な動作を実現できる他の様々な手段、例えば、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア又はそれらの結合などにより具現可能である。ハードウェアにおいては、例えば、一つ又はそれ以上の特定用途集積回路(ASIC)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、デジタル信号処理デバイス(DSPD)、プログラム可能論理デバイス(PLD)、フィールドプログラム可能ゲートアレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサなどにより具現可能である。
【0151】
上述した実施形態では、入力装置の例としてユーザインターフェース装置が挙げられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、物体の位置の変化による静電容量の変化に応じた情報を入力する様々な装置(例えば物体の位置を検査する検査装置など)に広く適用可能である。